ラナンキュラス(華やかな魅力)
帰宅した俺と芹香。
時間は夕方、五時を少しすぎた。
「エミくん、シャワーに行ってきたら?」
「夕飯の準備を手伝うよ」
「キッシュだから、あとはオーブンに入れるだけ。だから大丈夫だよ」
芹香はそう言って、俺をシャワーに行かせた。
何だ? 何か隠しているのか?
とりあえず、俺はシャワーに向かった。
いつも携帯で音楽を流しながらのバスタイムだが。携帯をバッグに忘れたため、リビングに戻る。
すると、芹香が俺のバッグを漁っていた・・・。
「どした?」
俺が芹香に問いかけると、全身でビクッとし、振り返る。
「あはは。ビックリした。足音も立てないでやめてよ。泥棒かと思ったじゃん。はい、携帯。いつも音楽を聴きながらじゃん?」
「ああ。ありがと」
あんなにビックリすることないじゃん・・・。
再び浴室に向かう俺。しかし、今度は着替えとバイトの制服を忘れ、再びリビングへ。
リビングに行くと、芹香はまたもや俺のバッグを漁っている。
「なあ、何してるの?」
「ひゃあ!」
俺を見る芹香。
「違うの!」
「何が違うかわからないけど? 俺はバイトの制服を取りにきたんだけど?」
「うん! 洗濯機に持っていこうと思って!」
「ああ、そっか。ありがと」
「うん!」
芹香、どうしたんだろ?
俺は部屋に行き、着替えを持って浴室へ向かう。
リビングの前を通ると、芹香が背中を丸め、ペタンと座っている。
「芹香? どした?」
芹香は返事もしないで、下を向いている。
「芹香?」
再び名前を呼ぶと、芹香は俺に抱きついてきた。
飛びつかれた勢いで、俺は尻もちをつく。
「どうしたんだよ」
「わからないけど不安なの・・・」
「何が? 中間試験か? お前だってAクラスじゃん」
「違う!」
「違くないだろ。同じクラスじゃん」
「違うって言っているでしょ! バカ!」
ひょえー。バカって言われた・・・。
「桜だよ・・・」
「サクちゃん? 納豆の?」
「ブフォ!」
「ブフォって・・・」
「真面目な話をしているんだから、笑わせないで・・・。」
そう言って深呼吸をする芹香。
「前に桜がエミくんにコクったじゃん。それに今日はバイト先の先輩と一緒だったし・・・」
「俺は・・・」
うーん。芹香には何て言えばいいんだろ・・・。
「俺は何?」
「俺は芹香が好きだ。姉弟になった時からだと思う」
「だから?」
だから?
え?
どうするの?
我、何か間違ったのか?
「今の距離感が好き」
「距離感て何? 私がエミくんに抱きついていること?」
「それもそうだけど」
「何?」
「芹香のまつ毛が、俺の頬をスッと掠める時とか?」
俺がそう言うと、芹香は俺の頬に目を当てる。
「ワオ! 私がいない時はアナタたちってエロいわね!」
突然、姉さんが帰宅した!
俺と芹香はシュタッと離れ、正座をする。
「姉さん、仕事で遅くなるんじゃなかったの?」
「芹香が泣きそうな声だったから、会食は辞退させてもらったのよ? それとも姉さんはお邪魔だったかしら?」
「いえいえ、そんな事ないです」
「そお? 私は着替えてくるから、続きをどうぞ。 ふふっ」
どうぞって・・・。
「あー! 俺はホカってくるかな!」
「そうだね! 私もオーブンを予熱しないとだった!」
「あはは!」
「あはは!」
変な笑い方をしながらキッチンに向かう芹香。
「芹香・・・」
俺は芹香を呼び、振り向く芹香の頬にキスをした。
「もう、バカ・・・」
恥ずかしそうに下を向く芹香。
今のバカは心地よい気分がした・・・。




