ダリア(感謝)
今週は第二月曜日。0時限目がある週。
A組は進学コースのため一時限目の前に0時限目がある。
この0時限目が終わると同時に、ほとんどの生徒が朝食を食べる。俺と芹香もその類だ。
「ねえエミくん」
「何?」
「この炊き込みご飯のおむすび美味しいでしょ?」
「うん美味しい。姉さんも絶賛していたよな」
「流石にお弁当にはできないけどね」
「そうなの?」
「こういうご飯は足が早いんだって」
「何それ?」
「ああ、悪くなっちゃうのが早いみたい。お母さんが言っていた」
「やば。足が早いんだ」
俺たちが朝食を食べ終わると同時に和久井さんが登場した。
和久井さんは理系のため、別の教室での授業だ。
「おはよう!」
「おはよう!」
和久井さんは元気に芹香と挨拶をした。
「和久井さん、ちょっと良いかな?」
「ごめん、今は無理・・・」
俺が和久井さんに話しかけると、すぐさま俺から目を逸らしながら言った。
「それじゃ後で和久井さんの都合のいい時に・・・」
「・・・」
和久井さんは黙ったままだ。
「サクちゃん・・・」
芹香が和久井さんの手を引いて教室を出て行ってしまった。
「なあ瞬」
後ろから聖也が声をかけてきた。
「えっと、言いづらいけどさ」
「何?」
「朝からじゃキツイから、せめて放課後の方がいいと思う」
「え? 何で? 俺が言おうとしている事がわかるのかよ?」
「いや、わかるでしょ? 断るんでしょ?」
スゲーな聖也! エスパーか!?
「そうか・・・。それじゃ放課後もう一回、話しかけてみるよ」
「その方がいいね。和久井さん、多分、瞬のことを避けると思うけど、今日中に伝えないとダメだぜ」
「ああ、わかった」
聖也と仲良くなっておいてよかった・・・。
その日の俺は休み時間ごとに和久井さんに近づこうとするが、悉く逃げられていた。
昼休みも逃げるように姿を消す。
忍者かーい?
そして放課後。
ホームルームのうちに帰り支度をまとめる。
担任の号令と同時に俺は昇降口に向かう。
和久井さんを待つこと五分・・・。
・・・十分・・・。
・・・十五分・・・。
「来ないじゃないかーい!」
大声を張り上げた俺。
「青井くん? 何しているの?」
話しかけていたのは香山さんの後ろの席の・・・。
「えっと・・・」
「酷いぃ・・・。私の名前を忘れているんでしょぉ・・・」
ああ、そうそう。この人は語尾を伸ばすんだよな・・・。
「菊池だよぉ・・・」
「いや、わかっているって」
「絶対にわかってないよねぇ。てか、和久井さんなら教室で芹りんと香山ッチに慰められているよ?」
「そうなの? 俺、まだ何も言っていないんだけど?」
「いやいや、青井くんは芹りんのことが好きなことぐらい、学園中が知っているよ?」
「何その広範囲!?」
「あはは! モテる男は辛いですな。いよ! 色男!」
そう言って菊池さんは帰って行く。
語尾を伸ばさずに話せるんじゃん・・・。
そして、最終下校時刻がやって来た。
只今の時刻、十七時二分。
俺は一時間以上も昇降口にいた訳だ。トホホ・・・。
やばい、さすがに疲れてきたな。下校しろの放送が流れたから、いい加減、そろそろ来る頃だろう。
てか、来てください。って、来たー!!
やっと来てくれた!
「青井くん、何でそんなに笑顔なの?」
香山さんが棘のある口調で言う。
「ホント、ガチで最低・・・」
あれ? 芹香さんまで怒っているんですかい?
「え? だって俺、一時間以上ここで待っていたんだけど?」
「はぁー」
ため息を吐く女子たち。
「普通さ。あんな一目散に走って教室を出て行ったら逃げたと思うでしょ?」
ウンウンと、うなづく香山さん。
「ごめん。和久井さん、俺を避けているように思えたから、ここで待っていたんだ」
「アンタ、バカァ? そんなの当たり前でしょ? だいたい朝っぱらに言うことじゃないでしょ?」
「すみません・・・」
「もういい!」
芹香がそう言うと、三人は校門に向かう。
「待って、和久井さん!」
「あ、青井くん。色々とごめんね。私は友情をとる事にした」
笑顔で俺に言う和久井さん。
そんな和久井さんの笑顔は夕陽に照らされ、素敵な笑顔でした。




