表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/77

蘇る魂の道しるべ⑪

8/29~10/28号をまとめたものです。

 男友達の手荒い歓迎のように、全員に揉みくちゃに頭を撫でられながらも、幸せ一杯の表情で笑うリューイであった。





 アーニャ達から離れたリリフは中央に歩いて行く。

 そこには肉を焼き終えた聖女が、ルチアーニ、ブルニ、グワンバラ、そしてピコルとクレムちゃんに囲まれ、談笑していた。



「あっはっは!聖女っちったらウケる~!」

「ちょっ、先輩。聖女様に失礼ですよぉ」


「全然良いのよ。貴方も普通にしなさい、クレム」


「はわわぁっ!聖女様が私なんぞの名前を覚えてくださるとは!感激ですぅ!うわーん!嬉しいよぉ!」



 聖女の周りで、ピコルは手をパンパンと叩いて大笑いして、クレムは感激の涙を流し、ルチアーニとグワンバラは優しい笑顔で包み込み、ブルニは聖女の膝の上でちょこんとしている。



 それにしても流石はピコルといったところ。

 おそらく、ルーン国内で、ここまで友達感覚で聖女に話しかけれるのはミールを除けばピコルのみだろう。



「あ、リリフ姉様ですぅ。リリフ姉様ぁ〜!」

「ヤッホー。リリフっち」

「やっほー。なんだか、すっかり打ち解けてるみたいでびっくり」



「あははっ。リリフっち、聞いてよぉ。聖女っちったら面白いのっ。魔石にさ、結界の力を込めるじゃん?普通はね、1ダース毎に詰められた魔石の箱に、1箱1箱、聖女の力を込めていくんだって。でもね、聖女っちったら面倒くさいからって30箱くらいパーって並べて一気にやっちゃうんだってっ。どうりでルーン国の結界石の効き目が低い訳よねぇ~」



「しょ、しょうがないじゃないっ。結界石って毎月何万個、何十万個って数あるのよ?!いちいちやってたら過労死しちゃうわっ」


「あはは~。聖女っち、ウケる~!」



「アーニャ様はどんな感じだい?なんか深刻そうな顔してたけど」

「あ、はい。全然大丈夫ですっ。今、キャサリンさんとお話中です」

「そうかいそうかい。そりゃ良かった」



「リリフ姉様っ。聖女様が焼いた肉串ありますよっ。食べますぅ?」

「あ、貰おうかな。そういえばあんまり食べてなかったや」


「後半はかなり焼き方が上手くなったよ。うちの店にスカウトしたいくらいさ」

「へええっ。流石聖女様っ」

「ふっふっふ。沢山食べるのよ、リリフ」

「はいっ。ありがとうございます、聖女様」



 もぐもぐと肉串を頬張るリリフ。



「どう?美味しい?」

「はいっ。焼き加減も完璧です!とっても美味しいですっ」

「そ、そう。よ、よかったわ」



 ここで髪をクルクルと触りながら、少し落ち着かない様子の聖女様。



「そ、それで・・・リリフ」

「はいっ、聖女様」

「えっと・・・その・・・」

「???」


「きょ、今日は良い天気ね」

「えっ??あ、はいっ。本当に晴れて良かったです。この分なら『初日はつひの出』もバッチリ見れそうですっ」

「そ、そうね・・・」



 再度、髪をクルクル。目をキョロキョロしながら様子が変な聖女様。



「そ、それでリリフ・・・」

「は、はいっ」


「えっと・・・あ、アーニャは大丈夫なのかしら?」

「えっ??あ、えっと・・・大丈夫そうです。今はキャサリンさんとお話ししてます」

「あ、そうよね。さっき聞いたわよね、ごめんなさい」

「い、いえっ」



「・・・・・・」



 沈黙する聖女様。明らかに様子がおかしい。



 そんな聖女をブルニは不思議そうに見上げているが、ルチアーニとリリフは互いに目を合わせてため息をつく。



 これはあれだ。

 面倒くさいやつだ。



 二人は、そんな考えを一致させていた。



 以前のデトリアスの葬儀の日。

 わざわざ聖都から聖女が来たのはご存知かと思う。


 そして、その晩。

 そのままアーニャの屋敷で一泊する事になった聖女は、リリフ達女性陣を呼び出した。


 建前的な理由は落ち込むアーニャを元気付ける為。

 しかし実際はアーニャから通話で聞いた『パジャマパーティー』なるものを体験したかったからなのである。



 最初は良かった。



 アーニャが落ち込んでいたのは事実だったので、皆で励まし合い、前向きな気持ちで笑い合っていた。


 しかし段々と、今のような感じで聖女が挙動不審になり始める。


 そして・・・アーニャを励ます会は、聖女の恋バナを聞く会へと変化していった。


 それだけならまだ良いが、その内容がとにかく酷かった。



 聖女が泣きながら悩む。

 ↓

 皆で励ます。恋が成就するように作戦を立てる。

 ↓

 これなら行けそう!と盛り上がる。

 ↓

『やっぱり無理ぃ〜』『怖い〜』と全ての計画を破棄。

 ↓

 それじゃあ現状維持で・・・と終わろうとする皆々を『やだー。見捨てないで〜』と駄々をこねる。

 ↓

 再度励まして作戦を立てる。

 ↓

 今度こそ行けそう!と盛り上がる。

 ↓

『やっぱり無理ぃぃ』と土壇場で覆す。

 ↓

 エンドレスの無限ループ。



 こんな感じで聖女の不毛な恋バナが永遠と続き、ブルニ以外の者達は結局朝まで付き合わされたという事件があったのだ。



 今回もきっと聖女は恋バナをしたいのだろう。聞いて欲しいのであろう。

 幸い、前回と違い『初日の出を見る』という目標があるので、元々徹夜するつもり。

 こうなったらトコトン付き合おう。



 そんな感じで密かに覚悟を決めたのだったが・・・



 前回と違い、中々恋バナへと突入できない聖女様。

 それは明らかに2人の存在。ピコルとクレムが関係しているかに見えた。



 聖女は既に200年近く生きているが、恋の駆け引きは現代の女子高生にすら劣る。

 聞いてほしいけど、知られるのが恥ずかしい。

 そんな思いが見て取れた。



「貴方達・・・お、お休みの日は・・何をしてるのかしら?」



「お休みですかっ?!私はお部屋で過ごす事が多いですねっ」

「へぇ。先輩、お友達とお出かけとかしないんですかぁ」

「うーん。もちろんたまにはお友達と遊ぶ事もあるけど、基本一人でいる時が多いかなぁ。でも案外、一人の時間も良いものよっ。読書したり、エステしたり、晩酌したりっ」

「意外ですっ。てっきりアウトドア派かと思ってましたぁ」

「ふっふっふ。ギャップを作るのがイケ女になるコツよっクレムちゃん」

「勉強になります!先輩っ!」

「そういうクレムちゃんはどうなの?」

「私は家族と過ごしますねっ。妹が4人もいるのでうるさいんですっ。末っ子はまだ産まれたばかりでママも大変なので、代わりに妹達の面倒を私がみてる感じですっ」

「へえぇ。5姉妹なんだぁ。お父さん、肩身狭そぉぉ」

「うふふっ。パパ、完全に存在が空気になってますっ。うちは圧倒的にママの方が立場が上ですねっ」

「あははっ。ウケる~!」



 休日は彼氏と・・・的な話の展開を期待していた聖女だったが上手く行かない。

 気を取り直して別の質問をぶつける。



「こ、こほん。そ、そう・・・ふ、二人は職場の人達と飲みに行ったりするのかしら?」

「もっちろんっ!みんな仲良しですよぉっ」



「そ、そう。ど、どどどどんな話をするのかしら?」



「え~??どんな話って・・・色々だよねぇ」

「そうそうっ。みんなコロコロ話題変えるしっ」

「あははっ。そうそう。みんな好き放題、喋るもんねぇ」

「ですですっ。でもやっぱり盛り上がるのはギルド長ネタですかねぇ」

「わっかるぅぅ。みんな大好きだよねぇ、その話題」

「あははー。やっぱり上司の悪口は尽きることがないですからねぇ」

「なんか可哀想ぉ。ギルド長、頑張ってると思うけどなぁ」

「さっすが先輩っ。みんなに優しいっ」

「そんなことないけどさぁ。そういえばギルド長が別居してるってホント??」

「そーなんですよぉ!この前、人事局のブスケツ局長がいらした時に、小声で話してるのをシェアナ先輩が聞いたみたいなんですっ!『妻に出て行かれまして・・』みたいな事を言ってたって!」

「もう・・・シェアナったら。絶対に聞き耳立ててたでしょ?後で叱っとかないと」

「うわーんっ。先輩っ。私が言ったって言わないでくださーい!」

「はいはい。それでぇ?原因はなんなの?」

「それが分からなくて!だからみんなめっちゃ噂してますよっ!浮気が原因なんじゃないのかってのが有力です!」

「あははっ。ギルド長ってそんなにモテるのかなぁ」

「ですよねぇ。私はギルド長が不潔でダラシナイからなんじゃないかなって思ってますっ。最近肌も油ギトギトだし、加齢臭臭いし!この間なんか、ズボンのチャックが開いてたんですよぉ!もう最悪!」

「あはは。ギルド長もおじさんなんだからしょうがないよっ。でも熟年離婚って大変そう・・・」

「ですねっ!私は絶対に離婚したくないですぅぅ!」



「へええ。クレムちゃんってどんな人がタイプなの?」



 聖女は、またもや関係ない話の展開にガッカリしていたが、不意に恋バナへと話題が変わり、目を輝かせる。



「私はとにかく優しい人が良いですっ。普段お姉さんしてるので、彼氏といると甘えちゃうんです。だから優しくかまってくれる人がいいなぁ」



「へー。意外。クレムちゃんって『メニロ・クオント』みたいなイケメンが好きなのかと思ってたぁ」



「全然違いますよぉぉ!私イケメンって大っ嫌いですっ。自分勝手だし、気遣い無いし、浮気するし!」

 


「あははー!わかるぅぅ!顔だけの男って最低よねっ!」

「ですですっ!だから私、イケメン連れてる女を見ると『ああ、顔に釣られたバカ女』って思っちゃうんですよねえ!」

「きゃー!クレムちゃん辛辣しんらつぅぅ!」



 聖女は2人の会話を聞いて、『アガガガ・・・』と口を開けて絶句している。

 そして瞳をウルウルさせながらリリフに助けを求めた。



 リリフがため息をついて、割って入ろうとした時・・・



「聖女っちはピッケンバーグ様とお付き合いして長いんですかぁ?もうすぐ結婚??」



 唐突に豪速球な質問をぶつけるピコル。



「ふぇ?!?!な、なななななにを言ってるのよ?!そ、そそそそそんなわけないじゃないっ!」



「あー。そっか。立場的に言えないんだ。そっかそっか。聖女っちも大変だねぇ」

「ですねぇ。お可哀想な聖女様・・・」



「ちょ、ちょちょっと!な、ななななにを勘違いしてるのよっ!わ、わわわたしとピッケンはそんなんじゃないわっ!」



「へええ。それじゃあ付き合いたてなんだぁ?いいなぁ」

「1番楽しい時じゃないですかっ!ご馳走様ですっ」



「ちょっ!だ、だから違うっての!わ、わわ私とピッケンは何にもないのよっ!!」



「え?・・・」



 聖女の慌てように、ピコルもクレムちゃんもようやく『あれ?なんかオカシイぞ』って感情が湧いてきたようで、2人で顔を見合わせる。



「え?・・・えっと・・・それって・・・お付き合いをしてないって事ですか?・・・あれだけ恋人同士のオーラを出しまくってるのに?・・・」

「あはは・・・そんなわけないですよね?聖女様・・・」

 


「・・・・・・・」

 聖女はぷくーっとほっぺを膨らましてうつむいている。



 ピコルは視線をリリフとルチアーニに移した。

 2人は黙って頷いて答える。



「ええ??・・・えええー?!?!ふ、2人ってホントに付き合ってないのぉ?!嘘でしょぉおぉ!」

「信じられない!だってさっきも自然と見つめ合ってましたよねっ?!絶対恋人同士だと思ってましたっ!!」

「だよね、だよね!なんで付き合わないのお?!聖女っち!」

「あ、先輩、私分かりました。きっとピッケンバーグ様が首を縦に振らないんじゃないでしょうか?」

「あー。なるほど。でもそれならもう一押しって感じだよね?聖女っち。頑張って好き好き言い続けちゃお。いけるいける」



「ちょっ!ちょっとっ!な、なななんで貴方達が私がピッケンを好きな事を知ってるのよ!」



「え〜??ちょっと見たら誰だって分かるよお、聖女っちがピッケンバーグ様を好きなのはぁ。ねえ?」



 再び深く大きく頷くリリフとルチアーニ。



「むう・・・」



「あはは。聖女っちったら可愛いっ!」

「聖女様。一応確認なんですが、2人はお付き合いどころか、お互いに好意すら伝えてないって事でいいんですよね??」



「・・・うん・・・」

 とてもちっちゃい声で答える聖女様。



「そっかー。でも(はた)から見てる限り、脈なしって事はないと思うよぉ?さっきも言ったけどもう一押しって感じじゃないかなぁ」

「私もそう思います!聖女様っ。告っちゃいましょう!」



「バ、バカ言わないで頂戴っ!無理に決まってるじゃないっ!第一、告白したら絶対に成功するの!?」



「それは・・・ねぇ?」

「はい。やはり人間相手ですから・・・」



「だったら嫌よ!怖いわ!」



「うーん。正直、私達ってピッケンバーグ様に会ったの今日が初めてだし、お話しもしたことないから分からない事多いんですよねぇ。どんな方なんですか?ピッケンバーグ様って」



「ピッケンバーグ様は流石に護衛隊長なだけあって腕は確かよ。おそらくダストン将軍に引けを取らない強さなんじゃないかしらねぇ」

「でもぜんっぜん偉そうにしてなくて、とっても優しいのっ!私達にも敬語で話しかけてくれるし!」

「お馬さんも丁寧にブラッシングされてて気持ち良さそうでしたぁ」



「ふむふむ。とても人間的に優れた人みたいね。他にはなんかある??」



「いつも聖女様を見てるだわさ。周辺を警戒してるってのもあるけど、聖女様ご自身の事も気にかけてる感じよね」

「うんうん。前にね、聖女様は常に不安そうにしてたけど、私達と接するようになって笑顔が戻りました。ありがとうございますってお礼言われたもん」

「ピッケンバーグ様、とっても嬉しそうでしたぁ」



「なるほどなるほどぉ。聖女っちからみて、ピッケンさんはどんな感じ??」



「ぴ、ピッケンは・・・いつも優しく見守ってくれていて・・・結構ピッケンの前はコロコロと護衛隊長は変わってたんだけど・・・ピッケンが就任してから・・・交代してなくて・・・なんて言うか・・・安心できるっていうか・・・邪神が襲ってきた時も・・・命がけで私を守ってくれて・・・結界石の時も・・・後ろから優しく抱きしめてくれて・・・」



 聖女は両方の人差し指をツンツンしながら、最愛の人を頭に思い浮かべる。



 ピコルとクレムちゃんはお互いに顔を見合わせた。



「聖女っちぃぃぃ~。もうこれ大丈夫だよ」

「ですね。聖女様。99%イケルと思います」


「あたし達もそう言ってるんだけどね・・・」

「なかなか勇気が出ないみたいです・・・」



「だってっ!だって!怖いんだものっ!怖いんだもの!!もし拒絶されたらって考えると怖くてしょうがないのっ!拒絶されるくらいならこのままでいいわっ!」

「じゃあこのま・・・」

「いやよっ!私はピッケンと付き合いたいの!恋人になりたいのっ!」



「・・・・・・。」

「めんどくさ・・・」

 思わずクレムちゃんも小声で本音を漏らしてしまう。



「ううぅ・・・」

 聖女は座り込み、雑草を引っこ抜き始めた。

 そんな聖女の頭をブルニがヨチヨチしている。



「つまりこういうことかね?恋人にはなりたいけど自分から告白するのは絶対に嫌。相手から告らせたいと」



「そう、そうよ!その通りよ!あんた達!何とかしなさいっ!」

 グワンバラの確認に、仁王立ちで偉そうに答える聖女様。



「・・・」

「何とかって言われてもなぁ・・」



「まずはピッケンバーグ様の情報を集めよっか。どんな事が好きで、どんな経歴なのかとか。そこから答えを探してみよ」



「流石先輩ですっ。聖女様、ピッケンバーグ様ってどんな事が好きなんですか??」



「え??知らないわ」



「知らないって・・・ほら、色々あるじゃないですか。好きな食べ物とか、趣味とか、休日は何をしているのかとか」



「・・・分からない・・・」



「え??マジ??」

「なにも知らないんですか?聖女様。例えば・・・出身とかはどうです?」



「・・・」



「家族構成とか?」



「・・・・・・」



「じゃあ・・・じゃあ、いつ頃から護衛隊長してるんです??」



「あ・・・えっと・・・確か・・・3年くらい前・・・だったかしら?」

「あっ。私それ知ってるよ。たしか5年になるみたい。さっきダストン将軍様とお話してる時に、ピッケンバーグ様が仰っていたもん」



「なんで聖女っちよりリリフっちの方が詳しいのよおぉ??」



「ううう・・・」



「これってあれじゃないですか?先輩。恋に恋しちゃってる状態。恋に憧れてるだけで、実際はたいして好きじゃないってやつ」

「あ~・・・さっきクレムちゃんが言ってた『単なるイケメン好き』ってヤツね。聖女っち、顔に釣られちゃったかぁ・・・」



「ち、違うわっ!私は本気よ!本気でピッケンの事が好きなのっ!」

「え~??でもさぁ・・・」



「確かに私は自分の事ばっかりでピッケンの事、何にも知らないんだって今気付いたわっ!でも違うの!私はピッケンがどんな生まれであれ、どんな経歴であれ、そんな事は気にしてないのっ!ピッケンの雰囲気が好き!ピッケンの気遣いが好き!ピッケンの全てが好き!本当に本気なの!信じて!」



「聖女様。そんなに大きな声出すと聞こえちゃいますよ?」

「はうっ!!」

「いや、もう、むしろ聞こえちゃったほうがいいよね?」

「ですね・・・」



 聖女は恥ずかしそうにうずくまる。

 幸い、焚き火の音、人々の笑い声などにかき消され、ピッケンバーグの元まで声は届いてないようだ。



「聖女っちぃ。これからはピッケンバーグ様のこと、少しずつ知っていった方がいいと思うよぉ?聖女っちの想いは分かったけど、相手の事を知る事、考える事は気遣いにも繋がるし。恋は2人で育むものなんだからさぁ」



「うん・・・そうね。それは反省するわ」



 ピコルはふ~っとため息を付いて仕切り直す。



「さてさて。それじゃあ一から作戦立てよっか?リリフっち。ピッケンバーグ様の事で他に何か知ってることってある??」



「えーっとね。確か最初はダストン将軍の元で一般兵として学んでたみたい。それが10年くらい前って言ってた気がする。なんか凄く考え方を含めて成長できたって凄い感謝してた。私もビックリしたんだけど、ピッケンバーグ様って若い頃は自己中って言うのかな?そんな感じの人だったみたい。それがダストン将軍の元で学んで変わったんだって」



「ほぉ~。そうなのかい。あたしゃてっきり最初から聖人なのかと思ってたわさ」

「ブルニもビックリですぅ」



「ふむふむ。てことは平民出の可能性が高いわね。貴族階級やエリート候補生は一般兵に混じって訓練しないもの」



「あ、私も思い出したわっ。確かルゾッホが推薦してきたのよ。武闘大会で優勝した者ですって。イケメンだったから一発採用だったわ」



「・・・」

「聖女っちぃ」



「ち、違うわっ!当時の話よっ!今は顔だけじゃないんだからっ!」



「あとはなんだろ?とにかくすっごい優しいし謙虚だよね」

「そうねぇ。あれだけの地位にいながら、偉そうな素振りを一切見せないものねぇ。おばちゃん、後10年若かったらアタックしてたわぁ」

「なっ?!ルチアーニ!あんた裏切る気?!」

「聖女様っ、冗談ですって」

「ヨチヨチですぅ、聖女様ぁ」

「ううう・・・」



「ねえねえ。とりあえずさ、ピッケンバーグ様って聖女様に好意的だって感じるのは私だけじゃないよね??」

「はいっ。私も同意見ですっ、先輩」


「うんうん。それは私もそう思うっ。だってさ、今だから言うけど、昔の聖女様って誰とでも寝ちゃうって感じでホイホイ身体を許してたじゃん?普通はそういう人が身近にいたら、ちょっと一歩引いちゃったり、逆にワンチャン自分もヤレるかもって軽く見る人が多いと思うのっ。でもピッケンバーグ様ってずっと変わらないでしょ?変わらずに聖女様を温かく見守っている・・・それってそういう事でしょ?って思っちゃうんだよね」



「え?・・・なに?・・・聖女っちってヤリ○ンだったの?そんだけ純情なのにヤ○マンとかウケる~!」

「む、昔の話よっ!今は違うわ!」



「私だったら絶対に嫌です。好きな人が他の女とヤリまくってるなんて・・・百年の恋も冷めるってもんです」

「う・・・」



「そこはちょっと私も同意見かなぁ。だから可能性は低いけどピッケンバーグ様がものすごいプロフェッショナルな人って線も捨てきれないと思うよぉ」

「ど、どういう意味よ」



「聖女っち。世の中にはいるんだよ、仕事に対してプロ意識がめっちゃ高い人が。任された仕事をキチンとやる、一生懸命やるって人は沢山いるけど、この完全プロフェッショナルは一切の妥協をしないの。個人的な事を一切仕事に持ち込まない。完全にプライベートを無くして仕事のみの人生にする人もいれば、しっかりと仕事は仕事、プライベートはプライベートって分ける人もいる。どちらにせよ、このタイプは感情を切り離して仕事に打ち込むから、聖女っちが沢山の男と寝てても態度が変わらなかったのかもしれないってこと」



「その場合は・・・どうなるの??」



「聖女っちの相手に告白させるって作戦が、めっちゃ難しくなるってことだよ。ピッケンバーグ様が聖女っちを気遣っているのはあくまで仕事だからってことになるから『好きよ!ピッケン』って言っても『へ?そんなつもりじゃないんですけど・・・』って言われる可能性があるかもしれないってこと」



「嫌あああぁ!!そんなの絶対に嫌ああぁぁぁ!」



「でも、それだけなら気持ちが無いって事だから諦めがつくし良いのよ。1番厄介なのが、聖女っちに少なからず好意を抱いている場合ね。この場合は仕事を優先するから自分の気持ちを押し殺してしまう傾向があるかも。こういう人は客観的に物事を捉えるから身分の違い、立場の違い、そして世間への悪影響。こういったのを凄い気にすると思うの。聖女様に好意を持つなんて恐れ多いって感じで、気持ちに蓋をしたり壁を作ったりすると思うんだ」



「私は気にしないのに!!」



「そう。その気持ちを聖女っちから伝える事が出来れば簡単なんだけどなぁ」



「ぜっったいに無理いいぃぃ!」



「でしょ?だったら相当覚悟しなきゃ。こういう真のプロフェッショナルな人の心の壁を取り払うのは、すっごく大変なんだからっ」



「ううう・・・どうしよう・・・」



「まずはオーソドックスだけど外堀を埋めていくのが大事なんじゃないのかね。ピッケンバーグ様の情報を集めて上手く誘導していくのだわさ」



「うんうん。私もそう思うっ。聖女様、少しずつ会話から情報を引き出していきましょうっ」



「そんな高等テクニックが聖女っちに出来るかなぁ・・・」

「ば、バカにしないでっ!私だってそれくらいできるわっ!」



「じゃあ例えば、これから話しかけるとしたら?」



「えっ・・・えっと・・・イイオテンキデスネ・・・」



「ダメだねこりゃ」

「絶望しかないです」

「ふええぇぇん。絶対に失敗するよぉぉ」



「ううう・・・」



「私のパパに頼んでみましょうか?」

 落ち込む聖女にクレムちゃんが提案する。



「え??どゆこと?クレムちゃん」



「私のパパってガタリヤギルドで長年働いているマーカーなんです。なんか結構、その筋で有名みたいで、他の街から浮気調査の依頼があるくらいなんですよっ」



「ええっ??長年ってことはライオンズさん?!お父さんだったのっ??」

「えへへ。実はそうなんです。ギルドでは絶対に話しかけないで!って言ってるので知ってるのはギルド長くらいですけど」

「そーなんだぁ。ビックリ」



 ライオンズとは、ご記憶している方は少ないと思うが、ザザの村付近の山頂に変異種のドラゴンが飛来した時、命がけで追跡魔法を付けてきた唯一の生き残りだ。



「なのでパパにピッケンバーグ様の調査をお願いしてみます?正直聖女様が情報を集めるよりも確実だと思うんですけど」



「いいじゃない!めっちゃいいじゃない!ナイスだわクレム!」



「うんうん。私もそれがいいと思うっ」

「あたしも賛成だわさ」

「確かに聖女様がやるより何倍も良いね」

「流石クレム姉様ですっ」

「なんか急に希望が出てきたねっ。流石は私の後輩だわっ」

「えへへっ。お役に立てて嬉しいですぅ」



 てっきり不毛な恋バナが延々と続くと思っていたが、意外に前向きな展開になり穏やかに笑い合うリリフ達。



 聖女も今後の展開に希望が持てたことで安心したのか、ホッと胸をなで下ろしていた。

 そんな雰囲気をぶち壊すような、セリーの怒鳴り声が平原に響き渡る。




「てええめえええぇぇ!!ぴっちぇんばーーぁーくぅぅ!!おみゃーおちょこやったらぱっきりちろーーーぉおーー!!ちぇいじょたまがこんにゃにわかりやちゅくちゅきちゅきちてるのにぃぃ!!おちょこをみちぇんかーーぁーーいいい!」




 通訳すると『てめえ、ピッケンバーグ。お前男だったらハッキリしろ。聖女様がこんなにわかりやすく好き好きしてるのに。男をみせろ』ということらしい。


 完全に酔いつぶれていると思っていたセリーの唐突の覚醒に戸惑うリリフ達。



「ちょっとっ!セリー!待って!待ってっ!」

「せりーっち!今、それデリケートな話題だから!」

「落ち着いてえええ!」



「うるちぇえええぇ!!せりーちゃんはしゃべるのりゃーーー!」



 リリフ達の制止をブンブンと振り払い、暴れるセリー。

 聖女は顔を真っ赤にして完全にあわあわしている。



 すると唐突に、またガクッと膝を折り、寝息を立て始めるセリー。

 リリフ達は大人しくなったセリーにホッとしつつ、ピッケンバーグの様子を確認した。



 ピッケンバーグはというと、ちょうどグレービーの襲撃を受けている所で、こちらに気を配る余裕はないようだ。

 ダストン将軍と共に青ざめた表情を浮かべている。



「ほっ。あっぶなかったあぁ・・・」

「せーふ・・・」

「もうっ、せりーっち酒癖悪すぎぃ」

「びっくりしたあぁ」



 リリフ達はお互いに顔を見合わせ、安堵のため息をつく。

 しかし、そうはさせまじと再度セリーが覚醒する。




「ぬおおおぉぉ!!とめりゅなああぁ!!ぴっきぇんばーぐう!!でてこぉぉいいい!!せりーちゃんがしかってやるのりゃあああ!」




「きゃああぁ!また起きたああぁ!」

「セリーっち落ち着いてええ!」

「セリー姉様ぁ!お酒臭いですうぅ!」



「ぬおおおぉぉ!!我輩はまだ負けておらんぞおぉぉ!まだまだああぁぁ!!」



 今度はラインリッヒの隊長さんが騒ぎ出す。



「ぎゃああ!こっちも起きたああぁ!」

「どーなってるの!いったい?!」



「じ、自分はアーニャ様に命を捧げているのであります!けっしてストーカーではないのでありますっ!」



 敬礼しながら立ち上がったのはアーニャの護衛、トール隊長。



「おにょれええ!ぴっきぇんばーぐう!!そこにいたかあああ!せりーたんのいかりのてっきぇんをくりゃええええ!!」

「なにををおぉ!ラインリッヒ様がお主などに惚れるわけなかろう!!ワシこそが相応しいのじゃああ!」

「自分はアーニャ様の残り香を嗅いでなどいないのであります!誤解なのであります!」



 酔っ払い3人は掴みかかって押し合うが、パタッと倒れて、またグーグーと寝息を立て始める。



「もおおう!なにこれええ!!」

「酔っ払い嫌あぁいいぃ!」

「セリー姉様ぁ、ヨチヨチですう」

「もうぅ!わっけわかんなーい!」

「あははははっ!」


 セリー達の突然の行動に右往左往しながらも、笑い合うリリフ達であった。





「リューイ様。少しよろしいでしょうか?」

「え?あ、はい」


 ビレット達やロイヤー達と盛り上がっていたリューイ。

 追加のお酒や食べ物を取りに中央の場所まで来たところで、唐突に聖女のメイド、ロココに話しかけられた。



 ロココは少しだけ笑みを浮かべてから、無言で恵みの池の方向にゆっくりと歩いて行った。

 リューイは後ろに付いてこいという意味だと察し、ドギマギしながら歩いていく。



 やがて馬や荷車が置かれている場所まで来た。

 ロココは一際大きな馬車の前に歩いて行く。

 おそらく聖女が乗ってきた馬車であろう。



 ロココは無言で扉を開けてから、視線を合わせずに横に立つ。

 中に入れという意味だと察し、恐る恐る足を踏み入れるリューイ。



 馬車の中は向かい合ったシートと、荷物や飲食物などが入るスペース、小さなテーブルが設置してあった。

 一つ一つの作りや質は豪華だが、構造的には一般的な馬車と同じ、シンプルな作りになっているようだ。



 リューイはどうすればよいか分からず、とりあえずシートに腰を下ろした。

 その瞬間、ロココがリューイを押し倒す。



「?!?!」



 訳が分からず、なすがままの状態のリューイの唇を強引に奪うロココ。思いっきり舌をリューイの口にじ込んだ。



「はあっ!はあっ!これが聖女様に触れた唇!じゅるじゅるじゅる!」



 思いっきり舌を絡ませ、下品な音をたてて吸引する。

 リューイは虚ろな目をしながら、ロココにむさぼられ続けた。



 そんなリューイにはお構いなしに、ロココは服を乱暴に脱がしてズボンを下ろす。

 そして、そそり立つリューイの欲望に腰を下ろしていった。



 リューイはこの時点で気絶しているが、ロココは全く気にする様子もなく、自分の欲望を満たしていく。




「はあっ!はあっ!これが聖女様の中に入ったのね!ああっ!聖女様!だめです!そんなに激しくしたら!ああ!聖女様!聖女様あぁぁ!」




 中央の聖女がいる周辺では、(うたげ)のシメに入っており、ルクリアの歌が披露されていた。

 恥ずかしそうにしながらも皆んなの前で堂々と歌っているルクリアの歌声に、全員が魅了され、癒されている。


 その一方で、恵みの池周辺では、人知れずギッシギッシと小刻みに揺れ続ける馬車がそこにはあった。





 時刻はAM6時前後。

 笑い合い、ご馳走を平らげ、盛り上がっていた一帯も、笑い声はすっかり鳴りを潜め、焚き火のパチパチとした音が辺りを支配していた。



 2人で静かに語り合っている者や、焚き火のゆらめきを肴に酒を傾けている者もチラホラと確認できるが、大半は毛布に包まりスヤスヤと固まって寝てる者や、ガーガーとイビキをかきながら大の字で寝ている者だった。



 メイドのロココやルイーダが、片付けをしながら薪を足し続けていたので、腹を出して寝ている者も、風邪は引く可能性はあるが、低体温症などで命に危険が及ぶ心配はないであろう。



 失礼。説明不足でしたね。



 結界内では、ある程度気温が維持される。

 もちろん強い風が吹いていたり、雨などが降っている、極端に外気が冷たいなど色々と例外はあるが、今回の場合は焚き火をしていると結界内は大体18度前後に保つ事が出来ていたので、冬の野っ原でも寝ることが出来ているというわけだ。



 アーニャのメイドのルイーダが、聖女達と固まって寝ているリリフの肩を揺らす。



「リリフさん。そろそろ日の出ですよ。起きて下さい」

「う〜ん・・・」

 リリフは少し眉間にシワを寄せたが起きる気配はない。



「リリフさん。初日の出見るんですよね。そろそろですよ」

 再度、優しく肩を揺らすルイーダ。



 リリフはハッと覚醒し、ガバッと立ち上がる。

「そうだった!危ない!寝過ごすとこだったわっ!ありがとう、ルイーダさん!」



「うにゃ〜」

「りりふねえたまぁ〜。もうたべれないでしゅぅ」

「・・・眠い・・・」

「ぴっけん・・・だめよそんな・・マサカリを振りかざしちゃ・・むにゃ・・」



 未だ寝ぼけている皆んなの肩を揺らして起こしていく。



「ほら、みんなっ。起きて起きてっ。みんなで初日の出を見よっ」

 周りには多数の兵士が寝ているので、小声で全員を起こしていく。



「ふわぁぁ。りりふっちぃ、おはよ」

「りりふさーん。おはようですぅ」

「やれやれ、りりふちゃん、おはよう」

「りりふねえたまぁ、ぶるにはまだねむいでしゅぅ」

「・・・おっぱいマクラ・・・」

「うーん・・・りりふ・・・私・・朝弱いのよ・・・勘弁して・・・」



 まだ寝ぼけている面々の背中をさすりながら、リリフは皆を促す。



「ほらほらっ。年に1回しかない初日の出ですよっ。初日の出を大勢の人と見ると幸せが訪れるって言われてるじゃないですかっ。みんなで見ようよっ、ねっ?ねっ?」



「ふわわわわぁ・・・りょーかい」

「わかりましたぁー・・・みましょー」

「お兄ちゃん、どこー?」

「・・・あと5分・・・」

「うううっ、寒い寒い。やれやれ、年には勝てないね」

「すぴー」

「聖女っち、寝ないの。起きて起きて」



 聖女周辺の人達はなんとか起き出したが、飲み比べ対決をしていた面々は顔色が悪い。

 完全に二日酔い、まだお酒が残っているような感じだった。



「セリー、大丈夫??」

「うう・・・りりふ・・・頭が痛いですわぁ・・・」

「隊長さん、お水どうぞっ」

「うむ・・・かたじけない・・・うぷっ」

「はーい。トール隊長ぉ。ナデナデ」

「く、クレム殿。そ、そんなに背中をさすられると・・・うえっぷっ」



 リリフは小走りにアーニャの所に駆け寄る。

 アーニャはキャサリンと同じ毛布で仲良く寝息をたてていた。

 しかし適性があるのか、責任感が違うのか、リリフが呼びかけると、2人ともあっさりと起きることが出来ている。



「アーニャ様ぁ。キャサリンさん。初日の出一緒に見ましょー」

「あ、リリフさん。もうそんな時間ですか」

「あら、すっかり寝ちゃったわね。リリフ、アーニャ、おはよう」

「はい。お祖母様、おはようございます」

「おはようございますっ。アーニャ様、キャサリンさん。あっちに集合でお願いしますっ」

「分かりました。いきましょう、お祖母様」


 キャサリンとアーニャは手を繋いで歩いていった。



 次にリリフはビレット達とロイヤー達を起こしに行く。

 昨晩はかなり盛り上がったようで、全員入り乱れて雑魚寝していた。



「ロイヤーさーん。ランドルップさーん。ミケルさーん。みんな起きてえぇ」

「ぐがあぁーー・・・ぐがー・・・」

「わしゃまだボケとらんぞぉぉ・・・」

「オレは起きてる・・・大丈夫だ・・・ぐー・・・」



「ビレットさーん。ブルーダさーん。レインさーん。クリムさーん。一緒に初日の出見ましょーよぉ」

「りりぴょーん、大胆だなぁ・・・ぐふっふ・・・」

「もう食えねーよぉ・・・」

「ルチぽん・・・綺麗だよ・・・ぐーぐー・・・」

「うう・・・やめろぉ・・・突っ込むなぁ・・・」



 全員、かなり寝ぼけていたが、再三のリリフの呼びかけで、なんとか起き出す。



「うっひょぉぉ!さっみぃぃ!」

「うううっ、ぶるぶるぶるっ!」

「わりい、俺オシッコ!」

「ワシも行こうかの」

「いえーい。連れション連れション!」

「りりぴょんも行こうぜっ!」


「い、行きませんよっ!」


「ぎゃははっ!ビレット、超セクハラァ!りりぴょんドン引きぃ!」

「いえーい!ビレット脱落ぅう!」

「うおっ!タンマ!取り消し!今の嘘だから!りりぴょん!」


「はいはい。それじゃあ聖女様のとこに集合でお願いしまーすっ」

「おっけーー」




 リリフは続いてダストン将軍の元に歩いて行く。

 流石というべきか、ダストン将軍もピッケンバーグも起きていた。

 おそらく聖女やアーニャを遠巻きに見守っていたのであろう。



 そしてブレーメン、グワンバラの旦那さんのボービットとグレービーも一緒になって起きていた。

 特にグレービーは欲望が満たされ満足したのか、いつもの騒々しい雰囲気はなく、一緒になって静かに酒を酌み交わしている。

 なのでこの5人からは、長年の旧友の集まりのような雰囲気さえ感じとることができた。



「ダストン将軍様っ。ピッケンバーグ様っ。ブレーメンさんにボービット父さんにグレービーさんっ。一緒に初日の出見ませんか?!」


「うむ。了解した。伺おう」

「分かりました、リリフさん。お知らせありがとうございます」

「了解だぜ、リリフの嬢ちゃん」

「向かおう・・・」

「全く。まな板ブスは大勢で何かするのが好きねえ。ふんっ、今回だけよっ」




「はーい。皆さん、お集まりありがとうございますっ。『恵みの池』の前で日の出を待ちたいと思いますので少し移動をお願いしまーすっ」


 リリフは聖女の元に集まった皆に声をかける。


「ういーす」

「おっけー」

「うー。寒いのぉ。こりゃ迎え酒が必要じゃな」

 皆、ゾロゾロと移動を始めた。



「リリフ姉様ぁ。お兄ちゃんがいないですぅ」

 ブルニがシュンっと耳を垂らしてリリフに話しかける。



「え?そうなの??どこ行ったんだろう・・・」



「さきほど、あちらで見たような・・・」

「えっ?!本当ですか??ロココさんっ、ありがとうございますっ!ブルニ、行ってみよっ」

「はいぃ。リリフ姉様ぁ」



 ロココに教えてもらった方向に走っていくと、リューイがまるでミイラのように毛布にグルグル巻きにされて、ポツンと横たわっていた。



「ちょっとリューイ!初日の出見るよっ!起きて起きて!」



 リリフは毛布の端っこを持つと、エイヤっと持ち上げる。

 コロコロと転がって地面に放り出されるリューイ。



「うう・・・」

 リューイは頭を押さえて、うめき声をだした。



「お兄ちゃんっ、お酒飲んじゃったのぉ??大丈夫ぅ?」

 ブルニが心配そうに兄の顔を覗き込む。



 妹の声に正気を取り戻したのか、ハッとリューイはブルニを見る。

 そしてキョロキョロと辺りを見渡した。



「大丈夫?リューイ・・・」

 流石にちょっと様子がおかしいので、リリフも心配そうに声をかける。



 リューイはブルニ、リリフの顔を順番に見つめ、そして自分の身体を確認した。

 見たところ服も装備もしっかりと身につけており、乱れなどはない。



 あれは幻だったのか・・・



 スキルの影響か、記憶は断片的で、動画よりも写真といったイメージ。

 そんなリューイの脳裏に刻まれているのが、暗闇の中、発情したメスの顔をして迫ってくるロココの顔だった。

 顔を紅潮させ、服を乱暴に脱がされ、ありとあらゆる場所をなめ回し、吸い付いてくるロココに恐怖すら感じていたのかもしれない。



 リューイはおそるおそる、襟元を伸ばして、服の中を覗き込んだ。

 そこには身体中に赤いアザ(キスマーク)が大量に刻まれていた。



「あれぇ?お兄ちゃんっ、首にアザがあるよぉ。虫に刺されちゃったぁ?」



 ブルニの言葉にビクッとしたリューイは、思わず両手で首元を隠す。



「大丈夫ぅ?かゆい??」

 心配そうな妹に、作り笑顔で返すリューイ。



「ああ、大丈夫だ。心配かけてすまない」

 リューイは不自然に首を両手で隠しながら立ち上がった。



「リリフね・・様。お待たせしました。行きましょう」

 リューイはなるべく悟られないように、リリフ達と距離を取りながら歩みを進めるのであった。





「あ、見てえ!初日の出だよお!」



 湖の湖畔でリリフは嬉しそうに指をさす。

 指差す方向、恵みの池から輝かしい朝日が顔を出していた。



 ほとんど風もない状態なので、湖は波だっておらず、朝日を鏡のように映し出している。



「うわぁぁ・・・綺麗ねぇ・・・」

「暖かーいっ」

「眩しいぃぃ」



 全身に朝日を浴びながら、皆、自然と笑顔になる。



「みんなっ、今日は本当にありがとうっ!こんな大勢と一緒に初日の出を見れて、今年はとても素晴らしい年になる予感がします。これからも沢山迷惑をかけちゃうかもしれないけど、どうぞ今年も宜しくお願いしますっ」

 


「こちらこそだよぉ、りりふっち」

「私もよろしくお願いしますっ」


「ピコルさんもクレムちゃんも今日はありがとうっ。とっても楽しかった!またギルドでも宜しくねっ」


「うんうんっ。リリフっち、いよいよ緑ランクを卒業して冒険者として本格的にスタートだねっ。黄色ランクはサラッとクリアするとして、まずは第一の関門、赤ランク!みんなここでつまずくんだよぉ」


「でもリリフさん達なら大丈夫っ。早くタウンチームになれることを期待してますっ」


「だめよクレムちゃん。私達の何気ない言葉一つでプレッシャーに感じる人もいるんだから。今のリリフっち達は土台を積み上げてる時期。着実に慎重にすることが何よりも大切なんだからね」


「うわーんっ!リリフさーん!ごめんなさーい!」


「あはは。大丈夫だよクレムちゃん。そしてピコルさん、ありがとう。ピコルさんの言う通り、私達は焦らずに一歩一歩進んでいこうと思う。これからもよろしくねっ」

「うんうん。また誘ってね」

「うわーん。リリフさーん。優しいよぉー」


「うえーい。俺らもサンキューなっ。ギルドの嬢ちゃん達」

「あー!銀ランクだー!イケメンの人達だぁ」

「先輩。私この人達苦手です、チャラいんで」


「うひょー。めっちゃ嫌われてんじゃんっ!」

「ぎゃははっ!」

「ダメよ、クレムちゃん。そういう事は小声で言いなさい」

「はいっ先輩」


「おお??なになに、クレムちゃんって言うん??俺クリム。一文字違いじゃーん。運命感じちゃわね?!仲良くしよーぜっ、クレムちゃん!」


「結構ですっ!」


「ぎゃははっ!即答きちゃー!」

「クリム超嫌われてんじゃん!」


「あははっ、クレムちゃん。ビレットさんも、ブルーダさんも、レインさんも、そしてクリムさんも、すっごい優しくて良い人達なんだよっ」


「そ、そうなんですか?」

「うんうんっ。確かに見た目はアレだけど・・・あははっ、でもすっごい尊敬できる人達なんだからっ。私が保証するわっ」


「うひょー!りりぴょんの甘々評価きちゃー」

「りりぴょん超真面目っ」

「そして素直だぜっ」

「正に女神っ!」

「リリフっちは、芯の通った素敵な女性なんだからっ。そこら辺の見た目だけの女と一緒にしないでよねっ!」

「リリフさんは私の憧れの人ですっ。いつか私もリリフさんみたいに周りを明るくできる人になりたいですっ」


「うわわっ!も、もう!や、やめてよぉぉ」


 リリフは皆の賞賛の嵐に耐えきれず、逃げるようにその場から離れる。

 そして遠巻きに聖女を見守っているピッケンバーグに声をかけた。



「ピッケンバーグ様。本日はありがとうございましたっ」

「いえいえ。こちらこそ聖女様のお相手をありがとうございます。リリフさん」

「そんな・・・ピッケンバーグ様、私はただ聖女様とお話ししたかっただけで・・・お礼を言われることなんてなにも・・・」


「いえいえ。それがありがたいのです。リリフさん達は聖女様に普通に接してくださる。それが聖女様の心をどれだけ軽くしているか。最近はどうも色々と悩まれているご様子。おそらく改革を推進している聖女様には様々な圧力がかかっているのでしょう。そんな時に気軽に相談できるリリフ殿達がいることで救われている面もあるかと思います。どうぞこれからも聖女様の一番の友達としてお支えください」


「は、はいっ・・・こちらこそよろしくお願いしますっ」


 悩みの原因はピッケンバーグ様なんだけどな・・・なんてことは言えず、言葉を飲み込むリリフ。

 そんなリリフにアーニャが声をかけてきた。



「リリフさん。今日はお誘いありがとうございました。本当に忘れられない日になりましたわ」


「アーニャ様。キャサリンさん。こちらこそですっ。今日はありがとうございましたっ」


「ふふふ。あたしも思いがけない展開だったけど、そのお陰で長年のトゲを抜くことができたわ。ありがとう、リリフ」


「あの・・・公表はするんですか?」


「まさか。そんな事したら、わざわざ貴族達に騒ぐキッカケを与えるだけじゃないかい。セントバリー国のメンツの事もあるし。あたしは今まで通り、自由に暮らさせてもらうよ」


「そっか〜・・・アーニャ様はそれで良いんです?」


「ええ。私としてはお祖母様がご存命であった。そして会う事が出来たという事実で十分です。今後はいつでも会いに行けますし。ふふふ。実は今度、お祖父様のお墓参りに一緒に行ってもらえる事になりました。お祖父様の驚く顔が目に浮かぶようですわ」


「ふんっ。ビシッと言ってやるよ。そうでもしないと化けて出てきそうだからね。ズルいぞぉ!キャサリーン!ワシも混ぜろー!ってね」

「あははははっ」


「それではお祖母様。またご連絡させて頂きますわ」

「ええ。アーニャ。ご機嫌よう」



 聖女の方面に歩いて行くアーニャと入れ違いで、今度はブレーメンが顔を出す。



「よう。初心者の嬢ちゃん。楽しかったぜい。ありがとな」

「いえいえっ!ブレーメンさん、荷車とかお酒とか毛布とか。沢山手配してくれてありがとうございましたっ!」

「おうよ。今後ともブレーメン商会を宜しくだぜ」

「はいっ、もちろん!」


「で?・・・姉ちゃん。アーニャ様と何かあったんか??」

「デトリアスのこと聞かれたよ」

「げげっ!それでえ?大丈夫だったのかよ?!」


「デトリアスの日記を読んだみたいでね。かなり詳細に知ってた。だから、とぼける暇もなかったわ」


「そーかいそーかい・・・まっ、良かったんじゃねーか?姉ちゃんにとっても・・・ビアンカちゃんにとってもさ」


「ふん・・・今度アーニャと一緒に墓参りに行くからね。あんたも準備しときな」

「げげげっ!マジかよ!?俺も行くのかよ?!」

「当たり前だろ。あたしの弟なんだから」

「うげー。俺ぁ堅苦しい場所苦手なんだよぉ・・・」

「あははっ!頑張ってくださいっ。ブレーメンさん!」


 リリフは笑いながらその場を離れ、グワンバラ夫妻、ルクリア、ラインリッヒの元に歩いて行く。




「母さん、父さん、ルクリアにラインリッヒ様。今日は本当にありがとうっ」


「ふん、かまやしないよ。良い息抜きになったさね」

「ああ、久しぶりに友人と飲めたしな・・」

「・・・沢山勉強できちゃった・・・」

「ええ。自分も楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます」


「ルクリア、今日の歌はホント最高だったよっ!なんかこう・・・力強さってのが感じられた!」

「ああ、あたしもそう思ったわさ。だいぶ慣れてきたって感じなのかい?」


「・・・んと・・・今日は・・ラインリッヒ様が・・・色々教えてくれて・・・先が見えてきたっていうか・・・前向きな気持ちで歌えたから・・良かったのかも・・・」


「へえぇ。流石ラインリッヒ様」

「いえいえ。自分なんて何もしてません。ルクリアさんの気持ちの強さが出たのではないかと」

「それを引き出したのはアンタじゃないのかい?こりゃ、あのテキトー冒険者から乗り換えるしかないね」

「そうだな・・・娘を頼む」


「・・・!・・・」

「い、いえっ。じ、自分はそんな・・・」


 グワンバラ夫妻の言葉に初々しい反応をみせる2人。

 ルクリアなんか顔を真っ赤にして照れている。

 可愛いすぎて、思わずギュッと抱きしめたい衝動にかられながらも、リリフはお開きの準備を進めるべく、聖女の元に歩みを進めるのであった。




「聖女様。そろそろお開きにしようと思うので、シメの挨拶をお願いしますっ」

「何言ってんのよ、リリフ。これからアーニャの屋敷で二次会をするわよ!付いてきなさい!」

「ええええっ?!こ、これからですか?!お疲れじゃないんですかっ?!聖女様!」

「なんかさっきちょっと寝たら元気になったわ。せっかく皆んな集まってるんだから、もっともっと話したいわ!」



 聖女はまるで修学旅行の夜に寝るのはもったいない!という学生のように、テンションアゲアゲな覚醒モードのようだ。

 そんな聖女にロココが冷静に言葉をかける。



「聖女様。そろそろ出立致しませんと、5日後の会談に間に合いません。今回はスーフェリアからの使節団ですので、会談をすっぽかしたりすると非常に大きな外交問題に発展する可能性がございます。お気持ちは分かりますが、どうか自重してくださいませ」


「んもー!なんで新年早々に来るのよ?!私に対する当てつけ?!絶対にそうよね!これだから大国は嫌いなのよ!」



 聖女は口をとんがらせて怒るが、しばらくすると、ふ〜っと観念したようにため息をつく。



「あ〜あ。ま、しょうがないわよね。仕事もちゃんとやるってアーニャとも約束しちゃったし。仕方ないか」


 そう言うと、クルッと兵士達に向き直る。



「さあさあっ!宴会は終わり!後片付けをして、それから聖都に帰るわよ!全員準備しなさい!」



 聖女はパンパンと手を叩きながら、兵士達に指示を出す。

 一斉に聖都兵達は各々片付けに入った。



「あ、聖女様。片付けはガタリヤ兵が行いますので、聖女様はどうぞこのままご出立ください」

「何言ってんのよ、アーニャ。アンタの兵、ちょっとしかいないじゃない。流石にこの量は大変よ」


「お気遣いありがとうございます、聖女様。ですがご安心ください。先程連絡を取りましたので、もうじきガタリヤ兵が応援に駆けつける手筈となっております」

「あらそう」


「聖女様も聖都兵の皆さんもお疲れでしょう。ゆっくりと休憩を取りながらお帰り頂くためにも、早めにご出立された方が良いかと存じます。ここはガタリヤにお任せください」


「そう、分かったわ。それじゃあ、後は任せるわね。アーニャ、また会いましょう」

「はい、聖女様。道中お気をつけてお帰りください」


「リリフ、今日は楽しかったわ、ありがとう」

「こちらこそですっ。来てくれてありがとうございましたっ!」


「ブルニもルチアーニも・・・セリーは寝ちゃってるわね。貴方達もありがとう」

「聖女様、体調に気をつけるんだよ」

「聖女様っ。また来てくださいねぇ!」


 聖女はピョンピョンとしているブルニの頭を優しく撫でながら

「あとグワンバラ、そしてピコルとクレム。色々とありがとう。沢山お話しできて楽しかったわ」


「こちらこそだよ・・です。聖女様」

「聖女っち。また恋バナしよーねっ」

「聖女様!パパにしっかり伝えます!結果が出たらお知らせしますね!」


「あと・・・貴方がルクリアね。リリフの親友なんですってね。あまりお話しできなかったけど、貴方の歌は素晴らしいわ。また聞かせて頂戴」


「・・・うん・・・」

 恥ずかしそうにリリフの後ろに隠れるルクリア。


「さ・て・と・・・それじゃあアーニャに甘えて私達は行くとするわね」



「あ〜・・・ちょ、ちょちょちょぉぉと・・・待ってくれたりしてぇ・・・」

 去ろうとした聖女を呼び止めたのはビレット。かなり遠慮ぎみに声をかける。



「ん?なに、平民。貴方は・・・リリフの従者ね」


 聖女からすると、一番最初、荷物番をしていたビレット達と接した時以来、全く接点が無い。

 その時も『リリフの宴会の場所はここでいいのかしら?』『うっす』『そう。では待たせてもらうわ』『うっす』といった会話しかしてない。

 なので聖女はビレット達の事を、リリフが呼んだパシリか何かだろうと思っていたのだ。



「あ〜・・・えっと・・・なんつーか・・・ぬおぉ・・りりぴょん!助けてくれ!」

「あああ!ど、どーしたんですか?!ビレットさん!?」

「ほら、あの件・・・ギルドのヤツを言ってくんねーかな?」


「あああ!そっか!そっか!えっと、聖女様っ!こちら銀ランクのビレットさんです!今は私達と一緒に行動してくれてて、とっても頼りになる冒険者さんなんです!」


「あら、そうなの?てっきりリリフの従者かと思ってたわ。ごめんなさいね」

「あぁあんん、い、いや別に・・・大丈夫っす・・・」



 かなり歯切れが悪いビレット。

 やはり長年聖都に所属していただけあって『聖女に関わるのはマジヤベー』とり込まれているようだ。



「それでですね、聖女様。ビレットさん達は聖都からガタリヤに所属変更を希望してくれてるんですけど、聖都のギルドの許可が降りないみたいなんです。だからなんとかして欲しいなぁ〜って思ってるんですけど、何とかならないですかね」


「ああ、その件ね。アーニャから聞いているわ。ごめんなさい。この宴会に参加する事で頭がいっぱいで、すっかり忘れていたわ」


「い、いえっ」


「確か聖都所属の冒険者が少ないって事が理由だったわよね。こういう事はルゾッホに任せてたから、正直よく分らないんだけど、聖都ギルドの言い分も分かる気がするわ。やはり聖都にある程度、強めの冒険者がいないと困るって理由は理解できるもの」


「そ、そうですか・・・」


「でもやっぱりガタリヤは序列1位だものね。下位の者は従わなくてはならないわ。そこでどうかしら?特別に両方に所属できるようにするからたまに聖都の仕事を請け負ってもらえないかしら。そうすれば聖都ギルドとしては、かなり助かるのだけれども」


「え?!りょ、両方ですか?!」


「ええ。両方っていっても基本的にガタリヤで活動してもらって構わないわ。聖都の仕事はちょっと普通の冒険者では手に負えないクエストの時だけ手伝って貰えればいいから。その代わり、聖都のクエストもガタリヤのクエストも税金は免除するし、ガタリヤに特別クエストの依頼も増やすことにするわ。どうかしら?」


「わあっ!結構良くないですか?!ビレットさんっ!」

「お、おう・・・そ、それで頼んますっす・・・」


「そう。分かったわ・・・・ロココ」

「はい、聖女様」

「ギルド長に今の件を伝えてくれるかしら。特例として私が認めたって」

「かしこまりました。聖女様」


「ありがとうございますっ、聖女様っ」

「いいのよ、リリフ。それと・・・『例の件』は今調査中なの。何か分かったら知らせるから少し待ってくれるかしら」


 聖女は少し真面目な顔になる。

 ラルッパの森で発見した『異形の指』の事を言っているのであろう。


「は、はいっ!もちろんですっ」


「それじゃあ今度こそ行くわ。みんな、今度は聖都に遊びに来て頂戴。いいわね?」


『はいっ!』


 聖女は穏やかな笑みを浮かべると、クルッと反転してピッケンバーグの待つ馬車へ歩みを進め、聖都へと帰還していった。





 聖都軍が去って、かなり静かになった恵みの池周辺。

 リリフ達も談笑しながら後片付けに入る。



「セリー姉様ぁ。大丈夫ですぅ?」

「ううう・・・気持ち悪いですわぁ・・・」

「あはは。セリー、こっちは大変だったんだからね、まったくもう」

「セリー姉様、暴れてましたぁ」

「全く記憶がないですわぁ・・・」

「結局セリーの飲み比べ対決はどうなったの??」

「それも覚えてないですわぁ・・・」

「うふふ。セリーっち達、同時に飲み潰れちゃったんだよぉ。だから引き分けぇ」



「らいんりっぃひぃさまぁ!もぉ〜しわけござ〜いませぇ〜んん」

 ラインリッヒの護衛隊長さんは呂律の回らない口調で精一杯謝っている。



「いえいえ。楽しむように命じたのは私ですから。むしろ感謝しています。いつも私の言葉に全力で応えてくださり、ありがとうございます。今後も宜しくお願いしますね」




「ぬおぉおぉ!!らいんりっひ様あぁぁ!!」




「大丈夫ですか?トール隊長」

「はっ!自分はぁ!ぜんっぜん~!大丈夫で~ありますっ!あ~にゃ様っ!」



 敬礼で答えるトール隊長だったが、かなりふらついている。



「今日はもう警護はよいので、ゆっくりと身体を休めてください」

 アーニャはトール隊長を支えながら気遣いの言葉をかける。



「はっ!クンクン・・あ~にゃ様っ!クンクン・・・お気遣いぃ・・・クンクン・・・ありがとぉ~ございますでありますっ!・・・クンクン」

 


 普段ならバレないように、コッソリと嗅いでいるようだが、酔っているせいか明らかに鼻がヒクヒクしている。

 アーニャは眉をピクピクさせながらも、優しくトール隊長を介護していた。



「随分と楽しそうだな、トール。我は嬉しいぞ」



 真後ろから声をかけてきたのはダストン将軍。

 腕を組んで仁王立ちしている姿は、とても喜んでいるようには見えない。

 効果音を付けるなら『ズゴゴゴゴゴ・・・』といった感じだ。



「ひゃっ!ひゃいっ!じゃすとん将軍っ!申し訳ごじゃいませんっ!」

「なぜ謝るのだ、トール。我は喜んでおるのだぞ?」

「は、ひゃいっ!自分も嬉しいでありましゅっ!」

「そうかそうか。それは何よりだな、トールよ」



 ダストン将軍はトール隊長の肩を揉みながら笑顔で会話する。

 どんどんとトール隊長の顔が青ざめていくのが目に見えてわかる状況だ。



 上の立場の人がこのような対応をすると、パワハラで訴えられる可能性があるので皆さんは注意してほしい。



 しかしながら、国の至宝たるダストン将軍を訴えることなど出来るはずもなく、トール隊長はふらつきながらも必死にアーニャから離れていった。



「ダストン将軍。大目に見てあげてください。彼はいつも私を気遣ってくれてますので」

 アーニャは苦笑いを浮かべながら、ダストン将軍を諫める。



「はっ。寛大なご対応、感謝致します・・・アーニャ様、なにやら良いことでもおありでしたかな?」

「ふふふ。流石ダストン将軍、バレてしまいましたか。実はお祖父様の件でお話したいことがあるのです。爺やと一緒に聞いて欲しいので屋敷に帰ったら少し時間をもらえないでしょうか」

「ほお。デトリアス様の件ですか。かしこまりました、アーニャ様」



 少し表情を緩めたダストン将軍の視線の先には、多数のガタリヤ兵達が列をなして向かって来ていた。

 荷車なども多数牽引してきており、片付けなどもはかどりそうだ。



 アーニャが指示を出して、次々と食材の残りやテーブル、バーベキュー台などが荷車に積み込まれていく。



「あのぉ~・・・アーニャ様ぁ・・・」

 遠慮がちに声をかけてきたのはブルニ。

 視線の先には荷車にドンドンと放り込まれている食べ残しがあるようだ。



「どうしました?ブルニちゃん」



「えっと・・・あのぉ・・・アーニャ様ぁ。あの食材ってどうなっちゃうんですぅ?」



「食材?ああ、あの食べ残しの事ですね。あれはですね、家畜のエサや畑の肥料などに使われる予定です。けっして無駄にはしないので安心してください」



「んとぉ・・・えっとぉ・・・」

「???」



「あのぉ・・・アーニャ様ぁ。あの食材を獣人さんにあげることは出来ますかぁ?」



「え??あれを・・・ですか?・・・」

 アーニャは少し驚いた表情をみせる。



 それもそのはず。

 食材は、乱雑に様々なモノが投げ込まれているだけなのでグチャグチャな状態。

 とても人が食べる物には見えなかったからだ。



「えっと・・・ブルニちゃん。これは流石に食べられないのではないでしょうか?・・・」

「そんなことないですぅ。アーニャ様ぁ。獣人さんにとっては、これはものすごいご馳走なんですよぉ」



「そ、そうでしたか・・・ごめんなさい、ブルニちゃん。私はまだまだ獣人達の生活のことを知らないことが多いみたいですね」

 アーニャは屈み込み、ブルニに視線を合わせて頭を撫でる。



「そ、そんなことないですっ、アーニャ様ぁ。アーニャ様が獣人さんの配給を見直してくれたので、みんなとても喜んでましたぁ。ありがとうですぅ」



 実はブルニは度々、難民キャンプ、特にあの半獣の子供達の元に足を運んでいた。

 それはマンハッタンがいなくなった事により、理不尽に捕まる可能性が低くなった事、リリフ達に迷惑をかける危険性が低くなった事が影響していたが、なにより子供達の事が心配だった事が大きい。



 そしてマンハッタン亡き後、配給はどうなったかというと、管理が貴族から警備局に移行され、人獣と同じように獣人達にも1人1人食事が与えられるようになったのだ。

 それによって飢えに苦しむ者は劇的に減り、獣人達の生活環境が格段に改善したので、ブルニはアーニャにお礼を言ったのだった。



 とはいえ、元締めが差別と暴力により獣人達を支配していたり、いつモンスターに襲われるか分からない状況は変わっていないので、まだまだ獣人達が安心して暮らせるといったブルニの理想の世界への道のりは道半ばといった感じだ。



「ありがとう、ブルニちゃん。良かったら今度、難民キャンプの事を教えてもらえるかしら?この街の食料事情を土台で支えてくれてる皆さんの事をもっと知るべきだと。そしてもっと感謝するべきだと思ってるの。少しでも待遇が改善されるように頑張ってみるわ」



「わあぁ。本当ですかぁ、アーニャ様ぁ」



「ええ。今までは政府が、そして領主が、難民キャンプに関わることはタブーとされていたけど、それも変えていかなくちゃね。だって聖女様が貴族制度を廃止して、仕組みを根幹から変えようと努力なさってるのに、私がなにもしない訳にはいかないもの。このガタリヤの街が全ての見本となるようにならないと」



「わーい。ありがとうですぅ、アーニャ様ぁ」



 ブルニはぺこりとお辞儀をすると、嬉しそうにリリフ達の元に走って行った。



「リリフ姉様ぁ」

 ブルニはニコニコな笑顔でリリフに抱きつく。



「どうしたの?ブルニ」

「えへへっ。えっとぉ、アーニャ様が獣人さん達の生活を良くしようと考えてくれてるんですぅ。ブルニ、とっても嬉しいですっ」

「へえぇ。そーなんだ?」

「はいっ。聖女様が頑張ってるからガタリヤも見本にならなきゃって言ってましたぁ」



「そっかぁ。聖女様もアーニャ様も頑張ってるんだなあ。私ももっともっと成長しないと・・・ねえっ!ねえっ!皆んな聞いて!私から提案があるんだけど!」



「なんじゃい?どーしたんじゃ、リリフちゃん」

「もちのろん!りりぴょんの言葉は一字一句逃さねーぜ!」

「正座待機!」



「あははっ。ありがとうございます!それじゃあ、ちょっと私からの提案を伝えさせてもらいますっ。ほら、セリー。起きて起きて」

「ううう・・・気持ち悪いですわぁ・・・」



「まったくもうっ・・・それじゃあ伝えるねっ。あ、提案って言っても別に強制じゃないから。私の希望っていうか・・・出来ればみんなと一緒にやりたいんだけど・・・どんどん意見も言ってもらってかまわないし・・・なんていうか・・・」



「オッケーオッケー!分かってるって!」

「ぎゃははっ!りりぴょん、気にしすぎだっつーの!」

「大丈夫じゃ。安心せい」



「えへへ。ごめんごめん。えっと、まず報告っていうか。ルチアーニさん達は知ってるんだけど、一つ決まったことがあるので伝えるね。まだ日程は決まってないんだけど、今度ダストン将軍様が私達に稽古を付けてくれることになりましたっ」



「へ?・・・」

「だすとん将軍様ってぇ、あのゴリラさんみたいな人ですかぁ?」



「あははっ、そうそう。その人だよっ」



「ふえぇんん。怖いよぉ、お兄ちゃぁん」

「り、りりふねぇ様。な、なんでそんな事に?・・・」



「あはは。えっとね、なんかルチアーニさん達がお知り合いだったみたいで。それで兵士さん達の教育を依頼されてたの。それでね、交換条件っていうか。その代わりダストン将軍様が私達を見てくれるって話になったんだぁ」



「うひょー。すげーじゃん、りりぴょん」

「あのダストン将軍ってのはヤベーぞ。実力は虹ランクに匹敵するんじゃね?」

「だな、だな。おっかねー」

「俺だったら逃げるね、絶対」



「がっはっは。大丈夫じゃ大丈夫じゃ。あれで結構人情厚いヤツじゃからの」

「うむ。良い経験になるじゃろ」

「だが、遺書は書いておけ」



「それでねっ。これからは私の希望なんだけど・・・ビレットさん!ブルーダさん!レインさん!クリムさん!」

「うおっ?!なんだ急に!」

「唐突の告白タイム?!」

「待ってくれ!心の準備が!」

「お前ら、落ち着け」




「あの・・・私達に戦い方を教えてくれませんか?!私、もっともっと強くなりたいんですっ!」




 リリフの決意ある瞳。

 ビレット達はお互いに顔を見合わせてニヤッと笑う。



「おっけえぇぇー!まっかせとけー!」

「うおぉぉ!燃えてきたぁ!」

「今から俺のことは鬼教官と呼べぇ!」

「任しときな、りりぴょん」



「やった!ありがとうございますっ!とっても嬉しいですっ!ブルニっ、リューイっ、ダストン将軍様と訓練する前に、しっかりとビレットさん達から基本を学ぼっ」

「は、はいいっ。リリフ姉様っ」

「わ、分かりました。がんばります」



「うんうん。まずは2人ともランクを・・・・・あああああぁあぁっ!!ブルニ!リューイ!おめでとう!!2人とも黄色ランクだよっ!黄色ランクになってるよっ!」



「えええっ?!ほ、本当ですかぁっ?!」

「うわわっ!ホントだ!ブルニ!黄色ランクになってるぞ!」

「あわわっ!お兄ちゃんも黄色ランクになってるよぉ!」

「うひょー!こりゃめでたいな!」

「うむうむ!遂に4人とも黄色ランクか!」

「流石だ、ブルニ」

「やったな!2人とも!」

「うおおぉ!ランクアップきちゃー!」

「テンションアゲアゲェ!」

「おめっとさん!ブルッチ!リュイリュイ!」



「うわーんっ!リリフ姉様ぁ!嬉しいですぅ!うわーんっ!」

 リリフにギュッと抱きつくブルニを囲み、皆で祝い合う。



「うおおお!燃えてきたぁ!燃えてきたぜえぇ!」

「おっしゃあ!早速明日からビシバシ行くぜえぇ!」

「何言ってんだ?!今日からだ!このまま特訓に突入だぜぇ!」



「えええ?!今からですか?!セリーが酔い潰れてるので、それはちょっと・・・」



「ははは。大丈夫だせ、りりぴょん。コイツらも酔ってるから。今日はしっかり休んで、明日あたりにどんな風にやるか話し合いで決めよか?色々準備も必要そうだしな」



「はいっ!分かりましたっ、クリムさん!ありがとうございます!」



「テメー!クリム!さっきからなに自分は違うみたいな雰囲気だしてんだ?!」

「抜け駆けは許さねーぞ!」

「うるせー!俺はこれから静かにりりぴょんと接するって決めたんだ!」

「ふざけんなぁー!じゃあ俺も黙るから!寡黙だから!」

「バカヤロー!だったら俺も一言も喋んねーぞ!話しかけんな!」

「お前らが黙ったら俺の存在が霞むだろーが!せいぜい俺を引き立てろ!」

「なにをー!」

「ふ。りりぴょん。相手にしなくていいからね」



『テメー!ブルーダ!どさくさに紛れて美味しいとこ持ってってんじゃねーぞ!』



「あはははっ!」

 ビレット達の漫才に大笑いのリリフ達。

 そのまま帰り支度を済ませ、馬車に向かう。



「それじゃあ、皆んな!お先にどうぞ!今日はありがとう!また今年もよろしくね!」



「ああ。それじゃあ、先に行ってるよ」

「・・・食堂で待ってる・・・」

「リリフっちー!またギルドでねー!」

「リリフさーん!ありがとー!」

「嬢ちゃん!ありがとな!」

「楽しかったわ、リリフ」

「どうして誰も襲ってこないの?!美しすぎるって損ね!」



 リリフは先にグワンバラ夫妻、ルクリア、ピコルとクレム、ブレーメンとキャサリン、グレービーを乗せて馬車を出発させた。



「リリフ姉様ぁ。なにかするんですかぁ?」

「ううん。一応私達が主催じゃない?だから最後まで残ってしっかり後片付けしようかなって。兵士さん達が全部やってくれちゃってるから私達はやる事ないけど、念のためね」

「ふわぁ、流石リリフ姉様ですっ」



「それじゃあ皆さん。お疲れの所悪いですが、各チーム毎に一回り確認をお願いできますか?結界石の取り出しや落とし物の確認を重点的にお願いしますっ」



「あいよー」

「おっしゃぁ、やるかー」

「リリフ姉様ぁ。セリー姉様はどーしますかぁ」

「あはは。このまま寝させておいてあげよ。ブルニ、リューイ。モンスターに注意しながら行こうね」

「はいっ、リリフ姉様っ」



 そうして確認作業も終わり、帰路の準備を進めるリリフ達。

 先にアーニャの部隊を見送るようだ。



「ではリリフさん。本日は本当にありがとうございました。今年も色々とお手伝いをお願いすることもあると思います。どうぞよろしくお願いします」



「はいっ!こちらこそですっ、アーニャ様」

「アーニャ様ぁ。バイバーイ!」



 アーニャは少し恥ずかしそうに手を振り、笑顔で馬車に乗り込もうとする。

 が・・・なにやらルイーダがアーニャに話しかけた。

 するとアーニャはピタッと立ち止まり、慌ててリリフ達の元に戻っていった。



「あああぁ!ごめんなさい!忘れてました!」

「あ、アーニャ様?!ど、どうかなさいましたか?!」



「リリフさん、そしてルチアーニさん。皆さんに報酬をお支払いさせてくださいっ」

「報酬??」



「ええ。前回の聖女巡礼。その際に皆さんには大変お世話になりました。あれは私からの皆さんへの依頼なので、その報酬です」

「えええっ?!そんな!貰えないですよ!大したことしてないし!逆に迷惑もいっぱいかけちゃったし!」



「とんでもないです。皆さんがいなかったらどうなっていたか・・・私は領主交代になっていた可能性もありますし、ルーン国自体が滅んでいた可能性すらあります。本当に感謝してもしきれません」



「で、でも・・・」

「リリフちゃんや。あまり遠慮するのもよくないわよ。私達は冒険者なんだから。いつも命を危険に晒している仕事だからこそ、ボランティアはせずに、小さな仕事でさえもしっかりと報酬は貰うべき。もし、リリフちゃんみたいに無報酬や低報酬で良いって冒険者が増えたらどうなると思う?」



「そ、そっか。そしたら他の冒険者さん達が迷惑しちゃう」



「その通りよ。なんだ、この前の冒険者はタダでやってくれたのにお前は金を取るのかよ・・・なんて言われたら悲しいじゃない。冒険者が軽く見られ、命に見合う報酬を受け取れなくなったら冒険者人口もドンドン減っていくでしょう。そしたら本当に冒険者を必要としてくれてる人達を守ることも出来なくなるわ。だからこそ私達はしっかりと報酬は貰うべきなの。『冒険者は報酬を貰ってナンボ』って言葉は、他の冒険者を守る意味もあるのよ」



「そっかぁ。分かりましたっ!アーニャ様っ、有り難く頂戴します!ありがとうございます!」



「いえいえ。お渡しするのが、大変遅くなってしまい申し訳ございませんでした。では、魔法通貨でルイーダからお渡しします。リーダーの方にまとめてが良いですか?お一人お一人が良いでしょうか?」



「あ、じゃあ、一人一人でお願いしますっ」

「分かりました。ではルイーダ、お願い」

「かしこまりました、アーニャ様」



 リリフの前に立ち、魔法通貨の魔力を込めるルイーダ。

 その直後、リリフの悲鳴が平原に響き渡る。




「ぎょえええぇぇえぇぇ!!」




「ど、どうしたんですぅ?!リリフ姉様っ?!」

「あ、あわわわわ・・・」



 リリフは言葉が出てこないらしく、口をパクパクさせている。

 不思議そうなブルニだったが、ルイーダから魔法通貨を渡され、同じように慌てふためく。



「はわわわわああっ!!」

「ど、どうした?!ブルニ・・・うわわわわっ!!?!」



 ルイーダは手際良く、ドンドンと魔法通貨を振り込んでいく。

 それにならって悲鳴や歓声を上げる面々。



「あらまあ!」

「うひょー!」

「こんな額は久しぶりじゃな!」

「ふん・・・当然・・・だ・・・」



「なになに?いくらだったん?りりぴょん」



「ひゃ、ひゃひゃひゃひゃ・・・」

 文字にすると不気味な笑い声のように見えるが、どちらかというと、ひゃっくりのような感じで口をパクパクするリリフ。

 意を決して大声を張り上げる。




「ひゃ、100万グルドおぉおおぉ!?!?」




「すごいよぉ、お兄ちゃぁん」

「ぜ、ゼロの数が・・・ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」

「全員に100万とは豪勢じゃのぉ」



「アーニャ様。セリーさんの分はいかが致しましょう?」

「そうですね。とりあえず、そこで大声を上げている方にお渡ししてください」

「かしこまりました」




「に、ににに200万グルドおぉおおぉぉ?!?!」




「やったな、りりぴょん」

「おめっとさん」

「大切に使うんだぜ」



「あ、ああああアーニャ様っ!こ、こんなに頂いて良いんですか?!」



「もちろんです。正直、皆さんの働きぶりを考えると100万では足りないと思ってます。少なくて申し訳ございません」

「そんな!?ぜんっぜん少なくなんてないです!めっちゃ多いです!」



「うえーい。りりぴょん。銀ランクくらいになるとチラホラと100万超えの依頼もあるんだぜぇ。今から慣れとかなきゃだな」



「えええっ?!そ、そーなんですか?!」



「だねだね。やっぱ高ランクになるとガラッと変わるよね」

「んだねー。一般に公開されてないクエストも多いし」

「そうじゃなぁ。ワシらもタウンチームの時は少しばかり有ったのぉ」

「んじゃ。懐かしいわい」



「へえぇ・・・」



「りりぴょん。銀ランククラスになると月平均100万は当たり前になってくるんだぜい。チームの規模にもよるが、やる気があるPTに所属してると、年収3000万超えてますってヤツも結構いたりするしな」



「ひえぇ・・・」



「ちなみに俺らはちげーから。そんなやる気ねーからっ」

「ぎゃははっ!強調するとこそこかよっ!」



「あははっ。でもやっぱり凄いんですねっ。高ランクの冒険者さんって。別世界だぁ」



「あらやだ。ダメよ、リリフちゃん。他人事みたいに言っちゃ。リリフちゃんもいずれタウンチームになるんだから。ちゃんとイメージしとかなきゃ」



「そーだぜ、りりぴょん。『あの人達は凄いなぁ』なんて思ってたら一生追いつけねー。『私もなるんだ!』って夢を目標に変えてこそ到達できるってもんだぜっ!」



「うおっ?!ビレット?!どーした?!お前、酒飲んでる方が良いこと言うんじゃね?!」

「バカヤロー!俺はいつだって良いこと言うんだよ!歩く国語辞典なんだよ!」

「ぎゃははっ!国語辞典は違うだろ!」

「やっぱ普段のビレットだわ!」



「あははっ。でもそうですね!私達はタウンチームを目指してるんだからっ。今はまだ未熟でも、しっかりと一歩一歩進んでいければ良いんだしっ。心構えを今から持つことは大切な事ですよねっ!それに・・・あの『指』の時もデーモンの時も、みんなビレットさん達に頼りッぱなしだったし。今度は私達で対応できるようにならなきゃ・・・ううんっ、なるんだっ!ガタリヤを代表するチームになるんだっ!よおおぉぉおぉぉししし!頑張るぞおおぉぉ!エイッエイッオー!」



 リリフは力強く拳を振り上げる。

 それを見て、ブルニも嬉しそうにマネをする。



「エイッエイッオー!」

「えいっ、えいっ、おー!」



「ガタリヤを代表するチームになるぞぉぉ!エイッエイッオー!」

「えいっ、えいっ、おぉー!」



「さあ、リューイも!エイッエイッオー!」

「え、えい・・えい・・おー・・」

「もっと元気に!エイッエイッオー!」

「え、エイ!エイ!オー!」



「あははっ!さあっ、ルチアーニさん達も!エイッエイッオー!」

「うふふ。良いじゃない。えいえいおー!」

「がははっ!えい!えい!おー!じゃな!」

「エイッエイッオー!じゃ!」

「オー・・・だ」



「さあっ、ビレットさん達も!エイッエイッオー!」

「うおおお!エイ!エイ!オー!だぜ!」

「みんなでやれば恥ずかしくねーぜ!エイッエイッオー!」

「りり!・ぴょん!・神!・だぜ!」

「くそー。ここはキャラを戻して騒ぐか!エイッエイッオー!」



「さあっさあっ!アーニャ様も!エイッエイッオー!」

「えええ?!わ、私もですか!」

「さんはい!エイッエイッオー!」

「え、えい・・・えい・・おー・・・」

「アーニャ様ぁ。声が小さいですぅ」

「アニャニャン!もっと声出していこーぜ!」

「ああん!もう!分かりました!エイッ!エイッ!オォー!」



「さあっ!ダストン将軍様も!ラインリッヒ様も!」



「う、うむ。えいえいおーだな」

「エイエイオーですね」

「ぶえいっ!びぇうぇい!おぉぉおぉー!でぇあります!」

「ぬおおぉ!エイ!エイ!ラインリッヒ様あぁ!!」



「さあっ!セリーも!エイッエイッオー!だよ!」

「ほえ?なんですの?なんですの??」

「セリー姉様ぁっ。えいっえいっおーですぅ!」

「えい・・えい・・・うぷっ・・・」



 恵みの池周辺で、大きなかけ声が響き渡る。

 兵士達も加わり、その声はガタリヤの街までこだましていた。

 最初は恥ずかしがっていた者も、段々と元気に笑顔で拳を振り上げている。


 今年はとても良い年になりそうだ。

 そんな予感を感じずにはいられないガタリヤ一行であった。


  続く





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ