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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ④

 大盛り上がりのロゼニーニャ。手を叩きながらジェスチャー大きめで大爆笑する。

 そのお陰か、若干緊張がほぐれたミール達。

 更に質問を重ねる。



⇨蘇る魂の道しるべ④



「そっか・・間違いなのか・・・まあしょうがないよな。何千年も前の話だもん。間違っててもおかしくないか・・・それはそうと、俺がマスターってホント?さっき言ってたけどロゼニーニャって第1眷属なんだろ?そんな凄い存在が召喚に応じる事なんてあるのか?」



「ええ、ええ。そうですわよねっ。実はわたくしもビックリしたのっ。普通はねっ、まだ若い眷属・・・そうね、第7、第8眷属あたりがね、お呼ばれするのよ。私いつも良いなーってみてたの。だってうらやましいじゃない?ポウラルアン様はいっつもご不在で・・・第1眷属はわたくし1人でしょ?他の子達をまとめなきゃならないし・・・みんな頼ってくるし・・・あたし苦手なのよぉ。命令するのって。だから私だって命令されたいってずっと思ってたの。そしたらね、唐突にあたしの前に光りの渦が出て、ミール様の声が聞こえてきて。わたくし『あ、これだ!』ってね。侍女達が止めるのを振り切って光の中に飛び込んだって訳。うふふっ。我ながら上手くいったわぁ」



「なるほどなるほど。てことは精神世界にはロゼニーニャ達が暮らしているって言って良いのか分からないけど、そういう場所があって・・・こちらが呼びかけると光の渦が出てきて・・・入ると一時的に現出するって事かな?」



「まあまあまあっ!流石マスターですのっ!ええ、ええ。その通りですわ。確か・・・ここ5000年ほどで始めてじゃないかしら。上位の眷属が呼ばれたのは。数千年前に確か1回だけ第3眷属のラームのジジイがお呼ばれされたって聞きましたけど・・・でも流石はマスター様ですわ。通常人間達は召喚獣が神の眷属なんて知りませんでしょ?何処で知ったのかしら?」



「いや、ただの俺の想像だよ。そうなんじゃないかなーってくらいで。予想が当たって嬉しいよ」

「あらまあ・・とても聡明そうめいなんですのね、流石は我がマスター様ですわっ」



「あのさ・・・眷属達ってどーして力を貸してくれるんだ?色々考えてるんだけどさ。明確なメリットが分からなくて。ロゼニーニャ達、神の眷属は悪魔種と敵対してるだろ?だからデーモン相手に力を貸してくれるって感じだったら分かるんだよ。でもさ、実際に呼び出されるのって普通のモンスター相手の方が圧倒的に多いだろ?メリットが感じられないんだよな」



 ミールはだいぶ落ち着きを取り戻し、兼ねてからの疑問を口にする。



「うふふっ。困ったわぁ。あらやだ、どーしようかしらぁ・・・本当はね、言ってはダメなの・・でもマスターの頼みじゃしょうがないですわ。特別に内緒でお教えしますわね」



  ロゼニーニャは少し姿勢を正して1オクターブ下げて語り出す。

 分かりづらいが普通のテンションに戻ったという事。

 けして静かに厳かに・・・なんてことはない。


 

「我々神の眷属は人々の祈り、信仰心で支えられておりますの」

「ほうほう」



「そしてもう一つ、それはプラスの感情とでも言いましょうか・・・希望や喜び、幸福感や達成感など。要は悪魔種とは逆ですわね。そういったプラスの感情をエネルギーに変える事が出来るのです。しかし負の感情とは違い、陽の感情はとてももろく崩れやすい。悪魔種と違ってエネルギー変換率は大幅に下回ってしまうのです」



「ふむふむふむ」



「しかし契約すると直接召喚士から陽のエネルギーを頂けるようになるのです。これは普段わたくし達が身を置いている精神世界で得られるエネルギーの実に10倍以上。ですのでわたくし達神の眷属にとっても充分メリットはあるのですわ」



「ほほ〜。なるほどねぇ。そういう事かぁ・・・でもさ、あんたら眷属達は召喚された時以外はあんまり現出してないよな?悪魔種達はしょっちゅう具現化してるけど、神が降臨したって話は聞いた事がないぜ?」



「そうですわね・・・我々神の眷属は基本的にはむやみに具現化しないのです。それは得られるエネルギーが少ない為、いざという時に備えていると言う事なんですの。わたくし達の言う、いざという時とは世界のバランスが崩れたとき。つまりは強大な悪魔種が現出した時ですわね。その時に対抗できるように力を蓄えているのでございますわ」



「ふーん。でもさぁ・・・定期的に起こる厄災・・・あれに神が具現化して戦ったって記録は無いと思うんだけど?」



「ああん。正にそれなんですわ。神々は太古の昔から悪魔種と熾烈しれつな戦いをしてきましたの。それはもう今では想像もつかないような・・・大地は割け、海は干上がり、星々が降り注ぐような強大な力のぶつかり合いでしたわ・・・神と神の眷属達は事ある毎に具現化し対処しておりました・・・そんな時、強大な悪魔種『滅魔神』が現出し、状況は一変しました。『滅魔神』の力は凄まじく、神々は徐々に押されていきましたの。そんな状況に人の神ゼロス様は『滅魔神』もろとも自身をかてにして封印する事で我々はなんとか安念の時を得ました。でも思えばそこから歯車がかみ合わなくなったのかしら。一旦は収束した戦いも、およそ3000年前の大厄災と呼ばれる日、事件が起きました。神々がエネルギー不足の為、具現化する事が出来なくなっていたのです。これは神々も計算外の出来事・・・恐らくゼロス様を失った影響なのでしょう。それからの事はご存じですわね?人類は絶滅寸前まで追い詰められ、今現在も悪魔種の力が圧倒的に上回っています。それを教訓にわたくし達はいざという時に具現化出来るように力を蓄える事にしたのですわ」


 

「なるほど・・・ね・・でも・・・何回もケチをつけるようで申し訳ないんだが・・・大厄災からも何回か厄災は訪れているぜ?その時も神は具現化してなかったハズだけど」



「その通りですわ。何故なら未だに『滅魔神』の影響は残り、神々が具現化するまで力は溜まっていないのです」



「まじか?何千年前の話だぜ?」



「ええ、残念ながら神々の力を潤す程の陽のエネルギーは、まだまだ時間がかかりますわ。先日もこの近くで邪神が現出したのですが、その時も最後に少し力を与える事しか出来ませんでしたの」



「なるほど・・あの時の湧き上がる力はそれだったのか・・・」



 ミールの独り言にピクッと微かに反応するロゼニーニャ。

 扇を口元に持っていきながらヒラヒラと仰ぐ。

 蝶の光がハラハラと舞い落ちた。




「あら?・・・あらあらあら?まあっ!まあまあまあっ!もしやマスターはあの時の?!何という偶然なのでしょうっ!こんな事ってあるのですわね!ごめんなさい。全く気づかなかったですわぁ」




「いや、神々にとっては人間なんて蟻程度だろ?蟻1匹の顔を覚える方が無理ってもんさ。俺は全く気にしてないぜ」



「申し訳ございません、我がマスター様。確かにおっしゃる通り、人間の見分けは神々には難しいのです・・」



「だから気にしてないって。俺もそうだろうなって思ってたから」



「お優しいお言葉感謝ですわ・・・そうですか・・・貴方があの時の・・・」



 ロゼニーニャは噛みしめるように瞳を閉じる。

 ヒラヒラと蝶の光が優しく周囲を飛んでいる。



「・・・では話は戻りますが・・・力を蓄える事として、まずは末端の部分と申しましょうか・・・第7第8眷属あたりの戦力の増強を計っているのが今現在の状況ですわ。召喚獣として積極的に現出しつつ召喚士様から少しずつお力を頂戴しているという訳なのです」



「あのさ・・人間からそんなに効率よくエネルギーを得られるなら、もっと位の高い眷属が契約すればいいんじゃないか?変な話・・・神と契約しちゃって手っ取り早くエネルギーを貰っちゃえばいいじゃんか。そんな何千年かかっても足りないならさ」



「んもう・・マスター様は手厳しいですわねぇ。そうしたいのは山々なのですが、あいにく契約出来る召喚士がいないのですわ。位の高い眷属と契約するには、それなりに召喚士自身の器が必要になってまいりますもの。ですので今回わたくしの前に召喚の渦が現れたのは神々にとって大きなチャンスなんですの。まさか第1眷属と契約できる器を持つ者がいようとは思ってもおりませんでしたので。なのでここで第1眷属であるわたくしが力を蓄える事が出来れば大きなアドバンテージとなるでしょう。流石は邪神を討ち滅ぼしたマスター様ですわ。早速契約の儀に移りましょう」



「そうなん?でも俺、召喚士じゃねーぞ?それでも出来るのか?」



「はへ?」

 ロゼニーニャは全く予想していなかった言葉に、扇を床に落としてしまう。



「え?・・・ええ??・・・」



 ロゼニーニャはポカーンと口を開けたまま、ジーとミールを見つめる。ヒラヒラとミールの周りに蝶の光が舞う。



「ま、まあ・・・まあ!何という・・何という事でしょう!信じられませんわっ!本当に使役士・・本当に・・使役士なんですのね・・・」



 なおも驚きの表情を見せながら更にミールをじっと見つめる。

 蝶の光は一層ミールの周りを飛び始めた。



「なるほど・・そういう事でしたか・・・」



 ふぅっとため息をつきながら扇を拾い上げるロゼニーニャ。



「貴方様の魂から微かに『あのお方』のお力を感じます。そうですか・・貴方が『あのお方』の加護を受けている人間なのですね・・・だから召喚の渦が開いてしまったのでしょう・・納得致しましたわ」



 コクリトは地面に尻餅を付いたままロゼニーニャとミールの顔を交互に見比べ、黙って見守っている。



 ちょいちょい『え?それってどういう事ですか?!』と衝動的に質問したい単語がチラホラと2人の会話から出てきているのだが・・・



 ロゼニーニャの圧倒的な存在感を前にして自重しているようだ。



「・・・そうでしたか・・・召喚の契約に至れないのは大変残念ではありますが・・・前向きに考えてヨシと致しましょう。今まで不可能と思われていた第1眷属との契約が出来る器を持つ者が現われた・・・それだけでも希望が持てる結果ですものね・・残念ですが・・・」



 ロゼニーニャは若干引きずりながらも、自分を納得させるように言い聞かせる。



「なあなあ、帰る前にさ。ちょっとお願い聞いて貰ってもいいかな?」



「あ、はい。契約が出来なかったとはいえ、わたくしのマスターはミール様ですわ。なんなりとお申し付け下さいまし」



「ありがと。あのさー・・・そこの子。コクリトっていうんだけど、コイツは召喚士なんだよ。れっきとした」



 コクリトは自分の名前が唐突に出てきてビクッとする。



「でもね、属性精霊を含めて何故だか、どの召喚獣とも全く契約出来ないんだってさ。だから分かるならその原因を・・・出来れば契約出来そうな召喚獣を紹介してくれたりは出来ないかな?」



「先生っ!そ、そんな!私なんかに!」

「でもこのままじゃ嫌だろ?」

「う・・・それは・・・そうですけど・・・」



「うふふ」

 ロゼニーニャは2人のやり取りを見て笑みを浮かべる。



「マスターはお優しいお方なのですね。まさか最後のお願いが、この人間のお嬢さんに対してだとは思いませんでしたわ・・・分かりました。では人間のお嬢さん、ちょっと魔法陣の中心まで来て下さいまし」



「あ、はいっ!ロゼニーニャ様っ!」



 コクリトはそのまま床に這いつくばって中央に向かう。



「何してんだ?」

「こ、腰が・・・抜けて・・・」



 ヒイヒイとやっとこさ中央まで来ると、土下座のように頭を床に付ける。



「参りました!ロゼニーニャ様っ!」



 ロゼニーニャはそっと扇を仰ぎ、コクリトに風を送る。

 ヒラヒラと蝶の光がコクリトの周りを乱舞する。

 やがて、蝶の光はロゼニーニャの元に戻っていき、吸収された。



「なるほどなるほど・・・」

 ロゼニーニャは意味深な、深い頷きを繰り返す。



「なんか分かったか?」

「ええ。分かりましたわ」



 その言葉を聞くや否や、コクリトはガバッと顔を上げロゼニーニャに問いただす。



「な、何が原因でしょうか?!どうして私だけダメなんでしょうか?!私は召喚士失格ですか?!どうして?!私がカワイイから?!それとも胸が小さいから?!やっぱりトンプー乳を飲まなきゃ駄目なんでしょうか?!私、アレ苦手なので出来れば違う方法でお願いしますっ!」



 今までの鬱憤うっぷんを晴らすように、矢継ぎ早に質問を重ねるコクリト。

 しかし興奮し過ぎて意味不明な言葉を羅列られつしている。



 ペシっと後ろからミールがチョップを噛ます。

 そして、そのまま後ろからほっぺを引っ張った。



「だ~か~ら~・・・少し落ち着けっつーの」

「ふぎぎぎぃ~」

「うふふ・・・元気なお嬢さんね」

「ああ、すまん・・・悪い奴じゃないんだが・・・」

「ひょんなぁ・・・」



 ミールにほっぺをグニグニされながら、なんとか落ち着きを取り戻すコクリト。


 

「では、早速お話しましょう。お嬢さん。貴方が召喚獣と契約できないのは貴方の神域・・・そうね、人間的に例えるとお家と言ったら方が分かり易いかしら?そのお家が未完成なのね。契約が締結されると召喚獣は基本召喚士のお家に住むことになるの。だけどお嬢さんの場合はそこが未完成だから断られていたのね。だって召喚獣だって居心地の良いお家に住みたいもの。それは分かるわよね?」



「お家っ!わ、私の身体の中にそんなものがっ!?」



「うんん。もちろんお家って言っても身体の中には無いの。召喚士の精神世界に繋がっている部分のことね。召喚士だけ精神世界に特別な場所があるってイメージかしら?」



「へぇ・・精神世界に繋がりがあるとは・・・流石は召喚士って所か」



「うふふっ。マスター様。残念、ちょっとハズレですわ。実はこの世界に具現化している生物は全て精神世界と繋がっておりますの。ですからミール様も、お嬢さんも、このお店の店主さんも精神世界とは繋がりがあるのですよ?」



「ほお・・・それは初耳だ」



「例えば・・そうね。大病や大怪我で死の淵を彷徨さまよった者が、黄泉の国の入り口を見たり、一面の不思議なお花畑を歩いていたって言う話を聞いた事があるかしら?」



「あっ!あります!昔おばあちゃんがお話ししてくれました!」



「そうそう。それは幻覚でも幻でも何でもなくて・・・精神世界との繋がりはね、この世界に具現化してたら見えないの。扉が閉じてるって言った方がいいかしら?でも具現化が維持出来なくなった時・・つまり死後ね。そうなると初めて精神世界との扉が開かれ行けるようになる。だからこの世界との繋がりが限りなく薄くなった時に半分開いちゃう時があるのね。それが黄泉の国を見たって言う人がいる理由よ」



「ほへぇ〜」



「なるほどな・・・そういう仕組みなのか。てことはつまりコイツの家ってやつが未完成なのがいけないって事か・・・どうすれば完成するんだ?」



「通常は大人になるにつれ自然と完成致しますわ」



「要はコイツが精神的に未熟なのが原因って事か。納得だな。諦めろコクリト。お前には別の幸せが待ってるよ」



「ちょぉおぉっとおぉぉ!!なに勝手に諦めてるんですか?!ちょっ!その哀れみの目で見るのはやめて下さい!」



「うふふっ」

 掴みかかるコクリトの顔面に容赦無く手を置いて防ぐミール。

 その腐れ縁同士のやり取りのような光景を笑顔で眺めるロゼニーニャ。



「わたくし、分かりましたわ」

「コイツがアホだって事がか?」

「先生っ!」



「うふふ。わたくしが何故召喚士ではないミール様の呼びかけに応える事が出来たかという事です。今確認しました所、お嬢さんの家はとても大きな大きな器をしているようですの。だから大人になっても家が成熟していないのですわね。これほどの大きさの器を持っている人間は極少数でしょう。ミール様の類い希な能力、そして『あの方』のご加護。そしてこの大きな器。この3つが偶然重なり合って、わたくしの元まで召喚の渦が現われたと思われますわ」



「へぇ・・・凄いじゃんかコクリト」



「ろ、ロゼニーニャ様っ!ど、どうすれば私の家は完成するのでしょうか?!」



「うーん。普通は召喚獣と契約していれば自然と家も強固に成長するのですが・・・お嬢さんはそもそも召喚獣と契約出来ないのですものね・・・うーん・・・」



「なんか未完成でもいける召喚獣とかいないもんかね?」



「確かにそういった召喚獣がいればよいのですが・・・わたくしが家と表現したのは、なにもイメージしやすいからだけではないのです。この家は正真正銘召喚獣にとって家なのですわ。そしてその家が未完成ということは・・・そうですわね。貴方方でいうところの、冷暖房器具が一切無い、トイレがジャポラ式(和式)、魔道具が一切使えない、騒音が酷い、ゴミ屋敷・・・みたいなものですの。そういった所に住みたいと思いまして?」



「げ・・・」

「それはチョット・・嫌かも・・・」



「てことはコイツが自力で器を成長させるしかないって事か・・・だいたいどれくらいで完成しそうなんだ?」



「そうですわね・・・わたくしの見立てでは・・・あと50年ほどでしょうか」



「ごっ!ごじゅうねんんんん!!」

「おめでとうコクリト。最高齢の冒険者デビュー記録だな」

「嫌じゃああぁあぁぁ!!」



 泣き叫ぶコクリトとは対照的に、静かに考えを巡らしているロゼニーニャ。



「う〜ん・・・わたくしが入れれば良いんだけどぉ・・ちょっと狭いわよねぇ。臭いし・・」



「う、私って・・臭いんだ・・・」

 ロゼニーニャに聞こえないように小声で落ち込むコクリト。



 ロゼニーニャはしばらくしてポンっと手を叩き

「そうですわっ!わたくし良い考えがありますの!」



 そう言うとクルクルっと扇で円を描く。

 すると蝶の光が集まり光の渦が空間に出現した。

 黙って様子を伺うミール達。



「スパーチク。いらっしゃい」



 ロゼニーニャの呼びかけに呼応し渦の中から光の玉が飛び出す。

 それは直ぐに小さな人の形に変化した。



 大きさは手のひらくらい。

 全身が光で出来ておりロゼニーニャのように完全に具現化してはいないみたいだ。

 顔の表情は見分けがつくが、どちらかというとエレメント系、クルッピの上位版といった感じにみえる。



 そのスパーチクと呼ばれた存在は、ロゼニーニャの顔の近くでピタッと止まりお辞儀をした。



「うふふ。良い子ね。私の可愛いスパーチク。今日は貴方にお願いがあるの」



 スパーチクは大きく頷く。どうやら喋る事は出来ないようだ。



「ありがとう。いい?貴方はいずれ私の代わりに眷属達を束ねる存在になる。でもこのままでは貴方が成体になる前に大厄災が起こってしまいます。今の神々の力では大厄災を止める事は出来ません。それほど悪魔種の成長スピードは凄まじいものがあるのです。ですが今回わたくし達上位の眷属と契約を交わせる者が現われました。このチャンスを逃してはなりません。それは分かりますね?」



 再び大きく頷くスパーチク。



「良い子ね」

 ロゼニーニャは優しく微笑むとミール達に向き直る。



「ではマスター様。この子はまだ産まれて間もない眷属ですの。ですので変な先入観もありません。貴方方の言い方ですと・・・贅沢を知らない、便利さを知らないといった所でしょうか・・・恐らくこのお嬢さんの未完成のお家でも『こんなものか』と思って貰える事でしょう。この子をお嬢さんにお預け致しますわ」



 コクリトは未だ硬直したまま。

 展開の早さについていけてないようだ。



「スパーチク・・・だっけか?なんかやり取りを聞いてると・・・もしかしてロゼニーニャの子供?いや、神々に子供って概念がないかもしれないけど・・・」



「ええ。マスター様。このスパーチクはわたくしの後を継ぐ者。いずれ第1眷属として皆の上に立つ存在。わたくしの可愛い子供ですわ」



「えええっ!?そ、そんな凄い子を・・・わ、私なんかで良いんですかっ?!そもそも私なんかの器に第1眷属様が住めるのでしょうか?!」



「うふふっ。大丈夫ですよ。スパーチクは将来第1眷属として皆を引っ張っていく存在ですが、今はまだ第4眷属程の存在ですから。お嬢さんでも充分契約出来ますわ。それにこれは神々にとってもメリットが大きい契約ですもの。是非こちらからお願いしたいくらいですわ」



「よかったな、コクリト。とりあえず第1関門突破だ。あとはお前の成長しだい。なんかこの召喚獣の成長に世界の命運がかかっているらしいから・・・気楽に行こう」




「ちっとも気楽になんかなれないんですけどおぉぉぉ!」




 狭い契約部屋にコクリトの絶叫がこだまする。



「さあスパーチク。いってらっしゃい。母は貴方の成長を楽しみにしておりますわ」



 スパーチクは気合いの入った表情でコクンと頷くと、スススーっとミールの目の前まで移動して大きくお辞儀をする。

 どうやら『宜しくお願いしますっ』とでも言っているようだ。



「あらまあ、スパーチク。貴方が契約するのはこちらのお嬢さんよ」

 ロゼニーニャは慌てて扇をコクリトの方に示す。



 スパーチクはチラっとコクリトを見ると・・・あからさまにガッカリした表情を見せる。




「ちょっ!ちょぉぉぉぉっとおお!なんかめちゃくちゃガッカリしてるんですけどおっ!ガッカリしてるんですけどおぉぉおぉ!」




 スパーチクは観念したのかフワフワと嫌そうに近づき『チッ』と確かに舌打ちした。



「今舌打ちしましたよねっ!?舌打ちしましたよねっ!??ねえ!ねえっ!?」



 スパーチクはうるせーなーって感じで耳を押さえる仕草をしてから、スルスルーとコクリトの胸の中に入っていく。

 ポワァ~っと一瞬、白い光りに包まれるコクリト。



「おめでとうお嬢さん。これで契約は完了ですわ。まだ産まれて間も無いのでちょっとワガママな部分もあると思いますが・・・貴方が懸命に生きようとする姿を見せれば、きっと認めてくれるはずです。どうか我が子を宜しくお願いしますね」



「はっはい!そ、そうですよね・・・いきなり先生みたいに認めてもらえる訳ないですもんねっ!私なんかを信頼してお預け下さったロゼニーニャ様っ、そして先生の期待に応えられるように、一生懸命頑張りますっ!ありがとうございます!」



 深々と頭を下げるコクリト。

 その後頭部からヒョコッと顔だけだして、舌を出す仕草をしているスパーチク。

 どうやらコクリトは全く気付いていないようだ。



 確かに先は長そうだな・・・

 ミールはやれやれといった感じで苦笑いを浮かべる。



「ではマスター様。わたくしそろそろ現出が維持出来なくなりそうですわ。今回マスター様と契約出来なかったのは残念ですが・・・代わりに我が子を召喚獣として契約出来たので良かったです。どうかマスター・・いえ、ミール様。何卒我が子を宜しくお願いしますね」



「ああ、悪かったな。色々お願いを聞いて貰っちゃって。これってもう会えないのか?出来れば今後も連絡だけでも取り合えるのが理想なんだが・・・やっぱ第1眷属と気軽にやりとりするのは難しいかな?」



「あらあらっ!まあまあまあっ!嬉しいですわっマスター様!そうですわっ!わたくしも是非今後もミール様とお話したいですわっ!」

 また1オクターブ高いテンションに戻ったロゼニーニャ。




「ではこの・・・近・・いず・・・扉・・・」




 パアアアッとロゼニーニャは光輝き、最後は蝶の光を残したまま還っていく。

 やがて蝶の光も消えうせ、契約部屋に静寂が戻った。



「ったく・・・最後なんて言ってたのか分からねーじゃねーか・・・」



 ミールは首をすくめて悪態をつくと、辺りを見渡す。



 さっきまで圧倒的な存在感を放っていた空間とは思えない程静かだった。

 コクリトも未だ呆然としている。



 そんなコクリトの頭をポンポンと優しく叩きながら

「ほら、行こうぜ。おめでとう。形はどうあれ正真正銘召喚獣をゲット出来たんだ。良かったなコクリト」



 その優しい穏やかな言葉にコクリトの目から涙が溢れ出す。



「うわああぁんん!ありがとおぉございまあぁぁすぅ!」



「ったく・・・ほれ、立てって」

 ミールは手を差し出しコクリトを立ち上がらせる。

「えへへ。ぐすっ」



 ミールは祭壇に置いていた魔石を回収する。魔石の光は失われており、ただの鉱石となっていた。



 やはり全くの別物を呼び出したとはいえ、あの魔石に入っていた依代よりしろがカギとなっていたのかもしれない。



「コクリト。一応店主には・・・なんていうんだっけ?・・えっと・・ああ、そうだ。『祝福の精霊』とか言ってたな。それと契約出来たって事にしよう。第1眷属を呼び出したなんて噂が広がったら色々とマズそうだし、スパーチクも第4眷属相当って言ってしな。第4眷属なんて、多分この世界で最強の存在だと思う。下手に危険な目に遭うのも嫌だし、内緒でいこう」



「は、はい!分かりました!旦那様!」

「・・・」



 そういえばそういう設定だったな。

 濃密な展開が続きスッカリ忘れていたが・・・

 ミールは頭を掻きながら扉を開ける。



「おいおいおい。随分と長かったじゃねーか?で?契約は出来たのか?」

 直ぐに店主が話しかけてくる。



 どうやら予想通りロゼニーニャの結界で全く気付いていないようだ。



「ああ。すまんな。時間はかかったが、なんとかなったよ」

 ミールはコトリと魔石だった鉱石をカウンターに置きながら素っ気なく答える。



「おおー!そうかそうか!?良かったじゃねーかっ!えれー時間かかってるから俺はてっきり・・・」



 チラっと視線はコクリトへ。

 コクリトは、さっき嬉しくて泣いていたので顔が高揚している。



「てめーら・・・まさか契約部屋でお楽しみだったんじゃねーだろーな?!」

 ギロっと疑いの目を向ける店主。


 

「はぁ??俺とコイツが??ありえねーって」

「何でですかっ!先生っ!私の旦那様じゃないですかっ!」

「ばっ!お前っ!」



「てめー!俺の高貴な店をラブホ代わりにしてるんじゃねーぞっ!出禁にするからなっ!」



「だから違げーって!誤解だっ!」

「いーや!信用できねーな!どうせ上手く行った見返りに身体を要求したんだろーよ!テメェは昔も金髪のキレーなねーちゃんを・・・」




「あああああああああぁぁぁああぁぁっ!!」




 唐突に大声を上げるコクリト。



「なっ、なんだ?!どうした?!」

 争いを止めて心配する店主。根は良い奴なのである。



「もう12時?!す、すみません!今日これから出発なんですっ!あああっ!どーしよー!遅刻したら隊長に殺されるっ!私行きますっ!それじゃっ!」



 店主やミールが返事をする暇も無く、猛烈にダッシュし店から出て行くコクリト。

 店内は嵐の後の静けさのようにシーンとしている。



「すげーヤツだったな・・・大丈夫なのかね、あれで」

「ははは・・・まあ、根は純粋なヤツだよ。大丈夫だろう」

「純粋ねぇ・・・」



 店主はカウンターに置かれた鉱石を引き出しの中にしまいながら、呆れたように呟く。



「ははは。そういや、今回の『祝福の精霊』・・・だったか?あれってまた手に入りそうか?」



「あーん?もう契約出来たんだろーが?まだ必要だってーのか?」

「ああ、結構使えそうだからさ。他の知り合いにも渡してやろうかと思ってさ」



 本当は、ロゼニーニャと再度交信をするため。

 最後に言っていた言葉が聞き取れなかった以上、他の方法は分からない。

 なので、もう一度召喚の儀式をすれば、同じように交信出来るようになるかもしれない。



 そのためにはあの魔石が必要だ。

 もしかしたら魔石自体がカギになっていた可能性もあるので、手に入るなら、手に入れておきたいって感じだった。



「いーや、あれは結構貴重な品でな。たーまたま旅の行商人の怪しいジジイから手に入れたヤツなんだ。俺もこの商売を始めてから、初めてだな。あーんな魔石を扱ったのは」


「そうか。残念だな」

「まあ、手に入ったら連絡してやるよ」


「ああ、助かる。ありがとう。それじゃあ俺も行くよ。聖都に向かって最終的にドルグレムまで行くつもりだから、またしばらくは来れそうに無いわ。元気でな、おやっさん」


「そーかい。ま、元気でやれや。今度会うときはせめて赤ランクくらいにはなっとけよな?」

「ほっとけ」



 さて、色々ハプニングはあったが結果オーライ。

 上位の眷属と話が出来たことは、ミールにとっても刺激的な出来事であった。



 そして神々しく放たれる陽のエネルギーを沢山浴びたお陰で足取りも軽い。

 ミールにしては珍しく意気揚々と、店の扉に手をかける。



 しかし店主はガシッとミールの腕を掴み、笑顔で一言。



「魔石代60万グルドだ」






 ミールは乗り合い馬車が、数多く停車しているターミナルに着く。

 しかし、聖都に向かう方面の門がザワザワしている。



 見ると多数の人集りが出来ているようだ。

 何事かと調べてみると、どうやら聖都行きの馬車が運行を見合わせているらしい。



 なんでも強力なモンスター『ベヒーモス』が現われたとかで、被害もかなり出ているとのこと。



 馬車は結界を発動させて進むから問題ないのでは?っと思いがちだが、やはり会社が運営している事業なので安全第一なのであろう。



 更にいうと、現在このスワップの街は結界が弱まっている騒ぎで、モンスターに敏感だ。

 下手に馬車を運行させて、ベヒーモスを街に呼び込んでしまう結果となれば、大騒ぎになる事は確実。



 最悪、その責任を取らされれば、会社の存続に関わる事態だ。

 なので討伐されるまでは運休しておこうって事らしい。



 馬車のターミナルは大勢の住民、商人、そして冒険者達で溢れていた。



「いつまで運休なんだ?!」

「こっちは忙しいんだ!出せっ!」

「ベヒモスなんて俺が倒してやる!だから出せ!」

 等々。皆、口々に不平不満を叫んでいる。



 冒険者なら自分の足で歩け!っというお叱りはごもっとも。



 実際にベヒーモスが目撃されているのは、スワップの街と聖都の中間くらいにある『クオーツの森林』と呼ばれている箇所で、その手前にはククラーソンの村と呼ばれている宿場村がある。



 このスワップの街からククラーソン村までは馬車では1日半~2日で、徒歩だと丸3日はかかる行程だ。

 とはいえ、道中はドラン平原と呼ばれる荒野が広がっているだけなので、少なくともククラーソン村までは『何事もなければ』苦もなく進めるだろう。



『何事もなければ』



 そう、実はそのドラン平原が厄介なのだ。



 先ずは気候。とにかく超絶暑い。



 学者が言うには、ちょうど地形が南風の通り道になっているとの事で、常に暖かい空気が送り込まれる影響でカラッカラの暑さが襲ってくる。

 しかも、周りは山々に囲まれている盆地となっており、暖かい空気が溜まりやすい。



 更に大地もガタリヤのように草原が広がっている感じではない。

 ほとんど草木は生えておらず、ゴツゴツとした岩や砂利が散乱している。故に歩きづらく余計に体力を奪われる。



 強烈な日差しを遮る木陰もほとんどないので、休憩場所を見つけるのも一苦労だ。



 そして夜もほとんど気温は下がらないので、徒歩で進むには大量の水が必須という訳だ。




 もう1つ重要な点がある。




 それは『バジリスク』と呼ばれるモンスターが生息している事。



 もしかしたら、この名前は聞いた事がある人が多いかもしれませんね。

 こちらの世界では、石化してくるトカゲ型のモンスターとして名が通っている強敵だ。



『目を見てはいけない』という情報もあるかと思うが、こちらの世界のバジリスクは、そういう感じではなく、石化させるビームを放ってくる感じ。



 つまり目を見ようが見なかろうがビームに当ったら終わり。



 そのビームは目から放たれ、速度も一瞬なので避けれる人は少ないであろう。

 なので目を見たら終わりといった情報もあながち嘘ではないのだが・・・



 ビームに当ってしまうと徐々に徐々に身体が石化してくる。

 初めは表面だけだが、段々と深部まで硬化していき、身体が完全に石化すると、今度は逆に内部が液状に変わる。

 つまり見た目は完全な石像だが、内部は身体の栄養が溶け出た濃厚な液体で満たされているのだ。



 バジリスクは、その石像に小さな穴を開けて、長く細い舌で器用に舐め取る。

 最後には中が空洞の石像だけが残るという訳だ。



 つまり、バジリスクにとって石化させるのは、あくまで獲物を確保する手段。

 この荒野で生き抜く術なのだ。



 バジリスクは夜行性なので日中に進む必要がある。

 しかしクソ暑いし、徒歩だと3日はかかるので、よぼど念入りに準備しないと、ククラーソン村に到着するのは厳しいだろう。

 なので冒険者達もギルドから、馬車での移動を推奨されているのであった。



「かあぁ・・マジかよ・・・どーすんべ」

 ミールも出来れば聖都までは、馬車で移動するつもりだったので、この事態に頭を抱える。



 結界を発動させながら移動できるミールにとっては、バジリスクなど怖くはないのだが、やはり暑さはキツい。


 季節はすっかり冬に入っているので多少暑さは和らいでいるようだが、やはりこのドラン平原の暑さは、経験した者ではないと分からないつらさがあるのだ。



 かといってベヒーモスが討伐されるまで待つのもダルイ。



 今のところ選択肢は2つ。



 1つはこのままドラン平原を暑さに耐えながら徒歩で進むこと。



 もう1つは北の街へ進み、別ルートから聖都を目指すこと。



 このババリオン国は聖都とスワップの街、そしてもう1つ北にあるズンガガという街が三角形の形で位置している。



 ベヒーモスが出現しているのはクオーツの森林なので、恐らく北側はまだ封鎖されてないハズだ。

 かなり遠回りにはなるが聖都には行けるだろう。



『うーん』と結構真剣に考えるミール。



 このスワップの街では結界の影響で調べ物が全く進展なかったが、ズンガガの街も書籍など所蔵の品は多い。

 図書館や資料館も他国と比べると圧倒的に多いので、行く価値は十分にある。



 焦る必要はない、ゆっくり進むか・・・という考えもあるのだが、どうも気が進まない。



 いや、気が進まないのではない。気分が高揚しているのだ。

 おそらくロゼニーニャと会話した影響だろう。

 ミールにしては珍しく、ノリノリな気分。



 そして、久しぶりにドルグレムに行ってみるか、という気持ちが強くなっていたのだ。



 あの国は本当に楽しい。

 数多くの近代的な魔道具に溢れているし、行くたびにその種類も増えている。



 以前も少し説明させて頂いたが、世界で唯一『他国協力条例』に署名しておらず、ハッキリ言って悪人、犯罪者が多い。



 だが、勘違いしてしまいそうだが、決して治安が悪いわけではない。

 強盗や殺人、性犯罪に溢れ、怖くて1人では道を歩けない・・・てな事はなく、むしろしっかりと取り締まっている。



 ただ・・・基準というか、仕組みというか。そういった面があやふやなのだ。



 例えば、今では考えられないかと思うが、皆さんの世界でも30〜40年前は、結構メチャクチャだった。



 警察官も学校の先生も平気で暴力を振るってたし、これって食べれるの?動くの?安全性は大丈夫なの?って疑いたくなる商品に溢れてたし、地上波放送に女性の裸体や性行為も普通に流れてたし、飲酒運転なんて日常茶飯事だった。



 それが段々と人々の生活が豊かになり、仕組みが出来はじめ、様々な人の声を取り入れることで今のような生活を築くことができたのだ。



 ドルグレムはいわば30~40年前な感じ。

 多くの人が安心して暮らせる生活ではないので割を食う、損をする人も多い。理不尽な事も多いだろう。



 しかし人々が発するエネルギーは圧倒的。

 良い物を作ろう、面白い物を作ろうといった熱気が凄まじく、そこにルールを守ろう、他人に迷惑をかけないように等といった概念はない。

 ある意味自己中だ。



 勘違いしないで頂きたい。

 決して昔は良かったなどと言うつもりはない。

 現在の方が明らかに住みやすいし、多くの人が活躍できる環境だろう。



 ドルグレムはいわば荒削りな状態。ハッキリ言って弱肉強食だ。



 勝った者は名声や富を得て、負けた者は地獄を見る。

 勝者だからといって油断は出来ない。一気に敗者だった者がのし上がってくることもあるからだ。



 そういった多種多様な人々のエネルギーが魔道具技術を発展させ、今や大聖都ハミスすらしのぐほどの魔道具国家となったのである。



 そういった環境だからこそ、他の国、街にはない情報もタンマリ眠っている。

 ガセも多いが逆にそれも面白い。視野を広げてくれる事もあるからだ。



 久しぶりに知人にも会いたいしな・・・



 ミールはドルグレムに向かうべく水を多めに買い込み、翌日の早朝、ドラン平原に歩みを進めるのであった。






 リリフ達はカルカ村での地域制圧クエストを終わらせて、ガタリヤに帰還していた。



 当初は、あんな事があったので馬車に乗って帰ろうかとの案も出たのだが・・・



「ううん。徒歩で帰りましょ。ここで安全な結界を張りながら帰ったら、フィールドが怖くなっちゃうかもしれない。そしたら冒険者なんてやってられないわ。デーモンに出会うことは冒険者をやっているなら避けては通れない道。だからこそしっかりと対策や心構えを準備しましょ。けっして命知らずの行動にならないように。慎重に・・・だけど大胆に。フィールドの恐ろしさも楽しさも身をもって体験している者は強くなると私は思う。みんなで協力して乗り越えよっ」


「な、なるほどぉ。流石リリフ姉様ですっ」

「僕も感服しました。頑張ります」

「うっひょぉ!さっすがレインボーりりぴょんだぜぇっ!」



 てな感じで、ゆっくりと時間をかけて、途中で2泊野宿してから帰還したのだった。




「やっぱりガタリヤは落ち着きますわぁ」

「あははっ。ホントだねぇ」

「さてどうするかの。まずはギルドにでもよってみるかの?」


「うーん。ここまできたら直接アーニャ様にお話したほうがいいんじゃないかしらねぇ」


「ぶ、ブルニ。アーニャ様好きですっ」

「そうよねっ。私もそう思うっ!じゃあちょっと通話してみるねっ」



 リリフは魔法膜に包まれる。



「うへー。りりぴょんってアニャニャンのマブダチなんだぁ。やるぅ」

「そうですわっ。わたくし達はアーニャ様とベットを共にした仲なんですわよぉ」

「ひゅー。俺も添い寝してー!」



 流石の銀ランク達も、リリフ達とアーニャが5Pをした仲だという発想までは至らなかったようだ。

 そうこうしているとリリフの通話が終わる。



「アーニャ様、これから会ってくれるってっ。中央の領主様のお屋敷に行きましょっ」



 リリフ達は乗り合い馬車で中央まで移動する。

 


 ガタリヤの結界面積は直径8キロほどなので、リリフ達が到着した西門から中央の屋敷まで4キロくらいある。

 なので街中でも移動は馬車を使うのが一般的。



 貴方達の世界でいう路線バスのように、常にグルグルと周回しているのだ。



 もちろんタクシーのような個人個人をターゲットにしている小型の馬車や馬単体、もしくは人力車のような乗り物も多く、けっこう交通量は多いのである。



 リリフ達が屋敷前に到着した。



 ここはロータリーのようになっており、ちょっとした広場になっている。



 屋敷に続く入り口にはバリケードが張られ、多数の警備兵が周囲に睨みを利かせているので緊張感が漂っているが、広場は住民の憩いの場となっているようで、お喋りしている者、散歩している者、芝生でお昼寝している者など様々だ。



 そして、アーニャが屋敷から出る際はほぼ必ずここを通るので、出待ちしているアーニャファンの人達もちらほら見受けられる。



 ここまでは、今までもよく見られた光景だったのだが・・・



 邪神現出後から、新たな団体が加わった。



「はーい。こちらが本日のメイン、領主アーニャ様のお屋敷となりまーす」


「おおー。これがっ」

「流石、雰囲気あるわねぇ」

「うむうむ。ここで麗しきアーニャ様が育ったのですなっ」


「ねえ、ガイドさん。今日はアーニャ様は出てこないの?」


「そーですねー。残念ながら本日は外出の予定はないんですよぉ。公務予定日だったら議会や各省庁に行かれるお姿を拝見できたりもするんですけどねー。ほらっ、こんな風に」



 ガイドさんは手に持っていた大きなパネルを見せる。

 そこには馬車から手を振っているアーニャが写っていた。



「おおー。いいなぁ!」

「私も見たい!」

「アーニャ様ぁ!出てきてー!」


「アーニャ様は正式な領主になられてから、毎日お忙しく公務に励んでおられまして・・・結構、予定日以外の日でも外出する事は多々あるのです。なので何回も弊社のツアーにご参加頂ければ、会える確率はググーっと上がりますよぉ。是非、次回も弊社をご利用くださいっ」


「あはは。ガイドさん、商売上手っ」


「ではではー。お次はアーニャ様の歴史。スローベン家記念館に参りましょう。アーニャ様の幼い頃の魔法絵など沢山ありますよぉ」


「おおー。それは楽しみっ」

「幼いアーニャ様!是非見たい!」

「行こう行こう」



 こういったアーニャの屋敷見学ツアーが、特に聖都で大人気なのだ。



 何故かと言うと、キッカケはもちろん邪神との戦いだ。



 邪神との戦闘中に、魔法画面機に向かって何度も何度も皆んなを鼓舞こぶし、励ました姿を、聖都の住民のほとんどが観ている。



 華奢きゃしゃな身体で、泥だらけ、傷だらけになりながら、必死に戦っている姿が、多くの人々の心を打ったようだ。



 そんな訳で、現在アーニャは聖都で大人気なのである。




 リリフはバリケードを越えて、門兵さんに通過の許可を取りに行く。

 当然だが領主様のお屋敷は警備は厳重だ。



 通常であれば前もって事前に許可を取ってるのが当り前。

 しかも通過する者達のほとんどは、重臣の者や貴族の高官、政治家達だ。



 なのでリリフ達の明らかに冒険者ご一行の姿に、警備の門兵さん達は疑いの目・・・いや、警戒態勢で対応した。



「何用だ?ここは許可無き者は通れん。直ぐに立ち去るがよい」

「えっと。アーニャ様から連絡ってきてませんか?リリフって言います」



 門兵は少しだけ眉を上げて、本日の通行許可済みのリストに視線を移す。



「そんな者は書かれていない。早々に立ち去るがよい」


「ええ~・・・あ、そっか。さっき通話で許可とったばかりだから、まだ連絡が来てないのかもっ。ちょっと聞いてみてもらえます?アーニャ様から連絡きてるかどうか」


「貴様。アーニャ様と通知登録してると申すか。田舎者丸出しの格好をしておるくせに!怪しいヤツめ!おい!不審者だ!取り押さえろ!」


「えええっ?!そんなあ!」

「酷いですわっ」

「横暴じゃのぉ」



 リリフ達と兵士が押し問答を繰り返していると、詰め所の通話魔石が鳴る。



「た、隊長!た、只今アーニャ様から連絡がありました!リリフという冒険者達が来たら通すようにと!」

「な、なんだと?!」



「ほれほれ。サッサと道を開けんかい」

「そうじゃそうじゃ。あんまゴネてるとアーニャ様に言ってしまうぞい。ん~?隊長さんや」



 ロイヤーとランドルップが勝ち誇った表情で、隊長の胸をポンポンと叩く。



「ははっ!た、大変失礼致しましたっ!どうぞお通りください!」

 門兵達は一斉にビシッと整列して敬礼する。



 屋敷内に入ると、メイドのルイーダが出迎えてくれた。



「あっ!ルイーダさんっ、お久しぶりです!」


「はい、リリフさんお久しぶりです。皆さんもお元気そうでなによりです。アーニャ様から応接室に案内するようにと仰せつかっております。どうぞこちらへ」



 聖女巡礼の際にも訪れた、年代を感じさせる、とても暖かい雰囲気の廊下を進む。



 しかし以前と違い、今回は少し騒がしい。

 政府の重臣、高官と思われる人々と盛んにすれ違うのだ。

 重臣、高官達は一様に慌てた様子で、顔色も悪い。



 そして喫煙所と思わしきスペースで意見交換をしている者達の声が聞こえてきた。



『どうじゃ、何か進展はあったか?!』

『はい。どうやら本当の事のようです。既にクリルプリスには影響が出ていると』


『むむむ。それはイカンな。他の街はどうじゃ?』

『はい。他国と隣接しているカタロス、リビ、コートピアにも同様の動きが見られます。こうなると、何処か1国が・・・というよりかは、数カ国が絡んでいるのは間違いないかと』


『うーむ。仮にそうなった場合・・・どれくらいの影響が出そうじゃ?』

『はい。現在は極めて限定的な数品目だけですが、いずれは主要な品目に影響が出ることは必須でしょう。最悪、ゴルニュード鉱石にまで影響が及ぶ可能性すらあります』


『それはマズイ!なんとかせねばっ!』


『大臣。クリルプリスのファージット様から通話が入っております』

『う、うむ。今行く』


 パタパタと慌ただしい足音を残して部屋に入っていく重臣達。



「なんか凄い忙しそうね」

「ホントですわぁ」

「なんかあったのかのぉ」


「騒がしくて申し訳ございません。こちらが応接室でございます。どうぞ」



 ルイーダに扉を開けてもらい、リリフ達は応接室に入った。



 応接室には、白い長テーブルが置かれており、綺麗な花がセンス良く飾られていた。

 壁にはデトリアスとアーニャが描かれた巨大な自画像が部屋を暖かく見守っている。

 棚には代々受け継がれてきたような、古い食器や魔法絵(写真)立てが並べられ、今までのスローベン家の足跡そくせきを感じることが出来た。



 左側の隅には、アーニャがミールから貰った純白のマントも飾られている。



「では少々お待ちください」

 ルイーダはお辞儀をして部屋を出て行く。



 代わりに別のメイドがとても良い香りを放つ紅茶を持ってくる。

 リリフ達は少し緊張した面持ちで、椅子に腰掛けた。



 しばらくして、ガチャっと扉が開き、綺麗なドレスに身を包んだアーニャがルイーダと共に応接室に入ってくる。



「皆さん、お待たせしてしまい申し訳ございません。またお会い出来て嬉しいですわ」



 邪神との戦いの最中は、銀ランク達におばさんと間違われてしまったが・・・

 今、目の前にいるアーニャは神々しい光を放っているような、とても透明感溢れる美しい姿だった。



「はわわぁ。アーニャ様っ、とっても綺麗ですぅ」

「うふふ。ありがとう、ブルニちゃん」



 少し前のデトリアスを失った悲しみの表情は見る影もなく、穏やかな雰囲気に包まれている。

 どうやら完全に立ち直っているようだ。

 アーニャの優しい笑顔に、リリフ達も少し緊張の糸を解く。



「あ、あのっ。アーニャ様。突然連絡しちゃってごめんなさい」

「突然の連絡になってしまい、誠に申し訳ございません・・・ですわリリフ」

「あうぅ・・・」



「うふふ。リリフさん、そして皆さん。そんなに緊張なさらないでください。どうぞ巡礼の時のように気軽に話しかけてください」



「えへへ・・助かります」

 頭をカキカキして照れるリリフ。



「それで・・・是非、直接報告したい事があるとのことでしたが?」

「あ、はい。実は————」




「なるほど・・・異形の指・・・ですか」



「はいっ。すっごくデカい人差し指が、デンって地面から生えてましたっ」

「形からして悪魔種の指だと思うだわさ。若干だけど邪悪な妖気も漂っていたしね」



「そうですか・・・それに、その白装束の者も気になりますね」



「そうじゃそうじゃ。ありゃ強かったのぉ。しかも光属性も使ってたしの」

「言葉も全然分かりませんでしたわ。翻訳が機能しておりませんの」



「ふむ・・・」

 アーニャはしばらく考えこむ。



「残念ながら、そのような事例は私は聞いた事がございませんわ」



「そっかぁ。アーニャ様も知らないってことは国家機密みたいな事ではないってことよね?」


「いえ、もしかしたらもっと上の・・・聖女様の中でも極少数の人達のみが知る情報なのかもしれませんわ」

「もしくは代々秘密にされていた部族、あとは権力がある独立した機関なども可能性はあるわねぇ。宗教団体とか」



「確かにそうですね・・・この件は私に任せてもらえないでしょうか?皆様が動かれると危険な目に合う可能性がございます。私から聖女様を通して調べてみますわ」



「はいっ。アーニャ様、助かりますっ!ありがとうございます!」

 リリフ達は1番心配していた事を聞けて一安心。肩の荷が下りたように笑顔になる。



「なあなあ。アニャニャンからもギルドに言って貰えねーかな。俺ら移籍の承認されねーんだよ」



「あにゃっ!?・・・・し、失礼・・・移籍とは?」



「あははっ。ビレットさんったら。砕けすぎですよぉ。アーニャ様、こちら聖都からガタリヤに移籍を希望してくれてる銀ランクのみなさんです。ビレットさん、ブルーダさん、レインさん、クリムさんですっ」



「ウエーイ。俺らぁ、りりぴょん達の姿にバイブス震えたっつーか」

「マジパねえ、マジパねえ」

「りりぴょん、マジ神!レインボーりりぴょん」

「だから俺達、りりぴょんからメンタルを鍛えてもらおうとガタリヤに来たんすよ」

「そうそう。したら聖都のギルドから許可おりねーでやんの!マジつれー!マジつれーぜ!」

「だからさー。アニャニャンから一言欲しいっつーか。ビシッと言ってやって欲しいんすよ。なんつったって今は準聖都ガタリヤだからよぉ」



「な、なるほど・・・状況は理解しました。で、では先程の件を聖女様にお伝えするつもりですので、その際に貴方達の事もお話しておきますね」



「うおおお!マジっすか?!」

「うひょー!アニャニャンかっちょえー!」

「アニャニャン神!アニャニャン神!」

「誰だよアニャニャンの事おばさん言ったの?!めっちゃ美人じゃん!レインっお前だろ?!謝れアニャニャンに!」

「バカ言うな!俺にとってはおばさんはストライクゾーンなんだよ!若い女は駄目だ!」

「ぎゃははっ!おばちゃん食い乙!」



 銀ランク達の盛り上がりに、アーニャは口をポカーンと開けて固まってしまっている。



「あれは黄色ちゃんから貰ったマントかい?」



 ルチアーニは話題を逸らすようにアーニャに尋ねる。



「え?あ、はい。そうです」

「ちょっと見せて貰ってもいいかいな?」

「もちろんです。どうぞ」



 ルチアーニは左側の隅に飾られていたマントをしげしげと眺める。



「邪神騒ぎでかなり汚れてしまったのですが・・・不思議なことに、自然と汚れが落ちていて、いつの間にか綺麗になってました。なにか魔力が込められているのかもしれませんわ」



「ふむ。そのようだわね」

 ルチアーニは少しマントの端っこを触りながら、意味ありげに答える。



「ねえねえ、アーニャ様。アーニャ様って年末はどうするんですか?」



「え?年末ですか?そうですね・・・恐らくこの屋敷でゆっくりするかと思いますわ。年始から直ぐに皆様へのご挨拶などで忙しくなりますから」


「そっかぁ。実は私達、年末の大晦日に『恵みの池』の前で結界を張って、年を越そうかと思ってるんです」


「あら、リリフ。その話は本気だったんですの?」


「もっちろんよっ。ルクリアもグワンバラさん達も誘って盛大にやろうと思ってて・・・それでアーニャ様。アーニャ様も来れたりしないですか?」


「わああっ。ブルニ、アーニャ様とお喋りしたいですぅ」


「コラッリリフ。危険なフィールドにアーニャ様が来れるわけないでしょ!まったくもうっ」


「えーん。だってぇ・・・もしかしたら来れるかもしれないと思ったんだもんっ」


「あ、えっと・・・ごめんなさい。流石にフィールドに行くのは私個人の意思だけでは難しいので・・・」

「やっぱりダメかぁ・・・残念っ」



「あ、いえ。少し時間を頂けますか?私個人は行きたいと思っているので、重臣達を説得したいと思っています」



「!!!」

「えええっ?!本当ですかぁ!やったー!」

「わあいっ!ブルニ、とっても嬉しいですっ」



「りりぴょーん。俺らも参加してもいい感じぃ?」



「は、はいっ。もちろんそのつもりですっ。是非参加してくださいっ」

「うひょー!やりぃ」

「こりゃ楽しみが増えたぜぇ!」

「テンションアゲアゲェー!」



「アーニャ様。そろそろ・・・」

「分かりました」



 ルイーダに促され、席を立つアーニャ。



「あ、アーニャ様。ありがとうございました。すっごいお忙しそうなのに・・・」


「いえいえ。こちらこそ余りお時間を取れずに申し訳ございません」



「なにかアクシデントでもあったのかいな?」

「さっきの大臣もえらい慌てておったしのぉ」

「ゴルニュード鉱石がどうたらとか言ってたわよね?」



 アーニャは少しうつむき、目を閉じる。



「ええ。実は邪神討伐後の聖女様の演説・・・覚えておられるでしょうか?あの時、聖女様は貴族制度を廃止すると仰いました。恐らくそれが関係していると思われますわ」



「なるほど。それで圧力がかかっているという訳ですわね」

「ええ、その通りです」



「え?なになにっ、どゆこと??」



「リリフ。貴族制度を廃止するということは大変な事なのですわ。まさに世の中の仕組みそのものを変えてしまうほどに。そして、もしルーン国で貴族制度の廃止が上手くいった場合、他国にもその波は波及する可能性があります。その流れを貴族達が黙って見過ごすわけがありません。当たり前ですが、貴族達はかなりの権力、財力を持っています。それは言い換えると、甘い汁を吸いまくる事ができて、なにをしても許される、好き放題できる仕組みが貴族制度なのです。そんなオイシイ制度を貴族達が簡単に手放すはずがないですわ。取り上げられてなるものか!・・・と、ルーン国のみならず、他国の貴族達からも圧力がかかっているという事なのですわ」



「ひょえぇぇ・・・」

「圧力ってどんな感じなんですぅ?」



「今の所、限定的な感じですね。ガタリヤでは特産品のトウモロコシに追加関税がかかることになりました。ガタリヤはトウモロコシの輸出で外貨を獲得できたり、他国の特産品と交換できたりしていたのですが、それもままならない事になるかもしれません。そして今、1番懸念されているのはゴルニュード鉱石の規制です。今現在は世界法で価格が保障され、全世界に満遍なく供給されています。それは人類にとって結界石は生命線。正に人類存続の要となっているからです。しかし貴族達は、その触れることすら許されない禁忌のルールすら、手を加える動きを見せています。非常に厳しい現状ですね」



「ひええ」

「お貴族様は困りますわぁ」

「アーニャ様ぁ、頑張ってくださぁい」



「うふふ。ありがとう、ブルニちゃん。皆さんも気にせずに、また是非お越しください」



「はいっ。ありがとうございます、アーニャ様」



 領主の屋敷を後にするリリフ達。

 門兵達は全員整列して、敬礼しながらお見送りしている。

 入る時とは大違いだ。



「さてと。それじゃあ、あたし達はここらで解散するとしましょうか。リリフちゃん達はしっかりと休息をとること。休むのも冒険者の大切な仕事なんだからね。明後日にまたギルドで今後について話し合いを行うことにしようかね。その時までに頭をクリアにしとく事。いいわね」


「は、はいっ。分かりましたっ」



 そうしてルチアーニ達は自分達の宿に帰っていった。



「ウエーイ。ビレットぉ。うちらどーする?」

「だな。りりぴょん達はこれからどーするん?」


「えっと・・・どうしよっか?」


「ひとまずグワンバラ様の宿に向かうのはどうでしょう?リリフの計画を行うには、早めにお知らせしませんと、ルクリアやグワンバラ様はビックリしてしまいますもの」


「そうよねっ。ビレットさん。とりあえず私達は拠点にしている食堂に行こうと思うんですけど、どうしますか?」


「おおう。りりぴょん達の拠点かぁ。こりゃ興味あるな!」

「ウエーイ。とりま付いてくことにしよーぜい」



 リリフ達とビレット達は乗り合い馬車で星光街に移動する。

 馬車に揺られながらブルニがリリフに質問してきた。



「グワンバラ母様はお店をお休みに出来るのでしょうかぁ?」



「うんうん。前にね、いつも年末年始はお休みにしてるって言ってたから大丈夫だと思うっ」



「リリフ。わたくし達冒険者の感覚と、一般の方の感覚を同じと考えてはいけませんわよ。普通の方にとっては結界外に出るということは、ものすごい事なのですから」



「そ、そうよね。あ~・・・なんか急に不安になってきたぁ。来てくれるかなぁ・・・」



「グワンバラ様達が安心して『恵みの池』まで行けるようにプランをしっかり練りましょう。安全を考えて『大地吸い上げ装置』を搭載している馬車をレンタルすることも考えなくてはなりませんわ」


「確かにぃ。その方が安心よねっ」


「とはいえ、荷馬車を借りるとなると、かなり高額になるのではないでしょうか?」

「ふええぇん。ブルニ、3万グルドしかないですぅ」


「ウエーイ。俺らも出すぜぇ。りりぴょん」

「だな。宴会の為なら金惜しまずだぜ!」


「あははっ。ありがとうございます。でもみんな平等で、料理とか飲み物のお金を合わせても2000グルドくらいで(おさ)えたいなって思ってます」


「あ、そうですわっ。ブレーメン様に相談するのはどうでしょう?多分年末年始は買い付けなどはお休みしているはずですから、格安で貸して頂けるかもしれませんわ」


「あー!それいい!流石セリー!ナイスアイデア!早速聞きにいってみよっ!」




 そうしてグワンバラの宿に立ち寄る前に、ブレーメン商会に顔を出すリリフ達。

 ちょうど店先で積み荷を降ろしているブレーメンに元気に挨拶する。



「ブレーメンさんっ!こんにちはぁ!」

「おお?!こりゃ初心者の嬢ちゃんじゃねーか!元気そうでなによりだぜぇ」



 ブレーメンはリリフ達を見るなり、人懐っこい笑顔を向けてきた。



「お仕事中すみません。今ってちょっと大丈夫ですか?実は相談があって」



「おおお?!そーかい、そーかい。他でもない、嬢ちゃん達の頼みとなれば、断ることはできねーなぁ。どーんと任せてくれっ」



「あははっ。ありがとうございます。実はですね、ちょっと大晦日の日に『恵みの池』周辺で宴会を開きたいなって思ってて。もちろん結界を張ってするんですけど、そこまで安全に移動する手段を探してまして。ブレーメンさんの荷馬車ってお借りすることは出来ますか?できれば・・・格安で・・・えへっ」



「がーっはっはっは!なんだ、そんなことかいっ。オッケーオッケー。任しときなっ!どうせ年末年始は使わないからなっ。タダで貸してやるぜい。好きに使ってくれやっ」



「わあいっ!本当ですかぁ!やったー!」



「そのかわり!」

「は、はいっ」



「俺ぁも参加させて貰うぜぇ。宴会って聞いて参加しない商人はいねーからな!」

「あははっ!わっかりましたぁ!是非いらしてくださいっ」



「がっはっは。こりゃ楽しみになってきたなぁ・・・おう?なんだい。今日は彼氏さんと一緒かい?」



 ブレーメンは後ろのビレット達を見て尋ねる。



「えええ?!ち、違いますよっ!この方達は銀ランクの冒険者さん達で、今は色々と教えてもらってるんですっ」



「がっはっは。お嬢ちゃん。こんなガタリヤに銀ランクの冒険者様が来るわけないだろーが。嘘言っちゃいけねぇ・・・うおっ!マジで銀ランク様じゃねーか?!いったいどーなってるんだ?!」



 ブレーメンはビレット達のステータスをみて驚愕する。 



「えっと。聖都から移籍してきてくれて、今は一緒にクエストとかもしてる感じですっ」


「ほおお。こりゃたまげたな。なにかい?銀ランク様達も、お嬢ちゃん達の素質に気付いた感じかい?」


「ウエーイ。おっちゃんも見る目あるじゃーん」

「りりぴょんは俺らの先生だからなっ」

「いや師匠っしょ!」

「いや神だ!心の神りりぴょん!」


「もうっ!やめてよぉぉ」



「がはっは。モテモテじゃねーか嬢ちゃん・・・・・うお!?なんだ、いつの間にか黄色ランクになってるじゃねーか!やるなぁ!おめでとう!」



「えへへっ。この前なったばかりですっ。ありがとうございます」



「なら、そろそろ新しい装備を揃えるのも良いんじゃねーか?俺ぁ、そのド田舎から出てきましたぁって格好も嫌いじゃねーが、ランクが上がるって事は、それだけ強いモンスターとも戦うってことだからなぁ。命を預ける装備を新調するのは大切だと俺ぁ思うぜぇ」



「そっか。確かにぃ」

「わたくしも新しい装備買いたいですわぁ」

「ぶ、ブルニも見てみたいですっ」



「ブレーメン様のオススメのお店ってございますか?」



「おお、そーかい。うーんとだなぁ・・・ここら辺だとギリル武器防具店がいいかなぁ。ちとクセ強だが良い品が揃ってるぜい。俺っちの名前を出せば、ちょっとは安くしてくれるはずだ」



「わあ。そうなんですかぁ。是非行ってみたいですっ」



「オッケーオッケー。場所はなぁ、この道をずーっと進んで、三つ目の交差点を左。したらクリーニング店が見えてくるから、その横の細道を入っていけば直ぐだぜ。ちと分かりづらいが注意深く進めば大丈夫だぜぃ」



「はいっ。ありがとうございます!それじゃあまた連絡しますっ」

「おうよっ。楽しみにしてるぜい」



 そうしてリリフ達はブレーメンが紹介してくれた武器防具店に向かう。



「えっと。この交差点を左よね?」

「そうですわ。次にクリーニング店があるみたいですわね」

「セリー姉様っ。クリーニング屋さん見えてきましたよっ」

「その横の細道・・・と言っていましたよね?ここでしょうか?」



 確かに言われた通り、クリーニング店の横には細道があったのだが・・・

 その道幅は狭く、まるで秘密の通路、知る人ぞ知る抜け道のような感じだった。



「とりあえず入ってみましょ」

 リリフ達はキョロキョロと辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩みを進める。



 すると、確かに『ギリル武器防具店』と書かれた看板が扉の横にちょこんと掲げてあった。



 通常の武器防具屋は入り口に大きな看板が置かれてあったり、大きな窓から見本の品が見えるように配置されてあったりと、ひと目見て何のお店か分かるような配慮がされている。



 しかしこのギリル武器防具は、外観は普通の民家と変わりはなく、中の様子も知ることが出来ない。

 看板がなかったら確実に通り過ぎていた・・・いや、看板があってもなお、入るのを躊躇ためらってしまう感じだ。



「りりぴょーん。俺らは外で待ってるぜい」


「ええ?!なんでですか?!」


「いやぁ。言いづれーんだけど、俺らは専属の武器屋決まってるんだわ」

「あはは。ワリーワリー」

「下手に入って良い武器見ちまったらモヤモヤしちまうしなっ。ここはステイだわっ」

「ぎゃははっ」



 通常、銀ランククラスの冒険者達には、武器防具屋サイドから提供を受ける事が多い。

 武器防具屋からすると、銀ランク達に使って貰えれば宣伝効果が高いうえ、性能や品質が実証されるのでメリットがデカいのだ。

 なので専属契約を交わしている高ランク冒険者は多いのだった。



「そっか。分かりました。ではちょっと行ってきます・・・」

 リリフは遠慮がちに扉を開ける。



 中は意外に広く、一般的なコンビニくらいの大きさがあった。

 


 剣や鎧はもちろん盾や兜、杖や槍、ちょっとしたアクセサリーまで幅広く陳列してあるようだ。

 そして1つ1つにロゴが入っており、もしかしたらこの陳列してある商品全てが自作の品なのかもしれない。



「うわあぁ。いっぱいあるのねぇ」

「すごい品揃えですわ」

「ピカピカですぅ」

「これは目移りしそうですね」



 リリフ達は早速、思い思いに散って、商品を見比べる。

 すると、奥からお腹を大きくした女性が現われた。



「あらあら、やけに騒がしいわね。んー?・・・あらまあ田舎から出てきたのぉ?カワイイ冒険者ちゃん達ねぇ」



「あ、あのっ。ブレーメンさんから紹介を受けて来ましたっ。は、初めましてっ」

 リリフはペコッとお辞儀をする。



 リリフの瞳を見た女性はニコッと笑顔を見せて、ドカッと椅子に座る。



「あらそう。ブレーメンさんの紹介だったら冷やかしじゃないようね。ごめんなさいね。私、こんなお腹だから座らせて頂戴。で?今日は何を探しにきたのかしら?」



「あ、えっと。最近黄色ランクに昇格したので、武器か防具を新調してみようかなって」

「そうなのね。じゃあ好きに見て頂戴。大抵のモノは揃ってるはずだから」



「これって全部、店主さんがお作りになってるんですの?」

「ええ、そうね。私の旦那なんだけど、ここに置いてあるほとんどは自作なのよ」



「スゴイ精巧なつくりですね。一般的なショートソードでさえも細かい模様が目を引きます」

「そうね。よく言われるわ。ただのショートソードにこんな模様は必要無いだろってね。でもなんかこだわりがあるみたいでね。譲らないのよ」




「はわわぁぁ・・・・」




 唐突に声が店内に響く。

 見るとブルニが目をキラキラさせて感嘆の声を上げていた。



 視線の先には白い大きな盾。

『逸品コーナー』と書かれた区画に置かれている品物は、どれも他とは違う雰囲気だった。


 ブルニは尻尾をフリフリして、ジーッと大盾を見つめている。

 どうやら気に入ったようだ。



「ほら、ブルニ。尻尾が出てるよ。初対面の人の前じゃ隠すようにって言ったでしょ」

「はわわっ。ご、ごめんなさい、リリフ姉様っ」


「あはは。良いのよ、気にしないで。人獣のお客さんは久しぶりね。今は他にお客もいないし、自由にして頂戴」


「は、はいぃ。ありがとうございますぅ」



 通常ならは、人獣を毛嫌いするのが普通だ。

 しかし、この女性はそんな雰囲気は微塵みじんもない。

 どうやらかなり人柄が良い人物のようだ。



「この区画の品物はどれも不思議な雰囲気を感じますね。何か素材と素材を組み合わせて、特別な効果を発揮しているような気がします」



 リューイの分析に女性は嬉しそうに同意する。



「あらあら。貴方とってもよく見てるのね。その通りで、なんか旦那独自の製法みたいよ。全く別の素材を組み合わせて、特別な力を秘めた武器や防具を作り出してるみたい」



「え?!特別な力ですか?!」

「それってものすごい貴重な品なんじゃないでしょうか?」

「それにかなりの高額とも聞きますね」



 リューイの言う通り、魔法の力が込められた武器防具はかなりの高額。

 最低でも1000万グルドが相場だ。



「ふええぇん。そうなんですかぁ?・・・」

 ブルニはお気に入りの白い大盾の前で泣きそうな声を上げる。



「あら。でもこの大盾は500万グルドですわ。魔法の力が付与されている割には安いですわね」

「うええぇぇん。それでも高いですぅ!」



「あはは。なんかね、魔法の力も付与されているけど、デバフ効果も付与されてるのよ。だから通常の品よりか安いみたいよ」



「デバフ効果ですか?!」



「そうそう。品によってデバフ効果も変わるのだけど、結構致命的な効果が多いみたい。例えば、そこのお嬢ちゃんが見ている大盾。その大盾は能力は高いけど、装備できるのは『盾使い』って適性の人だけなのよ。この『盾使い』って適性を選んでいる人はかなり少ないみたい。だから気に入ってもらったのに申し訳ないけども、お嬢ちゃんには使えないのよぉ」



「!」

「凄い!この子『盾使い』なんです!」



「えっ!?・・・・あらまあっ!本当だわ。凄い偶然ね」



「やったじゃん、ブルニ。この盾、装備できるみたいだよっ」


「ふええぇんん。でもリリフ姉様ぁ。ブルニにはとても買えないですぅ」


「あはは。これは地道にお金を貯めていくしかないわね。頑張ろ、ブルニ」


「そうですわ、ブルニ。逆にこのデバフ効果のせいでライバルは少ないと思いますわ。少しずつで良いので地道に頑張るのですわ」



「あはは・・・言いづらいけど、この『逸品コーナー』の品は結構直ぐに買われちゃうんだよね」



「えええっ?!そうなんですか?!」



「うんうん。ほら、さっきチョロっと言ったけど、ウチの商品はどれもかなり精巧に作られてるでしょ?特にこの『逸品コーナー』の品はこだわって作られてるからね。デザインが良いからってインテリアとして富豪達に買われていくのさ。旦那は嫌がってるけど、ウチも商売だからね。買いたいって人を止める事は出来ないのよ、ごめんなさいね」



「そっかぁ。でもしょうがないよね」

「そうですわ。それにまだ買えないと決まったわけではないですわ。地道に頑張るのです」

「は、はいっ。ブルニ頑張りますっ」



 ブルニが決意を固めていると、奥から男性が店に出てきた。

 バンダナを頭に巻いた、30代くらいの男性だ。

 おそらくこの女性の旦那さん。つまり店主なのだろう。



「あ、ギリル。ちょうどよかった。この冒険者さん、最近黄色ランクに上がったばかりなんだって。それで武器か防具を新調したいみたいなんだけど、アンタのオススメはあるかい?」



 ギリルと呼ばれた男性はリリフ達を見て、無言で少しお辞儀をする。

 女性は活発なイメージだが、この男性はどちらかというとおとなしい印象だった。



「あ、あのっ!初めまして!ブレーメンさんから紹介してもらって来ました!とっても良い品ばかりでビックリしました!」

「とても細かい所まで気を配っているのが伝わってきます」

「ぶ、ブルニもこの大盾すっごい気に入りましたっ!いつかこんな盾を買えるように頑張ってお金貯めますぅ!」



「その盾は・・・ああ。アンタは『盾使い』なのか。珍しいな」



 店主は静かに歩き出し、ダンボールから何かを取り出した。



「ではこれはどうかな?鎖で編み込まれた服だ。鎖帷子(くさりかたびら)と言うヤツだな。これを防具の下に着るだけで、かなり守備力を上げることが出来ると思うぞ」



「わあっ。すごい。めっちゃ軽い」

「それにとても滑らかで手触りが良いですわっ」

「とってもツルツルですぅ」

「しかし、かなり丈夫な作りですね。見た目以上に頑丈なようです」


「これ買いたいですっ。おいくらでしょうか?」


「まいど。1着35000グルドだ」


「う。結構するわね」

「でもこれは買いですわよ」

「ふえぇん。ブルニ3万グルドしかないですぅ」

「僕も同じです・・・」



 どうやらリリフ達よりも冒険者期間が短いせいか、ブルニとリューイはお金が足らないようだ。



「ブレーメンの紹介なんだろ?じゃあ3万グルドでいいぞ。アイツが店を紹介するのは珍しい。きっとアンタ達は有望な人なんだろうよ」



「えっ?!そんな。私達なんてまだ右も左も分からない素人で・・・でもありがとうございますっ。助かります!良かったね、ブルニ。これでお金足りるねっ」


「でもリリフ姉様っ。それ払っちゃったら今夜のご飯のお金が無くなっちゃいますぅ」


「あはは。大丈夫。今回の地域制圧クエストのお金が明後日には入るから。それまでは私が立て替えておくわ。この鎖帷子は本当に良い品だもの。絶対買うべきよ」


「はわわっ。分かりましたっ。リリフ姉様っ、ありがとうございますっ」



 そうして全員お会計を済ませた。



「あ、あのっ。また見にきてもいいですかっ?!」

 ブルニは大盾を見つめながら尋ねる。



「もちろんよ。月曜日は定休日だけど、それ以外ならいつでもいらっしゃい」

「はいっ。ありがとうございますっ!」


 嬉しそうに尻尾をフリフリして店を出ていくブルニを、優しい笑顔で見送るギリル夫妻であった。





 リリフ達は乗り合い馬車でグワンバラの宿まで移動した。



「うひょー!ここがりりぴょん達の拠点かぁ!超ボレーじゃん!オンボロじゃん!」

「つーか、ここら辺全体がボロくね?!」

「ぎゃははっ。俺ら超失礼!デリカシーなさすぎ!」



 盛り上がる銀ランク達を引き連れて、リリフ達は中に入っていく。



「母さんっ。ただいまぁ!」

「おやっ。リリフちゃん。お帰りぃ」

 グワンバラはキャベツを千切りにしながら嬉しそうに笑顔を浮かべる。



 時間は15時過ぎ。

 食堂は開店準備の真っ最中だ。



「お、おかえり・・・」

 ルクリアも小皿を並べる手を止めて、チョコチョコっと駆け寄ってくる。



「ルクリアァ!たっだいまぁ!」



 リリフはルクリアにギュッと抱きつく。

 ルクリアは手に持った小皿に気を使いながらも嬉しそうだ。



「おやおや。今日はまた随分とチャラい男共を連れてきたねぇ。なんだい?あのテキトー冒険者から乗り換えたのかい?」



「ぎゃあっ。母さんっ違うよぉ!この方たちは銀ランクの冒険者さんなのっ。スゴイ人達なんだからっ」



「ほうほう。だから乗り換えたのかい?」

「だから違うってぇぇ」



「ほら、リリフ。さっさと先に話をするのです。もうすぐ開店する時間になってしまいますわよっ」



「ああ、そっかっ。あのねっあのねっ。大晦日の日にね、『恵みの池』で年越しをしたいなって思ってて。もちろんフィールドだから危険なんだけど・・・でもねでもねっ。ちゃんと結界も張るし、道中も結界を張れる荷馬車を用意できたからさ。危険はほぼ無いのっ。あああっ。もちろん分かってるよ!普通の人は結界から出るのって勇気いるよねっ!でも、でもね。やっぱり私は来て欲しいのっ。それでそれで・・・」



 一生懸命訴えかけるリリフの姿にグワンバラはフッと観念したかのような笑みを浮かべる。



「やれやれ。じゃあ大晦日の日は空けておくよ。何処に行けばいいんだい?迎えに来てくれるのかい?」


「えっ?―いいのっ?!」


「いいもなにも、アタイの大切な娘が計画してくれたんだ。断るわけないだろうが」



「わあぁいい!母さん大好きぃ!」



「わ、私も・・・怖いけど・・・りりふっちと一緒にいたい・・・」

「るっくりああ!!ありがとおぉ!絶対に私が守るねっ!」



 ぎゅぎゅーっとルクリアを抱きしめるリリフ。



「それで。当日は何を持っていくんだい?料理とかはここで作っていくのかい?」



「うんっ!なるべく安く済ませようと思ってて!ここである程度は作って持っていこうと思ってるのっ。お酒とかも私達の荷車で運ぶわっ」


「結界石も多めに持っていきましょう。あとはたきぎとか、調理道具とか、寒いので毛布なども必要ですわね」


「うわぁ。こう考えると結構色々必要ね。しっかりシミュレーションしなきゃっ」

「ブルニも協力しますっ。リリフ姉様っ」

「ウエーイ。りりぴょん、俺たちも協力するぜぇ」


「うんっ!みんなありがとっ!宜しくねっ」


 そうしてビレット達を交えて、ワイワイと準備を重ねるリリフ達であった。






「あっちぃ・・・」

 ポツンと1人で荒野を歩いているミールは予想通りの言葉を発した。



 暑さ対策に被っている帽子の隙間からポタポタと汗が滴り落ちる。

 マジックポケットから水筒を取り出し、グビグビっと飲み干す。



「ふ~・・・今日も暑くなりそうだな・・・」



 ミールがスワップの街を出発して3日目。

 相変わらず、見渡す限りの荒野にウンザリして呟く。



 やはり冬の時期なので夜は若干だが過ごしやすかった。が、日中は全く変わりがない猛烈な熱気に襲われる。



 学者がいう南風の影響だけでは説明がつかない暑さだ。

 ミールは個人的に大地が熱を発しているのではないかと思っている。


 何故ならこのドラン平原から少しでも離れれば一気に気温は落ち着く。

 例えばこのドラン平原を抜けた先にクオーツの森林という場所があるのだが、そこは全く暑くない。むしろ寒い。


 なので、これはミールの仮説だが、このドラン平原の大地自体が熱を溜めやすい鉱石が多く含まれていて太陽の熱に反応して高温になりやすいのではないかと考えている。

 そして、その温められた空気が上空へと舞い上がる。

 ちょうどここは盆地なので、その温かい空気はドラン平原上空に留まる。

 すると、その空気は密度を上げ、まるで虫メガネのように、レンズのような役割をする空気へと変化する。

 そのレンズによって日差しは更に強まり、この地域のみ灼熱の日差しが襲ってくる。その日差しに反応して大地は通常以上に高温になり、熱波が更なるレンズを作り出し・・・という『熱の連鎖』を繰り返しているのではないかという仮説だ。


 大地を掘り進めたり、上空を観測したりするなど、しっかりとした調査をすれば解明できそうだが、ババリオン国は召喚獣を崇めているので、こういった自然の現象も神の力が宿っていると信じている。

 そのため、外国からの調査隊の派遣を拒否し続けているので、この灼熱のドラン平原の実体は未だ解明されずにいるのであった。



 それじゃあ昼間に寝て、夜に進めば良いじゃない?と思う方もいるかもしれないが・・・



 では問いたい。

 貴方はサウナの中で寝れますか?・・と。



 このような熱波が襲う大地で寝ようものなら、逆に命の危機すらあるのだ。



 とはいえ、今日の夜にはククラーソン村に到着できるだろう。

 あそこはゴツゴツとした大地が続くドラン平原とは違い、砂が混じった地質に変わるので『熱の連鎖』から外れて、少し気温が落ち着く。

 更にオアシスがあるので、樹木もあれば木陰もあり、かなり過ごしやすくなっている。



 もう少しの辛抱だ。



 ミールは地面を見ながら一歩一歩進んでいく。

 汗が次々と際限なく湧いてきて服もビショビショだ。



 一旦結界石を地面に埋め込み、着替えを始める。

 ポイポイと汗まみれの服をマジックポケットに突っ込み、タオルで汗を拭った。



 これだけの猛暑が続く大地なのだが、実は生き物は多い。

 爬虫類系の生き物には絶好の産卵場所なのだろう。

 そしてこれらを狙って大型な生き物も集まっているようだった。



 ミールは新しい服を着て、再び大きなリュックを背負う。



 え?マジックポケットがあるから手ぶらじゃないの?とお思いの皆さん。



 確かに必要な物は全てマジックポケットに入っており、この大きなリュックの中身は発泡スチロールのような軽い物。

 いわゆるカモフラージュというやつだ。



 流石にこの暑さの中、手ぶらで1人で歩いていたら怪しさ大爆発であろう。

 ここは国籍外の他国なので、無駄に怪しまれたくない。

 そういった努力も必要なのだ。



「とりあえず・・はぁはぁ・・あの大岩まで歩いたら・・昼飯にしよう」



 ミールは1キロくらい先にある岩を見つめながら独り言を言う。

 この距離であれくらいデカいのだから、かなりの大きさだ。日陰くらいあるはず。

 とてもじゃないが、こんな熱波の下で飯を食う気にはなれなかった。



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」



 相変わらずゆらゆらと熱気が空気を歪める。

 荒れた大地の石を避けながら歩みを進めていると、唐突に目の前に光りの塊が現われた。



  ?!?!?!?!



 余りの唐突っぷりに、最初は熱気に暖められた空気の何かかと思ったくらいだ。

 しかし光の塊は明らかに動いていて、しかもミールに必死に何かを伝えているかのようだ。



「あれ?・・・お前スパーチクじゃね?」

 ミールがぼーっとした頭を回転させて名前を絞り出す。



 スパーチクとは、あの第1眷属ロゼニーニャの子供と呼べる存在。

 召喚士コクリトが初めて契約することが出来た召喚獣だ。



 スパーチクは必死に何かを伝えているようで、盛んにミールが目指している大岩を指差す。



「なんだ?あの大岩になんかあるんか?」

 ミールはよく分らんって顔をしながらも、スパーチクの後に続いて歩いて行く。



 まるで5才くらいの子供に『ママー!こっち来てー!』と手を引っ張られているかのような感じだ。



 ミールの予想通り、大岩はかなりの大きさで、3階建ての建物くらい。

 ゴツゴツとした岩肌を剥き出しにしている。

 その大岩のふもと、日陰の部分に荷車が置いてあった。


「?」


 ミールはなんだなんだ?と覗き込むと、大人が4人、ぐで~っと寝っ転がっているのを発見するのであった。




 話は戻り、コクリトがスパーチクと契約し、ミールと別れた時まで遡る。

 



 大急ぎで集合場所の門まで駆け出すコクリト。

 その瞳には不機嫌そうな男・・・隊長のカインが腕を組んで立っている姿を映し出している。

 コクリトは必死に最後の力を振り絞って、更にスピードを上げた。



「お、おおおお待たせしましたあぁ!!!げほっげほっ!」

「・・・2分遅刻だ・・・」

「ひいいぃ!げほっげほっ!命だけはっ!命だけはお助けをぉぉ!げほっ!げほっ!」



 顔面蒼白になりながら必死に命乞いをする。



「はあはあ・・・あれ?他のみんなは?」

「・・・」



 隊長のカインは苦々しい表情を浮かべ、ため息をつく。

 その視線の先には、先程のコクリトと全く同じように、全力で走ってくる者を捉えていた。



「お、おおおお待たせしやしたぁあぁ!!どうか殺さないでくだせええぇぇ!」



 開口一番、命乞いをする男。

 ギロッと隊長カインは男を睨むが、直ぐに奥へと視線を移す。

 すると同じよ〜に必死の形相で、全てを投げ出して走ってくる者が現われた。




「ぎゃおういしまちだぁ!げほっ!げほっ!もぶびばげごじゃびまでん!!ごろばないべくじゃじゃいぃぃ!」




 もはや何を言っているのかすら分からない。

 しかし死相漂う表情から、命乞いだと予想できる。

 ゼエゼエと息を切らして、地面に額を付ける男。



「なぁーんだ。みんな遅刻だったのかぁ。良かったぁ・・」

「何が良かったんだ?コクリト・・・」

「ひいいぃ!」



 ほっとするコクリトに優しい言葉をかける隊長カイン。

 和気あいあいとした良いPTのようだ。



「ったく。お前ら、揃いもそろって全員遅刻かぁ?いい度胸してるじゃねーか」



『申し訳ございませーーーーーーん!』



 3人同時に地面に額をつける。



 聖都に続く門の前なので、当然人通りも多い。

 しかし世間体など気にしていられない。

 この3人にとって、今がまさに死ぬか生きるかの分岐点なのだ。



「まあいい。とにかく直ぐ出発する。テメーら、準備は出来てるんだろうな」



「はいいっ!只今!」

 3人はロータリーに併設されている管理部へとダッシュする。



 ここは馬のお世話や馬車、荷車などを一時的に預かってくれる場所だ。

 コクリト達も地脈調査で使う荷車を預けていたので、それを引き取る。



「コクリト。テメーの分担は結界石だ。ちゃんと持っただろーな」

「はいっ!倍の6個持ちましたっ!隊長が持ってる2個と合わせて8個!これでククラーソン村で買わなくても聖都まで対応可能ですっ!」



「クエンデル。テメーの分担は水と食料だ。ちゃんと用意しただろーな」

「へ、へいっ!見て下さいよっ。水のタンクを新調しやしたっ!これで倍の水を詰めるでやんすっ!」



「ルル。テメーの分担は調査機の整備だ。当然ちゃんと済ましてるだろーな」

「は、はい・・・たぶん・・・」

「だぶんだぁ??」

「ひい!・・・あ、あのっ!ちょ、調査は問題ないですっ・・・ただ、地脈を修復する素材が・・・少し足らないかも・・・」



「ふんっ。まあいい。今回は調査がメインだからな。破損してる場所さえ分かればこっちのもんだ。いいか?お前ら。死んでも破損箇所を見つけろ。いいな」



「ひいぃぃんん。ドSですぅ」

「鬼っすね。鬼教官っす」

「・・・僕、頭が痛くなってきました・・・」



 そんな会話を交わし、穏やかな雰囲気でスワップの街を出立する4人組。



 簡単だが、PTの紹介をしておこう。



 まず先程からとても優しい対応をしているのが隊長のカイン。主にPTを守る役目を担っていた。

 実はかなりの実力者らしいのだが、何故か冒険者ではなく地脈調査隊に身を置いている。

 しかし、誰とでも気さくに話せる人柄が災いしたのか、誰も詳しくは聞けていない。



 水タンクを新調しやしたっ!っと言っていたのはクエンデル。

 こちらは完全に調査員なので戦いは素人だ。

 常に専用の魔道具を使って地脈の様子を観察するのが仕事だ。



 頭が痛くなってきました・・・っと言っていたのがルル。

 こちらもクエンデル同様、完全な調査員なので戦闘は不向き。

 主に地脈を調査する魔道具の管理をする整備士だ。



 そしてコクリト。見た目通り。以上だ。



「ちょおおおっとおおぉぉ!私の扱い雑すぎやしませんかぁ!!ねえ!ねえぇ!」

 との声が聞こえてきそうなので、少しだけ追記。



 以前コクリトがフィールドで寝ている所を、隊長のカインに助けてもらった縁で、地脈調査隊に入った。

 なのでコクリトは地脈に関しては素人だ。

 そして皆さんもご存知の通り、ついこの間まで召喚できない召喚士だったので、戦闘でも役に立たず、主に雑用を担っている。

 何故この素人同然のコクリトを、カインは勧誘したのかは不明だ。



 調査隊は、魔道具と水タンクを積載した荷車を、3人で押しながらドラン平原を進んで行く。



 地脈を調査しながら進まなければならず、更に専用の魔道具と、今回は2倍の水タンクを載せているので、かなりの重量だ。

 普通に徒歩で移動するより、ゆっくりと進んでいる。

 なので通常では丸3日で到着する行程だが、調査しながらだと4日以上はかかりそうだ。



 先頭は隊長のカインが荷車を引っ張り、コクリトとルルが、祭りの山車に付いているような左右の棒を押しながら、クエンデルは荷車の後方で魔道具を見ながら、歩みを進めていた。




 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ・・・




 完全に無言で進んでいるので、荷車の車輪の音だけが荒野に響く。

 とにかく暑い。

 吹きつける風も、大地からも、容赦なく熱波を放ってくる。



  続く

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