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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ⑦

 だが、それがかえって人間種とエルフとの間に壁を作る結果となり、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、人々はエルフと関わろうとしなくなった。


 なので村人や兵士の反応が悪かったというわけなのだ。





「はい。ぼーけんしゃさま、どーぞ」

「ありがと」

 ミールは女の子達が出してくれた、可愛いカップに注がれた麦茶で喉を潤す。



「状況は分かったけど、そのハーフエルフは何故森に入ったんだい?ベヒーモスが出ているのは当然知っているよな?幾ら腕に覚えがあるとはいえ、1人でベヒーモスを相手にするのは無謀すぎると思うけど」



「ええ、実は・・・彼女の母親。つまりエルフが半月前にお亡くなりになりまして」

「え?・・・ハーフエルフって女なのか?」

「え?・・・あ、はい。そうですが?」

「あ、そうなんだ・・・えっと。ごめんなさい。続きをどうぞ」



「それでですね。何を思ったのか、母親を元の里に帰してあげたいっと言ってきまして・・・もう埋葬は済んでいるのですが、何やら形見のネックレスに魂が宿ってるとかなんとか。しかし魂がドンドンと薄くなってきているとのことでして。ベヒーモスが出現しているので危ないからと止めたのですが・・・今じゃなきゃダメなんだと行ってしまったのです」


「なるほど。てことはこの森にはエルフが住んでるってことなんだな?」


「いえ、何も確証はないのですが・・・彼女の母親も一切口外しなかったので。ですが状況からして、この森の何処かに里がある可能性は高いかと」


「ふーむ」

 ミールは腕を組んで考える。

 そんなミールに子供達は必死に訴えかけた。



「お願いっ!お兄ちゃん!お姉ちゃんを助けて!」

「お姉ちゃんはいつも優しくしてくれるの!」

「内緒でお菓子をくれたりするのっ」

「きっと今頃泣いてるよぉ」

「うえーん。可哀想だよぉ。うえーん」


「あのね!ぼーけんしゃさんに頼むにはお金が必要なんだよね?!これあげる!僕の宝物!」

 子供は傷だらけのビー玉をミールに渡す。


「あっ!それじゃあ僕もこれあげる!」

「私も!」

「これ持ってって!」



 子供達は次々とミールに自分達の宝物を渡した。

 当然ながら、全く価値の無いガラクタばかりだが、ミールにはそれがとても輝いているように見えた。



 ミールは優しく子供達の頭を撫でる。

「おっけ。それじゃあ契約成立だな。お兄ちゃんに任せな」


「ホントにぃ?!」

 目を輝かせる子供達。


「ああ、そのかわり、これは貰っていくからな」

「うんっ!」

 ミールは貰った宝物をポッケに入れる。



「し、しかし冒険者様・・・ここの森は危ういですぞ」

 当然ながら園長は思いっきり心配する。



「ええ。僕は戦うのは苦手ですが、敵に見つからないようにコソコソと移動するのは得意なんですよ。なのでグルッと森を一回りしてきます。敵が出たら逃げますので安心してください」

「そ、そうですか・・・分かりました。何卒宜しくお願いします」


 そうしてミールは、兵士達が多く待機している正面入り口を避けて、裏手側から森に入って行くのであった。





 ミールが入っていったクオーツの森林は、木々が複雑に絡み合った、比較的足場の悪い森だ。



 至る所で、樹齢何百年の大木が倒れて朽ちており、その上から新しい新芽が顔を出す。

 大小様々な木々や岩が乱立しており、見通しは良いが歩くのには苦労しそうな道中だった。


 木々の隙間からはオレンジや紫、ピンク色など様々な花が顔を出しており、植物の多様性も多い森のようだ。


 しかし、ドラゴン討伐で通り抜けたザザの村近くの森のように、雑草がはびこり行く手を遮る感じではない。



 小さな小川や池が多々見受けられ、コケに覆われた木々や岩などは神秘的な雰囲気を醸し出していた。





 まるでここは神々の森であるかのように・・・





 ミールは、そんな森の中をドーラメルク産の結界石を発動させながら歩いて行く。



 モンスター対策のみだったらルーン国産結界石で十分だが、念のため。

 ベヒーモスの討伐隊は撤退したと言っていたが、もしかしたら、手柄に目がくらんだ冒険者や兵士が森に入っているかもしれないからだ。



 匂いも音も姿さえも隠せるドーラメルク産はこういう時に役に立つ。

 今回は人捜しがメインなので、なるべくならベヒーモスにも遭遇したくない。



 おそらくハーフエルフは、何かしらの理由で動けなくなっている可能性が高い。

 負傷して動けなくなっているかもしれないし、敵に囲まれて何処かに隠れているかもしれない。

 まあ、もちろん既に死んでいる可能性の方がずっと高いが・・・



 エルフは『神力』を使って不思議な空間を作り出すことが出来るという。

 可能性は低いが、ハーフエルフなら、その力を使い、何処かで生きているかもしれない。



 しかし、そんな場所にベヒーモスを引き込んでしまったら大変だ。



 ベヒーモス如きミールの相手ではないだろうが、戦いの巻き添えでハーフエルフが殺されてしまうかもしれないからだ。


 なのでミールは奮発して、在庫数の少ないドーラメルク産を使って探索しているのだった。




「うーん。気配も全くないなぁ」



 探索用のスキルでも所持していれば違うのだろうが、ミールはあいにく、そういったスキルは使えない。

 完全に直感だけで進んでいた。



 周りのモンスター達もミールには全く気付かずに平然としている。

 少しでもザワザワ感があれば、それを手がかりにマトを搾れそうだが・・



「ふーむ・・・やみくもに歩いても出会う可能性は低いよな」



 もう夕陽も傾いてきており、そろそろ暗闇が支配する空間になりそうだ。

 そうなると更に見つけにくくなってしまう。



 ミールは立ち止まり考えを巡らす。



「まずはハーフエルフが何処に向かっていたかってことだよな・・・当然、エルフの里だ。ってことは・・・より神々しい場所・・・神秘的な場所ってことか・・・」



 ミールの目にはチロチロと緩やかに流れる小さな小川が映っていた。



「この上流に行けば・・・もしかしたら」



 ミールは小走りに進み始めた。

 バシャバシャと水面を蹴って、倒れた大木、コケまみれな大岩を乗り越えて突き進む。




・・・!・・・・・




 微かに・・・本当に微かに、ざわめきを感じる。



 ミールは更に速度を上げた。



 しばらくするとギャアギャアと猿の群れが騒いでいるのを視界に捕らえる。

 もちろんただの猿ではない。モンスターだ。

 この辺りではアイアンキャットと呼ばれている、猫の顔をした肉食系のモンスターだった。



 その数は50匹ほど。

 大木の根元で固まって、威嚇したり、ジャンプしたりしているのが見える。



 よく見ると大木の根元のくぼみを利用して、女が1人、猿と戦っていた。

 ちょうど溝のような形になっており、木の幹はすっぽりと女を包み込んでいる。

 なので正面から来る猿のみを相手に出来る状態なのだろう。



 女は必死に剣を振りかざして猿たちを食い止めていた。




 ギュワ!ギャワウ!ギョワ!ギョワ!




 アイアンキャット達は盛んに威嚇しながら、フェイントを入れながら、女に一撃を喰らわせようと攻撃を入れ続けている。

 しかし何やら様子がおかしい。

 なにか怯えているようにも感じてしまう。



 よく見ると、女の周辺は薄く、光の膜で覆われていた。

 おそらく『神力』のスキルなのかもしれない。

 結界のようにモンスターを弾き飛ばすことは出来ないが、相手の動きを鈍くする、もしくは自分の能力を高める効果があるようだった。




  ギョワワウギャ!!!




 一匹のアイアンキャットが正面から突っ込んでくる・・・・と、同時にジャンプした一匹が上から襲ってきた!



「きゃっ!」

 ハーフエルフはなんとか正面の攻撃を剣で防ぐが、上から来たアイアンキャットに対応することが出来ず、覆い被さられてしまった。



 ここぞとばかりに群がるアイアンキャット達。





「嫌アアアアア!!!誰かあぁ!!イヤアアアアアア!助けてぇええぇ!!」





 ハーフエルフは泣き叫びながら剣を振り回すが、既に遅い。

 腕に噛みつかれ、足に噛みつかれ、もはや剣を握ることさえ出来ない。



 目の前には口を大きく開けて、キバを剥き出しにしたアイアンキャットが迫り来る。





    ピイイイイィィィィィィィーーーーーーーーーンンン!!!





 その全てを吹き飛ばし、神々しい光の膜がハーフエルフを包み込んだ。



 ギャウ!  ギャワウ!  ゴギャ!



 次々と弾き飛ばされ、木に、大地に叩きつけられるアイアンキャット達。



 ミールが使っている結界石はドーラメルク産だ。

 匂いはおろか、影も形もない。

 アイアンキャット達から見れば、何が起こっているのか全く分からないだろう。

 完全に統制が取れなくなったアイアンキャット達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。




 ハーフエルフは涙で溢れた瞳を必死に開き、目の前で光を放っている存在を凝視する。



 正に死の寸前までいったのだ。



 ついさっきまで泣き叫びながら、両手両足を噛みつかれながら、必死に死から抗っていた。

 いや、もしかしたら少しだけ死を受け入れていたかもしれない。



 それが唐突に解放されたのだ。



 まだ頭の整理が付いていないのか、口をポカーンと開けたまま硬直している。



「良かった。無事でなによりです」

 ミールはクルッと振り向くと、ハーフエルフに笑顔を向ける。



 ハーフエルフは先程から1ミリも動かないが、頬だけ若干赤らめた。



「ああ、やっぱり怪我をしてたんですね」



 ハーフエルフの腕や足はアイアンキャットに噛みつかれた痕があるのだが、それとは別に、左足の太ももに簡易的に布を巻きつけて止血してる箇所を確認できた。

 どうやら深い裂傷があるようだ。




「エレクペラーション(回復)」




 ミールは静かに呪文を唱える。パアァっと濃い緑色の光に包まれるハーフエルフ。



「え?・・・」



 ハーフエルフは唐突に回復呪文を唱えたミールに驚きの声を上げた。

 神力を操るエルフ族であっても、回復呪文を使える者は少ない。

 その貴重な回復呪文を、見た目が戦士風の男が使ったので驚いたのだ。



「どうですか?あ~・・・結構深い傷ですね。ちょっと歩くのは厳しそうかな?」

「あ・・・えっと・・・」



 ハーフエルフはようやく少し状況を理解してきたのか、言葉を発する。



「あの・・・どなたかは存じませんが、助けていただいてありがとうございます」

「いえいえ、お姉ちゃんを助けてって子供達に頼まれたので。お礼は子供達に言ってください」



「まあっ・・・」

 ハーフエルフはミールが自分を探しにきたのだと知って驚く。てっきり通りすがりの冒険者かと思っていたからだ。



「こんな危険な森に入ってまで、わざわざ探しに来てもらえるとは・・・なんとお礼を言ったらいいのか・・・」

「いえいえ、それには及びません。ちゃーんと報酬貰ってますから」



 ミールはポッケから子供達の宝物を取り出してニヤっとする。

 つられてハーフエルフも笑顔をみせた。



 とても美しい。



 白っぽい金色の髪を腰まで伸ばし、肌は透き通るような白。

 鎧などは身につけておらず、なめした皮で作られた白い服を着ていた。

 細長いロングソードを持っており、構えるとかなりカッコいい。

 非常に絵になる感じだ。

 そしてハーフエルフの特徴の一つ。長い耳はほんのり赤みがかかっていた。



「とりあえず肩を貸しますので、少し移動しましょう。向こう側にちょっとだけ開けた場所がありましたので。ここじゃあ焚き火もできないですからね」



 そう言うと、ミールはハーフエルフの隣でしゃがみこむ。

 するとハーフエルフの長耳が、みるみる赤くなっていった。



「?」

 一向にミールの肩に手を回さないハーフエルフに、ミールは首をかしげる。



「あ、ごめんなさい。えっと・・・それじゃあ・・失礼します」

 ものすごく遠慮がちにミールに腕を回す。



「それじゃあ立ちますね。せーの」

「きゃっ!」



 ハーフエルフはミールが腰に手を回したので、あからさまにビクッとする。



「ごめんなさい。嫌ですよね。でも少し我慢して下さい。もうかなり日も暮れたので足元が危ないですから」

「あっ!違います!ご、ごめんなさいっ」



 ハーフエルフは赤面しながら必死に歩く。

 どうやらあまり男性への耐性が無いようだ。

 全身の筋肉を硬直させながら、ぎこちなく歩みを進める。



「さてと、じゃあここら辺でいいかな。ではゆっくり座りましょう」

「は、はいっ。あ、ありがとうございます」



 ミールは少し広場になっている場所に、ハーフエルフを支えながら地面に座らせてあげた。

 そして結界石を大地に埋め込む。



「ちょっと待っててくださいね」

 ミールは笑顔を向けて、結界から出て木々の方に歩いていく。




 ハーフエルフはミールの後ろ姿をジーと追っていた。




 変だ。


 この男を見るとドキドキが止まらない。

 

 顔も熱い。


 いったいどうしたんだろう、私。



 こんな思いが頭の中を駆け巡る。



 そりゃそうだ。

 ククラーソン村では、ハーフエルフだからと近寄ってくる人はいなかった。

 たまに薬草採取の依頼や村の警護などで村人と会話する事はあるが、全員引きつった笑顔を向けるだけで、直ぐに何処かへ行ってしまう。

 園長や子供達以外の者と普通の会話をした事など、久しく記憶がないのである。


 そんなハーフエルフにこの男は優しい笑顔を向ける。

 気さくに話しかけてくれる。

 しかも命も救われた。

 更に、回復魔法も使えるし、平気で結界の外に出れるくらい強いんだぁ・・・と、唐突に現れたこの男の評価はうなぎ登り。

 


 ウブなハーフエルフが恋に落ちるのは必然であろう。




 ミールは木々のふもとから、太めの木を転がしてくる。



『わっ、きっとあれをイスの代わりにするつもりなんだわ。優しい♡』



 うんせ、うんせと頑張って丸太を転がすミールを愛おしそうに見つめている。



 そんな、瞳を♡にしているハーフエルフの恋心を引き裂くような、ミールの絶叫が森に響いた。




「うんぎゃああぁあぁあぁぁぁ!!!」




「えっ??」

 予想外の展開に戸惑いながらも、視線をミールが見ている方向に移す。

 

 そこにはハムハムと雑草を食べている角ウサギがいた。



「ひいいぃっ!無理いぃぃ!!」

 ミールは涙と鼻水を撒き散らしながら、ゴロゴロと丸太を転がし、結界に向かって逃げだした。



「えっ?!ちょっ!?」

 当然ミールと一緒に丸太もゴロゴロと近づいてくる。




「ぶえひっ!」

 ゴツーーーーーン・・・ゴロゴロ・・・




 少し漫画のような音を響かせ、丸太はハーフエルフに見事に直撃し、ゆっくりと乗り越えて止まる。



 後には鼻血を流し、涙目になっているハーフエルフが残された。



「はあっ!はあっ!はあっ!・・・うえっぷっ」

 ミールは顔面蒼白になりながら、結界内で荒い呼吸を繰り返している。



 それをジトーと冷たい目でみているハーフエルフ。

 ミールの情けない表情をみて、先程までの胸の高まりはあっという間に冷え切ってしまったようだ。



「し、失礼しました・・・げほっ・・げほっ・・あ・・・鼻血・・・エレクペラーション」

 緑色の光がハーフエルフを包み込む。



「・・・ありがとうございます・・・」

 少し不服そうにお礼を言う。



「あはは。かっこ悪いとこみられちゃいましたね。お恥ずかしい」

 ミールは頭をカキカキしながら照れる。



「えっと・・・とりあえずこの丸太に寄りかかる感じでいきましょうか。背もたれがあるだけで、だいぶ違うと思いますので」

 ミールは手で穴を掘り、丸太を固定した。



「さて・・・と。まきを取ってきたいんですけど・・・結界から出ちゃうと、また情けない姿を見せる事になっちゃうので」

 そういうとミールはマジックポケットを発動させ、中から薪を取り出す。



「え?・・・なにそれ・・・」

 不信感丸出しの表情をしているハーフエルフだったが、流石に驚く。



「ふふふ。秘密です」

 ミールはニッコリと笑顔を向けると、手際よく火を起こし、夕食の準備をする。

 


 相手はハーフエルフだ。 

 この世界の知識も少ないし、魔法系統も全くの別物。

 そしてなにより他人との接触はほとんど無い。

 ここでマジックポケットを見られても、特に問題は起こらないだろう。



「あの・・・ここで焚き火をするんですか?・・・私は結界石を使った事がないので詳しくはありませんが・・・確か耐久値があったはず。光に反応してモンスターがウジャウジャ寄ってきたら危なくないですか?自殺行為だと思うんですけど・・・」


「ああ、この結界石は匂いも音も姿さえも消せる結界石なんですよ。だから大丈夫です」


「え?・・・そんな結界石があるんですか?」

「ええ。だって移動しながらでも使えたでしょ?そこら辺の結界石とは質が違うんですよ」

「た、確かに・・・」



 やはりこのハーフエルフは人間界の知識には(うと)いようだ。

 普通ではあり得ない状況も『自分が知らないだけか』と思って貰えそうだ。




 辺りはすっかり闇に包まれている。




 そんな中、焚き火に照らされて、結界内は明るさを放っていた。



 ミールはククラーソン村で購入した野菜をたっぷりと入れてグツグツと煮込む。

 キノコから良いダシが出ているようで、とても良い匂いが鼻先をかすめた。



 スープを煮込んでいる間に、今度はフライパンを取り出して肉を焼き始める。

 肉はグレービー特製の熟成肉だ。

 ジューっと食欲をそそる匂いと音が、空腹のお腹を鳴らす。

 ミールはその肉を串に刺してお皿に載せた。



 ハーフエルフはピクピクと長耳を動かして、興味津々に肉串とスープを凝視している。



「そういえば・・・貴方の名前をお聞きしてもいいでしょうか?僕はミールって言います。黄色ランクの冒険者です」

 ミールはお椀にスープをよそいながら尋ねる。



「あ、私は・・・フローリアです。フローリア・リール・ラウラ・アポニウス」



「フローリア・リール・ラウラ・アポニウス?」

 ミールはスープをよそう手をピタッと止めて復唱する。



「・・・そうですか」

 そして少し笑みを浮かべながら、肉串とスープをハーフエルフに渡した。



「あ、ありがとうございます・・・」

 ハーフエルフはゴクリと唾を飲み込む。



 正直、昨日から何も食べてないので、もうお腹はペコペコだ。

 しかも、めちゃくちゃいい匂いがしている。

 


 肉串にそのままかぶりつきたい欲望に耐えて、フォークで一切れ毎に串から外して丁寧に口に運んだ。



「はわわぁぁ・・・」



 思わず感嘆の声がでる。

 空腹は最高のスパイスだと言われているが、それを差し引いても、この肉串はとても美味しかった。



「あとこのパンとリンゴもどうぞ。昨日から何も食べてないですよね?お腹がビックリしてしまうのでゆっくりと食べてください」



「は、はいっ。ありがとうご・・・・ふぐっ!」



 自分では丁寧に食べていたつもりだったが、やはりあまりの美味しさに手が勝手に動いていたのだろう。

 次々と口に運んでしまい、喉を詰まらせる。



「はい、どうぞ。お水です」

 ミールはそんなハーフエルフに笑顔を向けて、マジックポケットから水筒を取り出した。



「ふっ、ふぐぐ・・・・ぷはぁ・・・苦しかったぁ・・・」



 普段はこんなにがっついて食事をしたことはない。

 生活も援助金は出ているものの、施設の子供達に使ってしまうので、質素で貧しい生活。


 なので喉を詰まらせることもほとんどなく、思わず素で声を上げてしまった。



 少し恥ずかしそうに笑うハーフエルフ。

 しかし、初めて笑うことが出来て、少し緊張の糸を緩める事が出来たようだ。

 表情もかなり穏やかになっている。



「それで、フローリアさん。園長さんからお母さんの魂を里に帰すために森に入ったと聞きましたが、どうなりましたか?無事届けることは出来たのでしょうか?」



 ミールはパンにスープを浸しながら質問する。



「いえ・・・残念ながら、まだ里の入り口を見つけることが出来てないです。なんとか帰してあげたいのですが・・・」



 そう言いながらフローリアはネックレスを手に取って見つめる。

 


「それがお母さんの魂がもっているというネックレスですか。差し支えなければ少し見せてもらってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」



 ミールは手のひらにネックレスを乗せて眺める。

 確かにネックレスの宝石は淡い光を放っており、その光は明るくなったり暗くなったりしていて、鼓動しているかのようだ。



「確かに何か特別な力を感じますね。ありがとうございました」

 ミールはネックレスをフローリアに返す。



「普段は壁に飾ってあったネックレスなのですが、母が亡くなってから、いつの間にか光ってました。まだ10日前は煌々と明るかったのですが、ここ3日くらい前から極端に暗くなってきまして・・・このネックレスに関して母は何も言ってなかったので、確証はないのですが、どうしても気になってしまって」



「なるほど。フローリアさんのお母さんは、里の事など何か言っていたりしましたか?」


「いえ、母は本当に何も言わなかったです・・・」




 しばらくうつむいて焚き火の炎を見つめていたが、やがて静かに語り出す。




「聞いた話ですが、エルフの里はおきてが厳しいらしく、1度里を捨てた者は2度と帰ることは許されないようなのです。更に決して里の事を話してはならないと契約で縛られているとのこと。なので最後の最後まで、母は何も言いませんでした・・・」



 ここで一旦言葉を句切り、スープを一口。

 そしてまた語り出す。その声質には少しだけ恐れが含まれていた。



「もしかしたら・・・私は望まれない子供だったのかもしれません」

「え?・・・」



「父親は私が物心つく前に亡くなったのですが、母は里の事はもちろん、父親の事もあまり語りませんでした。とても優しい人だったとしか・・・私にはどうしてもそれが不自然に感じてしまい、もしかしたら母は嘘をついているのではないかと思うようになりました。言葉も通じない人間界に単身で飛び込んだのです。あまり想像したくはありませんが、悪い男に襲われた可能性があるのではないかと。そして誰にも言えずに私を密かに出産して後悔しているのではないかと」



「いや・・・でもその名前は・・・・」

「え?」

「あ、いや。すみません。なんでもないです」



 ミールは紅茶をコップに注ぎ、フローリアに渡す。



「ありがとうございます」

 フローリアは紅茶を飲みながら続きを語り出す。



「もし・・・もし後悔しているのなら私は帰してあげたい。魂だけでも帰してあげたい。そして母の代わりに謝りたい。母は決して里の事は話さず、私を愛情深く育ててくれたと。とても優しく、大好きな母親だと伝えたい。だから許してほしいと伝えたい。そう思ったら居ても立っても居られなくなり、森に入ったのです」



「何か手掛かりとかはあるんですか?」



「いえ、手掛かりはなにも・・・唯一あるのはこの日記だけ。母は毎日、寝る前に日記を書いていました。実は、私が母が後悔しているのではないかと思う1番の理由は、時折、日記を書きながら泣いているのを見てしまったからなのです。もしかしたら後悔の念が(つづ)られているのではないかと。ですがエルフの言葉で書かれており、私には読むことが出来ません。母はエルフの言葉ですら、一切教えてはくれませんでしたから」



 フローリアはウエストポーチから日記を取り出し、膝の上に載せた。



「なるほど・・・それも見せてもらってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」



 ミールはフローリアから日記を受け取った。

 結構分厚い。



 この世界の書物は魔力を込めてページが出てくる仕様なので、とても薄いのが特徴。

 しかしこのフローリアが持っていた日記は分厚いし、表紙もゴツいし、そして重いので、どちらかというと貴方達の世界の書物に似ている感じだった。



 ミールはページをめくってみる。

「あれ?」

 しかし魔力を込めてもページは出てこなかった。



「うふふ。これは多分エルフの里の書物なのではないかと。だから人間の方の魔力を込めてもページをめくる事はできませんわ」

「なるほど・・・」



 ミールはボソッと呟くと、視線を日記に移す。そしてまたページをめくるように魔力を込めた。



「だから無理だ・・て・・・え?」



 なんとページがあっさりと出てきて、めくることが出来ている。

 よく見るとミールの指先から黄金の光が出ていた。



「・・・」

 フローリアは無言で次々とページをめくっているミールを見つめている。



 もちろん、普通だったらページを出現させる事が出来ないので、素直にそれに驚いている。



 そして・・・



 ミールは明らかにエルフ文字を目で追っていたからだ。

 


 ちょっと見るだけなら誰でもするだろう。

 しかしここまで長い時間、ゆっくりとページをめくりながら見ている姿を目撃すると『もしかして読んでるの??』と、どうしても思ってしまう。



 しばらく焚き火のパチパチとした音のみが結界内を支配していた。

 ミールはもう一時間近く、黙って日記に目を通している。



「ふむ・・・」

 一通り読み終わったのか、ミールはパタンと本を閉じ、紅茶に手を伸ばした。



「ど、どうでした・・か・・?」

 遠慮がちにフローリアが尋ねる。



「あまり特別な事は書かれてませんね。ごく普通の日記です」

「!!!」



 それを聞いてフローリアは一気に身を乗り出し、ミールに詰め寄る。




「やはり読めるのですねっ!?どっ、どんなことが書かれているのですか?!何が書かれているのですか?!お、おおお教えてくださいっ!お願いしますっ!」




 距離が近い・・・



 通常は学校などの集団行動の中で会話力だったり、距離感だったり、我慢する力、協調性などを自然と学んでいくのだが・・・


 やはりハーフエルフゆえに、そういった経験は少ないようだ。

 若干距離感がバグっている。



 鼻息がかかるほどの距離にハーフエルフの美しい顔がある。

 長いまつげ。

 きめ細かい肌。

 かぐわしい香り。



 そして柔らかい手でミールの身体を触るもんだから、若干股間に熱いモノが込み上げてきてしまう。




 皆さんの世界にもいるだろう。

 さりげなくボディタッチを繰り返してくる女性が。



 その場合は、自分が貴方に好意があることを伝えたいか、もしくは全てを計算しているかの2択だ。



 そして非モテの皆さんがボディタッチを繰り返してくる女性に出会った場合は、ほぼ確実に計算している。



 いかにその気にさせて、勘違いしている貴方を見て楽しんでいる者もいれば、なんとか貢がせようと考えている者もいる。自分がモテることを確認して承認欲求を満たそうとする者もいれば、最近彼氏が冷たくなってきたので、気を引くために貴方を当て馬にしようと考えている者さえいるのだ。



 本当に注意してほしい。




 こほんっ




 話を戻そう。


 ミールは手に持った紅茶のカップを見せて優しく諭す。



「とりあえず落ち着きましょう。紅茶が(こぼ)れちゃいますから」

「あっ!ごめんなさいっ!」



 フローリアは顔を真っ赤にして慌てて離れる。


  

「いえいえ。フローリアさんのお気持ちを考えると当然の行動だと思います。それでですね。日記の内容ですが、本当にただの日記ですね」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。ただの日記というか・・・フローリアさんの成長日記みたいな感じですね。生まれたばかりの頃から、最近の事まで。立派に成長したフローリアさんの姿を嬉しそうに書いています」



「そうですか・・・」

 フローリアは恥ずかしそうに、しかしとても嬉しそうに笑う。



「ええ。僕的に面白かったのは、ずっとおねしょが直らなかった所ですかね。結構10才くらいまで・・・・」

「ちょっっとおおおぉぉぉ!!ストップ!!違います!そんなにしてません!!なにかの間違いですからっ!!」



 ゼエゼエと肩で息をするフローリアさん。

 長耳が全て真っ赤になっている。



「フローリアさんは1度村を出ているんですね。僕はてっきりずっとククラーソン村にいたとばかり思ってたんですけど。どこら辺に行ったんですか?」



 あまり揶揄(からか)うのも可哀想なので、コロっと話題を変えるミール。



「はぁはぁ・・・あ、えっと。色々行ったんですけど、最終的にはスーフェリアで過ごしました」



 フローリアはゆっくりと丸太に腰を下ろして、紅茶を飲みながら静かに語り出す。



「私はこの村で生まれました。ミールさんが立ち寄った施設は孤児院なのですが、私もそこで育ちました。沢山の子供達に囲まれて、母もとても優しくて、私はとてもこの村が大好きでした。ですが成長するにしたがって段々と周りの変化に気づきました。母や園長先生以外の大人達は皆んな私を避けるように離れていくし、会っても引きつった笑顔を浮かべるだけだし、同年代の子供達はあからさまに逃げていくし、道を歩いてるだけでヒソヒソと陰口が至る所から聞こえてくるし・・・しまいには、あんなに仲良く遊んでいた孤児院の同期の子供達でさえ、素っ気ない態度をするようになってました。私は母に泣きつきました。なんで?!どうして?!って・・・そして母から聞きました。エルフの血を引いていること。この世界のエルフの境遇(きょうぐう)のこと。村人が何故自分を避けているのかを・・・『貴方は悪くない。悪いのはみんな私のせいなの。本当にごめんなさい』・・・あの時の母の顔は忘れることができません・・・」



 フローリアは少しだけ眉間にシワをよせ、目を閉じた。




「本当にいつも優しく笑顔だった母親が、とても(つら)そうにしている顔は、子供ながらショックでした。なので私は母をこれ以上悲しい思いにさせてはならないと考え、避けられても、陰口をたたかれても普通に振る舞うようになりました。いえ、むしろ負けてはならない、強くならなきゃと思うようになったのかもしれません。幸い、ここは宿場村です。商人や冒険者が頻繁に訪れます。商人や冒険者は一期一会(いちごいちえ)な関係が幸いしたのか、結構普通に接してくれる人が多かった。なので商人からは情報や基礎知識を、冒険者からは剣の稽古やスキルについて積極的に学びました。そうして過ごしているうちに、私の中で、もっと他の世界を見てみたいっ・・といった願望が出てきました。その事を母に話すと『私の子供だものね。好きなだけ見てきなさい』と(こころよ)く送り出してくれました。街に入った私は驚きの連続でした。行き交う人々、沢山の建物、見たことのない品物など。商人から話は聞いていたので、ある程度イメージは出来ていたつもりでしたが、全て私の想像を超えるものでした。やはりただ聞いただけと、実際に見るとでは違いますね」



 少し照れるように垂れた髪の毛を長い耳にかけて、紅茶を一口。

 そしてまた語りだす。



「呆気にとられている私に1人の男が話しかけてきました。その男は神官だそうで、私は多くの人に必要とされている、皆を導いてほしいと言われました。今まで(うと)まれることはあっても必要とされる事など無いと思っていた自分には信じられない内容でした。半信半疑で教会に入ると、本当に数多くの人々が私を歓迎してくれました。涙を流して私に感謝の言葉を投げかけました。そして必要としてくれました。私はここが自分の居場所なんだと思い、スーフェリアの大きな教会に拠点を移し、神官の言う通りに行動しました。そこでは自分の部屋が用意され、美味しい食事、綺麗な洋服、身の回りのお世話をしてくれる人もいて、とても快適でした。なにより自分を必要としてくれる人に囲まれ、役目を与えられ、とてもやりがいを感じる日々でした。そうして3年ほど月日が流れたある日。私は神官達の会話を偶然聞いてしまいました」





『やれやれ。よくもまあ、飽きずに同じ事が言えるもんだわい。アホな信者ほど扱いやすいモノはないのぉ』


『全くじゃ。川から拾ってきた石ころを『神の力が宿った魔石だ!』と言っただけで100万グルドでポンポン売れよる。あやつらの無知さには本当に呆れるわい』


『ひゃひゃひゃ。あのハーフエルフも滑稽(こっけい)よのぉ。本気で神の力が宿っとると信じて信者達に売りさばいておるからの』


『ぎゃははっ。この前なんか『このお金で貧しい民が救われるのですねっ』とかぬかしておったわい。疑う事を知らんとは恐ろしいことじゃて』


『はっはっは。滅多な事を言うものではないですよ。確かに貧しい民の為に金を使ってるのは事実ですからな。はっはっは』


『うむうむ。確かに使っておる。1%くらいじゃがの』


『ぎゃはっはっはっ!残り99%はワシらの懐に入ってるのも知らんで、おめでたいヤツじゃ!』


『がっはっはっ!』




「私は頭が真っ白になりました。どうやって部屋まで帰ったのか分かりません。気づけば枕に顔を埋めて泣き叫んでいました。悔しくて悔しくて。そして、この神官達の行いよりも、なにより自分が許せなかった。無知な自分が許せなかった。そして私を信じて信仰を捧げてくれる信者の皆さんに申し訳なかった。そう。思い返せば心当たりがいくつもある。信者の皆さんとお話しをしている時、ふと神官達を見ると、決まってニヤニヤと見下した表情をしているのです。私が見ていると気づくと、サッと和かな笑顔に変わるのですが、『?』と思う事が何回もありました。なんであそこで不審に思わなかったんだろう。どうして言われた通りにする事に疑問を持たなかったんだろう。そんな後悔が押し寄せてきました。しかし、以前の村での経験のお陰か、次第に負けてはならない。立ち向かわなければという気持ちになりました。この神官達の不正を正さなければ。私がそんな決意を固めていると、いつもお世話をしてくれる信者の女性が話しかけてきました」




『フローリア様。何かご気分でも優れないのでしょうか?』




 心配そうに私の顔を覗き込んでくれているのはクラリスという女性。

 

 この子は本当に優しく、ゼロス総本山の寺院にお百度参りをするくらい、敬虔(けいけん)なゼロス信徒なのです。

 心の底から神を信じ、ゼロス信仰を信じてる。



 いつも自分のことを気遣ってくれるので、唯一、心を許せる存在でもありました。



 巻き込んでもいいのだろうか?



 この教会の汚い部分、醜い部分を伝えてしまっても良いのだろうか?



 しかし、自分1人ではどうすればいいか分からない。

 


 罪を告発するには、自分はあまりにもこの世界の知識がなさすぎた。



 迷った私は彼女に質問する事にしました。



『クラリス。貴方にとって信仰とはなんですか?』



『えっ?・・信仰・・でございますか?・・・そうですね・・・私にとっては道を照らす光・・・でしょうか・・・かつて私は絶望に飲み込まれそうな時がありました。とてもとても苦しくて(つら)い日々でした。そんな時にたまたま教会からとても綺麗な歌声が聴こえてきて・・・私は吸い寄せられるように教会の中に入り、全身でその歌声と雰囲気を浴びました。まるで母親のお腹の中にいるかのような心地よさを感じ、胸を締めつけるような苦しさが消えていくのを実感しました。そして何回も通っていく過程で、神官様からゼロス様の教えを聞き『私もここにいていいんだ。私も生きてていいんだ』と思えるようになりました。それからというもの、私の中に1本の芯が通っているような感覚です。気持ちも穏やかになり、ゆとりも生まれました。何よりも毎日がすがすがしいのです。本当にゼロス様には感謝しかありません』



『そうですか・・・』



 この言葉を聞き、私は巻き込んではならないと思いました。

 こんなにも信仰を信じているクラリスに醜い部分を見せてはならないと。



 しかし、続けて語った彼女の言葉は衝撃的な内容でした・・・



『ですが・・・フローリア様。言いにくいのですが・・・ここの神官達をあまり信じないほうがよいかもしれません・・・』



『えっ??』



『私が言うのもなんですが・・・ここの神官達は信仰よりもお金が大事なのです・・・普段は穏やかな笑顔を浮かべているのですが、内心では見下しているのです。二束三文の物を何百万グルドという高額なお金で売っているのです。どうかあまり深入りしないで下さい・・・神官達は立場が悪くなれば、あっさりとフローリア様を見捨てるでしょう。どうかあまり深入りなさいませんよう・・・』


『・・・・・』


『あっ!し、失礼いたしましたっ!私如きが神官様をどうこう言える立場ではございませんでしたっ!どうかお忘れくださいっ!』



 慌てた様子で訂正するクラリスを見て、私は覚悟を決めました。



『クラリス。1つお願いがあるのですが。どうか私に力を貸してくれないでしょうか?』


『えっ?!あ、はいっ。もちろんです、フローリア様っ』



 私はクラリスに一連の出来事を話しました。




『・・・そうでしたか・・・既に知っておられたのですね。申し訳ございません。当教会の神官達が無礼な態度を見せてしまって・・・ですがフローリア様。ゼロス信仰の全ての教会が同じではありません。私は5年前までルーン国のガタリヤという街の教会にお世話になっていたのですが、そこの神官達はとても尊敬できる人達でした。このスーフェリアの教会が特殊なのです』



『クラリス。なんとかあの神官達の不正を告発することは出来ないでしょうか?』



『難しいと思います。シラを切って終わりでしょう。あの人達は悪知恵だけは働きますから・・・しかも教会は一般的にかなりの権力を持っています。例え警備局に通報しても、捜査ですら出来ない状況になるかと存じます』



『そうですか・・・神官長に言ってみてはどうでしょうか?』



『?!な、何を言ってるんですか!?フローリア様!!神官長こそが悪の権化ごんげなんですよっ?!』


『え?!』



『この教会がおかしくなったのはあの神官長が来てからですっ!3年前まではある程度普通な教会でした。ですが2年前にあの人が神官長になってから、明らかに変わりました。お布施の金額も跳ね上がり、寄付金額によってランク付けされ、上にいけば行くほど良い思いができる。強引な勧誘も、高額な神器の販売もノルマで管理され、信者を洗脳して財産の全てを捧げさせる。この仕組みを作った神官長に言うなんて!自殺行為ですよっ』



『そうだったのですか・・・私はなにも知らなかったのですね・・・』



『いえ、無理もないです。神官達はフローリア様の前では態度を変えていましたから』


『・・・そうだっ。ゼロス信仰総本山の神官長に直訴してみてはいかかでしょう?!』


『だ、ダメですっ。危険ですっ。下手をすればフローリア様がお命を落とす結果となりますよっ』


『え?・・・』


『第一に、どうやってここを出るのですか?』


『え?・・・それは総本山を見に行きたいとか?』


『その理由では船に乗ることさえ出来ないと思います。恐らく途中で殺されます』


『!』



『いいですか、フローリア様。貴方は神官達からしたら金のなる木なのです。都合のよい道具なのです。もし他の教会に行くとしれたら、利益を独占したいがためにフローリア様を亡き者とするでしょう。簡単に手放すはずがありません』



『そ、そんな・・・でも・・・でもっ。私は剣には多少心得があります。そして『神力』の力を使い、森の中も進むことが出来ます。例え追っ手がかかっても振り切れますっ』



『フローリア様。ゼロス信仰のネットワークを甘くみてはいけません。世界中に信者がいるのです。内通者がいるのです。例え振り切っても直ぐに居場所が知られるでしょう。ましてやフローリア様はハーフエルフです。正体を偽ることもできないでしょう』



『そ、そうですか・・・では告発することは諦めるしかなさそうですね・・・』


『申し訳ございません・・・』



  続く

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