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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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聖女巡礼③

 ミールの脳裏に、グワンバラのようになったピコルの姿が浮かんでくる。

 ブルブルと身震いをして、ミールはその雑念を振り払うのであった。



⇨聖女巡礼③




 その後、1週間は特に何もなく時間は過ぎていき、ミールもお使いクエストなどをこなしながら、調べ物を進める毎日を過ごす。。

 そして本日、遂にアーニャが聖都に向かって出発する出立式が開催された。



 ミール達も打ち合わせ通りに配置につき、ザクトーニや各省庁の長、そして貴族連中は来賓席に座っている。

 広場にはアーニャの姿をひと目見ようと、大勢の住民が押し寄せ、熱気に満ちていた。

人々はアーニャの名前を呼び歓声をあげているが、ちらほらとザワザワ感も混じっている。



 何故か?・・・



 それは兵士達の様子を見ると明らかだった。

 正規兵のいるA区画はビシッと整列している。装備もピカピカに磨かれており、士気も高い印象だった。



 対して貴族の私兵が配置されるB区画は・・・



 そんな中、豪華な馬車が広場に入ってくる。アーニャの馬車だ。

 中央に横付けされた馬車の扉が開かれ、白いドレスに肩や胸、肘などを銀色の部分鎧で覆ったアーニャが出てきた。



 一斉に住民から歓声が上がる。

 アーニャはそんな住民達に、微笑みながら手を振り、壇上に向かう。



 そこでピタッとアーニャの足が止まった。



 アーニャの目に飛び込んできたのは、B区画の兵士・・・いや、兵士と呼べるのだろうか?

 数もまばらで、明らかに高齢な方が多い。

 装備もボロボロな皮の鎧に、手には竹竿のような物を持っている。



「なんだこれは?!貴様ら!これがアーニャ様に対する礼儀か!」



 アーニャと共に広場に入ってきた男。見事な金色の甲冑に身を包み、存在しているだけでオーラを放っているような男が怒鳴り声を上げる。

 もちろん相手は、来賓席で偉そうに座っている貴族どもだ。



「おやおや、ダストン将軍。それはどなたに言っておられるのかな?最近は胃の調子が悪くてね。あまり大声を出さないで頂きたい」



「ふざけたことを申すな!この兵士はなんのつもりだ?!年齢も装備もバラバラではないか!・・・むっ・・・なんだこのステータスは!庭師だと?!貴様ら!兵を出さないつもりか?!」



「いやはや、耳がキンキンしてきますねぇ。わたくし達とて、兵を出したい気持ちは山々だが、あいにく最近は誰かさんの締め付けがキツすぎまして。兵士はみんな体調を崩してしまいました・・・庭師ですら召集しなくてはならない始末。これがわたくし達の精一杯の実力なんですよ」




「なんだとおぉぉ!貴様ら!死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?!」




「止めなさい。ダストン将軍」

「し、しかし・・・」

「おやめなさい・・・」

「はっ・・・」



 アーニャは貴族連中に向き直り



「本日はお忙しい所、ご足労頂きありがとうございます。ですが、お話を伺っておりますと、どうやら兵を集める事さえご苦労なさっているご様子。そこまで大変な思いをなさっている皆様に兵を出せなど言えません。聖女巡礼は正規兵のみで対応させて頂きます。ご退場頂いて結構です。本日はありがとうございました」



「そーですかぁ。それでは・・・ごきげんよう」



 貴族連中は悠々と席を立ち、広場を後にする。

 ザワザワと不安や心配、怯えを口にする住民達。



「ダストン将軍。予定を変更して、貴方はここに残って下さい。聖女巡礼は、近衛兵30名で参加します」


「なっ?!アーニャ様!それはなりません!自分も行きます!お供の数も少なすぎます!危険です!」



「ダストン将軍。正直に言います。恐らく今回の序列発表で、またガタリヤが最下位だった場合・・・いえ、もしかしたら聖女巡礼の最中に、貴族どもが反乱を起こす可能性が出てきました。もしそうなった場合、貴方がいてくれなければ守りきれないでしょう。又、ある程度の兵士も残しておかなければなりません。兵士も数多く残し、ダストン将軍も睨みを利かせていれば、彼らにとって強力な抑止力になるはずです。私は出来れば同じガタリヤ人同士で殺し合うのは見たくありません。ダストン将軍。何卒よろしくお願いいたします」



 アーニャは深々と頭を下げる。

「くっ・・・わ、分かりました・・・トール!トール!」



「はっ!ダストン将軍!ここにっ!」

 トールと呼ばれた白銀色の騎士はダストン将軍の前でひざまずく。



「トール。お前が隊長だ。近衛30名を率いてアーニャ様を必ずお守りしろ!いいな!?」

「は?・・・りょ、了解致しましたぁっ!」



 ダストン将軍は、更に集まった住民達に呼びかける。



「聞け!住民達よ!これより出立式を開式する!これからアーニャ様は近衛兵30名を率いて予定通り出発する事に決まった!出立の音を鳴らせっ!」



 それを合図にファンファーレが鳴り響く。

 しかし、その音楽は住民達のざわめきの中に消えていった。



「さ、30名?!す、少なすぎないか?!」

「貴族よ!貴族連中の仕業だわ!」

「アーニャ様ぁぁ!どうかご無事でぇぇ・・・」



 アーニャは、来賓席にいる各省庁の長と挨拶を交わす。

 そして最後にギルド長、ザクトーニの耳元で何かを告げる。ザクトーニは驚いた表情を浮かべるが、直ぐに敬礼をした。

 恐らく『かしこまりましたっ』とでも言っているのであろう。



 そしてアーニャは壇上から降りると馬車には乗らず、毅然とした表情で、ゆっくりと歩みを進める。



 後ろから付いていくのは30人の近衛兵のみ。

 どう考えても少ない、どう考えても寂しい見た目だ。



 しかしアーニャは笑顔で皆に手を振り、しっかりとした足取りで歩いて行く。

 まるで何も気にすることはないのよっ、と言っているようだ。



 冒険者の花道にさしかかり、隊長の『敬礼!』という声が響く。

 練習通り一斉に敬礼するミール達。



 アーニャは住民達と同じように、にこやかに1人1人に笑顔を向ける。

 ゆっくりとゆっくりと進みながら・・・



 ミールの前にさしかかると、アーニャは一瞬歩みを止め、少しお辞儀をする。

 そしてまた変わらずに1人1人に笑顔を振りまく。



「アーニャ様・・・お可哀想ぅ・・・」

「ほんっとに貴族連中は許せないわっ!」


「でも、ご覧なさい。あの堂々とした姿を。住民達も分かっているのです。何も下を向く必要はないと。だから精一杯送り出そうと声を上げているのです」



 そうなのだ。

 最初はざわめきも残り、不安や心配の声が多く聞こえてきたが、アーニャが歩みを進めるに従ってドンドンと声援が増えていき、今では大歓声が広場を包み込んでいた。



「アーニャ様ぁ!いってらっしゃーい!」

「お気を付けてえええ!」

「この街は任せてくださーい!」



 正に姿勢で語るとは、この事だ。

 貴族への毅然とした態度と、住民への優しい振る舞い。

 人々の気持ちを優しく包み込み、道しるべとして先頭を進む姿は、領主の器たり得るものだった。

 人々はアーニャの姿が見えなくなるまで、声援を送り続けるのであった。





「さてっと・・・とりあえず、しばらくは普通通りで、1ヶ月くらいしたら気をつけないといけないって事だよな?どっか別の国にでも久しぶりに行くかなー?」


「えええ~??ミールどっか行っちゃうのぉ?アーニャ様がお一人で頑張っておられるのにぃ・・・」


「いやいや、俺がいたってなにも変わらないって。てか逆に迷惑するだろ?聖女巡礼は兵士様のお仕事なんだからな」

「そ、そうだけどさぁ・・・」


「まあまあ、リリフちゃん。ワシらもどっか行ってもいいし、遠征してもいいし。1つ言えるのはアーニャ様が頑張っているんだから、ワシらも負けずに頑張らにゃあかんってこっちゃ。タウンチームに成ればアーニャ様のお力にもなれるしのぉ」


「・・・そうよねっ。うんうん。そうだったわっ。私達の目標はタウンチームになることだもんねっ!」


「そうですわぁ。そのためには一歩一歩進むのみっですわっ!」


「1日も無駄には出来ません。聖女様がガタリヤ周辺に来訪された時は、別の場所でクエストをする事を提案します」


「ぶ、ブルニも、もっと強くなりたいですっ!」


「よおおぉぉっし。そっれじゃあ、早速ギルドに行ってクエスト受注しちゃおー!目標は聖女巡礼の間に遠征クエストを達成する事っ!そのために準備するよっみんな!」


「おー!」



 盛り上がりながら広場を後にしようとしているリリフ達に、ザクトーニが慌てて声をかける。



「ちょ、ちょっと・・・皆さんこちらへっ・・・ああっ・・・ミール様っミール様もこちらへ・・・ほらっルチアーニもこっちへこいっ・・・はやくっ・・・」



 ザクトーニは小声でリリフ達を引っ張って、人通りの少ない木陰に連れて行く。



「え?なになに??どーしたの?ギルド長」

「横暴じゃのぉ」

「えー・・・突然すみません。これから言う事は他言無用でお願いします。決して大きな声を出さないように・・・」

「???」

「お前が1番声が大きいんだよ。はよ言え、ザクトーニ」



 いつもはここで、ギャアギャアとケンカになるのだが・・・今回はルチアーニのお小言にも反応せずに、ザクトーニは小声で語り出す。



「アーニャ様から伝言を預かっています・・・」

「え?!アーニャ様から??」

「シッシー!静かにっ!」

「あっ・・・ごめん・・・なさぃ・・・」



「アーニャ様のお言葉をそのままお伝えします———もし、ミール様、リリフ様方、ルチアーニ様方。皆様が可能であれば、私に力を貸して頂けないでしょうか?30分だけ、ヨウレン川の橋の麓でお待ちしております。ご同行頂けるようでしたらお越し頂けると助かります。ただし・・・かなり危険が伴う事と思います。くれぐれも無理をなさらずに、皆さんで相談して決めてください———以上でございます」



「アーニャ様・・・」



「私は行きたいっアーニャ様の力になりたいっ!」

 実直な性格のリリフは、当然のように賛同する。



「待って下さい、リリフ。これは大変な依頼ですわよ?」

「僕もそう思います。即ち聖女巡礼の列に加わって欲しいという事ですよね?つまり、兵士至上主義の中に冒険者である僕らが加わるという・・・危険です」

「ぶ、ブルニは・・・アーニャ様のお手伝いがしたいですっ」


「う、ううむ~これは難しいのぉ・・・」


「あれじゃろ?聖女巡礼を一緒に行ってくれっちゅーこっちゃろ?出来るんかね?冒険者のワシらが・・・」


「そうね。そこが問題ねぇ。今までの歴史の中で冒険者が加わったという事はないはず・・・う~ん。黄色ちゃんはどう思うの?」



「僕ですか?・・・僕は行きません。死にたくないので」



「もー!相変わらずねぇ・・・」


「ただ・・・1つ言えるのは、今回の依頼は予定外の事なんでしょう。領主代理が咄嗟とっさに取った行動だと思います。つまりそれだけ難しい・・・追い込まれている状況だと言う事。領主代理も十分分かっているはずです。冒険者の参加がタブーだという事を。それでも依頼してきたという事は、なにか考えがあるのかも知れません。もしかしたらピンチをチャンスに変えようとしているのかも知れません。ま、買いかぶりかもしれませんが・・・」


「確かに・・・冒険者がタブーなのは誰よりも分かっているはずじゃからのぉ」


「そうよねっ!という事はアーニャ様にはなにかお考えがあるって事よね??」


「いや、追い込まれて咄嗟に言ってみたものの、今頃後悔しているかもしれんのう・・・」


「それじゃったら、とりあえず行ってみて・・・後悔してそうだったら、引き返してくれば良いのではないかのぉ?ガタリヤの兵士はワシらに攻撃はしてこないじゃろうし」


「もしくは・・・追い込まれて・・・だったら愛しのミール様とご一緒したいですわぁってお考えになられたのかも・・・しれませんわ・・・」

「ぶ、ブルニもご一緒したいですっ」

「ブルニ・・・そういう事じゃない・・・」

「うーん・・・あんまり時間もないからのぉ。30分しか待たないって事じゃろ?」



 みんながウーンと考えていると、リリフが声を上げる。



「ねえっ、みんな聞いてっ!私は行きたい。だってアーニャ様が助けてって言ってるんだもの。恩を返したいの。アーニャ様がいなかったら、私も、セリーも、ルクリアも、グワンバラさん達も、みんな警備局で殺されてた。アーニャ様がラインリッヒ様を派遣してくださらなかったら、グワンバラの宿は無くなり、私達も、ブルニも、リューイも無実の罪で殺されてた。私は2回もアーニャ様に救われてるのっ!他の領主だったら絶対にこういう結果は出なかったと自信をもって言えるっ。アーニャ様だから私達は救われたのっ!だから、私は助けに行きたい。多分、アーニャ様が本音で思っているのは・・・ミールに来て欲しいと思っていると思う。私達なんてまだまだ緑ランクの初心者だから、逆に同行したらご迷惑をかける存在なんだと思う。でもアーニャ様は私達にも来て欲しいって言ってくれた。例えミールのカモフラージュでもなんでもいいっ!私は行きたいっ!力になりたいのっ!」



 リリフの演説に、セリー、ブルニ、リューイは覚悟が決まったようだ。



「そうですわねっ!例え力になれなくても構いませんわっ!」

「ブルニ、アーニャ様好きですっ」

「僕も恩を返せる時に返しとかないとダメだって、前回学びましたので。行きます」



「ルチアーニさん達とミールは無理しないで。ルチアーニさんは貸しもないだろうし、ミールは逆にアーニャ様に恩を売っている方だもんね。でも、私達は行きます。ごめんなさい」



 リリフが頭を下げるのを見て、ルチアーニ達は大笑いで答える。



「がっはっはっは。いや~。こりゃ1本取られたのぉ」

「そうねぇ。おばちゃんもらしくなかったわねぇ。あたし達の大切な後輩が決めたんだ。先輩としてしっかりフォローしなくちゃねっ」


「え?・・・いいんですか?」


「構わん構わん。どうせ老い先短いしのぉ」

「そうじゃな。今更、安全を取ってもしょうがなかろうて」



「ありがとうございます」

 リリフはペコッと深く頭を下げる。



 ミールの方をチラッと見るが、ミールは無関心な様子。

 腕を組んで目を閉じている。



「それじゃあ・・・ミール。行ってくるね。ごめんね。あの・・・今までありがとう・・・一応言っておくねっ」



「ぐわっはっはっはぁ。リリフちゃんや、ミールが一緒に来ない訳ないじゃろが!」

「そうじゃそうじゃ!こんな過保護なミールが、あんた達をほっとく訳ないじゃろて」

「ええ??」



 ミールは諦めたって感じで大きく伸びをして

「だああぁぁああぁあぁ!!くそぉぉー!・・・領主代理、ぜってーワザとだろ??ワザとリリフ達とルチアーニさん達を誘って外堀埋めやがった・・・ぜってー仕返ししてやる・・・おのれ・・・領主代理め・・・」



「ええ??み、ミール・・・それじゃあ・・・」

「行くよっ行きますよっ!行けばいいんでしょ??はあぁぁ~折角ノンビリしようと思ってたのになぁぁ・・・」


「ひゃっひゃっひゃ。嘘こけ、はなっからリリフちゃん達を置いて行く気なぞ更々なかった癖に。素直じゃないのぉ」


「うふふ。ありがとーミール。あ、いけないっ。30分って言ってたから、もうあんまり時間ないわっ。みんな急ぎましょっ!」

「はいっですわっ!」

「急ぎますぅ」

「やれやれじゃな」

「ひぃー」



 文句を言いつつ、嬉しそうに走るリリフ達であった。





「ここで止まってください」

「は?・・・はっ!、了解しましたっ!全体―!止まれっ!」



 トールの指示で、アーニャの馬車が止まる。

 アーニャは自分で扉を開き、外に出る。

 急いで整列、ひざまずく兵士達。



「みなさん、改めて今回の同行、ありがとうございます。予定外の出来事により、皆様も不安を感じている事でしょう・・・正直言って・・・私も不安です・・・しかし、私達はガタリヤ住民の希望なのです。私はどんなことがあっても前に進むつもりです。何卒みなさんのお力をお貸しください。よろしくお願いいたします」



「ははっ!有り難きお言葉。我ら一同、アーニャ様を全力でお守りしますっ!」

「ありがとう。それと・・・しばらくここで待機して頂けないでしょうか?」



「はっ。かしこまりました。アーニャ様・・・ここで何かあるのでしょうか?」


「実は、もしかしたら私に力を貸してくれる方が来てくれる可能性があるのです。30分だけここでお待ちしてもよろしいでしょうか?」


「おお、なんとっ。流石アーニャ様ですっ。かしこまりました。ではしばらく留まるといたしましょう。全体!その場で待機っ!」



 アーニャはその場で直立しながら、遙か平原の先を見つめる。

 ミール達が現れる事を願いながら・・・




「アーニャ様・・・30分が・・・経過しました・・・」



 アーニャは目を閉じ、しばらくうつむく。

 眉間に少しだけシワがよっていた。涙を堪えているのかもしれない。



「分かりました。お待たせしてしまって申し訳ございません。出発しましょう」

 アーニャは馬車に乗り、トールが指示を出す。



「はっ!全体―!進めっ!」

 再びゆっくりと進み始めるアーニャ隊。



 先頭13名、荷馬車を挟んで、中央にアーニャの馬車と10名の兵士、もう一台荷馬車を挟んで、1番後ろに5名の兵士がしんがりを務める、合計30名。巡礼隊としては少なすぎる兵士の行進だった。

 アーニャの馬車はメイドの女性が、2台の荷馬車は兵士が御者をしている。

 いつも側にいる、アーニャから爺やと呼ばれていた老人は、今回は同行してないようだ。



「あ、あれは?・・・」

 1番後ろで荷馬車の御者をしている兵士が、後ろから来る集団を発見する。



「トール隊長ぉ~!後ろからなにか来ますっ!」



 バンッ



 なんとその声にいち早く反応したのはアーニャ。馬車が動いているのにも関わらず、扉を開け大きく身を乗り出し後方を確認する。

 慌てて馬車を止めるメイド。



「おおぉぉいいぃ。待ってくれえぇ・・・」



 アーニャの瞳には、駆け寄ってくるミール達がハッキリと映っていた。

 思わず涙が溢れる。しかし、周りに悟られまいと、直ぐに涙を拭い平静を装う。

 アーニャは馬車から降り、ミール達を出迎えた。



 だが、兵達は状況をよく分かっていないので、アーニャの身を守ろうと武器を構える。



「良いのです。武器を下げなさい」

「はっ・・・」

 怪訝けげんな表情を浮かべるトール隊長だったが、黙ってアーニャに従う。



「はあっ・・・はあっ・・・お、追いついたぁぁ・・・」

「ひいひぃ。老人には堪えるのぉ・・・ひぃひぃ」

「皆様。よくぞ来て頂きました。感謝致します」

「あはははっ。アーニャ様っ。お待たせしましたっ」



「あ、アーニャ様っ?!ま、まさか・・・この者達なのですか?!援軍とやらは?・・・ぼ、冒険者ですぞ??」

「はい、そうです」



「い、いけません!アーニャ様っ。我々ガタリヤの兵であれば冒険者とて同じ仲間、問題は起らないでしょう・・・しかし!他の街の兵はそうではありません!ましてや今回は聖女巡礼ですぞ?!危険でございます!」



「分かっています。だからこそ連れて行くのです。私は兵士至上主義の現体制を疑問に思っています。どうして日々一緒に世界の平和の為に尽力している冒険者の皆様を排除するのでしょうか?私は今回の聖女巡礼で、この考えを少しでも変えたいと思っています。確かにトール隊長が仰るように、危険な賭けかもしれません。しかし・・・現在のこの歪んだ世界の仕組みを変える為には、当たり前の事をしてたらダメなのです。もっと、危険を冒してでも中枢に、根本的な原因を変えなければ・・・今回はその為の一歩だと思っています」



「ぐむむ・・・しかし・・・アーニャ様のご決定に異を唱えるつもりは毛頭ございませんが・・・そもそもの我々の同行理由は聖女様の護衛です。しかし今回の我々兵の数は少数。更に冒険者を連れてとなると・・・ガタリヤは聖女様を守る気はあるのかと、聖女様の護衛を軽んじているのではないかと言われないでしょうか?・・・」



 アーニャは大きく頷き

「確かに、トール隊長の意見は最もです。そんな少数しか兵も出さずに聖女様を守れようか?更に冒険者を連れてなど馬鹿にしているとしか思えない・・・と言われるでしょう。ですから・・・私は正直に言うつもりです。聖女様にガタリヤの状況を」


「せ、聖女様に・・・でございますか?・・・」



「そうです。私は領主代理の就任報告の為に1度、聖都に赴き聖女様に面会したことがあります。その時の印象は世間で言われている・・・いわゆる暗愚の聖女ではなく・・・確かに悪戯好きな面もあり、敢えて火に油を注ぐような態度をする事もあるのですが・・・本当はとっても責任感がある人。正直に救いを求めてくる者には慈悲をかけるお方。そういった印象を受けました。なので私はガタリヤの現状を正直に話し、許して貰おうと思っています」



「そ、その聖女様のタイプのこ、根拠は??どういった理由でそのお考えを?・・・」



「勘です」



「か、カン・・・でございますか?・・・」


「そう、わたしの勘、女の勘とでも言いましょうか?私はそういった予感がするのです。今はそれにすがるしか道はありません」

「なんと・・・」



 絶句するトール隊長とは対照的に、爆笑するルチアーニ達。



「がっはっはっはっは!流石はアーニャ様じゃ!あの偏屈ジジイの孫だけの事はあるわいっ!」


「そうじゃそうじゃ!あのジジイそっくりじゃ。こりゃぁ楽しみになってきたのお!ガタリヤの未来は明るいわい!ぎゃははははっ!」



「ご、ご老人方・・・」

 トールはいさめようとするが



「トール隊長や、あんたも薄々気付いているんじゃないかい?どうせこのまま聖女巡礼に同行しても良い結果は出ないだろうって。余りにも兵士の数が少なすぎるわ。これじゃあどのみち巡礼が始まる前からガタリヤの最下位は確定だわよ。かといって兵士を大勢率いる訳にもいかないしね。貴族連中が反乱を起こす可能性は高いし。その大ピンチをチャンスに変えちゃおってアーニャ様の奇策、あたしは良いと思う。昔はあたしらもデトリアスのジジイには散々苦労させられたもんじゃ。なんかワクワクしてきたわぁ、おばちゃん」



 デトリアス・イウ・スローベン。アーニャの叔父、現領主の事だ。



「デトリアス様と面識がおありなのでしょうか?・・・」

「ルチアーニ様御一行は、かつてのガタリヤのタウンチームです」


「な、なんとっ?!」


「ルチアーニ様、ありがとうございます。この聖女巡礼に向かう際に、お爺様にご挨拶に伺ったのですが、その時になにか困った事があったらルチアーニ様達を頼るようにと仰せつかりました。とても頼りになる冒険者達だと。今はその言葉通り、頼って良かったと思っています」


「なんじゃ!あのジジイ!そういう事は直接言えや!」


「全くじゃっ!ドラゴン討伐で呼び出したかと思えばお礼の一つも言わん!あのジジイと思っとったらこれじゃっ!ツンデレにもほどがあるじゃろ?!」


「ひゃっひゃっひゃ!でも何時もそう言われて調子に乗って、結局良いようにコキ使われるんだもの。アタシらも大概だわさ」


「がっはっは。確かに!それじゃあ今回も踊らされてやろうかのっ!」

「ま、そういう事じゃから。よろしくな、トール隊長さん」

「ははっ!宜しくお願い・・・」





「うんぎゃあぁあぁぁぁぁあーぁー!!」





「きゃっ!」

 トール隊長の声を遮ってミールの絶叫が草原にこだまする。思わずアーニャも声をあげてしまう程の絶叫っぷりだ。



 全員が何事か?っとミールを注視すると、そこには腰を抜かしているミールと、ぷるぷるしているスライムがいた。



「えいっ!」

 誰よりも事情を察知しているリリフが、いち早くスライムを撃退する。



「ふう、ふうっ・・・助かったよリリフ・・・おえっ・・・」

「もう・・・油断しちゃ駄目だからねっ」



 兵士達の間には、スライム如きに、あんな悲鳴を上げる冒険者で大丈夫なのか?といった不安の空気が流れる。



「まあ・・・あんな感じで普段は実に頼りないがぁ・・・いざとなったら頼りになる男じゃっ!安心せいっ」

「は、はぁ・・・そうなのですか?・・・」



 驚きと疑いの表情のトール隊長。

 しかし、アーニャもそれに同調する。



「大丈夫です。トール隊長。彼のことは存じています、問題ありません」

「そ、そうでございますか・・・かしこまりましたっ、アーニャ様のお言葉を信じます!」

「ありがとう」



 そしてアーニャは皆に向かって話し始める。



「ではみなさん。正直・・・どういう結果になるか分かりません。もしかしたら、冒険者の皆さんは・・・なんとか最悪の結果だけは阻止できるように頑張りますが、保証は出来ません。それでも・・・私にお力をお貸しいただけ・・・・ごめんなさい。ズルイ言い方ですわね。私が言えば答えは決まってしまいますもの。ガタリヤの危機を救う為、貴方達の命を私に預けてください。お願いします」



 アーニャは深々と頭を下げる。



 華奢で、か細い身体をしているアーニャ。


 とても綺麗な姿勢で、ゆっくりと頭を下げるその姿は美しく、その場全員が見とれ、引き寄せられ、守りたくなる。

 そういった不思議な魅力を放つアーニャであった。





 夕方近くになり、アーニャの隊列は野営の準備に取りかかる。

 兵士達は荷馬車からテントや調理道具などを取り出していく。

 リリフ達も、ルチアーニ達と同行するようになって何回か野営の経験はあるので、一緒になって作業に加わっているが、まだまだぎこちない。



「あれ?これって・・・何処に杭を打つの?」

「リリフ、これは魔力で自動で組み上がるテントですわ。ですので・・・ここですわ」

「あ~。そかそか」

「お兄ちゃん。火が付かないよぉ・・」

「ブルニ。木が湿ってるぞ。落ち着け」



 アーニャは簡易的な椅子を容易され、そこにちょこんと座っている。

 言い方は悪い表現となってしまうが、先程の威勢の良さは全く見られない。



 今はどちらかというと、初めて都会に出てきたウブな女の子って感じだった。

 そんなウブな女の子は、チラチラとミールに視線を送っている。



 顔色は焚き火の光に照らされてよく分らないが、明らかにカチコチな感じだった。



「アーニャ様、コースヒをどうぞ」

 側仕えのメイドがコースヒ(珈琲)を差し出す。



「ひゃっ!あ、ごめんなさい。ありがとう」

 アーニャはドギマギしながらコースヒを啜る。



「アーニャ様っ・・・可愛らしいですわぁ・・・」

「ホントねっ。とっても分かりやすいわよね!アーニャ様って!」



 アーニャよ。リリフに言われたらお終いである。



「ほりゃ、ミール。ちょっとそばに行ってみんしゃい」

「ええ??嫌ですよ!」

「何じゃ??ビビッとるのか?男ならガツーンと当って砕けろ精神で突っ込まんかい!」

「いやいや、なんで僕がモーションかける方になってるんですか?!」

「ひゃっひゃっひゃ。しかしあれじゃのぉ。本当にミールの事を気にしてるようじゃな・・・世も末じゃ」

「男の趣味は悪いようじゃな、アーニャ様は」




「何を言ってるんですか!ロイヤーさん!ミールは最高に格好いいでしょ?!」




 リリフの大声に、ピタッと全員の作業の手が止まる。

 シーンと静まり返る草原。風が草花を揺らしている。




「ぎゃあああぁぁ!違うんです!そういう意味じゃなくて!違います!誤解ですから!アーニャ様っ!」




「いやいや、そこでアーニャ様を巻き込んじゃだめじゃろ。リリフちゃん・・・」

「ほら、見てみぃ。アーニャ様、あからさまに挙動不審になっちょる」



「あれはアーニャ様がチラチラとミール様を見ている事に、わたくし達が気付いていないと思っていた顔ですわね」

「でもリリフちゃんも黄色ちゃんの事を好きなのか、気になっている顔とも見れるわねぇ」



「お労しや・・・アーニャ様。あれじゃろ?若いのに仕事ばっかりでそういう事には疎い感じじゃろ?」

「よりによって初恋がミールじゃもんなぁ・・・浮かばれんわい」



「いえ、この際、早めにミール様がおモテに・・・女垂らしである事を知ってもらったほうが良いのではないでしょうか?」



「ちょっとぉ・・・リューイ君?」



「な、なるほどっ。傷は浅い方が良いって事ですねっ。流石お兄ちゃんっ」

「いや・・・流石って・・・」



「で、でも・・・私が言うのもなんだけど・・・仮にここでミールに幻滅しちゃったら・・・その後の公務に影響が出そうじゃない?」

「確かにぃ・・・聖女巡礼の旅路が、失恋の旅路になるちゅーことか」



「実際、黄色ちゃんは誰に手を出しているんだい?」



「リリフ、わたくし、ブルニ、あとここにはおりませんが、ルクリアって子とピコルって子にも手を出しております。正に鬼畜ですわ」

「ちょっ!おい!」



「ちょっと待てえぇ!ピコルって・・・あのピコルちゃんか??ギルド嬢の??ミール!貴様あ!」

「ずるいぞ!ミール!ワシはもうミールがピンチでも助けに入らんからな!」

「えええ??」



「大丈夫ですっ!ミール様っ、ブルニが守ってあげますっ!」

「あ、ありがと?・・・」



「くうぅ・・・こんな幼い子まで毒牙にかけたのかぁ!許せん!アーニャ様には指一本触れさせんからなっ!」

「アーニャ様の純潔はワシらが守る!」



「ちょっと落ち着きな、あんた達。どうもアーニャ様が惚れちゃってるんだろう?あたしらがアーニャ様の恋路を邪魔してどーするんだい」



「だけどルチアーニ、ミールはアカン。こんなヤリ◯ン野郎が初めての男になったら、アーニャ様の性格が歪んでしまうぞいっ!」



「それは言い過ぎですよ!ラウンドルップさんっ。確かにアーニャ様は21歳とは思えない程『恋愛偏差値が低い』ですけど、それはずっと公務でお忙しかったからです!21歳で『処女』なのも、『分かり易い行動』もしょうがないんです!みんな『知らないフリ』をしてあげましょうよ!」



 大声で叫ぶリリフの言葉に、笑顔のままピクピクと眉を上げ反応してしまうアーニャちゃん。

 一応聞こえないフリをしているが、手に持っているコースヒが波打っている。



「あらあらあら、リリフに言われたらお終いですわねぇ!世間知らずのリリフにっ!」

「な!?わ、私だって最近は少しわかるようになったもん!」

「ふふふ。リリフはアーニャ様にそっくりですわね」




「リリフよりアーニャ様の方が乳デカいぞ・・・」




「ちょっ!?ミケルさん!?今までずっと黙ってて、初めて発した言葉がそれですか??!」


「ぎゃっはっはっは!確かにアーニャ様はCはありそうじゃからな!Aダッシュのリリフとは違うわい!」




「ふんぬ~!!違うもん!アーニャ様もきっとスライムパットだもん!偽乳だもん!絶対そうだもん!!」




 絶叫するリリフの後ろで、いつからいたのか、アーニャが引き攣った笑顔を浮かべながら

「あのー・・・もう少し声のトーンを落として頂けないでしょうか?・・・」


 

        続く

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