ゼラニウム(真の友情)
駅横にあるラクダのいる公園。通称ラクダ公園。
香山さんからの連絡をもらい、俺は急いでラクダ公園に向かった。
「芹りんだって私の事を覚えていなかったじゃん!」
「わかるわけないじゃん! 桜だって私のこと覚えていなかったじゃん! だいたいサクちゃんって呼ばれていたでしょ?」
「芹りんだって、リカちゃんだったじゃん!」
喧嘩をしていると言う場所に到着した俺。
俺は一体なんの話を聞かされてるんだ?
「えっと、香山さん? これ喧嘩なの?」
「ああ、青井くん。今は・・・なんだろ?」
「いや、香山さんがわからないんじゃ、俺もわかんね・・・」
とりあえず、一度、落ち着かせるか・・・。
「なあ、何やっているの? 香山さんを仲間外れにしちゃダメなんじゃね?」
「エミくんは黙ってて!」
「なんだよいきなり!」
「青井くん」
和久井さんが俺の腕を掴んだ。
「何? 和久井さん、どうしたの?」
「私、和久井 桜は青井くんのことが好きです。私と恋人になってくれませんか?」
「なんだよいきなり!? どうしたの和久井さん!?」
「ちょっと桜! なんでコクってんのよ!」
芹香ナイスだ! この状況がわからねえ!
「芹りんは黙って! 青井くん、返事は今じゃなくてもいいから・・・。勢いで言った訳じゃないのはわかって・・・」
「いや、待って。和久井さん。俺は・・・」
「ダメ! 今は返事しないで! 私の事を考えていないじゃん! 私の性格とか何もわかってないじゃん! だから考えてから返事して・・・。お願いだから・・・。私の事を全部、知ってから・・・」
和久井さんはそのまま駅に向かった。
「えっと。 何なのこれ?」
香山さんは俺から目を逸らしている。
芹香を見ると、俺を睨んでいる。ってか何で?
「そろそろ帰らない? それか、二次会に行く? 俺は行かないけど」
「行く訳ないじゃん!」
なおも怒った口調で言う芹香。
そして、何で怒られているかわからない俺・・・。
「青井くん。今日は私も帰るよ。芹りんをよろしくね。おやすみ」
香山さんも駅に向かった。
芹香は香山さんに何も言わず下を向いている。
「三年ぶりに会って、これって最悪じゃん・・・」
「どうした?」
「どうした? 何言ってんの?」
「いや、わかんねえよ」
「わかる訳ないじゃん! 私だってわかんないよ・・・」
うわぁ・・・。
女子ってめんどくせぇ・・・。
「エミくん、私たちも帰ろう?」
「うん」
えっ? 何で突然落ち着いたの? 怖いんだけど!?
* * *
駅に向かう俺と芹香。
「何があったんだよ」
「桜がエミくんのことを好きなのは気づいていた・・・。多分、クラスの子のほとんどが、気づいていたと思う・・・」
「俺は芹香が好きだ」
「知ってる・・・」
えー!?
知っていたのかよ!?
「ねえ。お父さんの会社でバーベキューとかやっていたの覚えてる?」
「うーん、何となくだけど、覚えている」
俺たちは駅のホームに着いた。
「あれってさ、月に一回やっていたんだって」
「そうなの? そんなにやっていたか?」
「エミくんは剣道と合気道の試合とかで来ない時があったでしょ?」
「ああ、そう言えば合気道の昇級、昇段の試験とかと重なっていたな・・・」
「芹香は? 毎回、顔を出した?」
話の途中で、電車が来た。
風圧で芹香の髪が乱れる。俺は乱れた髪を手櫛で直してあげた。
芹香って小さいな。と口に出しそうになったのを堪える。
「今、小さいって思ったでしょ?」
「うん」
「ビシビシ! くらえ! ビシビシ!」
「わかったから、電車に乗るぞ」
電車内は混んではいないが、座席は埋まっている。
俺は扉に寄りかかった。芹香は後ろ向きで俺に寄りかかる。
子供みたいだな・・・。
「で? バーベキューがどうしたの?」
「あの時にサクちゃんって子がいたでしょ?」
「まさか!? 和久井さんってサクちゃん?」
芹香が仰け反り、俺にうんとうなずく。
「ガチか!? なんだか色々と思い出してきた!」
「そうなのよ。私も色々と思い出してね。それでケンカになった・・・」
「何で?」
「まあ、色々と・・・」
女子ってめんどくせえな・・・。
「そう言えばさ。サクちゃんて、突然、納豆が食べたいとか言って、鼻に納豆を詰め込んで泣いたことあったよな アレはガチでヤバかったな! あははは!」
「あっ。 それを言ったらケンカになった・・・」
「あははは! ヤベ、全部を思い出した! 確か、大好きすぎて鼻からでも食べちゃうんだよ! って言っていたんだよな! あははは!」
「あっ! エミくん、ヤバイ・・・」
芹香がそう言ったと同時に、バチン! っといい音がした。
どうやら俺は頬を叩かれたようだ。
「バカ・・・」
俺を叩いたのは和久井さんだった。
先に帰ったはずの和久井さんは同じ電車に乗っていた。
しかも、バカと言われた俺・・・。叩かれた挙句にバカって・・・。
和久井さんは俺の胸ぐらを両手で掴み、ジィッと見ている。
電車内にいる皆さんも、俺たちを見ている。
ちなみに芹香は俺と和久井さんの間に挟まれている。
「えっと・・・。今でも納豆は好き?」
「好きだったら何よ!」
「えっとね、ウチに来る? 箱買いしたからあるよ」
和久井さんの顔は突然、赤くなった。まるでギラギラと輝く太陽のようだ。
そして俺の胸ぐらは徐々に解放されていく。
「行く。お母さんに連絡入れとく・・・」
「はぁ・・・」
芹香は大きなため息をついていた。




