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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ガタリヤ奮闘記⑨

「じゃあ覚悟を決めて下さいましっ!大丈夫ですわっ。わたくしたち2人もフォローいたします」

「・・・そうそう・・・でもミールさんが私を気に入っても恨まないでね・・・」



「あ~~~ん。それも嫌だぁぁ!でも・・・そうよねっ!恨みっこ無しっ!フェアに戦いましょ!」



 リリフの素直な性格と器のデカさに、思わず2人はニッコリしてしまうのであった。



 ⇨ガタリヤ奮闘記⑨




 翌日、3人はギルドに向かって歩いて行く。

 ルクリアはグワンバラの食堂で仕込みのお仕事だ。



「ど、どうした?・・・リリフ。なんか動き固くないか?」

「えっ?!あ、え~っと。な、なんでもないわっ。き、気にしないでっ!あははは」



「リリフ。意識しすぎですわよっ。もっと自然に・・・」

 セリーは小声で耳打ちする。



「わ、わかってるわよっ・・・」

 そうは言うが手と足が一緒に出ており、明らかに不自然にカチコチになっている。



「まあ、あれだ。緊張はすると思うけど最初はみんなそんなもんだよ。俺も最初の頃は緊張したしね」

 どうやらミールはリリフ達が冒険者デビューする事に緊張していると思ったようだ。



「えっ?!ミールも初めては緊張したの??」

「そりゃそうだろ。まだ冒険者ギルドも無くて・・・あ、いやっ。ギルドの無い地域で始めたからね」

「えっ?!ギルドで初めてを迎えたの??誰と?!」

「は?誰って??ソロクエストだったけど?・・・」

「え?なんの話?・・・」

「は?なんの話?・・・」



「りりふぅ・・・」

 セリーはウンザリした顔でリリフのほっぺを引っ張る。



「いてててっ・・・あっ!ギルドねっ!うんうんっ!緊張するよねっ!あはははっ」



 怪訝な顔をするミールに、話題を逸らそうとセリーが質問する。



「それで、ミール様。わたくしたちは何処かのPTに入ったほうがよろしいのでしょうか?それともこのまま2人で始めた方が良いのでしょうか?」


「う~ん。それは2人が決める事だな。ただ・・2人で始めるのはホント最初の1週間だけってくらいなら良いが、その後はオススメしないな。危険過ぎる」

「そ、そうなんですわね」


「ああ、やっぱりある程度人数はいた方が、いざって時に対応できる行動が増えるからね。単純に数の力でモンスターにも勝てるし。あと、大切なのは適性の役割だな。リリフとセリーは簡単に言うとDPS系っていう攻撃してダメージを与える役割の適性なんだよ。PTっていうのはバランスよく役割があると凄く上手く行くんだ。逆にリリフ達のようなDPSだけが集まっても、強いモンスターには中々勝てない。理想は敵の攻撃を受け止めてPTを守る役、攻撃力を上げたり耐性を上げたりしてサポートする役、疲労や痛みを軽減や回復する役、そして攻撃してダメージを与える役、この役割がバランスよくいると安定すると思うよ」


「ふえぇ~ん。じゃあ何処かのPTに入るしかないってことかぁ・・・」



「いや、2通りあると思うよ。1つは今言ったように既存のPTに入ること。もう1つは自分達で仲間を集めて1からPTを作ること」



「ええぇ・・・自分達で勧誘するって事?」


「そうそう。全員初心者PTだと最初は苦労するけど、段々と家族みたいになってくるって言ってたな。ま、全滅する確率も1番多いけどな・・・」

「げぇ・・・」


「もし既存のPTに入る場合は冒険者ランクに注意してみると良いかもな。全員紫以上だったりした場合は特に注意が必要だ。足手まといでしかない初心者をわざわざPTに入れる納得できる理由があれば話は別だが、大抵は下心があったり、教えたがりな連中だったりするからな」


「下心は嫌ですが・・・わざわざ教えてくれるんですよね?良い方たちなのではないでしょうか?」


「まあ、あくまで初心者ファーストで、困ってる時だけ少しアドバイスしたり、悩みを聞いてあげたりするって人だったらそうだね」

「違うの?」


「どこの街にもいるんだけど、通称『教え魔おじさん』って言われててね。大抵は赤とか紫ランク以上は上がれない、あまり実力が無い人達が教えたがりになる人が多いイメージがあるな。結構紫と黒ランクにはでかい壁があって、本当に実力がないと黒ランクには上がれないんだよ。でも自分を凄いって言われたい、尊敬されたい、女の子達からモテたいってね。それでどうするかっていうと簡単だ、自分たちより劣る人をPTに入れちゃえばいいのさ。そうすればいつでもマウントを取れるだろ?相手はなにも分からないもんだから『凄い凄い』言ってくれるし、言うことを聞いてくれるから自分の存在欲求も満たされるし。形的には教えてるつもりでも、実際は相手の事情なんて全く考慮しないで説教ばかりしたり、ネタバレをしたりね。結構初心者の内は非効率な作業とかも大切な経験になったりするんだよ。しかし教え魔おじさんはどんどん効率的な方法ばかり教えてきて非効率を否定するんだよね、困ったことに。初めて洞窟に入ろうとドキドキしてたら、ここはこういう道になっていて奥には宝箱が置いてあってとか教えられたらね・・・ワクワク感なんて出る訳ないよね(笑)こんな風に、一から十まで教えられすぎるから段々とフィールドも言われた通りにするだけの作業みたいになってきて、当然楽しくも無くなってくる。初心者の方も言われた事しかできない、自分で考える事ができない人になっちゃうから成長もしないしね。だから初心者のまま引退する人も毎年結構いるんだよ。そんな感じで教えたがりのヤツは自分の善意は100%相手にも善意だと思い込んでいる連中だから気をつける事だな。ギルドにも『教え魔おじさんに注意』って張り紙があるんだけど、残念ながらそういう人は自分が教え魔おじさんって自覚がないし、教えられる方も判断が出来ないから、あんまり効果は無いみたいだけどね・・・」



「はあぁぁ・・・なるほどぉ・・それで最終的には下心、身体目的って事ですか・・・突然『命令だっ!脱げ!』的な展開が待っていると・・・はぁはぁ、たまりませんわっ!」

 何故かセリーが興奮しているが、今はそっとしておこう。



「う~ん。まあ、無くは無いとは思うけど・・・それよりかは、色々と教えてあげれば自分を好きになってもらえると思ってるんじゃないかな?だから1度でも否定的な態度を見せると一気に攻撃的になるって聞いた事あるね。人の好意を無にしやがって的な展開。相手がどんな事に興味があるのか、何をしたいと思っているのか、どうしてその行動をしたのか。そういった相手の事情を何一つ考えない、考えれない連中だから、自分の考えを押し付けて、言う通りに動かないと勝手なことしやがって!こんなにしてやってるのに!お前にはガッカリした!等々。自分勝手な感情をぶつけてくるのさ」


「あうぅ・・・そういう展開はヤだなぁ・・・私は貴方の道具じゃないんですよって言いたい・・・」


「まあ、そういう人も中にはいるって事だね。全部が全部じゃないからあまり疑ってかからない方が良いと思うけど・・・って俺が不安がらせたんだけどな」


「うふふ。でも中々そういう人を見分けるのも難しいですわよねぇ・・・どうしてもわたくし達は初心者で分からない事だらけですもの・・・」



 そんな時、ちょうどミール達の進む先から制服を着た兵士が10名ほど固まって歩いてくる。

 ミール達は横に逸れ、ぶつからないように道を開ける。



「今日は警備の方が多いですわね」

「そうだな・・・どうせお偉いさんが視察にでも来てるんだろう。アイツらはこういう時しか仕事しないからな」

「まあっ。うふふ。ミール様は兵士がお嫌いなのですね?」


「まあ・・・ね。別に兵士が嫌いって訳じゃないんだけど、権力を傘にきて偉そうな態度を取る奴らは好きじゃ無いな」

「私もきらーい」


「そうだっ。さっきの話だけど、じゃあ1つ魔法の言葉を教えてあげよう。これを言えば少なくとも、恋愛目的の冒険者達はいなくなると思う」

「おお!そんな素敵な言葉があるんですかっ!?」



「私たち、百合なんですけど良いですか?って言えばいいよ」



「えっ?!なになに?!ユリってなに?どういう意味??」

「リリフは知らなくて良いよ。セリーに任せとけば大丈夫」

「んふふふっ。お任せくださいませっ!見事追っ払ってやりますわっ!」

「ぶうぅぅ」


「さてと・・・あっという間にギルドに着いたな。冒険者の登録とかクエスト受注の流れとか、時間があったら説明するけど・・・まずは自分達で考えて行動してみるといいよ。もう2人の冒険は始まっているんだからね」


 ミールは2人の頭に手を当ててポンポンする。


「そ、そうよねっ。もう始まってるんだっ」

「ですわねっ!さあっ!参りましょうっ!リリフ!」

「うんっ!行こうっ!」

 2人は目を輝かせ、頬を高揚させながらギルドの扉を開けるのであった。




 ギルドに入った2人を待ち受けていたのは、冒険者達の顔、顔、顔だった。



「よおよおっ!リリフちゃん!待ってたよぉ!俺っちのPTに入ろうぜっ!」

「初めまして、お嬢様方。私はチーム暁の杯のリーダーをしているコリンズと申します。いかがでしょう?まずは体験からでも良いので入隊してみては?」

「いや~!リリフちゃん!覚えてる?!全員紫のPTだよ!俺たちのチームに入れば効率的な狩り場とか戦い方、なんでも教えてあげるよっ。ね?どうだい?!」

「俺たちは全員黒ランクだ。冒険者はランクが上がってなんぼ。紫ランクとは格が違うのさ。俺たちのチームに入れば直ぐにランクも上げてあげるよ。さあ、迷うことあるまい?」

「やあ、また会ったね。全員女の子のチームだよ。ランクも青とか赤だからそんなに離れてないし、馴染みやすいと思うんだっ!どうだい?!」



 次々と冒険者達が勧誘してくる。完全に囲まれてしまい身動きがとれない2人。



「ど、ど、どうしますか?・・お嬢様っ」

「お、おお落ち着いて、セリー。ま、ま、まずは話を聞く事にしましょうか?・・」

「そ、そそそうですわね・・で、ではお任せしますわっ。おじょ・・リリフ」



「えええっ?!わ、わたしぃ?・・・コホンッ・・あ、あのー・・すみませ~ん。とりあえず皆さんのお話をお聞きしたいのですが良いですかぁ??」



「☆△※□○☆△※□×◎☆!!」

 一斉に喋り出す冒険者達。



 リリフはオロオロしてしまうが、ふと冒険者達の輪から離れた場所でリリフ達を見守っているミールと視線が合う。ミールは自信を持て!と言っているような気がした。

 リリフの胸の内から熱いモノが込み上げてくる。



「あ、あ、あのっ!じゃあすみませんっ!貴方からお願いしますっ!」

 リリフはぎゅっと1人の冒険者の手を握る。



「お?!あたしからかい?じゃあ遠慮なく。あたしたちのチームは全員女の子なんだっ。しかもみんな赤ランク以下だからすぐ追いつけるよっ!男がいると色恋沙汰で揉めるだろ?そういう心配も無いから安心なのさっ!」



「た、確かにそうですね・・・何人くらいのチームなんですか?」

「うちは充実してるよっ!盾役2人、攻撃役10人、補助役2人、回復役も2人いるんだっ!凄いだろ??」



「え?す、凄いですね・・・私たちなんかが入ってもいいのでしょうか?」

「もちろんさっ!大歓迎だよっ!」



「ど、どうする?もうここでいいんじゃない?男もいないし」

「そ、そうですわね。あんまり他の方の話を聞いても訳分からなくなりそうですし・・・」



「ところで、あの吟遊詩人の子は今日は一緒じゃないのかいっ?!」



「あ、ルクリアは・・・吟遊詩人の子は冒険者にはなりません。冒険者を始めるのは私たち2人です」



「なんだってええぇ!?!!」

「おーまいがーー!!」

「ふざけんなよ!騙したなっ!」

「アホらしい。やってられんわっ!!」

 等々、リリフ達に口々に罵声を浴びせる。



「え?・・・・あ、ちょっと・・・」

 取り囲んでいた冒険者達の約半数がそれを聞いて、その場から立ち去る。



 女の子だけのチームと言っていた赤毛のリーダーも立ち去ろうとしていたので、リリフは慌てて駆け寄り

「あっあのっ!私たち2人だけですが宜しくお願いしますっ!頑張りますっ!」

 ペコリと頭を下げるが・・・



「はあぁ??冗談じゃないよっ!勘弁しておくれっ!なんでわざわざ足手まといを入れなきゃならないんだいっ!あっち行っとくれっ!」



「え?で、でもさっきは・・・」



「吟遊詩人がいるなら入れてやっても良いって事さっ!世界に1人だけのレア職持ちがいればチームの注目度も格が上がるからねっ。なんで掃いて捨てるほどいる攻撃職の素人を入れなきゃならないんだい?!ちょっと考えれば分かることだろ?!素質適性があったからって粋がってんじゃないよっ!ドブスがっ!」



「・・なっ・・・」

 あまりの豹変に言葉を失うリリフ。



「リリフちゃぁん。俺たちは見捨てないよぉぉ。手取り足取り腰取り教えてあげるからさぁ。俺たちのチームに来なよぉ。ぐへへっ」


「いやいや、俺たちにしなって。全員黒ランクだからバトルも安心だし、ランク上げも手伝ってあげるからさっ。ね?ね?」




「わたくしたち・・・百合なんですがいいですか?・・・」




「・・・・・」

 セリーがもの凄い冷めた目で言い放つ。



「あはは・・・そっかぁ・・・でもねぇ・・・」




「絶対に男の人を好きにならないですが良いですか??」




 セリーは先程から1ミリも動かないで、追撃の言葉を放つ。



「・・・あ・・・俺そういえば用事思い出したわ・・・」

「あ、俺も・・・」

「そういえば約束があったんだった・・・」

 皆、口々に言い訳を言いながら離れていく。



「ケッ!カスがっ!」

 セリーは冒険者達のあまりの豹変ぶりに頭がきたのだろう。辛辣な言葉を吐き捨てる。



「セ、セリー・・・だ、大丈夫?」


「はっ!わたくしとしたことが・・・大変お見苦しい所を・・あまりに失礼な態度だったものですから・・もう大丈夫ですわっ」

「うふふ。私もけっこう頭にきてたけど、ちょっとスッキリしたわっ。ありがと」



「やれやれ、だから有象無象など相手にしてもしょうがないのですよ。我々『暁の杯』は上は紫ランク、下は貴方と同じ初心者まで幅広く在籍しております。総勢は・・・20人ちょっとになりますかね?どうです?体験だけでも構いませんよ?1度覗いてみては?」

 唯一残った冒険者、チーム暁の杯のリーダー、コリンズが勧誘する。



 2人は顔を見合わせ

「そうですね、では体験からでお願い出来ますか?」

「分かりました。では早速奥の食堂で簡単なミーティングをしていますので、そこで紹介しましょう。ではこちらへ」



 食堂に行くと何組かに別れ、先輩冒険者が新人にアドバイスをしているようだった。



「お、マリンちゃん。青色ランクに上がったのかい?」

「あ、はいっ!先輩の言う通りしたらバッチリでした!ありがとうございます」


「そうだろそうだろ?がっはっは。マリンちゃんは素直だからいいのさ。これからも沢山教えてあげるからねっ」

「は、はい!あ、ありがとうございます!」


「がっはっは。じゃああっちで秘密の特訓をしようか?そしたら直ぐに赤、いや紫になるぞ!」

「え?・・・あ、はいい」


「がっはっはっはっは。さあさあ。マリンちゃん、あっち行こうね」



 デレデレの先輩冒険者はなんにも分かってないと思われる新人冒険者を奥に連れて行く。

 一見すると優しく教えているように見えるが、明らかに先輩冒険者は下心がある目をしていて、奥で身体を密着させてボディタッチをしながら多分どうでもいい事を教えている。

 新人冒険者の女の子はちょっと困惑した表情を見せながら、一生懸命作り笑顔を浮かべていた。



 その他にも多数のベテラン冒険者が新人達に指導しているが、どこを見ても教官と生徒だ。



「どうですか?うちのチームはベテランも多いので新人に対しても丁寧に教えていけるんですよ」



 リーダーのコリンズはセクハラ紛いの行為は気付いて無いのか、もしくはこれが普通の事と捉えているのか、全く意に関してないようだ。



「だ~か~ら~。どうしてあそこで魔法を唱えない?判断が遅いんだよ」

「あ、あの・・・こ、この前は勝手な事をするなって・・・言われたので・・・指示を待ってました・・・」


「はあぁ?あの時とは状況が違うだろ?分かるだろ?」

「・・・ご、ごめんなさい・・・同じモンスターだったので・・どう違ったんでしょうか?・・」


「ああ??俺が間違ってるって事言いてえのか?!」

「ひゃっ・・・ご、ごめんなさぃ・・・」


「ったく。口答えするなんて百年早いんだよ。だから半年経っても青色のままなんじゃねーの?!」



 こういったやりとりが1番奥の席で行われていた。

 もちろんリーダーのコリンズやセリーは全く気付いて無い。

 スキル『感覚鋭利』の効果でリリフだけが聞き取る事が出来ていた。



「あの・・・コリンズさん。私たちがもしチームに入ったら、どういう風に動けばいいんでしょうか?」


「ふふふ。なにも考える必要はありませんよ。全て私たちが導きますから。ランク昇格条件のモンスター討伐も、私たちが完全に無力化させてから目の前に連れて来ますので、貴方はトドメを刺すだけです。簡単ですよ」


「え・・・それって過保護過ぎませんか?・・・」


「ははは。気にすることはありませんよ。私たちは初心者の皆さんのお手伝いをする事が苦ではありませんから。性分ですね」


「それって自分達が気持ちよくなる為じゃないですか?」


「・・・・・・どうやらあまり良く分かってないようですね、フィールドの事を。下手すれば命を落とす事もあるのです。私たちのサポートが無ければ無駄に命を散らす事になりますよ?」

 リーダーのコリンズは明らかにリリフの言い方にムッとした雰囲気を出した。



 リリフはリリフで、早くもこのチームに不信感丸出しの態度を示す。



「リリフ・・・」

 セリーはなだめるように背中をさする。

 しかし怒りは収まらないようでツカツカと大股で、奥で怒鳴り散らしていた冒険者の前に立つ。



「あのっ!状況が違うってどう違うのでしょうか?!ハッキリ言わないと分からないと思いますっ!」

「は、はあ?!な、なんなんだ?あんたはっ!」



「私はリリフ。このチームに体験でお誘いを受けたので来てみたのですが、先程から一方的に怒鳴り散らすだけで全く理由の説明をしていません!それではわからないと思いますっ!どう違うのか説明を!」



 これだけ大声を張り上げるのだ。

 食堂でミーティングをしていた暁の杯のメンバー全員の視線をリリフは集める。



「そ、それは・・・だから・・・あれだよ!タイミングが遅いんだよ!」

「指示を待てって言っといてタイミングが遅いとは??どういう事ですかっ?!」

「そ、それは・・・おいっ。コリンズ。なんなんだよ、こいつ」



 ベテラン冒険者はただ初心者をイジメて自分の優位性を示したかっただけなのであろう。全く考えなく怒っていたようで言葉に詰まってしまう。

 逆に怒られていた初心者冒険者は目をパチクリしながらリリフを見上げていた。



「リリフさん。我々は常に初心者の為に行動しているのです。あまり我々のやり方に口を出さないで頂きたい」


「初心者の為って言いますけど、トドメを刺すだけの状態でランクを上げても全く経験になるとは思えないんですけどっ?そんな方法でランク上げて強くなれると本気で思ってるんですか!?さっき偉そうに言ってましたけど、フィールドを舐めてるのは貴方の方ではないでしょうか?!」



「はあ?!俺が間違ってるって言いてーのか?!さっきから言い掛かりばかりしやがって!俺はカージナル魔法大学出てるんだぞ?!お前はどうせ高校どまりだろ?!何処地区出身だ?!貧民街だろ?知ったような口を聞いてんじゃねえぞっ!」



 遂にキレたコリンズは食堂のど真ん中でリリフと言い争いを始めてしまう。



「私はガタリヤ出身ではありませんっ。スーフェリア出身です。学校も通っていません」



「ぎゃはっはっは!だっせぇ!世界序列2位のスーフェリアから、わざわざ下位序列のこの国に来るとなっ!しかも学校も通ってないとは??どうせ貧民街出身で借金まみれでこの国に逃げて来たんだろ?マヌケめっ!」



「私は家が盗賊に襲われて奴隷商人に売られました。途中何回も犯され、ゴブリンにも犯されました。しかし、ある方に助けて頂いて今の私があります。夢も希望も無い絶望の淵にいた私たちを救ってくれた人の為にも私は自分で考え、行動すると決めたのです。残念ですが貴方方のチームとはご縁が無かったようです。失礼致します」



 毅然(きぜん)と振る舞うリリフは、クルッと(きびす)を返し食堂から出て行く。



「こっちこそお前みたいなビッチはお断りだよっ!風俗嬢になった方が良いんじゃねーのかぁ?!ぎゃはっはっは!」

 背中からコリンズの大声が聞こえる。



 食堂から出たリリフ達だったが、ザワザワとしているギルドの雰囲気を感じる。皆、遠巻きにリリフ達を見ているようだった。



 唐突にぐいっと腕を捕まれる。

 そこには真剣な表情をしたミールがいた。



「時間が無いから手短に話す。お前達はこれから数分のうちに警備局の奴らに連行されるだろう。いいか?なにがあってもゴブリンの事は知らないで通せ。絶対に喋るな。俺はなんとかお前達を助けられるようにしてみる。それまでなにが有っても耐え抜け。わかったなっ?」

 ミールはそれだけ言うとギルドの奥に走って行く。



「え・・・どういう事・・・」

「もしかして・・・ゴブリンの事を喋ったのがまずかったのかもしれませんわ。ほら、何人か魔法膜を(まと)っている人がいますでしょ?恐らく今通報しているのですよ。わたくしたちを・・・」



「そ、そんなっ!ご、ごめんなさい!セリー!」

「良いのですよ。リリフはなにも間違った事を言ってないですわっ。立派でしたわよ」



「で、でも・・・」

「ミール様も仰ったようにゴブリンの事は知らないで通しましょう。とにかく絶対にグレービー様やグワンバラ様に迷惑をおかけする訳には参りませんもの」

「そ、そうよねっ。分かったわっ!」



 バタンッっと大きな音を立ててギルドの扉が乱暴に開く。



 予想通りゾロゾロと警備局の連中が入ってきて

「リリフスピアーナ!セリー!以下の者は前に出よっ!」

 隊長が腕を後ろで組み威圧しながら叫ぶ。



 リリフとセリーは無言で一歩前に歩みを進める。



「両名をゴブリン化の疑いで連行する!連れて行けっ!」

 一斉にリリフ達を捕縛して魔法手錠をかける警備兵。



 1人の警備兵が隊長に耳打ちする。

「なに?よしっ。第二、第三部隊は副長に続け!第一部隊はそのまま連行する!以上、行動開始!」

「ハッ!」



 リリフとセリーは警備兵に魔法錠をかけられる。

 引きずられるように歩かされるリリフ達の背中にコリンズの大声が響いた。




「ぎゃっははっはっは!ざまあ見ろってんだ!低脳なビッチにはお似合いの末路だぜっ!死んじまえぇぇ!クソがあ!」




 街中はちょうどお昼時、人が溢れている中リリフ達は警備兵に連行される。

 貴方の世界でいうパトカーに乗せられたり、窓が真っ黒なスモークを張られていて中が見えない車に乗せられるような事も無い。

 普通に徒歩での移動だ。当然めちゃくちゃ注目される。



 人々はリリフ達を指さしながらザワザワ騒いでいる。

 きっと、ある事ない事、憶測だけでお喋りしているのだろう。

 後ろで両腕に手錠をかけられているので手で顔を隠すことも出来ない。

 リリフ達はうつむきながら歩くしかなかった・・・




 2キロ程歩いた先にガタリヤ警備局本部はあった。

 レンガ壁で作られた3階建の建物でツタに覆われて、年代を感じさせる作りとなっている。

 鉄の扉で作られた入り口には門番が2人立っていて連行部隊が近づくと敬礼をする。



「お疲れ様です!」

「ゴブリン化の容疑者を連行した!開門許可!」

「了解しました!開門――!!」



 ゴゴゴ・・・っと重苦しい音が響き厚さのある扉が開く。



「こっちだ!早くしろ!」

 警備兵は強引に引っ張って行く。

 まだなにも確定している訳では無いのに完全に犯人扱いだ。



 エントランスは3階まで吹き抜けになっていて、天井からは大きなシャンデリアが吊り下がっていた。

 床面と大理石のような石畳がピカピカに磨かれており、リリフ達を鏡のように映し出している。

 入り口の鉄の扉の存在感からは想像出来ないほど、エントランスは清潔で明るい印象だった。



 先頭を歩く部隊長はツカツカと手を後ろに回しながら、左の奥にある地下へと続く階段を降りていく。



 地下はエントランスとはうって変わって薄暗く、道幅も狭い。

 扉が5つほどあるが、部隊長は一番奥の部屋に入っていった。



 部屋は見かけよりもずっと広く、20メートルほどの正方形で壁は鉄板で作られているようだ。

 中は簡易的なテーブルとパイプ椅子が置かれているだけの質素な作りとなっている。



 部隊長はパイプ椅子を1脚、乱暴に奥に持っていってリリフを強引に座らせる。

「ここに座れ!」

「痛いわねっ!乱暴しないでっ!」



 キッと睨むリリフに部隊長は前髪をぐっと掴み、なんと容赦なく拳を振り下ろす。

 ガラガランッっと大きな音を立てて椅子から転げ落ちるリリフ。

 部隊長の手からリリフの前髪がパラパラと落ちる。



「お嬢様っ!」



 セリーの悲鳴が部屋に響いた。

 リリフは鉄の壁に叩きつけられ、痛さでうずくまっている。



「口の利き方に気をつけろ。クズ女が。おいっ。座らせろっ!」

「はっ!」

 警備兵はリリフを両脇に抱え椅子に座らせた。

 セリーも同じように後ろに手を固定され、椅子に座らせられる。

 


「おいっ。副官はどうなった?」

「はっ!無事捕獲したとの事で、ただいまこちらに向かって連行中でありますっ!後10分ほどで到着するかと思われますっ!」

「よし。しばらく見張っておけ」



 そう言うと部隊長は部屋から出て行く。

 それを見届けると警備兵達は少し緊張の糸を解いた。



「なあなあ。今日はするかな?」

「多分な、めっちゃ上玉じゃん。ぜってーするよ」

「く~。はやくやりてぇ・・・」

 とヒソヒソと小声で喋り出す警備兵。



 リリフは口元から血が出ているが、それが殴られたからなのか、はたまた悔しさで唇を噛みしめているからなのかはわからない。ピクリとも動かずに下を向いている。



 しばらくして・・・



 バタンッと大きな音を立てて再び部隊長が、白髪で眼鏡をかけた者などを引き連れて入ってくる。

 この白髪の警備官は部隊長とは違い温和な顔立ちをしていた。



「やれやれ、まだ何も確定してないのに乱暴はいかんぞ」

 白髪の警備官はリリフの様子を見て部隊長を咎める。



「いえいえ。私は何もしてません。元々こういう顔なのでしょう」



 白髪の警備官は『ふ~』とため息をつくが、それ以上は追求せずにパイプ椅子に腰掛けた。



  コンコンコン



 ドアをノックする音がする。



「ゴブリン化の容疑者を連れてきましたっ!」

「よしっ!入れ!」



 多数の警備隊に連れられて入ってきたのは何とルクリア。

 リリフ達と同じように後ろに魔法手錠をかけられた状態で連行されてきた。



「ルクリアっ!」

 リリフとセリーが同時に声を上げる。



「おいっ!早く入れっ!」

 副官が怒鳴る。



 続けて入ってきたのはグワンバラとグワンバラの旦那さん。同じように連行されてきた。



「グワンバラさん!?」

「グワンバラ様っ!」

「なんだい、なんだい。随分と乱暴だねっ。この街の兵士にしては」

「座らせろ」

「はっ!」

 同じように強引に椅子に座らせられるグワンバラ夫妻。



「こらこら。乱暴はいかん。丁寧に」

「・・・・・・・はっ」

 どうやら白髪の警備官は階級は結構上のようだ。警備兵の行動に釘を刺す。

 それを嫌な顔をしながらチラ見する部隊長。



「では皆様。今回ゴブリン化の容疑で通報が幾つかありましてな。ゴブリン化は政府として見逃す事が出来ぬ事案でありまして。申し訳ないが念のため、今現在ゴブリン化の可能性があるのか、又、ゴブリン化の治療を受けた事があるのかを、魔石にて確認させて頂きまずぞ」



 白髪の警備官は丁寧な物腰で語ると部隊長に視線を送る。

 部隊長はテーブルに無造作に置かれていた手のひらサイズの箱を手に持ち、魔石をはめ込んで床に置く。

 一瞬床に魔法陣が出現するが直ぐに消えた。



「よしっ。調べさせろ」

「はっ!」



 警備兵はリリフを床に置いた魔石の上に立たせた。

 魔石はなにも反応しない。

 同じようにセリーも立たせるがやはり反応無し。



「チッ」

 部隊長は軽く舌打ちする・・・が、誰かからか通話が入ったようで、後ろを向いて魔法膜に包まれていく。

 そのままルクリアも検査されるが、魔石は全く反応しなかった。



 どうやら、魔石はゴブリン化の可能性、そして修復魔法での治療の痕跡を見分ける機能があるようだ。

 しかし、リリフ達はゴブリン化を克服しているし、治療は修復魔法を使っていないので、今回の魔石は、なんの反応もしなかったという訳だ。 



「ふむ。どうやら問題ないようですな。これで皆様がゴブリン化と関係がない事が証明されました。では、お時間取らせて申し訳ない。ご足労ありがとうござ・・・」

「まだだ」

 白髪の警備官の言葉を部隊長が遮る。



「んん?まだなにかあるのですか?」

「ええ。これから特別尋問がありますので。どうぞここは私らに任せて御退出ください」

「何ですと?!」



 部隊長はニヤァッと不敵な笑みを浮かべて

「お分かりですよね?今『あの方』からご指示がありました。ここはお任せを」

「しかしっ・・・ゴブリン化の容疑は晴れたのですぞ?!全くの無実の者をこれ以上・・・」

 白髪の警備官の言葉を部隊長は威圧しながら遮った。




「おやおやおやっ!良いのですか?!もうすぐ定年が近いでしょう??ちっぽけな正義感を振りかざし全てを棒に振るのですか?!ここは下手に介入しないほうが身のためですぞ?」




「く・・・」

 白髪の警備官は唇を噛みしめながらうつむく。



 しばらくして・・・



「申し訳ない・・・」

 とても小さな声で呟くと、部下を連れて部屋を出て行った。



 シーンとする室内。

 白髪の警備官達の足音が聞こえなくなったのを確認すると、部隊長は呪縛が解かれたかのように、偉そうな態度をあからさまにみせてテーブルに座る。



「さて、お前ら3人はゴブリン化の容疑。お前ら2人にはゴブリン化隠滅の容疑がかかっている。間違いないな?」



「はあ?隠滅もなにもゴブリン化なんてしてないのは一目瞭然でしょうが?!さっきの検査は何だったんだい?!どう見ても普通の女の子じゃないかい。あんたたちの目は節穴かい?」



「おい」

「はっ!」

 部隊長が警備兵に声をかける。



 ドスッ



 警備兵の蹴りが腹部に入り、うめき声を漏らすグワンバラ。



「おばちゃんっ!」

 悲鳴を上げるルクリア。



「どうもお前達は口の利き方がなってないようだな」

 と、そこに別の警備兵がなにかを耳打ちし報告した。



「ふんっ。難民認定された市民か。しかもスーフェリア国からとはな・・・これはスパイ容疑でも調べなきゃならんな。クックック」

 部隊長はテーブルの上でニヤニヤと笑い出し、リリフを見る。



「さあて、ゴブリン女ども。どうやって魔石の検査から逃れた?どうやって治療した?早く話した方が身の為だぞ?どうせ自白魔法を使えばわかる事だ。隠す必要はあるまい」



「知らないわよっ!大体なんで捕まらなきゃならないのよっ!私たちなにも悪い事してないっ!生きようと必死になる事がそんなに悪い事なのっ?!」



「当たり前だ。お前らみたいなビッチは存在自体は罪なんだよ。しかも人間だけでなくモンスターにまで股を開くとはな。吐き気がするぜ」



「ふざけないでっ!あんたなんかになにが分かるのよっ!あんたなんかに・・・っ」

 悔しさで涙目になるリリフにセリーが言葉をかける。



「リリフッ!挑発に乗ってはダメですっ!いくらけしかけられても、わたくし達はなにも知りませんわっ!」



「それはそれは・・・たいそうな覚悟だな・・おいっ」

「はっ!」

 警備兵に合図を出すとグワンバラ夫妻を蹴り飛ばす。



ガキッボコッドスッドガバキボキッ・・・



「や、やめてっ!お願いっ!」

「おじちゃんっ!おばちゃんっ!」

「うぐぐぅ・・・・」

 あまりの痛さにうめき声を出すグワンバラ夫妻。



「ほら・・・このままだと死んでしまうぞ?どうだ?喋る気になったか?誰がお前達を治療した?」



「そ、それは・・・」

 考え込むリリフにグワンバラが叫ぶ。



「リリフちゃんっ!喋るんじゃないよっ!こんな暴力に負けちゃ駄目っ!」

「オレたちの事は気にするな・・・」

「うるせえっ!」

「うぐっ・・・」



「やめてっ!やめてよぉっ!」

 特にルクリアは最近よく食堂で一緒にいるので、珍しく感情的に泣き叫ぶ。



「だったら早く話すんだな。どうせ関わってるのは異端児のグレービーだろ?お前達みたいなクズの相手をするのはアイツくらいだからな」



「なっ!グ、グレービーさんは関係ないわ!勝手な事言わないで!」



「???」

 部隊長はリリフの反応に怪訝な顔をする。



「おいおいおい。当てずっぽうで言っただけなのに、まさか本当にグレービーが絡んでるのか?!がははっ!こりゃいい!元々俺たちがマークしていた奴だ。これであいつもお終いだな!」



「ち、違うわ!何も関係ない!大体、なんで異端児だからってそこまで目の敵にするのよっ!なにも悪い事してないじゃないっ!」



「はははっ。なんにも知らねーんだな。毎年なんの効果の無い妖しげな壺や宝石を、高額な値段で売りつけて騙す犯罪が何件あると思ってるんだ?全員異端児の仕業だ」

「貴方達の方がなにも知らないじゃないっ!勝手に同じ犯罪者ってひとまとめにしないでっ!」



「がっはっは。だったら早く喋ってみろ。なんにもやましい事無いんだろ?」

「ほら、ほら。お嬢ちゃん。早く喋らないと死んじゃうよぉぉ?ぎゃはっはっは!」

 警備兵達はグワンバラに殴る蹴るを繰り返す。



「ケッ!クズがっ!」

 セリーは部隊長に向かってツバを吐きつける。



「ほう?・・・」

 部隊長は冷たい目でセリーのもとに歩いて行き、ガシッとセリーの胸を鷲づかみにする。



「!」

「なにをするのっ!変態っ!暴力行為も性暴力も重大な違法行為よっ!」

「ほお?・・・違法行為ねぇ・・・それをどうやって証明するんだ?」



 部隊長はグリグリとセリーの胸を容赦なく揉みながら言い捨てる。

 セリーは腕を後ろで固定されているので、どうすることも出来ない。



「おお・・・こりゃ凄いな・・・俺も沢山の女としてきたが、ここまでデカいおっぱいは初めてだ。すげーなこりゃ」

「・・・っ・・・」

 セリーは必死に耐えている。



「あ、あんたたちっ!ふざけんじゃないよっ!ア、アーニャ様がお許しになるわけないっ!絶対に告訴してやるからねっ!」

 グワンバラは傷だらけになりながら部隊長に怒りをぶつける。



「クックック・・・まだお前達の立場が分かってないようだな?どうやって死人が口を聞くんだ?」

「なっ?!」



「がっはっはっ!悪いがお前達の命は今日で終わりだ!罪状はゴブリン化のほう助による国家反逆罪って所だな。ぎゃっはっは。ざまあねえぜ」



 その間もずっとセリーのおっぱいを揉みまくっている部隊長は、段々と興奮してきたようだ。



「ふうっふうっ。こりゃたまらんな。ふんっ」



 部隊長はセリーの服を引き破り、剥き出しになった胸に吸い付く。

 部屋全体にしゃぶりつく音が響いた。



「部隊長ぉ~俺たちも良いっすかぁ?!」

「俺もしたいっすよぉぉ!」

「ああ、好きにして良いぞ。『あの方』から指示があった。こいつらは全員極刑だ。好きなだけ犯せ」

「ひゃっほぉぉいい!流石部隊長っす!」

「うひょー。今回の娘は激かわっすねっ!殺すのが勿体ないっすわっ!」



「や、やめてっ!触らないでっ!」

「・・・もうやだ・・・」



 警備兵が襲いかかるのをリリフは必死に抵抗して、ルクリアは大粒の涙を流しながら絶望の表情を浮かべ、されるがままになっている。



「おらっ!」

 ルクリアの顔に欲望をこすりつける警備兵。

 部隊長もセリーの胸に押しつけ出し入れしている。



「ぎゃはっはっは!本当に誰にでも股を開くんだなっ!くそビッチが!」

 リリフの股を強引に開かせ、理不尽な事を言い放つ警備兵。




「ヤダヤダヤダ!やめてっ!やめてぇぇ!!助けて!ミール!!嫌あぁぁ!!」




 兵士が泣き叫ぶリリフに欲望を入れようとした正にその瞬間、バタンッっと大きな音を立てて扉が開く。




「全員捕縛っ!」




 甲高い、そして透き通った声が部屋に響いた。

 同時に白く輝く鎧に身を包んだ兵士達がなだれ込み、次々と警備兵を捕縛していく。



「な、なんだぁぁ!」

「だ、誰だあぁぁ!」

 あっという間に制圧された警備兵達。



 そして白銀の騎士達は、次々とリリフ達の魔法手錠を解放していく。

 リリフ達も何が何だか分からず、1箇所に集まって事の成り行きを見守っていた。



「離せぇぇ!コラア!俺を誰だと思ってるんだっ!只では済まさんぞっ!」

 部隊長は床に押さえつけられながら怒鳴りつける。



 ツカツカと1人の人物が部隊長の前まで歩いて行く。



「只では済まないのはこちらの台詞です。民の治安を守る立場にありながら、このような犯罪行為に手を染めるとは。全員自白魔法で取り調べののち処分を下します。極刑は免れないと思いなさいっ」



 毅然と部隊長に言い放つその人は、薄暗い部屋の中で自らが発光しているのではないかと思ってしまうほど、透き通るような白い肌と輝かしいオーラをまとっていた。



「な、なんだとぉ・・・お前は・・・貴方は・・・まさか・・・」




「私はアーニャ・イウ・スローベン。この街の領主代理です」




「あ、アーニャ様・・・な、なんでこんな所に・・・ち、違うんですっ!この者達が犯罪を犯して・・・そうっ、ゴブリン化の疑いがあるのですっ!この者達は魔物に取り付かれており妖しげな魔法で我々を魅了してきたのですっ!危ないのでお離れ下さいっ!」



 卑怯にもまだ言い逃れをする部隊長。しかしこんな見苦しい言い訳が通用する程、この街の領主代理は愚かでは無い。




「黙りなさいっ!この卑怯者っ!」




 アーニャの一喝に、一緒に入ってきた側近のお爺さんは驚きの表情を浮かべる。

 ずっと幼い頃から側に使えて来たが、アーニャがこれ程の大声を上げて怒りを見せるのは久しく記憶に無いからだ。



「貴方方の部隊が関与した事件は、あまりに被疑者死亡が多いと以前から調査しておりました。民を守るべき立場の警備兵が、まさかこれ程の愚行をおかしていたとは・・・今まで残虐な行為に声を上げる事すら出来ず、無念の中で散っていった民の皆さんの命の事を想うと・・・心が張り裂けそうです。市民の信頼を裏切って甘い蜜を吸ったお前達を私は絶対に許しません。決して楽に死ねると思わないように。連れて行きなさい」



「嫌だぁぁ!!」

「お許しをぉぉ!!」

「アーニャ様ぁぁ!!」



 白銀の鎧を身に(まと)った見るからに屈強そうな兵士達は、恐らくアーニャ直属の近衛兵なのであろう。警備兵達はなにも抵抗出来ずに連行されていく。



 連中が出て行き静かになった部屋には、リリフ達のすすり泣く声がようやく聞こえてくるようになった。

 アーニャはうずくまって固まっているリリフ達のもとに歩みを進める。



 アーニャが身に纏っている水色のローブは、所々美しい刺繍と光沢を放っており、見るからに高価な品だとうかがえる。



 普段この部屋は取り調べ用で使っていると思われ、床などは汚れが目立っており正直言って汚い。

 しかしアーニャは服が汚れる事など微塵も気にしてない様子で、膝を折りリリフ達に目線を合わせて優しく話しかける。



「本当につらい思いをさせてしまい・・・領主代理としてお詫びを申し上げます。貴方達の事はギルド長のザクトーニを通して聞いております。我が街を救って下さった、英雄ミール様のお知り合いの方と存じております。本当にご恩を仇で返す形となってしまい、お詫びのしようもありません」

 アーニャは深々と頭を下げる。



「え?!ミールを知っているの・・・いえ、ご存じなのでしょうか?アーニャ様」

「いえ・・・直接お会いしたことはありません。しかしザクトーニからは今までも数々の高難度クエストを解決して頂いていたという事、そして先日襲ってきたドラゴンの討伐にも多大な貢献をして頂いたと聞いております。冒険者中心の街作りをしているガタリヤにとって無くてはならない存在と認知しております」


「そ、そんな凄い人だったんだ・・・ミールって・・・」

「普段は全く偉そうな態度を取りませんものね。正に能ある鷹は爪を隠すですわねっ」

「・・・ハンパない・・・」


「出来れば1度直接お会いしてお礼の言葉を述べたいのですが・・・いつもやんわりと断られてしまいます。直接お会い出来る皆様がうらやましいですわ」


「あはははっ。確かにミールは断りそ~」

「ふふふ」

 リリフとアーニャはお互いに笑顔で笑う。



 アーニャは側近のお爺さんに

「爺や、私の上着を持ってきて頂戴」



 側近のお爺さんは、アーニャが着ている水色のローブにとてもよく似合うと思われる濃い青色の上着を持ってくる。

 これまた非常に高価そうな布地で気品が漂っていた。

 アーニャはそれを躊躇なくセリーに着せる。



「こんな物しかないのだけど・・・良かったら貰って頂戴」

「ア、 アーニャ様っ!頂けませんわっ!このような高価な品をっ!」

「ううん。良いのよ。そんな格好では街中を歩けないもの。私のせめてもの罪滅ぼし。どうか貰って頂戴」

「あ、ありがとうございます・・・一生の宝物に致しますわっ!」



「・・・あ、あの・・・アーニャ様・・・」



 沢山泣いたせいか、ルクリアの顔は赤く腫れ上がっていて目も真っ赤に充血している。

 その瞳を大きく見開き、ちっちゃい口を一生懸命開いてアーニャに訴えかける。



「・・・ア、アーニャ様っ。アーニャ様は異端児の事をどう思ってるの?私たちは異端児の人に助けられたの・・・他のみんなは誰も助けてくれなかったけど、異端児の人だけが味方してくれたのっ。どうして街の人は異端児を毛嫌いするの?どうして異端児の人は取り締まりを受けるのっ?」



 ルクリアにしては珍しく口数が多い。

 そしてちっちゃい身体全体を使って必死にアーニャに訴える様子に、アーニャは真剣に聞き入っている。


 ルクリア自身は純粋に知りたい気持ちで聞いているのだが、これは聞く人によってはアーニャの政治批判ともとれる言動なので側近のお爺さんが歩み寄る。



 しかしそれをアーニャは黙って手で制して

「ごめんなさい。つらい思いをさせてしまったわね。まず私は異端児の人の事を良く知りたいと思っている事は確かです。貴方のように異端児の方によって救われた人がいることも承知しています。しかし・・・街の人達が異端児を良く思っていないという事も知っています。それは異端児のせいにして詐欺行為をしている者達が多くいる事、そして魔法に頼らないで治療するって事に抵抗がある人も大勢いることが原因かと思っています」



「・・・そうなんだ・・・異端児ばかり可哀想・・・」



「あくまで私の意見ですが・・・一番の理由は、ほとんどの市民が異端児の事をよく知らないって事が影響しているかと思います。異端児の方のお陰で助かった人達の声は異端児を快く思わない権力者達によって握り潰されてしまうのです。ある事無いこと、尾びれにせびれが付いた言葉しか市民の皆さんは知らないのです。ですから私は真実を知りたいのです。もっと良く知って解決策を提案したい、そう思っています」



「・・・権力者・・・上手く行きそう?・・・」



「なかなか厳しいというのが正直な感想ですわ。それだけこの問題は権力者同士の様々な権益が絡み、根深いものがあるのです。例えば、魔法を使わない治療が広まってしまうと、当然ですが修復士や、魔法水の売り上げが下がります。それに伴い、魔法省の収入も減るでしょう。本当でしたら様々な治療法が確立した方が、多くの人々を救えるかと思いますが、特に魔法が全てと思い込んでいる連中の反発は、ことのほか大きいのです・・・ですから、まずは知って頂きたい。当面の目標は議会にこの議題を提案する事、話し合う事ですわね」



「ギカイ?・・・ギカイってなに?・・・」

「はあんっ。ルクリアっ!・・・すみませんっアーニャ様っ!」



「うふふ。良いのですよ。ルクリアちゃんって言うのね。議会っていうのは街の政治を取り仕切る所なのよ。そして参加する議員は市民から選ばれるの。だからルクリアちゃんも立候補して選ばれれば議会に参加できるのよっ」



「・・・!・・・そ、そうなんだぁ・・・あ、ありがとっ!アーニャ様っ・・・色々教えてくれてっ!」



 アーニャはニッコリと笑い、優しくルクリアの頭を撫でると、傷だらけのグワンバラ夫妻のもとに歩みを進める。



『ほら、セリー。折角アーニャ様が譲ってくださったんだから、ちゃんと着て』

『ああん。だってキツくてボタンが閉まらないのですわぁ』

『もうっ!このこのこの!デカ乳めっ!』

『痛い。いたたたっ!く、苦しいですわぁ・・・』



 アーニャ→下着+ローブ+上着=余裕がある。


 セリー→上着のみ=キツい



 アーニャは一瞬だけピタッと立ち止まるが、直ぐにグワンバラのもとに歩み寄り、膝を折る。



「貴方方も大変お辛い思いをさせてしまい申し訳ございません。そして、命の危険を省みずにこの方達に救いの手を差し伸べて下さった事、心よりお礼を申し上げます。あの者達は全ての罪を暴いたのち極刑にする事をお約束致します。なのでどうかお許し頂けないでしょうか?・・・」



 深く頭を下げるアーニャにグワンバラは両手を横に振り

「やだよ、もうっ!頭を上げて下さいよっアーニャ様!こんなのかすり傷よっ。屁でも無いわっ。あらやだ。屁でも無いなんて下品な言葉使っちゃだめよね。おほほほ。でもね、アーニャ様。あたいは生まれも育ちも下町で下品な言葉しか使えないけど、本当にいつも感謝しているんだ。こんなに市民思いの領主様はいないってみんな言ってるんだよっ?お礼を言いたいのはこっちの方だわさ」



「暖かいお言葉ありがとうございます。感謝致します。のちほど治療員を呼び傷の手当てをさせて頂きますね」

 グワンバラはアーニャのスベスベの手を両手でガッチリ握り拝んでいる。



「おまえ。アーニャ様の手を押しつぶす気か?お前と違って、か弱いんだ。はやく手を離してやれ。迷惑してるだろ」



「い、いいええ。お、お気遣いなくぅ・・・」

 ちょっと困り気味なアーニャ様。



「ところでアーニャ様。こんな奥の奥の部屋に直接お越し頂けるとは、わたくし自身も想像も致しませんでしたわ。いつもこのような末端な部分にまで巡回されていたりするのでしょうか?・・・」



「いえ・・・お恥ずかしいですが・・・普段は殆ど末端な部分まで知ることは出来ておりません。今回は警備局の部隊の行動記録に不可解な部分が多々見られたと報告がありましたので、記録の確認を含め、今日は偶々この近くに滞在していたのです」



「ああっ!だから今日は兵士が多かったんだっ?!」



「ふふふ。お騒がせしてしまってごめんなさい。で、そうしましたらザクトーニを通してミール様からご依頼を受けまして、急いで参上した次第です」



「まあっ!ミール様からでしたのですねっ!納得ですわっ」



「ええ。そうでなければ残念ですが、この残虐な行為を見逃していた事でしょう。お伝えくださったミール様と神に感謝致しますわ」



「それでも通常は領主様がわざわざ出向く事などないでしょうに・・・正にアーニャ様だからこそっ。貴重なお時間を割いてまでお越し頂いてありがとうございますですわっ」



「いえいえ・・・実は・・・今回の件でミール様には貸し1つと考えてもらって構わないと仰ってくださいました。なのでこの貸し1つを早速利用してミール様にお会いしたいと思っているのですよっ。うふふ。ごめんなさいねっ。私的に利用してしまったみたいで」



「おおぉ・・・意外と行動派・・・」

「これはもしかしたらもしかするかもしれませんわっ」

「・・・侮れない・・・」

 小声でヒソヒソと話し合う女の子達。



「アーニャ様、そろそろ・・・」

 側近のお爺さんが声をかける。



「分かりました」

 アーニャは立ち上がり入り口に移動すると、再度振り向き深く一礼する。



「皆様。本日は誠に申し訳ございませんでした。これも領主代理の私の不徳の致すところでございます。今後このようなことが無いように抜本的な改革に従事するとともに、今まで隠蔽されてきた事件を明るみに出し、関わった全ての者を厳罰にするとともに被害者様の救済、名誉の回復に努めたいと思っております。今回の件の賠償は後日対応させて頂きます。誠に申し訳ございませんでした」



 ここで一旦言葉を句切り



「あと・・・ミール様によろしくお伝え下さい。それでは皆様、失礼いたします」

 アーニャはとても心が安らぐような良い香りを残して部屋を出て行く。



「はあぁぁぁ・・・凄いお方だったわ・・・まさか領主代理様がいらっしゃるとは・・・」

「この上着っ!良い匂いがしますわっ!良い匂いがしますわっ!クンクンっ」

「・・・凄く優しかった・・・」


「あたしゃヒヤヒヤしたよっ!特にルクリアっ!あんたアーニャ様に対してタメ口とは一体どういうつもりだいっ?!他の領主相手だったらあんたの首が飛ぶよっ!」


「・・・ひゃっ・・・ごめんなさい・・・」

「だが、みな無事でよかった」

 口数の少ないグワンバラの旦那さんがしみじみ言う。



「ご婦人方、治療室の準備が出来ましたのでどうぞこちらへ」



「ご、ご婦人方ぁ~?。止めておくれよっ。背中が痒くなっちまう」

「おばちゃんおじちゃん早く行こ・・・」

 ルクリアはすっかりグワンバラ夫妻に懐いているようで手を引っ張って行く。



「はいはいっ。ほら、あんた行くよっ」

「ああ」

 手を繋いで部屋を出て行く姿はまるで親子のようだ。



「本当に無事で良かったね・・・」

 ポツリとリリフがつぶやく。


 セリーはリリフの頭を撫でながら

「さあ、わたくしたちも参りましょう」



 ゴゴガガガガガッ



 分厚い鉄の扉がゆっくりと開き、リリフ達が警備局から出てくる。

 警備局は少し土を盛られた場所に建てられているので、側道に出るには階段を少し降りる必要がある。

 その階段の下、手摺りの一番下の部分にミールが腰掛けて、リリフ達が出てくるのを待っていた。



 リリフ、セリー、ルクリアはミールを視界に捉えると、今まで張り詰めていた気持ちが一気に解けてミールのもとに駆け出す。



「うわぁ~んっ!ミールぅぅ!!」

「ミール様っ!ミール様ぁ!」

「・・・ひっく・・ひっく・・・」

 一斉に抱きつく。



 ミールは女の子達の勢いに少し戸惑いながらも、優しく頭を撫でて抱擁する。



「みんなすまなかったな・・・結局俺はなにも出来なかったよ・・・」

「ううん。そんな事ないっ!そんな事ないよっ!来てくれてありがとっ!」


「やれやれ、酷い目にあったよ、全く。いきなり連れて来られたから仕込みもなにも出来なかったじゃないか。今日はお店は休みだね、こりゃ」

「そうだな・・久しぶりにみんなでメシでも食うか」


「わあいっ。食べよっ食べよっ!」

「皆様でご飯。楽しそうですわぁ」

「・・・わいわい・・・」



 グワンバラの食堂に移動すると、店の前には人集りが出来ていた。



「なんだい?なんの騒ぎだい?」

 グワンバラがいぶかしげに店の前に行くと、ドアに張り紙がしてあった。




【この店、異端児が経営。料理にはゴブリン化する魔法がかけられているぞ!食べるな!危険!】




「はあ?なんじゃこりゃ。呆れてものが言えんよ、全く」

「酷いですわねっ。誰がこんな事を・・・」

「どうせあたい達が連行されてるのを見てた連中だろさ。ここら辺はクズが多いからね」

「・・・やれやれ・・・」

 ルクリアは張り紙を剥がしながらため息をつく。



「さあっ!入ったっ入ったっ。辛気臭いのはお断りだよっ!」

 グワンバラはノッシノッシと店に入っていく。



「行こう。俺腹へっちゃったよ」

「うんうんっ。食べよ食べよぉ」

「ルクリアっ!今日は休みって看板出しといてぇ。あと、窓にはカーテン閉めとくれ」

「はあい・・・」

「わたくしも手伝いますわ」



 ルクリアが看板を出している間にセリーがカーテンを閉め、リリフは髪をポニーテールにしてお酒を出すのを手伝っている。

 グワンバラ夫妻は流石に息があった動きで次々と料理を仕上げていった。

 しばらくするとテーブルは料理とお酒でいっぱいになる。



「おっいしそぉぉ!」

「さあっ!いっぱいお食べっ!今日はあたいの奢りだよっ!!」

「ホントにぃぃ?!やったー!」

「いただきますっですわっ!」

「・・・おいちぃ・・・」



 キノコたっぷり入ったシチュー、野菜の肉詰め、スクランブルエッグがたっぷり乗ったトースト、鳥の唐揚げ、海鮮のスープ・・・

 どれもぽっペが落ちそうになるほどの美味。皆、自然と笑顔になってしまう。

 もちろんダントツに料理を平らげたのは、言うまでもなくセリーだったが。




 食事も一息ついてコースヒ(コーヒー)や紅茶を飲みながら談笑する。


「そういや、ミール。あんた偉い有名人なのかい?!アーニャ様がもの凄く感謝してたけど・・・あたしゃてっきり何時までも黄色ランクのお気楽冒険者だと思ってたんだけど、違うのかい??」


「そうよっ!凄いわっミールっ!アーニャ様から頼りにされてるなんてっ」

「でもどうして黄色ランクなんでしょうか?わたくしもずっと気になってたんです」



「そういえば話してなかったな・・・その前に1つ約束して欲しい事がある。これから先話す事は絶対に他言無用、誰にも話さないで欲しいんだが約束出来るかい?」



「う、うん。約束するわ」

「わたくしもお約束致します」

「・・・お口チャック・・・」

「なんだい?大袈裟だねぇ。ま、いいさ。黙っといてやるよっ」

 ミールは深く頷いてから語り出す。



「俺は1つ特殊なスキルを持っていてね。強敵覚醒ってスキルなんだけど。このスキルのお陰でドラゴンとかデーモンなどの強力な相手に対して、倒す事が出来るくらい力が解放されるようになるんだ。相手が強ければ強いほど力が比例して強くなるって感じかな。だから何回か通常の人間では到底倒すことが出来ないような最難関クエストを、幾つかクリアしてたから、その実績をみて領主代理は頼りにしてるって言ったんだと思うよ。まあ、先日のドラゴン討伐の件でめぼしい冒険者達が全員やられて、他に頼る人がいないってのもあると思うけど・・・」


「そうだったんですわねぇ。一番最初に洞窟でゴブリンを先に倒すと倒せなくなるって仰ってたのは、先に大きいゴブリンを倒すと覚醒が消えてしまって、小さいゴブリンが倒せなくなるって意味なんですわね?」


「おお、流石魔道士だな、よく覚えてる。その通りでこのスキルの弱点でもあるんだけど・・・強敵以外には全く力を発揮できない・・・っていうか弱体化するんだよね。だから大抵のモンスター相手だったり、この街の住民だったり・・・そういう相手には歯が立たないんだ」


「・・・だから街では力を発揮できないって言ってたんだ・・・」


「そうそう。多分だけど・・・今の俺はリリフよりも弱いと思うよ」

「えええっ!そんなにっ?!」


「ああ、凄く弱い。だから警備局に連行されたお前達を助ける事も出来なかったんだ。ホントにすまん」


「え?!ううん!違うのっ!ミール、凄く強いのにどうして街に入ると人間を怖がるのかなってずっと不思議だったんだっ。けど納得したっ。ミールには不利な状況なのにいつも守ってくれてありがとうっ!」

 セリーもルクリアも、うんうんっと頷く。


「あはは。お役に立ててなによりだよ。だけど実はね、まだ人間相手ならこうして普通に会話出来るけど、これがモンスターだったら最悪なんだ。弱体化だけじゃなく相手がもの凄く強いように見えるんだよ。これが結構辛い。足がガクガクして手が震えるんだもん」


「まあっ。うふふっ」

「あ、セリー。今馬鹿にしただろ?そんな大袈裟なって思ったろ?」


「ふぇっ?!い、いいええ。滅相もございませんわっ。おほほほほ」

「いいだろう。リリフとセリー。ちょっとそこに座りなさい。どれ程の恐怖なのか体験させてあげよう」


「ええ?!わ、わたしもぉ??」

「ああんっ。なにをするのでございますか?ドキドキですわっ」


「・・・私は良いの?・・・」

「ルクリアもどんな感じなのか体験したいならそっちに行ってみ」

「・・・ううん。私はいい。りりふっち、セリー。がんば・・・」



 リリフとセリーは言われた通り店の隅に移動する。

 グワンバラ夫妻とルクリアは、ミールの背中側にいるのでミールの顔はみえない。

 ミールはそっと畏怖のお面を装着する。




「うんぎゃああああああああああああああああああぁぁ!!!!!」

「ぎょええええええええええええええええええええええぇぇ!!!」




 案の定、悲鳴を上げる2人。


「・・・?・・・」

「なにを騒いでるんだい?」

 対照的に、なにが起っているのか分からないグワンバラ達。



 ミールは直ぐにお面を外す。

 一瞬の出来事だったが、既に2人は汗だくで肩で息をしている。



「はあっはあっ・・・い、今のは・・・なに?・・・」

「こ、これが・・・はあっはあっ・・ミール様が体験ししてしてして・・・いる恐怖・・・げほっ」


「わかったかい、セリー?これが俺が大抵のモンスターに対して感じている恐怖だ。これでも馬鹿に出来るかい?」


「げほっ・・はあっはあっ・・い、いえ・・想像以上の・・・」


「なんならもう一回味わって・・・」


「もうやだぁ!!もういい!!十分っ!!」

「分かりましたわっ!も、もう分かりましたわっ!わたくしが悪かったですぅぅぅ!」


「すまんすまん。ちょっと悪ふざけが過ぎたな(笑)ま、話がそれたが・・・こんな風に弱体化するから冒険者ランクは中々上がらないって訳だね。ゴブリンなんて俺にしたら恐怖の大魔王って感じだからね」

「はーん。まあ、なんにせよあんたが遊びまくってるんじゃないって分かってホッとしたよ、あたしは。せいぜいアーニャ様のお役に立つことだね」



「・・・あのっ・・・みんな聞いてほしい・・・」



「ん?どうしたの?ルクリア」


「・・・んっとね・・・まだ具体的じゃないんだけど・・・やりたい事が決まったの」


「おおっ!いいじゃん!どんな事したいって思ったのっ?」

「是非聞きたいですわっ」


「・・・あのね・・・2つあって・・・1つはやっぱり歴史だったり文化を学んでいきたいって思う・・・」


「うんうんっ。ルクリア歴史好きだものねっ。わかるわっ」

「・・・うん・・・あともう1つはね・・・」

「もう1つは?」




「・・・私・・・ギカイに出る!そしてゴブリン化で苦しんでいる人、異端児だからって差別されてる人を助けたいっ!だからギインになって世界の考え方を変えたいのっ」




 ルクリアの思ってたよりもスケールがデカい夢に、しばらく言葉を失う一同。



「そ、それは凄い夢ね・・・あはははは」

「そ、そうですわね・・・す、すごいですわ・・・ルクリア」



「あんた、議員になるって言ったってお金はあるのかい?」

「・・・え?・・・」



「お金だよ。立候補するのにもお金かかるし・・・ましてや認知してもらうには様々な活動をしなきゃならない。認知されてないと立候補しても落ちるだけだからね。今いる議員達は大抵は貴族のお金持ちばかりだよ。あんたそれに対抗できるお金をもってるのかいって話さね」



「・・・・・・」

 ずーんと明らかに落ち込むルクリア。



「なっなにを落ち込んでるのよっ!ルクリアっ!まだなにも始まってないじゃない!あんたの夢はこんな事で諦めてしまうほど軽い気持ちの夢だったの?!」


 リリフのハッパにルクリアの瞳に再び光りが灯る。




「・・・違う・・・諦めない・・・今度は諦めない・・・ワタシオカネモチニナル!」




 肝心な部分が完全に棒読みだったが、高らかに宣言したルクリア。


「それじゃあルクリアっ。お金持ちになる方法を考えなくてはならないですわね」

「うんうん。考えよっ。一緒にっ」

「・・・うん・・・ありがと・・・」



「ねえっミールっ。どんなお仕事が良いのかな?お金持ちになれるやつっ!」

 いきなり全てをミールに丸投げするリリフスピアーナお嬢様。



「うーん。色々あるとは思うけど・・・まずは独立して自分で事業を起こすってのがあるかな?上手く行けば高収入だけど失敗すると全部自分に返ってくるからリスクはあるよ。雇われだと高学歴で大企業に勤めている、いわゆるエリートってやつが高収入だよね。あとは・・・人があまりやりたがらない仕事もある程度高収入かな。その分大変だけど。まあ、冒険者や兵士もこっちの部類に入るね」



「・・・むむぅ・・・」

 ちっちゃい眉間にシワをよせるルクリア。



「でも別にお金持ちにならなくても議員になる事は出来ると思うけどね」

「えっ?!どうやって??」



「まあ、単純だけど実績を作るんだよ。例えばルクリアの場合だと・・・歴史の研究所とかで長年働いて所長とかのポストについて・・・そういった長年の実績っていうのは武器になるからね」



「長年・・・ってどれくらい?・・・」

「うーん。平均すると・・・50代くらい?それくらいの年齢で重要な役職ついてる人が多いね」

「・・・ぐぇ・・・」

「あはは。ルクリアおばちゃんですわねっ」

「・・・もうちょっと・・・早いのがいいなぁ・・・」



「あとは現在の議員・・・つまり貴族連中の秘書官とかになる事かな。つまりコネを作るということ。そうして気に入られれば議員になるのを後押ししてくれるかもしれないね」

「・・ううーん・・・そ、そういうのも・・・やだなぁ・・・」



「それと人気者になるってのも手だな。スポーツでも勉学でもいいから特別な実績を作ったり、アナウンサーやアイドルみたいに知名度を上げれば当選しやすくなるよ」

「め、目立つのはなるべく・・・やだな」



「それならやっぱり自分でなにかをするのが良いと思うな。リスクが無いところにビジネスは無いからね」

「そうすると『なにをするか』が肝心って事よね?」



「そうだね。なにが必要とされているんだろう?どういった物が流行っているんだろう?どんなサービスがあると生活が楽になるんだろう?・・・・とかね。そういったアンテナを張りながら道を歩いていると、今日までとは違った部分が見えてくると思うんだよね。そこにビジネスチャンスがあるって訳さ」



「なんだい。ミールが言うと怪しいコンサルタントにしか見えないね、全く」

「げっ。酷いな・・・」

「あはははっ」


「さあさあ。そろそろ夜も更けたし、お開きにしようかねぇ。ルクリア、あんたこの2日間ずっと働き詰めだったろ?今日の事もあるし、明日はお店に来なくていいからね。ゆっくり休みな」


「・・・う、うん・・・わかった・・・」

「それじゃあご馳走様でしたぁ。あ、洗い物しますっ」



 リリフが名乗り出るのをセリーが必死に止める。



(リリフっ洗い物はミール様にして貰いましょうっ)

(ええ??なんでなんで?)

(わたくしたちはシャワーを浴びて色々準備しなきゃでしょ?忘れたのですかっ?)

(ええええっ!!ほ、ホントに今日するの??)

(・・・当たり前・・・逆に今日以外考えられない・・・絶好のチャンス・・・)

(そうですわっ!またしても陵辱されそうな所を間接的ではありますが助けてくれたミール様っ!お互い気分も乗っておりますっ。リリフっ覚悟を決めなさいっ!)

(わ、わかった・・・)



 小声でボソボソ相談している女の子達を、怪訝な顔で見ているミール。



「ミ、ミール・・・ごめん。やっぱり洗い物お願いしても良いかな?」

「は?ああ、良いけど・・・」


「ミール様っ。申し訳ございません。わたくしたちミール様にお礼をご用意しているのです。ですが少し準備の時間が必要でございまして・・・1時間後にわたくしたちのお部屋にお越し頂いてもよろしいでしょうか?」


「へ?いや、別になにもいらないぞ」

「・・・そうはいかない・・・特別なお礼・・・」


「ふう・・・わかったわかった。1時間後に行けば良いんだな?了解」


「あ、あのっ!シャ、シャワー浴びてきてねっ」

「はあ??」


(リリフっ!余計なこと言わないのっ!)


「あ、ごめんごめん!なんでもないっ。あはははは。それじゃあ1時間後!」

 ギクシャクしながら2階に上がるリリフ達。



『リリフの言動だけ見ると完全にこれから初体験を迎える高校生のようだな』とミールも内心思ったが、セリーやルクリアもいるからそれはないか。

 どうせまた、なにか大がかりな工作でもしているのだろう、と考察する。


 まさか女の子達がこれから4Pを企んでいるとは、露程も思っていないミールであった。



 洗い物を終わらせ、自分の部屋に戻ったミール。やることが無いのでシャワーを浴びて時間を潰す。

『明日からリリフとセリーはフィールドデビューだな。実際にモンスターを相手にしてどれだけ動けるか・・・ルクリアの夢は流石に想定外だったな。なんとか形にする方法を見つけないとな・・・』



 そんな事を考えながら時間を潰していたら、いつの間にか1時間経っていた。



「おっと。そろそろか」

 ミールの部屋は3階にあるので、階段を降りて2階のリリフ達の部屋をノックする。



「は、ひゃいっ!どうぞっ!」

「へ?」



 ドアを開けたミールは思わずマヌケな声を上げてしまう。

 布団の上で女の子達3人が、下着姿で正座をしていたからだ。



「え?え?な、なななに??」

「ミ、ミールっ。本当に今までありがとう。あ、あの・・・私たちなんかじゃ役不足かもしれないけど・・・お礼をしたいの・・・」

「ミール様。本日は精一杯ご奉仕させて頂きますわっ」

「・・・ミールさん・・・ちゅき・・・」



「え?!ちょ、ちょっと待ってっ!ちょっとっマッテ!いやいやいや、そんなことしなくて良いんだよ!俺はそんなつもりじゃないからっ!お前達は十分辛い目にあったんだ。無理しなくて良いんだ。俺は十分お前達の感謝の気持ちを感じているからっ・・・」



「無理なんかしてないっ!・・・無理なんかしてないの・・・確かにこの1ヶ月は本当に辛い日々だったわ・・・正直何回も死ぬかもしれないって思ったし、何度も死のうと思った。でもミールに救われた日から私の人生は一変したわ。やりたい事がいっぱい出来たの。希望が出てきたの。私、生きていて良いんだって。そう思えたのはミールのお陰だよ」



「わたくし達は純粋にお礼がしたいのです。いつも支えて下さってありがとうございます。なんの得にもならないのに、ときには厳しく、ときには遠くから見守って頂いてありがとうございます」



「・・・ミールさんは私たち相手じゃイヤ?・・・」



「い、いや!そんな事は無いぞ!むしろ嬉しいっていうか・・・」

「ホントッ?!やったぁ」

「良かったですわね。リリフ」



「あ、いやいやっ。ちょっと待ってくれ。言いづらいんだが・・・正直に言うよ。俺はお前達に恋愛感情は持たない。持つことはないと断言できる。お前達・・・特にリリフが俺に好意を持ってくれているのは気付いていたけど、俺は答えることが出来ないんだ」



「・・・そっか・・・やっぱりピコルさん?」

「んん??なんでピコルなんだ?!」

「・・・ぴこるっちは彼女じゃないの?」



「ああ、そういうことか・・・いや、実はピコルにも同じ事を言ってるんだ。ピコルはそれでも良いって言われたから・・・まあ、簡単に言うとセフレの関係になってるな」



 こんなやり取りを4人で向かい合い、布団の上で正座しながら行われていた。



「そうだったんだ・・・でも、でも・・・私もピコルさんと一緒でそれでもいいです。なんかバレバレだったみたいだけど・・・私、ミールの事が好き。いつの間にか好きになっちゃってたの。もちろん両想いになれたら最高だと思うんだけど、それが正直な思いだけど・・・でも片思いでも構わない。私の身体なんかがお礼になるかは分からないけど・・・ううん、ごめんなさい。お礼なんかじゃなくて、私が単純にミールとしたいの。ミールに抱いて欲しいの」



「そうですわね。わたくしも、わたくし自身がミール様としたいのです。食中毒から回復してミール様に排泄物を処理して頂いたと知った時に・・・なんかこう、身体中がゾワゾワしたというか、いままで感じた事の無い快感が目覚めてきまして、あの日からわたくしはすっかりM気質になってしまいましたわっ。責任を取ってくださいましっ」



「・・・ミールさん、えっちしよ・・・」



 セリーがなんかよく分からない事を言っているが、とりあえずこんな美人達のお誘いを断る理由は無い。

 既にミールの息子もやる気満々だ。 



「さ、最後に確認だけど・・・今日肉体関係になっても明日からは普通通りに接する事が出来るか?甘えてきたり、必要以上に距離を詰めてきたり、そういった態度をしないと約束できるか?」 



「う、うん。気をつける」

「もちろんですわっ。放置プレイと考えればむしろご褒美っ」

「・・・ストップ・・・彼女ヅラ・・・」

 3人はじいっとミールを見つめている。



「じゃ、じゃあ・・・しようか」

「は、はいっ!」

「よろしくお願いしますですわっ」

「・・・ミールさん、ここに寝て」

 それからはめくるめく官能の世界に入っていく4人だった・・・



 その後、蓋を開けてみればお昼に部屋に備蓄していた簡単な食べ物を食べただけで、朝メシ抜きでとにかくやりまくってしまったミール達。

 一度タガが外れると、あとは湧き上がる欲望に身を任せるのみ。



 夕方、流石に休憩しようと併設している食堂で晩御飯を食べる。



 しかし、お会計時にグワンバラが

「うちはラブホじゃないんだよ」

 とのお小言に全員『あはははは・・・』と愛想笑いを浮かべるが、その後も結局夜遅くまで体を重ねあってしまうのであった。


  続く

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