聖女巡礼㉒
「はい、騎士本部で治療させていただきます。是非ロイヤーさんもお越しになってください」
ミレーユは冷酷な表情は微塵も無く、ニッコリと優しい笑顔をみせる。
「・・・なんと・・・出会いはあったのか・・・」
ひっそりと呟くミケルであった。
⇨聖女巡礼㉒
大聖都ハミスの観測所。
あれほどうるさく鳴っていた警報もピタッと止み、逆に静寂が支配していた。
「駐在員から・・・報告・・・邪神が討伐されたとの事です・・・」
「・・・最後に観測した値は幾つだ?」
「さ、32000レロムです・・・」
「これが歴史の偉人『救世主様』の力か・・・」
司令官は少しだけ上を向き感慨にふけるが、すぐに部下達に命令を出す。
「直ぐに隣国の聖女様に報告。ギルドと軍にも報告を忘れるな。大聖女様には私が直接報告する」
「はっ!」
再び慌しく動き出す観測員達。
「おいっ・・・何としても正体を確かめろと駐在員に伝えろ。聖女にも連絡して聞き出せ。これは世界平和に繋がる情報、拒否するなら国家として責任を取ってもらうと言え。分かったな?!」
「ははっ!」
そうして司令官は足早に部屋を出て行くのであった。
あれからの聖都の様子を少しだけ先に語ろう。
ミールの事は戒厳令が敷かれ、極少数の者だけが知るだけで、存在は秘密のままになったようだ。
人々は様々な噂をし正体をつき止めようと試みるのだったが、結局分からずじまいに終わる。
しかし、それが更に噂に拍車をかけ、人々の熱狂さが増していき、今や軽いブームのようになっていた。
専属記者の魔動映像機から映された画像を切り抜き、貼り付けた様々なグッズが聖都のみならず、ルーン国内で大人気。
Tシャツ、カバン、ハンカチ、タオル、はがき、ポスター、筆記用具、お皿、etc・・・
特にお守り的な信仰が強く、1人1個が必須な状態だ。
金ランク冒険者の大盾の裏側にシールで貼ってあるほどなのだから・・・
ただ、画質が悪く、ミール自身も米粒ほどの大きさでしか映ってない為、ズームされても正体がバレる心配は無さそうなのが幸いである。
邪神が倒された日、ミールは気絶したまま運ばれたが、修復士の魔法のお陰で身体の方は直ぐに全快する事が出来た。
しかし、やはり心の負担は大きかったようで、しばらくの静養が必要と診断し修復士は帰っていった。
ミールの運ばれた部屋は騎士隊本部の最上階、超VIPが泊まる部屋だ。
日はすっかり暮れ、家々には明かりが灯る。
しかし邪神の巨大ビーム砲の影響で、東門から伸びる一帯は真っ暗だ。
完全普及するにはまだまだ、かなりの時間がかかりそうだった。
「流石に邪神はキツかったな・・・しかも過去イチ強かったし・・・やはりあの・・・」
ミールの頭の中には『脈打つ瞳』が鮮明に浮かび上がる。
もうこれは決定事項だ。
完全に誰かが陰謀を巡らせている。
しかも国家を滅ぼす・・・もしくは世界を滅ぼすほどの陰謀が・・・
ミールは大きな窓から見える聖都の街並みの明かり、そして荒れ果てた荒野の暗がりを見ながら、1人考えにふける。
程なくしてリリフ達が合流した。
ミールの診断結果が知らされると、リリフ達はミールに外出禁止令を出す。
「いーい?絶対に部屋から出ちゃダメだからねっミール」
「そうですわ。わたくし達が誠心誠意、心も身体も看病いたしますわ」
「ブルニもご奉仕しますっ」
「ご、ご奉仕って・・・ブルニちゃんっ、エッチなのはダメですからねっ!」
「えっち?・・・アーニャ様?どうしてエッチなんですかっ?」
「ひゃわっ?!なななななんでもないわよっ!おほほほほ・・・」
「やれやれ、羨ましいのぉ・・・」
「ふんっ、女に頭が上がらんとは、まだまだだなっ黄色ランクよ!」
「何言ってんだい。アンタこそ、結婚したら直ぐにそこの姉ちゃんの尻に敷かれるようになるだわさ」
「なっ!わ、わわわワシはっ・・・そのようなっ!・・・」
「なっ!わ、わわわわたしはっ・・・そのようなっ!・・・」
「・・・息ピッタリだな・・・」
「がーん・・・ミレーユさん・・・ううう、こんなヒゲジジイの何処が良いのですかあぁぁ?!僕、悲しいです!」
「ロイヤーさん、とりあえず僕は止めましょう。イメージが崩れます」
リリフ達、ルチアーニ達、そして何故かルゾッホ将軍とミレーユがワイワイとお喋りに花を咲かせている。
「いやいや、俺は大丈夫だって。そんな事より、こんな目立つ場所にいたらバレるだろ?早く出ようぜ」
「その点なら心配ない。お前の存在を知っている者は運んだ輸送兵2人と聖都専属修復士を除いたらワシらだけだ。当然輸送兵と修復士には固く口止めしてある。問題無い」
「いやいや、口止めしたって喋る奴は喋りますよ?」
「いえ、今回は戒厳令が発令しております。関わったこの3名は定期的に自白魔法をかけられ、常に喋ってないかチェックが行われますので。もし喋っていたら死罪なので余程の事が無い限り大丈夫でしょう」
ミレーユが補足する。
「ひえぇぇ・・・兵士も大変ねぇ・・・」
「喋っただけで死罪とはっ・・・」
「ロイヤーさんやランドルップさんだったら即死ですねっ」
「ブルニちゃん・・・つれない・・・」
「あははははっ」
「しかし・・・ここってVIP部屋だろ?誰が泊まったとか後で調べられるんじゃないのか?」
「がっはっは。黄色ランクは結構臆病者だなっ。心配ない。ここに立ち入れるのは限られた者のみ。専用の通路を通らんと来れんし、厳重な魔法錠で塞がれておる。ワシ達以外の者が来ることなどありえんっ!」
ルゾッホ将軍は得意げに語るが、その直後、バタンと勢いよく扉が開き聖女がピッケンバーグとメイドのロココを引き連れて、文句を言いながら入ってきた。
「全くっ!しつこいったらありゃしないわっ!もう面倒くさいから連絡が来てもシカトするように命令しようかしらっ!」
「聖女様・・・それですと国際問題に発展するかと・・・」
「もうっ、分かってるわよっ!本当にハミスの役人は偉そうで嫌いだわっ!」
聖女はズカズカと歩いて行き、当然のように椅子に腰掛ける。
まるで自分の部屋のようだ。
「あら?皆さん、お揃いで何よりだわ。ご機嫌よう」
聖女は今気付いたかのように挨拶をする。
邪神の襲撃を受けて以来、初めての対面だったのだが・・・
聖女の素っ気なさに感情を高ぶらせる機会を失ってしまったリリフ達。
まあ、ある意味聖女らしさが戻ってきたのかもしれないが。
「見た感じ、全員いるのかしら?誰がいたのかあんまり覚えてないけど・・・まあ悪運だけは強いようね?」
聖女はロココが出した紅茶を啜りながら興味なさげに喋る。
聖女とは仲良しこよしとまではいかなくても、かなり信頼感は得られていると思っていたリリフ達は聖女の言葉に落ち込んでしまう。
ブルニなんてあからさまに耳をシュンっと垂らして残念そうだ。
そんなリリフ達を見かねたピッケンバーグは
「聖女様が1番最初に部下に確認させたのは皆様の安否確認でした。お一人お一人、しっかりと名前を呼ばれ確認し、無事だと分かるとヘナヘナと床に座り込んで泣いてしまう程でしたよ?」
「ちょーーーーーーーとおおぉぉぉ!ピッケン!なななななにを言ってるのよ!秘密にしてって言ったでしょぉぉぉ!?」
取り乱す聖女にブルニはピーンと耳を起こして抱きつく。
「わああぁぁいい。聖女様!だーーいすきっ!」
猛烈に尻尾を振っている。
メイドのロココは冷静に紅茶の置かれたテーブルを奥にずらす。
最早、全く止める気は無いようだ。
遅れてリリフやセリーも聖女に抱きついた。
「ちょっとおおおぉぉ!平民!無礼者っ!気安く抱きつかないで頂戴っ!」
そう言いながら嬉しそうな聖女様。
「うふふぅ・・・やーだもーん」
「わたくし分かりましたわっ。ツンデレ体質なのですわねっ!承知いたしましたわっ!」
「乳デカ娘っ!分かったような口を聞くなっ!」
「乳デカ娘では分かりませんわぁ。さあ、名前を仰って。さあっさあっさあっ!」
「むむむ・・・」
聖女はしばらく考え込むが
「・・・せ、せりぃー・・・」
小っちゃい声で恥ずかしそうに呟く。
「きゃー!かっわいいー!聖女様!聖女様!次!次私お願いしますっ!」
「むぅ・・・りりふ・・・」
「きゃああぁ!!嬉しいっ!」
「せ、聖女様ぁ・・・」
ブルニはつぶらな瞳で聖女を見つめる。
「・・・ぶるに・・・」
「わあああいいっ!聖女様!だーーいすきっ!」
再度ギューッと抱きしめるリリフ達。
「ああんっ!もう許してっ!分かったからっ!分かったからあぁっ!」
その部屋にいる全員がジタバタしている聖女を暖かく見つめるのであった。
「それにしても・・・みんな無事で本当に良かったね」
聖女への洗礼も終わり、少し落ち着いたリリフ達。
全員でテーブルを囲み、紅茶とクッキーを楽しみながら自然と戦いの感想を語り出す。
「そうじゃなぁ。本当に良かったのぉ」
「ミール様がおられなかったら・・・私達はおろか、聖都・・・いえ、このルーン国が滅びていたかもしれません」
「ホント凄かったですぅ、ミール様」
「てか、あの異次元の強さは何なの??あんた黄色ランクなのよね?どういう事なのかしら?」
「あ、それはですね聖女様」
リリフが聖女に説明する。
「ふーん。なるほどねぇ。だから正体を隠してるって訳ね」
「そうだな、俺にとっては人間が1番注意しなければならない相手だからね。あの『青の霹靂』とかが最も怖い連中さ」
「青の霹靂・・・」
「そういえばいたのぉ。あまりにも色々な事が起りすぎて忘れておったが・・・」
「ふええぇん」
その名前を聞いてブルニはブルッと身震いする。
笑いながら剣を振るってきた顔を思い出したようだ。
「それに加えて、あの邪神。正直勝てると思えない程に凄まじい強さだったよ。倒せたのはみんなのお陰だ。ホントありがとう」
ミールは頭を下げる。
「そっ!そそそそんな事ないよっ!ミールの方が全然凄かったしっ!」
「いや、まずルチアーニさんの回復。めっちゃ助かりました。あれがなかったら勝負にすらならなかったです。あと、ロイヤーさん、ランドルップさん、そしてミケルさん。邪神の攻撃を受け止めるなんて凄いっすよ。金ランクになったらどうですか?」
「がっはっははっ!こりゃ再昇格しちゃうかもしれんな!」
「良しっ!早速登録じゃ!」
「ふん、楽勝だ」
「調子に乗ってんじゃないよ、まったく・・・アタシはもう限界だったわさ。気絶寸前。リリフちゃん達が来てくれて本当に助かったのよぉ?」
「いえ、そんな・・・」
「ああ、確かにあれは助かったよ。リリフ達が来てくれて再度力が湧いてきた。一撃で粉々になる場所に来るのはとても勇気が必要だったはずだ。来てくれてありがとう」
「そ、そうかな・・・」
「リリフ姉様っ格好良かったですっ!黒ランクの皆さんにも堂々と指示を出してましたっ」
「そ、そう?・・・えへへっ」
「あ、でもアーニャ様も凄かったんですよっ!みんなにテキパキ指示を出してて・・・決して最後まで諦めなくて。私がミールのもとに駆け寄れたのもアーニャ様のご指示があったからだし、聖都全体に現状を伝える事が出来るようになったのも、アーニャ様がそこのヒゲッソ将軍を説得したからだし」
「だーれがヒゲッソ将軍じゃ!ルゾッホだ!ルゾッホ!ふん・・・まあ確かにアーニャは的確な指示を出していたのは認めるがな・・・」
「そうか。やっぱりアーニャに頼んで正解だったな。ありがとう」
「い、いえ・・・そんな・・・」
アーニャはミールが穏やかな笑顔で自分を見ているのに耐えられず、顔を真っ赤にしてうつむく。
「将軍も精鋭騎士の大将たる器を存分にお見せになりました。とても素晴らしかったです」
「確かに・・・ルゾッホ将軍が囮になってくださったので時間を稼げました。あれが無かったらミール様が危なかったです」
「ぐむぅ・・・そ、そうか・・・」
ミレーユとアーニャに褒められて、今度はルゾッホ将軍が顔を真っ赤にしてヒゲを整える。
「がーん。ミレーユさぁぁん。僕も褒めてぇぇ」
「え?・・・あ、はい。ロイヤーさんも凄かったですよ?」
「やだやだやだぁ!そんなついでみたいに褒められても嬉しくないよぉぉ!」
「ロイヤーさん、とりあえずその喋り方をなんとかしましょう」
「全く・・・何時までも子供なんだから・・・」
腰に手を当て、半場呆れた表情のルチアーニ。
そんなルチアーニにミールが尋ねる。
「そういえば・・・最後に回復してくれたのって誰なんですか?一気に力が戻ってきたっていうか・・・めっちゃ強力な回復魔法ですよね?」
「ああ、そーよねぇ・・・おばちゃん魔力スッカラカンだったから分からないわぁ」
「僕もあんな大魔法使えないです」
「みんなが強力したお陰だよっきっと!もうね、ギューッてみんなで抱きしめたんだ!そしたらギュイーィンってなったの!」
リリフが興奮気味に、擬音たっぷりで説明する。
「ほー。そうなのか・・・不思議だな。それじゃあ皆にありがとうだな」
「うんうん!みんなの力が集まった結果だよ!」
「あら??聖女様。ご気分でも優れないのでしょうか?」
セリーが聖女の様子を気にする。
当の聖女は唇を前に突き出しうつむいていた。
「・・・みんな良いわね・・・褒めてもらえて・・・私だって戦場にはいなかったけど、一応頑張ったんだからね・・・」
どうやら拗ねているみたいだ。
「ああああんんっ!何を仰っているのですかぁっ!?聖女様はとっても素晴らしい活躍をしたではございませんかっ?!」
「そうですよ聖女様っ!私は緊急結界を使うとばかり思ってたからビックリしましたっ!」
「あの状況で通常結界を張り直す決断が出来るのは僕は凄いと思います。さぞ貴族達の反発もあったでしょうに・・・」
「そうよねぇ。聖女様が民の為に通常結界を選択してくれたお陰で、黄色ちゃんが力を溜める時間を作れたんだもの」
「聖女様ぁ!ナイスタイミングでしたぁっ!」
「そ、そう?・・・」
「そうですよおっ!しかも張り直した結界はめちゃくちゃ輝いていてっ!邪神をバーンって吹き飛ばして格好良かったですよっ!何か変わった事をしたんですか??」
「え・・・と・・・それはピッケンが・・・ゴニョゴニョ・・・」
今度は聖女が顔を赤らめてうつむいてしまう。
おやおや?っとリリフとブルニ以外の者達は聖女の変化に気付く。
しかし敢えて触れずに話題を変えるルチアーニ。
「そういえば凄い魔法を使った人がいたでしょ?あの人はどーなったんだい?」
「ああ、確かに。あれほどの魔法の使い手がいるとはな。あの魔法のお陰でかなり邪神の力を削ぐことが出来たよ」
「ししょーーーーーーーーの事ですわね!わたくしの師匠ですわっ!凄いのです!ビューティホーなのです!」
「し、師匠って・・・前にセリーが言ってた人?魔法を使えるようになったキッカケをくれた人」
「そうなのですっ!凄い偶然なのですわっ!目を覚ましたら師匠が目の前にいらっしゃったのです!わたくし速攻で抱きつきましたわっ!」
「へえぇ・・・そんな大魔法を使える人が、よくセリーみたいな初心者を相手にしてくれたわね?」
「師匠はとってもお優しい方なのです!とってもエクセレントなのです!」
「で?・・・お名前はなんて仰るの?」
「・・・・」
「え?・・・もしかしてまた?」
「ぎゃああああああああぁぁ!!また聞きそびれてしまいましたわあっ!」
頭を抱えてうずくまるセリーの肩に手を置き、アーニャが言葉をかける。
「その方なら私がお聞きしております」
「ええ?!本当でございますか!アーニャ様?!」
「ええ。それと・・・ミール様にもご伝言を承っております」
「え?ミールと知り合いって事??」
「コホン・・・それではそのままお伝えさせて頂きます。『ミール、お久しぶり。貴方に命を救われたフェリスよ。今もゼノと一緒に色々な街に行って修行しているの。今回は少しでも貴方のお役にたてて嬉しいわ。まだまだこんなものじゃ全然恩返しが出来てないから、これからも困っている人を助けながら旅を続けて行きます。また会いましょ。あ、それと私の一番弟子のセリーちゃん。貴方のお陰で魔法を成功させる事が出来たわ。ありがとう。今度一緒に冒険しようね』・・・以上です」
「ししょーーーーーーーぉぉぉおぉーーー!!嬉しいですわあああぁぁ!」
絶叫するセリーとは対照的に、静かに微笑むミール。
「そうか・・・フェリスだったか・・・なるほどな」
ミールはフェリスが宣言通り、強者を砕き弱者を助ける行動をしていた事に嬉しさが込み上げる。
フェリスがどんな感じで人々と接していたのかはセリーを見れば一目瞭然。
謙虚に実直に冒険者をしていたようだ。
同時にミールは今まで見捨ててきた数多くの人々に思いを馳せる。
思えば一度の過ちを許さずに見捨ててきた者が大勢いるからだ。
別にミール自身が手を下した訳では当然無い。自分の命を危険に晒してまで悪人を助ける気は無いということだ。
しかし、フェリスはいつものミールだったら確実に見捨てている。
助けたのはゼノの存在が大きい。
ある意味気まぐれで助けたフェリスに今回は命を救われたという事、心を入れ替えて誠実な冒険者になっている事。
その現実に思う所があるようで、しばし考え込むミールであった。
続く




