ハイビスカス(新しい恋)
月曜日の朝。
芹香と和久井さん。それと香山さんの3人はいつものように話をしている。
その光景を見たクラスメイトは不思議そうな顔をし見ている。
それは土曜日の打ち上げでは一悶着あったように見えたからだ。
実際はその後、和久井さんの親子は我が家に泊まったのだが・・・。
俺が席に着いたのを見た和久井さんが満面の笑みで俺に近づく。
「エミくん、おはよう!」
和久井さんの一言で、クラスのみんなが俺を見る。
はいはい。皆さんが思っている事はわかりますよ・・・。
「おはよう、和久井さん」
「えっ? サクちゃんでしょ?」
「ああ、そうだったね・・・」
タイミングよく担任が教室に入ってきた。ひとまず助かった。
「みんな席に着いてー」
着席と同時に、後ろの席の聖也が俺の背中を何かでつついてきた。そして俺に小声で話しかける。
「和久井さんと付き合うことにしたの?」
この一言に反応したのは俺ではなく芹香だった。
芹香は聖也を睨みつけている。
スゲーな芹香。お前の耳はデビルマンと同等の地獄耳だ。さしづめセリカイアーとでも言っておこう。
「片山どしたー? 青井のことを見たりなかったか?」
「違います! 今は加藤を威嚇しているんです!」
「はあ? 威嚇ってなんだ? どうでもいいけど、暴力を含んだ喧嘩はするなよ」
「善処します!」
芹香はそう言って前を向く。
「瞬、助けて・・・」
「善処します」
「うう・・・」
* * *
昼休み。
「ねえ、青井くん」
「何? 香山さん」
「後でちょっといいかな?」
「うんいいよ。今でもいいけど?」
「それじゃ、お願い」
俺は香山さんに連れ出された。
あまり人の通らない渡り廊下の入り口。意を決したように香山さんは話を始めた。
「青井くんて聖也くんと仲がいいじゃん?」
「うん」
「私もさ、聖也くんと同じでアニメとか好きでさ」
「うん」
「えっと、少年漫画も好きで」
「うん」
「ジャ○プとかマ○ジンも読んでいてね」
「うん」
「何で笑っているの?」
「聖也のことが好きなんでしょ?」
「ちょっ! まっ!」
「ごめん、違った?」
「違くはないけど・・・」
香山さんはモジモジとしている。以前、聖也がモジモジとしていた時はキモかったが、女子のこの仕草は可愛いと思う。
「聖也を誘ってどこか出かける? てか、あいつの性格はもうわかっているでしょ?」
「うん。引っ込み思案で、だけど頑張る時はすごく頑張っている」
「そんな聖也を見て、香山さんはいいと思うんでしょ?」
「うん」
香山さんって良い子だな。ここまで聞いたら何とかしてあげたいけど。どうすりゃいいんだ?
そこに、聖也が現れた。
「ごめん、気になってついてきちゃった」
聖也が焦った顔をしている。
「あの、香山さん。瞬との話は終わった?」
「う、うん。」
「瞬、ごめん。俺、香山さんに話があるから」
おっと!? これは聖也から行くのか?
「ああ、それじゃ俺は教室に戻るよ」
俺は二人を残しこの場を後にする。
「香山さん、俺。香山さんの事が気になって仕方がないんだ!」
うぉーい!
聖也さん、俺がまだここにいるんだけど?
人払いをさせた意味が無いんじゃないかーい?
「う、うん」
ほら・・・。香山さん恥ずかしそうな声じゃん。
俺は足早にこの場をさろうとしたその瞬間。
「香山さん! 俺とお付き合いしてください!」
間に合わなかった・・・。
全部聞こえちゃったよ・・・。
「は、はい・・・」
とりあえず逃げよう・・・。
この場を逃げよう・・・。
突き当たりを曲がると、芹香がいた。
俺の顔を見るなり、芹香は大爆笑している。
「エミくんの顔・・・。アヒャヒャヒャ! 告白タイム聞かされてる・・・。アヒャヒャヒャ!」
「アイツ。相当テンパっていたな。一、二秒でその場を離れられる訳がないじゃんな?」
「あははは! ほんとそれ。ふぅ・・・。笑った笑った。エミくん、そろそろ教室に戻ろう?」
「ああ」
芹香は相変わらず俺にくっついて来る。
「ねえエミくん」
「私もエミくんが好きだよ」
「知ってる」
「知ってるんかーい」




