ガタリヤ奮闘記⑪
「セリー。ルクリア。私たち絶対に負けないようにしようね・・・」
「ですわね・・・」
「・・・うん・・・」
グワンバラの背中を見ながら呟くように言う三人であった。
⇨ガタリヤ奮闘記⑪
翌日もリリフ達は、南門周辺で結界沿いを歩きながらスライムを刈り続ける。
まずはセリーが魔法を覚えないと動きようがないからだ。
「えいっ!ああん」
「やあっ!あ~ダメだぁ」
リリフは昨日覚えた『切り上げ』のスキルを絶賛練習中だ。
「中々上手く行かないなぁ・・・どうしても攻撃するタイミングと、魔力を込めるのが合わないわぁ」
「・・・・焦らず地道にだぞ!・・リリフ!・・・・・」
遠くから、リリフを励ますミールの声が微かに聞こえる。
もちろん遠くにいるのは怖いからだっ!
それから5匹ほど倒した所でセリーが光り輝いた。
「来ましたわっ!遂に!」
「やったわね、セリー。早速確認しに行きましょ。どうせ私1人だと、この地帯を動けないし」
「わかりましたわっ!参りましょう!」
意気込んでギルドに確認に行くセリー。
「・・・ミール様・・・『記憶力強化小』とは?・・・」
「そのままの意味ですね・・・」
「うにょぉぉおおぉおおおぉおぉ!」
セリーの苦悩に満ちた声がギルド内に響き渡る。
「セリー、くよくよしてる時間なんてないわよっ。さあっ!もう一度行くよっ」
「は、はいですわぁ!」
再度南門でスライム狩り。
約1時間後にまたセリーが光る。
「こ、今度はわたくしだけで大丈夫ですわっ。ここで待っていて下さいましっ」
そういうとセリーはダッシュでギルドに向かう。
そして思いの外、短時間で帰ってくる。
「・・・『常時みかわし率アップ小』・・・」
更に1時間後
「・・・『食事時魔力回復小』・・・」
更に1時間後
「・・・『魔力消費量削減小』・・・」
「・・・・」
流石にリリフもかける言葉が無くなってしまった。
実は先程、初めて1人分の初心者応援クエストを達成したのだったが、セリーがズーンと落ち込んでいるので喜べないでいる。
「うーん。なんでだろうなぁ。俺も攻撃魔法は使えないからアドバイスが難しいなぁ」
「ううう・・・・わたくし一生魔法を使えない魔法士なのですわ、きっと」
「いやいや、多分ちょっとした事だと思うんだけどね。魔法はさ、イメージ力と集中力が凄く重要なんだよ。集中力が強ければ強いほど強力な魔法を行使出来るんだ。まず一旦落ち着いて頭の中空っぽにしてみなよ。それから少しずつイメージ力、集中力を高めていこう。一旦スキルの事も忘れて焦らずにね」
「ねえねえっミール。私も全然追加でスキルが獲得出来ないんだけど・・・なんでかな?」
「リリフの場合は普通だと思うよ?みんなそんなもんだよ。まずは焦らずに切り上げの練習をしてれば遅かれ早かれ追加でスキルが手に入るはずさ。あとは出来るだけ沢山の種類のモンスターと戦う事。同じモンスターばかりだと、どうしても得られる経験は少ないからね。ただ・・・1つ言えるのは前衛をやるには体力が無さ過ぎかな?もう少し体力を付けないと強い敵は倒せないぞ」
「そ、そっかっ。そうだよねっ・・・」
「あとは、フットワークや素振りとかも効果的だよ。地味だから皆んなほとんどやってないけどね」
「フットワーク??」
「ああ。ホント基礎中の基礎って感じで、学校とかで冒険者の心得を学ぶ時に誰しもが覚える動きだね。単純な動きの繰り返しだから軽視しちゃう人が多いけど、俺は結構大切な事だと思ってるよ」
「へー」
「あ、すまん。通話が入った」
ミールはしばらく誰かと会話する。
「すまん。ギルドから、なんか緊急の要件があるみたい。ちょっと行ってくるわ。リリフっ!絶対にスライム以外のモンスターと戦うなよ。あと、直ぐに結界に逃げれる場所で戦う事。いいな?」
「は、はいっ!」
「それじゃあ行ってくる」
ミールがギルドに向かい残された2人。
「私ちょっと結界内を走ってくるわっ。ミールに言われた通り、ちょっとでも体力つけなきゃだしっ」
「わかりましたわっ。わたくしはここでイメージトレーニングでもする事に致します」
「OK!それじゃあ後で!」
リリフは結界内を走り出す。
南門でも一辺が4キロ程の長さがある。走り込むには十分な広さがあった。
残されたセリーは、少しふて腐れた表情でゴロンと草原にうつ伏せになる。
草と土の匂いが鼻を包んだ。
「はあぁ~。なにをどうイメージすれば良いのか全く分かりませんわぁ・・・」
セリーは口をとんがらせながら立て肘をついて顔を支える。
目の前には黄色い花がゆらゆらと風に揺れており、その周りを蝶々がヒラヒラと飛んでいる。
お昼が過ぎて15時くらい、日差しも柔らかくなっておりポカポカと過ごしやすい陽気だ。
口に草を咥え、上下に動かしながら時間を潰すセリー。
ふと目の前を通る足が視界に入ってくる。
セリーがうつ伏せになっている場所は、南門から伸びる街道沿いなので冒険者だったり商人だったりが偶にすれ違う。
セリーは面倒くさそうに目だけくいっと上に向けた。
「!」
その視界に入ってきたのは冒険者5人PT。
そしてその中の1人が明らかに『私魔法使いですっ』という格好をしていたのだっ!
セリーはガバッと起き上がり猪突猛進、魔法使いの女の子に後ろから抱きつく。
「きゃあっ!」
「な、なんですか??」
「おのれっ何やつ!」
「離れろっ!」
まだ結界内だった事もあり完全に油断していた冒険者達は、突然の行動に一瞬虚を突かれるが直ぐに臨戦態勢に入る。
以前にも少し説明をさせて頂いたが、この世界で一番警戒しなければならないのは人間達なのだ。
モンスターに全滅させられるPTとほぼ同数の冒険者達が、毎年人間達によって全滅させられていたりする。
略奪、強盗、レイプ、などなどが一部の冒険者によって頻繁に起っているのが現状だ。
もしフィールドで見知らぬ冒険者に出会った場合は、一定の距離を保ったまま挨拶をする程度、とにかく警戒心マックスで対応する。
相手が少しでも不審な動きをした場合は、正当防衛で即斬り殺されてもおかしくないのだ。
なので今回のセリーの行動は非常にマズイ。
実際、戦士風の冒険者が剣を抜き、今にも斬りかかろうとしている。
しかし、その殺意はセリーの第一声を聞いた途端、何処かに消えてしまった。
「だじゅけでくだちゃああいいいい!魔法使いしゃまああああああっ!」
セリーは女魔法使いの腰の辺りに抱きつき、ひざまずきながら大粒の涙を流し懇願する。
「ええっ??な、なに?なんなのっ?!」
「わ、わだぢはぁ、まほうちなのにぃ!まほーがちゅかえにゃいんでしゅぅぅ―!えっぐっ。じゅっと、じゅっとがんばっでるのにぃ!ひっくっ。どーでもいいしゅきりゅはふえりゅのにぃ!まほーのしゅきりゅだけぇいちゅまでも、えっぐっ。かくとくでぎないんでちゅー!」
大粒の涙と大量の鼻水を女魔法使いの服に擦り付けながら、必死に懇願するセリー。
「お、お前っ!」
咎めようとした戦士風の男をスッと手で制して
「よちよち。大変だったねぇ。良い子良い子」
女魔法使いはセリーの頭を撫でる。
「ぐしゅっ。ひっくっ。えっぐっ」
究極まで追い込まれたせいか、完全にキャラ崩壊しているセリー。
しかし女魔法使いは当然普段のセリーを知らないので、こういう人なんだろうと思ったのか同じように赤ちゃん言葉で語りかける。どうやらかなり優しい人柄らしい。
「それでぇ?どうちたいのかなぁ?」
「あのねっ、えっぐっ。あのねっ、まほーをみてみたいにょ。まほーみせてっ」
「まほ~かぁ。いいわっ。みせてあげるっ」
「わあ~い。わぁ~い」
「でも!と・く・べ・つ・だぞぉぉ!」
「うんっ!ありがおっ!おねぇ~たんっ!」
セリーは女魔法使いに抱きつきながらニカァっと笑顔を見せる。
抱きついている方がデカく、抱きつかれている方が小さいので奇妙な感じだ。
女魔法使いは仲間達に
「ごめん。ちょっと待ってもらえるかしら」
そう言うとセリーの頭を優しく撫でる。
仲間の冒険者達はセリーが悪意を持っていないこと、ステータスや装備を見ると完全な初心者だということがわかったのか、ひょいっと首をすくめて後ろに下がった。
「それじゃあ、お嬢ちゃん。あそこの岩にぶつける感じで良いかしら?」
「うんっ。わかったおっ!」
セリーは思いっきり頷くが、女魔法使いからは離れようとはしない。
無理に引き剥がすとまた泣かれそうだと思ったのか
「いい?動いたら危ないからねっ。しっかりお姉ちゃんにくっついてるのよ?」
「うんっ!がんばえっ!おねえたんっ!」
女魔法使いは杖を構え、魔力を込める。
目標は結界外にある大きな岩。
距離は15メートルほど、岩の大きさは軽自動車くらいはありそうだ。
女魔法使いの身体から魔力の流れを感じた。
セリーはギュッと抱きつきながらその感覚を共有している。
「ブルデュフッ!(火の玉)」
女魔法使いから力ある言葉が放たれる。
すると杖からボォウッっと回転する火球が現れ岩めがけて突き進んだ。
ボォォォンンォォ!!
岩に激突した火の玉はそのまま纏わりつき、渦巻き状に急速に回転している。
『あら?今日私調子良いのかな?』
思わず魔法使いの女は頭の中で呟いた。
女魔法使いの放った火球は想像よりもパワフルに回転していたからだ。
やがて徐々に火の渦巻きは小さくなり、シュウゥゥっと白い煙を残しながら消えていった。
周りの草花には一切損害を出さずに、岩のみに火力を当てている。
かなり腕の良い魔法使いのようだ。
更に言うと、多くの者はこういった展開では自分の力を誇示したがる。
この魔法使いの腕であれば火柱は確実に使えたはず。
しかしこの魔法使いは敢えて火の玉を使った。
それはセリーを気遣っての事。
どうやら相手の気持ちも汲み取る事ができる優しい人物のようだ。
火の玉の直撃を食らった岩は、溶岩のように中心部にかけて、赤から黄色のグラデーションをみせていたが、空気に触れて表面が冷やされると、真っ黒な岩の塊へと変化していく。
しかし中心部は、まだグツグツと熱い状態だろうと容易に推測できるほど、岩からの熱気が15メートル離れたこの場所にまで届いていた。
「ふわぁぁぁ・・・」
「うふふ。どう?満足できた?」
女魔法使いはヨシヨシと頭を撫でると、ちょうどセリーの身体が光り輝く。
「あら?新しいスキルを獲得出来たみたいねっ。おめでとぉ」
ニッコリ笑う女魔法使いの細い腰をぐっと掴み、そのまま持ち上げるセリー。
「びえええっ??」
びっくりする女魔法使いに
「わかりましたわっ!わたくし完全に分かりましたのっ!イメージバッチリですわっ!ありがとうございます!ありがとうございます!」
クルクルとその場で回転しながら喜びを表現するセリー。
「ちょっ・・・えっ?・・・あなた・・・えぇ??」
女魔法使いはセリーの変貌に混乱しているようだ。
セリーは動揺している女魔法使いにお構いなしで、今度はガバッと抱きしめる。
「ああ・・・これが魔力なのですねっ。これが魔力を発動するということなのですねっ。ずっとイメージが出来てなかったのですが、今完全に分かりましたわっ。ありがとうございますですわっ、師匠」
「え・・・し、師匠ぉ?」
「はいっ!わたくしの恩人ですわっ!是非師匠と呼ばせて下さいっ!」
「あははは・・・と、とりあえずお役にたてて良かったわっ」
「あのっ!師匠!是非わたくしの最初の魔法を見守って頂けませんか?!なんだか出来そうな気がするのですっ!」
「うんうん。わかったわ。頑張って」
「はいっ!」
セリーは女魔法使いを解放すると、杖を構え深呼吸、心を落ち着かせる。
狙いは同じく大きな岩だ。
「いい?大切なのは集中力よ。冷静になってイメージするの。頭の中に火の玉を。そしてそこに魔力を込めるっ。ギュッとねっ!」
「はいっ!師匠!」
セリーは目を閉じ、すぼめた口からゆっくりと息を吸い込む。
パッと目を見開き一声
「ブルデュフッ!(火の玉)」
ポワワンッっと野球ボールくらいの火の玉が回転しながら出現した。
「あら?・・・」
女魔法使いは思わず小さく呟く。
火の玉の周りに、小さな小さな赤い粒子のような光が幾つも出現して、火球に併せて回転していたからだ。
火の玉は、そのまま岩に向かって1直線、ボウンッっ音を立ててはじけ飛んだ。
シュゥゥ~っと岩の一部から白い煙が上がっている。
大きさも女魔法使いの火球とは比べようがない程小さいが、確かに火の玉の魔法は発動したようだ。
「やりましたわぁぁ!!!やりましたああっ!!師匠ぉぉ!嬉しいですわあああ!」
ぴょんっぴょんっと飛び跳ねて喜ぶセリー。
胸が凄く揺れている。
ずっと抱きつかれていたので、セリーの爆乳に気づかなかった女魔法使い一行。
男共は鼻の下を伸ばしており、女魔法使いも自分の胸に手をあてて一瞬敗北感を感じるが、直ぐに気を取り直す。
「お、おめでとう。やったわねっ」
「はいい。ありがとうございますぅ。師匠のお陰ですわぁぁ。びええええん!」
またまた抱きつかれる女魔法使い。
「あはは・・・よしよし。そういえばあなた・・・もしかしたら精霊の加護があるのかもしれないわね」
「えっ?!なんですか??それはっ?!」
「私もさっき気付いたのだけれども、あなたの火の玉の周りに小さな粒子の輝きが見えたのよ。あれは多分『微精霊』だと思うんだよねぇ」
「そ、そうなのですかっ?!それはどういう効果があるのでしょうかっ?!」
「単純に魔法の威力が上がるのはもちろんだけど、周りにいる人の魔法も強化されるみたいねっ。実際にさっき私が使った火の玉は普段の魔法よりも威力が上がっていたわ。あなたのスキルにそういった記述があるのかしら?」
「い、いえ・・・特に特別なスキルは確認出来てないですわ・・・」
「そーなんだぁ。私もよく知らないからなぁ。ごめんね。アドバイスなにも出来なくて」
「そ、そんなことありませんわっ!むしろ大感謝ですわっ!師匠!」
「うふふ。ありがと。何回も使っていくと火の玉も強化されてくるはずよ。頑張ってね」
「はいっ!」
「じゃあ私たちはそろそろ行くね。貴方は1人・・・じゃないわよね?流石に」
「あ、はいっ!今仲間は別の所でトレーニング中ですわっ!」
「そうなんだ。拠点はガタリヤ?」
「はいっ!そうです!」
「それじゃあまた会えるかもね。お互いに頑張りましょ」
「はいっ!ありがとうございましたっ!師匠!このご恩は一生忘れませんわっ!」
「うふふ。またねー」
そういいながら旅立っていく女魔法使い一行。
(お待たせっ、さあ行きましょ、ゼノ)
(はいいっ)
セリーは姿が見えなくなるまで深々とお辞儀をするのだった。
やがてリリフとミールが、ほぼ同時に帰ってくる。
「はあっはあっはあっ。あ、ミールっ。はあっはあっ。お、お帰りなさい」
「よお、リリフ。なんだ、走ってたのか?」
「うん。はあっはあっ。少しでも体力付けたくて・・・はあっはあっ。結構南門走るだけで良いトレーニングになるわねっ」
「そうだな。偉いぞリリフ。よしよしっ」
「えへへ」
頭を撫でられて幸せそうなリリフ。
そこにセリーが突っ込んでくる。
「やりましたああっ!!やりましたわっ!ミール様っ!リリフ!わたくし遂に魔法を覚えましたわぁ!」
「おおっ!本当か?!やったじゃないかっ!」
「すっごーいっ!おめでとおっ!見せて見せてっ!」
「ふふん。いいでしょうっ。ご覧になってくださいっ!」
セリーは得意げに杖を構えると、大きく息を吸い込み力ある言葉を放つ
「ブルデュフッ!(火の玉)」
先程と同じようにポワワンッっと野球ボールくらいの火の玉が出現して、岩めがけて直進しボウウンッと岩に衝突、直撃した場所はプスプスと焦げて白い煙を出している。
「きゃあー!すっごーいっ!かっこいいー!」
「でしょ?でしょ?嬉しいですわぁぁ!」
リリフとセリーはお互いの手を握り合い、ぴょんっぴょんっ飛び跳ねる。
「セリー・・・お前、もしかしたら精霊の祝福があるのかもな・・・」
「!・・・やっぱりミール様もお気づきになったのですねっ?!わたくしの師匠にも言われましたわっ!」
「え?・・・ししょう?・・・」
「はいっ!実は・・・」
セリーは先程の出来事をミール達に話す。
「なるほどな、優しい人に出会えて良かったな。名前はなんて言うんだ?」
「あ・・・そういえば・・・名前聞いておりませんでしたわっ・・・」
「えぇ!?ステータスも見なかったのぉ?」
「はい・・・完全にいっぱいいっぱいだったのと、その後は浮かれてしまいまして・・・」
「まあ、いいさ。その話ぶりじゃあ又会えそうだしな。その時は紹介してくれよ」
「もちろんですわっ!」
「じゃあ念のため、ギルドにスキル確認しに行くか。もしかしたら微精霊の記述があるかもしれないしな」
「あれ?あれあれ??あっ、そっか!スキルってギルドで確認しなくても使えるんだ?!」
「ん?ああ、そうだな。基本的に身体が光った時点で、使える事は使えるぞ。ただそれが何なのか分からないから使えないだけで。さっきも言ったが、魔法に限らずスキルを使うにはイメージ力が必要なんだ。ぼやっとしてる部分にしっかりとイメージした魔力を込めると発動する事が出来る。だからリリフも『切り上げ』を獲得した時点で『これは絶対に切り上げだ!』っていうイメージが出来ていたなら使えたって事だね。皆んな分からないからギルドに確認しに行くだけで」
「なるほど!納得っ!じゃあ早速ギルドに確認しに行こー!」
「そうですわねっ。参りましょう!」
ミール達はギルドの魔石に触れて確認した。
『火の玉』=火の球体を出現させ攻撃する遠距離魔法。使う者の魔力により威力がかわる。使用し続けるとより上位の火柱を覚える事がある。
「確かに師匠の火の玉は、わたくしよりもずっと大きくて威力も強大でしたわ!」
「魔法は使う者の魔力に依存するからね。火柱よりも火の玉の方が強い場合もあるし・・・ただ微精霊の事は載ってないな」
「でもやっぱり、あのインチキ修復士の時に、セリーから炎が見えたのは気のせいじゃなかったんだぁ。きっと精霊様がお助けになって下さったのねっ」
「確かに。助けたかどうかは分からんが、セリーの魔力に反応してたのは事実だな」
「ミール様は精霊の事は、なにかご存知なのでしょうか?」
「いや、俺も詳しくは分からないな。一応使役しているクルッピも精霊系なんだけど・・・気まぐれだし」
「さようでございますか。上手く使えるようになるのでしょうか」
「ま、ここに書いてある通り、あとは練習あるのみだな。スキルが増えてくれば色々分かってくるかもしれないしな」
「はいですわっ!わたくしもいよいよリリフと一緒に戦えるのですわね。楽しみですわ」
「うんうん。楽しみだねぇ」
「明日はガタリヤを一周してみようか?場所によって出てくるモンスターも、かなり違うしね」
「わあっ!それ良いっ!行こ行こっ!」
「うぅ・・・わたくし急に緊張してきましたわっ。緑ランクのわたくし達に出来るのでしょうか?」
「あ、そだそだっ!私ミールに聞きたい事があったんだったっ!ねえねえっランクってどうやれば上がるの?私、早くミールに追いつきたいのっ!」
「確かに!わたくしも知りたいですわっ!」
「そうか。じゃあまずはランクの種類の説明だけど、最初は緑からスタートして黄色、青、赤、紫、黒、銀、金、虹って9種類あるのは知ってるな?そして肝心のランクの上げ方だけど・・・残念、リリフとセリーのような緑ランクは、3ヶ月はどんな事をしても上がらない仕組みなんだ」
「ええええっ?!?!そうなのっ??」
「ビックリですわっ」
「これにはね、ちゃんと訳があって。この仕組みが出来たのが、大体500年くらい前なんだけど・・・それより前は、結構初心者冒険者が沢山死んでいたんだよ。ほら、リリフ達もそうだったろ?やっぱり冒険者になったら、早くランクを上げたくなるもんな?だから結構実力が伴ってないのに、モンスターに挑んで、命を散らしていく人達が沢山いたのさ。いつの時代も基本的に冒険者不足だから、折角の貴重な人材を失うのは勿体ないって事で、聖女セブンが話し合ってね。今のような仕組みになったんだよ。これのお陰で、かなり初心者冒険者が無駄に死んでいくのを防げているって話だね」
「そっかぁ・・・残念っ」
「でも仕方ないですわね。その理由も納得ですわ」
「まあ、そんな感じで、どんなに凄くても3ヶ月はそのままだから・・・逆に言うと緑ランクの冒険者って、能力に幅があって、結構初心者だってバカに出来ないんだよ。中には生まれ持った才能っていうのかな?最初から、とんでもなく強いバケモノのような猛者もいるからね。だから一般的に最もバカにされるのは黄色ランクって寸法さ。何時までも黄色ランクって事はゴブリンも倒せてないって事だからね」
「へえぇぇっ」
「それでリリフとセリーが無事3ヶ月経ったら、自動的に黄色ランクに上がる仕組みだね。それからは自分達次第。まずはギルドでランク昇格クエストを受注する。これをするとギルドから特別な追跡魔法がかけられて、対象のモンスターを本当に倒したかどうかが、ギルドで把握する事が出来るんだよ。青色ランクの昇格条件は、『ゴブリンを個人で討伐』する事。討伐出来たらギルドに報告に行くと、晴れて青ランクに昇格っ!って感じかな。だからピコルも言っていたが、初心者応援クエストを受注するのは今のうちだぞ。緑ランクの人しか受注出来ないからね、あれは」
「そっかぁ。それじゃあ、今のうちに沢山経験を積まなきゃだね。でもさ・・・昇格クエストって対象モンスターを倒せばいいだけなのかな?あの最悪なチーム・・・名前なんだっけ?・・暁のなんちゃらってとこ。あのコボルトってクズリーダーが、全部僕らが用意するから、あとはトドメを刺すだけですぅって言ってたけど、そんなんでもいいの?」
「コリンズですわ、リリフ・・」
「残念だけどその通りだね。多分奴らが言ってるのは、両腕、両足の筋肉の腱を切って、無力化してから、目の前に連れてくるって意味だと思う。そのやり方だと、確かに現状では、ランク昇格条件はクリアできてしまうんだ」
「でも全く意味がありませんわよね?何故ランクが設定され、何故昇格クエストが発注されているのかを、少しは考えて行動して欲しいですわっ」
「あははっホントホントッ。でもその追跡魔法・・・だっけ?それで自分はほとんど戦ってないってバレたりしないのかなぁ」
「うん。実はそれが結構、世界中のギルドで問題になっている行為なんだよね。詳しく言うと、昇格クエストの際に、特別な追跡魔法がギルドからかけられるって説明したと思うけど、これはモンスターの魔力の波動を感知する魔法なんだよ。モンスターの波動は、実はそれぞれ特徴があって、例えばゴブリンの波動をセットしていたら、それを感知する事によって、対象モンスターと戦ってるって証明できるって訳。そして全モンスター共通で、倒された時は、波動が四散するって特徴があるんだ。だからギルドは、追跡魔法がかけられた冒険者の魔力と、対象モンスターの波動の四散が接触したのを感知する事によって、対象モンスターにトドメを刺したのは貴方ですねって認定ができる仕組みなのさ。リリフ達も初心者応援クエストを、よく受注するだろ?30体討伐も同じ仕組みで数えているんだよ」
「ほへー」
「だが、この方法だと誰がトドメを刺したかって事しか分からないという欠点がある。つまり、波動でその者がモンスターの近くにいる事は分かるけど、実際に戦っているかってのは分からないんだ。例えばドラゴン討伐のように、強敵モンスター相手に付けられるマーカーが使う追跡魔法は登録さえすれば、誰が1番多くダメージを与えたかはもちろん、各自1人1人の与えたダメージ量なども詳しく分かるんだ。だがしかし、この波動感知型の追跡魔法はトドメを刺した事しか分からない。だからリリフが言ったように、実際にはほとんど戦いに参加してなくてもバレないんだよね」
「え〜?そうなんだぁ。てことはPT内にもの凄い猛者がいた場合は、その人におんぶに抱っこでもランクは上がっていくって事?あ、でもやっぱり『◯◯を個人で倒せ』みたいな昇格クエストが多いのかしら?」
「いや、昇格クエストで個人が指定されてるのは青ランクと赤ランクだけだね。その他の昇格クエストは全部『PTで◯◯を倒せ』になってるな。だから変な話、赤ランクに昇格さえしちゃえば、あとはリリフが言う通り、戦いは猛者に任せて、自分はボーっとしてるだけでも良いって事だね。流石に対象モンスターの波動を感知できる距離にいないとダメだから戦いに全く参加してない場合は無理だけど」
「うげぇ。そーなんだぁ」
「ガタリヤはあんまりないけど、他の街・・・特に登録冒険者の多い、聖都や準聖都には、ランク昇格代行サービスなんかもあるぜ。昇格クエストだけ一緒にPTを組んで、対象モンスターを倒してもらって、報酬に大金を支払うって感じだね。だから偽りの紫、黒、銀ランクも多いのさ」
「うぇぇ。なんか、そういうのヤダなぁ・・見栄張って、何が楽しいんだろう」
「ははは。まぁリリフみたいに、健全な冒険者ばかりじゃ無いってことさ。高ランクは相手を見下せるし、ドヤれる。女にもモテるしね。社会的地位も上がるから、オイシイ話や依頼も、向こうから舞い込んで来るから、メリットはデカいのさ」
「でも、高ランクだからと信頼して依頼したのに、役立たずでクエスト失敗・・なんて事はないのでしょうか?」
「それそれ。正にセリーの言う通り、見た目のランクと、実際の実力に差があるもんだから、揉め事も多いよ。ギルドも実力があると思って信頼して依頼したのに失敗して、依頼主の反感を買ってしまう事例が多くて大変みたいだな。ギルドの依頼は半分くらい国や街からだが、残りの半分は一般企業や貴族、富豪からだから。その大切なスポンサーの信頼を失ってしまうのはギルドとしては一大事。最悪、他の街のギルドに依頼が流れてしまったら経営的にも大損害だからね。かなり神経を尖らせているって話さ」
「へー。ギルドのクエストってみんな政府からだと思ってたわ。結構民間からの依頼も多いのね」
「ああ、そうだな。例えば旅行会社。このガタリヤでも『温泉街ユウゼン行』だったり、『神のテーブル行』だったりと頻繁に観光旅行が組まれているんだけど、その護衛に付くのが冒険者なんだよね。そしてこの護衛任務が楽なわりに高収入だからかなりの人気なんだ。なんでかっていうと基本的にモンスターは結界が防いでくれるから、警戒する相手は盗賊達ってことになるんだけど、当然ならが盗賊達はゴブリン並に雑魚だからね。高ランクの冒険者達にとってはチョロい仕事なんだよ」
「へえー」
「だけど偽りの高ランクが混じっていると話は違ってくる。仮に正真正銘の黒ランクだったら、盗賊が20人相手でも4人くらいで対応出来てしまうんだ。それだけ実力が違うんだよね。でも偽りの黒ランクだった場合は1対1でも勝てるか怪しい。当然だけど旅行会社にとっては1度の失敗はとてつもなく大きな風評被害になるからね。あそこの旅行会社からは死人が出たからこっちの旅行会社にしよう・・・ってな感じ。そんな事になったらあっという間に会社の経営も傾くから、大手の旅行会社は高ランク冒険者と専属契約を交わして人材を確保してるって話さ」
「ええ?!あれ?!冒険者ってギルドを通さない仕事って受けちゃ駄目なんじゃなかったっけ?なんか本に書いてあった気がするっ!」
「そうそう。だから冒険者を引退させて専属の傭兵として雇うんだ。もちろんそれに見合った金額を用意してね。基本的に依頼は全てギルドを通して、そしてギルドが中抜きして冒険者にクエストを発注してる。全世界共通でね。だからこんな風に直接やり取りされるとギルドには収入が入ってこないし、大切な高ランク冒険者も引き抜かれてしまう。ギルドからしたら、たまったもんじゃない。だから偽りのランク者に対しての対応は年々厳しくなってるってことだな」
「かといって、マーカーが全てのモンスターに追跡魔法をかけるなんて事は、現実的に不可能ですものね。あ〜ん。もう少し性能が良ければと思ってしまいますわぁ」
「ははは。中々手厳しいですね。実はこれでも進化してるんだぜ?1000年くらい前は、こんな魔法も開発されてなかったから、倒した死体を荷車に乗せて、わざわざギルドまで運んで証明してたんだからな。まあ、これも別の猛者に倒させて死体だけ運べば不正できるから、偽りの高ランクの数は今と変わらないけど、圧倒的に手間は省けるようになったからね」
「へえぇ。それじゃあ、もしかしたら今後、本当にその人が戦いに参加してたかが分かる魔法が開発されるかもしれないって事だよね」
「そうそう。魔法は日々進歩してるからね。いずれは、そうなるだろうね」
「そっかぁ」
「あと、最初に言ったけど、これは世界中で問題になってて、半年くらい前に聖女セブンで話し合いが持たれ、今後は代行サービスを利用した場合は不正と正式に認定された。そして抜き打ちチェックって言うのかな?高ランク冒険者をランダムで選別し、自白魔法で確認する事が義務付けされるって話だよ。だからこういった、偽りの高ランクの数は圧倒的に減るだろうね。まあ、リリフが言ったように猛者におんぶに抱っこ状態のPTの数は減らないだろうけど、意図的に不正しているPTはほとんどいなくなるだろうって話さ。最近は自主的にランク返上してくる人も多数いるみたい。なにせ、もしバレたら冒険者資格取り消しの上、終身刑になるらしいからね」
「へえぇ!そうなんだ!ならちょっと安心っ。やっぱり偽物がいると嫌だもんね」
「ですわねっ。わたくし達はしっかりと着実にレベルアップすると致しましょう」
「うんうんっ。まずはゴブリンだねっ。しっかりと1人で倒せるように頑張らなきゃっ」
「あ、そうだ。ちょっと話が逸れちゃうけど、モンスターにトドメを刺す時ほど、慎重に、油断しないで行う事。これを忘れないでくれ」
「う、うん・・・」
「結構実力が拮抗しているモンスター相手の時。これが危ない。例えば・・リリフはガイコツ剣士ってモンスターとは、ほぼ拮抗した実力だと俺は思っている。その相手と戦って、必死に応戦し、ようやく追い詰めたとしよう。相手の武器も地面に落とし、足に深手を負わせ、壁際まで追い詰めた状況だ。どうだ?一瞬、気が抜けないか?」
「あ・・・確かに。今イメージしたら、ちょっと油断しちゃうかも・・」
「わたくしもですわっ!完全に勝ち誇ってしまいますわっ、きっと」
「だろ?でもそういう時が1番危ない。リリフもイメージしてくれ。逆に追い詰められた状態を。なんとか最後に一矢報いたいって思わないかい?」
「思ううぅ!!最後に当たって砕けろ精神で突っ込むかもっ!」
「わたくしも必死に抗いますわっ!」
「そうそう。モンスターも同じ。特に人型のモンスターは最後に一矢報いてやろうって思ってるヤツが多いから、最後の最後まで、気を抜かない事が非常に大切なんだ」
「そっか・・確かそうね」
「わたくしも学びましたわっ」
「すまんすまん。話が逸れちゃったな。まぁ、つまりトドメを刺す時ほど油断せずに慎重にって事だね」
「うんっ。分かったわっ」
「ミール様。1つ質問がございますわ。もし、回復職だった場合はどうなるのでしょう?回復職の方は戦うのが苦手なイメージがあるのですが・・・やはりゴブリンくらいは倒せないといけないのでしょうか?」
「良い質問だね。自分が回復職だった場合は、ギルドで昇格クエストを受注する際に全てPTで登録されるんだ。だから黄色ランクの条件『ゴブリンを倒せ』も『ゴブリンをPTで倒せ』に変わる感じ。そしてPTの誰かが倒せば条件達成、要は戦いに参加さえしてればOKってこと」
「えぇ?!なんか簡単じゃないっ??」
「うん。回復職は全ての面で結構優遇されてるからね。金や銀ランクでも、驚くほど能力の低いヤツは五万といるよ。だけど、そんなヤツでも引っ張りだこになるくらい、回復職ってのは貴重なのさ。リリフも実際に体験すると分かるよ。回復職がいる有り難さがね」
以前にマーキュリー率いるPTに、リリーという紫ランクの回復士がいたと思うが、あの子は初歩の初歩である解毒さえ使えなかった。
それでもチヤホヤされちゃう程、疲労や痛みの軽減が出来るというのは戦いにおいて、めちゃくちゃ有利な事なのだ。
「ま、先を見てもしょうがない。一歩一歩確実に進んでいくのをおすすめするよ」
「はいっ!」
談笑しながらギルドを出ようとすると、また暁の杯リーダーコリンズが絡んでくる。
「おいおいおいっおいっ!・・・なんか臭いと思ったらゴブリンにも股を開くビッチがいるじゃねーか!おえっ、吐き気がしてくるぜ!」
リリフは足を止め一瞬ムッとするが、直ぐに無視して歩き出す。
「おいおい、コリンズ。そりゃどういう事だい?ひっひっひ」
「聞いて驚くなよ。アイツらは人間の男では飽き足らず、ゴブリンのイチモツも進んで受け入れたらしいぜぇ」
「げえぇ。まじかよぉぉ。すげーな。で?実際どうなの?気持ちいいの?ひひひ」
「あたしだったら恥ずかしくて生きていけないわぁ。相当な好き者なのね。顔が可愛いと得よねぇ」
「100グルドで直ぐにやらせてくれるらしいぜ。俺の知り合いも昨日やったって言ってたからなっ!」
「ひゃひゃっひゃっ。そこらじゅう穴兄弟じゃねーかっ。勘弁してくれよぉ~」
「がっはっっはっは!」
今はピコルは不在のようで、コリンズのチーム以外にも複数の冒険者達が誹謗中傷に参加してくる。
(リリフ。相手にするだけ無駄ですわ)
(うん。分かってるわ)
お互い目で会話を交わし、無言でギルドを出て行く。
「おおい!誰か扉を消毒しとけぇ!ゴブリン化になるぞぉぉぉ!ぎゃはっははっ!」
「ほんっとにアイツらはやること無いのかしらっ?!冒険者なんだから、悪口言ってないで冒険に出ろってもんよねっ!」
「まさしくその通りですわっ!いつもギルドにいますわよねっ!きっとフィールドに出るのが怖いのですわっ!」
プリプリしながら道を歩くリリフ達。
「ま、実際格上のPTが根こそぎいなくなったからな。今は居心地が良いんだろうよ」
「え??どういう事?」
「聞いた事あるかもしれないけど、つい先日までこの街はドラゴン討伐で盛り上がっていたのさ。ドラゴンといえば冒険者の憧れのモンスターだからね。報酬もデカいし、デーモンと違って桁違いの強さなのはごく一部だし。ガタリヤも例外なくお祭り騒ぎとなって沢山冒険者達が集まったさ。他の街からも、もちろんこのガタリヤの主力となっていた冒険者達もね。しかし残念ながら今回のドラゴンは変異種でね、ほとんどの冒険者達が亡くなったからな。今ガタリヤは極度の冒険者不足なのさ。だからたいして力の無い冒険者にもギルドはチヤホヤしてくれるし、格上のPTがいないから偉そうにできるしね」
「そうだったのですわね・・・こういう言い方は非常に良くない事だとは分かっているのですが・・・アイツらも参加してれば良かったのにっ!」
「その気持ちわかる~。あっ、もしかして参加するの逃げたんじゃないのかしら?」
「そうですわっ!逃げたんですわ、きっとっ!ふふんっ!今度会ったら言い返してやりましょうっ!」
「そうねっ!ガツンと言ってやるんだからっ!」
「ぐっふっふ・・・」
2人はニヤリと不気味な笑顔を見せている。
ちょっと方向性はねじ曲がっているようだが、2人とも随分とたくましくなったもんだ。
ミールはそんなことを考えながら、不気味に笑う2人の後を付いていくのだった。
グワンバラの食堂に着くと、また入り口で揉めている所だった。
「何回来たって同じ事だよっ!これ以上しつこいと営業妨害で通報するからねっ!」
「がっはっっはっは!ひでえなぁ。俺たちは普通にメシを食いにきてるだけだろう?グワンバラ」
「なにがメシを食いにだっ。反吐が出るねっ!早くあっちにいっとくれっ!店の前で迷惑なんだよっ!」
「ああん?ここは道路だぜ?お前の店の敷地には入ってねーじゃねーか。ここでなにをしようが俺たちの勝手だろ?指図される覚えはないね」
「ふんっ・・・ゴミクズ共が・・・」
グワンバラはバタンッと扉を閉めて店に引っ込んでいく。
そんなグワンバラを大声で笑いながらチンピラ共は、彼らが言うところの共有の道路(明らかに店の前)で大声を上げて叫んでいる。
「この店はゴブリン化の女を雇っているぞぉ!」
「食べるとゴブリン化になるぜぇ!」
「異端児が経営してるんだぜぇ!」
通行人達は触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに目をそらして通り過ぎる。
ふと2人連れのおじさん達が店に入ろうとしていた。
「おいおいおいっ!おっさん達正気か?!ゴブリン化するぜぇ!」
「いや・・・俺たちは毎日来てるから・・・大丈夫だよ」
「なんだなんだっ?!おっさん達もさては異端児かい!おおい!ここに異端児がいるぜぇ!」
「通報しちゃおっかなぁ?!」
行く手を塞いで因縁をつける。
2人のおじさん達はお互いに目を合わせて
「お、おい・・・」
「ああ・・・すまんな、グワンバラ。またにするよ・・・」
そう言い残してその場から離れる。
「そうそうそう!良い心がけじゃねーかっ」
「みなさーん!こんな店入ると後悔しますよぉっ!」
そういう感じで入ろうとしてくる常連さん達をことごとく追い返すチンピラ共。
「ひ、ひどい・・・」
「本当にクズですわね・・・」
2人はチンピラ共を睨み付けながら店に入っていく。
「おおおっ!みなさーん!ゴブリン化の女が来ましたよぉ!」
「うわわっ。触られると感染しますよー!」
「臭いですねー!匂いますねー!」
「ぎゃはっはっは!」
無視してお店に入っていくリリフ達。
「ああ、リリフちゃん。おかえり・・・」
グワンバラは少し疲れたような笑顔を見せ出迎える。
店の中は2人だけ常連客がいたが、普段の食堂の活気は見る影もなく、重苦しい雰囲気が漂っていた。
「ははは。このざまさ。どうしようもないね・・・こんなんが続けば店を閉めなきゃいけないかもしれないね・・・」
グワンバラの珍しく弱気な呟きに、思わずリリフの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。無理言って泊めてもらったのに・・・客商売だから駄目だってグワンバラさんは仰ったのに・・・結局迷惑をかけて・・・こんなにも酷い扱いをされているのに私達は何も出来ないっ。自分達だけ良い思いをしてっ!グワンバラさんには何もっ!何もっ!・・・うぅ・・・」
両手で顔を覆い、泣き崩れるリリフ。
グワンバラはそんなリリフを優しく優しく、リリフの周りに纏うオーラごと包み込むように抱きしめる。
「おっとごめんよ。リリフちゃん。おばちゃんちょっと弱気だったねえ。リリフちゃんはなーんにも気にする事ないよっ。なーんにも悪くない。悪いのはアイツらだからねぇ」
「でもっでもぉ・・・えっぐっ」
「全く、よく泣く娘だよぉ。いいかい?娘を助けるのに理由なんているのかい?親はどんな事が有ったって娘の味方さね」
「ぐしゅっ・・・えっぐ・・・むしゅめぇ・・・えっぐっ」
「そうさね。リリフもセリーもルクリアも、あたし達の大切な大切な娘っ!おや?おばちゃんだけだったかい?娘だと思ってたのは・・・」
ブンブンと首を振るリリフ。
思いもよらないグワンバラの言葉に、嬉しくて嬉しくて。
リリフは笑いたいのだが、涙が次々と溢れてきて顔がぐしゃぐしゃだ。
「おかあさんっ!」
もう涙を拭くのはイイヤって感じで思いっきり抱きつく。
「グワンバラ様っ」
「おばちゃんっ」
セリーもルクリアもぎゅーっと抱きつく。まるで親にしがみつくコアラの赤ちゃんみたいだ。
「やれやれ・・・困ったもんだよ。三人娘はみんな泣き虫だねぇ。でもあたしも悪かったよ。つい弱気になっちまったね。さあっ!気を取り直して元気にご飯をお食べっ。あんたらは笑顔が一番さね」
「うんっ!えへへっ」
グワンバラの旦那さんが大盛りのご飯を持ってくる。
「ひゃあぁ!食べきれるかなぁ・・・」
「いざとなったらわたくしが頂きますわっ。魔法を使うとお腹が空くのですっ!モリモリ食べますわよぉ!」
「わ、私も体力付けなきゃだしっ!負けないもんっ!」
「おばちゃん、おじちゃん。一緒に食べよっ」
「そうさねっ。どうせ客なんて来やしないんだ。食べちまうかっ」
「わーい」
賑やかで穏やかな時間が流れる食卓とは裏腹に、外では相変わらず必死に大声で嫌がらせを続けているチンピラ共。
「全く・・・懲りない連中だねぇ。あたしの店なんて潰しても、なんにもなりゃしないだろうに」
「グワンバラちゃん。今朝の魔法新聞は見たかい?」
常連客の1人が話しかけてくる。
魔法新聞とはA4サイズくらいのディスプレイで、その都度、最新のニュースを見ることが出来る情報端末だ。
写真付きで色々な記事を見たり、過去の記事を検索して調べたり出来るので、魔法画面機が まだ普及していないガタリヤにとっては、一家に一台は必須の魔道具となっている。
デメリットはクソ重いので持ち運びが出来ない事、短い動画しか見れない事だろうか。
今、技術最先端のドルグレム国で目下携帯型を研究中なのだが実用化には至っていない。
「ん?ああ、アーニャ様がこの前の警備局の奴らを処分したって話しだろ?見たよ」
「どうもね・・・それが一枚噛んでるらしいんだわ」
「どういうことだい?」
「ほら、今ここら辺一帯を整備して貴族の別荘地にしようって話が出てるだろ?あれの中心人物がマンハッタンって星光街を縄張りにしてる貴族なんだが、どうもこいつはあくどい奴でね。とにかく権力と宝石に目がない成金貴族で、至る所で悪い噂が流れているんだよ。それに一役買ってたのが例の警備局の連中なんだとさ。そのマンハッタンと警備局がつるんでかなり美味しい蜜を吸ってたっぽいんだよねぇ。色々問題を起こしても揉み消したり、邪魔な奴を無実の罪で捕らえて処分したりね。でも今回の件で警備局の中もかなり粛正が起ってて、不正だらけだった警備局内も業務の正常化に大きく舵を切ったって所なんだ。そうなったらマンハッタンは面白くないわけ。自分の大事な駒も殺され、これから好き放題出来にくくなる。更に濡れ衣を着せて処分していた人達が、アーニャ様のご指示で次々と汚名払拭されてるからね。今、マンハッタンの風当たりはより一層厳しくなってるって話さ。聞いた話だと相当怒ってるらしいよ、グワンバラちゃんにさ。だからグワンバラちゃんが外で騒いでいるチンピラ達に暴力行為などをしてくれれば万々歳。それに付け込んでグワンバラちゃんを追い出し、一気に別荘地の話を進めて権力を大きくしようと企んでいるらしいのさ」
「はあぁ~ん。お貴族様は嫌いですわぁ」
「でもこんな・・・って言っちゃグワンバラさんに悪いけど・・・大きな星光街のたった1つの宿屋を潰しても、別荘地の話は進まないんじゃないのかしら?前に言っていた町内会の役員ってのが関係しているのかな?」
「お嬢ちゃんは知らないかもしれないけどねぇ。このグワンバラちゃんは凄いんだよぉ?昔の星光街はね、本当に無法地帯だったの。ひったくり、強盗、レイプ、殺人・・・なんでもござれって感じでね。その時にこの地帯を牛耳っていたギャング達がいたんだけど、そのボスとタイマンで勝負してね。あたしが勝ったらギャングは解散しろってね。あれは痛快だったなぁ」
「きゃあー!お母さんすっごーいっ!かっこいいー!」
「正に本に出てくる正義のヒーローですわっ!」
「・・・おばちゃん・・・ハンパない・・・」
「昔話は止めとくれっ!背中が痒くなってくるさっ!」
「ひひひ。まあ、そんなわけでこの地帯に住む者達はね、みんなグワンバラちゃんの事を一目置いてるのさ。そんな存在のグワンバラちゃんを排除する事が出来たら・・・あとはわかるだろう?・・・」
「星光街全体が揺らぎそうですわね・・・もしかしたら、また以前のように無法地帯になる可能性も・・・」
常連のおじさんは爪楊枝でシーシーしながら
「そうそう。そうしたらマンハッタンの思う壺。治安の悪い星光街は潰して別荘地にしようって話も現実味を帯びてくるって筋書きだろうねぇ」
「ふんっ。あくどい連中だよ。全く」
「ミールぅ。どうしたら良いんだろう・・・」
「難しいよね。多分まだ警備局の連中にはある程度影響力がある可能性があるから、ここで通報しても対応して貰えない事も考えられるしな。そうじゃなかったら以前の事件は自白魔法を使って取り調べをしてるんだ。とっくにその貴族が絡んでた事くらい分かってるだろう。それでも拘束する事が出来てない。前にちょっと話したよな?大貴族の中で1人反対派に回ってるヤツがいるって。そいつがマンハッタンだ。明らかに犯罪に関わってても処罰できない。それほど大貴族ってのは強大な力を持ってるってことさ。下手にこっちから突っつくと逆にイチャモン付けられて騒がれるのが1番困る。この前は領主代理が偶々(たまたま)対応してくれて助かったけど、本来はあり得ない事だから。次捕まって助かる保証がない以上、むやみに騒ぎを起こす訳にもいかないしね・・・本当に権力で弱者を蹂躙しようとする奴らには反吐が出る・・・」
「ミ、ミール?・・・」
「あ、すまん・・・とにかく先に手を出した方が負けって雰囲気はあるから我慢するしかないかもな、今の所は」
権力者に対して怒りに満ちたミールの言葉。もしかしたら昔なにかあったのかも知れない。
しかし、決して立ち入る事が出来ない雰囲気を醸し出しているミールに、リリフは心配な表情を浮かべる事しか出来ないのであった。
続く




