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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼㉓

 ある意味気まぐれで助けたフェリスに今回は命を救われたという事、心を入れ替えて誠実な冒険者になっている事。

 その現実に思う所があるようで、しばし考え込むミールであった。



⇨聖女巡礼㉓




「それで・・・聖女様。さっきは何を怒ってらしたのですかぁ??」



「ああ、それね。り、りりふ・・・は、ハミスって街は知ってるのかしら?」

 まだちょっと恥ずかしそうにリリフの名前を口に出す聖女。



「はいっ!知ってますっ!以前ミールに教えて貰いました。えっと・・・なんかスッゴくデカくて、大聖女様?って方がいらっしゃると聞きましたっ」



「そうそう。とにかく街がドデカいのよ。このルーン国の4分の1くらいあるかしら?だから大抵の本部はハミスにあるのよね。騎士本部だったり、ギルド本部だったり。その中に観測所っていう、世界中のエネルギーの動きを常にモニタリングしているキモい連中がいてね。私はのぞき魔って呼んでるけど。そいつらが詳細を教えろ教えろうるさいのよ、ホントに。大聖女直属の機関だからって調子に乗ってるのよね。なんかアンタの事もしつこく聞いてきたわよ?歴史の偉人『救世主様』だとかどうとか。なんの事だか全く分かりませーんって言っといたわ」


「あはははは・・・」


「大体めっちゃ上から目線が腹立つのよね。なにが『世界平和の為、協力するのは義務だ。協力しないのであれば聖女セブンで問題にする』よ。こちとら2回も是正要求を受けてるっつーの!今更そんな脅しビビるかってもんよっ!」



「3回です。聖女様」

 冷静に聖女の間違いを正すロココ。



「でもぉ、自白魔法とかかけられちゃったらどーするんですかぁ??ブルニ聖女様が心配ですぅ」


「大丈夫大丈夫。国際法でね。聖女には無闇に自白魔法かけれない決まりなのよ。あくまで国家滅亡に関わっているくらいの嫌疑があって初めて命令が出るくらい。だってそうでしょ?いちいち聖女の罪を暴いたって代わりの聖女がいるわけでもないから死罪にする事も、退陣に追い込む事も出来ないんだから。それに聖女は大抵数え切れない程の汚職や不正行為に関わっているんだから。キリが無いのよ、ハッキリ言って」



「ふええぇん。聖女様はそんな悪い子じゃないですぅ。とっても優しいですぅ」

 聖女は膝の上に乗っているブルニの頭を優しく撫でる。



 いつの間にか聖女の膝の上が定位置になってきている。

 恐るべしっブルニ!



 聖女はブルニをギューッとしながら

「以前の私なら確かに褒められたモノは無かったけど。でも貴方達に出会って気付いたの。これからは無理せず自分の出来る事をしていくわ。感謝してる。シャクだけど貴方にも感謝しているのよ?無礼な冒険者さん」


「無礼はお互い様だろ?」


「ふふふ、そうね。それで?『救世主様』は今回の騒動はどう見てるの?周期で現出したってのも考えられるっちゃ考えられるけど、ちょっと早すぎる気もするし」



「その『救世主様』っての止めてくれ。俺はそんな器じゃない」



「えー?ミールが救世主様だって言われても全然違和感ないけどなー私は」

「そうですわ。正に紳士でブラボーな超セクシーなお方ですわっ」

「ブルニにとっては出会った時から救世主様ですっ!」


「まあ、いいわ。黄色冒険者さん、何か心当たりとかあったりするのかしら?」



「うーん・・・どーしようかなー?」

「??」

「え?なになに?どーしたの?」

「いや、喋っていいものか・・・判断が難しいな・・・」



「あの不気味な瞳の事じゃろ?ワシも思っとった」

「瞳??瞳とは?」

「あー!あの胸にあった瞳の事??あれがどーかしたのっ?!」



「リリフちゃんや。実はね、あれと同じのが先日ザザの山脈に飛来したドラゴン・・・変異種のドラゴンの尻尾にもあったのよ。全く同じ瞳がね・・・」



「ザザの山脈と言うと・・・ガタリヤのかなりの冒険者達を葬ったドラゴンの事ですわよね?ミール様が倒されたという・・・」

「そうじゃそうじゃ。ワシらも一緒に同行しておってのぉ・・・ありゃー強かったわい」



「でもぉ・・・同じ瞳って何だかキモチワルイですっ!」



「ドラゴン自体も、もの凄く変なドラゴンだったのよ。変異種っていうよりかは、あたしは完全な新種って感じがしたわねぇ」


「そんな瞳が・・・今回の邪神にも付いてたって事ですわね?・・・偶然・・・とは言えない感じですわね・・・」



 シーンとするリリフ達にミールが静かに語り出す。




「実はね・・・その後に出現した巨大食中プラント。アレにも付いてたんだよ、『脈打つ瞳』が・・・」




「えええ??!そうなの?!」

「そりゃ初耳じゃな・・・」

「より一層怪しいですわぁ・・・」

「ブルニ怖いですぅ」

「ブルニ、兄ちゃんが手を握っててやる」

「うんっ」



「一旦整理しましょう。まず『脈打つ瞳』が付いていたのは、ザザの山脈に飛来したドラゴン、巨大食中プラント、そして邪神。共通しているのが通常では考えられない行動や姿をしている事。そして恐ろしく強い事・・・でしょうか?」



「そうだな。ドラゴンも食中プラントも、通常であれば変異種であったとしても金ランクの冒険者達ならある程度戦う事が出来るはずだ。まあドラゴンの方は少しだけ戦えていたが、それは金ランクの中でも屈指の力を持っていたガウディ一派だったからだろう。だから一般的な変異種よりかは強さが一段階飛び抜けているって事は確かだな。そして邪神・・・あれほどの強さを誇る悪魔種は3000年前の大厄災以来じゃないのかな?まあ、比べようがないけど昔の記録を見ると共通点と相違点がある気がする」



「共通点と相違点ですか?・・・」



「ああ、今まで邪神が現出した記録は3000年前の大厄災。そして1500年前だ。3000年前はまだ結界が無かったから省くとして問題は1500年前。その時に現れた邪神によって結界が破壊されたと記録に残っているのは知っているな?その結界が破壊されるまで、当時の邪神は実に3日かかっているんだ」



「え?!そうなのですか??」



「ああ。最初は結界内の人々は笑っていたそうだ。無駄無駄ってね。しかし、時間が経つにつれて、日にちが過ぎるにつれて不安が押し寄せてきた。2日目には逃げ出す人も多かったようだよ?まあ、逃げれなかったみたいだけどな」



「逃げれなかった??」 



「そう、それが共通点だ。1500年前も今回と同じように突起物のようなモノが出現し、人々を街から逃がさなかったらしい」



「それじゃあ、まるで1500年前と同じ邪神が現出したって事??」



「いや、ハッキリとした事は分からないな。悪魔種のシステムっていうのかな?そういうのは分からないからね。果たして同じ個体が再び現出するのかは謎だ。しかし今回は共通点があったという事は事実」



「・・・・」



「そして相違点。仮に同じ個体だったとして・・・強さが違い過ぎる。1500年前は3日かけて破壊していた結界を今回はあっさり破っている。まあ、クワレルは暗愚の聖女だ。多生は聖女の力の差があっただろうけど、それでもここまで違うのは異常だと思うよ」



 聖女はぶすっとしているが黙って聞いている。




「つまり・・・『脈打つ瞳』が何らかの力を与えているかもしれない・・・という事ですね?」




「可能性は有るな。現に俺は邪神と少し会話をしている。その際に操られていたという事も話していたし、力が溢れてきていたという事も言っていた。つまり操られている状態だと普段以上の力が発揮できるって事らしいな」


「その『脈打つ瞳』は昔からあったのかのぉ?あれば対処法も調べられそうじゃが」


「そこはまだ分からないですね。僕個人でかなりの時間調べたんですが『脈打つ瞳』の記載は今のところ見つかってないです。他の街や国に行けば、もしかしたら情報があるかもしれませんが」



「ねえねえ、その脈売る瞳?ってのをさ、攻撃するとどうなるの?もしかして弱点的なヤツの可能性ってない??」

「脈打つ瞳ですわ・・・リリフ」



「うーん。俺もそう思った事はあったけど・・・多分違うと思うよ。ドラゴンの尻尾に付いてた瞳は尻尾を切り飛ばしたら瞳を閉じて脈動は止まったけど、ドラゴン自体は全然生きてたからね。直接的な弱点とかではないと思う」


「そっかぁ。やっぱりそんな単純な仕組みじゃないわよね」



「そうだな・・・なあ、ルゾッホ将軍。1つ聞きたいんだけど、今回の聖都の被害状況はどんな感じなんだ?」



「んんっ??お、うむ。被害は見ての通り甚大だ。特に東門からのレーザー砲を食らった地域は壊滅的だな」


 ルゾッホ将軍はいきなり質問が飛んできて若干慌てていたが、ヒゲを整えながら報告する。



「他の被害は?」

「他の被害じゃと?」

「ああ、つまり、他のモンスターによる被害だ」


「ああ、うむ。それはないな。邪神以外に受けた被害はない。おそらくヤツが出現させていた塔のような突起物。それのおかげでモンスター自体も近寄れんかったかもしれんな」


「そうか・・」


「なんか問題なの?ミール」


「いや、これは確定ではないんだが・・」

 ミールは少し言いづらそうに前置きする。



「もう1つ、脈打つ瞳を持つモンスターの共通点があるかもしれない・・」



「そ、それはなんでしょうか?ミール様」




「それは・・デーモンが現出しないこと。してない事だ」

「?!」




「つまり今回の邪神騒ぎ。本当に多くの・・本当に数多くの人間が亡くなった。もちろん最初の段階ではない。うつろな襲撃者、キングラリーバックの群れ、青の霹靂との戦い。これらの亡き骸は邪神現出に使用されただろう。だが、その後もこれに匹敵する、いや、これ以上の人間が亡くなっているんだ。普通だったら野良デーモンが何匹か具現化してるだろ?もちろんルゾッホ将軍が言ったように、塔のような突起物が影響してる可能性もあるが、死体の多くは聖都の住民だ。本来なら街中に具現化してるはず。なのに被害はない。つまり野良デーモンは具現化してないってことさ」



「そういえばっ!」

「言われてみると変じゃのう」

「あれじゃないかい?悪魔種に殺された死体は新たなデーモンを具現化するよりも、昇格のエネルギーの方に使われる。だから・・・・でも流石にこれだけ大量の死体があれば1匹くらいは具現化するわよね。しかも邪神はこれ以上昇格しないし・・・・うーん」



「もしかしたら邪神が近くにいると具現化しないってことではありませんこと?」



「確かにね。もちろんセリーの言う通り、そういった俺達の知らないルールがあるのかもしれない。でもルチアーニさん。思い出してください。ザザの村のドラゴン。あの時はどうでしたか?」



「あ・・」

「そうじゃ・・そうじゃっ!そうじゃよ!確かに出てきておらんぞいっ!」



「かあぁ!色々な事が起こり過ぎてウッカリしとった!確かにオカシイ!あれだけの死体が有ったのにも関わらず具現化しとらんではないかっ!」



「そうね。今振り返ってみるとオカシイわね。あたしらもかなりの時間滞在してたし。普通は出てきてるわね」



「えっと・・どういう事ですか?ルチアーニさん」



「リリフちゃん。あたし達と黄色ちゃんはドラゴン討伐に参加してたのは知ってるわね?あの時、約300人の死体が有ったのにも関わらず具現化してないの。結構長い時間、その場所に留まっていたのにも関わらずよ」


「ひょえ・・」



「食中プラントの時は分からない。生き残りはほぼいないし、俺も1人で討伐したからな。だが、もしかしたら・・・」



「脈打つ瞳を持つモンスターに殺されても、悪魔種が具現化する条件に含まれない・・・もしくは我々が知らない全く別の法則がある・・という事でしょうか?」



「・・・」



 しばらく沈黙が支配したが、聖女がそれを破り質問する。



「黄色冒険者。これって周期は関係してると思う?関係しているなら・・・もう厄災は終わったって事よね?・・・どうなの?」



「難しい質問だな。正直分からないってのが現時点で言える事だ。1500年前と強さが違うのは単純に人間の欲望が増しただけかもしれないしな」



「どういう事??」



「前にも話したよな?人間の欲望を世界的に抑える事が出来れば、もしかしたら悪魔種の現出の周期も遅らせる事が出来るかもしれないって仮説。それと同じで、逆に欲望が増すと現出が早くなったり、強さが上がる可能性も有るかもしれないって事さ。まあ、仮説の段階だからハッキリした事は言えないけどな・・・ただ・・・あくまで俺個人の考えでは・・・今回の邪神は周期とは関係ない気がする」



「どうして?」



「明らかに第三者の力が働いているからさ。思い出してみろよ。まず虚ろな目をした人々が襲ってきて、そこから怪しい匂いが出てきて、それに引き寄せられるように普段は生息域が全く違うモンスターが大集団で襲ってきて、更に『青の霹靂』が襲ってきた。周囲には人間やモンスターのおびただしい数の死体の山が築かれ・・・邪神が現出した。そして胸元には『脈打つ瞳』のオマケ付き。これが現出したのは周期だったからです、人為的には呼び出してませんって言うほうが無理があるって気がする」



「そうね・・・その通りだわ。明らかに仕組まれている・・・狙いは・・・私の命かしら?」



「いや、俺は違うと思うけどね。クワレルの命が望みなら他に方法はいくらでもあった。わざわざ邪神を呼び出す必要はないと思うぜ」


「じゃあ・・・なんで?」



「・・・あくまで予想だが・・・テストしてるんじゃないかな?」


「テスト?!」



「ああ、どういった効果があるのか。どれくらいの強さなのか」


「そんなぁ・・・何が目的なんだろぉ・・・」



「邪神を呼び出してる所を見ると、世界の破滅を望んでいる可能性はあるね。今回はたまたま倒せたけど、普通は対応出来ないくらいの強さだった。今頃聖都はおろかルーン国全体の飲み込まれていてもおかしくない程にね。そうしたら3000年前の大厄災の再来だ。結界も破壊する邪神相手に世界中の街が、為す術無く蹂躙されるだろう。この仕組んでいる連中は少なくともそうなっても良いって思っているって事かもね。もしくは・・・何か命令を出せば自動的に滅びるようにインプットされている邪神だったか・・・その二択だろうな・・・」



「つまり・・・厄災は再び訪れる・・・という事ですわね」



「まあ、分からないってとこが正直な感想だ。周期の邪神を呼び出していたっていう可能性もあるしね。その場合はもしかしたら溜めていたエネルギーを使い果たした事になり、周期の厄災は終わったって事になる・・・けどその理論だと何時でも邪神クラスの悪魔種を呼び出す事が出来るって事になる。邪神は1匹とは限らないし、他の高位悪魔も多数いる状況だ。だからむしろより状況は悪くなったって言うべきなのかもな・・・」




 再度シーンとした空気が部屋を包む。




 誰も言葉を発しない。

 何も言えないほど重苦しい空気が流れているという訳ではない。

 それぞれが今までの事、これからの事に思いを巡らせているような感じだった。



 そして沈黙を破って聖女が語り出す。



「私は・・・仕組みを変えてみようと思う。まだ確かな事は何一つないけど・・・やってみたい」

 聖女の言葉に大きく頷くピッケンバーグ。



「私はもっともっと強くなりたい。それこそミールの役に立てるような。沢山の人の役にたてるような」

 リリフの言葉に笑顔で頷くセリーやブルニ、リューイ。



「やれやれ、まだ引退するわけにはいかんようじゃな。ほっほっほ」

 ロイヤーの言葉にニヤニヤと頷くルチアーニ達。



「ミール様は・・・どうなさるおつもりでしょう?」



 アーニャの問いかけに

「うーん。俺はちょっとこの国を離れようかと思ってる」



「ええええっ??!み、ミールっどっか行っちゃうのぉ??」

「嫌ですわっ!寂しいですわっ!」

「ふええぇん」

「そ、そんな・・・ミール様・・・」


 一斉に泣きそうな顔をするリリフ達。



「い、いや。少しだけだって。ハミスの観測所に目を付けられたのは厄介だからな。ちょっと他国に行って目くらましをしようかと思っただけさ。それに他国の図書館には脈打つ瞳の記述があるかもしれないしな。ちょっと調べてみるつもりだ。そうやってしばらくルーン国で何も動きがなかったら、観測所の奴らも他国にでも移動したのかって思うだろ?カモフラージュだよ。カモフラージュ」



「しばらくってどのくらいぃ??」

「うーんと・・・2〜3年くらい?」


「やだああああぁぁーーー!」

「長いですわっ!」

「ふええぇん」

「さ、3年も・・・」

「ミールは寂しくないのぉ?・・・」



「寂しい・・か・・・そうだな、いつの間にか俺には守りたい人が増えてたな・・・俺はね、世界は決して平和になる事は無いと思っているんだ。今日邪神と戦い、この街の人々は救われた。戦っている最中はさぞ手を取り合って支え合って行動した事だろう。この聖都の住民は今日命があることに感謝し、喜びを感じている事だろう。しかし、しばらくするとその事も忘れてしまうのが人間という生き物。あんなに必死に手を取り合った者同士で争うようになり、迫害、差別するようになる。本当にどうしようもない生き物だ。いや、もしかしたら今この瞬間でさえも、聖都が滅びればよかったのに・・・って恨んでいるヤツは必ずいると思うぜ?全員が同じ思いなんてことは絶対にないからな」



「そんなぁ・・・」



「だからこそ俺は自分が関わる相手は最小限にして手の届く範囲だけを救えればそれで良いって思ってる。あまり感情を通わせる相手を増やさないようにすればいざって時に楽だからな。だからこそ俺は深い仲にならないように一定の距離を置いて接してきたつもりだった。だけどリリフ達と出会って気づかないうちに守りたい人達が増えていた。いや、別に嫌な訳じゃないんだ。この何ヶ月かはとても楽しかったよ。しかしこれ以上思い出を積み上げると、俺はガタリヤから離れられなくなってしまうだろう。俺は今まで3年くらいを目安に拠点を変えてたんだ。そうやって正体がバレるのを防いでいた。しかし今は普通の人でさえ、聖都を救った英雄捜しをしているくらいだ。それが大聖女直属の機関なら尚更危ない。ずっと1箇所に留まってしまうとバレる危険性は高くなる。俺はなんとしても正体を知られる訳にはいかないんだ。1番怖いのは人間だからね。だからこそ、念には念をいれて、今ガタリヤを離れるのがちょうど良いんだよ」



 しゅんとしてしまうリリフ達。

 そこへ聖女が口を開く。



「ま、確かに・・・リリフ達。貴方達は知らず知らずにコイツに頼りすぎているようね。依存しているって言った方が良いのかしら。まあ、好きな相手だからしょうがないのかもしれないけど、冒険者にとってはそれは命取りなハズよ。貴方達はしっかりと自立するべきだわ」


「うん・・・そうかも」

「分かってはいるのですが・・・」

「ふええぇん」



「そしてアーニャ」

「は、はいっ」


「貴方もそうよ。ガタリヤの治安、防衛はコイツがいない事を想定して作るべきだわ。やっぱり一人の人間に全てを任せるのは危険よ。また冒険者達を中心に作り上げるのも良いし、兵士を増強しても良い。早急に対応する事ね。ま、貴方自身が離れたくないってのはあると思うけど。貴方がするべき事はコイツを引き留める事じゃない。コイツが帰ってきたくなるような街作りをする事だわ」


「仰る通りです。聖女様・・・」



「貴方もよ、ルゾッホ」

「ふぉっ?!は、はっ!」


「今回の邪神は、まあ、特別に強かったみたいだけど、でも以前の食中プラントくらいは貴方達だけで対応出来るようにならないと困るわね。思い出したけど、昔に中枢となる精鋭兵を育て結成するって意気込んでたアレはどうなったの?金ランクに負けない兵士を作るんだーって言ってたじゃない?」



「は・・・あれはその・・・し、失敗しまして・・・」

 ルゾッホ将軍は小声でうつむきながら答える。



「だから?」

 聖女はすかさずツッコミを入れる。



「は・・・その・・・今は一人もおりません・・・」


「違うわよ。その失敗で諦めるのって聞いてるの。男が1度や2度の失敗で諦めてどーすんのよっ!アンタはこの国のナンバー2なのよ?アンタが諦めない姿勢を見せないで誰が見せるのよっ!」



 ルゾッホ将軍の顔が少しだけ高揚する。



「あと、この国そのものの防衛システムは見直す必要があるわね。頼みの綱の『星々の宿』はしょっちゅう何処かに行ってるんだから。今までは自分の街は自分で守るみたいな感じだったけど、それじゃあ弱すぎるわ。各街のタウンチームと直ぐに連携出来る仕組みを作りなさい。この国の問題は全ての街で解決するように。1つの街の問題は全部の街で対応するように。いいわね?根本から見直すのは大変よ。頑張りなさい。期待しているわよ、ルゾッホ」



「は、ははっ!このルゾッホっ!全身全霊で取り組みます!」



 聖女は満足そうにうなずくと

「最後に黄色冒険者、貴方もよ。私にも分かるわ。人間は直ぐに手のひらを返す。本当にビックリするくらいにね。でもだからって見捨てる理由にはならない。いい?例え人と関わる人数を減らしても、失った時の悲しさは変わらない。救えなかった悲しさは変わらないの。だって悲しさは人数に比例しないもの。そして・・・貴方は知らないわ、大切な人が自分よりも先に死んでいく悲しさが。どんなに仲良くなっても、深い関係になっても、その人は私よりも先に死んでしまう。私だけが取り残されたように生き残る。これはとてもとても悲しいことなの。だから私もこの数百年は・・・人を愛さないようにしてたわ。愛した人は老いていく。私はピチピチしたまま・・・それはとても悲しい事なの。ん?・・・なによリリフ、何か言いたそうな目をして・・・ふんっ、まあいいわ。でもね、私は変わる事にする。自分を偽って気持ちを押し込めるのは止めるわ。自分らしく・・・思いのまま・・・最愛の人と・・・んっんん!ちょっと話が脇道にそれちゃったわね」



 聖女はちょっと前髪を整えつつ紅茶を一口。

 それからまた語り出す。



「つまりね。貴方はさっき次々と拠点を変えて、正体がバレるのを、深い仲になるのを防いでいたって言ってたけど・・・結局の所、貴方は怖いのよ。裏切られるのが。信頼して、期待した相手に裏切られるのが怖い。関係が深くなればなるほど、その人の本音部分が嫌でも見えてくる。そして幻滅してしまう。もしくはされてしまうのが怖い。もしかしたら自分自身に自信がないのかもしれないわね。だから深い仲になる前に自分から身を引いて人間関係をリセットしてしまう。そしてなるべく他人と関わらないように生きてきた」



「確かにそうかもな・・」

 ミールは意外にも否定せずに受け入れる。



「でもね、貴方が幾ら距離を取っても壁を作っても人との繋がりは消えないわ。だって貴方は困っている人を見捨てる事なんて出来ないどうしようもないお人好しなんだもの。幾ら取り繕っても無駄。素っ気ない態度を取っても無駄。貴方は深く関わるつもりはないのだろうけど・・・これだけは言わせて頂戴。もう手遅れよっ!貴方が思うよりずっと深く私達は貴方の事を想っている。もう逃げられやしないわっ。このルーン国に、そしてガタリヤに関わってしまったのが貴方の運の尽き。だから観念して必ず戻ってくるのよ?この国に、ガタリヤに。帰ってこなかったら地の果てまで追いかけて行ってやるんだからね」



 ミールは少しだけ笑みを浮かべる。

「ああ、分かったよ。約束する。必ず戻ってくるよ、この国に。ガタリヤに」



「約束だよぉ・・・」

「寂しいですわぁ。でも耐えなければっ」

「戻ってこなかったらブルニ泣いちゃいますからっ!」

「僕も泣いちゃうからねっ」

「ロイヤーさん、僕は止めましょう」

「あははは・・・」



「い、いつ出立されるのですか?ミール様」


「え?あ、うーん。そうだな・・・出来ればガタリヤ隊の帰路に同行しない方が欺けそうだから・・・明日かな?そのまま聖都から出発するよ」



「ええええっ?!明日あ!無理無理っ急すぎるよっ!心の準備が・・・」



「これはアレですわね。最後に抱いてもらわなければ的なやつですわねっ」

「そうよっ!その通りだわっ!」

「ブルニも抱いて欲しいですっ!」

「あ、えっと・・・その・・・私は・・・」



「はああ??いやいやいや無理無理っ!第一俺は今療養中だぜ?直ぐ帰ってくるからっ!そんときなっ!」



「ヤダヤダヤダっ!今がいい!今今ーー!」



「それじゃああたし達は退散しようかね。お邪魔みたいだしね」

「そうじゃな。ミール、抱けるときに抱いといたほうが良い。年を取ると抱きたくても抱けんからのぉ・・・」

「くぅぅ・・・悲しいのぉ・・・」



「それじゃあ私も宮殿に帰るわ。まだまだ色々しなきゃいけないし。あ、明日全員で中央広場に集合ね。順位発表するから。お昼からだから遅刻しないでよー?」



「わあぁ。順位発表!聖女様!何位なんですか?ガタリヤ!」

「うふふ。それは明日のお楽しみよ。楽しみにしてて頂戴。それじゃーねー」



 聖女はピッケンバーグ、ロココ、ルゾッホ将軍とミレーユを引き連れて帰っていく。

 ルチアーニ達も別の宿に移動した。

 残っているのはリリフ達とアーニャ、ルイーダ、トール隊長のみ。



「あ、あの・・・アーニャ様も・・・します?」

「ふぇっ?!えっっと・・・その・・・」



「したくないんですかぁ?アーニャ様ぁ・・・」

 ブルニが心配そうな顔で覗き込む。



「い、いえっ!あの・・・その・・・したい・・です・・」

「じゃあ決まりっ!アーニャ様も一緒って事で!」




「ちょっ!ちょっと待ってくださいっ。その・・・私・・・初めてなのです。だからその・・・」




「なるほど、最初は1人が良いって事ですわね。リリフと同じですわ」

「あーん、そうよねー。初めてでいきなり5Pとか刺激が強すぎるわね」

「ブルニは皆さんと一緒が良いですっ!」



「それではこうしましょう。まずはアーニャ様が二人っきりでお部屋に入る。私達は外に出ていますわ。そして1時間後・・・いえ、初めてですものね。2時間後にしましょう。2時間後に私達は戻りますのでアーニャ様はその時にお帰りになるのか、そのままわたくし達と共に楽しむのか決めてくださいまし。いかがでしょう?」



「うんっ。私は賛成!やっぱり女の子の初めては特別だもんねっ」

「ブルニも賛成ですっ」


「えっと・・・俺の意見は?・・・」

「そんなモノはありません。ミール様」



「わ、分かりました・・・急すぎて気持ちの整理が出来ておりませんが・・・ずっと望んでいた事なので、皆様のお言葉に甘えさせていただきます。トール隊長・・・ごめんなさい。恥ずかしいので、今夜は席を外していただけますか?ルイーダは隣の部屋で見届けて」



「くうぅぅ・・・わっかりましたあ!」

「かしこまりました、アーニャ様。よい夜を」



 そうして全員が部屋を出て行き、残っているのはミールとアーニャだけになった。

 部屋の電気は消され真っ暗だ。



 ベットの上ではシャワーを終え、カチンコチンに固まったアーニャが座っている。

 しかしミールは窓側に立ち、外の景色を眺めていた。



「アーニャ、こっち来てみろよ。夜景が綺麗だぜ」

「う、うんっ」



 アーニャは言われたとおりにスタスターっと移動しミールの横に立つ。

 月の明かりで窓際は明るい。

 自然と手を繋ぐ。

 お互いの体温を感じながら外の景色を眺める。



「とても綺麗だね」

「ああ、まるでお祭りだな。みんな幸せそうだ」



 アーニャの口調が砕けている。

 素のアーニャでいるようだ。



 時間は午後9時。

 まだまだ通りは人で溢れており、騒がしい。

 特に今日は邪神の侵略を退けた日。

 通りはお祭りのように賑やかだった。



 しばらく無言で夜の景色を眺める2人。

 イチャイチャするかと思われた雰囲気だったが、アーニャは自らそれを否定する。



「でも、この騒いでる人達と同じくらい、悲しみに打ちひしがれている人もいるんだよね・・」


「ん?ああ、そうだな。事故だったり、災害だったり。それで騒いでいたら『不謹慎だ』『自粛しよう』てなると思うけど、勝ち負けが出る戦争とかだとね。どうしても勝利を喜ぶ人と犠牲に悲しむ人が二分されるな」



 アーニャはしばらく無言だったが、やがて声を絞り出す。



「私・・・リリフさん達より聖都の人達を優先してしまったの・・・」



 やはりミールと一緒にいる事で、張り詰めていた気持ちを緩める事が出来ているのかもしれない。

 アーニャは苦しい胸の内を語りだした。



「私は・・・私は。ミール様が倒されたら世界が滅ぶと思って行動していました。絶対に・・絶対に負ける訳にはいかないと。どんな事があっても、どんな手を使っても、どんなに犠牲を払ってもミール様を援護して邪神を討ち滅ぼそうと・・・分かってた。あそこでああ言えば絶対に・・絶対にリリフさんは手を挙げると。私は・・私は生まれて初めてできた友達すら・・死地に向かわせる女なんです」



 アーニャは大粒の涙を流しながら、後悔の念を語りだす。



「私っ!自分が怖い!聖都の人達のため!世界の人達のため!人類の存続のため!・・・大義名分さえあれば自分の大切な人さえも切り捨てるっ。東門で攻撃させた魔法使いも、回復士も、それを守る冒険者達もっ。みんな私が向かわせた!私が死なせたようなものだわっ」



 アーニャは自分の両肩をギュッと掴んで泣き崩れる。



「こんな私のせいで沢山の人達が亡くなったっ。もし・・もし今、リリフさん達が、ルチアーニさん達が亡くなっていたら・・・そう考えると胸が張り裂けそうっ。あんなに大切に思っていた仲間を失ってしまうことになっていたら、今の自分は何を思ってるんだろう。沢山の人を救う事が出来ても大切な人は守れない。沢山の見ず知らずの人を救っても感謝されても、私の心はきっとポッカリと穴が開いたようになっていると思うの。でも私は大勢の他人を救う事を選んだ。それが本当に(つら)い。苦しいの」



 ミールはアーニャの肩を優しく抱き寄せる。



「アーニャは自分の信念のもとに行動したんだろ?世界のために、人間種の存続のために。それが正解なのか間違っているのかは問題じゃない。だってそんな事誰も分かりようがないからな」



「でも・・」



「例えば、幼児が2人溺れていて、両方は助けられそうにない。そして親は自分の子供だけ助けた。これって悪か?」



「そ、それは・・仕方がない・・かもしれません」



「それじゃあ、船が転覆して大勢の人が海に投げ出された。救命ボートには沢山の人が乗っており、これ以上乗れそうにない。そこに友達がしがみついてきた。だが、コイツを乗せたらボートは転覆し全員が死ぬ。だから泣く泣く手を振り解いた。これって悪か?」



「それは・・」



「同じ展開で、子供が大勢投げ出された。そしてボートに乗っていた老人を海に落とし、子供達を優先して助けた。これは?」



「・・・」



「多くの場合、『他人』より『家族』、『少数』より『多数』、そしてより多くの子供の未来のためってのが選択肢として優先され支持される。だが中には、自分の子供だからといって特別扱いは出来ないって人もいるだろうし、友人をボートに引き上げる代わりに自分が犠牲になるのを選ぶヤツもいるだろう。老人よりも身体の大きい大人を1人突き落とせば子供を複数乗せれる。より多くの人数を救った方が良い結果だと思う人もいると思うぜ?つまり結局はその場にいる者の価値観が影響される。自己中な・・貴族が財宝が入った宝箱を優先し、まだ乗れるのにボートに近づくヤツを次々と殺していく・・・みたいな行動をしてたら論外だが、少なくともアーニャは少しでも大勢を助けて人類の未来のために行動した。俺はそれが間違ってるとは思えないけどな。そもそも今日、聖都が救われたせいで未来に人類の破滅をもたらす人間も生き残り、逆に世界はいずれ滅びることになる・・・て事になってたらどうだ?選択肢が正しいかなんて誰も分からない。考えるだけ無駄なんだよ」



「でも・・もっと別の方法があったかもしれません。東門で魔法攻撃をしてしまったから、あの巨大ビーム砲が放たれて、大勢の人が犠牲になった気がします。もっと兵士達を有効に使えていたら・・・もっと門から離れて攻撃していたら・・」



「バケツに水がいっぱい入っていたとする」

「え?あ、はい」



「その水が聖都の住民達だ。そしてすくうコップは人によって違う。おちょこのような小さな器のヤツもいれば、そもそも網状になっていて全く掬えない者もいるだろう。しかしアーニャの器はとても大きいコップだったんだろうな。だからこれだけの多くの住民達を救う事が出来た。少なくともリリフ達が助けに来てくれなかったら俺はやられていた。魔法攻撃をしてくれてなかったら邪神の力を削ぐことも出来なかった。アーニャがルゾッホを説得してなかったら住民に状況を伝えることも出来なかったし、負の感情を抑えることも出来なかっただろう。俺はアーニャだから聖都は救われたと思ってるぜ?」



 アーニャの瞳に輝きが戻り、少し表情も柔らかくなったように感じる。



すくう事、つまり悪魔種と戦う事は俺がする。しかし、大きな器はアーニャにしか用意する事は出来ない。そして、掬う事自体を無くす事。つまり、悪魔種が現出しないくらい負のエネルギーを少なくする事もアーニャにしか出来ないと俺は思っている。落ち込んでる暇なんてないぜ?領主様」



 アーニャはクスッと笑い

「あーあ。損な役回りだわ。掬えなかった人達に恨まれそう」



「それこそ関係ないね。その場にいないヤツにとやかく言われる筋合いはない。アーニャは巨大ビーム砲を悔いてるようだが、そもそもあのビームの角度を変えさせたのは俺だからな。アーニャ達に当てられる訳にはいかないってな。だからもし、それで巻き添えになったヤツが化けて出てきても言い返すだけさ。だったらお前が邪神の顔を蹴飛ばせばよかっただろ?ってな」



「まあ、酷い。とんだ悪党だわ」

「ああそうさ。正直俺はアーニャやリリフ達、ルチアーニさん達さえ救えればそれで良いって思ってたからな。聖都の住民が何人死のうが知ったこっちゃない。俺は正義のヒーローなんかじゃないからな。筋金入りの悪党なんだよ、俺は」

「うふふ。嘘ばっかり」



 アーニャは少しイタズラっぽい顔をする。



「ねえ。もしリリフさんと私。両方ピンチだったらどっちを助けるの?」

「ええっ?そんな事聞く?!」

「うふふ。だって5人よ?私を含めたら6人!こんなに手を出してるミールが悪いわっ!これくらい意地悪な質問してもバチは当たらないもん」

「あ、はい。すみません」



 アーニャはミールの胸に顔を埋めて抱きつく。



「本当に・・・帰ってきてくれる?」

「ああ」

「本当に?」

「ああ、約束するよ。だって俺はガタリヤが気に入ってるからな」

「ガタリヤの何処が気に入ってるの?」



「領主だよ。先ずはアーニャの爺さんだ。全く権力を振りかざして民を蔑ろにしようとする気持ちがない。珍しい領主だ。引退するって聞いてどうなるかと思っていたが・・・後任の孫娘はそれ以上に正義感丸出しのとても綺麗な女の子だったよ。こんな美人で面倒くさい領主がいるんだぜ?他の街になんて住めないよ」



「もう・・・バカ・・・」

 2人は唇を交わす。

 そしてアーニャにとって忘れられない夜となるのであった。



    続く

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