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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ③

 もしこれが野良デーモンだった場合、現出したばかりなら半分寝ている状態なので楽に逃げられる。

 しかしハイデーモンとなると話は別だ。既に相当な数の人間の魂を食っているだろう。



 戦うしかない



 リリフ達もルチアーニ達も身構えるが、銀ランクリーダービレットは静かに右手で制して首を振る。

『ここは俺達に任せてくれ』という事だ。



⇨蘇る魂の道しるべ③



 確かに悪魔種の力は圧倒的。周りでウロチョロしてる方がかえって邪魔になる。

 リリフ達は静かに後ろに下がる。



 セリーが思わず結界石を取り出そうとするが、今度はロイヤーが止める。

 セリーもハッと我に返り、手を引っ込めた。



 以前、悪魔種相手に結界石を使おうとするのは大変危険だと、チラッと説明させて頂いたが再度言わせて頂こう。



 奴らは優先的に・・・執拗(しつよう)に・・・徹底的に・・・結界石を使う者を潰そうとしてくる。

 しかもこちらから手を出してはいないとはいえ、今回の相手はハイデーモン。

 ここで結界石を使おうとするリスクは計り知れない。

 故にロイヤーはセリーを止め、セリーも手を引っ込めたのだ。



 ここは銀ランク達に任せようと。



 ジリジリと間合いを詰める銀ランク達。一方、微動(びどう)だにしないハイデーモン。




 空気が重い。




 無音が痛い。




 お腹が引っ込みすぎて穴が開きそうだ。




 ピストルを・・・いや、マシンガンを向けられている状態を想像してみてほしい。

 いつ撃たれるか分からない。

 せめて銃口の少しでも横に移動して偽りの安息を得たい。




 そんな凄まじい殺気と緊張感が支配する空間。




      ポキッ




 銀ランクの誰かが踏みつけた木の枝から音がする。

 それを皮切りに両者一斉に飛び出す。





 ガキイイィィィンン!!





 銀ランクリーダービレットの剣と、ハイデーモンの爪が激突。

 衝撃音が風圧となって、リリフの前髪を揺らす。




 ピィィンンキイィィンン!

 直ぐさま近接武器を身体の一部と化したモンクのブルーダは、踊るように切りかかる。



 ブオオォォオォォッ!!

 唸りを上げて襲いかかる蛇の尻尾を、大盾で防ぐ山岳士のレイン。



 間髪入れず防御力底上げの魔法をかけるクリム。

 直ぐさま背後からハイデーモンに突っ込むビレット。




 グオッ!バキィィンン!キィンッ!キィンッ!ボフッ!ガゴォォ!キィィン!




 動体視力が良いリリフでさえ動きを追うのがやっと・・・いや、正直見えてない部分も多い。

 それ程凄まじい連撃の応酬となっている。



 普段は漁夫の利を狙って近づいて来るモンスター共も、これほどの衝撃音や衝撃波が飛び交っている状態では萎縮いしゅくして、しばらくこの周辺に姿を現わす事は無いであろう。




 正にレベルが違う。




 冒険者達の通説として、黒ランクと銀ランクとの間には大きな壁が存在すると言われている。

 何故なら昇格条件であるデーモン撃破を達成する為には、当然だが相手にダメージを負わせなければならない。



 しかし、この物語を書き始めた最初の頃に登場した、マーキュリー率いる紫ランクの冒険者はかすり傷すら付けられなかった。



 決してマーキュリー達が弱い訳ではない。

 デーモンが強すぎるのだ。



 そのデーモンを倒した事がある人物、それが銀ランク。

 やはり普段おちゃらけてはいるが、ビレット達も冒険者としては別格の存在なのだ。



 つまり・・・この場ではリリフ達もルチアーニ達も全く戦力にならない。

 例え一合でも打ち合う事も出来ないであろう。



 ビレット達が負ければ自分達も命は無い。

 しかし邪魔になるだけなので、手を貸すことも出来ない。

 出来るのは祈ることのみ。




 ——頑張れ——頑張って——




 そんな願いを前方の衝撃波渦巻く戦場に、ただひたすらに送り続けるのであった・・・




「もらったあぁあ!」

 ビレットの剣が唸りを上げて振り下ろされる。




 ピシッ



 ハイデーモンの腕に浅い傷がつく。



「く・・・」

 ビレットは一旦距離を取るため後ろにジャンプ、リリフ達の前に立ちふさがる。



 同じようにビレットの近くに集まる銀ランクPT達。

 全員息が荒い。滝のような汗を流しながら必死に呼吸を整える。



「クヒョホヒョヒョウウフウフ!」



 ハイデーモンは歓喜の声を上げて、負の感情をゴクゴクっと食している。




「ワリィ・・・勝てねえわ・・・」

 常に前向きな発言をしているビレットが悔しそうに呟く。




 それはリリフ達が1番聞きたくなかった言葉。

 しかし戦いを目にして、常に頭に浮かんで来ている言葉。

 何とか受け入れまいと必死に否定していた言葉だった。



「ま、しょーがあるまいて」

「年貢の納め時じゃな」

「・・お前らを誇りに思うぞ」

「うんうん。未来があるなら今晩誘ってたわぁ」



 ルチアーニ達は笑顔で受け入れる。



「私も・・残念だけど、冒険者やるって決めた時から覚悟してた事だし」

「わたくしも悔いはありませんわ。嘘ですわ。悔いはありますが、精一杯生きました。それに嘘はありませんわ」

「ブルニは皆さんと一緒に最後を迎えれて感謝ですっ」

「難民キャンプを追い出されて死ぬはずだった僕たちを救ってくれて、ここまで連れてきてくれて・・これ以上求めてはバチがあたります」



 リリフ達も涙を流してはいるが笑顔だ。



「ちょ・・ちょちょちょちょっ!待てよ。りりぴょん達を死なせる訳にはいかないって」

「そーそー!超かっこわりーじゃん。やっぱ最後はカッコつけて死ななきゃね!」

「うぇ〜い。いっちょやったるかぁ」

「だな。多分ここでりりぴょん達を守る為に俺達は冒険者をしてたんだな」

「うおっ!何何?!それ超カッコ良いじゃん!生まれてきた意味的な?!」

「うひょー!燃えてきたぁ!」



 大盛り上がりの銀ランク達。しかし段々と身体が光始めている。



「あんた達!おやめ!」

「そうじゃ!自分達だけ犠牲になろうなんてワシは許さん!」

「同じ魂を燃やすならワシらの方が良い!若い命を散らすな!」



 ここでようやくリリフ達にも、ビレット達が何故光っているのかが分かった。

 要は自らの魂を糧としているのだ。



 魂の力は光属性に少し似ている。



 またまた最初の頃のお話に戻ってしまって申し訳ないが、紫ランクのマーキュリーがデーモンに襲われていた時、魂の力を利用して結界石を短時間で起動させた事が有ったと思う。

 光属性と結界は相性が非常に良いので、そういった事が起こったのではないかと推測される。



 つまり魂の力はデーモン達悪魔種に対抗しうる力なのだ。




 そんな悠長ゆうちょうに説明してる暇あるの?・・と思う方もいるかもしれないが。


 今、肝心のハイデーモンは食事に夢中だ。


 どうやら今生の別れ、現世との最後の挨拶、遺言などのやり取りは、膨大な負のエネルギーを放出しているらしい。

 歓喜の声を上げながら、濃厚な感情をゴクゴクと飲み干している。

 その場でクルクルと回る姿は、まるで喜びのダンスを踊っているかのようにも見えてしまうほどだ。




「やめてっ!ビレットさんっ!!ブルーダさんっ!レインさんっ!クリムさんっ!私達の為に犠牲になんてならないでっ!」

「そうですわっ!最後までご一緒に戦いますわっ!」

「ブルニも精一杯お手伝いしますっ!」



 大粒の涙を流しながら必死に叫ぶリリフ達。

 それを笑顔で見つめて首を振る銀ランク達。



「りりぴょん。あの時救ってくれてマジさんきゅ。あの時・・・邪神との戦いの時・・・俺はビビっちまって・・ホント情けねーぜ。邪神が勝ったらどのみち俺ら全員全滅するってのによ。どうしても足が前に出なかった。マジ凹みっしょ。こんなに俺ら弱―んだって、自分が情けなくてよ・・・でもりりぴょんが前に出て、そして邪神に勝った時、俺は子供のように興奮したよ。マジすげー!マジすげーってな。あの時、りりぴょんが前に出て、道を示してくれなかったら、邪神に勝ててたとしても俺たちの心は死んでた。りりぴょんがいてくれたから俺たちは救われた。りりぴょんが繋いでくれたから俺たちは生きてられるんだ。だからこそ今度は、逃げねぇ。りりぴょんが言ったようにここで逃げたらマジ終わりだ。生き残っても意味がねー。だったら今度は俺たちに繋がせてくれ。りりぴょん達の未来を。俺たちの希望を」



「ビレットさん・・・」

 リリフは大粒の涙を流し、ビレットを見つめる。



 そんなリリフにビレットはとびっきりの笑顔を向けた。



「うえぇい。りりぴょん、そんな顔すんなって。最後は笑顔で行こーぜい」

「そうだぜぃ!犠牲なんかじゃない!えーと・・・なんて言うんだろ?・・・なんか自己犠牲?あっ、それじゃあ一緒か?!ぎゃははっ!」

「俺たちの命でみんなが救われる・・・最高かよっ!」

「頼むぜ、ルチポン。俺たちの希望を・・俺たちを救ってくれた希望を頼まぁ」



「あんたたち・・・」



 ルチアーニは涙を流しながら唇を噛む。

 そしてグッと決意した表情になり、リリフの腕をグッと掴み離さない。




「ルチアーニさんっ?!ダメですっ!ビレットさんがっ!みんながっ!」




 泣き叫ぶリリフを、ミケルも加わり強引に奥に引っ張っていく。



 ビレット達は小躍こおどりしているハイデーモンに視線を固定しながら、最後の言葉を交わす。




「3分だ・・・ワリイ・・・正直3分しかもたねーわ」

「超かっこわりー」

「その間に、めいいっぱい距離を取ってくれ。大丈夫。戦ってみて分かった。コイツはあくまでも目で追ってる。強さは数段上がってるが、索敵能力は、あんま変わんねーみてーだ」

「ああ、多分野良デーモンと変わらないね。きっと逃げ切れる。カルカ村までダッシュだぜっ!」


「てか、それなら最初から俺らも手を出さなければよかったんじゃねっ?!」


「だなだなっ!俺ら超アホだぜっ!」

「ギャハハ!だったら精一杯オトリになってやんよ!」

「おうよ!簡単に殺せると思うなよ!クソデーモンがっ!」



 更に更に銀ランク達の身体が光り輝いていく。





「いやあああぁぁ!ビレットさんっ!ブルーダさんっ!レインさんっ!クリムさぁぁんっ!」





 リリフの泣き叫ぶ声が後ろから聞こえる。

 それだけで全員の顔がニヤける。



 自分達の事を仲間として扱ってくれている。

 自分達の事で泣いてくれている。

 自分達の事を大切に思ってくれている。



 それだけで力がみるみる湧いてくるのを感じた。




「いくぜ」

「おうっ!」



 銀ランク達が力を解放しハイデーモンに向かって突進しようとした、正にその時・・・






 ズゴオオオゴゴゴゴオォォォオウウウウンンン!!






 凄まじい音を、衝撃音を響かせながら光の柱が出現し、ハイデーモンを包み込む。




「グギャアアアギャグゴオオォォ!」




 ハイデーモンが始めて悲鳴に近い声を上げた。



 同時に現われたのは3人組。

 皆白い装束に身を包み、ハイデーモンを囲む。


 頭から布が垂れ下がった帽子のようなものを被っており、顔全体を隠していた。


  

 あれじゃあ視界が遮られて、彼ら自身も見えてないのではないかと心配になってしまうが、動き方を見る限り問題はないようだ。



「うおっ!誰だっ?!」

「えっ??な、仲間?!」



 銀ランク達もリリフ達も、突然現われた来訪者に呆気あっけにとられ、動きを止める。



 ハイデーモンを攻撃してる所を見ると敵ではないようだ・・・という考えが1つ。



 もう1つは何よりもハイデーモンに決定的なダメージを与えている事。



 恐らく自分達が魂を燃やしてでも与える事が出来なかったであろうダメージを叩き出しているという事実が、銀ランク達の足を止める。



「ビレットぉ、アイツら誰?虹ランク冒険者?」

 ブルーダが小声で尋ねる。



「いや、ステータスが見れねえ・・・てかステータスそのものがねえ・・・」

「え?・・・それって・・・」



 ヒソヒソと話している最中も、ハイデーモンと白い装束達の戦いは続いている。




 ガキンッガキンッ!




 ハイデーモンの爪と・・・白い装束達の『手』が激突している。



 そう、驚くべき事に白い装束達は素手で戦ってるようだ。しかしよく見ると手がぼんやりと光輝いている。



 ババッババ!

 白い装束の1人が手を素早く動かす。




「※※※※※!」




 え?!

 なんて?!



 確かに何かを言った。言葉にした。

 しかしリリフ達に聞き取れる事は出来なかったのだ。




 前にも説明させて頂いたが、もう1度。



 この世界は6大基礎魔法と呼ばれている魔法がある。

 通話、ステータス、時計、魔法メモ、魔法通貨、翻訳は基礎魔法パックとして無料で配られており、誰でも習得可能だ。


 その中の翻訳。


 これは自分が意識せずとも勝手に発動し、翻訳してくれるという超優れもの。

 世界中の言葉を網羅しており、言葉が通じない相手を探す方が、逆に大変なくらいなのだから・・・





    グガアアンンン!




 再度凄まじい光の柱がハイデーモンを包み込む。




「ギュヨガアアヒョグギェエエエ!!」




 森林にハイデーモンの悲鳴がこだまする。



 なるほど、どうやら勘違いではなさそうだ。



 この3人組は間違いなく光属性を操っている・・・



 今現在、世界で確認出来ている光属性持ちの存在は2人。


 世界的に有名な巨大チームを率いるリーダー。

 そしてゼロス信仰総本山の80を越えるご老体の神官長のみだ。



 凄まじい連撃、息ぴったりの連携に見とれてしまい、1箇所に集まるリリフ達。



 やった。助かった。

 などと思っている者は1人もいないであろう。

 それほど人間離れした能力と存在感に圧倒されていた。




  ガガンッ!バギャゴンッ!ズガアアンッ!




 銀ランク達の連撃も素晴らしかったが、こちらの3人組は更に一撃一撃が重い。

 確実にハイデーモンを追い詰めていく。



 いや、冷静に見てみると白い装束の2人は主にサポートのようだ。

 1つ1つの攻撃は銀ランクのビレットとほぼ同程度に感じる(それでも十分凄いが)



 そしてもう1人。



 よーく見ると白い装束の所々で赤い縁取りがされていて、生地も光沢を放っている。

 どうやらリーダー格の人物のようだ。

 そして明らかに圧倒的な火力を叩き出している。




   ババババッ




  再度、ハイデーモンの左右に位置取りしたサポート役の2人が、手を素早く動かし何かを呟く。



  するとハイデーモンの足元にボオォっと魔法陣のようなものが大地に出現した。




「ギョワッ!」

 動揺するハイデーモン。




 それを逃さず力ある言葉を放つ存在。




「※※※※※※※!!」




 先程からの凄まじい爆音とは打って変わって、優しい光に包まれるハイデーモン。



 しかし・・・





「ギョワギャクギャアアアヅビョフギョリアアアァァ!!・・ァ・・ァ・・・」





 身もすくむような断末魔を上げ苦しむハイデーモンだったが、直ぐにその声は光に飲まれていった。




 ・・・シーン・・・・




 辺りは再び静寂が支配する空間へと変わる。

 サラサラと木々の葉っぱが風に揺れる音が聞こえてきた。



「助かった・・・の?・・」

「しっ!」

 リリフの小声の呟きをピシャッと制するセリー。



 もちろんルチアーニ達も、ビレット達も緊張の糸を解くことはない。

 全員身構えて白い装束達の動向に注視している。



 サポート役の1人がバッと手のひらをかざす。



 瞬間に光の球がリリフ達に襲いかかる!



 バシュンッ!



 すかさず大盾で受け止める山岳士のレイン。



「ぐわああぁ!やっぱりかあぁぁ!」

「マジ?!マジで敵なの?!」

「ふええぇぇんん!」

「あかん・・・勝てる気がせんわい・・・」

「ワシの一発ギャグでなんとかならんかの」

「ランドルップさん。火に油を注ぐのは止めて下さいっ」



 大騒ぎのリリフ達一行。

 更に追撃の光の球を出そうとするサポート役に対し




「※※※・・・」




 静かに言葉をかけるリーダー格。


 相変わらず何を言っているのかは分からないが、何となく『やめておけ』と言っている気がした。

 サポート役はその声にならい、攻撃をやめてリーダー格のもとにひざまづく。



 リーダー格の人物は、大地から生える異形の指を見上げて手をかざす。



「※※・・・・※・・・・※※・・・※※※・・・」



 どことなくお経にも似た、低い声で何かを唱えるリーダー格。それに呼応して左右からサポート役の2人も何かを唱える。



 するとチカチカっと照明が点滅するかのように、何回か白い光に包まれた異形の指。

 直ぐに周りの風景に溶け込み、あっという間に姿を消した。



「えっ!?き、消えた??」

「うそ・・」

「どうなっとるんじゃ」

 驚きの声を上げるリリフ一同。



 リーダー格の存在は、ちょっとだけリリフ達に向き直り




「・・・サレ!・・・ワス・・レロ!・・・」




 普段使ってない言語なのであろう。搾り出すような声で忠告する。




———去れ。忘れろ———




 お前達は知らなくていい。関わるな。

 そんな一切を拒絶するかのような雰囲気がそこにはあった。

 


 そして信じられない跳躍を見せて一気に木の上まで登り、木から木へとジャンプしながら去っていく。同じように飛び去るサポート役達。



 あとには今まで通りの風景だけが残されていた。

 大気中に僅かに感じられた、邪悪な妖気もいまは全く無い。



「い、行っちゃった・・」

「と、とりあえず・・・助かった・・という事でしょうか」

「うむ。とりあえず・・な・・」



 さっきまで指が生えていた場所を、手を振り振りしながら確認しているビレットは

「ま、マジでねーぞ。幻惑や結界で隠してるとかじゃねぇ。指が生えてた空間そのものが消えてるぜ」

「・・・」



 皆、狐につままれたような気分だ。

 ポカーンとしばらく異形な指があった場所を見つめている。



「よ、よしっ!とりあえずこうしてても仕方ない!一旦カルカ村まで帰還するぞい」

「そ、そうですね!一旦帰りましょう!」



 妖気が無くなったとはいえ、ハイデーモンと出くわしたのだ。

 あまりノンビリと、この場所に留まる気はしなかった。

 リリフ達は足早にカルカ村に帰還するのであった。





「ふぅ~~」「はあぁぁ」「ふへぇ・・・」



 カルカ村の結界内に入り、大きく息を吐くリリフ。

 横を見ると同じように全員が、ため息を吐いていた。



 時間は15時前後、そろそろ日も傾きそうだ。



「あははっ。やっぱし緊張したねぇ~」

「ですわぁ・・正直ほっとしましたわ」

「うむうむ。やはり結界は偉大じゃのー」

「うえぇーい。とりま全員無事で超アゲアゲじゃんっ!」

「だなぁ。なんか俺らちょっとダサくね?結局なんもしてねーしっ」



「そ、そんなことないですよっ!ビレットさん達がいなかったら私達全員あっという間に殺されてましたもんっ!凄かったですっ!」



「くうぅぅ。りりぴょんの優しさが染みるぅぅ!」

「やっぱりりりぴょん神っ!超神っ!」

「や、やめてってばぁ~。その輝いた目で見るのやめてー!」



 リリフがビレット達にからかわれていると

「さあさあ、ふざけてないで移動するよ。とりあえずPT毎に部屋をとって一旦休憩。各自仮眠をとるなり、お風呂に入るなりして心を落ち着かせて頂戴。19時に食堂で待ち合わせ、その後に今後について話し合いをするだわさ。いいかい、それまでは迂闊(うかつ)に話すんじゃないよ。誰が聞いてるか分からないからね」



「そ、そっか・・そうよね!分かりましたっ、ルチアーニさん」

「俺たちもりょーかいっ」



 そしてリリフ達はシャワーを浴びて汗を流し、一旦仮眠をとる。

 やはり疲れていたのであろう。

 比較的早く眠りに落ち、3時間近く仮眠を取ることが出来た。



 カルカ村に食堂は1軒しかない。

 リリフ達が足早に食堂に向かうと既にルチアーニ達、ビレット達が席に着いていた。




「ご、ごめんなさいっ!お待たせしましたっ!」

 リリフ達は慌てて椅子に座る。



「あらやだ、時間通りよぉ?謝らないで」

「うぇーい。りりぴょん、よく眠れた?」

「あっ、はいっ!結構ぐっすり眠れましたっ!」

「くぅぅー。やっぱ度胸がちげーのか!俺っち全然寝れなくてよー」

「ぎゃははっ!気が小せーぜ!俺ら!」

「だなだな。もっとりりぴょんみてーにドーンと構えよーぜ!」

「ぎゃー。もうやめて下さいっ」

「あははっ」



 カルカ村唯一の食堂で盛り上がるリリフ達。

 どうやらルチアーニが気を利かせてくれて、個室を押さえてくれたようだ。

 あまり客もいない事もあり、他の人に会話を聞かれる心配もなさそうである。




「それじゃあ、まずはリリフちゃん、セリーちゃん。黄色ランクに昇格おめでとう!」




「!!!!」

「おおっ!こりゃ凄いのぉ!」

「ウエーイ!りりぴょん、セリリン。おめっとさん!」



「えええっ?!ホントですか?!」

「わわっ!リリフ姉様っセリー姉様っ!本当です!ステータスが黄色ランクってなってますっ!」



「わー!ビックリ!全然気付かなかったぁ。あははっ」

「わたくしもですわっ。冒険者になって、もう3ヶ月が経ったのですね。なんだか感慨深いですわぁ」

「ホントだねぇ」



「僕も早くリリフね・・様のように昇格したいものです」

「ブルニもですぅ。リリフ姉様っ。どうすればブルニも黄色ランクに昇格できますかっ?!」



「えっとね。冒険者登録してから3ヶ月経つと自動的に昇格するみたいだよっ。だからブルニ達ももうすぐだねっ」

「そーなんですねっ。ブルニとっても楽しみですっ♪」

「うんうんっ」



「それとリリフちゃん、セリーちゃん。2人とも本当に凄い。過去の忌まわしい記憶と戦うのは大変だったろうに。おばちゃん、改めて諦めない気持ちの強さってのを感じたわさ」



「そうじゃそうじゃ!ありゃヒヤヒヤしたが本当に感動したぞいっ」


「リリフ姉様っ、セリー姉様っ、とっても格好良かったですぅ!ブルニも気持ちを強く持つ大切さを学びましたっ」


「うえぇーい。やっぱりりりぴょん、セリリンはメンタル鬼強っしょ!俺らだったらぜってー逃げてるしっ」


「そうそうっ!俺ら直ぐ逃げるし、直ぐ投げ出すし、人のせいにするしね」



「ぎゃははっ。それじゃあリリフちゃんはメンタル銀ランクじゃなっ」



「うえぇーい。ランドッピ、ナイスネーミングゥ!」



「いやいや、りりぴょんは虹ランクっしょ?!メンタル虹!レインボーリリフ!」


「くぅぅぅ!俺らチーム名だけレインボーとは訳が違うっしょ!流石リリフパイセンだぜっ!」



「もうっ!知―らないっ。プイッ」



「おわわあぁ!どーすんだっ!嫌われちまったぜっ?!俺ら!」

「ぎゃははっ」




「そ・れ・と」



 大盛り上がりのビレット達に向かって、ルチアーニがニンマリしながら言う。



「あんた達も・・・命を賭けてあたし達を助けてくれてありがとね」



「そーですよっ!ホントに凄かった!」

「まさかご自身のお命を犠牲にして、助けて頂けるとは思ってもおりませんでしたわ!」

「ブルニ感動しましたっ」

「僕から見れば、皆さんこそメンタル虹です」



「ぬおおおぉぉ!!恥ずっ!超恥ずかしいぃぃ!」

「やっぱガラにもねーことするもんじゃねーわっ!」

「何が『3分だ・・3分しかもたねーわ・・』だよっ!キモいんだよ!」

「あんだとぉ?!テメーこそ『俺たちの希望を頼む』とか言ってたじゃねーか!キショいんだよっ!」



 ギャアギャアと騒ぎ、取り乱す銀ランク達。



「あははっ。そんなことないです。本当に皆さん格好良かったですよ。私もいつか皆さんのようになりたいです」



「・・・お、おう・・・」



 リリフの率直な素直な感想に頭を掻きながら照れてしまう。

 どうやら褒められる事に慣れていないようだ。




「それでね・・・ここからが本題」




 ルチアーニの言葉に全員が真面目な顔になる。



「まずは・・・あの指。異形の指っていうのかね。あれは・・なんだろうね?」



「じゃな。まず確かなのは・・邪悪な存在って所かの?」

「ですわね。禍々しい気をビンビン感じましたわっ」


「あれが身体の一部と考えると・・かなりの大きさの存在ですね。先日の邪神よりも大きな悪魔種・・という事でしょうか」

「確かにヤベーくらいデケーっぽいな。邪神よりもツエー奴っているんだっけ?」


「うんむ。ワシの記憶が確かならおらんな。邪神と魔王・・じゃったと思うぞよ。最終形態は」


「てコトは魔王・・てことですぅ?」



「いや、違うと思うけどねぇ。歴史の記録によると魔王の現出が確認されたのは・・・ほら、以前アーニャ様が説明して下さったのを覚えてるかしら。3000年前の大厄災後に人々は散り散りに生活していた。その日暮らしの狩猟生活。けど聖なる泉を利用して周囲に聖水を張り巡らし、大規模集落を形成してた場所もあったって話。その集落の住民のほとんどを飲み込み、最終形態の魔王まで昇格した個体がいたみたいよ。でも大きさの記載はないの。恐ろしく強いって事のみで。もし魔王があれだけの大きさだったら、その事も記載されてると思うし、そもそも、その時の魔王は今も実在してるしねぇ」



「なるほどですわ。つまりその時の個体のみって事ですわね?魔王が確認がされているのは」

「ええ。一応記録が残っている間では、他の魔王は確認されてないはずだわさ」


「ふーむ。結局は分からんっちゅーこっちゃな・・・じゃが、あれはあれじゃろ?少なくとも活動はしておらん・・・確かに邪悪な気は放っておったが活動はしておらんよな?」


「うむ。恐らく封印されているんじゃないじゃろうか」


「もしくは、分裂させた肉体を処分する事が出来ずに、そのままになっている可能性もありますね」

「流石お兄ちゃんっ」




「そうね。そして・・・仮に封印されているとして・・・それに大きく関わっていそうな3人組の存在」



「うんむっ。あれは何者じゃろうか」



「なんか光ってたよねっ?攻撃が。それって・・・」

「ああ。りりぴょんの言う通り、ありゃぁ光属性だな」



「光属性って凄いんですぅ?」

「うんうん。ブルニちゃん。光属性ってのはもの凄い貴重なの。確か2人だけだと思うわ。今現在使い手が確認されているのは」



「3人ですわっ。ミール様が居られますものっ」

「ああ、そうね。黄色ちゃんも使えるものね。非公式だけど」

「その非公式が増えたっちゅーこっちゃな」



 ミールの存在をビレット達には話していない。

 なのでビレット達からすると、普通は聞いてきそうなものなのだが・・・

 一切、この話題に入ってこない銀ランク達。


 もしかしたら、英雄様=ミールという繋がりを察しているのかもしれない。


 まあ、ビレット達はリリフ達に心酔しているので、仮にミールの正体を知ってしまってもリリフ達に迷惑になりそうな事はしないであろう。



「なんかさ。奴ら・・・訳わかんねぇ言葉喋ってたろ?」

「そうじゃな。ワシ全く聞き取れんかったわ」



「てことは・・・なんだっけ?なんかあるんだよね、自動で聞き取れるようにしてくれる魔法っ」

「翻訳ですわ、リリフ」



「そうそうっ!それそれっ!ミールが言ってたけど結構全世界を網羅もうらしてるって言ってたよっ!それに対応してないって事はかなりの少数民族って事だよねっ」



「なるほど。そこを重点的に調べれば、或いは正体が分かるかもしれんのー!」

「でしょっ!でしょっ!」

「流石リリフ姉様っ!」

「えっへっへぇ」



「いや、りりぴょん。そう簡単じゃねーかもしれねーぜ」

「え?」



「奴ら・・・ステータスがなかったんだ」

「え?登録してないって事?」



「いや、ステータスそのものがねえ。そういった概念がいねんがない連中ってことさ」

「って事は・・・どゆこと?」



「つまり人間種じゃないって事だわさ・・・ううん。違うわね。『魔力』を持ってない存在って言った方がいいのかしら」

「全くの別物・・・例えるならばモンスターって事じゃな」



「うんむ。しかし光属性を使っている所を見ると、モンスターといっても悪ではなさそうじゃな。一応ワシらには攻撃して・・きたが見逃してくれたしの」


「だな。よくわかんねーけど敵対はしてねーみたいだ」



「そしてあの指に対して何らかの情報を持っているって事ですわね。指を隠す結界は彼らが張ったものですもの」



「あれなー。マジでどういう作りなんだろうな。見えなくするんじゃなくて存在そのものを消すんだもんよ」

「うむ。じゃから今まで誰も発見出来てなかったっちゅーこっちゃな」




「・・・てことはぁ・・・他にもいっぱいあるって事ですぅ?世界中に」




「・・・」

 シーンと静かになるリリフ達の部屋。

 外からは人々の笑い声が聞こえてくる。



「これって・・・報告します?」

「うむ。問題はそこじゃな」



「もしかしたら国家機密的なやつかもしれませんわ。そうなると報告して逆に危なくなるのはわたくし達ではないでしょうか」

「ふえぇん」

「ですね。報告するにしても相手を選ばなければ」



「やっぱしアーニャ様かなぁ。アーニャ様だったら絶対に私達に悪いようにはしないと思う!」



「じゃな。アーニャ様だったら色々ご存知かもしれん。まあ太ってはいるがギルド長のザクトーニも意外と口は堅いでの」



「あははっ。太ってるてトコいらなくないっ?」

「ブルニ、ザクトーニさんのお腹好きですっ。ぷにぷにしててっ」

「ブルニちゃん、ワシもそこそこプニプニしとるぞいっ」

「そりゃ皮膚がたるんでるだけじゃ。プニプニというかブヨブヨじゃな」

「あははっ」



 やっぱり仲間って良いな。

 なんでも話し合える仲間がいるだけで、気持ちが楽になる。

 そんな事を思うリリフであった。


    




 ミールがスワップの街に来て1週間が経過した。


 その間、特に変わった点はない。

 残念ながら強力な憑依魔石も、脈打つ瞳に関する記述がある古文書も、言い伝え類いの有益な情報も何一つないまま。



 例の悲壮感漂う女も3日ほど過ぎた頃には姿を見せなくなり、別の街に移ったのだろうとミールの頭の中からもすっかり消え失せていた。



 そんな中、お目当ての資料館や図書館に入れない状態のスワップの街を諦め、別の街・・・というかババリオン国の聖都まで足を伸ばす事にしたミール。



 行きつけの店主にお別れの挨拶に向かう。



   カランカラン———



 いつも通り、何処か懐かしい音を響かせながら扉が開く。



 しかしミールの目に飛び込んできたのは、カウンターで頬杖をつきながら困った表情を浮かべている店主と、その視線の先にいる・・・あの悲壮感漂う女の姿だった。



 今日はいつもにも増して悲壮感・・・というか最早この世の終わりのような絶望感満載の表情を見せている。



 召喚魔石に顔が付くのではないかと思うほど至近距離で魔石を交互に見比べている。



 しかし、どっちが良いか?この召喚獣は自分にはまだ早いか?等々。

 そういった見定めは出来ておらず、もう何が何だか自分でも分かっていない、簡単にいうと完全に沼っている表情が見て取れる。



 あまりの悲壮感に店主も声をかけれない感じで、苦笑いしながら女の動きを目で追っていた。



「よ、よお・・・」

「お、おう・・・」

 ミールと店主は互いにぎこちない挨拶を交わす。



 ミールも店主と気軽に世間話をする雰囲気のない店内に気後れしたのか、自然と1組しかない椅子に腰掛ける。

 そして同じように女の行動を目で追っていた。




「はあぁああぁぁ・・」




 全てを凍りつかせるような深いため息をつく女。



 虚ろな目で1つの魔石を手に取り店主のもとに歩み寄る・・・が、ポトリッと魔石を落としてしまう。



 しかし女は全く気付かずに、何もない空気をカウンターに置き

「これを・・・お願いします・・・」

「お、おう・・・ねーちゃん・・・何も持ってねーよーだが?・・・」



 店主に言われ、ようやく魔石が手に無い事に気付いた女は

「うへ・・・うへへへへ・・・」

 自分の手のひらを見ながら不気味な笑い声を上げる。



「お、おい・・・」



「ひひひ、そうですか、そうですか。遂に魔石も私を拒否しますか・・・ええ、ええ。そうでしょうとも、そうでしょうとも・・・うひひ・・・どーせ私なんて召喚士とは名ばかりの無価値な存在ですから・・・うひ・・・うひ・・・うひひっ・・・うえっぐっ、えっぐっ・・・うええぇぇええぇぇんん!!」



 遂に床に座り込んで大号泣してしまう。



「お、おいっ・・・な、泣くなって・・なっ!なっ!」

 他に客はいないとはいえ流石に慌てる店主。オロオロとミールに助けを求める。



「ほ、ほらっ!コイツを見てみろ!コイツはあれだぞ?!すげーんだからっ!なっ!?なっ!?」

「はぁ?・・知らねーって。巻き込むな」



「ほらほらっ!コイツ使役士なんだ!ああ・・分かってる分かってる。召喚士と使役士が仲が悪いってのはな。だがな・・・一応呼び出してるもんは似たようなもんじゃーねーか。コイツはスゲー使役モンスター持ってるんだぜ??なっ?何か参考になるんじゃねーのか??」



 すると女は虚ろだった目をギャンっと見開き、ミールの腰元に抱きつく。



「お願いしまああぁぁすすぅぅ!!召喚士様ぁあぁ!」

「い、いやっ!俺は使役士だ!召喚士じゃねーって!」



「使役召喚士様あぁぁ!助けてくださあぁいい!」

「だから違ーって!オチツケっ!」



 泣きつく女を何とかなだめ、椅子に座らせたミール達。



 しばらくしてポツリ・・ポツリと・・・話し始める。



「私は・・・ぐすっ・・・私は・・・召喚士なんですぅ・・・」

「・・・」



 ミールも店主も『みりゃ分かる』『知ってるわ、ボケ』との言葉を喉元で何とか食い止める。



「この国では珍しくもない適性だけど・・・私の国では凄く珍しくて・・・ギルドでも私の適性が分かった時はそれはもう大騒ぎでした・・・だけど・・・段々と日が経つにつれて・・その期待は失望に変わっていきました・・・何故かって?・・・私は召喚獣と契約が出来なかったんです・・・召喚士は召喚獣と契約して始めて一人前・・・召喚獣と契約出来ていない召喚士はハッキリいってタダの一般人。戦闘では何一つ役に立たない存在だからです・・・」



「属性精霊がいるだろ?それだけでも役立たずにはならないと思うけど?」



 属性精霊とは使役士でいう所のクルッピのような存在。

 召喚士になったばかりの新人が最初に契約する低級エレメントと言われていて、この精霊と契約する事で、自分がどの属性の召喚獣と相性が良いのかを見極める試金石にもなっている。



 クルッピと違うのは、属性精霊は戦いにおいても結構役に立つ。



 例えば炎の属性精霊だったら、周りに纏わす事で冷気系の攻撃を軽減する事が出来たりする。それも瞬間的にではなく長時間効果を発揮できるのだ。



 ミールのような属性持ちとは違い、武器にまとわせ攻撃に使う事は出来ないが、相手が強敵モンスターであればあるほど、必ずと言っていいほど属性攻撃をしてくるので、それを軽減する事ができる属性精霊は戦闘でも重宝する召喚獣なのだ。



「ええ、そうです・・・召喚士の誰しもが最初に心を通わせる召喚獣と言われている属性精霊・・・私はそれすら契約する事が出来なかったんです・・・」


「まじか・・・」


「ふふ、ふへへ・・・そう、そう・・・みんなそんな顔をしてぎこちない笑顔を浮かべていました・・・まるで腫れ物にでも触るように・・・日に日に私に対してクスクスとバカにした笑い声・・・見下した視線が増えていき・・・私は耐えられずに国を飛び出しました・・・でも国を変えても、ギルドを変えても結局は同じ事・・・召喚魔石を試すにはお金がいる・・・だから冒険者として稼がなきゃいけない・・・でも私をPTに入れてくれる人達なんていない・・・召喚出来ない召喚士に居場所なんてありません・・・遂にはお金も底を尽き、私はフラフラとフィールドを彷徨いました・・・もう死んでもいいやって・・・でも不思議ですよね・・・いつもは嫌ってほど向こうから寄ってくるのに、こういう時に限ってモンスターすら現われません・・・まるでこの世界に私しか存在してないかのような孤独感に襲われ・・・私はそのままフィールドに寝っ転がりました・・空には白い雲がゆっくりと流れていて・・・風にそよぐ草の音・・鳥たちのさえずり・・・信じられないかもしれませんが私はそこで眠ってしまいまして・・・そして起きたら目の前に今の上司・・・カインがあきれ顔で笑ってたんです・・・あ、申し遅れました。私、ホールズ地方地脈調査隊所属のコクリトっていいます。結局そのままカインに誘って貰って地方公務員になったって訳です、はい」



 女は話しているうちにだいぶ落ち着きを取り戻したようで、声も穏やかになってきている。



「まあ、良かったじゃねーか。とりあえず定職にも就けたんだろ?ああ、地脈調査隊か・・・てことは今調査してるのは姉ちゃん達か」



「あ、はい。すみません・・・ずっと原因が分からなくて・・・」



「ホントだぜ・・・まあ、あんま言いたかねーけどよぉ。住民達は不安がってるんだ。魔法屋巡りも良いけどよー。しっかり頼むぜ、姉ちゃん達よー」



「ううう・・・これでも頑張ってるんですよぉ・・・ずーっと休みが無くて・・・本当に3ヶ月ぶりに1週間休みを貰えたんですぅ・・・」



「あ・・・」

「ん?なんだ?どーしたい、ミール」

「いや・・・悪い、何でも無い」



 女の声というか、雰囲気というか。

 何処かで聞いた事ある気がしていたのだが・・・

 女の話を聞いてようやく思い出した。



 あれだ、この街に到着した初日の食堂で『休みだ!ひゃっほーいっ!』って騒いでいた連中の女の声に似ていたんだ。



 あれから1週間近く経っている。

 ミールは3日ほどで見失ったが、それ以降もずっと魔法屋巡りをしていたようだ。



「それで・・・その・・・使役士様。わたくしめに何かアドバイスなど頂けないでしょうか?・・・」


「いやいやいや。俺に聞かれたって分からないって・・・召喚獣の契約なんてしたことねーもん」



「冷てーぞ、ミール!」

「そうだそうだっ!」

「・・・」



 話を聞いてもらい吹っ切れたのか、悪ノリし始めた女召喚士コクリトに多少苛立ちを覚えるミール。



「しょーがねーだろ。召喚士は召喚獣と互いの信頼のもとに契約するんだろ?それに引き換え使役士は力で屈服させて従わせてる。力を貸すかどうか召喚獣側に決定権があるのと、強制的に従わせてる使役モンスターじゃ全く違う存在だ。アドバイスなんて出来るわけないだろ?」



「でもっ!でも同じ精神体を呼び出してるのは変わらないですよね!?なんか無いですか?!ほんの些細な事でも良いんです!何卒!何卒ぉ!」



「てか、もう公務員になれてるんだろ?てことはお金に困る事もないじゃないか。別にいいんじゃないの?契約出来なくても」



「やだあ!ヤダヤダヤダ!私は絶対に冒険者になりたいんです!子供の頃に助けてくれた優しい笑顔のお姉さんの様にっ!困ってる人、助けを求めている人の力になれるような!そんな冒険者になる事が夢なんです!お願いします!男前の冒険者様ぁ!」



「・・・」



 ちょいちょい調子に乗っているかのような・・・人をいらつかせるような・・・余計な一言が見て取れるが、本人に悪気は無いようだ。



「お嬢ちゃん。とは言うが、今は地脈調査隊なんだろ?辞めさせてくれるのかい?さっきの話じゃ命の恩人みたいじゃねーか。アンタの上司さんはよ」



「あ、はい。最初から冒険者になれるまでって話だったので。顔も言動も怖いけど、とっても優しい人なんです、うちの隊長は。恋愛対象としては無理ですけど」



 しばらく静寂が支配する店内。

 店主も女召喚士コクリトもジーっとミールを見つめている。



「はぁ・・わーったよっ!分かった!やりゃ良いんでしょ?!だけどな、本当に力になれるかは分かんねーからなっー」


「はいっ!ありがとうございます!メニロ・クオント似の使役士様っ」



 メニロ・クオントとは女性に大人気の人気ボーカルの名前だ。



「・・・ったく・・・まあいいや。とりあえず召喚士について教えてくれ。俺は一般的な事しか知らないからな。どうやって契約するんだ?」


「あ、はいっ。えっと・・・魔石屋さんにある魔法陣を使って契約しますっ」


「それは知ってる。実際に魔法陣で何をするんだ?祈るのか?」


「あ、はい・・えっと・・決められた言葉をつむぎ呪文を唱えます。そうすると召喚獣の声が聞こえてくる・・らしいです。私には経験が無いですけど・・」


「ふ〜ん。まあ、とりあえず実際に見せてくれよ。気になった点があったら言うから」



「分かりましたっ!お代はお任せくださいっ!先生の分まで私が出しますから!」

「まいど。2人で5000グルドだ」



「なんだ?部屋代じゃないのか?人数分取るとは悪どいな」


「良いんです!いつも1人で心細かったですし!これくらい・・なん・・とも・・」



 見る見るうちに顔面し蒼白になる女。冷や汗が顔から滴り落ちる。



「あ、あの・・・その・・」

「なんだ?どーしたい??」

 店主もいぶかしげな表情を見せる。



「えっと・・・お金が・・・その・・」



 これは恥ずかしい。


 お会計時に『ここは自分が出すよ!』と大見得を切った挙句、お金が足らない時ほど恥じかしいものはない(筆者体験談)



 正に穴があったら入りたいと言った表情をしている。



「おい。今回俺は付き添いだけなんだから1人分だけでいいだろ?ガメツイんだよ」


「なにをー!これでも充分安い方だぜ?!・・・とはいえ・・わーったよ。確かに今回は特別だな。いいぜ、2500グルドにしといてやらぁ」



「あ、あの・・・それでも足らない・・んですけど・・・」

「・・・」

「・・・」



 沈黙する店内。

 コクリトは顔を真っ赤にしながらうつむいている。



「ふ〜・・はいはい。分かった分かった。ここは俺がおごってやるよ」



「ええー!!先生に出してもらうなんて!そんな罰当たりな事できません!」



「おっけ。じゃあ解散。じゃあな」




「嫌じゃあぁぁ!!見捨てないでえぇぇ!!」




「うおっ!抱きつくな!離れろって!」

「ふぎぎぎぎ!」



 必死の形相でしがみつくコクリト。

 ミールが顔面を思いっきり手のひらで制しているので鼻の穴が広がり、とてもお嫁に行けない表情になっているのだが構わずミールにしがみつく。



「分かった!分かったって!奢ってやる!だから離れろ!」

「ぐすっ・・えへへ」



 照れくさそうに笑みを浮かべ、鼻をさする。



 泣いたり笑ったり怒ったり絶望したり・・・色々と表情豊かな女である。

 ミールは苦笑いをしながら店主に金を払う。



「そういえば魔石はどれにするんだ?さっき持ってきてたよな?」

「あ、はい・・・えっと、これです」


「はーん。よくわからんけど、それじゃあこれで行ってみっか」



「おいおいおい。こいつは良い魔石なんだぜ?高ランク間違いなしの『祝福の精霊』だ。熟練の召喚士でも契約出来るヤツは限られてるっもんよ・・・姉ちゃん、悪い事言わん。もう少し低レベルな魔石にしとけ」

「うっ・・」



「へー。そんな良い魔石なんか。まあ、いいよ。どーせ交信すらできんだろうし」



「しょんなあぁぁ!!酷いですぅぅ!」

「ああ!うるせー!うるせー!ほら!シャキッと歩け!」

「ひぃいぃんん」



 抗議の声を上げる女を黙らせ契約部屋に入っていくミール。

 段々と扱い方が分かってきた感がある。



 契約部屋の大きさは6畳程。

 店舗と同じ木造の壁面に囲まれており、特別この部屋だけ違う作りなどにはなっていないようだ。



 部屋には窓は無くロウソクの光のような魔法照明が弱々しく照らしている。

 しかし床面には発光している魔法陣が部屋全体に広がっているので、明るさに困る事は無さそうだった。



 正面の壁にはちょっとした祭壇が作られており、ここに魔石を置いて祈りを捧げるのだろう。

 簡単なお供え物なども置かれている。



 ちなみに、この国の魔法屋、魔石屋はどんな小さな店でも契約部屋があるのが特徴だ。

 大抵の国は大きな店舗しか契約部屋は作られていない。

 何故なら召喚士の数がとても少ないからだ。

 それがこの国は必ず契約部屋が作られている。

 いかに召喚士がここババリオン国に集結しているかがお分かりだろう。




「よし。とりあえず実際にやってみてくれ」

「は、はい・・よ、宜しくお願いします」



 コクリトは緊張した面持ちで歩みを進め、祭壇に魔石をそぉぉぉっと置く。



 パンッパンッ

 神社にお賽銭さいせんを投げ入れお願いをするかのように手を合わせた。



 そしてゆっくりと魔法陣の中央に立って静かに目を閉じて祈りを捧げるコクリト。



 パアァっと魔法陣が微かに発光を強める。コクリトの魔力に反応しているようだ。

 そして女は手を顔の前で組んで目を閉じたまま言葉をつむぎ出す。




「小罪大罪有りし日の、この現世に漂し光の粒よ。神獣神木聖域の、高潔なる住人達よ。汝の願い、我が願い。共に歩みを進める崇高なる想い。どうか愚者たる我が願いに応え、この世界に現出せよ!」




「・・・」



 大きく力強く言葉を発したコクリトだったが、シーンと静まり返るお部屋。

 先程女の魔力に反応を示していた魔法陣も今は鈍い光を放っている。



「ふえぇぇんん!やっぱりダメでしたぁ!!」

 大粒の涙を流しながら座り込んでしまうコクリト。



「なるほどなるほど。今ので成功してたら交信が出来るって事か」

「そーですぅ・・・何か分かりましたかぁ?」

「いや、全く分からん」

「ひいぃぃんん!」


「うーん。さっきのさ・・・呪文っていうか・・詠唱?言ってた言葉があるだろ?あれって全部共通なのか?」


「ぐすっ・・多分そうだと思います・・・私は訓練所の先生からはそう聞いてましゅ」

「ふーん・・・」



「何かおかしいですか?」



「いや、おかしいっていうか・・・なぁ、そもそもさ。召喚獣にとってのメリットって何?」

「へ?」



「メリットだよ。メリット。契約するったって召喚獣側に何のメリットも無ければ力を貸そうなんて思わなくね?」



「そ、そう・・ですよね・・・えっと・・・この世界に現出できる事・・ですかね?」



「確かにこの世界に具現化できるのはメリットかもな。でもそれって自由に動けてなんぼなんじゃないのか?召喚士と契約したら事ある毎に呼び出され力を使わされ・・・とても召喚獣側のメリットが感じられないんだよなー」



「な、なるほど・・・ごめんなさい。そんな事考えた事も無かったです。私達召喚士は召喚獣に気に入ってもらえたら、お互いに信頼のもとで契約を交わしているってのが通説ですので・・」


 

「まあそうだよな。俺もそう思ってたんだけど・・・要はさ、気に入られたら、その後は召喚獣のいわばボランティアって事だろ?わざわざ精神世界から、こっちに具現化するのも大変だってのに、何回も呼び出され、力を使わされ、挙句に命の危険まであるじゃん?なんか不自然じゃね?」



「た、確かに・・そうですね・・召喚獣様に一方的に頼りっぱなしです・・」



「だろ?しかもさ、さっきの詠唱を聞いててなんか違和感があったんだよ。簡単に言うとへりくだり過ぎてないか?とても信頼のもとで契約しているようには感じなかった。圧倒的に召喚獣が格上。召喚士は格下って感じ。だけど実際は召喚士側にしかメリットが感じられない。な?変じゃないか?」



「そ、そうですね・・・はぁ・・・」

「あれ?俺なんかマズイ事言ったか?」



「あっ、いえっ!とんでもないです!なんて言うか・・・私ってダメだなぁって思っちゃって・・・自分ではありとあらゆる手を使って何とかしたいって思ってるのに・・・肝心な部分になんの疑問も持たず・・ただ言われた事を魔道具的(機械的)にこなすだけなんて・・・自分の発想力の無さにはウンザリします」



「んー。まあ自分を客観的に見れるのは良い事だよ。でも俺が言う事を、全部真に受けるのもどうかと思うぞ?召喚獣に関しては俺は素人だ。何百年何千年と積み重ねてきた歴史を俺は知らないからテキトーな事が言えると捉える事も出来る。さっきの詠唱に実はもの凄い意味があるのかもしれないし。だからこそ考えるんだ。この世界には数多くの情報がある。そして当然だかその中には嘘の情報も含まれている。友人が言うんだから、先生が言うんだから、領主が言うんだから、聖女が言うんだからと鵜呑うのみにせず、自分で考える癖をつけると、コクリトのこれからの冒険者人生はより良いものになるかもしれないね」



「好き」

「は?」



「先生ぃ・・・彼女は?!今お付き合いしている人いるんですか?!」

「な、何言ってんだ?突然。意味わかんねーぞ」



「私、今まで散々馬鹿にされてきました。誰も彼も私の話なんて聞いてくれません。でも先生は私の目を見てお話してくれます。励ましてくれます。未来の話をしてくれます。もう私の旦那様は先生しかいないですっ!結婚してくださいっ!」



「結構です。それじゃあ」




「ちょおおぉぉぉぉっとおぉぉ待ってえぇぇ!!!酷い!私の渾身のプロポーズを!1秒くらい考えてくださいよぉぉ!」




 部屋を出て行こうとするミールを必死に止めるコクリト。



「ったく・・・いいか?まずその思い込みの激しさを何とかしろ。世の中全てを敵と思え。誰も信じるな。自分の利益だけを考えて行動しろ。わかったか?」



「ひいぃぃんん。怖いですぅぅ!私の未来の旦那様がぁ!ドSでしたぁ!どーしましょー!」


 

 ミールは泣き叫ぶコクリトのほっぺをグニグニとしながら

「だーかーらー。少し落ち着け。精神が安定してないと召喚獣にも気に入られないぜ」

「ふぎぎ・・・ふぁあい・・・」



「ふう・・・だが・・ま、ありがとな。召喚獣の契約の方法が見れて俺的には良かったよ。一応お礼を言っておくよ」



「先生・・・使役士ってモンスターを力で屈服させるって先程仰いましたが・・・契約とかは全くしないんですか?」



「ん?ああ、そうだな。使役士はね、暗黒の門っていう使役士にしか見えない精神世界に通じる道が唐突に開かれる事があってね。そこに入って戦って・・・倒したら使役士専用の『呪』のスキルを使って従わせるから契約とかは無いな」



「へえぇぇ!精神世界に実際に行くんですか!?凄い!どんな所なんですか!」


「いや、俺は行ったことないんだよ。全部魔石からだね、使役モンスターは」



「そ、そうなんですか・・・その魔石って・・・直ぐ使えるんです?」



「そうだね。イメージ的には屈服させた状態で魔石に付与させてるから。使役士だったら誰でも直ぐに使えるな」



「いいなぁぁ!召喚獣もそういう感じにならないかなあ!」



「ははは。使役士には使役士なりに大変な所があるんだぜ?・・・まあ気持ちは分かるが」



 そう言うとミールはおもむろにコクリトに向かって手をかざす。



「?」

 不思議そうに首を傾げるコクリト。




  ビョヨワァン!




 唐突に地面から紫色に輝く鎖が出現した。

 それはコクリトを一瞬だけ包み込むが直ぐに粉々に砕け散って消える。



「!・・えっ?!な、なんですか今の!?」



「いや、もしかしたら使役出来るかなーって」



「・・・」



「なに勝手に私を使役しようとしてるんですかあぁぁ!!」




 コクリトの絶叫が響き渡る契約部屋であった。




「そうだ!先生!ちょっと先生もやってみてくださいよ!召喚獣の契約!」



 気を取り直したコクリトが、いい事思いついたって感じで提案してくる。



「は??いあいあ。無理だって。召喚士しか契約できないってギルドの説明文にも書いてあったぞ?」



「はい、きっと契約はおろか交信さえ出来ないと思います。でもやっぱり1度見てみたいんです、他の方が契約を試みているのを。訓練場の先生も実際にやって見せてはくれなかったので・・・私、客観的に見てみたいんです!そしてイメージを膨らませたいんです!先生、お願いします!」



 女は必死な眼差しでミールを見つめる。

 その瞳は純粋な輝きに満ちており、とても美しくみえた。


  

 精神的に不安定な部分とか、思い込みの激しさとか・・・



 一言余計な事を無自覚でいってしまう性格が、どうしても目立ってしまい誤解していたが、根っこの部分はとても綺麗な心の持ち主のようだ。



 ミールは女の頭をポンポンと叩きながら笑みを浮かべる。

 相手を気に入った証拠だ。



「わーったよ。やってやる。でも契約なんてできねーからな。あくまでフリだけだ。いいな?」

「は、はい!ありがとうございます!旦那様!」

「・・・」



『そういうとこやぞ』との言葉を飲み込み、黙って魔法陣の中央に歩みを進めるミール。



「えーと。なんて言うんだっけ?全く台詞覚えてないぞ」



「あ、先生。どうせなら、さっき先生が言ってた違和感的なのを取り除いたバージョンでお願いできますか?どうせフリだけなら、どういう感じで先生が言うのか見てみたいですっ!」



「はあぁ??また難しい注文をするなぁ・・・わかったわかった。でも完全な自己流だから期待すんなよ?」

「はい!全然それで構いません!」



 ミールはフーッと息を吐き、自身に魔力を込める。

 同時にパアァっと、先程と同じように魔法陣が少しだけ強く発光しはじめる。



 パンパンッ



 先程のコクリトと同じようにミールは祭壇に向かって手を叩く。

 台詞などは全く覚えてないが、この行程は覚えていた。



「あ、先生。それは完全に私の個人的なお願いを表現しただけなので、契約行程には全く関係ないです、はい」

「・・・」



 憎しみで思わずグーで殴りたい衝動を堪え、軽く咳払い。

 息を整えてから静かに言葉を発する。




「精神世界にいる召喚獣・・・いや、神の眷属よ。悪魔優位の、この現状はさぞ悔しかろう。この世界に現出したければ俺が力を貸してやらんでもない。どうだ?一緒に悪魔種共を壊滅させないか?」




 あまりのラフな言葉使いにポカーンとしてしまうコクリト。直ぐに笑い声を上げる。



「ぷ、あははははっ!先生っフランクすぎ!」



「なっ!・・しょ、しょーがねーだろ!初めてなんだからよ!」

 流石のミールもちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめる。



「しかも神の眷属って!先生、召喚獣は神・・の・・・」

 続きの『眷属なんかじゃないですよぉ』との言葉を飲み込むコクリト。



 何故ならちょうど祭壇付近から、もの凄い風圧と神々しい光が流れ込んできたからだ。





    ゴオオォォォォオオォォ・・・





「ぎゃあぁあぁぁ!!何なんですかぁ!これはぁ!ぎゃあぁぁ!」



 コクリトは悲鳴を上げながら地面に這いつくばり頭を伏せる。



 ミールも吹き飛ばされそうになりながら、何とか目を半開きにして周囲を見渡す。



 これだけの風圧がまき散らされているのだが、部屋には全く影響を及ぼしていないようだ。



 最初床に敷かれた魔法陣が防いでくれているのかと思ったのだが、どうやらこれから現出しようとしている『なにか』が結界を作り出し防いでいるようで、部屋全体は水色の膜に包まれている。



 やがて風圧は収まり、代わりに光の塊に質量が加わっていくのが分かる。



 その神々しいまでの光は、とても優しく暖かい。

 目を開けていられない程の光量を放っているはずなのだが、何故かしっかりと直視する事ができた。

 そしてなによりもとても穏やかな気持ちにさせられる不思議な感覚だった。



 ミールもコクリトもポカーンと口を開けたまま、段々と人の形に変わっていく光の塊を見つめている。




 やがて・・・『それ』はこの世界に現出した。





「クイーンシルフ?」

 思わずコクリトが呟く。



 この世界のシルフとは召喚獣として具現化している。



 強さとしては召喚獣の中では並程度だが、特徴はなんといっても回復魔法が使える事。

 PTにとっては回復役が1枚増えるようなものなので、かなり重宝されている。



 そして、クイーンシルフとはその上位互換版。

 現在世界中で姿を見た者はおらず、物語にしか出てこない伝説級の召喚獣だ。



 その『おとぎ話』の中で出てくるような存在を引き合いに出してしまうほど、その美しさは現実離れしており、神々しい光に包まれながら陽光が形作っていくさまを、2人はただ眺めていた。



 段々と光が収まり外見がハッキリしてきた。




 正に天女という表現が相応しい。




 大きさは一般的な人間の身長と同じほど。

 艶やかな金髪を床まで垂らし、肌は透き通るように(実際透き通っている)白く、服は光の羽衣のように美しくたなびいている。



 特に翼などは生えていないのだが、足は地面に着いておらず空中に浮いていた。



 そして特筆するべきはその存在感。

 いや、威圧感といってもいいかもしれない。



 人間には到達する事が出来ない圧倒的な存在感が足をすくませる。

 まるで目の前に邪神が見下ろしているかのようだ。



 この『存在』が結界を張っているので周囲には一切力は漏れていないが、もし結界が無かったら大聖都ハミスにある観測所は今頃大騒ぎになっているだろう。



 ただ邪神と違うのは力の方向性というか、性質というか。そういうのが正反対な事。



 邪神が恐怖や絶望を撒き散らすのに対し、こちらは穏やかさ、幸福感で満たされており、自然と涙が出てしまう。



 現にミールの瞳からも一筋の涙が頬を伝う。

 コクリトにいたっては大号泣しながら光の存在を見つめていた。


 

『その存在』は右手に持った扇で優雅に口元を隠す。

 その際にヒラヒラと蝶のような光が残像として残り、余りの美しさに、更に言葉を失うミール達。



 口元を扇で隠したまま『その存在』は、ふっ・・と僅かに目元を緩める。



 そのちょっとした仕草でさえ腰砕けになってしまいそうだ。

 ミールはなんとか尻餅を付くのを堪え、『その存在』の動きを注視する。



 しばらく見つめ合うミールと『その存在』

 



「まあまあまあっ!いやだわっ!おほほほっ。そんなに情熱的に殿方に見つめられるなんていつ以来かしらんっ。わたくしドキドキしてしまいますわぁ。うふふっ。あらやだっ私ったら。自己紹介もせずにごめんなさいねぇ。わたくしは癒姫神ゆひめがみ)ポウラルアンの第1眷属ロゼニーニャと申しますわ。宜しくねぇ、我がマスター様っ」




 呆気に取られるとは正にこういう事をいうのだろう・・・



 あれほどの優雅さを見せられてからこの喋り。

 1オクターブ高い声でジェスチャー大きめに話すその姿は、どの街にもいそうな世話好きなおばちゃんそのもの。



 流石のミールも処理落ちしてしまい硬直していた。



「あらぁ・・・固まっちゃってぇ。どうしたのぉ?もしもーし」



 相変わらず『その存在』・・・第1眷属ロゼニーニャが動く度に美しい蝶の光が、そこかしこにこぼれ落ちるのだが・・・もはや優雅さは感じられない。



「あ、失礼・・・ロゼニーニャ様。お会い出来て光栄です。自分はミールって言います」



「あらあらあらっまあまあまあっ!ミール様ねっ!こちらこそですわっ。でもおやめになって。わたくしのマスター様なのですから。お気軽にロゼニーニャ・・・もしくはロゼ♡とお呼びになって」



「えっと・・・ロゼニーニャ・・様」

「ロゼニーニャ!様はいらなくてよっ、ミール様っ」

「こほんっ・・・じゃ、じゃあロゼニーニャ・・・」

「はい!我がマスターっ!」



「早速色々と聞きたいんだけどいいかな?まず・・・今癒姫神ポウラルアンの眷属って言ったよな?・・俺らの世界では癒姫神はポメラニアンって名前なんだけど間違いなのかな?それとも癒姫神って2体いるのか?」



「ポメラニアン?・・・」

 ロゼニーニャは思いもよらない感じでミールの言葉を復唱する。



「やっだぁ!!あははっ!もー!びっくりだわぁ!それじゃあワンちゃんじゃない!?もー!おっかしー!でも確かにそうかもっ!ポウラルアン様はとってもチャーミングで可愛いのっ!案外間違ってないわね!でもまさか犬の名前で呼ばれてるなんて!うふふっ!この事を知ったらどんなお顔をなさるのかしら?今度会ったら教えて差し上げなくてはね!」



 大盛り上がりのロゼニーニャ。手を叩きながらジェスチャー大きめで大爆笑する。

 そのお陰か、若干緊張がほぐれたミール達。

 更に質問を重ねる。


   続く

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