ゼフィランサス(汚れなき愛)
入学式が終わり、教室に戻るA組。
初日という事もあり、みんなよそよそしい。
「青井くん」
俺の前を歩く男子が話しかけてきた。
俺は返事の仕方に戸惑い、彼を見る。
「片山さんとはどのくらい会っていなかったの?」
ですよねぇ。
やっぱそれだよねぇ。
「中学に上がる前、小六の夏休み前っだったかな?」
「三年とちょっとか? 久しぶりに会ってどう?」
「それが全然変わんね。特に背が」
「黙れエミ! ビシビシ!」
いつの間にか俺の背後にいた芹香が、俺の背中をパンチしている。
「あーうざい。向こう行け」
「なんだと! ビシビシ! ワンパンだ、ビシビシ!」
ワンパンじゃねぇだろ、何回パンチしてんだよ…。
「ねえ青井くん」
今度は芹香と一緒にいた女子が話しかけてきた。
そして俺はまたもや返事に戸惑い、目だけを合わせる。
「片山さんって、家でもこんな感じだったの?」
「うーん。寝てるか、食べてるか、ゲームをしていたね」
「あはは! なんか想像できる!」
「ねね、青井くん」
うわぁ、また女子かよ?
「何?」
「片山さんって、いつも青井くんにくっ付いていたの?」
「うーん…。くっつく? 貼り付く? そんな感じっだったかなぁ?」
「片山さん、甘えん坊なんだね? 今もそうだもんね?」
確かにコイツはいつも俺に張り付いていたな。
ちょっと待て!?
もしかしてこれって非常にヤバくね?
勘違いされて、彼女できないんじゃね?
* * *
教室に入り、今後の予定を担任が話し始める。
今週は金曜日まで授業が無いらしい。
そして今日は自己紹介と席替えをして終了のようだ。
芹香とは席を離れたいところだな…。
そして、自己紹介が始まった…。
スタートは男子からのようだ。
先ほど俺に話しかけてきた男子は相京くんという名だ。なんと彼が入試でトップだったらしい。すげーな相京くん。
その後、相田くん。会田くん。もう一人の相田くん。間くん。藍田くん…。
ちょっと待て!
すげーな日本のアイダ性!
何通りあるんだよ!
そしていよいよ俺の番。
みんなにとっては何よりも知りたかった俺の正体だろう…。
「先ほどはお騒がせいたしました。青井 瞬です。まずは皆さんが知りたがっていると思うので、先に俺と片山 芹香さんとの関係を話します」
なぜか拍手が鳴り響く。
「約十年前ですが、両親が他界したため、俺は叔父の家に引き取られました。小学一年生の時です。そしてすぐに叔父は片山さんのお母さんと再婚をしました。その時に俺と芹香は兄妹になりました。その5年後くらいでしょうか。叔父は芹香のお母さんと離婚し、今に至ります」
「青井くん、サクッと話したけど大変な人生だったわね…」
「親は週に一度、会うか会わないかだったので、気にしていなくは無いけど、って感じです」
「はいはーい! 青井くんに質問!」
窓際の女子が元気に手をあげた。
「なに?」
「私は和久井 桜、よろしくね。ところでだけど、片山さんはなんでエミくんって呼ぶの?」
みんながウンウンと首を縦に振っている。
「実は俺、国籍はまだフランスなんだ。母さんがフランス人で、エミはセカンドネームのEmile。でもセカンドネームは家族が使うものだから、みんなはその名で呼ばないでね」
「えー、片山さんは呼んでるじゃーん!」
「え? 芹香は姉さんだよ? 当たり前でしょ?」
なぜかみんなが、『おぉー』っと言っている。
そんな中、芹香はドヤ顔をしていた…。