ガタリヤ奮闘記⑦
「ぎゃああああぁぁ!嫌ああああぁ!!」
セリーの絶叫が響く部屋に、遠慮がちにドアがノックされる。
「ちわ~・・・お世話になりま~す・・・ゴミ回収に伺いましたぁ・・・」
⇨ガタリヤ奮闘記⑦
あれから1週間が経過した。
セリーの食中毒問題も解決して、グレービーから全員に完治の連絡が入る。
「ホントですかぁ?!はあぁぁ・・・やったあぁ!」
「遂に完治でございますか。なんかホッとすると同時に気が抜けてしまいますね・・」
「・・・この1ヶ月・・本当に長かった・・・けどあっという間だった・・・」
「それでだな。今日は1ヶ月ぶりに部屋を出て外で外食しようかと思うんだが」
「!!!」
「わあぁ!行きたいっ!行きたいっ!」
「いやぁ~ん。外で食事なんて・・・楽しみですわぁ!」
「・・・セリーはお水だけね・・・」
「ちょっ!待ってっ!もう大丈夫だからっ!食べ過ぎないからっ!」
「えぇ~。ほんとかなぁ?・・・」
「やだっ!お嬢様までっ!いいですわっ!そんなに意地悪するなら2人とも、もうこれから朝に髪を解かしてあげませんことよっ!」
「ああんっ。セリー、ごめんなさぁい!」
「・・・それは嫌・・・」
「ああんっもうっ。ひっつかないのっ!ルクリアっ胸揉まないでっ!」
「あ、でもミール。私たちこんな格好で外に出て平気かな?」
リリフの心配通り、3人共ピコルが選んでくれた吸水性に優れたモコモコの寝間着を着ている。
デザインは可愛らしく、とても似合っているのだが、外出するとなると目立ってしまう可能性があった。
「その点は大丈夫だ。もうそろそろピコルが洋服を見繕って持ってきてくれる事になっている。今日はピコルも一緒に食事するから、みんな改めてちゃんとお礼言うんだぞ」
「ぴ、ぴこるさんが来るのね・・・」
「沢山学ばなくてわっ。男性を手駒にする方法をっ!」
「・・・可愛いは正義・・・」
コンコンコン
ちょうどタイミング良く噂のピコル登場。
「わあぁ!みなさんお久しぶりですぅっ。お元気になったそうでなによりですっ。今日は宜しくお願いしますっ」
ピコルは元気よくお辞儀をする。
お辞儀の仕草すら可愛いピコルに、早くも圧倒される3人の娘達。
「かわいい・・・・はっ。あ、あはははっ。こちらこそですっ。よろしくお願いします!」
「ピコル様。本日も色々とわたくし達の為にご準備頂いてありがとうございます」
「・・・よ、よろしく・・・」
人見知りなルクリアはセリーの後ろに隠れて小声で挨拶する。
「きゃあぁぁ!貴方がルクリアちゃんよねっ?ミールさんから聞いてた通りだわっ。可愛いぃぃ!お人形さんみたぁぁいい」
ピコルは両手で持っていた、恐らく洋服が入っていると思われる紙袋をその場に投げ捨てダッシュ、ルクリアのパーソナルスペースを一瞬で越えて抱きしめる。
「ほえぇ??」
ルクリアはあまりに普通に抱きつかれて思考停止中。
「うわあぁ・・凄いおっぱい。貴方がセリーさんね。ちょっと触ってもいい?」
今度はあっという間にセリーに標準を合わせ、セリーの同意を得る前に胸をツンツンしている。
「ひゃあんっ」
「あっ。貴方がリリフねっ。とっても頑張り屋さんなんですってねっ?凄いわ。色々お話聞かせてねっ」
「ええっ?あ、はいい。こちらこそですっ。えへへっ」
ミールから頑張り屋さんと評価されていた事を知り、あっという間に陥落したリリフスピアーナお嬢様。ピコルと両手で握手しながらニヤニヤしている。
「す、すまないな・・・ピコル。ありがとう」
「いえいえっ。とんでもないですっ。あっ。洋服持ってきましたよっ。色々迷っちゃって、ついつい買いすぎちゃいましたっ。てへっ」
ピコルは投げ捨てた紙袋を布団の上に置き
「さあさあ、沢山買ってきたから早速試着しちゃおっ。まずは服を脱いで脱いでっ」
「は、はいっ」
「よろしくお願いしますですわっ」
リリフ達は早速服を脱いでいく。
ブルンっと露わになったセリーの胸を見て、ピコルは大きな目を更に見開く。
「うわっ、セリーさんっておっぱいデカすぎねっ!これじゃあサイズの合うブラジャー探すの大変なんじゃないのっ?!」
「そうなのですわっ!ルピロスでは一軒、専門の下着屋さんがありまして、大変助かっておりましたが、ガタリヤではどうなんでしょうか?」
「あははっ!そうよねぇ。あっ、でもガタリヤにもあるよっ!私行きつけのお店だから安くしてくれるかもっ!?今度一緒に買いに行きましょ!」
「まあっ!嬉しいですわぁ!宜しくお願い致しますですわ!」
「うふふっ!おっけー!リリフさんもルクリアさんも一緒に行こ!可愛い下着もいっぱいあるからっ!」
「あ、はいっ」
「・・大きく見せれる??・・」
「うふふ。大丈夫!ちゃんとパットもあるし、寄せて上げてくれるブラも沢山あるから!今流行りのスライムパットがオススメかも!張り付いてくれて、自然に見えるって評判なんだよっ!」
「・・スライムパット・・試したい・・」
「う・・・悔しいけど私もお願いします」
「あははっ。任せて!」
ピコルは投げ捨てた紙袋から洋服を取り出し、次々と布団の上に並べる。
ピコル自身がとても可愛いので、つい洋服も可愛い物ばっかりを想像してしまうが、実際布団の上に並んでいる洋服達はどれもセンスがよく、大人びた物からフリフリのゴスロリまで幅広く揃っていた。
「わあぁ・・・ど、どれにしよぉ・・迷っちゃう」
リリフの口から出た言葉にピコルの目がピカンっと光ったように見えた。
「ですよねぇっ!じゃあとりあえず着てみましょっ!さあさあっ、着てみて着てみてっ!これなんかいいんじゃないっ?あっ、こっちも良いかもっ!」
こうしてピコル主催のファッションショーが開催され、リリフ達は着せ替え人形と化すのであった。
お昼頃から始まった服選び。
リリフとセリーはピコルの助言もあって、そこそこ早く洋服を決めることが出来たが(それでも1人1時間)盛り上がったのは、やはりルクリアの洋服だった。
「きゃあぁぁ!可愛いぃぃ!」
「ねえねえっ!こっちもいいんじゃない?!ほらっ、これをこっちにして・・・」
「やだぁっ!それも素敵だわぁっ。じゃあここをこうするのはどうかしらっ?」
「まあっ!リリフっ!貴方天才ねっ!とっても可愛いわっ!」
「お嬢様っ。髪型をこうすればもっと似合うのではないでしょうかっ?」
「いやぁぁぁ~んっ。そうよっ!そうしましょっ!」
はしゃぎまくっている3人の勢いはとどまることを知らず、すでに3時間ほど経過していた。
当のルクリアは完全に為すがままの状態、まるで死んだ魚の目をしている。
ようやくルクリアの服装が決まり、各自簡単なお化粧も済ませたのは、もうすっかり日も暮れて夜になってからだった。
ピコルはカラフルな横縞が入ったワンピース。
襟元に花柄の刺繍がしており腰の部分には太いベルトを巻いていてピコルのとても細いウエストを際立たせている。スカートは膝上までの長さになっておりとても可愛い。
健康的な足がスラッと見えるところがチャームポイントなんだそうだ。
リリフは赤を基調としたベストとチェック柄のミニスカート。
ベストは綺麗に縁取りがされていて上品さが漂っており、一見すると学校の制服のような雰囲気だ。
頭には小さな帽子を乗せているのがチャームポイントのようで、イメージはアイドルなんだそうだ。
セリーは光沢のあるロングドレスで黒を基調としており、見た目はチャイナドレス風。
足元にはピンク色の蝶がデザインされており妖しい雰囲気を醸し出している。
超デカいおっぱいを敢えて全面に出さず、バックリと開いた背中がチャームポイントだそうで男共は白い肌に吸い込まれそうになるんだとか。
そして本命のルクリア。
髪型はツインテールにされており大きな水玉のリボンが付いている。服は水色を基調としたゆったりとした上着に下は短パン。動きやすい感じになっているが各所にヒラヒラが付いており可愛さは忘れていない。
当初はどこかのお姫様のようなドレスだったり、ゴスロリメイド服だったり、キャリアウーマンのようなビシッと決まったスーツなどなど、色々試してみたのだが・・・1周回って『やはりルクリア本人の可愛さを全面に出そう』とシンプルな感じに落ち着いたようだ。
肩から下げた小さなポーチがチャームポイントだそうで、お使いに来た子供のようなハラハラ感が萌えるらしい。
「はぁぁ・・やっぱりちょっと緊張するわね、外に出るのは」
「わたくしはお腹がぺこぺこですわぁ。結局お昼を食べ損なってしまいましたもの」
「・・・既に疲れた・・・」
「うふふっ。きっと街行く人達、みーんなっ振り向きますよっ。楽しみですねっ。さあっ、それでは出発しましょーっ!」
先頭で歩き始めるピコル。
ピコルの予想通り、かなり目立っており、すれ違う人すれ違う人みんな振り向いていく。そしてまずいことにミールは中央で、両手に花状態で歩かされている。
すれ違う人達は明らかに『うわっ。めっちゃ可愛い・・・え?あの男はなに?』『嘘でしょ?!あんな冴えない男に美女が群がってる!』『あんな男のどこが良いの?!信じられないっ!』等々・・・心の声が聞こえてきた。
しかしピコルとリリフは全く我関せず、めちゃくちゃ笑顔でミールの左右の腕に抱きついている。
リリフはともかく・・・ピコルよ。外ではイチャイチャしないとの約束はどこにいったんだい?
「はぁ・・・・」
思わず大きなため息を付いてしまうミールであった。
しばらくして一行は星雲街の5丁目、グレービー商会の前で立ち止まる。
「あれ?ここって・・・」
「ああ、グレービーの店だな。やっぱり今回の件はこの男・・・って言っちゃまずいのかな?グレービーがいなかったら解決は無かったしね。正に命の恩人を食事会に呼ばないと、あとで何を言われるかわからんしね」
「私は大賛成ですっ。グレービーさんにはキチンとお礼をしなきゃと思ってましたしっ」
「わたくしもですわっ。グレービー様が治療道具を持ってきて下さらなかったら今のわたくしはおりませんもの」
「・・・あのおばちゃん・・・おじちゃんだったの?・・」
B1Fにある店に向かいミールとピコルが階段を降りていくと、ちょうどグレービーが扉を開けてOPNEの札を出すところだった。
「あらぁ~んっ。ミールちゃんじゃなぁいっ?お久しぶりねぇ。なにぃ?おデート?相変わらずブスな女を連れちゃって」
「ブッ・・・」
ピコルは人生において、1度も言われたことがないかもしれない単語に絶句する。
「いやいや、何言ってるんだよ?ほらっ、行くぜグレービー。みんな待ってるんだから。店なんてやってる場合じゃないぜ」
「そ、そーですよっ。グレービーさんっ、さあっ行きますよっ!」
「きゃあぁぁ!なになに?拉致?いや~んっ。刺激的ぃぃ!ちょっとっ!触らないでよっカマトトブス!」
「カマっ・・・」
「女の子達がさ、今日初めて外食するんだよ。それでね、どうしてもグレービーにお礼が言いたいみたいでね。お店の時間で悪いんだけどちょっと出れるかい?」
「んふふぅ。ミールちゃんのお誘いを断るわけないじゃなぁい。いいわっ!ちょっと待っててねん。すぐ準備してくるからぁ」
グレービーはそう言うと札をCLOSEにひっくり返しバタンッと勢いよく扉を閉める。
中からドスンバタンっと慌ただし音が聞こえてくるが、宣言通り直ぐにグレービーは出てきた。
むわっと、とても良い香りがする。
「わあぁ!おじちゃんからとても良い匂いがするぅ。どこの香水なのぉ?」
「きいぃぃぃ!誰がおじちゃんよっ!お姉さんとお呼びっ!カマトトブス!」
多分仕返しにわざと言っているんだろう。
ピコル恐るべし。
階段を上ると3人娘が出迎える。
「あっ。グレービーさんっ。その節は本当にお世話になりましたっ!」
「グレービー様のお陰でなんとか命を繋ぐ事が出来ましたわ」
「・・・・おじ・・・おばちゃんありがと・・・」
「ちょっとっ!チビブス!今後あたしの事はお姉さんとお呼びっ!いいわねっ!」
「はいはいっ。さっ、行きましょ行きましょ!れっつごーっ」
「わあい。楽しみぃ~」
「沢山食べますわよぉ!」
「・・・おー・・・」
「きぃぃぃ!無視するんじゃ無いわよっ!」
さっきとは別の形で目立ちまくっている一行。
ギャアギャア言いながら安そうな居酒屋に到着する。
「あの~予約した者なんですけどぉ」
「あ、はい。え~っと・・・『ミールとピコル夫妻、その他大勢』様ですね・・・お待ちしておりましたっ。どうぞこちらへっ!」
「ちょっとっ!なによっ!その名前はっ!」
「ふざけんじゃないわよっ!ミールとグレービー夫妻でしょ?!普通!」
「・・・おえっ・・・」
「ちょと!チビブス!今なんか言った?!」
「さあっ、参りましょうっ。お食事達が待っていますわよぉっ、るんるん♪」
今日、無事に終えることが出来るのだろうか・・・・
そんな不安を抱きながらミールは引きずられるように居酒屋の奥に進むのだった。
幸い居酒屋は個室に案内されて、他のお客さんの迷惑にはならないようだったが、個室内はとにかく騒がしかった。
「ちょっとっ!ピコルさんっ。ひっつきすぎじゃないですか?ミールが困ってますよっ」
「いや・・・あの・・・」
「あらぁ。喜んでるの間違いじゃないのぉっ?リリフっちこそ、ぺったんこな胸を押しつけられてミールさん痛がってますよっ」
「ムカっ。そんな事ないわよ!ねっ?ミール!」
「え?・・うん・・・」
「ああんっ。ブス2人が言い争ってもしょうがないでしょ?!しょせんあんた達は愛人止まりなんだからん。あっ、お兄さーんっ!ビルビル(ビールの事)大ジョッキでおかわりお願―い」
「・・・おばちゃんは責めと受けどっちなの?・・」
「ふふ~ん。普段は責め責めだけどぉ・・・ミールちゃんなら受け止めてもいいわっ!思いっきり来て頂戴っ。て言うかおばちゃん言うな!」
「はあぁぁ。このジャガイモにチーズを乗せた料理、とっても美味しいですわぁ。おかわりしてもいいでしょうか?」
「あははっ。セリーっちは大食いだねぇ。栄養全部おっぱいにいってるんじゃないのぉ?」
「ちょっとっ。乳デカブス!あんた全く懲りてないじゃないっ。また寝込んでも知らないわよっ」
「ええ?寝込んじゃったの?セリーっち!?」
「そうなんですの。ちょっと体調を崩してしまいまして・・」
「な〜ぁに他人事みたいに言ってるのよっ!完全にセリーの食欲のせいじゃないっ!」
「・・・食中毒・・・」
「ぎゃあぁぁ!言わないでくださいましっ!」
「やっだぁ!セリーっち、ウケるぅー!」
「もう、ピコルさんったら。本当に大変だったんですからねぇ・・・あ、そだそだ。でもセリー。あの時守ってくれてありがと」
「・・・セリー燃えてた・・・」
「ええ??全く記憶にありませんわぁ・・」
「あはは。あっ!そうだ、ミール!あの時、私が貴族だとか言ってなかった??あれって何なの!?」
「ああ。あれはハッタリだよ。貴族の名前を出せばビビるかと思ってさ」
「もうっ、ミールったら・・でもあんな脅しにビビるなんて結構エロジジイもお粗末ね」
「・・・普段威張ってるヤツほど中身は小心者・・・」
「ははは。リリフは名字の意味は知ってるかな?」
「え?名字?それってスピアーナ家ってこと?」
「うんうん。名字ってのはね、一般的に階級が上の人、成功して財をなした人、特別な成果を上げた人しか付けることが出来ないモノなんだよ」
「え!?そうなの??」
「やだーぁ。りりふっち知らなかったのぉ??ウケるぅ~」
「しかも誰も彼も成功したとて付ける事は出来ない。政府に申請して審査されて・・・まあ、献金額多い順から許可がおりるんだ。つまりどれだけ沢山の賄賂を出したかという事。名字を持っている=財力があるって事の証明でもあるんだ。別にその他のメリットは無いんだけど、こういう人を見下せるステータスって金持ちは好きじゃん?だから結構人気なんだよ。でも審査が下りる人数は決まっていて、世界序列が高い方が当然有利。ルーン国は下から数えた方が早いし、その中でもガタリヤは最下位だ。当然この街で名字の許可が下りる人数は驚くほど少ない。だからこそ、あの修復士は信じたのさ。数少ない名字を付けてる人が平民な訳ないってな」
「そっかぁ・・・確かに自分から表示しない限り国籍とかは分からないもんね。だから信じたのかぁ・・・なんか知らず知らずにスピアーナ家の名前に助けられてたのね、私・・・」
リリフはしばらく考え込むが、何かを決意したようでガタッと椅子から立ち上がる。
「あ、あのねっ。ちょっとみんないいかな?」
「なになにっ?どうしたの?改まって」
「もちろんですわ。お嬢様。遠慮無く仰ってください」
「うんっ。あのね。グレービーさん、ピコルさん、今日ここにはいないけどグワンバラさん、そしてミール。沢山の人達に支えられて今日この場にいることが出来ます。改めてここでお礼を言わせてください。ありがとうございましたっ」
リリフはぺこりとお辞儀をすると、それに併せてセリーとルクリアが慌てて席を立ち、お辞儀をする。
「それでね、私たちはこれから新しい生活を始める事になります。だから良い機会だしハッキリさせておこうと思って・・・セリー。そしてルクリア」
リリフは2人の名前を愛情を込めて呼ぶ。
2人はリリフをジッと見つめる。
「今まで本当にありがとう。なんか私が生まれた時から一緒にいてくれてたから・・・いるのが当たり前みたいになっちゃったけど。2人は自分の為に人生を歩んで下さい。沢山尽くしてくれてありがとう。大変な目にあって・・・屋敷も繋がりも、なにもかも無くなった後も私を気遣ってくれてありがとう。とっても嬉しかったよ。これからはスピアーナ家の繋がりではなく、1人の友人として接してくれると私は嬉しいです」
セリーは大粒の涙を流しながら
「もちろんですわ。これからも宜しくお願いしますですわっ。お嬢様っ」
「ほらっ!もうお嬢様じゃないわ。リリフって呼んで」
「あっ。そうでしたわ・・・り、リリフ・・・さま」
「リ・リ・フ!」
「ああんっ。言い慣れてないので難しいですわっ。んんん~。よろしくね。リリフ」
「うんっ。よろしくっセリー!」
「・・・わ、わたしもありがとう・・・り、りりふ・・っち・・」
「もうっ!呼び方がピコルさんみたいになってるけどっ!まあいいわっ!よろしくねっルクリアっ!」
「きゃあぁぁ!感動だわっ!あんた良い子じゃないっ!気に入ったわっ。さあっどんどん飲みなっ!」
「うわわぁ。こ、溢れちゃうよっ・・・あ、そうだっ、ミール。私たちって明日から普通に外に出ていいのっ?」
「えっ?あ、うん。それでね、明日は前言ってた難民申請に行こうかと思ってるんだ。一応根回しはしてるから許可は下りるはずだから。無事申請が通ったら、いよいよ新たな生活に向けて活動開始かなぁ。住む場所は多分とうぶんはあの部屋を貸してくれると思うんだけど、やっぱり仕事を見つけないと生活基盤が出来ないからね」
「仕事かぁ・・・どんな仕事があるんだろう・・私、仕事するの初めてだから出来るか不安だわ・・」
「やだぁっ!仕事したこと無いってどんだけお嬢様なのよっ!ムカツクわぁ!」
「なにを言うんですか?グレービー様。ワガママ放題になってもおかしくないくらい甘やかされ放題に育てられたのに、お嬢様はこんなに素直に育ってるんですわよ?立派ですわっ」
「・・・おばちゃんうるさい・・」
「きいぃぃ!あんた達!あたしに感謝するんじゃなかったのっ?」
「それとこれとは話が別ですわっ」
「あー。おっさんちょっと黙ってて。それでそれで?なにかやりたい事とかあったりするんですっ?」
ピコルのグレービーへの対応がどんどんキツくなっていくのは気のせいだろうか・・
「えっと・・・ちょっと言いづらいんですけど・・・あの・・ほらっ、ミールが前に言ってたじゃない?自分にどんな適性があるか見てみるのもいいかもって・・だから私、ギルドで見てみたいのっ。自分の可能性をっ」
「おおっ。良いですねぇ。1度自分の適性を見てみるのも全然有りだと思いますっ。まあ、私は全く何も無かったんですけどね・・・あはははっ」
「ええっ?そうなんですか?ピコルさんみたいに素敵な人でも難しいんですね・・・適性を持つっていうのは・・・」
「やっだぁ~。リリフっち可愛いぃぃ!ちゅーしてあげるぅ」
「ぎゃあぁ!ピコルさんっ飲み過ぎですっ!」
「わたくしも見てみたいですわっ。ミール様が前仰っていたように殆どの人は適性未所持なんですわよね?大抵の方は学校に行かれて取得するのだとか・・」
「ああ、そうだな。大体長くても半年くらいで基礎適性は習得出来ると想うよ」
「まな板ブスは、もし適性を持ってたら冒険者にでもなるつもりなの?」
「まな板っ・・・えっと、恥ずかしいですけど・・・ちょっと憧れてはいます・・・ミールのように・・・本で読んだ物語の主人公のように、私も冒険がしてみたいって」
「大変だよぉ~?見かけ以上にっ」
「ですよね・・・でも・・・私、やってみたいんですっ。屋敷にいた頃は本当になにも考えてなくて、流されるまま、言われた通りに過ごしてただけで。自分で考える事も行動する事も無くて。でもミールに会って、命を救われて、私はもう一度自分の人生を初めて見たいっ。自分の意思でっ。そう思えるようになったんですっ!」
しばらく沈黙する一同。
「ふんっ。ブスのくせにいい目をしてるじゃない。頑張りなさいよっ」
グレービーはリリフのグラスに飲み物を注ぐ。
「はいっ」
「よおぉぉしっ。わたくしも頑張りますわよぉっ」
「え?なになにっ。セリーっちも冒険者になるわけっ?」
「はいっ。冒険者になって世界中旅をして美味しい食べ物を沢山頂ますわぁっ」
「あはははっ。セリーっちはブレないねぇ」
「うふふ」
「あはははっ」
「そうか・・・リリフはそんな事を考えていたのか。まあ、まだまだ時間もあるし、ゆっくりと決めていけばいい。俺もピコルもグレービーも相談に乗るから。とりあえず明日難民申請の後に本屋に行って、色々な職の本とか買ってみよう。まずは視野を広く持つことは重要だからな」
「あらやだ。ミールちゃんって意外と真面目なのねぇ」
「そーですよっ。うちの主人はそこら辺の男共とは違うんですっ。かっこいいんですっ」
「ちょっとっ!勝手に主人とか言ってんじゃないわよっ!」
「そーですよっ。ピコルさんっ。独り占めはダメです!」
「あらっ。リリフっちもライバルなのねっ。負けないわよっ」
「望むところですっ」
「ちょっと!あんたたちっ。私もカウントしなさいよっ。なに2人でバチバチしてるの!」
「すみませ~ん。ご飯おかわりぃ」
「乳デカブス!食い過ぎっ!」
いつまでも騒がしい店内だったが、将来の仕事の話をした頃からルクリアが黙ってしまっている。1人飲み物を飲みながら考え事をしているようだ。
ルクリアも幼い頃から使用人として働いていたって言ってたから、リリフ同様色々不安な事も多いだろう。
なるべく沢山の選択肢を用意してあげないとな・・・
ミールはピコルとリリフの胸に顔を挟まれながら、そんな事を考えていたのだった。
結局午前3時くらいまでドンチャン騒ぎをして、宿に帰ったのはうっすらと明かりが出てきた頃だった。
お昼過ぎにドアをノックすると全くの無反応。ゆっくりと扉を開けると、全員死んだように眠っている。
「やれやれ・・・」
苦笑いをしながら無理矢理窓のカーテンを開ける。
陽の光が1直線に部屋に差し込んだ。
「うきゃぁぁ・・むにゃむにゃ・・・」
それでも全く起きる気配はない。
ちなみにこの世界の扉には魔法鍵が一般的。
登録した者の魔力を込めると解除出来る仕組みだ。登録出来る人数は魔法鍵のスペックにより異なり、この部屋は5名まで登録出来るタイプだった。
「はいはいっ。そろそろ起きろー。16時には役場が閉まっちゃうから後30分くらいで出発しないと間に合わないぞぉ」
パンパンと手を叩きながら各自に冷気属性魔法を首筋にかける。
「ひゃあああぁっ。あ、ミール・・・おはよっ・・・ふわわわぁぁ」
そんな感じでようやく起きた女の子達3人。
急いで服を着て(今回は目立たない普通のTシャツにズボン)役場に向かう。
人事省の役場はガラス張りで造られた5階建の建物だった。
ガタリヤには大きなビルなどは勿論無く、ほとんどが2階建までなので役場は遠くからも目立っており、目印などにも利用されていた。
入り口に入る前にミールはリリフ達に再度確認する。
「念のため、もう一度聞くが・・・難民認定されるともうスーフェリア国民では無くなる。と言うことはスーフェリアに財産などがあった場合も相続権は無くなるけど・・・本当に良いんだな?」
「うん。構わないです。私は私自身の足で新しい一歩を踏み出すの。楽しい事もつらいことも全部自分自身で受け止めるわ。だから手続きお願いします」
「そうか・・・了解」
難民認定などは2Fが窓口のようだ。
ギルド長からは領主代理の許可は下りたと聞いていたので担当のボランという人物を探す。
聞いた話だとボランは領主代理に心酔しているらしく、簡単に言うとファンだという事で行けば直ぐ分かるとの事だった。
ミールはキョロキョロ見回し、それらしい人物を探す。すると明らかに1つだけ他の方とは違うディスクがあった。
大抵は魔法画面機の周りに書類が散乱していたり、山積みされていたりするのだが、そのディスクは領主代理の魔法絵(写真)が多数置いてあり、魔法画面機にも沢山貼り付けられていた。
あいつだ・・・絶対に・・・
「あの~ボランさん。ちょっといいですか?」
「あ、はいはいはい。なんでしょうか?」
「自分はミールって言います。難民認定の件でギルド長のザクトーニさんからお話ってお聞きになっていますでしょうか?」
「あ~。はいはいはいはい。聞いてます聞いてます。え・・・と。あ、これだ。リリフスピアーナさん、セリーさん、ルクリアさん。で、お間違いないでしょうか?」
「はい。合ってます」
「はいはいはい。ではこちらへ、証明魔法絵(証明写真)などを撮らせて頂きますねぇ」
そう言うと個室に案内するボラン。
「はいはいはい。では撮りま~すっ。顎ちょっと引いてぇ。はあい。そのまま~。はいっオッケー。次の人ぉ」
魔法絵を撮り登録魔石に触れる。すると身体全体がぼんやりと光り、それぞれステータスが更新されたようだ。
ミールが魔力でステータス確認すると、セリーとルクリアの職業の欄が使用人から空欄(無職ということ)に変化している。
「はいはいはいはい。ではこちらの魔石に触れてご自身のステータスの確認をお願いしますねぇ。国籍がルーン国になっている事をしっかり確認してくださぁい」
3人は魔石に触れて確認する。
「ちゃんと確認しろよ。焦んなくていいから」
「はい。私は大丈夫です」
「わたくしも問題ありませんでしたわ」
「・・・大丈夫・・・」
「はいはいはい。ではこれで手続き完了です。では今年の国民税、住民税、魔法税を残りの4ヶ月分それぞれお支払いお願いします」
「ああ、魔法通貨で頼む」
「はいはいはいっ。ではこちらの魔石に触れて下さい・・・・はい、確認しました。これで正式に皆さんはルーン国のガタリヤ街民です。で・す・が・・・今現在も順番待ちをしている方は多数おられます。アーニャ様のご指示とはいえ、あまり他の方には知られたくないので・・・くれぐれも内密にお願いしますよぉ」
「ああ。分かった。ありがとう」
「と・こ・ろ・で~アーニャ様とはどういったご関係で?まさか直接会ったり話たり、そんな羨ましい関係では無いですよねぇ?ねえっ?!」
ボランはググッと距離を詰め、ミールにだけ聞こえるような小声で尋ねてくる。
「あ、ああ・・・俺も1度も話した事無いよ。安心してくれ」
「そうですか。うんうん。やはりアーニャ様は清廉潔白なのですねぇ。はぁぁ・・・愛しのアーニャ様ぁ・・・」
ボランはミールの返答を聞くと安心したのか満足そうな表情を浮かべ、その後は妄想に浸ってしまった。
「そ、それじゃあ・・・ありがとな」
自分の世界に浸っているボランを置いてミール達は足早に役場を出るのだった。
「あの・・・ミール、お金ありがとう・・・」
「ああ、気にするな」
「はぁ。これで私たちもこの国の国民なんですね」
「ああ、そうだな。これで50日の問題もクリア。なんとかすんなり行ってよかったよ」
「・・・国から国への移住って・・・結構難しいの?」
「ああ、そうだな。これにはお金や治安の問題が絡むからね。中々一筋縄ではいかない事が多いね。本屋に向かいながらそこら辺を説明していこうか」
「うんっ。お願いしますっ。ミール先生っ」
「えーと。まず国民には毎年、国民税、住民税、魔法税、所得税や固定資産税を支払う義務がある。国民税は国に支払う税金で序列順に税率が変わっていく仕組み、序列最下位のガタリヤは1番高い税率となっている」
「うげ~」
「そして住民税はその街ごとに領主が自由に税率を決める事が出来て街に収めていく。これはガタリヤが1番安いな。序列1位の準聖都キーンはガタリヤの2倍の税率だ。領主が私腹を肥やしていると高いって事だな」
「ガタリヤの領主さんってとても評判良いって聞きましたわ」
「そして魔法税は国民税とよく似てるね。全員支払う必要があるけど金額は年で700グルドくらいだから少ないよ・・・まあ、魔法システムの使用料ってとこだね。あと所得税とか固定資産税は儲けている人が多く支払う税金ってことかな。自分の家を持っていたり、自分で事業を起こしていたりすると支払う額が大きくなるけど、貴族連中は特権で免除されてたりするな」
「貴族ずるーい」
「あとはその都度支払うのが消費税だったり、物資の運搬での関税だったり。場合によっては通行税なんてのを取る所もあるな。キーンとか」
「キーンの領主、嫌ぁい」
「そんな感じで国としてはホイホイと他国へ移動されると税収も減っちゃうからあまり良く思われないってのと、逆に他国から来る人も治安の問題でホイホイ入れる訳にもいかないから審査が厳しくなるってことだね」
「来る人にも厳しいんだぁ。私はどんどん入れて人口増やしちゃった方が、お金も沢山入ると思うんだけどなぁ~」
「どうしても土地の広さっていうか、結界の大きさは決まっているからね。あんまり無計画に増やしちゃうと過密になって狭くなっちゃうし、食料も沢山確保しないといけなくなるから大変なんだと思うよ。ガタリヤはまだ無いけど、聖都だったり他国の栄えている国は高層ビルっていうデカい建物を建設して、上のスペースを活用しようとしてたり、逆に大地を掘って地下に街を建設しているくらいだからね」
「へえぇ~。高層ビル・・・見てみたいですわっ」
「スーフェリア国の聖都は高層ビルだらけだって聞いた事あるぞ。あそこは人口も多いからな」
「・・・国によって結構違いがあるの?・・」
「あるね~。基本的に序列が高い国や街に人が集まる傾向にあるね。それだけメリットが多いから。逆に低い国や街は人口が減る傾向があるみたい。でもガタリヤのように国の序列も低く、街の序列も最下位だけど、人口が増えてる特殊な街ってのもあるから一概には言えないけどね」
「そうなんだぁ。でもどうしてガタリヤって特殊なの?あんまり見た目じゃ分からないけどなぁ」
「ガタリヤは国民税は高いけど住民税は安いだろ?それは領主が民の事を想ってしていることなんだけど・・・結果的にトータルで考えると民1人が払うお金はそこまで高くないんだよ」
「・・・他の領主も見習えばいいのに・・・」
「いや、確かにガタリヤの領主は低所得者には人気があるけど、富裕層には不人気なんだ。住民税を安くしてるからガタリヤには金が無い。金が無いから公共事業やインフラはどうしても後回しなるから、道路とか穴が開いてたりひび割れてたりするだろ?序列も最下位だから中々物資も入ってこないしね。そこら辺が不満な住民も一定数いるってことだね」
「難しいものですわね。街を統治するというのは」
「そうだね。そんな感じで通常は序列最下位の街は大抵、領主も圧政を敷いていて治安も悪いんだよ。どんどんガラの悪い連中は集まってくるしね。けどガタリヤは治安は良いし、領主の人気も高いだろ?だから人が集まるのさ、序列が低いから移住もしやすいしね」
「序列が低いと移住しやすいの?」
「ああ、うん。基本的に序列が高い国や街から、低い国や街に移動するのはあまり問題にならないね。でも逆が難しいんだ。高い国や街に住んでいると税金が安かったり優先的に物資が入ってきたりインフラが充実してたり・・・メリットが沢山あるから、それを序列の低い街や他国の奴に味合わせるのは勿体ないって考えらしいね。序列が高い所に住んでいるってのはそれだけで一種のステータスになるから。色々自慢出来るんだよ。簡単に言うと見下したいんだよね、他の連中を。自国第1主義って言うのかなぁ。わざわざ序列の低い連中を治安の不安もあるのに入れる必要は無いってことだね」
「ううぅ・・・わかる・・わかるけど・・なんかやだなぁ・・」
「だから序列上位の街に移動するのはかなり審査されるらしいよ。この人は自分らにとってプラスになりそうかってね。対して低い方に行く場合は、審査は結構緩いね。逆に問題行動を起こした者、犯罪履歴がある者を無理矢理送りつけてくるくらいだから」
「えっ?!追い出されちゃうってこと?!」
「そうそう。だから基本的に序列が低い街には、ガラが悪い連中が集まりやすいんだよ」
「そうなんですのねぇ。でも結果的にスーフェリア国がルーン国より序列が上だったのが幸いしたって事ですわよね?下の国に行くなら勝手にどうぞって、なりますもんね?」
「まあそうだな。ただリリフの家は富裕層だったからね。有能な人材や資産家とか、自国に利益をもたらしそうな人材は、例え低い街への移住でも許可は出ないみたい。前にも言ったけど序列が高い方に決定権があるから。今回は家も財産も全て無くしたって事の難民申請だから、すんなり行けたみたいだね。一応強力な後ろ盾もあったし」
「え?!後ろ盾でございますか?どなたでしょう?!」
「ははは・・・内緒だあ」
「あ~ん。気になりますわあぁぁ!」
そういえばセリーは知りたがりの一面もあったな。
最近はすっかり大食いのイメージが定着してしまって忘れていたが・・・
「さあ、着いたぞ。俺は職業関連の本を探すから、お前達は興味がある本があったら遠慮無く持ってきていいぞ。3冊まで許すっ」
「わあい!やったー!」
「ど、どうしましょう・・あれも気になる・・・これも気になる・・・あああん!」
「・・・古代怪獣プスドンを追え?!あるかな?・・・」
それぞれ思い思いの場所に散り本を探索する。1ヶ月前は想像つかなかった光景だ。
楽しそうに本を探すリリフ達を見ながら口元が緩むミールであった。
続く




