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ドラゴン討伐隊①


残酷なシーン、差別的なシーン、性的描写があります。


※(R15)作品です。

 スライムには負けるけど魔王には勝ちます


               すふぃーだ




———ドラゴン討伐隊———




 てくてくと路地を歩くミール。

 真夜中だがチラホラと営業しているお店もある。

 横を通り過ぎるたびに、美味しそうな匂いや人々の笑い声が聞こえるが、歩みを止めずに進んでいく。



 フェリス達と別れた後、早くお風呂に入ってベッドで眠りたい欲望を抑えながら、配達の要件を先に済ませることにした。



 ミール自身も徹夜明けだし、時間も時間なので明日にしようかとも思ったが、依頼相手がとにかく早くと言っていたのを思い出し、深夜だが訪問だけしてみようと思い立った訳だが・・・



「ま、明かりが付いてなかったら明日にしますかね」



 石畳で舗装された路地を歩きながら呟く。魔法の力で街灯が点灯しており、深夜でも足下は明るい。



 依頼主は治療院だ。

 そしてご所望の品はワラギルスの種というレアアイテムで、ドラゴンの毒ブレスを解毒する為に使う触媒らしい。



 しかも通常のドラゴンではない。

 主に湿地帯にのみ生息するサンショウウオのような『アムフィービアンドラゴン』という、極めて限定的なドラゴンの毒ブレスの特効薬として使われていると、依頼してきた道具屋の店主から説明を受けた。



 しかし恐らく、その解毒に使うわけでは無いだろう。



「なにか組み合わせて俺の知らない別の効能があるんだろうな」

ミールはマジックポケットから種を取り出し、しげしげと眺めながら呟く。



 かなり色々な所に声をかけて探していたらしく、たまたま行きつけの道具屋の店主から急ぎの依頼を受けたのだ。



「ああ!ミールさん!申し訳ないんですが、大至急マルリの街まで行ってくれませんか!?あのですね、僕の知り合いなんですが、昔世話になった爺さんがいるんです。その人がこの種を探しているみたいなんですが、かなり探すのに苦労してるらしく、ちょっと力になってあげたいんです。報酬弾むのでお願い出来ませんか?!」



 と言われ、頼み事を断るのが苦手なミールはクエストから帰ってきたばかりだというのに、休憩も取らずに律儀に出発したのだった。



 そしたらゴブリンに会うわ会うわ。煙玉も使い切ったら今度はあのマーキュリー達に会うわ。喘ぎ声聞かされるわ。殺戮現場に巻き込まれるわ。デーモンと戦うわで散々な目に遭ったわけだが・・・



「くそ、報酬上乗せさせようかな」

 ブツブツと呟きながら夜道を歩く。



 マルリの街はそこそこ大きく、結界面積は直径8キロくらいある。

 人口はおよそ80万人、道路や家などはレンガや石で舗装や建築がされており中世ヨーロッパ的なイメージだ。



 もう少しこの世界の街の作りについて語ろう。



 街全体は結界で守られておりモンスターなどは入ってくることが出来ない。なのでその結界面積内で住居が建ち並び人々が生活している。



 当然ではあるが人間が生きていくなかで住居だけでは生活できない。



 やはり畑などの農業、家畜などの畜産、水資源が豊富な場所では漁業などなど。

 しかし多くは結界内では面積が足らず、結界外で畑仕事や家畜の飼育を行っているのが現状だ。



 結界外の作業は危険が伴い、毎年少なからず犠牲が出ている。



 そこで出番となるのが国の政府や街に所属する兵士達、そしてギルド所属の冒険者達だ。



 兵士達は主に街の周囲を警備したり街の治安を守ったりする。

 冒険者達は政府から依頼された街道の警備や指定モンスターの討伐をする事によって、被害を未然に防ぐ役割を担っている。



 このように街一つ一つが独立して自治をしているのが、この世界の特徴だ。

 当然領主の権力も高くなり、街が違うだけでルールもかなり変わってくることもあるのだが・・・



 それともう一つ、街単体で全ての物資をまかなうのは現実的に厳しいので、街同士の交易も非常に重要だ。



 平原での麦やトウモロコシ、そして米。

 海辺の町での魚や海産物、そして塩。

 山部の果物や洋服などを作る絹糸や綿。

 豊富な牧草地帯の濃厚なバターなどの乳製品や肉。



 地域それぞれの特産品の輸送隊を護衛したりするのも冒険者達の出番。

 これらの護衛や街道巡回業務、またはミールみたいに直接個人個人に配達するいわゆるお使いクエストも冒険者にとってはかなりの収入源となっている。



 そのお使いクエストにおいて、ミールは実はちょっとした有名人だ。



 高収入のお使いクエストはランクの高い冒険者も受けるが、実際にお使いクエストを依頼する人達の多くが、報酬を沢山出せない民間の人々なのだ。



 通常一般の民間人は、政府が運営している配達屋に依頼する事が多いのだが、政府の業者は致命的なほど配達までの時間がかかったり、運べる荷物にも条件が多かったりする。



 どうしても急ぎで運んで欲しい、対応していない荷物を運んで欲しいという依頼が、結構頻繁にギルドに持ち込まれているのだ。



 しかし報酬が低いと高ランクの冒険者は引き受けないので、大抵ランクの低い冒険者の出番となるのだが・・・



 だがそこはやはり低ランク。

 荷物の破損だけならまだいいが死亡による失敗も多い。そうなると荷物そのものをドブに捨てたようになってしまう現状があるので、依頼者にとってもリスキーなのだ。



 しかしミールはマジックポケットのお陰で荷物は破損無し、死亡無し、意外に真面目で寄り道無し。

 更には低報酬でも引き受けてくれるので、今では指名の依頼が来るほどの実績を積み重ね、その筋では有名なのだ。



 ギルドに入ると必ず誰かしらが揶揄(やゆ)しに来るし、あちこちから笑い声が聞こえてくる。

 そして最近になって、有象無象の連中からミールに二つ名が付けられた。



 『配・達・将・軍』



 ・・・最悪である。





「この辺りのはずだが・・・」

 もらった地図を確認しながら進むと、用水路の橋の先に治療院の看板が見えてきた。

 窓からは明かりが漏れており、誰かが起きているようだ。

 ミールは石畳の橋を渡りながら中を覗く。曇っててよく見えない。



「ま、いいか。入っちゃえ」



 コンコンコン

 ドアをノックする。



「おう。誰だあ?入ってこいや」

 予想より遙かに偉そうで野太い声が中からする。



「し、失礼しまーす・・」

 恐る恐るドアを開けると、そこにはかなりのゴツいおっさんが3人、酒を飲んでいた。



 あれ?お店間違えたかなっと一瞬思ったが、よくみるとベッドや診察台、魔法石の類いが並んだ棚などが所狭しと置いてあり、治療院で間違いなさそうだ。



 しかしゴツいな・・・



 一言でいうと豪快な男。

 髪はライオンのように広がっていて色はオレンジ、額にバンダナを巻いている。

 筋肉は盛り上がっており日焼けした肌からは無数の傷跡が見て取れる。


 身長は2メートルは越えてるであろうか。

 うろこ状の服を左肩を出した状態で着ており、下はとび職の方が履いているようなズボン。

 そして首や 腕、腰などにジャラジャラとアクセサリーを沢山付けている。


 座っている椅子には愛用の武器なのであろう、曲刀の馬鹿デカい剣がぶら下がっていた。

 手には特大ジョッキを持ち、足を組んでミールを見定めている。

 顔は赤く目は据わっており、かなりできあがっている感じだ。



「こおんな時間にぃ・・ひっくっ・・なんの用だいいい。黄色ランクのぉ冒険者さんよおぉぉ?」

 馬鹿でかい声が店内・・じゃなかった、院内に轟く。



「俺たちをぉ、ガウディ一派と知っての狼藉ろうぜきかあ?つまみの一つでも持ってきてるんだろうなあ?えぇ?おいぃ?」



 豪快な男の向かいに座っている小柄で小太りな男が負けないくらいの大きな声で叫ぶ。



 2本の角の生えたヘルメットをかぶり目には小さな丸いサングラス。

 もじゃもじゃな髭を蓄え、おへそ辺りまで伸ばしている。

 上半身は裸に毛皮のベスト、下にはやはりとび職の方が履いているようなズボン、椅子には四角いハンマーがぶらぶらしている。



 ガウディ一派・・どこかで聞いたことあるような・・・



 もう1人、奥のテーブルに座っている男はライオンヘアーの豪快な男よりも更に大きな身体をしている。

 頭は丸坊主で上半身は裸に腹巻きをしてズボンも短パンのみだ。

 しかしその横に見事な鎧が置いてあるのでこの男の持ち物なのであろう。

 この男は他の2人と違って寡黙に酒を飲んでいる。




「だああああ!うっさいよっ!!!今何時だと思ってるんだいっ!!」




 2階からドスドスと音を立てて降りてきたお姉様は、誰よりも一番デカい声で叫ぶ。



 真っ赤な髪を頭の左側でひとまとめに縛っている。

 瞳も透き通るようなレッドアイ、肌は日焼けしておらず表現が難しいが健康的な白さで輝いていた。


 アラビアの踊り子のようなヒラヒラとした服を着ており、豪快な男がジャラジャラとアクセサリーを付けているのに対し、こちらのお姉様は腕や首、耳などにワンポイントでセンスの良い宝石を身につけていた。

 スレンダーで、どちらかというと小柄な体型からは想像できない程の声量で、ライオンヘアーの男を叱っている。



「いつまで飲んでるんだい!そんなことしたってニアは良くならないよ?!いじけてないでシャキッとしな!」



「だあってよぉぉ、アニエスゥ。種が届くのは早くて明後日だってことだろおぉ?俺はもう見てらんねーんだよぉお。あんなに苦しそうにしているニアをよおぉぉ、おぃおいおぃ」



 さっきとはうって変わって、アニエスと呼ばれた赤い髪のおねーさんに泣きつくライオンヘアー。



「だああぁ!泣くなっ!ほら鼻水お拭き!まったくっ、いつまでたっても子供なんだから・・ノイールだってもうすぐガタリヤに着くってよ。遅くても3日後には戻ってくるんだ。それまで耐えればあたし達の勝ちよっ。ニアが頑張ってるのにあたし達が諦めてどーするのよっ」



「うおお~ん。ニアアァァ。頑張れええ!!」

「うっさいっ」



 パシッとライオンヘアーの頭を叩きながらミールを見る。

 ようやくミールの存在に気付いたようだ。



「あら?お客さん?うるさくしてごめんなさいね。院長に用?あいにくもうおやすみになってるの・・伝言があるなら伝えておくわよ」



「そうですか・・急ぎで運んで欲しいと言う話だったので、夜分失礼かと思いましたがお伺いしたのですが・・・」



「へえ?それはそれは。ご苦労様。お兄さんはどこから来たの?」

 テーブルの上にあったウインナーをつまみながら尋ねる。



「ガタリヤです」



「んん?!!ガタリヤだってえぇ??!!」

「お兄さん!持ってきた物を見せてちょうだい!」



 ガタッと立ち上がりミールに詰め寄るライオンヘアーとアニエスお姉さん。

 ミールはワラギルスの種を見せる。



「うおおおぉぉ!これはああぁ!?」

「間違いない!ワラギルスの種だよ、嘘っ!信じられない!」



 ミールから種を奪い取り、天高く掲げるライオンヘアー。



「はっ!こうしちゃあいられない!ガウディ!院長を起こしとくれ!」

「あいよ!!おいいぃ!じじぃい!!起きろやあ~!」

「お兄さんも一緒に来て!」



 ミールの手を掴むとグイグイと引っ張って2階に駆け上がる。



 すると奥の部屋から

「ニア!ニア!しっかりして!アニエスー!ニアがぁぁ!」

 と叫び声が聞こえてきた。



 急いで扉を開けると、そこには女が2人。



 1人は回復職だろう。

 薄いグリーンの法衣に身を包み、眼鏡とソバカスが印象的な女の子だ。

 緑色の髪をお下げに束ねて瞳は濃いグリーン、今は目を真っ赤にして泣いている。



 もう1人はベッドに横たわっている女性。この人がニアと呼ばれている女だろう。

 大量の脂汗をかいており金髪のショートヘアが額にべったりとくっついている。

 身体をガクガクと痙攣させており、かなり危険な状態だと一目でわかった。



「あっ!アニエス!ニアがああ!!」

 回復職の子が泣きながらそう叫ぶ。



「ええ!わかってるわ!ワラギルスの種が手に入ったの!これで直せるよ!」



「え?!本当に!!」

 パッと目を見開き驚きの表情を浮かべる回復職の女。



 ガタンッと扉が開きライオンヘアーの男が院長と思われる老人を、文字通り引きずりながら入ってきた。



「おらぁ!ジジイ!しっかり頼むぜ!」

 院長を投げ飛ばしながら背中を押す。



「いてててっ。やれやれ、相変わらず乱暴じゃのぉ。どれどれ・・ふむ。確かにワラギルスの種じゃな。よし、早速準備をしておくれ」



 一緒に入ってきた助手と思われる女性に指示を出す。

 女性は魔方陣が描かれたマットを床に引くと魔法石を置いていく。



 てっきりワラギルスの種を使ってなにか違う症状を治すのかと思っていたが、状態を見る限り完全に毒の症状だ。

 ということはアムフィービアンドラゴンの毒ブレスを食らったということか。


 とんでもないレアケースだな・・・



「よし。ほれ、ガウディ。ニアをそこに運んでおくれ」



 ライオンヘアーはガウディと言う名らしい。

 ガウディは言われたとおりにニアをベッドから魔方陣の真ん中に運ぶ。

 息が荒い、身体をブルブルと震わせているニアの手をアニエスはしっかり握る。



「ニア、しっかり!」

「よし、全員離れておれ」



 院長は魔方陣から全員を出させると、ワラギルスの種を魔法液の入った小瓶に入れ魔力を込める。

 するとパアァと白く光り、ワラギルスの種は魔法液に溶けていった。



「んんううう~!」

 院長が念じると魔方陣が光り輝く。

 同時にワラギルスの種の入った魔法液をニアに振りかけた。




「レパレーション!(修復)」

 



 院長の力ある言葉が放たれる。

 光の柱が出現し部屋一面を白い光りが包み込んだ。



 ミールは人知れず興味津々に院長の動作に見入っている。



 触媒を使っての治療、いわゆる修復の魔法はミールは使う事が出来ない。

 使えるようになりたいと前々から思っているので、今回も少しでも技が盗めればと院長の一挙手一投足を真剣に見つめていた。



 しばらく白い光を放ち続ける院長。額に汗が浮かんでいる。

 すると、助手の女性がハンカチで額の汗を拭う。まるで手術中の光景のようだ。



 5分ほど経っただろうか。



 白い光がぼんやりとしてきて小さくなっていく。

 完全に収まると、今度は穏やかなオレンジ色の光に包まれた。


 そして段々とその光も消え、後にはさっきとはうって変わってスヤスヤと寝息を立てて眠っているニアがいた。



「ふ~成功じゃ」

 院長はやれやれと椅子に腰掛ける。



「ニア・・良かった・・・」

 涙を流しながらアニエスはニアの顔を愛おしそうに撫でる。



「うおおおんんん!よかったよぉぉぉ!」

 男共は抱き合って涙を流している。



「お兄さんのお陰だよ。本当にありがとう!名前は・・・ミールっていうのねっ?!ありがとうっミール!」



「おお!そうだそうだ。坊主!ありがとな!よし、飲むか!」

 そういうとガシッとミールの腕を掴み1階に連行していく。



「え?いや、あの、ちょっと・・・」

 ミールの言葉など全く無視してグイグイと引っ張っていき、強引に椅子に座らされた。



「さあ!俺の奢りだ!飲め飲め!」

 キラキラとした目を輝かせながら、大ジョッキ一杯に注がれた酒をミールの目の前に突きつける。



「い、頂きます・・・」

 グビッと一口。ぐええ~めっちゃ度数強いぃぃ。



「がはっはっはっ!いや~よかったよかった。酒がうまい!」

 樽から酒をくむと一気に飲み干すガウディ。こいつ・・バケモノか・・・?



「うぷぷっ」

 院長も無理矢理飲まされている。



「それにしても随分早かったのね。当初の話だと乗り合い馬車が止まってて、早くても明後日までかかるって聞いてたんだけど・・いったいどんな手をつかったの?」



 アニエスはガウディと同じ大きさのジョッキを傾けながら聞いてきた。



「いえ、急ぎだとお聞きしていたので最短距離で来ただけですっ。本当はもう少し早く着けるはずだったのですが、ちょっとトラブルに巻き込まれまして・・遅くなってしまって申し訳ないですっ」



 ミールはよそ行きの対応、ハキハキと明るく答える。



「そんな事ないわっ!てことは大きな森を突き進んだって事よねっ?!危険な道を進んでまで届けてくれたなんて嬉しいわっ!」


「いえいえ・・・結局ゴブリン相手に逃げ回ってただけですから・・・あははっ」




「偉い!!」




 ジョッキをドンっと置き叫ぶガウディ。



「気に入った!坊主!俺のPTに入らないか?!」



「へ?」

 あまりの唐突な提案に、思わず素で返事をするミール。



「ガウディ、本気?この子黄色ランクよ?」

「いや!俺はこの坊主になにか特別な光る物を感じる!きっと大丈夫だ!」

「そう。まああんたがそう言うならあたしは文句ないわ」

「俺も文句は無い」

「私も異議なーし」

「よおおっしし!決まったあ!今日から坊主はガウディ一派だっ!」

「おおおおおううぅ!」



 なんかグイグイと話が進んでいく。



「ほっほっほ。おまいさん、えらい奴に目を付けられおったな。ガウディ一派といえば大抵の冒険者が知ってる一流のPTじゃぞ。問題も多いがドラゴン討伐においては右に出る物はいないと言われておる連中じゃ、問題も多いがな」



 何故か問題が多い事を2回言う院長さん。



 しかしミールも思い出した。

 ドラゴン専門のギルドPTがあって、世界中回ってドラゴンのみを討伐しているって噂だ。本当に存在してたんだな・・・



「ええっと僕、ゴブリンも1人で倒せないんですけど・・・」



「ああ?そんなん関係なかなか!どんなに腕が立つやつでも気に入らないやつは勧誘しないし、気に入った奴はランク関係なしに勧誘する!これが俺の流儀だ!まずなにより坊主の仕事に対する心意気が気に入ったっ!黄色ランクなのにあの森を突き抜けようと考えるなんて大したもんだっ!俺はそういうチャレンジャーなヤツは大好きなんじゃっ!」



「うふふっ。まあそういうことねっ。でもあたしも気に入ったよ、もちろんいきなりドラゴン相手じゃ厳しいと思うけど、あたし達もフォローするからさ、考えてみてよっ」



「あーん?なにあまっちょろいこと言ってんだ!もう俺のPTに入るって言ってるじゃねーか!実践あるのみ!ガンガン行くぜえ!」



 ノリノリのガウディの頭をパシッっと叩きながら

「まったく、いつも言ってるでしょ!?少しは相手の都合も考えて行動しなさいって。いきなりPT入れって言われても困らせるだけじゃない。ここはどーんっと構えて、入りたくなったらいつでも言ってくれって言うのが器のデカい男のする事でしょーが」



「でもよぉ、俺はぁこの坊主気に入ったんだよお。わかるだろぉ?アニエスぅ」



 アニエスはガウディの頭を撫でながら

「よしよし。今日はとりあえず通知登録だけしときなよ。気に入ってるのはあたしも一緒。なにせニアの命の恩人だからねっ。だからこそ落ち着いて、また時間を作って話し合おうじゃない」



「わかった~・・・」

 ガウディはスネた子供のように渋々従った。



「あ、そういえばノイールに誰か連絡した?」

 アニエスは思い出したって感じで全員に尋ねる。



「あ、そういえば忘れてた」

「完全に存在を忘れておったのぉ」

「あれ?あいつどこか行ってるのか?」



 この皆さんの対応を見る限り、貧乏くじを引くタイプのようだな、ノイールさんは。



「もうっ、しょうがない人達だよ、全く」



 アニエスは呆れながら耳に手を当てて魔力を込める。するとアニエスの周りに薄い透明な膜が包み込んだ。



 アニエスはしばらくその中で誰かと会話してたが、やがて膜が引き

「ノイールも無事ガタリヤに着いたって。でも種は無かったらしく途方に暮れてたみたい。ニアの無事を知らせたら喜んでたわ。4日くらいで戻ってくるって」



 この世界では魔法で様々なことが出来る。

 以前はステータスを表示する事が出来ると説明させてもらった。



 もう一つ出来ることとして代表的な事は、このように離れている相手と会話が出来るのだ。

 簡単に言うと携帯電話。

 特定の動作と魔力を使用して、離れた相手と会話する事が可能だ。



 もちろん誰に対しても出来るわけでは無く、対象は通知登録をしている相手のみ。距離もある程度近くないと会話出来ない。

 どれくらいかというと、一つの国を越える程、離れている場合は会話するのは難しい。



 通話している間は先程のように薄い魔法膜に包まれ、会話の内容が第三者に聞かれることは無いし、相手が今通話中だということも一目瞭然わかることが出来る。



 又、特別な魔法石を使用した魔道具を家に置くことで固定電話のような使い方も出来る。こちらは距離が離れていても通話可能だ。



 ただ、こちらは数字で管理されており、完全に貴方方の世界の電話とほぼ同じ仕様となっているので、最近のもっぱらの社会問題はオレオレ詐欺や悪徳セールスだ。



「そうかいそうかい。ま、俺たちもニアの回復を待つ必要があるしなぁ。しばらくのんびりと酒に浸るとするかぁ」



「あんたは飲み過ぎなんだよっ」

 ぺしっとガウディの頭を叩くアニエス。



「あの・・ノイールさんって?」

 ミールが尋ねる。



「ああ、うちのPTのレンジャーなの。種を配達してくれるって言ったってさ、ほら・・・やっぱり失敗とかあるじゃない?だから念のためガタリヤに取りに行ってもらってたの。ま、結局全然間に合わなかったけどね」



「そうそう、俺あいついないの知らなかったもん!」

「がっはっはっは!!」



 こんな調子で結局全員朝まで飲まされ、いつのまにかテーブルや床で雑魚寝して眠ってしまったガウディ一派やミール、院長さん。



「うわあぁぁぁ!」

 翌朝、診察の時間になり患者が扉を開けると、床一面に巨大な男達が雑魚寝して寝ている姿を見て悲鳴を上げることとなるのであった。






「うー、頭イタイ・・・」

 完全に二日酔いのミールは目を半開きにしながら呟く。徹夜明けでこれはツライ。



「がっっはっは!まだまだだな坊主!男子たる者酒に負けちゃあかんでよ!」



 どういう身体の構造をしてるのだろう。ガウディは全く酒が残ってないようでお皿に大量の朝ご飯を乗せている。



 ここは診療所近くの食堂。

 バイキング形式のお店で結構朝から(といってもお昼近いが・・)客が多かった。

 院長は吐きそうな顔をしながら仕事を始めており、ガウディ一派は邪魔なので追い出された感じだ。

 もちろんニアは2階で療養している。



「ふふふっ、わたしも最初は常に二日酔いな感じでしたよっ。でも付き合わされてる間にいつのまにか飲めるようになっちゃいましたっ」



 笑顔で話しかけてくるのは、眼鏡とソバカスが印象的な回復職の女の子。

 昨日の飲み会で自己紹介もしてもらったので、ついでに紹介しておこう。

 名前はパウニー。銀ランクの修復士だ。



「いあいあ、パウニーは酒癖が悪くてねぇ。苦労したもんだよこっちは」

 2本の角の生えたヘルメットを被っている、小柄なおっさんがしみじみと言う。

 名前はボット。金ランクのハンマー使いだ。



 その横で静かに頷いているのが丸坊主の大男。

 名前をグルジャン。金ランクの重戦士だ。



「ほんっと!パウニーは酒が入ると直ぐ泣くから気をつけなよっ」

 小柄だがエネルギーに溢れた、しかし女性としての繊細さも併せ持つアニエスが笑いながら言う。金ランクの測量術士だ。



「ぐわっはっは!そうか!パウニーは飲めるようになったのか!?よーし!今度はサシで飲もうじゃないか!!」

 そしてリーダーのガウディ。金ランクのバトルマスターだ。



「ひいいいっ!」

 ガウディの提案を悲鳴で返すパウニー。

 静養しているニアは銀ランクの双剣士らしい。

 


 改めて各自のステータスに感心するミール。

 全員かなりの実力者でランクも高いのに偉そう・・・ではあるが人を見下すような感じは一切無い。

 ミールはかなり好感を持つことが出来た。



 さすがに日々ドラゴンを相手にしてるだけのことはある。



 ドラゴンクラスになると一瞬の油断が命取りだ。

 しかしこのPTは油断や慢心、そういったものが一切無いし、口では色々言っているがガウディに対して絶対の信頼を肌で感じることが出来た。



「で、どうだ?坊主!俺たちのギルドに入るか?」

 白い歯を輝かせ、もの凄くにこやかな笑顔で聞いてくる。



「いや~さすがにまだまだ僕の実力ではとても皆さんのお力になれるとは思わないので・・お話は大変有り難いのですが・・・すみません・・・」



「ぐむ~そうか・・・よしっわかった!しつこくしてもあかんからな!でも昨日アニエスが言った通りいつでも声かけてくれて構わんからな!お前は俺達の仲間を助けてくれた!つまり俺の命の恩人ってことになる!困ったことがあったらいつでも言ってくれ!」



 ガウディは男らしくそう言うとガチッと握手をする。



 その後全員と通知登録をして別れることになった。



 ガウディ達はしばらく静養してから南のクリルプリスという港町に行き、そこから別の大陸に旅立つらしい。

 正に世界を旅してる冒険者、噂通りだ。



 徹夜明けという事もあり、ミールはマルリの街でもう一泊して、十分休息を取ってからガタリヤに帰ることにした。



 本当はお姉ちゃん達がいるお店で羽を伸ばしたい所だが、今行くとガウディに鉢合わせする未来しか想像出来なかったので、煩悩を押さえ込むように毛布の中に潜り込むのだった。



         続く

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