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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑲

「くははは・・・はは・・・金ランクの冒険者達にも負けない最強の兵士集団を作り上げると意気込んで訓練した結果がこれか・・・今はどうだ?残っているのはたった10人ほどではないか?・・・くははは・・・」


 ルゾッホ将軍は自暴自棄に笑う。

 そんなルゾッホにかける言葉がなく、ただうな垂れるミレーユであった・・・



⇨聖女巡礼⑲




「ククク・・・今の光の剣はナンダ?・・・まだあれ程の火力を出すコトガ出来タカ・・・侮れンナ・・・」



 邪神はミールの『属性ブースト』の攻撃を受け、態度を改めたようだ。

 笑ってはいるが、先程よりも警戒心が強くなっている。



 と同時に、邪神の全身からプシューっと湯気のような蒸気が出ており、皮膚はただれ、幾つかの甲冑のような装甲も剥がれていた。


 不完全だったとはいえ『属性ブースト』の攻撃は邪神に深いダメージを負わせたようだ。



 しかし・・・



 ブクブクと沸騰しているかのように皮膚が盛り上がり、損傷部分が明らかに再生しているのを確認できた。



 そう、悪魔種はダメージに対して自動治癒機能のスキルを持っているのだ。



 もちろん全ての悪魔種ではない。

 ある程度、上位の悪魔種。サタン以上の個体に備わっているスキルだった。



 詳しく説明すると、あくまで修復できるのは損傷部分のみ。つまり失われた体力などは元に戻ることはない。

 いや・・・もちろん人間と同じように時間経過によってある程度回復はするが、回復魔法のように一瞬で体力や疲労を無くすことは出来ないのが特徴である。



 例えばコップがひび割れたとしよう。

 そのひび割れは自動治癒機能によって直すことができる。

 しかし、そのひび割れによって漏れた水は元には戻らないといったイメージだ。



 だがしかし・・・



 先程も触れたが、今現在、この周辺は負の感情で溢れている。

 そして悪魔種は人間と違い、食した負の感情を直ぐにエネルギーに変換できる。



 なので、ひび割れたコップも元に戻り、減った水も直ぐに注がれる感じ。

 邪神にとって現在の聖都周辺はかなり有利な状況と言えるだろう。



 故に先程までは余裕に、まるで遊んでいるように、楽しんでいるかのように攻撃してきていたのだったが・・・



『属性ブースト』の威力に危機感を感じたのか、今は明らかにミールの命を取りに来ている。

 比例してミールへの攻撃も強さが増していった。



「くっ・・・」

 ミールの手も、段々と攻撃する事が減り、防御一辺倒になってきてしまっている。



 グワッ!

 邪神の衝撃波。



「マズイっ!」

 ミールは必死に衝撃波をぶった切る。



 ギリギリで衝撃波はルチアーニ達に命中せずに、大地を削った。

 危なかった・・・しかし明らかにルチアーニ達を狙っている。



「ルチアーニさん!狙われていますっ!気をつけて!」

 ミールは顔を隠していた黒いフードを投げ捨てて大声で叫ぶ。



 ルチアーニ達はミールの影に隠れるようにこまめに移動している。

 ミケルとランドルップが大きな盾を構え、ロイヤーがルチアーニをおんぶしながら移動していた。



 少しでもルチアーニが回復魔法に集中出来るようにする配慮だろう。

 そしていざとなったら身体を投げ出して、ルチアーニの盾となるつもりなのは明白だ。



「邪神様ともあろうお方が・・・随分と器が狭いんだな・・・回復くらいさせてくれよ・・・」

 ミールはダメ元で挑発してみる。



「クックック・・・オマエハ危険ダ・・・即排除するコトニシタ・・・ワレハ完璧主義者・・・不安要素ハ即排除スル・・・」

「光栄だね。邪神様に認められるなんてね・・・」



「グフッフッフ・・・ココまで対等に戦ったモノはかつてイナイ・・・強いてイウなら以前ワレを倒シタ者か・・・まあヤツハ神の使徒ダったガナ・・ドウダ?・・お前がノゾムならワレノ眷属にシテモヨイゾ?・・トモに神と戦ウ覚悟がアルなら力をワケテやろう」



「まじか?それは助けてくれるってことだよな?」

「黄色ちゃん??!」

「クックック・・・無論ダ・・・」



「あはははっ。だけど俺なんて眷属にしたらあんたの方が困るぜ?なにせ俺はいい加減だからな。完璧主義者のアンタとじゃ水と油だ。ストレスにしかならんだろうぜ?」



「グワッハッハハ・・・違いナイ・・・グワッハッハハ・・・面白いニンゲンだ・・・」

「そりゃどうも・・・」

「デハ仕方ナイ・・・諦めるとスルカ・・・」



「そうだな、どうせ使い魔のお前にはそんな事出来そうにないものな」



「・・・何だト?・・・ワレヲ使い魔とイッタカ?・・・」

 邪神の声に怒りが含まれてきた。



「あれ?気付いて無いのか?アンタ操られてるんだよ?普段はまだ現出するの早すぎただろ?強制的に現出させられてるんだって」



「・・・ナン・・ダト?・・・」

 邪神の声から怒りが消えた。



「胸に手を当ててみろよ。しっかりと証拠があるぜ。そんな瞳、前からあったのかい?」



 邪神は少し警戒しながらも、ミールの言う通りに胸に手を当ててみる。

 そこには確かに『脈打つ瞳』が規則的に鼓動し、キョロキョロと目玉を動かしている。



「ナ、ナンダ?コレハ?・・・・グムウウム・・・」



 邪神は引き剥がそうと試みるが、完全に身体の一部となっているようで、取り除くのは無理なようだった。



「ナルホドナ・・・ヨウヤク合点がいった・・・何故コレホドの力が沸いてくるノカ・・・疑問ダッタガ・・・こういう事カ・・・」



 邪神は少し考え込むが

「フハハハ・・・まあ良イ・・・コレホドの力を得たノダ・・・コレナラバ神の奴ト対等ニ戦エル・・・コノ世界全ての生物ヲ殲滅スルトシヨウ・・・操れるナラ操ってミルガイイ・・・」



「ちぇ、やっぱ帰ってくれないか・・・」

「フハハハッ・・・笑止ッ・・・」

 ミールと邪神は再度、轟音を響かせながら戦い始めるのであった。







「ルゾッホ将軍っ!貴方まで絶望してどうするのですっ!しっかりしなさいっ!」



 アーニャはルゾッホ将軍の襟元えりもとを掴み、グイグイと揺らす。



「・・・アーニャ・・・」

「いいですか??先ずはこの恐怖の連鎖を止めなければなりません。恐怖こそが邪神の力の源、力の根源なのです。先ずはそれを少しでも止めます」



「と、止めるってどうやって?・・・」

 ミレーユが問いかける。



「ルゾッホ将軍。貴方は放送局にも繋がりがありますね?直ぐに聖都全体に聞こえるように注意を呼びかけて下さい。住民達は何が起っているのか分からないから不安なのです。不安と恐怖は連鎖します。それを取り除く為にも、状況を逐一報告する必要があります。外には出られない事、中央も入れない事、恐怖と不安は敵の力となってしまう事、希望を持つ事の大切さ、助け合う大切さを説明してください」



「希望など・・・どうやって持つのだ??この絶望的な状況で・・・なにを希望にすれば良いというのだっ?!」



「希望は・・・あります。あるではないですか。今必死に戦っている人がいます。私達も必死に戦います。この状況を知らせるのです。出来れば映像があるとなお良いでしょう。私達が住民達に希望を見せるのです!希望となるのです!諦めるのはあの英雄様が倒されてからでも遅くはないです!今はまだ早すぎます!私は絶対に諦めない!力を貸して下さい!」



 アーニャの瞳に光が、炎の光が輝いているように見える。

 アーニャの言葉は不思議と人々の心を奮い立たせる力があった。



「それじゃあ、僕らの出番ですねっ!お任せ下さい!最高の映像を撮ってごらんにいれますよ!記者魂を見せてやります!」



 横から声をかけてきたのは、襲撃される前に聖女の姿を撮影していた専属の記者だった。顔中泥だらけになりながらも、しっかりと魔動映像機(カメラ)を構えている。



「ルゾッホ将軍!お願いします!ミ・・・英雄様が必死に戦っているんです!私達にもまだ出来る事があるはずです!」

「そうですわっ!希望を捨てては駄目ですわっ!」

「何かあったらブルニが守りますからぁ!」

「ルゾッホ将軍。お願いします。住民の心を1つに」


「ぐむむ・・・・」



 ルゾッホ将軍はしばらく唸っていたが

「ええい!どうなってもしらんぞ!」

 そう吐き捨てると魔法膜に包み込まれる。通話を始めてくれたようだ。



 しばらくして聖都全域に聞こえるように、繰り返し繰り返し注意喚起する声、そして魔法画面機で映像を観ることが出来ると案内が流れる。

 そして記者の魔動映像機(カメラ)も直接繋がれた。



 流石は聖都。

 最先端のドルグレムの国程ではないものの、かなりの魔法画面機が供給されているようだ。



 人々は、魔法画面機がある家に集まって、街角の大画面の魔法画面機の前に集まって、流れてくる映像を食い入るように観ている。

 映像には邪神と戦っている人間と、東門付近で必死に指揮を執っているアーニャ達を映し出す。



 邪神には近寄れないので遠くからの映像だ。

 更に記者が持っていたのは、携帯型。高性能ではないのでズーム機能も劣り、人間がミールであるということは人々には分からない。



 しかし確かに戦っているのは分かる。



 衝撃音が響く度に人々は悲鳴を上げ不安の声を上げるのだが、次第に歓声・・・応援する声もチラホラと聞こえるようになった。



「頑張れぇ!!」

「頼むぅ!」

「イケるぞぉ!」

「負けるなー!」



 そして映像を撮られているという事は、東門にいる者達にも影響を及ぼしている。



「いいですか!?近寄るのは危険ですっ!遠距離攻撃が出来る者はここから攻撃してください!かなり距離があるので命中率は低いかもしれませんが、当らなくてもいいです!少しでも邪神の注意を引いて下さい!それが英雄様の助けになるハズです!」



「お、おおうっ!」

「お、おっしゃっ行くぜ!」



 先程まで、ブーブーと言っていた冒険者達が素直に言うことを聞く。

 やはり大勢に観られているという感覚は人を従順にするようだ。

 東門の前衛には魔法使いや弓使いなどが並ぶ。



「ルイーダっ拡声魔石を下さい!」

「はいっ!アーニャ様!」

 アーニャは魔石を受け取ると大声で叫ぶ。




「魔法攻撃っ!放てっーぇーーぇー!」




 そこまで大声で言わなくても十分聞こえると思われる距離だったが、アーニャは敢えて大声で指示をだす。



 それはミールに聞こえるように言っているからだ。

 これから魔法攻撃が飛んできます。可能な限り避けてくださいと。



 魔法陣が出現し、冒険者達から次々と唸りを上げて魔法が発射される。

 腐っても高ランクの皆さんだ。そんじょそこらの魔法使いとは威力が違う。



 流石に命中率は低いものの、アーニャの目論見通り邪神はウザったそうに避けたり、腕を振って防いだりしている。




「第2射っ!放てええーーぇーーーぇーーー!」




 ボウボウンッビュンビュンッズガガガガッ


 次々と発射される炎や冷気、風や雷。



「良い感じだっ!」

「利いてるぞ!これは利いてる!」

「おおおおぉぉおぉおおぉ!」


 南門の冒険者達も、魔法画面機の前で見守る人々も、希望の光を確かに感じる。



「・・・グムムウ・・・」

 邪神は1つ呻く。先程まで際限なく溢れてきていたエネルギーが減ってきているのを感じたからだ。



「アレが・・・原因カ?・・・」

 邪神の瞳は東門を捉える。



 ガシッと両手を地面に着き、四つんばいになる邪神。

 そして口を大きく広げ、その中から真っ黒な闇の炎が収束されていく。



「マズイっ!」

 ミールが叫ぶ。



 邪神はドンドンと黒い光を溜め込む。



「お、おい・・・あれって・・・」

「え??え?ヤバくない?」


 東門の冒険者達も異変に気付く。




「皆さん!攻撃が来ます!待避!待避ーーぃーー!」



 アーニャの叫び声がこだまする。



「アーニャ様っ!」

 トール隊長がアーニャの上に被さり、地面に身をかがめる。



 次の瞬間・・・






  ドオオオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウウウウウウンンン!!






 凄まじい衝撃と爆音、爆風が起り、城壁、家、街路樹など、全てをなぎ払う。



「きゃあああああぁぁあ!!」

「ぐああああぁあぁあぁ!」

「うわああぁああぁぁ!!」



 人々の悲鳴が聞こえるが、全く目を開けていられない。

 強風が吹き荒れ、様々な物が巻き上げられ、そしてうずくまる人々の頭に降り注ぐ。



 恐る恐る顔を上げると、東門から少しだけ右にずれた箇所。

 アーニャ達がいた場所から15メートルくらい右の場所が根こそぎ、えぐられていた。

 幅にして30メートルくらい、そして長さは・・・恐ろしい事に聖都の中心部近くまで達していた。



 聖都の結界は直径12キロはある。なので東門から5キロほどが壊滅したのだ。

 正に直線の巨大ビーム砲のような感じ。



 強固な城壁が街を守り、沢山の家が建ち並び、綺麗に区画整理をされている街並みが一瞬にして荒野と化した。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・ゴゴゴ・・ォォ・・ンン・・




 聖都の高層ビルが土煙を上げながら、ゆっくりと崩れ落ちる。



 アーニャ達は尻餅をついたまま、崩れゆくビルや荒野と化した街並みを、目を見開き見つめている。



 少しでも横にずれていたら・・・

 どうしてもそういった恐怖が湧いてきてしまう。



 横にずれたのは、直前にミールが邪神の顔を蹴り飛ばし、軌道を変えたからだった。それが無ければ直撃していただろう。



 アーニャも、リリフ達も、ルゾッホ将軍達も、映像を観ていた住民達も、深い深い恐怖、そして絶望感を感じずにはいられなかった。




「フハハハッ・・・戻ってキタ・・・エネルギーが戻ってキタゾ・・・コレハ旨い・・・極上の恐怖ダ・・・クックック・・・」




「なるほどな。だが今ので分かった。今度打ちそうになったら、その隙にお前の身体を貫く光の剣を出すとしよう。その瞬間がお前の終わりの時だ」


「グフフフ・・・ソレハ楽しみダ・・・」



 ミールはハッタリを言った。

 あの程度の時間ではとても邪神を貫く程の光は溜まらない。

 しかし、またあの攻撃をされたらアーニャ達が危ない。

 それを防ぐ為に敢えて嘘を言って牽制けんせいしたのだ。



 幸い邪神には属性ブーストがめちゃくちゃ時間かかる事はバレていない。

 こう言われたら邪神とて、ホイホイと第2射は放てないはずだ。

 何よりコイツは完璧主義者、結構慎重派だ。今はそれを利用させてもらおう。



 だが、そろそろ流石にマズイ。

 ルチアーニさんの魔力も限界だ。いつ気絶してもおかしくない。



 どうする?・・・・



 アーニャ達の中から回復が出来る者を派遣してもらうか?・・・

 いやいや、そうしたら沢山の者を巻き込む事になる・・・

 ルチアーニさん達を守る事で精一杯な状況で、それは頼めない。



 もしリリフ達が・・・リューイが直撃を喰らったら・・・

 そんな事は耐えられない・・・



 しかし・・・このままではどのみち全滅だ・・・

 くそっ一体どうすればいいんだ・・・



 そんな考えが頭を支配してしまったミールは一瞬だが動きが止まった。



 邪神はその隙を見逃さない。

 大きな腕を振りかぶり、破壊力抜群の横薙ぎが炸裂する。



「黄色ちゃんっ!!」

「ミールーっ!」

 ルチアーニ達の叫び声が遠くで聞こえる。



 ミールはスローモーションのように空中で舞い、吹き飛ばされてしまうのであった。







 聖女を後ろに乗せたピッケンバーグは絶望の表情を浮かべている。

 正に後1メートル・・・いや30センチずれていたら直撃だった。



 ちょうど少し横向きになっていた道。

 乗っていた馬は頭部のみ吹き飛ばされており、首の無い状態で大地に横たわっている。



 全てが削り取られ、荒野となった大地に投げ飛ばされたピッケンバーグだったが、直ぐに聖女のもとに駆け寄った。



「聖女様!お怪我はございませんか?!」



「ええ・・・だ、大丈夫・・・」

 気丈に振る舞ってはいるが、聖女も動揺が激しいようだ。声が震えている。



 辺りでは人々の悲鳴や叫び声が溢れていた。

 ピッケンバーグも聖女を支えながら、一歩一歩歩いて行く。

 ビーム砲のお陰で、ちょうど人混みが割れており、荒野の道を進んでいく二人。



 子供が親を探して泣き叫ぶ声が聞こえる。

 絶望の声を上げる人達。

 聖女の名前を呼んで助けを乞う人達。



 ここが本当に、美しく綺麗に整備されていた聖都なの?



 聖女がそう思うほど、瓦礫が散らばり、上半身だけの、下半身だけの死体も多く転がっている。



 やがて宮殿が見えてきた。

 大勢の人達が中に入ろうと押し寄せているのが分かる。

 悲鳴、怒号、罵声。

 ありとあらゆる声が溢れている。




「どけえええぇぇ!前を開けろぉ!聖女様のお通りだあぁ!邪魔するなあぁ!」




 ピッケンバーグにしては珍しく、剣を振り回し、実際に剣を突き刺し、強引に人々の垣根を開いて入り口に入っていく。



「聖女様!?」

「おお!聖女様だ!」

「本当に聖女様だ!お助け下さいっ!聖女様!」


 人々は聖女に群がり、すがりつき、服を引っ張る。



「ええい!どけっ!下がれっ!」

 ビュンビュンと剣を振りながら住民を引き離すピッケンバーグ。



「おおっ!聖女様!ピッケンバーグ様!どうぞ中へ!」

 兵士達が大勢出迎える。



「おおっ。聖女様っ。よくぞご無事で。さあさあっ、早く中へ。お早く」

 大貴族ブレーダル卿が出迎える。



「ブレーダル卿、現在宮殿内はどのような状況でしょうか?」



 聖女の言葉使いが丁寧で驚いた表情を見せるブレーダル卿だったが、直ぐに冷静さを取り戻す。



「はっ、聖女様。現在貴族や高官、献金額が大きい商人などは収容済みでございます。まだ各街の領主様達は到着しておりませんので到着次第、随時収容する見込みです。食料の備蓄なども考えますと・・・だいたい300人程でまとめるのがよろしいかと思います」


「300人・・・その他の住民達は・・・」


「は?・・・住民・・・でございますか?もちろん死ぬことになるでしょう。まあ、直ぐに増えますのであまり気にする必要はないかと思われます」


「・・・」


「あ、もちろん大聖都ハミスと隣国の聖女様達には連絡済みでございます。早ければ今週中にも討伐隊の第一陣が到着するかもしれません」


「そうですか・・・分かりました、ありがとうございます」

「は、はあ・・・勿体ないお言葉でございます・・・」



 未だかつて聖女からお礼を言われたことなど一度も無い。

 本当に同じ聖女か?と疑いの目を向けてしまうほど、聖女の雰囲気がまるで違う事に驚きを隠せないブレーダル卿であった。



 聖女は奥に進んでいく。もちろん行き先は結界魔石のある部屋だ。



「聖女様ぁ・・・中に入れてくださぁい・・」

「死にたくないよぉ」

「子供が産まれるんですっ。どうか妻だけでもっ!」



 出入りでは貴族を中心に検問が敷かれおり、一般住民は1人も入れないようだ。

 聖女は下を向き、足早に魔石室に向かうのであった。







「黄色ちゃんっ!!」

 スローモーションのように吹き飛ばされたミールの身体が緑色に光る。



 ピクッと反応して、大地に転がりはするが、なんとか受け身を取った。

 気は失っていないようだ。直ぐに追撃をかわす体勢に入る。



 しかし・・・



「ジャマダ・・・」

 邪神の衝撃波がルチアーニ達を襲う。



「ルチアーニさんっ!」

 ミールが叫ぶ。



 だめだ、とても間に合わない。やられた・・・



 ミールの顔に絶望の色が陰る。




「ぬおおぉおぉおぉ!!」

 ミケルが前に出てきて大盾を構えた。




 バリバリバリガガガガガッ


    凄まじい爆風と土砂が飛び散り

                 土煙が舞う。



 ミールは急いでルチアーニ達のもとに駆け寄ると、大地がミケルのいた付近から湾曲に削れていた。

 力ずくで衝撃波を斜め後ろに逸らしたようだ。



「凄いじゃないっすか。ミケルさん」

 ミールは呟くが、視線は邪神を睨んだまま。まるで独り言のようだった。



 何故なら褒めた本人の意識がない。

 身体中、火傷のような跡があり、グッタリとしている。



 ルチアーニもロイヤーもランドルップも。

 ミケルのお陰で直撃は免れたようだが、ダメージは大きいようだ。

 皆、大地に倒れ込んでいる。



「クックック・・・コレデお前1人にナッタナ・・・サア・・・決着をツケヨウカ・・・」



 こうなっては自分で回復魔法をかけながら戦うしかないのだが、そんなハンパな事を許してくれそうにない攻撃が次々とミールを襲う。



 くそ、とてもじゃないが回復魔法を唱える集中力が保てない。

 このままではいずれ捉えられる。



 ミールはジグザグに攻撃を躱しながら、一点を見つめる。




 あそこだ。

 脈打つ瞳だ。




 あそこに剣を突き刺せば、もしかしたら何かが変わるかもしれない。



 しかし完全に敵の懐の中。

 下手をしたら即死だ。 



 ミールは攻撃を避けながら、チャンスをうかがう。



 今だっ!



 グッと踏み込み、一気に加速。

 フェンシングの一撃の様に身体全体で攻撃にかかる。




        ボフッ




 しかし邪神の出した膝にそのまま激突してしまう。



「残念ダッタナ・・・」



 邪神は全てを予測していたかのように呟くと、地面に落ちようとしているミールをそのままサッカーボールのように遠くに蹴り飛ばした。



 先程と同じように空中を舞うミール。

 以前と違うのが、今回は受け身をとらず、グシャッと地面に叩きつけられた事だった・・・







「ああっ!」

 魔法画面機の前で、祈る気持ちで見守っていた人々から悲鳴と落胆の声が上がる。



 ミールは気絶はしていない様子で、ググッと立ち上がろうとしているのは見て取れるが、プルプルと震えるだけで起き上がる事が出来ない。



 邪神は容赦なく、追撃の一撃を喰らわそうと空中に飛び、拳を突き刺す。



 しかし、そのちょっと前にミールの身体は鮮やかな緑色に光り、ミールはグッと力を込めてバク転で邪神の攻撃を躱した。



「ナニ?・・・」

 邪神は少し驚きの声を上げる。



 よく見るとミールの背後、回復魔法がギリギリ届くくらいの距離に複数の冒険者達がいるのが確認できた。



 その中に・・・リリフ達も混じっていたのであった。








「回復魔法が使用できる方っ!お力をお貸しくださいっ」

 アーニャの声が東門で響く。



「ちょっ!待てって!まだ何かするつーの??」

「もちろんですっ。むしろもっともっと行動するべきですっ」



「冗談っしょ?!これを見ろっつーの!ちょっと魔法攻撃しただけでこんだけの報復があったんだぞっ?!次はここに飛んでくるっつーの!俺たち全員殺す気かっ!」



「そうですっ!命を捨ててくださいっ!!世界の為に、今!命を捨ててくださいっ!ここで止められなければ・・・あの英雄様が勝てなければ人類に未来はありませんっ!英雄様が一太刀でも多く攻撃出来るように私達は全力でサポートすべきですっ!捨て駒となって邪神の注意を一秒でも引くべきです。お願いします!回復魔法が使える方っ!私達に命を預けてくださいっ!」



「ば、馬鹿じゃねーのっ?!なんで人類が勝てないって分かるんだっつーの??虹ランクの冒険者が集まれば分かんねーだろっ!」



「虹ランクの皆さんがどれ程強いのかは私は分かりません。もしかしたら貴方が言うように止めてくれるかもしれません。ですが、それまでどれだけの人々が殺されるのですか?悪魔種の特徴はお分かりですよね?今、目の前にいる邪神と、この聖都を飲み込んだ後の邪神、一体どちらが強いのでしょう?この国を滅ぼした後の邪神は?この大陸を滅ぼした後の邪神は?少なくとも、今っ、目の前にいる邪神と戦えている者がいるのです!今後マトモに戦える者が現れる保証など何処にもありません!私は今だと確信しています!今この瞬間が世界の命運を分けているのです!この瞬間が我々人間種が滅びるかどうかの瀬戸際なのですっ!世界の為に!未来の子供達の為に!どうかお力をお貸しください!」



 アーニャは必死に頭を下げる。ぎゅっとスカートが裂けるのではないかと思うほど強く強く握りしめながら。



 その炎を宿した瞳は、どんな事があっても諦めない強い決意に満ち溢れていた。



 それと同時にプルプルと震える拳からは、巡礼を一緒に周り、友達のように、家族のような存在になった者達を犠牲にしてでも、聖都の住民を守ろうと行動している自分に対しての苦悩が窺えた。




「アーニャ様っ。私行きますっ!」




 リリフの予想通りの言葉に唇を噛み締めるアーニャ。



 しかし、リリフの真っ直ぐな瞳を見て、アーニャは深く頷く。

 リリフも笑みを浮かべながらも真剣な表情で頷いた。



「ちょっ?マジ言ってんの?!緑になにが出来るんだよ?―、死ぬぜ、マジで!」



「もちろん何も出来ないわっ!でも・・弾よけにはなるかもしれないっー例え10秒でも・・ううん。1秒でもミ・・・英雄様の力になれるなら私は行くっ!」



「く・・・」

 リリフの決意に言葉に詰まる銀ランク。



「リリフ姉様っ!ブルニもお供しますっ!」

「僕も行きます。せめて1回だけでも回復魔法を使えるように頑張ります」

「わたくしも・・・」

「ううん、セリーはここにいて。魔法攻撃ガンガンしちゃお。頼りにしてるよ、セリー」

「わ、わかりましたわ。リリフ、お気を付けてっ」



 リリフ達が手を上げたのを見て、何組か追加で手を上げる。

 リリフ達を含め全部で5名回復士はいるようだった。

 全員悲痛な表情を浮かべている。



「皆さん、勇敢な選択ありがとうございます。固まらないように距離を取って行動してください。魔法攻撃が出来る方はここで魔法攻撃をお願いします。他の方は・・・回復魔法士の方の援護・・・つまり盾として行動してください。ここ東門にも何時あの衝撃波が飛んでくるか分かりません。戦わない方はなるべく離れてください。以上です。ご武運を・・・」



 アーニャは精一杯頭を下げる。冒険者達は唇を噛みしめ、深くうなずく。



 そうして1人の回復士に10名ほど盾役・・・というか身体を盾にして守る役が付いてミールのもとに進み、先程回復魔法が飛んできたって訳であった。



   続く

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