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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ドラゴン討伐隊⑧

 重力が再び現れ、自分が上の方に向かっているのを感じた。

 そして確かにいままで巻き付いていた舌の代わりに自分を支える2本の腕、ガッシリと自分の身体を支えている。


 恐る恐る目を開けると、そこには笑顔のミールが自分を支えていた。


「まだまだ死ぬわけにはいきませんよっ」



 ⇨ドラゴン討伐隊⑧




 ミールは、アニエスをお姫様抱っこの状態でガウディ達のもとに着地する。




 ギャオオウオウオォォォ!




 後ろでドラゴンが悲鳴を上げている。

 どうやら舌を切り離されたようで、近くにアニエスに巻き付いていた舌が転がっていた。



「なっ?黄色ちゃん!???」

「坊主????」

「え??ミールさん・・・??」



 口々に驚きの声を上げる一行。



「訳は後で話しますね。とりあえず少しだけ離れてて下さい」

 ミールは笑顔で言うと、アニエスを地面に降ろす。



 そして、背中のガラスのようなロングソードを引き抜き、ゆっくりとドラゴンに向かって歩いて行った。



「まじかよ・・・舌だけでも全く傷つかないくらい堅かったのにな・・・」

 グルジャンが独り言のように呟いた。



   グルルルルッ・・・

 


 ドラゴンはうなり声を上げながらミールを睨んでいる。

 ミールの透明な剣が白く鈍い光を放ち始めた。



 ヒュンッ


 ドラゴンの刃が横薙ぎにミールを襲う。

 ミールは殆ど動かずに身を少し傾け刃を交わす。



   ビュンッ


 先程よりも勢いを増した刃が左から、そして右からと次々とミールに向かっていく。



 それをミールは、ヒョイッと歩みを止めたり、横にずれたり、ギリギリで交わしていく。

 まるでガウディが集会所でヨーダに見せた、わざとギリギリで交わして実力の差を見せつけているかのようにも見えた。




    グオオウウウウウウ!




 大声を上げながらドラゴンは、上からミールを押しつぶすように尻尾を叩きつける。



 その瞬間、ミールはトンッっと地面を蹴り、一気に距離を詰め、ドラゴンの左肩にある瞳にグサッと剣を突きさした。



 ギャオオオオオォンンン!



 仰け反り暴れるドラゴン。



 ミールは華麗にクルクルと空中で回転しながら、ドラゴンとガウディ達の丁度中間くらいの位置で着地する。



 グオオオオオオオンンン!!



 ドラゴンは今度は尻尾をくの字に曲げピンポイントにミールを突き刺すべく、何度も何度も刺突攻撃する。



 まるでマシンガンだ。

 凄まじい連撃にぶわわっっと土煙が舞い、ミールの位置が把握出来ないほどだ。



「さて、それじゃあまずその尻尾を切り落とすとしますか」



 砂煙でミールの位置は特定出来ないが、確かにそう言ったのが聞こえる。




   ヒュンッ




 風音とともに砂煙が真っ二つに割れる。



 遅れて、あれほど多くの命を奪い、このドラゴンにとってもっとも重要な部分。

 伸縮性に富み非常に強度もあるゴムの塊のような尻尾が、あっさりと血しぶきをあげて切り落とされた。




    ズトオオォォォンン!!・・・




 切り落とされた刃の突いた尻尾は、ガウディ達とは逆方向の右側の地面に落下し、土煙を上げながらクルクルと回転し、壁に激突する。 



 それは刃の部分が壁に刺さりちょっとだけ地面から浮き上がった状態で停止した。

 尻尾はひらがなの『し』を逆にした形で壁に突き刺さりブラブラと揺れていて、アザのような『脈打つ瞳』は、しばらくすると脈動を止め黒ずんでいく。



「嘘だろ・・・一撃で切り落とした・・?」

「す、すごい・・・」



 ミールの人知を越えた、とてつもない力を目の辺りにし驚くことしか出来ないガウディ達。



 グゴゴオオォオオォオオォ!!!



 ドラゴンは前足をぐっと踏み込むと、大きな口を開けながら首を伸ばす。



「ま、もうそれしか出来ないよね」

 ミールは予想通りといった感じで余裕で交わす。



 グゴオオオ!

    グゴオオオオオ!



 ドラゴンは何回も何回も首を伸ばしミールを捕食しようとする。

 その度にふわっとジャンプしたり、ひょいっと後ろに下がったりして軽々と交わしていく。



 何回目だろうか・・?



 また攻撃を軽々とジャンプで交わしたミールだったがそれをみてガウディが叫ぶ。



「まずい!」



 ミールが降り立った場所は丁度ドラゴンとガウディ達の直線上だったのだ。

 もし今度もミールが避けた場合、代わりにガウディ達がドラゴンに食われる。



「ちぇ。なかなか上手く誘導できないもんだなぁ」

 少し残念そうに小声で言う。



 そしてミールは剣を顔の前に縦に構えて

「さよなら。ドラゴンちゃん」

 そう呟いた




 グオオオオオオオンンン!!




 ドラゴンが今度も大きな口を開け首を1直線に伸ばす。

 ミールはそのまま剣を縦にしながらドラゴンに向かっていった。




  ジジュジジュウジュジュッ・・

     



 ちょうど上着のチャックを閉めるときのような、少し心地良い音を立てながらドラゴンは口から首の根元まで真っ二つに切り裂かれていた。



 イメージ的に材木屋さんが木材を大きなカッターに向かって流し込んでいくような感じか。

 ドラゴンの首はミールの縦に持った剣を起点に綺麗に2枚に下ろされていた。




  ドオオオオオォォォォンン・・・




 ドラゴンのタイプによっては、首が無くても動き回る奴もいるのだが、このドラゴンはそうではなかったようだ。

 大きな身体を支えていた太い足が力なく横に折れ地面に倒れていった。



「勝ったの?・・・」



 誰とも無く呟くが誰も返答はない。



 クルッとミールは振り返り

「もう大丈夫です。ドラゴンは死にました」

 チンッと剣を収めながらニコッと笑顔で答える。



「うおおおぉぉぉお!!やったあああぞよぉおぉ!」

「嘘でしょ?!本当に!!??」

「信じられん!!こんな事が起るのか??!」

 などと喜びを全面に出す者



「怖かったあぁぁ。もうダメかと本気で思ったぁ」

「うおおおんん。生きて帰れるとは・・・」

 と泣き出す者



「ははは・・・・」

「助かった・・・」

 とペタンと地面にお尻をつけ呆然としている者など様々だった。



「やれやれ。こんな事が起るとは・・・長生きするもんさね」

 ルチアーニが額の汗を拭きながら呟く。



「と・こ・ろ・で!これはどういう事なんだい?黄色ちゃん・・・この黄色ランクってのも嘘なのかい?」



 ルチアーニがミールのステータスを見ながら尋ねる。

 それを皮切りに皆も一気にミールを問いただす。



「そうだそうだ!いったいどうなってるんじゃ?!」

「1人でドラゴンを倒すとか聞いたことないぞいっ!?」

「実は人間じゃないとか?」

「え?魔族なの?」

「あんなに悲鳴まで上げてっ!今まで弱いフリをして騙してたんですか?!酷いデス!」

 などなど。



 通常の人間ではあり得ないほどの、正に人知を越えた力を見せつけられ、疑問と不安が入り交じった皆さんは矢継ぎ早に質問する。



「あはははは。とりあえず落ち着きましょう。まずですね、僕のこの力はスキルによるものです。強敵覚醒というんですが、多分僕独自のオリジナルスキルではないかと思っています」



「オリジナルスキル?!本当に存在するんだ!?」

「ワシも始めて見るのぉ」

「それはどんな効果があるんですか?!」



「えっとですねぇ。今日みたいに強敵・・・デーモンとかドラゴンクラスでないとダメなんですが、そういった敵に対すると、自分の限界を超えた力が解放される感じですかね。どれ程の力が解放されるのかは今見た通りですね。野良デーモンクラスは一撃で倒すことが出来るくらい力が沸いてきます」



「なっ!チートじゃないですか?!」



「いやいや、しかしですねぇ。勿論デメリットもあるんですよ。それは何かと言うと・・・強敵ではない相手、つまりその他大勢に対しては全く力を発揮出来ないんです。正直ゴブリンすら倒せないくらい弱体化します。しかも僕自身には相手が弱ければ弱いほど強烈な威圧感、身もすくむような恐怖が襲ってきます。例えるならば世界を絶望の淵に落とす大魔王のように見えてしまうのです。なので決して弱いフリをしている訳ではなく正真正銘本気で弱いんです」



「ほおおおぉぉ。そんなスキルがあるとはねえ。そりゃ結構な諸刃の剣みたいなもんじゃのお?」



「そうですね。相手が弱ければ弱いほど力が失われるようなので、スライムとかめっちゃ強敵ですし、恐ろしいんです」



「そーなんだぁ。おもしろーいっ」



「いやぁ、結構大変なんですよ。ほとんどの戦闘では力を発揮出来ませんし、相手がモンスターなら多少対応する事は出来ますが、実は1番怖いのは人間なんです。モンスターは結界石を使えばなんとかなりますが、人間相手じゃそうもいかないですしね。なのでとにかく人間と関わる時は特に気を使いますね。僕は敵じゃないですよアピールがめっちゃ大変です」



「確かに黄色ちゃんは凄くハキハキ答える子だなって思ってたのに・・・いやだわ、おばさんちょっと人間不信になりそう。あれが演技だったなんて・・」



 ルチアーニはちょっとからかうようにミールに言う。



「いやあ・・・はははははは」

「あ、でも街中じゃ沢山の人がいるじゃない?その・・恐怖とかは大丈夫なの?」


「ええ、一応能力が弱体化するのは変わらないのですが、威圧感とかを感じるのはモンスターだけみたいなんですよ。なのでなんとか街中でも生活出来てます」

「そうなんだぁ」



 そんな中、少し離れた場所で1人ずっと黙って聞いていたガウディが口を開く。




「てことは、坊主。お前は俺たちがドラゴンと戦い始めた時から、既に力が解放されていたって事だよな?」




 ミールはやっぱり来たかと心の中で思う。しかし避けては通れない道だ。

 少しニヤっとした顔でガウディの問いに答える。



「その通りです。最初から解放されてました」



 その言葉を聞いてガウディはゆっくりと立ち上がりミールの方に歩いて行く。

 そして胸ぐらをガシッと掴んで怒鳴りつけた。




「一体何人死んだと思っているんだ!!何人だ?!何故黙って見ていた?!何故助けなかった?!お前なら出来たはずだ!どうしてこんなに殺されるまでなにもしなかったんだ?!」




 正にガウディらしい。

 率直で素直なその言葉にミールは思わずニヤける。



「理由は2つ。1つは僕がオリジナルスキル持ちだとバレると自分自身が危険な目に遭う確率が高くなるから。人間こそが1番警戒するべき相手なんでね。そしてもう1つ。助ける理由が無いから。どうして僕が赤の他人の為に命を危険に晒して助けなければならないんですか?って事です」



「赤の他人だと?!仲間だろ?!同じ討伐隊の仲間じゃないか!」



「仲間なんかじゃないですね。ただ行動を共にしただけの関係です」

 ここで言葉を句切って、少し強めの声質に変わる。



「僕はね、人として絶対に譲ってはいけない場面があると思ってるんです。ある程度、力がある者に、権力者に行動が流されるのは仕方がないでしょう。なるべく荒波を立てずに、穏便に済ませようと考えるのは自己防衛の本能ですから。そして平民と貴族のように圧倒的な立場の差があり、言われるがままに行動するしかない状況だったら話は別です。ですが今回は違います。彼らはドラゴン討伐のクエストに参加した冒険者達です。強制力も拘束力もない、自らの意思で参加した冒険者達なんです。ある程度、コートピアから来た銀ランク達に頭が上がらない状況だったとしても、絶対に譲ってはいけない境界線は引くべきだった。現にルチアーニさん達は止めに入りましたから。ヨーダ達を諫めることも、それはおかしいと声を上げることも彼らには出来たはずだ」



 ミールは唇を噛みしめる。



「しかし彼ら彼女らは、ザザの村で起こった犯罪行為になにもしなかった。人として絶対に譲ってはいけない場面で、ヤツらは高額な報酬のために、辞退することも、止めることもせずに、見て見ぬふりをしたんです。あれは許すことは出来ません。力を使って一方的に弱者を蹂躙し、屈服させる。僕の中では最も憎むべき行いです。なので、それに参加した者は勿論、止めに入らなかった者も含めて同罪です。だから・・・」



 ガウディの更に左側、1番左側で固まって座り込んでいる唯一の生き残りの冒険者達3名を指さしながら



「僕はガウディさん達とルチアーニさん達以外の人、貴方方3名が死ぬまで待つつもりでした。皆さんが巻き込まれそうになったので、仕方なく倒しましたがね。貴方方も僕にとっては死んで償うべき存在です」



 冒険者達3名は震える身体を抱きしめ合いながらミールを見ている。



「なんでやり直すチャンスを与えないんだ?!誰だって過ちを犯す事はあるだろ!そこから反省し学ぶ事も沢山あるはずだ!確かにザザの村の出来事は遭ってはならない事だ。しかし死んで償うなんて事は間違ってる!」



 ガウディはミールの胸元を掴んでいる拳に、より一層力を入れる。



「ガウディさん。僕はなにも死んで償えと強制している訳じゃないですよ。僕自身が相手を裁く権利なんて無いと思ってますから。ただ顔も名前も知らない相手の為に自分の命を賭けて戦うことは出来ない。力を行使して弱者を蹂躙するような相手を自分の命を賭けて守る事とは出来ない。それだけです。僕は正義のヒーローなんかじゃないですから・・・」


 少し寂しそうにうつむくミール。


「なので、そういった相手がいくら死のう生きようが僕には関係ないんですよ。そもそも僕1人が守れる範囲なんてたかが知れてますから。しかし、僕が関わった相手、気に入った相手、そういった人達だけは僕の手の届く範囲で守りたい、助けたい。それだけなんです」



 ガウディとミール。

 お互いに正義の為に力を振るっているのだが、考え方がまるで違う。



 片や出来るだけ多くの人を救いたい、世の中自体を平和にしたいと願う。



 片や自分の手の届く範囲、助けたい相手のみ守りたい。

 世の中はしょせん平和になることは無いと考える。



 お互いの考えは決して交わることの無い平行線のように思えた。



 集会所の事態の収拾の仕方を見て、いつか必ず考え方の違いで対立する時が来ると予感はしていた。



 当然だがガウディの考え方の方が何倍も難しいし大変だ。

 自分には真似をする事が出来ない難しい選択に、躊躇なく突き進む態度をミールは前から尊敬と敬意を持ち好感を持っていた。



 そして予想通り真っ直ぐに噛みついてくるガウディに、不思議と嬉しさが湧き上がってくるのを感じると同時に、ミールの考えを否定されて少し寂しい気持ちも若干感じられる。



「だがしかし!ザザの村で全員が陵辱に参加した訳ではないだろう。止めに入らなかった者も確かに若干罪はあるとはいえ死んで償うほどではないはずだ!約270人だぞ?今回死んだのは。どうしてそこまで・・!」



「だって誰が集会所にいた人かなんて戦闘中では分からないでしょ?」

「お前なあっ・・・!」



 ガウディは思わず拳を振り抜いた。

 顔面を殴られ吹き飛ばされるミール。



「黄色ちゃん!」

 ルチアーニが回復魔法をかけようと近寄るが、ミールは大丈夫って感じで手でそれを制する。



 尚も掴みかかろうと歩みを進めるガウディに対してアニエスが止めに入る。



「ガウディ!暴力は止めて!ミールは私たちを救ってくれたんだよ?!」

「しかしアニエスっ!」



「うん。分かってる、分かってるの。でもね、人にはそれぞれの考えがあって貫きたい思想もあるの。それを強制する事なんて出来ない。勿論間違っている考え方もあるかもしれない。でもね、今回のミールは自分の正義の為に行動したの。私たちだけでも助けたいって。それがこの結果だっただけで私はミールが間違ってるとは思えない。村の女の子達と直接会話して苦しみ、悲しみを肌で感じたわ。それを考えたら確かに命を賭けて守りたいとは思わなくなる気持ちも分かるもの」



「だがアニエス!こうしてる間にもドラゴンに苦しむ人々はいるんだぜ?自分の家だけ守れればオッケーなんて考えを全員がしてたら被害は何十倍にも膨れ上がるぞ!力ある者は被害を最小限にするために積極的に力を使うべきなんだ!」



「そう。少なくとも私たちガウディ一派はみんなその気持ちよ。でもね、それは私たちガウディ一派の考え方や理想の世界、夢だったりするの。その夢は他人に委ねるものではないでしょ?私たちが叶えなきゃ。1つ確実に言えるのが今回私たちにはそれを実現できる実力が無かった。そしてミールは自分の考えを貫き通す実力があった。その違いなのよ」



「くっ・・・」

 ガウディは黙って唇を噛みしめる。



 沈黙とともに地面を見つめるガウディだったが、しばらくしてクルッとミールを糾弾するのをを止めて、少し離れた場所であぐらをかき、ブツブツと面白くなさそうにいじけてみせた。

 本当に素直だなあっと感心するミール。



「ミール、ごめんなさい。頬大丈夫?悪気は無いの、許してあげて」

 アニエスが心配そうにのぞき込む。



「ええ、勿論。全く気にしてません。むしろ久しぶりに愛のこもったパンチを貰って嬉しい感じです」



「あら、ミールってもしかしてMなのかしら、意外だわ」

 アニエスは悪戯っぽく笑う。



「ミール、本当にありがとう。貴方がいなかったら私は今この世にいなかったし、私たち全員も全滅していたと思うの。ニアの時の件も含めてこれで借り2回ね。必ずいつかお返しするねっ」



 アニエスは可愛くウインクしてみせる。



 そしてちょっと暗い表情をみせて

「あのね、私のスキルで集会所にいた人達は把握出来るの。今生き残っている3人の中にあの時集会所にいた人はいないわ。だから許してあげて」

 依然、オドオドしている3人を見ながらアニエスが言う。



「そうですか・・・わかりました。元々今の僕はゴブリンすら殺せませんからどうすることも出来ないのですが、今回の事はこれ以上追求する事はしないようにします」

「ありがとう。助かるわ」



 アニエスはにっこりと微笑むと辺りを見渡し

「さてとっ。それじゃあまずは村と街に報告ねっ。ザザの村長と通知登録してるから村には私から連絡するわ」



「それじゃああたしがガタリヤのギルド長に連絡しとこうかしらねっ」



「え?ルチアーニさんってギルド長と通知登録してるんですか?珍しいですね、普通一般の冒険者とは登録しないのに」

 ミールが疑問を口にする。



「ふふふ。黄色ちゃんにはまだ言ってなかったかしら。あたし達は以前ガタリヤのタウンチームだったことがあるのよっ。あたし達がタウンチームを返上してから領主様は新たなタウンチームを指名する事が無かったから、今ではずっと空席のままだけどねっ」



「へえええ!そうだったんですか?!それは凄いですねっ」

「じゃあちょっと連絡してくるね~」

 アニエスとルチアーニはそれぞれ通話状態に入る。



「さて、わしらはとりあえずドラゴンの素材でも回収しとこうかね。あんまり多くは持てないが少しだったら大丈夫じゃろ。それじゃあまずは1番の貢献者、ミールからじゃな」



「え?僕からですか?僕は素材はあんまりいらないんですよ。どうせ売ることも出来ないし、かといって他に使い道もないですし」


「なんじゃ。そうなのか?」


「ええ。そもそも黄色ランクがドラゴン倒したって知られたら大騒ぎじゃないですか。それを防ぐためにいつもギルドにも内緒で対応してもらってるので。今回も自分は参加してないって事にするつもりです。1番怖いのは人間ですから」



 苦笑いをするミール。



 この世界ではドラゴンなどの高級な素材には誰が倒したか、どういう経緯で入手したかを証明する事が義務付けられている。

 討伐後にギルドに持って行くと、各素材にギルドが証明書を発行する。

 その証明書が無いと商人達は売ることも買うことも出来ない仕組みだ。

 このルールが出来る前は、素材を持っている者に対して略奪や強盗殺人などが横行していたのだが、現在はそういった被害はかなり少なくなっている。(ゼロではない)



「でも少しはなにか持っててもいいんじゃない?例えば鱗1枚でもかなり価値があるし、いつか役立つ事もあるかもよっ」



 いつの間にか通話を終えたアニエスが会話に入ってくる。



「そうですね・・・じゃあ眼光と鱗、あと小さめの爪をお願いします」



 通常ドラゴンの眼光、つまり瞳はもの凄い価値がつく素材だ。

 ミールは詳しくは知らないが、かなり高度な修復魔法の触媒として使われている代物で、何千万グルドで取引されてるって話もあるらしい。

 その代わり腐敗しやすいので扱いが難しい部類でもある。

 通常はすぐに魔法で冷凍保存されて市場に流れていくのだが、ミールはマジックポケットがあるので腐敗する心配が無い。

 かさばらないし、とりあえず持っておくかって感じの考えだ。



「おお。眼光か。こりゃ扱い難しいぞ。大丈夫かい?」

 ランドルップが心配そうに聞いてくる。



「ええ。まあ腐ったらその時はその時で・・・あまり荷物になる物は持てないので」

 マジックポケットの事は全員に内緒にするつもりなので、後でこっそりと収納する事にした。



「ほらよっ。ミール。眼光と鱗、そして小指の爪だ」




 ドサッ・・・ドスッ・・・ドササッ!




「・・・・・・」

 ランドルップが渡してきた素材を受け取り、思わず無言になるミール。

 何故ならどの素材も重量があり、そしてデカかったからだ。



 よく考えればその通り。

 このドラゴンは全長20メートル以上ある。

 例え小指の爪であろうとも、両腕で抱えて持つくらいの大きさがあった。

 普段、素材回収をしないミールには盲点だったようだ。



「なんじゃ?大きすぎたか?」

 ハンマー使いのボットが話しかけてきた。



「あ・・・はい・・・」

「しょうがないのぉ。ちょっと待っとれ」



 そう言うとボットはハンマーで素材を砕き、細かくしてくれた。



「ほれ。これくらいでどうじゃ?」

「あ、はい。これで充分ですっ」



「ふむ。眼光はどうしようかの?これはブヨブヨしとるし、砕けそうにないのぉ」

 ボットが言うように、瞳もデカく、バランスボールくらいの大きさがあった。

 このまま持って帰るのは骨が折れそうだ。



「眼光は前方のレンズ部分が価値があると聞いた事あるぞい。これだけ取り出して、そして切り取れば持って帰れるんじゃないかの?」

 ランドルップも素材を捌く手を止め、アドバイスをくれる。



「なるほどの。それでいいか?ミールよ」

「あ、はいっ。それでお願いします」


 ボットがミールの代わりに捌いてくれて、どれも手のひら大の大きさにまとめることができた。

 


「ありがとうございます、ボットさん。助かりました」

「うふふ。ソロで行動してるミールには、荷物を運ぶのも一苦労だもんね。仲間を募集したりはしないの?」

「あはは。自分は能力を知られる訳にはいかないので、なかなか・・・」

「そっかぁ。でもいつか、信頼できる仲間が増えるといいねっ。あ、もちろん、私達のPTに入るのもいつでもオッケーよっ。遠慮なく言ってね」

「がはは。ミールが入ったら俺が活躍する暇もなさそうじゃの」

「そうだな。あっという間に戦闘が終わりそうだ」


「ははは。まあ、お互い、生きて再会できたら、その時に考えましょう。それはそうと・・・今気付いたんですけど胃の中ってまだ生存者がいたりする可能性はないですかね?」




「・・・・」




 一瞬の沈黙。

 ミールの質問に全員が、『あ・・・』っとなる。



「そうだよ!ほとんど丸呑みにしてたから、まだ生き残りがいるかもしれない!」

「そんなに直ぐに消化なんてされないしねっ」

「ああんもうっ。私のバカバカバカ。どうしてこんな単純な事思いつかないんだろう!」



 急ぎ全員でドラゴンの身体を捌いていく。

 しかし皮膚は厚く肉質も固いのに弾力性もあり、中々胃袋に到達出来ない。



「あっ!これじゃないかい?パンパンに膨れてるよ!」

「おお。確かに。それじゃそれじゃ」

「うおっ!固ったぁー!めちゃくちゃ固いぞこれ!」



「ガウディ!!いつまで拗ねてるんだい!早くこの胃袋を切ってちょうだい!」

 アニエスが怒鳴る。



「なんで俺がぁ・・・」

 ごねるガウディに

「あんた言ってることとやってることが真逆じゃないか!少しでも生き残りがいる可能性があるんだ!ぶつくさ言ってないで早くおし!あんたじゃないとこの肉質は切れないよ!」



 アニエスの叱責にガウディは渋々と立ち上がり、前方の大きな肉の塊に向かって剣を構える。



「これが胃袋だとしたら小さすぎないか?270人食べてるんだぜ?」

「でも他に見当たらないし・・とりあえず中身をみてから考えましょ」

「そうだな・・・生き残りがいるかもしれないし、あんまりザックリとは切れないな。とりあえず根元の方から切っていくか」



 ガウディは大きく剣を振り下ろす。



「ふん!ぬお!はああ!!」

 何回か剣を振るい、ようやく胃袋を切り離す事が出来た。



「うぎゃああぁ。なんじゃこりゃあ」

「ひいい。ぺっしゃんこだぁ」



 出てきた胃の内部の状況に思わず全員が顔をしかめる。



 中から出てきたのは食べられた冒険者がぐしゃぐしゃに押しつぶされて原型を留めていない状態だった。

 かろうじて顔らしきもの、手らしきものを見分けることが出来るくらいに押しつぶされている。



「なんとまあ・・・言葉では言い表せない状況じゃな・・」

「これじゃあ生存者はいないわね・・・」

「うむ。恐らく胃袋自体が一種の砂肝のような役割をしているんじゃろうな。口で噛まない代わりに胃袋で噛み潰して消化を助けているんじゃろう」

「だから270人も食べれたのね・・・」



 補足として、鳥など口がくちばしになっている生き物は口でモグモグする事が出来ない。

 その代わりの役目をするのが砂肝という臓器だ。

 ここですり潰して消化を助けている。



 しばらく絶望的な光景を黙って見ているガウディ達。

 消化液が反応しているのか次第に辺りに異臭が漂ってくる。



「こうしててもしょうがないわ。私が穴を作るから埋葬してあげましょう。本当は村まで連れてってあげたいけどとても無理そうだもの」

「そうじゃな・・・可哀想じゃがドラゴンの胃袋で終わるより良いじゃろうて」



 そう言うとアニエスは呪文を唱え一辺が10メートル四方の穴を大地に作り出した。



 測量術士ってこんな事が出来るんだ?

 ミールは高ランクの測量術士には始めて出会ったので色々聞いてみたいのだが・・・今はそんな事を聞ける雰囲気ではないので皆と一緒に黙々と人間だった肉塊を穴に放り込む。



 悲惨な光景と異臭で吐きそうになるのを堪えながら全員必死に作業を続けた。

 皆、もしかしたら自分もこうなっていたのかもしれない・・・と考えずにはいられず背筋が寒くなる。



 唐突に

「あっ!リーダー!!」

 生き残りの3人の冒険者の1人が声を上げる。



 見ると奇跡的に顔の判別がつく2つの塊があった。その肉塊はお互いを抱きしめるような形で潰されている。



「リーダー・・・ターニアちゃん・・・」

 どうやらこの3人PTの仲間だったようだ。

 3人は2つの塊を抱きしめ泣いている。



「アニエスさん、すみません。この2人は別の所で埋めてもよろしいでしょうか?2人は婚約してたので・・・もう少し日の当たる場所に埋葬してあげたいです・・・」

「ええ。もちろん構わないわ。洞窟を出たら場所を探しましょ」

「はい。ありがとうございます」



 3人は涙を流しながら2人を衣類に包む。



 しばらくして全ての肉塊を土に埋葬し終えると

「さてと、それじゃあ後の素材はどうするかの?ミールはいらんって言ってるからのお」

「そのことなんだけど・・・もし構わないならザザの村の賠償に少し当てたいんだけど良いかしら?もちろん全部じゃないわ。一部だけ」

「ワシらは構わんぞい。どうせ老い先短いしの・・・若いもんにやってやってくれ」



「ありがとう。貴方たちも良いかしら?」

 アニエスは3人の冒険者達に質問する。



 3人はまさか自分達も素材配分の権利があるとは思っていなかったようでびっくりして

「え?!わ、私たちは全く構いません!そもそもなにもしてないので素材なんて受け取れませんです!」

「それはダメよ。私たちはドラゴンと共に戦った者同士なんだから。遠慮せずに貰って」



 こういった状況の場合、多くはこの3人を蚊帳の外にして自分達でどんどん決めていく事が多いのだが、アニエスはしっかりと3人に居場所を与えている。

 更に仲間と言わずに共に戦った者同士と言うことでミールにも配慮しているのだ。

 仲間達からもの凄く信頼されている理由が良く分かるやり取りであった。



 一通り素材を回収し終えた一同は

「よしと。それじゃあ残りはザザの村の連中も駆り出して後日回収する事にするかのぉ」

「あ、それだったら私たちもご一緒するわ。どうせガタリヤに護衛に行った仲間達も直ぐには帰ってこないもの」

「ほほおぉ。それはそれは。じゃったら村人の護衛も問題なし。正に鬼に金棒じゃな。ひひひ」



「黄色ちゃんはどうするかね?っと・・・もう黄色ちゃんって気安く呼べないわね。私達の命の恩人さんだもんねぇ」



「いやいや。全然今まで通りで大丈夫ですよ。僕もその方がやりやすいです」

「そうかい?じゃあお言葉に甘えて今まで通りでいかせてもらおうかねぇ」



「はい。是非。で、その前にちょっと皆さんにお願いがあるんですけど」

「おやまあ、なぁに?あらたまって」



「えっとですね。僕のスキルの事は一切を秘密でお願いしたいです。色々と面倒ですし、僕自身も普段は弱体化してるので対処出来ませんし・・1番怖いのは人間ですから」



「それはもう分かってるさね。あたしらの命の恩人なんだからさ」

「うんうん。私達もオッケーよ。決してミールの事は喋らないわ。あ・・そうか。だとしたらノイールとニアにも話せないって事か。それはちょっと面倒ね」



「ニアさんとノイールさんに対してはアニエスさんにお任せします。PT内で秘密にするのは大変でしょうから。あくまで第三者にって事で」



「ありがとう。それは助かるわ。ニアとノイールには責任を持って私から伝えるね」

「はい、ありがとうございます」 



「貴方達もいいかしら?」

アニエスは冒険者3人に問いかける。



「は、はいっ!もちろんです!」

「絶対に喋りませんっ!」

 姿勢を正して精一杯声を張り上げる。



「ありがとうございます。それで話を戻して、これからの事ですが・・・僕はガタリヤに帰ることにします。元々団体行動は苦手な方なので。1人でゆっくりと羽を伸ばしたいと思います」



「そうかいそうかい。それじゃあギルド長に報告は任せたよっ」

「ええ。上手く言っておきます」



「それじゃあ後は問題は1つだけじゃな・・・」



 ランドルップは一息深呼吸、それから腰に手を当ててながら1つの塊を見上げ呟いた。



「そうね。どうしようかしら」

「持って帰る事も出来そうにないですしねぇ。処分するしかないんじゃないですか?」



 ガウディ達が悩んでいる正体は・・・・出入口付近に置かれている巨大な卵の事だった。

 卵と洞窟は多少隙間があるので出入口から外に出ることは問題なくできるだろう。



 しかし、そのままにしたら恐らく地熱の効果で孵化してしまう可能性があった。

 通常だったら孵化しても親ドラゴンがいないので、しばらくしたら餓死すると予想できるのだが・・・ 今回は安心は出来ない。



 なにせこのドラゴンは稀少種というか、レア種というか・・・文献にも全く載っていない新種のドラゴンなのだ。



 その新種ドラゴンの赤ちゃんが通常のドラゴンのように最初は親ドラゴンからエサを貰い成長するとは限らない。

 いきなりノッシノッシと歩き出しエサを求めて暴れ回るかもしれない。



 だったらその前に壊してしまおう。

 いやいや、しかしこれだけの大きさだ。

 貧しい村にとっては貴重なたんぱく源である卵を破壊してよいのだろうか?

 後日村人を連れてきてから回収したほうがいいのではないだろうか?

 という感じの議論がなされている。



「実際に卵を産んでからどれくらいでう孵化するもんじゃったか?」

「大体20日前後ってとこですかねぇ」

「ふむ、じゃったらまだ日にちに余裕があるし村の連中を連れてきても良いとワシは思うがのぉ」


「いや、待つんじゃ。このドラゴンが孵化まで20日かかる保証は何処にも無い。もし後日卵を割って、その時にほぼ完全な子供が出てきたらどうするんじゃ?」

「その時は退治しちゃお」


「まあ、確かにガウディ一派がいるなら大丈夫だとは思うが・・・万が一、万が一じゃよ?もし親と遜色ない赤ちゃんドラゴンが出てきてしまったらどうするんじゃ?ここはミールがいる今のうちに破壊してしまったほうがいいんじゃないかのぉ」


「確かに・・・私もほんのちょびっとだけでもリスクの可能性があるのだとしたら、回避すべきだと思う。今回のドラゴンは普通じゃなさ過ぎるわ」

 アニエスの同調に皆頷く。



「それじゃあ破壊するって事でいきますかの」

「おうよ!盛大に行こうぜ!」



 ハンマー使いのボットとバーサーカーのランドルップはやる気満々に武器を構える。

 他の一同は少し離れて距離をとる。



 さあ、壊すぞって状態になった時に、唐突に洞窟の奥から不気味な笑い声が聞こえてきた。

 そしてミールはその笑い声に聞き覚えがあり顔をしかめる。



「うきょきょっきょきょ~~どうもどうもっ。まいどおおきにぃ。みぃなさん、初めましてでございまぁす~うきょっきょっきょ」



 不気味なステップを踏みながら現れたのは、小柄な老人。

 頭は完全にはげ上がっており左右に少しだけ紫の毛が生えていた。

 眉も髭も全く手入れをしてない感じで伸びに伸びているのだが、不思議と不衛生な感じには見えない。

 服は何処かの民族衣装の様に色々な刺繍が入っているのだが埃っぽく所々破れている。



 そして特徴なのは背中から背負っている提灯だ。

 2本ぶらんぶらんと揺れているのだが中に火は入っておらず、提灯にはそれぞれ『商売』『繁盛』と書かれている。

 全員、唐突な老人の出現と、そのあまりに不気味な出で立ちに硬直して動かない。



「おや・・・これはこれはミール様、お久しぶりですねぇ。うきょっきょっきょ」

 老人はミールに気付くと深々とお辞儀をする。



「なに?・・・ミール?この人と知り合いなの・・?」

 アニエスは老人から視線を逸らさずにミールに尋ねる。



「ええ・・・まぁ・・・」

 曖昧な返事をするミール。



「以前この老人がモンスターに襲われている所を助けた事がありまして・・・それからちょいちょい関わり合いがあるって感じですね・・」



「どんな人なんですかぁ・・?この人ぉ」

 パウニーがちょっと老人の風貌に引き気味に尋ねる。



「見ての通り怪しい老人です」



「・・・・」

 ミールのきっぱりとした返答に一同無言になる。



「うきょっきょきょっきょ。これはこれは手厳しいですなぁ。きょきょきょっ」

 老人はハゲ上がった頭をこすりながら答える。



「で?今日はなにを売りに来たんだ?」



 ミールは老人を助けた後も何回か会っており、その際に色々な商品を購入していた。



 ミールが奥の手として持っている雷爆の呪文を封じ込めた石や、古代の紙芝居のような玩具、そして背中に背負っているガラスのような透明なロングソード。

 これらは全てこの老人から購入したものだったのだ。



 最初こそモンスターから助けたお礼にとマジックポケットを無料で貰ったのだが、それ以降はかなり高額なお金を支払って購入している。



 まあ、どれもかなり稀少な品なので高額なのは仕方ないのだが、仮にもミールは命の恩人なのである。

 いつもその恩を着せてなんとか安く手に入れようと値引きを仕掛けるのだが、結局は老人の商売魂に根負けして気付けば高額な商品を買わされているのだった。

 買わなければいいじゃんって話なのだがミールは限定とかレア物とか言われるとつい購入してしまうタチなのだ。



「うきょきょっきょ。今日はですなぁ、そこに鎮座しておる卵!それを是非売って頂きたく参上した次第でありましゅ。どうですかな?この老人に売っては下さいませんかな?」



「これを売る?!へええ!ちなみに、いくらで買い取ってくれるの?」

 アニエスが興味本位で老人に尋ねる。



「うきょきょ。話が早くて助かりますなぁ。ざっと1億グルドでどうでしょう?」

「1億?!」

「うひょー!すげー!」

「ありがたやぁありがたやぁ」



 湧き上がる歓声の中、1人冷静なミール。

 今回こそは絶対に買わない!

 買うとしても相当値切る!

 そういう決意がみなぎっていた。



「で?買うだけじゃないんだろ?今日は何を売りに来たんだ?」



「うひょっひょっひょ。さぁすがはミール様。本日はですねえ、これです!」



 バンッと懐から取り出したのは子供が落書きしたようなお面。

 太い眉に垂れ下がった目、クルクルっとなっている髭を生やしていて口は大きくニッコリと笑っていた。

 どの箇所もクオリティは低く、まるで子供の落書き、ちょっとしたクレヨンで適当に描きましたって感じのお面を老人は天高く掲げている。



「これは・・・?」


「うきょっきょきょ。これはですねえ、畏怖のお面と言いまして、これを被ると大抵の人間にはその人がとてつもない強さ、恐怖を放つ存在に映るわけですねぇ。なので強いと勘違いした相手は一目散に逃げてくれるようになるっていう代物なんです。例えるならば、ミール様が普段モンスターから感じている恐怖、威圧感、絶望感。それを相手に味わわせる事が出来るのです。どうです?ミール様には正にピッタリの商品ではございませんでしょうか?きょっきょきょ」


「ほ、ほお・・・た、大抵の人間って事は・・・効かない者もいるってことか?」


「ええ、ええ。もちろん。ある程度実力の高い人間には効果を発揮しません。あくまで雑魚封じってことですねぇ。どうです?魅力的でしょう?きょきょきょ」



 ほ、欲しい・・・・

 めっちゃ欲しい!・・・



 先程の絶対に買わない、買うとしても相当値切る宣言はきれいさっぱり頭から消え、ミールはいくらお金を出しても絶対に欲しいという思考に変っていた。



 何故ならミールにとって1番怖いのはデーモンでもゴブリンでもない。

 結界石の効果が無い人間達なのだから。



 ミールはなまじ黄色ランクだという事で結構色々な冒険者達に絡まれがちなので、より一層怪しいお面が魅力的に映っていた。



 今までは必殺猫かぶりでなんとか凌いできたが、今後も通用するとは限らない。

 いつ集団で囲まれて襲われるか・・・



 この世界には殺人専門のチームも存在しており、一ヶ月に1~2件ほどは罪の無い住民や冒険者が殺人の被害に遭っている現状もある。

 弱い相手には相当弱体化してしまうミールには、正に喉から手が出るほど欲しい一品に見えたのだった。



「ぐむむむ。ほ、欲しい・・・」

 心の奥底から声を出すミール。



「うきょっきょきょ。さぁすがはミール様ぁ!今回は特別に2億グルドでお売り致しましょう!」



「たっか・・」

「ひええ」

 いつもの事だが今回もとんでもない値段を提示してくる老人。



「くそ・・・足りん・・・」

 全財産をはたいてでも手に入れようと思っていたミールだったが流石に2億は持っていなかった。



「おい。いい加減ちょっとは値引きしてくれ。まじで買えねーよ。今回は・・・」

「うきょきょきょ。それは残念ですなぁ!卵はお売りにならないのですかな?!」

「いや、卵は俺1人の物じゃねーし、勝手に売れねーよ」



「あら?ミールの好きにしていいわよ?ドラゴンを倒せたのはミールのお陰なんだから。貴方が素材の権利を持っていて当然だわ」



「ま、まじっすか・・?」

 素敵な提案をしてくるアニエスがミールには女神に見える。



「そうじゃそうじゃ。わしらに遠慮せんでええって。好きに使いんなさい」

「うんうんっ!ミール様々だからねっ。私たちは命があるだけラッキーだもん」

「うむ。好きに使うがよかろう」

 皆、口々にアニエスの意見に同意してくれる。



「み、みなさん・・・」

 ミールは瞳をウルウルさせながらみんなを見渡すが、1人だけ輪に加わらずそっぽを向いているガウディに目が留まった。



 いや、ガウディとて別に反対している訳では無い。

 ただ拗ねているからそっぽを向いているだけなのだが。



 そんなガウディを見ているミールに気付いて

「ほらっガウディ!いつまで拗ねてるの?!ミールが遠慮してるじゃない!男らしくなさいっ!」

 気遣いの女アニエスがガウディにハッパをかける。



「べ、別に拗ねてなんかねーし・・・」

 そう言いながらミールと目が合ってしまい視線を逸らしながら

「す、好きにすればいいじゃねーか。俺は知らんっ」



 プイッと後ろを向きながら言い捨てるが、どことなく口調が優しい。

 ミールは後ろを向いているガウディに深々と頭を下げる。



「きょきょきょ。ではではぁ。卵は売って頂けるのですねえぇ?」

「まだよ。ねえ、ミール。貴方残り1億グルドなんて大金持ってるの?」

「あ、はい。1億くらいなら・・・」

「まじか?!」

「おっ金持ちぃ~~!」

「おばさんと今夜どうだい?」



「はい!そこっ。静かにっ!」

 ピシッと皆を制するアニエス。



 これまでは、おじ様おば様連中に対して、常に敬意というか敬う気持ちを言葉の節々、態度に示していたのだが・・・

 ドラゴンから間一髪で生還してからか、どうもそこら辺からアニエスの存在感がワンランクパワーアップしたように感じる。



 死の直前まで行った人間は強くなるということか。

 いや、ガウディの気持ちを確かめられたのが大きいのかもしれない。

 恋は女を強くするのだ。



「ミール。貴方この商人さんを助けた事もあるんでしょ?もっと安くしてもらわなきゃっ。ねえ、商人さん。残りの1億グルドおまけしてくれないっ?」



 恋する乙女アニエスは、豪快にも残り全額を値引きしろと提案する。



「ア、 アニエスさん・・・それは流石に・・・」


「うきょーっきょっきょ。気に入りました!わたくし気に入りましたよぉぉ!お嬢さん!中々商売上手でいらっしゃる。いいでしょう!ではあの尻尾!あそこで壁に刺さっている尻尾も頂けますかな?それで全額相殺と致しましょう!」


「え・・・・まじ?・・・」



 呆気にとられているミールをよそに

「いいわっ!その条件飲もうじゃない!貴方もなかなかやるわねっ!また会いたいわっ」



「きょきょっきょ!商談成立ですなあぁ!とても素敵な品を手に入れることが出来ましてわたくしゾクゾクしておりますぞぉぉ。お嬢さんっまたお会いしましょう!」



 2人はガッチリと握手を交わす。



「あ、ミール様もまたお会いしましょう・・・」

 めちゃくちゃ素っ気なく言いながら畏怖のお面をポイッとミールに投げる。



「うおっ。危ねっ」

 ミールは大事そうにお面を抱える。



「うきょーきょっきょっきょ。ではではぁ。皆様、またお会いしましょう」

「おいおい。これはどーするんじゃい。いつ持って行くんじゃ?」



 ランドルップの問いかけには答えず、壁に突き刺さっている尻尾に向かって踊るように歩いていく老人。

 その場で尻尾を見上げるとびよ~んっと、とても老人とは思えない跳躍をみせる。

 そして尻尾の上まで飛ぶと、なんと空中で巨大なマジックポケットを出現させた。



「?!?!」



 マジックポケットを見たことがないミール以外の全員は、唐突に現れた巨大な黒い円を呆気にとられながら見つめている。

 そのまま巨大なマジックポケットはあっという間に尻尾を上から下まで包み込み、その中に収納する。



 続いてびょんびょんっと飛び跳ねながら卵の元まで近づくと同じようにジャンプ、一瞬で巨大なマジックポケットは卵を飲み干す。



 スタッと着地した老人はちょっとだけ衣服の乱れを直すと、そのまま踊るように洞窟内に消えていった。

 あの独特の笑い声を響かせながら・・・



 しばらく呆然としていたアニエス達にミールはクルッと振り向き

「ねっ。怪しい老人だったでしょ?」




 大きな卵と尻尾が無くなり、かなりスッキリした広場にアニエスの声が響く。



「ねえねえっ!ミール!そのお面使ってみてよっ!めっちゃ怖く見えるんでしょ?試してみてよっ!」

「そうじゃそうじゃ。興味あるのぉ。どんな風になるんじゃろ」



 ミールはお面を見つめながら

「そうですね・・・じゃあちょっと皆さんご協力お願いします」

 遠慮がちに・・・というかちょっと不安げにお面を被るミール。



 なにせデザインがデザインだ。

 まるで幼稚園児のお父さんが子供の作ったお面を被って遊んであげているような感じの完成度に、笑い声が起るイメージしか沸かない。



「ぷっ。ふふふふっ。あはははっ可愛いミール」

「ぐふふ。なかなか(さま)になっておるのお。似合っとるぞい」

「ふっ、おとこだな。ミール」



 アニエス、ボット、グルジャンの3人はミールの予想通りの反応だった。

 奥でガウディも後ろを向き、肩を振るわせ笑いを堪えている。



「ちっ。あのジジイ、まがい物売りつけやがったのか?」

 ミールがお面の効果を疑い始めたその時、アニエス達の後ろ側にいたルチアーニ達から悲鳴が起る。



「ぎゃあああああああああああ!!!!」

「うぎぇえええええええええぇぇ!!お助けをぉぉぉ!!」

「ワシが悪かったあああああああ!!!」

「ひいいいいいい!!!怖いよぉぉぉおおおおぉぉ!!」

 などと絶叫が広場にこだまする。



 見るとルチアーニPT、冒険者達3名、そしてガウディ一派のパウニーが泣きわめいている。



「なるほど、ある程度実力がある者には効かないって言ってたもんな。一応効果はあるみたいだな」



 冒険者達3名は当然として、元黒ランクのルチアーニ達(今は赤ランク)や、ガウディ一派のパウニーさえも悲鳴を上げている所をみると、そこそこの相手に効果がありそうだ。

 ミールはとりあえずは、まがい物ではなかった事にホッとしつつ、お面を外す。



「ひゃあぁぁぁあ。怖かったぁ・・・」

「ぐひぃぃ。想像以上じゃったな・・・」

「うぅぅ。腰抜けた・・・」



 全員ヘナヘナっと地面に座り込む。



「なになにっ?どんな風に見えてたのっ?」

 アニエスが興味津々に尋ねる。



「なんかこう・・・心の奥底から恐怖が湧いてくるような感じじゃったな・・・」

「もの凄い威圧感でした・・・」

「本能が危険を知らせてくるような感じがしたわさ」

「へええっ。そーなんだぁ」


「えええっ?アニエス姐さんは普通にみえたんですかぁ?凄いです・・・」


「俺も普通じゃったぞ」

「吾輩もだ」



「・・・・」

 しばらくの沈黙。



「えええええっ!!普通じゃなかったのって、ガウディ一派ではもしかして私だけですかあ?!!」

「そ、そうみたいね・・・あははは・・・」

「ま、パウニーじゃからな」

「気にする必要無し」



 一瞬の沈黙後、パウニーの絶叫が響き渡る。




「ひいいいん!しょんんなあああああああああっっ!!!」




 頭を抱え天を仰ぐパウニーの姿がそこにはあった。




 それぞれ素材を少し回収し、では帰りますかっと簡単な身支度を整え洞窟に入っていく。



 行きはとにかく息を殺してゆっくりゆっくりと進んでいた行程も、帰りは周辺の様子を見る余裕があった。

 洞窟内はルチアーニの魔法で明るく見渡すことが出来ており、途中幾つも横道があり風が吹き抜けて来ているので、他の場所に繋がっている道があるようだ。



 ふと横穴から結構大きめの地底湖があるのが見えた時は

「行きの時は全く気付かなかったけどこんな湖があったのねぇ。横道もこんなにあったのかしら。まるで違う道を歩いているみたいだわ」



「そうじゃのぉ。あれだけいた人数もこれだけになってしもうたしのぉ」

 ルチアーニとロイヤーの会話が聞こえてくる。



 コケまみれの岩肌に複数の足跡がついていたり、滑ったような形跡があるのを見て、まるで卒業アルバムを見ているかのような、懐かしい気持ちすら生まれてきていた。



 皆、色々と思うところがあるようでしばらく無言で進んでいく。

 5分ほど歩くと光が差し込んできて出口が見えてきた。



 洞窟から外に出るとアニエスは周囲を見渡し

「あっ。ほらっ!あそこなんてどう??ちょうど丘になってて陽当たりもいいんじゃないかしら?!」

 冒険者達に提案する。



「あ、はいっ!そこでお願いします」

「おっけー」

 アニエスはしばらく沈黙して魔力を込める。



  ボコッ



 アニエスのちょうど目の前に直径1メートルほどの穴が出来た。



     ふらっ・・・



 唐突にアニエスが体勢を崩す・・・が、いつの間にいたのかガウディがそっと倒れるアニエスを支える。



「ほらっ、いつもいつも無理しすぎだぜ。ったく・・・」



 見るとアニエスの額に沢山の汗が噴き出しており呼吸も荒い。

 明らかに魔力の使いすぎの症状に見える。

 とっさに支えてくれたガウディに少し驚いて、そして微笑んで見つめる。



「あははは・・・流石に魔力使いすぎだったか・・・失敬失敬・・まだ行けると思ってたんだけど、私ももう年ね。うふふ」

「全く・・・いつも限界まで働くからな、お前は。ほらっ乗れよ」



 ガウディはアニエスをおんぶする。

 他の誰1人アニエスの限界が近い事に気付いている者はいなかったが、ガウディだけにはお見通しだったようだ。



「あ、アニエスさん!本当にありがとうございました!すみません!気付かなくて・・」

 冒険者達3人は深々と頭を下げる。



「ううん。いいのいいの。ごめんね。ちょっと限界みたいだがら、この先の埋葬は貴方達に任せるわ。私たちはあっちで休憩してるから。終わったらこっちに来てね」

 ガウディが歩みを進めると再度冒険者が土下座しながら呼び止める。



「アニエスさん!さっきは嘘ついてもらって申し訳ない!・・・本当は気づいているよな?!俺・・実は!・・」



 冒険者の1人の言葉を遮って

「さあ!なんのことだかわからないわ~」

 ととぼけるアニエス。



 そして真面目な顔に戻り

「貴方がしたことを許すつもりもない・・・かといって罪を追求する気もないわ。今、貴方が生き残った意味をしっかりと自分自身で考えて、これからの冒険者生活に活かしていいってくれれば私は嬉しい。がんばってね」



 そう言うと弱々しい笑顔を見せて、そのまま気絶してしまったアニエス。

 ガウディの背中でスヤスヤと寝息をたてている。

 ガウディはアニエスを気遣いながらよいしょっと背負い直し、またゆっくりと歩みを進める。



 そんな2人に額がなくなるのではないかと思うほど地面にこすりつけて、泣き続ける冒険者であった・・・



 先程のやり取りは冒険者達3人の中の1人が、実は集会所にいた者でアニエスに範囲登録されていた1人だったのだ。

 当然アニエスは最初から気付いていたのだが、ミールが集会所の事件を嫌悪していたので、敢えて集会所にいた者はもういないと嘘をついてやり過ごしていたのだった。

 それを恩に感じた冒険者が罪を告白しようとしたっというやり取りだった。



「全く・・・気を使いすぎなんだよ、お前は」

 ガウディは誰にも聞こえないくらい小さな声で、背中の眠り姫に呟く。

 埋葬が終わるまでしばらく休憩する事になり、ルチアーニ達を中心に森林に笑い声がこだまする。



 やがて埋葬も終わり合流する冒険者達。



「さて。では行くとするかの。いいか?皆の衆。冒険はお家に着くまでが冒険じゃからな?気を抜く出ないぞっ」

「わかっとるわ。はよ行けジジイ」

「なんじゃと?!ワシは気を引き締めようとじゃな・・・」

「ああんもうっ。はやく行くよ。もう日が暮れちまうよ」

「は~い」「はーい」

 相変わらず息ピッタリのルチアーニ達。



「ん?どうしたんじゃ?パウニー。顔が真っ赤じゃぞ?」



 どれどれとみんなが振り向くと、確かにパウニーが顔を真っ赤にして下を向いて歩いている。



「パウニーちゃーん?どうしたんじゃ?」

 パウニーを下から覗き込み、尋ねるロイヤー。



「うううう。なんかさっきの休憩でようやく冷静になったというか・・・落ち着いてきたというか・・・頭が機能し始めたというか・・・心の整理がついて現実を受け止める事が出来てきたんです」

「ふむふむ」

「それでそれで?」




「私・・・私っ!もうグルジャンさんとボットさんと普通に接する自信無いですぅぅぅ!!!」




 唐突の告白に衝撃を受けるグルジャンとボット。

「な?なんでじゃ?」

「なにかしたか?」



 2人の全く心当たりありませんって顔にパウニーは

「2人ともただのエロジジイじゃないですか?!幻滅ですっ!」



 ここでようやくパウニーがなにを言いたいのか分かった2人。

 要はパウニーをオカズにしたとかの下ネタの類いの事を言っているのだろう。



「いやっ!あれは冗談じゃ!グルジャンは本気だったかもしれんが、俺は皆を笑わせようとしてだな・・・」

「なにを言うっ。お前がオカズにしてたのを吾輩は知っているぞ!吾輩こそお前に付き合ったにすぎんっ!濡れ衣だ!」

「なあにを根拠にそんなこと言っとるんじゃ?!俺はニア派だと、前から言っとるだろが!」

「お前がハアハア言いながら1人布団でパウニーの名前を言ってるのを聞いた事あるぞ!嘘をつくな!ニアは吾輩が貰うっ!」




「もう無理いいぃぃぃぃぃぃいいいぃぃぃ!!」




 2人の言い争いに我慢できないって感じのパウニーの絶叫が森に響く。驚いた小鳥たちがバサバサと飛び立つ。



 本来ならここら辺で『パウニー、騒ぎすぎだ。警戒心を忘れるな』とでも忠告をするガウディだったが、今日は黙って後ろをついてくるだけだった。



 勿論背中でスヤスヤと寝息をたてているアニエスを気遣っての事も多少あるが、ここでもし話の輪に入ったりしたらアニエスの事を色々といじられるのが目に見えているからだ。



「パウニーちゃん。男なんてそんなもんよ。みんな紳士なフリをしてても、心はエロいことしか考えてない生き物なんだから。騙されちゃダメ。でもねぇ、逆に言うとパウニーちゃんみたいな可愛い子がいるのに、なにも手を出さす素振りも見せない男はダメダメなのよ。いい?男は利用してなんぼ。村に着いたらおばちゃんが色々教えてあげるわさ」

「ふええぇぇん。お願いしますぅ」



「おいおい。まずいぞ。ルチアーニさん直伝とは・・・末恐ろしい・・」

「お、俺は大丈夫だ。なんか言ってきたらビシッと言ってやるわいっ」



「バカだねぇ~。そういう男が1番悪い女に引っかかるんじゃよ。ボットは苦労しそうじゃな。ひひひ」



「お、おおお俺は大丈夫な・・・はずだ・・たぶん・・い、いやっきっと大丈夫だ!ニアだったら危ないかもしれんがパウニーじゃろ?余裕じゃ、余裕」



「パウニーちゃんは見たところ天然入ってるからなぁ。予想外の攻撃が心に突き刺さるかもしれんぞ。ひっひっひ。コワイコワイ」



「いや、それよりもニアにこの事が伝わる方がまずくないか?折角今まで紳士キャラを演じてきたのに台無しじゃないか・・・ボット、すまんがお前が1人でしたこととさせてもらう」



「な、なにを言うっ!自分だけ逃げようったってそうはいかんぞっ。道連れだ!ぐわっはっはっは・・・・はぁ・・」



 なんかションボリしてしまったグルジャンとボット。

 その姿がなんとなく面白くパウニーは笑ってしまう。



「ふふふふっ。ニアに言っちゃお~っと。グルジャンさんとボットさんは実はエロジジイだったんですよぉ!ってねっ」

「ま、まてっ。パウニー。話し合おう。なっ?なっ?」

「そ、そうだ、パウニー。お前クリルプリスの港町で髪飾り欲しがってただろ?あ、あれ買ってやるぞ」



「えぇ~?どうしよっかなぁ~」



「パ、パウニーちゃん。荷物持つぞっ。俺に任せなさいって」

「パウニー様、食後のデザート、吾輩の分も食って良いぞっ」


「そおぉ?それじゃあちょっと考えてもいいかなぁ・・どうしよっかなぁ~」

 パウニーはニヤニヤと笑いながらグルジャンとボットをあしらっている。


「おいおい。すでに2人とも手駒になってるぞ・・末恐ろしい・・・」

「ルチアーニのアドバイスなんていらんだろ、これ・・・」



 ランドルップとロイヤーは、冷や汗を垂らしながら必死にパウニーの機嫌を取ろうとしている2人を、遠巻きに見つめるのであった。




 村までの道中はさして危険なモンスターも出現せずに、夕方近くには村に到着する事が出来た。

 当然途中何回かはモンスターが襲ってきたが、主にパウニーのご機嫌を取ろうと必死な2人があっと言う間に殲滅していたからなのだが・・・



「よおっ村長!今戻ったぞ!」



 入り口の結界を通過すると、ガウディが一段とデカい声で叫ぶ。



 村長たちはアニエスの連絡を受けて、討伐隊の帰りを広場で待っていたようだ。

 だがちょうど夕陽に照らされてガウディ達は逆光となっており、誰だか分からずに少し警戒しているようにも見える。

 しかしガウディの馬鹿デカい声に安心したのか、小走りに近づきガウディ達を出迎える。



「おお、おお。ガウディ様。お帰りなさいませ。ご無事でなによりでございます」



 村長の頬は青なじみになっており痛々しい。一応回復魔法で治療したっぽいが、触媒が乏しい村などでは修復もままならないのだ。



 他の村人は、討伐隊が最初に到着したときは総出の出迎えだったが、やはりヨーダ達の一件で警戒しているようで視線は感じるが皆、家の中から様子を伺っているらしい。

 広場にいる者は村長と重役、警護の者など極少数だった。



 村長はガウディ達を見渡し

「本当にご苦労様でございました。ところでガウディ様・・・他の皆様は・・・?」

 村長は遠慮がちに尋ねる。



「俺たちだけだ。残りは全員死んだ。ドラゴンに食われてな・・・」

「なんとっ?!」

「全員か?!」

「信じられん・・・」

 ざわつく村長たち。



「村長。まだ一日も経ってないのにこんな事言うのは酷かもしれんが・・・アイツらを許してやってはくれねえか?あいつらは村にとんでもない事をした。それは事実だ。しかしまた、命を賭けて戦った事も事実なんだ。あいつらは勇敢に戦ったよ。そして死んでいった、仲間の為にな・・・そして見事ドラゴンを倒した。正直俺たちも死んで全滅してもおかしくないくらい強いドラゴンだったよ。みんなドラゴンの胃袋の中に収まっちまって・・・最後はどれが頭の部分なのか手の部分なのか分からない程、みんな原形を留めてなかったよ。仕方なくその場で埋葬してきたが、あんなに懸命に戦い抜いた奴らを生まれ故郷に返す事も出来ず、更に犯罪者の汚名まで着せられるとなるとな・・・勝手だがちょっと心が痛んじまってよ・・・勿論完全に無かったことにしてくれって訳じゃねーんだ。ただよっ、少しで良いからアイツらの命を賭けた戦いをくんでやってほしいんだ」



 村長は静かにガウディの言葉に耳を傾けている。



「ガウディ様。仰りたい事はよく分かりました。確かに村人達には心の動揺も多く、今この場で全てを無かったことにするのは難しいとは思いますが、ガウディ様の思い、しかと村人達に伝えましょう。そしてガタリヤで訴訟を起こす事は取りやめるようになんとか説得したいと思います。命を賭けて戦ってくださった討伐隊の皆様に敬意を表して・・」



「すまんな、村長。恩に着るぜ」



「滅相もございません。ガウディ様には本当に感謝しております。ありがとうございます。まずはお食事の準備が出来ておりますのでどうぞこちらへ」



「おお、やったぜ」

「ひいい。お腹ぺっこぺこだぁ」

「おしっ、今日はたらふく食うぞぉお!」



 それから広場で即席のテーブルが用意され、皆それぞれのお腹を満たしていく。

 その頃にはアニエスも目を覚まして一緒に食事を取った。

 次第に村人達も集まり始め、まず村長が事情を説明。

 続けてガウディが村長に言った事とほぼ同じ内容の言葉を皆に伝える。

 やはり悲惨な事件からまだ一日しか経っていない事もあり、村人達は複雑な心境だったようだが概ね理解されたようだった。



 それからやはり死の寸前まで行ったわけなので精神の疲弊が限界に来ていたのだろう。皆直ぐに深い眠りについたのだった。




 そして翌朝、皆が遅い朝食を取ろうと即席の食堂となっている広場に足を向けると、そこには出発の準備を整えているミールがいた。



「なんじゃ。もう行くのか、ミール」

「あ、はい。おはようございます。なるべく夜には危険地帯を抜けたいのでお先に出発させて頂きますね」

「ええ~!ご飯食べてきなよぉ」

「ははは。もう食べましたよ。がっつりと」

「うそっ。私そんなに寝てた??」

「ええ。もう10時過ぎですね」

「ひええ。やっぱ疲れてたのかなぁ」


「あら。ミール。出発?」


「あ、アニエスさん。おはようございます。ええ、そろそろ行きます」

「そっか・・・色々有ったけど心から感謝してる。ホントよ?出会えて良かったと思ってるわ。私たちはニアとノイールが帰ってくるまで村人達と一緒にドラゴンの素材を回収してくるわっ。またいつか会いましょ。必ず」

「ええ、もちろん」


「おやおや。黄色ちゃん。もう行くのかい。つれないねぇ」


「ははは。ルチアーニさん達もお元気で。ま、また直ぐにギルドでお会いすると思いますけどねっ」

「そうじゃな。そんときはワシが元タウンチームとして色々教えてやるきに」

「まーたそうやって直ぐに先輩風吹かせようとするっ!あんたじゃ黄色ちゃんの足元にも及ばないよ!」

「なにを言うか。ワシ相手じゃミールは全力だせんから行けるわい!」

「じゃあ、その時はお面使いますね」

「そうじゃったああああ!!あのお面はもう勘弁じゃっ!寿命が縮む」

「ははははは」


「でも黄色ちゃん。本当にありがとね。そしてなんか困ったことあったら遠慮なく言って頂戴。私はいつまでも黄色ちゃんの味方だからねんっ」


「はいっ。ありがとうございます」

 それぞれ別れの挨拶を交わす。



 最後にガウディがちょっと気まずそうに、だがしっかりとした足取りでミールの元に歩いてくる。



 後ろでアニエスが腕を組んで、ご立腹な様子でほっぺを膨らませているので、恐らくいじけているガウディにハッパをかけたのだろう。



「まあ、その・・・なんだ・・・わるかったな・・・」



「はっきりおしっ!!」

 アニエスの怒号が響き渡る。



「だあああっ!くそ!分かったよっ!俺が悪かったよ!すまん!坊主!」

 ガウディはぐっと頭を下げる。



「なにを言ってるんですか。僕は正しい事をしたつもりもありませんし、ガウディさんが謝ることはなにもないです。僕は・・・ガウディさんに憧れてました。その真っ直ぐ突き進む行動力に。僕も以前は沢山の人を出来るだけ救いたいって思ってました。しかしその道は思いのほか険しく・・・僕は途中で諦めてしまったんですよ。しかしガウディさんは・・・ガウディ一派は真っ直ぐに困難に立ち向かっていた。ガウディさん達を見て、僕も少し昔の気持ちを思い出しましたよ。今度会うときがあったら・・・少しでもガウディさん達の思いに答えられるような自分でいたいと思います」



 ガウディはミールの言葉に返答する代わりにぐっと右手を出す。

 ミールもニコッと右手を差し出した。

 お互いガッチリと握手を交わす。



「あっ。そうだ。1つだけお願いがあるんですが」



 ミールとガウディは握手をしたまま

「なんじゃい。遠慮無く言ってくれ」


「ありがとうございます。実はですね。今回のドラゴンはガウディ一派が倒した事にして欲しいんです」

「ああん?なんでじゃ?」


「僕の存在は当然内緒になってまして・・・そうすると生き残っているのがルチアーニさん達と他3人だけって事になるんです。正直ルチアーニさん達がドラゴンを倒して残りは全滅したって説明だと腑に落ちないというか・・なんというか・・・そういう人も出てくると思うんです。でもガウディ一派が倒したって事にすれば全員納得してくれるので。ちょっと今回はガウディ一派の威光をお借りしたいなと・・・」


「なるほどな・・・まぁ・・いいじゃろっ。わかったっ!任せておけっ!」

「ありがとうございます」



 ガウディは握手した手をブンブンと上下に振り

「またなっ。坊主!」

「はいっ。また会える日を楽しみにしてます。お元気で」

 ガウディはとびっきりの笑顔を見せてミールの背中をバンバンと叩き



「よおおおししし!村長―ぉ―!!若い衆を集めたかあ?!!これから毎日ドラゴンの素材を回収して行くからなぁ!ビシバシ行くぜぇえ!気合い入れて行けよぉ!」



 ガウディの大声が広場に響く。

 ミールはそんなガウディの背中に一礼してクルッと反転、村を出てガタリヤに向かうのだった。




 ガウディ一派やルチアーニ達と別れ、1人街道を進むミール。

 その表情は暗い。

 賑やかな連中と別れたからかという訳でもなさそうだった。



 ミールは考え事をしていたのだ。

 その考え事とは大きく分けて2つ。



 1つは新種のドラゴン。



 もちろんドラゴンについては、まだまだ謎も多く分かってない事の方が多いのだが、それにしても今回のドラゴンはあまりに奇怪すぎた。



 言葉も通じず、通常のドラゴン、古龍、巨大龍とは、かけ離れた存在。

 変異種というより全く別次元のドラゴンのように思えたからだ。



 そして唐突に現れ卵と尻尾を回収していった老人。あまりにもタイミングが良すぎる。

 まるで初めから見ていたような感じだ。



 そして2つめ。



 デーモンが出現していないこと。

 あれだけ死体が出れば普通、間違いなく具現化しているはず。

 それが今回は1体も出てきていない。



 通常はだいたい50体前後の死体があると現出すると言われている。

 確かに死体の数は推定だ。30前後で現出する時もあれば100くらいでようやく現出する時もある。

 だがしかし、今回はおよそ300人近くの死体があったのにも関わらず1体も具現化していない。

 もちろん、デーモンは直ぐには現出しない。多少ラグがある。

 しかし今回はドラゴンの解体、人々の埋葬、そして卵の対応。かなりの時間滞在している。

 なのに黒い水たまりは1つも現れていない。



 これは異常だ・・・



 もしかしたら自分の知らない法則があるのかもしれない。

 それとも権力者達の暗躍が糸を引いている可能性も。



 どうやら自分も気付かないうちに大きな渦の中に巻き込まれている・・・



 そんな背筋が凍るような感覚を感じつつ、街道を進むミールであった。




 ドラゴン討伐隊  ~完~

 

 次話  『ガタリヤ奮闘記』              

リリー「最後まで読んでくれてぇ、ありがちょぉぉ!」

ルチアーニ「え?なんだい?誰だい、あんた」

ランドルップ「えらい可愛い子じゃのぉ」

ロイヤー「僕ロイヤーって言います!初めまして!」

リリー「きゃーっ!かっわいいぃ。おじいちゃん、良い子良い子」

ロイヤー「でへへっ」

ルチアーニ「秒で陥落されてるんじゃないよ、全く」

リリー「なんかぁ、作者ちゃんがねぇ。リリーの事、お気に入りなんだってぇぇ♡。だからぁ、ひいきされちゃったのぉ。おじいちゃん達もぉ、リリーの事、好きになってくれればぁ、ひいきしてくれるかもよぉ?」

ランドルップ「リリー様。ポチとお呼び下さい」

ルチアーニ「あんたもかい・・・」

ミケル「俺はルチアーニの方が断然可愛いと思う」

ルチアーニ「まぁ、ミケルったら・・・ぽっ」

リリー「はああぁ?!あんたバカじゃないのっ!こんなババアに私が負けるっての?!○ねっ!ボンクラ!」

ランドルップ、ロイヤー「ひいいぃ!豹変しおったぞぉお!」

リリー「ちょっと!そこのおばさん!何か言う事が有るんじゃ無いのっ?!早く言いなさいよ!それからキッチリと白黒ハッキリさせるんだからっ!」

ルチアーニ「あ、ああ。えっとね。最後まで読んでくれてありがとね。お話はまだまだ続くだわさ」

ロイヤー「いいねやブックマークしてくれると嬉しいぞいっ!」

ランドルップ「評価やコメントも貰えると、やる気がアップップじゃっ!」

ミケル「ぐうたら作者のお尻を、お前達で蹴り飛ばしてやれ」


ルチアーニ達『それじゃあっ、まったねええぇぇ!』


リリー「ちょっとっ!なに勝手に終わらせてるのよ!私は復活するのよね?!ねえ?!」

作者「・・・」

リリー「いやああああぁぁぁ!」


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