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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑰

「も、もちろんですとも!」

「ワ、ワシらは決して裏切りませんぞ!」

「え、ええ!そうですとも!聖女様!信じてくださいまし!」

「ささ、聖女様!宮殿に向かいましょうぞ!」


 引きつった笑顔を浮かべながら、一生懸命聖女をおもてなしする領主達。



 しかし、聖女の結界魔力が炸裂。



 アーニャとクラリネットを除く、全ての領主が一斉に尻餅をついたのは言うまでもない。



⇨聖女巡礼⑰




「全く・・・貴方達は・・・」

 聖女は半場呆れたような表情でため息をつく。



「あははは・・・」



 領主達はただ愛想笑いをするしかない。

 そこにピッケンバーグが馬に乗って駆け寄ってくる。



「聖女様。ここは危のうございます。ひとまず宮殿にお戻りください」

「え?もう撤退していったじゃない?また襲ってくると言うの??」



「いえ、聖女様。ここはもうしばらくしたら悪魔種が現出するかと思います。これだけの死体があるのです。かなりの数のデーモンが出てくるでしょう。結界があればデーモンは入って来れませんが、放置する訳にも参りません。兵士達はその対応をするので聖女様への護衛が少ない状態になってしまいます。ここでは万全な警備をすることが、ままならないので先ずは宮殿に」



「そうなのね。分かったわ。貴方に従います・・・ピッケンは・・・一緒に来てくれるのよね?・・・」

 聖女は不安げな表情で遠慮気味に尋ねる。また襲われた事のショックが再燃してきたようだ。



「ええ、もちろんでございます。このピッケンバーグ、片時も聖女様のお側を離れません」

 聖女はホッと安心した表情を浮かべうなずく。



 だいぶ兵の再編も進み、デーモンの討伐班、救護班、運搬班、連絡班などなど。役割も決まり慌ただしく動く兵達。



 東門付近も、住民達の野次馬や冒険者達が顔を出し始めた。

 特にここ聖都は登録されている冒険者の数も多い。恐らくデーモン討伐に参加するつもりなのだろう。



 聖女護衛の精鋭兵も各自馬に乗り、ピッケンバーグも聖女を後ろに乗せ準備万端。

 ピッケンバーグが馬を走らせようとした正にその瞬間、馬が急に落ち着かない様子で騒ぎ出す。



「どうどうどう、よしよし、落ち着け。どうしたのだ?」



 ピッケンバーグはまるで子供を相手にしているように馬に優しく語りかける。

 しかし、その返答は馬からではなく、周りの兵からだった。



「おい!あれ!」

「黒い水たまり発見ー!」

「出たぞぉー!各自、結界内に急げー!」

「討伐兵は隊列を組めぇ!現出したと同時に一気に半数は減らすぞぉ!」

「討伐隊以外は下がれぇ!結界内から決して出るなぁ!」



 兵士達の大声が至る所で上がる。



「リリフちゃんはデーモンは見たことあるのかい?」

「いえっ!初めてですっ!」

「ブルニも見たことないですぅ!」


「リリフ、わたくし達は1度あるではありませんか。ほら、ミール様と初めてお会いした洞窟から出てきた得体の知れない者がいたでしょう?」



「ええ?!あれがデーモンだったの?!ミールが一撃で倒した奴だよね?!なんだぁ、そんなに強くないんだ??」



「デーモンを一撃ぃ??相変わらずデタラメな強さじゃな・・・」


「リリフちゃんや、デーモンを甘くみちゃいけないよ。多分ここにいるほとんどの人はデーモンにかすり傷さえつけれない。それ程の強さなの」


「げ・・・そうだったんだ・・・あっぶなーい。勘違いする所だったわ」


「ふぉっふぉっふぉ。冒険者達の鉄の掟。『デーモンを見たら直ぐ逃げろ』じゃ。それほど格が違うんじゃよ」



「通常出てくるのは野良デーモンと聞きました。悪魔種の中では1番下っ端だそうで・・・それでもやはりミール様が仰った通り全く相手にならないのでしょうか?」



「うむ。リューイのように思う冒険者は多いんじゃ。そしてその考えをしたPTのほとんどが全滅しておる。それほどに悪魔種と人間とでは圧倒的な力の差があるんじゃて」


「ふぇぇ・・・」


「やっぱり前にミールが言ってたように、絶対に手を出しちゃいけないんだねっ」

「ですわね。今後も気をつけると致しましょう」



「でも良い機会だから、1度くらいじっくりと姿を拝んでおこうかね?結界があれば安全だしねぇ」



「うんうんっ見たい見たい!あっ、なんか黒い水たまりみたいなのがいっぱいあるっ!」


「そうそう、そこから出てくるのよ。今回は沢山の生け贄があるからねぇ。沢山出てきちゃいそうで厄介よねぇ」



 ルチアーニの予想通り、水たまりは20個近くあるようだ。

 ブクブクと気泡が出ている。



「ひええ・・こりゃ多いぞ。大丈夫かね?」

「うーん。どうだろうねぇ。一応精鋭兵も多いし、結界もあるし、無理しなければ大丈夫だと思うけど・・・」



「デーモンと戦えるくらい強いんだ?精鋭の兵士さんって!凄いなぁ」



「いやいや、リリフちゃん。多分、あの中で実際に戦うのは、10人ちょっとだと思うわ」

「え?!そうなんですか??」



「おばちゃんの勘だけどね。ほら、結界付近で身構えてるのは10人くらいでしょ?あとは皆んな後ろにいるだわさ。あの前衛以外は戦わないんじゃないかしら」



「そーなんですかっ!結構強そーなのになぁ。兵士の皆さん」



「確かにリリフちゃんの言う通り、冒険者でいうところの黒ランククラスの兵士は多いみたいね。だけど、それじゃあデーモンに傷1つ付けれないのよ」


「ひええぇ」


「そういえば前に仰ってましたものね。紫から黒。黒から銀ランクには大きな大きな実力差があると。やはり銀ランクというのは凄いのですわねぇ」



 ルゾッホは内心焦っていた。

 実はルチアーニの読み通り、聖都精鋭兵と呼ばれてはいるが、デーモンの対応が出来る者は5名ほど。各街の兵士を含めても全部で10名ほどなのだ。



『そもそも冒険者が汚れた存在な訳がありません。むしろ兵士よりも実力が上な者達が大勢います。モンスター討伐も冒険者の方がずっと多いでしょう。この世界は冒険者達によって支えられているといっても過言ではありません。なのに何故汚れた存在などと言えるのでしょうか?それは自分達は特別だと示したい一部の権力者が作り上げた妄想に過ぎません』



 アーニャの言葉が脳裏に浮かぶ。

 確かに認めたくはないが、冒険者達の方が腕が立つ者が遥かに多い。



『金ランクに負けない部隊を作る』と3年前に意気込んで発足した聖都精鋭兵部隊。

 各街から有能な若者を引き抜いたが、結局モノになったのは3000人の中で5名だ。

 一般的な若者からではない。有能な若者のみを集めたにも関わらず5名だ。



 やはり、兵士という立場では限界があるのか・・・.



 ここで下手に手を出して、死者を増やすわけにはいかん。

 もし、ハイデーモンに昇格でもされた日には虹ランクしか対応できなくなる。

 このまま結界内で籠城ろうじょうしたほうが良いのではないだろうか?



 しかし、そうすれば西側にある難民キャンプの亜人種どもが餌食になる。

 いや、奴ら亜人種どもは、人間よりも嗅覚や俊敏性に優れている者が多い。

 手さえ出さなければ、デーモンに捕まる心配は少ないだろう。



 いやいや、しかし今回は数多くのデーモンが出てきそうだ。

 1体だけならまだしも、複数のデーモン相手に逃げ切れるのか?



 やはり、ここで少しでも数を減らしておきたい・・・



 だが討伐兵10人程度では、逆に返り討ちにならないか?



 やはり、籠城して・・・



 グルグルと、こんな迷いに支配されていたルゾッホ将軍に、頼もしい援軍が駆けつけた。



「おっしゃぁ!俺たちの出番だぜっ!」

「兵士さーん。俺たちも頑張りますぜぇ?」

 冒険者達が意気揚々と駆けつけたのだ。



「んん?おお、すまぬ。助かるぞ、冒険者。よしっ!各個撃破だ、頼むぞ!」

「あいあいさー!」

「腕がなるぜー!」



 ルゾッホ将軍は間違っても『聖なる巡礼を汚すつもりかっ??』などとは言わない。

 今は冒険者達の力が何よりも必要だ。素直に冒険者達の助力に感謝の言葉をかける。

 駆けつけた冒険者達は50名ほど。

 ほとんどが銀ランク、ちらほらと金ランクの冒険者もいるようだ。



 先日の巨大食中プラントの件で、多くの有数な冒険者達が犠牲になったと聞いていたが、それでもこれだけの高ランク冒険者がいるとは・・・



 流石はありとあらゆる面で優遇されている聖都所属といったところであろう。



 当然だが、銀ランク冒険者はデーモンを討伐したことがある経験者。

 これはデカい。



「かなり多いぞ!一斉にかかってからは直ぐに結界内に待避!その後は各個撃破だ!慌てるな!」

 ルゾッホ将軍の激が飛ぶ。



 冒険者達の加勢で、当初の予定通り、討伐の方針に考えを固めたようだ。



 結界内で緊張の表情を見せ待機していた兵士達も、数多くの強力な援軍にホッとした表情を見せる。



 現出したばかりのデーモンは、ご存知の通りあまり動かないので、これだけの火力が揃ったら、最初の段階でかなりの数を減らせるだろう。



 その後は、結界を上手く活用して、徐々に数を減らしていけばよい。

 兵士達も少しだけ、安堵の表情を浮かべる。



 しかし・・・



「お、おい・・・ふ、増えてないか??」

「というか・・・1つにまとまってきてないか??」



 様子がおかしい。

 いつもならとっくに出てきているデーモンが現出しない。

 かわりに黒い水たまりが1箇所に集まり、沸騰しているようにボコボコしている。

 段々とボコボコは激しくなり・・・



 そして・・・




 人々は巨大な悪魔が現出するのを目撃したのであった。







 それはゆっくりと地上から生えてきた。



 大きな、大きな身体。



 悪魔の大きさを例えるのに使ってしまうのは失礼かと思うが、イメージ的には東京湾観音様と同じくらいなので、よく分らない方はAIに聞いてみてください☆



 顔はカマキリのような形をしている。



 身体は人間と同じで、手が2本、足が2本だ。

 しかし、人間と大きく違うのは筋肉の繊維などが見えるほど、剥き出しの状態。

 例えるなら、学校の理科室などに置いてある人間の標本の模型だろうか。



 そして肘や手首、膝や踵、胸やお尻などに甲冑のような装甲があり、一見すると部分鎧みたいな感じがする。



 お尻からは大きな尻尾が生えており、大きな身体を両足と尻尾の3点で支えているようだった。



 目は閉じられており、口からプシューっと白い蒸気を吐き出している。




「うわああああああぁああああああぁぁああああ!!」

「きゃあああぁあああぁぁぁああああっぁぁぁ!」

「助けてえええええええぇぇ!」




 あっという間に平原は人々の叫び声で包まれた。

 東門付近の野次馬は悲鳴を上げて逃げだす。

 結界内にいた数多くの兵達も同じだ。



「なんだっ!?なんだこいつはっ?!」

「ハイデーモンか?!」

「バカ言えっ!キングデーモンだっ!」

「違うだろ?!サタンだっ!サタン!」

「サタン?!嘘だろっ!」

「おっしゃぁ!金ランクの俺たちにとっては好都合だっ!一気に片を付けて虹ランクに上がってやるぜ!」



 それぞれが思い思いの言葉を口にする冒険者達。

 彼らが情報を確定出来ないのは訳があった。

 実は、ここにいるほとんどの冒険者が、野良デーモン以外の悪魔種を見たことが無いからなのである。



 ちなみに・・・



 銀ランクの昇格条件→デーモンの討伐。

 金ランクの昇格条件→デーモンの討伐を3年続ける。

 虹ランクの昇格条件→上位悪魔の討伐。

 である。



【悪魔種の序列】



 野良デーモン=レッサーデーモン

 ↓

 ハイデーモン

 ↓

 キングデーモン

 ↓

 サタン

 ↓

 サタンジェネラル

 ↓

 ↓→→→邪神

 ↓

 ロード・オブ・サタン(魔王)



 こんな感じとなる。


 『上位悪魔』とは、ハイデーモン以上の個体を示し、更にサタンジェネラル以上の個体は『高位悪魔』と呼ばれ、存在するだけで世界に混乱をもたらすと言われるくらい圧倒的な力を保持している。



 サタンジェネラルから何故二股に分かれているかと言うと、通常は野良デーモンから魔王ルートが正統な序列だ。



 しかし、悪魔種として序列が上がるにつれて負の感情に犯され、世界そのものを破壊しようと滅びの道を進んでしまう個体が中にはいる。

 その例が邪神となった悪魔種なのだ。



 え?悪魔種はそもそも滅びを望む者でしょ?ですって?



 そこは大きな勘違いだ。

 悪魔種の望みは現世、つまりこの世界に留まる事。この世界で繁栄すること。栄華を誇る事。

 人間とたいして変わらんということだ。



 悪魔種の栄養、エネルギーは生き物の負の感情。

 滅ぼしてしまっては意味が無いのである。



 では何故、滅ぼそうと思う個体が出てくるのか?


 

 以前、リリフ達に冒険者の心構えを説明したのを覚えているだろうか?



 最初は街の為に戦っていても、力に魅了されすぎると、殺すことが目的に変わってしまう。殺すことに快感を感じてしまう。力で他者を蹂躙するのが楽しくなる。

 そうなった者は相手が人間だろうがモンスターだろうが関係なくなり、自分の快楽の為に殺すようになると。



 悪魔種も同じ。


 現世と繋がりを強化するには多数の断末魔が必要。それも感情豊かな者ほど良い。

 故に人間を沢山、沢山殺す必要がある。



 殺して殺して殺して。



 殺せば殺すほど、昇格して現世に永く留まれる。

 サタンまで昇格すれば、よほどの事がない限り精神世界に戻ることもない。



 殺して殺して殺して殺して。



 ようやくサタンになったぞ。

 窮屈な精神世界ともおさらばだ。

 これで安心して現世で栄華を誇れるぞ。

 まずは俺の力を周囲に見せつけてやる。



 殺して殺して殺して殺して殺して。



 ぐへへへ。

 だれも俺様には敵わない。

 よし、どうせなら魔王まで昇格してやろう。



 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。殺すの楽しい。



 何?殺しすぎだと?

 人間の数が減ったらエネルギー自体が減る。そうなったら我々も現世に留まることが出来なくなるだと?


 そんな事知るかぁー!

 先のことなどどーでもいいっ!

 全て殺す!全て滅ぼす!

 俺様の楽しみを邪魔するなぁあぁ!!



 悪魔種のご飯は負の感情。

 その負の感情を吸収してエネルギーを得ている。



 だが、どんな食べ物でも食べ過ぎは良くない。



 ましてやそれが昇格に必要になるほどの純度の高い断末魔。

 正にエナジードリンクのような高エネルギー。

 いや、麻薬といった方がいいかもしれない。

 高覚醒、高興奮、高依存。



 悪魔種とて、このような高純度の負のエネルギーを吸収し続けると精神が崩壊する。



 そして世界なんてどーでもいい。もう滅ぼしちゃえって感情になってしまったのが邪神なのだ。



 ここまで説明すると、大体お分かりになったかも知れませんね。

 そう、目の前に現れたのは邪神だったのだ。





「邪神だ・・・」

 ミールがポツリと言う。



「え??ジャシン?ミール、ジャシンってなに?」



 ミールはその問いには答えず、ずっと邪神の胸辺りを凝視している。



 ミールの瞳に映っているのは大きな目だった。



 そう、あの変異種のドラゴン、そして巨大食中プラント。




 そいつらに付いていた、あの『脈打つ瞳』だったのだ。




 ちょうどみぞおち辺り。

 ドクンドクンと脈打ちながら、辺りをキョロキョロしている。



「なんじゃとっ?!邪神なのかっ、あれは?!」

「なんてこったいっ!」

「やばいねっ、これは!」



「ルチアーニさんっ、邪神ってなんなの??」



「リリフちゃん、以前話したよね。3000年前、人類を滅亡寸前まで追い込んだ悪魔種。それが邪神よっ!」



「えええええええぇぇ!?」



「ちなみに1500年前も邪神じゃったそうじゃ」

「それはヤバいですわねっ!ヤバいですわねっ!」

「ブルニ怖いですぅ!」

「兄ちゃんから離れるなよっ、ブルニ」

「うんっ、お兄ちゃんっ」



 邪神は未だ目をつぶったまま動かない。プシュー、プシューっと荒い呼吸をしている。




「全体ぃ!一旦距離を取れぇ!結界内に待避ぃっ!」




 ルゾッホ将軍が大声で叫ぶが

「何言ってんだっ?!今がチャンスだろうがっ!俺は行くぜっ!」

「そうだそうだっ!こんなチャンス逃せるかってんだ!」

「とりあえず上位悪魔なんだろっ?!よっしゃぁー!気合い入ってきたぁ!」



 金、銀ランクの冒険者達は、逆にやる気満々だ。

 なまじ野良デーモンを倒せたという事実が拍車をかける。



 目の前の悪魔が邪神とは知らずに、人類をかつて、滅亡寸前にまで追いやったレベルの悪魔だとは知らずに、挑もうとしている。



「ま、待てっ!まずは遠距離攻撃からだ!焦るなっ!」

「そんなチマチマしてられっかってんだ!行くぜっ!」

「おうっ!」



 金ランクの、恐らくここら辺では名の知れた冒険者であろう者達は、一斉に邪神に向かって斬りかかる。




       カッ!!




 唐突に目を開いた邪神は、一気に右腕を横に振り払った。




「うぎゃぁーーーーぁーー!」




 なんとそれだけで金、銀ランクの冒険者達が、数多くバラバラに飛び散る。



 もう一度言おう。



 バラバラに飛び散る・・・だ。



 頭も、身体も、腕も、足も・・・

 一瞬で多数の冒険者達がバラバラに、内臓なども含めて飛び散ったのだ。



 以前、少しお話したと思うが、人間の身体は筋肉の繊維が絡み合い、簡単には切断できない。

 その身体を一瞬でバラバラにしたのだ。

 どれ程の高火力、高出力で吹き飛ばされたのかお分かりだろう。



 更に邪神は左腕を振りかざし、無造作に叩きつける。悲鳴を上げる事も出来ずに押しつぶされる冒険者達。



「な、なななななんだよっこれ!なんだよこれえぇ!!」

「ひいいぃぃ!」



 ようやく自分達が挑もうとしていたモノが、桁違いの悪魔種だと気付いた金、銀ランクの冒険者達。



 しかし既に遅い。

 正面から突き進んでいた金、銀ランク冒険者達は逃げようと地面を蹴るが





「ギャオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウウ!!!」





 この世の者とは思えない程の雄叫びを食らい、砕け散った。



「そ、そんな・・・声だけで・・・人間の身体を粉々にするなんて・・・」

「嘘だろぉ・・金ランクだぞ・・銀ランクだぞぉ?・・・」



 金ランク銀ランクは、いわば世界の希望。

 圧倒的な強さを誇るデーモンに勝てる存在。

 人間種と悪魔種の埋めることの出来ない差を乗り越えて、戦う事が出来る唯一の存在。

 その人類の希望を、まるで虫ケラのように踏み潰し、蹂躙する姿に、人々は絶望感を感じずにはいられなかった。



「え、遠距離攻撃だ!打て打てえ!」

 ルゾッホ将軍が、悲鳴のような指示を出す。



 指示に従い、兵士や残りの冒険者達の遠距離攻撃が飛ぶ。

 しかし、以前少し説明させて頂いたが、結界内からの魔力を使用した攻撃は大幅に弱体化する。

 それは弓などの攻撃も同じで、結局弓も魔力を込めて放つ仕様なので弱体化してしまう。


 もし、貴方の世界のように拳銃や大砲などといった火薬のみで作動する物理的な武器があれば話が違うのだが・・・

 この世界は魔法が全てなので、そういった兵器を開発するといった発想自体がないのであった。



 なので、かなり弱体化された攻撃が邪神に飛ぶ。

 予想通り全く利いていない。



 邪神は何事も起っていないかのように周囲を見渡しているようだ。

 久しぶりの現世を懐かしむように・・・




「聖女様!逃げますよ!しっかりと掴まってください!」




 ピッケンバーグは焦りながら馬を走らせる。

 邪神はピクッとそれに反応し、叫び声を上げながらジャンプした。





 ギャガガッガビビギギャガガッビビゴゴゴビビゴッ!!





 なんと邪神はそのまま結界に空中からへばりついた。

 凄まじい閃光がほとばしる。



 通常であれば弾き飛ばされるはずだが、邪神はそのままへばりついている。



 いや、逆にグググっと押し込んでいるような・・・



「ま、まさか・・・」

「結界を壊そうというのか?!」

「出来る訳がない!聖都の結界だぞ?!1番強固な結界だ!出来る訳がない!できるわけが・・・」


 最後は泣き声になってしまう人々の声。



 そして・・・






 ピイィィーーーーーーィーーーーィーーーン






 大きな大きな金属音に似た音を響かせながら、結界はバラバラに砕け散ったのであった。



「きゃあああぁあああぁぁぁああああっぁぁぁ!」

「もうだめだああああああぁぁああぁ!!」

「逃げろおおおおおおおぉぉぉおおぉおぉ!!」



 阿鼻叫喚の叫び声。

 四方八方に散り散りに逃げ出す人々。



 邪神はその逃げ惑う人々を、手で、足で、尻尾で、圧倒的な力で蹂躙していく。



ドオオォォォウゥゥンンン


 ルゾッホ将軍率いる精鋭兵も



ズドオオオォォォォォォォォンンン


 数多くいた冒険者達も



ガリガリガリバシャーーーァーーンンン


 各領主達率いる1万近い兵士達も・・・




 誰1人マトモに抵抗する事も出来ずに、一撃で何十人、何百人という人間がその姿を消す。




 いやいや、ちょっと格好良く表現してる訳ではない。



 本当に人間がこんなに簡単に飛散するのかと思う程、辺りにはよく分からない肉の破片や、目玉、脳ミソ、手や足などが散乱しており、文字通り姿を消している。

 人の形を留めて死んでいる者はごくわずかであった。



「くっ・・・」

 ピッケンバーグの馬も人々の波に飲まれて、上手く前に進む事が出来ない。




「どけええぇ!聖女様のお通りだああぁ!!道を開けろぉぉ!!」




 ピッケンバーグの初めて聞く怒鳴り声が響くが、辺りの阿鼻叫喚の叫び声にかき消されてしまう。



 グルッと邪神が聖女の方向を見る。



「グギャアアアアゴゴゴアオオオオオッ!」



 邪神は天高く叫ぶと、一気にジャンプ。




 ドオォォンン・・・




 邪神は砂煙を上げながら、聖女の目の前に着地する。



「くっ」

「ひっ・・・」



 ピッケンバーグは苦々しい表情で、ずっと目を閉じてピッケンバーグにしがみついていた聖女は、目の前で自分を見下ろしている邪神に恐怖の声を上げる。

 邪神が右腕を振り上げ、そして叩きつける。




 ガキイイインッ!




 しかし、その腕は聖女を押しつぶす事は無く、金色に輝く剣を持つ剣士によって受け止められていた。



 もちろん受け止めたのはミール。

 黒いフードで顔を隠して邪神の一撃を受け止めていた。



 顔を隠しているとはいえ、親しい者、関わりがあった者達は当然ミールだということは分かっている。



「なっ?!」

 ルゾッホ将軍も



「え?・・・」

 冷酷美女ミレーユも



「うそ・・・」

 聖女も驚きの声を上げる。



 しかし、人智を超えた邪神の一撃を軽く受け止めたかのように見えたミールだったが、フードから覗き込むその顔は、変異種のドラゴンや巨大食中プラントを相手にしていた時のように、余裕な表情は一切無い。

 かなり厳しい顔で歯を食いしばりながら受け止めていた。



 ミールはそのまま剣を突き上げ、邪神を突き飛ばす。

 予想外の攻撃に邪神は吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。

 砂煙が辺りに舞う。



「アーーーニャアーーー!!」

「は、はいっ!」



 ミールの大声にビクッと直立で返事をするアーニャ。



「お前は東門で指揮を執れ!住民の避難!誘導!そしてここにいる奴ら全員邪魔だ!撤退させろ!冒険者が突っ込んでくるのも止めろ!他の奴らをココに近づけるな!」



「はいいいっ!」



「クワレル!」

「は、はいっ!」



 聖女はアーニャと同じように返事をする。



「お前の仕事をしろ!お前にしか出来ない事があるはずだ!自分を信じろ!絶対に出来る!行け!」



 聖女が返事をする前にピッケンバーグが馬を走らせる。

 強引に、人々を押しのけ、踏みつけ、叫び声を上げながら・・・



「ミール!私達はどうすれば??」

 リリフが大声で尋ねると

「邪魔だ!早く離れろ!行け!」

「そ、そんな・・・でもミールっ・・・」





「邪魔だあああああああああぁ!行けえええぇぇ!!!」





 ミールはリリフの方向は一切見ないで、邪神を睨みながら絶叫する。

 その声には一切の余裕が感じ取れない。



 リリフは唇を噛みしめながら

「行こ。ミールを困らせちゃダメ・・・」

 セリー達の背中を押す。



「ルチアーニさん・・・」

 対照的に穏やかな声でルチアーニ達に話しかけるミール。



「すみません。命、僕にください」

 ルチアーニ達は一瞬驚いた表情を浮かべるが、直ぐに笑顔になる。



「まっかせなさいって」

「やれやれ、ようやく年貢の納め時が来たようじゃな」

「ひひひ、最後は格好良く散れそうじゃの」

「後は任せろ、ミール」



 ミールが何か言わなくても言いたい事が分かったようだ。

 要は、回復を頼むと言っているのだ。

 この一撃で全てが吹っ飛ぶ地帯で、回復を頼んでいるのだ。



 邪神が知能が高いのは先程の聖女を標的にした行動で分かる。

 恐らく、回復しているとルチアーニ達を狙って攻撃してくるだろう。

 それをミケル、ロイヤー、ランドルップで可能な限り受け止めて、ルチアーニに一秒でも多く回復をブッパしてもらおうという事だった。



 ミールも回復魔法を使えるが、使っている余裕は全くないだろう。

 だからこそ頼んでいるのだ。



 命を下さい・・・と。



     続く

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