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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑱

 ミールも回復魔法を使えるが、使っている余裕は全くないだろう。

 だからこそ頼んでいるのだ。



 命を下さい・・・と。



⇨聖女巡礼⑱




 全世界を常時モニタリングしている大聖都ハミスの観測所は、警報の音が鳴り響いていた。



「なんだ?!何事だ??」

「ほ、報告っ!ルーン国に巨大な暗黒生命体の反応有りっ!こ、これは・・・高位悪魔クラスですっ!」

「な、なんだとぉ!くっ!早急に波動を解析しろっ!大至急だ!」

「はっ!」




「ほ、ほほほ報告―!!ルーン国魔法省駐在員から伝令!聖都の結界が破壊!繰り返すっ聖都の結界が破壊されましたー!」




「な、なんだとぉ・・・」

 司令官はしばし呆然とするが、直ぐに指示を出す。



「大聖女様に緊急連絡をいれろ!隣国にも直ぐに状況報告!ギルド本部へカントリーチームの派遣要請!虹ランクが所属している各国にも応援要請っ!軍本部にも討伐隊を組織させろ!いいか?!時間との勝負だっ!ルーン国全てが飲まれたら、もう手がつけられんぞっ!今日中に出立させるのだ!」



「はっ!」

 慌ただしく動き出す観測員達。



「ルーン国が・・・滅びるのか・・・」

 司令官は警報が鳴り止まない観測所で、ガクッとうな垂れるのであった・・・






 邪神はゆっくりと起き上がる。

 まるで予想外の強者がいた事に、嬉しさが込み上げてきているかのように。



「お前ハ・・・なんダ?・・・神の使徒カ?・・・」

 邪神は言葉を発する。

 その言葉は地響きのように低くうなり声を上げているかのようだった。



「ただの人間だよ。か弱い人間だ」

「ニンゲン?・・・フフフ・・・そうカ・・・」



 邪神はそう言うと、攻撃に移る。

 右腕を、左腕を、次々と振りかざす。



 ドウウウンン!・・・・ドオオオンンン!・・・



 攻撃を受け止める度に低い衝撃音と風圧が人々に響く。

 その風圧は800メートルほど離れた東門まで届き、その衝撃音は遠くガタリヤの街まで微かに響いていた。



 一撃が重い。



 この一撃だけでデーモン10匹はまとめて葬れそうな威力。

 桁違いの破壊力だ。



 ミールは苦悶の表情を浮かべながら、邪神の攻撃を受け返す。

 それを見て、アーニャは必死に叫ぶ。



「早く離れなさーいっ!東門まで走ってぇー!」



 大きなジェスチャーで身振り手振り、ありったけの大声で叫ぶ。



「アーニャ様っ!お早く!アーニャ様もお逃げ下さいっ!」



 トール隊長も邪神に視線を固定しながらアーニャの前に立ち、必死に後ずさる。



「うわああわわああっ!!」

「に、逃げろぉぉおおぉおぉ!」 



 背後から命を奪う程の攻撃が来るかもしれないという恐怖がある状況で、走って逃げるのはなかなか難しい。



 足はもつれ、手をつき、四つんばいになりながら、転がりながら逃げ出す人々。



 ボオウウウウアアアウウゥゥ!



 邪神が放った衝撃波が大地を削り、何十人という人々が巻き込まれる。



 ドオオオウウウウウウウンンン!



 更に邪神が放った衝撃波を今度はミールが剣で切り裂く。

 真っ二つに割れた衝撃波はそれぞれ大地を削り、兵士や冒険者達を無に還す。



「くそっ!ふざけんなぁ!俺たちを巻き込むんじゃねー!」

「そうだ!俺たちを守れぇ!」



 逃げ惑う冒険者達の中から2名ほど文句を言う者がいる。

 しかしミールは肩で荒く息をして、全く振り向く様子はない。



 ボオウウウボウウウウウウウンンン!



 更に衝撃波。

 ミールはギリギリでなんとか交わす。当然後ろの人々は巻き添えを食う。



「あっちでやれえぇぇ!!」

「こっちで戦うなああぁ!!」



 ドドドオオオオオウウウウンンンン!!



「だからあっちで・・・ぎゃー!!」

「ああああっ!ザッケローニィ!くそおおぉ!お前のせいでザッケローニが死んだじゃないかあぁ!!」



 身勝手に叫ぶ冒険者。



 バチンッ

 そんな冒険者の頬を平手打ちする冷酷美女。



「な、なにするっ・・・」



「今がどういう時だか分からない奴は死ね!勝手に死ねっ!怪我人も運びもせず、身勝手な言い分ばかり並べやがって!お前達はゴブリンにも劣るクズだっ!」


 冷酷美女ミレーユは必死に怪我人を担ぎながら叫ぶ。



「ミレーユ!早くしろ!そんなクズに構うな!早く離れろぉ!」

「はっ!只今っ!」



 ルゾッホ将軍を始め、聖都の精鋭兵も見る影もない。

 必死に怪我人に肩を貸しながら敗走している。

 1000人ほどいた人数も残り50人程度になり、全員ボロボロで怪我をしてない者などほとんどいない。



 各領主の兵達も半分以上を失い散り散りになる。

 そしてかつてない程の恐怖を肌で感じ、兵士達の統制なども全く取れていなかった。



「あっちに行ったらまとめて殺されるだけだっ!俺はこっちに逃げるっ!」

「俺もだっ!」

 ここまでくると東門へ逃げるのを諦め、逆方向へとバラバラに逃げ出す兵も多数いた。



「お前達っ!命令に従え!」

 ミレーユが大声を出すが

「ミレーユ!ほっとけ!行くぞ!」

 ルゾッホ将軍はそんなミレーユを止め、東門に向かう。



 自分の納得する死に場所を選ばせてやろうという、ルゾッホ将軍の親心なのかもしれないが・・・

 しかし冷静に考えると自分だけ助かる為と考えた場合、兵士達の考えは結構良い手かもしれない。



 通常、大きなマトがある場合はそっちに意識が集中しがちだ。

 言い方は悪いが、邪神が聖都の人々を殺している間に、自分達は逆方向に行けば逃げれる可能性は高くなる。

 邪神にとって聖都というご馳走を前に、たかがご飯粒1つこぼれ落ちようが、たいした事ないのである。



 普通だったら・・・だが・・・



 そう、この邪神は違った。



 ボオウウウボウウウウウウウンンンっと衝撃波を放ち、四方八方に散らばって逃げる兵士達を丁寧に始末していく。



「おいおい、随分と神経質だな。俺だったらほっとくけどね」

「フフフ・・・ワレハ完璧主義者なのダヨ・・・全てコロス・・・誰1人ノガサナイ・・・」



「だったら尚更俺を先に倒せば良いじゃないか?どうせ俺を倒せばこの街・・いや、この国は終わりだ。そっからゆっくりと殲滅すれば良いじゃないか」



「クックック。確かニお前ヲ倒セバ後ハ簡単ダナ。コレ程ノ強者ハかつて記憶にナイ。ダカラコソお前ハ格別ニ旨ソウダ。全テヲ殲滅した後ニ食してヤロウ」



 なるほど、俺は食後のデザートってわけか・・・



 ミールと邪神はお互いに身構える。

 そして再び攻撃を開始するのであった。






 一方、東門周辺は更に大混乱だ。

 住民、冒険者、貴族に兵士。入り乱れて、叫び合う。



 ある者は助けを求め兵士にすがりつき

 ある者は人々を殴りながら道を切り開き

 ある者はその場で泣き叫ぶ事しか出来ず

 ある者は息を殺し家の中で身を潜める。



 そんな地獄のような光景の中、アーニャの叫び声が響く。



「急いで西門まで逃げて下さいっ!ここは危険です!逃げて下さい!」

「貴族達は兵を引き連れ各門の警備を!結界が無いのです!他のモンスターが入ってこないように警備を!」

「手の空いてる兵士は人々の誘導を!怪我人に手を貸して!助け合って!」

「冒険者の方々は近づかないで!決して人間が相手に出来る相手ではありません!冒険者達は近づかないで!」



 アーニャは必死に叫ぶが、大混乱の人々にはあまり聞こえていないようだ。



「聖女様が宮殿に向かわれたぞ!」

「緊急結界だ!緊急結界をするつもりだ!」

「こりゃイカン!早くしないと入れなくなるぞ!」

「どけどけどけ!平民はどけえ!貴族が中央に入るのだ!お前達は外で待っておれ!」

「ふざけんなあ!貴族なんて関係ねえ!どきやがれ!!」

「ええい!邪魔だあ!緊急事態だ!道を開けろ!」



 完全にパニック状態。

 かなりの人々が踏み潰され、圧迫され、呼吸困難で命を落とす悲惨な状態だった。

 そんな中、リビの領主ミラージュ達が馬車に乗って東門から出て行く。



「ミラージュ!その馬車はどうしたのだ?!」

 キーン領主ブラトニックが驚きの声を上げる。



「ははははっ、わかりきったことを!奪ったのだ!我らはスーフェリアに亡命する!もうこの国に用は無い!さらばだ、クズども!」



「ははは!あの馬鹿聖女と共に死ね!」

 ペインも勝ち誇った顔で叫ぶ。



「馬鹿な!見たであろう??衝撃波が飛んでくるだけだぞ!?」

「アホが!ドーラメルク産を使うに決まっとるだろ!父上!アホはほっておいて行きましょう!」

「良し!出せ!」


「ま、ままままってくれ!ワシも乗せてくれ!」

「ワシもじゃ!」

「頼む!」



「はーっはっはは!嫌だね!死ねっ!」



 領主達の懇願も虚しく、ミラージュ達は歓喜の声を上げながら馬車を走らせる。直ぐに結界石が発動し、姿が見えなくなった。



 以前少し説明させて頂いたが、通常馬車には地脈の力を利用できる装置が備え付けられている。

 そのため、効果時間が短い事がデメリットなドーラメルク産の結界石だが、移動しながらでも1〜2時間ほどは持つだろう。十分逃げ切れる時間だ。



 姿も、匂いも、音も消せるドーラメルク産の結界石は、こういう逃げる状況ではかなり重宝される。現に貴族連中は常に何個か持っているのが常識だった。



「くそぉ~・・・」

 領主達は羨ましそうな、悔しそうな声を上げ、ミラージュが移動していると思われる場所を見つめている。



「おいっ!ワシらも馬車を用意しろ!このままでは危ないかもしれん!」

「で、ですが・・・ブラトニック様。緊急結界の中の方が安全ではないでしょうか??」



「緊急結界の中でどれだけ過ごすんじゃ?1ヶ月か?2ヶ月か?食料はどうする?そもそも待っておれば助けが来るのか?あんなバケモノを倒せるのか?緊急結界まで破壊されたらどうするんじゃ?あの聖女では不安じゃ」

「た、確かに・・・」



 ブラトニックが側近と話をしていると

「おいっ!あれを見ろ!」

 誰かの叫び声がする。



 振り向くと邪神が空中にジャンプしていた。




 ドオオオウウウウウウウンンン!




 着地した邪神は何かを手で掴む。

 そして自分の顔まで持っていき、握っている力を強めていく。



 ピシピシッと閃光はほとばしり、ぼんやりと中身が透けて見える。

 握っているのはミラージュの馬車だというのがわかった。



 段々と結界が弱まり・・・そして砕け散る。



 手のひらを上にして、そこに馬車を乗せる邪神。馬車からミラージュとペインの姿が確認出来た。



 そんな馬車をユラユラと手の上で転がす邪神。まるで楽しんでいるようだ。



 邪神はそのまま大きな口を開け、馬車を飲み込んだ。

 遠くからガッハッハッハと不気味な笑い声が聞こえてくる。




「!!!」

「馬鹿な!ドーラメルク産でもダメなのか!」

「そもそも存在がバレバレではないか?!」

「ダメだあああ!誰も逃げれん!殺されるぅぅ!」



 人々の絶望感が更に増す。



「くそっ!さっきまで戦っていた人間はどうした??やられたのかっ!?」

「分かりませんっ!」



      フワッ



 唐突に人々の視界に光の柱が見えた。

 それはまるで光り輝く大きな花のように、四方に光の膜を放っている。



 そして邪神の頭の上に飛んでいき、一気に光が収束、一段と大きな光を纏ったミールの剣に形を変える。






 ズゴゴゴゴゴゴゴガゴガガガゴゴゴォォォォォォオォンン!!






 凄まじい爆風と耳を塞がないと耐えられない爆音が東門まで届いてくる。



「おおおっ!!」

「やったかっ?!」

「凄いっ!」



 とても人の力では到達出来ないと思われる攻撃を放ったミール。

 正に渾身の一撃というやつだ。



 しかし邪神は膝をついてはいるが、滅んではいなかった。

 直ぐにミールに対して反撃の衝撃波を放っている。



「くそっ!ダメだぁ!」

「あんな攻撃も耐えるなんてぇ!?」

「一体どーすれば良いんだっ??」



 人々は再び逃走を始める。

 それは領主達も同じだった。



「駄目じゃ!勝てる気がせん!とりあえず中央に向かうぞ!その後西に向かうかもしれん!急げ!邪魔する奴らは殺して構わん!」

「ははっ!」

 そうして領主達は強引に人垣を突破し、中央を目指すのであった。


 




 ミールの顔は焦りの色が増してきた。

 ここ最近、相手にした高位悪魔の中で、ダントツに強い。

 正直いって勝てる気がしない。

 それほどの相手だった。



 パアアアァァ



 ルチアーニの回復が飛んでくる。



 以前説明したが、賢者であるルチアーニは高度な回復魔法を使えない。回復するのは疲労と痛みの軽減くらいだ。



 それでも十分有り難いのだが、あまり猶予はないようだった。



 何故なら、回復魔法を連続で受け続けると精神の疲労が溜まり、ミール自身が正気を保てなくなるというのが1つ。



 もう1つは、そろそろルチアーニの魔力が尽きてしまう可能性が高いからだった。



 この魔力というのは体力だとか疲労とかとは違い、精神力に近い。

 故に魔法やアイテムで回復する事は出来ず、時間経過、もしくは睡眠をとる事で回復するモノなのだ。



 なのでこの状況ではルチアーニの精神力次第。

 そしてルチアーニ自身も回復魔法を連打するのは相当キツい。



 決定打が見つからないまま、ドンドンと打つ手がなくなっていくのを感じる。



 そうしてミール達は追い込まれ、逆に邪神は活力を増していく・・・



 そう。何故なら、この周辺は負の感情に溢れているからだ。



 通常であれば結界があるので外にはエネルギーは漏れず、デーモン達の餌になることもない。

 しかし、今は剥き出しの状態。そして聖都の人口は約200万。

 そのほとんどが恐怖にかられ絶望している。



 正に最高のご馳走だ。



 このままだと差は開くばかり。

 なるべくなら差が開く前に決着をつけたい。

 しかし短期決戦に持ち込む事も難しい。

 なのでミールは焦っていたのだった。




 余談だが、通常の近接戦闘をする前衛職は、多種多様なスキルを様々に組み合わせて使っている。



 例えばリリフの切り上げや縮地。



 ポイントで使うと能力が上がるスキルを効果的に使って火力を底上げし、瞬間的にダメージを2倍にも、3倍にもしているのだ。



 しかし、ミールはそういったスキルを持っていない。



 使役士という適性だからという事もあるが、近接戦の鍛錬をしてもミールは獲得出来た事が無いので、何かしらの制限がかかっているのかもしれない。

 その代わり、オリジナルスキル『強敵覚醒』や回復魔法を反発無く使えたりとメリットも大きいのだが・・・



 話が横道に逸れてしまったが、つまりミールは瞬間的に火力を上げるスキル、イメージ的には『必殺技』のようなスキルを所持していない為、短期に決着をつけれないもどかしさがあったのだ。



 唯一、使えそうなスキルはある。



 それは『属性ブースト』

 溜めれば溜めるほど属性の威力が上がるスキルだ。



 但し、これはミール個人のスキルではない。

 ミールが所持している透明なガラスのような剣。この武器自体に付与されている効果だった。

 正に無尽蔵に属性効果を溜める事が可能な、この特別な剣あってこそのオリジナルスキルなのだ。



 しかし致命的に溜めるのに時間がかかるのと、溜める際は全神経を集中して溜める必要がある。つまり無防備状態になるということ。



 おそらくこの邪神を倒せるくらい溜めるとなると3分近くかかるだろう。

 ちょっとでも気を抜くと一撃で粉砕される攻撃が、頻繁に飛んでくる今の状況では使える気がしない。



 なんとか、スキがあれば・・・



 そんな考えをしていたミールに千載一遇のチャンスが訪れたのが、先程のミラージュ達を殺しに行った場面だったのだ。



 ミールは邪神がミラージュ達へ向かったのを見て、最後のチャンスとばかりに属性ブーストを使う。



 さっきまでは時間があっという間に過ぎていたのに、今は1秒経つのが遅い、遅すぎる。



 まだだ・・・



 もっと溜めないと・・・



 まだ邪神は気づいていない。



 焦るな!我慢しろミール!



 ミールの瞳にはミラージュ達の馬車が飲み込まれるのが映る。



 くそっもう待てない。

 直ぐに衝撃波が飛んでくる。



 ミールは力を解放し、邪神に向かう。



 しかし・・・予想を反して邪神は高笑いをしている。



 くそっ!!

 まだ溜めれた!

 焦りすぎたっ!!



 だがミールにはもう力いっぱい叩き込む事しかできない。



 頼む、せめて致命傷であってくれ・・・



 しかしミールの願いも虚しく、邪神は膝をついてはいるが致命傷には至らなかったようだ。直ぐに反撃の衝撃波を放つ。  



 ミールは苦悩に満ちた表情でそれを避けるのであった・・・







 大聖都ハミスの観測所では、全力でモニタリングと情報収集が行われていた。



「現在5000レロム前後の力が連続して放たれています!」



「くっ・・・非情な・・・5000レロムなど一撃で村1つ無くなるではないか・・・それを何発も打つなど・・・聖都を完全に破壊しているという事か・・・」



「ん??い、いえっ!待ってくださいっ!こ、これは・・・これは波長の違うエネルギーを観測!1つは高位悪魔と思われますが・・・もう1つ、もう1つあるかもしれませんっ!」



「なんだとっ!どういう事だっ!?」


「ぶ、ぶつかりあってます!2つの巨大な力が衝突していると思われますっ!」

「ば、バカなっ!高位悪魔と戦っている者がいると言うのか??」



ビーッビーッビーッ

 観測所に又、別の警報が鳴り響く。



「ルーン国に巨大エネルギーを確認っ!エネルギー値・・・に、2万レロム!2万レロムです!」

「に、2万だと・・・そんなバカな・・・」



 ザワザワする観測所。



「これは・・・どっちなのだ?・・・高位悪魔が放ったのか・・・それとも・・・」



「ししししっ司令官っ!波動解析完了しましたっ!こ、高位悪魔は96%で邪神と判明っ!高位悪魔は邪神です!」



「邪神だと?!大厄災ではないか?!正に人類滅亡の危機・・・それを・・」



「司令官っ!駐在員から連絡っ!現在悪魔種と戦っている者を確認したとの事ですっ!え?・・ひ、ひとり?・・司令官!現在ひ、1人の正体不明の冒険者が戦っているとの事ですっ!」



「なんだと・・・邪神だぞ?大厄災だぞ?そ、それを1人で食い止めているだとぉ??バカなっ!虹ランクの冒険者がいるのか?!」



「い、いえっルーン国の虹ランク冒険者は別の場所にいることが確認出来ております!完全に正体不明です!」



「むむむ・・・報告があったと言うことは・・・聖都はまだ滅びておらん。つまり・・・先程の2万レロムの攻撃は・・・正体不明の者から放たれたということか・・・ふ、ふはははっ」



「し、司令官??・・・」



「古文書には3000年前も、1500年前も、邪神を討伐に大きく貢献したのは、1人の男だったと書かれている。つまり・・・我々は歴史の偉人『救世主様』の姿を確認しているのかもしれんっ!引き続き観測を続けよ!」


「はっ!」


 司令官は説明できない存在を確認し、身震いしながらも笑うのであった。







 東門はだいぶ落ち着きを取り戻した。正確には、ほとんどの人達が逃げ出したからだが・・・



 残っているのはルゾッホ将軍率いる少数の精鋭兵。

 アーニャ達ガタリヤ、クリルプリス隊。

 そして騒ぎを聞きつけ駆けつけた冒険者達だった。



 この冒険者達は、そもそも巡礼に興味が無かった連中、今日はクエストに出る予定では無かった連中が、あまりの騒ぎにギルドに寄ってみたら緊急クエストが発生していたので『よし、いっちょやったるかっ』てな具合で駆けつけた者達だと予想できる。



 流石に金ランクの冒険者はいないようだが、数人銀ランクが確認できるほど上位ランクの冒険者達だった。どれだけ層が厚いのだろう。



「なんだあれっ?超デカいぞ!!」

「マジだ!キングデーモンってやつか?!」

「わっかんねぇ・・・野良しか見た事ねーもん」

「とりあえず戦えてるっぽいから、早く助太刀してやろーぜ!1人しかいねーじゃん?!他の連中は何してんだか・・・」



「い、いけませんっ!近寄っては!殺されますよっ!」

 慌ててアーニャが冒険者達を止める。



「はぁ??このおばさん何言ってんのぉ??」

「おばっ!・・・」



 普段のアーニャなら、自らが発光しているのではないかと思う程、透明感があり気品が漂っているのだが、今は顔も服も泥だらけで髪もぐしゃぐしゃだ。

 間違われても仕方がない・・・ハズである。



「悪いけど、うちら銀ランクなんすよ。そこら辺の雑魚冒険者と一緒にされても困るってゆーか」

「まあ、素人は下がってなさいって。おい、いこーぜっ!」



 どちらかというとチャラい系の風貌をしている冒険者は、髪を掻き上げながら歩みを進める。確かにステータスは銀ランクだった。



「ええい!駄目だ駄目だ!邪魔だ!冒険者!あっち行ってろ!」

 ルゾッホ将軍が堪らず割って入ってくる。



「ああっ??なんだっこのヒゲのおっさん!」

「黙ってろ!ヒゲジジイ!」



「貴様らっ!将軍になんて口を!死にたいのか!?」

 冷酷美女ミレーユが怒り狂う。



「うっひょ~!超美人じゃん!タイプだわぁ!」

 ミレーユの怒りの炎に油を注ぐチャラい系の銀ランク冒険者。



「死ねっ!」

 ビュンっと剣を抜くミレーユ。しかし、アッサリと交わす冒険者。



「ひゅ~。結構強いじゃん?ベットで屈服させてぇ」

「あはははっ!この女、絶対に処女だよっ!私は剣に生きる!みたいなっ!」

「ちぇっ。あと30年歳とってたらなぁ」

「あははっ。オバちゃん食い乙!」

「くっ!」



 ミレーユは次々と剣を繰り出すが全く当たる気がしない。

 性格はどうあれ正真正銘、銀ランクのようだ。



「ミレーユ、よせ」

「はっ・・・」

 ミレーユは剣を納める。



「冒険者よ、行くなら勝手に行くが良い。ワシは知らん」

「ルゾッホ将軍っ!」



「アーニャよ、いくら言っても聞かん連中を止めても無駄なだけだ。自ら経験するしか分かる術はない。ワシですら・・・未だにあの小僧だけが唯一戦えてる事実を受け止めるので精一杯じゃ」



「はいはーい。よく分からんけど行ってきまーす」

「お土産期待しててねーっ」

「ギャハハっ!」

「おっしゃっ!いくぜぇいっ!」



 そうして意気揚々と邪神に向かって走りだした冒険者達。

 チャラい系銀ランク冒険者を筆頭に、黒や紫ランクの冒険者30人程が向かっていった。




 しかし、衝撃波を喰らい先頭の数人が消滅、文字通りあっという間に東門へ逃げ帰ってきた。




 直ぐに逃げを選択出来たのは流石銀ランクといったところか・・・

 大抵の場合、現実を受け止めきれず、ボーとしてる間に全滅だ。



「ま、マジやべぇ!マジやべえって!」

「とんでもねぇ!とんでもねえ強さだっ!」

「あんなの人間にはムリだろ??」

「なんでアイツは戦えてるんだ・・・」



 未だ衝撃音が響き、風圧が東門まで届いてくる戦闘を見ながら、冒険者達は立ち尽くしている。



「お分かりになりましたか?現状、あの邪神と戦えるのはあの方のみ。私達はあの英雄様の手助けを少しでもするべきなのです」


「いやいやいやっ!ムリだって!近くに行くことさえ難しいって!」


「冒険者どもなどいらんわっ!我が聖都に残っている精鋭兵2000人が直に駆け付けるっ!それまで待っておれっ!」


「しかし・・・」



 アーニャとルゾッホ将軍、チャラい系冒険者が押し問答を繰り返していると、報告班と思われる兵士が息を切らしながら走ってきた。




「ルゾッホ将軍っ!ご報告っ!・・・げほっげほっ・・・げ、現在・・・西門から南門、そしてこの東門まで、多数の突起物を確認っ!脱出できませんっ!」



 更に別の兵士が反対側から走ってくる。



「ルゾッホ将軍―っ!西から北、東門まで囲まれてますっ!塔のような突起物が出現しておりますっ!」



 どうやら城壁の上を移動してきたようだ。

 だから人々の密集の影響を受けずに、この短時間で西門からここまで来れたと言うことか。




「ええいっ!落ち着け!なにがなにやら分からんっ!突起物とはなんだ?!」




「はっ!突起物とは、正体不明の全長10メートルほどの塔のような物体であります!」

「それがあのバケモノが現れたとほぼ同じ時期に出現してきましたっ!」



「その塔からは暗黒の矢のようなモノが放たれ、周辺の生き物全てを一撃で消滅させております!」



「他の街に逃げだそうとした人々を次々と消滅させていきました!ドーラメルク産で姿を消しても無駄ですっ。結界ごと貫かれてしまいますっ!」



「高ランクの冒険者や我が兵が破壊しに向かいましたが、何も出来ずに全滅致しましたっ!」



「なんという・・・え、遠距離から攻撃したらどうだ??」 



「は、それも試しましたが、魔法や弓矢ごと暗黒の矢で撃ち落とされてしまいますっ!しかも段々と射程が長くなっている模様。今は下手に手を出すのは危険だと、なにも出来ずにいる状態であります!」



「外に脱出する事が出来ない者達が門の周辺で立ち往生しておりますが、塔の存在を知らない者達がドンドンと押し寄せ、西門、北門、南門は大混乱中であります!」



「ぬうぅぅ・・・」

 額に汗を浮かべながら、考え込むルゾッホ将軍。



「ルゾッホ将軍」

 そこに話しかける兵士がいた。




「おおおっ!ルサンマド!待っておったぞ!よしっ!早速精鋭兵を引き連れて・・・」




 恐らくルゾッホ将軍が待っていた聖都に残っていた精鋭兵達なのであろう。

 しかし、ルサンマドと呼ばれた隊長と思わしき人物が連れてきている兵は3人だけだった。



「る、ルサンマド・・・他の兵はどうした??何故これしかおらん?・・・」



「ルゾッホ将軍・・・申し訳ございません。兵は・・・貴族連中に中央の宮殿の警備に使われてしまいました・・・押し寄せてくる住民を防がねばならないと」


「何だと?!貴族どもの命令に従ったのか?!我が誇り高き精鋭兵が?!」



「将軍・・・正直に言います。兵士達は宮殿から出るのを拒否しました。緊急結界が発動すれば宮殿が1番安全な場所になります。そこから離れたくないと・・・」



「ぐぬぬぬぬぅぅ・・・」



「将軍。将軍も・・・宮殿にお戻りください。緊急結界発動後に治安を守る必要がございます。今、急いで備蓄しておりますが、とても全員分を賄える程の食料は用意出来ないでしょう。階級が低い者達は切り捨てる必要がございます。今貴族連中が分別しておりますが、かなり自分勝手な判断を優先しており、秩序が乱れております。将軍が直接お越しにならないと・・・将軍ですら入れなくなる可能性すらございます。何卒・・・お早めに宮殿に・・・」



 ルサンマドと呼ばれた隊長は、悲痛な表情を見せながら立ち去っていく。

 あとには呆然としたルゾッホ将軍が残された。



「ルゾッホ将軍・・・」

 冷酷美女ミレーユが心配そうに声をかける。



「くははは・・・はは・・・金ランクの冒険者達にも負けない最強の兵士集団を作り上げると意気込んで訓練した結果がこれか・・・今はどうだ?残っているのはたった10人ほどではないか?・・・くははは・・・」



 ルゾッホ将軍は自暴自棄に笑う。

 そんなルゾッホにかける言葉がなく、ただうな垂れるミレーユであった・・・



    続く

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