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セリカシュン  作者: 青紙 ノエ
第4章 そして僕は途方にくれる物語

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 エーデルワイス(大胆不敵)


 とある土曜日。


 俺のバイト先は隔週で土曜日もランチタイムをやっている。今日の俺は十時からのシフトだった。


「瞬くん、これお願い!」

「了解です!」


 けたたましく動きまわる、社員やバイト。座席は満席状態。順番待ちもいる始末。

 

「33番の番号札をお持ちのお客様、いらっしゃいますか?」


 俺の問いかけに返事はない。


「33番の番号札の方はいらっしゃいませんか?」


 やはり返事はない。


「いらっしゃらないようですので、34番の・・・」

「はい」


 最後まで喋らせろ!


「3名様ですね。ご案内します」


 その後、俺は厨房に行き、食器の処理とドリンクに回った。

 次から次へと現れる食器やカトラリー。

 目が回りそうだ。


 そんな忙しい最中、大学生アルバイトの女性が順番待ちのお客さんに責められているのが見えた。

 厨房の俺がいる所からは結構近いおかげか、話の内容も聞こえきた。


「オマエ、33番をどんだけ抜かしてるんだよ! ナメてんのかよ!」

 真っ赤なロン毛のイケイケなお兄さんが壁ドンをして女性アルバイトのお姉さんを脅かしている。


喜多(きた)さん、ちょっと行ってきますね」

「はぁ? 大丈夫か瞬?」

「わかんないけど、33番を抜かしたの俺だから」


 そう言って、俺は赤ロン毛のアカロンさんのところへと向かった。

 責められている? というか攻められている女性の名札を見ると一ノ瀬と書かれていた。


「お客さんすみません、先ほど私が33番のお客様を呼んだ際に返事がなかったので飛ばしてしまいました。」

「お前は関係ねえよ! こっちの女に言ってんだよ!」

「一ノ瀬さん、これは私の不手際でしたので、代わりに厨房に回ってもらって良いですか?」


 一ノ瀬さんは ウンウンと、うなづきこの場を去った。


「おい! ちょっと待てよぅ!」

 

 キムタク!?


「ああ。お客様、今ご案内しますのでこちらへどうぞ」

「はぁ? もぉ食いたくねえし・・・」


 赤いロン毛のアカロンはお店から出て行ってしまった。




 その後。ランチタイムが終わり、俺は最後の食器を食洗機に入れていた。


「青井くん、さっきはありがとう」

 一ノ瀬さんだ。

「いえいえ、こちらこそ俺が順番を抜かしちゃって、すみませんでした」

「違うよ。あの人、毎回、女性店員にあんなことをやっているみたい」

「そうなの? もしかして昼間しか来なくて、一度も食べていかないとかですか?」

「うん」

「暇人だな・・・」

「あはは。そうだね、とにかくありがとう!」


 


 厨房での作業が終わり、各テーブルのチェックに向かう。

 テーブルを拭きながらペーパーナフキンの補充をする。


「瞬、真ん中の列は終わったぜ」

「ウェーイ」

「何だよウェーイって」

「お客がいないから良いじゃないですか」

「まあ、良いけど。その列が終わったら上がっていいぞ」

「ウェーイ」




 全ての作業が終わりバイト先を出る俺。時間は三時少し前。腹が減ったが、今、何かを食べると夕飯が食べられなくなりそうだな・・・。


「青井くん」

「一ノ瀬さん」


 居酒屋の制服を脱ぐと、大人びた大学生女子に変身している。


「青井くんも終わり?」

「はい。ランチタイムって夜よりすごいですね」

「うん。私は夜はバイトを入れていないから、からわからないなぁ」

「夜は酔っ払いばかりで面白いですよ」

「そりゃそうでしょ? 居酒屋だもん。ふふ・・・」


 ふふって笑う人を初めてみた!


「青井くん、時間があったらこの後お茶しない?」

「はい。今週は課題もないので時間は有り余ってます」

「よかった。さっきのお礼をしたかったから」

「いやいや! アレは俺が悪いんですって!」

「良いから、良いから! そこのドトールでいい?」

「はい・・・」


 律儀な人だな・・・。


 お店に入り、オーダーをする。

 一ノ瀬さんはアイス桜オレと黒糖ミルクレープ。

 俺はデコレーションシェイクのショコラ&ラズベリーを注文した。


 席に着き、荷物を置く。

「一ノ瀬さん、すごい荷物ですね」

「ああ、昨日は重すぎて半分を駅のロッカーに置いて行ったの。これは昨日の残り」

「もっとあったんですか!?」

「うんサークルが引っ越すみたいで、みんなが荷物の撤収したの」

「大学生ってすごいな・・・。想像つかないや」


 一ノ瀬さんのトートバッグからフランスの国旗が見える。


「あの、一ノ瀬さん。覗いちゃった形になりすみません、そのフランスの国旗の本は何ですか?」

「ああ、発音の仕方の本。フランス語って独特でさ、こもった言い方っていうか・・・」


 よし! 俺がフランス語が話せる事は内緒だな。


「外国語の専攻をしているんですね?」

「必修でね。フランス語にしたの。」

「最初はABCから覚えました?」

「そうそう、アーベーセーデーでしょ?」

「ドゥブルヴェって笑いませんでした?」

「そうそう! 一文字で長すぎだよね! 何で知っているの?」

「え? 英語の先生の? 雑談的な?」

「そうなの? なんか怪しい・・・」


 その時、俺の携帯がなる。

 ああ、嫌な予感・・・。

 画面を見るとデジレの文字。


「あっ私、電話とか気にしないから出て」


 俺が気にするっていうか?

「家からなので恥ずかしいから席を外します」


 そう言って俺は外に出た。

『アロー』

『アロー』

『Avez-vous déjà terminé votre travail à temps partiel ?』

『Oui, c'est fini』

『Tu rentres bientôt à la maison ?』

『Je prends le thé avec un ami en ce moment』


「普通にフランス語を話してるんかーい!」

「一ノ瀬さん!?」


『Désolé, sœur !』

 俺は電話を切った。

「さあ、席に戻ろうか青井くん」

「はい」


 座席に戻り、一ノ瀬さんの目つきが先ほどと変わっている。


「青井くん。私の質問にはOui(ウイ)Non(ノン)で答えてね」

「それでは始めます」

「・・・」

「Ouiは?」

「・・・Oui・・・」

「ふふ、可愛い・・・。それでは先ほどの電話の相手は家族ですか?」

「Oui」

「家族という事は青井くんはフランス国籍?」

「Oui」

「英語も話せますか?」

「Non」

「さっきの話の中で、Je prends le thé avec un ami en ce momentと言ったのは、友達とお茶をしているよ。で合っている?」

「Oui」

「最後のDésolé, sœur ! は姉さん、ごめんなさい! で合っている?」

「Oui」


「うん、ありがとう。いやー凄いね青井くん。向こうにはどのくらい居たの?」

「小学生になる少し前まで」

「小さい頃ならすぐに覚えられるよね。凄いなぁ」


 一ノ瀬さんの俺を見る目が変わってきている。


「ねえ青井くん。時間がある時だけでいいから。無理しない程度でいいから、またこうやって私とお話をしてもらえるかな?」

「はい、たまにだったら」

「あとさ、敬語はやめてもらってもいい? 何だか凄い年上感が出て、悲しくなってくるから」

「ははは。わかりました」

「私のことは沙里(さり)でいいよ。友達感が出ていいでしょ?」

「それじゃ俺のことも瞬でいいですよ」

「オッケー! それじゃ帰ろうか?」

「あっ沙里ちゃん。片付けは俺がやるからいいよ」


 えっ? なにこの子! 可愛いんだけど・・・。







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