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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑧

 アーニャは皆に抱えられて馬車に乗り込む。

 馬車の中はしばらくアーニャの泣き声は続いていたが、しばらくして笑い声が多くなっていった。


 それに伴い隊列の兵士達、メイド、そして冒険者。全員の顔、表情は晴れやかだ。


 この日を境に、ガタリヤ隊の絆はより一層深まる事となる。


 ミールもフッと笑みを浮かべ、ようやくズボンを履くのであった。



⇨聖女巡礼⑧




 3時間ほど進み、巡礼の隊列はリビの街に到着した。


 すっかり日も沈み現在19時、晩餐会は20時からに変更されたとはいえ余り時間に余裕は無い。



「ではみなさん。今回もいつも通り護衛を宜しくお願いします」



 アーニャは平静を取り戻していたが、まだ瞳や頬などは赤くなっている。

 しかし圧倒的に表情は明るい。



「はいっ!アーニャ様!」

「参りましょう!」

「アーニャ様!お手々繋ぎますかぁ?」

「うふふ。お願いします、ブルニちゃん」

「はーいっ♪」

「それじゃあ、あたしらは馬車で行こうかね。お前達付いといて」

「なにをー!ルチアーニ!ズルイぞよ!」

「あははっ!ダメでーす。男子禁制でーす!」



 特にリリフ、セリー、ブルニとルチアーニ。

 この4人はすっかりアーニャの友達のようになっていた。



 このリビの街は序列8位。

 序列9位の港町クリルプリスと10位のガタリヤは聖女に反抗しているのでいつもこの順位。なので実質的に最下位なのはこのリビの街という事になる。



 街の造りも所々で破損が目立っており、ガタリヤと似ている感じだ。



 しかしガタリヤと違って人々の雰囲気は暗く、険しい。

 巡礼の隊列を苦々しい表情、嫌悪の表情で睨んでいる者も多数いた。



「あまり雰囲気がよろしくないようですわねぇ」

「リビの街は重税を課せられ、人々の暮らしは決して楽ではないそうです」


「そうなんだ・・・なんかほら、いたじゃん。小さいのに威張っているデブ。領主の息子なんだっけ?ああいう人を見ると、住民の雰囲気もうなずけるわね」

「本当ですっ。ブルニ、ああいう人大っ嫌いですぅ」


「この街の地区に入ってからだもんね、明らかに冒険者達がフィールドで遭遇して粛清されるのも。ギルドの連絡とか、末端の通知とか、そういう事をないがしろにしているんだろうね。この街の領主は」


「はああんん。ガタリヤで良かったですわぁ。アーニャ様ラブですわぁ」

「うふふ。ありがと、セリーさん」



 アーニャ達の隊列は領主の屋敷に到着する。

 屋敷内は街の住民の暮らしとは想像できない程、豪華な造りだった。

 庭の手入れも行き届き、噴水や手の込んだ彫刻が数多く置かれている。



 アーニャ達はいつも通り入り口から1番遠い場所に馬車を駐め、大広間の1番遠くのテーブルに着く。



 とにかく屋敷が凄い。


 1つ1つの装飾品、芸術品、絵画などなど。

 その全てが『豪華』の一言を主張している。



 金銀に煌びやかに光っている装飾品と、それを反射している鏡のような床。

 天井からも、これでもかと言わんばかりのシャンデリアが吊り下がっており、正直クラクラしてきそうなくらい輝きに満ちている。



「こりゃまた、もの凄い成金じゃのぉ」

「センス悪ぃ」

「こんなお金があるなら住民達に還元すればいいのにっ!ブルニ怒ってますっ」



「はっはっは。流石はアーニャ様の護衛の皆さんですなっ。わたくしも全く同意見です」



「クラリネット様。ご機嫌麗しゅう存じます」

「うんうん。アーニャ様、なにか色々あったようですが、とにかく無事で良かった。1人で抱え込まずにこの老骨にも相談してくだされよ」

「はいっありがとうございます」


「クラリネット様っ、ブルニは大好きですぅ」


「おやおや、これは嬉しい事言ってくれるね。がっはっは」

 クラリネットはブルニの頭をナデナデする。嬉しそうに尻尾を振るブルニ。



 やがて聖女も席に着き、晩餐会も終盤を迎えた。



「では!皆様っ。これより領主ミラージュ様より聖女様への信頼の証の贈呈となりますっ。ミラージュ様、よろしくお願いいたしますっ!」

 ミラージュは席を立ち、聖女の前でひざまずく。



「では聖女様、わたくしの信頼の証をお送りさせて頂きます。どうぞお納めください」



 台に置かれて運ばれてきたのはガラスケースに入った腕輪。

 透明な土台に色とりどりの宝石がちりばめられた、不思議な感じのする腕輪だった。

 腕輪自体が薄く光沢を放っているようにも見えるので、魔法の力が付与されている物だと推測出来る。



「こちらは『防心の腕輪』あらゆる精神汚染を防ぐ力が付与されております。太古の昔の遺産、非常に稀少な品でございます」


「まあっ、それは素晴らしいわ。ありがとう、ミラージュ」

「ははっー!ありがたきお言葉。では、続きまして聖女様にご紹介したい人物がおります。これ、連れてまいれ」

「はっ!」



 執事が扉の奥に下がり、退室する。

 全員が今夜のお相手を連れてくると思っていたのだが、入ってきたのは予想外の人物だった。




「父上っ!何故私が蚊帳の外なのでしょうかっ??納得できません!」




「ザクロン様っ!なりません!」

「ええいっ!邪魔だ!離せっ!」



 執事が腰に抱きつき必死に止めようとしているのだが、それを振り払いズカズカと聖女の前まで歩いて行く。

 胸に手を当て、軽く会釈する『太っちょチビ』こと領主の息子ザクロンだった。



「ザクロン!お前なにをしている!?部屋で大人しくしてろと言ったであろう!」


「何故ですか?父上!このザクロン、聖女様を必ず満足させる自信があります!このザクロンにお任せ下さい!」

「なにを馬鹿な事をいっているのだ!お前では無理だ!下がれ!」



「まあ、待ちなさい。ミラージュ。騒がしいのは嫌いだわ。この者は貴方の息子なのかしら?」



「は、はいっ、聖女様。お恥ずかしい限りです。長男のザクロンでございます」


「聖女様、是非今夜のお供はこのザクロンにお命じ下さい。必ず絶頂の世界に誘ってしんぜます」

「まあ、随分と自信満々なのね、面白いわ」


「お任せ下さい。このザクロン、今まで星の数ほど女を抱いてきました。その全ての女どもは快楽に酔いしれるのです。聖女様のお望みの未経験者ではありませんが、どうでしょう?今回はザクロンと過ごしてみては?」



 自信満々のザクロンとは対照的に、領主やザクロンのお付きのメイドと思われる女性達はオロオロしている。諌めに入りたいが聖女の手前、下手に行動も出来ない。



「ザクロン様~おやめください~」

「だめです~違うんです~」

 と小声で悲鳴を上げるしか出来ないでいる。



「うふふ。いいわ、ではまずテストをしましょう。貴方が本当に女を快楽に落とせるような人物だったら、私は今夜貴方を指名するわ。どう?」

「ははっ!ありがとうございます!お任せ下さい!」



「でも、もし貴方が女の事をなーんにも分かってない愚か者だった場合は、貴方の命をもって償ってもらうわよ?当然よね、私の時間を強引に奪って邪魔している訳だもの」



「ははははっ!いらぬ心配でございます。今まで一度たりとも満足しなかった女はおりませんので!」

「うふふ、そう、それは楽しみだわ。ロココ!こちらにいらっしゃい」

「はいっ、聖女様」



 ロココと呼ばれたメイドは聖女のもとに歩み寄る。

 いつも1番近くで聖女に仕えているメイドだった。



「貴方って男性を受け入れた事はあって?」

「いえ、初めてでございます。聖女様」

「あら、そう。それじゃあ可哀想ね。やめておこうかしら」


「いえ、私は聖女様に身も心も捧げておりますっ。どうぞ、お望みのままにご命令下さい」


「そう?分かったわ。では、ザクロン。このロココがお相手するわ。今この場でこの娘を満足させて頂戴。出来るかしら?」

「ははっ!お任せ下さい!」



 ロココは躊躇(ちゅうちょ)なくスカートを捲り上げ、下着を下ろす。

 そして椅子に腰掛け、股を開きザクロンを待ち受ける。



 ザクロンも全く躊躇なくズボンを下ろす。

 ウインナーのようなイチモツがピーンと立っている。



「いいこと?ロココは初めてだから優しくするのよ。その対応もテストに含まれるわ」

 聖女はロココの両肩に手を置き、真後ろで観戦するようだ。



「かしこまりました!私のテクをご覧下さい!」

 ザクロンはそう言うと、手を容赦なく局部に突き刺す。



「い、痛いっ!痛い!」

 ロココが悲鳴を上げる。 



「な、なんだと??い、痛い訳ないだろ?今まで誰一人そんな反応はしなかったぞ!?」

「凄く痛いです!い、痛い!」



 聖女が後ろで睨んでいる。その目つきは邪神のようだ。



「は、ははは・・・そ、そう!初めてだから慣れてないからです!で、では私のモノで満足させるとしましょう!」

 ザクロンはウインナーのような欲望を突き刺す。



「い、痛いです!痛い!いたたたっ」

「最初は誰でも痛いんだよ!直ぐに気持ちよくなるから黙ってろ!ハアハアっ!」



 ザクロンは強引にロココの胸を鷲掴みにして握りしめる。



「痛いー!胸が潰れる!取れる!」

「ハアハアっ!黙ってろ!ハアハアっ!オラオラ!」



 ザクロンは今度はロココの首を絞める。



「ぎゅえぇぇ・・・く、苦しぃ・・・」

「ハアハアっ!うっ!イク!」

 ザクロンは一方的に欲望をロココの中に注ぎ込む。



「ハアハア・・・どうだ?気持ち良かっただろ?ハアハア、お前は幸せ者だな。俺に相手してもらえたんだから」



 ロココは涙を流しながら

「げほっ、げほっ・・・もの凄い痛い!ただ痛いだけ!全く気持ちよく無いです!一方的で乱暴で!気持ち悪い!ホントに気持ち悪い!」



「な、なんだと?・・・」



「よしよし、よく頑張りましたね。貴方の忠誠は受けとりました。今度、私一推しの男を紹介するわね。それで許して頂戴」

「は、はいっ!聖女様!お役に立てて嬉しいです!」

「うふふ。ありがとう、ロココ。お陰で助かったわ」



 ロココの頭をナデナデする聖女。

 ロココの初体験は最悪な男相手だったが、聖女の役に立てて感謝された事でロココの心は幸せで満たされているようだ。ニコニコと元の場所に戻っていく。



「さてと・・・それで?お前の一体何処が凄いの?全く女性の事を考えてないじゃない」


「な、なんと??私は充分配慮しました!その者が異例なのです!別の者で再度検証して頂きたい!」




「黙れっ!クソデブッ!!」 




 聖女の怒りの怒号が大広間に鳴り響く。



「いい?!まずはあんたの手!よく自分で見てみなさいっ!爪は伸びているし、爪の中に汚れも付いてるわ!マジで最悪っ!よくもまあ、こんな不潔な手であたしの大事なロココを傷つけてくれたわねっ!」



「え・・・?えぇ?・・・」

 ザクロンは全く今まで気にしてこなかったのだろう。初めて言われる事に戸惑うばかりだ。



 対照的にロココは聖女から大事と言われた事に『キャー』と後ろで舞い上がっている。



「あとは言うまでもないけど、いきなり突き刺すなんてあり得ない!全く濡れてないのに!しかも乱暴だし、動きも一方的。そして!1番許せないのが!!首を絞める事!あんた初体験の女の子に何してんの?!マジで死ね!自惚れデブ!」



 聖女はかなりご立腹の様子。罵っても罵っても、怒りが収まらない感じだ。



「そ、そんな事は・・・そんな事は無いはずです!そ、そうだ!僕のイチモツが大きすぎて痛かったんだと思います!いつも女の子は『凄い!大きい!』って言いますから!」



「マジで死ね!死ね!死ね!死ねぇぇぇ!お世辞と本音が分からないクズ!あんたがやる相手なんてみんなメイドとか娼婦でしょ!そんな相手の言葉を鵜呑みにするバカがどこにいるのよ!アホ!」



「で、でもっ・・・」


「あーーー!めんどくせー!分かったわよ!ルゾッホ!こっちに来なさい!」

「へ?あ、はいっ!聖女様!」



 完全に油断していたルゾッホが一瞬マヌケな声を上げるが、直ぐに聖女のもとに駆け寄る。



「ルゾッホ!脱ぎなさい!見せてやりなさい!あなたのイチモツを!」

「ええええええぇぇ???わ、わたしがでございますかあ??!!」


「なによ!不満なの?!」


「い、いえ・・・その・・・皆には見えないように後ろ向きでも・・・よろしいですよね??」

「なに恥ずかしがってるのよ!・・・まあ、いいわ。このゴミデブに見せてやりなさい!」



 ルゾッホは領主達に見えないように背中を向けて、聖女とザクロンだけに見えるように局部をさらけ出す。



「ほら!あんたも脱ぎなさい!そして比べて見なさい!これが一般的な大きさなの!あんたのはウインナーよ!マジで小さすぎ!笑っちゃうわ!」



「そ・・・そんな・・・」

 ザクロンは自分のイチモツとルゾッホのイチモツを見比べて驚愕する。



「こ、この者が特別に大きいだけなのでは?!」



「はい!言うと思ったわ!絶対に言うと思った!はいっ、もうそこら辺にいる者でいいわ!ドンドンと脱いで見せてあげなさい!ミラージュ!あんたもよ!」


「ぐぅ・・・か、かしこまりましたぁ・・・聖女様・・・」 



 近くにいた兵士や執事、そして領主のミラージュが次々とイチモツをさらけ出す。

 どれもザクロンの2倍はある大きさだ。



「父上・・・そんな・・・」


「すまん・・・だから言ったのだ。お前には無理だと・・・」

 父親のイチモツを見比べて硬直してしまうザクロン。



「はいいいい!さあさあ!次はなにかしらぁ?!どんな言い訳をするのかしらぁ!」



 聖女は段々とザクロンの鼻をへし折るのが楽しくなって来たようだ。

 先程までの怒りの籠もった怒号は消え、歓喜の声を上げている。



「こ、これは・・・誤解なのです!メイド達は確かにいつも快楽に酔いしれてクタクタになっているのですから!気持ちよすぎて気絶する者もいるのです!本当です!」



「はいいいい!来ましたぁぁ!次は快楽に溺れているかって事ね!これはメイドに聞いた方が早そうね!そこでソワソワしているメイド達!こっちに来なさい!」



 ザクロンお付きのメイドと思われる女の子達を指差し、呼び寄せる。

 メイド達はオドオドしながらザクロンと聖女を交互に見ている。



「さあ!貴方達は当然このチビデブの相手をしているわよね??どうなの?!気持ちいいの?!気持ちよく無いの?!気持ち悪いの?!どっち!?」


 何故か3択になっている選択肢を迫る聖女。



「えっと・・・その・・・」

「正直に言いなさい!」


「は、はい・・・その・・・気持ちよくは・・・無いです・・・」

「どちらかというと・・・痛いです・・・いつも・・・」

「・・・いつも傷だらけになるので・・・ホント嫌でした・・・キモチワルイ・・・」



「な、なんだとおぉぉ!お前ら!ふざけんなあ!裏切る気かぁ!」



「ひぃぃっ!」

 メイドに激怒するザクロン。



「お前がふざけんなあ!ボケぇぇぇ!」

 当然聖女の逆鱗に触れる。



「聖女様!こやつらは嘘をついているのです!はめられたのです、私は!」

「はい、出たぁ!被害妄想!スランデル!出番よ!」



 聖女の呼びかけに、静かにお辞儀をして歩み寄る自白魔法士のスランデル。

 メイド達に魔力を込める。ビクッと身体が一瞬硬直して、ぼーっとした表情に変わる。



「では質問します。貴方達はザクロンの夜の営みが気持ちよかった時が1度でもありましたか?」


「・・・無いです・・・」

「・・・全く無いです・・・」

「・・・超絶痛いです・・・」



「!!!!」

 ザクロンは驚きの表情を見せる。



「快楽に酔ってクタクタになる者、失神するものがいたと言われていますが、どうなのですか?」


「・・・首を絞められて頭がぼーっとしてるだけです・・・」

「・・・あまりに強く絞められるので気絶した者もいました・・・」

「・・・気絶し過ぎて、重い障害が残った者もいました・・・」



 ザクロンはワナワナと震えている。小声でブツブツとなにかを言っており、現実逃避をしているようだ。



「では最後に、何故正直に言わなかったのですか?」


「・・・子供の頃から・・・否定したり、間違いを正したりすると激怒する方だったので・・・言えませんでした・・・ごめんなさい」

「何人か本当の事を言った子がいましたが・・・もの凄い暴力を受けて人前に立てないような姿にされていました・・・」

「勘違いさせるしか・・・私達の助かる道はありませんでした・・・」



 スランデルは魔力を解く。フッと正気に戻るメイド達は、直ぐにゲホゲホと咳き込む。



「貴方達、もう良いわよ。貴方達にも責任が無いとは言えないけど、今回は不問にします。どう考えてもコイツの頭がオカシイもの」



 聖女の言葉にホッとするメイド達は、涙目になりながらも安堵の表情を浮かべ、小走りで元の位置に戻る。

 ザクロンは床の一点を見つめたまま放心状態のようだ。

 


「ザクロン」

 聖女の呼びかけにビクッと反応する。



「さぁてっと・・・私はそろそろ飽きてきたわ。まだ他に言い訳があって?」



「・・・そんな・・・俺に限って・・・違う・・・アイツらが悪いんだ・・・俺は悪くない・・・」

 ブツブツと震えながらなにかを喋っているザクロン。



「ミラージュ」

「はっ!聖女様!」


「一応貴方の息子らしいから聞いとくけど・・・殺しても良いかしら?」



 聖女の言葉に再びビクッとするザクロン。

 先程と違うのが父親と聖女を交互に見て、泣きそうな顔をしている。



「はっ。この度は誠に申し訳ございません。例え息子といえど、許されざる事をしたと思っております。聖女様の思うがままの処分をお命じ下さいませ」



「ち、父上ぇー!私を見捨てるおつもりですか!お願いです!父上!助けて下さいっ!死にたくないですっ!ちちうえーーーー!」



 ザクロンは大粒の涙を流しながら土下座をし、父親の足にしがみつく。

 しかしミラージュはそんな息子を蹴り飛ばし、引き離す。



「ええい!離せっ!ワシは何度も警告したはずだっ!何度もだっ!もう2度と勝手な真似はしないと何度も何度も約束させた!その度に約束を破り裏切ったのはお前ではないか!お前のような者にリビの街は任せられんっ!精々あの世で悔やむがいい!」



「ち、ちちうえぇぇ!も、もう2度とっ!もう2度と勝手な事はしまぜんっ!約束します〜!おねがいしばすっ!ちぢうべぇ〜!」



 泣きじゃくり悲鳴を上げるザクロンは何度も何度も父親の足にしがみつくが、その度に蹴り飛ばされ、振り解かれる。



「聖女様、何処で執行されますか?お望みならば今直ぐに此処で処分いたしますが」



「そうね。久しぶりにここまでアホな奴に出会ったし。私も予想外に怒りが込み上げて来ちゃったしね。かなりストレスを受けたから早くスッキリする為に、今此処で処分しましょう。ただ、血が出るのはダメよ。汚いもの」



「はっ!では自決袋がございますので、こちらを使わせていただきます。おいっ!自決袋を持ってまいれっ!」



「いやじゃぁぁ~!たずけでーぇー!」 



 ザクロンは兵士に抱えられ、両手を後ろに縛られた。

 そして泣き叫ぶザクロンの頭にズボッと透明な袋が被せられる。するとパアッと首の当たりが光り、ギュッと首に密着、密閉した。



 ザクロンは床に転げ、もの凄い勢いで、のたうち回る。えび反りになったり、丸まったり、回転したり、ジャンプしたり。



 領主達の方面に逃げようとしたらミラージュが蹴り飛ばし、聖女の方面に逃げようとしたらロココが回し蹴りをし、入り口方面に逃げようとしたらメイド達が思いっきりぶん殴って元の位置に戻されている。



 完全に四面楚歌状態だ。



 ザクロンは何とか袋を外そうと試みているようだが全く効果が無く、透明な袋は息で白く曇ってきた。

 何か大声で叫んでいるようだが、袋を被せられているのでよく聞こえない。


 段々と動きも小さくなり・・・やがて完全に動かなくなる。



「ふんっ、いい気味」

 聖女は満足そうな表情を浮かべ、ワインを飲み干す。



「さてと、ミラージュ。飛んだ邪魔が入ったけれど、本命はどこにいるのかしら?」

「ははっ。只今っ。これ、ペインを呼んで参れっ!」

「はっ」



 しばらくして広間に現れたのはスラリとした男。

 なんと、領主ミラージュと共にアーニャ達のもとに現れた、ザクロンと同じ服装なのに顔は雲泥の差の貴公子のような顔をした男だったのだ。



「あら、イケメンね」

 聖女も思わず頬を赤らめる。ドストライクのようだ。



「聖女様っ。こちらは我が息子、ペインでございます。以後お見知り置きの程を」


「へえぇぇ。貴方にこの様な息子がいたとはね。悪いけど先程のチビデブを見ちゃったからロクな奴がいないと思ってしまっていたわ、ごめんなさい」


「ははは。とんでもございません。ザクロンの弟になりますが、こちらは全く手を焼くことなく育ちました。兄が良い反面教師になったのかもしれませんな」

「うふふ。それはそうかもね。さあ、ペイン。こちらにいらっしゃい」



「はっ。本日はこのような若輩者にまでお慈悲を頂きありがとうございます」

 ペインは聖女の前でスッとひざまずく。



「声も素敵ね。うふふ。気に入ったわ。さあ、参りましょう」


「え?せ、聖女様、ご確認はよろしいのでしょうか??」

 ミラージュが遠慮がちに声をかける。



「あら?そうでしたわ。あのチビデブのせいでスッカリ調子が狂ってしまったようです。スランデル、よろしく」

「は、聖女様」



 後ろに控えていた自白魔法士のスランデルは、いつもと同じように貴公子ペインに魔法をかける。ビクッとペインの身体が震え、ぼーっとした表情に変わった。



「あら??」

 1番遠い席、9~10番目の領主のテーブルにいたリリフが疑問の声を上げる。



「ん?どうしたんだ??リリフ」

「あ、んとね。えっと・・・なんか違くない?いつもと・・・」

「そうか??」

「わたくしにも分かりませんわ」

「ブルニもいつもと同じにしか見えませんっ」

「なにが違うように見えるんじゃい?リリフちゃんや」


「えっと・・・魔法の光が・・・いつもとちょっと違うなーって気がして・・・」


「へぇぇー。そうなんですぅ?」

「もぐもぐ、全く分かりませんわっ。あと、これ凄く美味しいですわっ!」

「あはは。気のせいかもしれない。ごめんごめん」



「いや、多分違うんだろう」

「え?ミールにも分かった?!」



「いや、残念だが俺は全く興味が無かったから見てなかったんだ。だけどリリフが言うんだから多分違うんだろう。こういう事に関してはリリフの目や直感はかなり信用できると俺は思っているからな」



「えへへぇ。わーい」

 リリフは満面に笑みを浮かべてニコニコしている。



「あわわぁ。アーニャ様ぁ、拗ねちゃダメですぅ。ブルニが付いてますからっ」

 ブルニはアーニャのもとに駆け寄り、手を握る。



「ひょえっ??あ、べ、べべべべべべつに拗ねてなんてないわよぉ。ぶ、ブルニちゃーん」

 引きつった笑顔で対応するアーニャ。



「ふええぇん。アーニャ様が嘘ついてるよぉぉ。ヨチヨチですっアーニャ様っ。元気だしてくださいぃ」



 耳をしゅんと折りたたんで、本当に心配しているブルニ。

 精一杯背伸びをして、アーニャの頭を撫でようとしている。



「あ、あの・・・ありがと、ブルニちゃん・・・大丈夫だから・・・」



 アーニャはしゃがみ込んでブルニの頭を撫でる。

 お互いにナデナデしているような奇妙な感じになってしまった。



「アーニャ様、ミール様が興味ないからって気を落とさないでくださいっ」

「うぐっ!・・・あはは・・だ、大丈夫よ・・・」



「ブルニも最初は怖かったけど、実はとっても優しい方だって後で気付いたんですぅ。抱きしめられた時は、ぽわぁ~ってしちゃいましたっ」

「ぐはっ!・・・だ、だきしめ・・・」



「はいっ、あとは・・・その・・恥ずかしいですけど・・えっちもとても優しくて・・・いたたたっ!痛いですぅ!アーニャ様ぁ!」

 アーニャは無意識にブルニの耳を掴み、ねじる。



「あらぁ?ごめんあそばせぇ。ブルニちゃ~ん?ちょっと黙ってましょーかねぇ?」



「いたたたっ!は、はいいぃぃ!お、お兄ちゃん!助けてぇ~」

 ブルニは両耳を掴まれ身動きが取れず、兄に救いを求める。



 しかしリューイは冷たい目で

「ブルニ。お前が悪い・・・」



「そんなぁぁ!お兄ちゃーーぁーん!」

 ブルニのピンチに誰も助けに入ろうとはしなかったのであった。




 そんなやり取りの最中も尋問は続いており、見事童貞の男で聖女を崇拝している者と認定できた。


「うーん!最高ねっ!あのチビデブのせいでストレス溜まったけど、今夜は素敵な夜になりそうだわっ!」

「精一杯尽くさせて頂きます、聖女様」



 聖女とペインは奥の部屋へと消えていき、メイドと近衛騎士も後に続いていった。



「へえー。あのイケメンってホントに童貞だったんだ。凄いわね」

「世の中にはいるもんじゃなー。草食系男子ってとこかのぉ」

「俺と同じだな」

「はて?誰かのうわごとが聞こえるのぉ」

「ミール様はどちらかというと雑食系ですわねっ。なんでも食べてしまいますわっ」

「あらそうなの?今晩おばちゃんとどう??」


「げっ・・・あははは・・・そういえば序列発表っていつ行われるんだい?」


「明日の朝です。出発前にこの大広間に集められ、全員の前で発表されると聞いています」

「ほほ~それはそれは」



 そこに執事がやってきて

「アーニャ様、お部屋の準備が整いました。お連れの方々もどうぞこちらへ」

 いつものように、来賓用一部屋、従者用が二部屋だ。



「それじゃあ、ワシらも休むとするかの」

「そうですね」

「今日は誰が当番じゃったかの?セリーちゃんとミケルからじゃったか?」



「あっ!それでは、本日はわたくし達女性陣が見張りを行うというのはどうでしょうか?」



「あ、良いわねっ。前してもらったし、お返しお返し」

「ほほー。そりゃ助かるのぉ」

「まあ!来賓用のお部屋、かなり広いですわねっ。ベットもキングサイズがお2つもっ」



「あー!そうだ!良いこと思いついたぁ!ねえねぇ、どうせならさ。アーニャ様も含めてパジャマパーティーしない??一緒にいれば護衛にもなるしっ。このキングサイズのベットを2つくっつけてさ。みんな乗れると思うんだよねっ」



「わあっ、パジャマパーティーしたいですぅ」

「ぱ、ぱじゃまぱーてぃーとは・・・なんでしょうか?」

「アーニャ様、パジャマパーティーとはそのままの意味で、寝間着を着てベットでみんなで語り合うんですっ!」

「まあ、そうなのね」

「そ、そんな・・・アーニャ様と一緒のベットなど・・・」


「あ、そうですよね・・・そういえばそうだった・・・アーニャ様普通に接してくれるから領主様だって忘れちゃってたわ。えへへ」


「いえいえ、全く気にしません。むしろご一緒してください。凄く楽しそう」

「ええー!?ホントですかぁっ。やったー!」

「さあ、ルイーダさんも強制参加ですわっ!」

「ほ、ホントですかぁ??い、いいのでしょうか・・・」

「ええ、ルイーダ。一緒に寝ましょ」

「はいいっ!アーニャ様!」

「うふふ。ルイーダさん嬉しそう」

「ブルニも嬉しいですぅ」 



 そうしてこの夜は大盛り上がりで恋バナ(主にアーニャの)に花を咲かせた女の子達だった。




 翌朝、早々と朝食を済ませたアーニャ達だったが、大広間に集まった時には既に半数ほどの領主が集まっていた。

 全員がソワソワしていて、落ち着きが無い。



「いよいよですねぇ」

「これって全員の順位が発表になるのですよね?まだ巡礼が通過していない街でも」


「ええ、そうです。あくまで暫定ですので。ちなみに・・・過去60年間、暫定順位でさえガタリヤが10位以外を取った事はありませんわ」


「おふっ。そりゃぁ凄いのぉ」

「今年で変えて見せましょうっアーニャ様!」

「ブルニっ、精一杯応援しますっ!」


「がっはっはっは。ガタリヤの皆さんはいつも仲がよろしいですなぁ」

「あっ、クラリネット様、おはようございます」


「ああ、アーニャ様。おはよう。さてさて、どうやら順位の事で悩んでおられるご様子。しかし安心なされよ。いざとなったらこのクラリネットが順位融通して差し上げよう。もちろん無条件でだ。今年でガタリヤの最下位脱出は確定じゃな。がっはっはっは」


「おおおっ!そりゃ凄いのぉ!」

「ということは??とりあえずの『最下位とったら領主の座が危ういピンチだぜ』は、なんとか免れるという事でございますねっ。素晴らしいですわっ!」

「ブルニ、クラリネット様だーいすきっ!」


「がっはっはっは。デトリアスは(かたく)なに拒んできたからのぉ。しかしアーニャ様。今回は今までとは違う。最下位をとったら領主剥奪の可能性があるそうじゃないか?それはなんとしても避けねばならん。このクラリネット、力になりましょうぞ」


「ありがとうございます。クラリネット様。非常に心強く、そして嬉しく存じます。しかし・・・貴族連中は恐らくお祖父様とクラリネット様の仲を存じているはず。例えクラリネット様が順位融通をして頂けても、私を追い出せるように何か策を講じているはずです。今回の巡礼はガタリヤのみの力で最下位を脱出しなければ、この難局は抜け出せないと私は考えております。だからこそ・・・なんとかしなければ・・・」


「ふむ・・・確かにアーニャ様の言う事も一理ありますな。よろしい、しかしいつでも私は貴方の味方だ。それは忘れないでくだされ」


「はい。心から、深く御礼申し上げます」

 アーニャはスカートの裾を持ち上げ、美しくお礼を述べる。




「聖女様のご入室ですっ!」

 執事が大きな声で知らせる。大広間全体に緊張の空気が流れた。



 領主達も、その護衛の衛兵達も、リリフ達冒険者達も、メイドや従者、側近の者なども、緊張の面持ちで聖女が入ってくる扉を見つめている。



 しかし・・・



 入ってきた聖女はなんとも緊張感のない様子で歩いてきた。それをみて領主達もポカーンとしてしまうのだった。



 どういう事か?



 実は、聖女と昨日一緒に過ごしたと思われる、このリビの領主ミラージュの息子、貴公子ペインの腕に自分の腕を絡ませて、お互いが見つめ合って入ってきたのだ。



 簡単にいうと、2人はラブラブ状態で入ってきた。

 付き合って間も無い2人が、初めて身体を重ねて、お互いの心を確認できた感じ。

 頭の中が相手の事でいっぱいな感じ。

 片時も離れたくない、イチャイチャしたい、他の事などどーでもいいって感じ。

 そういった『バカップル』状態で大広間に登場したのだから驚きなのだ。



 もちろん、今までも一夜を重ねた男を翌日も呼び出し、逢瀬を重ねた事は何回かあった。

 しかし、朝からここまでベッタリな状態でいたことなど、今回の巡礼で1番長く巡礼に参加しているクラリネットでさえ見たことは無かった。



「こ、これは・・・一体??・・・」

「完全に目がハートマークですわっ。♡ですわっ!」

「あわわわぁ。聖女様がぁ・・・とろーんってしちゃってますぅ」

「ありゃりゃ。こりゃ完全に陥落しておるのぉ」

「以前の聖女様の威厳は見る影もないねぇ」



 ザワザワが収まらない大広間。

 聖女はペインの腕にしがみつきながら、執事に目配せをする。



「はっ!では、現在の暫定順位を発表します!」



 筒状になっている大きな紙を持って入ってくる2人の従者。

 聖女の横に立ち、一段高くなっている土台に上がる。

 両サイドで紙を支えて、一気に皆に見えるように紙を解放した。

 バババッと全員が紙の前に集結する。



1位 リビの街 ミラージュ

2位 フローゲンの街 ミミレバ

3位 カタロスの街 クロン

10位 ガタリヤの街 アーニャ



 結果を見て、領主達のため息や安堵の声、悔しさなどが入り交じった空気に包まれる大広間。



「やっぱり・・・最下位ね・・・」

「でも仕方ありませんわっ。まだなにもしてませんものっ、これからですわっ」



「そうですっ!何気にアーニャ様が色々と問題を起こしてますが、これからですっ!」



「うぐっ!・・・」

 アーニャは胸を押さえてビクッとなる。



「ほえっ??アーニャ様っ、お腹が痛いんですかっ?!大丈夫ですかっ??」

「だ、大丈夫よ・・・ブルニちゃん・・・おほほほほ」



 その光景を見ながらリリフが呟く。



「なんか最近・・・ブルニちゃんがワザと言ってるんじゃないかって思っちゃうんだけど・・・」

「あ、わたくしもそれ思ってましたわっ!」


「今度内緒でラインリッヒ様に自白魔法をかけてもらいますか?ワザと言ってるのかは明らかになると思います」


「あ、なるほどねっ!」

「あら?リューイ。貴方の大切な大切な妹を疑うのですか?」


「いえ、兄としても妹の失言には悩まされておりまして。大切なブルニに失言イメージが付くのは看過出来ない自体です。なんとしても直したい。その為には、今現在の状態を知っておく必要があると思った次第です」


「なるほどねぇ。お兄ちゃんは人知れず妹の為に頑張ってるって事だわね。エライねぇ」



「イヤ!待て待て待てっ!もしも、もしもじゃよ?仮に自白魔法をかけて・・・その・・・ブルニちゃんがワザと言ってたと証明しちまったら・・・ワシはイヤじゃ!そんなブルニちゃん見とうないっ!」



「そうじゃそうじゃ!ブラックブルニなんて知りたくもない!今のままでいいんじゃ!じゃないとワシ・・・泣いてしまう」



「確かに・・・開けてはいけないフタのような気がするわね・・・」



 リリフ達がジイッと、アーニャの背中を一生懸命さすっているブルニを分析していると、当のブルニは視線に気付き『?』と首を傾げる。



「くうぅぅ・・・可愛いのぉ!」

「これが!これが計算だというのか?!」

「神様!お慈悲を!」



 大広間で唯一盛り上がっているのは、リビの領主ミラージュ周辺の人達と・・・アーニャの周りの人達のみであった・・・



       続く

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