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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記⑰

 そうしてグワンバラの宿に到着したリリフ達。

 リリフ達は買い物に出かけ、リューイは擬装に取りかかる。

 グワンバラの旦那さんが、色々と手伝ってくれて、かなり良い出来に仕上がったようだ。



⇨ガタリヤ奮闘記⑰




 そして翌日の早朝、リリフ達はガタリヤを一周するべく、南門から出発した。


「わあぁ。水タンク20Lも載ってるのに軽い軽い!」

「収納ボックスを買えたのも良かったですわ。食料に衣類、調理器具なども入れれますものっ!」

「とってもボロボロに見えますぅ」

「あはは。本当ね。塗装までしてて。凄いわ、リューイ」

「流石お兄ちゃんっ」


「いえ、グワンバラさんの旦那さんが、かなり手を貸してくれて助かりました。ありがたいです」



 リューイの言う通り、荷車はかなり本格的に加工してあった。

 どうやらグワンバラの旦那さんは宿の補修なども普段自分で行っており、慣れているとのこと。

 今はゴブリン化の影響で、お客さんもほとんど入ってこないので、ノリノリで手伝ってくれたのだそうだ。



「じゃあ、前と同じだけど、結界ギリギリで戦っていこう。リューイとブルニ。お前達は安全第一に行動。危ないと思ったら直ぐに結界内に逃げること。そういった状況判断を身につけていこう」

「はいっ!ミール様っ」

「分かりました。ミール様」



 そうしてガタリヤを一周し始めたリリフ達。

 最初こそ初めて見るモンスターにビビる2人だったが、リリフの適格な指示により、直ぐに落ち着きを取り戻した。



「ブルニっ!ツタに気をつけて!引きずり込まれないように!無理に防がなくていいから!距離をとろう!」

「はいっ!リリフ姉様っ!」

「リューイ!こまめに回復お願い!ブルニの後ろで!」

「はい!リリフ・・ぇ様!」

「セリー!今よっ!」

「了解ですわっ!」



 ズカカアアオオォォォンンン!



 今は『魔力溜まりましたわ!』『何秒後に離れる!』などなど。

 こういったやりとりを行わなくても、互いの考えが分かるようだ。

 正に阿吽の呼吸と呼べる動きをしている。



「やったっ」

「ブルニ!後ろからバウンドウルフが来てるわ!最初受け止めて!」

「ひゃっ!は、はいいっ!」



 ガシンッ!



「ナイス!えいっ!」



 ギャオォォォンン・・



「周囲警戒!」

「は、はいっ!」



「・・・」



「オッケー。近くにはいないみたいね」


「ふわわぁ。バウンドウルフ来てるの全然気づかなかったですぅ。ごめんなさいぃ」

「僕も食中プラントを倒して一瞬油断してしまいました。まだまだです」



「うんうん。今度から気をつけよっ。大丈夫よ、凄く良くなってるわっ」

「は、はいっ、リリフ姉様っ」

「ありがとうございます。リリフ・ぇ様」



 ブルニとリューイは尻尾をフリフリ。

 目まぐるしく成長していっているようだ。



 やがて、一行は北門に到着した。

 以前と同じように、ここで一旦お昼休憩を取ることにしたようだ。

 畑からそよぐ風に包まれながら、お弁当を囲む。



「わあぁ。やっぱり壮観よねぇ。一面の黄金色(こがねいろ)はっ!」


「もうそろそろ収穫を迎える頃ですね。稼ぎ時だと言っていました。元締めのグリニーが」

「あ、そうよね。ブルニとリューイは働いてたんだもんね、ここで。ごめん・・・」


「いえ、とんでもないです。むしろ逆です。本当に僕達を救って頂きありがとうございます」

「リリフ姉様っ。セリー姉様っ。ミール様っ。ありがとぉ」

「はわわあぁんん。良かったですわぁ。2人だけでも救う事ができて」



 セリーはむぎゅっとブルニに抱きつく。

 その潰れた胸をどうしても目で追ってしまうリューイ。何かと気になる年頃だ。



「リューイ、ブルニ。ここからは耳と尻尾は隠してほしいんだが出来るか?」

 ミールは卵焼きをつつきながら、2人に話しかける。



「えっ?あ、はいっ!リリフ姉様に選んで頂いた服を収納箱に入れてあるので出来ますっ」

「直ぐ用意します」



 ブルニとリューイは急いで帽子と腰部分のヒラヒラの布を身につけた。



「ねえ、ミール。なんで見えてるとマズイの?」


「2人は難民キャンプにしばらく滞在していたからな。大多数の亜人種達は他の者に気を配る余裕はないだろうが、元締めあたりは顔を覚えているかもしれない。死んだはずの2人が、それもキーンから移ってきた国籍もない2人が、生き残っていて、しかも冒険者になっている。疑念を抱く者もいるだろう。あそこは貴族マンハッタンが出入りしている場所だからな。下手に密告などがあったら、大問題に繋がる可能性も無きにしも(あら)ず。僅かでも不安要素があるなら、取り除いておこうって事さ」



「そっか。確かに・・リューイ、ブルニ。自分達だけ助かって、良い思いをして、それなのに正体を偽って・・・本当に良いんだろうかって感じると思うんだ。でもね、それは私達も同じ。本当は難民キャンプにいる人達、全員を救いたい。でも今の私達じゃ、2人が限界。今の私達じゃ2人が限界なの・・だから強くなろう。もっともっと力を付けて、もっともっと実力をつければ、救える人の数も増えてくると思う。だから頑張ろう。4人で頑張ろう。辛いだろうけど、今はミールの言う通り、耳と尻尾を隠しておこう。いずれ堂々と会える、その日が来ると信じて」


「はいっ!リリフ姉様!」

「分かりました。リリフね・・様」



 そうして、なるべく畑作業や家畜の世話をしている亜人種達に近づかないように、大回りに距離を取って進むリリフ達。



 畑周辺は、作物や亜人種達を狙って比較的モンスターの数が多い。

 故に護衛クエストを受注している冒険者達の数も多いのだが・・・



 ご存知の通り、今のガタリヤは熟練の冒険者はごっそりといなくなってしまったので、周回しているのも低ランクの者達ばかりだ。

 一生懸命頑張ってはいるが、広大な畑を守りきるには、まだまだ実力不足が否めない。




「あっ・・・」

 ブルニが小さく声を上げる。その目は小さな小さな半獣の子供達に注がれていた。




 その子供の半獣達は、一生懸命、収穫されたトウモロコシを(かご)の中に入れている。

 周りの大人の獣人が、次々とトウモロコシの茎を切り倒し、子供や女達が収穫しているようだ。

 子供や女達といっても、比較的大人に近い、どちらかというと中学生くらいの体格をしているのだが、 この子供の半獣達は明らかに幼稚園児以下。

 トウモロコシを2本抱えたら、身体の半分は隠れてしまう感じだ。

 


 しかし、ヨチヨチと怪しい足取りながら、必死にトウモロコシを籠に入れている。



 もちろん、結界外。

 もちろん、畑の端っこ。

 もちろん、かなり危険な場所だ。



 しかし、ここにいる亜人種達にとっては当たり前の場所。

 世界中、どこにいっても安心して暮らせる、眠れる場所など無いのだから。



 そして、子供だから、幼いから。

 そんな事は一切関係ない。



 働けない奴は死ぬだけ。

 働けない奴はここにいる資格はない。

 働けない奴に手を差し伸べる者などいない。



 今日を生き抜く為に、子供の半獣達は、ひたすらに、傷だらけになりながら、転んで泥だらけになりながら、大人に混じって必死に働いているのだった。



 ブルニは唇を噛み締める。



 リリフ達が初めてブルニに出会った配給所を覚えているだろうか?

 あの時にマンハッタンの命令で、殴り合い、大乱闘の現場となっただろう。

 その時にブルニは、せっせと動けない者、そして隅で怯えている子供達に食べ物を分け与えていたと思う。

 この隅で怯えていた子供達が、今、必死に働いている者達だったのだ。



 実はブルニはその前から、半獣の子供達を気にかけていた。



 ブルニ同様に、この子供達も親を無くし、他に頼れる者もいない状態。

 その為、配給所のご飯の時や、仕事の時、そして寝る時も、何かと気にかけていたのだった。

 


 ヨタヨタとフラつきながらトウモロコシを抱えて歩く半獣の子。

 ゴロンっと転んでしまい、トウモロコシが地面に転がる。



 ブルニは一瞬、助けに入ろうと一歩踏み出すが、直ぐに下を向いてプルプルと震えながら(うつむ)く。



 助けに入りたい。ぎゅっと抱きしめたい。よく頑張ったねって褒めてあげたい。



 その、どの願いも叶えてあげれない悔しさを噛み殺すように、ギュッと拳を握りしめた。



 子供達はお互いで励まし合いながら、必死に作業を続けている。



「!?!!」



 そのブルニの視線は子供達の後方、畑の境目で少し盛り上がっている箇所に注がれた。



 モコモコっと土が盛り上がり、出てきたのはカエル。

 正式名称はブーグヌイユだが、この周辺では人喰いカエルとして名が通っている。



 身体の大きさは1メートルちょい。

 茶系の迷彩柄の皮膚はゴツゴツしており、形はほぼ球体。

 身体の半分以上は口なのではないかと思うほど、アンバランスな姿をしていた。



 コイツはとにかく雑食系で、何でも食べる。何でも口に入れる。

 トウモロコシであっても、麦であっても、バウンドウルフであっても、獣人であっても・・・



 普段は土の中に隠れており、このようにお腹が空くと唐突に大地から出てきて、目に入るモノ全てを食い尽くし、また土の中に帰るのだ。



 カエルだけに・・・ぷくくっ




 失礼。




 この地域では比較的強いモンスターの部類に入る、リリフ達にとっては厄介な相手なのだ。



 人喰いカエルは半獣の子供達を捕らえるため、舌を伸ばそうと少しだけ口を開ける。




 身体が勝手に反応していた。




 自分では動こうと意識すらしてなかったかもしれない。



 

 このPTでは1番俊敏性が高いリリフすら、反応できないスピードでブルニは駆け出していた。





「ダメエエェェエェェェ!!!」




 正にダイビングヘッドのように、盾を前方に構えて頭から突っ込むブルニ。



 バキッン



 高速で発射された舌を弾き返す。




「やああぁぁああぁぁあああっ!!!」




 絶叫にも近い声をあげながら、そのまま人喰いカエルに突っ込むブルニ。



 グワシッ



 人喰いカエルの口に自身の盾を押し込んだ。

 カエルは口に盾をつっかい棒のように押し付けられ、閉じることも飲み込む事も出来ずに、手をバタバタしながら仰け反る。



「セリー姉様っ!今です!」

「りょーかいですわっ!」



 息ピッタリのタイミングで、見かけよりもずっと高火力な火の玉が、人喰いカエルに突き進む。

 ブルニは盾を剥がして、蹴りを1発。カエルを火の玉に直撃させた。



「グゲロロロロキュルル・・・」



 火の玉を食らった人喰いカエルは、身体の水分を全て蒸発させられ、干物のようにカチカチに変わり果て、パタンっと大地に倒れ込む。



 フーと息を吐くブルニ。

 その後ろで、ポカーンと口を開けたままの半獣の子供達。



 ブルニは唇を噛み締め、口を真一文字(まいちもんじ)にして瞳を閉じた。

 そして、ゆっくりと、ゆっくりと、振り返らずに、半獣の子供達に背を向けたままリリフ達のもとに戻っていく。





「・・・ぶるにおねーちゃん?・・・」





 半獣の子供の1人が、ボソッと呟く。

 ブルニの瞳から一気に涙が溢れてくる。



 プルプルと身体を震わせながら、必死に振り向きたい、抱きしめたい衝動に耐えているようだ。



 他の半獣の子供達も一気に泣き出す。



「ぶるにおねーちゃぁんん!」

「うえぇぇんん!こわいよぉぉ!おねーちゃぁん!おねーちゃぁんん!」

「ぶるにおねーちゃあん!さびしいよぉぉ!うわあぁぁんん!」



 もう限界なのだろう。

 ブルニは涙を撒き散らしながら、ガバッと子供達を抱きしめる。



「うわあぁんん!おねーちゃあん!おねぇえちゃあん!」

「ぶるにおねーちゃあん!もうどこにもいかないでよぉ!」

「うえぇん!こわいよぉ!さびしいよぉ!」



「みんなごめんっ。みんなごめんねっ。今のブルニじゃ、みんなを救ってあげれないのっ・・・でも、待ってて。必ず・・・必ずみんなを迎えに行くからっ。必ずみんなを救い出すからっ。だから待ってて。ブルニを信じてみんな待ってて・・」



「うええん!うわーん!」

「やだよぉ!いかないでぇ!」

「おねーちゃぁん!おねーちゃあん!」



 駄々をこねる子供達を、ぎゅぎゅーっと抱きしめるブルニ。



 そこに・・・遠くから微かに大声が聞こえてくる。



『お前ら、ドンドン運べぇ!休むなぁ!』



 元締めのグリニーの声だろう。

 周りの獣人達を叱咤しながら歩いているのが、遠くから見えた。

 いずれここにも来るだろう。



「さ、みんな。仕事に戻って」

 ブルニはなるべく優しく語りかける。



 半獣の子供達は泣きべそをかきながらもコクリと頷き、またトウモロコシを抱えて仕事に戻った。




 いやいや、まだ5才くらいなんでしょ?そんな聞き分けが良いわけないじゃん。




 そう思った方、子供を舐めてはいけない。

 結構冷静に子供は親を見ている。周りを見ている。



 唐突にお店で駄々をこねる光景は日常的なものだろう。

 しかし、それはあくまでも成功体験に裏付けされた行動に過ぎないのだ。



 ここで泣けばお菓子を買ってくれるかも、騒げばおもちゃを買ってくれるかも。

 そういった考えのもと、大人を脅迫しているのである。



 おっと・・・



 失礼。少しひねくれた考えをしてしまった。聞き流してほしい。



 この子供達が聞き分けのいい行動をしたのは、単純にくぐってきた修羅場の数が違うという事。

 正に毎日毎日、命を危険に晒しながら、大人と同じように働いているのだ。

 並大抵の感覚では生き残れないのである。



 子供達は自分よりも大きな籠を3人で協力しながら、うんせ、うんせと運んでいく。



 ブルニも唇を噛み締めて子供達を見つめていたが、やがて遠くで見守っていたリリフ達のもとに歩みよる。

 ブルニの顔は大量の涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。



 嗚咽を堪えながら輪に加わったブルニを、リリフ達は優しく優しく迎え入れたのであった。





 難民キャンプを後にし、夕方近くにリリフ達は無事、南門へと帰還した。



「ふー。よしっと。これで何とか90匹ねっ!合計120匹達成!みんなありがとっ!」

 リリフが押す荷車には、バウンドウルフが5体ほど積まれていた。

 通常ではかなり重いはずだが、最新式のアシスト荷車なのでリリフの声は明るい。



「こ、こちらこそですっ、リリフ姉様っ!」

「なるほど。昨日のと合算して達成する事が出来るのですね?勉強になります」


「わたくし達が初めて一周した時は60匹がやっとでしたわ。やはり4人になると違いますわねっ」


「本当ね!しかも前よりとっても安定して戦えてるわっ!2人とも、ありがとう!」

「リリフ姉様・・」

 


 リリフの嬉しい時は嬉しがり、怒る時は怒り、悲しい時は悲しみ、反省するときは素直に謝る。

 今まで接してきた者達とは全く違う、素直で実直な性格のリリフに対し、ブルニ達の信頼感は、日に日に強固になっているようだった。



 やはり、信頼できる人、目標となる人物が身近にいると成長は早い。

 リューイとブルニは、朝出立した時とは比べようがないほどに、成長を遂げているようだ。




 リリフ達は結界内で見守っているミールのもとに歩いていく。


「じゃあ、ミール。今日はここまでにするねっ」

「ああ、了解。みんなお疲れ様。それじゃあ帰る前に、みんな、結界石の使い方を練習しとこうか」

 そういうとミールは4人に結界石を配る。


「結界石?」


「ああ。みんな使ったこと無いだろ?休憩する時に使うのが多いけど、結構、緊急時の脱出で使う事もあるから、念のため練習しとこうか」


「は、はいっ」

「えーと・・・魔力を込めれば良いの?」

「そうだね。ただ、結界石は直ぐには発動しないから。だいたい2~3分くらいかかるかな?結界が発動したら地面に埋め込んで完了だ」

「分かりましたわっ」



 それぞれ街の結界から出て、結界石に魔力を込める。

 しばらくするとパアァっと光り輝き、透明な膜が、それぞれ現れた。



「あ、ミール様っ。光りましたわっ」

「私も光ったわ!」

「自分も膜が出てきました」

「はわわぁ。この膜が結界さんなんですかぁ?」



「そうだぞ。じゃあ、その石を地面に埋めたら完了だ」



「うんっ!分かったわ」

「んしょ。んしょっ」

「これは大地が固い地盤とかだったら大変ですわねぇ」


「ですね。あらかじめ穴を作っておくのも良いかもしれません・・・ミール様、出来ました」

「ナイス、リューイ。それで完了だ」


「私も出来たわ!」

「わたくしもですわっ!」



「ふえぇぇん。お兄ちゃぁぁん」



「ああっ!ブルニの魔石が光らなくなっちゃった・・」

「うむ。時間切れってやつだね。結界魔石は魔力を込めて結界が発動したら、だいたい2〜3分くらいの間に地面に埋め込まないと、効果が無くなっちゃうんだよ」



「ひえぇぇ・・結構シビアなのねぇ」

「ですわね。ああっ!?ミール様っ!わ、わたくしのも膜が消えてしまいましたわっ!」



「ああ。セリーのは、ほら。魔石が地面から顔をだしてるだろ?完全に埋め込まないと効力はドンドン失われるから注意なんだよ。あと、ただ砂をかけて魔石を覆っても効果は低い。しっかりと魔石を埋め込む穴を作る必要があるね」



「な、なるほどですわ。という事は、魔石を地面に埋め込んでから、徐々に土の中で移動させるというのも難しそうですわね。どうしても土から顔を出してしまいそうですもの」


「そうだな。完全に土の中で移動させれればいけるかもしれないけど、やっぱりリスクはあるね」



「ミール様。結界石を発動させるには、2〜3分くらいかかりました。そして大地に埋めない場合、つまり移動しながら使った場合も2〜3分ほど効果が続いております。ということは、結界石を山のように持ち歩き、発動したと同時に、次の結界石に魔力を込め、次々と発動させ続ければ、移動しながらでも、ずっと結界を発動させる事が可能ということでしょうか?」



「おお、リューイは結構発想力が豊かなんだな。確かに、そのやり方だと理論上は可能だね。例えばトッテラムって国があるんだけど、その産地の結界石は移動しながらでも10分くらいは保つんだ。だからリューイが言うように次々と発動する事によって移動しながらでも結界を維持する事が出来るから、緊急脱出用としてドーラメルク産と同じくらい人気だね。このように結界石は産地で、その効果時間は変わり、生産地によっては次の結界石が発動する前に効果が切れちゃう事もあるから注意が必要だ。あと、結界は大地の力を利用して初めて本格的に効果が発動する仕組みだから、移動しながらだと強度はどうしても低くなる。だから、仮に相手がデーモンだった場合は破壊される恐れがあるかな」


「な、なるほど」


「ねえねえ、ミールはさ。以前私達を助けてくれた時に結界石使ってくれてたじゃん?あの時ってすごーく長い時間、移動しながら発動してた気がするんだけどなんでなのかなぁ?」



「リリフ。俺はお前達を助ける時に言ったが、俺が使うアイテム、能力の事は一切質問禁止って言ったよな。それは守ってくれ」



「あっ・・・ごめんなさい・・」

 明らかにず〜んと落ち込むリリフ。



「ははは。すまん、脅かしすぎたな。俺はリリフ達の事は信用している。だからお前達4人にはいくらでも説明しよう。だが、他の奴がいる時は決して喋らないように気をつけてくれ。うっかり口を滑らすってことさえないくらい注意するようにな」

 ミールはリリフの頭を撫でながら悟す。



 リリフは自身の軽はずみな質問を悔いるが、それと同時にミールが自分の事を本当に真剣に考えてくれている、信頼してくれていると感じ、嬉しくて涙目になる。



 ブルニとリューイはリリフ達を救った当時の事は知らないので、よく分かってはいないが、ミールが自分達の事を信用してくれているという言葉が嬉しくて、尻尾をパタパタさせている。



「それで、何故俺が使った結界石は移動しながらでも使えたかというと・・・」

「ごくり・・」



「それは内緒です」



「えええええ!?何でも説明するって言ったばかりなのにぃー?」

「正にアメとムチですわっ!いえっ、ムチアメムチですわっ!」

「ふえぇんん」



「ははは。すまん冗談だ。光の属性。これを魔石に込めると長続きするんだよ。だが、光属性はほとんどの人は使えないからリリフ達には無理だな」



「そーなんだぁ。分かったわっ!ちゃんと秘密にするねっ。教えてくれてありがとうっ」

「ああん。もうムチは終わりでございますかっ?もっと頂きたいですわぁ」

「ブルニも秘密にしますぅ」

「僕も注意します」



「そういえばミール様。以前お使いになってくださったドーラメルク産の結界石は、匂いも、音も、姿さえも隠せていたのですが、こちらの結界石は全て丸見えですのね」

 セリーがリリフ達が発動させている結界を見ながら質問してくる。



「そうだね。ドーラメルク産は世界最高峰の性能って言われているけど、6時間くらいしか持たないんだ。対して、この国、ルーン国産の結界石は世界最低の性能って言われてるけど、効果時間は12時間くらい持つね。同じ結界石でも産地・・・ようは魔力を込める聖女の力で、大きく性能や効果時間が変わるのが特徴だね」


「えー。てことはこの国の聖女様はイマイチってこと?あーん」

「うむ・・・残念ながら、あまり評判は良くないね」



「ねえ、ミール。この結界って12時間くらい持つって言ってたけど、途中で引っ込める事は出来るの?えっと・・・つまり、5時間くらい使ってさ。それから一旦使うの止めて、しばらくしてから再度魔力を込めれば、残りの・・・7時間?それくらいは使えるのかしら?」



「うんうん。良い質問だね。残念ながら結界魔石は一度魔力を込めて発動したら、それまで。引っ込める事は出来るけど、再度残りの結界を発動する事は出来ないな」



「そっかぁ。じゃあさ、これって1度使ったら終わり?普通の魔石のように、再度魔法屋さんに魔法を込めて貰う事は出来るのかしら?」



「結界魔石に関しては、1度使ったら終わりだね。どうしても結界魔力を使えるのは聖女だけだから。ただ道具屋とか、役場とか。色々な所で買い取ってくれるから、捨てない方がいいかな。そこで回収した魔石はリサイクルされ、再度聖女が魔力を込めて、市場に流れていくって仕組みだね」

「へぇー。そーなんだぁ」



「よしっ。全員無事練習できたみたいだな。それじゃあ1個結界石を渡しておくよ。平原は広いからね、なにかあった時に緊急用で使ってくれ」

「え?・・・ミール・・・それって・・・」



「ああ。今日のリリフとセリーを見て、十分2人はフィールドの注意点を身体で覚えていると思った。そして、リューイとブルニも忠実に指示を守って実行している。そろそろ独り立ちをして行動範囲を広げても大丈夫だろう」



「わあっ!やった!」

「うう・・・なにか身震いがしてきましたわっ。期待に応えられるように頑張りますわ」

「ブルニももっと沢山練習しますっ」

「僕ももっと周りが見えるようになりたいです」



「ああ。あと、独り立ちするうえで重要な点をいくつか話しておく。ちょっと長くなるけど皆んな、しっかり聞いてくれ」


「はいっ!」

「お願いしますわ」

「はわわっ!メモメモっ」

 メモ大好きなブルニは慌ててメモ帳を引っ張り出す。




 という訳で・・・唐突ですが、デーモンについての情報を幾つか開示しよう。




「えっと。フィールドで注意する点はさっき話した通りで、あとは自分達で色々シミュレーションして擦り合わせて行こう。ただし、森には入らない事。森に入ると一気に危険度が増す。まだお前達には早い。焦らずに平原で経験を積もう」

「はいっ!」



「で、それとは別でフィールドの冒険者が、とにかく注意するべき事はデーモン、つまり悪魔種の対応なんだ」

「悪魔種・・」

「そう、そしてもし悪魔種と出会ったら、今のお前達だったら100%全滅するだろう」

「・・・」



「正直どんなに気をつけてても、出会う時は出会う。だが、これから話す特徴、習性、対処方法など。知ってるヤツと、知らないヤツでは生存率は大きく変わる。だからこそ、いざって時に冷静に対応出来るように、しっかり頭に叩き込んでくれ」

 全員神妙な表情でコクリと頷く。



「まず、これは聞いた事があると思うが、絶対に手を出すな。手を出した時点で終わりだ。特に調子乗りランクの紫あたりが1番危ない。とにかく手を出すな」

「はいっ!」



「次にデーモンが現出する条件だが、これは屍が必要になる。人型の死体だったら30を超えたら危険だと思う事。平均すると50前後で具現化することが多いけど、早いと30くらいで出てくるヤツもいる。気をつけてくれ」



「ミール様。人型という事は、獣類は違うという事でしょうか?」


「その通り。知能が比較的単純な獣系、植物系、虫系などは100前後の屍が必要と言われているな。逆に死体が残らないエレメント系、スライムなどのジェル系、既に屍になっているアンデット系は、いくら倒してもデーモンは現出しない」

「ふむふむ。なるほど」



「ミール様。一つ質問がございますわ。この屍というのはその時だけが対象なのでしょうか?つまり、魂と言ったらいいのでしょうか?そういったものは、その場に残り続け、先程のクエストと同じように、日にちが変わっても合算でカウントされるのでしょうか?」



「なるほど。良い質問ですね。じゃあ、少し。昔の実験結果を教えよう」

「実験?」

「ああ。ちょっと道徳的にどうなんだ?って問題はあるんだが、詳しく調べないと対応しようがないからね。昔はこういった実験が多く行われていたって事だけ知っといてくれ」

「う、うん・・」



「で、どんな実験だったかと言うと、まず100体の獣モンスターを殺す。するとデーモンが1体具現化した。約10日間、同じように殺し続け、毎日具現化するのを確認する。すると大体95〜120くらいの死体があるとデーモンは現出するという事が分かった。次に、95体の8割・・・つまり76体殺して、翌日にも76体殺した。しかし、デーモンは具現化しなかった。念のため10日近く続けたみたいだけど、結局デーモンは1体も現出しなかったらしい」

「なるほど・・・」



「次に人間を50人殺した」

「えっ?!に、人間も?!」

「ああ。奴隷だったり、犯罪者だったり、従属している住民だったり。そいつらを容赦なく殺していった」

「・・・」



「すると、デーモンが1体具現化した。これも10日間毎日続け、具現化し続けることを確認すると同時に、大体45〜60くらいで現出する事が分かった。次に、同じように45体の8割、つまり36人殺して、翌日にも36人殺した。しかし、獣と同じでデーモンは具現化しなかった。だが・・・」

「だが・・?」

「3日目。変わらず36人殺したら、なんとデーモンが1体具現化したのさ」

「へー」



「この事実から分かる事は何だと思う?リリフ」

「えっ?・・・えっと・・・デーモンが具現化するにはバラつきがある?・・・」



「確かに獣系では95〜120。人間種は45〜60とバラつきはある。だが、獣系はその8割の76体もの死体を毎日積み重ねてもデーモンは具現化しなかった。しかし人間種は36人を3日目続けたら具現化した。そしてその後も2〜4日ほどのペースで具現化し続けた。で、重要なのが人数だ。平均すると35人前後ってくらいなんだけど、早いと20人ほどの死体で具現化するヤツもいたのさ。この事実から分かる事はなんだい?」

「えっと・・・んと・・」




「魂・・・みたいなものは、その場に留まる事がある・・つまり、合算されると言うことでしょうか?」




「その可能性はあるって事だね。そして、人型・・つまり人間種や亜人種など、感情が豊かな存在の魂ほど、その場に留まりやすいって事らしい。現に獣系は、いくら積み重ねても具現化してないからね」

「へぇ・・」



「あと、環境も大切みたい。例えばここら辺のように平原だった場合は、魂は移ろいやすく溜まりにくい。だけど、周りを障害物で囲まれた(くぼ)みのような場合や、洞窟などは留まりやすいみたいだから注意してくれ」



 以前、リリフ達を助けた時に、ゴブリンの巣からデーモンが出てきたのは覚えているだろうか?

 あの時、人間種の屍は食料として運ばれた者も含めて10人程度。

 ゴブリンの屍は30体くらいあったとしても、まだまだ具現化するには足りないはずである。

 しかし、それでも現出してきたという事は、洞窟内にはそれだけ今まで被害に遭った者達の魂が溜まっていたという事であろう。



「なるほどですわ。つまり、閉鎖的な空間では特に注意が必要という事ですわねっ」

「そういう事だね。魂が滞留しそうな場所での戦闘は、合算される可能性があるから要注意って事だね。ここまではオッケーかな?」

「はいっ」



「では次に、もし出会ってしまった場合の対処法だが、デーモンが具現化したばかりの時は思いっきり走れ。とにかく距離をとれ。これでほぼ助かる」

「へー。思ってたより単純・・」



「ああ。奴等は具現化したばかりの頃は、しばらく動かないのさ。半分寝てる状態だ」



「でもミール様。デーモンが追いかけてきたらどうするのでしょうか?それ程の相手ならかなり素早いはず・・・逃げきれない気がするのですが・・」

「だろ?普通そう思うよな」



「なんか理由があるんだ??なんだろ。目が悪いとか?」



「おっ!惜しい。デーモンはね、普段は精神世界にいるじゃん?だからだと思うんだけど索敵能力がザルなのさ。おそらく前方しか見てないんだと思う。人間は横も後ろもキョロキョロして相手を探したり、匂いとか、音とか、足跡とか、そういったのを駆使して情報を集めるだろ?そういった感覚がないから距離さえ離しちゃえば比較的楽に逃げれるって寸法さ」

「へー!」



「でも手を出したらダメだぜ?そこら辺の・・・例えばスライムとかも攻撃を受けると活性化するだろ?そんな感じで活性化したデーモンは明らかに能力が変わる。正真正銘、目にも留まらぬ速さってやつさ。紫ランクくらいでは、手も足も出ないだろう。更に手を出した時点でロックオンされるっていうのかな?なんか精神的に繋がるらしく、どんなに距離を離しても、どんなに複雑な場所に隠れても、見つけられるし追いつかれるよ。だから、とにかく手を出さない事が先ずは重要なんだ」

「なるほどなるほどぉ」



「でも運が悪いって時は必ずある。例えば森の中を歩いていたら、木の影からいきなり目の前にデーモンが現れた場合とか」

「ひぇぇ・・」

「その場合は一巻の終わりですわね?」



「いや、手を出してないなら可能性はある。手を出したらロックオンされるが、出さなければ索敵能力はザルのままだし、素早さもたいして速くない。視界も正面しか見てない感じ。だからジグザグに逃げたり、Uターンしたり、障害物を上手く使って逃げれば見失う可能性は高い。あくまで目で追ってるだけだから大声を出しても平気だ。上手く連携を取りながら逃げると良い。聞いた話だと光玉も有効らしいぞ」

「へえぇ!!」



「ミール様。否定的な事ばかり言ってしまい申し訳ないのですが・・あまり障害物が無い・・例えば、この平原のように比較的視野が開けていた場合はどうされますか?」



「うむ。その時は諦めてくれ」

「・・・」

「ふぇぇん」



「だが、何回も言うが奴等の視野はかなり狭い。遠くからデーモンを見つけたら距離を取ったり、横にズレたりすれば、やり過ごせる可能性もあるよ」

「な、なるほど」



「そしてもう1つ重要になるのが結界石だ。視野が開けてる、怪我人や体調が悪い人がいる等・・少しでも逃げれなさそうと不安を感じたら、迷う事なく結界石を発動させる事が重要だ」



「でも・・さっきの話だと、移動しながら使うと2〜3分くらいしか持たないんでしょ?それじゃあ焼け石に水じゃない?」

「ああ、だから発動したら大地に埋め込むのさ」

「???」



「それがデーモンの特徴や習性を知っているヤツと、知らないヤツの差さ。デーモンはね、現出してから大体2日すれば、具現化を維持出来ずに精神世界に還っていくんだ」

「ええっ?!そうなの??」



「ああ。現出したばかりのデーモンは、野良デーモンと呼ばれてるんだけど、奴等の目的はハイデーモンに昇格する事。ハイデーモンになる事で、現世との繋がりも強固になり、長期間存在する事が可能となる。能力も飛躍的に上がるしね」



「へ、へぇ・・ど、どうすればハイデーモンになれるの?」



「色々条件があると言われてるね。1番ハッキリしてるのは、大量の負の感情を獲得することかな?特に人間の断末魔、死ぬ時に出す負の感情が、大量にあると昇格できるらしいね」

「つまり・・沢山の人間を殺す事・・・ですわよね?」



「まあ、そうだね。大体100人くらい必要と言われてるよ。だからもし、大量に人間を殺しているデーモンに出会ったら、ハイデーモンに昇格する可能性があるから、より一層注意が必要ってことだな」



「あの、ミール様。もしそういった状況になってしまったら、デーモンはハイデーモンに昇格するわ、更に大量の死体を糧に新たなデーモンが具現化してくるわで、てんやわんやって事ですわよね?」



「うんうん。流石セリーだな。良い質問。実はそこだけは特殊で、デーモンに殺された死体は、昇格に必要なエネルギーに変換されるらしく、新たなデーモンの現出には使用されてないらしいね。全く使用されてないって事はないんだけど、デーモンに殺された骸で、新たなデーモンが具現化するには、もっともっと大量の死体が必要になってくるんだ。だから、デーモンがハイデーモンに昇格して、更に次々とデーモンが具現化してくるっていう負のサイクルは起こらないみたいだね」

「へええ・・・」



「で、話を戻すと、2日の内に必要なエネルギーが獲得できなかったデーモンは、具現化を維持出来ずに消えていくってことさ。だから危ない気がしたら結界を発動して、2日間籠城するのも有りだと言う事だね」



「なるほど。という事は少なくとも4つ以上は、結界石を持っておく必要がありますわね。12時間ですものね、効果時間は」

「そうね。一応予備も含めて5個は持つようにしましょ!」

「食料やお水も必要ですね」



 リリフとセリー、リューイが深刻そうに話し合っていると、ブルニが慌てた様子で声を張り上げる。




「大変っ!!う◯ちが出来ないですぅ!」




 一瞬の沈黙後・・・


「・・・わ、私は気にしないわ・・」

「ぼ、僕はちょっと・・」

「何を言ってるのです!リューイ!男の子でしょ!」

「そ、そんな!男女差別です!」

「・・・」



「ま、まあ・・そこら辺はPTの絆で乗り越えてくれ。で、もう1つ重要な点がある。デーモン達悪魔種は、結界石を使う者を優先的に狙ってくる。だから迂闊に目の前で結界石を出すのは危険だ。結界石を使う事は、デーモンに手を出す事と同義だと思ってくれ。活性化された能力で、あっという間に殺されるだろう。だから先ずは距離を取ること。そしてデーモンの視界から外れてから使う事を心がけてくれ」


「なるほど・・・知能は高いのですね」



「正直、結界石を狙ってくるのは、ある程度強いモンスターなら有り得る事だ。ただデーモンは、かなり執着して狙ってくるから注意が必要だな」



「そっかぁ・・これは色々と準備する必要もあるねっ!」

「ですわね。独り立ちで浮かれている場合ではありませんわ」

「ブルニも、もっともっと頑張りますっ」

「常に油断しない気持ちを持たなければ」



「まあ、森にさえ入らなければ、デーモンに出会う確率は劇的に下がるから。しばらくは平原で経験を積むことだな」

「そんなに違うんだ?!」



「ああ。ここの平原は、そもそも野生動物が少ない。だから捕食する側のモンスターの数も少ないんだ。それに比例して、死体の数も少ないからデーモンが現出しにくいんだよ。デーモン自体もエネルギーを得るために、生命が多い森を徘徊したがるしな」



「そーなんだぁ。でも、ミール。街には沢山の人がいるよ?結界には守られているけど、そういった人間のエネルギーに引き寄せられたりはしないのかなぁ」



「あわわわっ!み、ミミミミール様っ!リ、リリフ姉様っ!あ、あのっ!わ、私達の暮らしていた集落はっ!だ、大丈夫なのでしょうか?!」


「あ、そうよっ!ミール!あそこは結界に入れない獣人達が沢山いるわっ!その人達が襲われたら、そのハイデーモンってヤツになっちゃうんじゃないのかしらっ!?」



「うんうん。まずはエネルギーに関してだけど。一応ね、結界内にいれば外にはエネルギーは漏れてないんじゃないかってのが、今の学者達の見解だね。仮に結界内のエネルギーを感知できているなら、もっともっと多くのデーモンが街に向かって来ているはずらしいからさ」

「へぇ。そーなんだ」



「でも、もちろんデーモンもれっきとした生命体。つまり、魔道具のように規則正しく動く奴らばかりじゃないんだ。全くその場から動こうとしないデーモンもいれば、明らかに生き物が少ない荒野の中を彷徨うヤツもいる。つまり、森の中じゃなく、この平原を選ぶデーモンもいるって事だね。実はそれが問題で、リリフやブルニの心配通り、街にとっては、野良デーモンが亜人種達を襲うのが一番の懸念材料なんだよね。だから、ほら。リリフもセリーやルクリアと一緒にガタリヤに向かってた時に見たろ?あの見張り台。あそこにはね、マーカーの適性を所持している兵士が配置されてて、デーモンが現出していないか、彷徨っていないかを24時間、常に監視しているんだよ」

「ほへぇー。そーだったんだぁ」



「それで、もしデーモンを見つけたら、難民キャンプに駐在している兵士に連絡がいき、亜人種達に逃げる準備をさせたり、討伐隊が組織されるって寸法だね」

「まあ・・・ガタリヤの兵士様にはデーモンを倒せる強者がいるのですわね?」



「そうだね。残念ながらガタリヤの冒険者にはデーモンと戦える者はいないけど、兵士には2〜3人程いるらしいね。その中でもダストン将軍っていう人がいるんだけど、この人はこのルーン国の全ての冒険者、全ての兵士の中でもトップクラスの実力者って有名だよ。実際、この人がいるからガタリヤは亜人種達を受け入れる事が出来てるんだよね」



「へぇ。てことは亜人種を受け入れてないとこもあるってこと?」


「そうそう。悪魔種と戦える者は限られているからね。そういった冒険者や兵士がいない街や、地理的に早期発見が難しい街は、人獣以外の者を排除して安全を確保してるって感じかな。キーンとかも猛者は多いけど周辺には山や森林が多く、どうしても発見が遅れてしまう。だから人獣しかいないね、あそこは」



「そうだったんですね・・・だからキーンから危険を犯してでも、皆んなでガタリヤに来たんだ・・・お父さんお母さんは配給があるからだよって言ってたけどぉ、実際は結界に入れなくなったブルニのせいだったんだ・・・ごめん、お兄ちゃん」


「良いんだよ、ブルニ。実際にキーンの生活が限界だったのは事実だしね。運良く獣人の集団と同行できてガタリヤまで来れたし、こうしてリリフ様セリー様、そしてミール様に出会えたんだから。父さんも母さんも、今の僕達を嬉しそうに見守っているはずさ」



「お兄ちゃん・・」

 耳をしゅんと垂らしているブルニの頭を優しく撫でるリューイ。



「ですが、ミール様。僕が言うのもなんですが、正直、どの街も人獣のみにすれば良いのではないでしょうか?結界に入れる人獣のみにすれば対処は圧倒的に楽になる気がするのですが・・」



「確かにね。だけど獣人や半獣は身体が大きい者が多く、身体能力も人間種や人獣よりもずっと上なんだ。産まれてくる人数も、人間や人獣と違って5つ子6つ子は当たり前だから繁殖能力も高い。だから労働力として、かなり重宝される存在なんだよ。個人個人の能力が高いから、農作業や土木工事もはかどるし、モンスターすら個人で追い返す事も出来るヤツが多い。更にほっとけばドンドンと増えるし、大人に成長するのも早い。つまり、街にとっては都合が良い存在なんだよね。効率良い道具を取っ替え引っ替えするかのように使い捨て出来るんだから。だから街の外の作業は獣人や半獣で、街の中の作業は人獣でやりくりしたいってのが本音なんだろうね」



「うぇぇ・・なんかヤダなぁ・・」

「でも、それが現実ってことですわよね・・・ミール様が前に仰っていたように、街の生活を成り立たせるには亜人種の存在が必要不可欠ですもの」



「そうだね。人獣のみで形成すると、悪魔種の対応は楽だけど、どうしても結界外の作業は不十分になる。人獣は成長スピードは早いけど、繁殖能力や身体能力は人間とさして変わりはないからね。農作業や土木工事で不十分な点が多く出てくるだろうし、人手不足にも陥りやすい。すると、一番大切な街中の作業が疎かになり、インフラや流通で行き届かない所が多く出てくるだろう。対して獣人達を受け入れれば、今言った問題は全て解決するけど、悪魔種の対応に不安な部分が出てくる。つまり、どっちもメリットもデメリットもあるって事だね」



「そっか・・こっちの問題を片付けたらハイっ解決っ!・・て訳にはいかないのね。難しいものだわ」



「そうだね・・・おっと、かなり話が長くなっちゃったな。つまり、今のガタリヤにはダストン将軍がいるから難民キャンプがデーモンに襲われる心配は少ないけど、やはりもう少し頭数がいた方がいいよね。だからリリフ達もしっかり実力を付けて、いずれガタリヤの、難民キャンプの人達の助けになる存在に成れればいいって事だな」



「あはは。そうよねっ!そのために冒険者になったんだし!」

「ブルニも頑張りますっ!早くあの子達を救えるように!」

「うんうん。頑張ろうね、ブルニ」

「はいっ!」

 ニコニコとブルニの頭を撫でるリリフ。



「そうだ。最後に、言い忘れてたけど警備局の通話登録をしといたほうがいいな」

「警備局?」



「ああ、そうだ。警備局に設置してある固定魔石に登録するんだ。すると個人宛のように通話を繋げる事ができる。今は俺がいるから、もし結界で籠城することになっても、俺に連絡してくれれば助けに行く事が出来るが、いつまでも近くにいるとは限らない。だから念のため登録しといた方が良いってことさ。なにが起っても良いように準備を念入りにね」

「うん!分かったわ!」



「よし。俺から言えるのはこれくらいだな。あとは皆んなで話し合ってシュミレーションして、頭に叩き込んでいこう。明日からが本格的な冒険者のスタートだ。おめでとう」

「そうね!楽しみ!」

「気を引き締めていきましょうですわっ!」

「ブルニも頑張りますっ」

「僕ももっと周りが見えるように努力します」



「ああ。お前達なら大丈夫だ。ただし、再度これだけは約束してくれ。1つは森には入らない事。もう1つは必ず強敵モンスターの出現情報を確認する事。守ってくれよな」


『はいっ!』



            続く

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