アマドコロ(心の痛みがわかる人)
俺の背後で涙を流す和久井さん。香山さんと芹香が和久井さんの元へ走り寄るのがわかった。
「どうしたの桜?」
「・・・なんでもない・・・」
和久井さんは芹香の問いかけに、消え入りそうな声で答えている。
「・・・用事を思い出しちゃった・・・。帰るね・・・」
「待って、桜、私たちも帰るから、一緒に帰ろう!」
香山さんが急いで帰る準備を始める。
クラスメイトたちが、ざわつき始めた。
「青井くん、どうしたの?」
俺に聞いてきたのは学年主席の相京くん。
「なんだろ? 俺もわかんね」
「和久井さん、泣いていたけど?」
「待って、俺も振り向いたら泣いていたから、わからないって」
「そうなの?」
相京くんは聖也に聞いている。
俺の発言、信用なしかーい!?
「とりあえず、芹香も帰るんじゃ俺も帰るよ。お疲れさん」
席を立とうとした俺に、聖也は俺の腕を掴んだ。
「瞬、今は待ってくれ」
「なんで?」
「ちょっと、離れたところに行こう」
「やだよ。俺も帰るよ」
「ダメなんだ。頼むから俺の話を聞いてくれ」
「わかったよ。話を聞いたら帰るぜ」
「ああ」
「加藤くん、助かるよ。青井くんをよろしく」
相京くんは何かを察したように、聖也に言った。
俺と聖也は非常口から出て、階段の踊り場に出た。
「瞬、ぶっちゃけで言うよ」
「何? 告白?」
「ふざけないで聞いてくれ」
「ああ、ごめん」
なんだよ・・・。
「和久井さんの事だけど」
「和久井さん?」
「瞬、以外のクラスメイトはみんな気がついているんだけどさ」
「は? 何が? 俺、ハブ?」
「違うよ。和久井さんは瞬に好意を持っているんだよ」
「何それ?」
「恋愛感情かどうかはわからないけど、それに近いと思う」
和久井さん・・・。ガチか? なんで俺なんだ?
「さっき瞬が片山さんの事を言っていたろ? それを聞いちゃったから、気持ちの整理とか、何たらかんたら? 的な?」
「待ってくれ、俺の気持ちも、何たらかんたらだ・・・」
俺たちは階段の踊り場で黙ってしまった。
「どうしよう・・・。俺は芹香が好きだ」
「そんなのわかっているよ」
「どうしよう・・・。俺は芹香が好きだ」
「いや、二回も言わないでいいって・・・」
これはあれか?
和久井さんにハッキリ言うべきか?
バイト、クビになっちゃうかな・・・。
それは関係ないか?
あれ?
大丈夫かな・・・。
「なあ。今、和久井さんと関係ないことを考えていただろ?」
「関係なくはないけど・・・」
とりあえず、俺も帰るか。
「聖也の言いたい事はわかった。俺も帰る」
「本当にわかったのか? ガチで心配なんだけど」
「とりあえず、今日は和久井さんとの接触は避ける。そして芹香と話す」
「片山さんと? 何を話すんだ?」
「わかんね・・・。何か話す」
「うん、わかった」
俺たちは元いた場所に戻った。
ちょうどお開きの時間のようで、みんな帰り支度を始めている。
「青井くんたちも二次会に来る? カラオケだけど」
相京くんがニコニコと眩しい笑顔で話しかけてきた。
「俺は帰るよ。姉さんが大事な話があるって言うから」
「そうか。残念だけどまた誘うから、その時は行こう。お疲れさん。」
「ああ、お疲れさん。」
俺は急いで外に出る。
芹香たちはどこに行った?
とりあえず芹香に連絡を・・・と思う間もなく携帯が鳴る。
香山さんから?
「青井くん? 駅の横の公園にいるんだけどわかる?」
「ああ、変なラクダがある公園?」
「そう! すぐに来れる? 桜と芹りんが喧嘩しているの!」
「はあ? わかった、すぐに行く!」
なんでだ?
いつも仲良しなのに・・・。




