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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑯

「しょ、しょうがないのっ。それじゃあワシらも・・・」

「来たら打ち首よ、平民」

 ロイヤーの言葉を被せ気味に打ち消す聖女。


「そ、そんなぁ。殺生なぁ・・・」

「あははははっ!」


 大きな笑い声に包まれる魔動車。

 そんな笑いの声が窓から漏れてくるのを聞きながら、ピッケンバーグは人知れず笑みを浮かべるのであった。



⇨聖女巡礼⑯




 遂に・・・

 遂に巡礼が終了し、隊列は聖都ルーンスワイラルに到着した。



 出発した場所と同じ、東門は結界ギリギリまで人で溢れかえっている。

 ただ、ガタリヤと違い住民が歓迎で出迎えているのではなく、我が街の順位はいかに?といった感じで他の街の住民達が観光気分で多く集まってきているのだ。



 毎年こんな感じなので、いつも結界の外側で整列して順位の発表が行われている。

 中央に聖女が壇上に上がり、その周りに領主達が、その後ろに各街の精鋭兵達が、更にその後ろに一般の兵が整列しているので、形的には聖女を中心に扇型になっていた。



 並び順は出発前と同じ現在の正式な順位順だ。果たしてこれが発表後にどう変わっているのか。人々の関心はそこに集中していた。



  ザワザワザワ



 現在、聖女は魔動車の中でおめかし中だ。



 領主達、そして兵士達は整列を終えているが、少し落ち着かない雰囲気。特に領主達の不安げな表情はいつもとはかなり違う。



 今までは順位融通を終え、ある程度自分達の順位が見えている段階。

 余程の大きなヘマをしない限り大幅に順位を下げる事は無い。しかも9位と10位は半ば確定していたので、安心感もあった。



 それが今回はない。

 領主達は初めて正真正銘、ガチの順位発表を吐きそうな思いで待っていた。



 リビの領主ミラージュもそれに輪をかけて顔面蒼白だ。



 あれから結局ペインは全く相手にされず、自信満々だったあの表情は見る影もない。

 もしかしたら、この場で領主資格剥奪の可能性も有る。



 それはなんとしても避けねば・・・



 ミラージュは息子ペインを捨て駒にする事も心の奥底で考えていた。

 そして、それはペインも同じ。

 親子揃って、相手を捨て駒にして自分は助かろうと思案しているのだから世も末である。



「アーニャ様」



 ピッケンバーグがアーニャに声をかけてきた。



「はい、ピッケンバーグ様。いかがなさいましたか?」

「いえ、申し訳ございません。特に用はないのですが、一言アーニャ様に・・・そして皆様にお礼を申し上げたくお声をかけさせて頂きました」


「お礼・・・でございますか?」


「はい。アーニャ様、そして皆様に接するようになってから、聖女様の表情がみるみる生き生きしてくるのを感じました。恐らく今までかなりのプレッシャーと人知れず闘ってきたのでしょう。いつも心の奥底では不安な表情を見せておられました。それがこの数日間、全く見られません。本当にありがとうございます」 



 ピッケンバーグは深々とお辞儀をして、立ち去っていった。 



「ピッケンバーグ様って聖女様の事好きなのかな?」

「うむっ。ワシもそうニラんでおったっ」

「きゃ!てことはっ!・・・ですわよねっ!?」

「聖女様はお気づきなのでしょうかぁ?」

「アイツ馬鹿だから気付いてないだろ?」

「ミール様・・・アイツ呼ばわりはおやめください・・・」



 ガチャッ

 


 聖女が魔動車から出てくる。



 キラキラと輝く黄色のドレスを身に纏い、頭には宝石がてんこ盛りのティアラ、ネックレスも腕輪も遠くからでも太陽の光を反射しているのが分かるほど、光り輝いている。



 人々のざわめきが静まり、シーンと静寂が包み込む。そんな中をピッケンバーグにエスコートされながら聖女はゆっくりと壇上に向かう。



 聖都公認の専属記者と思われる人達が、その姿を収めようと魔写機(カメラ)で盛んに撮影をしている。



 聖女は壇上に上がり、まずは観衆にスカートの裾を持ち挨拶をする。パチパチパチと拍手が沸き起こる。

 そして領主達に向き合い、拡声魔石を使い話し始めた。



「皆様、1ヶ月半にも及ぶ巡礼の旅路、本当にご苦労様でした。皆様のお陰で無事巡礼を終える事が出来て、嬉しく思います。そして各街の結界を強化でき、とても安堵しております。さて・・・皆様もご存知の通り、巡礼のタイミングで各街の序列順位の発表を行っております。僭越せんえつながら、わたくしの口から発表させて頂ければと・・・」





「わあぁああぁぁぁ・・・」





 いよいよ発表かというタイミングで、なんと観衆の横、南門の方面から叫び声を上げながら聖女に襲ってくる集団が現れた。



 その数、およそ500人ほど。

 装備はボロボロで、最初は盗賊かと思われた。そういう風貌の人達が多かったからだ。



 しかし、よく見ると何かがオカシイ。



 全員、目が虚ろで動きも単調、覇気の無い声を上げながら巡礼隊に向かってきているのだ。

 まるで誰かに操られているかのように・・・



 巡礼隊に緊張が走る。



 聖女護衛隊長ピッケンバーグは素早く聖女を囲むように防衛陣形を敷く。

 しかし、他の各隊、街の精鋭兵達は完全に油断していたのであろう。あまり統制が取れていない状態で若干パニック気味だった。



 観衆達は更に完全なパニック状態だ。

 悲鳴や大声を上げて一気に逃げ出すので、人の波に押しつぶされたり、踏み潰されたりする者も多数出ているようだ。




「落ち着けえええぇぇ!各隊抜刀!殲滅陣形、聖女様に近づけるなぁ!」




 ルゾッホ将軍の激が飛び、聖都の精鋭兵達が迎え撃つ。

 あっという間に入り乱れての戦闘となるが、流石は精鋭兵。かなりの勢いで殲滅していっている。

 意外にもルゾッホ将軍もそこそこ活躍していた。



 しかし、1番目立つのはあの冷酷な表情を浮かべている美人兵だ。

 レイピアのような細い剣を操り、目にも留まらぬ早さで技を繰り出し、次々と死体の山を築いている。



「ふわぁぁ・・・強~い」

「あっという間ですわね・・・」

「うう・・・ワシ、あの美人苦手じゃ・・・」

「出会いはない。安心しろ」



 正にリリフ達がそんな会話をしている間に戦闘は終了した。



「何処の所属だ?!調査兵っ、調べろ!」

「はっ!」

 ルゾッホ将軍は殲滅した死体を足で蹴り飛しながら大声を上げる。



 巡礼の順位発表のタイミングで襲ってきたのだ。しかも聖女への襲撃というオマケ付き。



 死体は根掘り葉掘り調べられ、関わった人間を片っ端から処罰していくことであろう。

 調査兵や自白魔法士のスランデルが行動ログを読み取ろうと調査を開始する。



 しかし、そのタイミングで何やらモワッとした香りが辺りに立ちこめた。



「な、なんじゃ?この匂いはっ?!」

「ルゾッホ将軍っ!死体です!死体から正体不明の匂いが発生しております!」



 その香りは甘ったるい、少し鼻を突くような、なんとも表現しづらい匂いを放っていた。




 ブ・・・・!・・ブゥゥ・・・・




「???」

 何か遠くで地響きの様な音が聞こえてくる。



「今度はなんだ?!なにが起った?!」

 ルゾッホ将軍が叫ぶが、皆辺りを見渡すばかりで明確に答えを出せる者はいない。



「何か・・・羽音のような感じかも・・・」

 人一倍耳が良いリリフがいち早く状況を知らせる。



「羽音・・・でございますか?」

「虫ってことかの?」

 キョロキョロと辺りを見渡す。



「南東方向!モンスターだ!」

 ミールの叫び声がこだまする。



 皆、一斉に南東方向を見ると、遠くからモヤのような煙の様な見た目のモノが近づいてきているのを確認する。



「各隊!抜刀!迎え撃てっ!」

 ルゾッホ将軍の命令が飛ぶ。



 先程は若干パニック状態だった各街の兵士達も、今回はしっかりと落ち着きを持って対応しているようだ。



「聖女様、とりあえず結界内に待避をお願いします」

「わ、分かったわ」

 聖女はピッケンバーグに促され、結界内に移動する。



 段々と近づいて来ると、その全容が分かってきた。



 大きさはサッカーボールくらい、見た目は完全にテントウムシだ。

 その虫たちが一斉にこちらに向かってきている。



 その数・・・沢山(笑)



 多分何十万・・何百万匹という数がいるかもしれないが、よく分らない。

 イメージ的にはイナゴの襲来に似ている感じなので、よく分からない人はググって見て下さい。



 まるで壁のように、真っ黒な渦となった虫たちがブンブンと音を立てながら迫ってくる。



「全員!結界内に待避!結界を上手く使い対処せよ!」



 あまりの数の多さに戦法を変更して、待ち伏せするようだ。

 普段は偉そうで、ぶっきらぼうだが結構柔軟に物事を考える事が出来る一面もあるらしい。

 リリフ達もそれに習って結界内に移動する。





「うんぎゃああああああああああああああああああああ!!」





 辺りは羽音で声も聞こえずらくなっているのだが、それでもハッキリ聞こえるくらいの大音量の悲鳴が辺りに響く。当然声の主はミールだ。



「ちょっとぉ・・・ミール。目をつぶっててよぉ!恥ずかしいじゃない!」

「うぇぇ・・・す、すまん・・・」



 顔面蒼白のミールは結界内に逃げ込み、後ろを向いてしゃがみこむ。

 しかし、ちょうどそのタイミングで、後ろからお尻を蹴り飛ばす者がいた。



「何するのよ!?」

 リリフが非難の声を上げる。



 蹴り飛ばしたのはルゾッホ将軍の近くにいる冷酷美女。まるでうじ虫でも見るかのような表情を浮かべている。



「ゴミが。聖なる巡礼を汚す冒険者。お前はここにいる資格はない。さっさと立ち去れ!」



 冷酷美女はそう吐き捨てると更にミールを蹴ろうとしてくる。それをルゾッホ将軍が止める。



「ミレーユ。そんな者相手にするな。時間の無駄だ!」

「はっ!失礼しました!」



 ミレーユと呼ばれた冷酷美女はミールに唾を吐き付けると、立ち去っていく。



「何なのよ!アイツっ!」

「怖いのぉ・・・」

「うえっ・・・土食べた・・・」



 蹴り飛ばされ顔面から着地したようだ。ミールはぺっぺっと唾を吐いている。



「だい・・・・ミールさ・・・・」

 段々と声が聞こえなくなってきた。



ブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンブオンブオンブオンブオンブオンッブオンッブオンッブオンブオン

 


 近くに来ると、凄まじい爆音が響く。

 日光が遮られ、日中だというのに薄暗く、太陽が沈んだ夕方過ぎの明るさしかない。



 虫たちはドンドンと突進してくるが、結界に次々と弾かれていく。



「凄い・・・だねっ!」

「え?・・・ん・・・ですか?」

「な・・・分から・・・みたい!」

 直ぐ隣にいるリリフの声すら聞きづらい。



 しかし、肝心の虫たちはさほど強くない。というか弱い。

 最初は警戒していた兵士達も段々と前に出て討伐していく。



「おりゃあっ!うりゃあ!」

「へっ!楽勝じゃねーか!」

「おらおらおらぁ!」



 巡礼隊も全部で1万程はいるのだ。

 最初は爆音とうねりで訳分からない状態だった戦況も、次第に兵士達が優勢になっていった。

 段々と結界内で対応する者も減り、虫たちを押し返す。



 この頃になると、ようやく会話できるほどの静けさは戻っていた。



「ねえねえ、これって初めて見るよね?!なんてモンスターなんだろ??」

「わたくしも分かりませんわぁ」

「なんかあたし見たことあるのよねぇ・・・何処でだったかしら?・・・」



「これはキングレリーバックってモンスターだな。主に南方、ミスリルトンテの国付近に生息しているハズなんだが」



「ああ、そうそう。南のジャングルで見たんだわさ。でもあたし達が見たのはいつも単独だったよ?こんなに集団で襲ってくるなんてねぇ・・・」


「いやいや、集団もそうですけど、そもそもこの地域にいること事態オカシイですよ。気候が全く違うのに」


「そうよねぇ・・・海を渡って来たって考えても・・・変よねぇ」



「ちょっ!ねえっ!あれ見て!死体に群がってるわっ!」



「あら、ホント。1番最初に襲ってきた集団ね・・・あの変な匂いに連れられてココまで来たってことかしら?」


「匂いが出たのはさっきじゃぞ?そんな直ぐに遙か南方から来れるわけないじゃろ?」



「ってことは・・・たまたま普段は集団にならない虫たちが、たまたま最初から集団で南方から気候が違うこの場所まで来ていて、たまたま美味しそうな匂いが出てきたから集団で出てきたって事ですわよね?」



「ヤダ・・・なんか怖い・・・」

「確かに・・・嫌な予感がするぞいっ。あまり離れんほうがいい。固まって警戒を続けるんじゃ」

「アーニャ様っ!真ん中に!みんなっ!防御陣形!」

「はいっ!」



 リリフ達の会話とは裏腹に、巡礼隊はドンドンとキングレリーバックを討伐していっている。

 サクサク倒せるのと、虫たちも大きく広がって逃げているので深追いしている兵も大勢いた。



 何故か?



 それは各領主達が、手柄を立てるチャンスと考え、兵士達をたきつけているからだった。



 ただでさえ、今回の順位発表は不透明。ならココで少しでも挽回したいという思惑があるようだ。



「追い込めぇ!聖女様が見ておるぞぉ!手柄を立てるチャンスじゃー!」

「キーンよりも多く倒せぇ!進めぇー!」



 こんな感じで全体的な統制は取れていない。簡単に言うと間延びしている状態。

 かなり広範囲に巡礼隊が広がっているのだ。



「深追いするなぁっ!隊列を守れぇー!」

 ルゾッホ将軍は指示を出すが、あまり聞こえていないようだ。



「くそっ!馬鹿共め!各領主達に通話をかけろ!直ぐに戻れと!隊列を守れと!」

「はっ!」

 ルゾッホ将軍の近くにいる調査兵が直ぐに魔力を込める。



 辺りはほとんど討伐され、無数の虫の死骸、そして最初に襲撃してきた人達の死体が転がっている。そんな中、調査兵の悲痛な叫びがこだまする。



「ルゾッホ将軍!ダメです!どの領主も通話に出ませんっ!」

「くそがっ!伝令を出せ!直接連れ戻して来いっ!」

「はっ!」



 数人の調査兵が馬に乗って次々と走り出す。



「おのれぇ・・・手柄に目が眩みおって・・・」

 ルゾッホ将軍は舌打ちをしながら、転がっている死体を蹴り飛ばす。



「ルゾッホ将軍ー!」

「今度はなんだっ?!」



「襲撃のようですっ!冒険者のような集団が北東から襲撃してきておりますっ!現在キーンの部隊が交戦中!」



「何だとぉ!?どこの冒険者だ!?」

「分かりません!しかし、かなりの手練れかと思われます!」

「調査兵!直ぐに調べろっ!」

「ははっ!」


「将軍!あそこをっ!」



 冷酷美女がルゾッホ将軍に声をかける。

 指差す方向に、キーンの部隊を次々と打ち破る冒険者のような集団が見えた。



「ぐむむむぅ。各隊!北東に戦力を集中しろ!守り通せ!」



 ルゾッホ将軍が命令を出すが、ここに残っているのはルゾッホ将軍率いる聖都の精鋭兵1000人前後。聖都の一般兵が3000人前後。後ろには聖女を守る護衛隊長ピッケンバーグの隊がいるが、その数も100名前後。



 他の領主の兵は散り散りになっており、スカスカな状態。

 遠くのキーンの部隊が苦戦している様子もハッキリと見ることが出来た。



「おいっ!信号弾を上げろ!緊急だ!」

「かしこまりました!信号弾、赤を打て!」

 冷酷美女が兵士に命令する。



 するとビュー~~~~~ンっと赤い光り輝く球が上空に上がる。



 緊急を伝える信号弾だ。

 これを見た各領主達は、直ぐに聖女のもとに馳せ参じ、護衛として戦わなくてはならない決まりだ。



 しかし・・・領主達に伝令を伝えに行った兵が戻ってくる。



「ルゾッホ将軍ー!ダメです!東方面の領主は何処にもいませんっ!」

「伝令ー!南東方面の領主!行方不明っ!」



「くそっ!危険を察知し逃げおったなっ!自分達だけ助かるつもりか?!」

 ルゾッホ将軍は地団駄を踏む。



「将軍っ!来ますっ!」

 冷酷美女が叫ぶ。



「各自!各個撃破!死ぬことは許さん!目の前の敵に集中しろ!」

 ルゾッホ将軍はそう言うと、自らも剣を抜き身構える。




「ルゾッホ将軍んんっ!分かりましたあぁ!青の霹靂です!こいつらは青の霹靂!世界最悪と言われる殺人ギルド集団!あおのへきれきですぅぅ!」




 ステータスを読み取る専門の調査兵が大声で叫ぶ。



「な、なんだとぉ・・・」

 ルゾッホ将軍はゴクリと唾を飲み込んだ。




『青の霹靂へきれき

 この世界にも殺人を好む集団は数多くいる。

 その中でダントツに名が知れているのがこの『青の霹靂』と言われる殺人ギルドだ。



 金さえ出せば、国家すら滅ぼすと言われる程の強さを誇り、実際に滅ぼされた国もあるとかないとか・・・



 当然どの国も特別指名手配をしており、何回もカントリーチームクラスが対応に出ているのだが、逆に返り討ちにあってしまい、今では下手に手を出すよりも立ち去ってくれるのを待つような消極的な対応が目立つようになってしまった。



 神出鬼没で何処へでも現れるのを見ると、敢えて拠点を設けないで活動しているようだ。

 実はミールが1番警戒している集団、それがこの青の霹靂なのだ。




 キーンの兵を突破し、襲いかかってくる殺人集団の数は100名前後。

 聖都の兵士は一般兵と精鋭兵を合わせて4000人前後。

 聖都兵の方が圧倒的に数は上回っている。が・・・・実力は雲泥の差のようだ。

 次々と死体の山を築く殺人集団。



「ひゃっほ~い!おらおらおらぁ!」

「うっひょぉぉ!楽しいいぃぃ!」

「うおっ!大将発見!討伐しまーす!」



「ぬおおお!!こざかしい!」

 ルゾッホ将軍はなんとか応戦する。



 しかし相手は殺人に特化したスキルを多数所持している模様。

 まるで飛ぶように、剣を最短で突き刺してくる。



「将軍に触るなぁ!」

 冷酷美女が応戦する。



「うおおおっ!女だあっ!めっちゃ美人じゃん!」

「うひょー。切り刻んで持って帰ろうぜ!」

「寄るな!汚らわしい!」

「うへっへえ!めっちゃ気が強いじゃん!気に入ったぜ!」



 冷酷美女もかなり強く、剣先が見えないほどの技を繰り出しているのだが、殺人集団は末端の兵士ですら、これくらいを相手に出来る剣技を持っているようだ。

 正に互角の戦いを繰り広げている。



「くそっ!?かなり強いぞ!各個撃破だ!複数で同時にかかれ!」

「ダメです!かなり素早く的が絞れません!うぎゃー!」



 正に大混乱。

 あっという間に聖女の近くの場所も、両軍入り乱れての戦場と化したのだった。




 一方、リリフ達も当然交戦中だ。


 正直リリフ達には荷が重いと思われる相手だが、ルチアーニ達、そしてトール隊長率いるガタリヤの精鋭とクリルプリスの精鋭兵がよくまとまり、なんとか対応していた。



「ブルニ!右から来るよ!」

「はいっ!」

「セリーねぇ様!前方開けます!魔法をお願いします!」

「りょうかいですわっ!」

「うらぁ!まだまだ若いもんにゃ負けんぞい!」

「固まれぇ!隙間を作るな!」

「アーニャ様っ!クラリネット様っこっちです!」

「はいっ!」

「うむっ」



 やはりルチアーニ達の日頃の教えが生きているのだろうか。

 リリフ達はアーニャとクラリネットを守るように1箇所に固まらず、動きながら対応しているようだ。



 主にリリフとルチアーニが指示を出しているのだが、トール隊長もクリルプリスの精鋭兵も忠実に指示を守っている。

 円上の360度対応する陣形を取っているのにも関わらずこれが出来るのは、かなり信頼関係が強固でなければならない。見事の一言だ。



「あっ!せ、聖女様の兵が!危ないです!」

 アーニャの叫び声が響く。



 見ると確かに聖女を取り囲む兵は少なく、ピッケンバーグが良く対応しているが、表情は焦りの色が色濃く出ていた。

 聖女も泣きそうな顔をして、護衛兵の後ろに隠れている。



「でもアーニャ様!正直私達いっぱいいっぱいです!とても聖女様のもとに駆けつける余裕がありません!」

「自分の命と仲間の命を守るので精一杯ですわっ!」

「アーニャ様はブルニが守ります!絶対ぃ!」



 悲鳴に近い声を上げるリリフ達。



「分かります!ですがそもそも私達は聖女様の護衛です!私も戦えませんが聖女様の護衛なのです!今は信号弾も上がり全員が聖女様の護衛に向かわねば成らぬ時っ!聖女様の盾となってこの命を捨てるのが使命!お願いします!聖女様のもとへ!」



「・・・・」



 リリフ達はしばらく考え込むが

「わかりました!行きましょう!」


「しょーがないのぉ・・・」

「まあ、いつもの貧乏くじじゃ。いつも通りかの!」

「聖女様もブルニが守ります!」

「ははは、アーニャ殿にここまで言われてはしょうがない。この老骨の身も捧げましょうぞ!」

「よっし!全員後ろに下がりつつ交戦!聖女様のもとまで移動するよ!」

「了解!」



 リリフ達は後ろを固めながら聖女のもとに合流する。



「聖女様!ご無事ですか?!」

「おお!貴方達!感謝します!アーニャ様!」

「アーニャ!怖いわ!どうしよう!」

「大丈夫です、聖女様。私に掴まっていてください」

「防御陣形!移動しながら警戒!」

「おうっ!」



 聖女とアーニャ、クラリネットを取り囲むように陣形を組むガタリヤ隊とクリルプリス隊、そしてピッケンバーグ率いる護衛隊。



「すまん!聖女様をお任せする!」



 ピッケンバーグはガタリヤ、クリルプリス隊の統制の高さを見て、任せられると判断したようだ。単独で殺人集団を各個撃破していく。



 今まで聖女を守りながら戦っていたので、どうしても制限がかかっていたのだろう。

 今は水を得た魚のように圧倒的な力でねじ伏せていく。



 リリフ達もそれをみて、無理に倒そうとするのではなく、ピッケンバーグの動きを見ながら防御に集中する作戦に切り替えたようだ。



「みんな!倒す必要はないよ!ピッケンバーグ様に任せて守りに集中!隙間を作らないように!」

「はいっ!リリフ姉様っ!」

「エレクペラーション!(回復)」

「サンキュー!リューイ!」

「さあ、聖女様!こっちです!」

「う、うん!」



 本当に良く守っている。

 遠くでは相変わらずルゾッホ将軍達が応戦しているが、そちらも少しずつ巻き返している感がある。周りの殺人集団の数も少なくなってきた。




「ミール、あそこ!」




 リリフの声で振り向くと、そこには明らかに雰囲気が違う集団が佇んでいた。

 数は5人ほど。

 ただ立っているだけなのだが、圧倒的な威圧感が感じられる。



 恐らく『青の霹靂』の幹部だろう。

 その者達はこちらを睨んでいるようにも見えるが、遠くてよく分らない。



 すると・・・そこに駆け寄る者がいた。



 自白魔法士、スランデルだ。



 スランデルは一目散に幹部のもとに走り出し合流した。



「な・・・」

「す、スランデル・・・貴方・・・」



 聖女もアーニャも驚きの声を上げる。

 それもそのはず、スランデルは幹部の下に到着すると、肩で息をしながら明らかに幹部達と会話をしていた。


「あやつが手引きしておったのか??」

「ひっどーい!」




「聖女様が御慈悲をかけたのにっ!クズ野郎ですぅ!」




 ブルニから『クズ野郎』という単語が出てきて、一瞬、時が止まったような感じになったガタリヤの皆さんだったが、直ぐに我に返る。



 スランデルはなにやらしばらく会話をしていたが、その幹部と思わしき人物が(スランデルに隠れていて姿は見えない)肩に手を置いたのが見えた。



 その瞬間、スランデルの身体がビクッと硬直した。

 よく見ると背中から剣が突き出ている。

 スランデルはブルブルと震えながら、その刺した幹部の身体を手で掴み、そして崩れ落ちていく。



 まるで『なんでだ・・・裏切るのか?・・・』とでも言っているかのように・・・



 スランデルが崩れ落ち、刺した幹部の姿を捉える事が出来た。

 その人物は全身に青の甲冑に身を包んだ黒髪の男だった。

 殺人ギルドと言うからには闇に紛れて的な感じを想像するのだが、この者の甲冑は見事に光沢を放っており、光り輝いている。



 しかし、その輝かしい甲冑とは正反対のどす黒い威圧感、殺意、恐怖が放たれ、聖女達を睨んでいるようだった。



「なっ?!・・・」

 ミールは小声で驚きの表情を浮かべる。



 スキルが解放されている・・・



 未だかつて、人間相手にスキルが発動したことはなかった。

 あのドラゴンスレイヤーとして世界的に有名な金ランクのバトルマスター、ガウディですらミールのスキルを発動させる事は出来ていない。



 そのスキルが今、初めて人間相手に発動していた。

 それだけで、この者がかつて無いほどに強敵であるというのが分かる。



 いや、例えが悪かったかもしれない。


 正確には、ミールはこれまでも何人か虹ランクの冒険者に会ったことが有る。

 能力的にはガウディよりも上な連中だったが、その時も発動していない。



 なのでミールは相手が人間だった場合は、強敵であってもスキルは発動しないと勝手に思い込んでいたのだ。



 しかし、スキルが今、発動している。



 能力もさることながら、殺気がハンパない。

 まるで世界そのものを憎んでいるような、そんな感じの雰囲気が漂っていた。



 ミールの首筋に汗が流れ落ちる。

 今までも強敵な高位悪魔と何度も戦ってきた。

 しかし今回の相手は人間だ。しかも殺人に特化した人間だ。



 勝てるのか?・・・



 どうしても頭の中に出てきてしまうこの疑問と不安にミールは一歩を踏み出せずにいる。



 しかし、ミールの不安をよそに、青い甲冑の男は手を上げ、なにやら合図をする。

 すると側にいた幹部が指笛を鳴らした。



 恐らくレンジャーのスキルを所持しているのであろう。その指笛はかなり広範囲に響く。



 その音を聞いた殺人集団はピタッと襲うのを止め、次々と撤退していった。

 幹部の連中も、まるでスランデルを殺すのが目的だったかのように、スランデルの死体を軽々と担ぎ、あっさりと撤退していった。



「た、助かったの??・・・」

「分かりません・・・何故か撤退して行きましたわ・・・」

「ブルニとっても怖かったですっ。笑顔で笑いながら剣を振るってきたんですぅ」

「でも良くやったぞ、ブルニ」

「えへへ。お兄ちゃん、ありがとぉ」


「はあっ・・・はあっ・・・アーニャ、ありがとぉ・・・怖かったわぁ・・・」

「聖女様がご無事でなによりです」

「せ、聖女様!お怪我はございませんか?!」

「ええ、ピッケン。ありがとう、大丈夫よ」

「ほっ、それは何よりでございます」


「ピッケンバーグ!聖女様はご無事か?!」

「はっ!ご無事であります!」


「よーしっ!聖都精鋭隊!体制を立て直すっ!被害状況を報告せよ!手の空いてる者は怪我人を運べぇ!行動開始!」

「ははっ!」



 意外と言っては冷酷美女に怒られるかもしれないが、結構まともな指示出しをするルゾッホ将軍。兵士達も直ぐに行動を開始している。



 やはり、青の霹靂との戦いは厳しかったようで、怪我人や、亡くなった者も数多くいるようだ。

 そんな兵を再編している中、どこから出てきたのか各街の領主達が姿を現す。




「貴様らぁ!いったい何処にいたぁ?!何故聖女様の護衛に駆けつけん?!」




「いやはや、我々も戦っておったのです!」

「そうです、奴らは複数存在しておりましたっ!」

「聖女様のもとに合流させてなるものかと、なんとか食い止めていたのです!」

「本当に大変だったわ!」

「まさに死闘でしたぞ!」



 領主達は口々に、まるで事前に打ち合わせしていたのではないかと思うくらい、息ピッタリで言い訳をする。

 


 スランデルさえ裏切っていた現状で、次々と不可解な襲撃が起こり、さぞ皆さんは疑い深い思考になっている事であろう。

 しかし、この領主達は完全にシロだ。

 全く悪巧みには加担しておらず、ただただ自分の保身に走っていただけだということを念のため言っておこう。



「ぐぬぬぬ・・・本当だろうな?・・・」

「ええ!もちろんですとも!なあっみんな!」

「本当です!大変だったのです!」

「青の霹靂!なんとも恐ろしい相手でした!」

「なんとか食い止める事が出来て良かったですぞ!」

 領主達は必死にアピールする。



「ちっ、まあよい。時間が惜しい。お前達も再編に加わるがよい」

「ははっ!」



 ルゾッホ将軍が立ち去って、少し安堵の表情をみせる領主達。

 そこにツカツカと聖女が歩み寄る。



「んおっ!せ、聖女様!」

「ほへっ!?聖女様!よ、よよよくぞご無事で!」

「私ども、精一杯戦いましたわ!」

「そうですじゃ!実は奴らは複数・・・」



「ドーラメルク産の結界石」



 聖女は領主達の言い訳には答えずポツリと一言。

 領主達は全員ビクッと硬直する。



「ドーラメルク産の結界石・・・あれって良いわよね?匂いも、音も、『姿』でさえも消せるんですものね・・・」



 聖女は『姿』という部分を少し強調して言う。

 先程まで、あれほどギャアギャアと鳴いていた領主達が完全に沈黙している。



「知ってると思うけど、街などの巨大魔石が作り出す結界の中で、他の産地の結界石を使うと軽いノックバックが発生する・・・だけど通常は10分ほど時間を置けば普通に入れるようになるわ。あと・・・5分くらいかしら?・・・どう?今結界に入れば無実を証明出来るわよ?」



「あのぉ、そのぉ、わ、ワシは少しお腹が痛くて・・・」

「ちょっと目眩がしてしまい・・・」

「あまりにキツい戦いで腰が・・・」



 それぞれの領主達が言い訳を始めるが、聖女は被せ気味に追撃する。



「でもね、なんだかんだ言い訳をして結界に入らないでしょ?そうしたらバレないものね?・・・でも皆さんご存知かしら?聖女自身が放つ結界魔力は街の結界と同等の力があるの。つまり、私がここで結界を発動させれば、街の結界と同じような結果となる。でも皆さんは大丈夫よね?だって一生懸命戦っていたのですもの。ここでわたくしが結界を発動させても、なんともないわよね?」



 どうやらさっきまで怯えていた聖女だったが、領主達の挙動不審な態度を見て、逆に落ち着きを取り戻したようだ。いつもの、ちょっと意地悪な聖女が戻ってきている。



「も、もちろんですとも!」

「ワ、ワシらは決して裏切りませんぞ!」

「え、ええ!そうですとも!聖女様!信じてくださいまし!」

「ささ、聖女様!宮殿に向かいましょうぞ!」


 引きつった笑顔を浮かべながら、一生懸命聖女をおもてなしする領主達。



 しかし、聖女の結界魔力が炸裂。



 アーニャとクラリネットを除く、全ての領主が一斉に尻餅をついたのは言うまでもない。



   続く



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