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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑨

「くうぅぅ・・・可愛いのぉ!」

「これが!これが計算だというのか?!」

「神様!お慈悲を!」



 大広間で唯一盛り上がっているのは、リビの領主ミラージュ周辺の人達と・・・アーニャの周りの人達のみであった・・・



⇨聖女巡礼⑨




 巡礼の旅は順調に進んでいる。


 6番目の街コートピアを訪れ暫定順位の発表をされたが、1位は変わらずリビの領主ミラージュ、10位はガタリヤの街であった。



 そして、なんとリビの街を出発した後は、ずっと聖女は貴公子ペインと行動を共にしている。

 つまり、コートピアの街が晩餐会で聖女に渡す『信頼の証の贈呈』の童貞男、これを相手にせずにペインと一緒にいるのだった。



 これには各街の領主達も予想外の事で

「一体聖女様はどうされたのだ??」

「完全にあやつにべったりではないかっ!」

「なによっ!聖女様好みの男を見つけ出すのにどれ程苦労したと思ってるのよっ!忌々しいわっ、ミラージュっ!」

「そもそもあやつは以前まで、ずっと7~8位をウロウロしてたヤツじゃぞ??それが急に1位じゃと?!納得いかんっ!」

「しかし、ワシらではどうする事も出来ん・・・」



 こんな感じで嫉妬や妬み、僻みの他に、一種の諦めモードすら漂っている。

 それほどまでに完全に聖女は陥落していたのであった。




 宿営地に到着した巡礼隊は野営の準備にとりかかる。

 今回の宿営地は盆地となっていて、偶然だがアーニャ達の隊とリビの領主ミラージュの隊が隣同士でテントを設営していた。



 晩ご飯の準備でお皿を並べていたリリフの耳に、ミラージュ達の会話が聞こえてくる。



「父上」

「おおっ、ペイン!久しぶりだな!聖女はいいのか?!」


「ははは、父上。お久しぶりです。いやはや、参りました。予想以上に惚れられてしまいましたよ。少しだけ荷物を取りに行ってくる、直ぐに戻るよっと抜け出して来ましたが・・・1秒たりとも離れたくないっと相当駄々をこねられました。なので直ぐに戻らないといけません」


「がぁっはっはっはっ!それは愉快!完全にお前に惚れておるではないかっ?!正にお前の計画通りだな!ペインよっ!」


「ええ、怖いくらいハマりましたね」


「お前から聖女の相手は自分がすると言われた時は呆気に取られてしまったが。いやはや、お前の計画を聞いたときはワシは歓喜に震えたぞい」


「ええ、聖女は今まで女としての自信が無いのかもしれないと前々から思っていました。童貞ばかり狙うのもその影響だと。だからこそチャンスだとも思いました。ここで数多くの女性を虜にしてきた自分が、童貞のフリをしてそのテクニックを使えば必ず落とせると確信してましたよ。まあしかし、ここまで虜に出来るとは思ってもみませんでしたが・・・やはり童貞ばかり相手にしてきたので、本当の快楽を知らずに来たのでしょう」


「ぬはははっ。流石なりっペインよ!ザクロンのアホとは違うのっ!いや~愉快愉快。あの愚息ぐそくも始末出来たし、聖女も虜に出来たし。これで完全に序列1位はワシらじゃな!」


「全くです、父上。兄上も私達の計画通りに動いてくれました。本当にバカでアホな奴ほど簡単に行動パターンが読めて楽ですよ。まずはバカ兄貴を聖女にぶつけて頭に血を上らせ評価を下げさせる。それから私が赴き接待すれば、その評価は通常以上に跳ね上がる。まるでジャンプ台のように、深く深く沈み込めば沈む程、それだけ高く飛び上がるというものです。しかしあそこまで聖女を怒らせてくれるとは・・・兄上も最後の最後に私達の役に立てて、さぞあの世で満足している事でしょう」


「がっはっはっは。違いない!アイツには本当に苦労したが、最後はクズなりに役に立ったな。流石はペインの策じゃ」


「いえいえ、これも父上がスランデル様との裏取引を成立させて頂いたお陰ですよ。ありがとうございます、父上」

「うむうむ。さあ、聖女が待っておるぞ。最後まで気を抜くでないぞ、ペインよ」


「はっ、お任せください。しかし父上、これはチャンスです。計画を一段階早めて、聖女と結婚、そして子供を作り、国王としてこの国を収める為に前に進みましょう。領主達が動き出す前に畳みかけるのです。一気に決めてしまいましょう!」


「おおっ!なんと頼もしいやつじゃ!ワシに異論は無い!お前に任せるぞっペインよ!」

「はっ!必ずや父上の期待に応えて見せましょう!それでは、行って参ります」

「うむ!気をつけてな!」

「はっ!」



 リリフは急いで皆を集める。

「え、え??何ですかリリフ?」

「リリフ姉様っ、どうしたんですぅ?」

「なんじゃなんじゃ?また喘ぎ声でも聞こえたんかの?」

「どうしたんだい?リリフちゃん。そんなに警戒しなくても、リリフちゃんじゃないんだから、聞こえやしないよっ?」


「良いからっ!さ、アーニャ様も早く!ルイーダさん!悪いけどテントの周りを見張っててくれる?誰にも聞かれないように!」

「は、はいっ!」



 リリフはアーニャ用の大きなテントの中に皆を集めて先程の内容を小声で説明する。



「なるほどのぉ・・・」

「そういう仕組みだったのですわねぇ・・・」

「ねっ?ねっ!これを聖女様に伝えようよ!そしたらリビの領主はかなり反感を買うと思うし!ガタリヤの順位も上がるかもっ?!」

「なるほどぉっ、流石リリフ姉様ですっ!」



「・・・聖女様にお伝えするのは、今は止めておきましょう」



「ええ??どうしてですかっ?!アーニャ様!」


「今はお話しを聞く限り、かなり聖女様の心を掴んでいる様子。そんな時にこちらから動くと取り返しのつかない事態になるかもしれません」


「そんなぁ・・・私聞いたんです。間違いありませんっ。自白魔法をかけちゃえば全て暴けると思いますっ!」


「ええ、リリフさんの言うとおり、自白魔法をかけれればこちらが有利になるでしょう。しかし、かけれればの話です。恐らくかける前に止められ、こちらが処分されるでしょう。こういう場合は、ぐうの音も出ない程、一気に証拠を突きつけ片を付ける必要があります。今はまだその時期では無いという事です」


「そっか・・・」


「気持ちは分かるが、ここはアーニャ様の言う通りじゃな。ましてやナンバー3のスランデルが絡んでるとなるとおおごとじゃ。慎重にいくに越したことはないじゃろ」


「わたくしもそう思いますわ。相手はスランデルすら抱き込む事が出来て、息子に平気で手をかける奴らです。なにか有ったときの対策もしているはずですわ。焦らずに時を待ちましょう」


「そうね・・・確かにみんなの言う通りだわっ。慎重に行くことにするっ!分かった?ミール!」


「な、なんで俺に言う??」


「だってミールが1番言いそうじゃない!直ぐにケンカ売るしっ!」

「おいおい。俺ほど慎重な男はいないぜ?」


「うん!私もそう思ってたっ!巡礼に参加するまではっ!」


「わたくしもすっかりミール様はトラブルメーカーのイメージが付いてしまいましたわ」


「ブルニもミール様は普段は黙ってるくせに、相手が権力者だった場合は直ぐに余計な事を言って、みんなを危険な目に遭わせる『困ったちゃん』ってイメージですっ!」


「ぶ、ブルニちゃん・・・つれない・・・」

 思いの外、自分の評価が下がっていてガックリと肩を落とすミールであった。




 宿営地を出発した巡礼隊。


 変わらず聖女はペインにべったりで、見てるこっちまで恥ずかしくなってしまう。

 挙げ句にそろそろ次の目的地マルリの街に着こうかというタイミングで急遽きゅうきょ、巡礼とは全く関係ない温泉街ユウゼンに行きたいと駄々をこねる始末。



 立ち寄った場合、往復で2週間くらい無駄に使う事になるので、既に大幅に日程が遅れている事もあり全力で止める領主や側近達。

 ペインが今回は立ち寄るのはやめましょうと言わなかったら本当に向かっていただろう。



 この世界の温泉は貴重で湧き出ている場所は少ない。

 その数少ない温泉がルーン国には存在し他国から訪れる観光客も多いのだ。

 したがってこの国にとっては外貨を獲得出来る貴重な収入源となっていたりする。



 場所的には確かにマルリの街の南にあるにはあるが、山脈を登らなければならず道中は険しい。

 何とか口実を作ってペインと少しでも長く一緒にいたいという聖女の思惑が感じ取れてしまう。



 そんな聖女の入れ込みように苦々しい表情を浮かべる領主達。

 キーンの領主ブラトニックを中心に盛んに密談を交わすのであった。



 7番目のマルリの街に到着した巡礼隊。


 晩餐会中も、相変わらず聖女はペインにべったりで、椅子を横に並べて、仲良く食事をしている。

 一生懸命に街の報告をしている領主など、全く視界に入っていないようだ。



「で、では聖女様っ!わたくしの信頼の証、本日のお相手をご紹介させて・・」

「あー。いいのいいの、それは。こっちの品だけ貰っとくわ。これで晩餐会は終わりね?では皆さん、ご機嫌よう」


 聖女は、そそくさとペインを連れて部屋に向かおうとしている。




『お待ち下さいっ!聖女様っ!』




 そんな聖女を呼び止める者が現れた。

 なんと、領主達(キーンを中心に)が、信頼の証(童貞男)を受け取らないのは不公平だと、聖女に対して連名の嘆願書を提出したのだ。



 聖女に対して異を唱えるのは異例中の異例なので(アーニャを除く)大広間に一瞬ざわめきが起る。

 聖女もムッとした顔をするが、大勢の領主が一斉に嘆願書を提出してきたので無下にはできないようだ。



「なによ?一体なにをして欲しいのよ?」


「せ、聖女様。せめて・・・信頼の証を2つとも受け取って頂いて、その上で評価をして頂きたいのです。コートピア、そしてこのマルリの街・・・いずれも献上できておりません。何卒・・・何卒っ」

「聖女様っ、再度送らせて頂きたいですわっ」

「お願いしますっ!聖女様!」



 このままではキーンの贈り物も無駄になる可能性がある。

 それはなんとしても避けたいブラトニックが、他の領主を巻き込み嘆願書を提出したのだった。



「むぅぅ・・・」

 聖女はむくれるが、ペインがそっと助言する。



「聖女様、確かにこの者達の言う通りです。平等に対応しないと後々に聖女様自身に不利益が生じるかもしれません。ましてや今回は序列順位を決める領主にとっては大切な大事なイベントです。ここは改めて贈り物を受け取っては如何でしょうか?」



「でもペイン様っ。私は少しでも離れたくないのです・・・」


「私もですよ、聖女様。しかしこれから沢山の時を一緒に過ごせる様になる為にも、ここは我慢して対応しましょう。愛してますよ、聖女様」



「ペイン様♡・・・分かりましたわ。貴方の仰る通りに致しますわ」

 聖女とペインはお互いに見つめ合って、別れていく。



「貴方達の意見は分かりました。では、この晩餐会の日は今後、その街の領主の為に時間を割くことにしましょう。今日はこのままマルリの街の・・・そして受け取っていなかったコートピアの男も明日受け取り道中で査定します。これでよろしいかしら?」


「は、はいいっ!聖女様!ありがとうございます!」



 領主達はお礼を言うが内心穏やかでは無い。

 先程の会話は明らかに領主達とは別次元の親密さが伺える。



 聖女に対して愛を囁いて、聖女もそれに答えている。

 聖女の呼び方も『ペイン様』と呼び捨てにしていない。



 これは・・・もしかしたらそのまま結婚をするのでは?といった疑惑が領主達の間で生まれたのも丁度この時期であった。




 巡礼隊は7番目、マルリの街を出発する。


 残りは前回まで序列1位だったキーン、万年最下位のガタリヤ、そして港町のクリルプリスだ。



 現在、聖女は約束通り道中の車の中で、コートピアの童貞男と身体を重ねている。



 休憩地点では、各地の領主達が集まり作戦会議をしているようだった。

 不参加はリビの領主ミラージュとアーニャ、クラリネットのみ。全員危機感を持って意見を交わす。



「このままじゃマズイぞよ?」

「うむ。このままでは、1位の座は確定じゃな」


「どうじゃ?キーンが終わってもミラージュが1位じゃったら、ワシら全員で2位に順位融通するというのは?」



「いやいや、早まるな。これはもしかしたら聖女特権を使うかもしれんぞ?そうなったら無駄に金を失うだけじゃ」



「確かに。あの入れ込み様は異常じゃ。下手に手を出したらマズイかもしれん」

「じゃな・・しかも、最悪、夫としてミラージュの息子を迎えてしまうかもしれんぞ」


「そうなったら今後、何十年も1位の座は確定じゃないかっ!冗談じゃないよっ全く」


「今身体を重ねている童貞男が、なんとか聖女様を正気に戻してくれるのを期待するしかないのぉ」



「そんな不確定な事に全てを賭けられるか!今は一大事じゃぞ?!正直、序列1位はもはやミラージュのモノじゃろう。しかし、結婚までされたら今後のワシらの地位も安泰ではなくなるぞ?!奴が国王になったら一気に権力を使って、領主全員を交代させる事も考えられる!」



「な、なんじゃと!それはマズイ!」

「とにかく結婚だけは阻止しないとマズイわね」

「でもどうするんじゃ??」


「奴が聖女様に会うのを邪魔するのはどうじゃ?これ以上絆を深められんように!」


「会いたい会いたいモードの聖女様に今それをしたら、逆に逆鱗に触れるんじゃないか?!」

「むむー・・・確かに・・・」



「それじゃあ、ペインの悪い噂を流すとか?」



「それこそ聖女様にバレたら、スランデル様を使い噂を流した張本人を見つけ出してしまうかもしれんぞ??ワシはごめんじゃ!」


「しかし・・・オカシイとは思わんか?ペインのやつ・・・本当に童貞じゃったのか?」


「確かにそうじゃ!息子共2人は仕事もロクにせずに、女どもと遊びほうけていると以前ミラージュの口から聞いた事があるぞ!」



「ということは・・・なにか?スランデル様が・・・」



「い、嫌!ワシは嫌じゃ!よりにもよってスランデル様を敵に回すなど出来ん!」

「そうね、スランデル様を敵に回すのは得策ではないわね」

「しかし・・・それでは一体どうすれば・・・」

「もはや我々に打つ手は無いのか・・・」



 意気消沈する領主達の会話に聞き耳を立てていたリリフも落胆する。



「なにか聞こえているのですか?リリフ」

 セリーが声をかけてくる。



「うん・・・今、領主達が集まって話し合っているんだけど・・・聖女様の気持ちを変える手段は無さそうみたい。打つ手無しって感じ」



「そうでしょうねぇ。なまじ何かを言って反感を買っても嫌でしょうし。完全に目が恋してますもの。恋する乙女は盲目もうもくになるものですわ」


「そうなんだ?」


「ええ、相手の嫌な所とかは一切見えなくなるのです。そして周りから否定されればされるほど、ムキになって相手にのめり込む事もよくありますわ」


「へぇ~・・・私もミールにそうだったのかなぁ?」


「リリフはとっても分かりやすかったですわよ。ミール様をいつも見つめていましたもの。わたくしやルクリアがミール様の事を想っている事も、全く気付いておりませんでしたものね」


「うぐ・・・そうだった・・・」


「でも大きく違うのが、リリフの場合はお相手がミール様、つまりとっても素敵で紳士な超ビューティフォーなお方だったという事です。わたくし達3人が同時に行動していたという点も歯止めになっていたのかもしれません。しかし、聖女様は全く逆ですわ。相手は聖女様を利用しようとしている卑怯な男、そして聖女様に意見を言える人はいない。完全に詐欺師に引っかかる典型的なお人となっていますわ、聖女様は」


「あ~ん。じゃあどうしようもないのね・・・なんか国王になるかもって話もしてたよぉ?そしたらどーなっちゃうんだろう・・・」


「でもね、リリフ。案外そう上手くいかないのが恋ってモノなのですわ」

「えっ??どゆこと?!」


「今、聖女様は一気に燃え上がっていますわよね?」


「うんうん。それはもうまっしぐらに突き進んでいらっしゃるわ」

「得てしてそういった恋は、冷めるのも早いのです。それはもう急降下ですわ」


「へえぇ!そうなんだ!じゃあその時を狙って、あのペイントってヤツの悪事を暴けばいいのねっ!」


「ペインですわ、リリフ。領主達が言っているように他の男に抱かれたり、晩餐会の日は会わないとなれば、聖女様も少し冷静に自分を見れるかもしれませんわね」


「そっかー。とにかく待つしかないわね」

「ええ。その通りですわ」





 その夜、巡礼隊は宿営地に到着した。


 以前、ミールが街道で商人達とお茶をしたのを覚えているだろうか?

 マルリの街でガウディ達に種を配達し、帰り道にたまたま出会った商人達の事だ。

 その商人達もキーンとカルカ村から来た人達で、偶々出会ったから情報交換でもっと話をしていたと思う。



 そんな感じで、北に行くとキーンの街へ、東に行くとカルカ村へと続く街道の分かれ道で普段は人の往来も多いのだが・・・当然だが、人っ子ひとりいない。



 今回はカルカ村には寄らないので、そのまま北に進路を進み、キーンまで後ちょうど半分くらいの場所に宿営地はあったのだった。



「なんか、凄い色々と・・・人工物みたいなのがあるけど・・・これって前にミールが言っていた遺跡ってやつなのかな?」


「ああ、その通り。ここら辺は結構遺跡が多い箇所で有名だな。多分、何千年前はここは街だったのかも知れないね」


「まあっ!それはロマンがありますわねっ!今度ルクリアを連れてきてあげたいですわっ!」

「あはははっ!ルクリア姉様、とっても嬉しがると思いますっ!」



「・・・実にキョウミ深い・・・とか言ってねっ!」



「え?えっ?今のなんです?どうしたんです?リリフ姉様っ」

「・・・」



 リリフ渾身のモノマネを見事に潰すブルニ。

 リリフはブルニの真っ直ぐな瞳に恥ずかしくなり目を背けてしまう。



「さあっさあっ、2人とも!お皿を並べてくださいなっ。今夜はシチューですわよぉ!」

「あ、はぁーいっ!セリー姉様!」


「ひっひっひ。リリフちゃん、ブルニちゃんの前でボケちゃーダメよ。相手を選ばなきゃ」

「はい・・・反省してます・・・」


「おおぉぉっ!こりゃ旨そーじゃなー!」

「ホント、良い匂いー!」

「それでは、皆さん。頂きましょう」



 アーニャを囲んで食事するのも、すっかり慣れたガタリヤ隊。

 元気よく『いただきます』をして食事を取る。



 巡礼隊の中で、どの部隊よりも和気あいあいの雰囲気で食事をする姿に

「はんっ。冒険者無勢が楽しそうにしやがって」

「全く、緊張感の欠片もないな」

「聖なる巡礼を汚しやがって」

 と、未だ快く思わない人達も多かったが、この頃になると全く気にならなくなった。



「ふうぅ。身体が温まるのぉ」

「じゃな。旨い、旨い」

 ホカホカと白い蒸気が、遺跡に囲まれたガタリヤ隊を包み込む。



「ねえねえ。こんなにさー。遺跡があって・・・ミールの話だと昔って結構栄えてたんでしょ?今よりも魔法技術も上だったって言ってたし・・・てことはさー、武力っていうのかな・・・軍事力?・・・そういった兵器みたいなのも沢山有ったと思うんだけど・・・どうして滅びちゃったのかなぁ?・・・」

 リリフが、シチューをフーフーしながら、質問する。



「あ、わたくしも気になりますわっ。人口も軍事力も上だったのに絶滅寸前までいったんですわよね?謎ですわぁ・・・」

「そーなんじゃよなぁ。まぁ、今回は聖女様が各地にいるから大丈夫じゃと思うんじゃが・・・心配じゃなぁ」

「そうねぇ・・・若い頃は遠い未来の話だと思ってたけど、実際近づいてくると流石に不安だわねぇ・・・」



 どうやら、リリフ達とルチアーニ達は同じ話題で全く違う事を話しているようだ。



「え?なになに??ルチアーニさん達なにか知ってるの?」

 リリフの問いに答えたのはアーニャだった。



「リリフさん達は災厄と言うのを聞いた事がおありでしょうか?」

「災厄??」



「ええ・・・ある日、突然複数の悪魔種が現出して、世界中を恐怖に陥れる事を意味します。通常であれば悪魔種の具現化には大量の屍が必要ですが、厄災時には次々と世界中で悪魔種が具現化するようなのです。そして、およそ3000年前に大災厄が訪れ、高位の悪魔種が具現化し、人類は絶滅寸前まで追い込まれました。リリフさんが仰るように魔法技術はかなり発展しておりましたので、今では考えられない程の威力を持った兵器も数多くあったと記録が残っています。しかし、その兵器を使っても大災厄は止められなかったとの事です」


「そ、そんなに強いんですか?!悪魔種って!」


「いえ、兵器自体は通用していたようです。各地で大きな戦果を上げていました。しかし、悪魔達は次から次へと現出して、倒せど倒せど湧いてくる状態だったらしいです。兵器とて無限に使える訳ではありません。段々と消耗していき、使えなくなってくる兵器も増え、徐々に押されていったと記録されております」


「で、でもっ!とりあえず結界に入って、時間をかけて立て直せばいけそうじゃないっ??」


「リリフさん。正にそれなのです。今と昔。大きく違う点、絶滅寸前まで追い詰められた原因と言われているのが結界が無かった事なのです」


「えっ??そうなんですか?」


「ええ、結界・・・つまり聖女様が誕生したのがおよそ2500年前と言われています。大災厄が起こったのがおよそ3000年前、大災厄の原因と言われている邪神が倒されたのが聖女様が生まれた数年後だったようです。つまり、その間500年という長い年月、人々は悪魔に怯える生活を強いられていたのです」


「500年・・・長い・・・」


「そうです。最初こそ対等、いえ、むしろ押し込んでいた戦いも段々と消耗していき、押される事が多くなってきたと記述があります。完全に滅びる街や国も増えてきて世界の半分くらいが悪魔どもに滅ぼされた時、このままでは滅亡するだけだと思ったのでしょう。人間達は禁忌きんきの兵器に手を出しました」


「禁忌の兵器・・・」


「ええ。あまりに威力が大きすぎて、地形すら変えてしまう。使ったら最後、大地は汚染され生き物はそこに住めなくなるだろうと言われていた兵器です。その効果は絶大で、悪魔達をかなりの数、減らす事が出来ました。しかし・・・同時に人間達が住める場所も狭まり、汚染された大地から吹く風は疫病をもたらし、逆に人間達の滅亡を早めてしまう結果となったと言われています。現に3000年近く経った今現在も、人間が住めない不毛の地として存在しているのですから」


「ひえぇ・・・今もあるんだぁ」


「ええ、そうです。それからというもの、大部分の人々は小規模の集落を作り、大地を転々として悪魔から逃げ、隠れて生活していたらしいです。安住の地が無い為に農業に力を入れる事もできず、その日暮らしの狩猟生活だったようですね。数多く有った魔道具も修理出来なければガラクタも同然。土地を転々としなければならなかった私達のご先祖様には、魔道具を抱えて移動する余裕はありませんでした。そうして数多くの魔道具は失われ、それに伴い、知識も世代交代を繰り返す毎に少しずつ失われていったと記載されています」


「そーなんだぁ。大変だったんだなぁ、私達のご先祖様・・・」


「でも、考えようでは、よく500年もの長い間、絶滅せずに生きながらえる事が出来ましたわよね?ミール様からお聞きしたり本で読んだりしましたが、デーモンというのは想像を絶する強さだとか。とても普通の人間が敵う相手ではないと思うのですが」


「ほれ、この前話したではないかい。デーモンの特徴を」


「デーモンの特徴?・・・えっと・・・凄くツヨイ・・・」

「それはわたくしが言いましたわっ。あとあれですわっ、見た目が気持ち悪い」



「違いますよっ、姉様方っ!デーモンは生き物の負の感情を食べて成長するって言ってましたっ」



「そうじゃ、ブルニちゃん正解。つまり、人間が少なくなれば、それだけ負の感情も減る。負の感情が少なくなればデーモンは現出を維持出来なくなり、精神世界に還っていくっちゅーこっちゃな」


「なるほどぉ!てことは、敵の数も、もの凄く減ったって事ね??それで逃げ切れたのかぁー」


「あらっ?ですがアーニャ様。悪魔種には階級があるとミール様から聞いた覚えがございますわ。1つ階級が上がるだけで桁違いの強さになるのだとか。先程、高位の悪魔種が具現化したとお聞きしました。高位の悪魔種となれば想像を絶する強さなのではないでしょうか?いくら野良デーモンが減ったとはいえ、そのボス級の悪魔種がいたら普通は絶滅するのではないでしょうか?」


「ええー?それは言いすぎじゃない?いくらボスだからって1匹で世界を滅亡できるくらいの強さはないんじゃないかなぁ」


「いえ、リリフさん。セリーさんが仰るように、高位の悪魔種が1匹でも具現化したら、世界を滅亡させる事も不可能ではないようです」


「!」


「あくまで言い伝えですが、一撃で島1つを消滅させたと記述が残っています。。島がどれくらいの大きさだったかは定かではありませんが、恐ろしい威力を持っていたのは確かのようです。つまり、1時間もあればガタリヤの街を壊滅する事も可能だということです」


「えええー!そんなに凄いんですかっ?!てことは・・・ルーン国には街が10個あるから・・・えっと・・・えっ?!1日でルーン国全部破壊されちゃうって事ですかっ?!」


「ひえぇ・・ですわね」

「怖いですぅ」



「本当にそうですね。ですが、それでも人間種は絶滅しなかった。それには幾つかの要因があったようです」



「そ、それはなんですかっ?!アーニャ様っ!」



「まずは高位の悪魔種『邪神』が一切動かなくなったという事です」



「えっ??死んじゃって・・てことじゃないですよね?なんでなんで??」


「それが分からないのです。確かに邪神に深手を負わせたのは事実のようでして、先程お話しした『禁忌の兵器』を何発も何発も邪神に向かって放ったらしいです。なのでもしかしたら致命的なダメージを負わせる事ができたのかもしれません」  


「えっ?!それって、もしかしたらじゃなくて、完全に致命的ダメージを与えてますよね?動かなくなったのは瀕死だからじゃないですかっ!?」


「いえ。そうではないのです。何故なら邪神から放たれるエネルギー量。圧倒的なエネルギー反応は少しも減っていなかったと言われていますから」


「そんな・・・」


「なのでこの事実は『大厄災』の1番の謎と言われていますね。ダメージをほとんど受けてる様子はないのに、一切動かなくなった。しかし、そのお陰で人間種は絶滅をまぬがれる結果となりました。なので『禁忌の兵器』を使用した事は英雄的な決断だったと正当化する人々は多いです。そして今現在も力こそ全て、武力こそが1番の防衛能力と考え、『禁忌の力』の開発や研究に力を入れている国も幾つかあり、汚染された大地を『聖域』と呼んで崇める宗教団体などもいるのですから」


「ひえぇ・・・」



「もう1つ、大きな要因は人々が世界中に散らばっていたということでしょうか」



「??」

「え??アーニャ様っ。今も世界中に散らばってますよっ?!」


「いえ、リリフさん。そうではないのです。今はあくまでも結界内に限ってのことですよね?しかし、当時は文字通り世界中に散らばっていたのです。現在はほとんどがモンスターのテリトリーとなっておりますが、大厄災前は逆にほとんどの土地を人間達が占めてました。何故なら今よりもモンスターの数はずっと少なく、野良デーモンもほとんど具現化しない環境だったようですから。なので今現在の人口はおよそ4億人と言われていますが、当時は100億人近くいたようです」


「ひょえぇ・・正にルーン国全体が1つの街って感覚ですよねっ?!」


「その通りです。その為、人類の半数が滅亡していた状況であったとしても、壊滅度合いにはムラがあった。どうやら悪魔種というのは・・・索敵能力というのでしょうか?人間のエネルギーなどを感知できる能力は無いようで、あくまで目で追っているとのこと。なので山の裏側、峠の(ふもと)、山々に囲まれた盆地などなど。そういった場所に作られた集落は一度も悪魔種の襲撃を受けずに済んだなんて事もあったようです」


「へええ。それで絶滅しなかったのかぁ」


「とはいえほとんどの人々は大地を転々とするしかなかったようですから、かなりの苦労があったと記載されています。人口が減ったことにより悪魔種の数もかなり減少したとはいえ、魔道具も使えない状況で逃げなければならないので・・・ちょうど今と同じような状況でしょうか。極たまに野良デーモンに見つかり、人々を恐怖に陥れるといった・・・」



「ひえぇ・・・魔道具もなかったら手も足も出ないですよねぇ。そんな人達の目の前にデーモンが現出してきたらって想像するだけで怖いなぁ」



「確かにそうですね。なので我々のご先祖様達は土地を転々とする中、徐々に武器を維持が難しい魔道具から、剣や魔法へとシフトしていったようです。剣は修理がし易く持ち運びも楽。魔法は個人の魔力を使うので道具は必要ありませんから」


「え?てことは・・・昔は魔法も存在していなかったという事?」


「いえ、存在はしていたそうです。ただ使い方が魔道具を使用するのが一般的だったようで。誰でも使えるし、消費する魔力も少なくて済むし、威力も桁違いだったそうですよ?魔道具を使った場合は」


「そーだったのですわねぇ。ああん、でもわたくしはやっぱり自分の魔力でズカーンボカーンとしたいですわぁ」


「うふふ、セリーらしい。ねえ、アーニャ様。その頃ってまだ冒険者ギルドも無かった時代なんですよね?てことは適性はおろかスキルさえなかったはず・・・それなのにデーモンと戦えてたなんて凄いなぁ」



「いえ、リリフさん。それは違うかもしれません。解明されてないだけで当時の繁栄していた時から存在はしていたのではないかというのが今の定説です」



「ほえ?」


「つまり・・・例えばリリフさんのように特別に目が良い、耳が良いといった人は存在していた。今でこそスキルの影響と分かりますが当時はその概念すら無かったので、ちょっと他の人よりかは能力が高い者として片付けられていたのでしょう。何故ならそんな事に頼る必要もなく、誰でも少しの魔力を込めるだけで、今の銀ランク相当の威力を出せる魔道具が溢れていたのですから」


「なるほどぉ。てことはスキルや魔法の力だとは知らずに使えた人もいたって事ですぅ?」


「そうです。おそらく素質適性があったのでしょう。少人数ですがスキルを使いこなせる者も高威力の魔法を使える者もいたようです。何を隠そう、大厄災の邪神を倒したのもそういったスキルを使いこなせていた者達だそうですから」


「へえ!そーなんだっ!凄い!」


「ええ、本当にそうですね。なのでそういった出来事があったので、今後のため少しでもスキルや適性の解明を進めようと、人々は冒険者ギルドを立ち上げたという訳ですね」



「アーニャ様。隠れ里のような集落があるとはいえ、ほとんどの人々は大地を転々として暮らしていたと仰いましたが、そういった素質適性を所持して悪魔種を倒せるほどの実力者がいた場合は、大地に根を下ろして街のように暮らすような事はできないのでしょうか?」



「ええ、リューイ君。確かにその通りで、幾つかは住む場所を固定して農業にも力を入れる事が出来たようです。しかし、それは実力者がいるというよりかは『聖なる泉』があるって事が理由かと思います」


「聖なる泉?」



「ええ、そうです。リリフさんは村はどうやって結界を維持していると思いますか?」



「え?えっと・・・確か街は地脈で繋がってるって言ってましたよね?・・あれ?そういえば村の結界は更新しなくて良いのかしら?」


「その通りです。街の大規模結界は聖都と地脈で繋がっており、聖女様のお力の供給を受けています。しかしどの村にも巡礼は立ち寄っていないですよね?それは各村は自ら結界の力を発動させているからなのですわ」


「えっ?!自ら?!」


「そうなのです。それに大きく影響しているのが『聖なる泉』の存在です。これは世界中に点在している泉の事で、ここから湧き出る水は神聖な力を宿しており、モンスター・・・特に悪魔種に大きな影響を与えます。そして、この神聖な力は結界と非常に相性が良いのです。なのでこの力を利用して、現在は3メートルほどの大きさの結界石を『聖なる泉』の中心に置くことで、村全体をカバーできる結界を維持しているって事ですわね。もちろん永遠には使えませんが、5年ほどは交換無しでも大丈夫なほど『聖なる泉』の力は強いのです」


「ほへ〜」


「ですので、昔はこの水を村に張り巡らせるように流して、人々は安全な土地を確保していたようです。いわば結界の前身と言える役割ですね。つまり、先程『邪神』が動かなくなった事。人間達が幅広く散らばっていたこと。そして人口が減った事により悪魔種自体の数も減少した事が要因で、人類は絶滅せずに済んだとお話ししたと思いますが、世界中に点在している『聖なる泉』も絶滅回避に大きく貢献していたのですわ」


「そーなんだぁ」


「しかし、世界中に点在しているとしても結界と違って範囲は狭く、とても多くの人類を守ることは出来ません。また、『聖なる泉』は結界と違い、モンスターを弾く事も出来ません。あくまでモンスターや悪魔種が苦手な匂いを発しているイメージでしょうか?直接水に触れればダメージを受けますが、結界のように円状に展開しているわけではございませんので、飛び越えてくる事は可能なのです。そして『聖なる泉』の中心部から離れれば離れるほど効果は薄くなり、聖水はただの水になってしまいます。そのため、かなり広大に水路を広げ、城塞のようになった集落があったそうですが、そこの住民全てを飲み込み、最終形態の魔王にまで進化した悪魔種もいたようなのです」


「ひえぇ・・」

「ま、魔王・・というのは、つまり悪魔種の王・・・モノ凄く強いのではないでしょうか?」


「そうですね。これが『大厄災』の二つ目の謎と言われています。いえ。今現在の謎と言うべきでしょうか」


「今現在??」



「ええ。何故なら魔王は今も実在しているのです」



「えええっ?!今も生きてるって事ですか?!」



「その通りです。セリーさんが仰ったように魔王は大厄災の原因と言われている『邪神』と同レベルの強さを誇るようです。しかし、当時から現在まで、何故か目立った活動は確認できておりません。その気になれば邪神同様に世界を滅亡させるほどの力があるのにも関わらずです。なので、全く破壊活動を行わない魔王の行動は大厄災2つ目の謎と呼ばれています。しかし、魔王が何を考えているかは分かりませんが、警戒するに越したことはありません。なので、今現在も大聖都ハミスの観測所では常にモニタリングが行われており、その同行を監視している状況ですね」



「へええ・・・」


「つまり『聖なる泉』があるからとて油断は出来ないですし、『聖なる泉』の加護地に住める者も少数派。なので、先程も言いましたが、その他のほとんどの人々は、小規模集落を形成し、その日暮らしの狩猟生活で食い繋ぎ、悪魔種に怯える生活を強いられていました。そして出来るだけ広範囲に散らばるように周りの集落と頻繁に連絡を取り合っていたそうです。何故かというと、もし仮にデーモンに出会ってしまった場合、オトリになるべく他の集落と反対方向に逃げて少しでも人類が存続できる可能性を残す・・・といった涙ぐましい努力があったそうなのです」


「そっかぁぁ~・・・そう言う事を聞くと、この遺跡を見てるだけで感慨深いものがあるねぇ・・・」

「今、こうして一応の均衡が保たれ、少なくとも結界内では平和で暮らせているのも先人達の努力の結晶の賜物・・・ご先祖様に感謝ですわねぇ」

「ご先祖様っありがとぉっ!」



「あれ?・・・先程、ルチアーニ様は遠い未来の話だと思ってたけど、実際近づいて来ると不安だって仰ってませんでしたか?あれはどのような意味なんでしょうか?・・・」



「あら、リューイちゃん。よく覚えてたわね・・・うーん。これって今話しても良いのかしら?・・・」

「ええっ??そ、そんなに言いづらい事なんですか??」

「わしゃ、良いと思うで。どうせ遅かれ早かれ知る事になるんじゃし。ワシらの口から聞いた方がええじゃろ」

「私もお話しすべきだと思います。リリフさん達も立派な冒険者なのですから」



「まあっ・・・皆様改まって・・・緊張しますわ・・・」

「こ、怖いですぅ・・」

「ブルニ、大丈夫だ。兄ちゃんと一緒に聞こう」

「うんっ。お兄ちゃんっ!」



「それじゃあ、あたいが代表して伝えようかね。こほんっ。えーっとね、さっきの話には続きがあってね。冒険者や兵士達の間では有名な話なんだけど・・・来年から・・・て、もうあとちょっとで来年だけどね。その来年から5年くらいの間に災厄が起る可能性がめちゃくちゃ高くなるって話なのさね。確実ではないんだけど、歴史書を紐解くと一定の間隔で高位の悪魔が現出して世界に混乱を招いているって事が分かったようなのよね」


「へえぇぇー」



「その周期ってのが約300年毎。大体それくらいで複数のカントリーチームや各国の精鋭兵が対応しないと手に負えないくらいの高位悪魔が現出していると分かったのよ」



「そうなのですねぇ・・・しかし、300年毎の厄災と言っても大きな被害はこれまでは出てないようですわね?やはり結界が有ると無いとでは大きな違いがあるという事でしょうか?」


「それは確かにそうなのかもしれません。本来であれば問題無く対処できる事でしょう」

「本来なら?・・・」


「そうなのよ。実はね、最近になり新たな周期が発見されたの。それは、どうやら500年毎にも厄災が・・・それも世界中が巻き込まれるくらいの大きめの厄災が起っているらしいって事。そして・・・その500年毎の周期が来年から約5年くらいの間のようなのよね・・・」



「え??あれっ?ってことは・・・300年毎の周期と、500年毎の周期が被っているって事??」



「そうなんです・・・そして・・・実は、かつて人類が滅亡の危機に瀕した大厄災、その時も重なっていたそうなんです、周期が」

「まあっ・・・それは・・・」



「えっと・・・ごめんなさい。ブルニよく分からないですっ・・・」



「ブルニちゃん。いい?これを見てくれるかしら?」

 アーニャは落ちていた木の棒を使い、地面に数字を書き始める。


「長いのですが・・・まず300年後、次に600年後、900年、1200年、1500、1800、2100、2400、2700、3000年後。これが300年周期ですね」

「はわわぁ・・なるほどぉ・・・」 



「そして500年周期はこの600年後の前に1つ入ります。次に900年後の後に1000年が1つ、そして重なっているのがこの1500年後」

 アーニャは1500の数字をグリグリと○で囲む。



「次に2100年の前に2000年が入り、2400の後に2500が単独で入る。そして・・・ちょうど現在にあたる3000年後、ここも重なっています」

 同じく3000の数字をグリグリと○で囲むアーニャ。



「た、大変ですぅぅぅっ!」

 ようやく理解したブルニは尻尾を内側に丸めてオロオロする。



「この大厄災から500年後、ここはまだ邪神が生存していましたので、もしかしたら新たに出現はしていなかったのかもしれません。記録が無いのでなんとも言えませんが・・・次の1000年後、結界を利用し人類はようやく復興に向けて進みだし、多くの街や国が生まれました。しかし、先程お話ししたように隠れ里のような集落も多く、まだまだ結界を利用しない人も多かった。そんな時にこの強めの厄災が起り、人類は完全に結界を頼りにした街作りの方向に舵を切ったと言われています」


「そうなんだぁ・・・」


「そして1500年後・・・この大厄災後で初めて周期が重なったこの時は、東方の国の聖都の結界が破壊され、聖女様は緊急結界を発動する事態となりました」



「き、緊急結界・・・とは、どういったものでしょうか?」



「まず、結界についてですが、ご存知の通り結界には耐久性があります。その中で1番結界の強度が高いのが聖女様が直接統治している聖都なのです。その聖都の結界が破壊されたのです。どれ程の強力な敵かということが、お分かりになるかと思います。なので、当時の聖女様は代わりに緊急結界を発動しました。その緊急結界というのは、全ての存在を弾き返す、正に神の結界というべきものです。つまり、悪魔種のみならず、結界内にいた人間さえ、一度結界外に出てしまったら、再度入る事は叶わない最強の結界なのです。しかし、その範囲は狭く、通常の聖都の結界は直径10キロ程で展開されていますが、緊急結界は恐らく直径500メートル程かと思います」


「えええ?!それじゃあっ・・・ほとんどの人達は・・・」


「そうです。当時も聖都の9割以上が壊滅し聖女様は助けが来るのを、ただひたすらに・・・泣きながら待つことしか出来なかったそうです。この世界に聖女様が誕生して約2500年、聖都の結界が破壊されたのはこの時だけです。恐ろしく強い邪神だったと言われていますね」



「そ、そんな邪神によく勝てましたね・・・」



「確かに。記録では『白の騎士』と呼ばれている人物が、ほぼ1人で倒したそうです」

「ええっー!?ひ、1人で??」


「ええ。そうなのです。そして記録では3000年前の邪神を倒した時も、登場しておりますね。白い騎士様は」


「い、一体何者だったのですかっ!?」


「それが分からないのです。討伐した後に直ぐ姿を消してしまったようで・・・人々は神の使いだと言い、石像を立てて、今でも代々敬われているそうですね」



「やっぱりこの話を聞くと思い出しちゃうわねぇ。実はね、あたしらもドラゴンに襲われて絶体絶命のピンチの時に、全身を白い服で身を包んだ男に、間一髪助けられたって事があったのよ」



「そーじゃのぉ。1000年以上経過しとるわけだし・・・別人じゃと思うのだが・・・どうしても同じ人物かもしれんっと思ってしまうのぉ・・・」

「もしくは、本当に神の使徒様じゃったかもしれんしの」


「はぁ~。せめてあたしが生きている間に、お礼の1つでも言いたいわねぇ。全く、どこにいるんだか・・・」


「とりあえず・・・要約すると今後数年間は大ピンチってことですね?」


「そうです。この聖女巡礼も本当でしたら春頃に行われる予定でした。しかし、この影響で早まったのです。正に全世界が警戒する5年間になるでしょう」



「1つ付け足してもいいかい?」

 ずっと黙っていたミールがアーニャに聞く。



「あ、はいっ。ミール様・・・どうぞ・・・」

 アーニャは少しだけ顔を赤らめて頷く。


「ちょうど領主代理が書いてくれたから、ここに追加で書かせてもらう」

 ミールは3000の横に間隔を空けて6000と地面に記入する。


「よしっと。いいかい?この世界に人類が誕生してちょうど6000年だと言われている。それで重要なのが・・・分かりやすく滅亡寸前までいった大厄災を3000の所だとしよう。そして現在は6000の所だ。つまり・・・今から3000年前の大厄災の前、0の部分にも世界を揺るがす大厄災があったかもしれないって神話がある」


「え??えーと。つまり、人類が誕生したばかりの頃ってこと??」


「そうだ。そしてその時に人間の神ゼロスは大厄災を抑え込む為に、自分自身を糧にして悪魔共を封印をしたと神話があるんだ。まあ、神話の類だから信憑性は無いが・・・もし仮に、まだ誰も知らない3000という周期があった場合・・・0の所はゼロス神が悪魔供を封印しなければならない程の大厄災が起こり・・・3000の所は人類が滅亡寸前まで追い詰められた大厄災が起こり・・・そして今回の6000・・・もしかしたら今回の時代は相当ヤバい事になるかもしれない・・・そんな可能性があるらしい。ずっと前にゼロス信仰の総本山の神官から聞いた話だから、なんとも言えないけどな」


「やだ・・・怖い・・・」

「正に・・・最悪の年代って事ですわね・・・」

「お、お兄ちゃん・・・」

「ぶるに・・・」

「そりゃあ、怖いのぉ。オシッコちびりそうじゃ」

「お前のそれは年のせいじゃ」

「そんな事があるのですね・・・全く知りませんでした。ミール様、ご教授頂きありがとうございます」

「いやいや、信憑性は無いけどな」



「とにかく、今後5年間くらいは大大大大ピンチって事ねっ!」



「そんな未曾有の大災害が起った場合はタウンチームやカントリーチーム、精鋭兵が対応する事になり、わたくし達が出る幕は無いかと思いますが・・・わたくし達が強くなる事も決して無駄ではないはずですわっ!これはピッチを上げる必要がありますわねっ!」


「ブルニっ頑張りますっ!」

「ほっほっほ。良いこと言うわい。ワシらも負けてはおれんのぉ」



 盛り上がるリリフ達を尻目に、人知れず1人浮かない表情を浮かべるアーニャであった。



     続く

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