ゲウム(前途洋々)
一ノ瀬 沙里とコーヒーショップで談話をした青井 瞬。
大学に通う一ノ瀬は外国語の専攻をフランス語にしていた。
瞬がフランス語を話せる事に、好意を持った一ノ瀬はお互いに名前呼びを提案する。
些細なことが大きく発展することもあるだろう。
大きく発展をしても、何もせずに終わる事もある。
そして瞬は家へ向かう。瞬よ、今は誰と何をしていたかの言い訳を考えておくべきだろう・・・。
* * *
一ノ瀬と別れ、バスにて帰宅する瞬。
土曜日の夕方の車内は空席が目立つ。
俺は携帯を見る。
マナーモードになっていたので気が付かなかった複数のメッセージ。芹香からだ。
メッセージを開く。
「バイト終わった?」
「夕飯は何がいい?」
「おーい 返事をよこせ」
「何かあった?」
「デジレ姉さん、今日は遅くなるって言っていたよ」
「エミに電話したらすぐに切られたって言っていた」
「エミどしたの?」
ありゃりゃ。これは心配させちゃったな。
俺はマナーモードで気が付かなかった事と、今はバスに乗っていて、あと十分くらいで帰宅できることをメッセージで告げた。
すぐに既読になるメッセージ。そして「バカ!」と送られてきた俺への新規メッセージ。
はいバカです・・・。
数分後、降車するバス停に到着。芹香が部屋着のまま、バスの到着を待っていた。
バスを降りると、俺に抱きつく芹香。
「ビックリさせるなバカ!」
開口一番で俺を誹謗する芹香。
「どうした? 何かあったのか?」
俺の問いに首を横にふる芹香。
「え? 泣いているの? どうしたんだよ!」
俺のお腹に顔を埋めていた芹香は突然、俺を見る。
「女の匂いがする・・・」
え? やだ怖いこの子・・・。
「誰と一緒にいたの? 桜とか五和じゃ無いよね」
「ああ、バイト先の先輩」
「何で?」
「俺の失敗で、さ・・・一ノ瀬さんがお客に怒られちゃって」
「さ?」
え? ちょっとマジで怖いこの子・・・。
「さ?」
「今、さって言った」
探偵か!?
「言った?」
「言った!」
てか、何で俺は怒られているんだ?
「とりあえず、帰らない?」
「・・・帰る・・・」
腑に落ちない顔をする芹香。
俺たちはやっとバス停から歩き始めた。
芹香は俺の右手をぎゅうっと握っている。
「姉さんどうしたの?」
「仕事・・・」
「そりゃそうだろうけど」
「エミくんに電話をしたらすぐに切られたって言っていた・・・」
「ああ・・・。それは店内でフランス語で話していたから、注目を浴びちゃって・・・」
「絶対に嘘・・・」
はい嘘です。
「あー。一ノ瀬さんっていうんだけどね、一緒にお茶してた人。その人、大学の専攻でフランス語らしくて、俺がフランス語を話せることがバレたくなかったんだ」
「だから?」
「だから? だから電話を切った」
突然、立ち止まる芹香。
「やだ・・・」
「何が?」
「わからない・・・」
芹香は立ち止まり、そのまま動かない。
「芹香。今日はすぐに連絡できなくてゴメン。うっかりしていたんだ。これからは芹香に心配させないから」
「・・・私もゴメン・・・。エミくんが他の女と一緒にいる事が・・・。二人でいると考えたら嫌だった・・・」
「俺も芹香が他の男と一緒にいたら嫌だ。同じだよ」
俺がそう言うと、芹香はやっと顔を上げてくれた。
「帰ろ。夕飯、一緒に作るんだよ?」
「うん、任せろ」
俺は機嫌が治った芹香と帰宅した。




