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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼⑤

「アーニャ様、こちらに」

 メイドが簡易の椅子を用意したので、ミールは支えながらアーニャを座らせた。

 アーニャは椅子の上で借りてきた猫のようになっている。


 その様子を微笑ましい顔で見守るガタリヤの皆さん。

 唯一、リリフだけは不満げにぷく~と頬を膨らましているのであった。



⇨聖女巡礼⑤




 しばらくして兵士達が動きだし、聖女巡礼が始まった。

 最初の目的地は北東のカタロスの街。その領主の兵士が先導を担当する。



 ゴゴゴゴゴ・・・



 低い振動音が東門から流れてくる。



 何事かと見ると、まるでカボチャの馬車のような、大きくて、丸い車が街道を進んでいた。



 え?車?馬車じゃないの?と思われた方もいるかも知れないが、その通り。

 聖女が乗っているのは、完全に自立して動いている『自動車』のようだった。



 前方に操縦席があり、運転手が2人確認出来る。

 4輪で少し大きめのキャンピングカーのような感じ。

 カボチャのような円形の形をしており、窓は付いてはいるがスモークのようなものが貼られており、外から中をうかがい知る事は出来ないようだ。

 スピードはゆっくりで徒歩でも十分併走出来そうだった。



「え?!あれって・・・どうやって動いてるの??」

「初めて見るのぉ」

「私も初めて見ます」

 アーニャすら見たことないらしい。



「あれは多分古代の遺跡『魔動車』だろう。何十年も前にドルグレムで発掘されていたが、当時は複製は無理って言われてた代物だね。数年前に初めて複製が成功したって聞いてたけど、まだまだ数は少ないはずだよ。世界序列下位のこの国がよく入手できたなぁ」



「そ、そうなのですね・・・ご教授ありがとうございます。ミール様」

「ドルグレムってグレービー様が行っていた街ですわね」

「遺跡??ねえねえ、ミール。遺跡ってなに??」



「リリフは知らないのか。かつてこの世界は魔力で道を自動で走ったり、空を飛んだり、水の中に潜ったりする魔道具が溢れていたんだよ。今よりもずっと魔法技術が進んでいたのさ。しかし、およそ3000年くらい前に、悪魔種の台頭で人類は絶滅寸前にまで追い込まれてしまった。その時に技術も知恵も全て衰退し失われてしまったんだ。だから今は遺跡になった古代の魔道具を発掘して、使えるように研究し活用してるって事。あの魔動車も魔力で動いているはずだよ」



「へええ!そうなんだぁ!凄い詳しいっ!」


「ドルグレムに知り合いがいてね。ちょくちょく情報を貰ってたりするんだ。だけど、流石に魔道車が出てくるとは思ってなかったなぁ」



「ドルグレムとは魔法技術が凄く進んでいる国ですわよね??」



「そうそう、ドルグレムには数多くの遺跡が発掘されててね。その影響で魔法技術が発展していったってとこかな。今のリリフ達が行ったら軽いカルチャーショックになると思うよ。街中が凄すぎて」


「ふえええぇぇ・・・1度行ってみたいなぁ・・・」



 そんな会話をしていると、ガタリヤ隊が出発する順番となった。

 聖女から言われた通り、最後尾だ。

 そこに出立式進行役のクロップが馬に乗って駆け寄ってくる。



「アーニャ様、こちらの国旗を掲げて進んで頂きますよう、よろしくお願いいたします」

「分かりました。ありがとうございます」

「はっ!ではお気を付けていってらっしゃいませ!」



 トール隊長が国旗を受け取り、掲げる。



「ではみなさん。なんとかスタート地点に立つことが出来ましたが、ここからが本番です。気を抜かずに進みましょう。よろしくお願いいたします」



「はっ!」

 そうして聖女巡礼がいよいよ始まるのであった。





 長い長い隊列が街道を進む。


 それぞれ各街の兵士達が1000人前後、聖都の精鋭兵も約1000人前後、合計1万強くらい。

 それに加えて、その兵士達を賄う荷馬車、お世話するメイドや従者、料理人などもいる。

 およそ全長2キロ程の大行列だった。



 当然だが、隊列は馬車に積んである『大地吸い上げ装置』を使って、結界を発動させながら進んでいる。

 もちろん全ての隊列をカバーする事は出来ないが、等間隔で結界を発動させているので、もし何かあったら近くの結界に逃げ込む算段となっているようだ。



 聖女巡礼で最も気をつけなければならないのが、野良デーモンの対応。

 いくら各街の精鋭兵とはいえ、野良デーモンと真面に戦える者は少ない。

 恐らく1万強の巡礼隊の中で、10人前後であろう。

 なので、もし現われた場合は、まずは結界内に逃げ込む。そして戦える者が集まってくるまでジッと待つのだ。



 何故なら下手に手を出したら、活性化したデーモンにあっという間に皆殺しにされるだろう。



 戦えるレベルにない者、そもそも戦えない者が数多くいる巡礼隊は、デーモンにとっては最高級のご馳走。

 全て飲まれた暁には、最終形態の魔王にまで進化されても、おかしくないのだから・・・

 ガタリヤ隊も、アーニャの馬車と、2台の荷馬車とで、3つの結界を発動させながら進んでいた。



 補足だが、聖女巡礼に冒険者が御法度なのは、実はこれが影響している。



 つまり、下手に冒険者が暴れてモンスターの屍の山を築かれたら、巡礼隊の近くで野良デーモンが無駄に現出してしまうからだ。

 これを防ぐために、2000年以上前に決められたルールだったりする。



 しかし、時は流れ、当初の理由はすっかり人々の頭からは消え失せ、今は兵士が行ってこそ、聖戦になるのだ!といった兵士は特別だと示したい権力者達によって、都合の良い理由に置き換わっている。



「なんか改めて見ると壮観だねぇ・・・」

「本当ですわぁ。不謹慎ですが、少しだけワクワクしてしまいます」



「あのぉ、リリフ姉様、セリー姉様っ。領主様にあんなにメイドって必要なんですか??アーニャ様はお一人しかいらっしゃらないのに、他の領主様は10人以上連れていますぅ」



「確かにぃ・・・お世話するだけであんなにメイドが必要なんて・・・自分の事は自分でしろって言いたいわねっ!」

「全くですわっ。いつも偉そうにしてくる癖にっ!そう思いませんか?ルチアーニ様っ」


「あらまあ・・・やだわ・・・ちょっと言いづらいわねぇ・・・」

「ええ??なんですか?なんですか?」



 困っているルチアーニに代わって、ロイヤーが助け船を出す。



「ほら、リリフちゃん。聖女巡礼は期間も長いじゃろ?だいたい1ヶ月以上かかる。じゃから・・・そのー・・・飽きないように多めに連れてきておるって訳じゃな・・・」

「ああっ。なるほどですわっ・・・」

「え?なになに??どゆこと?」



 セリーは今の説明で理解したみたいだが、リリフとブルニは今だに『?マーク』が頭の中に浮かんでいる。



「よーするに・・・日替わりで領主の相手をしてるっちゅーこっちゃな」

「ああっ。なるほどぉ・・・」



 ランドルップの追加の説明にブルニも理解したようだ。しかし未だリリフは『?マーク』が浮かんでいる。



「ええ??日替わりで担当が変わるからってなにが変なの?服を着せる係とか?食事を用意する係とか??」



「夜にテントに連れ込み、性欲のはけ口としてメイドを使っているんだよ。どこの領主もね」

「!」

 ミールのストレートな説明に、ようやくリリフも理解したようだ。



「なにそれぇ・・・なんか可哀想・・・」

「可哀想・・・か・・・」

 リリフの言葉に、思う所があるような言い方をするミール。



「ミールは可哀想とは思わないの?」

「うーん。まずはリリフ。今度は聖女の車の方をよく見てみなよ。何か気づかないかい?」

「車?うーんと・・・」

 リリフや、釣られてセリー達も聖女の車の方を観察する。



「あ、なんか・・・こ綺麗な男の人が沢山いるわね」

「確かにぃ。服装も少々派手ですわね。執事という訳では無さそうですわ。かといって兵士でもなさそうですが・・・」

「み、みんな美形ですぅ!」



「ミール・・・この人達は?・・・」

「領主と同じさ」



「そっか・・・この人達も聖女様のお相手の人達なんだ・・・」

「そう。それで、さっきの質問だけど。リリフはあの男達に対して可哀想って思うかい?」

「そ、それは・・・」



「な?結構難しい質問だろ?可哀想かどうかは、あくまでリリフの個人的な印象で、同じ状況でも相手が男か女かってだけでも大きく変わる。あのメイド達だって分からないよ。少なくとも給金の良い職には就けているんだからね。自ら進んでメイドをしている人もいるだろうし、割り切っている人もいるだろう。ブルニ達亜人種のように、迫害を受けるよりはマシって諦めている人もいるだろう。もちろん、嫌々やらされているって人もいると思うけどね。価値観や考え方、思想は生まれた場所や育った環境で大きく変わるから。理不尽に自分ではどうすることも出来ない状態で力に蹂躙されるのは同情の余地があるけど、その人が自分で選択した職業だった場合は、可哀想に思われた事で逆に傷つく人もいるし、そんな同情なんていらないよっ!って人も多くいる。気をつける事だな」



「そっか・・・私も・・・冒険者なんてやってて大変ねぇーって言われたらちょっとイヤだもんなぁ。自分は好きでやってるんだし。はああぁぁ・・・ごめーん。また無神経な事言っちゃった・・・」


「そ、そんな事ないですっ!ブルニも気付きませんでしたっ!リリフ姉様と同じですっ!」


「わたくしもですわ。中々難しいのですわね、人の心を読み解くというのは」



「いや、すまん。俺も別にこんな事言うつもりは無かったんだ。気にしないでくれ。だってこんなん気にしてたら何も言えなくなっちゃうもんな?」



「ううん。言ってくれてありがとう。私、最近思うんだ。沢山の人の助けになるには、沢山の人の考え方、意見を知る必要があるって。その人の立場にならないと分からない事って沢山あると思うの。だから、言ってくれて嬉しい。また成長できた気がするっ」



「そっか・・・リリフは本当に凄いよな。素直に反省も出来るし、素直に怒る事も出来る。俺はそんな感情を素直に表現出来るリリフが人として好きだな。尊敬するよ。俺も学ばないと・・・」




「ええ!?!?み、ミール!い、今、わ、わ、わた、私を好きって・・・好きって言った??ええ!!どーしよー!告白されちゃったっ!嬉しー!きゃー!!」




「い、いや、ひ、人としてな?人としてだぞ?リリフ」




「きゃー!!どーしよー!!みんなごめんねーっ!!でもミールっ!突然なんだもん!びっくりしちゃうじゃない!あ、でも全然良いの!やだ、どーしよー!どーしたら良いの??セリー!ブルニ!あ、でも2人に聞くとイヤミになっちゃうのかな!!?あははっ!でもいいやっ!ごめんねー!2人共!リリフ幸せになります!」



「ありゃりゃ。こりゃ完全に聞いてないぞ。ミール」

「舞い上がっちゃってます・・・リリフ姉様・・・」

「しかもちょっと上から目線がイラッとしますわっ!」



 よく見ると、アーニャも馬車の窓を少し開け、こちらの様子を伺っている。



「俺、ちゃんと人としてって言ったよな??」

「つまり、黄色ちゃんはリリフちゃんの立場に立って会話出来なかったって事さね」



 がっくりうな垂れるミール。


 その後、全員が総力を上げて説明するが、リリフの誤解は野営地に着くまで解けなかったのであった。


 



 その後も順調に巡礼を続け、聖都を出立して3日目、ようやく大行列は最初の目的地カタロスの街に到着した。

 兵1万人がいっぺんに街に入ると大騒ぎになるので、街で宿泊するのはごく一部、大概は外壁と結界の間のスペースで野営だ。



 アーニャ達も野営の準備をする。


 そこに10人ほどの馬に乗った兵がやってきた。よくみると常に聖女の側にいた、あの超イケメンの騎士だった。

 イケメン騎士は馬から降り、アーニャの前でひざまずく。



「アーニャ様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。自分は聖女様の近衛騎士団団長を務めておりますピッケンバーグと申します。アーニャ様に本日のこれからのご予定をご説明にあがりました。宜しくお願い致します」


「ピッケンバーグ様、こちらこそ宜しくお願いします」


「はっ。では早速でございますが、アーニャ様は領主様の屋敷までご同行をお願いします。そこでの晩餐会の中で街の成果の報告が行われ、本日はそのまま屋敷に宿泊して頂く流れとなっております」


「なるほど。お爺様から晩餐会がある旨は聞いてはいますが・・・そこでこの街の領主が報告するということですか?」


「はっ。今回から全ての領主が参加している晩餐会の中で、この街の3年間の成果のご報告、聖女様への『信頼の証の贈呈』などが行われるように変更になりました。各街、全てで行われるとの事なので、アーニャ様もガタリヤの際は宜しくお願い致します」


「なるほど。晩餐会への参加はわたくしだけでしょうか?お供を連れていっても構いませんか?」


「はっ。お供・・・護衛の方の参加は構いません。ただし、晩餐会の料理などは領主様のみに振る舞われますので、護衛の方は別の場所で食事をして頂く必要がございます」


「分かりました。ご説明感謝致します」


「はっ。では自分は他の領主様に説明に参りますので、これにて失礼します。晩餐会は19時からです。お気を付けてお越し下さいませ」



 ピッケンバーグはビシッと敬礼をして馬に乗り、その場を後にする。



「では、皆様。私と一緒に屋敷までご同行お願い出来ますか?」

「え?私達も行ってもいいんですか??」


「多分大丈夫でしょう。ピッケンバーグ様はお供と言いかけて、わざわざ護衛の者と言い直していましたので。もちろん快く思わない者もいるでしょうが、それでも私は来て欲しいです」


「はいっ!わっかりましたぁ!お供します!」

「楽しみですわぁ!どんなお料理が出るのでしょうっ!」

「セリー姉様っ。お食事は領主様だけって言ってましたよっ」


「固いこと言わんで、ちょっとくらいええじゃろ?」


「お前が言うと、エロい意味にしか聞こえんわいっ!このエロじじいめっ!」

「なんじゃとっ?!そんな事を思う奴がエロじじいなんじゃ!この変態エロじじいめっ!」


「はいはいはい。ケンカはおやめ。19時からって言ってたから、あと2時間はあるね。その間にちょっと食べとこうかね。お腹減ったままだと、本当に領主様のお料理を食べてしまいそうだし」

「そうですねっ!じゃあちょっとパンでも焼きましょうか?ルチアーニさんっ、火お願いしますっ」

「あいよぉ」



 リリフ達はパンとハムをサンドイッチして簡単な食事を済ます。



「アーニャ様、今までって晩餐会の中で報告するって感じじゃなかったんですかっ?」

 リリフはパンをかじりながら、椅子に腰掛けてコースヒを飲んでいるアーニャに話しかける。



「ええ。今までは晩餐会とは別の部屋で、聖女様自身に直接報告する時間が設けられていたと聞いています」

「へええ・・なんで今回から変更になったんだろ?」


「そうですね・・・恐らくですが、領主全員に見せて競い合わせようと考えたのではないでしょうか?」

「競い合わせる・・・ですか?アーニャ様」


「リリフさんはご存じかしら?序列順位がどうやって決まるのかを」

「はいっ。えっと、聖女様がお決めになるって聞きました」


「そうです。つまりは、聖女様にいかにアピールをするかに掛かっているのです。それに大きく関わってくるのが、先程ピッケンバーグ様が仰っていた『聖女様への信頼の証の贈呈』です。つまり・・・いかに聖女様がお気に召すモノを捧げる事が出来るか・・・という事なのです」


「ということは、貢いだ金銀財宝の金額が多い程、上に行くという事でしょうか?」


「一概には言えませんが、その可能性はあると思います」


「つまりじゃ、ここの領主が100万グルド納めたら、次の領主は110万グルド・・・いや、150万くらい納めにゃならんちゅーこっちゃな」


「もちろんその狙いもあると思います。今までは誰がどれくらい金額を納めたか分からない仕組みでしたので・・・金額が多い領主もいれば、少ない領主もいた。しかし今回からは金額が分かる訳ですから・・・どの領主も順位の為、前の領主より多く納める事になるでしょう」


「その結果、聖女様の懐は更に潤うって事ですわねっ」

「じゃあ、結局お金持ちの街が強いってことぉ?」


「いえ、そうとも言い切れません。実は・・・もう1つ、聖女様が欲するモノがあるのです・・・」

「へええ!なんですか??それは?!」


「えっと・・・ですね・・・つまり・・・」



 アーニャは顔を赤らめ、言いづらそうにしている。



「・・その・・・聖女様は・・・まだ女性と交わった事の無い男性と・・・するのがとてもお気に入りのようでして・・・」



「・・・・」



 一瞬の沈黙の後、ミールが大爆笑。


「だっはっはぁっ。あのバカ聖女らしいなっ!童貞食いだったとはねっ!自分に魅力が無いからそういう性癖になるんだよ。アホらし」



「ちょっ!ミール!大きな声で聖女様の悪口言わないのっ!聞かれたら大変でしょ!」

「ぐははっは。しかし聖女様といっても、やっぱりただの人間なんじゃのぉ。ワシ、急に親近感湧いてきたぞい」


「童貞なんて・・・そこら辺に掃いて捨てるほどいるではないですか。ねえ、リューイ?」


「ぼ、僕を引き合いに出すのは止めて下さいっ!」

「お兄ちゃんはこのままでいいんですっ!ずっとこのままでっ!」

「ブルニちゃん、それは逆に可哀想じゃて・・・」



「でも、そうよね。ドーテーなんて直ぐに用意出来るのに、そんなんで満足しちゃうんだ?聖女様は」



「いえ・・・その・・・経験が無いだけでは、もちろんダメなんです。まずは顔、聖女様好みでなければいけません。清潔感も大切です。体型も筋肉質の方、でもあまりムキムキな方は好きではないようです。そして無垢な人、純粋な方が好まれるみたいですね。そして1番大切なのが・・・聖女様を崇拝している者、心から崇拝している者が必要なのです」


「へぇぇ・・でもそんなのって分からなくないです?嘘ついちゃえば良いんだし」


「いえ、キチンと夜を共にする前に自白魔法をかけられてチェックされます。本当にど・・・テイなのか、本当に聖女様を崇拝しているのかを。間違ってたら大変な目に合うので、どの街の領主も、条件に合う男性を必死に探していると聞きます」



「アーニャ様・・・詳しい・・・」



「ち、違いますっ!これは全部お爺様から聞いたお話なんです!信じてください!ミール様!」

「い、いや。俺はなにも言ってないし・・・」



「はっ・・・失礼しました・・・おほんっ・・・と、とにかくですね・・・この点がお爺様が聖女様を気に入らない1番の理由でして・・・巡礼の際は毎回ケンカをしてたそうです。当然男の子も用意しなかったそうで・・・その結果が60年連続最下位という結果です・・・」



「ろ、60年・・・」

「ひえええ・・・」



「え?ちょっと待ってっ。あれ?・・・60年前って・・・聖女様ってお幾つなの??」



「アイツは150歳は超えてるぞ、余裕で」

「うそー!そうなんだ!」

「そういえば、仰っていましたわね。聖女に選ばれると寿命が延びるって」



「確か・・・180歳前後だったかと記憶しております」

「凄いのお。それに比べたらワシらなんて、まだまだ赤子じゃのぉ」

「でもぜんっぜん見た目若いのねっ!凄いわっ!私と同い年くらいなんだもの!」



「整形魔法かけまくりかもしれないぜ。あー!分かった!だから童貞しか相手にしないのか。バレるから。ウケるな、今度会ったらからかってやろう」

「絶対に止めて下さい」



 アーニャは血走った目を見開きながら、ミールをガン見するのであった。




 18時になり、早めに屋敷に向かうアーニャ一行。

 ガラガラと馬車で進むが、車輪が揺れるような事は無い。

 道路もしっかりと整備されており、道路脇に植えられた植栽も美しい。



 カタロスの街は人口80万で、120万のガタリヤよりかは小さいが、発展度合いはカタロスの方が数段上のように感じる。

 ガタリヤのように所々ひび割れていたり、剥がれていたりする箇所などは無く、綺麗な街並みが広がっていた。

 区画整理も進んでいるようで、中央の領主の屋敷まで一直線に道が出来ている。



「綺麗な街並みですねぇ」

「道路が大きいですわぁ」

「このカタロスはね。スーフェリアと国境が接しているから、色々と物資の往来が多いのよ。だから道路も大きめに作られているんだわねぇ」


「へえぇぇ。ルチアーニさんはスーフェリアには行ったことあるんですかぁ?私の故郷なんです」


「あらそうなの?スーフェリアは数回行ったことあるけど・・・直ぐに帰って来ちゃったわ。おっかなくてねぇ」


「あそこはのぉ。世界序列2位じゃからなっ。ワシらみたいな底辺の国の冒険者が、おいそれと仕事をもらえる国ではないんじゃよ」


「なんせ聖女が5人もいるじゃろ?国力も充実しておるし、兵隊も多いから警備も厳しくてなぁ」


「じゃが街の造りは最高峰じゃて。高層ビルっちゅーもんがあってのぉ。このルーン国にも多少はあるが、スーフェリアは見渡す限り建ち並んでおって、そりゃー凄いもんよ。見上げるだけで腰が痛くなっちまう」


「へええ!私ルピロスから出たことなかったから全然知らなかったわ。今度1度観光に行ってみよっか?」

「それは・・・難しいかも・・・しれませんわねぇ」


「あ、そっか・・・私達、難民だったもんね。ま、いっか。他に街なんて幾らでもあるし。まずは私達自身がレベルアップしないとだもんねっ」


「はいっ、リリフ姉様っ。ブルニ、早くタウンチームになって、色々な国に行って、世界中の人達と沢山お喋りしたいですっ」

「うんうん。頑張ろうね、ブルニ」

「はいっ♪」



 ガタリヤ隊は屋敷前に到着する。既に3つ馬車が停まっているので一番乗りではなさそうだ。



「アーニャ様っ。ようこそお越し頂きましたっ。ガタリヤはあちらの奥に馬車スペースがありますのでご活用下さいっ」

 案内役の方から指示された場所は1番入り口から遠い場所だった。



「ま、しょーがないよねっ」

「じゃな。ワシら冒険者が入れるだけ有り難いこっちゃ」



 馬車の警護に近衛兵2人が残り、トール隊長とリリフ達冒険者、そしてメイドがアーニャと共に屋敷に入っていった。



 通された大広間には5個の大テーブルが置かれ、その上に料理が用意されている。

 豪華な装飾品や絵画などがズラッと並んでおり、華やかさを彩っていた。



 1番奥に一段と豪華なテーブルが用意されているので、そこが聖女の席であろう。

 その横にはオーケストラ隊が陣取っていて、心地良い生演奏が優雅な雰囲気を作り出している。



「アーニャ様はこちらのテーブルでございます」

 執事が案内したのは、またもや1番奥の隅にあるテーブル。

 どうやら、序列1~2、3~4、5~6、7~8、9~10位で分けられているようだ。



「おお、これはアーニャ様。ご機嫌うるわしゅう」

「まあっ。クラリネット様。お会い出来て嬉しいですわっ」



 アーニャに話しかけて来たのは、隣の港街クリルプリスの領主クラリネットだった。



 クラリネットとは長年友好関係を重ねてきており、特にアーニャの叔父、デトリアスとは親友のような関係だった。

 考え方も似ていて、聖女に対して貢ぎ物や、男を用意する事もなく序列は常に9位。

 アーニャがルーン国で唯一心を許せる領主、それがこのクラリネットであった。



「デトリアスの様子はどうですかな?」


「今の所は落ち着いているようです。お気遣い感謝致します。お爺様からは何かあったらクラリネット様に相談するようにとお聞きしておりますわ。なにぶん初めての事なので、ご迷惑をおかけするかとは存じますが、何卒よろしくお願いいたします」


「はっはっは。堅苦しい挨拶など不要。なにかあれば直ぐに言いなさい。力になろう」

「ありがとうございます」


「おお、こちらが例の冒険者の皆様ですな。いや~、あれは痛快でしたなっ。はっはっは、思い出すだけで笑えてしまう。あのルゾッホの顔ときたら・・・くっっくっく」



 この晩餐会の場で、平気でルゾッホ将軍の悪口を言うとは・・・

 なるほど、デトリアスの親友というだけあって、肝が据わっているらしい。



 続々と領主達が晩餐会の場にやってくる。

 皆、リリフ達冒険者を見て嫌そうな顔をするが、表だって批判はしてこないようだ。



「まあまあっ。ブラトニック様。今日も素敵なお召し物ですわぁ」

「サハンテ様。お会い出来て光栄です」

「ミラージュ様、是非お話をお聞かせください」



 晩餐会には領主の他にカタロスの有力貴族などが招待されているようで、各領主の周りには貴族連中の人集りが出来ている。



 しかしアーニャやクラリネットのもとには誰1人来ない。

 逆に・・・



「全く・・・聖女様はなにをお考えなのだ・・・」

「あんな卑しい冒険者をゾロゾロと・・・」

「まあ、汚い格好・・・ゴキブリのようですわ・・・」

「ひぃぃ、亜人ですわよっ。気持ち悪いっ!」



 ヒソヒソとこんな声が聞こえてくる始末だ。



「がっはっはっは。エライ嫌われておるのぉ」

「なにを今更・・・」

「はあぁぁん。このお料理とても美味しいですわぁぁっ」

「ちょっ!セリー!なに食べてるのよっ??ダメでしょ!」

「はっはっは。構いませんよ。ささ、こちらもどうぞ。美しいお嬢様」

「♡」



 セリーは美しいお嬢様と呼ばれた事、目の前に沢山の美味しい料理が置かれている事に大満足のようで、幸せそうな笑顔を浮かべながらリスのように大量に頬張りモグモグしている。

 美しいお嬢様のイメージ台無しである。




「聖女様がご入室されますっ!皆様、拍手でお出迎えください!」




 オーケストラの曲も華やかな曲に変わる。


 奥の大きな扉が開かれ、聖女があの超イケメンの騎士にエスコートされながら登場する。

 わあっと歓声が上がり、拍手に包まれるホール内。

 聖女はゆっくりと皆の前に立ち、微笑みを浮かべながら語り出す。



「みなさん。盛大な歓迎をありがとう。お会い出来て嬉しいわ。今日は楽しんで行ってください」



 聖女は少しだけ膝を折り会釈すると、豪華な食事が並ぶテーブルの席に着く。



「では、しばしご歓談の程を」


 進行役が言った途端、聖女の前には貴族連中の行列が出来た。

 皆、あわよくばお近づきになれれば・・・といった感じで必死に挨拶やお世辞を並べる。



「聖女様っ、お会いできて光栄ですわぁっ!」

「今日は一段とお美しいっ!」

「お召し物も素晴らしいですわっ!わたくしではとても着こなせませんものっ!」

「誠ですなぁ。あっはっはっ」



 しかし肝心の聖女自身は特に興味がある雰囲気ではなく、髪の毛をイジったり、あくびをしていたりするので話すら聞いていないようだ。

 流石暗愚の聖女。



 皆、引きつった笑顔を浮かべているが、それでも一生懸命にカタロスの街の素晴らしさ、領主の素晴らしさを口々に語っている。



 あれはぜってーこの街の領主が言わせているな・・・



 貴族連中にとっても序列順位は超大事なので、領主と貴族の利害が一致しているといった所だろう。

だが貴族連中の必死のアピールの甲斐なく、聖女には退屈そのものらしい。

 黙々と料理を平らげている。



「あら?今日はハンサム騎士の他にもう1人いるわね。騎士って感じじゃないけど、やっぱりハンサムだわ」


「そうですか?ミール様の方が何倍もハンサムですわっ」

「セリー、愛しているぞ」

「ちょ!ズルイ!私もそう思ってるのに!ズルイ!」

「むふふ、ですわ。ミール様の愛してる、頂きましたわっ」

「ぶううぅぅ」



 リリフはほっぺを膨らませているが確かに言う通り、聖女の後ろで手を後ろに組んで控えている男がいた。



 イケメンの騎士ピッケンバーグは爽やかなイケメンって感じだが、こちらの男性は策謀家のような、少し危ない感じのイケメンだった。 



「あれは恐らく・・・スランデル様でしょう。心療回復士をしておりルーン国ではルゾッホ将軍と並んで絶大な権力をお持ちの方です。ルゾッホ将軍はどちらかと言うと軍事面で、あちらのスランデル様は内政面の最高責任者ですわね」

 アーニャが説明してくれた。



「へええ!心療回復士なのに実質的にナンバー3って事ですよねっ??凄っ!」


「いえ、ほとんどの街の心療回復士はかなりの権力を持っています。聖女や領主にとっては常に側に置いていきたい人材ですから。自然と権力が集まってくるのでしょう」


「てことは・・・ラインリッヒ様も・・・もの凄い人だった・・・てことでしょうか??」


「ふふふ。彼はあまり権力を持つ事を望まないので。重要な役職に付いていることは確かですが、内政面に関わろうとはしないですね」


「そっかぁ・・・ラインリッヒ様は凄くお優しい方だったもんなぁ」

「そうですね。本当に・・・私は人に恵まれましたわ」



 そんな会話をしていると、進行役の声がホール内に響く。



「では、皆様。宴もたけなわとなって参りました。ここで、我が領主様から聖女様へ信頼の証の贈呈を行わせて頂きますっ!では、領主様。どうぞっ」



 4〜5位のテーブルについていた男が立ち上がり、聖女の前に緊張しながらひざまずく。

 横の扉が開き、ガラガラと荷台に載せられた大きな宝箱が登場した。

 従者は聖女の前まで運ぶと、フタを開ける。そして全員に見えるように宝箱をゆっくりと1回転させた。



「おお~・・・」

「凄い・・・」

 貴族共から感嘆の声が上がる。



 宝箱の中にはビッシリと金貨、宝石、装飾品が詰め込まれていたのだ。

 恐らく10億グルドはするのではないだろうか?

 他の領主の中には、その財宝を見て苦悶の表情を浮かべている者もいた。



「これって・・・後の人、大変よね?あれよりも大きな金額出さないと負けるんだもんね?」


「でも逆に・・・始めの方が不利なのではないでしょうか?いくら頑張っても、後から出された金額を超える事は出来ないのですから」

「あ、そっか・・・確かに・・・先の方が不利ね」


「ですからあそこまで大量の財宝を差し出したのかもしれませんね。通常、聖女様に収める相場は2~3千万グルドくらいってクラリネット様から聞いた事があります。10億グルドとなると、それを超える金額は出せない街もあるでしょう。そういったフルイにかけたのかもしれませんね」



 アーニャやリリフ達がヒソヒソと話している間もカタロスの街の領主による、この街の成果の報告が行われていた。

 しかし、聖女は大量の金銀財宝にあまり興味を示していないように感じる。



「・・・という訳でございまして、本年度もスーフェリアに対する貿易収支は黒字で終える事が出来ました。報告は以上でございます。どうぞ、こちらの信頼の証と共にお納め下さいませっ」



 シーンと静まり返るホール内。

 皆、聖女の言葉を固唾を呑んで待っている。




「あのさぁ。あんた今回の巡礼の案内見たぁー?」




 静まりかえっているホール内に不機嫌そうな聖女の声が響く。



「へっ??は、はいっ!拝見させて頂きましたっ!」


「贈り物の欄はなんて書いてあったのよー?!」


「は、はいっ!えっと・・・他とは比べものにならない品を期待すると・・・書いてあったと記憶しております!」



 貴方の世界では明らかに賄賂要求で、しかもパワハラも混じっている。

 完全にアウトの文面だが、こちらの世界では特段珍しくもない文面だ。



「分かってるじゃない!じゃあ、なんでこんな何処でも有るような品を持ってくるのよ!」

「ひえぇっ。も、申し訳ございません!き、金額の事かと・・・」



「バッカねぇ。金額だったら先攻のあんたらがめっちゃ不利でしょ?!お金なんて民から巻き上げれば幾らでも手に入るじゃんっ。今更そんなもん集めて何になるのよっ!私が欲しいのは世界でも稀少な品、もっと言えば世界で1つしかない品!!そんな超レアな品が欲しいのよっ!ホント信じられない!はあぁ・・・こんなバカが領主やってるなんて・・・交代させようかしら」




「も、申し訳ございませえええええええええええええええええええええんんんん!」




 なり振り構ってなどいられない。

 領主は聖女の前にスライディング土下座をし、頭を床にこすりつける。



「わ、私が間違っておりましたああああああああああああああああああああ!ど、どうか!どうかもう一度チャンスを!!!!何卒!何卒ぉぉぉ!」



 聖女はふうっとため息をつき

「ま、最初だしね。いいわ、今回は特別に許してあげる。ただし!他の領主達はダメよ。見てたわよね??次も同じような事してきたら許さないから。覚悟しておきなさいよ?」



 聖女の言葉にアタフタする領主が数名、どうやら同じ勘違いをしていたようだ。

 側近と顔面蒼白でヒソヒソ話をしている。



「さあて・・・もちろん・・・これで終わりじゃないわよねー?」

「は、ひゃい!もちろんでございます!こ、これ!!連れて参れ!」

 領主は慌てて執事に指示を出す。



 慌てて連れて来られたのはオドオドした青年。

 綺麗で質の良い服を着ているが、あまり慣れている感じはみえず、服を着ているというよりかは服に着せられているって感じだった。



「聖女様。こちらは平民のデルモンテと申すものです。ご鑑定をお願い致します」



 聖女はチラッと心療回復士のスランデルを見る。

 スランデルは軽く一礼すると、平民のもとに歩いて行き魔法をかけた。

 ビクンッと一瞬硬直した平民のデルモンテは、直ぐにぼーっとした顔になる。



「貴方は女性と性行為の経験はありますか?」

「無いです・・・」



「聖女様の事をどう思っていますか?」

「とてもお優しいお方だと思います・・・」



「それは何故ですか?」

「子供の頃・・・聖女様と大勢の子供達でピクニックに行くイベントがありました・・・その時にお花をプレゼントしたのですが、とても喜んでくれて・・・ピクニック中ずっと頭に僕のあげたお花を付けてくださいました・・・あの時の感動が忘れられません・・・」



 スランデルは聖女を見る。

 聖女はニンマリと頷くと、スランデルは魔法を解き後ろに下がる。

 平民デルモンテはゲホゲホとむせ返っている。



「うっふっふぅぅ。良いじゃないっ!めっちゃ良いじゃないのっ!子供の頃の記憶が忘れられないのねっ。あははっ、興奮してきたわっ。さあ、付いてきなさい!平民」

「は、はいっ!聖女様っ!」



 自白魔法の影響で少し顔色が悪い平民のデルモンテだったが、聖女に呼ばれ急いで後を付いていく。

 更にメイドとイケメンの騎士ピッケンバーグを先頭に、数人の近衛騎士が後に続いていった。



 聖女が去った大広間はしばらくザワザワしていたが、領主達も貴族達もお互いにお喋りに花を咲かせる事は無く、やけにあっさりとその場を後にする。



「さってと。聖女様は平民としけこんでるし。ワシらも休むとするかのぉ」

「そうですねぇ。はぁ・・なんか聖女様ってもっとこう・・・神々しいイメージがあったのになぁ・・・」



「ただのヤリマンで幻滅だろ?しかも童貞食い」



「そ、そんなことないけどさぁ・・・ちょっとイメージが・・・て感じ」

「でもブルニはとってもフランクな方で安心しましたっ。お話出来ると良いなぁ・・・」



「話せても、気に入らない事を言ってしまったら死刑になるかも知れませんわよっ。危ないですわっ」



「そ、そうでしょうか・・・で、でもっセリー姉様が危ない目に遭いそうだったらブルニが守ってあげますねっ」

「きゃわわん。ブルニちゃん、今日は一緒に寝ましょうねっ?」

「はいっ!セリー姉様っ♪」



「アーニャ様。お部屋のご用意が出来ましたのでご案内致します。お連れの方もどうぞ。お部屋は3部屋ご用意致しましたのでご自由にお使いくださいませ」

「ありがとうございます」



 部屋に案内され、ここで作戦会議。



「さてと、どうするかね?来賓用のお部屋はアーニャ様がお泊まりになるとして・・・従者用の部屋は2部屋。ベッドが1部屋に6個ずつあるから6人までいけそうよ」



「わたくしとミール様で一部屋。あとはアーニャ様とその他大勢で一部屋ずつでいかがでしょう?」


「いかがでしょう?じゃないでしょ!ダメに決まってるじゃない!私と・・・み、ミールで・・・その・・・同じ部屋・・・ごにょごにょ・・・」


「男と女で分ければいいじゃろ?」

「ぶ、ブルニは廊下で大丈夫ですっ」

「あたしらPTとリリフちゃんPTでも良いんじゃない?」

「でもそれだとトール隊長とメイドさんが行くとこないですよ?」


「トール隊長はアーニャ様の部屋が良いんじゃろ?」

「じ、自分はずっとアーニャ様の部屋の前で見張りをするでありますっ!」


「うひょっひょっひょ。それじゃあ夜中にアーニャ様からお誘いが来るかもしれんのぉ。役得じゃなっ」


「そ、そんな事しませんわっ!」

「がっくし・・・」

「トール隊長(怒)・・・」

「ひっ。し、失礼しましたっ!警護はお任せ下さいっ!」


「トール隊長だけじゃ可哀想じゃて。交代で見張りをするとしようかの?」

「そうですね。じゃあ、僕は最初で良いですか?まだ全然眠く無いので」



「み、ミール様なら・・・お部屋の中でも・・・ごにょごにょ・・・」



「アーニャ様・・・」

 ずっと無言を貫いていたメイドが諭すように言う。



「ひゃっ、な、なんでもありません!警護宜しくお願いします!」



「それじゃあ、2人組で交代していこうかの?最初はミールとワシ。次にミケルとランドルップ。最後にトール隊長とリューイじゃ。3時間交代にしようかの」


「え!?ロイヤーさんっ!私達もやりますよ!」

「いやいや、夜ふかしは美容の天敵じゃぞ?リリフちゃん。ワシらに任せとき」

「そんな・・・すみません」


「ありがとうございます。次回は女性だけで見張りを致しますので、今回はお言葉に甘えさせて頂きますわ」

「お兄ちゃん、ありがとぉ」


「それじゃあ見張りの事もあるし、今回は男同士、女同士で部屋割りしようかね。あんた達ありがとね」

「皆さん、ありがとうございます。それではお先に休ませて頂きます。おやすみなさい」



 アーニャはお辞儀をして部屋に入り、メイドさんも続いて部屋に入っていく・・が、ドアノブに手を掛けピタッと立ち止まる。



「あ、あのっ。リリフさん。アーニャ様のお休みの支度が整いましたら、皆さまのお部屋にお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「は、はいっ!もちろんですっ!」

「ありがとうございます。では後ほど向かわせて頂きます」



 そんなやり取りを聞いてか、アーニャがひょこっと顔を出し

「あら、何言ってるのよ?ルイーダも一緒に寝ましょ。ちょうどベットも2つあるし、私1人じゃ広すぎるわ」


「め、滅相もございません。わたくしなどがご一緒するなどあってはならない事でございますっ」


「何言ってるのよ。まだまだ1ヶ月以上も一緒にいるのよ?遠慮ばかりされたら息苦しいわ」

「遠慮とかの問題ではありませんっ。身分の問題ですっ」


「ふーん、そう。じゃあルイーダは私が襲われても良いのね?悲しいわ」


「そ、そんな事はっ!・・・わ、分かりました。では、アーニャ様。お邪魔させて頂きます」

「ええ。よろしくね、ルイーダ」



 そうして夜は更けていく。

 他領主が泊まる来賓用の部屋も同じ階にあり、ミール達と同じように護衛の人達がチラホラみてとれる。



「ロイヤーさん・・・」

「ミール・・・」



「・・・・」



「喘ぎ声ばっかりですね・・・」

「そうじゃの・・・」



 あまり防音がされてないのか、廊下だけ筒抜けなのか・・・

 他領主の泊まっている部屋からは数多くの声が漏れてきており、悶々とした時間を過ごす護衛達であった。


     続く

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