ガタリヤ奮闘記⑱
「よし。俺から言えるのはこれくらいだな。あとは皆んなで話し合ってシュミレーションして、頭に叩き込んでいこう。明日からが本格的な冒険者のスタートだ。おめでとう」
「そうね!楽しみ!」
「気を引き締めていきましょうですわっ!」
「ブルニも頑張りますっ」
「僕ももっと周りが見えるように努力します」
「ああ。お前達なら大丈夫だ。ただし、再度これだけは約束してくれ。1つは森には入らない事。もう1つは必ず強敵モンスターの出現情報を確認する事。守ってくれよな」
『はいっ!』
⇨ガタリヤ奮闘記⑱
「あっ、どもども~。いつもご苦労さまです~」
「頑張ってくださいませ」
リリフ達はバウンドウルフをブレーメン商会に高値で買い取ってもらい、ご機嫌だ。
相変わらず店の前で嫌がらせをしているチンピラ共に余裕の挨拶を交わす。
だいぶ心に余裕が出来てきたみたいだ。
「ちっ」
そんなリリフ達の対応を苦々しい顔で睨むチンピラ共。
「調子に乗ってんのも今のうちだからな!後悔する事になるぜ!」
チンピラの1人が吐き捨てた言葉が、妙に引っかかるリリフだった・・・
食堂に入ると今日は結構、人が入っていた。
まあ、入っているといっても6~7人くらいだったが・・・いつも1~2人だったので見違えるようだ。
「ったく。またあんた達のシケた面を見る羽目になるとはね」
「がっはっは。グワンバラちゃんっ。こちとらわざわざマズイ飯を食べに来てやってんだ。お礼の1つでも言えんのか」
「なに言ってんだい。すっとこどっこい。チンピラ共に絡まれても知らないよ」
グワンバラと常連客は、お互いに悪態をついているが、どちらも楽しそうだ。
「じゃあ早速話し合いを始めましょ。まずは囲まれた場合の対応だけど・・・」
リリフ達は色々と意見を出し合い、明日の準備を進める。
久しぶりに穏やかな雰囲気で包まれる宿屋に、唐突にそれは起った。
時間は午前4時過ぎ・・・殆どの人が寝静まった、静寂が支配する星光街の一角。
リリフはパチっと目を覚まし、ムクっと起き上がる。
冬が近く、朝は寒いガタリヤなのでブルっと身震い。
まずはトイレに行こうと暖かい布団に別れを告げる。
通路側には、リューイとブルニが仲良く寝ているので、起こさないようにそっと歩く。
「・・・むにゃむにゃ・・・」
ブルニの幸せそうな寝顔に、思わず胸キュンしてしまう。
ほんの少し前までは、モンスターに襲われるのを覚悟しながら寝ないといけない状況に身を置いていたとは・・・
それがどんなにつらいことか、リリフは想像するだけで胸が締め付けられる思いだ。
『本当に良かった・・・』
リリフは心の中で呟くとトイレを済ませる。体温を尿に奪われて少し身震い。
「さ・て・と。今日も頑張りますか」
リリフは冷えた空気に対抗するように気合いを入れて、服を脱ぎ捨てた。
そしてスポブラを付けて、Tシャツ、短パンに身を包む。
実はリリフはここ最近、朝のランニングを日課としていた。
ミールから体力不足を指摘されてから、2〜3日置きくらいでチョコチョコと頑張っていたのだったが、やはりリューイとブルニが加入する事になって、一気にやる気がみなぎってきてる感じだ。
責任感が増してきたと言うべきなのかもしれない。
なので、最近は毎日、南門から中央広場にかけて走り込んでいる。
そして、30分近くしっかりと走り込み、シャワーを浴びてから再び眠りに付くのだ。
心地良い疲労感も手伝って、結構この二度寝がお気に入りになっていたりする。
影で努力してるのが恥ずかしいのか、皆んなには内緒で行っているのはリリフらしいといっちゃリリフらしいが。
着替えを終わらせ、幸せそうに眠るブルニ達を起こさないように、そ〜っと忍び足で扉に進む。
そしてドアノブを回転させ、少しだけ扉が開いた瞬間・・・
パチ・・・パチ・・・・・パチ・・・
???
なにかの物音が微かに聞こえる。
「!」
リリフの鼻は、焦げ臭い匂いを僅かに感じとった。その瞬間、脳裏にチンピラ共の顔が頭に浮かんでくる。
「火事よっ!みんな起きて!火事よ!」
バタンっと大きく扉を開き、躊躇なく大声で叫ぶリリフ。
「ふえ?」
「・・・にゅう・・・」
まだ寝ぼけているセリーやルクリアを、ブンブンと強引に引っ張り強制的に目覚めさせる。
「火事よ!!火事ぃー!みんな起きてぇぇ!」
リリフは部屋を出て、廊下で大声で叫びまくる。
「おじょ・・・リリフ!火事ですの?!」
「・・・どこ?・・・」
「わかんない!今見に行ってくるわ!とにかく外に逃げて!」
「リリフ!火事か?!」
ミールも急いで階段を降りてくる。
「たぶん!外だと思う!」
「わかった!お前は部屋に残っている者がいないか見回ってくれ!俺は外を見てくるっ」
一気にバタバタと、足音や人々の声が宿屋内にひしめきあう。
幸い、今は嫌がらせの影響で宿屋に宿泊している者は少ない。
「お母さんっ!早く逃げて!」
「火事かい?!どこからだい!」
「多分外!今ミールが見に行ったわ!」
「あいよ!あんた!水を用意しておくれっ!」
ミールが外に出る。
宿屋内とは対照的に、未だ静寂が多く残る道路。人通りも全くない。
しかし確かに微かな音が聞こえる。
「裏か?!」
ここら辺の地区は、星光街の中でも特に建物が密集している地域だ。
裏に回るのも、家と家の僅かな隙間の中を進んで行かなければならず、ほぼ真っ暗だった。
ミールはクルッピに照らしてもらいながら奥へと突き進む。
丁度宿屋に併設されている食堂の裏手、厨房がある辺りで1メートルほどの炎が、ゆらゆらと上がっていた。
ミールはマジックポケットから厚手の布を取り出して、ゆらゆらと燃え上がる炎を包み込むように被せる。
直ぐに布から白い煙が立ち上った。
通常であれば、厚手の布が空気を遮断するので鎮火できるはずなのだが・・・
なにか特殊な素材を使用しているのか、火は中々鎮静化しなかった。
いや、むしろ、徐々に厚手の布自体を燃やし始める。
ミールは追加でマジックポケットからポリタンクを取り出して、布に水をかけた。
そして直ぐさま、冷気属性の魔法を発動する。
水で布を濡らして、そこに冷気を注入。氷で炎を閉じ込める作戦だったが・・・
残念ながら、今現在ミールが使う冷気属性の魔法はスキルの影響で低レベルな極小さな冷気を纏わすのみなので、中々上手くいかなかった。
パチパチと水が蒸発する音が聞こえ、布から大量の白い煙が湧き上がってくる。油を使っているようで水を激しく拒絶する。
ミールは根気よく、布に水をかけながら冷気を込めた。
すると、次第に氷の部分が大きくなっていき、それと同時に一気に酸素を無くした炎は、急速に勢いを弱めていく。
炎はあっという間にプスプスと沈静化し、跡には白い煙と黒焦げの固形物が残った。
ふ~っと額の汗を拭うミール。
そこに遅れてグワンバラと旦那さん、そしてリリフ達が水の入ったバケツを持って駆けつけてきた。
「ミールっ!はあはあ、火は消せたかい?!」
「ああ、ほぼ沈静化出来たよ・・・ちょっと壁が炭になっちゃったけどな」
「よかったぁ・・・お部屋にいた人は、みんな外に避難できたわ。消火できたって知らせてこなきゃっ」
「火が出た場所が幸いしたな。ここは厨房の真裏だから、壁が防火耐性で出来ているんだ」
とグワンバラの旦那さん。
「対応が早かったのも良かったよ。リリフさまさまだな。よく気付いたもんだ」
「ふ~。やれやれだよ、ほんとに。で?・・・放火かい?」
ミールは無言で火の元となっていた場所を見せる。
「なんだい?この塊は?」
「匂いを嗅いでみな、グワンバラ」
グワンバラはいぶかしげな顔をしながら顔を近づける。
「おえっ。油の塊かい?これは」
「俺も詳しくはないが・・・そういう感じだろうな。ゆっくりと、長く燃える感じだろうよ。とりあえず確かなのは・・・」
「誰かが意図的に置いたって事ですわね」
「そういう事だな」
段々と朝日も昇ってきて明るくなってきた。
それに伴い騒ぎを聞きつけて、周りに住んでいる住民達が発火現場に集まり出す。
「ふざけんなっ!マンハッタンの野郎っ!許せねえぇ」
「俺たちまとめて辺り一帯を焼き払うつもりか?!」
「俺はもう我慢できねぇぞ!」
「グワンバラちゃんは俺たちが守る!」
「やってやろうぜ!みんな!」
「おおー!」
「ちょ、ちょと待ちな!あんた達!」
「グワンバラ!今までなにも出来ずにすまねぇ!だがもう俺たちは逃げねえ!これはあんただけの問題じゃねえんだ!星光街全体の問題だ!」
「そうだ!このままじゃ本当に貴族の別荘地になっちまうぜ!そしたら俺たちは何処に住めばいいんだ?!」
「ここは俺たちの街だ!貴族なんかに好き勝手させてたまるか!」
「おおーーーー!!」
大盛り上がりの星光街の住民達。このままだと、本当にマンハッタンの屋敷に殴り込みしそうな勢いだ。
「あんた達!暴力は駄目だよ!暴力なんてしたら、それこそマンハッタンの思う壺さね!」
「でもよっ!先に手を出して来たのはアイツらだぜ!」
「それでもだよ!奴らの卑劣さはみんな知ってるだろ!潰されるのはこっちだよ!」
「それじゃあどうするんだよ!」
「やり返してやろうぜ!今まで散々ギャアギャア言ってきたんだ!こっちも叫き散らしてやろうぜ!」
「なるほどな!それで行こうぜ!」
まだ早朝だというのに、気付けば宿屋前には、かなりの人数が集まっていた。
この人数はそのままグワンバラの人望の厚さを物語っている。
「全く・・・こうなったら手に負えないね。本当に馬鹿な連中だよ。あたいなんか見捨てればいいのにさ・・・」
グワンバラは悪態をついているが、なんとなく嬉しそう。
「ところでリリフ姉様っ。その格好。何処かへお出かけするんですかぁ?」
「ふえっ?!べべべ別にどこも行かないわよっ。あはははは」
「???」
アワアワしているリリフの背中からグワンバラの大声が飛ぶ。
「さあさあ。アンタ達もフィールド出るんだろ?しっかり食べておいきっ!」
ノッシノッシと足取り軽く食堂に入っていくグワンバラであった。
この日を境に明らかに住民達の態度が変わった。
マンハッタンの屋敷前には、かなりの大規模な抗議活動が行われ、その数は10万人を超えるのではないかと思うほど、広場や道路に人が溢れている。
星光街の住民達だけではなく、他の地区の住民も集まっているようで、抗議内容も様々だ。
常日頃からマンハッタンが行ってきた悪政に、一気に不満爆発したような感じに見える。
ガタリヤ政府も大がかりな警備を行い、マンハッタンの屋敷前にはバリケードが張られ、その前をフル装備の騎士達が一列に並び、住民達を威圧している。
しかし見方によっては、住民達が間違って暴動を起こさないようにする為に、敢えて威圧的なパフォーマンスをしているようにも見えてしまう。
その証拠に、抗議活動をしている住民達を鎮圧しようとしたり、取り締まろうという動きは一切見せてない。
熱に浮かされバリケードを越えてくる住民も何人かいるのだが、決して暴力で追い返したり、捕縛しようとはせず、宥めて元の場所に戻してもいる。
明らかに領主代理からの指示が出ていると思われる感じだった。
その流れは宿屋前にも波及しており、いつものチンピラ共が来るのだが、今回はあっという間に大勢の住民達に取り囲まれてしまう。
「なんだ!てめえら!痛い目に遭いたいのか?!」
「それはこっちの台詞だっボケ!いい加減な事ばかり言いやがって!」
「そうだっ!そうだっ!暴力反対!!」
「暴力反対!嘘つきは帰れ!暴力反対!」
チンピラ4人に対して住民達50人ほど。暴力反対!嘘つきは帰れ!と大合唱する。
当然警備局も、この騒動で出動しているのだが、明らかにどうする事も出来ないといった感じだった。
チンピラ共を囲むように、とりあえず立って、せめて乱闘が起らないようにする対応をとっている。
もしかしたら、この警備局の連中はマンハッタンの息がかかっている者達なのかもしれない。いや、多分かかっている。
チンピラ共が警備局の連中を見た瞬間、頼むぜって感じで目配せをしていたからだ。
しかし警備兵は視線を逸らし、ただ囲む事しかしていない。
チンピラ共は、話が違うじゃねーかっと小声で抗議するのだが、警備兵達は聞こえないフリを続けている。
チンピラ共には分からないかもしれないが、先に手を出したら逮捕して解決・・・もはやそういった単純な事件では無くなっているのだ。
ここで強引に住民達を逮捕したらどうなるか?
今はマンハッタンの不満が最高潮に高まっている時だ。
当然領主代理も、他の貴族もこの状況を注視している。
下手に強引な手を使ったら警備局自体が解体されかねない。
いつもの強権をふるえない、マンハッタンの力が弱まっているのは事実だった。
しかし、明らかに犯罪に関わっているマンハッタンを逮捕する事も出来ていない。
そういった根深い力関係があるのもまた事実だった。
リリフ達がフィールドから帰ってくる。
毎日毎日、有る事無い事騒ぎまくっていたチンピラ達の姿が無いだけで、まるで違う場所のように感じた。
住民の大多数は抗議活動に出向いているようで、普段人通りが多いこの場所も閑散としている。
しかし有志の人達と思われる方々が、念の為、見張りをしてくれているのが嬉しい。
「ねえねえ、ちょっとだけ広場に行ってみない?どんな感じか見てみたいわ」
「まあっ、野次馬根性丸出しですわねっ」
「だってぇ~。そもそも私達が騒ぎの原因にも多少はなってるしさぁ・・・無関係じゃないし・・・頑張ってる皆さんを応援したいんだもん」
「ブルニは賛成ですっ。リリフ姉様達を悪く言わないでって叫びたいですっ!」
「僕も構いません。人間種の方の・・・しかも貴族を相手に抗議出来るとは思ってもみなかったので。経験してみたいです」
「ふ~。ま、しょうがないですわねっ。ですが目立つ行動は禁物ですわよ?リリフが言ったように、今回の騒動に深く関わっているのがわたくし達です。もし、わたくし達も参加していると知れたら、抗議活動の旗印として祭り上げられてしまう可能性もございます。それは危険ですわ。あくまでも端っこから、静かに見守る事と致しましょう」
「そっか・・・そうよね。あ~ん。ごめんなさい。全然そこまで考えてなかったわ。わかったっ!それじゃあちょっとだけ覗いてみて、直ぐに帰ってこよっ!」
「はいっ、リリフ姉様っ!」
そうして広場へと向かって歩いていると、偶然ミールが向こうから歩いてくる。
「あれっ!ミール!どうしたの??」
「あん?リリフ達こそどうした?どっか行くのか?」
「うんっ、ちょっとだけ広場を覗いてみてみようかなって」
「そっか。俺は魔石屋巡りしてたんだけど、あんまり良いのはなかったなー」
「そーなんだぁ。ねえねえ、ミールも一緒に行こ?」
「良いけど・・・あんまり目立つのは良くないぜ?」
「うんうん!さっきセリーにも言われたっ。だから端っこで静かに眺めるだけにするつもりっ」
「ほぉ。流石セリーだな。おっけ。行こうか」
「うっふっふぅぅ!ミール様に褒められてしまいましたわっ!これはご褒美を頂ける流れですわよねっ?!さあっさあっミール様!ぶちゅ~♡」
思いっきり唇を突き出すセリー。
「ちょっ!セリー!公衆の面前ではしたないわっ!やめなさい!」
「ブルニもチューしたいですっ!」
「ブルニ、オチツケ」
「あの・・・目立たないように・・・な?・・・」
なんとかセリーをなだめながら、広場に到着した一行。
今まで見たことがない程の群衆に圧倒される。
「す、凄い人ねっ」
「想像以上ですわっ」
「ブルニ、兄ちゃんの手を離すなよ」
「うんっ、お兄ちゃん」
ハチマキをしている人、プラカードを掲げている人、拡声魔石を使い音頭をとる人、それに併せて大声で抗議の声を上げる人々。
かなり大規模な抗議活動になっており、人々の声や熱気は収まる気配が全く無い。
「ひゃ~。これって何処まで続いてるの??」
「北側にある星竜街のマンハッタンの屋敷まで続いているらしいぜ。あそこは貴族や富裕層が暮らす、普段閑静な住宅街だからな。星竜街の住民からも相当不満の声が出ているらしいぜ、うるさいってな」
「あははっ、いい気味。そうやってドンドンと居場所が無くなればいいんだわっ」
「リリフねーさまの悪口を言うなぁー!セリーねーさまの悪口を言うなぁー!!」
「きゃー!ブルニ可愛いっ!」
「萌えですわっ!萌え萌えキュンですわっ!」
「えへへっ」
「やはり中央広場だけあって、周りは立派な建物が多いのですね」
「そうだな。中央区画は領主の屋敷だったり、魔法省の本部があったり、重要施設が集まっているからな」
「そーなんだぁ。じゃあ、この黒塗りの立派な建物もそうなんだよね?この周辺じゃ1番デカいわ」
「これは魔法省の本部だね。どの街も魔法省は、かなりの権力をもっているから安易に近づかない事だな。」
「そうなんですわね・・・省庁は役場のような公共の施設かと思っていましたが・・・気軽に入れる訳ではないのですわね?」
「いや、入れる事は入れるぞ。ただ奴らはエリート意識が高いからな。俺たちみたいな底辺冒険者が足を踏み入れようものなら、イチャモンを付けられ追い出されるって感じかな」
「ぶぅ~」
「ミール様ぁ。なんか向かいに建っている、白い建物もそうなんですかぁ?魔法省とは対照的な感じに見えますぅ」
「ああ、あれは教会だね。魔法省と同じで、かなりの権力を持ってるけど、こっちは比較的誰でも気軽に入れるぞ。まあ、魔法省との連中とは犬猿の仲って事と、宗教の勧誘が多いのが注意点かな」
「へえぇぇっ。魔法省と仲悪いんだぁ??」
「仲が悪いっていうか、考え方が違うんだよね。教会側は神の力を信じているし、教えに従えば救いの手が差し伸べられると信じている。対して魔法省側は自身の力を信じていて、自分達が世界の中枢だと思っている。そんな感じだから常にいがみ合っていて、わざわざ魔法省の目の前に教会を建設したりしてるんだよ」
「あ~ん。平和がいいですわぁ・・・」
「どうしてそうなっちゃうのかなぁ・・・前にミールが教えてくれたけど・・・なんだっけ?・・・女神ミントス様だっけ?・・・その神様がいらっしゃるのは確実なんだから、魔法も結界も神様のお力って分かってるはずなのにぃ」
「女神ミルティスな。それと俺が言ったのは、あくまで一般論だから。そう言われているってだけで、誰も実際に神様を見た人はいないんだよ。事実、正式な記録が残っている2500年くらいの間、神が具現化したって記録は残っていないんだ」
「そーなの??でも・・・なんだっけ?あの・・・ほらほらっ。なんかあるよね?神様の力を使う適性のやつ」
「召喚士ですわ、リリフ。」
「そうそうっ!それそれっ!あれって神様の力を呼び出してるって本に書いてあったよっ!」
「確かにね。魔法省側はそれも召喚士自身の魔力を使って具現化させているだけで、実際は神の力では無いっていう言い分みたいだね」
「え~。なんか屁理屈ぅ・・・」
「ははは。でも俺も今現在、神は具現化していないと思っているよ」
「えっ?!なんでなんでっ??」
「あくまで俺の考えなんだけど、正確には召喚士が呼び出しているのは神の眷属だからさ。しかもそれも下級の・・って言ったら語弊があるかもしれないが、神の序列的には下っ端の眷属を呼び出していると思っている。だから正確には神は具現化してないし、神の力を使ってもいないってことさ」
「そうなんですわねぇ。でも神の眷属とはいえ、神様自体が存在されていないと存在すらしないと思いますわ。そういった意味では、神は確かに居られるといった所でしょうか?」
「そうだね。確かに神は存在する。しかし今は具現化していないって事だね」
「ミール様のお話だと、もう2500年以上具現化されていないのですよね?そろそろ具現化する可能性もあるのではないでしょうか?」
「流石お兄ちゃんっ」
「ははは。まあ神にとって1000年なんて、あっという間なのかも知れないよ?なにせこの世界が誕生してから、何十億って年月が経っているって主張する学者もいるくらいだからな」
「えー!?6000年じゃないの??前にミール言ってなかった?人類が誕生して・・・って話」
「人類が誕生して6000年くらいって神話があるだけで、誰も本当の所は分からないんだよ。その前から存在していた可能性もあるし、人類がいなくても、この世界が存在していたって事も考えられるんだ」
「ほへ~。そーなんだあ・・・不思議ぃ」
「ふんふんっ、沢山新しいお話が聞けてブルニは嬉しいですっ」
メモ大好きなブルニは一生懸命ペンを走らせている。
「試しに教会に入ってみるか?リューイは特に回復職だから、お祈りだけでもしておいて損はないと思うぞ。なにせ回復の魔力は癒姫神ポメラニアンの力を源にしてるって言われている。そして癒姫神ポメラニアンは人間の神ゼロスの娘って話だからな。この教会もゼロス信仰が主だから歓迎されるかも知れないぜ?」
「そうなのですか。分かりました、是非入ってみたいです」
敷地に入ると庭の至る所に、ロウソクの光のような優しい灯籠が設置してあり、厳かな雰囲気が作られていた。扉は開けっ放しになっており誰でも出入り自由のようだ。
建物に入ると、直ぐに大広間になり、正面に巨大な石像が人々を見下ろしている。
正面の1番大きな石像はヒゲを生やした老人、おそらく人間の神ゼロスをイメージしているのであろう。その右下には優しく微笑んだ女性の石像。癒姫神ポメラニアンだろう。
その他にも、様々な神器を手に持った人々や動物たち、植物など360度グルッと石像や絵画に囲まれていた。
「ふわぁあぁ。沢山あるのねぇ・・・なんか壮観だわ」
「凄すぎて首が痛くなりますわね」
「なんか・・・ヒンヤリしてて緊張しますっ!」
「ミール様。もしかして信仰とは沢山種類があるのですか?なにか、それぞれの像の前でお祈りの列が出来てます」
「そうそう。良く見てるな。1番有名なゼロス信仰から規律や勉学、出世の神とか・・・中には食べ物の小麦の信仰まで、数多くの神様が祀られているんだよ。ま、大半は人間達の勝手な妄想だけどな」
「妄想・・・でございますか?」
「簡単に言うと、勝手に神をでっち上げて信者を募り、お布施をさせて儲けてる団体が多いってことさ。こういうのは言ったもん勝ちみたいな所があるからね。俺はゼロス信仰さえ怪しいと思ってる。いや、信仰そのものを信じていないって言ったほうが正確かな?」
「ほえぇ??じゃあミールは魔法省側の人間だっ」
「いやいや、神の存在は否定してない。間違いなくいるだろう。ただ信じれば救われるって他力本願な考えは否定的だ。信じ祈りを捧げたくらいで、神がホイホイと人間に手を貸すかね?そもそも神が人間の味方ってのも怪しいもんさ。俺たちが勝手に神と呼んで崇めているから味方かと思っちゃうけど、実際は人間なんて知らんって奴らかもしれないし。そういう疑問や疑いを全く持たず、言われるがママに宗教にのめり込む奴、そしてそういった無知な奴から搾取しまくる神官にはヘドが出るぜ」
「はっはっはっ。なかなか手厳しいですなっ」
唐突に後ろから声がする。振り向くと神官服に身を包んだ中年の男の人が、優しい笑顔を浮かべていた。
「あ、すんません。別にゼロス信仰を批判するつもりはないんで・・・」
「いやいや、構いませんぞ。人それぞれ考え方が違うのは当たり前だ。しかし我らに救いを求める人がいるのも事実。私どもは、そういった方々の受け皿として存在しているのです」
「まあ・・・意外と寛容な考えなのですわね」
「はっはっは。失敬。実はわたくしは出張中でしてな。たまたま、この街に滞在している身でして。確かに、ここの連中が聞いたら目くじらを立てる者も居るかもしれませんなぁ。はっはっは」
「ひぃ・・・」
「とりあえずミール様が問題を起こす前にお祈りだけ済ませておきましょう」
「リューイ君・・・ツレナイ」
全員でゼロス像の前に移動する。やはり1番規模が大きいだけあって信者の数も多い。
像の前に水晶玉のような物が置かれており、皆それに手を触れてからお祈りしているようだ。
「あれに触ればいいんですかぁ?」
「おやおや。皆様は初めてなのですね?よろしい。僭越ながら、わたくしがレクチャーして差し上げましょう。こちらの魔法球に触れて自分の魔力をゼロス様に捧げるのが、一般的なお祈りの仕方ですな。この魔法球はその者の秘められた力、特に回復魔力を教えてくれる機能もあるのです。従って、もし回復職の適性をお持ちでしたら、分かる仕組みとなっているってことですな。まあ、皆様は冒険者でございますから、もうご存知かと思いますが、自分の適性を知らない方も多いですので」
「へえー。面白そう。じゃあ私からやってみるね」
リリフは魔法球に魔力を込めて祈りを捧げる。パアッとぼんやりと白く光り魔法球に吸い込まれた。
「ブルニも行きます」
同じように魔力を捧げる。
「ではわたくしも」
同じように魔力を捧げるセリー。しかしぼんやりと白く光るのは変わらないが、その周りに赤い小さな粒子状の光が包み込んでいる。
「おおおっ。これは微精霊。なんとなんと。素晴らしいですな」
「そーなんですっ。わたくしも不思議なのですが、神官様は何かご存知でしょうか??」
「うーむ。残念ながら詳しくはないですなぁ・・・一般的に微精霊を操るのは精霊使いの適性を所持していると記憶しております。ふむふむ。お嬢さんは魔法士ですな。でしたらレア職ですが精霊使いの適性獲得を目指すのも良いかもしれません。なんといっても精霊使い様は神の使いとも言われておりますので。我が教会でも大変重宝されますよ」
「なるほど。そうでしたか・・・出来れば、このまま魔法使いとしてズカーンボカーンと敵を蹴散らしたいですわぁ」
「はっはっは。なるほどなるほど。それは残念ですなぁ。はっはっは」
「次はリューイだね。この子は回復職なんですよっ」
「ほおぉ。それはそれは。神の御慈悲に感謝致します」
中年の神官はリューイに軽く祈りを捧げる。回復魔力は癒姫神ポメラニアンの力を根源としているとの事なので、回復職は厚遇されるようだ。
少し気まずそうに魔法球に触れるリューイ。
すると明らかに他の人とは違う輝きが大広間に溢れた。
「おおっ!なんとなんとっ?!ふむふむ、『愛』の回復士様でしたかっ!これは失礼致しましたっ!気付かなかったとはいえとんだご無礼を!お許し下さいっ『愛』の回復士様!」
「えええ?!な、なんですか??」
リューイはあっという間に、周りにいた神官達に囲まれる。
皆口々に感謝の言葉をリューイに浴びせた。
「『愛』の回復士様っ!ご尊顔を拝見させて頂けるとはっ!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「どうか我々をお救い下さい!『愛』の回復士様っ!」
「ああ!『愛』の回復士様!ありがたや!ありがたや!」
全員、『愛』の部分を強調して言うので、恥ずかしくなったリューイ。そそくさと出て行こうとする。
しかしそれを囲んで防ぐ神官達。
「ああ!お待ちください!『愛』の回復士様!是非我々の信仰の道しるべとして、お力をお貸しください!」
「冒険者なぞ辞めて我らの教会に所属してくだされっ!かなりの好待遇でお迎えしますぞ!」
全員がリューイに教会に入るように勧める。そして1人の神官が耳元で小声で囁く。
「ここだけの話・・・金も女も思うがままですぞ・・・回復士様・・・」
その話にピクっと反応してしまうリューイ。何かと気になる年頃だっ。
「お兄ちゃん・・・」
ブルニの心配そうな視線に、我に返ったリューイは
「い、いえ!僕は冒険者を続けるのでっ」
「では臨時講師としては如何でしょう?!月に2~3回ほど講演を行って頂ければっ!」
「こ、講演なんて僕には無理ですよっ!」
「大丈夫でございます!『愛』の回復士様はただ立っているだけで構いません!」
「客寄せパンダってことですわぁ、リューイ」
「い、嫌です!人前に立つなど!」
「でしたら・・・」
「ええいっ!しつこいぞ!嫌がっているではないか!」
いきなり大声で割って入ってきたのは黒ずくめの男。
複数の部下を引き連れて偉そうに立っている。
「なんだ!魔法省の者が何の用だ?!出て行け!」
「おやおやおや?全ての者に解放されているのであろう?それを否定するのか?やはり差別に溢れているようだな!所詮は教会!やはり下賤の民!」
「なんだとー!」
「なにをー!」
どうやら魔法省の連中が嫌がらせに来たようだ。奥から次々と応援の神官達が現れ、あっという間に広間は大騒ぎとなる。
出張中と言っていた穏やかな感じの神官も、先程までとは打って変わって別人のようにギャーギャー騒いでいる。やはり相当仲が悪いらしい。
しかし助かった。リリフ達は、その隙にソソクサと教会を後にする。
「ひゃ~。凄かったねぇ・・・」
「本当ですわぁ・・・ミール様が仰ったように、勧誘が凄まじかったですわねぇ・・・」
「ブルニ怖かったですぅ」
「僕も焦りました・・・あんなに人に囲まれるのは初めてです・・・」
「な?奴らからしたらリューイの愛の回復士ってレア適性は格好の広告塔なんだよ。かなりの好待遇で迎えてもらえるしな、実際」
「お兄ちゃんが冒険者を辞めるはずないですっ!流石お兄ちゃんっ!」
「でもリューイ、途中何かを言われて興味ありそうな顔をしてましたわよね?一体何を言われたのですの?」
「あっ、それはブルニも気になってましたっ!」
「ふぇっ?!い、いえ!何も言われておりません!僕は冒険者を辞めようとは一瞬たりとも思いません!」
「お金と女を自由に出来るって言われて鼻の下を伸ばしたのよねー?リューイ」
「ぎょえっ!な、なぜそれを?!」
「ふふん。私の耳はスキルのお陰で特別製なんですよーだ」
リューイと手を繋いで歩いていたブルニはピタッと立ち止まり、手を離して一言。
「お兄ちゃんのエッチ・・・」
続く




