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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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ドラゴン討伐隊⑦

 そして魔法職の部隊から次々と魔方陣が多数出現した。

 ゼノの主であるフェリスのように2つの魔法陣を出現させている者はいないが、それでも凄まじい炎や氷の矢、雷撃などがドラゴン目掛けて突き進む。


 かくして戦いの火蓋は切って落とされたのだった。



 ⇨ドラゴン討伐隊⑦




 続けて前衛が突撃する・・・はずだったが。



 なんと魔法攻撃の全てが、先ほどまでドラゴンが寝ていた箇所の地面を、虚しく削り取っただけだった。



 何故なら魔法攻撃が発動したと同時くらいに、ドラゴンは急に目を開け、さっと左に移動して攻撃を回避したのだ。



「なに??こいつ起きてやがったのか?!」



 ドラゴンはそのまま左部隊にグワオオオォォっと叫び声を上げながら突撃する。



「うおおお!!」

「全員回避!!回避――!!」

 ヨーダが叫ぶ。



 幸いドラゴンの動きは鈍く、左部隊は全員中央部隊のもとに移動する事が出来た。




 ドオオオオォォォンンン・・・・




 ドラゴンはそのまま壁に激突して止まる。砂煙が辺りを舞った。



「へ、なんだ。動きは鈍いじゃねーか」

 コイルがホッとした感じで呟く。



 しかし・・・



「いや!違う!出入口を塞がれた!」

 ガウディが叫ぶ。



 そう、ドラゴンは身体を押しつけ丁度洞窟を塞ぐように位置を取り、冒険者達の方にゆっくりと向き直ったのであった・・・




 まずはドラゴンの外見から説明しよう。



 全体は紺色の鱗が鈍く光っている。

 身体の大きさからみると決して長いとは言えない4本の足が生えており、腹ばい、うつ伏せの状態だ。

 イメージ的には短足の犬、ダックスフンドに近い。



 そして目を引くのが尻尾だ。



 太く長い尻尾の先端には大きな鎌のような三日月の形をしている刃が付いており、それを身体の上から伸ばしている。

 刃の下にはアザのような瞳があり、よ~く見るとドクンドクンと脈打っているのがわかった。尻尾はグリンと前に突き出しており、まるでサソリのような感じだ。

 そしてその尻尾の付け根部分(簡単に言うとお尻)を押しつけて洞窟の出入口を塞いでいる。



 背中部分からは翼が生えているが、とてもこの大きさでは飛ぶことが出来ないように思えた。

 もしかしたら退化しているのかもしれない。

 地上を走るタイプか?

 しかし先程の動きからすると、俊敏しゅんびんさは微塵みじんも感じられない。



 そしてなんといっても不気味なのが顔だ。



 このドラゴンの口は横に開くようで、まるでクワガタの顎角のような形をしている。

 しかしクワガタの顎角と違ってこちらは完全に口となっており、先端部分まで歯がびっしり生えている。

 びろーんっと伸びた舌はヨダレを垂らして、舌も口の隅々まで届くくらいの長さがあった。



 目はなんと4つあり、両肩に1つずつ。頭部に2つだ。

 そして一つ一つが別々の場所を見ているようにギョロギョロ動いており、更に不気味さを際立たせていた。



 ドラゴンは冒険者達を満面に笑みを浮かべているような雰囲気で見下ろしている。



「なになに?このドラゴン?!初めてみたんですけどっ!」

「私も始めてよ。文献にも見たこと無いわ。亜種というよりは変異種なのかもしれない」



 パウニーとアニエスが焦りの声を上げる。



「運もないのぉ。出入口前に陣取られちまったわい」

「いや、ボット。こいつは分かってやってるっぽいぜ」



 ガウディがドラゴンから目を離さずに苦笑いする。



「完全に寝たふりしてやがった。知性もかなりあるぞ!警戒しろ!」

 ガウディの言葉に討伐隊全員に緊張が走る。



 ミールも冒険者ギルドでマーカーのライオンズの言葉を思い出した。

 次々と隠密性に特化しているマーカー達を始末していった。

 つまりそれだけ索敵能力も俊敏性もあるという事だ。

 気付かないはずはないのだ、これだけの大人数を。



 寝たふりをして罠を張って全員を食べ尽くすつもりなのだ。



「もう一度だ!やつが出入口を塞ぐなら好都合!遠距離攻撃で的にしてやれっ!」

 ヨーダの一声に再度魔法攻撃や弓などで攻撃を開始する。



 ボウンッボウンッ・・・ガキンッガキンッ・・



 しかし弓は尻尾で弾き飛ばし、魔法攻撃はそのまま直撃しているのだが大してダメージは出てないように見受けられた。



「くそっ!かなり俊敏に動くぞ!あの尻尾!」

「魔法耐性もかなりあるようです!全く効果が出てないです!」



 無情な報告に額から汗が一筋落ちるガウディ。



 通常、魔法攻撃は戦局を左右するほど重要な存在だ。

 正に窮地の状況を一変させる事が出来るほどの威力を秘めているからだ。



 その魔法攻撃が効果がない。



 それだけで、かなり不利な展開になったのは言うまでもない。



「くそっ!このままこうしてても埒が明かねえ!段取り通り俺たちは右の後ろ足を狙うぞ!ついてこい!」

 右部隊の隊長がそう叫び突撃する。



「おし!俺たちも左足を狙ぜ!突撃ぃ!」

 コイルもそれに呼応するように突撃する。



「おおう!」

 左右の部隊がドラゴンの足めがけて走り出す。



「あっ!待て!むやみに突っ込むな!」

 ガウディが制止するように叫んだと同時に




  ザアアアン!




 ドラゴンの尻尾が風圧を伴ってなぎ払い、一瞬のうちに盾役を含む右部隊の冒険者20人ほどを横に真っ二つに切り裂く。

 血が噴水のように噴き出し辺りは、あっと言う間に血の海と化した。



 バリガリグシャッガリッ!



 そして、誰かが悲鳴を上げるよりも早く、ドラゴンは首をぐ~っと伸ばし口を横にめいいっぱいに広げ、一口で切り裂いた冒険者達を全て回収し腹の中に収めた。



「な、なんだとおお!」

「うあわわわあああ!」

「どうなってるんだああぁ!」



 あっと言う間に収集がつかなくなる討伐隊。



 キーンの兵士達を一瞬で全滅させたのはこれか!?



 ドラゴンは更に尻尾を円を描くように回して



  ザザアアアン!



 今度は左部隊のコイルを含めた20人ほどを一瞬で真っ二つにして、直後にかぶりつき食べ尽くす。

 地面にはおびただしい血の海と数人の上半身や下半身が転がっている。

 ドラゴンはその食べ残した死体を舌を伸ばし、1つ1つ器用に絡め取り飲み込んでいく。



「全員距離を取れええ!離れろぉ!」

 ガウディが叫ぶ。



「ひいいいぃぃ!」

「コイルさんが一瞬で殺されたぁぁ!もうダメだぁ!」

「どうすんだよ!こんな相手に!」



 あまりの惨劇と悲鳴でガウディの声はかすれて聞こえない。



「距離を取れええ!!!離れろおおぉぉぉ!!」

 再度叫ぶガウディの声もむなしく




    ザアアアン!グシャバリギュギャ!




 尻尾で切断して、すかさずに捕食を繰り返すドラゴン。

 冒険者達が、めいいっぱい距離を取った頃には100人くらいの人数がドラゴンに食されていた。



「嘘でしょぉ・・・どうするのガウディ・・」

 パウニーが半泣き状態で声を絞り出す。



「落ち着け。まだ大丈夫だ。冷静になれ」

 ガウディは自分に言い聞かせるように言葉を発する。



「まさかコイルが一瞬で殺されるとは・・・あの尻尾はかなり厄介ですね・・・」

 ヨーダも脂汗を額につけながら問いかける。



「そうだな。今の所、盾役の強固な盾も含めて全てを切り裂いている。かなりの切れ味だ。しかも早いし伸びる。まるでバネの塊のような尻尾だな」



「首も尻尾と同じくらい射程があるようですね。尻尾が左右に首が前後に動くようです」



「さすが、よく見てるな。しかしちょっとだけ不正解だ。尻尾は左右に円を描くように・・・具体的には八の字だな。だからちょうど正面に死角が生まれてるのだが、それを補うように顔が飛んできやがる。死角も補えるし自分の尻尾で首を切られる心配も無い。よく出来てるぜ」



「これだけ離れれば届かんようじゃな。どれだけ射程があるんじゃろう?」

「確かにな・・それは把握しときたいな」



 ガウディ達が作戦会議をしていると、ドラゴンの圧力に耐えられない冒険者達が内側の壁を登り始めた。



「もういやだああ!俺は逃げるぞ!」

「俺も逃げる!」

「私も!」

 次々と壁を登り始める冒険者達。



 内側の壁はレンジャーが言っていた通りサラサラしており、かなり登りづらい。

 形はちょうど緩やかな滑り台のような感じか。

 登り始めは角度的に15度くらいの傾斜なのだが段々と傾斜はキツくなり、半分くらい登った所で80度くらい、ほぼ垂直の状態となっていた。

 両手に短剣を突き刺し進む者もいたが、砂地は脆くとても体重を支えられる強度は無いように見える。



「わあああぁぁ!」

 案の定、砂地が壊れ下に転げ落ちる冒険者達。



 ちょうど緩いカーブの滑り台となっているので勢いがつき、ガウディ達を飛び越してドラゴンの方向に放り出される。



 その瞬間、グンッっと首が伸び一口にその冒険者を飲み込むドラゴン。



 ちょうどガウディ達が立っている場所から10メートル先まで首が伸びたのを確認した。



「射程わかっちゃったね・・・」

「ああ。そうだな。どうやら俺たちの10メートル先くらいまでは伸びるらしい」

 次々と転がり落ちる冒険者達を捕食しているドラゴンを冷静に分析するガウディ。



 この絶望的な状況を脱する為には少しでも情報がいる。

 なるべく沢山の人を救いたいガウディであっても、今は救うことよりドラゴンを倒すことが当然優先順位は上だ。



「魔法が効かないってのも厄介よね。遠距離攻撃は効果無いのかしら」

「いや、少なくとも弓の攻撃は尻尾で防いでいた。つまりは当たるとダメージを受けるということかもしれない」

「つまりはどうするんじゃあ?ひたすらこのまま弓で攻撃するってことかのぉ?」



「いや、単純な弓攻撃じゃ全部弾き飛ばされるだろうな・・・策はないこともないが・・・」



 ガウディは少しためらっている。



「どちみちこのままじゃやられるんじゃ。言ってみんしゃい」



 ふーっと息を吐きガウディは皆に聞こえるように語りかける。



「みんな、聞いてくれ。当たり前だが現在、絶望的な状況だ。今はドラゴンが俺たち全員を食べようとしてる為か出入口から離れないが、これが俺たちの方向に歩き始めたらもうアウトだ。その前に行動に移す。恐らく奴には弱点が二つある」



「弱点?!そんなものがあるのか??」

「は、はやく教えてくれ!」

 ざわつく冒険者達を、なだめながらガウディは続ける。



「やることは単純だ。総攻撃。全員でやつの懐に入り込む。1つ目の弱点がそれだ。俺の見立てでは、奴は自分の身体に近い場所は苦手とみた。尻尾で攻撃するにしても自分の身体が傷つく恐れもあるし、首も前後には伸びるが横にはあまり動かんらしい。この弱点をつく。全員でめいいっぱい左右に広がって一斉に攻撃するんだ」



「でもそれでは先程のように一瞬でなぎ払われるのでは?」

 ヨーダが疑問を呈す。



「その通りだ。しかし俺が見たところ奴の攻撃範囲は横に一辺倒だ。横に対しての攻撃範囲は広いが縦に対しては刃が届いている範囲は狭いと思う。さっきは横並びに突撃したから全員なぎ払いでやられてしまったが、今回は縦に並んで突撃しよう。そうすれば先頭がやられても次の奴は生き残れる。横並びにならないようにランダムに突撃して、更に弓で遠距離攻撃も行う。もう1つの弱点が尻尾、それが1本しかないという事だ。奴の最大の攻撃手段は俺たちにとっては最大のチャンスなんだ。1本しかない尻尾では1度に受けれる攻撃にも限界がある。そこを突く。遠距離攻撃を尻尾で防いでいる隙に少しでも近づく。仲間がやられている隙に、食われている隙に少しでも近づく。奴に近づいたらまず狙うのは目だ。4つがそれぞれ別の場所を見ているようだが、1つでも潰せればかなりチャンスは広がると思う。その次は左の前足だ。いや、正直どこでもいい。とにかく剣を突き刺せ、刃を当てろ。最後のチャンスだと思え。仲間の屍を盾にしろ。自分の身体を仲間の盾にしろ。そうして命を仲間に繋いだ先にしか勝利はないと思え」



 なるべくなら犠牲を出さずに、全員を助けたいという思想を持つガウディにしては珍しく強硬な策、簡単に言うと特攻を指示する。



 それだけ追い込まれているという事だ。



 討伐隊も180人ほどに減っている。確かにここで勝負に出ないとジリ貧だ。



「魔法攻撃職はとにかく全力で火力を出してくれ。効かなくてもいい、俺たちが近づく隙を一秒でも作ってくれ。回復職は全力で回復だ。修復魔法はもういらない。どんどん疲労を回復してくれ。やられた奴の手当をする必要はない。後衛の盾役は全員前に出てくれ。これが最後のアタックだ。仲間のために全身で攻撃を受け止めてくれ、頼む」



 深く頷く後衛部隊。

 全員恐怖に押しつぶされそうになりながら、必死で耐えているのがわかる。



 とにかく突っ込むしかない。

 目の前のドラゴンに向かって突き進むしかない。



 このクエストに参加したことを後悔する者も多いだろう。

 冒険者になったことを後悔してる者もいるだろう。

 でも今出来る事は走ることだけ。



「よし!やってやろうぜ!」

「くっそおおぉ。やってやんよお!」

「やだよぉ・・やだよぉ・・」

「ごめんなさい。お母さんの子供に産まれる事ができて、幸せだったよ」

「うん。もうダメみたい。今までありがとう」



 叫ぶ者もあれば、泣く者もいる。

 魔法膜に包まれている者もいるので、通話で別れの言葉を交わしているのだろう。

 皆、思い思いの方法で心を整える。

 そしてガウディの合図を待つ。



 ガウディは全員の士気が上がったのを確認すると、ミールやルチアーニ達の補助役、そしてパウニー達修復士に小声で話す。



「お前達はギリギリまで後方待機しててくれ。そして俺、ボット、ヨーダの誰かが負傷したら修復を頼む。恐らくこの3人以外にドラゴンに致命傷を与える事は出来ないだろう。そして修復中はこの3人の為に盾となってくれ・・・すまん」



 ガウディは頭を下げる。



「なにをいまさらじゃ。任せとけって」

「そうじゃそうじゃ。わしゃ年期が入っとるからのお。身体中しわしわじゃからスパスパ切れんじゃろう。ひひひ。壁にはうってつけじゃ」

「あんた骨スカスカだからポキッていくんじゃないのかい?」

「そんときゃわしら3人で壁になるまでじゃ!1本じゃ折れるが3本じゃ折れないって言い伝えがあったしのう!」



「私も大丈夫です。絶対にガウディさんを修復します!任せて下さい!」

 力強く言うパウニー。



 ガウディは頷くと討伐隊全員を見渡し、右手を挙げて突撃の合図を出す。



「全員!!とっ・・・・!!」



 まさにその瞬間。



 ドラゴンが口をガバッと開けて魔法攻撃職めがけて首を伸ばす!




 バリバリギャリグリッガボ!




「なっ!?」

 一瞬で魔法攻撃職の16名が全て飲み込まれる。



「こいつ!わざと射程は10メートル先だと思い込ませてやがったな!」

「え!?じゃあここも届くってこと??」

「そういうこっちゃ!かなり知性が高いぞ!」

「上等だああ!人間様を舐めるんじゃねえぞおぉ!」



 もう行くしかない!

 ガウディはありったけの声を出して叫ぶ。




「全員!!!突撃ぃ――ぃ―――!!!!!」




 その命令に対して



「うおおおおおおぉぉぉおぉおぉ!!!」

「ぎゃああぁぁあああああ!!!!」

「あああぁあぁーーーあーーぁー!!!」



 恐怖を紛らわせる為に、頭が真っ白になるくらい叫びながら特攻していく冒険者達。

 作戦通り縦に並んで涙を流しながら突撃していく。



 次々と前の冒険者が刃の餌食となり、顔に血が吹き付けられても大声を上げながら走り続ける。




「打て打て打てええええぇ!!」




 弓部隊も全力で弓を射る。(因みにこの世界の弓は魔力を込めて放つ仕様になっているので、銃のような威力がある)



 ザンッ!バリバリ!ザアアアン!グシャッ!



 ドラゴンも的確に応戦し、斬っては食べるを繰り返している。




「怯むなあぁぁ!突っ込めー!」




 ガウディPTは流石金ランクといった動きだ。

 討伐隊の盾役の誰1人、今まで受け止められなかった尻尾の大鎌をグルジャンが受け止め、ガウディ、ボットが突き進む。

 アニエスは不規則に現れる土壁を出現させ鎌を防いだり、間一髪冒険者を救ったりしている。



 ドラゴンとの距離も15メートルほど、もう射程範囲だ!



「行けるぞおおおぉ!!!おりゃあああ!!」

 ガウディが叫ぶ。



  ボウウウウ!!!!



 唐突にドラゴンが炎のブレスを吐く!!



「うおおおぉ??!」

 思わず後ずさるガウディに

「アブねえ!!」

 ボットが叫びながらガウディを弾き飛ばす。



 その瞬間、大鎌が風圧を伴ってガウディの目の前を通り過ぎた。



「助かった!すまん!」

 ガウディはドラゴンから視線を逸らさずにお礼を言う。




「うりゃあああああぉ!どけどけぇ~~!!」




 後ろから大きな声がする。

 振り向くとそこにはドラゴンの卵を転がしながら一緒になって走っている暗殺者の凸凹コンビがいた。



「なるほど!良い手じゃ!」

 ハンマー使いのボットは思わず叫ぶ。



       グルルルル・・・



 ドラゴンが低い声で鳴いた。明らかに様子が違う。

 ゴロゴロと転がる卵に戸惑っているようだった。



 暗殺者のルックとピアーズは、卵の両隣でピタッと併走している。

 横の攻撃のみの鎌攻撃には最善手かと思われた。

 ドラゴンが自分の卵を気にしないで攻撃するタイプだったら万事休すだったが、どうやらちゃんと理性はあるようだ。



「こいつ知性が高いから絶対に卵には手を出せないと思ったんすよ!狙い通りっす!」

「うひょー!このまま行っちゃおうぜ!!」

「おうよ!頼むぜ!相棒!!」



 グングンとドラゴンとの距離を詰める!



「よし!アイツらに続け!このチャンスを逃すな!」

 ガウディの声が響く。



「おおおぉぉぉ!!」

 四方八方から囲みながら突撃する冒険者達。



 ベリッ



 唐突になにかが潰れる音がする。

 振り向くと、そこには卵の横で走っていたルックが尻尾の鎌のお腹部分?に押しつぶされていた。



「ルックゥゥーーー!!」

 ピアーズが叫ぶ。



   ベリリッ!



 次の瞬間、今度はピアーズが押しつぶされる。



「あいつ!縦に押しつぶす事も出来るのか!!?」



 コロコロと顔まで転がっていった卵をドラゴンは丁寧に口で挟み込むと、ゆっくりと自分のお尻部分、丁度出入口付近に置いた。

 位置的に完全にドラゴンの後ろに隠されて、卵にとってはこれ以上安全な場所はないように見える。




 グオオオオォォンンン!!




 もう怒ったぞおお!とでも言っているような咆哮をするドラゴン。

 太く短い足をぐっと地面に押しつけたかと思ったら、そこから怒濤のごとく尻尾の攻撃が炸裂する。



 今度は横一辺倒ではない。



 右に左に上からそして斜めから。

 ありとあらゆる角度からグイグイと伸びてくる刃。

 まるで嵐のような攻撃に為す術無く死体と化す冒険者達。



「なめるなあああ!!」

 ヨーダの一閃攻撃。しかし目の前にちょうど刃が迫り来る。



  グギャッ



 なんと先程潰れたピアーズの頭部を手に持ち、盾がわりに刃の角度を変えて見せた。



「おお?!」

 思わず驚きの声を上げる冒険者達。



 ヨーダはあっと言う間に距離を詰め、ドラゴンの右肩の目に剣を突き刺した。



 グオオオオォォ!!!!



 ドラゴンは仰け反りヨーダをふるい落とそうとする。

 しがみつくヨーダ。



「今です!!攻撃を!!」

「うおおおお!!」

「いけええええ!」

 次々とドラゴンに剣を、斧を、ハンマーを叩き込む。



「右足を狙え!!」

「うりゃああ!!」

「くたばれええ!!」

 しかしドラゴンの足に突き刺した剣は、突き刺さること無く弾き返される。



「堅ってえええ!!」

「嘘だろおお?全然切れないぞぉ?!?!」



 まるで少し堅いゴムの塊のように弾力と強度が凄まじい。

 多くの者が浅いかすり傷が付く程度のダメージしか与えられなかった。




「手を休めるな!!行け行け行けぇ!!」




 しかし思った通り、身体付近には鎌は飛んでこない。

 このまま押し通す!



 ガウディは流石は金ランクのバトルマスター、他の冒険者達では歯が立たない堅く弾力に富んだ皮膚に、鮮血が噴き出す傷を与え続ける。



「うらうらうらああ!!」

 二刀流の曲刀を次々と繰り出す。



「ガウディ!!」



    ガギンッ!



 グルジャンがガウディに飛んできた鎌をかろうじて受け止めた。



 なに?どこから?



 ガウディは当たりを見渡すと、ちょうど退化した翼だと思っていた部分から小さな(といっても人間の身長ほどはあるが)尻尾が多数生えており、先端は同じように鎌が光っていた。

 生えてきた小型の尻尾は、次々と身体付近の冒険者達を切り刻む。



「まじかよ・・・」

 呆気にとられる冒険者達をガウディがヨーダが叱咤する。



「手を休めるなあぁ!」

「まだです!攻撃し続けて下さい!」



 新たに出現した尻尾は細く、耐久性は無いようで簡単に切り離す事が出来た。

 が、斬っても斬っても直ぐに生えてきている。



「ガウディ!目を潰しましょう!」

「おう!!いくぜ!」


 ヨーダの呼びかけに答えるガウディ。

 ヨーダが右肩の目に刺さったままになっている剣を引き抜こうと力を入れた瞬間。



        ガブリッ



 今まで前後の単純な動きしかしてこなかった頭部が、クルッと旋回してヨーダを一飲みにする。



「うああああ!!ヨーダさあああん!」

「ヨーダさんがやられたあああ!!」

「もうだめだあああ!!」



 悲鳴を上げパニックになる冒険者達を次々食い散らかす。



 ガウディも一瞬動きが止まってしまった。



 その間を逃がさずに、本命の太い尻尾がガウディの胸を切り裂く・・・



 鮮血を撒き散らしながら宙を舞うガウディ。



            ドサッ



 ドラゴンから10メートルほど吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 あっと言う間に地面にはガウディの血だまりが出来た。



「ガウディ!!!」

 アニエスが泣き叫ぶ。



 幸いドラゴンから少し離れた場所に落下したので、補助役のルチアーニ達は直ぐさまガウディをパウニーの所に引っ張って行く。



「ガウディ!死んじゃダメ!」



 ガウディの胸元にザックリと刃の傷が出来ており、かなり深い傷のように見える。

 パウニーは触媒を入れた魔法水を吹きかけ、力一杯修復魔法を発動する。

 白い光がガウディを包み込んだ。



 ちなみに、こういう戦闘時に使われる触媒は、ブロマーオという大型魚の鱗を乾燥させた物を使うのが一般的。

 後遺症が少なく、万能的に傷の治療に効果を発揮する触媒だ。

 しかし、あくまで一時的な措置なので、深い傷などは痛みが残ったり、痺れが発生する事がある。

 なので後日、再度それぞれの傷や症状に対して触媒を選び、修復魔法をかけ直す必要があるのだ。



 万能的な治療とはいえ、かすり傷程度なら一瞬で修復出来るが、これほど深い傷は10分以上はかかりそうだ。

 頼まれた通りガウディの前にルチアーニ達が壁となって立ち塞がり、攻撃が来たら受け止める覚悟でドラゴンを睨み付けている。



 グルジャン達もガウディのもとに駆け寄り

「ガウディはどうだ!?」

「大丈夫!助けるよ!」

「そうか・・良かった・・・」



 心底ほっとした表情を見せるグルジャンとボット。

 2人とも無数の傷がついており、立っているだけでやっとといった感じに見える。



「ピスリー!2人の修復をお願い!」

 パウニーがもう1人の修復士に声を掛ける。



 しかし返答は無い。

 パウニーが振り向くと、そこには絶望の表情を浮かべて地面一点を見つめている姿があった。



「ピスリー!!」



 パウニーはキツめに声を上げる。

 はっとしてパウニーを見るピスリーだったが、顔面蒼白で焦点が定まっていない。



「回復して・・・何になるの?あのバケモノ相手に・・・何が出来るの?・・・」

「何言ってるのっ?!早くしてっ!」



「無理よっ!絶対に無理!人間が勝てる相手じゃないわっ!誰もマトモに戦えてないじゃないっ!例え虹ランクの人だって勝てっこない!嫌よっ!私こんな所で死にたくないっ!死にたくないっ!死にたくないっ!」



「ピスリー!落ち着いて!貴方冒険者でしょ!修復士でしょっ!最後まで戦って!希望を捨てないで!」



「希望?!希望ってなにっ!?どこにあるの?!そんなのどこにあるのよ!絶望しかないじゃない!ヨーダさんもコイルさんも!何も出来ずに殺されてっ!一体どこに希望があるのよ!せっかく修復士になれたのに!せっかく修復士になれたのにぃ!これから冒険者辞めて街で沢山お金稼ぐの!チヤホヤされて良い男ハベらして!服も宝石も好きなだけ買って!贅沢三昧して!・・・最後だからってヨーダさんが言うから・・・ああぁあああ!!来なきゃよかった!来なきゃよかったあぁ!!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だあぁ!死にたくない!死にたくないぃぃ!!」



 完全にパニックを起こしているピスリーは、頭を抱えながら喚き散らす。




「もう嫌ぁ!こんなの無理!無理!無理!無理ーぃー!」




 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、大絶叫して卵に塞がれている出入口を目指して走って行く。



 そして、その後ろ姿はまばたきをしている間に舌にさらわれ、姿を消したのであった・・・



「・・・パウニー。ガウディはあとどれくらいかかりそうだ?」

「あと5分くらい!」

「よし!もちこたえる・・ぞ・・・」

 ガウディの容体を確認したグルジャンだったが、ドラゴンの方に振り向いて言葉を無くしてしまった。



 あれだけいた冒険者達がほぼ全滅していた。



 身体付近にいた冒険者達は新たに出現した鎌とドラゴンの牙にかかりあっという間に殲滅されたようだ。

 辺りには無数の死体が転がっている。



 所々でひざまずいたり、立ち尽くしている冒険者がいるので、一応生存者がいるのも確認できた。

 しかしその目は死んだように呆然としている。



 ドラゴンはそんな冒険者達や死体を一つ一つ丁寧に舌を伸ばして口に運ぶ。



 まるで一段落して『さて、ご飯ご飯』とでも言っているようだった・・・



 皆さんはオオアリクイという生き物をご存じだろうか?

 長く細い舌を伸ばし丁寧にアリを食べていく生き物なのだが、イメージ的にそんな感じの光景が冒険者達の瞳には映し出されている。



 しかし、オオアリクイと違うのが、明らかに食事を楽しんでいる点か。



 オオアリクイは舌を伸ばし次々と口の中に入れるのだが、このドラゴンは舌を伸ばし冒険者をクルっと捕まえると、わざわざ大きく口を開けた頭上まで高く掲げて、ストンと落としてバクバクと食べていた。



 冒険者視点から説明すると身体を巻き付く舌に持ち上げられ、下を見ると牙がびっしりと生えている大きな口が全開に開いていて、自分が落ちるのを待っている。

 そんな光景である。



 出入口にドラゴンが陣取っているので、ちょうど扇型に死体や呆然とした人間が佇んでいるのだが、綺麗に右側から一つ一つ丁寧に捕食している。

 ガウディ達がいるのは一番左側で、後方に3人ほど冒険者が立ち尽くしているが、順番的には一番最後の方となるようだった。



「いやああぁぁ!!」

 舌に巻き付けられた事で、正気を取り戻した冒険者の悲鳴が聞こえることもあれば、まったく声も上げずに、為すがままに食べられていく冒険者もいた。



 逃げだそうとした者は首を伸ばして捕食し、向かってくる相手には尻尾でウザったそうになぎ払い真っ二つにしている。



 又、数人だが結界を発動して、その中で身を寄せ合っている者もいた。

 やはり普段の生活で絶対の安全を保証してくれる結界に、最終的に頼りたくなる気持ちは痛いほど分かる。

 だが、残念ながら相手はドラゴンだ。

 予想通り、何事もないかのように結界を通り越し、舌にさらわれていくのであった。



 ガウディ達もルチアーニ達もそれを無言で見つめていた。

 刻々と自分達の順番が近づいているのを、何処か他人事のように感じているのかもしれない。



「実はな、俺はパウニーをオカズに抜いたことがあるんじゃ」



 唐突にボットが驚愕の事実を告白する。




「・・・・」




 一瞬、時が止まったような沈黙が訪れた。



「なっ、ななっな・・・何を言ってるんですか!!?ボットさん!!」

 パウニーは顔を真っ赤にしながら声を上げる。



「吾輩もニアと一緒にオカズにしたことある」

 グルジャンも低い声でハッキリと宣言する。



「!!!!!」

 パウニーは完全に動揺しまくっている。



 それもそのはずだ。

 普段から・・・というより今までPTを共にして、一度もこの2人から下ネタの類いを聞いたことが無いからだ。



「なにを言っとる!ニアをオカズにするのは鉄板だろが!俺はパウニー単体でオカズに出来たのが凄いだろ?って言ってるんじゃ!」



「まあ、いつもステーキだと飽きるからな。たまには魚を食べたくなるという事か・・・」



「なにを言う。魚は貴重だろうが。パウニーは・・・そうだな・・・豚カツのキャベツ、トンプー丼(牛丼)の紅ショウガ、マラーニャ(カレー)の福神漬け・・・みたいなやつかの?」



「引き立て役か・・なるほどな」




「なるほどなっじゃなああああいいいいい!!」




 パウニーの叫びが火口広場にこだまする。



「ぷっ」

「ふふふ」

「がっはっっはっはあっは!!」

 思わずパウニー以外の全員噴き出してしまう。



「パウニーちゃん、全然大丈夫よ。とっても可愛いもの。こんなおっさん達の評価なんて気にしない気にしない」

 ルチアーニが笑いながら励ます。



「は、はあ・・・あ、ありがと・・・ございます・・」

 がっくりとうな垂れながらお礼を言う。



「そうじゃそうじゃ。女はやっぱり尻じゃからな!ニアさんのようにヒョロヒョロじゃなくパウニーちゃんのようにガッシリした下半身じゃないと」


「ほお、じゃあもしニアちゃんがモーションかけてきてもロイヤーはパウニー推しってことじゃな?」


「なんじゃと!?それはダメじゃ!ニアちゃんが一番じゃ!」



 なんだか励ましてるのか(けな)してるのか分からないランドルップとロイヤーのやり取りを聞きながら、パウニーは昔の事を思い出す。




 実はパウニーは1度冒険者を引退しているのだ。




 引退前のパウニーは、右も左も分からない状態の全員初心者PTで冒険者をスタートしている。

 元々素質がある者が多かったのか、グイグイとPTは実績を残していき、結果重視のPTの足並みを乱してはならないとパウニーも回復士として一生懸命頑張っていた。



 正直その頃の記憶はあまりない。



 しかし、とにかくみんなの足手まといになってはならない、迷惑をかけてはならないといった常にプレッシャーを感じて冒険していた事だけは鮮明に覚えている。



 そんな中、ある街のタウンチームとして推薦されるかもしれないっという話が出てきた頃から明らかに雰囲気が変わっていった。



 各街で条件は異なるが、パウニーが所属していた街のタウンチームになるには、修復士の存在が不可欠だったからだ。



 勿論、表立って条件として公開されている訳では無い。暗黙のルールというやつだ。

 その頃からPTは、事ある毎にパウニーを責めるようになっていった。



 いつになったら修復士になるんだ?そもそも成れるのか?向こうのPTの回復士はとっくになっているぞ・・・などなど。



 しびれを切らしたリーダーは、修復士の素質適性を持つ新人の子をPTに向かい入れた。

 とは言っても新人である。最初はパウニーが面倒を見ることになったのだが



「先輩!どうやったらあんなに早く魔法が発動するんですか??凄いです!」

 とか。

「先輩!凄い回復量です!尊敬します!」

 とか。



 結構自分を慕ってくれていたので

『ああ、この子がいればとりあえず条件は問題ないし、私もまだまだ居場所があるんだ。2人で成長していこう』

 などと考えていたが、それも最初のうちだけ。



 あからさまにチヤホヤされている新人修復士は段々と

「先輩。タイミング遅いです。私に合わせてくれません?」

 とか。

「先輩。命令しないでくれますか?」

 などなど。



 態度が明らかに変わっていったのは言うまでもない。



「てか先輩って修復魔法使えないんですってね?だっさ」



 決定的な一撃を食らって、なにもかも捨てて田舎の村に逃げ帰ったパウニーを、両親は優しく迎えてくれた。



 しばらく平穏の日々を過ごしていたが、ある日唐突に村はドラゴンの襲撃を食らってしまう。



 為す術無く蹂躙され、パウニーも沢山の回復魔法を使うが焼け石に水、村は全滅寸前まで追い込まれた。

 そんな壊滅寸前といった状況の村を救ってくれたのが、たまたま通りかかったガウディ一派だったのだ。



 ドラゴン討伐の最中に、無我夢中でガウディ達に回復魔法をかけ続けるパウニーを、ガウディは自分のPTにスカウトする。

 最初は断っていたパウニーだったが、ガウディ達の明るさ、大らかさに段々と惹かれていって仲間に入ることを決意する。



 以前、銀ランクだった冒険者資格も、引退して抹消されたので緑ランクからスタートだ。



 とにかく冒険は楽しかった。心の底から楽しかった。



 もちろん危ない目にも遭うのだが、PT全員が信頼しあっているのがとにかく心強かった。

 そしたら青ランクに上がったときに唐突に修復士の適性が解放されたのだ。



 みんな自分の事のように喜んでくれて、あの時の感動は今でも忘れることが出来ない。



 嬉しいときは全員で喜び、苦しい時はみんなで助け合い、最悪の状況でも笑って切り抜ける。

 ガウディの人柄がそのまま形になったチーム方針だからこそ、ボットとグルジャンは敢えてくだらないことを言って笑わせているのだ。



 圧倒的な力の前に屈する事しかできない、ただ自分が食べられる順番を待つ事しかできない絶望感が支配する空間。

 聞こえてくるのは悲鳴とバリバリと人間を噛み砕く音だけ。

 誰しもが先程のピスリーと同じようにパニックになってもおかしくない状況で笑わせようとしている。



 本当にこの人達は凄い・・・一緒に冒険できて良かった・・・



 パウニーは涙で前が見えないくらい大粒の涙を流しながら、ガウディに魔法をかけ続ける。




「情けねーな。俺はどんなことがあってもアニエス一筋じゃ。生涯俺の女はアニエスただ1人!」




 いつ意識を取り戻したのか唐突にガウディが喋った。



「ひょあぁ???!」

 素っ頓狂な声を上げたのはアニエス。



 普段どんな時でも冷静なアニエスだったが、今は顔を真っ赤にしてガウディをまじまじと凝視している。



 それもそのはず。

 子供の頃からずっと一緒にいるが、ガウディがアニエスの事をどう思っているかなどを語ることは一度もなかった。

 PTのみんなにも、二人きりの時でもだ。



 勿論、幾度となくピンチの時は必ず助けてくれるし、常に気に掛けてくれている事はなんとなく分かっていた。



 しかし全く恋愛感情を見せないガウディに、自分は単なる幼馴染みとしか思われてないんじゃないか?

 PTの仲間だから気に掛けてくれているだけで、好きなのは自分だけなんじゃないだろうか?という気持ちに支配されていたからだ。



 だからこそ、唐突に来たガウディの告白に、いつもの冷静なアニエスは吹き飛ばされてしまったようだ。



「おおお!!遂にガウディも姐さんと結ばれる決意をしたのか!めでたい!」

「ひゃわわ~アニエス姐さん!良かったですねええ!私とニアに相談するくらい、ずっと悩んでましたもんねぇ!」

「男をみせたな。ガウディ・・・」



 次々と盛り上がるガウディ一派。



「ちょっ!!ま、待って!!待って!パウニー!余計なこと言わない!」

 密かにガウディ一派女子会での話題をリークしてしまうパウニーに怒るアニエス。



「ぷっ!あはははっは!」

「ぐあはっはっっは」



 自然と笑い声が溢れてくる。

 ガウディもまだ身体に深い深い傷を負いながら『にひひひ』と子供が悪戯したときのように笑っている。



 信じられるだろうか?



 みんながガウディを囲んで笑っている時でも、背後ではドラゴンが次々と冒険者達を食べ続けているのだ。

 正に異様な光景・・・いや、ガウディ一派にしたらこれが普通の事なのかもしれない。



 最後の時は笑って終わりたい。

 そんな感じだろうか。




 シュルルルっ・・・




 遂に舌はアニエスの身体を巻き付ける。



「あーあ、私からか・・・みんな今まで本当にありがとう。先に行ってるね」

 アニエスは全く抵抗せずにドラゴンに引き込まれていく。



 早いもので、あれだけいた死体や冒険者達はことごとく綺麗に食べられており、残すはガウディ達、ルチアーニ達の他は、後ろにいる戦意喪失している3名の冒険者のみとなっていた。



 持ち主のいない武器や防具、そして血溜まりが無かったら、さっきまで沢山の死体がそこにあったとは想像も出来ないほど綺麗に食べられている。




「アニエス!!アニエスーーー!!!」





 1人だけ、ガウディだけは引き込まれるアニエスを追いかけようと、まだ塞がってない傷口を抱えながら必死に手を伸ばす。



「あ!まだ動いちゃダメで・・・・す・・・・」

 急に動き出したガウディに、つい制止しようとするパウニーだったが直ぐに言葉を飲み込む。



 このまま回復を続けてもガウディが戦えるようになるまで修復するのはまだまだ時間がかかる。

 もう間に合わない。

 だったら最後まで好きなようにさせてあげなきゃ。



 そんな気持ちでアニエスを這いつくばりながら追いかけるガウディを、愛おしそうに見つめていた。



「アニエスーーー!!ダメだあ!!行くなあ!!」

 必死に叫ぶガウディを、涙を流しながら見つめるアニエス。



 いよいよ頭上まで来て、下には大きく口を開けたドラゴンが待ち構える。




「ガウディ・・大好きだよ」




 アニエスは小さな声でポツリと、今までずっと言えなかった言葉を口にする。






「アニエスーーーーゥーー!!!」






 重力が無くなりスッと下に落下するアニエスに向かって、顔をぐちゃぐちゃにしながらガウディが必死に叫ぶ。



 最後の瞬間をガウディの笑顔で迎えようと、目を閉じ瞼の裏側に最愛の人の顔を浮かべる。



 下に落ちるのを感じた時『ああ、いよいよか』と思ったか思わなかったか。



 まさに刹那の瞬間。




  ふわっ




 重力が再び現れ、自分が上の方に向かっているのを感じた。

 そして確かにいままで巻き付いていた舌の代わりに自分を支える2本の腕、ガッシリと自分の身体を支えている。



 恐る恐る目を開けると、そこには笑顔のミールが自分を支えていた。



「まだまだ死ぬわけにはいきませんよっ」




    続く

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