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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記㉔

 しばらくして買い物を終えたリリフ達が階段から降りてくる。

「やっほー。お待たせっ、リューイ。なんか良い冬服あったぁ?」


「え?・・・」

 リリフの問いかけに、キョトンとしているリューイ。手にはしっかりと女性用の水着が握りしめられていた。


「お兄ちゃんのエッチっ」



⇨ガタリヤ奮闘記㉔




 ミールはギルドを出て出発の支度をする。

 色々と購入しておかなければならないからだ。

 当分ガタリヤには帰ってこれない。食料やら衣類やら日用品やら燃料やら・・・そして結界石。



 ミールが通常使用している、匂いも音も姿さえも消せるドーラメルク産は、今ガタリヤには無い。

 しかし今回はミールの存在を消す必要は無く、むしろ存在感を出す必要があるので、性能が悪い事で有名なこの国の結界石で十分なのだ。



 唯一危険なのが、他の人間に見つかり襲われる事なのだが、今キーンは外出禁止令が出ているのでその心配も激減している。



「直ぐに出てきてくれれば良いが、人間1人だもんなぁ。森の中だと他の動物とかに目移りしてしまうかもしれん。平原でポツンといる事にするかぁ・・・食いついてくれるかなぁ」



 すっかり日も暮れた石畳の道を歩きながら、独り言を言って頭の中でシミュレーションをするミール。

 一応1ヶ月はキャンプ出来るくらいの準備をして、グワンバラの食堂に戻る。

 出発は明日の予定だ。



 食堂に入ると、そこにはリリフ達がご飯を囲んで座っている。ミールが帰ってくるまで食べないで待っていたようだ。

 ピコルも誘ったのだが、明日早番との事で残念そうに先に帰っている。



「あっ!ミール!お帰りなさい!」

「よお、すまんな。なんか待っててもらってたみたいで」

「ううんっ!全然っ!」

「みんなで食べた方が美味しいですわっ!」

「はいっブルニもそう思いますっ!」

「ミールの分も注文してあるのよ。私と同じっ。一緒に食べましょ」

「あー!リリフっ!それはズルイですわっ!ミール様っわたくしのもお食べになってくださいましっ」

「ぶ、ブルニのもどうぞっ!」

「・・・愛の共同作業・・・」



 ルクリアも席に着いて一緒に食べるようだ。

 やはり、まだまだ客足は戻っていないらしい。



「お、おう・・・みんなありがとな・・・」

「それでは、せーのっ」




『いただきますっ』




 リューイもブルニも、みんなでゆっくり食事をする事にだいぶ慣れたようで、元気にいただきますを言えるようになっていた。

 見ると痩せ細っていた身体も、すっかり肉が付いてきたようで肌艶も良い感じだ。



 しばらく和やかに食事を楽しむリリフ達。



「そういえば・・・ちょうどみんなに報告があるんだ」

「え??なになにっ?」

「ドキドキですわっ!」

「・・・正式に彼女指名・・・」

「え??ぶ、ブルニとですか?そ、そんなっ。ダメです、ミール様!」

「ブルニ、オチツケ」



「・・・・えーっと・・・俺は明日からガタリヤをしばらく離れる事になった」



「えええええー!?」

「そんなあぁぁ!」

「・・・突然の別れ・・・」

「ど、どうしてですか??ミール様!」



「えっとね・・・ちょっと危険なモンスターが、キーンの領地に出ているみたいでね。今ガタリヤには物資が不足してるのは知ってるよな?要は、そいつが出てから輸送隊が襲われるようになっちゃってね。討伐しないとマズイんだよ」



「でもっ!キーンの領地なんでしょ?!そこの冒険者達が戦えばいいじゃない!なんでミールなのっ?!」


「キーンの冒険者達も兵士達も、聖都の冒険者達も、キーンのタウンチームまでもが全滅したみたいなんだよね。超強いらしい」


「そ、それは・・・み、ミール様でもっ!危ないのではっ?!」

「確かに・・・結構ヤバいかもしれん」

「・・・だったら・・・止めとこ?・・・」



「でもな、ルクリア。仮に放置しといたら、もっとヤバい事になる可能性が高いんだよ。大袈裟じゃなくて、全世界が危険になるかもしれない」



「そ、そんな・・・お、1人で向かわれるのですか?!ぶ、ブルニもお供しますっ!」

「だったら私も行くわっ!」

「わたくしもですわっ!」



 ミールはゆっくりと首を振る。

「言っただろ?相当ヤバいって。俺はお前達を死なせたくないんだよ。まあ、冒険者なんだから街の為、世界の為に戦う事は間違いではないが・・・まだお前達はその時では無い。ゆっくりと実力をつけてからにすべきだ。今回は俺に任せてくれ」



「・・・・」

 全員が沈黙する。

 どうすることも出来ない現実、自分達の無力さに嘆いているのかもしれない。



「か、帰ってくる・・・よね?」

 リリフは大粒の涙を流しながら問いかける。



「ははは。めっちゃフラグ立つ発言だな・・・でも・・・帰ってくるよ、間違いなく」

「約束ですわよっ。絶対ですわよ!」

「・・・ミールさんがいなくなったら・・・生きていけない・・・」

「ブルニもっ・・・心配です・・・」

「まだまだ全然、受けたご恩をお返し出来ていないので・・・帰ってきてくれないと困ります」


 全員が大粒の涙を流しながら、ミールの無事を祈る。



 コトンッとミールの目の前に、高級食材ルピロス産のトンプー肉(牛肉)ステーキが置かれた。


「あんたが死んだら、この店も宿も大損害なんだ。勝手に死ぬことは許さないよ。これでも食べて精力つけな」

 グワンバラがぶっきらぼうに、しかし、どこか暖かい言葉を残して厨房に戻っていく。



「さあ、みんなで食べようぜ。せっかくのルピロス産のトンプーだ。リューイとブルニは初めてだろ?ほっぺが落ちるぜ」

 セリーが全員に切り分けてくれた。



「ふわぁぁ」

「ああぁ・・・この味懐かしいですわぁ」

「・・・口の中で溶けていく・・・」

「しゅ、しゅごい!な、なにこれ!お兄ちゃん!」

「お、美味しすぎる・・・」


「ははは。俺もしばらくはマトモな飯は食べれないからな。今日は食いだめしとかないと」


「どれくらいかかりそうなの?」

「うーん。正直分からないんだよ。モンスターが直ぐに出てきてくれれば、5日程度で帰ってくるし、全然出てこなければ1ヶ月くらいは帰らないかもな。相手次第だ」

「そうなんだ・・・毎日お祈りするね。無事を祈ってる」

「ああ、ありがとう」



 そうしてしばらくワイワイと、食事を楽しむミール達。



「それじゃあ、明日に備えて今日はもう寝るよ。おやすみ」

 席を立ち、部屋に向かうミールの服をセリーが引っ張る。



「ダメですわっ!」

「え?・・・な、なんでしょうか・・・セリー様・・・」



 セリーはキランと目を光らせて

「エッチしましょう!今日は抱いてくださいまし!」

「あ!私も!絶対に抱いて欲しい!」

「・・・オールオーケー・・・」


「い、いや・・・明日に備えて寝たいんだけど・・・」


「ああんっ!分かりましたわっ!1回!1人1回でいいのでお願いしますわっ!」

「お願いっミール!」

「・・・ワンモア・・・我慢・・・」



 何回も言うが・・・リリフ、セリー、ルクリアは本当に美人なのだ。それに抗う事など出来る訳がない・・・



「わ、わかった・・・い、1回だけな・・・え?でも・・・俺は3発ってこと?・・・」

「さあっ!参りましょう!」



「あ、そうだ。リューイとブルニ。ごめんなさい。今日はミールの部屋で寝てくれない?お姉さん達、大事な用があるから」


「なに子供扱いしているのです!リューイもブルニも、なにをしにいくのか分かってますわ!子供扱いしてはダメです!」



「そ、そか・・・ごめんね。その・・・そういう事だから・・あはは」

「・・・ブルニっちも混ざる?・・・」

「え?!い、良いんですか?・・・」

「そか。そういえば、ブルニもミールの事好きだったもんね。良い機会だからしてもらえば?」



 チラっとリューイを見るブルニだったが、兄としては反応に困る展開だ。


「ぼ、僕はミール様を信頼しています。妹を末永くよろしくお願い致します」

 まるでお嫁に出すお父さんだ!



「じゃあ決定っ!ブルニを含めて4人でミールを送り出しましょっ!」

「あ、あのっ・・・宜しくお願いしますっ!」

 ブルニはぺこりと頭を下げる。



「い、いや・・・お願いするのはこっちの方で・・・イヤイヤ!ブルニは幾つなんだ!?未成年はダメだぞっ!流石に!」

「ブルニは14ですっ!ミール様!」

「思いっきり未成年じゃないか!」



「ミール様、人獣は12で成人なのです。なので妹は立派な大人です。問題ありません」



「へえぇ~人獣と人間は、成人年齢が結構違うのね。初めて知ったわ」

「はいっ!ブルニはもう立派な大人ですっ!子供も産めますっ!宜しくお願いします!」

「あ、そうなんだ・・・あの・・・俺、今日寝れるのか?・・・」

「もちろんですわっ!さあさあっ参りましょうっ!」



「うふふっ!あ、そだっ!ねぇ、ミール!私達、今日ピコルさんと一緒に新しい下着買いに行ったのよ!だから見てほしいな」

「そうでしたわ!わたくしも、ようやく自分にフィットするブラを買えて一安心ですの!是非ご覧になってくださいましっ!」

「ぶ、ブルニも初めてぶらじゃーというのを付けてみましたっ」

「・・・スライムパット・・神・・・」



 そうして引きずられるように、女の子達の部屋に連れ去られるミールと、それとは対照的に、ミールの部屋にトボトボと入っていくリューイ。



 しばらくして女の子達の喘ぎ声が聞こえてくると、それをオカズに自分で慰める。

 翌日リリフ達同様、目を腫らして寝不足の顔で現れるのであった。




 少し時間をさかのぼり・・・

 アーニャはギルド長のザクトーニと通話をしていた。



「なんですって?ミール様が討伐に向かわれたですって!ザクトーニ!何故行かせたのです!あれほどダメだと言ったではないですか?!」



 アーニャは珍しく・・・いや、知り合いに対しては生まれて初めて声を荒げる。



「その・・・ア、アーニャ様、申し訳ございません。ミール様の決意は固く・・・お止め出来ませんでした・・・」

「・・・ごめんなさい・・ザクトーニ。許してください」

「い、いえっ。滅相もございません」


「・・・どうしても・・・ミール様の事になってしまうと・・・ダメですね。感情が抑えられないです・・・」

「アーニャ様・・・」


「でも、どうしてミール様はお1人で行かれたのでしょう・・・とても危険なモンスターだというのに・・・カントリーチームが向かう事が決定しているのだから、任せておけばいいのに・・・」


「どうやらミール様は時間が無いと感じたようなのです」

「時間が無い?」


「ええ、このモンスターは報告書に記載させて頂いた通り、地中に根を張ってテリトリーを広げるタイプでございます。ミール様が仰るには、もしかしたら本体と思われている花の部分を倒しても、根っこを殲滅しなければまた復活してくるかもしれない。もしかしたら根っこが一国を飲み込む程、広範囲に広がるかもしれない。そして・・・もしかしたら種を飛ばして世界中で繁殖するかもしれない・・・と仰ってました。1ヶ月も待ってから対応したら、もう手遅れになっている可能性があると。そのために自分が行って確認してくると・・・」


「そうでしたか・・・確かにミール様が仰った可能性、そのどれもが世界に災厄をもたらす可能性がありますね。そこまで見抜かれているとは・・・流石ですわ・・・」



 アーニャは通話を終えると、腰掛けていたベットから立ち上がる。


 ここはアーニャの寝室。


 薄いピンク色のツヤツヤとした寝間着に身を包み、窓の方に歩いて行く。レースの花柄の刺繍が鮮やかなカーテンを掴み、真っ暗な空に浮かぶ星々を見つめる。



「ミール様・・・この星空の下で貴方は戦ってらっしゃる・・・たったお一人で・・・どうかご無事で・・・」



 アーニャの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。


 ミールがまさに現在進行形で、女の子達と身体を重ねているとは夢にも思わずに・・・





 結局1人1回で終わるはずもなく、朝まで励んでいたミール達は、お昼まで爆睡してしまった。

 ミールはボサボサの頭を掻きながら、日が傾きかけた時間にようやく出発する。

 リリフ達は今日はフィールドに出ずに、ミールとの余韻に浸るのだそうだ。



 ミールが目星をつけている地点までは、馬車では半日くらいの距離だが、歩いていくと二日近くはかかりそうだ。

 キーンでは外出禁止令が出されているので乗り合い馬車も運休中、ミールはテクテクと街道を歩いていくことにした。



 幸い、今はミールが注意するべき人間達には全くすれ違わないので、ルーン国産の結界石を発動させながら気楽に進んで行く。

 キーンとガタリヤの流通がストップしているので、当たり前といっちゃ当たり前だが・・・



 夕方になり、穏やかな夕陽が草原を照らしている。

 ミールは無理をせずにテントを設営し、ここでキャンプすることにした。

 結界石を大地に埋め込む。ルーン国産の唯一マトモな効力、他と比べても効果時間がそこそこ一般的なので、この結界石はまだまだ持ちそうだ。



 ミールは火を起こし、グツグツとお湯を沸かし、料理の準備をする。



 焚き火をすると、その光に引き寄せられて多数のモンスターが近寄ってくるのだが、朝までは結界も持ちそうだし、なによりこの平原は森の中と違いモンスターの数も少ない。

 大丈夫だろう・・・と、油断していたら、結構次々とモンスターが襲ってくる。



 当然バチバチっと弾かれて直ぐに逃げていくのだが、あれ?平原なのにこんなに襲ってくる?っと疑問に思ってしまう程だった。

 もしかしたら、食中プラントから逃げて来たモンスター達なのかも・・・

 ということは、既にこの近くまで根を張っているのか?



 ミールは真っ暗の平原の中で、明々と燃え上がる焚き火の炎を見ながら、嫌な予感を感じつつ肉串を頬張るのであった。



 食事も終わり、寝る準備をする。

 結界は朝まで余裕で持ちそうだが、念のため寝る前に憑依魔石を使って使役モンスターを出現させた。



 今日は奮発して死霊騎士だ。



 かなりの高レベルの使役モンスターなので低レベルモンスターばかりの、この平原では暇を持て余すだろうが、初日なので慎重くらいが丁度良い。



「頼むぜ」

 ミールは死霊騎士に話しかけるが、ピクリとも動かずに前方の暗闇を見ている。



 別に嫌われている訳では無く、この手の範囲召喚は、敵が現れたら動き出すので、これが正常だ。

 決してミールを守ろうとは動かないのが玉に瑕だが・・・



 ついでにクルッピにも声をかける。

「食中プラントが来た時だけで良いから、教えてくれよな?」

 クルッピは『了解しましたっ』って感じで敬礼してるような仕草を見せ、チョコマカと草の間に顔を突っ込んだり、辺りを飛び回ったりしている。一応警戒してくれているようだ。



 ミールはクルッピの動きに「本当に大丈夫かねぇ?」と一抹の不安を感じながらも、寝袋に収まっていった。





 翌日、夜明けと共に歩き出し、夕方近くになって目的の場所まで到達する事ができた。

 とりあえず、テントを設営して、料理の準備をする。

 相変わらずテントの周りをクルッピがふわふわと周回して、警戒してくれているようだ。

 死霊騎士は、昨日同様全く動かない。



 え?また同じのを召喚したの?別のにすれば良いのに・・・

 そう思った方、お待ち下さい。

 実は、昨日召喚した騎士ちゃんが、まだ帰らずに同行しているのだ。

 これはミールも驚きだった。



 昨日の夜は、結構な頻度でモンスターが襲ってきていたようで、朝起きたら、そこらじゅうにモンスターの死体が散乱していた。

 なので、あまり動いてないから魔力が余っているということでは無い、いや寧ろ働きすぎな感じだ。



「なんか高レベルの使役モンスターは滞在する時間も長いのかなぁ?」



 まあ、ミールにとっては嬉しい誤算なので問題無い。

 日中に街道を仲良く歩くミールと死霊騎士の絵面は、さもシュールだった事であろう。



 ミールが陣取った場所は、キーンとヨウレン川の中間くらい、そして少しガタリヤ寄りの場所で、メイン街道であるドランコ街道からは少し外れた、周りには何も無い平原だ。



 街道から外れているので、万が一にも人に会う可能性は低いし、平原なのでモンスターの数も少ない。

 これで他の生物に目移りする事もないはず。

 あとはミールというエサに食いついてくれるのを待つだけだ。



 ミールはビーチサイドの砂浜に置かれているような、ベットチェアの上に寝袋を敷き、その上でうーんと伸びをする。

「早く出てきてくれないかなぁ・・・」

 そう呟きながら眠りにつくのであった。




 それから二日が経過した。とにかくやることがない。

 ひたすらぼーっと、ゆらゆらと風にそよぐ草々を、花と戯れる蝶々を、ピクリとも動かない死霊騎士を眺めていた。



 そうなんです。何故か帰らないのです、この子。



 ミールも段々と愛着が湧いてきてしまって、色々話しかけるのだが全くの無反応だ。



 しかし、偶にテリトリーにスライムなどが入ってくると、鎧が重いのかドスドスっと大きな足音を立てながら近づき巨大な斧で一撃粉砕、また元の位置に戻ってきて静止するので仕事をする気は満々のようだ。



「コイツをこの場で倒せたら、常駐型の使役モンスターになってくれるんかな?」



 使役士の使役モンスターは99.9%単発モンスター。つまり1回召喚したら二度と召喚出来ない使い捨てモンスターだ。

 しかし極々たまに、本当に、もの凄い低確率で常駐型の使役モンスターになってくれる場合がある。



 常駐型の使役モンスターとは、呼び出したい時に何回も呼び出せる、この世界でいう所の召喚獣のような存在だ。

 ミールの現在獲得している常駐型は、使役士では誰でも使役しているクルッピだけ。




 そういえば丁度良い。

 以前、憑依魔石は厳密には憑依ではないと説明させて頂いたが、ここで詳しい説明をさせて頂こう。




 今までの説明のおさらいだが、使役モンスターは基本的に全て精神世界に身を置いている。

 その精神世界に入る扉が、使役士のみが潜る事が出来る『暗黒の門』と呼ばれているものだ。

 その精神世界でモンスターを倒すと、使役モンスターとして呼び出す『契約』をする事が出来る。

 そして現実世界でその『契約』を使って精神世界から具現化させていると一般的に言われている。



 しかし以前、『契約』というよりかは『服従』に近いとお伝えしたが・・・



 実際のイメージ的には『首輪』。犬に装着するリード付きの首輪だ。



 当然、実際の首輪ではなく一種の呪い、呪詛のようなモノ。その呪詛は使役士専用のスキルとなっている。



 つまり倒したモンスターに首輪という呪詛を付け、『リード』を引っ張り、精神世界から強制的に召喚しているのが、使役モンスターという訳だ。



 そして憑依魔石とは『リード』の持ち手が、魔石に付与されたという事。

 なので憑依魔石を使うと、そのモンスターの首輪を引っ張る事となり、お目当てのモンスターを強制的に呼び出す事が出来るという訳だった。



 その首輪という名の呪詛は、戦闘が終わると解ける仕組み。



 使役モンスターは呪詛が解けた瞬間、一目散に精神世界に逃げ帰る。なので召喚は一度きりという訳だ。



 何故逃げ帰るのか?その理由は・・・

 少し話が逸れるが、説明させて欲しい。



 使役士は精神世界のモンスターから、もの凄く嫌われている・・・らしい。

 精神世界にいるモンスターには実体が無い。そしてその世界に身を置いているモノは、恨みや憎しみといった負の感情によって、輪廻の浄化を拒んだ怨念のような存在だ。



 その怨念と化したモンスターは、生物の負のエネルギーを糧に長い長い、非常に長い年月をかけて徐々に力を蓄え、そして現実世界に具現化する。

 貴方の世界でいうお化けの類いもこれにあたる。



 この怨念の望みは様々だ。

 恨みをもっているモノはその対象、もしくは一族の死を望み。

 憎しみを持っているモノは、目に映る全てを破壊したいと望み。

 悲しみを持っているモノは、沢山の人々を道連れにしたいと願う。



 そういった願望を叶える為に現実世界に具現化(実体化)する事が怨念の悲願なので、途中で邪魔をされたりしたら、死んでも死に切れない(既に死んでいるが・・・)



 その正に邪魔をしてくるのが、使役士というわけだ。



 勝手に怨念達の世界に足を踏み入れ、怨念達に次々と首輪という名の呪詛を付けてくる。どうしても精神世界は実体を持つ者の方が有利なのだ。



 一応見方によっては、形はどうあれ使役モンスターとなると、使役士の魔力によって実体のある存在として具現化する事が出来るので、怨念達にも大きなメリットがあるようにみえる。

 しかし、それはあくまで自由に行動出来ればの話。

 実際は使役士の命令には絶対服従の『呪』があるせいで、怨念の願いを叶える事は夢の又夢となっている。




 そして怨念が使役士を嫌っている1番の理由は・・・自爆の命令さえも従わなくてはならないという事。

 これが怨念にとっては非常に大きな大きな問題なのだ。



 どういう事かというと、まだ倒されるだけならいい。

 現実世界で倒された場合、首輪という呪詛は解け怨念は精神世界に還っていく。

 非常に長い年月溜め続けた力が無になって最初からやり直しとなるのだが、まだ存在し続ける事が出来るからだ。



 問題は使役士から自爆させられた場合。

 首輪という呪詛がかけられた状態で自爆という命令を受けるということ。

 それは主からの存在否定のようなもの。

 ただでさえ実体の無い精神体の怨念は、この行為に心が耐えることが出来ず消滅してしまう。



 これは輪廻の輪から外れた存在の怨念にとっては、現世からも精神世界からも完全に消滅してしまうので一大事。



 正に怨念にとっては長年の苦労を無にされる最も屈辱的な結果になる為、使役士が精神世界に入ってきたら必死に抵抗して抗うし、首輪を付けられても呪詛が解かれた瞬間、一目散に逃げ帰るという訳だった。




 それほど怨念達の現実世界への具現化の願いは強い。

 それほど恨み、妬み、悲しみは深い。




 つまり・・・精神世界で怨念と化したモノ、現実世界で実体のあるガイコツやゴースト、エルダーリッチとして具現化している殆どは、人間の成れの果てなのだ。



 因みに悪魔種は人間種、ドラゴン種と同じで、れっきとした種族。

 精神世界に身を置いているとはいえ、生命体なので使役する事は出来ない。

 具現化する条件も数多くの死体が必要なので別扱いとなっている。



 話を戻そう。

 したがって使役士は暗黒の門に潜ってモンスターを倒しまくり、自分の頭の中に『リード』を沢山ストックして自分の為に使うのも良し、魔石に『リード』を保存しまくって、後日売りに出すのも良し、という事なのだ。



 そして自然界で、勝手に魔石に宿ってしまったケース。これは使役士に首輪を付けられたが、結局召喚されなかったケースがこれにあたる。



 どういう事かというと単純で、使役士が死んだ場合だ。

 使役士が死んだ場合、頭の中にストックしていた『リード』は宙ぶらりんとなる。

 その精神世界でフワフワと漂っていた持ち主不在の『リード』の持ち手が、偶然魔石との相性が良くて吸い込まれてしまったモノと思ってもらいたい。



 そして常駐型だが・・・怨念が使役士を気に入り、進んで力を貸してくれる。そんなイメージ。

 分かりやすく言うと『眷属』だ。

 


 常に首輪という呪詛が付いている状態になるので、通常の魔法のようにイメージして魔力を込めるだけで、常駐型モンスターを使役する事が出来るようになる。

 つまり召喚獣のように何度でも召喚可能となるのだ。



 正に使役モンスターとしては、身も心も全て貴方に捧げます、という事。

 自爆すら命令できる相手の為に、全てを捧げる覚悟をするのは容易ではない。

 先程も説明させて頂いたが、自爆=全ての消滅を意味する。



 現世に強い強い恨みを持ち、輪廻の浄化を拒んだ存在の怨念が、使役士を気に入るという事は、何かの特別な縁、特別な関係がある場合に限るので、先程も言ったが超低確率な存在なのだ。



 つまり今のミールには、死霊騎士を倒す事が出来ない(スキルが発動していない為)ので、どのみち自身が使役する事は出来ないが、思わず常駐型に出来るのでは?と思うほど、この死霊騎士の行動は予想外の動きをしている。



「ま、流石に今日で帰るだろう」



 パラソルを立ててゴロンとベットチェアに寝転がり、飲み物をゴクリ。草原の中で、この一画だけが、完全にビーチサイドの砂浜のようになっている。

 ミールはポカポカとした陽気に照らされて、寝息を立て始めたのであった。





 一方、リリフ達もミールが旅立ってから、順調に経験を積み重ねている。

 早朝ギルドで初心者応援クエストを受注し、畑、家畜護衛クエストも出ていれば受注する感じだ。



「よしっと。じゃあ今日も初心者応援クエストと家畜護衛クエスト宜しくねっ」

「はーい!」

 ギルド嬢の新人、クレムが元気よく対応する。



「あ、リリフさん。いつものD区画は定員があと3名になっちゃってるのでF区画でも良いですか?」

「あ、そなんだ。うんっ、分かったわ。今日はF区画ねっ。りょーかいっ。最近、結構家畜護衛クエストやる人増えたよねー」

「ですです。リリフさん達のように新人冒険者さんが何組か誕生しましたので」



「へー・・・そういえば、最近ピコルさん見ないわね。風邪でも引いてるの?」



「あ、いえっ。ピコル先輩は今、リーダー研修で講習を受けてるんです。いつも夕方にはギルドに帰ってきますよっ」


「へええっ!ピコルさん、出世するんだぁ」


「はいっ。研修が終わったらギルド嬢のチーフになるんです!ガタリヤギルドで最短記録みたいですよ!」

「すごいなぁ」



「そうなんです!ピコル先輩はとっても優しくて、教え方上手で、そしてとっても頼りになるんです!私の憧れの先輩です!」



「うんうん。分かるわ」


「えへへ。ちょっと熱が入ってしまいました・・・はいっ!では、初心者応援クエストと家畜護衛クエストの登録完了ですっ!気をつけていってらっしゃい!」

「うん!行ってきます!」



 お互いに手を振り、元気よくセリー達に合流するリリフ。



「さあっクエスト受注したわ。早速行きましょうか?!」

「はいっリリフ姉様っ」



「あ~・・・ごめん。強いモンスターの目撃情報とか確認するの忘れてたっ。ミールが絶対に怠るなって言ってた奴だから確認しないとっ」



「確かに・・分かりました。今後は僕達も確認するように習慣漬けます」

「ぶ、ブルニも確認しますっ」

「うん、宜しくねっ。よしっと。強いモンスターの目撃情報は無いみたいね。セリー?準備出来た?」



 当のセリーは呼びかけには答えず、クエスト情報が載っている大画面を見てため息を吐いていた。



「はあぁ・・・早く他のクエストも受けれるようになりたいですわねぇ」

「あはは。ホントだねぇ・・・」


「他のクエストってどんなものがあるのですかっ??」


「○○を○匹倒せって討伐クエストが多いよ!でも大抵は森の中にいるモンスターだから、今の私達じゃ挑戦出来ないのよね・・・」

「え??なんでですか?」


「ミールがさ、ほら、言ってたじゃない?絶対に森に入るなよって」

「ああっ。そうでしたっ。なるほどぉ・・・」



「でも森ギリギリの所でしたら、大丈夫なのではないでしょうか?要は、森に入って足場の悪い状況の中で、囲まれたら危ないという事だと思うので、平地に誘いだして倒すとかはどうですかね?」



「なるほどっ!それは良い作戦ですわねっ!」


「確かに!それだと平地で見ないモンスターとも戦えそうねっ!もし平原に出てこないようだったらセリーの魔法で遠距離攻撃しても良いし!よし!護衛クエスト終わったら、早速今日やってみましょ!」


「はいっリリフ姉様っセリー姉様!」

「よーし!燃えてきたぁ!」

「あんっ・・・リリフ!でも慎重にですわよ。油断大敵、ですわっ!」

「うん!そうね!最初は深追いせずに慎重に!声出して行こう!」

「はいっ!」



 そうしてまた一段、冒険者としての経験を積み重ねていくリリフ達であった。





 ミールがテントを設営して5日が経過した。

 全く動きはない。



「やっぱり人間1人じゃ、食いついてくれねーかなぁ・・・」



 一応、他の場所などで被害情報が入ったら、ギルド長から連絡が入る事になっているので、今現在は大きな動きは無いようだ。



 こうなったら我慢比べ。

 今、下手に動いてガタリヤで被害が出たら元も子もない。

 モンスターがガタリヤ方面に向かうとしたら、絶対にこの場所を通るはず。

 そう信じて我慢強く待つミールであった。




 リリフ達も同じように、早朝からギルドに来て、クエストを受注してフィールドに出る毎日を繰り返している。

 リューイの提案で、最近森ギリギリの場所を探索しているので、色々と今まで出会った事が無いモンスター達と多く戦えていて、充実感溢れる日々を送っていた。



 最初こそ初めて戦う相手という事もあり苦戦した時もあったが、最近は危なげない戦いを見せている。

そうなると余裕が出てきて、普通は少しだけでも森に入っちゃおうか?と思うものなのだが。

 セリーを中心に気を引き締めており、リリフ達は一切森に入ろうとはしていなかった。



 今日の朝までは・・・・



              続く

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