ガタリヤ奮闘記㉕
最初こそ初めて戦う相手という事もあり苦戦した時もあったが、最近は危なげない戦いを見せている。
そうなると余裕が出てきて、普通は少しだけでも森に入っちゃおうか?と思うものなのだが。
セリーを中心に気を引き締めており、リリフ達は一切森に入ろうとはしていなかった。
今日の朝までは・・・・
⇨ガタリヤ奮闘記㉕
「じゃあ今日も頑張ろー!」
最近充実感ある日々を送れているので、リリフは元気いっぱいだ。
「じゃあ、私はクエスト受注してくるねっ」
「ではわたくしは強いモンスターの目撃情報などを見てきますわ」
「ぶ、ブルニもお供しますっセリー姉様っ」
そこに大勢の女の子達がギルドに入ってくる。
「あー!いたいた!ヤッホー!リリフさん!しばらくぶり~!」
声をかけてきたのは、暁の杯の元メンバー、女の子10人組だ。
「あー!ひっさしぶりー!元気だったぁ?」
リリフも再会を喜ぶ。
「元気元気ぃ!ほらほら!見てみてぇ!おニューだよ!装備新調しちゃった!」
女の子達は、全員ピカピカの装備に身を包んでいた。
「わあー!良いなあっ!」
「えっへっへ~。ほら、チームを抜ける為にお金貯めてたじゃん?まあ、少しはマリンの治療費に使ったけど、みんなバイト代とか入ってさ。更に更にヤツらから慰謝料として、たんまり巻き上げる事もできたのよっ。そしたら結構な額になってさ。だからみんなで相談して装備を新調して新しい船出をしようって事になって!買っちゃった!」
「そっかそっかぁ!うんうん!新しい冒険の始まりだもんね!あ~あ~私達なんてこれだもんなぁ。思いっきり初心者ですって主張してるもん!」
リリフは自分の装備を嘆く。
「あはは。私、リリフさんの格好好きだよ。田舎から出てきましたぁって感じで!」
「あっ!今バカにしたぁ!ひっどーい!」
「あははっ!ごめんごめん。あれっ?でもこれ、お花じゃんっ!へー!可愛いねっ!」
リンはリリフの皮の胸当てに、さりげなく縫い付けられていたお花のワッペンに気づく。
「うんうんっ!この前ね、洋服屋の店主さんに言われたんだぁ。オシャレに気を使いなさいって。なんか凄いオーラがある人でね。芯の通った格好いい女性っていうのかなぁ。服も下着も沢山あって、めっちゃ安いから今度一緒に行こうよ!案内したげる!」
「おおー!ホント?!私も行ってみたい!リリフさん、絶対だよ?!」
「うんうん!約束!」
「あはははっ!ありがとう!あ、でさでさ、リリフさん達は今日は予定あるの??」
「え?ううん。私達は相変わらず初心者応援クエストをこなすくらいだよ。でも最近は森のギリギリまで行って戦ってるから、結構森の中のモンスターとも戦えてるんだ!もうちょっとしたら討伐クエストとかも受注できるかもしれない!」
「おお!いいじゃんか!それなら今日あたし達と一緒に森に入らない?!ほら?前に話したバウンドウルフの巣が湿地帯にあるんだけど、今日はみんなでそこにいって一稼ぎしようかって話になったんだ。それでさ、どうせならリリフさん達も誘って行こうってなってさ。今めっちゃ相場上がってるから儲かるぞぉぉ!行こうよ!」
「えー!そうなんだぁ!でも森かぁ・・・」
「なんかやばいの?」
「え?ううん。ミールにね、あ、ミールって私達の先生みたいな人なんだけ・・・その人に森には入るなって言われてるんだよねぇ・・・」
「へええ?でももう大丈夫じゃないの?森のモンスターとも戦ってるんでしょ?結構ギリギリな感じ?戦ってて」
「ううん。全然余裕だよ」
「じゃあ大丈夫だよ!森の中って言ってもね、平原からほんの100メートルくらいしか入らないんだ。直ぐに湿地帯があって、そこが巣になってるんだよ。出てくるのもバウンドウルフだけだし。確かに巣だから、めっちゃ数はいるんだけど・・・私達もいるから囲まれても全然大丈夫だよ!これでも冒険者の先輩だからね!バウンドウルフ如きに遅れはとらないよ!」
「そっかぁ。ちょっとみんなと相談していい?」
「うんうん。全然っ!」
リリフはセリー達と相談する。
「どうする?」
「ブルニは良いと思いますっ。森に入ると言っても100メートル程らしいですので」
「僕も挑戦しても良いと思ってます。ミール様は僕ら4人だけで森に入るのは危ないという意味だったと思うので。今回は14人で行くことになりますし。確かに向こうの皆さんは僕らより格上の青ランクの方がほとんどですし。大丈夫ではないかと」
「確かにそうですわね。でもやっぱりミール様のご指示に背くのは気が引けますわぁ・・・」
「私は・・・行ってみても良いかなって思う。確かにリューイが言うように14人もいるし、リンちゃん達は慣れてるみたいだから色々学べる気もするし。でもセリーが言うようにミールの意見も大切だと思うから、私達は最後尾でついていかない?平原まで100メートルだったら危険だと感じたら直ぐに走れば間に合うと思うし。一応、討伐自体はリンちゃん達に任せて、私達は前に出ずに見学だけ。そして安全第一で行動する。どうかな?」
「良いと思います」
「ブルニも賛成ですっ」
「わたくしもそれなら良いと思いますわ。一度多人数での戦闘も経験しておいて損は無いと思いますもの」
リリフは大きく頷くと、リンの元に駆け寄る。
「リンちゃんっ。私達は最後尾に付いてって、リンちゃん達の戦いを見て勉強するって感じでも良いかなぁ?やっぱり森に入るなって言われてるから、あんまりグイグイ行くわけにもいかなくて・・・そんなんでもいい?・・・」
「あはははっ。ぜんっぜんおっけーだよ!なんかあったら私達が守ってあげる!」
「おおお!てことは今日はギャラリーが見てるってことっすね!気合いが入ってきたっす~!」
「良いとこ見せちゃうよぉぉー!」
「私は緊張してきました・・・」
「あっはっはぁ。私の華麗な姿を目に刻み込んでくれたまえぇ」
「惚れられたらどーしよぉぉ!きゃはっ」
「いやいや・・・惚れられたって女の子ばかりでしょ?・・・」
「何言ってんのよ!人獣の男の子がいるじゃない!」
「あっホントだ!きゃー!かわいいぃぃ!」
「ちょっとマリン!胸押しつけるの止めなさい!」
「やだぁ。お姉さんドキドキしてきちゃったぁ・・」
「ちょっとぉ。あとで二人で消えないでよお?!」
「だめよ!私が先に目をつけたんだからねっ!」
多数の女の子達に絡まれて、ドギマギしてしまうリューイ。
色々と気になる年頃だ!
「何言ってんのよ!調子に乗らないのっ!」
「ぎゃー!リンちゃんが怒ったぁ!」
「あはははっ」
リリフ達も釣られて笑ってしまう。
「じゃあ、早速出発しようと思うんだけど??いける?!」
「あ、待ってっ!一応初心者応援クエストだけ受注してくるよっ!」
「おおっ。しっかり者のリリフ奥さんだねっ!家計は任せた!」
「もー!茶化さないでよぉぉ・・・」
照れながら受付嬢の新人、クレムのもとに駆け寄り
「クレムちゃん!今日は初心者応援クエストだけ受注お願いねっ」
「あ、はい・・・あの・・・」
クレムはなにか言いたげだが、リリフ達がリン達にメンバー紹介とかを始めてしまい、言い出しづらそうだ。
「あ、あの・・・リリフさん!クエスト登録完了しました・・・」
「あっ、ありがとー!じゃあまたねー!」
「あっ・・・」
足早に去って行くリリフに結局話しかける事が出来ず、不安な表情を浮かべるクレムであった。
ちょうどその頃、ミールは真っ黒焦げに変わり果てた姿になった食中プラントの横で、ギルド長に通話をかける。
「おおっ!ミール様っ!おはようございます!な、なにかありましたかな??」
「やあ、ギルド長。とりあえず討伐できたっぽいから確認に来るように連絡しといてくれる?場所は・・・」
「ちょ、ちょっ!ちょっとお待ちください!え?!えええっ??そ、それは・・・食中プラントをミール様お一人で倒されたということでしょうか??・・・」
「うん。そう」
「な、なんとぉおぉおぉ!?!」
「一応確認したんだけど・・・多分根っこから復活してくるタイプではないみたい。本体も根っこも干からびて朽ちているから」
「そ、そうでございましたかっ!それはなによりでございます!」
「でもさあ、とりあえずまだ油断は出来ないから、一応調査隊を派遣して調べて欲しいんだよねー」
「な、なるほど。りょ、了解致しました」
「じゃあ場所言うよ?メモの準備はいいかい?」
「あー!ちょっとお待ちを!」
ギルド長がドスンバタンと慌てている様子が音で分かる。
「は、はひっ!どうぞ!!」
「えーっと。場所は聖都とキーンを基点にして、X923 Y443の場所だな。平原の真ん中にポツンと黒焦げの物体があるから直ぐに分かると思うよ」
「はい!かしこまりました!ではキーンに伝えさせて頂きます!」
「分かってると思うけど・・・内緒ね」
「もちろんでございます!キーンには旅商人が偶々死体を目撃したとでも言っておきましょう。モンスター同士のいざこざで倒されたって事になると思いますので」
「ああ、それで頼むわ。俺もこれから帰るから、またその時に詳しく話すよ」
「はい!ではお気をつけて!」
通話を終えたミールは黒焦げのプラントを少し眺めていたが、クルッと踵を返し、ガタリヤに帰っていく。
その表情は少しの寂しさが浮かんでいた・・・
リリフ達は午前11時前後くらいの時間、草原で少し早めにお昼を食べていた。
「なんか悪いねぇ・・・ご馳走になっちゃって」
「いいんだよ!リリフさん!!いっぱい作ってきたからドンドン食べてねっ!」
「はいですわっ!ドンドンいただいてますわっ!」
「ちょ、セリー!食べ過ぎよぉぉ・・・」
「うふふ。セリーさんは食いしん坊さんなんだね?!」
「は〜い。リューイくぅん。アーン」
「やっだぁ。リューイくぅーん。私のも食べてぇ」
「でへへっ」
「お兄ちゃんのエッチ」
「ち、違うんだ。ブルニ・・」
「あはははっ」
陽気はポカポカしていてとても過ごしやすい。リリフが最初にガタリヤに来た頃とは大違いだ。
もうしばらくしたら冬が来て、寒い寒いと言っている事だろう。
「さってと。それじゃあそろそろ行こうか?!お目当ての巣がある湿地帯はすぐそこだから。リリフさん達は観てるだけで良いからね」
「うんっ。ありがとぉ」
「よーしっ。今日はこの荷車いっぱいにして持って帰るぞぉぉ!」
「いっしっしぃ。前回が1台で50万だっただろ?今日は3台だから150万・・・いやいや、あの頃よりも相場は上がってるからもしかしたら200万!ってこともあるかも!」
「きゃー!楽しみぃ!」
「刈りまくるぜぇ!」
「あんたはあんまりツッコミすぎるんじゃ無いよ!この前だって転んでパンツまでぐしょぐしょだったじゃないか!」
「大丈夫!今日は換えのパンツ持って来たっ」
「転ぶ気満々ね・・・」
「ぎゃっはっはっはっ」
てな感じで14人もいると常に大騒ぎだ。
因みに、この女の子達が用意した荷車はリリフ達の荷車と違い、1台でバウンドウルフを30匹近く積めそうなくらいの大きさがあった。
今日は見学だけの予定なので、リリフ達の荷車はグワンバラの宿に置いてきている。
お目当ての巣はガタリヤの北部、畑地帯が広がる平地の奥にあるようだ。
北側にはヨウレン川が緩やかにカーブしていて行く手を遮っているので、巣がある地帯は袋小路になっており、滅多に人が行き来する事がない、交通の行き止まりのような場所だった。
「こんな所に巣があるんだねぇ?」
「うんうん。私達も最近発見してさ。滅多にこっちに行く人なんていないじゃん?だから逆に狙い目なんだよねぇ」
「いや~・・・沢山いると良いなぁ」
「今日は夕方近くまで刈り続けるよ!みんな、疲れたら無理しないで下がってねっ。ローテーションしながら行こう!」
「おおー!」
元気に手を上げ、返事をする一行。ゆっくりと森に入っていく。
「わっ、急に湿気が・・・」
「でしょでしょ?足場が悪いから気をつけてね。もうちょっとしたら・・・」
グルグルグル・・・・
案の定バウンドウルフが数匹うなり声を上げながら顔を出す。
「ほら来た。よーし!刈りますかぁ」
「おっしゃー!」
女の子達は一斉に飛びかかり、戦いを始めるのであった。
時刻は夕方近く、ミールのもとにピコルから通話が入る。
「んん?どうした?ピコル?」
「あっ。ミールさんっ。急にごめんなさいっ。今大丈夫です?」
「ああ、大丈夫だよ」
「よかった。あ、そだそだ。ギルド長から内緒で聞きましたよっ。討伐されたって。やっぱりミールさんは凄いですねっ!格好いいですっ!」
「ははは。ありがと」
「あ、それでですね。ちょっともしかしたらって感じで・・・気のせいかもしれないんですけど・・・思い過ごしかもしれないんですけど・・・」
「うんうん」
「今日の朝ですね。クレムちゃん・・・ほら、ギルド嬢の新人さん。あの子がリリフさん達に初心者応援クエストを発注したんです」
「うん・・・」
ピコルの話の内容がリリフ達に関する事だと知って、なにやら嫌な予感がするミール。
「それでですね。実は昨日、港町のクリルプリスでウォーウルフの目撃情報があったんです。ウォーウルフ自体はそれほど強いモンスターって訳ではありませんが、ヤツらは群れを作り出す習性があるじゃないですか。だから今日の朝はクエスト受注する冒険者の皆さんに、念のため注意喚起をしてから送り出すってギルド側は朝礼で決定したんですね。でもリリフさん達は他のPTと話に夢中だったみたいで、言いそびれちゃったみたいなんです。どうせリリフさん達は初心者応援クエストだから森に入る事もないだろうと勝手に判断しちゃったってクレムちゃんが今、泣きながら相談してきて・・・」
「そうか・・・まあ、アイツらには強いモンスターの目撃情報などを絶対に確認するようにって言ってるし、森にも入るなってキツく言ってるからな・・・大丈夫だとは思うが・・・」
「あと、もう一つ心配な点があるんです。どうやら朝に話していた人達は、例の暁の杯元メンバーの女の子達なんですって。それでバウンドウルフの刈りに誘われていたみたいで・・・」
「なんだと?!ピコルっありがと!すまんがリリフに連絡取ってみる!またな!」
「はい!お願いします!」
一気に不安が押し寄せてくる。
ミールは焦り気味にリリフに通話をかけた。
その頃、リリフ達は順調に刈りを続けていた。
「いや~大量っすねぇ」
「ホントホント!楽っしい!」
「おら~!逃げんなぁ!」
「おっしゃー!もう一匹追加ぁ!」
荷車には3台とも、かなりの量のバウンドウルフが積まれていた。
「あはははっ。あんまり調子に乗って倒しているとデーモンが出てきちゃうよぉ?今何匹くらい?」
「うーんとぉ。60匹くらーいっ。まだ大丈夫そう!」
「オッケー!」
一般的に、野良デーモンが具現化するには、大体50前後の死体が必要と言われている。
しかしそれは、死体が人間や亜人種など比較的知能が高いといわれている者達だった場合だ。
今回のように相手が獣の場合は、100前後必要だと言われているので、この女の子達はそれを目安に行動しているのだ。
「どう?リリフさん?!凄くない??」
「うんうん!想像以上に凄いね!そしてリンちゃん達も強い!全然危なげないもん!」
「あっはっはぁ。流石にバウンドウルフだからねぇ。遅れは取らないよ」
そんな中、ミールから通話が入る。
「あっ!ミール!どうしたの??」
「ふう・・・いや、すまん突然。リリフ、今どこにいるんだ?」
リリフの元気な声に安心したミールは、少し冷静さを取り戻す。
「あ、あの・・・ちょと・・・言いづらいんだけど・・・」
「森に入ってるのか??」
「え?なんで分かるの?!」
「今すぐに出ろ!直ぐにガタリヤに引き返せ!これは命令だ!反論は許さん!直ぐに行動!いいな?!」
「あ、うん!分かった!あの・・・ミール、ごめんなさい。勝手に入って・・・」
「謝らなくていい。とにかく直ぐに移動してくれ!頼む!」
「分かったわ!」
ミールは通話を終える。しかし不安はどんどんと果てしなく溢れてきた。
再びピコルに通話をかけるミール。
「はい!なんでしょう?!」
「すまんピコル!ギルドで把握しているバウンドウルフの巣って場所分かるか?!」
「あ、了解しました!ちょっとお待ちを・・・」
通話越しに職員に質問しているピコルの大声が聞こえる。
しばらくして・・・
「お待たせしました!把握している巣は3箇所あるんですが・・・多分リリフさん達が向かったのはガタリヤの北側の所じゃないかと思います!クレムちゃんが湿地帯がどうのこうのって話を聞いたみたいなので!場所は聖都とガタリヤを基点にX304 Y49です!」
「さんきゅ!」
ミールは急いで魔法地図を広げ場所を確認する。
思ったよりも近い。
ミールは全力疾走で走り始めるのであった。
その頃リリフはミールとの通話を終え、セリー達に内容を伝える。
「そ、そうでしたか・・・バレてしまったのですわね」
「ひいぃぃん。怒られますぅ」
「正直に話しましょう。きっと分かってくれます」
「うん。とりあえず直ぐに私達は引き返すって事でいいよね?」
「はい、分かりましたわ!」
そしてリンちゃんに状況を伝える。
「そっかぁ。バレちゃったかぁ・・・」
「うん。ごめん。私達はここで引き返すね。またギルドで」
「うんうん。私達はもう少し刈りを続けてから帰るよ!今日は無理言って付き合って貰ってありがと!」
「全然だよぉ!逆に超勉強になった!また行こうね!」
「おっけー!またねー!」
「バイバーイ!」
「またねー!リリフさん!」
「気をつけてねー!」
「リューイくーん!今度遊ぼうねぇ!」
それぞれ別れの挨拶を交わし、湿地帯を後にするリリフ達。
「リリフさーーんっ!今度洋服屋さん連れてってねぇー!」
再度リンちゃんが手を大きく振り、大声で呼びかける。
「うん!絶対行こーねぇー!」
リリフもぴょんぴょんと飛び跳ねながら、笑顔で手を振る。
そして、セリーやブルニ、リューイと笑顔を交わしながら和やかな雰囲気で歩みを進めた。
リリフ達が平原に向かって歩き始め10秒ほど経過した頃・・・
和やかな空気を切り裂いて、唐突に叫び声がこだまする。
「え??なに?!」
ビックリして振り向くと、湿地帯の中央付近にバウンドウルフの3倍はあろうかという大きさの獣が、口に女の子を咥えてこちらを見ている。
「なんだ!あいつ!?」
「ウォーウルフだ!」
「マリーン!」
「くそ!マリンを離せ!クソ野郎!」
女の子達はマリンを助けようと一斉にウォーウルフに斬りかかる。
しかし、ヒョイッとバウンドウルフとは比べものにならないほどの跳躍を見せて後ろに下がると、ポイッとマリンをバウンドウルフの群れの中に投げ捨てる。
一斉にマリンに向かって群がるバウンドウルフ。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!痛い!痛いいいい!」
ありとあらゆる場所を一斉に噛みつかれ、引き裂かれ、命を落とすマリン。
いつの間にかその周辺は、バウンドウルフの群れでひしめきあっていた。
その数100・・・いや、500匹近くいるかもしれない。
「な、なんでこんなに・・・」
「アイツだ!アイツが群れを率いて連れてきたんだ!」
「流石にヤバいよぉぉ・・・どうする?リン!?」
「逃げるよ!全員撤退!平原まで・・・」
「ぎゃあああぁぁぁー!!」
また1人、ウォーウルフに噛みつかれる。直ぐに群がる獣達。
「嫌ぁあぁー!!痛いっ!助けてぇ!!リンー!助け・・・」
直ぐに声は聞こえなくなった。
群がる獣の隙間から、手や足が血しぶきと共に踊るように覗いている。
「ひいぃっ!」
「嫌だぁ!死にたくないっ!」
「助けて!!」
口々に叫ぶ女の子達は必死に敗走する。
通常、ウォーウルフは赤ランク程度なら普通に戦える強さのモンスターだ。この女の子達も冷静に対応出来ていれば、そこそこ戦える状態だったであろう。
しかし、今回はバウンドウルフの大群勢に周りを囲まれている。
更にマリンがやられ、もう一人もあっという間に殺された今、完全に戦線は崩壊し、女の子達に勝算は皆無であった。
「ぎゃああああああ!!」
「やめてええええぇえ!離してえええぇぇ!!」
「イヤだああぁぁ!嫌だああぁぁぁ!!」
次々とバウンドウルフの群れに飲み込まれる女の子達。
グバグンッ
リンの足にウォーウルフが噛みつく。
「ぎゃああああああ!!痛いっ!痛いいいぃぃぃ!」
引きずられるリンの瞳に、絶望の表情でそれを見ているリリフ達が映る。
「リリフーーぅぅー!痛いよぉぉ!助けてぇぇ!!助けてえええええぇぇ!!」
泣き叫ぶリンの姿は直ぐにバウンドウルフの群れに消えた。
「リンちゃん!」
リリフは反射的に助けに入ろうとするが、直ぐに踏みとどまる。
そして拳を強く握り、今も硬直して動けないブルニやリューイ、そしてセリーの背中を叩きながら必死に叫ぶ。
「逃げるよ!みんな!敗走陣形!ゴー!」
ハッとしてセリー達はリリフの言葉に従い、動き出す。
以前からミールのアドバイスに従い、様々な局面での陣形や動き方を相談してシミュレーションを重ねていたリリフ達。
『次に・・・完全にもうダメっ、逃げようってなった場合はどうしよっか?』
『先程話し合った、撤退の陣形と同じで良いのではないでしょうか?』
『でもそれだと直ぐに追いつかれてしまうわ。もうダメっって場合、とにかくその場を離れる事が1番重要だから。さっきの撤退陣形だとブルニがみんなを守りながら徐々に下がっていくって感じだけど、この・・・敗走陣形って名前にしよっか?・・・この敗走陣形は一気にみんなで逃げる感じだからブルニも走ってほしいのよね』
『ふむふむ、でも一斉に、ただ逃げても効果は薄いですわよね?』
『ブルニはさ、最後尾で盾を背中に背負って逃げるってのはどう?当然ブルニは敵の攻撃を受けると思うんだけど、盾を背中にして最小限のダメージに留めるの』
『ブルニ頑張りますっ!』
『良いですわね。では、リューイは敗走陣形の際はドンドンと回復魔法をかけ続ける事に致しましょう。走る事による全体の疲労を消す事と、ブルニのダメージをなるべく回復する為ですわ。今はどれくらい魔法をかけ続ける事が出来ますの?』
『だいたい・・・トータルで20回ほどはかけられるくらい魔力は上がってきました。しかし・・・連続でかけ続けた事が無いので、どれくらい保つかは分からないです』
『なるほどですわ。わたくしも連続で魔法を唱えると、かなりキツいので辛さが分かりますわ。では今度一緒に練習してみましょう』
『分かりました』
『ありがとう、宜しくねリューイ。それと・・・私は最前線で逃げ道を確保するわ。敵がいたら排除するから、セリーは直ぐに結界石を取り出して魔力を込め始めよう。そして発動までの2~3分をなんとか逃げ切って対応するってのはどうかな?』
『リリフ、グッドですわ。それで行きましょう』
『でも・・・問題は・・・リューイの魔法が私達には発動しないって事よねぇ・・・』
『ああ~ん。リューイの信頼を勝ち取るのは難しいですわぁ!』
『ひっ。す、すみません。僕は皆さんを信頼しているのですが・・・何故か発動しなくて・・・一体どうしたら・・・』
『うふふ。ごめんごめん。良いのよリューイ。そういうのはね、多分マニュアルなんて無いのよ。だから焦る必要もないの。変に意識すると逆にダメそうだわ。自然で行きましょ?意識せずに行動していれば、いつかきっと発動するわ。大丈夫よ』
『リリフ姉様・・・』
『あっ!今リリフ姉様ってスラスラ言った!』
『おおおっ!遂にリューイも言えましたわね!?』
『ひっ!い、いえっ。今のはノーカウントでお願いしますっ!』
『何言ってんのよ!もう遅いですーぅだ』
『ブルニもしっかり聞きましたっ!』
『ほらほらっ!ブルニちゃんもこう言ってますわ。さあっもう一度!セリー姉様とお呼びになって!さあっさあっ!』
『ひいぃぃぃ・・・』
リリフは先頭で、ブルニは背中に盾を背負って、最後尾で走り出す。
リューイは回復魔法連打、そしてセリーはミールから渡された結界石を取り出し魔力を込め始めた。
「どけえええぇぇ!!」
前方を塞ぐバウンドウルフをなぎ払い、前に突き進むリリフ。
パアアッとリリフ達を優しい緑色の光が包み込む。リューイの回復魔法だ。リリフは自分にも魔法が掛かっている事に少し唇が緩む。
バグンッ ガリッガリッ
ブルニの身体に、容赦なくバウンドウルフたちが噛みついてくる。
悲鳴を上げるほどの傷が食い込んでいるのだが、ブルニは黙って耐えている。
そしてバウンドウルフ達を振りほどき、必死に走り続けた。
セリーの結界石がボンヤリと光りだす。
「発動までもうすぐですわっ!みんな頑張って!」
「はいっ!はあ、はあ、エレクペラーション!」
リューイも必死に魔法を唱え続ける。かなりキツそうだ。
「見えたわ!森を抜ける!」
視界が開け、足場も固くなってきた。
しかし、同時にバウンドウルフ達の動きも活発になり、何体も体当たりを仕掛けてくる。
ビュンッ ビュンッ
ビュビュンッ
ビュンッ
セリーとリューイは、全方位から次々と体当たりを仕掛けてくるバウンドウルフ達を必死に避けながら平原へと走り続ける。
日頃のフットワークが活きているのか、リューイはしっかりとした足取りで冷静に躱しているが、セリーはぎこちない。
なんとかギリギリで対応している感じだ。
「セリー姉様っ!危ない!」
ブルニがバウンドウルフの突進を大盾で防ぐ。
セリーは必死だ。
なんとか結界石を発動させなければ!でなければ皆んな殺される!
頭を絶体絶命の恐怖が支配する中、ブルニの背中に隠れる事を唯一の救いのように必死に足を動かす。
コツッ
不意に木の根っこに足を取られる!
『あ・・・転ぶ・・・』
そう思ったセリーだったが、自分でも無意識に足が一歩出てなんとか踏みとどまる。
セリーの頭の中に浮かび上がったのはフットワークの感覚。
右右左左右右左左・・・
この単純で単調でつまらない動きの繰り返し。
しかし、今しっくりくる。今ガッテンがいく。今腑に落ちる。
ここで足を出せるようにするために、身体に覚えこませるために、繰り返し繰り返しステップを踏んでたんだ・・・
セリーがフットワークの重要性を認識したと同時に、サボりぎみだった自分の行動を後悔する。
なんとか一歩目は出せたが、やはり二歩目は出せず。
セリーは尻餅をついて転んでしまった。
「きゃっ!」
それを最初から狙ってたかのように、木の陰からバウンドウルフが飛び出してきて、セリーに体当たりする。
前方に転がり大木に叩きつけられるセリー。同時にコロコロと地面を転がる結界石。
「ああ!結界石が!」
「任せて!」
リリフがスキル『瞬足』を発動させ、一気に結界石を回収する・・・と、同じタイミングでウォーウルフが結界石にキバを向く。
ウォーウルフはリリフの腕ごと、結界石にかぶりついた。
「ぎゃあああぁああぁあああ!!!」
リリフの悲鳴が森の中にこだまする。
ウォーウルフはグングンと首を振り、リリフの腕を強引に引きちぎる。
腕から切り離されたリリフの身体は、ちょうどセリーが叩きつけられた大木の場所まで飛ばされた。
皆さんは色々な作品で、腕を切り離された場面を見た事があるだろう。
しかし実際は、人間の身体はそう簡単には切り離されない。
見た目以上に筋肉の組織は頑丈で、引きちぎることも容易ではない。そして骨も硬く刃を拒む。
ましてや剣などで腕を一瞬で両断するにはもの凄い力量が必要となるだろう。
多くは何回も刃を往復させ、ノコギリのように切り離したり、かなり大きな重量の物質同士をかみ合わせ、圧力で一気に切り離したりする。
今回のリリフの腕の切断は、ウォーウルフの噛む力が、相当な威力であった事を物語っている。
だがそれでも切り離す事は出来なかったので、首をブンブンと振り、強引に身体から腕を引きちぎったのであった。
うずくまるリリフの周りに、あっという間に血の海が出来る。
「リリフ!」
セリーの悲鳴が遠くから聞こえる。あまりの激痛に脳がマヒしているようだ。
ブルニもリューイもリリフを囲むように、大木を背にしてバウンドウルフ達に向き合う。
「エレクペラーション!エレクペラーション!」
リューイが大粒の涙を流しながら必死に魔法を唱える。
「リリフ姉様っしっかり!」
ブルニも盾を構え、必死にリリフを呼びかける。
ウォーウルフはペッとリリフの腕を吐き出し、握られていた結界石だけをペロッと舌で掬い上げ飲み込む。
リリフの腕に群がるバウンドウルフ。
「触るなあああああああああああああ!!!」
激情したセリーは髪を逆撫でにして、炎の球を複数出現させ、バウンドウルフに投げつける。
ボウンボウウンッ!
ウォーウルフやバウンドウルフは、炎が苦手なのか大袈裟に距離をとったので、その隙にセリーは走り出しリリフの腕を回収して、元の位置に戻る。
「あああああぁぁぁああぁあああーー!!」
その後もセリーは絶叫にも似た声を張り上げ、炎を出現させ続けた。
しかし・・・明らかに限界を超えている。
ポッと小さな小さなマッチほどの炎を最後に、魔力が尽きガクッと膝をつくセリー。
大きく距離を取っていたバウンドウルフ達も徐々に近づいてくる。
「お、お兄ちゃん・・・」
「ブルニ・・・」
お互いに自然と手を握り合う2人。
最後の時が近づいてきているのを、本能的に感じているからだ。
周りは囲まれ、バウンドウルフの群れが何層も何層も・・・まるでバームクーヘンのように埋め尽くしている。
どこにも逃げ場などない。
木の上に登っても、先程のウォーウルフの跳躍を見る限り、無意味だろう。
平原も直ぐそこだが、例えそちらに逃げても瞬く間に囲まれるだろう。
終わりだ・・・
迫り来る終わりの恐怖にブルブルと身を震わせながらも、最後の瞬間まで、せめてこの2人を・・・自分達を初めて受け入れてくれた、普通に接してくれた、希望を、幸せを、喜びを与えてくれた2人を守りながら終えよう。
そんな決意の目をしてバウンドウルフ達を睨みつけた。
ドオォォォ・・・ォォ・・・ンン・・・
遙か彼方で微かに大気の震えと振動を感じる。方角的にはザザの村の方面だが、震源地はかなり遠いようだ。
鳥が羽ばたき、パラパラと木の葉が落ちてくる。
「?」
ブルニもリューイも・・・そしてバウンドウルフ達も、キョロキョロと辺りを見回す。
特にモンスターのバウンドウルフ達は、ちょっとした森の変化に敏感だ。
慎重に身を低くして辺りの様子を伺う。
しかし特に変化はない。
しばらくしてバウンドウルフは再び行進を再開した。
グオワウンッ
バウンドウルフが飛び掛かってくる。
ビュンッ
唐突に背後から風を感じ、バウンドウルフの首を跳ね飛ばす。
「リリフ姉様っ!!」
なんとリリフが片手にウイングナイフを握りしめて、ブンブンとめちゃくちゃに振り回す。
「逃げて!逃げなさいっ!早くっ!!私が時間を稼ぐ!早く行ってえぇぇっ!!」
リリフの絶叫。
視線はどこを向いているのか分からない。
ただ必死に、周り全体を切り刻もうと身体全体で無我夢中で振り回す。
「リリフ姉様あぁぁ!!」
「早くっ!!行ってっ!!行けぇぇえぇぇ!!」
当然、大振りな動きはスキだらけ。直ぐにバウンドウルフが1匹噛み付いてくる。
それを合図に一斉に飛び掛かってきて、腕を、足を、頭を、腰を・・・そして首に噛み付く・・・
ライオンなどの捕食シーンを見たことがある方は、ご存知かと思うが、彼らはまず獲物の首を狙う。そこに噛みつき、食道を塞ぎ、窒息死させるのだ。
首には太い血管も通っているので、致命傷を与えやすい。敵の反撃をくらいにくい、といったメリットもある。
リリフも身体中に噛みつかれて、首にキバを感じ、もはや1ミリも抵抗すらできない。
なすがままに自分が食べられていくのを、虚ろな目で受け入れていた。
最後にミールに会いたかったな・・・涙が一筋流れ落ちる。
キャインッ
キャンキャンっ
バシュッ
キャインッ
どこからかバウンドウルフの鳴き声がする。
遠くでバウンドウルフが宙を舞っている。
それは猛烈なスピードでリリフ達に近づいて来た。
結界に身を包むミールが、文字通り全てを弾き飛ばしながら現れたのだ!
「ミール様っ!!」
ミールはリリフ達を見つけると更にスピードを速め、一気に結界内に保護をする。
「大丈夫かっ?!」
問いかけるミールの顔が真っ青だ。それほどリリフの状態は瀕死に近かった。
「エレクペラーションっ!」
リューイよりも強い緑色の光が包み込む。魔法を唱えながらも、ミールは周りを見渡し状況を確認する。
「セリーは?!無事か?!」
「無事ですっ!魔法の使いすぎで気絶してるだけですっ!」
「お前達2人は?!」
「無事です!!リリフ姉様っセリー姉様が守ってくれましたっ!」
「よしっ!お前達2人はセリーを担いでくれ!直ぐにガタリヤに帰還する!」
「はいっ!」
グオォォオオンン!!
ギャオオゥウン!!
バウンドウルフ、そしてウォーウルフは、突然獲物を横取りされて、かなりご立腹な様子。結界に弾かれても怯まずに、何回も何回も噛み付いてくる。
以前にも少し触れたが、結界に弾かれると、かなり痛い。
スライムやバウンドウルフ程度なら、下手したら触れただけで命を落とすくらいのダメージを受けるのだ。
しかし、このバウンドウルフ達は、全く怯む事なく次々と代わる代わる噛みついてくる。
ピシッ
結界に唐突にヒビが入る。
「嘘だろぉ!?ふざけんな!この国の結界石、耐久力無さ過ぎだろおぉ!!」
ダメだ・・・
ヒビが入ったらもう10秒も保たない。
今から別の結界石を発動させる時間は無い。
そして残念ながらウォーウルフ如きではミールのスキルは発動しなかった。
「ブルニ、リューイ。俺の近くに」
ミールは静かに伝える。
2人はミールの身体、リリフを抱きしめている腕にセリーと共にピタっとくっつく。
それと同時に弾け飛ぶ結界。
獣達のキバが目の前に迫ってくる。
ピイィィィーーーーーーーーーーーンッ
辺りが光に包まれた。
光が、大気が、水分が、音が・・・全てが飲み込まれたような感覚。
実際には1秒にも満たない刹那の瞬間、しかしそれは、永遠のように永い時間とも思え、時が止まったかのような感覚。
その後・・・全てを薙ぎ払い、全てを吹き飛ばし、全てを飲み込み、全てを滅ぼす爆発が起こる。
凄まじい地響き、唸る轟音、吹き荒れる爆風。
大地が割れるような、裂けるような、崩壊するような爆音。
稲妻が舞い上がる全ての木、石、土、いや・・・細胞までをも滅ぼそうと容赦ない攻撃をしかける。
大気は急速に中心へと収束していき、熱風とともに上空へと舞い上がり、大きな大きな雲を形成していった。
ゴゴゴゴ・・・ゴゴゴ・・・ゴゴ・・・
お腹の底から響くような低い音が世界を包み込んだ。
ガタリヤでは街中大パニック。
窓は割れ、看板は飛ばされ、土砂が空から振ってくる。
空を見ると大きなキノコ雲が更に成長を続けている。
人々は・・・ただ呆然とそれを見ている。
ルクリアも、グワンバラも、グワンバラの旦那さんも、店から出て、大空でグングンと成長する雲をただ眺めていた・・・
圧倒的な力を目にして、どうすることも出来ない無力感と、これからなにが起るのかといった恐怖、巨大な力を前に信仰する気持ち、すがるような気持ちすら出てきている。
それは遠く離れた場所まで、地響きと共に異変を知らせており、聖都の宮殿にいる聖女にも知らせが届く。
「ご報告っ!爆発によるキノコ雲の場所はガタリヤ北部であると判明しましたっ!被害状況は不明!以上です!!」
「お下がりなさい」
「はっ!」
「ふふふ。また何かしたの?アーニャ」
アーニャは領主領内の屋敷でザクトーニと面会中だった。
ミールが無事に討伐したという報告を受け、心から安堵の表情を浮かべていた。
「まさか本当にお一人で討伐されてしまうとは・・・」
「確かに・・・驚異的といいましょうか・・・今回の件で信じられない力を持っている冒険者なのだと確信しました。恐らく虹ランク・・・いや、それ以上かと」
「まだガタリヤにも希望が残されていたのですね・・・」
アーニャがホッと胸をなで下ろした時にそれは起った。
強烈な爆音、爆風が突如として屋敷に押し寄せたのだ。
ガラガラガララッ!
ガシャーン!
何枚かガラスが割れ、強風が屋敷内に吹き荒れる。
「な、何事ですか?!」
「こ、これはいったい??」
「ご報告します!北部ヨウレン川付近で壊滅的爆発が起った模様っ!ただいま被害状況を確認中!以上です!」
「北側っ?・・・」
アーニャとザクトーニは北部が見える窓に急いで駆け寄る。
視界にはもの凄い勢いで成長していくキノコ雲が見えた。
「こ、これは・・・」
「ザクトーニ!!直ぐにギルドに戻り情報を集めなさい!調査隊は軍から派遣します!今から24時間は冒険者のクエスト発注は停止するようにっ!」
「は、はいいっ」
「爺やっ!爺や!」
「ははあっ!アーニャ様っ!」
「直ぐに重臣達を集めなさい!対策会議を開きます!貴族達にも応援要請をっ!」
「ははっ!」
アーニャは次々と指示を出し、慌ただしく動き回る兵士達。
アーニャも対策会議に向かうべく急ぎ足で廊下を進むのだったが、足を一瞬止めて
「ミール様・・・」
未だ上空に広がっているキノコ雲を見ながら不安そうに呟くのであった・・・
ザザの村で復興支援をしているルチアーニ達も
「うぎゃぁぁ!今度はなんじゃあ!!」
「今度はガタリヤの方角じゃっ!ありゃぁなんじゃ?・・」
「ひええぇぇ・・・雲がグングンと盛り上がっていっとるぞい!」
「こりゃ・・・ガタリヤやばいんじゃないかい?」
「と、とにかくギルド長に連絡!状況を確認じゃ!」
遙か遠方で世界中の動向をモニタリングしている大聖都ハミスの観測所本部でも
「ルーン国方面で巨大なエネルギーを確認っ!」
「エネルギー値1万6000レロム!」
「い、1万ろくせん・・・だと?・・・ば、バカな・・・」
「直ぐに大聖女様に連絡!ルーン国に状況確認!」
お分かりの方もいるかも知れないが、この爆発はミールが怪しい老人から購入していた古代の超レアアイテム『雷爆の魔法が封じ込められた魔石』だ。
今現在、この世界で雷爆の魔法を使える者はいない。
そればかりか、爆発の魔法を使える者も、世界中で数人程度と言われている。
それほどに爆発系の魔法は、どの魔法よりも習得が難しく、それに見合うだけの最高峰の威力を誇っていた。
しかも今回発動した雷爆の魔法は、雷と爆発の合わせ技だ。
古代の時代に『合成魔法』と言う名で存在していた魔法なのだが、現在はその生成方法は失われており、残念ながら新たに生み出すことが出来ていない。
その威力はというと・・・
通常、魔石の魔法を発動させると使用者は魔法壁に守られるので全く干渉が生じない。
しかし、そんな強固な魔法壁を通しても耳を塞がないと鼓膜が破られるのではないかと感じる程の爆音と、吹き飛ばされるのではないかと思うほどの爆風がミール達を包み込んでいた。
更に言うと、ガタリヤの街は結界で守られている。
以前にも少し説明させて頂いたが、魔力を使用した攻撃の威力は結界によって軽減される。
それは威力が高ければ高いほど軽減率は大きくなり、大幅に弱体化するのだ。
それなのに、強風は土砂を巻き上げ、看板を飛ばし、窓ガラスを割る。
いかに強力な魔法が発動したかが、お分かりだろう。
リューイとブルニは必死に飛ばされないように、リリフとセリーを庇いながら、大地の怒りが収まるのをひたすらに待っている。
やがて・・・
徐々に視界が開けてくる。
上空には巨大な雲と、コントラストを描くような真っ青な空が広がっていた。
他の雲は全て吹き飛ばされたようだ。
砂煙が風に乗って草原から川の方に流れていく。
「こ、これは・・・」
ブルニが驚きの声を上げる。
そう、ミール達を中心に直径1~2キロほどの、巨大なクレーターが形成されていたのだ。
ついさっきまでそこにあった、草原も、木々も、湿地帯も、根こそぎ削り取られて地層が露出している。
まるでドーナッツを作る際の型のように、中央のミール達の立っている部分だけ浮き上がってみえるほど、周りが一面深い溝に囲まれていた。
あれほど大量にいた獣たちも、全て飲み込まれたようだ。
生き物の声や気配は全くしない。
ミールは再度、リリフやセリーの様子を確認する。
リリフはかなり危険な状態だ。セリーは意識が無いが命の危険は無さそうだ。
手にギュッと誰かの切り落とされた腕を握っていたので、そこで始めてリリフの左腕が無い事に気付く。唇を噛みしめるミール。
ミールはショートソードを取り出し、炎を纏わせた。
「ミ、ミール様っ。な、なにを?・・・」
「リリフの血管を焼いて止血する。このままじゃ出血多量で死ぬ」
ジュウッっと肉が焼ける音がする。煙が上がり、不快な匂いが立ちこめる。
止血を終え、再度回復魔法をかけるミール。
セリーが握っているリリフの腕をマジックポケットにしまいこみ、リリフをおんぶした。
「2人とも、キツいだろうが急いでガタリヤに帰るぞ。リリフが危険な状態だ。早く手当をしないと命を落とす」
そう言うと返事を待たずにクレーターになっている斜面を滑り降りる。
「は、はいっ!ミール様!」
2人はセリーを抱え、慌てて一緒に斜面を下る。
そして岩肌が露出した荒野を進んだ。
まだ所々で煙が立ち上っていたり、プラズマのような光の束がバチバチっと音を立てている。
湿地帯だった事もあり、チョロチョロと水がクレーターに流れ込んで来ている箇所もあった。
1キロ程進み、今度は登りだ。けっこう急な斜面を両手を使いながら登り進む。
岩肌は粘土質な地層だったので若干滑りやすい。
しかし凄まじい衝撃の影響か、大小様々な石がめり込んでいたり、ゴツゴツとした形状になっていたりするので踏ん張りが効く。
ミール達はなんとか傾斜を登り切った。
ハアハアと息を切らしているブルニ達。小柄な2人にはセリーは重そうだ。
「すまん。気付かなかった。俺がセリーを背負おう。2人はリリフを頼む」
「いえ!大丈夫です!早く進みましょう!」
そうしている時間さえ惜しいとばかりに、グイグイと先に進むブルニ。
「分かった。頼むぞ」
「はいっ!」
とにかく無言で進んで行く。聞こえるのはハアハアと荒い息づかいだけだ。
幸いモンスターには一切襲われなかった。あまりの爆発と爆音に身を潜めているのであろう。
「ちょっと通話する」
「はいっ。はあ、はあ」
ミールはピエール宛に魔力を込める。
「あ、ミールさんっ?!聞きました??今、凄い爆音と爆発が起ったんですっ!僕のお店の窓も割れちゃってっ!街中大騒ぎですよっ!」
「そうか・・・ピエール。忙しい所、悪いんだけど、知り合いに腕の良い修復士っていないかい?ちょっと緊急に見てもらいたい奴がいてね・・・」
「修復士ですか?いますいます。最近店を構えたばかりですが、腕は確かです。ずっと冒険者をしていた者で、僕となにかと縁がある奴でして・・・急ぎって言ってましたよね?それじゃあ知り合いが向かうって言っておきますね。場所は星竜街の7丁目19―70、ココ治療院ってとこです」
「そうかっ。マジで助かるよ!頼むな!」
「はいっお任せを」
通話を終えると、いつの間にかセリーが目を覚ましており、足下はおぼつかないが一緒になって歩いていた。
「おお、セリー。目が覚めたか。具合はどうだ?」
「ミール様・・・申し訳ございません・・・わたくしが付いていながら・・・り、リリフは・・・お嬢様は・・・」
気軽に「助かりますか?」とは聞けないほど、傷だらけのリリフを見て、言葉が出てこないセリー。
「今、知り合いに腕の良い修復士を紹介してもらった。セリーも起きたし、少し走るぞ」
「は、はいっ」
小走りで進むミール達。
「そ、そういえば・・・もしかしたら・・・はあはあ・・・調査隊の兵士が・・・向かってくるかもしれないが・・・はあ、はあ・・・なにも知りませんで通すように!いいな?!」
「分かりましたわ!」
「はいですぅ!」
「了解です」
ミールの予測通り、しばらくすると前方から50人前後の兵士が、ミールの方向に向かってきた。
「君たち?!どこから来たんだ?!なにか見たかい?!」
早速、先頭の副官と思わしき兵士が話しかけてくる。
何故大将ではなく副官と思ったかと言うと・・・
「いえ!なにも分かりません!急に爆発が起って・・・仲間が巻き込まれてしまったので!すみませんが先を急ぎますので!」
「おお!そうか・・・爆発時に何か変わった事などなかったか?誰かが争っていたとか・・」
副官は、更に質問を続けてくる。
急いでいるってのに、こっちの都合などお構いなしか・・・
「ライン副官。こちらの冒険者は急いでいるのだ。呼び止めるのは失礼であろう」
副官の言葉を遮って、出てきたのは大男。
見事な金色の鎧を身に纏い、隆起した筋肉、発せられる品格、そして放たれるオーラ、全てが一流を示していた。
その比べようがない、圧倒的な存在感は周りにいる者に安心感を与えるほどだった。
チラッ
一瞬、ミールに目配せをしたかのように見えたが、直ぐにクレーターに視線を移す。
「では、冒険者の諸君、ご武運を。行くぞ」
「はっ!ダストン将軍っ!失礼しましたっ!よし!全体、進め!」
「はっ!」
兵士達は鎧をガシャガシャ鳴らしながら、クレーターの方に走っていった。
「凄い存在感の方でしたわ・・」
「そうだな・・・多分、これから野良デーモンが現出すると思うが、あの人がいれば大丈夫だろう。よしっ・・・街中はパニックになってるそうだ!冷静に突き進むぞ!」
「はいっ!」
続く




