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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記⑯

 店を出て直ぐに用水路の排水溝に足を取られそうになった。


 確かにこんな場所にお店があるなんて思わないよな・・・


 ミールはマジックポケットに魔石をしまい込み、帰路につく。

 辺りは夕焼けの光が優しく街を包み込んでいた。



⇨ガタリヤ奮闘記⑯




 ミールが魔石屋を出てグワンバラの宿に着いたのは、日も暮れて街灯の明かりが路地を照らし始めたくらいの時間だった。

 かなりの距離を歩き回ったが貴重な魔石を沢山入手出来たので足取りは軽い。

 食堂の扉を開けると直ぐにリリフ達の笑い声が聞こえてきた。



「あっ!ミールっ!おっ帰りぃ~!」



 リリフの声が明るい。学校は楽しかったようだ。

 テーブルを囲んでリリフ、セリー、リューイとブルニが目をキラキラさせ頬を紅潮した状態で、早く学校の事を聞いてっと身体全体で主張している。



「ど、どうだった?・・・学校は・・・」

 待ちに待った質問に全員がテンションMAXで話し始めた。



「スッゴく楽しかったあっ!」

「とても有意義な時間を過ごせましたわっ!」

「ぶ、ブルニも皆さんと一緒に授業を受けれて楽しかったですっ!」

「やはり既に冒険者として活動しているお二人とは力の差を感じましたっ!!もっと精進しなければっ!」 



「あのねっあのねっ!先生がリリフは筋が良いって!うふふっ!褒められちゃったぁ!」

「わたくしも魔力量が凄いって褒められましたわっ。初心者とは思えないとっ!」

「ブルニはあんまり武器は使えなかったんですけど・・・でも頑張りますっ!」

「動き方がとても参考になりました。やはり本で読むのと実際に動きを見るとでは、全く違いますね」



「そうか・・・まあ良かったじゃないか。色々と収穫があったみたいだし」



「うんうんっ。周りから適性持ってるの凄く羨ましがられちゃって・・・久しぶりにチヤホヤされたって感じ!正直悪い気はしなかったわっ!やっぱり適性持ちって凄いのねっ」


「ですがリリフ・・・皆様は適性が欲しくて通っていらっしゃる訳なので・・・良い気分しなかった人も居たと思いますわ。適性を獲得するのはお金も労力も時間もかかりますもの。わたくし達は素質適性持ちだったからそういう苦労を知らないですが・・・調子に乗っては駄目だと思いますのっ!」



「そ、そうよね・・・私・・・またやっちゃった・・・えーん。ごめん、セリー、リューイ、ブルニ・・・」


「え?!そ、そんな事ないですっ!リリフ姉様は皆さんに優しく接してて凄いなって思ってましたっ!」


「わたくしもついお説教をしてしまう癖を直さなくてはっ!今言うべき事では無かったですわっ!ごめんなさいっリリフ」


「な、何言ってるのよっ!逆よっ!嬉しいもんっ私!いつもありがとっ!」

「ああんっもう・・・リリフっ!大好きですわぁっ」



 ぎゅうっと抱きしめ合う二人。

 そこにスタスタとルクリアが歩いて行き、ペトっと二人にくっつく。



「・・・私もだいすき・・・」

「るくりあぁぁ!私もだーいすきっ!」



 ぎゅぎゅーっと抱きしめ合っているリリフ達。

 ブルニが尻尾を振って混ざりたいような顔をしているが、中々勇気が出ないようだ。



「ブルニはどんな武器が1番良かったんだ?さっきは、あんまり上手くいかなかったって言ってたけど」



 突然ミールが話しかけてきたのでビクッとしたブルニだったが、直ぐに直立してハキハキと答え出す。



「はいっ!ミール様!ありがとうございます!」

「いや・・・そうじゃなくて・・・」

「あ、はいっ・・えっとっ・・そのっ・・」



 だいぶ慣れたとはいえ、積極的に距離を詰めてくるリリフ達とは違い、どちらかというと、塩対応なミール。

 そんなミールに急に話しかけられて、しどろもどろになってしまったようだ。



 そんなブルニの頭を撫でて、リリフは優しく語りかける。


「ブルニはねぇ、盾が凄いのっ!1人1人ね、盾を構えてみんなで押したり引っ張ったりしたんだけど。みんな直ぐに盾を剥がされたり転んじゃったりするの。でもねっ、ブルニは全然動かないのよっ!スッゴくバランスが良いって先生褒めてたよっ」


「へぇ~それは凄いな」


「そ、そんなっ・・・ブルニなんてまだまだですっ」

「盾とか持った事とかあったのか?今まで」

「い、いえっ。初めて持ちましたっ!」

「ブルニって最初会った時も、色々困ってる人を助けてたりしてたから、きっと性格的にも性に合ってるんじゃないのかなぁ?」




「た、確かにみんなを守るのは好きですっ!だから盾が1番好きですっ」




 その瞬間、ブルニがパアァっと光り輝く。



「きゃっ!」

「ええ??ナニナニ?!」

「ブルニっ!」



 リューイが慌ててブルニを抱きしめる。

 しかし光は直ぐに収まり、当のブルニはキョトンとしている。



「ミ、ミール・・・今のって・・・」

「ああ、ブルニは適性はまだ持ってないから、スキル獲得の光じゃないね。ということは・・・」



「やったじゃんっ!ブルニっ!適性獲得した光だよっ!今の!」

「おめでとうですわっ!ブルニっ!」

「ええ??そ、そうなんですか?!」

「・・・おめでと・・・ぶるにっち・・・」



 周りの祝福の嵐に、戸惑いを隠せないブルニ。



 しかし段々と実感が湧いてきたようで

「う、うわ~ぁん。嬉しいよぉぉ・・・お兄ちゃぁんっ・・・」

 ブルニはリューイに抱きつき泣き始める。



「凄いですわっ。2日目?たった2日で適性を獲得しちゃうとはっ!とんだ大型新人ですわねっ!」

「ぶひぃぃ、ぐしゅっ・・・ぁりがちょぅごじゃいまちゅ・・・」

「どんな適性なんだろ?!明日早速見に行きましょっ!」

「は、はいい、ぐしゅっ、リリフ姉様ぁっ」



「その後は早速実践デビューですわねっ!新しい冒険の始まりですわよっ!」

「ええ??そ、そんなに早くですか?!」

「うんうん。やっぱり早めにフィールドに出て経験したほうが成長は全然違うから」

 ブルニは不安そうにリューイを見る。



「あ・・・リューイはもうちょっとしばらく学校だね・・・でも安心してっ。私達がしっかりブルニを守るからっ」



「お兄ちゃん・・・」

 ブルニの不安そうな声を聞いてリューイはグッと拳に力を込める。



『ブルニの側にいたいっ。でも適性を獲得しなければ・・・』

 リューイは自分の不甲斐なさに悔しさが込み上げてくる。



「すまん・・・ブルニ。兄ちゃん不甲斐なくて・・・」

「そ、そんな事ないよっ!」

「そうですわよ。だいたいたったの2日で適性を獲得する方がおかしいのですわ。リューイはゆっくりと焦らずに勉強をすれば良いのです。3ヶ月くらいで殆どの方が獲得出来るようですし、リューイも直ぐですわ」



 通常であれば3ヶ月でも十分早い。

 しかしリューイは今までいつも一緒に行動していたブルニと3ヶ月も離れて暮らす(正確には学校に行っている時間だけ)事が、絶望的なほど長い時間に思えた。




「さ、3ヶ月も・・・」




 リューイが思わず呟いた瞬間、リューイも身体全体が光り輝く。



「おおおおおおっ?!」

「マジですの?!」

「・・・リューイまで・・・」

「ふわわっ・・・お兄ぃ・・・」

 同じように光は直ぐに収まり、リューイは自分の身体を確認する。



「今のって・・・適性・・・獲得って事ですか?・・・」

 リューイは恐る恐る尋ねる。



「そうよっ!リューイ!おめでとっ!」

「凄いですわっ!凄いですわっ!」

「・・・まさか二人とも・・・2日で・・・びっくり・・・」



 ブルニは泣きながら

「お兄ちゃあん!!おめでとうぅぅ!」

 ぎゅっと抱きつくブルニ。



 リューイは噛みしめるように、抱きしめ返す。

「ああっ!ありがとう!ブルニ!」



 そんな兄妹の抱擁に

「なんか・・・リューイの適性って妹関係な気がするの私だけ?・・・」

「わたくしもそう思ってしまいましたわ・・・」

「・・・適性シスコン・・・」


 そんな事は無いと思いつつも、どうしてもそういった考えが浮かんでしまうリリフ達。

 翌日、その予感は少しだけ当たることとなる。

 



 ギルドで早速確認をしたリリフ達は、画面に表示された適性の名前に一瞬固まってしまう。


「こ、これって・・・壊れてるの?・・・」

「そんな訳ないですわよね・・・」

「お、お兄ちゃん・・・」



「なっななな・・・なんですか?!この名前は?!」

 当のリューイは顔を真っ赤にしながら驚いている。



 画面に表示されている名前は『愛の回復士』

 正真正銘れっきとした適性名だ。



「これはまた・・・珍しいのが出てきたな・・・」

 画面機を覗き込んだミールは思わず呟く。



「これって?・・・本当の名前なの?」

「ああ、れっきとした適性名だ。しかもレア適性だな」

「え?!凄いじゃん!リューイ!レア適性だってよっ!」


「だけど・・・人気は無いな・・・」


「え?どゆこと?」


「つまり・・・レア適性が全て凄いとは限らないってことさ。この愛の回復士ってのは、回復士自身が愛情・・・もしくは信頼している者にしか魔法が使えないって適性なんだよ。回復士を目指している人の大半は街とかで治療院を開いてお金を儲けようって考えてる人達なんだ。でもこの適性だと治療出来る人は限られてるだろ?だから人気が無いのさ」


「なるほどですわぁ。でも回復士は貴重ですわよねっ?」



「その通り。リューイの場合は冒険者になるんだからあまりデメリットは無いよね。自分の仲間さえ回復出来れば良いわけだし。しかも回復士!リリフ達にとっては超超貴重な存在だな。おめでとう、リューイ」



 その言葉にリューイはようやく表情が明るくなる。



「は、はいっ!ありがとうございます!頑張ります!!」

「お、もうスキル持ってるじゃないか。リューイ、以前お前が腕を怪我した時に、リリフが魔石で治したのは覚えてるな?」

「あ、はいっ!」


「よし、それを頭の中でイメージしてみ。あの光をね」

 言われた通り、リューイは目をつぶりイメージする。



「イメージできたらエレクペラーション(回復)って唱えてみ?エレクペラーションだ」

 リューイは1つ深呼吸、そしてゆっくりと力ある言葉を口にする。




「エレクペラーション(回復)」




 するとパアァっと緑色の光にブルニとミールが包まれ、そして消えていく。



「わあっ!身体が軽くなったぁ!お兄ちゃん凄いっ!」



 感激しているブルニとは対照的に、リリフとセリーは渋い表情だ。



「ちょ・・・ちょっと待って・・・ちょっと待って!・・・え?・・今私光った?・・・」


「い、今・・・ブルニとミール様が光りましたわよね?ぶ・る・に・と・みー・る・さ・ま・だ・け・が!!!」


「だよねっ!だよねっ!ちょっとリューイ!」


「ええ??い、いや・・・えっと・・・僕にも何が何だか・・・」



「簡単だろ?リューイはリリフとセリーの事を信頼してないってことさ」

 ミールはニヤニヤしながら答える。



「ひっどーい!ふーんだ!もうリューイなんて知―らないっと!」



「わたくしもですわっ!いつもお風呂上がりのわたくしの胸をガン見してたくせにっ!結局わたくしの身体が目当てだったのですねっ酷いですわっ!」



「ぎぇぇ!そ、そそそそれはぁ!」

「・・・お、お兄ちゃん・・・」

 真っ赤な顔でアタフタするリューイと疑いの目を向けるブルニ。



 ガクッと膝を折り、床に崩れ落ちるリューイにリリフは

「うふふ。じょーだんだよっ、冗談。リューイ。そんな突然信頼なんてしてもらえるとは思わないよっ。ゆっくりでいいから。徐々に私達の事を知っていって欲しい。一緒に頑張りましょ?」


「そうですわっ。男の子ですもの、気にしなくて良いのですわよっ。あまり我慢するのも身体に良くないですわ」


「は、はいっ!リリフ様!セリー様!自分頑張ります!ありがとうございます!」


 なんかリリフとセリーが、全く別の事を言っているような気がするが触れないでおこう。



「じゃあ、今度はブルニの番だねっ!」

「は、はいっ」

 ブルニは緊張した面持ちで測定器の前に立ち、魔石に触れる。



「どれどれ~?」

 覗き込むリリフ達。



「盾使いだって!やったじゃんっ!ブルニの好きな盾だよ!」

「これは・・・ミール様がPTにいるとバランス良くなるって仰っていた、盾役という者では?凄いですわっ!」

「本当ですか?!ブルニ凄いですか?!」

「うんうん。凄いよ!ブルニ!」



 盛り上がるリリフ達だったが

「残念・・・ブルニが盾役をやるのは大変かもな・・・」

「ええ??どうしてぇ?!」



「盾使いってのは以前説明した『武器適性職』ってやつなんだ。対して盾役として活躍している重戦士、パラディン、城塞騎士などなど・・・こちらは『個性適性職』って呼ばれてる適性なんだ」

「ふむふむ」



「で、この2つで大きく違うのがヘイトコントロールを出来るか、出来ないかって事なんだよね」

「へいとこんとろーる?」



「そう、敵の注目度・・・敵視ってやつなんだけど。例えばさ、リリフ達が複数のモンスターと戦ってるとしてさ。敵は誰を狙ってくるかな?」



「え?んーと・・・バラバラじゃない?私を狙ってくる時もあればセリーを狙ってくる時もある感じで」



「そうそう。だからもしブルニが盾役として仲間を守る場合は、あっちこっち行かないといけないよな?それって出来そうか?」

「そっか・・・沢山のモンスターの攻撃を1度に守る事なんて不可能だもんね・・・」



「そう、普通はそうだ。だけどその不可能を可能にしているのが、ヘイトコントロールなんだよ。そのスキルを使うと一気に自分の敵視、注目度が増して、モンスター達はその盾役だけを徹底的に狙ってくるのさ。そうなると当然盾役は自分の防御に専念すれば良いから楽だし、みんなを守りやすい。そして回復役も盾役だけを回復すれば良いから崩れにくい。それが盾役がいるPTはバランスが良いって言われる所以だね」



「つまり・・・ブルニは盾じゃ駄目って事・・・ですよね・・・」

 もの凄く分かりやすくブルニの猫耳がしゅんっと垂れ耳になっているのが可愛い。



 落ち込んでいるブルニの頭を撫でながらミールは

「いや、そんな事はないぞ。あくまで大変ってだけで出来ない事は無い。みんなの協力があればだけどね」



「きょうりょく・・・ですか?」

「どうするのっ?ミールっ!私ブルニに盾役やってもらいたいっ!」

「わたくしも出来る事ならなんでも協力しますわっ!」

「妹の為なら、喜んで」



「リリフ姉様っセリー姉様っお兄ちゃん・・・」

 ブルニは感激で尻尾をパタパタさせている。



「そんなに複雑な事じゃないよ。要はいつも位置取りを考える事、全体を見回す事、仲間の行動を見ること。こういった事が全員に課せられるって感じかな。例えばだけど・・・後衛はブルニの後ろに常に位置取れるように移動して直接自分に攻撃がこないようにしたり、全体を見渡してどのモンスターが動きが速いのか、注意すべきなのかを常に意識したり、仲間が攻撃してるから自分は重ならないように少し待とうとか。ヘイトコントロ―ルが出来る盾役がいたら考えなくていい事を常に意識する必要があるって事だね」



「そっかあ・・・お互いの声かけ、コミュニケーションが大事なんだねっ」

「攻撃一辺倒になってはいけないということですわぁ。気をつけないと」

「誰がダメージを負っているかを常に考えないと駄目ですね」

「ううぅ・・・ブルニのせいで・・・ごめんなさぃ・・・」

「何言ってるのよっ!元々PTは助け合いなのよっ!」

「そうですわっ。わたくし達の可能性は無限大ですわっ」



 胸を張るセリーのぷるんと揺れるおっぱいを、どうしても目で追ってしまうリューイ。

 なにかと気になる年頃だ。



「最初は大変だけど周りを見る、相手の行動を見る、仲間を見るって事は戦闘ではとても大切な能力だから、後々に役立ってくると思うよ。変な話、黒ランクくらいにリリフ達がなった時に、同じ黒ランクの冒険者とは比べようが無いくらい強くなってると思う」


「そっか。それなら悪くないかもっ!」

「いずれ世界に名を轟かせるのですから、今から鍛えといて損がない能力ですわねっ!」


「あとは、正直俺は盾使いって適性の事をよく知らないから、一般論でしか語ってないんだ。そういった人気が無い適性って、実は未発見の隠れた能力とかが有ったりして、もしかしたらヘイトコントロールを超えるスキルを持っている可能性もゼロではないんだよ。だからやる価値は十分あると思う」

「そうなのですかっ。分かりましたっブルニ頑張りますっ」


「未発見のスキルとか有ったら凄いよねっ。難しいとは思うけど・・・」


「いやいや、十分可能性はあるって。自白魔法もそういった感じで発見されたんだし」

「へえ~!そうなんだ?!なんかそういうの聞くと確かに有りそうっ。楽しみねっ」


「じゃあ、早速フィールドに出てみよっ!あ、まずは装備を買わなくちゃだねっ」


「いいですか?リューイ、ブルニ。まずは初心者用の装備で十分なのです。最初から良い武器を手にしてしまうと武器や防具に頼った戦闘になってしまうからなのですわ。まずは自分を磨く事が何より大切なのですわよっ」

「あはは。セリー、それミールの台詞そのままじゃんっ」


「いやいや、伝言ゲームが出来てて俺は嬉しいよ。どんどん伝えていってくれ。特にフィールドは・・・」



『油断するなっ!よね』

『油断するなっ!ですわ』



 同時にハモるリリフとセリー。

 笑いながらギルドから出て行こうとする。



 当然いつものようにコリンズが絡んで・・・こない。



「あら?今日はいないのかしら?・・・」

「この前リリフに打ちのめされて泣いてるんじゃないですの?」

「あはは。そんなこと・・・あ、いた」



 コリンズ達は昼間から食堂で酒を飲んでいた。

 リリフ達を勧誘してきた女の子だけのチームだよって言っていた人達も一緒になって騒いでいる。まるで合コンだ。



「なんかもの凄く楽しそうね・・・」

「顔がニヤけてますわぁ・・・気持ち悪い・・・」

「なんかあの女の人だけのPTも結局男好きなんだね・・・」

「ほっときましょう。あのPTに入らなくて良かったですわ」

「そうね。ホントにそうね」



「リリフさんっ!」

 呆れているリリフ達を呼び止める声がする。



「あ、貴方は・・・そういえばお名前聞いてなかったわっ」

 声をかけてきたのはコリンズのチームを抜けたいと言っていた、女の子達のリーダー格の子。以前リリフが助けた女の子だった。



「あははっ。そうだったぁ。私はリンって言うのっ、よろしくねっ」

「リンちゃんねっ。よろしくっ」

「うんっ。私達も順調に頑張ってるよって伝えたくて」



「おおっ、そうなんだ?!あそこでお酒飲んでるからさ、クエスト行けやって思っちゃったよ」



「うんうん。アイツらは、わざとクエストに行かないつもりなんだよ。下手にクエストに出ちゃうとあたし達にもお金が入っちゃうからね」

「正真正銘のクズですわねぇ」


「でもね、あたし達は負けてないよ。みんなそれぞれバイト先を見つけたしさ」

「そっかぁ。でも地道にやるしかないもんね・・・」



「それがねっ、聞いておくれよ。実は昨日さ、全員でフィールドに出たんだよ」

「ええ?クエストは受けれないんじゃないの?」



「ふふふ。クエストじゃないんだよ。ただの素材集め。今ね、なんか輸送隊が滞っているみたいでさ、物資が不足してるんだって。それでさ、バウンドウルフの肉や毛皮が高騰してて。それじゃあみんなで狩りに行こうって。前にね、バウンドウルフの巣を見つけててね。そこで狩りまくってたら・・・なんと全部で50万グルドになったんだよっ!凄いだろ?!」


「ええ??50万?!凄い!」


「だろだろぉ!なんか凄く先が開けてきた感じがするんだ!まずは街中でバイトして、しばらくしたらまた行ってみるつもり!」

「応援してる!でも、くれぐれも気をつけてね」



「ああ!バウンドウルフ如きに遅れはとらないさっ!そうそう!リリフさん!良かったら通知登録してくれないかな?」

「うんうん。しよー!」

 お互い手を合わせ登録を完了させる。



「ありがとぉ!なんか進展あったら知らせるよ!それじゃあ私はバイト行ってくるよ!またねっ」

「うん!またねー」



 飛ぶようにギルドを出て行くリンちゃん。やる気がみなぎっているようだ。



「じゃあ俺たちも装備を整えたらフィールドに出てみるか」

「はあーい!」 



 それからリリフ達が装備を整えた店で、リューイとブルニも購入する。


「ブルニも武器持った方が良いのかな?」

「いや、盾に集中したほうが良いんじゃないか?慣れてくれば有りだとは思うけど、最初は余裕無いからね」

「ブ、ブルニもあんまり攻撃は得意じゃないです・・・ごめんなさい・・・」

「ううん。全然いいのよっ。攻撃は私に任せて!」

「はいっ」



 装備を整えて南門からフィールドに向かうリリフ達。

 殆どスライムしか出てこない地域なので、デビュー戦にはもってこいの場所なのだ。



「それじゃあ、まずはストレッチねっ。しっかりと筋肉の筋を伸ばそう!」

「は、はいっ。リリフ姉様っ」

「分かりました。リリフね・・様」


「むふっふぅ。ブルニ、リューイ。ご覧になって」

「はわわっ。せ、セリー姉様っ。凄いですぅ。ぺったんこですぅ」

「・・ごくりっ・・」



 得意げに足を開脚して、ぺたっと前屈するセリー。

 その潰れた胸をどうしてもガン見してしまうリューイ。色々と気になる年頃だ。



「次はフットワークねっ。学校でもやったと思うけど覚えてるかな?」

「は、はいっ・・あの・・少しだけ・・」

「すみません。結構皆さんササっと終わらせていたので、あんまり印象に残ってないです」



 リリフはウンウンと頷きながら

「わかるっ。でもね、ミールの話だと結構重要なんだって」

「はわわっ。そーなんですか?ミール様っ」



「ああ、そうだね。リリフ達には伝えたけど、こういう基礎的な動きって重要なんだよね。土台っていうのかな?スキルとか、剣術とか、魔力とか。これから沢山のモノをお前達は覚え、習得していくと思うんだけど、土台がしっかりしてないと、そういったモノを上手く活かせない事が多いんだ。こういった基礎的な動きって地味で単調ですぐ飽きちゃうんだけど、しっかりと積み重ねてる者とテキトーな者とではランクが上がれば上がるほど、実力に差が出てくる部分だと俺は思っている。いざって時に足が勝手に動いたり、危ないと思った時に一歩踏ん張る事が出来たりね。まあ、あくまで俺の考えだから絶対じゃないよ。現にセリーは全くやる気がないしな」



「ひいいん。バレてましたわぁ!」

「あははっ!そうだそうだ。セリーいつもサボってるもんねっ」



「いやいや。別にいいんだよ。セリーは後衛だし、イメージトレーニングをして集中力や魔力を上げたほうが良いかもしれないしね。リリフもセリーもブルニもリューイも、同じPTとはいえ結局は個人個人で考えるしかないんだ。自分には何が必要なのか、何が合ってるのかってね。こればっかりは自分で体験して、経験してみるしかないからな。人からこれが大切って言われても自分が納得しないと身につかないしね」



「ですわよね!わたくしもイメージトレーニングの方が重要だと思ってましたものっ。決してフットワークが苦手だからではないのですっ」

「え〜?ほんとかなぁ?」

 ニヤニヤと疑いの目を向けるリリフ。



「ただし」



 ミールは腕組みをして

「どんなことも2週間くらいは、やり続けないと答えは出ないよ。本気で2週間やり続けて出した答えなら俺は何も言うまい」

「ひいいんっ!許容してるようでしてないですわぁっ!」

「あははっ」



「だからブルニとリューイ。お前達は2週間はしっかりリリフを見習って基礎的な動きを練習すると良いかもな。さっきも言ったが、地味で単調で飽きやすいが大切な事なんだ」


「わ、分かりましたっ!ミール様っ」

「僕もしっかり練習します」

「わ、わたくしもなるべく・・頑張りますわ」



 そうしてリリフ、ブルニ、リューイはしっかりと。セリーは若干サボりぎみにフットワークをこなしていく。



「さてっ。それじゃあいよいよ実践を始めようかっ!」

「は、はいっ!り、リリリリリリフ姉様っ!」

「あはは。落ち着いて、ブルニ。大丈夫よ。ここら辺はスライムしか出てこないから」


「そうだな。スライムとかは別にリリフが一撃で倒しても良いんだけど、ブルニが慣れる事が出来るように、スライムの攻撃をブルニが受けてから倒すようにした方がいいかな?出来るか?ブルニ」


「は、はははっはいいい・・・」



 ブルニは身体のほとんどが隠れるくらいの大盾を構えてビクビクしている。



「大丈夫。なんかあっても兄ちゃんが守ってやる。思いっきり行ってこい」

 リューイは背中をさすりながら励ます。



「お兄ちゃん・・・うんっやってみる!」



 一気に落ち着きを取り戻したブルニは、先頭を歩いていく。

 案の定、スライムがびょ~んっと出てきた。





「うんぎゃああああああああああああああぁぁ!!!!」





「きゃっ!」

 ミールの悲鳴にブルニは完全にビックリしてしまい、一気に結界内までダッシュする。



「んもうっ!ミール様っ!少し離れてて下さいましっ!ブルニがビックリしてしまいますわっ!」

「あははは。本当にもう・・・ブルニ、気にしなくて良いからねっ」

「す、すまん・・・油断した・・・後は任した・・・おえっ・・・」 



 顔面蒼白のミールに、何が何だか分からないブルニは涙目になりながらオドオドしている。



「ふ、ふええん。逃げちゃってごめんなさい・・・」

「ほらほらっブルニ。まだですわよっ。さあっ最初の一撃を食らってきてくださいましっ!」

「は、はいい」



 その場でプルプルと様子を伺っているスライムの前に、ブルニが盾を構えて立ちふさがる。



「えいっ」

 びよ~んとしたスライムの一撃を見事盾で受け止めて、跳ね返す。



「ないすぅ」

 そこにリリフが一閃、スライムを液体化させた。



「や、やった・・・」

 ブルニは汗だくでハアハアしている。



「偉いですわっブルニ!冒険者デビューおめでとうですわっ!」

「やったな、ブルニ」

「はいっありがとうございます!」

「さあっ!ドンドン行くわよぉ!」

「はいっ!」



 それから、しばらくスライムを討伐し続けるリリフ達。

 ブルニはだいぶ慣れてきたのか、盾を構える姿もどっしりしてきた。



「あ!バウンドウルフよっ!3匹いるわっ気をつけて!」

 夕方近く、珍しく複数のバウンドウルフが現れる。



 リリフ達を襲ってきたというよりかは、たまたま通りかかったって感じだったが、ブルニの訓練には絶好の相手だ。



「みんなっ!ブルニの後ろに!ブルニ、焦らなくて良いから、まずは目の前の敵だけに集中して!」

 リリフが積極的に指示を出す。



「はい!」

 ブルニは盾を構え、バウンドウルフの動きに集中する。



「リューイ!直ぐに回復出来るように準備してて!セリー!左側から来たらよろしくっ!私は右側を見るわ!」

「了解ですわっ!」

「分かりました!」



「グオオウウン!」



 バウンドウルフが突進してくる。狙いはリリフのようだ。

 そこにブルニの大盾が進路を塞ぐ。



 ボウンッ



 バウンドウルフと大盾が衝突、跳ね飛ばされたのはバウンドウルフの方だった。



「ナイス!ブルニ!」

 すかさず転がったモンスターめがけてリリフのウイングナイフが炸裂、命を刈り取る。



「えいっ!」

 直ぐにリリフの横に位置を取り、モンスターからリリフを隠すブルニ。しかしその代わりセリーとリューイは丸見えになる。



「良いですわよぉ!ナイス判断ですわっ!」

 ボウッと火の玉がバウンドウルフ1匹を黒焦げにする。

 逆に視界が開けて魔法が打ちやすくなったみたいだ。



「残り1匹!周りには敵はいないわっ!みんなブルニの後ろに!」

「分かりました!」

 急いで移動するセリーとリューイ。



 グオオウウン!



 最後に残ったバウンドウルフは少し体格が大柄で、ブルニは盾で防ぐが弾き飛ばす事は出来ていなかった。




  ガウンッグオウンッ!




 力任せに連続して噛みついてくるモンスター。

 ブルニも必死に盾で防ぐが、ヨタヨタとなんとか防いでいるって感じになってきた。

 かなり疲労しているようで、肩が呼吸で大きく上下している。




「エレクペラーション!(回復)」




 リューイの魔法がブルニを包み込む。



「やああああっ!」

 ブルニは体力が回復して再び盾を構える姿がドッシリしてきた。

 バウンドウルフの攻撃を受け止め、そして弾き返す。



「もらったぁ!」

 地面に転がったバウンドウルフめがけて、リリフはスキル『瞬足』を発動、ダガーナイフを突き刺す。



「ギャオウウン・・・」

 断末魔を上げ、バウンドウルフは事切れた。



「やったぁぁ・・・」

 ブルニが汗だくの顔で満面の笑みを浮かべる。その表情には達成感が満ちていた。



「はあぁぁ・・・なんかスッゴく楽に戦えたわっ。ねえ?セリー」

「ですわねっ。正にみんなで協力して行動できた感がありますわっ!」

「ブルニも皆さんのお役に立てて嬉しいですっ」

「リリフね・・・様の指示が的確で・・・とてもやりやすかったですっ」

「やだぁ~えへへっ」



「ですがリューイ、ブルニ!戦い終わった今が重要なんですわよ!周りへの警戒感は解かないようにっ!漁夫の利を狙っているモンスターも沢山いますからねっ!」



「そ、そうでしたっ・・・気をつけなきゃっ!」

「ですね。常に周りを見る癖を身につけなくては」



 リリフは戦闘中の状況判断に優れていて、周りを見る目も確実に良くなっている。


 セリーは意外にも自分に厳しく、フィールドで決して油断をしなくなっている。



 ミールは2人の成長を肌で感じ、少し嬉しくなった。

 口酸っぱく油断するなと言ってきた甲斐があったというものだ。



 気付けば夕陽の光が草原を照らしている。



「さてさて。そろそろ帰ると致しましょう」



「セリー姉様っ。ブルニはまだ大丈夫ですっ。もう少し経験を積みたいですっ!」



「素晴らしいですわ、ブルニ。でもね、最初は気付かないうちに色々と疲労しているものなんですわよ。それに夜になると別のモンスターが出現するようになるのです。まだまだわたくし達では太刀打ち出来ない強敵ですの。今日はここまでにして、明日また頑張りましょう」


「そ、そうでしたか・・・分かりましたっ!明日また頑張りますっ!」



 リリフ達は、結界内で遠巻きに見守っていたミールのもとまで歩いて行く。



「ミール!今日はここまでにするわね。最後バウンドウルフ3匹が出てきたけど、上手く対応できてたかなぁ?」


「ああ、ここで見てたぞ。4人ともしっかり動けてたし、とても良かったと俺は思う。次は同時に攻撃された場合とか、挟み撃ちにされた場合とか。色々話し合ってシミュレーションしといたほうが良いかもな。フィールドはとにかく準備が大切だから。今日はお疲れ様」


「そうねっ!みんな、あとで話し合いましょっ!色々意見を聞きたいわっ!」

「はいっリリフ姉様っ」


「よーしとっ。じゃあ今日の報酬を配るねっ」

「ええっ?!ほ、報酬ですかぁ?!」

「うんうん。さっきのバウンドウルフで、ちょうど30匹討伐できたのっ。だから初心者応援クエスト達成だよっ!おめでとっブルニ!リューイ!」


「し、しかし!僕らはリリフ様とセリー様の指示がなければ何も出来ませんでした!」


「何言ってるのよ、リューイ。そんなの当たり前でしょ?PTは助け合いなの。そして上も下もないわ。2人は私達の大切な大切な仲間よ」



「リリフ姉様ぁ・・・」

 ブルニは感激して尻尾をフリフリしている。



「それじゃあ今回は、1人分の初心者応援クエストだから報酬は800グルド。だから4人で分けて1人200グルドね。はい、リューイ、ブルニ。魔法通貨で渡すね」


「ふぇぇ!に、200!にひゃくぅぅ!!」

「い、いけません!そんな大金をっ!」

「もうっ!何回も言わせないのっ!みんな平等!」



 リリフは全員に魔法通貨で報酬を渡す。



「はいっ。オシマイ!リューイ!ブルニ!無駄遣いはダメだからねっ」

「ふええぇんん。す、すごいよぉぉ。こんなお金初めてぇ」

「あ、ありがとうございます・・・今後はこの大金に恥じない行動を心がけたいと思います」


「あははっ。200グルドじゃ・・・何も出来ないけどねっ」


「そうですわ。いいですか?リューイ、ブルニ。200グルドでは何も買えませんの。安いと評判のグワンバラ様の食堂でさえ、A定食は250グルドですものっ。更には家賃、光熱費、衣類、装備品の維持費、そして税金。街での生活は厳しいのですわよっ」



「そうそうっ。だから初心者応援クエストだけじゃ生活出来ないから、もう少し慣れたら、畑、家畜護衛クエストも受けようねっ。6時間守り続ける事になるんだけど、報酬はPT単位じゃなくて1人1人に出るからっ。しかも満額だと4000グルドだよっ!」



「よ、よよよよよんせせえぇぇんんん?!あわわわぁっ!」



「初心者応援クエストも個人個人で報酬出るから、併せて4800グルドだよっ!」



「よ、よよよよよよんせぇえぇんんはっぴゃくくうう!はわわわっ!」



「でもでも、初心者クエストは緑ランクだけしか受けれないから、後々の事を考えて、しっかり貯金しようねっ!」

「は、はいっ!わわわ分かりましたっ!リリフ姉様っ!ブルニ、ずっと一番安いA定食にしますっ!」



「ぶー!それはダメよ、ブルニ。冒険者は身体が資本。しっかりと朝昼晩と栄養ある食事をとって体力つけなきゃモンスターには勝てないのよっ!しっかりと食べて、装備も整えて、その上で貯金するっ。最初は難しいと思うけど、ブルニとリューイだったら出来るよ、必ずっ!」



「はわわっ。分かりましたっ!ブルニ頑張りますっ!」


「な、なるほど・・・これは金銭感覚などを、かなり修正する必要があるようです。ですが、例え10グルドであっても、皆さんと一緒に頑張ったお金は、かけがえのないモノのように感じます」



「あっ!それ私も思ってたっ!なんか良いよねっ!こういうのっ!」



「ですわっ!協力して、助け合って、勝ち取った経験は、お金では買えない価値があるのですっ!」

「そっかぁ。ブルニも生まれて初めて、自分で選択したお仕事で貰ったお金なんだって思うと嬉しいですっ。ブルニ、もっともっと姉様のお力になれるように頑張りますっ」


「うんうんっ!一緒に頑張ろうねっ」

「はいっ♪」



 リリフ達の様子を微笑ましく見ていたミールに、リリフが話しかける。

「あははっ。ごめんごめん、ミール。すっかり待たせちゃった」



「いやいや、全然だよ。むしろとても良い考え方だと俺は思う。多くの冒険者達は報酬でクエストを選んでいる。少しでも割が良いクエストを、高収入なクエストをってな。でもリリフ達のように、そのクエストで得られた経験や、頑張りに価値を見い出せる者は強くなるぞ。セリーが言ったように、様々な経験は、お金じゃ買えない価値があるからな。これからもその心を大切にな」


「うんっ。えへへっ」

「一歩一歩ですわねっ!」

「はいっ、リリフ姉様っセリー姉様っ」



 和かな雰囲気で帰路につこうとしたリリフの足がピタッと止まる。




「あああああぁぁぁああああーーぁーー!!」




「きゃっ!」

「な、なんですのっ?!り、リリフっ!?」



 リリフの唐突の大声にビックリするセリー達。

 ブルニなんてビックリしすぎて尻餅を付いてしまう程だ。



「あははっ!ごめんごめんっ!あのさっ、さっき倒したバウンドウルフって売れないかなっ?!午前中にリンちゃん達がすっごい値上がりしてるって言ってたの思い出したの!どうかな?!ミール!」



「ああ、確かに売ったほうが良いかもね。ドラゴンとかの高級素材はギルドの認定証が必要なんだけど、バウンドウルフみたいな低級な素材は必要ないから。市場に行けば直ぐに買い取ってくれると思うよ」



「わあぁ!売ってみたい!いくらになるのかしらっ!」

「ですわね!少しでも足しにしたほうが良いですわねっ!ナイスですわ、リリフ!」

「流石リリフ姉様ですっ!」

「なるほどなるほど。クエスト以外でも稼げる方法があるのですね。まだまだ学ぶ事は多いです。ありがとうございます。リリフねぇ・・様」

「えへへっ!じゃあ取ってこよう!ミール、ちょっと待っててねっ!」



 リリフ達は大急ぎで、先程倒したバウンドウルフを引きずってくる。



「ひいぃ・・け、結構重いわねっ・・」

「ですわ・・」

「うんしょっ、うんしょっ」



「あれ?襲ってきたのって3匹じゃなかったか?」

「うんうん。もう1匹はね、セリーの魔法で黒コゲの炭になってたから、そのまま置いてきちゃった」

「申し訳ないですわぁ・・」



「へええ。バウンドウルフを炭にする程の火力は紫ランクくらいでも中々出せないもんだよ。見た目はあんまり大きな火の玉じゃないけど、結構セリーの火力は高いんだな」

「まあっ。そうなんですの?!嬉しいですわっ」

「へー。きっとセリーに宿ってる微精霊様が力をお貸しくださっているのねっ」

「かもな。よしっ。それじゃ目立つし運ぶのも大変だろ?これを使いな」



 ミールはマジックポケットから大きめの麻の袋を取り出した。



「わあっ。ありがとっ、ミール」

「うんせ、うんせ」



 ブルニとリューイが率先して素材を麻袋に入れていく。

 難民キャンプの頃に仕事で、こういった作業は経験があるのかもしれない。



「あ、あの・・・ブルニとリューイ。その・・嫌だったりしない?」

「えっ?なにがですかぁ?リリフ姉様っ」

「ほら・・・モンスターとはいえ、命を奪ってるじゃない?それに死体もこうやって活用しようとしてる訳だし・・・残酷だとか思わないのかなって」



 ブルニとリューイは顔を見合わせて

「別にブルニは残酷とかは思わないですぅ。ブルニも沢山の亜人種の人が連れ去られていくのも、食べられちゃうのも見てきてますしぃ。逆にさっきのワンちゃんを殺して獣人さん達が食べてるのも何度も見てますっ。モンスターも、ブルニ達も、生きるために必死なだけかなって」


「そうですね。僕らもモンスターも等しく命を危険に晒してますし。このバウンドウルフも覚悟しているはずです。狩られる側になる時のことも」



「そっか・・あはは。ごめんごめん。なんかブルニとリューイの方がしっかりしているみたい。そうだよね。2人はいつ食べられるかもって状況に身を置いてたんだもんね」



「ですわね。わたくしも今のブルニとリューイの言葉でビクッとしてしまいましたわ。そうですわよね。いつ自分が狩られる側になってもおかしくない。そういった覚悟が足りませんでしたわ。気をつけなくては」



「ひゃっ。そそそんなことないですっ。ブルニなんかが偉そうな事言ってごめんなさいっ!」

「自分も出過ぎた事を言いました。申し訳ございません」



 2人は耳をシュンと垂らしている。

 そんな2人の頭を優しく撫でるリリフ。



「ブルニ。リューイ。さっきも言ったけど、私達は仲間よ。大切な、大切な仲間。上も下もないわ。私もセリーもまだまだ未熟だけど、お互いが助け合っていければ良いなって思ってるの。だから2人が仲間になってくれて本当に嬉しい。これからもドンドン意見を言って頂戴っ」


「そうですわっ。上手くいった時も、上手くいかなかった時も、皆んなで分かち合いたいですわっ。一緒に成長していくのですっ!」



「ふわわあぁぁんんっ!リリフねえたまぁ!セリーねえたまぁーブルニもっともっと頑張りますぅ!ふえぇぇんんっ!」



 感動して大泣きしているブルニを中心にギュッと抱きしめ合う4人。

 とても暖かく穏やかな空気に包まれて、より一層絆が深まったようだ。


 しかし、リューイだけはセリーのおっぱいが顔に当たってしまい、前屈みになるのであった・・・




「ねえねえ、ミール。これってどこに持っていけばいいのかな?」

「ですわね。ミール様がおすすめのお店などはあるのでしょうか?」


「いや、俺の知り合いがやってる店は道具屋で、素材とかの買い取りはしてないんだよ。俺も普段、素材とか売らないから分からないな。多分星光街の1丁目に商店街が広がってるから、そこら辺に行けば買い取ってくれる店もあると思うよ」



「そっかぁ。星光街1丁目って事は、母さんの宿からそんなに離れてないわね!」

「楽しみですわぁ。幾らで売れるのでしょう?」


「通常だったら2体でも高くて500グルドくらいかな?どんだけ値上がりしてるのかは分からんけど」

「まぁっ!500グルドでもわたくし達にとっては、良い値段ですわねっ!」

「そうねっ!これからはなるべく売りに出した方がいいのかもねっ」

「ブルニ、頑張って運びますっ」

「僕も頑張ります」


 リリフ達はなんとか協力して、引きずりながら南門をくぐる。


 


「おおっ!?ねーちゃん達!随分と重そうだなっ!?何が入ってるんだいっ?」




 唐突に話しかけてきたのはヒゲ面のおっさん。

 頭にタオルを巻いていて、服は白のタンクトップ。

 大柄で小太りな身体は熊のような雰囲気を醸し出しているが、馬車の御者台の上から人懐っこい笑顔をニカァっと浮かべている。



 どうやらクリルプリスから買い付けの帰りだったようで、大きな荷物をドサッと積んでいる馬車の周りに数人の従業員らしき人物を引き連れていた。



「あっ、えっと。私達がさっき討伐したバウンドウルフです」


「おおおっ?!そーかいそーかいっ!こりゃ声かけて正解だったな!もう売る場所は決まってるのかい?まだだったら俺っちが買い取るぜぇ!」


「えっ?本当ですかっ?!実は私達も売る場所を探していて・・」

「おおっ!そーかいそーかいっ!こりゃ正にWin―Winな関係だなっ!どれどれー?」



 ヒゲ面のおっさんは馬車から降りて、麻袋の中を覗き込む。



「むおっ!こ、こりゃ結構デカいバウンドウルフじゃねーかっ!お嬢ちゃん達やるなー!」

「えへへ」


「ふむふむ、損傷も少ないし、こりゃ良い素材だなっ。おしっ、2体で8500グルドでどうだいっ?!」

「ええええっ!は、はっせんっ!?すごっ!」


「なんだいなんだい。ねーちゃん達、バウンドウルフ売るのは初めてかい?」

「あ、はいっ!素材自体売るの初めてですっ!」


「むおぉっ?!そーかいそーかい!初心者さん達かい。いいねー。初々しいねー。おしっ。お嬢ちゃん達可愛いからオマケしちゃおうかな?全部で9000グルドで買おう!」

「本当ですかっ!やったー!」


「がっはっは。良いねー。素直な反応は嬉しくなるねー!オレぁ、『ブレーメン商会』の主、マルコ様だっ!今は品不足がハンパないからなっ!これからもドンドン売りに来てくれや。お嬢ちゃん達ならオマケして買い取ってやるぜい!」


「は、はいっ!こちらこそ宜しくお願いしますっ」

「販売ルート確保ですわねっ」

「これから沢山持ってきますぅ」



「でも、人力ってのは改善したいですね。何か、荷車などを使いたいものです。ああいう物は、お幾らくらいするものなのでしょうか?」



「確かにね。あると便利よねっ。よしっ、これから必要になるし、今から見にいこっか?」

「ですわねっ!わたくし肉体労働は苦手ですものっ」

「ブルニ、セリー姉様の分まで頑張りますっ」

「きゃわわんっ!ブルニちゃん、大好きですわぁ!」

「えへへっ」



 後ろからおもいっきりブルニに抱きつくセリー。

 そのブルニの顔を見事にサンドイッチしている胸を、どうしても目で追ってしまうリューイ。色々と気になる年頃だ。



「そーかそーか。ねーちゃん達初心者だもんな。まだ荷車も持ってないか。おしっ。ちょっと待ってろな」



 ブレーメンはそう言うと、大きな荷物から四角い板のようなモノを、頭に乗せて持ってきた。

 大柄なブレーメンが両手いっぱいに広げているので、大きさは2メートルくらいありそうだ。



 その大きな板をドンっと地面に置き

「おしっ。お嬢ちゃん。このボタンを魔力を込めながら押してみな」

「あ、はい」



 リリフは言われた通り、緑色のボタンに魔力を込めながら押す。

 するとガシャンガシャンと音を立てながら、板は車輪が2つ付いた荷車に形を変えた。



「わあっ。凄い!カッコいい!」

「がはっはっ!そーだろそーだろ。これはな、魔力アシスト付き荷車ってもんよ。車輪が自動で上下に動くから凸凹道でもへっちゃらなのさ。これをお嬢ちゃん達にやろう」



「!!!」

「えええ?!く、くれるんですかっ!?」



「しゃ、社長っ!何を言ってるんですかっ?!最新の荷車ですよ?!幾らすると思ってるんですか?!」

 馬車の周りを囲んでいた、おそらく従業員と思われる男の1人が異を唱える。



「ああん。いいっていいって。オレぁ、この嬢ちゃん気に入ったんだ。これからドンドン稼いで貰えば問題ない。いわば投資だ。投資」

「し、しかし・・・この者達は緑ランクですよ?!い、いつ・・その・・」



 言葉を濁す従業員。いつ全滅するか分かったもんじゃないと言いたいのであろう。

 この者の言う通りで、全滅したら当然だが荷車は返ってこない。



「でぇーいじょうぶだ。大丈夫。オレぁ、この嬢ちゃん達に何か特別なモノを感じる。こういう感覚は久しぶりだ。きっと大物になるぜっ、嬢ちゃん達!」

「ふぅ・・・分かりました分かりました。社長の好きにしてください。僕は知りません」

「あんだよー。つれねーなー」



「あ、あの・・・」

 リリフが遠慮がちに声をかける。



「や、やっぱりタダで貰う訳にはいきません。お幾らくらいなのでしょうか?」

「35万グルドです」

 間髪入れず従業員が答える。



「さ、さんじゅうぅ!ごまん!」

「ひえぇ・・ですわ」

「ふぇぇん。ブルニ200グルドしかないですぅ」

「ぶ、分割は・・可能でしょうか?」



 初心者らしく、素直に驚くリリフ達に従業員もフッと表情を緩める。

 リリフ達の実直な性格に何かを感じ取ったのかもしれない。



「社長。なんだか僕もこの子達にかけてみたくなりました」

「おおっ?!そーだろそーだろ!がっはっは!」

「では冒険者の皆様。こちらを差し上げます。先程のようにボタン1つで折り畳む事も出来ますし、取手に魔力を込めれば移動の補助もしてくれます。どうぞご活用ください」



「ほ、本当に・・よいのでしょうか?・・」

「構いません。責任は社長が取るそうですから」

「がっはっは!任せろ任せ・・って、おいっ!オレ1人か?!」

「何か問題でも?」

「かぁぁ。オレぁ、頼もしく育ってくれて嬉しいぜぇ」



「す、すみません。ブレーメンさん。ではお言葉に甘えさせて頂きます。本当にありがとうございます」

「今後はブレーメン様とだけお取引を致しますわっ」

「ブルニも沢山持ってきますっ」

「こんな素人同然の僕らを信じてくださり、ありがとうございます。少しでも恩返しができるように今はしっかりと地道に頑張ります」



「おおうっ!オレぁ、星光街1丁目のブレーメン商会だ!話通しとくから、いつでも売りに来てくれよなっ!楽しみにしてるぜぇ」


 ブレーメンは、がははっと豪快に笑いながら、馬車に飛び乗り去っていった。




「良い人に巡り会えたみたいだな。こういう縁は時として、もの凄い力を発揮するもんさ。大切にな」

「うんっ!」


「まあっ!これは楽ですわっ。ほとんど力を入れずに動かせますの」

「セリー姉様っ!ブルニもやってみたいですぅ」

「ええ。もちろんですわっ、ブルニ!」

「はわわぁ。本当ですぅ。勝手に進んでるみたいですぅ」


「しかも車輪が自動で上下しているようですね。ブレーメン様が言っておられたように、凸凹している道でも平坦に進んでいるようです」



 この荷車はイメージ的には、電動アシスト付き自転車のような感じ。

 自立して動く事はできないが、かなりの部分を補助してくれる優れものだ。



 ミールはブワッと大きな布を荷車に被せる。

 以前、リリフ達がミールに救われ、ガタリヤに向かって歩いていた道中。

 途中で平原で1泊したのを覚えているだろうか?

 その時にリリフ、セリー、ルクリアが毛布として使った大きめの布だ。



「えっ??どうしたの?!ミール」

「ああ、一応カモフラージュってやつだな」

「カモフラージュ?」



「リリフも分かってると思うけど、これは結構値段も張る、最新式の荷車なんだ。だから盗難の危険もあるし、最悪強盗の危険性すらある。だからこうやってボロの荷車っぽく見せて自衛したほうがいいのさ。あとは街中で折り畳む姿を見せたりするのも注意。動かしてる時は、さも重そうに演技するのも重要だ。要らぬ厄介ごとに巻き込まれるのは損だからね」



「そっかぁ!確かに!」

「浮かれてはしゃいでしまいましたわっ。気をつけなければ」

「ブルニも重たいフリをしますぅ」


「宿に着いたら端材とかを加工して、更に擬装してみましょう。念には念を入れなくては」


「そうだな。宿の裏庭には端材も転がってるからグワンバラに相談して使ってみるのも良いかもね」

「分かりました。ミール様」



「でもやっぱり最新式は凄いなぁ。本当にほとんど力必要ないもの」

 リリフは荷車を重そうに押す演技を、下手くそに演じながら感心したように呟く。



「そうだな。ちょっと前までは考えられなかった技術だけど、10年くらい前に『ある事』が世界中で認められてから、一気に技術が進んだって感じかな?もしかしたら、数年後にはリリフ達を乗せて、勝手に動いてくれる荷車なんかも登場するかもしれないね」



「ひょへぇ。凄いなぁ。でも『ある事』って何?」



「簡単に言うと、世界中でドルグレム産の魔道具を修理する事が認められたって事かな。それまでは技術流出を恐れて、修理するには魔道具をわざわざドルグレムまで輸送しなきゃならなかったんだ。だけど10年くらい前に、世界各国に技術者を派遣して、その場で修理するのを認めさせたんだよね。そして、その国で技術者を育成して修理に携われる資格も発行した。もちろん最深部の技術は機密事項のままなんだけど、修理に携わる人口は圧倒的に増えた。それによって優秀な人材も多く輩出され、技術力は数段レベルアップしたってとこかな」



「そーなんだぁ。自動で動いてくれる荷車なんかが出てきたらめっちゃ楽だよねっ」

「わたくし、ずっと乗ってますわぁ」

「あはは」



「さて、明日はガタリヤ一周してみるか?ブルニ達の経験を積むにはちょうど良いしな」

「わあっ。そーしよー!楽しみっ!」



「一周ですか?リリフ姉様っ?」

「うんうん。私達もやったんだけど、色々なモンスターと出会うから、とっても良い経験になるよっ」

「分かりましたっ。ブルニ頑張りますっ」

「自分も気を引き締めて頑張ります」



「あっ、そだそだ。せっかく荷車があるんだから、お水とか食料とか自分達で用意しない?今はミールに頼っちゃってるけど、やっぱり独り立ちしたらそうはいかないものっ」


「確かにしそうですわね。簡単な食料とか、予備の衣類とか。そういった物も今後はわたくし達で用意するべきですわねっ」


「そうよねっ。よーし。じゃあ早速買いに行こう!さっきの9000グルド使って!」

「ですわねっ、参りましょう!」

「ブルニもお供しますっ」


「僕はグワンバラさんから道具を借りて、荷車の擬装工作をする事にします」

「分かったわっ!任せるわね、リューイ」



 そうしてグワンバラの宿に到着したリリフ達。

 リリフ達は買い物に出かけ、リューイは擬装に取りかかる。

 グワンバラの旦那さんが、色々と手伝ってくれて、かなり良い出来に仕上がったようだ。

 


          続く

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