ドラゴン討伐隊⑥
ミールもニアを重点的に守護することを密かに心に決めた。
果たして明日は何人生き残ることが出来るのだろうか・・・
まだ所々ざわめきが聞こえる広場で、ミールは寝袋に顔を埋めるのであった。
⇨ドラゴン討伐隊⑥
まだ辺りは薄暗い。
空気もひんやりとしていて、肌寒いくらいだ。
そんな中、ガウディ達の活躍により正常な状態に戻ったザザの村の広場は、ザワザワとしていた。
本日は日の出と共に出発する予定なので、みんな準備に忙しいという訳だ。
ミールも昨日のうちに用意していた、おにぎりを口にくわえながら荷物を整える。
ガウディ達も第六部隊に加わるようで、落ちこぼれの寄せ集め状態だった第六部隊だが、一気に主力の戦力となっていった。
「ニア!ノイール!」
アニエスが出発の準備をしている2人の名前を呼ぶ。
「ん?なに?アニエス」
「ニア、ノイール。悪いけど2人にはガタリヤに向かう荷馬車の護衛をして欲しいの。お願いできるかしら?」
「そ、そんなっ!僕も・・・」
「そ、そんなっ!私も・・・」
2人同時に悲鳴に近い言葉で反論しようとして直ぐに言葉を飲み込む。
アニエスが何故自分達に言ってきたのか理解できるからだ。
確かにモンスターには結界石で対応出来るが、この世界で真に恐ろしいのは人間達だ。
残念ながら大きい町から離れると盗賊も多くなるし、冒険者が唐突に襲ってくることも考えられる。
村娘が10人も乗っていれば、なおさら人さらいの注意が必要だ。
そんな時に御者のピエールだけでは対応出来ないだろう。
ある程度実力がある者が護衛に付く事が必要なのは直ぐに理解できた。
そしてここで反論してアニエスを困らせる事はしたくない。
2人とも唇を噛みしめながら
「わかったわ・・任せて」
「わかりました。お任せ下さい」
「ごめんね。ありがとう」
アニエスは2人の頭を子供をあやすように撫でながらお礼を言う。
「ごめん、ミール。そういう事だから私はガタリヤに向かうわ。どうか死なないで・・・」
「はい。ニアさんもお気を付けて。僕はガウディさんに守って貰う事にします」
「がっはっは!任しとき!任しとき!指一本触れさせんて!」
「あの・・我々もそろそろ出発してもよろしいでしょうか・・・?」
部隊長が恐る恐るガウディに尋ねる。完全にガウディにびびっている。
「おう!悪いな、急に参加しちまって。よろしく頼むぜ!」
「はっはい。宜しくお願い致します・・・で、でわぁ・・しゅっぱぁぁつ・・・」
力なく第六部隊に命令を出す部隊長。
ぞろぞろと歩き出す。
この先からは街道もなく道無き道を進むため荷馬車は使えない。
村からドラゴンの巣までは徒歩で4~5時間くらいの距離だ。
お昼頃には到着するだろう。
もう宿泊する予定はないのでテントや調理道具など、多くは村に置いていける。
ガタリヤを出発した時から比べると、かなり荷物を減らすことが出来た。
とはいえ、ここからはリュックで直接背負わなければならない。
第六部隊の殆どの荷物を担ぎながら、皆に続き森に入っていく。
「おうっ!ミール!荷物重そうじゃな?俺たちも持つぜ?」
ガウディ一派のハンマー使い、ボットが話しかけてくる。
「いえいえ。これは僕の仕事なので・・・これくらいしかお役にたてませんから。お気遣いありがとうございます」
「そうかぁ。悪いなぁ。キツくなったら遠慮無く言ってくれよなっ」
「はい。ありがとうございます」
ドラゴンの巣に続くこの森はピリーズの森林と呼ばれており、以前マーキュリー達と出会ったラルッパの森林とは違い、多くの雑草、ツタが生い茂って行く手を遮っていた。
ガウディが参加する前だったら確実に先頭を行かされ、皆の進む道を作る係をさせられていたであろう作業も第3部隊が担当しており、ミール達第六部隊は一番安全な4番目の行進となっていて手厚い気配りがみてとれる。
「そういえばガウディさんってクリルプリスから直接ここまで来たんですよね?じゃあギルドに登録してないって事ですか?」
「ああ?そうじゃそうじゃ。偶々クリルプリスで船を待ってた時にドラゴンの噂を聞いてのぉ。そんで飛んで来たっちゅーこっちゃ。先月は一匹も出会えなかったからな。今月はこれで二匹目、当たり月じゃの。がっはっはっは」
「でも登録してないと報酬って出ないんじゃないです?折角のドラゴン討伐なのにいいんですか?」
「ふふふ。私たちにとってはドラゴンを討伐する事が目的だから報酬は二の次なのよ。ま、お金はあればあったほうがいいけど報酬貰えなくても素材とか結構高値で売れるから全然赤字にはならないのよ」
「へ~。聞けばドラゴン専門で世界中回ってるって言ってたんですけど、どうしてそこまでドラゴンにこだわるんですか?」
ミールの質問に少し沈黙するガウディ達。
しばらくしてアニエスが口を開く。
「私たちのPTはね。皆ドラゴンに大切な人を殺されてるのよ・・・別行動してるニアやノイールも含めてね。私とガウディは幼馴染みでね、ずっと南にある国の小さな小さな村で育ったの。特に特産なんてものもなくて、丁度ザザの村のような感じかしら。静かで穏やかな時間がゆっくりと流れているような、そんな村。私もガウディも村が大好きでね、村人全員が家族みたいだったわ。村を離れる人達もいたけど、私は全然そんな気は無かったの。ずっとこの村で暮らしていくんだってそう思ってた」
ここで一旦言葉を句切り、何かを思い出しているような感じだったが、一呼吸してまた語り出す。
「けどね、その時は唐突に訪れた。なんの前触れもなく、いきなり巨大で真っ赤なドラゴンが空から降りてきて、炎のブレスを吐いてきたの。そして為す術無く焼かれて死んだ人々を、ドラゴンは次々と食べていったわ。村はパニックになって四方八方に逃げるんだけど、炎のブレスを周囲にまき散らして一瞬で全滅したわ・・・まだ幼かった私とガウディは、お母さんに食料備蓄用の床穴に突き飛ばされフタをされて、開けようとしても、お母さんが上に乗ってるみたいで全然開かなかったの。真っ暗な穴の中で聞いた人々の悲鳴は今でも夢に出てくるわ。暗闇の中必死にガウディと震えながら抱き合ってた。しばらくして静かになったから恐る恐るフタを押してみたら、今度は開くことが出来て・・・外の世界は一変していたわ。私の家も、ガウディの家も、学校も、市場も、なにもかも焼かれていた。生き残ったのは私たち2人だけ。唯々呆然と変わり果てた村を眺めていた。そして声が枯れるくらいずっと皆の名前を呼んでいた。でも誰1人死体は残っていなかった・・・」
アニエスは涙を流しながら語る。
そんなアニエスを気遣いながらガウディが
「俺はな、誓ったんだよ。あの時に・・・備蓄用のフタにな、くっきりと人の形をした影が刻まれていたんだ。おばさんが俺たちの為に、炎で焼かれながら身体を張ってフタを守ってくれたんだって直ぐ分かったよ。それを見て誓ったんだ。絶対にみんなの仇は俺が取る。そして理不尽にドラゴンに殺される、この負の連鎖を終わらせて見せる・・・ってな。気付けば金ランクの冒険者になっててドラゴンスレイヤーって二つ名まで付いてやがった。でもな、まだ全然終わりじゃねーんだよ。あの時のドラゴン・・・後で知ったが奴は『赤い厄災』って呼ばれている巨龍なんだと。あいつを倒すまで俺の旅は終わらねえ。いや、全てのドラゴンを倒すまで俺たちガウディ一派は止まらねえ」
ここでふうっと息を吐き、表情から明るさが戻ってきた。
「まっ、そんな感じで世界中旅してるって訳さ。よーするに私怨だな。がはははっ!」
豪快に白い歯を見せながら笑うガウディ。
「なんとまぁ。それじゃああたし達と同じだねぇ。ガウディさん」
ルチアーニがしみじみと呟く。
「同じ?なんだ、ばあさんも誰かを殺されたのか!?」
身も蓋もない言い方でガウディが尋ねる。
ふうっと深呼吸しながらルチアーニも語り出した。
「あれは数年前・・・あたしがまだ25歳の頃だったかねぇ。待望の私たちの赤ちゃんが出来てね。それはそれは嬉しかったもんさね」
数年前って所を、誰もツッコミを入れずに黙って聞いている。
「双子の女の子で、名前をルリとミリって言ってね。本当に天使のような笑顔を見せてくれて、あたし達はとっても幸せだったの。ずっと南方にあるんだけどサーリア国っていう小さな国のギルメッタって街に家を買ってみんなでそこに住んだわ。けど妹のミリは生まれつき身体が弱くてね。結構色々な修復士に見てもらったんだけど良くはならなかったの。そんな妹をいつも姉のルリが優しく介抱してたのよ。姉のルリはミリが、うらやましがっちゃうからってあまり外で遊ばなかったり、お花を摘んできてお部屋を花畑のようにして、2人で仲良く眺めてたりしてたわ。妹のミリはお姉ちゃんが気を使っちゃうからって、具合が悪いのに無理して元気なフリをして、お姉ちゃんお外で遊んできて良いよって言ったり、外にあるあれが見たい、これはどんな感じだったか知りたいとか言って、わざとルリが外に行く口実を作ったりしててね。本当にあたし達には勿体ないくらい、とても優しくて思いやりのある姉妹だったのよ」
ここですっとハンカチで涙を拭く。
「あれは2人が10歳になった頃だったねぇ・・街にドラゴンが襲ってきてね。もう街はパニックで、至る所で炎が上がり家が燃えていったよ。その頃あたし達は冒険者業は引退していてね、ギルド直営の冒険者育成学校の講師をしていたのさね。教室から炎のブレスを吐くドラゴンを見たときには背筋が凍ったわさ。ミケルもランドルップもロイヤーも。みんな血相変えて家まで走ったよ。ドラゴンはあたし達の家がある方向にいたからね。あたしは直ぐにルリに通話をしたの。ルリはこの時間家とは離れたパン屋さんで仕込みのお手伝いをしていたからね」
『ルリ!!直ぐにお逃げ!!早く!』
『お母さん!ミリがまだ家にいるの!ミリを連れ出して一緒に逃げるわ!任せて!』
『駄目よ!ミリはお母さん達に任せな!あんたは直ぐお逃げ!』
『ううん!私の方が近いもん!もう着くわ!』
ルチアーニはずっとルリと通話しながらみんなと一緒に走る。
『ミリ!よかった!無事だったのね!歩ける?!逃げるわよ!』
『お姉ちゃん・・ゲホッゲホッ。ごめんなさい・・・』
『なに言ってんのよ!たった2人だけの姉妹じゃない・・ここにいると家が燃やされて死んじゃうわ!ほらっ!行くよ!』
『ゲホッゲホッ。う、うん。ゲホッ、ゲホッ』
『もう少しじゃあ!ワシらももうすぐ着くぞい!!急ぐんじゃあ!!』
ミリと通話していたランドルップの声もミリを通して聞こえてくる。
『川の方に行こ!橋の下でじっと身を潜めよう!下手に動くと見つかっちゃうわ!』
『はあっ!はあっ!はあっ!』
ミリの荒い息づかいが聞こえる。
川の周りは少し開けていて広場になっていた。
『橋が見えたわ!ミリ!もうちょっとよ!頑張って!』
『う、うん!はあっ!はあっ!』
『ワシらも見えたぞ!あそこじゃ!おおい!ミリ!ルリ!』
『あっ!お父さんっ!お母さっ・・・』
ルリがルチアーニ達の姿を見つけ笑顔を見せたまさにその時、巨大な龍が羽ばたきながら小さな2人の真上に位置取り、ブオオオっと炎のブレスを吐き出す。
『ルリーーィーィーーーーー!!ミリーーーーィーィーーーーーーーー!!!』
絶叫するルチアーニ達を尻目にドラゴンは真っ黒になった2人の小さな身体をバクっと一口で食べると満足したのか
「ゴオオオオンンン」
と一声鳴き、町を離れていった。
その場には黒ずんだ草と一つだけ残された小さな小さな赤い靴が焦げた状態で転がっていた。
「もう唯々呆然としてね。生きる気力を無くすって言うのかしら。突然あたし達の希望が目の前で消えていったのを見てね、何日も何日も泣いていたわ。でもね、世界は残酷なものね。ドラゴンがまた町に来たの、同じドラゴンだったわ。当然よね、ドラゴンにとっても子供を育てるために沢山人間が必要なんだもの。あたし達はとにかく頭に血が上ってね、もう仇討ちよね。ドラゴンの元に走っていって戦ったわ。政府も先日の被害の大きさに街に軍を派遣しててね、街中の冒険者達も討伐軍の人達も一緒になって戦ったの。でも相手は古龍でね、嵐を操るドラゴンって言われてるらしくて、討伐軍の人も冒険者も沢山死んだわ。あたし達も必死に抵抗して・・・正直討ち死にしても良いから、とにかく一矢報いたいって感じかしら。防御を捨てて危険を承知で攻撃していったわ。そんな時にふと瓦礫の影に子供達がいるのが見えたの。まるでルリとミリがお互いに支え合っているように瓦礫の影で怯えていたわ」
『あんた達!子供が瓦礫の影にいるよっ!』
『なんだってぇ!あそこか!?走るぞ!』
「もう夢中でね、なりふり構わずに子供達に向かって走っていたの。ドラゴンも子供達を見つけたみたいでね、ブレスを吐くように息を吸い込んだわ。どうやらドラゴンは人間の子供が好物みたいなのよね」
『ブレスが来るぞおぉ!ランドルップ!ロイヤー!盾になるぞ!』
『任せろやい!ルチアーニ回復頼まあ!』
『うおおおおぉぉぉぉおおぉ!!』
「絶対にさせない!ってあたし達は子供達の前に壁になってブレスを受け止めたわ。なんとか黒焦げになりながら回復魔法で耐えて、その後も守りながら戦ってたんだけどさ、やっぱり古龍は強いね。もう駄目だって地面に尻餅ついてね、ブレスを吐こうと息を吸い込むドラゴンをぼ~っと眺めてたよ。これでルリとミリの元に行けるって思いながらね・・・そしたらさ、唐突に全身白色の服で身を包んだ男が飛び出してきて、蒼く輝く剣でドラゴンをあっという間に倒しちまったのさ。あまりに突然の事だったし、何よりあたし達全員ボロボロだったからね、その場で動けずにいると子供達が駆け寄ってきてね」
『おじちゃん、おばちゃんっ。ありがとー!!』
「その笑顔がね、まるでルリとミリに見えてね。ああ、あの子達笑ってくれてるわって。本当にあの笑顔には救われたわ。そこからみんなで相談してね、あたし達は死ぬまで冒険者で居続けようって。少しでも子供達や人々を守るため、笑顔を守る為に戦おうって決めたのさね。ま、つまりあたし達も私怨ってことだわさ。ひっひっひ」
ニカッと白い歯を見せて笑うルチアーニ。
なるほど、その歳になっても現役で居続けてるのはそういう事か・・・
「なるほどなあ。ばあさんも苦労したんだなあ」
ガウディはうんうんっと腕を組んで頷いている。
「そのドラゴンを倒した白ずくめの男は誰だったんだい?」
「それがねー。やっと動けるようになって辺りを見渡したんだけどもういなくてね。軍の連中も討伐した英雄にお礼をしたいからって、大規模に捜索してたんだけど結局見つからなかったみたいだねぇ」
「ほおお。それはそれは・・・」
感心したように頷くガウディだったが・・・
「で、子供達の父親ってのは実際誰なんだい?」
すかさずペシっと頭を叩くアニエス。
「バカ、そういう事聞かないの!」
「えええ?だって気になるだろぉ?」
「ワシじゃ」
「ワシじゃよ」
「実は俺なんだ」
3人同時に答える男共。お互いにキッと睨みながら
「なんじゃ?わしじゃろが!」
「ばか言うんじゃないよ!目元なんてワシそっくりじゃったじゃろ!?」
「何言っとんじゃ!口元はワシ似じゃ!」
「馬鹿が・・・ルリもミリも俺に1番懐いていただろ?現実をみろ」
「なにをー!」
お互いに何十年も繰り返しているであろう不毛な議論に、思わずみんなの笑みが漏れる。
「はいはいはい。ケンカはおやめ。私たち全員の子なんだから。あんた達がいたからあんなに良い子に育ったんだよ。全員偉い!」
ルチアーニは呆れたように仲裁すると
「で?ばあさんは実際、誰が一番好きだったんだい?」
「ガウディ!!」
アニエスがガウディを怒鳴りつけた。
「がっはっはっは!!」
みんなの笑い声が森の中に響き渡る。
ガウディ達もルチアーニ達も底抜けに明るい人がいる。
そういう人がいると周りまで明るくなるし救われるんだな。
ミールはワイワイと途切れる事が無い会話を聞きながら、心底そう思ったのだった。
しばらくは道なき道を進む討伐隊一行。
前の部隊が茂みを切り開いてくれてはいるが、足にツタが絡まったり、木の根っ子に足を取られそうになったり苦戦しながら歩みを進めた。
少し湿度も高いこともあり、汗が滴り落ちる。
その汗まみれの顔に、蜘蛛の巣などが張り付くものだから不快な事この上ない。
当然、虫などが多い所にはそれを目当てに小動物が、その小動物を目当てにモンスターが集まるので、縦長に行進している討伐隊の至る所で頻繁にモンスターとの戦闘が起こっていた。
それは隊列の真ん中付近にいる第六部隊も例外では無く、唐突にバウンドウルフなどが襲ってくる。
「ひいぃぃぃっ!」
案の定、情けない悲鳴をあげるのはミール。
ガウディやルチアーニ達があっという間に倒してくれるので直ぐに一息つくことが出来るのだが、もしそうでなかったら腰を抜かしているのではないかと思ってしまう程、ハッキリ言って情けない姿だった。
「黄色ちゃん、大丈夫?」
「あ、はい・・・ぜぇぜぇ・・・だ、大丈夫です。すみません・・・」
「がっはっはっ!坊主!気にしないでよか!ワシらに任せとけ!ニアとも約束したしのぉ!指一本触れさせんて!」
ここまで情けない姿を見せても全くバカにするそぶりもない。
流石はカントリーチームだ。
こうしてガウディ達に守られながら、なんとか目的地に到着したのはお昼頃の時間になってからだった。
目の前にそびえるのは標高200メートルくらいの山、溶岩で出来た三角形の山の岩肌には草木がポツポツと生えているが、どれも乾燥しており枯れているように見える。
マーカーのお陰でドラゴンの位置は正確に知ることが出来た。
どんな風かというと、イメージ的に熱源感知の映像に似ている。
中心が赤く、段々とオレンジから黄色になっている物体の存在を視認できていた。
どうやらドラゴンは討伐隊とほぼ同じ標高にいるようだ。
「俺達はギルドに登録してないから分からんが、ドラゴンはどこら辺にいるんだ?」
「丁度この正面・・・同じ高さにいるようです。ドラゴンは山の中にいるのでしょうか?」
「なるほど・・・いや、恐らく山頂がクレーターのようになっていて下まで開けてるんだろうよ。この山は活火山かい?」
「ええ。しかしここ何百年と噴火はしていないそうですね。恐らく火口もマグマが溜まっている感じではなく塞がっているのでしょう」
「なるほどな。ということは火口は広場になっていてそこで地熱を利用して孵化させる狙いか」
「恐らくそうでしょうね」
ヨーダとガウディが会話する。
少し前までのヨーダの独裁体制は見る影も無い。
「おーい。レンジャーっているかぁ?誰かちょっくら山頂まで登って様子を見てきてくれねーかな?」
ガウディが討伐隊に話しかける。
2人が手を上げスルスルっと山頂目指して登っていく。
しばらくして戻ってきたレンジャー達を中心に話し合いがもたれた。
「ガウディさんの読み通り火口は広場になっていて、端っこでドラゴンが眠ってました。真ん中には卵が一つ置いてあります」
「ただ山の外側は地面は固くなってるんですが、内側はサラサラと砂地になっていて、多分ですけど山頂から降りていったらもう内側からは登ってこれない感じっすね」
「まじか・・・どうすんべ?」
「それでですね、広場のここから見て東側の方にドラゴンが寝てるんすけど、ちょうど北側に穴が開いてるのが見えました。もしかしたら洞窟になっていて外側と繋がってるのかもしれないっすね」
「ほほ~それは確かめる必要があるな!よしっ手分けして探そうぜ」
「わかりました。では第一第二第三部隊は東から、第四第五第六部隊は西から山周辺を捜索しましょう。発見したら通話で知らせて下さい。信号弾などを打ち上げるのは禁止とします。ドラゴンに気付かれても厄介ですからね。みなさん、慎重に行動をお願いします」
かくして討伐隊は左右に分かれて山肌から森まで慎重に捜索していった。しばらくして第二部隊から連絡が入った。
「それらしい洞窟を発見したとの事ですっ!」
緊張しまくっている部隊長が敬礼しながらガウディに伝える。
ミール達が合流すると、山から少し離れた森の中に直径3メートルほどの穴が奥まで続いていた。
岩がゴツゴツと剥き出しになっており、岩にはコケがびっしりと付いている。
洞窟の奥から風が吹いてきており少しだけ硫黄の匂いも混じっていた。
唐突にミールの使役している小精霊クルッピが出てきて、盛んに光りを点滅している。
危険を知らせる合図だ。
「どうやらドラゴンのもとに繋がっている可能性が高いみたいですね。では隠密性能に優れた者を偵察に向かわせましょう」
ヨーダはルックとピアーズの凸凹コンビを呼び偵察に向かわせた。確かに2人は暗殺者で隠密性能は抜群だ。
2人が戻ってきたのを確認すると各リーダー、部隊長、主要メンバーが集まり作戦会議が始まった。
「確かに繋がってやした。奥でドラゴンも寝てるの確認したっす」
「どんなドラゴンだった?大きさは?」
「丸まって寝てたのでなんとなくですけど大きさは15メートルくらいっすかね?巨龍じゃなさそーっす」
「色は紺っぽい感じでさあ。ツヤツヤしてやした」
「卵は?どんな色だった?」
「うーん。薄い茶色っすかねぇ?特に変わったところは無かったっす」
「そうか・・古龍だと迷彩柄が多いんだが違うのか・・?」
「わかんねーっす。頭も尻尾も丸まってるんで見えなかったっす」
「ま、そうだろうな・・・場所はどうだった?広いか?」
「そうっすね。直径2〜300メートルちょいある感じっすかね?地面もデコボコしてなくて平面だったっす」
「なるほどな。戦うには十分な広さがあるようだな。2人とも危険な目に遭わせて悪かったな、助かったぜ」
「え?・・い、いえ。とんでもないっす・・」
なにかを命令されてやったことに対して、お礼を言われたことなど無い2人は、面食らったような顔をしながら恐縮している。
こういうちょっとした所が器の大きさなんだろうな。
「よし、ヨーダ隊長。俺にちょっと作戦があるんだがいいかい?」
「いいでしょう。どうぞ」
「まず大きく部隊を三つに分ける。なあ、ドラゴンは入り口からどこら辺で寝てるんだ?」
「左の奥っすね」
「じゃあドラゴンを中心に右、中央、左って感じで分かれる。左が出入口に一番近いって感じだな。なるべくこっそりと移動して、俺たちの配置が完了してもまだドラゴンが寝てるって状況がベストだ」
「ふむふむ」
「そして右部隊は左の後ろ足を、左部隊は右の後ろ足をそれぞれ集中的に攻撃、中央はその際にドラゴンを正面から相手して気を引く感じだ」
「もし配置途中で起きた場合はどうします?」
「その場合も基本は同じだ。一斉に仕掛ける事が無くなっただけで、狙う場所は同じだ。自分がどこを攻撃する担当かを前もって把握しておいて、動きながらその場所を狙う感じかな。とにかくドラゴン討伐においてどれか一本でも足を動けなくすることが大事なんだ」
「なるほどな。俺は賛成だぜ」
とコイル。
「回復職などの配置はどうするつもりでしょう?」
「各3部隊にそれぞれ配置するのが理想だな。あと盾役もそれぞれ付けたい。この討伐隊で盾役と回復職は何人いるんだい?あ、あと魔法攻撃出来るやつの人数も知りたい」
「ふむ。ではまず部隊を三つに分けるとしましょう。それから調整するとしましょう」
ヨーダはそう言うと各PTリーダーに指示を出す。
しばらくして部隊は三つに分けることが出来た。
「盾役は26人だな。回復職は17人、魔法攻撃出来る奴は16人だ」
「ほう、魔法職は結構少ないんだな・・・そうすると・・うーん、いや待てよ・・・こうすると・・・あ、ダメか・・」
ガウディがなにやら悩んでいる。
「回復職の中で修復魔法を使える奴は何人いる?出来る奴は手を上げてくれー」
手を上げたのはガウディ一派のパウニーと後1人だけだった。
「2人か・・なるほどなるほど。うーむ」
先程も説明させてもらったが修復魔法を使える者は超貴重な存在だ。
こういった大規模戦闘においては正に勝敗を分ける存在と言ってもいい。
なので盾役を多く配置して、一番手厚い防御体制が必要となってくる。
前衛に盾役を配置するだけでいいのでは?と思うだろう。
確かにそれは正解だ。
攻撃してくる相手を狙って反撃してくるのは、どのモンスターも共通となっている。
しかしこういった大規模戦闘においては、回復職が狙われる事も多々あるのだ。
モンスターからしたら、倒しても倒しても次々と回復されたらキリが無いので、先にアイツらを始末してしまおうという事だ。
ある程度モンスター側に知性がある事が条件だが、ドラゴンはかなり賢い部類のモンスターなので警戒する必要があった。
そもそも結界を張ってしまえばいいのでは?とも思うだろう。
それも正解で、ドラゴン討伐以外の強敵討伐は、基本的に結界を張って安全地帯を作り、その中で回復士、または修復士が活躍する構図となっている。
だがしかし、結界はドラゴンに作用しない。
何事もなかったかのように通過できてしまう。
なのでドラゴン討伐においては、後衛にも十分な盾役が必要なのだ。
「盾役だが各前衛部隊に5人ずつ、各回復職護衛に3人ずつ、魔法攻撃部隊と修復士部隊にそれぞれ2人ずつ・・・が理想だが数が足らんな・・・」
「我輩は1人で十分だ」
ガウディ一派の重戦士グルジャンが一言。それを聞いてガウディはニヤリとする。
「オッケー。じゃあグルジャン、お前に中央の回復職護衛を1人で任せる。頼んだぜ」
「御意」
「回復職は均等に5人ずつで盾役が左右の部隊には3人、中央はグルジャン1人だ。修復士2人は別行動で、盾役を2人付ける。あと、魔法攻撃の部隊にも盾役を2人付けよう。よし、これで割り振りは出来たな」
「ふむ。いいでしょう。あとは補助役も決めといた方が良いですね」
「そうだな。坊主とばあさん連中は補助役を任せたい、いいか?」
「あいよ、任せときな」
「ああ、頼んだぜ」
修復魔法の欠点でもあるが直接患部に手を当てなければ効果が出ないので、負傷した者がいたら直接その者のもとに駆けつける必要がある。
しかし修復士自身がそれをするにはリスクが高いので、代わりに補助役が負傷した者を修復士の元まで引きずっていったり、触媒の準備などを手伝ったりなど、絶えず修復士の近くで行動する事が補助役の役目だ。
こうして準備は整った。全員流石に緊張した表情をしている。
それをゆっくりと見渡してガウディが一声
「よしっ。それじゃあ静かに進むとしよう。途中でドラゴンが起きた場合でも、慌てずに自分の役割を全うしてくれ。左右の足を同時に攻撃するが、どちらか一本に絞って集中攻撃することもある。タイミングは俺が指示する。もし、こちらの作戦通り全員が配置につく事が出来たら、まずは補助魔法でPT全体のブレス耐性、身体能力向上魔法をかけてくれ。その後魔法攻撃を当ててから前衛は突撃する流れとする。ただし、最初は相手の攻撃パターンを見切るために深入りはしないように気をつけてくれ。あと、最悪の場合は撤退する可能性もある。その時の為に左部隊は出入口をしっかり守るように頼むぜ。では出発する。各自検討を祈る」
「おおう!」
大声は出せないので控えめに、しかし力強く返答する冒険者達。
さあ行くかってタイミングで、ミールが待ったをかける。
「ガウディさん。ちょっと待って下さい。実は僕たちの前にキーンって街の討伐隊がドラゴンと戦ってるんですが、一瞬で全滅してるんですよ。なにかあるかもしれません」
「一瞬でか・・ふむ。なにか状態異常系のブレスを吐く可能性があるな・・・」
「だったらあたいに任せときなって。伊達に賢者をしてないさね」
賢者ルチアーニが自信満々に手を上げる。
この世界の賢者の特徴は、攻撃魔法も回復魔法も使える万能職なことだが、一番の特徴は状態異常を回復させることが得意な点だ。
「ばあさん、やるな。よしっ。じゃあばあさん連中と坊主は戦い始めるまで中央部隊の一番奥で、めいいっぱいドラゴンとの距離を取ってくれ。もし状態異常系のブレスの時は解除を頼む。そして相手の出方を見極めてから俺が合図を出すから、その後は補助役を頼むぜ」
「あいよっ」
こうして討伐隊約300人は静かに歩みを進めるのであった。
洞窟内は生暖かい風が吹いていて岩には所々硫黄のシミが出来ている。
歩みを進めていると次第に、ゴオオォっという音が定期的に聞こえてくるようになった。
「ドラゴンの寝息っす。みなさん、ここからはとにかく慎重に一歩一歩頼むっす」
暗殺者のルックが小声で注意を促す。
各自ゆっくりゆっくりと進む。
気をつけくれと言われると余計に力が入り、思うように動けなくなる経験は皆さんあるだろうか?
この討伐隊も同じで何回かお互いでぶつかってしまったり、岩に躓いてしまったりで『ガシャッ』とか『ドスッ』という音を立ててしまう人がいて、その度に全員に緊張が走るのだが、引き続きドラゴンの寝息が聞こえてくるとお互いに顔を見合わせ、ふ~っと息を吐きながらまた歩みを進める。
差し込む光が大きくなり、やがて視界に大きなドラゴンを捉える冒険者達。
報告通りに大きさは15メートル程、紺色のドラゴンで丸まって寝ている。
丸まっている状態なので首や尻尾を伸ばしたら2~30メートルはあるかもしれない。
ドラゴンの大きさとしてはそこそこ大きい部類の方だ。
広場中央には5メートル程の大きな卵が一つ、木々や草を集めた簡単な巣のような場所に置かれていた。
お互いのゴクリという唾を飲む音さえ聞こえてきそうな緊張のもと、冒険者達は静かに指定の場所に移動していく。
幸いドラゴンは起きる様子は無く全員が配置につくことが出来た。
もう一度配置のおさらいをしておこう。
出入口からは一番遠い位置の右部隊は第三、第四部隊が中心のPTで約100人前後。
出入口に一番近い左部隊がヨーダ達第一、第二部隊が中心でこちらも100人前後。
中央がガウディ一派を含む第五、第六部隊が中心で80名前後となっている。
それぞれの部隊に回復職が5人、フリーで修復士の2人と魔法攻撃職の部隊が配置している。
各部隊に前衛盾役が5人、回復職の盾役が左右3人、中央1人、フリーの部隊にそれぞれ2人盾役が配置されていた。
ミール達は中央部隊のずっと奥、壁ギリギリまで下がってドラゴンとの距離をとって特殊攻撃に備えていた。
のちに補助役として前衛で負傷した者達を、修復士のもとまで引っ張って行く役割だ。
休眠しているとはいえ火口の砂地なので、地熱の温かさが下半身から伝わってくる。
皆、鎧の下や剣を握る手のひら、鼻の下などに汗を浮かべながらドラゴンを睨んでいた。
全員の緊張感が手に取るように分かる雰囲気だ。
ガウディが各部隊長に目で合図を送る。
それを確認してまずは全員に補助呪文がかけられた。力が向上するのを感じる。
そして魔法職の部隊から次々と魔方陣が多数出現した。
ゼノの主であるフェリスのように2つの魔法陣を出現させている者はいないが、それでも凄まじい炎や氷の矢、雷撃などがドラゴン目掛けて突き進む。
かくして戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
続く




