マルバストラム(秘めた想い)
球技大会、当日。
雨天のため順延し、今年は土曜日の開催なった。
毎年、平日の開催だったため、今年は土曜日のおかげか、父兄も見に来ている。
ちなみにだが、うちの高校はグラウンドが小さいため、球技大会は近郊にある、大きな都立スポーツセンターで行われている。
そして、各種目は始まったのであった。
俺の出場するハンドボールはB棟の第二コート。
俺と聖也は補欠さ。
なんて言ったって、ボールのコントロールがヤバいからね。
試合が始まり、A組は面白いくらいに得点を入れている。流れはA組だ。
そして俺はひな壇状の観客席を見た。すると女子たちが、何やら一点に群がっている。
よく見ると、その中心にいるのはデジレ姉さんじゃないか!?
しかも芹香が姉さんの横で、何かを仕切っている。
「何やってんだアイツ・・・?」
「どうしたの?」
誠也が不思議そうに俺に聞いてきた。
「いや、あれ」
俺は群がる女子たちの方へ、アゴで指摘した。
「あ! デジレさんだ!!」
聖也のテンションが上がった。
俺はベンチ脇にいる香山さんに目をやる。香山さんは聖也を見て、眉間にシワを寄せている。そのシワはまるでMITSUBISHIのマークのようだ。怖い・・・。
「なあ聖也。A組って圧勝じゃね? これだけ点差があれば俺たちも出れるんじゃね?」
「うん。デジレさんって綺麗な人だよな・・・」
あっ・・・。
今のは香山さんに聞こえたな・・・。
ピピー! ホイッスルが鳴る。
選手交代だ。
「4番に変わって9番。 5番に変わって11番」
やった! 俺たちだ!
「行くぜ聖也!」
「おう、頑張れよ!」
「いや、お前もだよ!!」
俺と香山さんの声がユニゾンした。
香山さん怖いんだけど・・・。
俺たちは交代選手とハイタッチし、コートに入る。
コートに入ると同時に俺の元にボールが来る。
これはアレですかぁ!?
行っちゃえってことですかぁ!?
俺はドリブルをし、ゴールに近づく。
「思い知るがいい! これが俺のノーコンシュートだぁ!!」
俺の投げたボールは相手チームのキーパーの右手をすり抜け、見事にゴールを決めた。
俺は呆然とし直立不動。
『ヘーイ! エミール! ナイスシュート!』
お? 俺ってスゲーんじゃね?
『ありがとう! 俺ってすごくない?』
『C'est cool!』
いつの間にかベンチの後ろに来ていた姉さん。
嬉しそうに俺に手を振ってくれている。
しかもスッゲー高そうなカメラを首から下げているぞ?
「青井くん、あの人って誰? スッゲー綺麗な人だね」
「母さんの妹。でも叔母と言わないで姉さんと呼んであげてね」
「青井くん上達したね! ナイッシュー!」
「ウェーイ!」
やべ、楽しいんじゃね?
その後、試合は終了し、ベンチに戻る。
ベンチに戻ると、北村先生が拍手で迎えてくれた。
これは予想だけど、先生たちって優勝クラスを賭けている気がするな?
と思う俺であった・・・。
次は女子のハンドボール。
俺は聖也に女子の試合を応援しようぜっと提案。もちろん香山さんのためだ。とりあえず、姉さんには退場を願うとするか・・・。
色々と周りに聞かれるとヤバいかもしれないから、フランセで話しておこう。
『姉さん、来てくれてありがとう』
『当たり前じゃない! カッコよかったわよエミル』
姉さんは俺の頬に自分の頬を当てる。
フランスでは家族同士の挨拶のようなものだ。
『姉さんこの後は?』
『少しだけ打ち合わせがあるのよ。だからこれで帰るわね。残りの試合も頑張るのよ』
『任せてくださいよ』
『それじゃ行くわね。アビヤント』
『アビヤント』
よかった。これで聖也の視線を香山さんに作戦ができるな。
覚悟しろ聖也!




