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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ②

「ありがとうございますミール様」

「みーるしゃま!ばいばーいっ!」


 ロゼッタは元気よく大きく手を振ってから両親と手を繋ぎ、人々の波に消えるのであった。



⇨蘇る魂の道しるべ②



 しばらくリビの街にて『脈打つ瞳』について調べていたミールだったが、特に進展なく終わる。



 ここリビの街は魔道技術大国ドルグレム、騎士道至上主義国マーチン、召喚術先進国ババリオンへと続く玄関口となっており、自然と情報も集まってくるかと思っていたのだが・・・

 どうやら期待外れだったようだ。



 やはり長年の圧政により、他国へと金も人材も流れていっているのかもしれない。

 ミールは調べ物を草々に切り上げ、ルーン国を出国する事にした。




 今しがた説明させて頂いたが、もう少し詳しい情報をお伝えさせて頂く。



 リビの街と国境を接しているのが召喚術先進国ババリオンだ。

 そしてその奥に魔道技術大国ドルグレムと、騎士道至上主義国マーチンがお互いに国境を接している。



 つまりこの3国が三角形の形で隣り合っているのだ。



 そして『召喚術先進国ババリオン』には『ルーン国』が、『騎士道至上主義国マーチン』には『世界序列2位のスーフェリア』が、それぞれ追加で国境を接している。



 『魔道技術大国ドルグレム』だけは『ババリオン』と『マーチン』以外に接している『国』はない。



 何故『国』と強調してお伝えしたかというと、正確にはドルグレムの後方には広大な大地が広がっている。


 しかしその大地は太古の昔に繁栄していたらしく、貴重な遺跡が広範囲に広がっている。

 つまり遺跡はあるが、人間の領土はないという事だ。


 更にその後方には『禁忌の兵器』によって汚染された大地が存在しており『人間』には住む事が出来ない土地なのだ。



 こういった汚染された大地は世界各地に存在し、3000年近くの年月が経っているのにもかかわらず、未だに人間達にとって毒である汚染された風を送り続けているのだった。




 ミールはまずルーン国とババリオンとの国境の関所へ向かう。


 関所の造りは頑丈そうな石を積み上げた砦となっており、大きな門の右側にはババリオン国を出国する者達の、左側にはルーン国を出国する者達を管理する施設が併設されている。



 そして門には砦と同様、頑丈そうな造りの塀が建設されており、壁となって人々の行く手を遮っていた。


 しかしその塀は100メートル程で途切れ無くなっている。

 つまりちょっと迂回して関所から外れれば、誰でも簡単に国境を越えられる造りとなっていた。



 もちろんそうなっているのは訳がある。



 国境部分を全て塀や柵で囲み、物理的に外部の侵入を拒んでいる国もあるにはあるのだが・・・

 巨大なモンスターや野良デーモン等に直ぐにあちこち壊されてしまうので、あまり効果的ではない。



 なので実際は街の検問などでも使用されている魔法石を一定間隔で地面に埋め込み、塀や柵の代わりとして活用している。

 関所を通さずに通過した人物のステータスは記録され、以降は犯罪者扱いとなり、どの街にも入れなくなるシステムだ。



 更に最近、新型の魔石が開発され、通過した人物のステータスを記録するだけではなく、その場で追跡魔法が発動するようになった。



 これにより今までは記録されるだけだったので、元々街に入るつもりのない盗賊達にとってはあまり意味がないシステムだったが(街に入らず暮らすという覚悟は相当なものだが・・)新型の魔石の登場により、追跡魔法で軍の兵士達や冒険者達が討伐しに来るようになり、盗賊達にとっては更に生きにくい世の中になっている。


 もちろんリリフ達のように、秘密裏に魔石をすり抜けてくる者もいるのだが・・・



 関所の形態は様々。



 お互いの国の兵がそれぞれの出口に関所を作り警備をする『にらみ合い型』

 お互いの国の兵士が協力して1つの出入り口を警備する『協力型』

 片方の国の兵士のみが出国も入国も全てを管理する『亭主関白型』



 『にらみ合い型』は主にお互いの仲が悪い国同士が、『亭主関白型』は序列順位に大きな差がある場合に設立されるが、ほとんどの国境は『協力型』だ。



 ルーン国とババリオン国はお互いに特別仲が悪い訳でもなく、世界序列もルーン国は言わずもがな最下位近いし、ババリオンも秘密主義が災いして順位は決して高くない。

 お互いに可もなく不可もなくといった所なので『協力型』で国境を警備している。



 一方、マーチンとスーフェリアは、圧倒的にスーフェリアの序列が高い為、国境はスーフェリアが一括管理をしている『亭主関白型』となっている。



 ミールはリビの街を出立し、2日目のお昼頃に『協力型』で管理しているルーン国とババリオン国の関所に到着した。



 普段はチラホラと行き来する人をかろうじて確認出来る程の閑散とした関所なのだが・・・今現在は関所に向かってズラーッと人の列が出来ていた。



 邪神騒ぎで今聖都は復興の真っ最中。物資も人手も足りてない状態だ。



 なので様々な物資や人材がババリオン側からルーン国へと入ってきているようで、大きな荷物を積んだ荷車や、ガタイの良い土建のおっちゃん達が金を稼ぎに多数訪れているようで長い行列を作っていた。



 そしてルーン国から出国する側も同じくらいの長蛇の列が出来ている。



 他国に買い付けや仕事で向かう人も多いようだが、一家で移住を決断したと思われる者達も大勢見受けられた。



 冷静に考えれば、世界中何処でも邪神が現出する可能性は有るので、例え他国に移住しても危険度は同じなような気がするが、やはり1度邪神に襲われた恐怖は心に大きな傷を負わせたようだ。



 とにかく一刻も早くこの国を離れたい・・・そんな所だろう。



 そして聖女が打ち出した貴族制度の廃止。

 これにより割を食う形となった比較的身分の高い者達が、今のうちにと出国していく姿も確認出来る。



『全く。位を剥奪なぞされてたまるか』

『平等平等言ってるアホ聖女め』

『他国からの介入が必ずあるはずじゃ。上手く行くはずない』

『財産を没収されるかもしれん。もっと意味不明な制度を作るかもしれん。とばっちりはごめんじゃ。今のうちに離れたほうが得じゃな』

 こんな会話が風に乗って聞こえてくる。



 ミールは遅々として進まない行列の最後尾に並び、荷物整理を始めるのであった。




 3時間程待っただろうか・・・




 やはり思いつきや突発的に行動した者が多くいたようで、資格の不保持や不備が目立ち、いつも以上に時間がかかっている。



 そもそも国を出国するには他国旅券証(パスポート)が必要という事を分かっておらず、国籍があれば大丈夫と勘違いしている者達に制度を説明するのに多くの時間を割いているようだ。



 又、他国に移住する場合は移住許可証が別で必要になってくるのだが、これも移住許可証さえあれば他国旅券証(パスポート)は必要無いと思ってしまった者も多数。あくまで移住許可と出国するのとは別物扱いなのだ。



 他国旅券証(パスポート)の説明を少しだけ。



 こちらの世界では取得が少し敷居が高い。

 特定の数カ国しか対応してないタイプが一般的で、審査も厳しい。そして適応期間も短いのでこまめに更新する必要がある。

 世界中何処でも自由に行けるというタイプは階級がかなり上位の者、特殊な職業に就いている者、そしてランクの高い冒険者の極わずかしか所持していない貴重な品となっていた。



 そういう訳で、他国旅券証を所持していない、対応国が違う、期限が切れている等々。

 不備があった場合は基本的に関所では対応出来ず、聖都までトンボ帰りになる。

 それに納得出来ない貴族階級の者達は激怒して大もめとなり

『通す訳にはいきません』

『絶対に通る』

 と押し問答。



 相手が貴族なだけに後ろに並んでいる平民達は文句を言うことも出来ず、ただひたすらに貴族が引き下がるのを待つという苦行を強いられていたのだった。




 ようやくミールの順番が訪れた。




 お昼頃に並び始めたというのに、今や太陽は穏やかな暖かさを辺りに届けている。そろそろ日も傾きかけ夕方近くになりそうな時間帯だ。



 後ろを振り返るとミールが並び始めた時の5倍ほどの行列が出来ている。

 やはり貴族達がごねまくり、ずっと列が進まない状態が長く続いたのが影響しているのだろう。


 お陰で大渋滞だ。全く貴族というやつは・・・



 しかし当の本人達は全く悪びれる事もなく、敷地内で従者達に野営の準備をさせていた。

 いちいち聖都まで戻るのも面倒なので、代わりの者を聖都に向かわせ自分達はここでノンビリと待つつもりらしい。



 今、後ろで並んでいる者達も関所は夕方には閉まってしまうので、多くはこのまま夜を明かす事になるだろう。



 幸い、ここは巨大結界がないとはいえ、兵士が多数駐在している重要拠点の関所だ。

 当然警備も厳重なので、仮にモンスターや盗賊に襲われても兵士達が対応してくれるし、そもそも街の外に出る場合は結界石を持つのは当たり前なので、この列の者達も心配はないだろう。



 更に言うと関所で立ち往生している姿は邪神現出後からは日常的な光景。

 なのでこういった者達を目当てに行商人達や旅芸人、娼婦達が商売に精を出しており、食料や娯楽の心配もなさそうだった。



「は~い・・・次の人ぉ・・・」



 若干お疲れ気味な兵士の声が検問所から聞こえてくる。

 今日は単純な他国旅券証の不所持や申請漏れが多く、同じ説明を何回もさせられる羽目になった。更に 散々貴族共にも怒鳴られてウンザリしているようだ。

 早く定時になってくれないかな・・・といった本音部分が表情から見て取れる。



「はいはい、冒険者ね。他国旅券証持った?ないと通れませんよ?申請は聖都でね。ここじゃ出来ませんから」



 いちいち説明するのも面倒くさいって感じで、ちらっとミールを見て魔法ペンをクルクル。書類に視線を落としながら流れ作業的に無感情で業務をこなす兵士。



「ああ、これだ」

 ミールはステータスを表示させるのと同じ要領で他国旅券証に魔力を込める。

 すると兵士の前に透明なウインドウが開かれ、他国旅券証の情報が表示された。



 他国旅券証などの重要な証明書は現物で持っている者は少なく、ウインドウ魔法と呼ばれている魔法で、魔力化して所持するのが一般的。

 自分では内容変更などはもちろん出来ないが、50枚ほどのカードや証明書を記録する事が出来るので便利なのだ。

 ちなみにこの身分証などを魔力化するウインドウ魔法は、役場で5000グルドで入手出来る。

 


「ほお・・・ふむふむ・・・では確認致します。ステータスの開示をお願いします」

「ああ」



 兵士はようやくきちんと理解している者の訪れに若干ホッとしているかのようだ。直ぐにミールの全開示ステータスと他国旅券証の照らし合わせを行う。



 同時に魔石を使用して、ウインドウ魔法が本物かどうかも調べられる。

 中には、それっぽい偽のウインドウを作り出し、不正をしている者もいるからだ。



「!!」

確認作業をしていた兵士の手がビクッと止まる。




「え?!・・・ちょっ!・・・こ、これはっ・・・永年他国旅券証??」




 兵士の言葉に、周りでサポートしていた兵士達も、同じように開示されているウインドウを覗き込む。



「ほ、ホントだ・・・永年だ・・・」

「お、おい・・・ウインドウ魔法は正規品なんだよな?」

「ああ、間違いない。正式に魔力化された旅券証だ・・・」

「マジか?・・・旅券自体が偽物なんじゃないのか??」

「そんな訳あるか!・・・永年だぞ?魔力化するのも相当調べられるヤツだぞ?しかも魔力化したのはハミス国と認証印がされてる。本物だ」

「でも黄色ランクだぞ?なんでこんなヤツが持ってるんだ?!オカシイだろ?」



 ヒソヒソとミールに視線を送りながら相談する兵士達。



「おい。早くしてくれないかね?散々待たせた挙げ句、まだ時間をかけるつもりなのかね?全く・・・この国の兵士は無能ばかりなのか?」


 ミールは少しいつもと違う・・・ちょと身分の高そうな人の喋り方で対応する。



「あっ、あのっ・・・失礼ですがハミス国の本部に・・・認証の確認を行いたいのですが・・・」



「やれやれ・・・我輩は構いませんぞ?・・・し・か・し・・・正当な理由無く我輩を拘束した事実は後で問題にさせて頂きますのでご承知のほどを」



 ミールは腕を組んで言い放つ。

 ふてぶてしい態度と威圧的なオーラを精一杯全身から解き放って。



「ひっ・・・し、失礼致しましたっ!」

「もう結構です!」

「ど、どうぞお通り下さい!」



 ビシッと整列した兵士達は敬礼しながらミールを送り出す。



「ふむ・・では今回は不問と致しましょう。それでは皆さんご機嫌よう」

 ミールはゆっくりと椅子から立ち上がり、なるべく優雅に歩みを進める。



「道中お気を付けて!」

「いってらっしゃい!」

 後ろから必死にミールを送り出す兵士達の声が聞こえてくる。

 ミールはそのまま振り返らずに関所を後にするのであった。



 ミールが持っていた永年他国旅券証。

 これは文字通りず~っと有効期限が切れない、且つ世界中何処でも自由に行き来できるという最高級のパスポートだ。



 それだけに入手するのは超難しい。というか通常の手続きではいくら頑張っても手に入る事は出来ない代物。



 永年他国旅券証を入手出来る唯一の方法は、大聖女ハミスから直接贈呈された者のみ。

 よって世界中で所持している者は限りなく少ない超レアパスポートとなっている。



 なので兵士達はそれを持っているミールの事を『訳あってお忍びで行動している実はもの凄い人物』と勝手に勘ぐり、そそくさと通過を許可したのだった。



 ハミス本部に連絡されて照会手続きをすると、かなり待たされる。

 丸1日かかった事もあるくらい自分では判断出来ないケースでのお役所仕事は無駄に時間がかかるのだ。

 ミールも散々待たされてウンザリしていたのは事実だったので、少し演技をして簡略化させたという訳だ。



 

 その日は途中で野宿をし、早朝に出発。

 更に1泊野営したのち、予定よりもかなり遅くなってしまったが関所を出て3日目、夜の19時前後に召喚術先進国ババリオンとルーン国との玄関口となっている目的地スワップの街に到着した。



 このババリオン国は聖都であるババリオンの他に街が2つある。その1つがこのスワップの街なのだ。

 ルーン国は10個の街があるので、ババリオン国の大きさとしては3分の1程度。

 このババリオン、そしてマーチンとドルグレム。この3国は大体同じくらいの大きさなので3つ合わせてルーン国1つ分てな感じだ。



 召喚術先進国ババリオン。

 この国の特徴はなんといっても召喚魔法の使い手が数多く存在していること。



 そして国の中枢を担う政府の重臣の中には伝統的に召喚士を輩出し続けている一族があり、その知識は群を抜いているらしい。



 らしいと言わせてもらったのは、この一族はとにかく秘密主義で召喚魔法の知識や技術は門外不出で有名。



 政府の重臣を担っていることもあり、軍の一部に召喚士部隊を創設している程、その実力に自信を持っているのだが・・・その知識や技術を知りたい他国の干渉を一切拒否しているので序列順位は低いまま。



 しかしそれでも全く意に関せず秘密主義を貫いているので、ミールにはこの国に神秘的な印象を持っていた。



 かなり貴重な情報が隠されているのではないだろうか・・・

 そういった期待をせずにはいられないのである。



 ミールにとっても今回の情報収集の大本命はこのババリオン国。

 ここババリオン国は所蔵の品が数多く有り、図書館、資料館も多数存在している。

 それらを巡るだけでも果てしない時間がかかると容易に想像出来る程、文学的な国なのだ。



 更に点在した曰く付きの場所や物品数は数知れず。

 ちょっとしたお店にすら、お宝級の情報が眠っている可能性も十分あり得る。



 ミールも昔から贔屓(ひいき)にしている魔法屋が1つあるので、そこを拠点にまずはこのスワップの街を。それからもう1つの街、最後に聖都ババリオンに足を伸ばす予定。



 おそらくそれだけで半年近くかかるかもしれない。

 それだけこのババリオン国は情報量が多い国なのだ。



 え?・・・そんなに長く他国に滞在して大丈夫なの?ですって?



 ではここでもう1度、確認の意味を踏まえて説明させて頂こう。




 まず国籍が無い者が他国から来た場合。




 こちらは以前リューイやブルニの時に説明させて頂いた通り、他国はおろか、街にすら入る事は難しい。


 しかし実際は国籍の無い者が入国してくる場合が多々有る。



『特別労働許可証』で働いていた者、そして迫害を受けていた国籍の無い奴隷達。

 そういった者達が労働力として他国に強引に連れて行かれたり、リリフ達と同じように人身売買として秘密裏に連れて来られたりする。



 人身売買も奴隷制度も禁止している国は多い。

 しかし実際は形や名前を変え、取り締まりを上手く逃れているのが現状だ。



 中には他国に旅行中の妊婦がそのまま出産、子供だけ残して帰国してしまうといったケースさえある。



 そういった関係で、結構無国籍の者が入国してくるのは多いのだ。



 なので、そういった無国籍者は警備局に連行後、国籍を与えられ、子宝に恵まれない夫婦や、人手、後継者を必要としている一般家庭に養子として迎えられたりしている。



 しかし、そういった者は本当に少人数で、実際は国籍がない者の9割以上が特別労働許可証を発行されて強制労働や性処理の道具とされるので、無国籍者にとっては厳しい現実が待っている事であろう。




 そして次に国籍がある者が同じ国内の他街に行った場合。




 分かりやすくルーン国籍を取ったリリフ達で例えると・・・

 ルーン国内は何処でも移動は自由だ。

 そしてその気になれば1年でも2年でも、クリルプリスなどの他の街に滞在する事が可能。



 しかしリリフの住民票はガタリヤにあるので、他の街で仕事をする事は基本的には出来ない。



 基本的にと言ったのはリリフは冒険者なので、他の街でクエストを受注する事は出来る。

 しかし割高な税金が別で上乗せされるので、あまりメリットがない仕組みとなっているのだった。



 もちろん商人や運送業など一部例外はあるが、一般的な人は他の街に滞在する事は出来るが仕事をする事は出来ない、もしくは高い税金を別途支払う必要があるのだ。



 そして宿屋やホテルのような、1泊いくらの部屋は利用出来るが、月単位の家賃など、いわゆる保証人が必要な住居なども借りることも出来ない。



 更に、当然ながら年に1回の国民税や住民税等々。そういった税金をガタリヤに払ってないと税金滞納で捕まってしまう。



 そのため、拠点外の街で暮らすのは多額の費用がかかる。

 しかし序列が高い街は色々と優遇されているので仕事も多く、魅力的。

 なので人々は移住しようと試みるのだが・・・当然ながら序列順位が関係し簡単ではないのだ。



 随分と閉鎖的ですね。と思っただろうか?



 確かにより広く、より自由に行き来できるようになったほうが、人類の将来にはプラスに働くかもしれない。



 しかし結界内しか人類安住の地がないこの世界では、貴方方の世界よりも、ずっと自分の居場所、自分の生活に対して執着がある。

 気軽に土地を移動する訳にもいかないので『縄張り意識』が強いのだ。



 一歩でも結界外に出れば、そこは人知の及ばない別世界。

 そして他の街や国から来る『よそ者』が問題を引き起こす事も多々あったため、今のような閉鎖的な仕組みが出来上がったという訳だった。



 話が少し逸れてしまった。戻すとしよう。




 では次に国籍が有る者が他国に移動する場合。




 今までと大きく異なるのが、他国旅券証(パスポート)が必要だという事。



 またまた、リリフ達を例えで使ってしまい、申し訳無いのだが・・・

 リリフ達もスーフェリア国籍のまま、ガタリヤに入った事をご記憶してる方も多いだろう。



 その場合は50日の猶予期間が与えられ、その間に自国に帰るか、他国旅券証(パスポート)を見せるか、国籍を変えるかをしないと捕まってしまう。



 他国旅券証がない者の多くは、国境の関所で止められるのだが、先程の国籍がない者でも説明したように、上手く検問魔石を逃れ、人身売買や奴隷など、違法な方法で国境を越えてくる者も多いのだ。



 だが実は、そのまま追い返されたり、強制送還されたりするケースはほとんど無い。



 何故なら強制送還するには金も手間もかかるからだ。



 こちらの世界ではモンスターに襲われる危険性もあるので、どうしても億劫おっくうになってしまう現実がある。

 


 なので無国籍者同様、捕縛された者は後日国籍を変更され、適材適所の場所に割り振られていくのだ。



 だが、国籍を持っている者は、大抵、犯罪に巻き込まれていたりするので、自分の意思で不法入国してくる者は少ない。



 そういった被害者の為に、逮捕されるまで50日という猶予期間が設けられているのだった。



 そんなの直ぐに街の入り口で取り締まれば良いじゃんっ!って思う方もいるかと思うが・・・



 確かにずっと前は他国旅券証がない時点で捕まっていた。



 だがしかし、この世界には国にも序列順位が存在する影響が大きい。



 つまり『我が自国の民を下級の国が勝手に始末しおって!』等とトラブルが絶えず、今の形に落ち着いたのだった。



 ただし、犯罪者が次々と、出ては入ってを繰り返す恐れがあるので、猶予期間が与えられるのは初回のみとなっている。

 



 次に他国旅券証を所持しており、関所を通過して街に入った場合。




 1番多い例は観光旅行だ。


 この世界でも頻繁に観光旅行が組まれているので、盛んに他国から入国出国する者が多い。

 なので他国旅券証を持ってさえいれば、比較的簡単に滞在する事が可能。



 しかし他の街に移動するのと同じで、他国で仕事をする事は基本的には出来ない。



 冒険者もクエストを受注する事は出来るが、更に倍の税金がかかってしまうので利益はほぼゼロ。他国のクエストを受注するには税金免除の特典があるタウンチーム以上でなければメリットは無いのだ。



 そして住居も先程のリリフ達と同じように、利用出来るのは宿屋やホテルのみ。移住するには更に、国同士の序列も関係してくるので難易度も費用も大きくかかるという訳だ。



 もう一つ重要な点がある。



 それは他国旅券証には適用期限があるということ。



 一般的な適用期限は1年間。その都度更新する必要がある。

 そして他国にいながら更新する場合、段々と審査は厳しくなる。



 最初の1年間は観光や娯楽で審査は通るが、2年も3年も観光で同じ国にいると、技術や情報を盗むスパイだとか、何か犯罪に関わっているのではないかと怪しまれるのだ。



 自国に戻って更新し、それからまた入国しちゃえばいいんじゃない?



 確かにそれだと更新は問題なく出来るが、入国許可が降りず関所で止められてしまうので再度入国はまず出来ないだろう。



 もちろん学生が勉学を学ぶために留学してきている場合や、就労ビザのように働く許可が出ている者、そして現在のルーン国のように聖都復旧のため期間限定で労働者を募集している場合など一部例外はあるが、基本的に一般ピーポーが他国に長期間滞在するのは、適用期限がネックになって更に難易度が高いという訳だった。



 し・か・し・・・ミールは別。



 何故ならミールは貯蓄がタンマリあるのでお金の心配はないし、永年他国旅券証を所持しているので更新する必要がない。

 しっかり税金を納め、ホテル暮らしをしている限り、怪しまれる心配もない。



 好きなだけ他国に滞在していられるので、ゆっくりと調べ物に時間を割く事が出来るというカラクリだったのであった。



 ちなみに・・・ついでなのでドルグレム国について追加で説明させて頂く。



 ドルグレム国は世界で唯一、他国旅券証の期限が切れていても滞在可能。

 もちろんドルグレムから出国してしまうと犯罪者として捕まってしまうが、ドルグレム国内にいる場合はその限りではない。



 つまり、家も借りるどころか買えたりもするし、仕事だって出来る。税金もドルグレム側に納めればお咎めはない。



 なので一旦街に入ってしまえば割と自由に行動できるので、他国で犯罪を犯した者の隠れ(みの)になっていたりもする。



 当然他国からすると面白くない状況なので、犯罪者を取り締まりたいのだが・・・



 ドルグレムは聖女連盟が取り仕切る『他国協力条約』に唯一署名しておらず、警備局の人間を送り込むことも、引き渡しを求める事も出来ていないのだった。



 そういった事も相まって、ドルグレムは自分の実力次第で何処までも登り詰めることが出来る、自由と欲望に溢れた国といった認識が人々に広がり、非常に沢山の多種多様な人材がドルグレムに集まる事となる。



 気性の荒い血気盛んな大男。

 目が合っただけで飲み込まれそうになる魔性の女。

 危険な実験を繰り返し追放された魔術師。

 裏の社会に名の通った犯罪組織のボス。



 本当に世界中から、ありとあらゆる人が集まる。



 なので今や高層ビルが建ち並び、上も地下もスペースがない程、人口密度はかなり過密な状態だ。



 当然治安が良いとは言えないのだが、それすらもデメリットに感じないくらい、人々の熱気と欲望が街に溢れている。

 そんな人々が切磋琢磨する事により化学反応が起き、誰も想像すら出来ないような未知な魔道具が次々と生み出されているのだった。



 その圧倒的な技術力は大聖都ハミスすら凌ぐほどなので、他国もあまり強くは出れない。



 何故なら下手に強気に出てドルグレムの機嫌を損ねようものなら、便利な便利な魔道具を輸出禁止にされ、使えなくなってしまうかもしれないからだ。



 今や街の隅々までドルグレム産の魔道具に溢れている。

 それが一気に使えない事にでもなれば、自国の住民達が大暴動を起こすのは必然であろう。



 ドルグレム側もそれが分かっているので、先程の『他国協力条約』に署名しないという荒技に出ることも出来たという訳だ。



『他国協力条約』とは・・・



 世界中の国で協力して平和を守りましょうねって事。

 犯罪者がいたら捕まえて引き渡し、災害や不作などがあれば金や物資を支援し、戦争やルーン国のように強力な悪魔種が現出したら、世界中で救援に向かうという取り決め。



 それに署名しないという事は何があっても助けにいかない。逆に助けてももらえない。



 伝統的に『自分の身は自分で守る』という考えを持っている民族ゆえなのかもしれない。

 他国に無干渉で無関心。

 悪く言うと自分達さえ良ければ他国がどーなろうが知ったこっちゃない。

 自国第1主義。自国の利益優先。そんな国がドルグレムなのだ。





 ミールは夜も更けてきているので今日の所は宿屋に泊まり、明日から探索を開始する事にした。


 まずは腹ごしらえだ。

 寝る前に炭水化物を取ると太ると言われているが、今日は特別だ(イツモトクベツ)



 宿屋に併設されている食堂で遅い夕食を楽しんでいると、近くのテーブルで食卓を囲んでいる冒険者風のPTの話し声が耳に入ってくる。



「はあぁぁ・・隊長ぉ・・もう無理でやんすよぉ・・・」

「何言ってる。もう1往復行くぞ」

「ええぇぇ・・・もう分からないですって・・・謎です謎」

「もう・・・僕・・・自信ないです・・・」

「ほらぁ、ルルも無理だって言ってるしぃ・・・私達には荷が重かったって事で」

「そうっすよぉ・・・あっし疲れちまいやした。来る日も来る日も地面ばっかり見て・・・あっしの人生ってなんなんでしょう・・・」


「お前ら・・・そうは言ってもここで引き下がったら、また予算削られるぞ?タダでさえ無駄に税金を使ってると批判が大きいんだ。しかも今はクリヤッテ島に新たな開拓地が見つかって大騒ぎだからな。ここでなにも手柄を立てずに帰ったら全員クビだ。なにか正当な理由がない限り、俺達は諦めらんねーんだよ。腹くくれや」


「うえぇぇんんん・・・公務員なんてならなきゃ良かったぁぁ」

「世知が無い世の中でやんすねぇ」

「僕・・・お腹が痛くなってきました・・・」


「ふう・・・やれやれ・・・分かった分かった。それじゃあ1週間休暇とする。確かにお前らの精神状態は限界のようだしな」


「やったああぁぁあぁ!!休みだあぁ!」

「うひょー!羽を伸ばすっすー!」

「僕は寝ます・・・ひたすら」


「全く・・・いいか?お前ら。もう泣き言は聞かんぞ。休暇明けからビシバシ行くから覚悟しておけ」


「ぴえぇぇんん。隊長ぉ・・・ドSすぎますぅ」

「鬼っすね。鬼教官っす」

「僕・・・頭が痛くなってきました・・・」



 どうやら何かの調査をしている人達らしい。

 ここババリオンは文学的な国なので学者や研究員も多く集まっている。おそらくそういった関係の人達だろう。



 しかし現場担当は何処でも過酷なようだな・・・



 ミールはパンを口の中に放り込むと食堂を後にし、部屋に戻っていったのであった。





 翌日からミールは探索を開始した。

 まずは顔見知りの魔法石屋に出向き情報収集、その後は各ショップを巡りながら憑依魔石を探しつつ情報を集めようと思っている。



 もう10年近くになるか・・・まさか潰れてはいないと思うが・・・

 ミールは淡い記憶を頼りに歩みを進める。



 流石に10年も月日が流れると、いかに文学的な街とて近代化の波が押し寄せてきているようだ。

 区画整理や近代的な建物、若者向けのオシャレなショップ等々。

 以前は古民家的な造りが多数を占めていた街並みも、コンクリートやレンガで綺麗に塗装されている。



 そんな若者向けのお店が立ち並ぶ区画にポツンとお目当ての魔石屋は佇んでいた。

 左右をピカピカでカラフルなショップに挟まれたその店は、ツタまみれの壁を全面に押しだしており、場違い感がハンパない。



 左右のショップの看板は、そこにはまるで何も無いかのように魔石屋の敷地ギリギリの所にまで並べられ、全力で魔石屋の存在を否定していた。



 ———早く立ち退け———



 そんな無言の圧力をもの凄く感じる。


 カランカラン・・・

 扉を開けるとどこか懐かしい音が響く。



 店の中には頭がハゲ上がった体格の良い中年の男が、カウンターで魔法新聞を読んでいた。



「よお、まだくたばってなかったのか?」

 店主はミールを見るなりニヤッと笑うのであった。




「いや・・・懐かしいな・・・10年・・・ぶりか?おやっさんも元気そうで何よりだ」


「がっはっは。なんでぃ?お前は全然見た目変わんねーな。俺っちを見ろい。すっかりハゲ上がっちまってよー。悲しいぜ」


「そうか?全く変わらんように見えるが?」


「かー!これだよ。相変わらずお世辞の一言も言えんのかねー?こういう時はな。そうですね、それだけ長い年月が経過してたんですね・・とか言うもんだろーが?!10年経っても無愛想のままか、クソ坊主」


「ふんっ・・ほっとけ」


「それでー?どしたい?こんな辺鄙(へんぴ)な店に顔を出してよ。ここに来てもオシャレなお菓子は出てこねーぞ?」


「ははは・・・確かに随分と変わったな・・・ここら辺も」


「ああ、3年前に新しい聖女様が誕生してな。しかーもそれがこの国の中枢を担う召喚士一族の1人娘だってんだから驚きよ。益々名門一族の力は強まり、今や誰も意見を言える者はいないって話さ。だからドンドンと改革をスムーズに行えてるって事らしいな」



「ほ~・・・確かこの国の中枢を担う名門一族は秘密主義で有名じゃなかったか?どちらかというと変化を嫌う、昔ながらの文化を重んじるタイプだと思ったんだが・・・」



「そうさ。この国の誰しもがそう思った。よりにもよって新しい聖女様が召喚士一族から誕生したんだからな。こりゃたいして変わらんだろ・・・いやいや、もっと酷くなるんじゃないかってな。ま、実際1年前までは全く変化が無かった。だがしかーし、ここ最近は次々と若者向けの施策を打ち出してな。若者中心に大人気ってもんよ。もちろん反対意見も多いみたいで様々な所から異論が出ているらしいが・・・この国の若者離れが深刻だったのは事実だからな。政府も召喚士一族の重鎮も、今は聖女の施策の行方を見守ろうって方針らしい。そんなこんなで新しい文化を取り入れるっつーって色々と改革をしてるらしーんだわ。そんでこの街にもその流れは押し寄せ、ここの区画がめでたく優先特区に選ばれてな。ドンドンと整備されてるっつーこったな」



「にしても・・・やり過ぎなんじゃないか?完全に営業妨害だろ?あの看板・・・」



「がっはっはっ!構わねーって!どーせこんな店は常連客しか来ねーからな。看板が有ろうが無かろうが、来る奴は来る。それだけさ」


「ま、確かにこんな店、宣伝するだけ無駄だもんな」


「なにをー?ミール、随分と言うようになったじゃねーか?全く・・・最近の若い奴は・・・」



 どこの世界でもこういう言葉が出てくるのは同じなようだ。



「それで?今日はどーしたい?」

「ああ・・・んと・・・」

「なんでい?歯切れが悪いな」



「いや、そんな事は無いんだが・・・おやっさん。『脈打つ瞳』って聞いた事あるかい?」



「あ~ん?脈打つ太みぃ?それはあれかい?メタボ的なあれか?」

「違う違う。脈打つ瞳。瞳だ、おやっさん」

「瞳か・・・目が充血してる・・・て意味ではなさそうだな。なんだい、そりゃ?」



「まあ、俺が勝手にそう呼んでるだけなんだけどな。瞳っていうか・・・アザの様なモノなんだが・・・そういったモノが付いてるモンスターの噂とかって聞いた事あるかい?」



「う~~~ん・・・」



 店主はしばらく考え込み

「いや、ねーなぁ・・・聞いた事ねーよ、そんなの」

「そうか。わかった。ありがとう」



「ふーん。また面倒な事にはしっかり巻き込まれているみてーじゃねーか。いいぜ、俺も客に色々聞いといてやるよ」



「いや、それはやめてくれ・・・下手するとおやっさんが巻き込まれる恐れがある。あくまでここだけの話だ。今聞いた事も忘れてくれ」



「はっ、なんでい。随分とおっかねえ話じゃねーか。あれか?この前の邪神現出。それに絡んでるのか?」



「・・・」



「ふんっ。まあいいさ。わかったわかった。こっちからは聞かねーよ。あくまで客から聞いた場合だけそれとなく情報を集めてやる。今は何処に住んでるんだ?ドルグレムか?」



「ああ、ありがとう。いや、今はルーン国だ。ガタリヤって街に住んでる」



「ガタリヤ・・・か。そんで?住所は?————ふん。おっけおっけ。メモってやったぜ。じゃあここになんかあったら連絡してやるよ」



「ああ、すまないな・・・助かるよ」

「ふん。構わねーって」



 ミールは1番聞きたい事を聞き終わって少し緊張の糸が切れた感じ。

 一組だけ置かれている椅子に腰掛け世間話を始める。



「他は何か変わった事はあるか?・・・まあ、変わってないだろうな。なにせ変化がないのが1番の特徴だからな、この国は」


「はっはっは。ところがどっこい、あるんだな、これが」


「ほー・・・聖女絡みか?」


「いやいや、確かに聖女様の施策は俺たちの年代の者には度肝を抜かれたが・・・違う。もっと凄いことさ。まあ、お前の事だから、とっくに気付いてると思うけどな」

「?」


「街を歩いてて違和感があったろ?」

「?・・・なにか変わってたか?」


「おいおい、まじかよ。やけに兵士が多くなかったか?」

「まぁ・・・言われてみれば・・・」


「かぁぁ・・・全くよぉ・・・もしかして空の変化も気付いてねーのか??」

「空?」



 店主は半場呆れた感じでスタスタと歩いていき、店の扉を開ける。



「ほれ、見てみろ」



 ミールは店主に促され空を見上げる。

 空には青空が広がっており、日光と結界の光が眩しい。



 ミールは手で光を遮りながら

「空がどうかしたのか?」


「おいおい・・・まじかよ。これを見ても分かんねーとは・・・ミール。お前たるんでるな」


「全く分からん・・・」


「ったくよー。結界の色が薄いだろ?どーみても。今にも消えそうじゃねーか」


「そうか?ガタリヤはいつもこんな感じだぞ?」

「おいおい、嘘だろ?大丈夫か?ルーン国」



 とはいえ、ここでようやく店主が言わんとしてる事が分かった。

 どうやら街をとりまく結界の色が薄くなってきているらしい。

 もしかしたら結界が壊れるかも・・・と警戒して兵士の数も増えているのだろう。



 しかし、弁明させて欲しい。

 ミールがこの街を訪れたのは10年ぶり。

 兵士がいつもより多いかなどは流石に分からない。



 更に結界の色・・・

 本当にガタリヤと同じくらいの色なのだ。



 結界の強度は聖女の力に大きく依存する。

 つまりババリオン国の聖女が放つ結界の色は今よりもずっと色が濃いのであろう。

 そして何らかの理由で薄くなっている現在の色が、ルーン国の聖女が放つ普段の結界の色と同色なのだ。



 おのれ・・・クワレルめ・・・



「それで?国全体がこうなのか?」

「いや、この街だけだ。他の街や聖都に変わりは無い」



「それじゃあ途中の地脈が切れかかってるんだろ?」



「ああ、そーだろうな。だがしかし、何時まで経っても場所の特定に至ってないんだ。もう3ヶ月になるぜ。全く調査隊の奴らは何をやってんだか・・・」



「なるほどね・・・でもしばらくは大丈夫じゃないか?さっきも言ったがガタリヤはいつもこんな感じだぞ。それでも全然平気だしな」



「なんの気休めにもならんが・・・暗愚の聖女と比べられてもなぁ」



 ルーン国の聖女、ルーン・スワイラル七世。本名クワレル・クックロース。

 彼女は知っての通り、ミール達と出会って邪神との戦いも乗り越えて、かなり内面に変化があったのだが・・・残念だが他国の人々にはまだ知る由もない。



「そっか。まあ、大体わかったよ。それじゃあ俺は久しぶりに街をブラブラしてくる。資料館とかも行ってみたいしな」



「なんだ?魔石買ってかねーのかよ」

「ん?なんか良いのある?あるなら買うぞ」



「いや・・・すまん。お前は使役士だったな。憑依魔石は最近はトンと入ってこねーなぁ。来るのは召喚獣ばっかりだわ。この『祝福の精霊』とかは良い品なんだけどなぁ」



「ははは・・・流石に精霊様を無理矢理具現化させて自爆させる訳にはいかないな。バチが当りそうだ」



「あったりめーだ。幾らすると思ってんだ。ったく、これだから使役士様はよぉ。いいか?大体だな、現世に無理矢理・・・」


「あー、はいはいはい。そんじゃ俺は行くよ。また来る」



 お説教モードに突入しそうな店主の話を遮り店を出るミール。



 ここババリオンは召喚術先進国なだけあって召喚士贔屓。

 そして召喚士と使役士は水と油のような存在。



 全くの別物を呼び出しているとはいえ、精神世界から呼び出している事に変わりは無い。



 そんな存在のモノをある意味使い捨てのようにする使役士は、召喚獣を崇めてさえいる召喚士にとっては忌み嫌う存在なのだ。




 ミールはそそくさと店を出て大通りに向かう。

 ガタリヤ程ではないものの、人通りは多い。

 人口70〜80万といった所だろう。



 ミールは大通りに設置されているスワップの街の全体図が載っている地図の前に立つ。

 皆さんの世界にもショッピングモールや複合施設などに置いてあるような案内板だ。



 しかしちょっと違うのは、地図に埋め込まれている魔石に触れると簡単な地図魔法を習得(無料)する事が出来る。

 これによりお店や施設の場所が簡単に分かる仕組みになっているのだ。



 もちろん個人宅の情報などは載せてないが、視覚と同一化されて表示されるので方向音痴の人にも優しい。

 目で見ている景色にカーナビのように矢印が出ているようなイメージだ。



 ミールはとりあえず近くにある資料館に向かう。



 書籍などの所蔵量はピカイチなババリオン国。

 脈打つ瞳について調べるのはもちろんだが、この際、別の分野の知識も広げておこうかと思っている。



 いくら身体能力が優れていようが、実力があろうが、知っている者と知らない者では大きな差が生じるのがフィールド。



 一見無駄や必要なさそうな知識が思わぬ所で役立つ事も多々あるので、幅広く色々な情報に目を通しておくことに損なことなど全くないのだ。



 ミールは緑色の塀に囲まれた資料館に到着する・・・が、入り口には兵士が立っており看板にはこう書かれていた。



 『本日休館』



「うげっ・・・休館かよ・・・いつまでなんだ?」

 不親切にも休館日などが書かれた案内版はなかったのでミールは兵士に話しかける。



「あのぉ・・・休館日って今日だけ?明日はやってる??」

「ん??ああ、知らんのか?当分休館だぞ。この街の資料館や図書館とか公営の施設は全部な」

「えええっ?!なんで!?」


「ほら、お前も知っての通り今は結界が薄くなってるだろ?だから兵士達がほとんど結界周辺に配備されててな。こういった資料館の警備に割く人員が確保できないんだ。すまないが当分は閉館されたままだな」


「なるほど・・・分かりました、ありがとうございます」

 ミールはペコッと兵士にお辞儀をして去って行く。



「くうぅ・・・期待してたのになぁ・・・」

 ミールはガクッと肩を落としながらトボトボと宿屋に向かい、その日はふて寝を決め込んだのであった。





 翌日、ふて腐れててもしょうがないのでミールは魔石屋巡りをする事にした。


 ガタリヤと違って魔法屋、魔石屋の数も多い。

 全て制覇するのは1週間近くかかるかもしれない。



「まあ、結界の不具合はこの街だけって話だしな。まだもう1つ街もあるし、聖都もある。とりあえず最初はこんなもんでしょ?」

 ミールは自分を納得させながらショップを巡っていく。



 しばらくこれといった収穫もないまま、ぼんやりとお店を巡る。

 すると、巡っているうちに1人の女によく出会う事に気付いた。



 その女は召喚獣の()(しろ)となっている通称『召喚魔石』に顔を思いっきり近づけてジーっと品定め。

 しばらくブツブツと何かを呟いていたが、意を決して店主のもとに魔石を持っていく。



「3000グルドだ」



 店主はぶっきらぼうに答えると、女はバンッとカウンターに手をついて店主を睨みながら(実際は魔法通貨に魔力を込めながら)決済を済ませる。

 そしてノッシノッシと鼻息荒く大股に歩き、横にある部屋に入っていくのだ。



 そしてしばらくすると・・・



 あからさまに『はあぁあぁぁ・・』と大きなため息をつき、ガクッと肩を落とした状態のまま部屋を出てきて、魔石を店主に戻し、スゴスゴと店を出て行く・・・その繰り返しだった。



 今回の店でも同じように品定めにじっくりと時間をかけ、店主に金を払い、別部屋に入る。しばらくして、がっくしとした表情で出てきたのであった。



 通常、召喚士の場合は経験をいくら積んでも勝手に召喚獣が手に入る事はない。

 召喚獣と交信して契約を成立させて、ようやく使えるようになるのだ。



 多くの召喚獣は召喚魔石などを通して契約を成立させる事が出来るのだが、やはり強大な力を持つ召喚獣は中々契約する事が出来ない。



 ではどうやって契約するのか、具体的に説明をさせて頂こう。



 召喚獣とは一種の神化している精神体の事。



 先程、多くの召喚獣は召喚魔石で契約する事が出来ると記載させて頂いたが、魔石に召喚獣が憑依している訳ではない。



 仮にも神の眷属(ミール談)を魔石に封じ込める事など人間には出来ないのだから。



 ではどうなっているのかというと、魔石には召喚獣と通じている依り代の波動が込められている。

 それに専用の魔法陣の中で魔力を込めて祈ると、召喚獣と意思疎通が出来るようになるのだ。



 そして召喚獣が召喚士の事を気に入った場合、契約を成立させる事が出来る。(あくまで召喚獣側に選ぶ権利がある)



 つまり先程の女は魔石を持って別室(通称契約部屋)に入っていったと思うが、そこには特別な魔法陣が敷かれており、そこで召喚獣に呼びかける。



 見事交信する事が出来て、且つ気に入って貰えれば契約する事が出来る仕組み。

 めでたく契約した場合はそのまま魔石を買う。(結構高額)



 しかし実際は気に入られる事は滅多に無いし、そもそも交信すら出来ない事が多い。

 その場合も女のように入室料がかかるので、お試しするのも慎重にならざる得ないのだ。



 女の様子を見る限り、恐らく交信すら出来なかったのではないかと予想出来てしまう。



 何故なら交信出来た者は大抵「くそー」とか「もうちょっとだった」とか言いながら、次に向けての道筋を模索する。要は手ごたえ有りなのだ。



 しかし女のように交信すら出来ない者は、見るも無惨な状態で部屋から出てくる。



 まるで推しの目の前で『応援してます!頑張ってください!』と声援を送っても見向きもされなかったかのように・・・



 まるで意中の人に勇気を出して告白しても、立ち止まる事すらしてくれなかったように・・・



 存在否定されているかのように、全く相手にして貰えないというのは結構メンタルが傷つくものだ。

ましてや他の人には反応有りなのに、自分だけ無反応なら尚更である。



 日に日にやつれていく女の姿をミールは面白おかしく・・・失礼。心配な表情で見つめていたのであった。






「ウエーイ。りりぴょん。ナイスゥ~」


 ザンッと心地いい音を響かせながら、巨大なイモムシの姿をしたモンスターを真っ二つにするリリフ。ふ〜っと額の汗を拭う。



「ブルニッ!そっちはどう?!」

「バッチリですっリリフ姉様っ!」

「こっちも問題ないぞい!」


「ひゅ〜。ブルッチも、セリリンも、リュイリュイも、マジ強えーじゃん!ヤベー!」


「あったり前じゃっ!誰が教えてると思っとるんじゃ!」

「ウヒョー!ロイロイ。やるぅう」



 ここはカルカ村近くのラルッパの森。

 リリフ達はガタリヤで受注した地域制圧クエストの真っ最中。



 当初はカルカ村周辺でしっかりと力を付けようとしていたのだが・・・急遽、折角だからラルッパの森に入っちゃおうって事になり絶賛格闘中なのだ。



 何故そのような事になったのかと言うと・・・



 お分かりかと思うが、ガタリヤ唯一の銀ランク冒険者達が一緒になって行動しているからである。



 リリフは『自分達にくっついてきても学ぶ事なんてナイナイ!』と精一杯訴えたが、見てるだけでいい、とにかく一緒に行きたい、いや絶対行く!の一点張り。



 結局『せめて呼び方を変えて下さい。ルチアーニさんはともかく私達が先輩なんてとてもとても・・』『オッケー!それじゃあ、りりぴょんな!シクヨロ!』てな感じで同行する事に。

 何故かルチアーニ達にも同じ感じなのはご愛嬌。



 最初は銀ランク達が、バカスカとモンスターを倒しまくってしまうのではないかと心配していた。


 こういうランク差がある者達とPTを組むと、自分達の強さを見せびらかしたり、指示を出しまくったりして、練習にすらならないといった事が冒険者あるあるだからだ。



 しかし銀ランク達は全く手を出さない。指示も無し。

 本当に見てるだけ。

 これにはリリフ達もルチアーニ達もほっと胸を撫で下ろした。



 更に更に・・・



「リュイリュイ。さっきブルッチに回復しようとして止めたっしょ?」

「あ、はい。ダメージを受けなかったので・・」



「うんうん。ナイス判断。だけどよぉ、ちょっとセリリンとりりぴょんは息上がってたぜい。全体の疲労回復を目的とした魔法もしてみても良いかもぉ。俺は定期的にしてるんだぁ」



「なるほどっ!確かにそうかもしれません!ありがとうございますっ」

「ウェェーイ。リュイリュイ、ナイスゥ」



 と、こんな感じで戦いの後にこっそりアドバイス。

 素敵すぎるヤロー!って思わず叫んでしまいそうだ。



 簡単だが銀ランクPTの紹介を。

 リーダーはビレット、片手剣使いだ。

 近接武器を使いこなしているのはモンクのブルーダ。

 大盾を構えているのが山岳士のレイン。

 更に今素敵なアドバイスをしていたのが星占術士のクリム。主に回復と防御魔法を得意とする回復職だ。



 そんな事もあり、自分達のレベル上げの心配もなく適切なアドバイスも貰える。

 そしてやっぱり銀ランクが一緒にいると心強い!・・・てな訳でどうせならラルッパの森に入っちゃえってなった訳である。



「いやはや。最新の荷車は凄いのぉ。ワシ、まさか森の中を走れる荷車が出てくるとは思わなんだ」

「そうじゃそうじゃ。本当に楽ちんじゃのぉ」

「これのお陰で随分楽になったわね。おばちゃん助かるわぁ」



 今回はリリフ達が所持している荷車が大活躍中だ。

 自動で段差に合わせて車輪を動かしてくれるし、進むのも補助してくれるので、森の中でも楽に進む事が出来ている。



「でもやはり森に入ると雰囲気が違いますわね」

「うんうん。敵の数が多いね」

「視界が遮られる場所が多いので一層注意が必要ですね。同時に複数の集団に襲われる事も想定しなくては」


「そうね。普段相手にしてないモンスターが多いから、結構緊張しちゃうわ」


「ですわね。油断せずに行きましょう」

「ブルニ、頑張りますっ」


「ほっほっほっ。良い心がけじゃ。足場も悪いから注意じゃぞ」


「あと用心するべきはやっぱりゴブリンじゃな。奴らは待ち伏せとかもしてくるしの」



「ゴブリン・・・」

 ゴクっと唾を飲み込むリリフとセリー。



「大丈夫かい?リリフちゃん。セリーちゃんや」

「あ、はい。ごめんなさい、ルチアーニさん。心配して貰っちゃって」


「いいのよぉ。なんかあってもおばちゃんが守ってあげるっ。大事な娘に傷一つ付けてやるもんですか」


「ルチアーニさん・・・」

 嬉しくて涙ぐむリリフの頭を優しく撫でるルチアーニ。本当に親子のようだ。



「リリフ姉様っブルニも絶対守ります!」

「わたくしも負けませんわっ!リリフ、一緒に蹴散らしますわよっ」

「うんっ!」




 しかし現実は甘くなかった。




 あれから直ぐにモンスターの群れに遭遇。その中に数匹のゴブリンが混じっていた。



 リリフ達は必死に戦おうとするが・・・身体が重い。足が動かない。音も聞こえない。頭が真っ白になって硬直してしまう。



「リリフ姉様っ!しっかり!」

「セリーちゃんや!落ち着くんじゃ!」



 みんなの呼びかけにも反応しない。ブルブルと身体を震わせている。



「セリー姉様っ!危ない!」


 セリーめがけて突進してくるゴブリンの剣を、ブルニはなんとか盾で受け止める。が、衝撃でセリーもろとも後ろに吹き飛ばされてしまう。




「あああぁぁあぁぁ!!うああぁぁぁあぁぁ!」




 恐怖からか、尻餅を付いたまま発狂したような叫び声を上げ、セリーの火の玉が四方八方に次々と飛んでいく。



「うおっあぶねっ!」

「ぐわわわっ!セリーちゃん!冷静に!深呼吸じゃっ!」

「セリー姉様!」



 ブルニがセリーの顔ごとギューっと抱きしめる。

 尚もしばらく火の玉を打ち出し続けたセリーだったが、ようやく止まり、そのまま気絶してしまった。



「リリフちゃん!右から来るよ!」

「は、はいっ!・・」



 返事こそあるがセリー同様、恐怖の2文字が頭を支配しているようだ。

 いつもの俊敏さは全く感じられない。



    ガギンッ!



 ゴブリンの短剣をウイングナイフで受け止めるリリフ。



 しかし間近で舌を出しながらニタァと笑うゴブリンの顔を見てしまい、こちらもセリー同様叫び声を上げながら剣をめちゃくちゃに振り回す。



「リリフねぇ様っ!」

リューイが必死に声をかけるが届いていない。更にブンブンと剣を振り回しているので近づく事も出来ない。



「リリフちゃんっ!危ないっ!」



 リリフ目掛(めが)けて2匹のゴブリンが同時に襲いかかる。



 1匹はロイヤーが防いだがもう1匹は・・・



 リリフの喉元に剣が突き刺さるかと思われた瞬間、背後からザンッと剣をなぎ払い、一瞬で仕留める銀ランクリーダーのビレット。



 更に剣を肩に置き、他のゴブリンを睨む。



 この物語が始まった最初の頃にも説明させて頂いたが、ゴブリンは知能は低いが馬鹿ではない。相手の強さなどはしっかりと把握出来る。


 一瞬で葬ったビレットに睨まれたゴブリン達は、蜘蛛の子を散らすように森の奥に逃げていった。



 それから他の銀ランクの3人も動き出し、文字通りあっという間にモンスターは駆逐された。



「はあっ!はあっ!はあっ!」

 荒い呼吸を繰り返すリリフ。額に汗がびっしょり吹き出ている。



 そんなリリフの背中を優しくさするルチアーニ。

 幸いセリーも直ぐに目を覚ましたが、こちらは放心状態。ずっと下を向いてうつむいている。

 そんなセリーをブルニが泣きそうな顔をしながら、ぎゅぎゅーっと抱きしめていた。



 段々と呼吸が落ち着いてきてリリフは弱々しく笑い

「ご、ごめんごめん・・・私は大丈夫・・・さ、討伐を続けましょ」

「リリフちゃんや・・・今日は帰った方がいいんじゃないかい?」



「あはは・・・もう、大袈裟(おおげさ)だなぁ・・・さっきはちょっとビックリしちゃっただけだから・・・ね、セリー。行こ」

「はいですわ・・・」



 10分ほど前とは対照的に意気消沈しながら会話を交わす。




 しかしその後もたいして進展は無く・・・同じような結果に終わった。



 リリフの俊敏な動きは見る影もなく、セリーの火の玉はあさっての方向に飛んでいく。



 ・・・何度も・・・何度も・・・




「ギュワアアウギョゴォ!」



 ゴブリンは剣を交差させながら圧力をかけ、リリフに覆い被さる。

 その際にゴブリンのヨダレがリリフの頬に落ちた。



「あたしの娘に手を出すんじゃないよっ!」

 ルチアーニの魔法が炸裂し、ゴブリンは灰になって消えうせる。




「うえええぇぇええぇぇっ・・・・」




 ゴブリンのヨダレから放たれる悪臭に、頭の奥底にしまった記憶が呼び覚まされたのであろう。

 リリフはその場で豪快に嘔吐してしまった。



「リリフちゃんっ!今日は帰ろう!無理することないさねっ!」

「そうじゃそうじゃ!また明日来ればよかよか」

「オレっちもーそうした方が良いと思うぜぇ。りりぴょん超頑張ってるもん」

「そうですよっリリフ姉様っ!さ、帰りましょっ!」



 腕を支えて立ち上がらせようとするブルニを、静かに制して首を振るリリフ。



「げほっ・・げほっ・・ダメよ・・・帰れないわ・・・」



「リリフちゃんや。そんなに自分を追い込んでもキツいだけじゃ。一旦休息を取ろう。時には逃げてもいいんじゃ」

 優しく諭すランドルップの言葉を、思いっきり首を振って拒絶する。



「ダメよっ!ダメ!」

「リリフ姉様・・」



「分かってる!分かってるの!自分でもこれほど動けなくなるなんて思ってなかったわ。ゴブリンの存在は・・私達の心の奥底に深く傷をつけている。もしかしたらもう忘れる事なんて出来ないのかもしれない。でも・・でもここで逃げちゃダメなんだ!確かにみんなが言うように一旦引くのも有りだと思う。精神的負担が増えるだけかもって、自分を納得させて・・・でも、でも私には分かる。ここで逃げちゃダメなんだっ!楽な方にいっちゃダメなんだ!苦しくても(つら)くても、ここで逃げたら一生逃げ癖がつく!そしたらもう冒険者としてやっていけない。一度逃げ癖がついた、楽な方に逃げた冒険者が生き残れるほどフィールドは甘くない。セリー、セリー!思い出そ!私達がガタリヤで、あの部屋で誓った事!冒険者になろうって思った時の事!私達は負けないっ!あの虐げられた日々、陵辱された日々に負けないっ!絶対にやり直すんだっ!取り戻すんだ!だって、だって・・・ミールと一緒に冒険したいものっ!」



 リリフの悲壮なまでの眼差しを受け、セリーも立ち上がる。



「そうですわ・・・そうでしたわっ!わたくしには美味しいお料理が待っているのです!世界中の甘美たる食材の数々を食べ尽くすまで、わたくしの冒険は終わりませんわっ!」


 ぷるんっと胸を揺らしながら決意を新たにするセリー。



「レインボービームの皆さん。よろこびの里の皆さん。2つお願いがあります」

 そう言ってリリフは1つの魔石を取り出す。



 レインボービームとは銀ランク達のチーム名。

 よろこびの里とはルチアーニ達のチーム名だ。



 因みに・・・



 リリフ達はルクリアを含めて話し合い『凱旋がいせん歓歌かんか』というチーム名で登録している。

 凱旋とは強くなって戻ってくるという願い、そして喜びに満ちたチームでいたいという願い、ルクリアの歌も含めてのPTだという思いが込められている。



「この魔石はもしもの時にってミールから貰った物です。ドーラメルク産です。1つ目のお願いは皆さんはこれを使って結界の中にいて頂けないでしょうか?そうすれば音も匂いも姿さえも消せるのでゴブリン達は皆さんを視認出来なくなり逃げなくなると思うのです」


「でもそんな事をすればリリフちゃんがっ?!」


「はい。そうです。そして2つ目のお願いが何があってもそこから出ないで下さい。例え私が深手を負おうとも・・・私達に任せて下さい。お願いします」



 リリフの決意に満ちた瞳の輝きに誰も反論ができない。



「ブルニ、リューイ。貴方達は一緒に戦ってくれるかしら?」

「もちろんですっ!リリフ姉様っ!セリー姉様っ!」

「僕も一生懸命頑張ります。絶対に皆さんを死なせません」



 リリフは魔石をルチアーニに手渡す。



 尚も心配そうな顔をするルチアーニ。

 そんなルチアーニの肩にポンっと手を置き、ロイヤーが優しく語りかける。



「ワシらの負けじゃ。ここはワシらの娘達を信じようではないか。確かに危険じゃ。危険じゃが・・・ワシはリリフちゃん達の想いを尊重したい」

「うむ・・・見事な漢気(おとこぎ)だ」

「なんつーか・・・りりぴょん!負けんなっ!オレもバイブス上げて応援するぜぇ!」



 ルチアーニも観念したかのようにフウッとため息をつき

「分かったわ。でも約束。必ず勝つこと。いいわね」

「ありがとう。ルチアーニさん」



 ルチアーニはニコッと笑顔を見せてから魔石に魔力を込める。

 しばらくすると魔石が光り出す。


 ルチアーニはそれを地面に埋め込み結界を発動させた。



「ふわぁぁ。本当になにも見えないんですねっ」

「うん。さあ、ここからよ。みんなで声出し合って行こう。もしまた私達がブルブルと震えてたらバチーンってビンタしちゃっていいから」

「分かりましたっ!ガツーンと盾で叩きますねっ」

「・・・」



 ブルニの盾攻撃は結構強力だ。

 今までも何回もモンスターを押しつぶしているのを目撃している。



 本当にそうなったら私どうなるのかな?・・・



 リリフはちょっと想像して笑ってしまった。が、それが良かったのかもしれない。

 視界に遠くから近づいてきているゴブリンの群れを捉えていたが、不思議と今までのような感じではない。



 決意が心を強くしたのか、笑いが、前向きな気持ちが変えさせたのか分からないが、下半身にグッと力が入っているのを感じる。

 スライムの上に立っているかのようなフワフワとした感じもない。



 行ける!



 リリフは両手に武器を構えながら皆を鼓舞する。



「来たよっ!今まで通りに!ブルニ!先ずは敵の動きを止めてっ!素早いから気をつけるのよ!」

「はい!リリフ姉様っ!」



「セリー!左からの敵をお願いっ!攻撃は必ずブルニの後ろからね!」

「了解ですわっ!」



「リューイ!全体を見て落ち着いて!一撃一撃に威力はないわっ!焦らず冷静にっ!」

「はい!リリフねぇ様っ!」



「私は右から行くわっ!」

「リリフ!深追い厳禁ですわよっ!ヒットアンドアウェイですわっ!」

「りょーかいっ!」




「グギャガガギキャリョアギャ!」




 先頭のゴブリンがナイフを投げてきたのを皮切りに、一斉に飛び出すゴブリンとリリフ。

 ガキンっとブルニが盾で防ぎ、それと同じ軌道で今度はリリフがスキル『瞬足』を使い一気に距離を詰める。



 ビュンッ



 恐らく自分の首が切られた感覚すらないかもしれない。

 先頭のゴブリンはそのまま事切れる。




    ボボウンッ




 今度はセリーの火の玉が光の微粒子を纏い放たれる。炎の精霊達だ。

 こちらも1直線にゴブリン達に襲いかかり、2匹同時に灰にする。

 


 数は10匹程度。赤ランク程度でも苦戦するような数だ。

 しかし、リリフ達はお互いに声を掛け合って着実に数を減らしている。



「エレクペラーション!」

 リューイの回復魔法が飛ぶ。さしてダメージは受けてないが全員の疲労回復を狙って唱えている。アドバイス通り。



「サンキュー!リューイ!」



  ビュビュビュン


 軽やかにリリフが稲妻のようにゴブリンの脇を駆け抜け、同時にウイングナイフで首を落としていく。



 行ける———と思った瞬間・・・



「グギャガガリギャグッ!」

 2匹同時に飛びかかりリリフの下半身を掴みかかる。



「きゃっ」

 足を止められたリリフに更にもう1匹が覆い被さる。




         ガキンッ




 ゴブリンの短剣を何とかダガーとウイングナイフで受け止めるリリフ。が、先程と同じようにゴブリンのヨダレがリリフを襲う!



「く・・・」



 リリフの表情が曇る。


 

 絶望の色が襲う。



「リリフちゃんっ!」

 結界から飛びだそうとするルチアーニの腕を、ガシッと掴み首を振るミケル。



「大丈夫だ・・・信じろ・・」



 腕を掴んでいる力が強い。



 普段はルチアーニに対してとにかく優しいミケル。

 この力の強さは平常心ではない事を意味している。

 しかしグッと堪えて戦況を見守っている。

 ロイヤーも、ランドルップも、銀ランク達も。




「このおぉぉおぉぉ!」




 グンッっと力を込めてゴブリンを宙に浮かせる。スキル『切り上げ』の応用だ。



 その瞬間を待っていたかのように火の玉が舞い上がったゴブリンを捉える。

 空中で灰になるゴブリン。



 それを見てリリフの下半身にしがみついていたゴブリン2匹の動きが一瞬止まる。



「やあああぁぁああぁ!!」

 今度はブルニの盾攻撃。宣言通りゴブリンを押しつぶす。



「グギャギリイリギャ!」

 最後のゴブリンは慌てて手を離し、逃げ出した。



「逃がすもんですか!」

 その背中をリリフのダガーナイフが炸裂。今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように5連撃でトドメを刺した。



「はあっ!はあっ!はあっ!」

 リリフは大きく荒い呼吸を繰り返す。しかし以前とは違い達成感に溢れている。





「やったああぁ!」

 




 直ぐにピョンピョンと跳び上がり全員のもとに走って行く。


「やりましたわっ!」

「わああぁぁいっ!姉様方っ!格好いいですぅ!」

「やった!やった!」

 4人で円陣を組みピョンピョンと喜びを共有する。

 


 もうたまらん!



 そんな感じだろう。

 ルチアーニ達にとっては我が子の無事と成長。

 銀ランク達にとってはリリフ達の強い精神力に感服。

 お互いに喜びを爆発させリリフ達のもとに走って行く。



「りりふちゃん!良かったわあぁ!」

「やったぞよぉ!」

「わしゃ、泣けてきた!」

「・・・ふん、当然だ・・・」

「超パネェ!超パネェ!」

「うひょー!」

「マジかっけー!マジかっけー!」

「リリフ神!りりぴょん!超神!」



 大はしゃぎの一行。大声が森中に響き渡る。



「もう・・・騒ぎすぎですって・・・でもありがとうございます。心配かけてごめんなさい。もう大丈夫っ!これから一層頑張りますっ!」

「いや~~。一時はどうなるかと思ったが、何とかなったのぉ」

「流石リリフちゃん達じゃっ」



「うふふっ。本当に良かったわぁ。さてさて。だいぶ時間も経ったし、リリフちゃん達も結構消耗してるハズだから、今日はここら辺で帰ろうかしらね」



「えー?まだ行けるのにぃ!」

「わたくし夜まで行けますわっ!」



「ダメですぅ。姉様方、一時的にハイになってるだけですよぉ。ミール様も言ってたじゃないですかぁ」

「そうです。調子が良いときほど冷静に。身体の負担は大きかったと思います。今日は無理せずに行きましょう」

「ぶー」



「ひゃひゃひゃ。こりゃ1本取られたのぉ。リリフちゃん、セリーちゃん」

「・・・うむ、流石だブルニ・・・」

「えへへっ」



「くぅぅ・・・PT内でもしっかり1人1人が意見を持って言い合える。これだよ、なあ。俺たちに足りないのってこれじゃねーかぁ!」

「んだね。結構テキトーに決めてんもんね、いつも」

「さっすがりりぴょんっ!」



「んもぉぉ!分かりました!分かりましたよーだ!だからその輝いた目で見るのやめてー!」

「あはははっ」



 和やかな雰囲気で帰路につく一行。

 カルカ村からはそこまで離れていない。小1時間程歩けば到着するだろう。



 森の中心部は大木が立ち並び壮観な景色が広がっているのだが、逆に同じ景色過ぎて迷いやすい。

 しかしここら辺は、ちょっとした広場や細い木など目印に困る事もないので、迷う心配はなさそうだ。





 そんなある意味、見慣れた風景が広がっているはずの場所にそれはあった。





「え・・・な、なにこれ?・・・」

「こ、これは・・・」

「なんじゃ・・・一体・・・」



 全員が呆然とそれを見上げる。


 全体はコケまみれで、大きさは3階建ての家くらい。

 周りの木々とほぼ同じくらいの大きさだ。



「これは・・・太古の建造物・・・でしょうか?」

「う、うむ・・確かに自然に出来た・・とは言えんかもの・・」



「ご、ごめん・・・私・・なんか・・ゆ、指・・・に見えるんだけど・・」



「あちゃー・・・やっぱりか!?ワシもそんな気がしておった!」

「やっべぇ・・超デカいじゃん。何?人差し指的な??」



 そう。リリフ達の前にそびえ立つのは、明らかに人差し指の第二関節から指先にかけての部分がニョキっと地面から生えていた。


 少し折れ曲がり、長い爪は人間・・・というより悪魔種によく見られる形をしている。



「あれ?・・・同じ・・・道ですよね?午前中と」

「う、うむ・・・ほれ見てみい。あの双子岩・・・あれを目印にしてる冒険者も多い・・・間違いない。来た道と同じじゃ」

「それにもし違ったとしてもこれだけの大きさです。とっくに発見されているはずですわ」


「つまり・・・午前中に通ったときは無かったのに・・・急に現われたって事??」


「いや。これだけコケまみれになっておるし・・・周辺の地面にも変化がない。つまり・・・元々長い年月の間、ずっとここに有ったっちゅーこっちゃな・・・」


「ふえぇんん。怖いですぅ」

「・・・」



 段々と皆口数が少なくなっていく。



 急に現れた事、大きさが桁違いな事、形が異様な事・・・



 そして何より・・・若干ではあるが邪悪な妖気が大気中に混じっている感覚が、皆を黙らせる。



「い、いかん!とてもワシらの手には追えん!撤退じゃ!急いでここを離れるんじゃ!」

「ですわね!なんか嫌な気配をビンビン感じますわ!」

「そうね!走るよっ皆んな!」

「おうっ!」




「・・・!・・・」

 一気に走り出そうとした矢先、いつのまにか前方に『それ』は立っていた。




 一瞬人間かと思うほどの(たたず)まいだ。

 しかし直ぐに人ではない事が分かる。



 顔は馬というよりヤギに近い。角も野良デーモンよりかは小ぶり。

 翼は野良デーモンがコウモリのような感じだが、こちらはツバメのような感じだ。

 しかし両方とも共通するのは、蛇のような形をした尻尾を持つことだった。



「っ・・・!」

 思わず大声を出しそうになり、慌てて手で塞ぐ。



 少しでも声を上げれば殺される・・・そう感じさせるほど凄まじい殺気がそこにはあった。



「ありゃ・・野良デーモンじゃないね・・更に上位のハイデーモンか・・・」

 銀ランクリーダーのビレットは、静かに剣を抜き前に出る。



「だね。見た事ないよ、あんなヤツ」

 同じように大盾を構える山岳士のレイン。



「ま、邪神が出てくるくらいだしねー。ハイデーモンの1匹や2匹、そこら辺にいるだろーよ」

 同じく近接武器を構えるモンクのブルーダ。



「さてさて、果たしてまともに戦えるのか。乞うご期待」

 リューイにちょくちょくアドバイスしてくれていた星占術士のクリムも臨戦体制に入る。



 全員、普段のおちゃらけた感じが薄れている。

 それだけ洒落しゃれにならない相手だという事だ。



 もしこれが野良デーモンだった場合、現出したばかりなら半分寝ている状態なので楽に逃げられる。

 しかしハイデーモンとなると話は別だ。既に相当な数の人間の魂を食っているだろう。



 戦うしかない



 リリフ達もルチアーニ達も身構えるが、銀ランクリーダービレットは静かに右手で制して首を振る。

『ここは俺達に任せてくれ』という事だ。


    続く

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