聖女巡礼⑦
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
オルゼンは何度も何度も頭を下げる。
そして・・・
リビの部隊が到着した。
⇨聖女巡礼⑦
「おらおらおらあぁぁ!お前らあ!なにしてんだ!」
怒号にも似た大声で威圧してくる男。
身長は小柄だが丸々と太り、見るからに横柄な態度が見て取れる。
服装からして、かなりの身分の者だと想像出来る格好だ。
「やれやれ。アーニャ殿、いったい何時になったらゴミを処分するのですかな?あまり手間を取らせないで頂きたい」
今度は口ひげを生やした痩せ型の中年男性。
勲章が沢山付いた軍服を着ている。
どうやら予想に反して、リビの領主ミラージュ自らが部隊の指揮を執っているようだ。
その横には、こちらも身分の高い者と想像できる服装をした男性。
先程の『太っちょチビ』とは大違いで、スラリと伸びた身長に貴公子のような顔が乗っかっている。
「ミラージュ様、お手数をおかけして申し訳ございません。ですがこちらの男性はわたくしガタリヤの部隊が保護致しました。聖女様へ面会を申請します」
「バッカじゃねーの!アホ領主が!!聖女様が面会する訳ねーだろーが!父上!この生意気な小娘を処分する命令を下さい!」
どうやら太っちょチビは領主の息子だったようだ。
かなり辛辣な言葉を平気で言っている。
随分と傲慢で横柄な性格のようだ。
「まあ待て、ザクロン。して・・・アーニャ殿、ご自身が何を言っているのかお分かりでしょうな?聖女様の巡礼に泥を塗る、汚す行為ですぞ?」
「この者は冒険者ではありません。そして動機は純粋に子供を思ってのこと。巡礼を汚す行為であるとは思えませんわ」
「はっはっは。これは異な事を申される。我々の行動を阻害する行為、これ全てが重罪人の罪。これは全世界共通の認識です。これ以上かばい立てをするといくらアーニャ殿であっても容赦はしませんぞ?」
「全員!構えっ!」
太っちょチビの号令に抜刀するリビの騎士達。
それに呼応するようにアーニャの近衛兵、リリフ達も武器を構え身構える。
「おやめなさい」
アーニャはそんな近衛兵達の前に立ち手で制する。
「貴方達が無駄に命を落とす必要はありません。私1人で十分。ミラージュ様、私の命をお預けします。聖女様にご面会をお願いします」
これには流石にミラージュを始め、リビの部隊全員が驚いたようだ。
たった1人の平民の為に領主代理が命を捨てる覚悟だというのだ。
「ふははははっは!流石はあのデトリアスの孫だけの事はある!良いでしょう!ではまず貴方の覚悟を見せて頂きたい!その場で服を脱ぎなさい。そうすれば聖女様への面会も一考しましょう。貴方は命を預けると言った。これくらいなんともないでしょうな?」
「卑怯者・・・」
アーニャはクッと唇を噛みしめ、拳を握る。
しばらく地面をみて考えるが、やがてゆっくりと肩に手をかける。
バサッ
上着が地面に落ちる。
「アーニャ様っ!」
止めに入ろうとしたリリフにミラージュは叫ぶ。
「邪魔をしたらその時点でこの話は終わりだ!分かったな!」
「私は大丈夫です・・・そこで見ていてください・・・」
気丈に振る舞うが声が若干震えていた。
頬は高揚し、目は涙を浮かべ充血している。
悔しさが、どうにもならない悔しさが、なんの力も無い自分への悔しさが込み上げてきているようだ。
ジーッと背中のファスナーを降ろす音。
ワンピースを着ていたアーニャの身体から服が滑り落ちる。
「アーニャ様ぁぁ・・・」
いつも側にいるメイドのルイーダも泣きそうな声を出す。
アーニャの華奢だがとても綺麗な、美しい裸体が夕陽に照らされた。
「脱ぎました。約束通りご面会をお願いします」
「バカがあ!全部だ!下着も全部脱げ!」
「そうだそうだ!」
「はやく脱げ!」
太っちょチビも騎士達もヤンヤヤンヤの大喝采。
それだけアーニャの裸体に興奮しているようで、食い入るように凝視している。
アーニャは震える手を後ろに回し、ブラのホックに手をかけた。
「・・・っ!」
バサアッとアーニャの視界が遮られる。
気付くとミールがアーニャに綺麗な純白のマントを被せていた。
「すみませーん。ここからは有料でーすっっ」
ヘラヘラと笑いながらミールはアーニャを背中に隠す。
アーニャはミールの背中に包まれながら、庇ってくれた事に顔を赤らめた。
「なんだ貴様あ!良いところを邪魔しやがってえぇ!」
「そうだそうだ!」
「ふざけんなあぁ!!」
あとちょっとって所で邪魔をされ、ご立腹の皆さんは罵声を浴びせてくる。
「み、ミールさま・・・」
ミールはクルッとアーニャの肩に手を置き
「悪いが領主代理。俺はあんたの護衛だ。つまりあんたがボスだ。ボスを矢面に立たせて全てを見ているだけってのは性に合わないんでね」
そして今度は騒ぎまくっている太っちょチビ連中に対して
「あ、ご不満ですかあ??それじゃあしょーがないなぁ。僕の裸で勘弁してもらえますぅ?」
ミールは躊躇なくズルっとズボンを下げる。
「ぎゃははははっ。そうじゃそうじゃ!ワシも脱ごうかのっ!」
それに続けとロイヤーやラウンドルップがズボンを下げる。
「お詫びじゃしょうがないのおっ!ホレホレホレ!」
ノリノリで下半身だけ露出するミール達。まるで変質者だっ!
「おえええええぇぇ!」
「ふざけんなあ!」
「気持ち悪いもんみせんじゃねー!」
ミール達は肩を組んで『象さーん、象さーん、おーはなが長いのねー』っと横にブラブラさせながら歌っている。
「ええい!くそ!自分も行くであります!」
トール隊長も隊列に加わる。
それを皮切りに近衛兵達が次々と下半身を露出させながら歌っている。
「あはははっ!おっかしー!」
「凄い光景ですわっ!是非前からじっくり拝見したいものですっ!」
「アーニャ様っ」
その隙にメイドのルイーダはアーニャに駆け寄り服を整える。
「あ・・・待って・・・ルイーダ、そのマントは・・・そのまま着用してもいいかしら?」
ルイーダはニッコリと笑い、アーニャにマントをかけてあげる。
「初めての贈り物ですわね」
「うん・・・」
アーニャはマントの端をギュッと握りしめ、愛おしそうにかみしめるのであった。
「ええい!我らを侮辱した罪!万死に値する!覚悟は出来てるんだろうな!」
一方、こちらはかなりご立腹だ。
太っちょチビが勢いに任せて剣を抜くが、ミールは冷静に言い放つ。
「おいおいおい、それはこっちの台詞だ。俺らのボスをよくも辱めてくれたな。幸いこの場所にいるのはほぼ同数だ。死ぬ覚悟が出来てるんならかかってこい。チビデブ」
ミールの鋭い眼光に太っちょチビのザクロンは、あからさまに怯む。
こういう威張り腐っている奴ほど、いざっというとき頼りないものだ。
「お、おおおおまおまお前っ!なななにを言ってるのか分かってるのかっ!?そんな事したら全員死罪だぞ!」
「俺達が死罪になる前にお前は死ぬけどな?確実に殺すぜ?」
「ひ、ひいぃ・・・ち、父上っ!」
「さあ、リビの領主。どうする?ここで一戦交えても良いが俺たちは激戦をくぐり抜けてきている冒険者だぜ?少なくともお前らの命は必ず取る。あんたの希望している覚悟とやらは十分証明できたはずだ。なにも俺たちも事を荒立てようとは思っていない。大人しく聖女に取り次いでくれないか?その後で俺たちに罪をなすりつければいい。わざわざ危ない橋を渡ることもあるまい?」
かなりカッコいい台詞を吐いているが下半身は丸出しだ。
領主のミラージュは隣の貴公子と何やらヒソヒソ会話をしたが、しばらくして
「おい、聖女様に取り次ぎのお伺いをしてこい」
「はっ!」
低い声で苦々しく命令する。
しかし・・・
「その必要はないわっ」
驚いて振り向くと、そこには多くのメイドと騎士を引き連れて、聖女が優雅に佇んでいた。
その場にいる全員・・・ではなくミールを除いた全員がひれ伏す。
「貴様あ!またお前かぁ!なんなんだっその姿は?!聖女様の御前であるぞ!頭を下げよ!」
案の定、食いついてくるルゾッホ将軍。
「え~。俺は領主代理の『個人的』な護衛ですから。領主代理の命令しか聞きませーん」
「なんだとおぉぉ!」
「ミール、頭を下げなさい」
アーニャは静かに命令する。
「・・・はぁ~い」
ミールはふて腐れながらひざまずく。
もちろんガタリヤの男衆は全員下半身露出したままだっ!
「ふふふ。アーニャ。随分と威勢の良い男を飼っているじゃない?」
「は、ありがとうございます」
「それにしても・・・」
聖女はグルッと辺りを見渡し、クククッと小声で笑い出す。
段々とその声は大きくなり、仕舞いにはお腹を抱えて笑い出した。
「あーっはっはっはっはっ!なによこれぇ!なんで全員下半身丸出しなのぉ!ウケるー!」
ヒイヒイと涙を流しながら笑っている所を見ると、どうやらツボに入ったようだ。
「なによっアーニャ!あんた随分と性欲強いのねっ!こんな大勢を相手にするなんてっ!あっははっっはっは!苦し~!お腹イタイ」
パンパンと手を叩きながら大笑いの聖女様。
ひとしきり笑った聖女は満足したのか、アーニャを問いただす。
「さあて、アーニャ。いったい何があったの?説明なさい」
「はっ。実は・・・」
アーニャは詳細を聖女に説明する。
「ふーん。それで?その平民ってのはどいつよ?」
「はっ、こちらに」
アーニャがオルゼンの手を握り連れてくる。
オルゼンは1度も顔を上げることなく、ビクビクと土下座をしまくっている。
「貴方がアーニャがいう平民ね?」
「ははっー!聖女様!」
「あなた教師なんですってね?だったら分かるわよね?ルールを守るって。貴方の自己中な行動で、こうして無関係なアーニャ達が困っているんだけど?結局自分さえよければいいって事なのね?」
「そ、そのような事は滅相にもございません!」
「でも実際困らせてるじゃない?」
「は、はいっ!どうしても子供が・・・子供を助けたくて・・・も、申し訳ございません!」
「子供をダシにするんじゃないわよ。結局自分の子供が助かれば他の人がどうなってもいいって事でしょ?いい?貴方が自分の子供優先で行動したから、もしかしたらガタリヤの罪の無い子供達が大勢犠牲になる所なのよ?分かるわよね?」
「そ、それは・・・」
「誰だって子供を助けたいわよ。でもそのためにルールを破っていいって事にはならないわ。貴方は自分の事しか考えず行動した。そうよね?」
「は、はい・・・」
「それじゃあ私は自分さえよければ他人が大勢死のうがどうでもいいクソ野郎ですって大声で三回言いなさい」
「・・・・」
「早く!」
「わ、わたしは・・・自分さえよければ・・・他人が大勢・・死のうが・・どうでもいいクソ人間です・・」
「もっと大きな声で!」
「わ、わたしは!自分さえよければ他人が大勢死のうか関係ないクソ人間です!」
「もう一度!」
「私は自分さえよければ他人が死のうが知ったこっちゃないクソ人間です!」
「はい、よく出来ました。ルゾッホ、この男と家族を処分しなさい」
「ははっ」
「はいはい。これでこの話は終わりー!早くしないと日が暮れるわ!」
クルッと後ろを向き、去って行こうとする聖女をアーニャが止める。
「お待ち下さいっ聖女様!」
聖女はゆっくりと半身だけ振り向くが、目はいつもの悪戯っぽさが無い。
「アーニャ。私が折角穏便に済ませてあげてるのに、本当に呼び止めるの?今回は貴方達の予想外の姿が面白かったから特別に不問にしてあげようと思ってるんだけど?本当に呼び止めるの?それはガタリヤの為になるの?貴方の命を賭けてする事なの?たかが平民1人、しかもガタリヤには全く関係ない平民の為に・・・もう一度言うわ、本当に呼び止めるの?アーニャ」
アーニャはガクガクと足が震えているのを必死に隠す。
立っているだけでやっとだ。
身体中の毛穴が収縮し、鳥肌が立っているのが分かる。
ブルブルとマントを握りしめる手も震えていた。
怖い。
とてつもなく怖い。
周りのメイドもリリフ達も近衛兵達もアーニャを心配そうに見つめている。
トール隊長は必死に小刻みに首を横に振っている。
『ダメです!呼び止めないでください!アーニャ様!』
その表情はそう言っていた。
自分の小さなプライドの為にみんなを犠牲にするわけにはいかない。
ガタリヤの民の為にも、ここは声を上げてはならない。
やり過ごそう。
聖女様の言う通りだ。
ルールを破って行動する方が悪いのだ。
アーニャは瞳を閉じ、すーっと深呼吸する。
すると子供の頃の光景が目に浮かんできた。
あれはまだアーニャが5才の頃。
「おじいさまぁー!」
お転婆なアーニャは元気にデトリアスの執務室の扉を開け、中に入っていく。
「アーニャ様ぁっ!なりません!」
慌てて後ろからメイドが追っかけてきた。
普段険しい表情をしているデトリアスだったが、孫娘の前だけは表情が緩む。
「おや、アーニャ。よく来たねぇ。どうしたのかなー?」
デトリアスはアーニャを優しい瞳で出迎えながら、メイドを手で制する。
メイドは『申し訳ございません!』と全身で表しながら、深くお辞儀をして部屋を出ていった。
アーニャはデトリアスの膝にガシッとしがみつく。
まだまだ小さいアーニャは、椅子に座ったデトリアスの太ももに顔を乗せるだけで精一杯だ。
「あのねあのねっ。きょー、きぞくのこたちがあそびにきたのぉ」
「おお、そうかい。仲良く遊べたかなぁ?」
「うんとねっ、なんかみんなえらそーなのっ。めいどたちにね、あれをもってこいとか、あれをしろ、これをしろとかめーれーするのっ。あーにゃね、みんなだいすきなの。コレラはいつもやさしくおほんをよんでくれるし、サファイアはおうたをうたってくれるの。だからあーにゃ、めーれーしないでって、やさしくしてっていったの。そしたらみんなふしぎそうなかおをするのっ。なんでかなぁ?」
「はっはっは。そうかいそうかい。アーニャはみんなと仲良くしたいんだねっ?アーニャは偉いなぁ」
「ホント?あーにゃえらい?」
「ああっ、本当だ。アーニャは偉いぞ。自慢の娘だ」
デトリアスはニコニコしているアーニャの頭を優しく撫でる。
「やったーぁ。やっぱりあのこたちがまちがってるんだぁ。こんどあったらおしえてあげよっと」
「アーニャ、それは違う。アーニャは偉いが貴族の子供達が間違っている訳では無いんだよ」
「えええ!?しょんなぁ・・・」
さっきまでのニコニコ笑顔から打って変わって、泣きそうな顔になるアーニャ。
「いいかい?アーニャ。世の中にはね、生まれた時から人の上に立ち、命令できる者がいるのさ。それが貴族だ。だから貴族の子供達がメイドに命令するのは自然な事なんだよ」
「でもっ、あーにゃはみんなとなかよくしたいのっ」
「ああ、そうだ。アーニャは正しい。間違ってるのはこの仕組み、ルールなんだ。だけど仕組みやルールを変えるのは凄く大変なんだ。じいちゃんも頑張っているが難しい。とても難しいんだよ、アーニャ」
アーニャはぴょんっとデトリアスの太ももから降りて、笑顔で宣言する。
「だったらわたしがかえてみせるわっ!そしておじいさまをたすけるのっ!みんななかよくしなさいっていうの!こまってるひとをたすけるのっ!だっておじいさまやコレラやサファイアといつまでもなかよくしたいものっ!」
「そうか。うんうん、そうかそうか。そしたらじいちゃんも助かるな!じゃあアーニャ。1つ覚えておいてくれ。ルールを変えるのはとても大変なんだ。もの凄い力が必要だし、もの凄い反発もあるだろう。だから・・・」
『どんな事にも負けない鋼の信念を持つことだ』
アーニャは呆然と立ち尽くしていた。自分でも気付いていない涙を流しながら。
「で?どうなの、アーニャ。呼び止めるの?呼び止めないの?」
聖女は答えを急かす。
キッと聖女を見るアーニャの瞳には決意の光が灯っていた。
「呼び止めます、聖女様」
聖女はゆっくりとしっかりアーニャの方に向き直る。
まるで重い鉄の扉が閉まっていくような感じがした。
もう戻れない、後戻り出来ないといった感情に押しつぶされそうになる。
「それで?どんな要件で呼び止めたのかしら?アーニャ」
「はい・・・」
ギュッとマントを握りしめる。
――お願い、力を貸して――
アーニャは決意の表情で語り出す。
「聖女様、聖女巡礼が大切な行事だということは分かります。しかし、巡礼の側で戦闘したからって処刑するのは間違いではないでしょうか?地面に伏しているのにも関わらず、少し動いただけで処刑するのは間違いではないでしょうか?一般民すらその対象になるのは間違いではないでしょうか?なにか特別な・・・今回のオルゼンのように、命に関わるような事情、または新しく命が産まれる場合は特別に通過を許可すべきと愚考いたします」
「ふーん」
聖女は少し面白そうに笑みを浮かべアーニャを見る。
「バカがっ!冒険者共などに近寄られたら巡礼が汚れるわっ!」
早速噛みついてくるルゾッホ将軍。
「それは何故ですか?」
「何故だと??そんなのは常識じゃっ!ずっとそうやって来ただろうが!」
「つまり・・・ルゾッホ将軍は特に何も考えずに、代々のシキタリのまま行動したということですね?」
「な、なんだ??それが悪いっていうのか?!ずっと昔から、それこそ世界中で同じやり方で行われておる!誰も不満に思ってなぞおらんわっ!」
「その考えこそが、間違いなのです。不満はみんな思っています。声を上げれないだけなのです。権力の力でねじ伏せているからなのです。そもそも冒険者が汚れた存在な訳がありません。むしろ兵士よりも実力が上な者達が大勢います。モンスター討伐も冒険者の方がずっと多いでしょう。この世界は冒険者達によって支えられているといっても過言ではありません。なのに何故汚れた存在などと言えるのでしょうか?それは自分達は特別だと示したい一部の権力者が作り上げた妄想に過ぎません。少しくらい兵士が上の立場としてもいいでしょう。誇りを持って国を守っているのですから。しかし、近くで戦ったから、少し動いたからといって殺されるのはあまりにも理不尽です」
聖女は黙って聞いている。
沈黙がまるで針のむしろのように突き刺さってくる。
「それで?アーニャはどうしたいの?」
「ま、まず・・・この一般民を解放してあげてください。そして、今後は自分達に敵意を向けていない者に対しては穏便な対応を望みます」
「あーっはっはっはっはっ!無理よー!無理!そんな事したら私が他の聖女に目をつけられるじゃないっ!折角暗愚の聖女って言われるくらいグータラできる生活を手に入れたのにっ。私はね、このままで良いのっ。テキトーに聖女してるくらいがちょうど良いのっ」
夢も希望もない言葉を口にする聖女。
「で、ですが聖女様・・・」
「あーんもうっ。無理ったら無理!そういう事は自分が聖女になったらすればいいわ。私を巻き込まないで頂戴っ」
「・・・」
聖女の言葉に言い返す事が出来ないアーニャ。
その通りだ、自分が変えなければならないのに、聖女に頼りっぱなしだ。
聖女の心、考え方を変える事が最善手のような気がするが、とても変えれそうにない。
この事実にアーニャは黙ってしまう。
「でも、アーニャ。貴方はそれじゃあ納得できないのよね?じゃあ私と取引しましょう」
「と、取引ですか?」
「ええ、順位融通と言ってもいいわ。私と順位融通の取引をしましょう」
「せ、聖女様と・・・いったい何を差し出せば?・・・」
「ふふふ。貴方の望みはこの平民を助けることなのよね?考え方とか仕組みとかを変える事は出来ないけど、その平民1人くらい救ってあげる事は出来てよ?」
そしてゆっくりとアーニャの周りを歩き出す。
「私はその平民を救う。その代わり、アーニャ。貴方の順位はずっと最下位よ。この先どんなに頑張っても、もの凄いレアな品を収めても、超絶イケメンを用意しても。何年経っても何十年経ってもずっと最下位、どう?」
「・・・くっ・・・」
ガタリヤの最下位が確定する。それはすなわち、アーニャが領主代理の座を追われる可能性が限りなく高くなるという事を意味する。
今回の件も、よりにもよって聖女に異論を唱えているのだ。
聖女様の印象が悪いアーニャよりかは別の者を立てた方が良いだろうと思う者も多くいるだろう。
しかも聖女はずっとアーニャは最下位と宣言している。
強力なカリスマ性で最下位のまま安定して統治していたデトリアスとは違い、まだ確固たる地位を確立していないアーニャには、流石に貴族連中を押さえ込む事はまず不可能だろう。
アーニャは唇を噛みしめてうつむく。
その間も聖女はゆっくりとアーニャの周りを回る。
「さあ、どうするのかしら?私はどちらでも構わなくてよ?この平民を助けて最下位で巡礼を終えるのか。この平民を見殺しにして、今まで通り巡礼に参加し、順位が上がる可能性を残すのか。貴族の反感を買っている貴方が、最下位をとるという事がどういう意味か・・・当然分かるわよね?貴方次第よ、アーニャ」
「わ、わた・・・わたし・・・は・・・」
アーニャの目から大量の涙が溢れてくる。
この世界を変えたい。
理不尽に虐げられる人々を救いたい。
子供の頃から思ってきた願い。
お祖父様の言葉にあったように鋼の信念を貫かねば・・・
だけど、それをしたら私は領主では無くなる。
どっちが正解なの?
私はどうすれば良いの?
そんな思いに押し潰され、涙が次々と溢れてくる。
「・・・ぁ・・うぅ・・・」
言葉を発する事も怖い。なにかを言えば全てが終わってしまう気がするからだ。
ガクガクと足が震えてくる。
やがて、アーニャの涙は嗚咽へと変わっていく。
「えっぐっ!・・・え・・ひっぐっ・・っ・・・」
まるで子供のように泣きじゃくってしまう。
皆さんはアーニャが聖女をカッコよく論破するのを予想していただろうか?
せっかくラノベを読んでいるのだから、少しでも溜飲が下がるのを期待しているだろうか?
もちろん私も出来る事なら皆さんが喜んで頂けるような事を書きたいモノだが・・・
しかし、1番最初に記載させて頂いた通り、この話はフィクションではなく実際に起こった事実を書いているに過ぎない。
残念ながら都合の良い展開にならない事も多いということを改めてお伝えしよう。
「アーニャ様っ!」
リリフが堪らずアーニャに駆け寄り抱き締める。
抱きしめたその身体はあまりにか弱く、この華奢な身体でどれだけの重圧を受け止めてきたのかと想像するとリリフも胸が締め付けられる思いだ。
セリーもブルニもルチアーニもメイドのルイーダも、アーニャに駆け寄り抱きしめる。
「アーニャ様っ!1人で抱えないでっ!私達はいつも側にいるからっ!」
「そうですわっ!わたくし達にも辛い思いを分けてくださいましっ!」
「アーニャ様ぁぁ!うぇ〜んっ!あーにぁさまぁっ!」
ロイヤーがオルゼンのもとに駆け寄り土下座をする。
「すまんっ!お主の気持ちは痛い程分かるっ!分かるがここは死んでくれっ!ワシを恨んでくれて構わんっ!だがこれ以上は無理じゃっ!すまんっ!ワシらの為にその命を捧げてくれっ!」
ラウンドルップもミケルもトール隊長も、衛兵達も。
全員土下座をして頼み込む。
「頼むぅ!」
「申し訳ないっ!」
「お前の事は俺は忘れないっ!」
「お願いだっ!死んでくれっ!」
当のオルゼンは涙を流しながら、土下座する皆んなに言葉をかける。
「こちらこそ・・・本当にありがとうございました。私の身勝手な行動に・・・ここまで尽くして頂きありがとうございました。アーニャ様、苦しい思いをさせてしまい申し訳ございません」
アーニャは嗚咽しながら、精一杯首を横に振る。
「なんと素晴らしい人達なのでしょう。私はもし生まれ変わったら、必ずガタリヤに住む事にします。皆様の事は感謝こそすれ、恨む事などございません。本当にありがとうございました」
オルゼンは聖女の前にひざまずく。
「聖女様、私の身勝手な行動で、お手間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。この命で償わさせて頂きます」
「そ」
聖女はさして興味がない感じで、ルゾッホを見る。
ルゾッホは頷き、前に出て剣を構える。
「すまんー!」
「許してくれぇ!」
「申し訳ねー!」
ルゾッホが剣を上に振りかぶり、力を込める。
悲鳴にも似た声や涙が最高潮になっている場面。
その場にいた誰しもが感情の高ぶりを感じる。
そんな中、オルゼンの横で腕組みしながら立っていたミールから、あり得ないほどノンビリとした声がする。
「オルゼンさんってどこの村出身なの?」
えっ??!今??そんな事聞く??
誰もが虚をつかれたというか、拍子抜けしてしまったというか。
剣を構えているルゾッホ将軍も力が抜けてしまった。
「な?な、なんじゃっ!お前はアホか!今そんな事は関係なかろうっ!」
「ルゾッホ。いいから早くしなさい」
「はっ!申し訳ございません!」
ルゾッホは再び剣を構える。
「へぇ〜。良いのかい?本当に?あんたは聞いた方が良いと思うよ?」
「冒険者、口の利き方に気をつけなさい。アーニャの護衛であっても殺すわよ?」
「ふ~ん。まあ、良いけど?あとで後悔しても知らないよ?」
「貴様ぁ!聖女様になんたる口の利き方だ!お前から始末してやる!」
いきりたつルゾッホを聖女が止める。
「ふふふ。面白いじゃない。私にそんな口を利くなんて久しく記憶にないわ。いいでしょう。それじゃあお望み通り聞いてあげようじゃない・・・そのかわりっ!後悔しなかったら貴方が命を持って償うのよ?いいわね?」
「はあ?やだよ。馬鹿じゃねーの?何でそんなんで命を賭けなきゃならないんだ。アホくさ」
アーニャもリリフ達も衛兵達も。
先程までの感情はすっかり鳴りを潜め、聖女に対してここまでの無礼な言葉使いをするミールにハラハラ感が沸き起こる。
『聖女様を怒らせてどーすんだ!』
『これ、上手くいっても丸く収まらないんじゃ?・・・』
『ミールのアホぉぉ!』
そんな口に出せない気持ちが全員の顔にでる。
聖女は眉間にシワを寄せ、プルプルと震えている。
ここまでコケにされた事など聖女になってから一度も無い。
しかし・・・それが逆に新鮮だったのか、妙に怒りは込み上げてこなかった。
しいて言うなら気の合う友達同士でイヤミの応酬をしているような感じに似ている。
「ま、まあいいわ、貴方の処分は後でするとして・・・まずは平民。貴方の出身を教えなさい」
「は、はいっ聖女様!私はピダカウ村出身ですっ!」
オルゼンの言葉に、明らかにビクっとする聖女。
しばらく無言で動かない。
「聖女様?」
ルゾッホが不思議がり、声をかける。
「貴方の・・・名前は?・・・名乗りなさい」
一般的なマナーとして、身分が高い者は相手のステータスを見る魔力は使わず、相手から名乗らせるのが普通だ。
「はっはいっ!私はオルゼン・クックロースと申します!」
「・・・そう・・・」
聖女は一言そう呟く。
心なしか力が抜けているというか、慈愛に満ちた言い方に聞こえた。
「ターナー」
「・・・」
聖女が誰かの名前を呼んだが返答は無い。
「ターナー!」
「!へ?!ああああっ!はいっ!聖女様っ!!」
後ろで箱を持っていたメイドが大慌てで聖女のもとに駆け寄る。
まさか、自分が呼ばれるとは夢にも思ってなかったのであろう。
「お待たせしましたっ!聖女様っ!」
ターナーは聖女の前で箱を抱えてひざまずく。
「箱を開けて」
「はいっ!」
ターナーは箱を開け、中身が聖女によく見えるように箱を持ち上げる。
箱には数々の煌びやかな宝石が綺麗に並べてあった。
恐らく聖女が朝に身支度を整える時、使用されている宝石箱なのであろう。
聖女はしばらく宝石を見ながら悩んでいたが、1つのブローチを手に取る。
大きな青い宝石が目を引く、素晴らしい装飾品だった。
「ターナー、これは売ると幾らくらいになるのかしら?」
「へ??えっと・・・それは稀少なブルーサファイアですので・・・最低5000万グルドはすると思われますです、はい」
「そう、それじゃあこれにしましょう。ありがとう、下がって良いわよ」
「は、はいっ」
いつもの聖女だったらこんな穏やかに会話していない。
お礼など言われたのも初めてだったので、少々面食らった感じのターナーは急いで後ろに下がり、ピシッと整列しなおす。
聖女はオルゼンのもとに歩み寄り、膝を折る。
「!」
誰しもがその光景に驚いた。
聖女様が・・・地面に膝をついておられる・・・
そんなザワザワとした雰囲気の中、聖女は優しく語りかける。
「これを差し上げます。売って治療費に当てなさい」
「え?!そ、そんな!このような高価な品は受け取れません!」
「良いのよ。これで子供を救えるなら安いものだわ」
そう言うと、立ち上がりその場全員に聞こえるように声を張る。
「この平民、オルゼン・クックロースは聖女の名のもと保護します。以降危害を加える事は厳禁、いいわね?」
「せ、聖女様っ??えっとそれは・・・この者を逃がすということですか?!」
「それ以外にあるの?ルゾッホ」
「い、いえ!失礼致しました!ご命令承りましたっ!」
ルゾッホが敬礼すると、他の兵士達も併せて敬礼する。
「ミラージュ」
「はっ!聖女様!」
「この者を街まで送りなさい。そしてしばらく護衛する事。いいわね?もし、この者になにかあった場合は貴方に責任を取って貰います。くれぐれもいい加減な気持ちで行わないように」
「は、はいっ!かしこまりました!聖女様!」
「では行きなさい。子供を大切にね、オルゼン」
「あ、ありがとうございますっ。ありがとうございますっ。このご恩は一生忘れません。もしお金が余ったら必ずお返しに伺います」
「そんな事はしなくていいわ・・・そうね、もしお金が余ったら・・・他の子供達の為に使いなさい。使い道は貴方に任せるわ。さあ、早く行きなさい。子供が待ってるわよ」
「は、はいぃぃ・・ありがとうございますぅ・・うぅ・・」
オルゼンは涙を流しながら馬に乗せられ、リビの街へ向かった。
「アーニャ、貴方の処分も見送ります。これからも巡礼に参加しなさい。さあ、すっかり日も暮れてしまったわ。行きましょう」
聖女は車に戻ろうとするが、ピタッと立ち止まり
「冒険者・・・貴方の言う通りだったわね。しゃくだけど」
「そう言ったろ?」
「口の利き方に気をつけなさい・・・」
聖女は少し笑みを浮かべて立ち去っていく。
「ぶはあぁぁぁあぁ・・」
「ひいぃぃぃ・・・」
「た、助かったあぁぁ・・」
「なんじゃ・・・聖女巡礼ってこんなに寿命が縮まる行事なのか?」
それぞれが命があったことにホッとして、安堵する。
「ぐしゅっ・・・み、みなさん・・・ごめんなさい・・ひっくっ・・・」
「そんな事ない。そんな事ないわ。アーニャ様。ホントよく頑張ったよ」
ルチアーニに頭を撫でられているアーニャを見ると、本当の親子のようだった。
「今回も・・・結果オーライって感じなのかのぉ?」
「全く生きた心地がしなかったですわっ。ミール様は身体に毒ですわっ!」
「全くヒヤヒヤしたぞえ。聖女様にタメ口とかありえんじゃろ!」
クタクタと地面に座り込んでミールに文句を言う面々。
まるでデジャヴだ。
「ははは。嫌いなんすよ、ああいう権力を使って偉そうにしてる奴らは」
「それは分かるけどさっ。いくら何でも限度ってものがあるじゃないっ!聖女様にケンカを売るなんてぇぇ・・・信じられないっ!」
リリフも珍しくお冠だ。
「でもぉ、聖女様は何故、人が変わったようになっちゃったんでしょうか?」
「そうそう。私もそれが気になったわ。どうしてなのかしら?」
「出身地と名前が関係あるのかのぉ」
「聖女の出身地がピダカウ村なんすよ」
「へええ!そうなんだっ?!」
「初耳じゃのぉ!」
「ビックリですぅ」
「でも変ですわね。聖女様の出身地だったら、聖地になってたり・・・ちょっとした観光名所になっている気がするのですが・・・全く聞きませんわね、そういった話」
「確かにねぇ。ちょっと妙だわねぇ」
「あと、名前も聞いてたわよね。名前はなんだろ?」
「昔お世話になった方とか?ああん、でも180年程前の事なんですものね?聖女に成られたのが」
「クックロースってのが聖女の旧姓なんだよ。今はルーン・スワイラル7世だけどね」
「!」
「そうなのか?!なるほど!どうりで!」
「それもビックリですぅ!」
「え?てとこは・・・家族?親戚って事??」
「さあね、俺も詳しくは知らないんだけど、昔色々あったって事は聞いた事あるよ。結構揉めたらしい。だから聖女の出身地とか名前は伏せられて、時代と共に隠蔽されてきたってことみたいだな。聖女自身も関わろうとしてなかったようだしね」
「へええ・・・」
「クックロースって性を名乗っているんだから、何かしらの血筋なんだろうね。聖女が感心を持つかは賭けだったけど、一か八かで上手くいったよ。どうやら、血筋に恨みがある訳じゃなさそーだな。ああいう対応をしてるのを見ると」
「そっかぁ・・・え??・・てことは・・・ミールも知らなかったって事??危なかったじゃんっ!もし聖女様がクックロースの血筋なんて知らないってなってたり、恨んでいたりしてたらヤバかったって事でしょ??」
「うんうん、そうだね」
「もー!そうだねっじゃなーぁーい!ミール、少しは自重してよねっ!」
「うふふ。リリフに言われたらお終いですわよ?ミール様」
「あははは・・・」
そんな会話をしていると、ようやくアーニャも落ち着きを取り戻す。
「ミール様。そしてみなさん。本当にご迷惑をおかけしました・・・結局なにも出来ず、なにも変えられずに終わってしまいました・・・私に領主代理の資格があるのでしょうか・・・」
「そんな・・・アーニャ様・・・」
「アーニャ様は頑張ったよぉ。あたしゃ見直したよ。まるでデトリアスのジジイを見ているようだったわ」
「そうでしょうか?・・・お祖父様なら何かしらの結果を出せている気がします。私はただ・・・取り乱して泣くことしか出来ませんでした・・・情けないです・・・」
「泣くことは悪い事じゃないぞよ?な、なあ。ロイヤーよ」
「お、おうっ。そうじゃ。そうじゃ。なにせ涙は女の武器じゃからなっ」
「泣くことで事態の収拾を図ろうとする者を私は軽蔑していたのに・・・まさか自分がそうなるとは・・・思ってもいませんでした・・・」
「お、おぅ・・・」
「で、でもっ・・・ちゃんと結果が出たじゃないですかっ。素晴らしい事ですわっ」
「全てミール様が解決してくださった事です。私は悪戯にみなさん・・・ガタリヤの住民の皆さんを含めて、危険な目に遭わせるだけ遭わせてなにも出来ませんでした・・・しかもその理由は幼い頃から抱いていた世界の仕組みを変えたいといった個人的な思いを優先した結果なのです。結局自分の想いも貫き通せない、いざとなると泣いてしまう弱い人間だったのです、私は・・・」
「・・・」
完全にネガティブモードのアーニャは励ませば励ますほど、ドンドン深みにはまっていく。
「アーニャ様・・・そろそろ・・・」
トール隊長が遠慮気味に語りかける。巡礼の隊列も動き出し、皆リビの街目指して歩き出していた。
「分かりました。参りましょう・・・」
アーニャは浮かない表情で馬車に乗り込もうとする。
「アーニャ」
ミールがアーニャに声をかける。
記憶が確かなら、ミールが領主代理の事を名前で呼んだのは初めてだ。
アーニャは頬を染めながら振り向く。
「世の中には結果を出せなければ意味が無いという人と結果が全てじゃないって人がいる。俺はどっちも正解だと思うし、どっちも不正解だとも思う。結果が出ればなにをしてもいいって事でも無いし、最初から結果が出ない事の言い訳として内容が大事、挑戦する事が大事と言うのも違うと思っている。しかし、本気で結果を出そうと奔走し、挑戦した者は例え結果が出なかったとしても俺は拍手を送りたいし称えたい。今回のアーニャは確かに結果が出なかっただろう。自分の信念を貫き通せなかった悔いも残っているんだろう。だが、本気で変えよう、変えるんだという決意は確かに俺たちの心に刻まれた。オルゼンが死を覚悟した時の言葉、覚えてるよな?生まれ変わったらガタリヤの住民になりたい。こんな言葉を出させた者が領主の資格がないとは俺は思えないけどな。少なくとも俺は気に入ってるぜ、ガタリヤの街」
アーニャはガクッと膝を折り、地面にお尻をくっつけて泣き崩れる。
「うわあああぁぁんんんんっ!うわあああぁぁーーーんん!もう泣かないって決めたのにぃぃぃっ!うええぇぇーーんん!!」
涙を隠そうともせずに大声で泣いてしまうアーニャ。
そんなアーニャを優しく包み込むガタリヤの部隊。
「ほれほれ、折角の美人が台無しじゃぞ。はよ馬車に乗らんか」
「リビの街に着くまであたしらが一緒に馬車に乗ろうかね?リリフちゃん、セリーちゃん、ブルニちゃん。おいでおいで」
「はーいっ。さ、アーニャ様。行きましょっ!」
「わたくしがお化粧を直してしんぜますわ」
「ブルニに掴まってくださいっ」
「うえええぇぇぇーんん!」
アーニャは皆に抱えられて馬車に乗り込む。
馬車の中はしばらくアーニャの泣き声は続いていたが、しばらくして笑い声が多くなっていった。
それに伴い隊列の兵士達、メイド、そして冒険者。全員の顔、表情は晴れやかだ。
この日を境に、ガタリヤ隊の絆はより一層深まる事となる。
ミールもフッと笑みを浮かべ、ようやくズボンを履くのであった。
続く




