ライラック(思い出と純潔)
「初めまして、青井 Emile 瞬です」
「初めまして、私は芹香だよ。片山 芹香。違った、青井 芹香になったんだ」
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「私の方が誕生日が早いから、芹香はエミくんのお姉ちゃんだよ」
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「エミくんのクラスは宿題あるの?」
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「お姉ちゃんは弟を守ってあげるからね」
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「何やってんだよクシジジィ! 芹香から離れろ!」
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「ごめんね瞬くん…」
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「私、一人じゃ瞬くんまで育てられないの」
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「大丈夫だよ、泣くなって。いつかまた会えるよ…。」
四月七日、月曜日。 本日は晴天なり。
俺は今日から高校生。
ピッカピカの一年生さ。
塾にも行けず、近所の兄さんから貰った、使った形跡のない参考書で、猛勉強をした末に入学ができた高校。
試験者数、1,246人中、二位で合格した俺って偉いんじゃね?
特待生にはなれなかったけど、学費が免除になったのは幸いだ。
学校からクラスはA組になると言われたけど、一応、確認をしておこう。
校門の突き当たりに張り出されたクラス表。
姓が青井なので、だいたい最初に名前を発見できる。
俺は何の気なしに、女子の名前を見た。
片山 芹香。
まさか?
こんなふざけた名前、二人もいないだろ?
クラス表の下に表記された教室までの順路。俺はそれを確認し、教室へと向かった。
昇降口を抜け、順路に従い階段を上がる。
この高校は上履きが無いため、校舎内は埃っぽい。
一年生の教室はお決まりの最上階だ。
A組の前まで行くと、座席表があった。
最初の座席はだいたい出席番号順。俺は青井なので、だいたい一番か二番だ。
座席表を確認すると、俺は廊下より三列目、前から四番目。
てか、このクラスのあ行の多さって…。
ちなみに片山 芹香は俺の左隣。
女子のあ行の多さも目立つ。
開きっぱなしの教室の入り口から、中に入った。
俺の席の隣の女子が座りながら俺を見ている。
どうやら向こうも、なんとなく気がついていた様子だ。
俺が入ってくるのを待っていたんだろう…。
「あ、やっぱ芹香だ」
やべ、つい言っちゃった。
芹香は席を立ち上がる。が、相変わらず小さい。
立ち上がっても背丈が変わらないって奇跡だぞ?
140センチも無さそうだ。笑える。
「エミくん!」
芹香が涙を流しながら俺に抱きついてきた!?
「ちょっ芹香、やめてくれ! みんな見てるんだけど?」
クラスのみんなが俺たちを見る。
あぁ、みんなシーンってなっているし?
おわた…。
いきなり目立っちまったよん…。
「えぇっと? その…君たち。抱き合うのはやめなさい」
壇上にいる女性が俺たちに言う。
まあ、壇上にいるってことは先生だな。
「初めまして、僕は青井です。先生ですよね? この女子は片山 芹香。僕の生き別れた姉です」
教室内が騒めく。
「生き別れた? ま、まあ。とにかくみんな座って」
先生の一言で一同が席に着く。
「芹香も離れろ、席に着け。ってお前! 俺のシャツで鼻水を拭くな!」
「ウエーヘッヘッヘッヘッ!」
「あーもー! お前、全然変わんねえな!」