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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記⑫

 権力者に対して怒りに満ちたミールの言葉。もしかしたら昔なにかあったのかも知れない。

 しかし、決して立ち入る事が出来ない雰囲気を醸し出しているミールに、リリフは心配な表情を浮かべる事しか出来ないのであった。



 ⇨ガタリヤ奮闘記⑫




 翌朝、リリフ達は初心者応援クエストを受注し、ガタリヤの街を一周するべく、南門を出る。



「さて、いよいよ今日から2人で本格的に冒険者としてスタートする訳だけど、俺から言える事はただ一つ。『絶対に油断するな』って事だな」

「は、はいっ!」



「この油断するなって意味は色々あるんだ。多分、今日のフィールドで実際に経験すると思うから敢えて今は何も言うまい。もしかしたら、今後冒険者を続けられるかの瀬戸際になるかもしれない」


「え・・・」


「こればっかりは自分で経験して自分で決断するしかない。大変な1日になるだろうけど、油断せずに行こう」


「う、うんっ。分かったっ」

「ううう。緊張しますわ・・・」



「ははは。まあ、そうだよね。それじゃあちょっと身体をほぐすように準備運動から始めようか」

「は、はいっ」



「こうやってしっかりと筋を伸ばして柔軟運動を行おう。身体を柔らかくする事、特に関節の可動域を広げる事ができれば、怪我の防止にも役立つからね」



「ひえぇ・・ミール、身体柔らかいのねぇ。私、全然ダメだわ」

「むっふっふぅ。わたくしをご覧になって、リリフ」

「わっ?!セリー、すごっ!180°全開脚じゃん!いいなぁ!」

「毎日続けてると自然と柔らかくなるもんだよ。焦らず地道にな」

「うんっ。分かったわ!」



「次にフットワークを練習してみようか?前に少しだけリリフには説明したけど、地味な動きの繰り返しだから皆んな面倒くさがったり、飽きちゃったりして軽視されがちだけど、結構実際の戦いに役に立つ動きだと俺は思ってる。まあ、騙されたと思ってやってみ」


「ううう。わたくし、こういうの苦手ですわぁ・・」


「あははっ。セリー運動苦手だもんね!私はこれ結構好きかも?!単純な動きだから覚えやすいし!」


「そうそう。単純な動きなんだけど結構役立つし大切なんだ。いざって時に自然と横にステップを踏んで攻撃を躱せたり、転ぶっ!て思った時に足が一歩出て踏み止まることができたり。何が起こるか分からないのがフィールドでありモンスターとの戦いだ。だからこそ身に付けておいて損はない技能だと思うから、これからフィールドに出る前に軽くでいいからストレッチとフットワークは習慣付けるといいかもね」


「確かに!分かったわ!頑張ろっ!セリー!」

「はいですわっ!」


「よし。それじゃあそろそろ出発しようか。いいかい?さっきも言ったが今日の目標は油断しない事。そして街を一周する事が目的だ。途中モンスターが出てきても敵わないと思ったら無理に戦わなくて良いから。そして危ないと思ったら躊躇(ちゅうちょ)なく結界内に逃げる事。そういった状況判断を身につけて行こう」


「はいっ!」


「戦い方も重要だよ。セリーの魔法は強力だけどリリフを巻き添えにしたら意味が無いからね。まずリリフが突っ込んでセリーが魔力を貯める時間を稼ぐ。セリーは魔力が溜まったらリリフに合図、リリフは何秒後に離れるからとセリーに伝えて、そのタイミングで魔法を発動する・・・ってな感じかな?」


「なるほど・・・分かりましたわっ」


「今俺が言ったようには中々出来ないものだよ。実践は色んな事が起るし、モンスターも1匹とは限らないからね。だからこそ今のうちにお互いに声を出して、お互いがどんな動きをするのかを把握しといた方がいいかな」


「分かったわっ!セリー!声出して行こうねっ」

「かしこまりましたわっ」



 唐突に目の前に1メートルほどのキノコのような植物が地面から生えてくる。



「きゃあぁぁ!なにこれぇ!」



「お、おお落ち着けっ。しょ、初級の食中プラントだっ!ツルを伸ばしてぇぇ、ほ、捕食してくるからぁあぁ注意しろ!セ、セリー!ここここいつは炎が弱点だっ。れ、冷静に魔力を貯めろぉぉ!」



 スキルの影響で、ちっとも冷静じゃないミールが助言する。



「わ、わわわわかったぁ。きゃあー!」

「り、りりふぅ、魔力貯めますわよっ!」

「ちょ、ちょちょちょっと待ってマッテ!あわわっ。ツルしつこいぃ!」



 ヒュンヒュンとツルを伸ばしてくる食中プラント。リリフはダガーナイフとウイングナイフを抜き、体勢を整える。



「やあっ!」



 ナイフを一太刀、すると思いの外あっさりとツルを切断出来た。その後も襲い来るツタ達を切り裂きながら応戦する。



「リリフッいつでもいけますわっ!」

 セリーは魔力が溜まった事を伝える。



「OK!はあっはあっ、じゃあ5秒後に離れるっ!」

 1・・・2・・・3・・・4・・・



「5!」



 リリフがバッと地面を蹴り食中プラントから距離をとった瞬間、セリーの魔法が発動する。



「ブルデュフッ!(火の玉)」



 ボウッと野球ボールくらいの火の玉が発現して食中モンスターに向かって突き進む!



 ヒュルッ!



 しかしちょうどそのタイミングでリリフの足にツタが絡まるっ!

 引きずり込まれるリリフ!



「あ、危ないですわっ!」

 セリーの悲鳴が平野にこだまする。



「このぉっ!」



 リリフは逆に引きずり込まれる力を利用して一気に食中プラントの懐に入り込み一太刀、ツタを切り離しモンスターの後ろ側に回り込む。



 ボオオオウウウウンンン・・・・



 火の玉が食中プラントに直撃する。




「キュイイイイィィィィィイイイィィ」




 食中プラントはクネクネと身をよじりながら燃えさかり、やがて10分の1程度まで体積を縮小させた黒焦げの植物へと変わり果てた。



「や、やりましたわ・・・」

「あ、危なかったぁ・・・」

「おめでとう。良くやったな、リリフ、セリー」

「ううん。全然ダメ。危うくセリーの魔法で黒焦げにされちゃう所だったし」

「申し訳なかったですわぁ・・・」


 しゅんっと落ち込むセリーに

「違うの、今のは私のミスだわ。セリーの魔法が使えるって分かった途端、無理やりタイミングを取ろうとしちゃった・・・もっと焦らずに十分弱体化させてからにすれば良かったの。ごめんなさい」


「わたくしも打ちたい、打ちたいと自分の事ばかりでしたわ・・・反省」



「いいね。中々順調な滑り出しだな」

「ぶぅぅ」



「あはは。別に皮肉で言ってるんじゃないんだ。今みたいな経験は誰しもが体験する事なんだよ。でもその後の対応の仕方はそれぞれ違う。お前が悪い、俺は悪くない、たまたまモンスターが不規則な動きをしただけで俺たちは問題無い等々・・・ちっとも反省や修正をしようとしないPTと、お前達のように直ぐに反省して問題点をお互いに語り合うPT。さて、どっちが生き残る確率が高いでしょーか?」


「そ、それは・・・」


「そうですわっリリフ。わたくしたちは下手で当たり前ですわっ。上手くやろうとせずにドンドン話し合いましょう。わたくしの魔法でトドメを刺す他に、目眩(めくらま)しとしても使うのはどうでしょうか?」


「なるほどねっ。確かにセリーの魔法でトドメを刺すってのに拘らなくても良いんだ。わかったわっ。色々試してみましょっ」


「はいですわっ!」



 その後もぎこちない感じではあるが、なんとか乗り切っていくリリフ達。

 そろそろ北門に差し掛かろうかという場所でバウンドウルフの襲撃を受けることとなる。



「あっ!待って!セリー!草陰に何かいるわよ!」

「えっ!?どこですのっ!?」

「ほらっほらっ!あそこ!隠れてるわ!」

「あっ!ホントですわ!犬・・・でしょうか?」

「ううん。あれってバウンドウルフってやつじゃない?結構ここら辺に多いってギルドで言ってたし!」

「ですわね!明らかにこっちを狙ってますわ!モンスターですわ!」



 その瞬間、バウンドウルフがグワっと飛び出して来た。

 全身がバネのような身体能力を見せて、スライムとは比べようがないスピードで一気に距離を詰めてくる!



「うわわっ!」

「危ないですわっ!」



 リリフは何とか身を翻し、バウンドウルフの牙を躱わす。

 しかし、バウンドウルフはそのままリリフに標準を合わせ、なおも攻撃を仕掛けてきた。



「えいっ!やあ!」

 やはりスキルのお陰で目は人一倍良いようだ。リリフは冷静に対応して、逆にカウンターで攻撃を当てる。



 グワオン!



 バウンドウルフはリリフは手強しと思ったのか、急に方向転換してセリーめがけて突き進む。



「あ!セリー!危ない!」

「ひいっ!」



 セリーも魔力を貯めて、スキあれば火の玉を当てようと身構えていたのだが、スライムとは別次元のスピードに付いていけず、背中を見せて結界内に逃げ込む。



 バチンッ!

「ギャオン!」



 バウンドウルフは結界にマトモにぶつかり、弾き飛ばされた。

 大地に転がったバウンドウルフに対し、すかさずリリフのダガーナイフが太ももに突き刺さる。



「キャイン!」

 バウンドウルフは悲鳴の声を上げた。

 鮮血がリリフの顔にかかる。



「キャイン!クゥーン!クゥーン!」



 そして尻尾を内側にしまいこみ、足を引きずりながら必死に敗走する。

 リリフを見ながら、泣き声を上げながら・・・



 皆さんも見た事はあるだろうか?

 動物の泣き声、泣き顔、怯えた姿を。



 モンスターとて生き物である事に変わりはない。

 痛み、苦しみ、そして恐怖。

 死にたくない。痛いよ。助けて。

 そんな想いを必死に伝えるように、懸命に泣き声を上げるバウンドウルフ。



 ゲームの世界やアニメの世界では簡略化されていたり、全く別の演出をしているので勘違いしている人もいるだろう。

 そして現実世界を否定し、異世界に、ゲームの世界に転移、転生したいとまで思う方もいるかもしれない。



 否定から入ってしまい申し訳ないが、まずゲームの世界に転移、転生はあり得ない。

 何故ならそれは需要と供給のバランスがあって成立する世界。

 そして『人間』が作った空間にすぎないのだから。



 つまり供給側に『人間』の力が関わっている以上、想像や妄想の域を超えることはなく、転移先の世界に選ばれることはない。



 もしゲームの世界に入りたいのであれば、意識や感覚ごとゲーム内に入れる技術が確立した未来に転移し、その世界でログインするしかない。

 つまり、実際の肉体は現実世界にあるという事。

 なので転移したとしても、結局は趣味や娯楽の延長線上のことなのだ。



 供給側に『人間』以外の力が働いたケースは少し違うが、その場合はあなた方の自我も価値観も別次元の場所に移動してしまうので説明は省くとしよう。



 つまり、ゲームのようにモンスターを倒したらエフェクトが消えたり、お金を落としたりする事はない。



 剣を突き刺させば血が飛び散るし、悲鳴も上がる。

 何故なら、全てのモンスターは生きているからだ。

 一匹一匹に命があり、生活があり、コミュニティがある。

 日々食べ物を探し、子供を育て、縄張りを守る。

 モンスターとて、世界で生きる事に必死なのだ。

 



 今一度、命というモノを考えてほしい。




 貴方達が普段口にしている食べ物。

 それは何処から来ているのだろうか?

 


 スーパーやコンビニに並べられている肉は何処から来ているのだろうか?

 


 当然、多くは鳥や牛、豚からだ。



 では、その鳥や牛、豚達は、貴方達がペットとして普段接している犬や猫、インコと何処が違うのだろうか?



 懐いてくる事はないのだろうか?

 甘えてくる事はないのだろうか?

 幸せそうに眠ってる姿を見せる事はないのだろうか?



 当然同じ生き物。違いはない。



 そして悲しみの声、助けてと泣き叫ぶ声も変わりはない。



 多くの食肉として育てられた動物達は、最後の場所に運ばれていく時、本能なのか周りの人間達から何かを感じとっているのかは分からないが、皆一様に悲しみの声を出すという。



 私達は当たり前のように、切り分けられた肉を、調理された肉を手に取り、口に運ぶ。

 そして『この肉旨いね』といって笑い合い、『この肉マズイね』といって平気でゴミ箱に捨てる。



 発展途上国の民族の多くは、家族でヤギや羊などを飼育している事が多い。

 まるでペットのように身近で飼育している。


 しかし『なんで飼育してるんですか?』と聞くと『祭りの時、めでたい時に食べる為さ』と平然と言う。


 そして、いつもエサをくれて懐いているヤギ達を、当たり前のようにシメて命を奪う。

 ガスなどは使わない。

 当然泣き叫ぶがお構いなし。

 そして皮や骨、血まで全て残らず食す。



 残酷だと思うだろうか?



 どちらも食べ物に対してなんの感情も出していないが、生き物の命を奪っているという事実を受け止めている者と、全く無関心な者では大きく違う。


 私からすれば、食べ物があるのが当たり前と思い、それが何処から来ているかを知ろうともしない皆様こそ、よほど残酷だ。



 だがしかし、非難するつもりは全くない。

 そんなことを考えていたらキリがないし、そもそも我々人類は生き物の命を奪わないと生きていけないのだから。



 ベジタリアンも同じ事。

 植物が叫び声を上げれないだけで、生きているモノを食しているという事に変わりはない。

 その葉っぱを、茎を、花を、次の世代に繋げる種を奪って生きている。



 なので、こんな言葉では表現したくはないが、『しょうがない』事なのである。



 しょうがない事ではあるが・・・



『よっしゃー!キル取ったあぁ!』

『うわっ。このモンスター苦手なんだよなぁ。リセットしよ』

『くそー!死んだぁ!蘇生よろ!』

『逃がすなぁ!イケイケイケ!』

 


 皆様の周りには多くの作品、ゲームがある。

 現実を忘れさせてくれるくらい、達成感や爽快感、やり甲斐に溢れているだろう。



 しかし、読者の皆様には、少しで良い。ほんの少しだけ、心の片隅にちょびっとだけでいいので、思い留めて欲しい。




 この作品に出てくる沢山の人間達、数多くのモンスターは、実際に命があるのだということを。




 この必死に敗走しているバウンドウルフも同じだ。

 生活がある。仲間がいる。

 巣に帰ればお腹を減らした子供達が待っているし、愛しの妻も待っている。

 ここで死ぬ訳にはいかないのである。



 リリフは顔にかかった返り血、そしてぐっしょりと赤い血で濡れたダガーナイフを見て表情が曇る。



「どうする?」

 ミールが静かに尋ねる。



「あのバウンドウルフを見逃すか?それともトドメを刺すか?」

 リリフは振り返らずにグッと拳を握る。



「スライムとは異なり、肉体があり、赤い血が流れている相手だと少し違うだろ?直接肉体を切り裂く感触も感じるし、相手の悲鳴も聞こえる。だが、モンスターとの戦いはほとんどこんな感じだ。今日、南門を出る時に言ったが、これは冒険者を続けられるかの瀬戸際かもしれないな。どうする?見逃すか?トドメを刺すか?」



「わ、わたくしは・・見逃してもいいのではと思いますわ。もう襲ってくる事はなさそうですし・・あそこまで深手を負っているのです。どのみち長くはないでしょうから・・」



 確かにバウンドウルフの太ももは肉が(えぐ)れ、骨が見えている。

 太い血管も損傷しているようで大量の血を流しており、セリーが言う通り長くはないだろう。



「でも・・苦しませるよりかは・・早く楽にさせた方が・・いいのかな?」

 リリフも弱々しい表情でミールを見る。



「どっちの考えも正解だ。価値観は人それぞれ違うからな。しかし冒険者としてはどっちも不正解かもしれないね」

「え・・」



「リリフ。確かに無駄に苦しませるよりかは早く楽にしてやろうって考えがあるのは当然だ。しかし、それは勝手にお前が決めつけているだけで、あのバウンドウルフがそう思っているとは限らない。現に必死に逃げてるじゃないか。最後まで生きようとしてる者に対してトドメを刺すのは絶望に突き落とす行為なんじゃないのか?それを勝手に解釈して『優しさ』という単語に置き換えて、トドメを刺して生命を刈り取る行為を正当化して、自分の罪の意識を減らそうとしてるだけなんじゃないのか?」

「・・・」



「セリー。確かにあのバウンドウルフは瀕死だ。おそらく数時間後には死ぬだろう。だが見逃す行為は単純に、自分が殺したという事実をはぐらかしたいだけなんじゃないのか?自分が見てない場所で死んでくれれば罪の意識は劇的に下がるからな。お前は敵意を向けてないのであれば、どのみち助からないのであれば、敢えて命を刈り取る必要はないという『情けをかける』行為をする事で、罪の意識から逃げたいだけなんじゃないのか?」

「・・・」



「俺が言いたいのはその考えが間違っているかとか、そういうことではないんだ。2人は決意して冒険者の道を選んだんだろう?その気持ちの中には本で読んだような弱者を助け、強者を砕く英雄の姿への憧れも少しは含まれているはずだ。しかし前線で戦えば戦うほど、多くの者を救えば救うほど、むごたらしい現実をの当たりにするだろう。けして綺麗事では済まされないからね。何故ならこれは戦争だ。大袈裟に聞こえるかもしれないが、歴としたモンスター相手、悪魔種相手に人間の生存を賭けた戦争なんだ」

「戦争・・・」



「そう。あまりスライムとかを相手にしてると実感ないと思うけど、今のバウンドウルフだと少しは分かるんじゃないか?相手にも赤い血が流れている。そんな相手の喉を掻き切り、ハラワタを切り裂き、鮮血を撒き散らしながら生命の奪い合いをする。物語だったら英雄や勇者が、沢山の人を殺してきた盗賊団や強敵モンスターをバッタバッタと華麗に薙ぎ倒す姿を描くから、読む側も快感や爽快感を得るだろう。しかし、その後の築かれた死体の山を描写している作品はあまりない。ブヨブヨしている内臓や脂肪が撒き散らされ、ヌメヌメとした分泌液や血に足を滑らせ、強烈な異臭が辺りを漂う。実際の戦場は本や魔道遊戯(ゲーム)などでは感じる事が出来ないほど悲惨だ。街で生活している人には想像もできないくらい、最前線で戦ってる冒険者は過酷な光景を目にするだろう」



「そ、そうだよね・・」



「だから、多くの者は死体の山に目を背ける。殺した事を正当化したがる。まあ、実際、話し合いが通じる相手ではないし、向こうも命を狙ってくるからな。戦場でいちいち罪の意識を感じてたらキリがないし、自分の精神も保たないだろう。しかし、この相手を殺すという事を正当化し過ぎるのは危険だ。相手が襲ってくるのだから、殺さなければ自分が殺されるのだから、戦争中だからしょうがない等々。そんな理由を付けて殺す事を正当化しすぎると、どんどん感覚が麻痺していき、生命を奪う事になにも思わなくなるだろう。自ら戦場に赴き、率先して殺すようになるだろう。殺した相手の生首を持ち、笑って戦果を報告するようになるだろう。しまいには人間種以外に生きる資格なし。ルーン国民のみが正統な血筋、他の国民に生きる資格なし。ゼロス信者以外は人にあらず。こんな偏った考えを平気でするようになる。そうなった者は相手がモンスターだろうが人間だろうが関係なくなるのは言うまでもないな」



「そうは・・なりたくないな・・」



「ああ、そうだ。俺もリリフ達にはそうなって欲しくない。だが逆に、世界のため!ルーン国民のため!・・と意気込み、身を粉にして自分自身の心を擦り減らして戦うのも実は危うい。何故なら街の人々は冒険者がどれだけ苦労してるのか知らないからね。命をかけて人々を守っても、心無い言葉を浴びせてくる者も多い。守られて当然と思ってるヤツもいるし、次もよろしく!って気軽に命をかけさせるヤツもいる。いい気になるな!調子に乗るな!と(ひが)んでくるヤツもいれば、お前達冒険者は楽でいいよな・・俺は毎日上司にノルマノルマ言われて大変なんだよ・・て言うヤツまでいるんだ。物語だったら大円団で感謝や祝福に溢れて終わるだろうが、実際は苦労が報われることは少ない。真面目に冒険者をやってきた者ほど、このギャップに絶望感を感じやすいんだ。そして人間に絶望し、世の中に絶望し、山奥に引きこもり隠居生活になったり、闇堕ちして殺人ギルドを結成したりする者も実際多いんだよ」



「私も・・・そんな事言われたら・・ちょっとショックかも・・」



「セリー。お前のようにトドメを刺すのを人任せにしたり躊躇したせいで、もしかしたら他の人間が、仲間が、危険な目に会うかもしれない。モンスターは狡猾(こうかつ)だ。強敵になればなるほど、ありとあらゆる手を使って人間を騙し、陥れようとしてくる。だからこそ油断してはならない。だからこそ、南門を出る時に言ったように油断してはならないんだ。泣き叫ぶ相手にトドメを刺さなければならない場面が出てくるだろう。無抵抗の相手にトドメを刺さなければならない場面も出てくるだろう。時には怯える子供達にトドメを刺さなければならないこともあるかもしれない。だが、そうしなければ仲間が殺される。そうしなければ罪の無い人々が殺されるかもしれないんだ」

「・・・」



「冒険者は時として非情にならなければならない。冒険者は残酷にならなければならない。冒険者は多くの罪を背負わなければならない。生き物の命を奪うのはモンスター相手とはいえツライ体験だろう。苦しいだろう。だが・・いや、だからこそ、その苦しみを他のヤツに味合わせてはならないと俺は思う。あのバウンドウルフにトドメを刺すのを躊躇するのは人として普通の事だ。何も恥じる事はない。ガタリヤの住民の過半数は躊躇する側だろう。だが、冒険者として生きて行くのであれば躊躇してはならない。迷ってはならない。ここでトドメを刺せないのであれば冒険者として大成するのは難しいかもしれない。それくらい、冒険者という職業は厳しい世界なのさ」



 リリフは黙って歩みを進める。

 視線の先には足を引きずっているバウンドウルフ。もう100メートルくらい離れている。

 段々とリリフのスピードは早くなり一気に駆け出した。



 リリフが追ってきたのに気づいたバウンドウルフは、最後の力を振り絞って必死に逃げる。




「キャオオォォォンンン・・・」




 とても悲しい叫び声を上げて、この世を去るバウンドウルフ。



 リリフは遠目でみても荒く肩で息をしているのが分かる。

 そしてゆっくりとゆっくりとミールの元に戻ってきた。まるで気持ちの整理をしているかのように。



 ミールは何も言わずに黙ってタオルを差し出す。

 リリフは返り血をタオルで拭きながら



「ミール。やっぱり私が甘かったみたい。本で読んだ勇者や英雄に憧れてこの世界に入ったけど・・・そうよね。良い事ばかりじゃないわよね。でも、こういった現実もしっかり受け止めて前に進んでいきたい。もっともっと強くなって皆んなの助けに、ミールの助けになれるようになりたいもんっ」



「わたくしもですわ。スライム相手で何処か気が緩んでいたようです。そうですわよね。相手はわたくし達の命を狙っているのですもの。油断などあってはならないですわ。より一層気を引き締めてまいりますわっ」



「そうか。まあ、今日が始まりだからな。少しずつ頭を整理していくと良いよ。躊躇してはならないと言いながら、殺しを正当化しすぎるのは危険だと言い。人間種の存続の為に戦えと言いながら、身を粉にして捧げるのは危険だと言い。罪の意識を誤魔化すなと言いながら、戦争中だからしょうがないと言い。これらの矛盾を一つ一つ、これからの戦いで経験を積み重ねると、自分自身が納得いく答えがいずれ出てくるだろう。それまではとにかく『絶対に油断しない』ことを意識して行動すること。その積み重ねが将来大きく役立つはずだからね」


「はいっ」

「分かりましたわっ」



 そうして冒険者として大切な一歩を踏み出したリリフとセリー。

 2人の瞳には決意の光りが宿っており、慎重に、そして確実にモンスターを倒していく。



「ふぅ。さっきの角ウサギは1匹だったから良かったけど、複数いたら大変そうね」

「確かにぃ。複数の動きの速い相手だと、直ぐに囲まれてしまいますわね」

「うんうん。後衛のセリーにも結構襲ってきてるもんね。今は直ぐに結界の中に逃げちゃえばいいけど、いつまでも結界周辺をウロウロしてるわけにもいかないもん」

「やっぱりもう少し仲間が必要ですわねぇ・・・」

「そーねー」



 そんな会話をしながら一行は北門方面に到着した。




「よしっ。今日はここら辺でお昼にしようか」

 ミールは結界内に入ると、マジックポケットからお弁当や飲み物を取り出した。



「ふー。もうお昼かぁ。なんかあっという間」

「ですわね。正に緊張の連続ですわ」

「ははは。そうだな。まあ、最初のうちはやりすぎくらい慎重に行った方が良いんだよ。どうしても慣れてくると油断してしまうのが人間って生き物だからね。この調子で後半も頑張ろう」

「うひぃ・・」



 リリフ達はグワンバラに用意してもらったお弁当でお腹を満たし、喉を潤す。



「この辺りは一面畑ですわねぇ」

「ホントだぁ。あ、向こうにトンプー(牛)がいるよっ。飼ってるのかなぁ」

「ええ?・・・・全く見えませんわ・・・」

「あはは。セリーには遠すぎたかな」


「この辺りは農業や畜産が盛んなんだよ。近くに川があるからね」


「そうなんだぁ。でも厩舎は結界内にあるみたいだけど、放牧地みたいなのは一部結界の外に出ちゃってるわね。畑なんかは全て結界外にあるし。私、全部結界内にあるとばかり思ってた」


「元々はそうだったんだよ。でも段々と人口が増えて住居が次々と建てられていくとそれに比例して農地や畜産業は外へ外へと追いやられていったのさ。畜産とかは特に臭いが酷いからね。衛生面の理由もあって、どうしても城壁内にスペースを設けるのは難しいみたい。今では世界のほとんどの街がこういった状態になっているみたいだね」


「なるほどですわぁ・・・一面が黄金色(こがねいろ)絨毯(じゅうたん)のようですわねぇ。麦畑なのでしょうか?」


「そうそう。ここら辺の麦やトウモロコシなどはね、結構名産品となってて市場に出ると高値で売買されるんだよ。どうやらこの土が良質なのと、昼間は暑くて夜は寒いだろ?植物ってのは寒いと中に糖分を貯める習性があるみたいで、この土地でとれるトウモロコシはもの凄く甘いんだ。数少ないガタリヤでの特産品で、これがあるからなんとか序列最下位の街でも、そこそこの物流が維持出来ているんだよね」



「へええぇ。そーなんだぁ。でもなんかまだまだ土地が余ってるみたいだけど・・・高値で売れるならもっと沢山作っちゃえば良いんじゃないのかなぁ?」



「そうしたいのは山々なんだけど、実はここら辺は常に水不足との戦いなんだよね。近くを流れるヨウレン川は水量があまり多く無くて、夏場の時期は特に水かさが低くて大変なんだ。ちゃんと整備して貯水池などを作れれば解決されるとは思うんだけど、なんせガタリヤは金が無いからね。そこまで手が回らないのさ。というわけで畑を広げたくても広げられないジレンマがあるせいで、セリーが毎日飲んでいるビルビル(ビールのこと)も安くならないってわけ」


「ああぁ~ん。切ないですわぁ・・・」

「へ?ビルビルってトウモロコシから出来てるの?!」

「麦ですわ、リリフ」

「へー。ビルビルって麦から出来てるんだ?初めて知ったわ。不思議ね、こんな植物からお酒が出来るなんて」


「まあ、厳密にいうと大麦だけどね。確か・・・魔法省の研究で色々と触媒について調べてた過程で発見されたって記録が残ってたはず・・・かなり昔の話だけどね」


「そーなのですねぇ。あのー、ミール様。1つ質問なのですが・・・あそこで畑仕事やトンプーの世話をしている方達って・・・襲われたりしないのですか?モンスターに」


「もちろん襲われるよ。かなり危険な仕事さ」


「やはりそうですわよね・・・でも・・・ルクリアの職探しの時に見た求人広告にはこういった業種は載ってなかったと思うのですが・・・なにか特別な資格とか・・・そういった理由はあるのでしょうか?・・・」


「あ、でもっ冒険者ギルドにはクエストがあったよね?畑や家畜の護衛って」

「確かにありましたわ。でも肝心の働く人達の求人は見かけなかったものですから」



 ミールはしばらく無言で、(から)になった弁当ガラなどをマジックポケットに収納していたが、スクっと立ち上がり

「ま、それは自分の目で確かめた方がいいかな。もうすぐ見えてくると思うから」



 リリフ達はお互いに顔を見合わせるが、歩き出したミールに黙って付いていく。



 そして・・・



 北門から東門のちょうど中間地点にそれはあった。





「あっ!なんかあるよっ!家?・・・なんか建物みたいなのが沢山ある!」

「ええ?・・・全く見えませんわ・・・」



 しばらくそのまま進むと

「確かにありますわね・・・住宅地?・・・でも結界の外ですわよ?・・・」

「ホントだ。半分以上結界から飛び出しちゃってるみたい」



 リリフ達の言う通り、そこにはちょっとした集落が出来ており約5000人以上が住んでいるような大きさがあるようだ。

 結界内・・つまり、外壁と結界との間のスペースには数多くの古びた集合住宅が建てられており、倉庫のような大きめな建物もみられた。



 そして、街を囲む外壁に鉄扉が造られており、兵士が駐在しているのも見える。

 この鉄扉は各東西南北の門とは違い、硬く閉じられており、どうやら一般民が出入りする事は出来ないようだ。

 集合住宅や倉庫は柵で囲まれており、入り口付近にも兵士の詰め所があるのが確認できるので、街中よりも警備が厳重なのかもしれない。



 対照的に結界外の集落には柵などは無く、フィールドに剥き出しの状態で数多くの平屋が建ち並んでいる。

 どの家も簡単な材木で作られており、強風があったら倒れてしまいそうだ。

 イメージ的には集落というよりかはスラム街といった感じ。



「なんか大きな建物が沢山あるわね」

「警備も厳重のようですわ。兵士が沢山おりますもの」


「ああ。あそこで家畜を大量に飼育したり、作物を保管したり、加工したりしてるんだよ。あそこがもし襲撃にでもあったら街全体の食料事情に影響が出るからね。だから警備が厳重なのさ」


「へー。でも逆に結界外の集落は、凄い寂れてるわね」

「ミール様。あそこはいったい・・・」



 ミールはヒョイッと肩をすくめてリリフ達を先に行かせる。

 自分の目で確かめてみろって事だ。

 リリフとセリーは手を繋ぎながら、恐る恐る結界外の集落に入っていった。



 スラム街に入った瞬間、その違いに気付く。


 道端に寝転がっている人、リリフ達をジイッと家の中から見つめる人、食堂と思われる店の店員とお客・・・殆どが亜人種、いわゆる獣人達だったのだ。



 以前少し説明させて頂いたが、この世界では血の濃さで名称が変わる。

 人間とほぼ見た目が変わらない人獣、半分くらいの半獣、ほぼ獣のような獣人だ。

 このスラム街には、その全ての亜人種が住んでいるようだった。



「ケモ耳の方が多いですわね」

「そうね・・・」

 道端に座り込んでいる亜人種の瞳は光が無く虚ろな目をしている。



「こんな所に冒険者様がなんの用だい?田舎から出てきたのか?悪い事言わねえ、早く出て行くんだな」

 木陰でタバコを吹かしている獣人が話しかけてくる。



「あ、あの・・・ここはいったい・・・」


「ここは見ての通りのゴミ溜めさ。街に入れない犯罪者や他の街から逃げて来たものの移住が許可されない者、そして結界に入る事が出来ない亜人種達・・・人獣は結界に入れるが半獣、獣人は入れないからな。そういった外れ者が住む村なのさ」


「そうなのですか・・・亜人種は結界に入れないのですね・・・」


「なんだ?知らなかったのか?どおりでのほほんと警戒心なく歩いていると思ったぜ。このゴミ溜めには法なんてものは無い。あるのは明日生きれるかどうかだけだ。精々ひったくりに遭わないように気をつける事だな」



「あの・・・皆さんはどうやって生活なさってるのでしょうか?」

 神妙な顔をしたリリフが尋ねる。



「ふん。珍しいお嬢さんだね。街の奴らは俺たちの暮らしに興味すら持たないってのに・・・」



「私、本当に今まで世間知らずで生きてきました。自分でなにも考えずに言われたレールをただ何となく歩いていただけ・・・でもそういうのは止めようって決めたんですっ。自分の意思で考え、行動する。教えて下さい。貴方達の現状を・・・」



 リリフの真っ直ぐな瞳を直視出来ないのか、獣人は目を閉じて、鼻からタバコの煙を吐き出しながら語り出す。



「別に特別な事など何もないさ。あんた達、街の連中が出来ない結界外の危険な仕事を俺たちがする、それだけだ。農作業や畜産、街道や水路の補修、地下を通る排水路の掃除まで全てが俺たち外れ者の仕事だ。街の連中からしたら俺たちなんてゴミクズ同然さ。そのゴミクズ達が街の連中の食料を作り、加工して運び、街の皆様が出した排泄物を回収し、有り難く肥料に使わせて頂く。笑っちゃうだろ?あんた達の口に入る物からお尻から出す物まで全て俺たちが携わっているのに、あんた達は俺たちの存在すら知らない。逆に亜人種を見たらあからさまに嫌悪の表情を浮かべて差別してくる。全く・・・誰のお陰で平和にクソしていられると思ってんだか」



 リリフとセリーは亜人種達の現状を知り、ショックを隠しきれないでいる。

「そ、そんな・・・全く知らなかった・・・・ごめんなさい・・・」



 獣人は涙を流し素直に謝罪をするリリフに少し驚いたようで、目を少しだけ見開く。



「どうしたら・・・貴方達のように虐げられ・・・差別される人を救えるのかしら・・・」



 リリフの問いに少しニヤッとしてから

「ついてきな」

 ボソッと呟くとスラム街の奥に歩き出す。


 リリフとセリーは黙って頷き、獣人の後をついて歩く。

 しばらくすると広場に到着した。



 広場は村全体の中間くらいの位置、ちょうど結界が通る場所にあった。

 結界内には古びた集合住宅が建ち並び、広場を挟んで結界の外側にはスラム街のような住居が建ち並んでいる。

 結界内にある住居も集合住宅とはいえボロボロに古びているが、外側の住居は更に輪をかけたようにオンボロで、この狭い集落においても結界の内側と外側で、かなりの格差があるように見える。



 そして特徴的なのが1つ。広場の中央、つまり結界の境目に複数の縦長な建物が建っていた。要は建物内に結界が通っているのだ。



「人集りが出来ておりますわね」

「本当だ・・・なんだろ?」


「あれは仕事を斡旋(あっせん)しているのさ。よく見てみろ。なにかに気付かないかい?」


「え・・・なんだろ?・・・」

 ジイッと目を凝らすリリフ達。


「結界内で偉そうにしているのは人間種ですわね。身なりからして違いますわ」

「でも何人かは獣人・・・人獣の人もいるけど、その人達も結構良い身なりをしているわね」

「確かに・・・でもほとんどの方がボロボロの服装ですわね。身体も痩せこけてますわ」

「身なりの良い獣人は・・・なんか命令しているみたい。リーダーなのかな?」

「どうやら幾つかのグループがあるようですわね。リーダーらしき方を囲む輪が複数ありますもの」

「あんな小さな子供達まで・・・」



「分かったかい?街の連中が仕事を持ってくる。農業や畜産、加工や補修等々。それらを1人1人雇って管理してたらキリが無いからな。大抵は元締めに丸投げだ。このゴミ溜めには複数の元締めが存在していてね。俺たちは大抵何処かのグループに所属しているのさ。元締めが仕事を受注して下の者達を働かせる。その報酬を元締めが1人1人に支払う。大抵はピンハネしてるから報酬は驚くほど安い。1日中クタクタになるまで働いて30グルドとかザラだからな。死にたくなるぜ、全く。どの元締めに所属しているかで仕事の量も報酬も変わってくるからな。そういったいざこざはしょっちゅうだし、元締め同士の争いも絶えない。正に弱肉強食さ。強い者は上に立ち美味しい思いをして、弱い者は一生搾取され続けるって訳だ。年齢なんて関係ない、このゴミ溜めでは働かない者は死ぬだけだ。つまり・・・さっきあんたが救いたいって思ったこのゴミ溜めにも同じように差別があり、虐げる奴と虐げられる奴がいる。そういった場所なんだよ、ここは」


「そ、そんな・・・」

「みなさんは・・・ここで寝泊まりしているのですわよね?・・・モンスターにはどう対応しているのでしょうか?」



「対応なんてしてないさ、他のヤツが食われているのを黙って見てるだけ」

「!」



「ここら辺に生息しているモンスターは大型の奴はいないからな。大抵1~2人を食えば何処かに行っちゃうのさ。夜になると現れるウルフキマイラも1人だけさらって行くだけだしな。朝起きて命がある事に感謝し、日中は死ぬ思いをして働いて、夜に食べられるかもと思いながら眠りにつく。これが俺達の日常だ」


「ひ、酷い・・・」


「政府はなにもしてくれないのでしょうか?この街の領主代理は評判が良いとお聞きしましたが・・・」


「まぁ、確かにこのガタリヤは月の半分くらいは冒険者が警備してくれてたりしてたけど、最近は全く見ないな。噂によるとほとんどのPTが死んじまったらしい。結界内の兵士は全然俺達が死のうが関係ないって雰囲気で、襲われてる俺達の横を平気で素通りしたりするぜ?あいつらが対応してくれるのは野良デーモンが出てきた時くらいだな。ほっとくと俺達を糧に上位の悪魔種に変化されて大変になるからな」


「ここから逃げようとは思わないのでしょうか?」



「逃げるってどこに?」

 獣人はセリーを睨む。



「そ、それは・・・」



「俺達は結界には入れない。かといって森の中で暮らすには外敵が多すぎる。他の街もここと同じ・・・いや、もっと酷い扱いだ。行くとこなんてねーんだよ。少なくともここにいれば僅かだが食べる物は手に入るしな」


「そ、そうなのですか・・・1日30グルドではなにも買えないのではと思っておりましたわ・・・」


「なにも買えねーよ。ただ一日中働けば配給券が貰えるんだ。正直、30グルドなんかより、こっちの方が有難いね」


「配給券??」


「ああ、それがあると配給所に入れるんだ。他の街に配給所はないからな。だからガタリヤはまだマシなのさ・・・まぁ、あれを配給と呼ぶのかは分からんが・・・」

「どういう意味?」



 獣人はクイっと広場の建物を指し

「実際見てこいよ。俺のお節介はここまでだ。久しぶりにカタギの奴と話せて楽しかったぜ、あばよ」

 そう言うと獣人はクルッと背中を見せて手を振りながら立ち去る。




 リリフとセリーはお互いの服を掴みながら一番左の建物から入っていく。

「日用品売り場ですわ・・・」

「でも結界外にはなにも置いてないわね・・・」



 リリフの言う通り、建物を入って結界外は何も置いて無く、結界内にカウンターと商品が陳列してあった。

 カウンターで雑誌を読んでいるおじさんは、やる気の無さそうな顔をしてチラッとリリフ達を見るが直ぐに雑誌に視線を戻す。



「うわっ。ボロボロじゃん・・」

「しかもお高いですわっ。ヨレヨレのTシャツが100グルド?!どうみても10グルド・・いえ、お値段なんて付かないですわっ!ぼったくりですわっ!」



 陳列している商品は、どれも使い古されたようにボロボロだった。にも関わらず、セリーが言うように、そこそこの値段が付いている。



「ここは田舎の冒険者様の来る所じゃないよ。はやく消えておくれ」

 おじさんはシッシッっと手を振り追い返す。



「セリー。隣も見てみよ・・・」

「はいですわ・・・」



 隣の店も同じ作りで、工具など仕事に使いそうな物が陳列してある。

 しかし、どれも中古品でボロボロ。そして値段も高い。



「ここでお買い物はとても出来ませんわぁ・・・」

「あ、あっちのお店がなんか賑やかね。行ってみましょ」



 リリフが指刺したお店はちょうど広場の真ん中に位置しており、一番大きい建物だった。他のお店と違い結界外の部分にも、かなりのスペースが設けられているように見える。



 お店の看板は『配給所』と書かれており、やる気のなさそうな獣人が入り口に座っていた。

 多分、さっきの獣人が言っていた『配給券』を渡すと中に入れるのだろう。

 更に『配給券300グルドで売り〼』と書かれているので、券の販売もしているようだ。



 リリフとセリーは受付の獣人に見つからないように恐る恐る、窓から中を覗いてみる。



 部屋の中は広く、結界内は一段高い造りになっており、リリフ達のいる結界外からは舞台の上のように見えた。

 その舞台の上には普通にレストランが作られており、明らかに身分が高いと思われる人達が食事をしている。

 壁際には警備の者と思われるガタイの良い人獣や人間種が多数、睨みを利かせていた。



 そして結界外の部分・・・そこは他のお店同様に地面があるだけだったが、広さが50メートルプールくらいの大きさがあった。

 そして大きく違うのが人・・・人、人、人・・・とにかく人獣、半獣、獣人がひしめいておりギュウギュウになって座っている。数人ほど人間種もいるようだった。



 勘違いしないで頂きたい。



 50メートルプール程の広さ全てに人が密集している訳ではない。結界内の食堂がある舞台、そこに向かって前列10メートルくらいの所に密集しているのだ。

 そして異様なのが全員黙って座り込んでいるだけ・・・しかしその視線は全員レストランで食事をしている者達に注がれていた。



「やれやれ、食い飽きたな・・・」

 レストランで食事をしていた年配の男が口をナプキンで拭きながら一言。



「そらっ!メシだぞ!」

 そう言うと男は皿ごと結界外にいる群衆へと放り投げる。




 グオオオオオオオオオオオォォォォォ!!




 地鳴りとも思われる声がして、亜人種達は一気に皿めがけて突進する。



 池で群がる魚にエサをあげるように・・・

 腹ペコのワニの池に肉塊を投げ入れるように・・・



 亜人種達は、投げ込まれた男の食べ残しを、必死の形相で食らいつく。

 皿についた僅かなソースさえ、フォークについた僅かな肉片さえ、彼らに取ってはご馳走だ。

 文字通り、奪い合う光景が繰り広げられている。



「ぎゃはっはっは!醜いのぉ、醜いのぉ。ひっひっっひ。ほらっ、お代わりだっ!」

 男はデザートのモンブランに付いていた飾りの栗の外皮、トゲトゲの部分を投げ入れる。



 当然中身もなく、食べるところなど無い。

 しかしこれにも、もの凄い勢いで奪い合う亜人種達。

 手や口が血だらけになっても、お構いなしに腹の中に入れる。



 ほとんどの者が完全に目が血走っており、周りなど見えていないようだった。

 彼ら、彼女達にとって、今は正に生きるか死ぬかの瀬戸際なのだろう。



 男と一緒に食事をしていたキャバ嬢のような女は

「やっだぁ~。目が血走っててキモ~ィ」



 そう言うとパンを床に落とし、グリグリと足で踏みつける。

 土や埃が混ざり合い、灰色になったパンくずをつかみ取り、投げ入れた。



「きゃはっはっはは!見てぇ見てぇ!パパ!まるでゴキブリよっ!ウケル~!」

「がっはっっはっは!そうじゃろ、そうじゃろ!がっはっっはっは!」



 女は更にモグモグと食材を頬張ると、ゲェ~っと吐き出す。

 そのグチャグチャになった物を皿ごと投げ入れた。




「きゃはっは!パパァ!見て見てぇ!汚~い!吐き出した物を食べてるわぁ!キモ~ィ」




 その時、大爆笑している2人のテーブルめがけて突進してくる人獣が1人いた。

 人獣なので結界を通れるその者は、一段高い舞台を一気に駆け上りテーブルに置いてあるパンに食らいつく。



「きゃああ!」

 女が悲鳴を上げると同時に、壁際で睨みを利かせていた警備が容赦なく槍を突き刺す。

 人獣は一撃で命を落とした。



「舞台に上がった者は即死刑、例外は無い」

 警備は人獣を足で転がしながら冷徹に吐き捨てると

「おい、村の外に捨てておけ。直ぐにモンスターが食べるだろうよ」

「はっ!」



 リリフとセリーは一言も発しないで、この光景を只見ているだけだった。

 正確には動けなかった。

 頭がマヒしているような、目の前で起っている現実を直視できていないような、そんな感覚が身体中を支配していた。



 そんな中、ザワザワと食堂がざわめき出す。



 見ると奥からノッシノッシと恰幅の良い男が、お供を多数連れだって歩いてくる。

 大爆笑していた2人もその男を確認すると、ササッと身を引き食堂から立ち去っていった。



 服装からして明らかにお貴族様って感じのこの男は、ジャラジャラと宝石を身体中のあらゆる箇所に、これでもかという感じで身につけている。

 その男の出現に色めき立つ結界外の亜人種達。



 警備隊長と思われる、先程侵入者を一撃で葬った男が大声で話し出す。




「大貴族マンハッタン様の配給の時間だっ!全員伏せっ!」

 ババッとその場にいた全員が犬のように伏せをする。




「ちんちん!」

 ババッ



「ワンッと鳴け!」

「ワンッワンッワンッワンッワンッ!」



 あっという間にこの部屋が、多頭飼いで崩壊し、増えすぎた犬がはびこる家の中のように鳴き声で埋め尽くされる。



「伏せっ!」

 再び全員が地面に伏せる。



 その光景を見て大貴族と呼ばれた男はニンマリと満足そうに頷く。



「ぐわっはっはっは!犬どもっ!今日もお行儀良くしていたかの?」

「1名殺処分にしましたっ!」

「なにぃ?それはお仕置きしなければならないのぉ」



 ニヤァッと不気味な笑顔を見せた大貴族マンハッタンは

「配給を持てっ!」

「はっ!」

 部下達が給食センターで使われているような大きな寸胴をマンハッタンのもとまで運んでくる。



「ほれ?これが欲しいか?んん?欲しいならワンッと鳴けっ!」



 ワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッワンッ!!




「よーしよし。それじゃあ今からワシが止めろと言うまで全員で殴り合え!女子供にも容赦するなっ!始めろ!」




 一瞬だけ間があったが、直ぐにこの部屋は大乱闘の現場と化した。



 目に入る者全てを殴り、殴られる。

 女も子供も容赦なく殴られ、蹴り飛ばされて、意識を失う者、壁に叩きつけられうずくまる者など、ありとあらゆる場所から悲鳴が上がり、鮮血が吹き飛ぶ。



「よしっ。止め!」

 マンハッタンが指示を出した頃には3分の2程の亜人種達がうずくまり、苦痛の声を上げている。



 腕が明らかに変な方向に曲がっている者、血だらけの者、気絶している者、恐らく死んでいる者もいるだろう。

 立っている者も無傷の者など誰もいない。

 全員がハアハアっと肩で息をして痛さを堪えている。



「ひっひっひ。よーしよし。良い子じゃ良い子じゃ。ほらっご褒美じゃぞぉ!」



 マンハッタンは寸胴に大きなお玉を入れ、山盛りになった具材を亜人種達に撒き散らす。亜人種達は、 まるでお猿さんのように床に散らばった食材を1つ1つ拾い、口に運ぶ。



 しかし痛さのあまり動けない者などは食べることが出来ない。

 部屋の隅で恐怖で動けないでいる子供達も同じだ。



「ぐひっひっひ。哀れ、哀れじゃのぉ。ひっひっひ」

 マンハッタンは頬を紅潮させながら配給を投げ入れる。



「そうじゃ。面白い事思いついたぞ」

 マンハッタンは寸胴の横に椅子を持ってきて、その上に乗る。

 そして・・・寸胴の中に放尿した。



「ぎゃはっはっは!嬉しいじゃろ?ワシの尿じゃぞ?ほれ?鳴いてみろ!」

「ワンッワンッワンッワンッワンッワンッ!」



 マンハッタンは大爆笑しながら尿入りの具材を投げ入れる。

 必死に奪い合う亜人達。



 そんな汚い物を食べるなんてプライドは無いの?



 この先もずっとそういう生活を続けるの?



 そんな思想は生きていく為には何の役にも立たない。



 健康、尊厳、将来・・・



 そんな事を考えるのは、未来がある者がすればいい。

 ここにいる亜人達は、今日を生き抜くためだけに、投げつけられた物を必死に口に運ぶのだった。



「うん?」

 ふとマンハッタンの手が止まる。



 見ると1人、小さな女の子が床に転がっている食材を集めると、その場から動けない者、隅で怖がっている子供達のもとに食材を運び与えていた。



「すまねえ・・・」

「ありがとぉ、ぶるにおねえちゃん」

「ううん・・・気にしないでっ・・・」

 笑顔でセッセと食材を分け与えている。




「そこの女ぁ!!待てぇ!!!」




 マンハッタンの怒号が響き渡る。



 全員の動きがピタリと止まりマンハッタンを凝視する。誰に言っているのかが分からないからだ。


 当の本人も、最初は自分の事だとは分かっていなかったらしく、マンハッタンが自分を刺しているのに気付き

「・・え?・・わ・・・たし?・・」



「お前だ!おまえー!今なにをしたあ!」

「は、はいっ!動けない者に食材を運んでいました!」

 女の子は姿勢を正し、直立しながら叫ぶ。



「なにを勝手な事をしている!食材を運ぶなあ!」

「え・・でも・・それだとみんな食べられません・・・」

「口答えする気かあ!」



 マンハッタンは手に持ったお玉を女の子に投げつける。

 ガツッとお玉は女の子の額に命中し、血がダラダラと流れ出す。




「ワシは弱者がなにも出来ずに絶望の表情を浮かべるのを見るのが好きなんじゃあ!ワシの楽しみを奪いおって!!」




 マンハッタンは怒りが収まらず、テーブルに置いてあった皿やフォーク、ナイフなどを投げつける。

 しかし女の子に直撃したと思われたマンハッタンの攻撃は、女の子を(かば)いに入った男の子の背中に命中する。

 男の子は血だらけになりながら土下座して許しを乞う。



「お許しください!マンハッタン様っ!申し訳ございません!キツく叱っておきますので!何卒!何卒!」




「駄目じゃあ!邪魔するなあぁぁ!!」




 マンハッタンは更に怒りが増し、今度はテーブルを投げつけようとしている。



「やめなさいっ!これ以上は許さないわっ!」

 入り口からリリフが声をあげる。



「な、なんじゃあ!?お前は誰だあ!?」

「私は・・・」



「リューイ!ブルニ!テメェらマンハッタン様に何しやがった!?」




 リリフの言葉を遮り出てきたのは、かなり大型の獣人。

 獣人は女の子と男の子を思いっきり蹴り飛ばした。

 2人共壁に叩きつけられ、あまりの痛さに呻き声を上げる。



「リューイ!ブルニ!テメェらマンハッタン様に粗相(そそう)するとはどういうつもりだっ!?お前らはクビだ!今すぐ村から出て行けっ!!」



 未だ苦痛でもがいている2人の首根っこを掴むと、強引に引きずり建物から投げ飛ばす。



 そしてクルッとマンハッタンに向き直り

「マンハッタン様っ、誠に申し訳ございません!私の管理不足です!このゴミは処分するので何卒今回だけはお見逃しを!」

 深々と頭を下げる獣人。



「ふんっ・・・まぁ、元締めのグリニーの顔に免じてあの2人だけは見逃してやろう」

 マンハッタンは持ち上げたテーブルを床に置き



「じゃがっ!お前は別じゃ!お前は誰じゃ!?田舎から出てきた冒険者丸出しの格好をしおってからに!」

 リリフを指差しながら睨みつける。



「なっ・・・私はっ!・・・」



「いやいやいやぁ~!ま・さ・か・のご高明なマンハッタン様であらせられるとわぁ!光栄の至りでございますっ!」



 キッと睨み返しながら、反論しようとしたリリフの言葉を遮り、出てきたのはミール。

 いつの間に着替えたのか、商人風の服装をして舞台の下でひざまずいている。



 マンハッタンは入れ替わり立ち替わり登場人物が変わり、少し勢いが削がれた感がある。



「こ、今度はなにやつじゃ?お前は誰じゃ?」



「あっしはミールって言うケチな商人でさぁ。ここガタリヤで商売をしようと本日キーンからやってきやした。マンハッタン様のご高明な噂はキーンにも轟いているで~ございますぅ。是非是非マンハッタン様のご贔屓(ひいき)をこのケチな自分にくれませんかねぇ。今回はぁお近づきの印にこ~ちらをお納め下さいませぇ」



 ミールはお辞儀をしたまま両手だけを上にあげ、手に持った小さな箱を警備隊長に渡す。

 警備隊長は怪訝な顔をしながら中身を確認すると、少し驚いた表情に変わりマンハッタンにそれを渡した。

 マンハッタンもそーっと小箱を開け中身を確認すると、小箱の中には大きな大きな巨大な赤い宝石が入っていた。



 見事な光沢、カットもデザインも透明度も素晴らしい。



 マンハッタンは宝石好きということもあり、様々な宝石に触れてきた。

 そのマンハッタンが思わず感嘆の声を上げる程、その宝石はとても希少価値が高く高価な品であった。



「こ、こここれをワシにくれるのか?!」

「はいぃっ!もちろんで~ございっ!マンハッタン様!」




「おおおっ!これは素晴らしい出来だ!長年様々な宝石を見てきたが、ここまで鮮やかな宝石は見たことないっ!これは凄いぞっ!」




「お気に召して下さり光栄で~ありやす。もし、今後もご贔屓とあれば、更にこれ以上~の宝石をご用意させて頂きやす」



「な、なんと!?これ以上か!?」



「はぁいっマンハッタン様。ただし、知らずとは言え、あっしの身内が粗相をしてしまいやした。キツ~く叱っておきやすのでど~うかお許しを頂けないでしょ~か?」



 そう言うとリリフをジイっと見つめる。その目は猛烈に『謝れ!!』と言っていた。



「マンハッタン様とはつゆ知らず、大変申し訳ございませんでした!」

 リリフは頭を下げる。



「うむうむ。良かろう。許してやるぞ!」

「おおっ!なんと寛大な・・・このお礼は後日必ずお持ちさせて~頂きやすっ!」

「うむうむ!楽しみにしておるぞっ!がっはっはっ!」

 マンハッタンはご機嫌に笑いながら配給所を後にする。



 立ち去ったのを確認した警備隊長は、寸胴の中に余っている食材を一気に舞台下にドボドボっと落としてその場を後にする。


 舞台下は一気に亜人種達で溢れかえったのであった。





 ミールは無言で、リリフとセリーの手を引き、スラム街から出ていく。


 スラム街から出ても、しばらく引っ張って行ったが「ふうっ」とため息を付いて立ち止まり、商人風の服を脱ぎマジックポケットに入れる。



「あ、あの・・・ごめんなさい・・・」

「なにがだ?リリフ」

「え?あの・・・」


「反射的に謝るのは良くない。リリフの長所はしっかりと反省できる所だが、逆に短所でもある。理由も分からずに謝り過ぎるのは良くないよ」


「う、うん・・・ごめ・・・なんでもない」


「セリーはなにかあるかい?」


「リリフ。あそこは声を上げてはいけませんでしたわ・・・」

「えっ?!だって・・・あのままだったら死んでいたよ、あの子」


「そうです。恐らく死んでいたでしょう。ですが、もしミール様がお助けに入らなければリリフはどうなっていましたか?」

「う、うん・・・」


「貴族に逆らうとどうなるか・・・それは言わなくても分かりますわよね?しかも今回はこういった通常の法の支配が機能していない地域です。あの場で即殺される可能性だって十分にあるのです。もしそうなったらリリフはどうするつもりだったのですか?」

「そ、それは・・・」


「わたくし、今からもの凄い嫌な女になりますわ。いいですか?リリフ。貴方がここで死んだら貴方の為に尽力して下さったミール様になんとお詫びするのですか?グワンバラ様には?ルクリアには?残されたわたくしはどうなるのですか?一緒に巻き添えで殺されますわよ、きっと。あの見ず知らずの女の子の為にその命を落とすのですか?いいですか、リリフ。貴方のしたことはとても凄い事です。きっと見ず知らずの女の子が川で溺れていたらリリフは躊躇なく助けに飛び込むのでしょう。それはとても勇気のある行動で素晴らしいのです。でも、でも、これから困っている人がいたら全て助けに入るのですか?このスラム街のような場所は世界中至る所にあるようです。全てを救うのですか?」

「・・・」


「もうリリフの命は貴方1人のものでは無いのです。これからPTメンバーを増やすとなったら尚更です。貴方の行動で全員が危険な目に遭うのです。リリフ。あの貴族、マンハッタンを知っていますか?」

「え?貴族なんて知らないわ・・・逆にセリーは知っているの?」


「昨日の食堂でのお話は覚えていますか?誰が嫌がらせの糸を引いているというお話だったでしょうか?」


「えっと・・・確か・・・マントヒヒだったっけ?そんな名前」


「マンハッタンですわ。リリフ」

「えっ?!もしかしてさっきの貴族が嫌がらせの張本人って事?!」


「そうですわ。恐らくマンハッタンの耳にもゴブリン化の女として名前くらい聞いている可能性があります。もしあのままリリフが名乗っていたら・・・どうなっていたでしょう?近寄られてステータスを見られていたらどうなっていたでしょう?酷い嫌がらせを平気で行う連中です。リリフを捕まえてグワンバラ様達を苦しめる道具とする事など容易でしょう。本当に危ない所だったのですよ?リリフ。マンハッタンのような権力を振りかざす正義無き力に対抗するのは、今のリリフのような力無き正義ではありません。力ある正義です。今のわたくし達では実力が無さ過ぎですわ。もっと強くなりましょう、権力に屈する必要が無いほどに・・・」



 長い長い沈黙の後、ようやくリリフが声を絞り出す。



「えっぐっ、えっぐっ。わ、わたしぃ、全然考えてなかった・・・ただ、あの子を助けたいって・・・えっぐっ。みんなを危険な目に遭わせる所だった・・・ごめんなさい・・・ごめんなさあああいい!!わああんんんっ!」



 号泣するリリフをギュッと抱きしめながら

「リリフ、貴方は偉いですわ。立派ですわよっ。つらい選択をさせる事になってしまいごめんなさい。命の選別をさせる事になってしまいごめんなさい。きっとリリフには似合わないわね。でも、でもわたくしはやっぱりリリフには生きていて欲しい。大好きですわよ、リリフ」


「ぐっしゅっ。わたしもぉだいしゅきだよぉ、せりぃ・・・」

「強くなりましょう・・・沢山の人達を救えるように・・・」

「うん・・・なりゅ・・・」



 リリフとセリーはお互いの頭を撫でながらワンワンと泣く。

 ミールは2人が泣き止むまで黙って見守っていた。



 しばらくして・・・



「ご、ごめんなさい。ミール。すっかり待たせちゃった」

 目を腫らしながら照れくさそうに笑顔を浮かべるリリフ。



「いいさ、俺が言いたかった事は全部セリーが言ってくれたからな。これからは助け合いながら話し合いながら行動してくれる事を期待するよ。リリフ、お前の考えは間違ってない。間違っているのはこの世界なんだ。助けに入る事は簡単だ。ある程度経験を積めば助けられる命も増えるだろう。しかし根本的な部分を変えないかぎり、助けた相手はまた同じ目に遇うかもしれない。1度助けてハイ終わりじゃ駄目なんだ。これから目の前で沢山の人が無残に殺されるのをお前達は見るだろう。つらく、悲しい思いをするだろう。もしかしたら自分の無力さに悲観し、自分自身を否定したりする事もあるかもしれない。そんな時は思い出してくれ。今日の事を。仲間たちの事を。俺も期待しているよ、お前達の成長にね」


「うんっ。えへへ」

「さて、かなり時間がかかっちゃったが、引き続き一周するとしますか。リリフ、セリー。しつこいけど、フィールドでは・・・」



「油断するな!よねっ!」

「油断するな!ですわっ!」



 2人はハモりながら元気にミールの言葉を遮る。



「よし、行くか」

 ミールは笑いながら足を前に進めるのであった。



     続く

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