アルストロメリア(未来への憧れ)
「ただいま」
「おかえり。って、なになに? 今日は早いわね?」
「うん。ちょっとね・・・」
わかりやすい子ね、この子は・・・
「芹香、買い物に付き合ってくれない?」
「うん? 買い物?」
「エミくんの家の食材を買いに行くの。食べるだけじゃダメでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「ついでに言いすぎたことを謝っちゃいなさい」
「何それ!? 言いすぎてないもん! エミくんが悪いんだも・・・」
途中でハッ、と気づいたように話すのを止める芹香。
「やっぱりね。どうせ、ちょっとしたすれ違いでしょ? 早く仲直りしちゃいなさい」
多分、桜ちゃんの件ね・・・。
どうせエミくんがストレートに断ったりしたんだろうな。
青春を謳歌する若者は面倒ね・・・。
食材を買うマーケットに到着。
「芹香、お菓子は二百円までよ?」
「お菓子ぐらい自分で買う!」
「あら、失礼」
喜怒哀楽のハゲしい子ね・・・。
「今週は何を作るの?」
「決めてない」
「エミくんに聞いてみたら? 今」
「何でニヤニヤしているのよ」
「仕方がないじゃない? 私の名前は二矢だもん」
「もう、そう言うのはいい!」
「そんなに怒らないでよ。代わりに私がエミくんに電話してみるわね」
「え? ダメ!」
困った顔をする芹香は幼児の時のままね。
身長もそのままだけど。
「もしもしエミくん?」
「こんにちは。何かありました? 芹香が帰らないとか?」
「もう、エミくんは芹香のことしか考えてないのかな?」
「いや、違います。帰り際に怒らせちゃったから・・・」
「そうなの? それより、食材の買い出しに来ているんだけど、食べたい物ある?」
「芹香が作ってくれる物なら何でも。全部、美味しいから大丈夫です」
「何それ? エミくんは芹香のことが大好きね?」
「大好きですよ」
「はいはい。それじゃ適当に買って行くわね」
「いつもすみません。ありがとうございます」
エミくんとの電話が終わり、私に心配そうな視線を送る芹香。
「さあ、買い物を済ませましょう」
車を降りて、エレベーターへと向かう私たち。
「お母さん、エミくんなんて?」
「何だったかな? 忘れちゃった」
「何でよ!」
「あはは!」
心配だったら自分で聞けばいいのに。
その後も芹香は「なんて? ねえ、なんて言っていた?」と何度も私に聞いてきた。その度に私ははぐらかしていた。
本当に可愛い娘だわ・・・。
買い物が終了し、エミくんの家に向かう車中。
「どうしたの?」
「別に」
「昔さ、芹香がそこの公園で知らないおじさんに手を掴まれた時があったでしょ?」
「うん、覚えている。怖かった」
「その時のエミくん、どうだった?」
「カッコ良かった」
「私と朔太さんもね、ビックリしたんだよ」
「お父さんも呆気に取られていたもんね」
「何やってんだよクシジジィ! 芹香から離れろ! って言って、飛び蹴りだもんね。小学生が」
「うん。今思うとすごい少年だね」
「それからでしょ? エミくんのことが大好きになっちゃたんでしょ?」
「別に・・・」
「隠さないでいいのよ。エミくんも芹香のこと大事にしていたし、姉弟というよりも恋愛感情に近かったでしょ?」
「そんなことないもん」
「隠さないでいいの。私と朔太さんはあなた達がとても大事なの。私と朔太さんが離婚して、あなた達が離れてもお互いに大事に思っていたら、その時にまた考えようって」
「え?」
「違うのよ。離婚の理由は他にもあるの。朔太さんの仕事関係って女性が多いでしょ? 帰りも遅いし、色々と不安だったのもあるの。だってそうでしょ? 自分が好きになった人だもん。きっと他の人もこの人を好きになっちゃう。って思ったりしちゃう訳よ」
「お母さん、乙女だね」
「芹香だってそうでしょ? エミくんのバイト先にはたくさんの女の子がいるし。不安になって、エミくん他の女と二人きりにならないでぇー! とか思うでしょ?」
まさに先週の土曜日だ・・・。
「芹香? 何その顔? すでにエミくんに言っちゃったって顔をしているわよ?」
「いいい、言ってない!」
あ、言っちゃったなこの娘は・・・。
「とにかく、私と朔太さんはあなた達のことが大好きなの。だから、エミくんと結婚をしてもいいのよ? すでに恋人同士みたいな関係でしょ? デジレちゃんも同じ気持ちよ?」
そして青井家に到着。
芹香は下を向いている。車の音に気が付いたのか、エミくんが玄関から出てきてガレージのシャッターを開ける。
「お母さんいらっしゃい。たまには上がってね。良かったら夕飯も食べて行ってよ」
「そうね。そうしようかしら。ねえ芹香?」
「うん」
車から荷物を運ぶエミくん。最初の荷物を玄関に置いて、再び車にある荷物を持つ。
そして芹香と目が合い、ニコッと微笑む。
「エミくん、さっきは言いすぎた。ごめんね。嫌いにならないで」
芹香はそう言ってエミくんのお腹に抱きつく。
これは反則行為である。こんな事をされて、許さない男子はいない。でもエミくんは普通の男子じゃないんだよな・・・。
「えー。許す訳ないじゃん。俺、いまだに意味がわからないんだけど。あとで詳しく説明しろよな。てか、泣いていないで芹香も荷物を運べよ」
「えへへ。それじゃ少しだけ運ぶよ」
「お前、それお菓子じゃねえか、お母さんのを持てよ!」
「いやーだよー!」
まったく、さっきまでの暗い表情はどこにいったんでしょうね・・・。




