ガタリヤ奮闘記⑳
両手を広げ、透き通った声で熱弁をするラインリッヒ。
住民は初めての展開にザワザワが収まらない。しかし誰も異議を唱える者はいなかった。
⇨ガタリヤ奮闘記⑳
「ではまず、警備兵隊長をここにっ」
「はっ!」
連れて来られたのはゴブリン化した女を一撃で絶命させた警備兵だ。
「な、なにをする!俺は知らん!なにも知らん!」
ラインリッヒを中心に展開されている魔法膜の中に連れて来られると、警備隊長の声はスピーカーから街全体に流れ始める。
ジタバタと暴れていた警備兵隊長だったが、ラインリッヒがスッと手をかざし魔力を放つと途端に静かになり、表情もボーっとして虚ろな感じに変化した。
「では聞きます。貴方は今日、誰に命令されてここまで来ましたか?」
「・・・マンハッタン様です・・・」
マンハッタンが使った偽物とは違い、声は力無い感じで表情も虚ろだが、ハッキリと即答する隊長。
「ふ、ふざけるなぁ!ワシは知らんぞぉ!ぐむむっ!」
マンハッタンが叫び声を上げるが、騎士が猿ぐつわをかけ、それを黙らせる。
「マンハッタンになんと命令されたのですか?」
「・・・今日ゴブリン化する女がグワンバラの食堂から出てくる・・・出てきたら直ぐに女を殺せと・・・それからはマンハッタン様が直々にお出でになるとのことだったので・・・以降はマンハッタン様のご指示に従うようにと・・・」
「貴方はマンハッタンの命令がおかしいとは思わなかったのですか?」
「・・・思ってても逆らうことなんて出来ません・・・今までも何人も・・・マンハッタン様に逆らって殺されて来た同僚を見てきましたから・・・我々に選択肢なんてありませんでした・・・」
「ふむ・・・いいでしょう」
魔力を解かれた隊長は、ハッと普通の状態に戻るが、直ぐにオエエと吐き気を催して、ゲホゲホと咳き込んでいる。
自白魔法をかけられると、身体を自分の意思で動かす事は出来ない。しかし、自我はあるので思考は出来る。つまり、頭の中で考えたり、喋ったりはできるのだ。
なのに、自分の意思とは関係なく、勝手に次々と喋りたくない本音部分を語り出してしまう。
イメージ的に、ペラペラと自供している者の頭の中は『ぬおー!言うなぁ!やめろー!』と必死に叫んでいる感じだ。
このように自白魔法は一時的に相手を操る作用があるので身体が拒否反応を示してしまい、術が解かれた瞬間、吐き気を催したという訳だ。
この頃になると尋問現場をひと目見ようと、大勢の住民が押し寄せてきており、異様な熱気に包まれている。
ある者は肩車をして、ある者は道路脇の建物の窓という窓から、ある者は建物の屋根によじ登り、その光景を見守っていた。
いつの間にいたのか、新聞記者の人も魔写機(カメラ)を手に必死に映像を収めている。
明日の一面は決まりだ。
「では次に、食堂で女と食事をしていた男をこちらに」
「はっ!」
「ち、違うんですっ。ぼ、僕は言われた通りにしただけで!こんな事になるとは全く思って無くてっ!騙されたんですっ!本当ですぅ!信じて・・・・」
叫き散らす好青年に、ラインリッヒは魔力を放つ。
警備兵隊長と同じように虚ろな感じに変わり、静かになった。
「では、貴方は今日誰に命令されて食堂に来たのですか?」
「・・・マンハッタン様です・・・」
「ぐむむぅうぅううぅ!」
相変わらずマンハッタンは叫び声を上げているが、猿ぐつわをされているので声はかき消されている。
「なんと命令されたのですか?」
「・・・この女は数時間後にゴブリン化するので・・・発症するまで同じテーブルで食事するようにと・・・ピザ定食が作るのに時間がかかるから、それを注文するようにと・・・発症するまで何時間でも居座り続けろと・・・発症したら外に逃げようとする習性があるので・・・直ぐに出口の扉を開き誘導するようにと・・・その後はゴブリン化の事を叫びまくれと・・・しばらくしたらマンハッタン様が直々にお越しになるとのことだったので・・・あとは打ち合わせ通りにしろと・・・」
「打ち合わせとはどんな事をしたのですか?」
「・・・マンハッタン様が、偽の自白魔法の魔石を使うから・・・掛かったフリをしろと・・・そしてこういう質問をするから、こう答えろとご指示がございました・・・」
「あの女性とお付き合いをしていたと先程は説明をしてましたが、実際はどういったご関係なのでしょうか?」
「・・・マンハッタン様が傭兵に指示を出してさらってきた・・・少し前に行方不明で騒がれていた大学生です・・・マンハッタン様はゴブリン化した女を犯すのが楽しみなので・・・それ用に確保していた女です・・・たまたまその女だっただけで・・・誰でも良かったと思います・・・自分も数回犯しただけの関係なので・・・特に特別な事はありません・・・」
「この女性が可哀想だとは思わなかったのですか?」
「・・・思いません・・・今まで何人も・・・さらってきて犯してましたから・・・マンハッタン様は良い方なので・・・自分が楽しんで、飽きたら自分達に回してくれました・・・ただの性処理の道具です・・・」
「ゴブリン化の知識がかなり有るように思えるのですが、今までもゴブリン化させた女性はいるのですか?」
「マンハッタン様はゴブリン化した女を力でねじ伏せ、犯す事を何よりも楽しまれておりました。ゴブリン化した女は、獣のようになるので凶暴で危ないのですが・・・それを力で屈服させる行為が何よりも大好きだと以前お話になってました。なので何回もゴブリン化した女を見てきてはいます・・・しかしゴブリン化した女と楽しむマンハッタン様は、非常に興奮されて・・・必ず殺してしまうので・・・自分達には回ってこないのです・・・なのでどうやってゴブリン化させているかなどはよくわからないです・・・」
「ふむ。いいでしょう」
先程と同じようにハッと正気に戻ると直ぐに、オエエと吐き気を催してゲホゲホと咳き込む、見た目だけ好青年のクズ野郎。
さっきにも増して、住民達の視線は厳しい。
「ふざけるなぁー!」
「このひとでなし!」
口々に住民達の罵声や怒号が響き渡る。
その声を手で制するラインリッヒ。
「では次に、私兵のリーダーをここに」
「はっ!」
連れて来られたのは、常にマンハッタンの側にいた兵士だ。
「ちっ・・・」
リーダーは観念しているのか、特に騒ぎもせずにジッとしている。
シュッ!
と思ったら唐突に足の踵から刃を出し、ラインリッヒに投げつけた!
「危ないっ!」
リリフが叫ぶ。
ガキンッ
しかしラインリッヒの隣にいた白銀色の騎士が、盾を出してそれを阻む。
「お怪我は?ラインリッヒ様」
「大丈夫です。ありがとう」
私兵のリーダーは数人の騎士に拘束され、全身を魔法錠で固められた。
まるでミノムシのようになって地面に転がる。
「くそ!」
それでも抵抗しようとするリーダーに、ラインリッヒは魔力を放つ。
直ぐに大人しくなるリーダー。
「もう大丈夫です。それでは話づらくなってしまうので、立ち上がらせてください」
「はっ!」
「では聞きます。貴方はマンハッタンの側近で間違いないですか?」
「・・・はい、そうです・・・」
「ではマンハッタンのこの一連の計画を教えて下さい」
「・・・マンハッタン様はアーニャを邪魔に思っていたようで・・・アーニャの評判を陥れる事を画策しておりました・・・詳細は分かりませんが、何やら多額の賄賂を聖都や他の街の貴族達に配っていたようです・・・そしてその陥れる計画の1つが、この星光街を潰して貴族の別荘地を建てる事だったようです・・・しかし・・・邪魔が入りました・・・」
「邪魔とは?・・・」
「グワンバラです・・・あいつは貧民のくせに賄賂には目もくれず・・・その上住民達の信頼も厚い・・・簡単に星光街をモノに出来ると思っていたマンハッタン様は忌々しく思っていました・・・そんな中・・・グワンバラがゴブリン化隠蔽の容疑で捕まったと連絡が入りました・・・これこそ神の導きとばかりにマンハッタン様は駒である警備隊長にグワンバラを殺す指示を出しました・・・しかしアーニャに邪魔をされ・・・オマケに自分の駒も処分され・・・マンハッタン様はたいそうお怒りでした・・・我慢ならなかったマンハッタン様は直接グワンバラを潰す事にしました・・・手始めに店に風評被害が出るように仕向けました・・・ゴブリン化する・・・異端児の店だと・・・狙い通り客をほぼ0にする事ができ、マンハッタン様はたいそうご満悦な様子でした・・・直ぐに音を上げるに違いないと・・・しかし何時まで経っても変化がなく・・・逆に楽しんでいるかのような態度を見せるようになり、マンハッタン様はまたお怒りになりました・・・あとからいくらでも言いくるめれるのでマンハッタン様は直接グワンバラを殺す事にしました・・・じっくりと燃え続け・・・水では消火出来ない油の塊を使用してグワンバラの宿ごと・・・その周辺も含めて燃やす事にしました・・・しかし何故か失敗し・・・実行犯の奴は処分されました・・・」
やはり油の塊だったか・・・あのまま水をぶっかけてたら、一気に炎は燃え広がり、今頃この周辺は焼け野原になっていたことであろう。
手持ちに水があまり無かったので、たまたま空気を遮断するやり方で消火したのだが、それが功を奏したようだ。
ミールは心の中で冷や汗を拭う。
「では放火もマンハッタンの仕業なのですね?」
「・・・そうです・・・しかし失敗するだけならまだしも・・・住民が大挙して押し寄せ・・・抗議活動を行う事態へと発展しました・・・これにはマンハッタン様も計算外だったようで・・・早く沈静化する方法を探しておられました・・・そこで自分がゴブリン化した女を送りこむ作戦を提案しました・・・マンハッタン様はその作戦を、たいそうお気に召したようで、直ぐに実行に移しました・・・」
「どうやってゴブリン化させるのでしょう?」
「・・・簡単です・・・ゴブリンの巣の目の前に女を置いてくるだけです・・・直ぐにゴブリンは巣の中に女を引きずり込み犯すので・・・1~2時間ほど放置してから巣に侵入してゴブリンを殺し・・・女を連れ帰ってくるだけです・・・しかし・・・今回は発症させる時間も重要だったので・・・そこは神経を使いました・・・ゴブリン化の症状は犯されてから36時間後くらいから発生する事が多いと今までの経験で分かっていたので・・・それくらいの時間に食堂にいるように時間を調整しました・・・」
「今回発症した女性の方は直ぐに正気に戻っていたような気がしますが?・・・」
「・・・ゴブリン化は一気に進行しません・・・最初は短時間だけ発症し・・・段々と発症している時間が長く、間隔が短くなっていき・・・48時間ほどで完全なゴブリン化になります・・・なので最初は直ぐに正気に戻る事は織り込み済みでしたので・・・余計は事を言わないように直ぐに処分させました・・・」
「何故女性は言う通りに行動したのでしょうか?」
「・・・食堂で黙って食事をしたら・・・解放もしてやるし・・・ゴブリン化の治療もしてやると言いましたから・・・」
「なるほど・・・もういいでしょう」
ラインリッヒが魔力を解くと、何故自分がミノムシのようになっているのか、一瞬分からない風の顔をするリーダー。
しかし鍛え方が違うのか、若干顔色は悪いが咳き込んだりせずにラインリッヒをキッと睨む。
「テメエらっ、マンハッタン様に自白魔法をかけてみろ!大変なことが起こるぞ!マンハッタン様がどれだけ聖都から公共事業や物資を引っ張って来てると思ってんだ?!マンハッタン様が捕まればガタリヤは、あっという間に資金不足っ、物資不足になるぞ!分かってんのか?てめえら!」
リーダーの叫びにラインリッヒは答えない。そっと視線を住民達に移す。
貴方達の考えを聞かせて下さいとでも言っているように。
「上等だぁ!やってみろや!」
「あたい達は負けないよっ!」
「あいにく貧乏には慣れてるんだよ!お前達貴族連中と違ってな!」
住民達の返答に、グッと唇を噛みしめるリーダー。
「では・・・最後に・・・貴族マンハッタンをここへ・・・」
ゆっくりと噛みしめるように命令するラインリッヒ。
「グモヌニュモヌウイウウゥゥ!」
猿ぐつわをしながら連れて来られたマンハッタンは、必死に何かを叫ぶ。
「猿ぐつわを外して差し上げなさい」
「はっ!」
「ぷはっ!お前達!ただではすまさんぞ!もう許さん!お前も、アーニャもっ!今日で終わりだ!潰してやるっ!」
目を血走らせて叫ぶマンハッタン。
ラインリッヒは、ゆっくりとマンハッタンに手をかざす。
「拒否権じゃっ!拒否権を発動する!これは正当な権利じゃっ!例え領主であろうと拒否権を発動している者を逮捕する事はできん!これがお前達平民と貴族との差じゃ!埋めることの出来ぬ差じゃ!分かったか平民!がっはっはっ!」
勝ち誇ったマンハッタンは大声で笑う。
しかし・・・
「恐れ入ります、マンハッタン様。私の記憶ではマンハッタン様は議会の領主派と決別し、連立から抜け、反対派にまわったと記憶しております。つまり、拒否権はございません。ですので、そのご要望はお受けできかねます」
「な、なんじゃとっ!そんっ・・」
尚も喚き散らそうとするマンハッタンに、ラインリッヒは魔力を放つ。
直ぐに大人しくなり、ぼーっとする姿に変わる。
「では・・・貴方の一連の計画を教えて下さい」
「・・・ワシの望みはガタリヤの領主になること・・・その為にアーニャが邪魔じゃ・・・ワシはアーニャを領主の座から引きずりおろすべく・・・準備を重ねておった・・・多額の賄賂を聖都や他の街の貴族どもに配り・・・味方を徐々に増やしていった・・・そして気が熟したらアーニャに不信任案を提出して、その座を追いやる・・・その計画の1つがこの星光街を潰して、貴族の別荘地を建設するというものじゃ・・・別荘地に建設する屋敷はガタリヤの貴族の物ではなく・・・聖都や他の街の貴族達が住む為の屋敷・・・簡単に言うとガタリヤを植民地化して他街の貴族どもに富を配り、ワシは見返りにガタリヤの領主となるという事じゃ・・・今度の聖都巡礼で、星光街の治安の悪さを理由にアーニャの責任を問い・・・そしてワシはその解決策・・・別荘地を提案し・・・賄賂を渡した貴族どもがそれを支持する・・・そうしてアーニャは領主の立場から追放され・・・ワシが領主代理になり・・・別荘地が完成したら正式に領主となる算段じゃった・・・その為には鬱陶しいグワンバラが邪魔じゃ・・・どう殺そうかと思案していたワシに朗報が届いた。グワンバラがゴブリン化の容疑で捕まったという知らせじゃ。ワシは直ぐに手駒に殺せと命令を出した。ところがアーニャが邪魔しおった。忌々しいアーニャめ。そこでワシは奴の店にチンピラ共を差し向けある事無い事叫ばせた・・・直ぐに効果は出たものの・・・グワンバラの心を折るには、今一つじゃった・・・なのでワシは直接グワンバラを殺すことにした・・・あとで幾らでも言い逃れは出来よる・・・殺す方法は火を使うことにした・・・どうせならグワンバラを含めた一帯を燃やし尽くして、焼き野原にしてしまったほうが別荘地を建てるには都合が良いと考えたからじゃ・・・しかし何故か失敗した・・・そればかりか住民どもが押し寄せてきよった・・・本当にウザい連中じゃ・・・ただギャアギャア囀る事しかできん・・・しかし注目を集めている以上、下手な手も打てん・・・そこへワンツ(私兵のリーダーの名前)がゴブリン化の女を送り込む計画を提案してきおった・・・ワシは身が震えたぞ・・・素晴らし策じゃ・・・そしてこの事件をきっかけに、グワンバラ連中を全員始末してしまおうと考えここに来たのじゃ・・・」
「では・・・ゴブリン化したのをグワンバラ様のせいにして、処刑しようとしたのも事実ですね?」
「・・・そうじゃ・・・警備兵もワシの言いなりじゃからの・・・誰であれ平民に罪をきせて処分するのはたやすい・・・」
「今まで数多くの女性をさらってきたのも事実ですね?」
「・・・そうじゃ・・・それこそ数えきれんほどの女をさらって犯してきた・・・ゴブリン化した女を屈服させるのは実に興奮するぞい・・・」
「そしてアーニャ様を陥れようとしたのも事実ですね?」
「・・・そうじゃ・・・領主の座から引きずり下ろして・・・いずれ警備が緩くなったら・・・拉致してゴブリン化させるのじゃ・・・アーニャを犯す日が待ち遠しいのぉ・・・ぐひょっひょっひょ・・・」
「ふざけるなぁー人をなんだと思ってるんだあぁ!!」
「アーニャ様は俺たちが守る!!」
「このカスめー!死んじまえぇ!!」
抑えきれない程の、住民の怒号と罵声が響き渡る。
ラインリッヒはふうっと息を吐き
「もういいでしょう」
「ぐもぉ?」
ラインリッヒが魔力を解くと、マンハッタンは素っ頓狂な声を上げるが、直ぐにオエッと地面に膝をつき、ゲホゲホと激しくむせかえっている。
「皆さん!お聞きになりましたでしょうか?!これら全て真実です。この悪行の数々を許す事は出来ません!よって貴族マンハッタンをこれから大広場に輸送ののち、即日死刑に処します!これはアーニャ様のご指示です!」
「な、なんじゃとぉ?!げほっげほっ!ラ、ラインリッヒぃ!貴様ぁ!」
「輸送馬車をここに」
「はっ!」
やってきたのは大きくゴツい真っ黒な馬車。人が20人以上は乗れそうだ。
そこにツカツカと、マンハッタンのもとに歩いていくミール。マンハッタンの首から、赤い宝石を引きちぎる。
「おっとと。これは返してもらいやすぜ?マンハッタン様っ」
「お、お前は?!くそ!グルじゃったのか?!」
マンハッタンは大暴れしながらも、強制的にその馬車に乗せられる。数名の騎士とラインリッヒも一緒に搭乗した。
扉が厳重に閉まり、マンハッタンは叫び出す。
「魔法錠を外せえ!今すぐじゃあ!」
目を血走らせ叫ぶ。
「外して差し上げなさい」
「え?よろしいのでしょうか?」
「構いません。アーニャ様の許可は取ってあります」
「はっ!かしこまりました!」
魔法錠には、魔封石が施されているので魔法が使えない。それを外すと言う事は、誰かと通話が出来るという状態なのだ。
「おのれぇ・・・アーニャめぇ・・・目に物見せてやる」
マンハッタンは早速誰かに通話をかける。
「これはこれはマンハッタン様。いかがいたしましたか?」
「おおっブレーダル卿。突然すまない・・・実は緊急で頼みがあるのじゃ」
「ほおほおっ。わたくしめに頼みですか?」
ブレーダル卿・・・聖都ルーンスワイラルでも、かなりの実力を持っている超大貴族だ。
「実は手違いで今ワシは捕まっておるのじゃ。しかも奴らはワシの首を取ると言う。直ぐにアーニャに圧力をかけて欲しいのじゃ!もうワシは怒った!このままアーニャを、領主の座から引きずり下ろしてやるっ!」
「ふむふむ。なるほどぉ・・・残念ですが今回はお力になれそうにないですな」
「な、なんじゃとっ??」
「今のガタリヤの状況は、逐一報告が入っております。どうやらかなりの住民を敵に回しているようですな」
「じゅ、住民じゃと?ヤツらなぞ、あとでなんとでも出来るのじゃ!ブレーダル卿!時間が無いのじゃ!は、早く・・・」
「マンハッタン様・・・住民を甘くみてはいけません。確かに奴らは、カスでクズの蟻程度の存在です。しかし不満を持っている彼らに圧力をかけて支配しても、良い生産性は生まれないでしょう。その街はどんどんと廃れていくだけでございます。マンハッタン様は戦争の時代のように、武力と恐怖で支配するおつもりですか?時代は変わりゆくもの・・・残念ですがここまででございますね。ご武運を」
「ま、まままっまってくれええぇ~!」
マンハッタンの叫びも虚しく、通話が切れた。
「どうなさいました?マンハッタン様。汗びっしょりですよ?」
ラインリッヒは涼しい顔で尋ねる。
「ぐっ!」
マンハッタンは直ぐに、次の貴族に通話をかけた。
「おお!グワルシュ卿!た、頼む!直ぐにアーニャに圧力をかけてくれえ!頼むぅ!!」
グワルシュ卿・・・準聖都キーンの大貴族だ。
「すみません、マンハッタン様。これから昼食を食べなければならないので、また今度」
目を大きく見開き、フーフーと鼻息を鳴らしながら、直ぐに次の相手に通話をかける。
「ダルムル卿!助けてくれ!頼む!」
ダルムル卿・・・このガタリヤでマンハッタンと並ぶ4大貴族の1人だ。
ここだけの話、領主代理アーニャがマンハッタンを裁く事が出来なかったのは、このダルムル卿が圧力をかけていたからだった。
今の所、ガタリヤ議会でアーニャ派と連立している貴族達。
ガタリヤには4大貴族と呼ばれている存在がいるのだが、その中で唯一反対派に回っているのがマンハッタンだ。
そのマンハッタンの愛弟子のような存在がダルムル卿。
警備局の1件もマンハッタンの頼みを受けて、罪を問うなら反対派に回るぞ、と圧力をかけた為、アーニャは動く事が出来なかったのだった。
しかし・・・
「おお、マンハッタン様。あいにくこれから散歩に出なければいけませんので・・・」
「な、なにを言ってるっ!?!ふざけるなぁあぁぁ!!ワシが死んで1番困るのはお前じゃろがああ!!物資も仕事も全部無くなるぞ!分かっとるのかあぁぁ!」
「はっはっはっ。果たしてそうでしょうか?」
「な、なんじゃと?!」
「先程ブレーダル卿から連絡がございました。今後は、わたくしを窓口としてくださるそうでございます。残念でございましたな」
「な、なんじゃとっ?!き、貴様っ!さては謀ったなっ!?今まで散々目にかけてやった恩を仇で返すつもりかぁぁ!」
「はっはっは。これは異な事をおっしゃる。今まで散々振り回されてきたコッチの身にもなってほしいですなぁ。はっはっは。ではご機嫌よう」
「おのれぇえぇぇ!!」
マンハッタンは地面を叩きながら悔しがる。
しばらくして・・・馬車が止まる・・・どうやら目的地に到着したようだ。
「ではマンハッタン様、どうぞこちらへ」
ギイッと馬車の扉が開き、兵士が整列しているのが見える。
「さ、最後に・・・あ、あ、アーニャ・・・様とお話をしたい・・・」
「ふむ。アーニャ様とでございますか・・・お出になってくださればよいですな・・・」
マンハッタンは震える手を頭にかざし、通話魔力を込める。
ピーン・・・ピーン・・・ピ―ン・・・・
呼び出し音が頭に鳴り響く・・・しかし応答はない・・・
マンハッタンには、この呼び出し音が永遠に鳴り響くような感覚に襲われる。
「はい。アーニャです」
「!」
唐突に通話が繋がる。マンハッタンは驚きのあまりガクッと膝をおり、呆然としてしまうが、直ぐに大きな声でめいいっぱい声を出す。
「あああ、アーニャ様っ!わ、ワシが悪かった!頼む!許してくれっ!」
マンハッタンは目をつぶり土下座をして情けを乞う。しかし、どれだけ待ってもアーニャの返答は無い。
マンハッタンがゆっくりと顔を上げると・・・目の前には厳しい表情を浮かべるアーニャが立っていた。
「なっ?!あ、アーニャ!いや、アーニャ様!来ておった・・・いや、お越しになっていたとは・・・このマンハッタン、心を入れ替えガタリヤの為に尽くす所存でございます!何卒!何卒お許しを!アーニャ様!」
馬車から降り、アーニャの足下で、土下座をするマンハッタン。
しかしアーニャは低い声で
「それはわたくしが決める事ではありません」
それだけ言うと処刑台・・・ロープが輪っか状に垂れ下がった、首吊り台の方向に歩いて行く。
処刑台は少し高台になっている所に設置されており、広場中から見えるようになっていた。
周りには大勢の住民が押し寄せ、怒号と罵声が鳴り止む事はない。
マンハッタンは両腕を騎士に抱えられながら、処刑台に連行されていく。
この頃になるとマンハッタン自身も、本当に自分は殺されるのでは?と、ようやくながら実感し始める。
馬車から降りて、アーニャの足下で土下座している時でさえも、心の片隅では『ほれ、ワシの土下座が見たかったんじゃろ?見せてやるわい!これで許されるなら安いもんじゃ!』とか『ほれほれ!土下座している相手にお前は強く出れまい!温室育ちの小娘めっ!ワシとは格が違うのじゃ!』とか『これを乗り切ったら必ず仕返ししてやるっ!今度は直接聖女に取り入ってやる!見ておれ!ワシをバカにした奴ら全員を皆殺しにしてやるっ!』とかを考えていたのだから・・・
しかし処刑台が目の前に迫ってくる・・・
周りには大勢の群衆が罵倒を浴びせてくる。
そして・・・
整列している者全員が、自分を冷たい目で睨んでいる。
「あ・・・ああああっ・・・あああああ!!!」
迫り来る現実にマンハッタンは手を振りほどこうと暴れるが、屈強な騎士の相手になるはずもなく、処刑台の目の前まで連れて来られてしまった。
「い、嫌だああ!!嫌じゃあああ!」
叫ぶマンハッタンだったが、強引に地面に跪かされた。
アーニャが厳しい表情でマンハッタンの前に立つ。
シーンとする広場。
これだけの群衆がいるのにも関わらず、見事に沈黙が支配していた。
「あ、あ・・・・アーニャ・・・様・・・アーニャ様!わ、ワシが・・・ワシが悪かった!に、2度と・・・絶対にこのような事はせん!い、いや・・・貴族の称号も返上する!財産も全て捧げる!だから・・・だから頼む!許してくれっ!殺さないでくれ!頼むぅぅ!」
処刑台周辺には拡声魔石が設置してあるようで、静寂を破ってマンハッタンの声が広場中に響き渡る。
マンハッタンが生まれてきてから初めて流す、許しを請う涙。
『今まで散々他人が流すのを見てきたが、まさか自分が流すことになるとは・・・おのれ、アーニャめ!』とは流石にこの時点では思っておらず、流している涙は本物のようだ。
マンハッタンに向き合っていたアーニャは、住民達の方に向き直り
「・・・と、マンハッタンは申しておりますが、皆様はいかがいたしますか?」
一瞬の沈黙の後、住民達の怒号が響き渡る。
「ふざけるなぁー!」
「お前はそうやって泣き叫ぶ人達を容赦無く殺して来ただろお!」
「俺の娘を返せえ!」
「絶対に許さあん!死んで詫びろお!」
上げればキリが無い程、数多くの罵声が住民から上がる。
その罵声の数々を、マンハッタンは涙、鼻水、ヨダレまみれになった絶望の表情で受け止めていた。
「判決は出ました。マンハッタンを死刑に処します。初めてください」
「はっ!」
騎士たちは身体中震えが止まらないマンハッタンを、強引に台の上に連れて行く。
「や、やめてくれぇー!助けてくれぇー!」
マンハッタンの必死の叫びも、群衆の声にかき消されてしまう。
「ねぇ、ミール。このまま殺しちゃっていいのかな?」
リリフが尋ねてくる。
ミールやリリフ達、そしてグワンバラ夫妻は騎士達に連れられて、広場のかなり前の方に案内されていた。
もし、今回の集まりが何かの式典だった場合、完全に貴族や来賓が座るような位置なので、かなりのVIP待遇だ。
「あら?リリフはマンハッタンにまで、情けをかけるのですか?」
「ううん。流石の私もそこまでは思わないわ。むしろ逆で、もっと自白魔法をかけて沢山罪を暴いた方がいいんじゃないかと思ってさ。どうせならマンハッタン以外の貴族も捕まえちゃえばいいのにって」
「確かにリリフの言う通りだ。でも領主代理はマンハッタンのみを裁きたいんだろうね」
「え~。それはどーして?」
「リリフは貴族がどんな仕事をしているのか知ってるか?」
「えっと・・・偉そうにしてる?」
「はははっ。まあそれも仕事のようなものかもしれないけど・・・貴族はそれぞれ担当地区を持っていてその統治を任されているんだ。そして大きく違うのがそれぞれ一定数の兵力、私兵を保持している事。ガタリヤの占める兵力の約半数くらいは貴族達の私兵なのさ。そして有事の際は、率先してガタリヤの為に、戦場で戦うのが貴族の1番の仕事だね。だから単純に貴族連中を全員粛正したらガタリヤの兵力は半減してしまう。まあ、それだけなら今はあまり戦争が起らない時代だから、大丈夫かもしれないけど・・・ガタリヤは特に正規の兵士が少ない街だからね。もし他の貴族も粛正しようとして、反発され反乱を起こされたら、鎮圧出来ない可能性もある。粛正が上手くいったとしても、街自体の生活が行き届かない所が多く出てくるだろう。だから領主代理はマンハッタン1人だけにしたいのさ。そもそも貴族を裁く事なんて、今まで前例が無い大事件だ。今後なにが起るか分からない。今回はなるべく傷口を小さくしたいって事で、マンハッタンが余計な事を言わないうちに、サッサと始末しようとしてるって事だね」
「そっかぁ。なんか臭い物に蓋をしてるみたいで嫌だなぁ・・・」
「でもそれが政治って事ですわよね?ミール様」
「そうだね。流石に、あの年齢で領主代理を任されているだけの事はあって、したたかな面も持ち合わせているよ。捕縛から罪を暴くまでの様子、全てを街中に流すなんてな。あれじゃあどんな貴族でも割って入る事は出来ないだろう。ただ住民の声を聞くだけじゃ上手く行かない。貴族の話ばかりでも上手く行かない。ちょうど良いバランスをとっている領主代理にとっては、今回の件は絶好のチャンスだったんじゃないかな?上手く俺たちの事を利用して、領主反対派のリーダーを始末出来たし、貴族を粛清した事実は、他貴族達にとって強力な抑止力となるだろう。更に住民達にも熱烈な支持を取ることが出来た。当分領主の座は安泰かもな」
「ええ~。アーニャ様に限ってそんな事・・・・」
リリフの反論を遮り、いつの間に近くに来ていたのかラインリッヒが口を開く。
「正にその通りです。形はどうあれ、皆様を利用した事に変わりはありません」
「そ、そんな・・・ラインリッヒ様・・・」
「・・・事前にマンハッタンが何やら動いている情報が入ってきておりました。そして今日は直々にマンハッタンが動くと・・・そこでアーニャ様はわたくしを派遣されました。マンハッタンを裁くために」
「リリフ、確かに利用はされたが・・・別に悪い事じゃない。むしろ寸前で助かったのはそのお陰だからな。リリフも、リューイとブルニがPTに入り、背負う者が出来た。領主代理となれば、もっと沢山の背負う者があるだろう。したたかさも必要なのさ。皆を守る為にも」
「・・・そうだよね・・・うん。私もPTのみんなを守る為に色々考えるものっ。きっとアーニャ様は凄いプレッシャーなんだろうなぁ。凄い方だわ・・・」
そんな会話をしている時も、着実にマンハッタンは首吊り台の中心部へと進んでいた。
「嫌じゃあああ!嫌じゃあああ!」
泣きわめき、必死に抵抗する・・・が、遂にマンハッタンの首にロープがかけられた。
ロープが首に掛かると、マンハッタンの絶望の表情はより一層濃くなり、抵抗も激しくなる。
騎士達はマンハッタンの両腕を後ろに回し、固定する。手でロープを外さないようにするためだ。
猿ぐつわもされる。最後に余計な事を喋らせない為だ。
そして念入りに首にロープを固定した。どんなに暴れても逆に締め付けが強くなる感じで逃げる事は出来そうに無い。
マンハッタンの顔に目隠しがかけられる。視界が奪われると人間というのは自然と静かになるからだ。
台の上に立たされたマンハッタンは、真っ暗な世界でプルプルと全身を震えさせている。
静かにアーニャの手が上がる。
一気にシーンと静まり返る広場。
マンハッタンは、なんとかロープを外そうとグリグリ動いているが、全く効果が出ていない。
アーニャの手が静かに振り下ろされた。
バタンッ
マンハッタンの立っていた台が外され、宙づりになる。
食い込むロープ。バタバタと空中で、もがくマンハッタン。
しかし、直ぐに静かになり動かなくなる。
・・・・・・・
静寂が広場にこだまする。
誰しもが、やけにあっさりと死んだなと思った瞬間、またマンハッタンはバタバタと動き出した。
なんとかロープを外そうと試みる。
さっきよりも一層激しく・・・が、それも3秒ほど。また動きを止め、今度は2度と動き出すことはなかった。
マンハッタンの思考では、直ぐに動きを止めて死んだふりをすれば、ロープから下ろしてくれるかと思ったようだ。
ロープから下ろされるまで死んだふりをしようと・・・
しかし首の血管を圧迫されると、思いのほか早く意識を無くすものだ。
マンハッタンも自分の限界が思っていたよりもずっと早く訪れたので、もう我慢できないって感じで最後の悪あがきをしたのが先程の『直ぐに動きを止めて、また動き出した』の解説となる。
マンハッタンの亡骸が、ゆっくりゆっくりと地上に降りてくる。兵士が駆け寄り確認する。
アーニャに向かって頷く兵士。
「皆様、ここに悪行の数々に手を染めた、貴族マンハッタンは死にました。貴族を粛正する・・・これがどんなに恐ろしい事なのか、私達は知らないだけなのかもしれません。悪行に手を染めていたとはいえ、マンハッタンは実力者です。彼の力で多くの公共事業や物資が、このガタリヤに入ってきていたのも事実です。それが無くなるという事が、どれ程の損失になるのか・・・今のわたくしには分かりません。もしかしたら皆様はお腹いっぱいに食べられなくなるかもしれません。気軽に服や魔法具を買うことが出来なくなるかもしれません。もしかしたら・・・わたくしも領主の任を辞する事になるかもしれません・・・」
シーンと静まり返る広場。しかしよく耳を澄ませると
「いやよ・・・アーニャ様・・・辞めないで・・・」
「アーニャ様・・・何処までもついていきます・・・」
といった声が、シクシクと泣く声に混じって微かに聞こえてくる。
「しかし皆様。それを怖がっていても何も変わりません。私は変えたいのです。生まれた時から、迫害する側と、される側が決まっている現状を。もちろん成長していく過程で有利な立場に変わる事もあるでしょう。しかし、それを理由に他者を虐げる事はあってはならないのです。ですがこの世界は何処に行っても、差別が当たり前のように存在します。この仕組みを変えなければなりません。無理だ、不可能だと言われてきた事を私達で変えようではありませんか。まずこのガタリヤから、始めてみようではありませんか。厳しい現実を突きつけられる時が来るかもしれません。諦めそうになるかもしれません。でも私はやってみたい。どうかこの不出来な私に力を、皆様の力をお貸しください。どうか宜しくお願い致します」
アーニャは、とても透き通った声で訴えかけ、深く頭を下げた。
住民達はアーニャの、その言葉に間髪入れずに呼応する。
「あったり前だぜ!アーニャ様!」
「私達はずっとついていきます!」
「負けないでー!」
「好きだぁ~!」
「このガタリヤから変えるぞぉ!」
「アーニャ様!万歳!」
アーニャは喝采を上げる住民達に、再度深々とお辞儀をして、壇上から降りていく。
アーニャの前に馬車が横付けされ、騎士が扉を開けた。
乗り込もうとしたアーニャだったが、リリフ達に気付き軽く会釈をする。
「アーニャ様ぁ!ありがとぉ!」
リリフがアーニャに手を振る。
アーニャは微笑みながら答え・・・一瞬驚きの表情・・・もしくは興奮したような表情を見せた。
アーニャの頬が高揚しているようにも見えたが、それも一瞬の事・・・アーニャは馬車に乗り込み広場を後にする。
「なんかミールをみて、顔を赤らめてなかった?アーニャ様」
リリフがぼそっと呟く。
「そうでしたか?!でもミール様と面識は無いんですわよね??」
「ああ、直接話したことはないな・・・」
ミールの様子が何処かたどたどしい。
「ギルド長からミールの存在は聞いているんだよね?その時に魔法絵(写真)でも見たのかなぁ?」
「う・・・」
「そういえばミール様。アーニャ様からお願いとかされませんでしたか?わたくし達が警備局でアーニャ様に助けられた時、嬉しそうに仰っておりましたもの。これで直接お会いできますわっ・・・て」
「・・・」
黙り込むミールの様子に鈍感なリリフもピーンときたようだ。
「あるんだ?・・・会ったことあるんだ!ミール!」
「怪しいですわっ!ミール様が怪しいですわっ!」
「・・・浮気発覚・・・」
「ぶ、ブルニも浮気は駄目だと思いますっ」
「いやっ、ちょっと待てって!俺はアレだぞ。ただ魔法絵が欲しいと言っているってギルド長から聞いたから撮ってもらっただけで、あとのことは知らんぞ!ギルド長が全部やってくれたからな。断じて会ってないっ」
「なるほど・・・ようやく今、合点がいきました。そういう事だったのですね」
なにやら1人で納得するラインリッヒ君。
「え?え?どういう事でしょうか?ラインリッヒ様」
真っ直ぐな性格のリリフは、躊躇なくラインリッヒに質問をぶつける。
「あ、いや・・・失礼。そんな、たいした事ではないので・・・」
「え?え?やだっ!絶対になんかある!絶対に隠してるっ!」
「こら、リリフ。敬語を使わないとダメですわよ。ラインリッヒ様は、とても身分の高いお方なのですから。けれどラインリッヒ様、先程アーニャ様は平等な世界を望まれていましたわ。喋れないのは、わたくし達が平民だからでしょうか?だとしたらアーニャ様に告げ口しなくてわっ」
「ええっ?!い、いや。そういう訳ではないんです。ホントに。ちょっと、わたくしにグワンバラ様のもとに行くように命令をした際に、一言、意味が分からなかった言葉がありまして。それの意味が今、分かったという事で・・・」
「ふむふむ。それで?それで?」
いやいや、セリー、あなたも完全にタメ口だ。
「その・・・もしかしたらアーニャ様のプライベートに関する事かもしれないので・・・」
「アーニャ様のプライベート!それは大変興味が湧きますわっ!」
「知りたーい!ナニナニ!?教えて!ラインリッヒ様っ!」
「・・・私も興味ある・・・」
「ぶ、ブルニも知りたいですっ!」
女の子4人がラインリッヒに詰め寄る。
リリフ達はかなりの美女、美少女だ。その子達に思いっきり密着されているので、ラインリッヒもタジタジになっている。
いつもラインリッヒの側で警護している近衛兵も、美女達の圧力に押され、見守る事しか出来ていない。
「ほ、ホントに大したことないのですよぉ・・・」
「それは聞いてみて決めるわっ!いいからお話になって!ラインリッヒ様っ」
「はやくはやくっ」
「・・・はやく言わないと変な噂が流れるよ?・・・」
「ぐむ・・・くれぐれも内密で・・・お願いしますね?」
「もちろんっ!」
「えっと・・・アーニャ様がグワンバラ様のもとに行くように命じた時に、『女の子達と一緒に男性も1人いるはずだから、少し気に留めておいてください』と仰りました。その言い方が、まるで恋をする乙女のように見えたものですから・・・何だろなって思っていたのです。まさかアーニャ様が恋をするはずないと自分は思っていたので。あ、いや。偏見ではなく・・・アーニャ様は本当に多忙でして、そんな平民と繋がりを持つ機会など無いですし。ましてや恋などは到底する暇がないと・・・しかし、先程アーニャ様の表情をみて確信致しました。これは完全に恋をしてらっしゃると。それで合点がいったという訳です・・・はい」
「ぐおおぉぉ。嫌な予感が的中しちゃったよぉぉ」
「これは・・・なんというか・・・燃えますわねっ!」
「・・・強敵出現・・・」
「えっとぉ?どういう事ですか?お姉様っ?」
「つまりね、ブルニちゃん。ミールお兄ちゃんはアーニャ様までたぶらかす、ヤリ○ン野郎って事なのですわよ」
「や、ヤリ・・チ・・・」
「ちょっ!待て待て。俺はなんも知らんぞ!だいたい話した事もないんだぜ?思い過ごしだろ?!」
「アーニャ様は、ずっと政治の世界に身を捧げてきたから、ラインリッヒ様が仰ったように恋なんてする暇がないほど忙しいんだと思う。でも、1人の年頃の女の子って事は変わらないわっ。きっとギルド長からミールの事を聞いて、最初は憧れのような感情が、間接的に私達とも関わって、段々と興味に変わっていき、そして気づけば恋に落ちていた。絶対にそうよ!きゃー!アーニャ様かわいいっ!」
「はあぁん。アーニャ様の中では、どんどんミール様の存在が美化されている事でしょう。初恋ですものね。無理もありませんわ」
「・・・恋は盲目・・・落ちた方が負け・・・」
「こりゃ下手にミールと会わせる訳にはいかなくなったね。実際会ったら幻滅されるだろうさ。見境無しに女の子達を食い物にする、テキトー冒険者だからねぇ」
グワンバラまでアーニャの恋バナに参戦してしまい、大盛り上がりのリリフ達。
この広場は前例のない貴族の粛正という出来事、そしてアーニャの演説に感化された人々の、今後のガタリヤの将来に対する希望や期待が溢れており、アーニャが去った後でも盛り上がっている。
しかしリリフ達の一画は、別の意味で異様に盛り上がっているのであった。
続く




