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彼の娘  作者: 大島 有
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3話 職場

「…今日はこれで。定例はまた来月の…。」

やっと、終わったみたいだ。部長が次回の会議の日程について話をしている。それを聞きながら手元の資料を集め、席を離れる準備をする。

足早に会議室を出た俺を追って、ジェリーが小走りに近づいてきた。

「おい、いやに急いでいるな。」

「ああ、今日は早く家に帰らないと。今夜、友達が家に来るんだ。」

「そうか。それは楽しみだな。」

「ああ。」

「良い週末を。楽しめよ。」

「ああ、ジェリーも。」

ジェリーは大きな口元から真っ白な歯を見せて笑顔を見せた。

歩いてフロアを横切るジェリーを横目に、自分のデスクに戻り帰り支度を始める。


この会社に入社してから17年経った。

うちの会社は外資系の、主に半導体から光通信、高周波部品、電気機器などの電子部品を取り扱う会社で、それ以外にも通信サービスの部門、翻訳や通訳の受注や派遣の部門もある。

本社は米国にある。ヨーロッパにも何社か支店があり、日本は東京・大阪・福岡の3社。


この東京支社の従業員の約5割は外国人だ。社内は英語と日本語が飛び交う。

その内訳は西洋人からアジア系、アフリカ系など入り乱れている。

ジェリーは米国マサチューセッツの出身で、単身来日し、こちらで日本人の嫁さんをもらって家庭を築いている。同時入社で、同じ営業課に身を置きずっと仕事を共にしている。190センチ近い大男で、見た目同様性格も大胆でおおらかである。だが、中身は繊細なところもある心の優しい男だ。


入社してすぐ絵梨香が3歳の時、ベルギー・ブリュッセルへ飛ばされ、向こうで通信網システムの販売網の普及に努め、7年前に帰国、それから少しの間は日本にいたのだが、また米国・ニューオリンズへの赴任があり、先月帰ってきたばかりだ。日本にいる間は通訳や翻訳の部署にも籍を置き、その傍らプライベートでは、ぼちぼち出版翻訳も手掛けられるようになった。ほとんど仕事づけの毎日。


で、やっと日本に帰ってきて少しはのんびりできるかと息をついていたところへ、絵梨香が難問を持ち出した。

自分のデスクで退社する準備をしていると、メールの着信音がなった。


〝パパ。まだ会社?私は家に戻っているよ。隆博さんも一緒。〟

語尾の後に、笑った顔文字のマークとハートマークが並んでいる。

(親の気持ちも知らんと。)

俺はため息をついた。

(一緒に家に戻っているって?どんな話をしたんだ。あのふたりは。)


周りの席の同僚に挨拶して社を後にする。地下鉄の駅へ向かう道を歩きながら考える。

(で、今日はどんな顔をして家に帰ればいいんだ。絵梨香のやつ。)

心の中で自分の娘に悪態をついた。いかにももう大人なんだからって顔をして親の言うことなんて聞かないんだから。

今年で17歳。俺について海外を行ったり来たりだから、日本の同じ年頃の娘に比べたら大人っぽいかもしれん。考え方もしっかりしてるしな。

この間、ハイスクールを卒業し、9月から又向こうの大学へ。その合間に一緒に日本へ帰ってきた。今度は単身アメリカへ。俺は当分こっちにいられそうだから、絵梨香と一緒に過ごすのも当分は…。


混雑する地下鉄の駅に降り、ホームで電車を待つ。5分おきに電車がやってくる。電車を待つ人並みの最後の列に並び、また昔の事を思い出していた。


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