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ある世界の物語③

 ゼノの処世術を理解したミール。早速フェリスを利用する。

 ゼノは薄い毛布に包まると直ぐに寝息を立て始めた。


 やはり疲れていたんだな、無理しちゃって。


 喘ぎ声を背中で聞きながら、ゼノの寝顔を見てクスリと笑うミールであった。



⇨ある世界の物語③




「ふえっ?!はれ?!」



 翌朝うっすらと光が差し込み、コケに付いた朝露が一つ一つ宝石のように輝いている。   

 シーンと静けさに包まれている森林は心地良い空気に包まれおり、時折すやすやと寝息が微かに静寂を破っていた。



 そんな優しい時間を突き破って、ゼノのなんとも間抜けな声が森林にこだまする。



「はれ?朝?え?・・」



 まだ頭が回ってない感じでゼノは辺りを見渡す。頭の右側面にはしっかりと寝癖が盛り上がっていた。



「ゼノさん、いくら起こしても全く起きなかったんですよ」

 ミールはほぼ炭になった焚き火にまきを足しながら悪戯っぽく笑った。



「えええ!?ごめんなさいい!全く記憶がないですぅ・・・」

「ごめんごめん。嘘です。あまりに気持ちよさそうに寝ているので起こさなかっただけです。やっぱり疲れが溜まってたんですね」



「そうですか・・ホントにミールさんにはなにからなにまでお気遣い頂いて・・・自分の力では出来るかわかりませんがこのご恩はいつか必ずお返しします・・・」

「はい、期待しています」



 にっこり笑顔で答えるミール。

 そんなやりとりを聞いてか知らずかマーキュリー達も起きてきた。



「ふあああ。おはようミール君。何事もなくてなによりだ」

「はい!よかったです!」

 よそ行きのハキハキ対応をみせるミール。



 早速ゼノは朝ご飯を作り始めている。

 一応具合が悪そうに・・・この大根役者め。



「ほら!ランカ!朝ですよ!起きなさい!」

「よしよし。そろそろ起きようか」

 マークとルキオスがお互いのパートナーに呼びかける。



「ふみゅ~あと5分~」

「ぐがあぁあ~ムニャムニャ」

 予想通りなかなか起きてこないのはランカとリリーだった。




 さくっと朝食を済ませ、また森林を進み始める8人。

 あと半日もすれば街道に出るはずだ。今日の夕方にはマルリの街に入れるだろう。



 予定より遅くなってしまったが、なんとか日が暮れる前には着きたいな。



 そんな考えを頭に巡らしていたら、唐突にクルッピが目の前から出てきて、ピカピカ光りながら盛んにミールの顔の前をくるくる回っている。



 クルッピとは使役士になると最初に付いてくる低級エレメントだ。



 通常は極々低級の魔法を使って補助をしてくれるのだが、ミールのクルッピは敵意を感じると知らせてくれるアラートしか出来ない。

 しかも気まぐれで毎回知らせてくれる訳ではなく、昨日は全く出てこなかった。

 なので信頼性は薄いのだが今回は珍しく盛んに知らせてくれる。



 近くに敵意を持ってる人間もしくはモンスターがいる・・・と。




「なにかいるぞ!警戒!」




 クルッピの動きをみてマーキュリーが叫ぶ。

 PTに緊張が走る。周囲を警戒する一同。




 ・・・・・




 しかしなにも起らない。

 静けさだけがその場を支配していた。

 鳥の鳴き声も虫のさえずりも。

 そう、恐ろしいほど無音、例えるなら耳が痛くなるような。



「なにもいにゃいんじゃなぁい?」

 唯一空気を読めない姫ちゃんリリーが脳天気に言葉を発する。



 その瞬間だった。



「上です!」

 地味魔道士のマークが叫ぶ。



 どうやらマークは自然の力を操る系統の魔道士のようだ。いち早く変化に気づく。

 見上げると数人が剣を振りかざし飛びかかってきていた。



「きゃあああ!」

 悲鳴を上げるリリーをルキオスが自慢の盾で庇う。




 ガシッ!




 右手の刃を見事盾でガードしたが、左手からも短剣が伸びる!




   ザクッ!




 右手から鮮血が飛び散る。顔をしかめるルキオス。

 襲撃者はそのまま地面に着地して身体を回転、盾に防がれた右手をなぎ払う。



 剣は頭を抱えていたリリーの両手をかすめ浅い傷を負わせた。



 すかさず追撃を繰り出そうとする襲撃者に対し、させじと斧を振りかざすルキオス。

 後ろにジャンプで後退してそれを交わす襲撃者。





「痛ったあああぁぁいいいぃぃ!!きゃああぁ!痛いよおおぉぉ!ふええぇん!」





 かすり傷にめちゃくちゃ痛がるリリー。

 おいおい、あんたを庇ったルキオスの右手の方が何倍も重傷だぞ・・・



 勿論他の4人も襲撃者に襲われている。

 マーキュリーは初撃を盾で防ぐと、剣でそのまま数合打ち合っている。

 ランカは代名詞の大剣で襲撃者ごと吹っ飛ばし、追撃に飛び出している。



 よく見ると襲撃者は3人でリスのような顔をした獣人だった。



 このタイプは血の濃さで呼び名が変わるのが特徴だ。

 ほぼ人の外見と変わらない姿をした人獣、人も獣も半分半分くらいの外見の半獣、ほぼ獣の姿をしている獣人だ。



 襲撃者はリスのような顔をしており全身も体毛に覆われている。

 手や足も鋭い爪を持っており典型的な獣人タイプのようだ。

 知性もあり基本二足歩行だが、この森林においてはかなり俊敏性が期待できそうだ。



「ちっ、一旦距離を取れ!」



 ルキオスを襲った二刀流の獣人が奇襲が失敗したとみるや大声をあげる。

 マーキュリーと打ち合っていた獣人はその声を聞くや後方に後退した。



 ランカと打ち合っていた獣人も後退しようとジャンプする・・が、足を植物のツルが絡め取る!

 マークの呪文のようだ。



「ナイスだぜ!マーク!!」

 ランカはそう叫ぶと大剣を振り下ろす。



      ザンッ!



 大剣は獣人の身体を上から下まで一刀両断、その命ごと狩りとった。



「ひいっ」

 マーキュリーと戦っていた獣人が恐怖の声を上げ、そのまま後方に逃げだす。



 その瞬間、辺りが一瞬真っ白に光り、直後にオレンジ色の光が獣人めがけて突き進む。





「ぐぎゃあああぁああ!!」





 玉は獣人に直撃すると5メートルくらいの火柱を上げて燃えさかる。

 その炎は獣人の存在そのものを焼き尽くし現世から帰って行った。



 フェリスの魔法だ。



 灰も残さず焼き尽くす高火力の炎を、周囲の木々には全く被害を出さずに繰り出すとは・・・

 見かけによらず、かなりの実力者のようだ。



 炎に焼き尽くされる同胞をみて一瞬立ち尽くすリーダー格の獣人。

 その瞬間を逃さずにマーキュリーは剣を喉元に突きつける。



「くっ・・」

 尻餅をつきマーキュリーを睨み付けたが



「我らの負けだ。殺せ」



 獣人は剣を捨て、戦意を喪失してうなだれた。



「なぜこんなことをした?」

 マーキュリーは獣人に話しかける。



 しばらく沈黙の後、獣人は小さい声で語り始めた。



「最近この森林にゴブリンの群れが多数現れるようになり獲物が極端に取れなくなった。アイツらはドンドン湧いて出てきて倒せど倒せどキリが無い。更に奴らは昼も夜も関係なく襲ってくる。段々と戦える者も減り、狩り場を広げなんとか食いつないできたが我らの集落はもう限界だ。そこで冒険者を襲って所持品を奪い、それを売って食べ物を手に入れるしかないと考え精鋭3人を募り行動した。勿論失敗も想定のうちだ。殺せ、辱めはうけん」



「ふむふむ、なるほど・・ではどうでしょう?我らがゴブリンを退治してあげましょう」

 マーキュリーから出された意外な提案に顔を上げる獣人。



「おい!なに面倒くせーこと言ってんだ?!さっさと殺して先に行こうぜ!」



 返り血を拭きながら怒鳴るランカにマーキュリーはなにかを耳打ちする。

 一瞬ニヤリと笑みを浮かべたランカは、何も言わずに後ろに下がった。



「我らとしてもゴブリンを放置しておくつもりもありませんし、なにより困っている方々を見捨てるような事は冒険者失格です。これでももうすぐ銀ランクに上がろうとしているPTなのですよ。突然襲われてしまったのでお二人を殺めてしまいましたが、我らの敵はゴブリンです。お詫びも兼ねてお手伝いさせて下さい。このまま放置して他の冒険者を危険な目に遭わせるわけにも行きませんしね」



 マーキュリーの顔をじっと見つめながら動かない獣人、まだ半信半疑といった感じだ。



 そりゃそうだ。



 自分達から仕掛けておいて仲間二人を殺され、自分もいつ殺されてもおかしくない状況、冒険者側のメリットが感じられない。



 騙されているんじゃないのか・・・当然そんな考えも浮かんでくる。



 しかしホントに助けてくれるのであればこんなに有り難い話はない。

 仲間2人も殺され集落で戦える者もほとんどいない。

 皆飢えに苦しんでおり、あと5日もつかどうか・・正に限界に近い。



 獣人にはどうしても、この天から偶然にも垂れてきた糸にすがりたいと思う心が消せなかった。



「ほ、本当に助けてくれるのか?・・・」



「ええ、もちろん。ただし、ある程度貴方の集落が落ち着いて過ごせるようになったら、冒険者ギルドに感謝の報告をしに行って下さい。そうすれば私たちの評価が上がって昇級もし易くなるのですよ」



「なるほど・・それが狙いか・・・わかった。我らとしてもこの状況に手を貸してくれるのであればこんなに有り難い事はない。感謝を述べるなどでは全然足らん。我が一族で代々と語り継ぐ事を約束しよう」



「あはっ。また英雄譚が増えちゃうねっ」



 さっきまでぎゃーぎゃー言っていたリリーも自分に治癒魔法をかけたのか、すっかり機嫌を直している。



「ではまずはこの近くに居るゴブリン共を刈るとしましょうか。そのまま貴方の集落に向かいましょう。とりあえず私どももしばらく滞在してゴブリン討伐と食料確保に協力しますね」



「かたじけない。宜しく頼む」

 獣人は深く頭を下げ感謝の気持ちを表す。



 斯くして一行は森林を進み始めた。

 途中いくつかのゴブリンの群れに遭遇したが一瞬で蹴散らされている。



「す、すごいな・・・」

 獣人は驚きを隠せない。



「ほらほら。かなり食料が備蓄してありましたよ。これで当分持つんじゃないですか?」



「おお、確かに。有り難い」

 獣人は大切に大切に食料を袋に詰める。



「子供達よ。待っていろ、直ぐに帰るぞ」

 そう呟きながら。





 そして半日くらい歩いただろうか。

 日はすっかり高く上り時間的に13時前後といったところ。



 森林が少し開けてちょっとした広場になっていた。

 その場所に木や草、粘土などで作られた家がいくつかあり、その周りにも根っこや穴などを利用した自然の家が複数点在している。



 見た感じ100人近くの獣人が住んでいるようで、思ってたよりずっと大きな集落のようだ。



「まずは我が長老に会って頂きたい。なにもおもてなしなどは出来ないのだがせめて感謝を言わせてほしい」



「ええ。もちろんお気遣いなど不要ですよ。私たちは同士ですから」

「感謝する」



 獣人は深々とお辞儀をして長老を呼びに集落の奥に走って行った。

 周りの家や木々の隙間から複数の獣人達の視線を感じる。



「ひゃ~めっちゃ見られてるぅ。あははっ」

 呑気に子供達に手を振るリリー。



 子供達はリリーが手を振るのを見て安心したのか、お互いの顔を見合わせ笑顔で手を振り返す。

 徐々にマーキュリー達を囲むように遠巻きに獣人達の人集りが出来はじめた。



 しばらくして・・・



 先程のリーダー格の獣人がヨボヨボの髭を長く伸ばした、明らかに長老っぽい獣人を連れて戻ってきた。



「この度は我らの無礼な行いにも関わらず寛大なご対応をして頂きありがとうございます。聞けば既に3つのゴブリンの群れを退治して頂いたと」



「おおおぉぉ!」

 周りの獣人からどよめきが起る。



「聞け皆の衆!この冒険者の方々はゴブリン退治だけではなく食料調達にもご尽力して下さっておる!既に10日分の食料を確保済みじゃ!」



「おおおおぉぉ!!」

「勇者さま~!」

「ありがたや~」

 獣人は口々に感謝の言葉を口にする。



「ふふ。礼には及びませんよ。我らは当然のことをしたまでです。ところで長老、ここの集落の獣人さん達はここに居る方達で全員ですか?」



「はい・・ご存じの通りゴブリンとの狩り場争いでかなりの数の同胞が殺されてしまいました。また飢餓により病気も蔓延しており、多くの子供達や老人達が命を落としてしまいました・・当初は500人位いた同胞も今はここにいる者達のみなのです・・ううっ・・」



 長老は泣きながら答える。



「しかし、今回このように助けて頂ける方達が現れるとは夢にも思わず・・本当に本当にありがとうございます。一族を代表してお礼申し上げます」



 長老が頭を下げるとそれに呼応して周りにいた獣人達が一斉に頭を下げる。



「本当にすまなかった。腕は大丈夫か?」

 リーダー格の獣人がルキオスに謝罪する。



 ルキオスの腕は自分で傷口を縫って止血したようで傷跡が生々しい。

 予想通りリリーの回復魔法はほぼ役に立って無いようだ。

 通常であれば最低でも止血は出来るはずだが、それすらリリーには出来ないらしい。



 しかし、この程度の能力しか持たなくても回復魔法を使える者は重宝される。

 如何にこの世界の回復士が貴重な存在かがおわかりになったであろう。



「問題ない」

 ルキオスは低い声で答える。



「君にも悪いことをした。傷は大丈夫だろうか?」

 獣人はリリーに尋ねる。




「えぇ~?リリー回復魔法超ぉ得意だから平気だよぉ。ちゃんとぉ謝ってくれれば許してあげるよぉ?」




「かたじけない」

 頭を下げて去ろうとする獣人をリリーは呼び止める。 



「あれええぇ?謝ってくれればって言ったじゃ~ん。ちゃんと謝ってよぉ?」

「え?あ、も、申し訳ない!失礼!」



 獣人はしどろもどろになりながらリリーの前に戻ってきた。

 さっきから何回も謝ってるじゃん・・・なんて抗議は間違ってもしない。



 獣人は深々と頭を下げて再度謝る。

「本当に申し訳ございませんでした」




「え~?それが謝罪なのぉお?」




 リリーは獣人の前に腕を組んで仁王立ちする。



 その視線は怒りと軽蔑、そして威圧。

 全てを兼ね備えた眼と、ほんのりと高揚した頬、少し興奮しているようにも見える。



 様子がおかしいと感じたのか、周囲の獣人達もザワザワし始めている。




「おお。これは申し訳ございませんでした。我ら一同改めて謝罪申し上げる」




 長老が割って入ってきて土下座をする。

 リーダー格の獣人もそれを見て、慌てて土下座をした。

 周りの獣人達もそれに習って、次々と膝を地面に付ける。



「いやいやいや~そんなの謝罪じゃないじゃあぁん?」



 リリーは納得しないようだ。

 長老と獣人は顔を見合わせオロオロとする。



「いったいどうすれば・・お許し頂けるのでしょうか・・?」

 遠慮がちに聞く長老。



「しょーがないにゃぁ~。じゃあ特別にぃ教えてあげるぅよぉ」



 その声を聞くか聞かずか、ルキオスの斧が長老の真上から振り下ろされていた。

 血が噴水のように噴き上がる。



 血の雨をバックにリリーはこう答えた。



「死んで詫びてちょ」



 舌をペロッと出して笑いながら言うリリー。



「きゃあああぁぁ!!」

 至る所で悲鳴が上がる。



 そんな悲鳴を遮って、良く通る甲高い声でリリーは叫ぶ。




「この私を傷つけたんだよぉ?死んで詫びるしかないっしょ?」




 その声を聞くと同時に冒険者達は獣人達に斬りかかる。



「わああぁぁ!!」

「ぐぎゃああぁ!!」

「いやあああぁ!!」

 あちこちで悲鳴が絶叫に変わる。



 獣人達は一斉に逃げ出す・・・が



「プリゾンドイリエ!(蔦の牢獄)」



 マークの周りに魔方陣が一つ現れ、呪文が発動した。



 唐突に集落を丸ごと包み込むツタが現れ、獣人の逃げ道を塞いでいく。

 逃げ場を失い次々と殺されていく獣人。




「やめろおおぉぉ!」




 怒りで顔を真っ赤にしながらルキオスに斬りかかるリーダー格の獣人。

 その腕に無表情で斧をなぎ払うルキオス。




「ぐあああぁあ!!」




 うつ伏せで倒れる獣人に対し、足にも斧を振り下ろす。



 両手両足の機能を絶たれ、骨が剥き出しになった獣人は、必死にクネクネと身体をくねらせて地面を進む。




「あははっ!まるでイモムシじゃ~ん!うける~!」

 大笑いのリリー。




「なぜだああ!!なぜこんなことをするー!!」




 手足の機能を無くし、首だけを必死にリリーに向けて絶叫する獣人。



「あはっ。だってえぇ、リリー痛かったもん。あなた1人死んだくらいじゃ釣り合いとれないでしょぉ?一族全員死んでくれなきゃぁ、うふふ」



 そして睨み付ける獣人の前にしゃがみ込んで

「ちゃんと一族代々感謝してね、私たちに殺されることをっ♪」



 にまぁっと不気味な笑顔を浮かべたリリーの頬が真っ赤に高揚している。

 イモムシのようにのたうち回る獣人を見て興奮しているようだ。



「頼む!!俺だけを殺してくれえ!!村人には手を出さないでくれええ!!頼むぅぅ!!」

 文字通り血の涙を流して叫ぶ獣人。




「ええぇ~?聞こえなぁ~いぃ」




 そういいながら思いっきり顔面を踏みつけるリリー。



  ぐぎゃっ



 鈍い音がする。




「ほらほら。もっと大きい声でお願いしないと聞こえないよぉぉ?」




 ガンガンと何度も何度も踏みつける。

 顔のありとあらゆる場所から血が噴き出す。

 もう何処が目だが鼻だかわからない。




「ぐっ!か、お、お願・・ぐあっ!しま・・う・えたちを・・願っ・・ぐ・・っ・・して・げぉ・・っ・・ぃ・・」




 最後はプシュープシューっと空気音だけ残して沈黙する獣人。

 リリーは残念そうに呟く。



「あーあ。靴汚れちゃった・・」




 正に地獄のような光景。

 ミールもこれほどの不快な景色は久しく記憶が無い。



 ゼノとミールはそんな光景を微動だにせずに眺めていた。

 正確には全く動けなかった。目の前に起っている光景が信じられなかった。



 正直、襲撃してきた獣人を言いくるめている時から違和感はあった。

 冒険者ギルドに感謝の報告をしにいっても昇級には全く関係ないからだ。



 なので、もしかしたら労働力として強制的に何人か連れて行き、売りさばく気なのかと思っていたが、まさか皆殺しする為だったとは・・・



 次々と殺されていく獣人を見ながら、自分の無力さを痛感するミール。

 ゼノは身体を震わせながら、目をぎゅっとつぶって見ないようにしているようだ。



「あっあっいやっ・・あ・・」

 どこからか喘ぎ声が聞こえる。



 周囲を見渡してみると、なんとマーキュリーが獣人を犯していた。

 まるで物を扱うように乱暴に自分の性欲を満たしている。



「おいおい、あいつパートナーいるよな・・・」



 ミールの呟きが聞こえたのか、いつの間にか横にいたマークがやれやれといった感じで言う。



「ふ~よくもまあ、こんな獣に欲情できるもんです。いつのも事ですが感心させられます」


「でもそれがマーキュリーだからねぇ。これじゃあフェリスも苦労するわ」

 リリーも慣れてるような感じで相づちを打つ。



「さて、性欲馬鹿はほっておいて狩りの続きをするとしましょう」

「はぁ~い」



 まるでこれからどこかにお買い物に行くような言い方をする2人。

 またどこかに走って行った。



 もちろん惨殺しに・・・



 ふと獣人の子供2人と目が合った。

 周りには運良く奴らはいない。



 

「こっちだ!早く!」

 瞬間的にミールは近くの木の根っこにある穴まで走り、気づかれないように小さい声で叫んだ。



 一瞬2人は顔を見合わせたがミールに向かって走る。



「早く中に!!」

 周りを確認しながら穴に誘導する。



 子供が穴に入ろうとしてしゃがんだまさにその時、ふっとミールの顔に影が横切る。



       どぎゅぐしゃ!



 木の上から降りてきたランカが大剣で、そのまま文字通り子供2人を押しつぶす。



 振り向いたミールの目には、さっきまで一生懸命走っていた子供達の、身体の中に入っている物が全て外に飛び出て押しつぶされている光景を映し出していた。



「おい。余計なことしてんじゃねーよ。殺すぞ」



 大剣を肩に担ぎ直してランカが冷酷に言い放つ。

 ミールは無言でランカを睨み付ける。



「すみません!!僕がしっかり言いつけます!」



 

「さあ!ミールさんこっちです!」

 ゼノは走ってミールとランカの間に入り、ミールの腕をつかみ強引に引っ張っていく。



「すみません、ゼノさん・・」

 ゼノに引っ張られながら謝るミール。



「とんでもないです・・僕の仲間達がすみません・・・最初はこんなんじゃなかったんですけど段々と変わっていったというか・・・」



 ゼノの言っていることは真実だろう。



 段々と強くなってくると力を示したくなる。

 ましてや命のやり取りをしている極度の緊張状態の戦場で、力を使って相手を屈服させる・・・それはとてつもない高揚感を得られるのだ。



 残念ながら戦場において、このような悲惨な虐殺はよくあることなのだ。

 何処の世界においても・・・



 ここでは詳しくはあえて省略させて頂くが、ありとあらゆる方法で獣人達を殺していったとだけ言っておこう。



 人はここまで残酷になれるのか・・・





 虐殺が終わり、辺りはよくわからない肉塊や所々の部分的な身体の一部が大量に転がっていた。



 異様な光景もそうだがとにかく異臭がすごかった。

 血のにおい、臓器の匂い、胃や腸の中にあった内容物の臭い、視界がぼやける程の臭いが辺りを支配していた。



「ちっ。くっせーな!おい!マーク!!」

 ランカが叫ぶとマーク中心に魔方陣が出現して呪文が発動する。



「レトルオルソール(土に帰る)」



 マークが叫ぶと、無数のツタが出現して辺りの死体を包み込み、そのまま土に還っていく。

 無数にあった肉塊がたちまち消失した。



「さんきゅ~マークちん」



 リリーは大きく伸びをしながら

「あ~あ。なんかお腹すいちゃったぁ。ご飯にしてから出発しなぁい?」



「そうだそうだ!飯にしようぜ!」

「そうだね。ゼノ、直ぐに簡単な食事を用意出来るかい?」



 珍しくマーキュリーがゼノに対して命令口調ではなかった。

 暴れまくって、ついでに性欲も満たされスッキリしたのだろうか?



「はい!直ぐに用意します!」



 もはや演技の事など微塵(みじん)も覚えていない感じでハキハキ答えるゼノさん。



 しかしミールは、毒が消えているのがバレるのでは無いかなどの心配はしていない。

 この連中はゼノに全く興味が無い。

 例えゼノが丸坊主のスッポンポンになっていても気づかないと思っている。



 しかし、死体が無くなったとはいえ、ついさっきまで虐殺した現場で飯を食おうとするなんてな。



 図太すぎる・・いや、知らないだけか・・・



 ミールが言っているのはこんな場所でご飯を食べるなんて!という道徳的な意味ではない。

 この後、PTは身をもって知ることとなる。



 この世界の恐ろしい現実を・・・



     続く

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