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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記⑮

「私達は仲間よ。上も下もないわ。これからは4人で話し合って、助け合って冒険していきましょ。自分達の未来の為に!」


 リューイは目をまん丸にしながらニカッと歯を見せて笑い、大きな声で返事をする。

「はいっ!」



⇨ガタリヤ奮闘記⑮




 翌日、リリフとセリーは初心者応援クエストや、家畜の護衛クエストなどをこなしながら修練を積んでいく。

 リューイとブルニはミールの後ろを付いて歩き、ギルド近くにある学校に入っていった。



「2人とも、こっちだ」

 ミールは受付の方向に歩いて行く。



 学校の中は人が多く、油断しているとはぐれてしまいそうだ。

 老若男女の人達が、みな適性獲得を目指して励んでいるので活気があり、かなりガヤガヤしている印象だった。



 ある者は適性が獲得出来たと舞い上がり、ある者は不安でいっぱいの顔をしながら教室に向かい、ある者はもう何年も通っているかのようなオーラを出していたりと様々だ。



 1階は指導員の部屋と実技場、2階に座学の教室、3階に食堂と試験用の部屋があるようだ。



「ふわわわあぁぁ。ミール様っ。この方達って皆さん冒険者を目指してる人なんですかぁ?」


「いや、そうとも限らないな。実際に街中で活躍できる適性も数多くあるからね。多分半分くらいじゃないかな?冒険者を目指して適性を欲しがっている人達は」

「へえぇ。そうなんですねっ」



 ミールは2人に応募用紙を渡す。



「2人とも、字は書けるな?これに記入しといてくれ。俺はちょっと外に出てくる。書き終わってもこの場から動かないように」

「は、はいっ」



 リューイとブルニはお互いの紙を見ながら助け合って空欄を埋めていく。

 ブルニが書き終わったくらいでミールが戻ってきた。



「よしっ。書き終わったな。これを渡しとく。筆記用具だ。無くすなよ?」

 ミールは買ってきたばかりの筆記用具を渡した。

「はいっ!ありがとうございます!」



「それじゃあ、身体検査があるから、あそこの1番の部屋の前で待っておくように。名前が呼ばれたら入って指示に従ってくれ」

「分かりました!」



 ミールは受付で書類を渡し、3ヶ月分のフリーパスを2人分購入する。

 3ヶ月間、好きなだけ授業が受けられるお得プランだ。

 やがて2人の身体検査が終わり、学生証が発行された。



「ほら。これが2人の学生証だ。これが無いと授業が受けれないから、無くさないように常に首から下げてた方が良いぞ。あとこれがカリキュラムな。お前達はフリーパスを持ってるから好きな授業を好きなだけ受けれるから。昨日話した総合学科は赤い色で塗られているやつな。とりあえずそれを一通り受けてみな。そしたら色々分かってくると思うから」

「は、はいっ!ありがとうございます!」



「それと・・・これは昼飯代な」

「あ、ありがとうございますっ!ミール様!」



「一応今日は現金で渡しとくけど魔法通貨の方が何かと便利なんだ。だから基礎魔法を習得出来るように帰りにスーパーに寄っていくか。昼食は3階に食堂があるから、初めてで緊張すると思うけど注文してみ。それじゃあ早速行ってこい。夕方の午後五時にこのロビーで待ち合わせな。楽しんでこい」



「が、頑張ります!」

「ミール様!ありがとっ!」



 リューイとブルニは手を繋ぎながら2階に上がっていく。

 2人の姿を見届けたミールはピエールの店に向かって歩き出したのだった。





「まじか・・・」

 ミールは飲みかけのコースヒ(珈琲)のカップをテーブルに置く。


 ここはピエールの道具屋。

 他に客はいなく、ミールは商談用のテーブルで店主のピエールとコースヒを飲みながら情報交換をしていた。

 そこで結界石の納品が遅れそうだと言う事を聞き絶句したのだ。



「ええ、そうなんですよ。キーン向けの輸送隊の被害は甚大らしいですね。なんでも巨大な食中プラントが出現したとかで・・・聖都からガタリヤに入ってくる物資は全てキーンを経由して来ますからねえ。当分聖都方面から来る物資は滞るだろうって商人達のもっぱらの噂です」



「食中プラントが出現したのは知ってる。領主代理から依頼が来たからな。でも冒険者達は何してんだ?そういう輸送隊には冒険者が護衛に付くだろ?聖都出発となると護衛に付くのも聖都に登録している冒険者ばかりだろうし。あそこは当然だが登録している冒険者も多いし、そこそこ腕の立つ奴らも多いはずだぜ?巨大とはいえ食中プラント如きに遅れを取るとは思えんのだが・・・」



「そーなんですけどねー。僕もそう思ったんですよ。しばらくしたら討伐されて元通りになるだろうって。しかしもう被害が出てから2ヶ月近くになります。その間被害は広がる一方みたいですね」



「なんか特殊なモンスターなのかな?」

「分からないです。これは噂レベルの話なので正確ではないのですが・・・今回の食中プラントはどうやら移動しているらしいですね」



「嘘だろ??奴らは土の中にいつも隠れてて、獲物が通ると現れて捕食する待ち伏せタイプじゃないか?移動するなんて聞いた事ないぜ?別の個体じゃないのか?」



「ええ、ええ。僕も最初そう思いました。ただですね、かなりの強さらしくて・・・黒ランクくらいなら一瞬で倒す程の・・・それほどの個体が同時期に、しかも複数現れるとは、到底思えないというのがギルドの見解らしいすね」



「そんなに強いのか?・・・」

「これは内密にお願いしたいのですが・・・」

 声のトーンを一段下げて




「どうやらキーンのタウンチームが全滅したらしいです」




「まじか?!」

「僕も信じられなかったんですが・・・どうやら本当の事らしいですね」

「かぁぁ・・・どうするんだ?これから」



「どうやらカントリーチームが討伐に向かうらしいです。ただ、現在他国で作戦中らしくて、到着するのは一ヶ月ほど先みたいですね」



「ということは・・・結界石が入ってくるのは早くても一ヶ月以上先ってことか?・・・」

「です・・・」

「ぬおぉぉ・・・」

 ミールは頭を抱える。



 冒険者にとって結界石は必須の必需品。

 しかもミールのようなソロプレイヤーは、性能が高いドーラメルク産の結界石でなければおちおち寝てもいられない。



「はぁ・・・まあしょうがないよな。よしっ。とりあえずルーン国の結界石を5つくれ」

「へ?良いんですか?!ミールさんには全く無用の長物に感じますが・・・」


「俺じゃ無いよ。例の女の子達に持たせるんだ。ようやく昨日4人PTになることが決まってね。そろそろ行動範囲も広がりそうだから持たせておきたいんだ」


「へええぇ。それはそれは。分かりました。では5つで1万5000グルドです」

「ああ。魔法通貨で頼む」

「はーい。・・・・はいっ確認しました。オッケーです」



 今更だが、魔法通貨とは比較的『最近』に開発された新魔法で、通話、ステータス、時計、魔法メモ、翻訳と並んで6大基礎魔法と呼ばれている。



 基礎魔法とは魔力がある者なら誰でも習得出来る魔法の事で、役場や大きめのスーパーなどに基礎パックと呼ばれている魔石が置かれており、それに触れると誰でも無料で習得出来る仕組みだ。



 この魔法通貨は金融省がデータとして管理しており、全てのお金に履歴が付いているのが特徴。

 例え1グルドであっても、いつ、どこで、誰に渡ったのかが詳細に分かってしまうのだ。

 領収書も簡単に出す事が出来るので商売人には好評だが、お金の流れも完璧に分かってしまうので、裏金や賄賂に関係する一部の人達には不評だったりする。



 又、この魔法通貨は犯罪抑止にも大きく貢献している。



 この魔法通貨はイメージ的に電子マネーのような感じなので、他人が相手の持ち金を視覚化出来ない。

 なので、現金のように袋に詰めて持ち去る事も出来ないし、強制的に他人が引き出す事も出来ないのだ。

 そして、受け渡しには必ず両者の同意が必要なので、要は相手を殺してからゆっくりと回収する事が出来ない仕組み。



 これが大きいのだ。



 この魔法通貨が開発されたお陰で強盗殺人などの凶悪犯罪は激減しており、今世紀最大の新魔法と呼ばれている。




 結界石を購入したミールは、食料や日用品を補充してから待ち合わせの学校に向かう。

 ロビーには、リューイとブルニが手を繋ぎながらミールが到着するのを待っていた。

 ミールを見つけるとパアァっと嬉しそうに駆け寄ってくるブルニ。



「ミール様!お帰りなさいっ」

「どうだった?初めての学校は?」


「凄く楽しかったですっ。知らないことばかりでとっても勉強になりましたっ。いっぱいメモとっちゃいました。えへへっ」


 ブルニはノートを自慢げに見せる。


「僕は・・・緊張しました・・・授業もですが、とにかく食堂が・・・苦労しました」

「そうだろうな。何を食べたんだい?」

「僕はサンドイッチを、妹はトンプー丼です。幸いにも親切な職員さんがいまして、買い方を教えて貰えました。お料理も初めて食べる物ばかりなので分け合って頂きました。これ、お釣りです。ありがとうございます」


「そうか。それじゃあ帰るとしようか。明日からお前達だけで来れるようにしっかりと場所を覚えるようにな。それとスーパーに寄って基礎魔法の習得もしとこうか」

「はいっ分かりました!」



 スーパーに到着したミール達は早速入り口に置かれている魔石に向かう。



「ミール様っ。これに触れれば良いんですかぁ??」



「ああ、そうだ。触れるだけで誰でも通話、魔法通貨、魔法メモ、ステータス、時計、翻訳の6大基礎魔法が習得出来る。しかも無料だ。凄いだろ?」



「はわわぁぁ・・・す、凄いですぅ。ぶ、ブルニなんかが習得しちゃっても良いんでしょうか・・・」

「ああ、もちろんだ。やってみな」

「はいっミール様っ」



 ブルニが魔石に触れるとパアァっと一瞬ブルニを包み込むような白い光が現れた。

 その光はブルニの身体の中に吸い込まれるように消えていく。



「おめでとう。もう使えるぞ。早速通知登録しとこうか?」

「えっ??良いんですか?!是非お願いしますぅ!」

「こうやって手のひらを合わせて・・・頭の中にイメージ出来るかい?」

「はいっ!なんかありますっ!これが通話なんですねっ?!」

「そうそう。リューイも出来たかい?」

「はい。なにか今までにないモノを感じます。これが通話魔法なのですね?」



「あと時間をイメージしてみ?」

「ああ!凄いっ!時間が出てきましたぁ!」

「本当ですね。あ、直ぐ消えました。なるほど。見たいときに魔力を込めれば何時でも見れるって訳なんですね?」



「そうそう。魔法通貨を使うには、最初だけ金融省の専用魔石で登録しないといけないから、今は無理だけどね。あとはいつでも使えるメモ帳もあるぞ」

「はわわぁぁあぁ・・・これってどれくらい使えるんですかぁ?」

「うーんと。だいたいA4サイズ3枚くらいかな?記憶しておけるのは」

「えーよんさいず?ミール様っ。えーよんさいずって何ですかぁ??」

「あ、そか。えっと・・・これくらいの紙が頭の中に三枚入っているって感じかな?まあ、使えば分かるよ。直ぐに」

「はいっ!ブルニとっても楽しみですっ」



「ミール様。翻訳とは・・・どのように使えばよろしいのでしょうか?」

「翻訳はね。別に魔力を込める必要は無くて、勝手に発動して勝手に変換してくれる魔法だね。全世界を網羅しているから余程レアな種族の言葉じゃない限り会話が出来るって優れものだよ」

「なるほど。言語が複数あるという事も知らなかったです。まだまだ学ぶべき事は沢山ありそうですね」

「ブルニは世界中の皆さんと沢山お喋りしたいですっ」



 その後、ブルニ達の簡単な日用品等を揃えてから食堂に到着したミール達。(言うまでもないが、嫌がらせは続いている)

 そこには既にリリフ達が帰りを待っていた。



「おっ帰りぃぃ~!どうだったぁ??」

「とっても楽しかったですっリリフ姉様っ」

「わあぁぁ・・・良いなあ。」

「どんなことを習ったのですか?」

「えっと・・・色々あるんですが。こんな感じですっ」



 ブルニはびっしりとメモをとったノートを見せる。

 しっかりと項目毎に色分けされており、かなり見やすい。

 ちょっとした可愛いイラスト入りで書かれていてセンスの良さが光っている。



「ひゃあぁ・・・すっごいいぃ」

「これは・・・素晴らしいですわねっ。なるほどなるほど。戦っている時こそ背後を気にする必要があるのですね。別のモンスターが漁夫の利を狙って襲ってくる場合があると」

「そっかぁ。モンスター同士でも争うって言ってたもんね。これからは気をつけなきゃ」

「ですわねっ」



「常に逃げ道を確保しながら戦う・・・かぁ。周りを見るってことよね?森の中とかは特にいつの間にか囲まれている場合があるから注意だって」

「確かにぃ。足場とかも考慮に入れないといけませんわね。あ~ん。まだまだ経験が足りませんわぁ」



「明日はどんなこと学ぶの??」

「これがカリキュラムです。今日は全部座学でしたけど、明日は実践の授業もあるみたいです」

「へええぇ。どれどれぇ。あ、本当だぁ。武器全般の使い方と立ち回りかぁ・・・私も習いたーいっ!」



「習えば良いじゃないか。誰でも登録して金さえ払えば受講出来るぞ」

「え?!もう冒険者になってても良いの?!」

「うん。全く問題無い」



「セリー!明日一緒行かない?!私も基本の動きとか教わりたいっ!」

「勿論ですわっ!わたくしもそうしたいと思っておりましたものっ」



「よーし。結構お金も貯まってきたし、今回は自分達で出そうね、セリー!」

「そうですわねっ。何時までもミール様に頼ってばかりはいられませんわ」



「それは素晴らしい考えだけど・・・足りるのか?」

「え?・・・幾らなの?実際・・・」

「幾らなのかな・・・フリーパス買っちゃったから1講座とかは分からないな・・・」

「調べてみましょっ!おば様、魔法新聞お借りしますわっ」



 リリフ達は魔法新聞を覗き込む。



「1講座4800グルド・・・」

「うわっ!結構高っかぁーい!」

「1人ですから2人で行くと9600グルド・・・た、足らないですわ・・・」

「あーん。1日パスでも4講座分で1人15000グルドだってぇ」


「え・・・そ、そんなに高いんですぅ??お、お兄ちゃん・・・どうしよう・・・」

「ブ、ブルニ・・・この学生証・・・3ヶ月フリーパスって書いてあるぞ」

「しゃ、しゃんかげつぅ?!い、いくら・・・なのかな?・・・」



「・・・・120万グルドだ・・・1人で」



「て、ててててことは・・・240万?!だ、ダメですぅ!ミール様ぁ!こ、こんな大金をぉぉ!・・・」



「いや、もう払っちゃったし。金のことは考えなくて良いから。とにかくしっかり学んでくれ」

「しょ、しょんなぁ・・・ど、どうしよ、お兄ちゃん・・・」

「・・・わ、分かりました。必ずいつかお返し出来るように、今はしっかり勉強します」

「ああ、それでいいよ」



「あ・・・あの・・・」

 モジモジするリリフとセリー。



「リリフ達も基礎をしっかり学びたいという気持ちは大切だ。しっかり学んでおいで」

 ミールは魔法通貨で2人分の1日パス3万グルドをリリフに渡す。



「あ、ありがと・・・ごめんね」

「しっかり学びましょっ。それがミール様のご恩返しですわっ!」

「そうねっ!リューイとブルニ。明日は一緒に行きましょ?」

「は、はいっ。リリフ姉様セリー姉様!」

「実は道が少し不安だったので助かります・・・明日で完璧にしますっ」


 こうしてリリフ達4人は翌日学校に向かって出発するのだった。





 リリフ達が学校に行っているのと同じ時間、ミールはブラブラと魔法石屋をハシゴしていた。

 ややこしいが魔法屋ではない、魔法石屋である。



 以前リリフ達に武器防具を買ってあげたショッピングモール内に併設してあった魔法屋は魔道士も駐在しており、その場で魔石に魔法を詰めてもらえたり、数多く並んでいる魔法石を購入する事が出来た。



 対して魔法石屋は魔道士は駐在しておらず、主に魔石を買い取り販売している。イメージ的には魔石のリサイクルショップだ。

 当然ながら多種多様な魔石が持ち込まれるので、意外な骨董品が安値で販売されていたりなど、掘り出し物が多数あるのが魔石屋だ。



 ミールも当然掘り出し物狙い・・・ではあるが、実際は使役用の魔法石を探していた。



 というのも、当分ドーラメルク産の結界石が手に入りそうになく、使うとしたらルーン国産の結界石・・・世界で1番性能が劣ると有名な結界石だ。

 姿も匂いも音も筒抜けな、一応モンスターは防げるけど耐久性は怪しいという素晴らしい劣化品だ。

 丸見えなので人間相手には当然危ないが、モンスター相手でも耐久性の問題で危ないのでおちおち寝てもいられない。



 いやいや、モンスターに襲われたら結界の中から剣や魔法で攻撃して追っ払えばいいじゃないと思う方もいるかもしれないが、そう簡単ではないのだ。



 相手がデーモンだったら力が解放されるので問題ないが、雑魚モンスターには弱体化されてしまい剣でダメージを与えることさえままならない。



 では魔法で攻撃すればと思うのだが、ミールは剣などに纏わせる属性は操れるが、対象に向かって攻撃する遠距離魔法は使えないのだ。




 そうそう。丁度良いので、ここで結界と魔法の関係を説明させて頂く。




 というのも、結界内で使う魔法の威力は、かなり減少する。

 つまり『火、冷気、風、雷、爆、光、闇』の7種類の属性を含めた魔法攻撃はもちろん、その他の魔法も全て弱体化するのだ。

 それは魔道具を使用した場合も同じ。

 つまり結界内では、魔力を使用して発動した魔道具や、ありとあらゆる魔法は効果が減少するというわけだ。



 それでは街中で治療院などが使う回復魔法や、料理などで使う火も使えないのでは?と思った方、ご安心ください。



 まず回復魔法だが、全ての癒やしの根源と言われている存在に、癒姫神(ゆひめがみ)という女神がいる。

 その女神の系統の力を使った魔法は結界内で使っても、威力が弱体化することはない。

 故に、回復魔法はもちろん、同系統の自白魔法も問題なく使えるのだ。

 何故、威力が衰えることはないのか。

 その理由はいずれ語る時が来たら語らせて頂こう。



 そして料理に使う火など、魔道具を使用した場合。

 この世界にも数多くの魔道具が普及しており、コンロのように火を出して料理出来るように開発された品も多い。

 その炎も結界内で使えば当然威力が減少する・・・のだが、攻撃魔法と違い、一般的に普及している魔道具などは減少率は低く、さほど影響を受けない。


 つまり結界内では、威力が高ければ高いほど軽減率も大きくなり、威力が低ければ低いほど、あまり影響を受けない。

 要は攻撃魔法の炎と、料理などで使う炎では、火力が全く違うということなのだ。



 料理などで使う炎は、強火であってもステーキや魚を一瞬で黒焦げにすることは出来ないであろう。

 しかし攻撃魔法の炎は、使い手の熟練度にもよるが樹木を一瞬で黒焦げにする事が可能。

 威力が段違いに違うのだ。



 その高火力の魔法を結界内で使用した場合、相手に軽い火傷を負わせる程度まで威力は軽減されるが、威力の低い魔道具などはほどんど影響を受けない。


 なのでコンロ的な魔道具で料理をしたり、リリフ達の部屋に置いてある魔風冷造のように冷たい風を送り出すことも問題なく出来ているということなのである。



 もう少し、軽減される仕組みを詳しく語ろう。



 かなりの高火力を秘めているミールが持っている国宝級アイテム、雷爆の魔法が封じ込められた魔石。

 使うと周辺全てを吹き飛ばし、直径1~2キロくらいのクレーターが出来る程の威力があるのだが、結界内で使うと軽い爆破が起こり、10メートル位のクレーターが出来る程度であろう。


 では結界外ギリギリで使うとどうなるの?


 結界外なので軽減されない。つまり1〜2キロのクレーターが出来てしまうのでは?と心配されるかと思いますが、外の影響が結界内にそのまま伝わることはない。

 結界がフィルターになっているイメージだろうか。

 なので結界外は凄まじい爆発が起こるだろうが、結界内はバケツが飛ばされるような強風が吹き荒れる程度であろう。



 ついでに豆知識。



 どの街でも結界から100~300メートルくらい離れた所に城壁がある。


 限られたスペースしか無いのだから、城壁も結界ギリギリの所に造れば良いのに・・・

 そもそも城壁なんていらないんじゃ?



 こんな意見があるかと思うが、何故このような作りになっているかというと、昔は人間同士の争い、つまり戦争も頻繁に起こっていたからなのだ。



 どういう事かというと、人間からの攻撃は結界では防げないということ。



 ややこしいのだが、結界の外からの攻撃について説明させて頂きたい。

 結界を通れない者、つまりモンスターや獣人などが基点となっての攻撃は、結界が弾いてくれる。

 しかし結界を通れる者、人間や人獣が基点となっての攻撃は防ぐことが出来ないのだ。



 つまり、デーモンの放った炎の矢は結界に弾かれるが、人間の放った炎の矢は結界を素通りする。

 もちろん、結界内では威力は大幅に弱まるので、チョロチョロとした炎が侵入する程度だが、仮に城壁がすぐ近くにあったら、どうだろうか?



 城壁に山積みしたワラなどを燃やす事も出来るし、結界外で水を凍らせ簡易的な(やぐら)のような足場を作り、そのまま突撃。一気に城壁を乗り越える事も出来る。


 爆発属性の魔法であれば、城壁のレンガに穴を開ける事も出来るかもしれない。



 そういった様々な行為を防ぐ為、ある程度距離を置いて城壁を造っているのだった。


 しかし現在は自白魔法が開発された影響で、戦争などの争いは極端に少なくなった。


 盗賊や不法侵入者を防ぐため、流石に城壁を取り払っている街はないが、結界と城壁のスペースを活用して住居を建設したりするなど、他国が侵略してくる警戒心は、今現在はかなり薄れているのが現状だ。



 因みに・・・



 結界内では、攻撃魔法の炎は軽減されるが、魔力を使用してない炎は軽減されない。

 つまり、ガスが充満している場所で火を使えば爆発が起こるし、家などが燃えれば大規模火災へと発展する可能性もあるのだ。


 故に、貴方達の世界のように爆薬を使った爆弾やミサイル、核兵器などがあれば、結界を展開している街であろうが大損害を与える事が可能だが、この世界では魔法が全てなので、そういった兵器の開発はほどんど進んでいないのが幸いである。




 話がだいぶ横道に逸れてしまったが、ミールはルーン国産の結界を張っても、ある程度は安心出来るような代わりのセキュリティシステム。

 つまり休憩中の自分を守ってくれる使役モンスターを探しているのだった。



 今思い出したが・・・そういえば使役士の説明が後回しになっていましたね。

 説明ばかりになってしまうので、ウンザリの人は、ここは飛ばしてしまって構わない。

 あとで必要な時に読み返して貰えれば良いので、読む人もなんとなーくで良いのでお付き合い下さい。



 さて、以前使役士はモンスターから動物、虫、死霊から精霊まで、幅広く呼び出す事が出来る非常に『人気が無い』適性だとお伝えした。

 では実際にどうやってそれら使役モンスターを獲得するのかと言うと、2パターンある。



 1つは通称『暗黒の門』と呼ばれる使役士のみ潜る事が出来る暗闇の渦である。

 唐突に使役士の前に、なんの前触れも無く現われるその門は精神世界へと続いていて、そこにいるモンスターを倒せば現実世界に呼び出せる『契約』を交わせる。

 その『契約』に従って使役モンスターとして現実世界に具現化させるのだ。



 厄介なのが自分の意識では『暗黒の門』を呼び出す事は出来ない事、そして門の中にどんなモンスターがいるかわからない点だ。



 多くは下級のアンデットやゴースト、精霊達なのだが、なかには高レベルのモンスターも当然いる。

 倒せなかった場合は門の場所まで戻される・・・なんて事も無く、残念ながら死が待っている。



 召喚士は数が非常に少ないと以前説明したが、使役士はもっと少ない。

 おそらく世界中で100人いないだろう。

 正に存在が絶滅危惧種だ。

 その原因の一つが間違いなくこの暗黒の門による死亡が一因となっている。



 勿論、目の前に門が現れても潜らなければいいだけなのだが、それだと使役するモンスターが手に入らない。

 しかし潜ったら命の保証はない。

 なんとも理不尽なシステムである。



 当然高レベルのモンスターを使役している事は、一種のステータスとなり一目置かれる存在になる。



 しかしあるベテラン使役士が名言を残している。

『使役士として天命を全うしたいのであれば欲望に負けずに門を潜らないことだ・・・』と



 ではもう1つのパターン、それは使役する精神体が憑依した魔法石を手に入れること。

 精神体と魔法石はかなり相性がよく、自然現象的に精神体が入り込んで、結晶化してしまう事がままあるのだ。



 主に洞窟などの未発掘の鉱石地帯に、そうした結晶化した憑依魔石が存在していることが多いが、稀に 道具屋が売っている空の魔石に、いつの間にか憑依していたなんてこともある。


 まあ、正確に言うと憑依ではないのだが・・・詳しくは後述するとしよう。



 なので簡単に言うと自力で極めて低確率な憑依魔石を発掘するか、もしくは魔石屋から買うのである。



 これが使役士にとっては大きなネックとなっている。つまり値段が高いのである。

本当に超絶高い。

 下級のアンデットやゴーストを呼び出すだけで中級者が使うロングソードが10本は買えてしまう。

 憑依魔石は数が非常に少ないので当然といえば当然だが。



 そして使役士の説明として重要な点が1つ。

 こうして命懸けで手に入れたモンスターとの『契約』も、苦労して手に入れた高額な憑依魔石も、1度使用したらおしまいだという事。

 つまり呼び出された使役モンスターは大抵の場合、相手を倒すか逆に倒されると精神世界に帰ってしまい、2度と呼び出せない。



 え?『契約』を交わすのに?



 そう・・・召喚士が召喚獣と交わす『契約』は互いの信頼のもとに交わすと言われており、イメージ的には召喚獣から部屋の『合鍵』を貰う感じ。

 その『合鍵』を使い、精神世界にいる召喚獣への扉を開いて呼び出すため、何回でも召喚可能だ。



 対して使役士が交わす『契約』は、契約というより『服従』に近い。

 故に互いの信頼関係などは全くなく、強制的に従わせているので想いは一方通行。

 恋の『片道切符』だ。



 ・・・失礼。



 話を戻すと、使役士のは一方的な契約なので、召喚士のような『カギ』ではなく『片道切符』。一回呼び出したらお終い。

 苦労して手に入れた契約も高額な憑依魔石も、つまり使い捨て状態。

 ホントに使役士は報われない。



 だが信じられないかもしれないが、昔はこれでも高火力を見込まれてPTに引っ張りだこだったり、一攫千金が狙える人気がある職業だったのだ。


 どういうことかというと、まずは一攫千金の説明から。



 暗黒の門が現れたら、使役士は空の魔石を大量に持って突入する。

 運良く自分が倒せるモンスターだった場合はとにかく倒しまくってどんどん魔石に憑依させる。

 そしてそれを売るのだ。

 かなり高額で取引されているので、一回の潜入で城を建てたという人も居たらしい。



 しかし時代が進みハイリスクの為、使役士の数が段々と少なくなってくると、そもそも使う人がいなくなるので需要が減って魔石が余るようになってくる。

 当然値段が下がる。

 ハイリスクの割に儲からない。

 結果的にどんどん使役士は減っていく。

 そうすると魔石の供給源が無くなる。

 すると再度、魔石の値段は高くなる。

 結果的に買えない人が続出し、さらに使役士の数は減っていく・・・という悪循環に陥っていったのだった。



 そしてもう1つ、高火力の説明。


 一般的に火力は使役モンスターに依存しており、使役士自体の能力・・・いわゆる筋力だったり魔力だったりは平均値だ。

 しかも他の適性と違い、攻撃するスキルだったり、魔法だったりは使えない。

 一応クルッピは誰でも使役しているが、マッチの炎くらいの火力しか出せなかったり、ミールのクルッピのように全く戦闘スキルを所持していない存在も多いので役立たず。

 使役士はあくまで使役モンスターを呼び出してナンボなのだ。



 『使役モンスターが強ければ火力が出るって事でしょ?そんなの当たり前じゃん。いくら火力が高くても暗黒の門で倒せないと使役できないし・・・かと言ってそれだけの高レベルな魔石は買えばめちゃくちゃ高額なんだよね?1回キリじゃ全然元取れないし意味ないじゃん!』



 皆さんはそうお思いでしょう。

 実はそこが使役士と召喚士の決定的な違い。




『オートデスレクション(自爆)』が使えるかどうかって事なのだ。




 つまり使役モンスターを自爆させる事が出来る。

 この爆発の威力が非常に強力。

 最下級のガイコツでさえ、銀ランク魔法士の高火力魔法を凌ぐ程なのだから。



 何が起るか分からないのがフィールドであり、冒険者という職業。

 だからこそ高火力なスキルや魔法は重宝される。

 何故なら、絶体絶命のピンチを乗り切る切り札として使えるからだ。

 熟練の冒険者達ならいざ知らず・・・まだ経験が浅い冒険者達にとってはランクに関係なく強力なワザが使える使役士はとっても魅力的であり是非仲間に引き入れたい。

 そんな思惑があり引っ張りだこだったという訳だ。



 え?めっちゃ良いじゃん!?

 比較的安い(それでも十分高いが・・)ガイコツで良いんでしょ?

 それならコスパも安定するじゃん?

 いざって時のお守りとして重宝するし!

 それなのに何故、存在が絶滅危惧種と言われるくらい人気が無いの??



 その理由は・・・偶然に起きた不幸な事故と、いわれのない誹謗中傷だった。



 どういう事かというと、モンスターとはいえ、呼び出した自分の味方を自爆させる。

 使役士としても、どうせこの戦闘が終わったら帰っちゃうんだから、折角だから使っておこうってな感じで呼び出したモンスターは、ほぼ確実に自爆させてくる。



 元々そういう事に抵抗を感じる冒険者は多数存在していた。

 しかし長らく問題にはなっていなかった。黙認されていたといっていいかもしれない。



 だがしかし、その昔、使役士が所属する結構有名なカントリーチームが全滅する事件が起こる。

 人々は驚いた。

 そのカントリーチームは実力も高く、全滅などあり得ないと思っていたからだ。

 そんな雰囲気の中、自然とある噂が流れてくる。



 使役士が今まで自爆させてきたモンスターの怨念が復讐してきたんだ・・・と。



 大抵の噂は全く根拠の無いデマのようなもの。

 しかし、時にそれは瞬く間に広がっていく。

 そして真実であるかのように振る舞う。



 タイミングというか運も悪かった。

 こういう事が起こると、何故か数珠つなぎの様に似たような事件が続くモノ・・・

 今回も例に漏れず、各地で使役士のPTが全滅した、壊滅したという事件が起こる。

 それはよく調べれば使役士とは全く関係ない事柄で全滅したと分かるのだが、その時は既に使役モンスターの復讐って噂が真実のようになっていた。



 使役士自体の傲慢な態度も良くなかったのだろう。

 


 各PTは使役士を、いざという時の切り札として仲間にしている。

 つまり、言い方を変えれば普段は全く役に立たないのである。

 雑魚相手に使役モンスターを呼び出しても無駄になるだけだし、使役士自身も攻撃スキルなどは所持していない。 

 大抵は戦闘中も逃げ回るだけ。完全なお荷物だ。



 しかし切り札として生き残っていて貰わなければならない。

 なにかあったら大変だと、手厚い対応が使役士に対して行われる。これが前線で身体を張ってる冒険者達には面白くないのだ。



 そういった使役士を面白く思わない者達による一種の(ひが)みが噂に拍車をかけた。

 もちろん、自分の実力を勘違いした使役士が大量に発生していたという事実も否定はしないが。



 役に立たないのに偉そう。

 自分は安全な所にいて指示ばかりする。

 戦闘に参加しないどころか荷物さえ持たない。

 なのに分け前はキッチリ貰っていく。

 何で俺が、私が、危険を冒してまでムカツク奴を守らなきゃならないの??



 そういった不満が噂を真実にし、『使役士がいると怨念によりPTが全滅する』といった悪評は、あっという間に広がる事となる。

 そして元々落ち目だった使役士は、更に数が減少。今や絶滅危惧種のようになってしまったという訳だった。




 説明が長くなってしまったが、つまりミールは使役できるモンスターの魔石を探していた。

 今は使役士が『暗黒の門』を潜って作成した魔石は殆ど無く、自然現象で発掘された魔石が、極たま~に売られているくらいなので、ミールは根気よく1軒1軒探していた。



 あれ?使役しても戦いが終わったら帰っちゃうんでしょ?あんま意味なくない?とお思いの貴方。



 確かに戦闘中に呼び出して、攻撃する相手を指定したら、その戦闘が終わる、もしくは逆に倒されてしまうと帰ってしまう。



 しかし、ただ単純に呼び出した場合、基本的に使役モンスターはその場から動かない。

 そして召喚者を中心に、半径15メートルくらいの範囲に敵が入ってきた場合、それめがけて攻撃を仕掛けるのだ。



 ただ1つ注意点がある。


 使役したモンスターは範囲内に入ってきた敵を倒そうとするのみで、使役士自体を守ろうとは行動しない。

 いくら使役士がピンチの状態でも、ノンビリとスライム相手に攻撃をしているような感じだ。

 又、通常と同じようにその戦闘が終わったら(範囲内に敵がいなくなったら)帰ってしまう。



 それじゃあ護衛としてあんまり意味が無いんじゃ・・・と思うかもしれないが、ミールはまたまたチート的な能力の恩恵を受けている。



 以前、結界石の効果が光属性の魔力を込めると長続きする事を偶然ミールは発見したとお伝えしたが、実は使役モンスターにも闇属性の魔力を込めて呼び出すと、およそ12時間、約半日ほどの時間滞在し、そしてその時間の間は敵を殲滅しても現出し続ける事を発見している。



 勿論公表はしていない。



 なのでミールに限り、憑依魔石はそこそこ役に立つ実用的なアイテムなのだ。





「う~ん。中々無いなぁ・・・ガイコツクラスなら有るけど・・・」

 ガイコツとは先程説明させて頂いたが使役モンスターの中で最弱クラスだ。



 ミールは『オートデスレクション(自爆)』はなるべく使いたくないと思っているし、どちらかというと人間対策なので、弱いガイコツは無用の長物。

 出来ればもう少しレベルの高いモンスターを使役したいものだ。



 ガタリヤの街をグルッと一周するように魔法石屋を回る。

 ミールが拠点にしているグワンバラの宿は、南側の星光街と呼ばれている地区で貧民層が多く暮らしている。



 東側は星雲街と呼ばれており冒険者ギルドや警備局、人事局などの施設が多く固まっている。因みにグレービーのお店もこちら側にある。



 北側は星竜街と呼ばれていて、主に貴族や富裕層が多く住んでいる。



 そして西側は星風街と呼ばれ高校や大学、研究所や鍛冶屋などの作業所が多く集まっており、学問と開発の地区として知られている。



 そして中央は領主の屋敷があり、議会所や魔法省などの重要施設が集まっていて正にガタリヤの要的な場所だ。



 ミールは南→東→北→西という順路で進んでいるが、これといった収穫が無いまま、西の星風街にやってきた。

 この場所は学生も多く住んでいるので、安宿が密集していてゴチャゴチャしている。

 細道も多く、こんな所にお店が?!ってな感じで玄人好みのお店も多いのが特徴だ。



 1つ1つ細道を進みながらお店を探していく。細道といっても学問の地区なので若者も多く、人通りは多い方だ。

 オシャレなカフェ、軽快な音楽が流れる洋服店、ガラス張りのカットサロンやよく分らない人形が沢山並んでいるお店など様々だ。



 その中でミールは1軒の寂れた魔法石屋を見つける。



 路地ではなく用水路を跨ぎながら進まなければお店に入れず、小さな看板を見つけてなければ絶対に通り過ぎていただろう。



 用水路を跨ぎながらドアの前まで進む。

 近づいて初めて分かったのだが、看板と思っていたモノはなんと空中に浮いている発光した文字だった。

 一体どんな原理で浮いているのだろう・・・



 ギギ・・・ギィ・・・



 扉も長年、開いたことがないのではないかと想像してしまう音を出し、ゆっくりと開く。



 広さは3畳ほどでかなり狭い。



 そして店主はボサボサの黒髪で顔を隠しながら、奥の机に座って、何かの作業に没頭していた。

 至る所に、主人が作業で使っていると思われる小道具の数々が置かれており、所々に置かれている魔石に値札が付いてなければ、只の作業所と勘違いしてしまう感じだった。



 一瞬だけ作業の手を止めミールの方向を見る主人だったが、直ぐに再び作業に戻る。

 ミールは構わずに1個1個魔石を確認していった。



「おお・・・」

 思わず感嘆の声が出てしまう程、珍しい魔石が数多く置かれていた。



 例えるならば、一昔前のラインナップ。

 幻を見せる物や集中力を削ぐ物、眠りに陥れる魔石などなど。

 今は火力重視、スピード重視のスタイルが主流となっているが、一昔前はじっくりと相手を弱体化させてから戦う戦法が主流だったのだ。



 ミールはワクワクしながら、じっくりと魔石を見定める。

 しかし、お目当ての使役系の魔石は1つも無かった。



 普段は店頭に並んでいなかったら諦めてお店を出て行くミールだったが、この店は他にはない店主のこだわりのような物を感じる。

 得てして、こういった場所にはとんでもない魔石が眠っていたりするものなのだ。

 ミールは思い切って話しかけてみる事にした。



「憑依魔石って無いのかな?・・・」



 店主はピタッと作業を止め、無言のまま、おもむろに歩き出す。

 そしてミールの足下にある引き出しを開けて中からダンボールを引っ張り出した。



「ここに入ってる奴で全部」

 それだけ言うと、また作業に戻っていく。



「あ、ああ・・・ありがと・・・」

 ミールは心の中で『こんな所にしまっててわかるかっ!』と叫びながら魔石を見ていく。



「おうっ?!」

 目に飛び込んできたのは死霊騎士の魔石、かなりの高レベルだ。



 他にも火食鳥、マーメイドフェアリー、銀雪虫、ゴーレムなどなど。

 かなりのレア魔石に、無造作にラベルが貼ってあり、そこに直筆で名前と値段が書かれている。

 しかも安い・・・定価の10分の1の値段だ。



「これ、全部貰うよ。いくらだい?」

 店主はピタッと作業の手を止め、ボサボサの髪の間から覗き込むクマの出来た目を大きく見開き、ミールをマジマジと見る。



「あんた・・・客だったのか・・・」



 おいおい。一体誰に見えてたんだ?

 ツッコミたい欲望を必死に堪えて笑顔で接するミール。



「全部で・・・そうだな・・・10万グルドで良いよ」

「マジか?安すぎないか?」

「え?そうなのか?・・・相場がよくわからないから・・・」

 ミールはちょっと試して見る事にした。



「だいたい100万グルドはするぞ?安くても」



 店主は目を見開きながら

「ええ?・・そんなに価値があるのか・・・まあ10万でいいよ。魔石も使ってくれる人が見つかって嬉しそうだしな・・・」



 ミールはニッコリする。ちょっと変わっているが、信頼の置ける人物のようだ。



「魔法通貨は使える?」

「ああ・・・そういえば・・・そんなのもあったな・・・えっと・・・久しく使ってないから・・・あ、これか。大丈夫みたいだ」

 お互いに魔力を込めて通貨を受け渡す。



「あれ?・・・多いよ?20万グルドになってる・・・」

「ちょっとした感謝の気持ちさ。お目当ての物を見つけられたからね。受け取ってくれ」



「そうかい?わるいね・・・他なんか欲しいのあったら言ってくれ・・・まあ、どれも古いものばかりだけど・・・」

 店主はポリポリと頭を掻きながら照れている。



「ああ、ありがとう・・・ところでさっきから、一生懸命なにを作っているんだ?」



「これかい?これは僕が開発した持続魔石を改良している所なんだ・・・中々上手くいかないけどね・・・」

「持続魔石?・・・なんだそれは?」



「えっとね・・・普通の魔石は魔力を込めると、中に封じ込められた魔法が一気に発動するだろう?」

「うんうん」



「それが僕が開発した持続魔石を使うと、徐々に魔法がゆっくりと発動するんだよ」

「ほうほう」



「だから例えば回復魔法をこの中に封じ込めると、10分くらいかけて、徐々に徐々に回復魔法をかけてくれるようになるって仕組みさ」

「凄いなっ!それいくら?!是非売ってくれっ!」



「ええ??・・・買うのかい?・・・」

「え?マズいのか?・・・」



「いや・・・まだ試作段階だから・・・実用性が無いというか・・・」

「はははっ。まあ、確かに回復して欲しい時は一気に回復されたいものだからな・・・俺もどんな時に使えば良いかイマイチ分からないが・・・とにかく発想が素晴らしいっ!素晴らしい着眼点だ!」



「そ、そうかい?・・・でも多分2~3回使ったら壊れるよ?魔石に魔力を遮断する鉱石を加工して作ってるんだけど・・・中々上手く行かなくてね・・・試行錯誤の連続さ・・・」



「なるほどねっ!全然良いよっ!何個あるんだ?」

「えっと・・・今は3つかな?・・・」

「じゃあ3つ買うよ。いくらになる?」


「ええ??ほ、本当に良いのかい?不良品って怒鳴り込んで来ないでくれよぉ・・・」


「はははっ。そんな事しないって」


「えっと・・・いくらにしよう・・・値段決めてないんだ・・・まだ試作段階だから・・・」


「そうか・・・じゃあこれで」

 ミールは魔法通貨に魔力を込める。



「ええええ?!ひゃ、ひゃくまんぐるど??だ、だめだよっ!こんなに貰えない!」



「でも改良するには金がかかるだろ?研究費だよ。早く改良型が出来るのを期待しているぜ」



「ほ、本当に良いのかい?・・・正直助かったよ・・・あんたの言う通り材料費だけでもかなりの金額だからね・・・ここ最近はずっと魔力供給の仕事さ」

 なるほど、だから目の下にクマが出来てるんだな。



「いや~良い買い物が出来たよ。ありがとう」

 ミールは扉に手をかける。



「あ、そうそう。聞きたかったんだけど、この浮いてる文字は、どういう仕組みなんだい?」


「あー。それは浮いてるんじゃないんだ。そこに書かれているだけ」

「??」


「えっとね。僕が開発したペンがあって。それを使うと何処でも・・・例え空中でも文字を書けるって代物なんだ」

「なにそれっ!?凄いじゃん!?」


「僕もそう思ってたんだけど・・・お役所に販売を止められちゃってさ。売り物にはならなかったんだよ」

「どうして??」


「あはは。実はね、消す方法がないんだ。書いたら最後。永遠に残っちゃうんだよ。それじゃあ街が大変な事になるって言われちゃって・・・まあ、そうだよね、あはは」

「そっかー。残念だな。発想は素晴らしいのに」


「何とか消せる方法を模索したんだけどね。未だ見つからずって感じ。だから文字も試し書きした看板しかないんだ。まあ、これもゆっくり研究していくよ」


「そうか。期待してるよ。今日はありがとう。また来る」



「あ、ありがとぉ・・・ございましたぁ・・・」

 店主は言い慣れてない感じで、お礼を言い、頭を下げる。



「うおっ?!」



 店を出て直ぐに用水路の排水溝に足を取られそうになった。

 確かにこんな場所にお店があるなんて思わないよな・・・


 ミールはマジックポケットに魔石をしまい込み、帰路につく。

 辺りは夕焼けの光が優しく街を包み込んでいた。



        続く

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