ガタリヤ奮闘記⑬
「油断するな!よねっ!」
「油断するな!ですわっ!」
2人はハモりながら元気にミールの言葉を遮る。
「よし、行くか」
ミールは笑いながら足を前に進めるのであった。
⇨ガタリヤ奮闘記⑬
スラム街を後にして、そろそろ東門に到着しようとしていた頃、リリフが大声を上げる。
「あっ!人が襲われているよっ!ふ・・・ふたり?・・・さっきの女の子だわっ!」
「え?!そうなのですか?!わたくしには全く見えませんが・・・」
助けに走りだそうとしたリリフは、急にピタッと立ち止まる。
そしてセリーを見て
「こ、これって・・・助けても良いのかしら?・・・」
ニッコリと笑顔を向けながら走り出すセリー。
「当然ですわっ!行きますわよ!リリフ!」
「うんっ!」
2人は全力で走り出す。
「あっ!確かに見えますわっ。はあっはあっ。スライムに襲われているみたいですわっ!」
「あの子達、人獣よねっ?!はあっはあっ、どうして結界内に入らないのかしらっ?!」
「なにか事情があるのやも知れませんわっ!はあっはあっ。とにかくスライムならなんとか追っ払えますわね!」
かなり近くまで来たので女の子達がどういう状況なのかが分かってきた。
襲っているスライムはどうやら3匹。ぴょんっぴょんっと追っかけている。
女の子と男の子は手を繋いだまま一生懸命逃げているようだ。
スライムはぴょんっぴょんっと跳ねる性質上、そこまで足は速くない。
1直線に逃げれば子供の足でも十分逃げ切れる。
しかしそれはあくまで何も無ければの話だ。
実際は地面はデコボコしてるし、草も生えている。ぬかるんでいる所もあれば、岩が飛び出ている所もあるのだ。
更に追われているという恐怖は人間の筋肉を硬直させ、いつも通りの動きは大人でも中々出来ない。
案の定、女の子が転んでしまった。
男の子は女の子を庇うようにスライムに対峙して、ブンブンと腕を振るって追い払おうとしている。
しかし剣を振り回しているなら別だが、男の子はなにも持っていない。
当然追い払う事は叶わず、男の子の腕に飛びつき粘着するスライム。ジュウっと音がして焦げ臭い匂いが立ちこめた。
男の子はなんとかスライムを引き離すが、直ぐにひざまずいて顔をしかめている。
腕の皮膚はただれ、真っ赤になっており、洋服も溶かされてボロボロだ。
うずくまる男の子にスライムがすかさず3匹同時に飛びかかってくる。
「危ないっ!」
リリフが走りながら叫んだその時、いつからいたのか草陰から出てきたバウンドウルフがスライムをバクっと捕食したのだった。
スライムはあっという間に液体化する。
この平原では水分は貴重だ。バウンドウルフにとってスライムは大切なお水なのかもしれない。
口の中で液体化したスライムを舌で綺麗に舐め取り喉を潤す。
そして3匹のバウンドウルフはグルルルっとうなり声を上げながら男の子達を威嚇した。
男の子はガクガクと震えているのが遠くからでも分かる。
しかし女の子を一生懸命最後まで守ると決めているようで、両手を広げて必死に庇っている。
「バウンドウルフよっ!セリー!」
「りょーかい!」
これが阿吽の呼吸というやつなのだろうか?
もしくは絶対の信頼感がなせる奇跡と言うやつなのか?
今日はお互いタイミングも息も合っていなかったチグハグな2人が、まるで長年組んできたPTのように、お互いの考えが一致している。
リリフがバウンドウルフに突っ込む。その背後からセリーが魔法を唱えた。
ヒュンッ
リリフは後ろに目が有るのではないかと思われる動きをみせ、ちょっとだけ姿勢を逸らして後ろからくる火の玉をやり過ごす。
リリフに直撃するかと思われた火の玉は1直線に手前のバウンドウルフに直撃。黒焦げにした。
しかし安心する間も無く、もう1匹が男の子めがけて牙を向ける。
「駄目ぇーーーっ!」
リリフが大声で叫ぶ。
その瞬間リリフの身体が光り輝き、超スピードで一気に距離を詰め、そのままウイングナイフで首を落とす。
首の無くなった身体はゴロンゴロンと回転しながら転がり結界にぶつかった。
バチチイインン!
身体はそのまま結界に弾き飛ばされ、ちょうど黒焦げの死体の横に転がる。
もう1匹、生き残っていたバウンドウルフはその光景をみて
「キャンキャンッ」
と尻尾を内側にしまい込んで、一目散に逃げていった。
呆気にとられる女の子と男の子。
「ふわわぁぁああ!!なんか!なんか凄く速かった!なんだろ?!」
自分でも無意識の行動だったのだろう。リリフは自身の超スピードに驚きの声を上げる。
「おそらくスキルが解放されたのですわっ!リリフの身体光ってましたもの!」
「そうなんだっ!全然分からなかったわっ!」
「新しいスキルを無意識で使えるなんて凄いですわっ」
「ううん。なんか必死で・・・あ、でもセリーの魔法も凄かったよっ!バッチリのタイミングっ!」
「ですわよねっ!なんかリリフと考えがピタッと一致しましたわっ!」
「うんうん!すっごくやりやすかったっ!」
「お二人さん。盛り上がってる所悪いけど、この子達の傷の手当てを先にしよう」
「ひゃっ!ごめんっ!そうだったっ!」
「申し訳ございませんわっ!浮かれてしまいましたっ!」
リリフ達のやり取りに安心したのか、緊張の糸が切れたようにヘナヘナっと地面に尻餅をつき、右腕を押さえこむ男の子。
「お兄ちゃん!」
女の子が男の子のもとに駆け寄る。
スライムに吸着された右腕は皮膚はただれ、赤く腫れ上がっている。
苦痛で顔を歪める男の子。額にはびっしょりと汗が噴き出ている。
「大変っ!ど、どうしよう・・・ミールぅ・・・」
「回復魔石使ってみ。まだ1度も使ったこと無いだろ?良い機会だから」
「私の初級の魔石でも効果あるのっ?やってみるっ」
リリフが魔石をポッケから取り出すと
「い、いけません・・・冒険者様・・・自分なんかに手を貸しては駄目です・・・」
男の子は正座をしてリリフを制する。
「何言ってるのよ。あなた、このままにしたら腕が腐って死ぬわよ?そうとう痛いでしょ?意地張るんじゃありません」
このままだと死んでしまうかもという事実に、ショックを受けた女の子は涙を流しながらリリフの服を掴み、懇願する。
「冒険者様っ!お願いしますっ!全部ブルニが悪いのっ!どんな罰でも受けますっ!どうかお兄ちゃんを助けてっ!」
マンハッタンに投げつけられた、お玉が直撃した跡なのだろう。額には血の跡がくっきり残っており、生傷も痛々しい。
「止めろ・・・ブルニ・・・冒険者様に失礼・・・だろ・・・」
リリフの言う通り余程痛いのだろう。
男の子は顔をしかめながら、なんとか声を絞り出す。
「だってお兄ちゃん!」
リリフは女の子の頭を優しく撫でながら
「大丈夫っ。怯えなくて良いからね。私たちに任せて」
回復魔石に魔力を込めるリリフ。
直ぐにパアァっと緑色の優しい光が辺りを包む。
その光は男の子達、リリフ達、全員を包み込んで消えていく。
「ふわぁ!本当にあっという間なんだねっ!」
「ですわねっ。しかも全員に効果があるのですねっミール様」
「そうだね。回復魔石は基本的にその場にいる全員に効果があるね。回復士自身の魔法だったら全体か個人かで指定できるけど。逆に修復魔法は患部を直接触る必要があるってのが特徴だね、触媒も必要だし」
「そっかぁ。あ、でもやっぱり傷は残っちゃってるね・・・だいぶ良くはなってるけど・・・」
「まあ、初級の回復魔法だからなぁ。基本は体力回復で傷の治癒効果は殆ど無いからそんなもんだろ。多分、1〜2週間したら自然と傷跡も無くなると思うよ。でもかなり楽になったんじゃないかい?」
「は、はい・・・痛みはほぼ無くなりました。自分のような汚れた亜人種に過分なご厚意を頂き・・・なんとお礼を言ったら良いのか・・・」
「良かった・・・お兄ちゃんを助けてくれてありがとぉ。冒険者様っ」
ぺこりとお辞儀をする女の子。幸い、回復魔法で額の傷は治ったようだ。
嬉しそうに尻尾をフリフリしていて、猫耳が可愛い人獣の女の子に見える。
薄い水色なボブカットの髪型に、ほっぺに猫ひげが10本ほど生えていた。
男の子は濃い水色の髪型で同じように猫耳が付いているが、女の子のように、ほっぺに猫ひげは無い。
二人とも汚れが染みこんだボロボロの服を着ていて、お尻からはフサフサの尻尾が生えていた。
年は15歳前後くらいか。
リリフの身長よりも少し小さいくらいの男の子と、更に握りこぶし1個分小さい女の子。そして2人ともかなり痩せていた。
女の子は男の子の腕をさすりながら
「お兄ちゃん、ごめんね・・・痛かったでしょ?・・・」
「良いんだよ、ブルニ。お前が無事ならそれでいい」
優しく妹の頭を撫でる男の子。
女の子の猫耳が『しゅん・・・』って垂れていて可愛い。
「二人は兄弟なの?」
リリフは座り込み、二人と視線を同じにして尋ねる。
「あ、はいっ。お兄ちゃんのリューイと妹のブルニです。冒険者様っ」
「ああんっ。そんなに畏まらなくて良いのですよ。わたくし達はついこの間デビューしたばかりの初心者冒険者なのですからっ」
セリーも同じく座り込み、優しく語りかける。
「そ、そんなっ。滅相もございませんですっ。人間種の方とお話し出来る身分では無いのでっ・・・」
「あら?・・・そうなのですか?・・・」
「はい。自分達は人間種の方のご命令に従うのみ、こうして会話を交わすなどもっての外と幼い頃から教え込まれて来ておりますので」
「ええ~!そんなぁ・・・酷い・・・」
「君たちの両親はいるのかい?」
ミールはリリフ達とは違い、立ったままの姿勢で尋ねる。
何故ならここは結界外なのだ。いつ新手のモンスターが襲ってくると限らない。
完全に無警戒になっている二人には後でお説教確定である。
「い、いえっ!今はお兄ちゃんと2人ですっ」
「5年ほど前にキーンからガタリヤに一家で移ってきました。それまではかなり生活が厳しかったのですが、キーンと違ってガタリヤは配給があったので、なんとか生活を立て直す事が出来たのです。それからは家族4人で助け合って生活していたのですが、3ヶ月ほど前に農作業中に2人ともモンスターに・・・それからは二人で細々と仕事をしながら食いつないできました。本当にガタリヤは配給があって助かりました。ありがとうございます」
あんな状態の配給でさえ有り難いと思っている事にショックを受けるリリフとセリー。なんともやり切れない気持ちで、リリフは思わず女の子を抱きしめる。
「ひゃっ。ぼ、冒険者様・・・ブルニは汚いので・・・駄目ですよぉ・・・」
最初は驚き硬直していた妹のブルニだったが、更にギュッと抱きしめてくるリリフに対し、両親の温もりを思い出したのか自然と涙が流れていく。
リリフはリリフで、抱きしめてみて改めて痩せているのを感じ、今までの過酷な生活を想像せずにはいられず涙する。
「君たちは人獣だろ?とりあえず結界内に入ろうか?ここじゃ安心して話しも出来ないし。それからこれからについて相談しよう」
「そ、そうですわねっ。人獣は結界に入れるんですものね。わたくし結界外だという事をすっかり忘れておりましたわっ」
「ああ。あとでお説教な」
「ひーん・・・」
「あ、あの・・・」
女の子が遠慮がちに声を上げる・・・が、モジモジしてしまい、その先の言葉が続かない。
「すみません。自分は入れるのですが・・・妹は結界に入る事が出来ません」
「え?そうなの?」
思わず素で反応してしまうミール。
結界に弾かれる半獣は顔はこの子達と同じでも、手や足などは獣のような見た目をしている。
この二人の手は人間の手と同じなので間違いなく人獣だと思っていたからだ。
いや、人獣なのは合ってるのか。男の子が入れるって言ってるしな。
でもそうだとしたら何でだ??という考えが頭の中をグルグルしている。
「あれ?二人は・・・実の兄弟なんだよな?親が同じの・・・」
「はい、そうです。自分も何故こうなっているのかは分からないのですが・・・最初は妹を含めて家族全員入れていたのです。ですが、5年ほど前から何故か妹だけ弾かれてしまいまして・・」
「ほぉ・・・そんなことがあるのか・・」
「ねえねえっミール。結界ってどういう仕組みなのかな?どうやって判断しているんだろう?」
「いや~。俺も正確には分からないな・・・通説では魔力の種類が影響しているって話だね」
「魔力の種類?」
「そう。俺達が魔力と呼んでいるモノとは別系統の存在の事で、学者達は『妖力』って呼んでるけどね。その『妖力』を持ってると結界に弾かれるらしいね」
「ようりょく・・・そんなのがあるんだぁ」
「そうそう。だから俺達が一般的にモンスターって呼んでる存在は、皆んな『妖力』を持ってるんだよ。ここら辺にいるスライムだろうが、デーモンだろうがね」
「ほほー」
「でも逆に街中で見るネコやイヌ、鳥や虫とかは結界内に入れるだろ?それはなんでかって言うと魔力も妖力も持っていないからみたいだね。そういう生き物には結界は反応しないみたい」
「へへー」
「でも注意してほしいのは、俺達が一般的に野生動物と呼んでる獣達。こいつらも魔力も妖力も持ってないから入れるちゃうんだ。ライオンだろうがクマだろうがね」
「えっ?!そなの?!」
「ああ、別に人間に危害を加えるとかは結界には関係ないからね。それにヤツらは好んで人間を襲ってはこないからな。あくまで縄張りを守る為、食べ物を確保する為、子供を守る為に行動してるにすぎない。とはいえ、注意するに越したことはないから街の門には兵士が配置されているし、村などにも兵士や冒険者が駐在しているってことだね」
「そーなんだぁ」
「ついでにちょっと特殊な例を挙げると、獣人は『妖力』を所持してる。だけど結界を通れる者がいるんだ。なんでだと思う?」
「ええ?!獣人が?!あれっ?『妖力』を持ってるって言ってたよね?うーんと、うーんと・・・なんでだろう・・」
「もしかして・・魔力も妖力も持ってない者が・・いるとかでしょうか?」
「あははっ!そんな人いるわけないじゃーん!セリーったら!」
「わ、分かってますわよっ!ちょっと言ってみただけですわっ!」
「いや、セリー。正解だ」
「!!!」
「本当に極僅かな存在なんだけど、魔力も妖力も持ってない者がこの世の中にはいる。これは獣人だけじゃなく人間種にもいるんだ。滅多に出会えないけどね」
「ほへー」
「当てずっぽうが当たってしまいましたわ・・」
「そいつらの区分は野生動物と同じ。だから結界は反応せずに獣人でも通過できるってカラクリだね」
「ねえ、ミール。あの・・・なんだっけ?獣半だっけ?人獣と獣人の中間みたいな人。この人達も結界は通れないって言ってたよね?てことは『妖力』を所持してるってこと?」
「半獣な。リリフの言うとおり彼らは『妖力』を所持しているね。だから結界には入れないな」
「へー。ほとんど見た目は変わらないのになぁ」
「魔力と妖力の大きな違いは人間の血の濃さをどれだけ持っているかってことみたいだね。例えば獣人。コイツらは亜人種の血100%のヤツもいれば人間の血が少し混じっている者もいる。だいたい0〜25%くらいって言われてるね、人間の血は。次に半獣。コイツらは50%前後人間の血が混じっていると言われている。そして人獣。コイツらは75〜90%くらい人間の血を所持していると言われているね。一般的に妖力が魔力に変化するには75%以上の人間の血が必要だと言われてるんだ。だから獣人や半獣が所持しているのは妖力。人獣だけが魔力を所持していて、結界を通る事が出来るってことだね」
「そーなんだぁ」
「ミール様。わたくし本で読みましたが、ドラゴンは結界を素通りするとか。ですがドラゴンが魔力を所持している・・・つまり人間の血が濃く入っているとは到底思えませんわ。ということは先程ミール様が仰って下さったように野生動物扱い。妖力も魔力も持ってないって事なんでしょうか?」
「いや、ドラゴンは明らかに持ってるね。ただそれが魔力なのか、妖力なのか、それとも別の概念なのか。そういったモノはまだまだ解明されてないみたいだね。だから何故結界を素通りしてくるのかも不明。謎の多い種族さ」
「そうなのですわね。なるほどですわ」
「まずは、この子の魔力の種類を調べてみようか」
ミールはマジックポケットから魔石を取り出す。
「ちょっとこの魔石に魔力を注いでみ。あ、魔力とかも知らないか・・・えっと。なんかグッと力を注ぎ込むみたいな、念力を注ぎ込むみたいな感じ」
「は、はいっ!冒険者様っ」
ブルニは目をつむり、ギュッと力を込める。
するとパァァとリリフ達を緑色の光が包み込んだ。
「ふむ。回復魔石が発動したって事は、今現在、この子は魔力を所持しているって事だな。妖力だと系統自体が違うから発動しないんだよ」
「てことは・・・どゆこと??」
「うーん。ますます謎が深まったな。もしかしたら妖力を所持している半獣かと思ったんだけど、それもないみたい。てことは魔力を所持している人獣って事に間違いはないんだけど・・・なんで結界に入れないんだろう」
「ご両親はお互いに人獣の方だったのでしょうか?」
セリーが尋ねる。
「は、はいっ。そうですっ・・・」
「ふむ・・・」
セリーはジーッと男の子のリューイと女の子のブルニを見比べる。
「ちょっと拝見しますわっ」
「ひゃっ」
セリーは女の子のブルニの服の中を覗き込む。
「ちょ、ちょっとセリー。何してるのよ??」
「ああんっ。正確な情報なくして解決はありませんわ。そこで見ていて下さいまし。さ、お二人とも、ちょっとお姉さんに身体を調べさせて下さいねっ」
そう言うとズボンの中もチェックするセリー。
ブルニは恥ずかしそうに顔を隠してはいるが抵抗はしない。
やはり人間種に対しての絶対の忠誠を叩き込まれているのであろう。
同じように男の子のリューイにも服の中を確認する。
「あら?・・・ふふふ、お元気ですこと・・・」
「す、すみません・・・」
リューイも勿論抵抗はしないのだが・・・心と身体は別物。
特に年頃の男の子にとっては尚更である。
セリーに見られて見事に反応してしまっている。
「?」
ブルニからはセリーの影になっているのでリューイの姿を見る事が出来ていない。どうしたんだろうと 可愛らしく首を傾げている。
セリーはリューイの下半身がブルニに見えないように上手く立ち位置を変えてから、しばらく考える。
そして閃いたって感じでポンッと手を叩き
「その猫ひげ・・・剃っちゃっても良いのかしら?」
「えっ?!これですか??は、はいっ。全然大丈夫です・・・」
「おいおい・・・まさかその毛が邪魔してるって言いたいのか?流石にそれはないだろう」
「あら?お言葉ですがミール様。何事もチャレンジしてみないことには新たな扉は開かれませんことよ?お二人の身体を確認しましたが、相違点は猫ひげだけですわ。やってみる価値は十分有ります事よっ」
「まあ、そうだけどさー。そんな簡単な事だったら半獣も獣人も全部毛を剃っちゃえば入れちゃうって事だろ?そんな簡単な事を今まで誰も試して無かったとは思えないけどなー」
「あ、あのっ!冒険者のお姉様っ・・・」
「まあっ!何かしらぁ!ブルニちゃぁん!」
お姉様と呼ばれた事が嬉しかったのか1オクターブ高い声で反応するセリー。
「あ、あのっ。亜人種では有名なお話なんですけど・・・体毛を剃ったり、獣の手を切断したり、尻尾を切ったり・・・昔から結界を突破する為、数多くの生体実験が行われてきて、大量の亜人種の命が失われたって忌まわしい歴史があるんです・・・そして残念ながら成功した事例は無いって事みたいです・・・ごめんなさい」
「まぁ、そうだろうね。俺もそう思うよ。亜人種にとっては結界に入れるかは文字通り死活問題だからね。相当実験してるはずさ」
「もうっ!ミール様の口から否定的な言葉は聞きたくありませんわっ!セリーは悲しいですっ」
涙を浮かべるセリーに、ミールはタジタジになりながら返答する。
「お、おう・・・そ、そうだな。やってみないと分からないからな。すまん・・・やってみようっ!」
その言葉を聞いてニヤリとしたセリーは
「それでは許せませんわっ!『セリーお姉様ごめんなさい』です。はいっ!どうぞっ!」
「・・・」
セリーは鼻の穴を膨らまし、ミールの言葉を今か今かと待っている。
リリフは全く無関心だが、リューイとブルニはどういう反応をしたらよいのか分からずに、セリーとミールの顔を交互に見比べ愛想笑いをしている。
こんな子供にまで気を使わせてしまうのは申し訳ないので
「セリーネエサマ、ゴメンナサイ」
心を無にして言葉を紡ぐ。
セリーは満足したようで
「ではではぁ!早速実践ですわっ!リリフ、そのナイフで綺麗に削ぎ落としてくださいまし」
「えっ!わたしぃ?もうっ、しょーがないなぁ・・・」
リリフは嫌々ながらダガーナイフを構える。
「あっ!ちょっとお待ちになって・・・まずは3分の1だけ剃って下さいまし」
「う、うん・・分かったわ・・」
ブルニは目をつむって動かないようにしている。
リリフはそぉ~っと1本1本丁寧に剃り落としていった。
「とりあえず3分の1だけ終わったよ」
「ではブルニ。そーっと指先だけで良いので結界に触れてもらってもいいでしょうか?」
「は、はいっ。分かりました・・・」
ブルニはそーっと人差し指だけ触れてみる。
バチッ
軽い電流が走り弾かれるブルニの指。
「ふむ。予想通りですわね。では3分の2までお願いしますわ、リリフ」
「う、うん・・・」
引き続きゆっくりと剃り落としていく。
ミールはその様子を腕を組みながら見守っている。
正直全く上手く行くとは思ってないので、この先の事・・・この子達の身の振り方に思いを馳せていた。
結界に入れないとなると、残った選択肢は決して多くは無い。
「ふう・・・これで3分の2かな」
リリフはぎゅーっと目をつむっているブルニの頭を撫でながら優しく語りかける。
「は、はいいっ・・・ありがとうございますっ」
ブルニはリリフ達が何をしてもお礼を言う。
例えリリフが鼻クソをひっつけてきてもお礼を言うのではないだろうか。
「ではブルニ。先程と同じように指先で触れてみて下さいな」
「は、はいい」
ブルニは人差し指を先程よりも慎重に、そーっとそーっと結界に近づける。
実は結界に弾かれると見た目よりもずっと痛いので出来ればあまり触れたくない。
5年前に唐突に結界から弾かれた時に受けた激痛の衝撃は、ブルニの脳裏に深く深く刻まれていた。
それからは結界に一切近づかないようにしていたので、先程触れたのが実に5年ぶりだったのだ。
しかしそんな素振りは全く見せずに言う通りに従うブルニ。
「あれ?・・・」
ブルニが小さく呟く。
先程弾かれた所まで指を伸ばしているはずなのに何の反応もないからだ。
今度はフリフリと手のひらを結界の膜がある場所に通過させる。
「あれ?・・・なんで?・・・」
明らかに結界が反応していない。ミール達と同じようにそこに何も無いように通過出来ている。
しかしブルニは嬉しさ、驚きなどの感情は生まれていない。
逆に弾かれない事に対する罪悪感にも似た感情が湧き上がっていた。
どうしよう、このままだと怒られる。
そんな考えが頭の中を支配してしまう程、長年虐げられた生活と結界を越えられない事実はブルニの心 深くに染みこんでいた。
「ブルニっ!越えてますわっ!越えてますわぁっ!ほらっ!ほらっ!ミール様っ!見て下さいましっ!」
「う、嘘だろ・・・本当に・・・越えてるぞっ?!」
ミールもその事実に興奮する。
「凄いっ!本当に越えてるわっ!ブルニ!ほらっ!ほらっ!」
リリフはブルニの両手をガシッと掴み結界内に誘導した。
「あっ・・・えっ・・・」
リリフに連れられてフワッと一歩一歩結界内を歩いて行くブルニ。
リリフ達の喜びようを見て、ようやく自分自身に起った奇跡を段々と理解してきたようだ。
はっとして振り向き兄のリューイに視線を移す。リューイは座り込んだまま呆然とした顔で大粒の涙を流していた。
「お、お兄ちゃん・・・」
それを見て初めて実感したのだろう。ブルニも大粒の涙を流し走り出し兄に抱きつく。
リューイもギュッと力いっぱい抱きしめ返す。
「良かった・・・ブルニ。本当に良かったな」
「うんっ・・・うんっ・・・」
「さあ、2人とも。とりあえず結界内でお話しましょうですわ」
2人は頷き、手を繋いで結界を越える。
リューイは空を見上げた。
真っ青な空に白い雲、そして追いかけっこをしているように飛び回る鳥たち。
たったの数歩歩いただけで景色はまるで違って見えた。
「本当にこんな事が・・・夢にまで見た事が起きるなんて・・・2人で結界内を歩ける日が来るなんて・・・」
リューイは噛みしめるように一言一言呟く。
その光景を見ながら
「本当に・・・ちょっと・・・まだ信じられないが・・・こんな事が起るんだな。セリー、大手柄だ。一体どんな理屈なんだ?これは」
「全く分かりませんわっ!」
自信満々に宣言するセリー。
「とりあえず残りのヒゲも剃っちゃおうか?見た目よくないし」
「はいっ。冒険者様っ」
リリフは丁寧に仕上げていく。
「多分・・・恐らくですが・・・結界に入るには魔力を所持している者。そして血の濃さが関係しているのではないかと思いましたの」
「血の濃さ?」
「ええ。魔力を所持するには75%くらいの人間の血が必要。そして結界に通過するのも恐らく75%ほどの人間の血が必要なのでしょう。双方が同じ値なので今まで見過ごされてきたのかもしれませんが、もしかしたら微妙に数値が違うのかもしれません。つまりブルニちゃんは偶々ほんの少しだけ獣の血が多かったのでしょう。だから弾かれてしまっていたのではないかと思いますわ」
「ふむふむ。そうか。なまじ野生動物は入れるから血が関係してるってのは盲点だったな。確かに魔力がある場合は、血が関係してるかもって可能性はゼロではないか」
「ええ。ですのでわたくし、ブルニちゃんの猫ひげが気になりましたの。もしかしたらそのヒゲが亜人種の血を濃くしているのではないかと。通説では人獣は結界に入れる。しかし、ブルニちゃんは入れない。ならば入れる人との相違点を消してしまえば入れるようになるかも・・・っといった単純な発想ですわよっ」
「なるほどな。元々入れない人を入れるようにする訳では無く、本来なら入れる人が入れない現状の解決法だもんな。俺の考えは根本的な部分が間違っていたよ。今回ばかりはセリーの洞察力、先入観無しで挑む行動力、これに感服するしかないね。リリフのあの日の解決法といい・・・セリーは本当に凄いな」
「そんなっ。わたくしなんて・・・ああんっ。恥ずかしいですわっ。あんまり褒めないでくださいましっ。わたくしはミール様に貶される方が興奮するのですからっ!」
「あ、はい・・・」
クネクネと身をよじらせて恥ずかしがるセリーを横目で見ながら、リリフは今後の事について話し出す。
「さってっと・・・これからどうしようか?なにか当てとかはあるのかな?」
「いえ・・・今の所は全く・・・しかしブルニが結界内に入れる事が出来たので、大きく可能性は広がりました。なんとかガタリヤで仕事を見つけて二人で暮らしていければと思ってます」
「リューイとブルニは国籍とか住民票は何処になるの?5年前にガタリヤに来たって言ってたよね?もう移しているのかな?」
「え?・・・コクセキ?・・・ですか?・・・じゅうみん・・・ひょう・・・すみません。初めて聞くもので・・・それはどういったものなのでしょうか?」
「えっと・・・あ、そうか。ご両親が登録しているのかも知れないわね。住民票っていうのはね、このガタリヤに住む権利みたいなもので・・・これが無いと住み続ける事が出来ないみたいなの。私たちも最近このガタリヤに登録したばかりなのよっ」
リューイとブルニはお互いの顔を見合わせる。
「待って、リリフ。そもそもあのスラム街・・・じゃなくて。えっと・・・」
「呼称は難民キャンプだよ、あそこは」
「なるほどですわっ。その難民キャンプは移住を許可されていない者、結界に入れない者の集まりとあの獣人は言っていましたわ。ということはキーンの難民キャンプから来たって言っておられる、お二人のご両親は住民票を登録されて無いのではないでしょうか?もしかしたら国籍も・・・」
「そ、そっかぁ・・・その場合は・・・どうなるの?」
リリフはミールに救いを求める。
「俺の考えでは多分セリーが言ったように国籍も住民票も無い状態だと思うね。その場合は新たに国籍や住民票を発行してもらう事になるんだけど・・・当然だけど移住するよりも何十倍も、何百倍も、許可が下りるのは難しいだろうね」
「じゃあ・・・ガタリヤには住めないって事?・・・」
「うーん・・難しいな。一応2パターンあるかもしれない。1つは特別労働許可証ってのを発行してもらうこと。もう1つは保護連帯証ってのを発行してもらう事。保護連帯証は正直失敗する可能性もあるし、適用期限も短いから、あくまで一時的な措置って感じだけど、特別労働許可証は期限切れは無いから、うまくやればずっと住み続ける事は可能だろうな」
「そうなんだっ!それじゃあその・・・特別なんちゃらってのを発行して貰えば住めるんだね?!それで行こうよ!」
「待て待てリリフ。そんな単純な問題じゃない。そもそもリリフはガタリヤで人獣が歩いてる姿を、どれくらい見たことがあるんだ?」
「えっと・・・そういえば・・・あんまり無いかも」
「そう。基本的に人獣は、どの国でもかなり差別されている。このガタリヤで普通の暮らしをしている者なんて10人いないんじゃないかな。人口120万の街で10人だぜ?それほど多くの者は迫害されて日の目を見ることない生活を虐げられているのさ」
「ええ~!全部で10人しか暮らしてないの?!少なっ!」
「違う違う。普通の暮らしをしている者って言ったぜ、俺は。リリフ達と同じように住民票を登録して、普通の仕事について、自分が住む家もある。そういう人達は10人くらいじゃないかって話さ。正確には知らないけど人獣自体は多分1~2万人くらいはいるはずさ」
「えっ!1~2万っ?!そんなにいるんだ?!」
「難民キャンプで結界内にも沢山集合住宅が建てられてたのを覚えてるかな?あそこは主に人獣が暮らしてるんだけど、そこの人達を街中で働かせているんだよ。それに関連するのがさっきの特別労働許可証だ。この許可証が有れば国籍が無い人獣でも街中で働くことができる。発行して貰うには後ろ盾・・・ようは会社や貴族に所属する必要があって、そこで働く事が決まった場合だけ許可証が発行されるんだ。許可が下りた人獣は、家や仕事、衣服や食事を用意してもらえるって寸法だ。出稼ぎみたいなもんかな」
「へぇ・・・結構良い待遇なんだ?」
「いやいや、決してそんな事はないぞ。街中で滞在する家は会社が用意した寮や貴族の屋敷の地下牢にギュウギュウに詰め込まれての雑魚寝だし、衣服もボロボロな作業着だし、食事も辛うじて命を繋げる事が出来るような質素な物だし、家に帰る事が許されるのは年に4回くらいだしな」
「ええ?・・・き、キツくない?」
「まあね。だけど許可証を発行された者の一番のメリットは結界内の集合住宅に住む権利が与えられるんだよ。これが人獣にとってはかなりデカい。よく考えてみろよ。許可証がない者は獣人達と同じように結界外で仕事するしかない。でも言ってたろ?一日中クタクタになるまで働いて報酬はたったの30グルド。食事は奪い合いの配給場。その上、仕事中はもちろん、寝る時でさえモンスターに襲われる危険性があるんだ。それに比べて許可証を発行してもらえば、結界内の集合住宅に住む事ができる。だから仕事中も寝る時もモンスターに襲われる心配もない。いわば人獣にとっての楽園なのさ、あそこは」
「そうなんですわね・・・という事は、報酬も結構貰えるという事でしょうか?」
「いや、金は出ないな。ほぼ無報酬だ。そのかわり食事を用意してもらえるんだ」
「ええ?!そ、それだけ??」
「いやいや、これが重要なんだ。人獣にとっては、例え一日働いて100グルド貰うよりも、食べ物を支給してくれた方がずっとありがたい。何故なら人獣の住んでいる区画には一応お店はあるが、品揃えが充実してるとは言えないし、値段も高いからね。とてもじゃないが、食べ物をここで確保する事はできないだろう。しかし、特別労働許可証を取って働いている者には、1人1人に食事が用意される。つまり奪い合う必要がない。そして重要なのが、その家族全員に食べ物が支給されるって事なんだ」
「え?家族全員??」
「そう。これが人獣を徹底的に働かせる巧妙な仕組みなんだよな。ただでさえ迫害されている人獣にとっては家族との絆が何よりも大切だ。だから男は家族の為に一生懸命働く。女は子育てをして家庭を守り、年に数回帰ってくる夫を労り、また子作りをする。何故なら働かない女は子供を産む事が結界内に住む条件だからね。子供もそうだ。結界内に住む為に3才を超えると近くの倉庫や加工現場で働き出す。夫は愛する家族に食べ物を配るため、更に仕事に打ち込む・・・と、こんなサイクルになってるんだよ。政府からすると、絆を利用する事によって逃亡を防ぐ事もできるし、仕事の効率を上げる事も出来る。そして勝手に増えるから安定した人材を確保できるしね。今や人獣達は人間達の生活を影で支える基盤だ。この人獣がいなくなったら、あっという間に食料不足や加工品に影響が出るし、ゴミや汚水の処理もままならなくなるだろう。かといって代わりに人間達を雇うとなると、多くの給料が必要だ。直ぐに財政面で追いつかなくなるだろう。だから食料だけで一生懸命に働いてくれる人獣は政府にとっては非常に都合が良い存在なんだよ。ガタリヤだけじゃないぜ?何処の街でも、世界中こんな感じさ」
「ふえぇ・・」
「だからリューイ達はガタリヤで住むことは出来るが、一生強制労働する羽目になるって事だな。リューイは独身男性だから、数年働いて実績を作れば嫁を取る許可が貰えるかもしれないが、ブルニは直ぐに何処かの独身人獣と結婚させられるかもな。その後は今説明した通りの生活が待っている。つまり・・・さっきお前言ってたよな?妹と暮らしていきたいって?お互いにガタリヤに住むことは出来ると思うが、夫婦ならまだしも、兄弟二人一緒に生活するのは確実に無理だな。下手すれば一生会う事も出来ない可能性だって十分にある。それでもいいならいいが・・」
ミールに問われ言葉を失うリューイとブルニ。
「そ、そうだったんですか・・・はははっ。やっぱり現実は厳しいですね・・・僕はずっと想像していました。この城壁の向こう側にはどんな世界が広がっているんだろうって。人獣が笑いながら生活できる場所があるはずって想像せずにはいられませんでした。でも結局場所が変わってもやる事、扱いは同じって事ですよね・・・でも・・・それでもいいですっ。少なくとも明日命を落とすかも、モンスターに食べられるかもって心配は無くなる訳ですから・・・それだけでも僕達のような汚れた亜人種には勿体ないくらいの環境です。妹に会えなくなるのはつらいですが・・・この街の何処かで生きているって思えば乗り越えられます。頑張れます。ブルニ・・・身体に気をつけるんだよ。いつもお兄ちゃんを守ってくれてありがとな。本当にありがと・・・な・・・」
「そんな事ないっ!そんな事ないよぉ、私こそ、いつも守ってくれてありがとぉ・・・」
「うう・・なんて妹思い、兄思いの兄弟なのでしょう・・」
涙ぐむセリー。
しかしリューイは首を振りながら否定する。
「違うんです・・・自分は・・・僕は妹を差し出して安全を手に入れていたのです」
「ど、どういう事?」
リリフの問いにリューイはブルニを見つめる。ブルニは恥ずかしそうに地面を見ている。
「両親が亡くなって、直ぐに元締めのグリニーは妹に関係を迫りました。その代わりに他のグループの人達から守ってやると・・・妹が奴に連れて行かれるのを僕は止めれなかった・・・我ながら本当に最低な兄です。ブルニ、つらい思いをさせて悪かった・・・あんな男・・・元締めのグリニーに連れて行かれてるのに・・・妹が何回も連れて行かれてるのに兄ちゃんなにも出来なかったよ。それどころか、自分の保身の為に逃げる事も出来ずに・・・それがいつも負い目に感じてたんだ。助けてやれなくてすまん」
「違うよ、違うよお兄ちゃん。結界に入れないブルニの為にいつも一緒に寝てくれたじゃない。毎晩毎晩、いつモンスターに襲われるか不安でいっぱいのブルニを優しく抱きしめてくれたじゃない。凄く嬉しかったよ。お兄ちゃんがいてくれて本当に良かった。お兄ちゃんの妹で本当に良かったっ」
「ブルニ。これから会えなくなるけど兄ちゃん、沢山毛を送るからな」
「お兄ちゃん・・・」
「え?え??毛?毛を送るって何??」
「あ、失礼しました。我々亜人種の一般的な連絡方法です。尻尾の毛を抜いて送り、形で『息災』『病気』『緊急』が分かる仕組みです」
「そ、そなんだ・・・通話しちゃえば・・よくない?」
「え?つ、ツウワ・・・とはなんでしょうか?・・・すみません、無知で」
「え?!通話を知らないの??」
「リリフ。リューイとブルニは結界内に、街に入った事がないのです。基礎魔法を知らなくて当然ですわ」
「ああっ!そうかっ!ごめん!リューイ!私が無神経だったわ!」
「と、とんでもないですっ!人間種の方に落ち度などあるはずありません!全て卑しい自分達が悪いのです」
リリフ、セリーはリューイの考え方にショックを受ける。
子供の頃から徹底的に教え込まれてきたのであろう。
人間種は神の如き存在、自分達は卑しい存在だと。
「な、何とか基礎魔法を習得できないかしら?そしたら連絡取れるのに・・」
「いや、どのみち通話は出来ないと思うぞ」
「えっ!?」
「国籍や住民票がない者が基礎魔法の魔石に触れるとアラームが鳴る仕組みなんだよ。そうして犯罪者やリューイ達のような人獣が基礎魔法を取得するのを防いでいるんだよね。一応見られたくない負の労働の事だから外にバレるのが嫌だって理由と、外部と一切遮断した方が逃走されるリスクが減るからなんだそうだ。下手に色んな情報を与えると反乱を起こす奴もいるらしいからね。無知な労働者が1番使いやすいって事だね。当然さっき言ってた『毛を送る』ってのも出来ない。そんな事してやる義理はないからね。お前達人獣は家畜同然・・・いや、下手したら家畜以下の存在なんだ。奴等からしたら」
「そ、そんな・・・」
「それと俺もウッカリしてたが、お前達は元締めやマンハッタンから怒りを買ってるんだったな。てことはもしかしたら、許可証を発行してもらっても、あの集合住宅には住めず、太陽すら拝めない過酷な現場で死ぬまで強制労働するはめになるかもしれない。ブルニは人間達の性処理の道具として使い捨てにされるかもしれないな」
「くっ・・そ、そうですか・・・でも・・・それが人間種様の・・ご命令なら・・・」
リューイは拳を握りしめ、身体を震わせながら声を絞り出す。
「本当にそれで良いの?死ぬかもしれないんだよ!?」
リリフはブルニの両手をぎゅっと握り
「ブルニちゃんはそれで良いの?!ブルニちゃんは本当はどうしたいの?!」
「ブ、ブルニは・・・」
唇をぎゅっと噛み締め、大粒の涙を流しながら
「ブルニは・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃんと一緒にいたい・・・最後まで一緒にいたいよぉ・・・うわぁ~んっ」
遂に大泣きしてしまうブルニ。猫耳がシュンっと垂れるのが可愛い。
リリフはぎゅっと思いっきり抱きしめる。
「一緒にいたいよぉ!・・・えっぐっ・・・おにいちゃぁんっ・・・えっぐっ・・・おにぃちゃぁん・・・うえぇぇん!」
大泣きしているブルニを見ることが出来ないリューイは、身を震わせながらうつむいている。
一緒にいたい気持ちは誰よりも強い。
しかしどうすることも出来ない自分に悔しさが込み上げてきているようだ。
「ねえ、ミール・・・もう1つのほご・・なんちゃらってやつ・・・それはどんなやつなの?」
「ああ、それは一時的に街に入れるようになる措置だね。リリフ達も最初はスーフェリア国籍だったけど50日間限定で街に入れただろ?イメージ的にはそんな感じ」
「そーなんだぁ。それは難しいの?」
「うーん」
ミールは腕を組み考える。
リリフもセリーもブルニもリューイも、当然だがミールの様子をジィっと見つめる。
「いや、申請自体は難しくは無いんだけど・・・発行してもらうには、納得できる理由が必要なんだ。あと、基本的に人間種のみなんだよね、対象は。だから今回はリューイ達が人獣だってバレないようにしないといけないしな・・・でも、うーん。今は思いつかん。ちょっと作戦を立てるか・・・しばらく考える時間をくれ」
「うんっ!分かったわっ!ありがとう!ミール!」
「流石ミール様ですわぁ。わたくし、強行突破するしかないと思ってましたもの」
「あははっ。セリー、大胆すぎぃ」
「でもリリフ。案外行けそうではないですか?わたくし達、クエストに行く為、何回か南門を通っていますが、いつも全く見向きもされませんもの。他の冒険者や商人も何事もないかのように素通りしておりますわ。時にはわたくし達が初めて入った時と同じで、詰め所でお喋りしてる事もあるのです。そーぉーっとスルーぅーと入ってしまえば分からないのではないでしょうか?」
「ははは。残念。門番は入り口に埋め込んである検問魔石が反応した時だけ対応するんだよ。だから普段はボーっと立ってるだけに見えるのさ」
「でもミール様。仮に魔石が反応しても、門番を振り切ってダッシュで街に入り、ず〜ぅ〜〜っと私達のお部屋から出なかったら見つからないのではないでしょうか?一切隙のない屈強な兵士には、とても見えませんもの」
「ははは。確かに門番達はたいして有能なヤツはいないだろうが、魔石は有能なのさ。門には検問魔石が反応したら自動で追跡魔法が発動する仕組みがあってね。どんなに複雑な場所に隠れても分かっちゃうんだ。だから何処に居ようが関係ないかな。直ぐ捕まるよ」
「あーん。そうでございますかぁ。残念ですわぁ」
セリーの頭の中に浮かび上がった『一生狭い部屋で監禁しちゃえ計画』に一抹の不安を覚えるが、触れないでおこう。
「ま、まぁ・・南門に到着するまでに考えるよ」
「うんっ!ミールありがと!」
「す、凄い・・・」
その後、リリフ達が出発した南門目指して進む一行。
ミール、リューイ、ブルニは結界内を進み、リリフとセリーは結界外でモンスターを倒しながら進んでいた。
南門周辺はスライム、食中プラント、バウンドウルフの3種類しか出てこないのでかなり慣れてきた様子。
ブルニが思わず驚きの声を上げるほど一瞬で倒していく。
「なんか楽勝になってきたかもっ!」
「リリフ!油断大敵ですわよっ!」
「そーだけどさー。ねえミール。ここら辺はどうして弱いモンスターばかりなの?どこもそうなの?」
「モンスターはね。基本的に全世界、満遍なく散っているかな。特別強いモンスターばかりって場所は・・・まあ、厳密に言えばあるけど、基本的には無いって思ってもらって良いと思うよ」
「ええ~?だってここら辺って弱いモンスターしか出てこないよぉ?」
「それは弱いモンスターしかいないではなく、正確には強いモンスターが討伐されていて今現在は弱いモンスターしかいないってのが正解だね。人が住んでいる場所、人通りが多い場所はそれだけ冒険者の数が多いから討伐されやすいんだよ。ギルドから頻繁に討伐クエストも発注されるしね。じゃあ逆に辺境の地とかは冒険者があまり訪れないから強いモンスターばかりなの?って思うかもしれないけど、そんな事もないんだ。何故なら、強いモンスター同士で争いが始まるから。縄張り争いだったり、食べ物の奪い合いだったり・・・だからどの地域でも食物連鎖のピラミッド・・・て分かるかな?その頂点に立つような強いモンスターの数は少数だね。そして縄張り争いに敗れた強いモンスター・・・ちょっとややこしい言い方になっちゃうけど(笑)そいつらはこの地域みたいに強いモンスターがいない場所に移動してきて新しく縄張りを作るんだよね。だから、どこの地域でも弱いモンスターもいるし、強いモンスターもいる。ここら辺も今はいないけど、近いうちに強いモンスターは必ず現れるよ。他の場所から移動してきてね」
「なるほどぉ!そういった強いモンスターが現れたら、討伐クエストとかが発注されるって訳ねっ!納得っ!」
「そうそう。独り立ちする時に伝えようかと思ってたけど、いい機会だから先に伝えとこう。ギルドにさ、デカい魔法画面機があったろ?クエスト一覧が見れるやつ。あの横にそういった強いモンスターの目撃情報とか痕跡とかの情報が載ってるからクエストに出る前に必ず確認するようにしてくれ。冒険者にとって一番重要なのは情報。情報弱者は必ず死ぬ。だからもし強いモンスターがいる可能性があった場合は、初心者はクエストに出ないって選択肢も必要だ。だから必ず確認することっ。ちょっと早いけど、これは俺との約束、守ってくれよな」
「そうなんだっ!うんっ!絶対に確認するわっ!」
「わたくしもしますわっ!約束ですわっ」
「ありがとう。頼むぜ」
その後も、しばらくリリフとセリーは結界外で、ミールとリューイ、ブルニは結界内を進む。
「やあぁっ!」
リリフが食中プラントを一閃、真っ二つに切り裂いた。
出発する頃は苦戦していた相手だったが今は一撃、かなりのスピードで成長していっているようだった。
「やったあっ。ちょうど60匹よっ。クエスト達成ぃ!」
「やりましたわぁ!嬉しいですわっ」
「お、おめでとうございますっ!冒険者様っ!」
ブルニはもちろん、何故リリフ達が喜んでいるのかは全く理解してないが、二人が嬉しがっている姿に祝福の言葉をかける。
「あっりがとぉ!ブルニぃ!」
「えへへっ」
リリフが頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振るブルニ。
5人の視線の先に、ようやく夕日に照らされた南門が見えてきていた。
南門前の目立たない場所で全員立ち止まる。
「どう?ミール。なんか思いついた?」
「ああ、とりあえず二人はこれを着てくれ」
ミールが素っ気なく差し出したのは、ブカブカの帽子と身体全体を隠すようなマントだった。
「これで猫耳と尻尾を隠してくれ。そうすれば一見人間種と思われるはず。まずはそうやって偽装しよう」
「偽装?」
「ああ。筋書きはこうだ。まず俺たち3人はクエスト中に争っていた盗賊達を発見した。しかし盗賊達は死に、襲ってたヤツも逃げてしまい、この2人だけが残った」
「ふむふむ」
「そしてこの2人はずっと盗賊達の奴隷だったらしく国籍がなかった。だからとりあえず保護をして、ここまで連れてきたって事にする」
「ほえぇ・・・」
「ただし、これだと警備局に突き出せば良いじゃんって事になる可能性がある。どうしても人身売買と疑われるからな。本当だったら、そこでちゃんと調べてもらえばいいんだが、リューイ達は人獣という事を隠す必要があるからそれも出来ない。だからもし疑われたら、リリフを貴族のお嬢様、俺達はメイドと執事。お嬢様のご慈悲で屋敷で働かせる事にしたから保護連帯証が必要だって事にしようと思う」
「凄い筋書きですわ。詐欺師ですわっ!」
「うぇぇ。またスピアーナ家の名前を使うのかぁ」
「ああ、すまんが一般民だと印象が弱いからな。ここはスピアーナ家の名前を使い、貴族のフリをして乗り切る」
「あ、あの、ミール様。も、もしかしたらですが・・その保護連帯・・連帯というのはミール様にまで責任か生じるという事でしょうか?」
「ああ。そうだな。お前ら2人が何か問題を起こしたら貴方が責任を取って下さいねってやつだ」
「そ、そんな。それではミール様にご迷惑をお掛けする事になります!」
「そうよっ!ミール!それなら私が責任を負うわ!そもそも助けようとしたのは私なんだし!」
「冒険者様・・・」
ブルニはリリフの熱弁に感動しているようで、尻尾をパタパタさせている。
「すまん。リリフ。この保護連帯証は、在住期間が3年を越えてる者にしか、発行されないんだ。だから俺しか出来ないんだよ」
「で、ですが、ミール様。僕らなどの卑しい亜人種の為に、そこまでなさらないで下さいっ!人間種の方にご迷惑をおかけするなどあってはならない事ですので!」
「いや、リューイ。それは逆だ。これ以外の方法だと、確実にお前は妹と離れ離れになるだろう。もしかしたら命を落とす事になるかもしれん。そうなったら関わった俺たちが嫌な気持ちになる。俺たちの為にもここは従ってくれ」
「そ、そんな・・・わ、分かりました。ミール様の言う通りに致します」
「ミール様ぁ、ありがとぉ・・・」
「よし、リリフとセリーはなるべく堂々としててくれ。歴戦の強者のように。特にリリフ。お前は直ぐ顔に出るからな。何も喋る必要はないから、最悪後ろを向いててくれ」
「ぶうぅぅ・・・」
リリフはほっぺを膨らますが、ブルニ達の命がかかっているので黙って受け入れる。
「お前達も一切喋るな。ビクビクする感じで」
「は、はいっ」
渡された服を着たリューイ達。
かなりブカブカで非常に怪しい感じだが、保護された奴隷という設定上、良い感じにみえる。
ミールは先頭を歩いて南門に併設されている詰め所に向かっていく。
「あの・・・奴隷を保護したので保護連帯証を発行したいんですが」
「んん?」
門番は急に話しかけられて不機嫌そう。無精ヒゲまみれの顔をしかめた。
「なんだ?後ろのヤツか?」
「あ、はい。実は———」
ミールは筋書き通りに門番に説明をする。
「場所は?」
「ザザの村方面の森林です。ガタリヤを基点にX29Y250らへん」
「ふむ・・・」
門兵は机の引き出しから書類を取り出し、何やら調べている。
「確かにそこら辺を縄張りにしている盗賊がいるな。全員死んだのか?お前達が倒せるようには見えんが??」
「ええ。僕らではありません。なんか傭兵っぽい人達と争っていたみたいです」
「ふむ、なるほどな。どうせ人身売買グループの何かだろう。最近多いからな」
そういうと門兵は机の上に置かれた魔石に触れ、魔法画面機を見ながら何かを操作している。
しばらく無言が続く。
リューイとブルニは言われた通り・・・いや、実際そうなのかもしれないが、ビクビクと不安そうな顔を浮かべていた。
セリーは腕を組んで堂々と、リリフは後ろを向いている。
「お前の名は・・・ミールか・・・よし。この魔石に触れてくれ」
「はい」
「ふむ・・・確かにガタリヤ所属になって3年が経過しているな。これなら保護連帯証の発行条件は満たしているか・・・ふむ、しかし何故わざわざ保護連帯なのだ?警備隊に引き渡せばよかろう?イマイチ合点がいかんな」
門兵は疑いの目を向けてジロジロと後ろの4人を見る。
「実は、この者達はお嬢様の御慈悲でお屋敷で働かせる事にしました。自分と致しましてはお嬢様のお気持ちを無下にはできませんので」
急にミールは礼儀正しく胸に手を当てて、姿勢を正す。
「なんだと?お嬢様??」
「はい。こちらはマンハッタン様の遠縁にあたるスピアーナ家のお嬢様です。我々はその従者として『フィールド遊び』をしてた所、このような事件に巻き込まれまして」
そう言いながらリリフのもとに歩み寄り、ひざまずく。
すぐさまセリーもそれに続いた。
逆にリリフは顔を真っ赤にしてアタフタ。
ミールから何もする必要がないと言われてたのに、急に出番が来て混乱しているようだ。
明らかに挙動不審。耐えてくれリリフ。
「ああ、お嬢様。申し訳ございません。外の連中に名を語る事をお許しくださいませ。我が主は名で他者を威圧する事を非常に嫌がるのですわ。ああ、お優しいお嬢様」
流石についこの間まで本当のメイドだっただけのことはある。
セリーは見事にメイドの振る舞いをみせ、挙動不審のリリフをフォローした。
「ひゃっ・・あ、ええええっと・・せ、セリー、し、ししし仕方のない事だわ。気にしないで」
「おお、お嬢様。寛大なお言葉ありがとうございます」
ミールもキリッと綺麗にお辞儀をして、門兵に向き直る。
「では、門兵様。お嬢様もこう仰っておりますので、ここは貴方様のお力で何卒宜しくお願い致します」
そう言うとミールは門兵の手を握る。すると門兵の態度が明らかに変わった。
「お、おう。そ、そうか・・それじゃあ今回は特別に発行するとしよう」
「おお、ありがとうございます」
「では、そこの2人。この魔石に触れてくれ」
門番はリューイとブルニに声をかける。
2人はビクッとしたが、ミールが頷いたのを見て、恐る恐る魔石に触れた。
パァと白く光る魔石。
門番は魔法画面機に視線を移し、作業を続ける。
「よしっ。発行したぞ。期限は30日なので気をつけてな」
「ありがとうございます。門兵様。ですが、先程も説明させて頂きましたが、お嬢様はお名前を出すのを嫌っております。くれぐれも今回の事は内密に・・」
「う、うむ。うむ。そうだな。お、お互いに余計な事は喋らないでいこうか」
「ご理解頂き感謝致します。ではご対応ありがとうございました」
そしてクルッと向き直り
「ではお嬢様。屋敷に戻りましょう」
そう言ってガタリヤの街に入っていくのであった。
無事に門を通過した一行は、とりあえず細い横道に入り、成功を祝い合う。
「はあぁぁあぁぁ・・緊張したぁ・・もーう。人には後ろ向いてろとか言ったくせにぃ!急なんだもんっ!ビックリするじゃない」
「あはは。悪い悪い。でも良い感じで世間知らずのお嬢様って感じが出てたぞ。ナイスナイス」
「そうですわ!リリフにしてはよく出来ましたわっ。わたくしてっきり『ええ?!私貴族なんかじゃないわ!』とか言うかと思ってましたもの」
「ぶー。あ、でもなんか門番さんも急に態度が変わったよね?ミールなんかしたの?」
「ああ、魔法通貨をちょっとね。口止め料ってやつ」
「そ、そんな。ミール様。僕らなんかの為に・・」
「いや、リューイ。俺らも出来れば内緒にしたかったんだ。下手にマンハッタンの名前を語るのは危険だからね。だからこそ、ああいう風に金を握らせれば、逆に秘密を守ろうとしてくれるのさ。ワイロがバレたら処分の対象だからね」
「そっかぁ。またスピアーナ家に守ってもらっちゃった。なんだか複雑な気分だわ」
「うふふ。良いではございませんか。利用できるものは利用してなんぼですわっ。それに今回はそのお陰でブルニとリューイは街に入れましたもの」
「そっか。そうよねっ。でもとりあえず良かったぁ。無事入れて」
「ですわね。でも期限は30日って言っておられましたわ。その間に何とかしなきゃですわよね?」
「そうだな。先ずは飯食ってから考えよう。俺腹減っちゃったよ」
「あはは。わたしもー」
「ですわね!さあさあっ!参りましょう!美味しいご飯が待っていますわよ!」
「じゃあリューイっブルニっ。私たちに付いてきてっ!まずはご飯!一緒に食べて、一緒に考えよっ」
「は、はいっ・・・あの・・・ブルニはさっき配給受けたので・・・今日の分はお終いです・・・」
「自分もそうです。僕達は見ているので皆様でご堪能ください」
「何言ってるのっ!みんなで食べないと美味しくないでしょっ?」
「で、でも・・・ご飯は1日1回って言われているので・・・叱られちゃいます・・・」
「うーむ。これは色々と教育が必要なようですわね・・・今まで接してきた世界が違い過ぎますわ・・・お可哀想に・・・」
「・・・そうね・・・少しずつ・・・伝えていきましょ。あのねっ!1度難民キャンプで教わった事は忘れちゃおう。あ、ご両親の思い出を忘れろって事じゃないよぉ・・・え・・とっ。ああんっセリーィ!」
「もうっ!良いですか二人とも。これから新しい生活が始まります。ハッキリ言って今までとは180度違う生活でしょう。食事、着る物、住む家、街の人々、そして仕事もなにもかも今までブルニ達が経験したこととは違うと思いますわ。そして一番違うのが・・・全てを自分達で決めるという事・・・自分達でやることを選択し、行動するって事ですわっ。正にリューイとブルニの未来は自分達で切り開くんですの」
「じ、自分達で・・・未来を・・・」
「そうですわ、ブルニ。ブルニはまた難民キャンプのように毎日ビクビクして暮らして行きたいですか?」
ブルニは目を閉じ、思いっきり首をブンブンと振る。
「リューイは?また戻りたいですか?難民キャンプに」
「いえ、出来る事なら戻りたく無いです・・・」
セリーは満足そうに頷くと
「でしたらチャレンジすることですわ、何事にも。今までの経験からこんな事をしたら失礼だから、叱られるから、自分達は卑しい亜人種なのだから・・・そういった考えを捨ててチャレンジしてみる事、それが大切ですわ。無理、駄目、出来ない・・・そう思う気持ちをやってみようって気持ちに変えるのです。そうする事で出来る事が増えてくる、希望が出てくる、楽しくなる。楽しい未来を作るのも、難民キャンプのような絶望の未来を作るのも、全部貴方達次第。未来はリューイとブルニが作り出すのですわ。もちろん最初から上手くは出来ないでしょう。戸惑うこともあるでしょう。時には嫌な気分になることもあるかもしれない。でもそういった時はわたくし達に相談してくださいまし。わたくし達はいつも側におりますわ。いつでもリューイとブルニの味方ですわ。一緒に頑張りましょう」
「は、はいいっ。冒険者様っ!」
「ま・ず・は・・・その呼び方ですわねっ!わたくし達は偉くもなんともありません。同じ仲間ですわっ。わたくしの事はセリーと、この子はリリフとお呼びになってくださいまし」
「は、はいっ!セリー様っ!リリフ様っ!」
「ノンノンノン。様はいらなくてよっ」
「そ、そんな滅相もないです。僕なんかが・・・卑しい亜人種が人間種の方を呼び捨てなどとは・・・天地がひっくり返っても出来ません」
「あらっ?ふふふ。リューイ、貴方の命の恩人は誰ですか?」
「え?それは・・・もちろん皆様です」
「その命の恩人の要望が答えられないと?」
「わああぁ!パワハラだぁぁ!!」
「リリフっ!お黙りなさいっ!」
「でもセリー。こいつらもいきなり呼び捨てはキツいだろう。今までの習慣ってのがあるしな。慣れるまではしょうがない所はあるんじゃないか?」
「うにゅ~。分かりましたわ。ではブルニっ、わたくしの事はセリー姉様ってお呼びになって」
「は、はいっ。セリー姉様っ!リリフ姉様っ!」
「きゃああああぁ!可愛いぃぃぃ!」
「もう一度っ!もう一度っ!お呼びになってっ!」
「り、リリフ姉様ぁっ!セリー姉様ぁっ!」
「もう一度っ!」
「りりふねえたまっ!せりーねえたまっ!」
一生懸命必死に叫ぶブルニ。可愛さMAXだ。
我慢ならない二人はブルニをサンドイッチにして抱きつく。
「もぉぉ!ブルニちゃん反則ぅ!」
「可愛すぎですわっ!萌えですわっ!」
ピタッと喋るのを止め、リリフとセリーはリューイをジイッと見つめる。
ビクッとしたリューイは
「せ、せりー様・・・りりふ様・・・」
微動だにせず、ジイッと見つめ続ける二人。
「せ、せ、せり・・ぃ・・ね、ね、ねねね・・・無理です。すみません」
ガックリな二人は
「まあ・・・しょうがないかー。いずれちゃんと呼べるようになってねっリューイ!」
「ぜ、善処します・・・」
「わっぷっわっぷっ・・・」
二人に挟まれたままだったブルニは、おっぱい(主にセリーの)で溺れそうになっているのだった。
大通りに入ると、人の数が一気に増えた。
顔だけしか出していないので一見すると怪しい姿のリューイとブルニだったが、リリフ達が明らかに初心者冒険者ご一行の雰囲気を出しているので、そこまで浮いた感じにはなっておらず、人混みに溶け込んでいた。
ブルニとリューイは、すれ違う人の多さに完全に怯えている。
「お、お兄ちゃん・・・人が・・人がぁ・・・いっぱい」
「ぶ、ブルニ。兄ちゃんから離れるんじゃないぞ・・・」
「う、うん・・・」
二人はしっかりと手を握りながらリリフ達の後を付いていく。
見る物全てが新鮮な二人は、キョロキョロとしながら口をポカーンと開けている。
「もうすぐだからねっ二人とも」
「は、はいいっ」
グワンバラの食堂にさしかかると、また何時もの嫌がらせをしている連中が店の前の道路を占拠していた。
「ケッ。ゴミ共がっ」
怒ると辛辣な言葉が出てしまうセリーが吐き捨てるように言う。
「リューイとブルニ。なんか話しかけられても無視してねっ!一切相手しないでいいから。わかった?」
「はいっリリフ姉様っ!」
案の定、食堂に入ろうとしているリリフ達に大声で絡んでくるチンピラ達。
「おいおいおいっ!なんか臭いと思ってらゴブリン女が来たぞっ!みなさーん!ゴブリンが憑りますよぉぉ!注意してくださーい!」
「おお!?連れてる子供達は食料かな?!これから食べるんですか!?ここの食堂は人肉を出すんですね!恐ろしぃ!」
「昨日行方不明になったって言う大学生はあんたらが犯人だろ?!ぜってーそうだ!つーほーしようぜ!みなさーん!通報しましょー!」
ブルニは言われた通り一言も発しないで着いて行くが、やはり不安なのだろう。
リリフの服の裾を掴みながら顔を上げないで歩いていく。
店に入ると、この前色々とお教えてくれた常連さんが1人いるだけで、ガラガラの状態だ。
「んん?なんだい、リリフかい」
グワンバラは魔法新聞を見ていたようで鼻をほじりながら答える。
「んもうっ。母さん緊張感無さ過ぎぃ。あはは」
「何言ってんだいっ。どーしよーも無い事をクヨクヨ考えててもしょうが無いだろう?なるようになるだけさ」
鼻クソをピンっと飛ばしながら後ろの2人に気付く。
「あんた達は本当にもーっ!懲りないねぇ!また厄介事拾って来たのかい?」
「えへへっ。拾って来ちゃった」
ペロッと舌を出すリリフに半分呆れるグワンバラは笑顔でため息をつき、厨房に向かっていく。
「さてさて、何を作ろうかねぇ。あんた達っ!好き嫌いはあるかい?ま、有っても無理やり押し込むけどねぇ」
ジャバジャバ手を洗っているグワンバラの前に、2人を優しく導くリリフ。
「さ、2人とも。帽子を取って挨拶して。私達の大恩人のグワンバラ母さんよっ。あ、母さんって言ってもみんなの母さんだから・・・あ、みんなの母さんって言ってもみんな兄弟って訳じゃないから・・・あ、でも仲は良いから兄弟みたいなもんだけど・・・あれ?なんかごちゃごちゃしてきちゃった・・・えっとね。つまり・・・そのーなんだっけ?」
「あんた達の仲間はみんなあたしの子供ってことさね。気の済むまでいればいいさ」
「ふわぁんっ。グワンバラ母さん、だーいすきっ!」
リリフはグワンバラの首根っこにしがみつく。
「あのね・・・母さん。ちょっと言いづらいんだけど・・・」
「なにを今更気を使ってるんだい。リリフの好きなようにしたらいいさね。それが例え人獣の子供でも関係ないよっ」
「えっ?!なんで分かるのっ?!凄いっ」
「伊達に客商売を50年もやってないよ。さあっ!堅苦しい挨拶は無し無し。席にお着き」
リューイとブルニは慌てて帽子を取りグワンバラにお辞儀をする。
「あ、あのっ!リューイとブルニって言いますっ!宜しくお願いしますっ!」
「あいよっ」
キャベツを千切りにしている旦那さんの横で、グワンバラは笑顔で大盛りのご飯をよそっている。
ルクリアも加わり料理をテーブルに並べていった。
「あっ、ルクリアっ!この子はブルニ、こっちの男の子はリューイって言うのっ」
「・・・は、初めまして・・・」
人見知りのルクリアはセリーの後ろに隠れて挨拶する。
「は、初めましてっ!宜しくお願いしますっ!」
ペコリと挨拶をする2人を、後ろに隠れながらジッと見つめるルクリア。
「・・・猫耳・・・触っていい?・・・」
「は、はいっ。どうぞっ!」
「・・・おお・・・柔らかい・・・」
ナデナデされるブルニ。
思いっきし尻尾をフリフリしているので嬉しいみたいだ。
「さ、席に着きましょぉ」
「あ、あのっ!リリフ姉様・・・ここはまるで貴族様の配給レストランみたいです・・・こ、こんな凄い所で・・・お食事なんて・・・しても良いのでしょうか・・・」
「うんうん。大丈夫。ガタリヤの街の中ではね、好きな時に食べて良いんだよ。あ、もちろんお金はかかるけどねっ。でも今はミール大先生が奢ってくれるって言ってるからっ!有り難く頂きましょっ!」
ニヒヒっと悪戯っぽく笑いミールにピースするリリフ。
ミールはやれやれといった感じで笑顔を浮かべ、カウンターの席に1人で座る。
ミールはリューイとブルニに対しては、結構素っ気ない態度をみせている。
2人が着ているブカブカな服を差し出した時もそうだし、今回もわざわざ1人でカウンターに座って、距離を取っているようにみえた。
リリフ達を助けた時は、目線を同じにして、優しく語りかけてくれてたのを強烈に覚えていたので、今現在の対応には違和感を覚える。
『もしかしたら私達に任せようとしてくれてるのかな・・・』
リリフは、素っ気なく1人でカウンターに座っているミールの後ろ姿を、愛おしそうに見つめるのであった。
「さあ、ブルニ!ここに座ってっ!リューイはこっちねっ」
リリフはヨシっと自分に気合いをいれると、依然としてオロオロしている2人に元気よく着席を促す。
言われた通りに、おずおずと椅子に浅く腰掛け、ちょこんと座るブルニとリューイ。
次々とテーブルに並べられる料理を、巨大な金塊を見るかのように、口をぽかーんとして眺めていた。
「さあっ!お待ちどうっ!たんとお食べっ!」
良い匂いに運ばれて大盛りの唐揚げ定食がテーブルに置かれた。
「おいしそー!」
「はああん。この匂い、たまりませんわっ!」
テンションが上がっている2人とは対照的に、ビクビクしているリューイとブルニ。
「こ、これは・・・お幾らなのでしょ・・・うか?・・・」
「お、お兄ちゃん・・・ブルニ10グルドしか持ってない・・・」
「こんな高価な料理っ、僕らが1年頑張って働いても食べれませんっ!卑しい僕らには食べる資格なんてありませんっ!」
尻尾を内側に丸め、猫耳をしゅんとする2人。
「あらっ?2人とも。わたくしとの約束をお忘れになって?無理、駄目、出来ない禁止ですわよ?」
「ですがっ・・・」
「・・・」
リューイとブルニはうつむいて、しばらく黙っていたが、急に立ち上がり床に伏せる。
「えっ?!ええっ?!な、何?!どうしたのっ?!」
「皆様!どうかっ!どうか卑しい僕らに命令を!どうぞお命じ下さい!」
「命じるってなにをさね?」
グワンバラが質問する。
「セリー様の仰る事は分かりました。でしたら、せめて食事をする前に、我々に躾をなさって下さい」
「ブルニも出来ますっ!『伏せ』『ワンと鳴け』『チンチン』『回れ』何でも出来ます!」
2人は床に頭を付けながら、必死に懇願する。
別に卑屈になっている訳ではない。
これが普通、いや、食事をする前の礼儀だと教え込まれてきたのだから。
2人の今までの生きてきた境遇に、胸が締めつけられるリリフ。
ダッシュで2人のもとに駆け寄り、立ち上がらせた。
「違うの、リューイ、ブルニ。そんな事しなくていいんだよ。さ、座って」
リリフは2人の頭を撫でながら、優しく語りかける。
「リューイ、ブルニ。あなた達は卑しい人なんかじゃないよ。ブルニは率先して怪我をしてる人や子供達にご飯を配れる優しい子。リューイは妹思いの頼れるお兄ちゃん。2人とも立派なんだよ」
「そうですわ。自分達なんてって考えなくて良いんです。生きてて良いんです。楽しんで良いんです。希望を持って良いんですっ!これから新しい人生の始まりです。過去の自分からサヨナラしましょ。さあ、レッツチャレンジですわっ」
ブルニとリューイは、お互いの顔を見合わせる。
「ほ、本当に・・・このまま頂いても・・良いのでしょうか?」
「うんっ!うんっ!」
「あっ!そうですわっ!ではまず最初に、これを覚えましょう。今後は食べ物を頂く時は、床に伏せる必要はありません。その代わり、お席に着いて必ずこう言うのです!『いただきますっ!』ってねっ!これはわたくし達が生きていく為に、生き物の命を頂くということ・・・それに対しての礼儀、感謝の気持ちを伝える大切な事ですの。いいですわね?大きな声で言うのですわよっ?」
「は、はいっ!セリー姉様っ!」
「分かりました。セリー様」
「ではせーのっ」
《いただきますっ!》
依然として外からは嫌がらせの声が聞こえてくる室内に、全てを吹き飛ばすような『いただきますっ!』が轟く。
リリフもセリーもルクリアも、グワンバラも。笑顔で食事を勧めるジェスチャーをした。
リューイとブルニはお互い顔を見合わせ、視線をテーブルの上に置いてある山盛りの唐揚げに移す。
プルプルとフォークで唐揚げを突き刺し、口に運んでいく。
「熱いから気をつけるんだよ。肉汁が飛び出して来るからねっ」
「ふぁ、ふぁいっ」
ブルニはフーフーと息を吹き付け、唐揚げにかぶりつく。
ジュワッとした肉汁が口の中いっぱいに広がった。
「熱っ」
「がっはっっはっは!ほらっ!言わんこっちゃない。どうだい?旨いだろ?」
ブルニはモグモグと口いっぱいに頬張った唐揚げを味わう。
自然とブルニの目から涙がこぼれ落ちる。
「なんだいなんだい。泣くほど美味しいかい?大袈裟だねぇ。」
「こ、こんな・・・美味しいお肉、生まれて初めてです・・・本当に美味しい・・・」
それを見てリューイも唐揚げを頬張る。
「ああ・・・本当だ・・・とても美味しい・・・そして食べ物が暖かいのは何年ぶりだろうか・・・」
「美味しいね、お兄ちゃん。本当に美味しい」
「ああ、ブルニ。本当だな。白米も・・・こんなツヤツヤしてて白く輝いているのは初めて見ました」
「お兄ちゃんっ。唐揚げと一緒に食べるととっても美味しいよっ。白米!」
「本当だっ。本当だっ」
モグモグと夢中で食べる2人を愛おしそうに見つめるリリフ達。
「さあっ私達も頂きましょっ!」
「まあっ!今日の唐揚げは一段と美味しいですわねっ」
「ホントホントっ。母さんっ!絶品だわっ」
「・・・ジューシー・・・」
「本当に・・・生まれて初めてです・・・凄いです」
「がっはっっはっは!こりゃあんた!うちのメニューがあんた達の歴代記録を全て塗り替えるのは時間の問題じゃないかいっ。さあっどんどんお食べっ!」
穏やかな笑い声に包まれる食卓。
あっという間にテーブルに山ほど置かれた料理はお皿だけになる。
「はあぁぁ・・・お腹がいっぱいになるって感覚はこういう感じなのですね。初めて知りました」
ブルニは幸せそうな顔で呟く。
「うふふ。ブルニちゃん、世の中にはまだまだ沢山の美味しい料理が溢れているのですよっ。それを全て食べ尽くすのがお姉様の夢ですわっ」
「はわぁ~。凄いです・・・ブルニにもなにか夢ができるかな・・・」
「出来ますわよっ、必ず。リューイは何かあるのかしら?」
「自分ですか?・・・そうですね・・・ブルニの夢を叶えてあげたいってのが夢ですかね」
「あらあらあら。かなりのシスコンですことっ」
「お、お兄ちゃん・・・恥ずかしいよぉ・・・」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてるブルニだったが、尻尾はものすごい勢いでフリフリしている。
人獣ってわかりやすい・・・
密かにそんな事を思うリリフであった。
「グワンバラ、魔法新聞借りるよ」
ミールはヨッコラショって感じで魔法新聞をカウンターに移動させる。
大きさはA4サイズなのでそこまで重くないように思われるかも知れないが、中に特殊な魔法石を使用している関係で実際はかなり重い。
持った事がある人は少ないとは思うが、自動車のタイヤほどの重量があるのだ。
ミールは魔法新聞を起動し、国籍や住民票を与えた事例を中心に調べ始める。
しかし、中々有意義な記事は見つけられなかった。
「ねえねえミール。どう?なにか見つかった?」
「いや、今のところは何も無いな」
「そっかぁ」
リリフはミールの調べる記事をしばらく一緒に見ていたが
「あっ、そういえばリューイとブルニは文字は読めるの?」
「いえ、2人とも読めないし書けないです」
「そっかぁ。じゃあっ、私達で教えてあげるねっ!文字を読めれば本とかも読めるし、色々知識が広がると思うのっ。どうかしら?」
「そ、それは願ってもない話です。是非お願いします」
「ブルニも勉強したいですっ!」
「よしっ!決まり!明日から早速やるわよっ。ビシバシいくから覚悟しなさいっ」
「は、はいっ!リリフ姉様っ!」
「まあまあ。偉そうに。わたくしが教えた頃は、それはもう大変でしたわ。全くやる気がなく結局覚えるまで1年以上かかりましたもの」
「ぎゃあぁ!セリー!昔の話はやめてよぉ!」
「うふふ」
そんな会話を背中越しで聞きながら、引き続き調べているミール。いつの間にか領主代理の記事が沢山出てきていた。
ミールは『ふーむ』といった感じで腕を組んで考えこむ。
やはり直接領主代理と連絡をとって、対応してもらうのが1番良い気がする。
というか、それしか上手く行く可能性を感じなかった。
実は先日、ちょうどセリーが初めて魔法を覚えた時、ミールはギルドから呼び出しを受けていたのを覚えているだろうか?
あの時にギルド長を通して領主代理から依頼を受けていたのだ。
なんでも準聖都キーン近郊に巨大な食虫プラントが出現して次々と輸送隊を飲み込んでいるとの事。
キーンで輸送隊が滞るとガタリヤにも影響が出るので、その調査・・・出来れば討伐をして欲しいって依頼だった。
しかしその時はリリフ達の冒険者デビューで色々と手間がかかる状況だったのと、キーン近郊まで行くと他の冒険者にバッティングして、最悪スキル持ちがバレる恐れがあるので断っていたのだった。
だが当然、まだ討伐されたという情報は入っていない。
ここで依頼を受けて、もう一度領主代理に借りを作りお願いしてみるかな・・・そういう考えが頭をよぎるのだが、どうも気が進まない。
領主代理に最近頼り過ぎてるというのもあるが、今回のお願いは領主代理のデメリットがデカいからだ。
以前のリリフ達の難民申請は実際に3人は被害にあっているし、手続き上は不正はない。ただ少し認定を早めてもらっただけ。
そして、警備局の件は明らかに向こう側に問題があり、領主代理が対応する事が逆に望ましい事件だった。
しかし今回は完全に私的なお願いだ。
人獣なんて腐るほどいる。リューイとブルニ以上に恵まれない環境で生きている人獣もだ。
その数多い人獣の中で、たったの2人だけ特別扱いする。
その事がどれだけ危険な事か・・・
平等をモットーにしている今の領主代理にとったら尚更だ。
下手したら多くの反感を買い、領主代理の地位を脅かされる事態になるかもしれない。
更に領主代理にとって、難民キャンプはあまり手が出せない地域だという事も大きい。
そこに住んでいる数多くの亜人種は住む権利が無い者、犯罪歴がある者、そもそも結界に入れない者達。
言い方は悪いが、ガタリヤが何かをしてあげる義理は無いのである。
かといって見捨てる訳にもいかない。
今や何処の街や国でも、こういった難民キャンプでの亜人種の役割は、国を育む上で重要な役割を担っている。
彼らがいなくなれば、あっという間に食糧不足、インフラ不備、物価の上昇に繋がる。
付かず離れずの関係がちょうど良いのだ。
その難民キャンプの住人の為に、領主代理が動く事の危うさはもうお分かりだろう。
「ふ~む・・・」
腕を組んで魔法新聞とにらめっこしていたミールは思わずため息をつく。
「あ、アーニャ様だ。やっぱりお綺麗よねっ、アーニャ様って。これで私と殆ど年齢が変わらないなんてイヤになっちゃうわ」
魔法新聞を覗き込みながらリリフが呟く。
「え?そうなのか?・・・」
ミールがリリフの方に振り向くと、意外にリリフの顔が直ぐ近くにあり、危うくキスする所だった。
「ひゃっ」
リリフは慌てて後ろを向き、取り繕う。
「そ、そうよっ。確か・・・21歳だったと思うわ。この前調べたものっ」
「リリフ姉様どーしたのですか?お顔が真っ赤です・・・」
「ふぇっ?!な、なんでもないのよっ。ブルニ、心配しないで・・・あはははは」
「ブルニ。今はそっとしておいてあげてくださいまし。リリフお姉ちゃんお楽しみ中だから」
「・・・恋のラビリンス・・・」
なおも心配そうにジーッと見つめてくるブルニの視線に耐えきれず、また魔法新聞に視線を移すリリフ。
「あ、これ・・・セリーが貰った上着よね。結構色々な所でお召しになっているみたい。お気に入りだったんじゃないのかしら・・・お優しい方だわ・・・」
「わたくしの家宝ですわっ!密封パックに入れて大切に保管しておりますのっ。絶対に手放しませんわっ」
「服ねぇ・・・」
ミールは興味なさそうにポチポチとアーニャの魔法絵(写真)を流し見る。
「こいつ・・・あいつか・・・相当なもんだな・・・」
ミールは一枚の魔法絵に目を留める。
アーニャが市場の視察に来ている時の魔法絵だった。
市民との距離も近く、沢山の人々に囲まれている魔法絵だ。
その中にミールの知っている顔があったのだ。
「!」
ミールは閃いた感覚と共にガタッと席から立ち上がる。
「ど、どうしたのっ?!ミールっ!」
「もしかしたら・・・なんとかなるかもしれんっ!」
「えっ?!ホントに?!」
「ああ、しかしそれにはセリーの協力が必要だっ」
「え、わたくしでございますか?!な、なんでございましょう?こ、怖いですわ・・・」
オドオドするセリーに不敵な笑みを浮かべるミールであった。
続く




