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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼㉔

「領主だよ。先ずはアーニャの爺さんだ。全く権力を振りかざして民を蔑ろにしようとする気持ちがない。珍しい領主だ。引退するって聞いてどうなるかと思っていたが・・・後任の孫娘はそれ以上に正義感丸出しのとても綺麗な女の子だったよ。こんな美人で面倒くさい領主がいるんだぜ?他の街になんて住めないよ」


「もう・・・バカ・・・」

 2人は唇を交わす。

 そしてアーニャにとって忘れられない夜となるのであった。



⇨聖女巡礼㉔




 翌日のお昼近く、リリフ達は肌をツヤツヤさせながらご機嫌に、ミールとリューイは目を腫らしながらヨタヨタと広場に続く道を歩く。



 結局あれからリリフ達と、何故かルイーダも加わり5人を相手にする事になったミール。全てを搾り取られる結果となったのだった。



 ちなみにリューイはいつものラッキースケベが発動し、名前も分からない女性に朝まで相手をさせられたようだ。

 もちろんリューイはずっと気絶していたが、構わず犯され続けたらしい。

 朝になって目覚めたら精液とサイフの中身が無くなっていたという羨ましくもあり、悲しくもある感じだ。



 広場に着くとかなりの人集りが出来ていた。



 先に到着していた領主達を始め、各街の兵士や住民達が整列している。

 やはりみんな我が街の順位が気になる様子。

 広場はザワザワと騒がしく、人々は様々な予想を立てているようだった。



「あっ、アーニャ様だっ。アーニャ様あぁっ!」

 リリフはアーニャを発見すると大きく手を振る。



 声に気付いたアーニャは領主達が座る貴賓席から視線を移すと、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。



「ありゃりゃ。アーニャ様、照れちゃってるぞい」

「昨日は随分と盛り上ったようじゃの?」

「結局アーニャ様はみんなと一緒に過ごしたのかい?」



「は、はいっ。最初はアーニャ様だけで。その後、私達とルイーダさんも合流して一緒に過ごしましたっ」



「俺は地獄だったけどな」

「何言ってんだい。天国の間違いじゃろが」

「罰当たりめが」

「うふふ。ミールったらヒイヒイ言ってたもんねっ」

「でもそのお陰でわたくし達は大満足ですわぁ」

「ブルニ、とっても幸せでしたっ」


「くぅぅ・・・ミール!殴らせろっ!一発殴らせてくれっ!」



 そんな会話をしていたら、気がつくと聖女を乗せていると思われる豪華な馬車が広場に到着した。

 馬車の扉が開き、聖女がピッケンバーグのエスコートを受けて降りてくる。



 住民から大きな歓声が上がった。



 聖女が緊急結界を使わずに通常結界を選択した事は、もちろん全ての住民達が知っている。



『緊急結界を私達の為に使わなかったんですってっ!』

『聖女様は俺たちを見捨てなかったんだっ!』

『大貴族ブレーダル卿の反対を押し切ったらしいぞ?!』

『ブレーダル卿は粛清されたんだって!』

『あんな大貴族を粛清してまで私達の事をっ!』

『ずっとバカにしててごめんなさい!』

『俺もだ!やれば出来るじゃねーか!』

『聖女様!万歳!』



 そんな感じで、今現在の住民達の聖女の評価はうなぎ登り状態だった。



 聖女はゆっくりと手を振りながら人々の歓声に応えている。

 その姿勢や表情からは民を下に見ている感じは一切感じ取れない。

 良い意味で気の抜けたような、自然体の聖女の姿がそこにあった。



 聖女は壇上に上がり、グルッと辺りを見渡すと深く一礼する。



 それだけで住民からはざわめきが起った。今までは軽く一礼する事はあっても、ここまで深く頭を下げている姿を初めて見たからだ。



 聖女は中央の拡声魔石(マイク)が設置されている場所まで歩いて行き、再度深く一礼してから話し始めた。



「皆さん、こんにちは。今日ここで話すことが出来る喜び、命があることの喜びを噛みしめながら今ここに立っています。沢山の・・・本当に沢山の犠牲がありました。兵士、冒険者、そして住民の皆さん。数多くの犠牲の上に私達の命は今ここにあります。お亡くなりになった皆様のご冥福をお祈りする為、皆さんの魔力を捧げましょう」



 聖女は両手のひらを胸の前で合わせ、祈りを捧げる。

 するとポワアっと白い光が身体全体を優しく包み込んだ。

 その光はゆっくりと上に登っていき空に散っていく。



 皆さんの世界で言う黙祷のような感じだ。こちらの世界では1人1人が少しだけ魔力を放出して天に捧げる事で追悼する。



 広場に集まった住民達の魔力が天に昇っていく。

 そして魔法画面機で中継を観ている人々の魔力も至る所から昇っていく。

 正に聖都全体から白い光が昇っていく光景は圧巻の一言だった。



 それだけ住民全員が命の危険を感じ、今日生きている事に感謝し、身体を投げ出して時間を稼ぎ、身体を投げ出し回復士を守り、身体を投げ出し聖都の住民を守ろうとした者達に哀悼の意を表しているのが分かる光景だった。



 昇っていく光を人々は涙を流しながら見守っている。

 シクシクとすすり泣く声に包まれる広場で聖女は再び話し始めた。



「では早速、序列順位の発表へと移らせて頂きます。先ずは巡礼に参加した兵士の皆さん、本当にお疲れ様でした。領主の皆さんもご苦労さまでした。無事魔石に魔力を注入できてホッとしております。例え発表される順位が何位であろうと、その貢献に感謝する気持ちは変わりません。お集まりの住民の皆様。そして中継をご覧の皆様。どうか拍手をお願いします」



  パチパチパチパチ・・・

 率先して聖女が拍手をすると、それに習って住民達の拍手の音に包まれる広場。



「ありがとうございます。それでは順位を発表させて頂きます」



 領主達が座っている貴賓席のちょうど反対側に位置する場所で、スタンバイしていた楽器の奏者達から勇ましい音楽が流れてくる。



 住民達も固唾を呑んで見守っている。



 そして領主達は暫定順位の発表も無く、順位融通も行う事が出来ずに、初めて迎えたガチ発表を脂汗をかきながら凝視している。



 領主達は自分が行った信頼の証の贈呈を振り返り『いや、大丈夫だ。贈り物も童貞男も問題は無いハズじゃ』『ミラージュがいなくなったのだ。その分上に繰り上がるハズ』『最後の方は確かに良い印象ではなかったかもしれんが、それは他の領主も同じじゃ。大丈夫』等々。



 自分の都合の良いイメージを頭の中に浮かべ、精神の安定を図っている。




「では第1位・・・」

 シーンとする広場。




 ドドドドドドドドドッドドン

 ドラムロールが鳴り響き、緊張を更に高める。






「第1位、ガタリヤの街。領主アーニャ」






 ウオオオオオオオォォォ・・



 地鳴りのような人々の声が響く。



 大半は驚きの声と驚愕の声。

 何せ60年間最下位を取り続けたガタリヤが首位なのだ。



「きゃー!やったあぁ!やったっやったっやったあぁ!」

「1位ですわっ!本当に1位ですわっ!信じられません!」

「わあぁいっ!聖女様だーーいすきっ!」

「ホントにこんな事が起るんだねぇ」

「信じられんのぉ」

「ワシ、ビックリし過ぎて頭がぼーっとしてきたぞい」

「それはボケのせいだ・・・心配ない」


 大盛り上がりのリリフ達。



「アーニャ様ぁっ!やったよぉぉ!」


 リリフが大声でアーニャに呼びかけるが、聞こえるはずもない。

 それほど広場は異様な熱気に包まれていた。



 当のアーニャも貴賓席でぼーっとしているような、硬直しているような・・・まだ実感が湧いてきていない感じだった。



 ザワザワザワザワ・・・



 段々と広場は驚きや驚愕の声の代わりに不安と期待が混じった声が占めてくる。

 住民達からすれば、一体何が起っているんだと戸惑う事ばかりだろう。



 しかし領主達は違った。



 巡礼終盤での聖女の振るまい、ガタリヤの者達への接し方を見れば、ある程度ガタリヤが上の順位に来る事は予測が出来ていた。



 まさか1位だとは思わなかったがこれも想定内だ。

 もしかしたら次はクリルプリスがくるかもしれん・・・

 貢ぎ物を何一つ出さなかったとはいえ、ガタリヤとの親密さは懸念材料だ。


 だが、まあいい。問題はその先だ。3位からが勝負じゃっ!



 領主達はより一層聖女から発せられる言葉に注視する。




「第2位・・・」




 ドドドドドドドドドッドドン

 再び静寂が訪れ、ドラムロールの音が鳴り響く。





「第2位、クリルプリスの街。領主クラリネット」





 ウオオオゴゴオオウウウゴオオウウ・・・



 先程よりも大きな歓声が上がる。歓声というよりかは唸り声に近かった。



 『60年間ほとんど変わらず9位10位だった街が』『これは歴史が変わる』『新しい時代の幕開けだ』『信じられない』『一体この先どうなるんだ』



 人々の不安と期待の入り交じったざわめきに包まれる広場。

 住民達は思い思いに感想や予想を話し合っているようで、中々ざわめきが収まらない。

 一種の異様な雰囲気の中、聖女は続けて発表する。




「第3位・・・」




 ドドドドドドドドドッドドン




 ココだ。これからだ。ここからが正念場だ。

 出来れば5位以上のAランクに。最悪8位までならなんとかなる。


 1番マズイのが9位10位だった場合だ。最下位なんて取った日には領主の座を追われてしまうぞ・・・



 ドラムロールが鳴り響き、再び静寂が支配した広場で、領主達は聖女の次の言葉を固唾を呑んで見守る。


 まるで口の動きを通して、何を言おうとしているのかを解読しようとしているかのように・・・





「第3位・・・該当無し」




 ???



 聖女が何を言っているのか分からない。あまりの予想外の言葉にしばらくシーンとしていた広場。

 次第にザワザワとし始める。



 聖女はそれに構わず発表を続ける。




「第4位から9位まで該当無し。そして・・・ガタリヤ、クリルプリス以外の街は全て最下位の10位とします。これは聖都も含まれます。聖都も第10位です」




 正に呆気に取られるとはこういう事なのだろう。

 住民達も領主達も、ポカーンと口を開けて硬直している者が多かった。



 特に聖都の住民達。

 聖都は当然だが常に1位より上な特別な存在の街。

 ここに住むのはエリートの証、税金もかなり優遇されており保障も手厚い。



 その聖都に順位が付いた。

 しかも最下位だと聖女は言っている。

 言葉は耳を通過しているが脳は理解していなかった。



「え??えっ?なになに?!どういう事??」

「全部10位?!嘘だろ?!」

「聖都は別でしょー?関係ないって」

「バカっ!聖都も10位って言ってるんだよ!」

「訳わかんねー!マジで訳わかんねー!」



 次第に不平不満を口にし始める住民達。

 段々と声は大きくなり怒号や罵声が混じるようになってきた。





「貴方達・・・また邪神に襲われたいの?」





 聖女の言葉にピタッと静かになる住民達。



「良いかしら?悪魔種っていうのは人間の欲望や負の感情、そして大量の屍を糧に具現化すると言われているわ。そして今回は世界を滅ぼしかねない存在、邪神が現出してしまった。それが何を意味すると思うのかしら?」



 大勢の群衆がいるとは思えない程、広場は静まり返っている。



「邪神を討伐してくれた英雄様が仰っていたわ。今回の邪神は信じられない程強かったと。そしてこうも言っていたわ。それだけ聖都の住民達の欲望や負のエネルギーが強かったのかもしれないってね。何百年って長い時間に蓄積されたエネルギーが昨日邪神を現出させた。それは間違いないわ。そしてかつてないほどに強い悪魔種が現出してしまった。もちろん今この場にいる人達だけの責任ではないけれど、全く関係ないって訳でもない。1人1人よく思い出してみなさい。人を陥れ、騙し、貶し、蔑み、哀れむ。軽蔑や嫉妬、差別に偏見、今まで誰にもしてこなかった人はいるかしら?・・・ええ、皆さんの言いたい事は分かるわ。どの口が言ってるんだってね。そう、皆さんもご存知の通り、私自身もそうだったわ。暗愚の聖女と呼ばれ、大金を巻き上げ、数々の宝石を手に入れ、そして男をはべらす。そこにこの国を良くしよう、民の為に行動しようといった考えは微塵も無かった。恥ずかしいけどね。そういった1人1人の自分勝手な感情の積み重ねが、今回の事件に繋がった可能性が有ると英雄様は仰っているわ」



 聖女は敬語を使わない。

 当たり前だろと言われればそれまでだが、その言葉使いが親近感を生み、逆に人々の心に刺さる。



「だからこそ私達はそのツケを払わなくてはならないと思うの。散々好き勝手に負のエネルギーを撒き散らしたツケをね。だから私は聖都を含めてガタリヤ、クリルプリス以外の街を最下位にした。そして皆さんに1からやり直してもらいたいの。でも、聖都の住民達は納得いかないわよね?だってここに住んでいるのはエリートの証だもの。税金も保障も優遇されてるし、物資も豊富だわ。でも忘れてはならない。それは下位の街の住民が苦労して働いたお金を使っているんだって。忘れてはならない。自分達が欲しい物を買えるのは不自由して我慢している人のお陰なんだって。ホントにそれで良いの?自分達だけ良ければ良いの?騙し騙され、虐げ虐げられ、残酷なほど無慈悲な世界。確かに聖都には裕福な人が多いわ。でもそれ以上に虐げられている人達の人数も多い。貴方達が騙され虐げられ差別される側にならないとどうして言えるの?この世界に絶対はない・・・だって・・・それは貴方達が昨日、身をもって体験したじゃない・・・」



 住民達の最下位と言われ、不平不満を口にしていた声は沈黙した。

 1人1人思うところがあり、思いを巡らせながら聖女の話に聞き入っている。



「そう、聖都の結界が破壊された。そんな事が起きるなんて誰が想像できてた?もう結界があれば大丈夫って時代は終わったと思うの。何時いかなる時にも悪魔種が襲ってくる可能性があると思って行動すべきだわ。あの恐ろしい強さをみんな肌で感じたわよね?とても人間が相手に出来る存在では無いわ。今回は英雄様が偶然いてくれて助かったけど、次はそうはいかない。私達はあの恐ろしい悪魔種が襲ってきても跳ね返せる事が出来るように備える必要があると思うの。一体どうすれば良いのって思うわよね?簡単よ、負のエネルギーを減らせばいいの。そうする事で具現化する悪魔種の力を弱める事が出来るって英雄様は仰っていたわ。巡礼で立ち寄った街で、その負の感情の排出が少ないと感じた街が1位と2位に指名したガタリヤとクリルプリス。特にガタリヤの街に入った時の感動は今でも忘れられないわ。本当に住民達から感謝が溢れていた。不器用な程真っ直ぐに正義感を振りかざす領主、何があっても絶対の信頼を預けられる側近達、そして領主の為に頑張ろうと心の底から思っている住民達。今から約200年前、私が初めて聖女になった時に思い描いた光景がそこにあった。共に助け合い、支え合う。もちろん中には騙す人もいると思う。全員が善人なんてあり得ないもの。それでも騙された人に救いの手を差し伸べる人がいること。それはとてもとても嬉しい事だわ。今の聖都はどう?準聖都のキーンは?他の街は?・・・残念だけど騙される方が悪いと知らんぷりするわよね?見捨てられる疎外感そがいかん・・・それはとてもとても寂しくて悲しい事だわ・・・」



 段々と住民達は聖女の話に引き込まれていく。



「もう先送りにするのは止めましょう。今さえ良ければ良いって考えは止めましょう。少し前、大聖都ハミスは深刻なエネルギー不足に直面していたのは皆さんも知っているわよね?人が増えすぎてどうしてもエネルギーの供給が追いつかなくなった。そして今ハミスは太古の昔に使われていた技術を応用し、エネルギーを作り出す事に成功した。ハミスのエネルギー不足は一気に解消されたって、世界中そのニュースで持ちきりだったわよね?でもご存知かしら?その力の源は禁忌の力と言われ、かつて大地を死の世界へと変えた力だということを。毎月毎月、正体不明の魔結晶が大量に排出されていることを。その魔結晶を無人の島に廃棄している事を・・・本当にそれでいいの?臭いモノにフタをする感じでいいの?島の生物に影響はないの?その魔結晶から悪魔種が現出する可能性はないの?その答えが出るのはずっと先の話。貴方達の子供、その更に子供の話かもしれない。もう未来の子供達に負の遺産を残すのは止めましょう。今、私達で変えていきましょう。私は変えたいの・・・権力によって理不尽に虐げられる今の制度を。私は変えたいの・・・産まれた時から差別する側と差別される側に分けられるこの仕組みを。私は変えたいの・・・問題先送りで自分さえ良ければ良いって考えの官僚と、それに意を唱えない住民達を・・・」



 住民達の表情が変わる。

 瞳に輝きが宿り、頬は高揚している。



「でもね。皆さんが知っての通り、この世界はそんなに甘くないわ。今までも何度も何度もこんな訴えは出てきた。その度に権力者によって無慈悲に押し潰されたり、都合の良いように法律を作り変えてなかった事にしてきたのは歴史が証明している。それは聖女である私とて同じ事。貴族共の大きな反発を受けると思う。他国の序列上位の聖女の介入もあると思う。私の命を直接狙ってくる事も十分考えられるわ。だけど私は諦めたくない。屈したくない。もう一度、聖女になったばかりの頃に思い描いた光景を目指してみたい・・・うふふ。今、ガタリヤの領主や従者達はみんなはソワソワしているかもしれないわね。また身の丈に合わない挑戦をしようとしてるんじゃないかって・・・でも大丈夫。今回は助けてくれる人達がいる。同じ思いを描いてくれる仲間がいる。間違っている時に正してくれる信頼できる仲間が。私は・・・その覚悟と決意を表すため・・・その第一歩として・・・」





「ルーン国は貴族制度を廃止します」





 ざわめきが起る。


 貴族制度を廃止する。

 それがどれだけとてつもない事案なのか分かっているからだ。



 正に世界の仕組みを変える程の試み。

 上手くいくはずが無い。

 そう思っていても、人々は期待せずにはいられなかった。



「私は必ず作ります。全員が平等な世界。頑張れば頑張っただけ正当な報酬が得られる世界。どんな生まれでも種族でもチャレンジ出来る世界。困っている人にしっかりと手を差し伸べる世界・・・今思ったでしょ?無理だって。出来る訳ないって。そうよ、実現するのはとっても難しいわ。だって世界中どの街もそんな所ないもの。だからこそ私は挑戦してみたい。差別の無い世界を創りたいの。私達なら出来ると思う。現在世界で唯一、結界を破壊された経験を持つ街だもの。そして知ってもらいたい。変わったんだよって見てもらいたい。だってそうでしょ?本当に多くの人が、単純に犠牲になったとは言えないほど多くの人達が命を落とした。その人達は知りたいと思うの。自分達が命をかけて守る意味があったのか。守る価値はあったのか。自分達は何を命をかけて守ったのか。死んでいった人達は絶対に知りたいと思うの。何にも変わらなかったら何で自分達は死んだんだろうって思うじゃない。多くの御霊を悲しみに落とすのも、穏やかに天に昇っていくのも私達次第。私は少しでも多くの御霊を納得させたい。怨念として恨みを持って、悲しみを持って現世に再び現われるような事にはしたくない。負のエネルギーを排出し続けた失敗を糧にして、邪神のような強力な悪魔種の現出しない世界を作る事こそが、昨日、街の為に死んでいった数多くの者達のはなむけになると思うの。どうかしら?」



 少し穿うがった見方かもしれないが、聖女は自分の評価がうなぎ登りの現在の状況、そして邪神を討伐した『英雄』というキーワードを上手く使い誘導しているように見える。



 何故なら昨日の話にも出てきたように、今回の邪神は周期とは別の悪魔種の可能性が高い。

 世界を滅ぼそうとする陰謀が裏で動いているのは確実だからだ。



 そして大きな負のエネルギーが蓄積されてると周期が早まり、巨大な力を持った邪神が現出するといった考えは、あくまでミールの仮説。根拠も全くないことなのだから。



 それなのに今回の悲劇は、まるで住民達の自分勝手な考えのせいと言わんばかりの言い方だ。



 そうして世論を誘導し貴族制度を廃止、差別の無い国、助け合い協力しあう国にしたい。

 聖女になったばかりの頃に思い描いた理想図を実現したい。

 これが聖女の狙いだった。    



 その野望の実現の為に、住民達を守り通常結界を張った自分自身を、邪神を討伐した英雄様を祭り上げ『俺たちを見捨てなかった聖女様が言うんだから』『英雄様が言っているんだから間違いないはずだ』といった考えを利用して誘導しているのだ。



 ピッケンバーグが言っていたように、聖女は実に聡明な考えを持っているのかもしれない。



 貴族制度を廃止するなど世界でも例を見ない、大胆で非情に危険な施策だ。

 その考えを可能にする唯一のタイミングを逃さない。正に交渉のプロ。



 暗愚の聖女の仮面を外し、信頼できる仲間を手に入れたタダの村娘だった聖女は、ピンチをチャンスに変えるカリスマ指導者にその姿を変えた。



 そして今日、ルーン国は大きな一歩を踏み出すのであった。






 聖女の演説が終わり、復興作業に取りかかる住民達。


 各街の領主達も、一旦宮殿にて今後の説明を聖女から直接受け、今はそれぞれ帰路の準備に取りかかっている。



 今回は聖女から、暫定的に順位による税率の変動を無くし、優遇措置もまんべんなく各街で行うと説明されたので一応ひと安心の表情を浮かべる領主達。

 本当の評価は3年後まで持ち越しという訳だ。



 そして貴族制度の廃止も数年かけて徐々に行う事も説明された。

 これには当然反発も大きい事が予想される。場合によっては実力行使に出る貴族もいるかもしれない。



 それを防ぐ為なのか、貴族には優先的に新たに創設する民間の管理局の長に就任できる措置が執られた。



 簡単に言うと、今よりも収入面は大きくなる。

 その変わり私兵などを保有する事は禁止され、特権も廃止されるという訳だ。



 聖女は、まずは甘い蜜を吸わせ、兵力を手放させる。

 その後に徐々に徐々に弱体化させようという狙いがあるようだ。



 何としても事を荒立てずに貴族の同意を得て来いと言った沙汰が下される。

 今後は賄賂や不正行為は厳しく処分するとキツく通達があったので、点数を稼ぐにはこの貴族への同意の取り付けは外せない。



 未だ疑心暗鬼な状態の領主達だったが、今は従うしかない。

 昔は聖女の独断と偏見、ワガママに散々振り回されてきた領主達だったが、今は別の意味で振り回されているようだった。



「アーニャ、色々と相談したい事があるの。来月また聖都に来てくれるかしら?」

「かしこまりました、聖女様」


「さーてと、これから忙しくなるわよぉー!アーニャもまずは防衛体制の強化ね。他にも沢山!頼むわよっ!アーニャ」

「はっ。ご期待に答えられるように全身全霊で取り組まさせて頂きます」



「ふふふ、あとデトリアスのジジイにも宜しくね。ガタリヤが1位なんて聞いたら腰抜かすんじゃないのかしら」



「どうでしょうか。お祖父様は仕事には厳しいお人ですから。『天狗になるなっ』とでも言いそうですわ」

「ふふふ。あのジジイは何時まで経っても子供なんだから」


「でも・・・早く会いたいです。会って直接ご報告したいです」

「午後には発つのでしょ?直ぐ会えるわ」


「はい・・・聖女様、1000人もの兵士をお貸し頂きありがとうございます」

「それでも足りないくらいだわ。十分気をつけるのよ。モンスターにも・・・人間にもね」

「はい。肝に銘じます」



 そうしてアーニャ達も帰路につく。

 聖女から1000人もの兵士達を護衛に付けてもらい、巡礼に向かって出発した時の護衛30人とは雲泥の差だ。



 しかも1000人の兵士を率いるのは、あの冷酷美女・・・今は穏やかな表情を浮かべているミレーユだ。

 ミレーユはルゾッホ将軍の右腕的存在、そして兵士達の士気も高い。

 どうやらかなりの精鋭兵を手配してくれているようだ。



 ビシッと整列して、兵士達は出発の合図を待っている。

 しかし、中々命令を出さないミレーユ。

 その視線はミールに別れの挨拶をしているアーニャやリリフ達、ルチアーニ達に注がれていた。



「ふえ~っん。ミール、元気でねぇ~」

「寂しくなったら直ぐにお呼び下さいませ。飛んで参りますわっ」

「ブルニ、ミール様の事絶対に忘れませんっ」

「少しでも強くなった姿をお見せできるように頑張ります」

「今度は絶対におばちゃんと寝ようねっ」

「帰ったら一杯飲もうぞい」

「そうじゃそうじゃ。モテモテの秘術を教わらんといかんからのぉ」

「ふん・・・子供を作って帰ってくるのを期待しているぞ・・・」



「ミール様、本当に色々とありがとうございました。貴方が好きだと言ってくれたガタリヤの街を守り・・・いえ、もっともっと良い街に出来る様に皆さんと協力して頑張ろうと思います。どうかくれぐれもお気を付けて・・・」



「ああ、こっちこそ色々ありがとな。心配しなくても大人しくしてるつもりさ」



「ひゃひゃひゃ。そう言っても巻き込まれるのがミールじゃからなー」

「あははっ。ホントそれっ。しかも権力者相手にケンカ売るんだもんっ!ホント気をつけてよねっ」


「ああ・・・えっと・・・俺ってそんなイメージ??」


「はいっ!ミール様はお人好しの困ったちゃんなのですっ!」

「あはははっ!」



 ブルニの発言にガクッと肩を落とすミールと、笑い声を上げる一同。

 それぞれ握手をして軽く抱き合い、別れを告げる。



「では出発ー!」

 それぞれ一段落ついたあたりでミレーユの声が東門に響く。



 ゾロゾロと進み始める兵士達。

 リリフ達も大きく手を振りながら笑顔で歩き出す。

 それを見送りながらミールは1つ息を吐くと、クルッと反転し聖都の街並みに消えていくのだった。



  続く

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