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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記㉒

 ヒソヒソと話し声が聞こえる。

 一様にセリーの前の人垣は自動ドアのように開けていった。


 そして歩くたびに左右に大きく揺れる胸をみて

「た、ただ者じゃない・・・な・・・あの胸は・・・」

「ああ、ただ者じゃ・・・ないな・・・」



⇨ガタリヤ奮闘記㉒




 しばらくして一行は食堂に到着した。


「到着ですわっ!早速中に入りましょう!」

「ちょっ!セリー!こんなに大人数入れるの?」

「た、確かに・・・丁度かき入れ時の時間ですね」

「ぶ、ブルニは床で大丈夫ですっ」


「わたくしとしたことが・・・迂闊うかつでしたわ・・・でもここまで来たのですっ。少しくらいお席が空くまで待ちましょう・・・とりあえずグワンバラ様にお席の予約をしてまいりますわっ!」



 ガランガランと扉の鈴を鳴らしながら、勢いよく入っていくセリー。



「グワンバラ様っ!ラインリッヒ様ご一行をお連れいたしましたわっ!お席の予約を・・・」

 セリーが周りを見ると、そこにはお世辞にも繁盛しているとは言えない、ガラガラの状態だった。



「なんだい?席の予約ぅ?セリー、あんたいつから皮肉を言うようになったんだい?」

「ああん。誤解ですわぁぁ!・・・でも好都合です!20名ほどお連れしましたわっ!早速呼んで参ります!」

 セリーはダッシュでラインリッヒ達を呼びに行く。



 ゾロゾロと席に座るラインリッヒと騎士団のご一行。

 皆、顔をキョロキョロさせながら落ち着かない様子。



 それもそのはず、普段はこういった一緒にお酒を飲むなどの行為は、一切したことが無かったからだ。

 しかも一応命令中であり、仕事中。

 ラインリッヒならともかく、護衛の騎士達がお酒を飲むなど御法度なのだ。



「さあ、今夜は飲みましょう!騎士団の方々も、今日は日頃の疲れを癒やしてくださいねっ!」

「い、いや。しかし・・・自分は任務中でありますので・・・」



「なにを仰っているのですっ?!もうお仕事は終わりっ!ですわよね?ラインリッヒ様っ?!」



「え?・・・あ、はい・・・折角のご厚意なので・・・今日は特別といたしましょう。あとで他の騎士に迎えに来て頂くように、わたくしが連絡しておきますので。騎士の皆様、いつもわたくしの護衛をありがとうございます。今宵は存分にその羽を休めてください」



「ラインリッヒ様・・・」

 騎士達はジーンとしているようだ。



 ラインリッヒの人柄を見れば直ぐにわかる。恐らく常日頃から騎士達に気を使っている事であろう。

 騎士達も百戦錬磨の強者揃いだとしても、一応ただの人間だ。

 護衛対象がマンハッタンのように騎士を駒としか見ていない人間と、ラインリッヒのように常に気にかけてくれる人間と、どちらが命を賭して守ろうと思うかは明白であろう。


 この騎士達の中には、ラインリッヒの為なら死んでも良いと考える者も数多くいる。

 それほどの恩を感じているのにも関わらず、ラインリッヒはねぎらってくれている。

 感激しない訳がないのである。



「では・・・お言葉に甘えて、今宵はご一緒させて頂きます。みんな、今日は存分に鋭気を養って明日からまた頑張ろうっ!」

 騎士の隊長さんと思われる人がゴーサインを出す。



「は、はいっ!」

「マジっすか?!いいんすか?!」

「やったぜ!」

「ひゃ~うまそうっすねー」

「よーし!そうとなれば今夜は飲むぞぉぉ!」



 騎士達もお許しが正式に出たという事で、やっと肩の力を抜くことが出来たようだ。純粋にお酒や料理を楽しんでいる。



「旨い!めっちゃ旨いっす!」

「おばちゃん!これ凄いっすね!」

「あったり前だろさ!誰が作ってるんだと思ってるんだい!?さあさあ!ガンガン食べなっ!」



 急に活気づいた厨房は、至る所で蒸気が上がっていて、熱気に満ちている。

 グワンバラの旦那さんは黙々とフライパンを降り、料理を次々と仕上げていく。



 料理もさることながら、やはり百戦錬磨の護衛達、飲む量もハンパない。

 どんどんと飲み干されていくジョッキを片付け、次のビルビル(ビールの事)を出して行く。

 ルクリアも大忙しだ。



 騎士の皆さんも、段々とエンジンがかかってきた頃、唐突に新しいお客さんが入ってくる。



「きゃー!盛り上がってる~♪」

「お邪魔しまーすっ♡」

「初めましてぇ~♪」

「たくましい男どもが沢山!天国か?!ここは?!」

「うっふふ!今夜は飲むわよ~♡」



 入ってきたのはピコル率いるギルドの受付嬢達。ミールの連絡を受けて駆けつけたのだった。

 一気に店の雰囲気が華やかになる。



「ミールさんっ!連れてきましたよっ!本当に奢りで良いんですか??」



「ああ、全然いいよ。みんなー!今日は俺の奢りだ!遠慮無くドンドン飲んでくれ!」



「うおおおおお!マジっすか?!」

「きゃー!タダ酒最高ぉ―!」

「1ヶ月分飲むぞぉぉ!」



 はしゃぎまくっているが、間違ってもこの中に、女の子同士で固まって飲むような空気の読めない子はいない。

 それぞれ各テーブルに散らばって、騎士達のお相手をしている。

 まるでキャバクラだっ!

 流石はピコル厳選の女の子達、よく心得ている。



 こうなると騎士様達の気持ちも更に緩む。

 デレデレの顔をしながら、気持ちよさそうに飲んでいるようだ。



「みんな凄く楽しそうっ。ラインリッヒ様は、よくこういった宴会はされるのですか?」

「いえ・・・正直、こういったみんなで揃って飲むのは初めてです」

「え?!そうなんですかっ?!意外だわ・・・」


「各々、個人的には飲みに行っているのでしょうが、こういった下町の居酒屋って感じの所は、みんなほとんど経験は無いはずです。いつもは星竜街のワインバーとかで飲んでいるようなので」



「そうなのですぅ!我々は普段、こういった騒ぐ事自体禁止されているのでっ!ただぁ!お酒もぉ料理もぉ、星竜街とは比べようがないくらいぃ旨いです!サイコーっすぅ!」

 若干ろれつが回っていない感じの隊長さんが、ジェスチャー大きめで答える。



「まあまあっ騎士様。この程度で下町を知ったつもりになるとは・・・まだまだですわねっ!」



「なんと?!まだなにかあると申すか?!苦しゅうない!申してみよっ!」

 隊長、あんた、だいぶ酔ってるよ・・・



「これですわっ!」

 ドンッとテーブルに置いたのは、星光街では一般的なトウモロコシを原料として作った安酒だ。



 ガタリヤはトウモロコシの名産地だが、その中で痛んでしまったり、食害にあったり、規格に合わなかったり・・・そういった物を使用して作ったお酒で、数多くの庶民に愛されている。

 とにかく安くてすぐ酔えるので、星光街では全ての居酒屋で取り扱っている。

 ただし・・・悪酔いする事でも有名だ。



「これは?!」

「トウモロコシの酒、通称『モロ酒』ですわっ!これを飲まなきゃ下町を知ったとは言えません!」

「ほほう!よしっ。注いで見せよ!」



 セリーはニンマリとして隊長のグラスにナミナミと注ぐ。

 グビッと一飲み。



「うおおおおお!旨い!これは旨いぞ!オカワリじゃ!」

 しかしセリーは注がない。



「ふふん。ではわたくしと飲み比べで勝負ですわっ!負けた方は仕えるご主人様への愛が足りないという事っ!『愛が足りなくてごめんなさい』って土下座してもらいますわっ!貴方に出来ますこと?!」



「なにをぉぉ!ワシはラインリッヒ様の為ならぁ命を捨てる覚悟じゃっ!負けるわけなかろぉ!」



「では?!」

「尋常に勝負じゃ!」

「おおおぉぉ!隊長さんかっこいいー!」

「姉ちゃんも頑張れぇ!」



 セリーと隊長の対決に、大盛り上がりの皆さん。

 2人は次々と注がれるモロ酒を飲み干していく。



「ぷはああっっ!まだまだぁ!」

「ぶははああ・・なんのこれしきぃ!」



 セリーが飲み干す度に、胸が盛大に揺れる。

 それをバレないように、チラ見してしまうリューイ。

 色々と気になる年頃だ。



 そんな兄の視線に、もちろん気付いている妹は、自分の胸に手をあてて、ため息を付いた。



「ん?ブルニちゃーん。どーしたのぉ?」

 目の焦点が若干虚ろなリリフが問いかける。



「ひゃっ、い、いえ・・・あの・・・やっぱり男の人って・・・大きいおっぱいが好きなんですかね?」


「ぶへっ!」

 予想外のブルニの攻撃に、思いっきり飲み物を吐き出してしまうリリフ。



「ふえっ?!リリフ姉様っ大丈夫ですか??」

「あ、う、うん・・・だ、大丈夫よ・・・ありがと・・・あははは・・・」



「あ、あのっ!ミ、ミミミール様も、やっぱり大きいおっぱいが好きですかっ?!」

「え?!お、俺?・・・俺は別に気にしないな。どっちでもいい」



「そ、そうでしたかっ!・・・よかったです・・・」

 ブルニは真っ赤な顔をして、尻尾を猛烈な勢いで振っている。



「ん??あれあれぇ?ブルニ、今ホッとした?」

「ひゃ!?い、いえっ!そんなっ。ブルニとなんて釣り合いが取れないですっ!」

「・・・」



「あああぁあぁ!!ち、違います!チューだけでいいんです!誤解ですっ!」

 思いっきり尻尾をパタパタさせながら、どんどん深みにハマっていくブルニ。



「なになにぃ??ぶるにちゃんもみーるさんの事好きになっちゃったのぉ?じゃあ私とらいばるだねぇっ!」

 ピコルが真っ赤な顔で、目を半開きにさせながら絡んでいく。



「えええぇ!ぴ、ピコルさんもなんですか??」

「そーよー。あたしに、りりふっち、せりーち、るくりあっち。そしてぇあーにゃさまももしかしたら・・・らいばる多いぞぉ」

「ふえーん。ブルニには無理ですぅ」



「何言ってるの!?諦めたら終わりよ!?最後まで戦いなさい!」

 何故か檄を飛ばすリリフ。目が完全にすわっている。



「・・・ここに貧乳連合結成する・・・標的・・・ピコルとセリー・・・」

 ルクリアも、いつの間にか話に加わる。



「そうよっ!おっぱいだけが魅力じゃないのよっ!負けないからっ!」

「ちょっと!なんであたしも標的なのよっ!るくりあっち!」

「・・・ピコルが隠れ巨乳なの知ってるし・・・可愛いから・・・」

「んもー!るくりあっちかわいいー!ちゅーしてあげるぅ!」

「・・・ええいっ寄るな・・・」



「こんばんわぁ。初めましてぇ」

「あ、ねえねえっ。みんなぁ。新しく入ったギルド嬢のクレムちゃんだよぉ。みんなぁ優しくしてあげてねっ」



「へえ~。新人さん?初めましてぇ。リリフって言います。よろしくねっ」

「はいっこちらこそっ!初めて覚えた冒険者さんのお名前ですっ。リリフさん」

「ええ??なんでなんで?」



「私が初めて配属された初日が、そこにいる人獣の子が初めて適性検査をした日だったんです。いきなり人獣の子達の揉め事が始まり・・・それから他のチームの子の脱退騒ぎが始まり・・・中々ヘビーな1日でしたっ」

「あはははっ。そーなんだぁ」



「そんな中、怖い男の人達に堂々と言い返している女の子がいて・・・凄いかっこよかったですっ!それでお名前を覚えちゃいました、えへ」

「あははは・・・恐縮です・・・」



 そんなやり取りの最中も、セリーと隊長の飲み比べ対決は続いていた。

 隊長は何故か上半身裸になっており、見事な肉体美を見せつけながら飲み続けている。

 セリーもそれに対抗しようと、服を脱ごうとしているので、慌ててリリフが止めに入る。



「脱がせろぉ!」

「セリーっ落ち着いてっ!」

「しゃらくせぇ~!暑いからせりーちゃんは脱ぐのだぁあぁ!」

「きゃー!ダメぇー!」

 など大盛り上がりとなっている。



「ははは。あんたのとこの隊長さん、大丈夫なのかい?随分飲んでいるようだけど」



「そうですね・・・実は自分も彼の、このような姿を見るのは初めてなのです。いつも鬼のような形相で周囲を警戒してくれているので」

「確かにぃ。マンハッタンさんのリーダーさんが投げたナイフを、止めたのも隊長さんでしたもんねっ」

「そうですね。本当に彼には、いつも助けてもらってばかり。ありがたい事です」



「さっきみんなで飲みに行くこともないって言ってたけど、ラインリッヒさん自身も遊びに行ったりはしないのかい?」



「自分は何処へ行くのも、護衛の方と一緒に行動しなければならないので・・・あまり気軽に遊びに行くことも出来ないのですよ。いつもは領主領内で暮らしていますね。外に出てしまうと、その度に騎士達が15名ほど支度をしないといけなくなるので」



 領主領とは、政府の高官など極少数が暮らしている地域で、一般人はおろか貴族ですら立ち入る事は出来ない、周りを高い壁で囲まれたセキュリティーが高い場所だ。



「はーん。やっぱりガタリヤの重要人物ってのは大変なんだな。それじゃあ、恋人を作るのも一苦労だ」



「そうですね。ただ・・・僕の場合は出会いが少ないというよりも、相手が疑心暗鬼になってしまうっていうのが1番の理由ですかね?」

「ほー」



「やはり、いつ自白魔法をかけられるか分かったもんじゃないですからね。心休まる時がないのでしょう。それで段々と疎遠になっていき、お別れになるって感じですね」



「・・・別にかけられたって・・・やましい気持ちが無いなら問題無いんじゃない?・・・」



 隊長とセリーの対決は続いているが、全体的に落ち着いて来た感がある食堂内。ルクリアも席に着いて、ご飯を食べながらラインリッヒの話を聞いている。



「まあ、極論その通りなんですけどね・・・どうしても付き合いが長くなってくると、色々知られたくない気持ちも出てくるのでしょう。その気持ちは僕も分かります」



「ラインリッヒ様は本当に謙虚なお方なのですねっ。身分が高い方は傲慢な方ばかりだと思っていたのでブルニビックリですっ」



「はははは。僕はそもそも20歳まで一般民だったので、そのせいかもしれませんね」

「えっ!そうなんですかぁ??」



「ええ。20歳の時に初めて適性検査を受けて、それで心療回復士だと分かりました。もう周りは大騒ぎで、あれよあれよという間に、今は一線を退かれた現領主様の前に連れて行かれて、そこでガタリヤの為に人生を捧げてくれと頭を下げられまして・・・その時ガタリヤには50年ほどずっと心療回復士がいなかったんですよね。正に待ちに待った心療回復士誕生って感じだったようで。僕は頷く事しか出来ませんでした」



「後悔しているのか?」

「うーん。どうでしょうか・・・難しい質問ですね。元々街の為に役に立ちたいって気持ちはあったので、それに関しては後悔してないですね。ただやりたい事があったのですが、それに携わる事は出来なくなってしまったので、その心残りはあります」



「・・・どんな事やりたかったの?・・・」

「僕は歴史とか遺跡に興味があったんですよ。なんかそういうのを調べてると幸せな気持ちになるんですよね」

「・・!・・」



 ルクリアは頬を高揚させて大きな目を見開く。

「・・そっそうだよねっ!良いよねっ!遺跡っ!」



 ルクリアにしては珍しく矢継ぎ早に言葉を発する。

 手をブンブンと振って興奮しているようだ。

 まるで同じ趣味を語り合える友達を見つけた時のように。



「おお、貴方もご興味がおありなのですね?どの時代が好きとかはありますか?」



「あ・・・えっと・・・まだ特定のってのは無くて・・・私はね・・・ずっと別の国でメイドをしてて・・・ガタリヤに来てから初めて就職活動をして・・・それから色々興味が出てきたの・・・まだまだ知らないことばかりだから・・・今は沢山の事に触れてみたい・・・そんな感じ・・・」


「なるほど。それは今後が楽しみですね。何か将来やりたいこととかあるのですか?」




「オカネモチになるのっ!」

「へ?・・・」




 小さな美少女から、まさか欲望に満ちた言葉が出てくるとは思っていなかったらしく、マヌケな声を出してしまうラインリッヒ様。



「・・・オカネモチになって・・・ギインになって・・・虐げられている人達を救いたいのっ!」

「そうでしたか・・・とても素晴らしい目標だと思います」

「・・・その為にも、しっかりとした会社に就職してジッセキを作るの・・・でもどうせなら好きな事を仕事にしたくて・・・だから研究省に入れるように・・・今勉強中なの・・・」



「なるほど、そうでしたか。僕も大学を出て研究省を志望していたのですよ。まあ、僕の場合は諦める形になってしまったので・・・夢に向かって行動できる貴方が羨ましいですよ。あははは」

「・・・ラインリッヒ様・・・」



「おっと失礼。つい昔の事を思い出して(ひが)んでしまいました。僕もまだまだですね。ルクリアさん、就職出来ると良いですね」

「・・・うんっ・・・」



「ルクリアはあんたよりも凄い適性を持ってるんだぜ」

 最早友達かってくらい、ラインリッヒにタメ口で話しかけるミール。



「ほう?」

「吟遊詩人ってやつ。聞いた事あるかい?」

「吟遊詩人ですか・・・すみません。あまり適性に関しては詳しくないので・・・それはどういった適性なのですか?」



「適性自体の能力は正直まだ解明されてないって感じかな。なにせ現出したのが80年ぶり、今現在世界で1人もいないって適性なんだよ」



「え?!世界でただ1人って事ですか?!それは凄いですねっ!」

「まあ、レア過ぎて解明が進んでいないから、どんなスキルがあるのかは未知数なんだけどね」



「なるほどなるほど。そういった意味では、心療回復士も当初は似たような感じだったのですよ。同じ歴史を辿るかもしれませんね」

「・・・どゆこと?・・・」



「実はですねっ、心療回復士も当初は解明が進んでいなくて、正直ハズレ適性だったのですよっ。それを今のような地位を確立する事が出来たのは、ひとえにガンリッタ様の努力と真実を突き止めたいという心が・・・・」



 ラインリッヒは立ち上がり熱を込めて語りだそうとして、ふと我に返る。

 周りを見渡すと、やんややんやと騒いでいて楽しそうだ。

 そんな中、自分は堅苦しい、心療回復士の歴史を語ろうとしている。



 学生時代にも、お前は真面目過ぎる、もっと楽しい話は出来ないのかと笑われたものだ。



 誰もこんな話は聞きたくないだろうに・・・聞きたいと言われても、どうせお世辞と相場が決まっている。

 ラインリッヒは腰を下ろし、照れ笑いを浮かべる。



「あははは・・・すみません。つい調子に乗ってしまいました。ツマラナイですよね、こんな話・・・」



 視線を落とし、飲み物のグラスに手をかける。

 しかし誰かの手が、グラスごとラインリッヒの手をギュッと掴む。驚いて視線を上げると鼻息が荒いルクリアが、ぎゅぎゅーっとこれでもかと両手でラインリッヒの手を掴んで離さない。



「・・・そんな事はない・・・是非聞かせてっ・・・」

「ブルニも続きが気になりますっ!」



 ルクリアは目をキラキラさせながら、ブルニはいつものビッシリと書かれたメモ張を取り出し、ペンを構えて待っている。

 ミールは特に興味がある風ではなく、静かに料理をつまんでいる。



 ラインリッヒは2人を見て

「ふふふ。貴方達は変わったお人なのですね。普通の人は、こうして話をするのも警戒するのですよ。いつ魔法をかけられるか分からないですからね・・・分かりましたっ。では僭越(せんえつ)ながら、わたくしラインリッヒが、自白魔法の父ガンリッタ様の半生を語らせて頂きます」



 パチパチパチ

 笑顔で嬉しそうに拍手する2人。



「コホンッ。まず自白魔法が誕生したのは今から約500年ほど前の時代となります。その頃の冒険者ギルドは開設されて2000年が経過したとはいえ、レア適性のスキル等は、まだまだ未発見の状態でした。ですが、一般的な適性はもちろん解明されており、人々は解明の進んだ適性の獲得を目指していました。その中で創設の父、ガンリッタ様は心療回復士の素質適性を所持をしていたのです。当時の心療回復士はハズレもハズレ、大ハズレの適性と言われていました。それもそのはず、出来るのは心の回復、つまり恐怖やストレスの緩和などしか出来ないと言われてきましたので。当時のギルド職員達も、他の冒険者達も揃って他の適性獲得を進めてきました。しかしガンリッタ様は生まれながらに持った事になにか意味があるのではないかと考え、そのまま冒険者になることを選びました」


 ラインリッヒは目を閉じ、文献で読んだ当時の様子を語り出す。




 ここからは読者の皆様にだけ、当時の様子を交えて語らせてもらおう。




『やはり中々厳しいな・・・』

 ガンリッタは仲間募集の張り紙を見ながら呟く。



 ガンリッタはまだ初心者、しかも心療回復士なので戦闘も得意ではない・・・というか戦力にならない。

 攻撃力もなければ、傷の回復も出来ない。

 出来る事といえば、味方の恐怖を少しだけ軽減させること。

 当然お荷物な存在のガンリッタを、わざわざPTに加えるメリットが無いのである。



『仕方ない・・・今日も街の周りを周回するだけにしよう』

 ガンリッタは武器屋で買った大衆向けのショートソードを手に、フィールドに向かう。



『あれ?1人でフィールドに行くの?』

 不意に声をかけられる。



 ビックリして振り向くと、そこにはニコニコしている女の子が2人、そして仏頂面の男が1人の計3人PTの冒険者が立っていた。



『あたし達も初心者なんだけどさー。良かったら一緒に行かない?』

『え??いいんですか?自分は心療回復士なので・・・お荷物になると思うのですが・・・』

『そんなこと無いよ~。あたし達もまだまだだし、一緒に成長していこうよっ!』

『うんうん。みんなでフォローし合えば、なんとかなると思う』

『あ、ありがとうございます。是非お願いします!』



『やった。あたしはリオ、こっちはプロフって言うの。そして不機嫌そうにしてる人がマイケルね。彼はいつもこんな感じだから気にしないでね、あはははっ』



『は、はいっ!ありがとうございます!自分はガンリッタっていいますっ』

『オッケー。ガンリッタね。よろしくっ!』

『もう、リオちゃんったら・・・もう少し気の利いた紹介しなよ・・・』

『ええ~??いいんだって。人間正直が1番!ねっ?!ガンリッタはどう思う?!』

『あ、はいっ僕も正直が大切だと思います!凄く嬉しいです!』

『よーし!良い子をゲット出来たぜぇ。これからも宜しくねっ』

『はいっよろしくお願いします!』



 こうして4人での冒険が始まった。

 リオはソードマスターというレア適性の持ち主で、剣全般を扱う事ができ、かなりの腕前だ。

 口癖は『正直が1番!』という、やや熱血漢タイプだった。


 プロフは今も当時も貴重な回復士で、フォロー役だ。



 マイケルは状態異常を得意とする奇術師で、無口だが頼りになる存在だった。



 ガンリッタも精一杯、慣れない剣を振り回す。

 剣スキルなどは所持していないので、完全に自分の力のみで戦っている。

 リオとは正に、天と地ほどの差がある事は誰の目からみても明らかだった。



 しかし、リオとプロフは全く気にしていない・・・いや、むしろ感謝している。



『いや~。ガンリッタがいると助かるわぁ。ありがとぉ』

『本当ね。いつも猪突猛進のリオが、自身をしっかりと制御出来てるもん。やはり心の安定は全てに通ずるのね』


『あはははっ。猪突猛進って・・・でもでも、確かにどんなに囲まれても冷静でいられるし、恐怖も感じないっ。常にベストを尽くせてるって感じ!これって凄いよねっ?!』


『そうそう。わたしも・・・実はビビりだったけど、ガンリッタさんがいてくれると凄く安心する。これからも宜しくね』

『はいっこちらこそ!』



 こうして、このPTで確固たる地位を手に入れたガンリッタは、ドンドンと経験を積んでいった。

 1年が経ち・・・2年が経ち・・・3年目を迎える頃には街を代表するPTへと成長することができた。



 そんなある日、みんなで街でお昼ご飯を食べているとリオが話し出す。



『あのさー。今日はちょっとオフにして良いかな?ちょと野暮用があってさ』

『はい。全然構いません』

『俺も構わない・・・』

『ありがとっ。じゃあ今日は各自で宿を取ってね。それじゃあまた明日ねっ』



 リオはイソイソとお店を出て行く。



『わたしも、それじゃあ今日はゆっくりしようかな・・・また明日ねー』

『はい、また明日』



 プロフも店を出ていったので、ガンリッタも日用品を補充することにした。



『じゃあ、マイケルさん。僕も買い物に行ってきます』

『ああ』



 そして夕方、買い物を済ませ、街をブラブラとしていたガンリッタに、リオから通話が入る。



『リオさん、どうしました?』

『あー。あのさー、ガンリッタ今なにしているの?』

『街でブラブラしてます』

『そっか・・・ちょっと話があるんだけど・・今からヨードルホテルに来てくれないかな?701号室』

『分かりました。これから向かいますね』

『ありがとう・・・それじゃあ・・・』



 ヨードルホテルとは、この街で1~2を争う一流ホテルだ。

 いつもはこんな高級なホテルに泊まらないのに、奮発したんだな・・・と思うガンリッタ。



『野暮用と関係があるのかな?そういえば、なんか様子が変だったし・・・』

 ガンリッタは少し不安になり、急ぎ足でホテルまで向かったのであった。



 ヨードルホテルに着くとマイケルが入り口で待っていた。



『あれ?マイケルさん・・・・・どうしたんですか?』



 一瞬マイケルさんも呼ばれたんですか?っと言いそうになりギリギリで踏みとどまる。もしかしたら自分だけ呼び出している可能性があったからだ。



『よお。ガンリッタ。お前も呼ばれたのか?』

『え?あ、やっぱりマイケルさんも呼ばれていたのですね?では行きましょう』

『ああ』



 2人は魔道昇降版(エレベーター)に乗り、7階に向かう。



『そういえば、これ飲んどけよ。お前顔色悪いぞ』

『え??ホントですか?』

『ああ、もしかしたら疲れが出てるんじゃないか?それでリオは休息を取ったのかもな』

『そうでしたか・・・リオさん申し訳ないです・・・では有り難く頂きます』



 グビグビと飲み干すガンリッタ。直ぐに意識が薄れていく・・・・




【お前が悪いんだからな・・・俺の欲しい物を奪いやがって・・・】


 


 意識が無くなる寸前に、微かにそんな声が聞こえた気がした・・・



 目を覚ますと、部屋の中にいた。

 最上階の701号室は窓も大きく、見晴らしがかなり良い。

 真ん中に大きなベットが置かれており、ガンリッタは入り口の扉付近で、尻餅をついていた。



 そして・・・手には血がべっとりとついているナイフが握られている。




『え?・・・』




 ガンリッタは現実感のない状態で立ち上がり、ベットに歩みを進める。

 ベットには2人の女の子、リオとプロフが裸のまま血を流して絶命していた。



『な、なにが?・・・』



 未だこれが現実に起っている事なのか、夢の中なのか分からないガンリッタ。



 バタンッ



 唐突に扉が開かれ、ゾロゾロと警備兵が入ってくる。



『犯人発見!』

 あっという間に周囲を取り囲まれるガンリッタ。



『な、なにをするんです?!僕は被害者ですよ?!』

『なにを言ってるんだ?!ずうずうしい!その手に持ってるナイフはなんだ??』

『え?』



 言われて驚き、ナイフを投げ捨てる。



『今更投げ捨てても遅いわ!犯人確保!』

 一斉に飛びかかり拘束されるガンリッタ。



『さあっ立て!お前がやったんだな!?』

『し、知りませんよ!目を覚ましたらここに座っていて、手にナイフを握らされていたんですから!』

『全く・・・もう少しマトモな言い訳は出来ないのか??おい!鑑定しろ!』

『はっ』



 女の子の血と、ナイフに付いていた血が、同じものか鑑定魔法がかけられる。



『一致しました!凶器はこのナイフで間違いありません!』

『これで分かったか?!犯人はお前だ!』

『そ、そんな・・・』



 そこにマイケルが壁にもたれかかって腕組みしているのを見つける。



『あ、マイケルさんっ!助けて下さい!僕には何が何やら・・・』

『お前が俺を殴って気絶させて、リオとプロフを襲ったんだろ?とんでもない奴だな。警備兵さん、はやく連れて行ってください』

『なっ!?』



 軽蔑した目で見てくるマイケル。



『何を言ってるんだ!マイケル・・・お前が俺に飲ませたあれはなんだ?あれを飲んだから意識を無くしたんだ!さてはお前が?!!・・・』



『はあぁぁぁ??なにを言ってるんだ?部屋にいたのもお前1人、凶器を持っていたのもお前だ。人に罪をなすりつけるなよ。汚らわしい』

『うむ。もういいだろ。連れて行け!』

『はっ!』



 警備兵に引きづられていくガンリッタ。



 するとニヤアッと満面の笑みを浮かべるマイケルが視界に入る。その笑みを見てガンリッタは確信した。



 こいつが犯人だ!



 その瞬間、リオの顔と口癖が頭の中に浮かび上がる。




《正直が1番だよっ!ガンリッタ!》




 ガンリッタの身体に力が沸いてくる。それと同時に、白い光がガンリッタを包み込んだ。




『貴様ああぁぁ!お前がやったんだろぉぉ!何故だあぁぁ!何故こんな事をしたあぁぁ??正直に言ええええぇ!マイケルゥゥ!!』




 パアァっと光がマイケルを包み込む。



『はい。俺が殺しました・・・』



 虚ろな目で唐突に語り出すマイケル。

 あまりに突然の自白に、警備兵もキョトンとしてしまう。



『はあ??あのーマイケルさん?・・・今なんと??」

『俺がガンリッタが殺したように偽装して2人を殺しました・・・』



 シーンと静まり返る中、ガンリッタは質問を続ける。



『何故だ?!何故こんな事をした?!』


『前々から2人がガンリッタに好意を寄せているのは気付いていました・・・そして昨日の深夜、たまたまトイレから戻る時に・・・部屋から出て行く2人を発見しました・・・俺は後をつけました・・・2人は公園でヒソヒソと会話をしていました・・・内容は・・・明日2人同時に告白するといったものでした・・・』



『あ~あぁ~。なんでまた2人で同じ人を好きになっちゃうかなぁ~?』

『それは私の台詞だよ。リオちゃん・・・』

『でもさ、譲る気は無いでしょ?プロフ』


『う、うん・・・譲りたくは無い・・・けど・・・リオちゃんと一緒だったら・・・私は良いよ』


『一緒って?・・・』

『2人とも愛してもらうの・・・私、リオちゃんなら良いって思えるもん』



『ぷっ・・・あっははははっは!プロフ~!あんた凄いなぁ!その発想はなかったわ!』

『そ、そうかな・・・』


『うんうん。でも、それならあたしも良いよ!プロフとならやっていけそう!よしっ!一緒にガンリッタの子供孕むか!』


『でも・・・ガンリッタさんがオッケーならでしょ?』



『オッケーに決まってんじゃん?!あたしとプロフだよ?!こんな美女2人が言い寄ってくるんだから断るわけないじゃん!しかも2人とも一緒で良いって・・・男として最高のシチュエーションでしょ??』



『もう・・・リオちゃんは前向きだなぁ・・・でもそういう所本当に尊敬している』

『あたしもプロフの底なしに優しい所大好きだよっ!よしっ!早速明日告白しよう!』


『ええ??明日?!早くない?』



『何言ってんだい!善は急げって言うだろ?気持ちも固まったんだったら、あとは言うだけだよ!2人で押し切ろう!』



『わ、わかった・・・3年も待ったんだもん・・・良いよね?』



『そうそう!よーし!じゃあ明日はオフって事にして、夕方ガンリッタを通話で呼び出そう!2人とも初めてだもんな!奮発してヨードルホテルに予約しよう!最上階!』


『うん。最高の思い出になると良いな・・・』


『なるなる!絶対になるよっ!くうぅ~・・・明日が楽しみだぁぁ!』



『アイツらは俺の名前など、一言も出しませんでした。ずっと、ずっとアイツらを愛していたのは俺なのに・・・ガンリッタのせいで・・・全て台無しになりました・・・なので・・・ガンリッタに魔法睡眠液を飲ませ・・・ガンリッタを人質にしてアイツらの部屋に入りました』



『な??何してんだ?!マイケル!ナイフを置け!』



『ふざけんな。俺がどれだけお前達の事を愛していると思ってんだ・・・こんな奴の何処が良いんだ?!強さだって俺の方が全然上だ!魔力も体力もないコイツの何処がいいんだ?!俺ならお前達を守れるのに!』



『マイケル・・・お前はなにも分かってないよ・・・ガンリッタはいつも優しくしてくれた。弱音を聞いてくれたし、沢山励ましてくれた。負けそうな自分に勇気をくれた、希望をくれた、夢をくれた。マイケル、お前はただ自分の強さを他者に見せびらかすだけ・・・なにも響いてこないよ。あんたのやることには・・・』


『とにかくナイフを置いてよぉ!ガンリッタさんは私達の全てなの!傷つけないで!』



『ふざけるなぁー!』

 マイケルは絶叫して、プロフに魔法錠を投げつける。



『おい!プロフ!これでリオを縛れ!早くしないとコイツを殺すぞ!』

『そ、そんな・・・』

『早くしろおおお!!』


『やりな・・・プロフ・・・』



 プロフは泣きながらリオの手と足を魔法錠にかける。

 リオが身動き出来なくなったのを確認すると、今度は魔法水の瓶を投げつけた。



『これをリオの身体に振り掛けろぉ!早くしろぉぉ!』

 プロフは魔法水をリオに振り掛ける。



『自分にもしろ!早くっ!』

 プロフは自分の身体に魔法水を振りかけた。

 ペタンと床に座り込んでしまうプロフ。




『ぎゃははっ!おらぁ!動けねえだろ?!俺様特製の痺れ魔法水だ!』




 そう言うとガンリッタを投げ捨て、転がっているプロフを抱き上げ、ベットに投げつける。



『きゃぁ!やめでぇ!』

『うひょー!たまんねぇ!遂にこいつらとやれるぜ!おら!』

 マイケルは強引に服を引き裂いていく。



『やめどぉぉ!』

『やべてぇぇ!』

 痺れのせいで、うまく喋れない2人は必死に叫ぶ。



 しかし2人に取っては、最高の思い出の場所になるはずだった最上階は、運悪く防音設備がしっかりとしたスイートルームだ。誰も叫び声に気付かない。




『ぎゃははっ!ほら!ほらぁ!しっかりと見てもらえっ!お前達の愛しのガンリッタに!俺に犯されている自分達の姿をよぉぉおぉ!』





 日も暮れて辺りは、すっかり夕方になった。

 2人を交互に犯し続けたマイケルは、いよいよ仕上げに入る。



『はあぁ。最高だぜ・・・だが残念ながら、そろそろ時間だな。ガンリッタの眠り効果もそろそろ切れるし、警備兵を呼ぶ時間も作らなきゃならんし・・・』



 マイケルの独り言を、呆然とした顔で聞く2人。

 涙と乱暴に殴られた痕、そして体液でグチャグチャになっている。



『それじゃあ、お前達はここまでだ。あばよ。でも安心しろ。お前達の愛しいガンリッタは、全ての罪をなすりつけられて死罪になるから直ぐに会わせてやるよ。あの世でな!ぎゃははっ!』



 なにも抵抗出来ずに、その生涯を終えた2人。

 ベットは2人の処女膜の血が付いていたのだが、もはや完全に分からないほど大量の血がべっとりと付いている。



 その血に染まったナイフを、しっかりとガンリッタに握らせてから部屋を出るマイケル。

 直ぐに通話をかける。


『すみません。中から悲鳴が聞こえるのですが・・・来て貰えますか?ヨードルホテルの701号室です』





『な、なんという・・・』

 警備兵は思わず呟く。



『し、しかし隊長。これは・・・本当の事でしょうか?・・・』

『う、うむ・・・そもそも何故このようにペラペラと喋り出したのかが謎だな・・・』


『おい、お前。なにか物的証拠はあるか?』



 警備兵はマイケルに尋ねる。



『そのカバン・・・俺のカバンに残りの魔法水が入っている・・・ガンリッタに飲ませた眠り魔法水とリオとプロフに使った痺れ魔法水・・・それと・・・洗面台・・・そこで手を洗った・・・掃除をしたけど・・・少し血が残ってるかも・・・あとは・・・どうせガンリッタは直ぐに死刑になるから、ちゃんと調べないと思って・・・女の膣内の精液は洗浄してない・・・だから調べれば俺のだと分かる・・・ナイフは今日、広場前の武器屋で買ったものだ・・・これも調べれば直ぐ分かる・・・』



『おい!直ぐに調べろ!』

『はっ!』

 先程と同じように鑑定魔法を使って、精液などを調べる警備兵。



『ま、間違いありません!確かにこの精液はこの者の精液です!』

『洗面台にも血の跡がありましたっ!この女の子の血です!』

『な、なんという・・・』



 ガンリッタはマイケルの口から出た、あまりの惨劇にガクッと泣き崩れる。

 その心は自分のせいだという気持ちに溢れていた。



 自分さえ捕まらなければ・・・

 自分さえPTに入らなければ、この2人は死ななくて済んだのに・・・



 絶望感で頭をかかえ、うずくまるガンリッタ。



 それと同時にマイケルはハッと正気に戻ると、激しくゲホゲホとむせかえった。



『な、なんだ??ゲホッゲホッ!今のはなんだ!?何をしやがった!ガンリッタ!』

『マイケルさん・・・貴方が犯人ですな?・・』


『はあ?ふざけんな!いいから早くコイツを捕まえろよ!殺人犯だぞ?!』


『残念ながら逮捕されるのは貴方です。精液も鑑定しました。ん?・・・なに・・・わかった・・・たった今、武器を購入したのも貴方だと裏付けが取れました。犯人は貴方です』



『な?!なんだと?!・・・じゃあ・・ホントに俺が喋ったのか?・・・ち、違う!コイツだ!コイツが俺を操って嘘の自白をさせたんだ!全部デタラメだ!』



『おい、連れて行け・・・ただし、色々と検証しなければならない。即日死刑はしないように・・・』

『はっ!』

『くそ!離せ!離せええ!』



 連行されるマイケル。

 その姿を呆然と見ているガンリッタ。



『お前が・・・いや、失礼。貴方がなにか・・・しましたか?』

 隊長の質問の意味が、よく分からなかったガンリッタは、大粒の涙を流しながら隊長に振り返る。



『よ、よく分かりません・・・とにかくマイケルが犯人だと確信できていたので・・・憎しみと・・・あと事実・・・真実を知りたいと強く願いました・・・もしかしたら・・・なにかスキルが発動したのかも知れません・・・』



『こ、これは・・・大変な事になるぞ・・・正に世界の仕組みが変わる・・・ガンリッタ様でしたよね?と、とりあえず至急、領主様とお会いになってもらいたいっ!』



『・・・この子達の・・・埋葬を・・・したいです・・・』


『う、うむ!・・・それも警備局が責任を持って対応しよう!このままじゃ可哀想だ。身を清めてから埋葬しよう。まずは!とにかく領主様のもとへ!お願いします!』

『・・・分かりました・・・』




「こうして、ガンリッタ様の自白魔法は、世の人々に認知される存在となりました。多くの人々から無理だ、止めろと言われた心療回復士を選んだ勇気、そして非道な行いに対し真実を追究する決意が自白魔法を誕生させたのです。そして自白魔法が誕生したことにより、多くの紛争が終焉を迎え、世界は新たな時代に突入していくのです」



「・・・今は当たり前のように存在が認知されている魔法も・・・多くの犠牲の上に成り立っていた・・・私達は普通に自白魔法に頼ってしまうけど・・・もっと有り難みをもたないとダメ・・・」



「ブルニもとっても悲しいお話と感じましたが、諦めない気持ちは時に奇跡を起こすんだなっとも思いましたっ」



「そうですね。自白魔法は悲しい出来事からではありますが、偶然に生まれました。もしかしたらルクリアさんも吟遊詩人として経験を積んでいけば、唐突に世界を変えるようなスキルが生まれるかも知れませんね」


「・・・経験って・・・私はフィールド出ないから・・・あんまり積めないかも・・・」


「私もフィールド経験はないのですよ。ガンリッタ様はフィールドに出て3年目の時に自白魔法を出現させましたが、私は心療回復士の適性をセットしてから、半年で自白魔法を獲得しました」


「ほえ?・・・フィールド出てなくて?・・・」


「そうです。自白魔法を獲得するには、とにかく真実を追究する気持ち、これを強く持つ事が大切なのです。あとは知識ですね、理不尽に虐げられてきた人々の歴史を学びます。そして沢山の人々と接すること、人通りの多い交差点などで1日中立って、通り過ぎる人々を毎日毎日観察したものです。そうした経験を繰り返し行った結果、フィールドに出ていなくても半年で獲得出来たのです」


「ふえぇ・・・そうなんですねっ」


「ただし、心療回復士が一般的に獲得しているスキル、例えば、恐怖を和らげる事が出来る魔法があるのですが・・・私はこれは習得していません。自白魔法のみです、使えるのは・・・」



 ここで飲み物を一口、コクリと飲み

「これは個人的な考えですが、もしかしたらスキルや適性の獲得は、精神的な部分が大きく作用しているのかも知れません。自白魔法の場合は強く願う気持ち、楽しい気持ち、誰かを守りたいと思う気持ち・・・それらの強い想いに反応して、その身に宿るような気がしています。このようにスキル毎に必要な経験というか、精神的な気持ちというか、そういったものが、それぞれ設定してあるのではないかと・・・まあ、あくまで個人的な意見ですが・・・」



 この頃になると隊長とセリーの対決は終了したようで、両方テーブルの上で潰れて寝てしまっている。



 幸せそうに眠るセリー、そのお世話をしているリリフ、一生懸命色々な事を勉強して早く普通の生活に慣れようとしているブルニ、なんだかんだいってもいつも妹を気にかけているリューイ、いつも優しく包み込んでくれるグワンバラ夫妻、そして、いつも影から見守ってくれているミール。



 この食堂の中でも大切な人が沢山出来た。



 ルクリアは1つの決断をする。



「・・・私・・・明日・・・吟遊詩人の適性をセットしてくる・・・これで沢山の人達に知られちゃうけど・・・もしかしたら危険な目にあうかも知れないけど・・・守りたい人がいるから・・・」



「そうですか・・・ではわたくしは影ながら応援させて頂きます」

「・・・あ、ありがと・・・でも・・・具体的にどんな事すればいいのかな?・・・」


「わたくしは普通で良いと思うますが・・・吟遊詩人の特徴は、どういったものなのでしょうか?」


「・・・うーんと・・・歌・・・かな?・・・」

「ほう?」



「だったらあんたっ、あそこで歌ってみたらいいさね。ちょうど身内ばかりだしね。気楽に出来るだろう?」



 いつの間にかグワンバラが、大盛りのスパゲッティを食べながら、ルクリアにアドバイスする。

 宴も終焉にさしかかってきたので、ここらで腹ごしらえという感じらしい。



 因みにグワンバラが薦めている場所は、この食堂の角にある一段高くなっている場所だ。

 以前はそこで弾き語りの演奏家などが流しで訪れていたらしいが、最近はめっきり減って、今では酒瓶などが積まれている。



「・・・ええ??・・・無理だよぉ・・・おばちゃん・・・」


「それに上手く行けば、絶好の客寄せになるじゃないかい。あんた達も今日入って来て気付いただろう?席は埋まって無くてガラガラだって」


「た、確かに・・・ブルニもそう思いましたっ。なんででしょう?」


「結局は、まだマンハッタンに受けた悪評の傷は癒えてないって事さね。もしかしたら貴族連中が復讐に来るかも知れない。よくわからない罪で逮捕されるかもしれない。そんな不安が拭えないんだろうさ]


「・・・でも・・・あんなに、みんな・・・立ち上がって助けてくれたのに・・・」


「団体で行動すれば、ある程度は怖くないからね。だけど、個人的にこの店と関わり合いになるのは、もうしばらく様子を見ようって人達が多いって事だろうよ」


「確かに、長年に渡って虐げられてきた貴族への恐怖は、簡単には消えるものではありませんからね」


「だからこそ、ここからはあたい達の営業努力ってのが問われるってことさね。まずはルクリアの歌で客を呼び寄せる!頑張ってこのお店を盛り上げておくれっ!」


「・・・客寄せパンダ・・・」


「俺も聞きたいな。ルクリア、よく仕込み中に鼻歌歌ってるやつ。あれ、故郷の歌なんだろ?俺は好きだな、あの歌」

 グワンバラの旦那さんも大盛りチャーハンを食べながら要望する。



「・・・ええ??・・・う、うん・・・わかった・・・」



 ルクリアはグワンバラの旦那さんの事を、実のお父さんのように感じていた。

 どちらかというとファザコンのルクリア。その父親からのリクエストなので、恥ずかしさよりも期待に応えたいという気持ちの方が勝ったようだ。



 ルクリアは緊張した面持ちで、角のステージに歩いて行く。



 気付いているのはルクリア周辺にいた人達、グワンバラ夫妻やブルニ、ラインリッヒとミールのみ。

 他の人達は酔いつぶれていたり、話に花を咲かせていたりで、ルクリアの事は見えていない。



 ルクリアが壇上に立って、1つ深呼吸。

 両手を胸の前で合わせ、お祈りのような姿で、歌い出すタイミングを計っている。しかし中々歌い出せない。



「ルクリア姉様・・・頑張って・・・」

 ブルニが小声で応援する。



 相変わらず、誰もルクリアに気付かないザワザワした店内に、大きく息をすったルクリアが歌い出す。



——この青空の下で―わたしたちは生まれ―そよ風に吹かれながら―眠りにつく―—



 ルクリアの、小さいがハッキリとした声が響き、食堂にいた全員が(潰れている者を除く)一斉にルクリアに注目する。

 ルクリアは皆の視線が気にならないように、天井を見ながら歌い続ける。



——ありがとう―神様―こんな素敵な贈り物——

——ありがとう―神様―このうえない喜びを——

——大地に照らす優しい光―包み込む穏やかな風―全てを育む透き通った水——

——この世界は素晴らしい―だって貴方がいるから——

——この世界は楽しい―だって君が生まれてきたから——

——今―優しい暖かさも風になびく草木のざわめきも―水の流れる音も——

——全てが愛おしい——

——夢で会いましょう―だって今日1日では伝えきれないから——

——夢で会いましょう―だって明日に続く時間だから——

——夢で会いましょう―だって今日1日では伝えきれないから——

——夢で会いましょう―だって明日に続く時間だから——

——この青空の下で―わたしたちは生まれ―そよ風に吹かれながら―眠りにつく——

——明日が来るのが待ち遠しい―素敵な明日―貴方に会える明日——

——ありがとう―神様―全ての人々に祝福を——



 歌い終わったルクリアは、ふうっと息を1つ吐く。



 ちっちゃい身体で精一杯リズムをとり、額に汗を浮かべながら、一生懸命ちっちゃい口を大きく開けて歌う姿に、全員が見惚れてしまった。



 ルクリアが姿勢を正し、ぺこりとお辞儀をすると食堂内は大歓声に包まれる。



「うおおおおお!すげぇー!」

「心が洗われる!正にすがすがし気分だ!」

「めっちゃくちゃ可愛いっ!可愛いすぎる!」

「俺・・・なんだか泣けてきた・・・」



 鳴り止まない拍手と喝采。

 ルクリアは、恥ずかしそうに壇上からピョンと降り、グワンバラの座っている席まで、足早に帰って来た。



「凄いじゃないか。あたしゃ感動したよ」

「ああ、良かったぞ、ルクリア」



 旦那さんがルクリアの頭を撫でる。ルクリアは、とてもとても嬉しそうだ。



「ルクリアぁ!すごーい!凄いわっ!とっても綺麗な歌声だったぁ!また聞きたいなっ!」

「ルクリア姉様っ。ブルニもとても感動しました!なんかこう・・・歌声で癒やされるって感じがしましたっ」

「ルクリアね・・様。僕も歌の景色が浮かんでくるようでした。素晴らしかったです」

「・・・あ、ありがと・・・」



 ルクリアは真っ赤な顔をしながら、飲み物をグビッと飲み干す。

 そしてちらっとミールを見ると、ミールは優しく微笑んでいたので、ルクリアは更に幸せそうに笑顔になるのだった。



「素晴らしかったですよ。ルクリアさん。やはり吟遊詩人というのは普通の歌声とは違うのですね」

「・・・そう?・・・自分では分からないけど・・・」

「ええ、なにか歌に力が籠もっているようでした。もしかしたらこのまま定期的に皆の前で歌うことは、新たなスキル獲得に通じているのかも知れませんね」

「・・・そうかな・・・」



 ここで、酔いつぶれて眠っていたと思っていたセリーが、ガタンッと急に立ち上がり、声を大にして叫ぶ。




「りゅくりあぁぁ!あたちはぴらめきゅまちたぁ!らゆびゅでちゅっ!ゆいびゅをしゅるのでちゅ!これぇからみゃいちゅうぱいびゅをしゅておだねをばくちゃんもうれきゅのだぁ~!」




 セリーは、呂律の回らない口調で何かを叫んでいる。どうやら通訳すると、これから毎週ライブをしてお金を儲けるぞって事らしい。



「・・・えええ??毎週ってことは・・・知らない人達の前で歌うってこと?・・・む、無理だよ・・・コワイ・・・」

 何故かルクリアはセリーの言葉が伝わっているようだ。流石ルクリア。



「にゃにをぴゅってりゅのだぁぁ!じょんびゃぎよちゅでしゅくるゅがかきゅきょくできりゅなけにゃいだりょぉぉ~!ぴょーてんしゅりゅのだぁあぁ!」


 何を言っているのだ、そんな気持ちでスキルが獲得出来るわけないだろ。挑戦しろって事らしい。



「・・・わ、わかったよぉ・・・でもセリーは一緒にいてね・・・」

「あっだりみゃえにゃあ!ちゃあんとみゅてりゅのだぁ!」



 こうして食堂の夜は更けていき、ラインリッヒは迎えに来た騎士達に連れられて、馬車で帰っていった。



「では皆様、本日は楽しい時間をありがとうございました。とても充実した1日でした。また、お目にかかる日を楽しみにしております」

 最後まで腰の低いラインリッヒであった。



 翌日、案の定というかなんというか・・・

 全員二日酔いでフィールドどころではなく、部屋からは多数のうめき声が聞こえてくるのであった。



              続く

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