ガタリヤ奮闘記㉓
「では皆様、本日は楽しい時間をありがとうございました。とても充実した1日でした。また、お目にかかる日を楽しみにしております」
最後まで腰の低いラインリッヒであった。
翌日、案の定というかなんというか・・・
全員二日酔いでフィールドどころではなく、部屋からは多数のうめき声が聞こえてくるのであった。
⇨ガタリヤ奮闘記㉓
ラインリッヒとの打ち上げから二日経ち、リリフ達の体調も無事回復した。
今日は朝からギルドで初心者応援クエストや、畑、家畜護衛クエストなどを受注して、1日中鍛錬するらしい。張り切って朝早くに出かけていった。
ルクリアも役場で適性登録をしてから、いつも通り食堂を手伝うようだ。
そして・・・
肝心のミールは、ギルド長ザクトーニの部屋でコースヒを啜っていた。
緊急に相談したい事があると呼び出しを受けたからだったが、正直、話の内容は予想できる。
「ミール様。わざわざご足労ありがとうございます」
「前置きはいいよ。例の食中プラントはどうなったんだ?」
「はぁ・・・お恥ずかし限りですが、特に進展は無い感じでございまして・・・」
「なるほどな・・・とりあえずギルド長が知ってる限りの情報をもらえないか?」
「りょ、了解いたしました。えっとですね・・・まずは特徴ですが、どうやら今回の巨大プラントは、移動するタイプのようでして・・・」
「ああ、それは別の所から聞いてる」
「そ、そうでしたか・・・流石はミール様です・・・えーとですね。報告書によると・・・なんでも、かなり神出鬼没なモンスターらしいのです。現れたと思ったら、あっという間に人も物資も飲み干して、直ぐに土の中に隠れてしまうようですな。現れる場所も、最初は街道沿いばかりだったのが次第に広がっていって・・・今では広範囲に全長10キロくらいの広さの中で、ランダムに出現するみたいです。的が絞れない上に一瞬ですから、かなり手を焼いているといった所でしょうか」
「ふむ・・・10キロか・・・にわかには信じられんな・・・」
「最初に被害が確認されたのが2ヶ月前、聖都とキーンを繋ぐメインの街道と言いますか、よく輸送隊が行き来するドランゴ街道の中央付近。そこで立て続けに2件輸送隊がやられまして」
「ふむふむ」
「ミール様もご存知かと思いますが、ドランゴ街道は二股に分かれております。最近作られた、よく使われている平地を通るルートと、昔からある山や森を抜けるルート。平地の方に被害が集中していたので、旧道の方にルートを変えたそうなんですよ。そしたら無事に通過出来たようでして・・・討伐されるまではとりあえず、こちらのルートで物資を運ぼうって事になったそうです」
「ほうほう。旧道の方は、かなり傾斜もあって大変だろうに・・・まあ、襲われるよりはマシって所か」
「そのようですな。それで1ヶ月近くは輸送隊も無事に行き来出来てました。しかし、肝心のモンスター討伐は全く進展が無かったようですな」
「全く?」
「さようでございます。報告書には全く姿を現さなくなったと書かれております。現れていた新道に。冒険者達が何往復もしたようなのですが・・・なので、もしかしたら気付かないうちに、モンスター同士の争いで死んでしまったのでは?という話になりまして、通常通り新道から進むルートに戻そうかと議論していたらしいのです。そこに一報が届きました。例のモンスターが旧道に現れた、と・・・」
「旧道に?」
「そうなのです。なのでそれが元々の個体なのか、別の個体なのかは分かりませんが、とにかく討伐しなければなりません。ということで、かなり大規模な討伐隊を旧道に派遣して、更に新道にも別働隊の討伐隊を進ませようとしたんですね」
「完璧じゃないか。それでどうなったんだ?」
「それが・・・ほとんど全滅してしまったようです。旧道の方は聖都とキーンから大規模な冒険者を派遣していたんです。かなり有力なメンバーで、それこそ金ランクも数名いるくらいの、殆ど銀ランク中心の凄腕達です。しかしその討伐隊すら、ほぼ全滅して敏捷性が高い数名だけが命からがら逃げ帰ってきたって事が、旧道で起った出来事ですね」
「・・・旧道で起った出来事?・・・」
「そうです、そのモンスターは新道の方でも現れて冒険者達を丸呑みしました。当然こちらの方も、旧道に向かった討伐隊程ではないにしろ、かなりの有力な冒険者達が参加していました。そのほとんどを飲み込んで姿を消したようです。生き残ったのは、斥候で出ていた数名のレンジャーのみだったそうで」
「なるほど・・・ギルド長。多分これは・・・」
ミールは1つの結論を導き出した。
「その後、このままだと埒が明かないって事で、囮の輸送隊を出発させて冒険者と、今度はキーンの兵士達も参加して、大部隊で、その護衛に一極集中で対応したんですよ」
「確かに良い手だ。もはや誘い込んで数の力で倒すしかないだろうからな」
「そうなのです。しかし、併せて2000人規模の大部隊が、ほとんど為す術無くやられたとの事です。命からがら逃げ帰ってきたのが数人だとか・・・」
「タウンチームも参加したんだよな?」
「ええ、勿論。キーンのタウンチームが参戦してましたし、前回ほどではないにしろ、全員黒ランク以上の部隊です。そして兵士達もキーン自慢の実力部隊が集まりました。それが手も足も出ないとなると・・・」
「変異種・・・の可能性が高いって事だな・・・」
ミールは先程の答えを口にする。
「その通りです。いくら何でもこれだけの戦力で討伐出来ないという事は、通常考えられないので・・・これでは輸送隊も危なくて出発出来ないって事で、当分は見合わせる決定がされたのが1週間くらい前の事です」
「ふーむ」
変異種
それは、ごく稀に出現する通常とは異なる生態の事で、記憶に新しいのがザザの村の奥地に飛来したドラゴンだ。
通常のドラゴンとは全く異なる生態をしていたし、強さも異常な程、飛び抜けていた。
変異種の多くの個体は、通常種とは異なる攻撃方法を展開してくる非常に厄介な存在であり、出現が確認された場合は大抵はタウンチーム、もしくはカントリーチームが対応する程の相手なのだ。
変異種はその特殊な生態の為、複数同時に出現したとは考えにくい。恐らく今回の食中プラントは同一個体であると予想出来る。
「確かにそこまで話を聞くと、同一個体の変異種である可能性が高いな。変異種が何体も同時に出現してる可能性も無くはないが・・・確率からいってそれはないだろうな」
「そうなのです。なので今回の件はカントリーチームが対応することになったのですが・・・どうやら到着に1ヶ月以上かかるらしいのです。このガタリヤに入ってくる物資の約半数は、聖都に頼っているのが現状。今現在でも物資不足の為、かなり物価が高騰しているのですが、これが更に1ヶ月間以上続くとなると・・・」
ギルド長は言いづらそうに両手の親指をクルクルしている。
「それで・・・その・・・大変、身勝手なお願いなのですが・・・」
「あれ?ギルド長。俺に死んでこいって言ってるのかい?」
「え?!いやぁ・・・それは・・・」
「話を聞く限り、かなり危険な最難関クエストじゃないか?タウンチームも歯が立たない相手だろ?しかも俺1人で倒してこいって事だろ?無理じゃね?」
「で、ですよね・・・し、失礼致しました・・ひょっとしたらミール様ならいけるんじゃないのかと甘い考えをしてしまいました。そ、そうですよね・・・危うくガタリヤの大切な大切な冒険者様を、死なせてしまう所でした。貴方を死なせてしまったらアーニャ様になんとお詫びすれば良いのか・・・失礼な発言謝罪致します」
ハゲ上がった頭皮に吹き出た汗を、ハンカチで拭いながらザクトーニは謝罪する。
「今の所、それからの被害は出ていないのか?」
「はい・・・カントリーチームが対応する事に決まったので、それまでは輸送隊も出発を見合わせる事になりました。なのでこれといった被害は報告されていませんね」
「ふむ・・・」
ミールはなにか嫌な予感がしている。
「1つ質問良いかい?何回か討伐に向かったってのは聞いたんだけど、どういう攻撃をしてくるかとか、どんな外見をしているのかとか、そういった情報はあるかな?」
「あ、はいっ。えっとですね。何人か生き残りがいまして・・・その証言などをメモした物が・・・あれ?どこに置いたかな・・・あ、ありました、ありました。ええっとですねぇ。まず外見は花ですね。地中から太い茎のような物が生えていて、その上にでっかいピンク色をしたお花がある、シンプルなデザインのようですな。それでですね、攻撃方法は、その花が巨大な口になっていまして・・・・10メートル程の大きさで、かなり牙がビッシリ生えているグロテスクな感じらしいのですが・・・それで直接捕食してくるようです。その動きが俊敏でして・・・茎がグイグイとゴムの様に動き回り、伸びたり縮んだりして、どんどん口の中に入れていくタイプらしいですな。とにかくあっという間に捕食されるようです」
「なるほど・・・輸送隊っていっても、これほど被害が出てるんだから、当然結界を発動させながら進んでたんだよな?大地吸い上げ装置を使って」
「そうなんです。実は、そこが今回のネックになってる部分と申しましょうか・・・なにぶん全滅が多いのでハッキリとしたことは分からないのですが・・・どうやら結界が機能してないのではないかというのが、現在のギルドの見解となっております」
「ふむ」
「一般的な輸送隊はミール様もご存知の通り、護衛に冒険者達が付き、結界を発動させながら輸送しております。そして、大規模に討伐に向かった時、キーンのタウンチームや精鋭兵が参戦した時、これらは多くの結界石を搭載した馬車で、発動させながら進みました。それなのに全滅しておりますので、ドラゴンと同じように結界を通過してしまうタイプなのではないかと。もちろん結界を破壊している事も考えられるのですが・・・上位の悪魔種とて、一瞬で結界を破壊するのは容易ではないですからな」
補足として・・・一般的に輸送で使われる馬車は、イメージ的にトレーラーのようなタイプ。長い荷台を数匹の馬を連結させて運ぶのだ。
しかし長細いため、結界石1個では全てをカバーする事は出来ない。
なので複数の大地吸い上げ装置を搭載して対応している。
だが、ご存知の通り、大地吸い上げ装置はクソ重い。
2台くらいだったら何とか5〜6頭の馬で対応できるが、3台を越えると馬を潰してしまう結果になるので、より丈夫な大型のトカゲだったり、巨大なゾウのような生き物を使って運んでたりする。
温和な性格で丈夫なので、重宝されるのだ。足が遅いのがたまにキズだが・・・
地域によっては二足歩行の鳥だったり、ヤギだったり、ラクダだったりを馬の変わりに使用しているので特色も豊かだ。
当然だが、これらの輸送馬車には冒険者が護衛に付いて、盗賊などの対策をしている。
「結界が通用しない・・・か。なるほどな・・・まずはどうやって移動しているか・・・だな。それが分からないと対策のしようがない」
「ですな。神出鬼没というのは我らにかなり不利ですな」
「ふーむ・・・」
ミールはしばらく黙って考え事をしている。
ギルド長ザクトーニも、ミールの様子を伺ってソワソワ落ち着かない。
考え事を始めてすっかり黙ってしまったミールに話しかける事も出来ず、机に散乱している書類をまとめたり、お茶を飲んだり、観葉植物に水をあげたり・・・
ミールも心ここにあらずな感じで、その姿を何気なく見ていたが、観葉植物が水をもらい葉っぱが水滴を弾いてキラキラ光っている様子にパッとひらめき立ち上がる。
「そうか!根だ!」
突然大声を出したミールにビックリして、ザクトーニは水差しを落としてしまう。
「根を張ってるんだ!間違いないっ!」
「み、ミール様・・・根とは?・・・」
「奴の神出鬼没に現れる答えさ。恐らく地中に根を張ってるんだ。その根を伝って様々な場所に瞬時に出現しては捕食して、直ぐに地中に隠れてそこで食す。だから最初はドランゴ街道付近だけだったのが、徐々に徐々に根を広げていって、今や旧道の方にまで根が到達しているのだろう」
「なるほど・・・地中に根を・・・食中プラントは移動しないのが定石ですが、確かにそれだと全ての行動が納得いきますな」
「しかも変異種なんだろ?もしかしたら根っこがある限り、いくら地上の花を倒しても復活する可能性もあるかもしれないぞ。植物のようにな・・・」
「こ、これは・・・もしかしたら世界全体を揺るがす、大惨事になる可能性がありますなっ!」
「更にいうと・・・・今は輸送隊の出発を見合わせている。ということは被害が出てないイコール奴の腹が減ってるって事にならないか?今より根を張るスピードを速めて、より広範囲にテリトリーを広げたり、少しでもお腹を満たすために、少数の冒険者達や商人などを襲ったり・・・最悪なのが、街や村まで根が到達した場合だ。結界は地面の中も展開しているが、入り口に鎮座されたらたまったもんじゃないぜ。それにもしかしたら、村丸ごと飲み込むくらい巨大化する可能性もある。そして・・・1番マズいのがギルドの見解通り、ドラゴンと同じく結界を素通りしていた場合だ。その時は街1つ壊滅するかもな」
「な、なんとっ?!直ぐにキーンのギルドに報告せねば・・・ミール様。申し訳ございませんが、少し席を外させて頂きます」
「ああ、気にしないでくれ」
ザクトーニは自分の机に座ると書類を手に、魔法膜を張る。
通話はしばらく続く。ミールはてっきり直ぐに終わるものだと思っていたので当てが外れた。
キーンは序列第1位、ガタリヤは最下位。
通常であれば序列下位の意見などは聞かない事が多い。
しかし明らかに会話が成立しており、ザクトーニもかなり喋っている様子が見て取れるので、キーンのギルド長はそこそこの人格者なのか、それともザクトーニが見かけによらず実力者なのか。
30分ほど経っても話が終わりそうに無いので、ミールは席を立ち、食堂で軽くご飯を食べることにした。
ピコルが食事をしているミールのテーブルに行きたそうにしているが、今日は比較的冒険者の数が多く、対応に追われている。
ミールはいつもよりゆっくり食事をし、食後のコースヒを飲みながら時間を潰した。
通話を初めて2時間程経過した頃、ようやく終わったようでバタンと扉が開きザクトーニが慌てて出てくる。
ミールが何処にいるのかしばらく探していたが、食堂で姿を確認すると意味ありげに1つ頷き、そのまま部屋に戻っていった。
以前ミールがお願いした通り、ギルド内では極力接しないようにしてくれているようだ。
ザクトーニの私室はギルドの奥にあるのだが、トイレも同じ方向にあるので怪しまれる心配も無い。
ミールはトイレに行くフリをしながら歩きだし、人通りが少なくなるタイミングを計る。そして左に曲がる所をササッと右に入り、ザクトーニの私室に入っていくのだった。
「おお、大変お待たせしましたっ。少し、込み入った状況になってきておりまして・・・ささ、どうぞお座り下さい」
ミールはフカフカのソファーに腰掛ける。
「実はですね。急遽、調べた所ミール様が予想した通り、ここ数日で連絡が取れなくなった冒険者や商人が複数いることが確認出来ました。どれも2~5人程度の少数PTだという事です。これはミール様が仰ったように、少しでもお腹を満たすためかと思われます。また、同時にモンスターや野生動物も明らかに減っているとのこと。多分、見境無く捕食しているのでしょう。こうなると根の部分が広がり、ドンドンとテリトリーを拡大している可能性もかなり高いと言わざる得ないでしょう」
「やはりな・・・それでどうするんだ?」
「それなんですが・・・驚くべき事にキーンは、全ての者に結界外外出禁止令を出しました」
「なんだと?!キーンがか?!」
「はい、キーンがです」
通常、街の貿易を止めるという事は街全体の死活問題ともなる大問題だ。食料も日用品も燃料も、全て今ある在庫でなんとかするしかない。
しかもキーンは以前少し説明させて頂いたが、獣人を受け入れてないので人獣しかいない。
故に結界外の仕事は疎かになりやすく、畑が少ない。つまり食料自給率が低いのだ。
準聖都という事もあり、優先的に物資が運ばれてくるので今まで問題は起こっていないが、街にとって輸送が生命線なのは事実。
それを自ら止めたのだ。
恐らく今頃、街中パニックだろう。物価が高騰し、人々は我先にと物資を求めてスーパーなどに詰めかけているはずだ。
「いくらなんでも、それは下策中の下策じゃないか?まだ反対側の、マルリの街方面は大丈夫だろ?今貿易を止めたら、住民の生活はどうするんだ?」
「キーンの領主のブラトニック様は、完全にビビっているようなのです。自分の街の自慢のタウンチームがやられてしまって。その他にも、かなりの人数の有力メンバーが餌食になってますからね。しかもブラトニック様が派遣した兵士は、1番信頼が厚い第1部隊だったようで。かなりのショックを受けているとギルド長が言ってました。他の重役の意見など耳も貸さないって感じらしく、完全に貝になって部屋に閉じこもってしまったみたいです」
「かあぁぁ・・・住民が可哀想~・・・こりゃ反乱でも起るんじゃないのか?」
「それがですね・・・常日頃から圧政を引いてるじゃないですか、キーンは。領主の言うことは絶対って、すり込まれているので・・・逆らったら即死刑ですからね、あの街は。そのお陰で反乱とかは起らないと思います。ただ・・・その領主に対しての従順な姿勢が、今回は仇になったという感じのようですね」
「となると・・・頼みの綱はカントリーチームって事か。倒せそうなのか?そいつらは」
「ふむ・・・なんとも言えないですな。強さにおいては、恐らくミール様と同等の力を保持しているのではないかと思われます」
「ほお・・・」
「更にそのPTの中に、世界で数人しか存在しない、虹ランクの冒険者が1人いるのです。その方の強さは人知を越えているとの噂ですな」
「ほほ~。それはそれは」
「ただ・・・変異種に対しての討伐に絶対は無いですからな。変異種は高位の悪魔種と同等の強さを所持していると言われております。その高位の悪魔種は現出した時点で世界に混乱が訪れると冒険者名鑑にも載っている通り、奴らの強さも桁違いですから」
「ふーむ・・・」
「それと・・・こちらから呼び出しておいて勝手なのですが・・・ミール様は今回は関わらないで頂きたいと、アーニャ様から通達がありました」
「は?」
「どうやらアーニャ様の耳にも、キーンが外出禁止令を出した事が届いたようですね。それで現在の被害状況などを調べたようでして・・・今回はとても危険すぎるという事でミール様には絶対に関わらせるなと『キツく』ご命令が下りましたので」
キツくという部分を強調して言うザクトーニ。かなり念入りに言われたのは想像に難くない。
ミールはふうっと息を吐き、ソファーにもたれかかりながらコースヒを啜る。
「ふっ、はははははっは・・・」
急に笑い出すミールにポカンとした顔をするザクトーニ。
「すまんすまん。あまりの過保護対応にビックリしただけだ。久しくそれほどの心配をされたことがなかったからな」
ここで一旦言葉を句切り
「だがな、ギルド長。これは俺のただの勘なんだが・・・1ヶ月も経ってから対応したら・・・間に合わんかもしれんぞ」
「ま、間に合わないとは?・・・」
「さっきも言ったが、この変異種が根っこが本体で、地上の花とかを幾ら倒しても復活するタイプだったらアウトだ。ていうかその場合は、全世界の存亡の危機と言っていいだろう。もしかしたら国1つ飲み込むくらい根を張るかもしれないし、植物のように種を撒き散らし、世界中に増殖するかもしれん。更に結界を素通りしてくるヤツだったら近いうちにキーン、そしてガタリヤも危ない。こいつがどういうタイプなのか・・・・その見極めをするためにも早めにこいつと戦う必要があると俺は判断する。カントリーチームの到着を1ヶ月近く待ってから対応したら手遅れになる可能性が高い」
「な、なるほどっ・・・しかしっ・・・私が言うのはなんですが・・・危険過ぎませんか?」
「でも誰かが危険を犯して直ぐに確認しないと、最悪、世界が滅ぶぜ?俺はこの世界が気に入ってるんだ。今のガタリヤも気に入っている。無くしたくないんだよ・・・」
「・・・・」
ザクトーニは今までミールの事を誤解していた。
多くの冒険者は戦う事が大好きで、お金が大好き。
命を賭けて戦うスリルに酔っている者、力で弱者を屈服する快感に酔っている者、高額な報酬だけを目当てにしている者、名声を轟かせ承認欲求を満たしたい者。
数多くの冒険者達を見てきたザクトーニだからこそ、それが現実だと思い込んでいた。
ミールもその中の1人だと。
しかしミールはそのどれにも当てはまらず、命を賭けて自己犠牲をしようとしている。
もちろん少なからずこういったタイプの人間はいる。しかし大抵は実力が見合っていない。
みんなの笑顔が自分の幸せ、みんなで仲良く助け合ってなどと言っている奴ほど、実際に自分の命が天秤にかかった場合、あっさりと自分優先で行動する。
別にそれが悪い事では無い。
家族や友人の為ならいざ知らず、赤の他人の為に命を捨てる人の方が稀なのだ。
しかし勝てる勝算など無いに等しいのに、この男は行くという。
ミールのように実力も実績も十分なのに、自分の身を顧みずに後人の糧になろうとするとは・・・
しかもミールが言った言葉。
——世界を救う、無くしたくない——
そんな言葉は普通の人には中々出てこない。
状況判断も速すぎる。今が世界の危機だと確信を持っている。
ザクトーニは、ミールが以前にも世界の危機に直面した事があるのでは無いかと心の中で思ったが、今はそんな事を議論している場合ではない。
「分かりました・・・全世界の命運を・・・貴方に賭けましょう。どうかお気を付けて」
ザクトーニは声を絞り出し、頭を深く下げる。
そんなザクトーニを見てミールは
「いや・・・ギルド長・・・大袈裟すぎ・・・」
「やっほー。リリフっちっ!」
「あっ、やっほーっ。ピコルさん、クエスト完了報告お願いしてもいい?」
「はいはーい。ちょーとっ待ってねぇ・・・ふー。これで完了っと。オッケー。お待たせぇ、リリフっち」
ちょっとだけ話は遡り、ミールが食堂でザクトーニの話が終わるのを待っていた時と同じ時間。
リリフ達は初心者応援クエストと畑、家畜護衛クエストを終わらせてギルドに報告に訪れていた。
「なんか、今日はけっこう人が多いねぇ」
「うんうんっ。そーなんだぁ。今日は人が多くて大変っ」
「あっ、ミールがいる!なにしてるんだろ?」
「なんかねぇ、ギルド長とお話ししてるみたいだよぉ?結構深刻そーな顔してたもん」
「あ、そうなの?でも食堂でコースヒ飲んでるって事は、お話しは終わったのかしら?」
「ううん。多分まだ終わってないと思うよぉ。ミールさんが食堂で時間潰してるのも不自然だしぃ、いつもならこの時間はギルド長も私室を出てきて、ディスクで書類を片付けてるもの。でもほら、今日はあーんなに書類が溜まってるのに、ほったらかしでしょ?きっとまだお話し中なんだと思うよっ」
ピコルはカウンターの後ろを指差す。
そこには机が多数並べてあり、多数のギルドスタッフが事務処理をしているのが確認できる。
イメージ的には銀行とか役場とかの風景、そんな感じだ。
そして一番後ろの席、部長などが座っている位置にはギルド長と名札が置かれいる少し大きめの机があり、どっさりと書類が山積みされていた。
何処の世界でも、管理職は書類に追われる日々のようだ。
貴方達の世界のように紙の材料となる大量の森林伐採によって、木材不足や温暖化の影響を心配する必要もない。
魔法による独自性はあるものの、ネット環境も優れているとは言えないので、ペーパーレス化する意識は薄く、まだまだ当分は、魔法紙が活躍しそうな世界なのである。
そうこうしていると、奥からバタバタと足音を響かせながらギルド長が現れた。そして、ミールに目配せをすると、再び奥に引っ込んでいく。
「本当だぁ。なんかまだまだお話しは続きそうね。待ってるのもあれだし、先に帰っちゃおうか?」
「はいっ。リリフ姉様っ」
「あっ!ねぇねえ!リリフっち達ってさぁ。今日はもう上がり?だったらこれからお買い物行かない??前言ってた下着屋さん紹介してあげるよっ!」
「まあっ!それは助かりますわっ!」
「えっ?!ピコルさん、仕事中じゃないの??」
「えへへっ。今日は16時終わりなんだぁ。あと10分!」
「へえぇ。そーなんだぁ!じゃあ行こう行こう!外で待ってるねっ」
「うんうんっ!ありがとっ!定時になったらダッシュで着替えてくるねっ」
「あははっ。分かったぁ」
「楽しみですわぁ。遂にサイズピッタリのブラを着けれるのですねっ!」
「セリー姉様っ。ブラってなんですかぁ?」
「まあまあ!ブルニは知らないのねっ!うーんと、簡単に言うと、おっぱいに着ける下着ですわねっ。ブルニ、これを着けると大人の魅力がググーっと上がるのですわよっ」
「・・お、大人の・・せ、セリー姉様っ!ブルニも着けてみたいですっ!」
「もちろんですわっ!ブルニ。わたくしが着け方を教えてしんぜますわっ。大きく見せる方法はリリフお姉ちゃんに聞いてくださいまし。わたくしには分かりませんもの」
「むかっ!私だって結構大きくなってきたもん!セリーが異常なだけだもん!セリーはトンプー乳だもん!」
「おーほっほっ。大きいと大変なだけですわよぉ?リリフ達は小さくて羨ましいですわぁ」
「ぐぎぎぎっ・・・ブルニ!私に任せて!ピコルさんが言うには最近スライムパット・・・」
「どーしたんですかぁ?リリフ姉様っ」
「あああっ!そうだ!ルクリアも行けるかなっ?!前にスライムパット試したいって言ってたから!」
「まあまあ。そうですわね!でも・・・ちょうどこれから忙しくなる時間ですわぁ。抜けてこられるのでしょうか」
「確かにね!一応聞いてみる!」
リリフは急いでルクリアに通話をかけてみた。
当のルクリアは食堂で準備に大忙しだ。
セリーの予想通り、レジを立ち上げお釣りの準備、ドリンクを並べて氷を準備、テーブルを拭いて取り皿やお箸の準備、日替わりのメニューを魔法紙に書いて看板を出して・・・
こんな感じで開店準備に追われていた。そこにリリフから通話が入る。
普段、この時間にかかってくることはないので、ルクリアは反射的に通話を繋げた。
「あっ!ルクリア!急にごめんね!これからピコルさんと一緒に皆んなで下着を買いに行こうと思うんだけど、ルクリア来れるかな?やっぱ難しそ?」
「わ、分かった・・・き、聞いてみる・・・」
「うんっ!ありがと!じゃあ一旦切るねっ」
ルクリアは通話を終えると、厨房で仕込み作業をしているグワンバラと旦那さんに緊張した面持ちで話しかける。
「なんだい?誰からだったんだい?ルクリア」
「あ、あの・・・えっと・・り、リリフっちからで・・」
「ほお。そんでなんだって?」
「えっと・・・リリフっちと・・せ、セリーも行くみたいで・・・あの・・ぴ、ピコルっちも・・来るって・・し、下着を・・あ・・ブルニもリューイも・・行くみたいで・・その・・時間が・・・心配で・・」
ルクリアはまるで幼稚園児のような、要領を得ない説明を一生懸命している。
しかし、グワンバラは『なんだってぇ?!訳わからないよ!』などとイライラした感じで言い返すことなど決してない。
優しい、とてもとても優しい笑顔を浮かべながらルクリアの頭を撫でる。
「そうかいそうかい。じゃあ行っといで。お店の事は気にしないで良いから。なーに。今はお客も少ないし、もともと2人でこなしてたんだ。何とかなるわさ。がっはっは」
旦那さんも笑顔で頷いている。
ルクリアは頬を高揚させ、本当に嬉しそうに頷くと、急いでエプロンを脱いで身支度を整える。
「あ、あのっ・・い、いってきますっ・・」
「ああ、いってらっしゃい。馬車には気をつけるんだよ」
「うんっ・・」
まるで親子のような会話を交わし、ルクリアはギルドに向かって走り出すのであった。
「おっ待たせえぇ!リリフっちぃ!」
ピコルが元気一杯に駆け寄ってくる。
今日もとてもとても可愛い。
白いハーフコートに中はフリフリの水色ブラウス、スカートはチェック柄のミニで、細くスラリとした足には黒のストッキング、コートと同じ素材のような厚底の靴。
リリフ達が田舎者丸出しの格好をしているので、いつもにもましてピコルを引き立てていた。
「はわぁ〜。ピコル姉様っ、とっても可愛いですぅ」
「きゃー!ブルニちゃんっ!うっれしー!かっわいいー!」
「えへへっ」
ピコルはブルニをぎゅぎゅーっと抱きしめる。
「あ、ピコルさん。悪いんだけどちょっと待ってくれる?ルクリアも来れるみたいで、今こっちに向かってきてくれてるからっ」
「わぁおぉ!ルクリアっちも来れるんだぁ!もっちろーん!いつまでも待つよぉ!」
「あ、あの・・僕は先に帰ってますね・・」
「ええっ?!リューイ、一緒に行かないのっ??」
「い、いや・・流石に女性の下着売り場に行くのは気まずいので・・」
「そんなぁ。お兄ちゃーん・・」
ブルニはウルウルした瞳でリューイを見つめる。
「あー。リューイ、ブルニを泣かせたぁ」
「鬼畜ですわ。正にひとでなしですわっ!」
「やっぱ、男なんてミールさん以外、みんなクズですねっ!」
「ふえぇーん。お兄ちゃん、行かないでぇ」
「うっ。しかしブルニ・・・」
「行かないでぇぇーー!」
「わ、分かった。行く。行きます。行かせてください」
「えへへっ。やったぁ」
ブルニはケロっと泣き止み、笑顔を浮かべる。
「リューイ・・チョロすぎ・・・」
そうしてしばらくギルド前でワイワイと話に花を咲かせていると、遠くからルクリアが不安そうにキョロキョロしながら近づいてくるのを確認した。
普段のルクリアの行動範囲は決して広くない。
大抵はグワンバラの食堂にいるだけ。たまにお使いで500メートルくらい先のスーパーに買い出しに行く事はあっても、こうして3キロほど離れた場所まで足を伸ばす事など滅多にない。
あったとしても、それは誰かに付いていってるだけで、自分一人でギルドがある星雲街に訪れた事などないのだ。
なので、『多分ここら辺だったはず・・』といった曖昧な記憶を頼りに、キョロキョロと不安そうに歩みを進めていたのだった。
「ルクリアーーァー!こっち!こっちーぃ!!」
そんなルクリアの不安を吹き飛ばすように、リリフは大声で手をブンブンと振りながら叫ぶ。
リリフ達を見つけたルクリアは嬉しそうにスススーっと小走りで駆け寄ってきた。
「ご、ごめん・・お待たせ・・・」
「全然だよー!」
「無事に来られて良かったですわっ」
「うん・・・ちょっと迷った・・」
ちょっと恥ずかしそうにポリポリと頬をかくルクリア。めっちゃ可愛い。
当然、我慢ならない女子達はルクリアを抱きしめる。
「もーうっ!ルクリアだーいすきっ!」
「ルクリアっち!可愛いすぎぃー!」
「ルクリアが一人でここまで来れるとは。成長しましたわね、ルクリア。偉いですわっ」
「ルクリア姉様っ。ブルニがお手手繋いであげますねっ。なんかあったらブルニが守ってあげますっ」
「う、うん・・ありがと・・ブルニっち」
そうして運行馬車に乗り、6キロほど先の星風街の一角へと到着した。
「わあっ。私、星風街って来るの初めて!」
「わたくしもですわっ!いつも星雲街と星光街の往復ですものねっ」
「・・・おしゃれなお店がいっぱい・・・」
「でしょでしょ?星風街はねー。若い人が多いから活気があるんだよねぇ。沢山お店があるから今度ブラブラしてみたら?結構面白いよっ」
「わあぁ!人がいっぱい!凄いねっ、お兄ちゃんっ!」
「ああ、皆んな綺麗だな。ブルニ」
「・・・」
おしゃれなお店、若いギャル達、そして何処かともなく漂う芳しい香り。
既にリューイの頭の中は妄想でいっぱいらしい。色々と気になる年頃だ。
「あ、ほらほらっ。あそこだよぉ!ブレーメン洋品店っ!下着だけじゃなくて洋服やアクセサリーも品揃えが凄いのっ!店主さんもオーラが凄くてねっ!女性としてしっかりとした芯があるっていう感じ。私も結構色々と相談に乗ってもらってるんだぁ。えへへ」
ピコルが指差したのは、二階建ての建物。
清潔感が漂っている外観で、手入れもしっかりと行き届いている印象。
この周辺は、先程ピコルが説明したように、若者目当てのおしゃれなお店が多い。
何処もかしこも大きな看板や、目立つ色合い、入り口を開放して商品を並べて入りやすい雰囲気にしていたりと、お客を呼び込む工夫が感じられる。
しかし、このブレーメン洋品店はそういう感じではない。
外観は綺麗に保たれているが、どちらかというとお店というよりオフィス。
入り口はスモークが貼られたガラスドアで閉じられていて、外から中の様子を伺い知る事は出来ない。
看板も、まるで民家のような小さな表札に『ブレーメン洋品店』とさりげなく書かれていた。
その外観からは良い意味でお客に媚びない、良い物を揃えれば自ずとお客は寄ってくると言わんばかりの印象を受けた。
それにしても・・・ブレーメン洋品店・・・何処かで聞いた名だ・・・
重量のあるガラスドアを開けると、直ぐに香りと音楽が耳と鼻を楽しませてくる。
耳を澄ませなければ聞こえないほどの音量。自然と深呼吸してしまうような微かな芳しい香り。
どちらも自らは主張せずに、そっと空間を埋めるような、時間を埋めるような、そっと後ろを付いて歩いているような・・・そんな不思議な感覚と空気感を作り出していた。
他の店舗は値段を全面に出し、「◯◯セール!」「◯%オフ!」といった張り紙が目立つのだが、このブレーメン洋品店は一切そんなものはない。
店内は服が溢れており、店舗というより倉庫といった感じにみえる。
しかし・・・安い。
手にとって値札を見た時の衝撃たるや・・・
多くの洋服が所狭しと陳列してあり、まるで宝探しのような感すらある。
「あっ!キャサリンさーん!こんにちはぁー!」
ピコルが元気に挨拶したのは奥のテーブルで男と話をしている女性。
年齢は70歳前後であろうか?
ウェーブがかかっている金髪をカチューシャで止めており、おでこ全開な髪型だ。
服は一見するとジャージのような雰囲気だが、所々に可愛いお花やプリント、アクセを身につけているので、リリフ達と違い田舎者感はまるで無い。
そして細身の身体からはエネルギーが満ち溢れていた。
キャサリンと呼ばれた店主は椅子から立ち上がり、両手を腰に当てて元気よく答える。
「あらっ?ピコルじゃないのっ!いらっしゃい!あらあらあら??今日は随分と楽しそうねっ」
「えへへっ。今日はお友達を連れてきましたぁ!リリフっち、セリーっち、ルクリアっち、ブルニっちでーすっ!あ、ついでにリューイっちもねっ」
「おおおっ?!初心者のお嬢ちゃん達じゃねーかっ!奇遇だなぁ!」
大声で反応したのは店主キャサリンと話をしていた男性。
熊のような大柄な体格のわりに、人懐っこい笑顔を浮かべている。
「あああっ!ブレーメンさんっ?!あー!そっかぁ!だからブレーメン洋品店なんだあ!ご家族さんなんですかぁ?ー」
リリフも大声で反応する。
以前バウンドウルフを買い取ってもらい、更に高価な荷車を提供してくれた商人だった。
「がははっ!こりゃ珍しい所で会ったなぁ!おうよっ!このキャサリン・ブレーメンは俺っちのねーちゃんだ!」
「へえぇっ!お姉さんなんだぁ」
「兄弟でそれぞれお店を経営なさっているなんて凄いですわぁ」
「なんだい?知り合いかい?マルコ」
「がははっ。ねーちゃん、前話したろ?見込みある冒険者がいたって。それがぁーこのお嬢ちゃん達ってもんよっ」
「ほぉ・・」
キャサリンと呼ばれた店主は、リリフを上から下までジロジロと見定める。
「ふんふんふん。良いじゃない。良い身体つきだわ。瞳もとっても綺麗。でも、なーに?そのダッサい格好は?!田舎者丸出しじゃない!ダメよ。女たるものいつでも美を意識しなさいっ」
そう言うと、キャサリンは何着か服を取り出し、勝手にコーディネートを始める。
「がははっ、ねーちゃんは相変わらずだなぁ」
「あははっ!キャサリンさんっ。今日は下着を買いに来たんですー!セリーっち用に大っきいブラとぉ、リリフっち用に小さいちいさぁーいブラっ!」
「むかっ!そんなにちいさくないもんっ!これから大きくなるもんっ!」
「・・・スライムパット・・ある?・・・」
「あら?胸の大きさなんて気にしてるの?そんなもんに引き寄せられる奴にロクな男はいないわよ?結局大事なのは中身!大きい子も小さい子も、それに見合ったお洒落を楽しめば良いのよっ。無理に大きく見せる必要なんてないわっ」
自信満々に悟すキャサリンだったが、背筋をピーンと伸ばした姿は70歳くらいとは思えないほどスタイル抜群。どうみてもキャサリンは巨乳側だ。
「ううう・・・」
「・・むぅ・・・」
リリフとルクリアは、なんとも言えない呻き声を漏らす。
「あははっ。とは言ってもってやつよね!その気持ちも分かるわっ。スライムパットよね?!もちろんあるわよ!付け方のコツ教えてあげる。まずは貴方達の格好よね。ダメよ、常にお洒落には気を使いなさいっ。せっかく素材が良いのに宝の持ち腐れじゃないっ!」
「あ、でも私達冒険者なんです。だからこの装備は大切で・・・」
「ばっかねぇ!そんな事分かってるわよっ!いい?冒険者だからってお洒落を諦める必要なんてない。料理人だって、配達員だって、主婦だって。料理人は確かに爪は伸ばせないかもしれないし素敵なネイルを自由に出来ないかもしれない。主婦は子供がベタベタの手で触ってくるから綺麗な洋服は着れないかもしれない。配達員は汗も沢山かくし、貴方達はそれこそ泥だらけにもなるものね。でもどんな時でも自分は女だってプライドは持ちなさい。そう、自分は女だけど男なんかに負けない、なんて意地じゃないの。自分は女なんだってプライド。確かに単純な力比べなら男には勝てないかもしれない。でもだからって力に固執し、男の真似をしてガサツな女になるの?冗談じゃないわっ。女には女にしか出せない魅力がある。スピード、しなやかさ、判断能力、そして第六感。力じゃ勝てなくても、男に勝つ方法はいくらでもある。冒険者だって数多くの女性が高ランクにいるのはあなた達の方が知ってるわよね?あたし思うの。そんな人達はどんな人なんだろうなって。ゴリラみたいな男か女か分からないような人だと思う?きっと違うわ。多分女性として一本の芯がしっかり通った人だと思うの。だからあなた達。女性としてプライドを持ちなさい。しっかりとお洒落しなさい。男に媚びるお洒落じゃない。周りに合わせる、流行りに乗るお洒落じゃない。自分を高めるオシャレよ。気合いが入るオシャレよ。あなたの胸当ての角にお花のワッペンが縫い付けられてたら可愛いじゃない。靴の横、剣の柄、お嬢ちゃんの大きな盾の裏側に、笑顔のクマさんのワッペンが貼ってあったら素敵じゃない。どんな時も女のプライドを持ち続ける人は輝いてみえるし、強くなる。あたしはそう思うわっ」
「・・・!・・・」
リリフ達は言葉を発しない。発しないが目は輝き、頬は高揚している。
「そっかっ・・・私、これ付けてみようかな」
「わたくしも簡単なネイル道具を購入することに致しますわ」
「ブルニも可愛い動物さんのワッペン沢山貼りますぅ」
「・・・この髪止め・・買おかな・・」
リリフ達はまるで長年校則が厳しくてお洒落できなかった高校生が、初めて自由にお化粧する時のように、ドギマギしながら可愛い小道具を手に取る。
なんだかとっても楽しそうだ。
「がっはっは。ねーちゃんは説教臭くていけねーや。お嬢ちゃん達、あんま真に受けないよーにな。ねーちゃんに影響を受けるとデトリアスのじーさんみたいに・・・」
「マルコ!」
「おっと。怖ぇ、怖え。ねーちゃんのカミナリが落ちないうちに俺っちは退散するぜぇ。お嬢ちゃん、俺っちの店にも来てくれよなっ」
「あっ、はいっ!また寄らせて頂きますっ!いつも高値で買い取ってくれてありがとうございます!」
ブレーメンは振り返らずに、手だけブンブンと振って店を出て行く。
「ほらほらぁ。リリフっち。今日は下着を買いに来たんでしょぉ?下着売り場は2階だから行こ行こ」
「ああっ、そうだったわ。行こう行こう」
「あ、リューイっちは一階で冬服を探しながらお留守番よろしくねっ」
「は、はい。りょ、了解しました」
そうしてワイワイと2階に上がるリリフ達。
『きゃぁー可愛いいっ!』『ピッタリですわっ!そして可愛いですわっ!』『こ、これってどうやって着けるんですかぁ?』『・・・ブルニっち・・これをこうやって・・』『な、なるほどぉ』『ほらほら、これが話題のスライムパットよっ!これをこうやって直接付けて』『わあっ!凄い!剥がれない!』『みんなとっても可愛いいっ!私も買っちゃおぉ!』
こんな会話が2階から聞こえてくるもんだから悶々と妄想を膨らませてしまうリューイ。
色々と気になる年頃だ。
しばらくして買い物を終えたリリフ達が階段から降りてくる。
「やっほー。お待たせっ、リューイ。なんか良い冬服あったぁ?」
「え?・・・」
リリフの問いかけに、キョトンとしているリューイ。
手にはしっかりと女性用の水着が握りしめられていた。
「お兄ちゃんのエッチっ」
続く




