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1.英雄の日常

また再びこのお話を読みに来ていただけて至極光栄でございます。

今ここから、シュン達の新たな冒険の始まりです。

是非読んでいただけると嬉しいです。それではどうぞ!



「おい!起きろ!いつまで寝ている気だ?」



ここは最果ての街バゴにある革命軍本拠地の神殿にある一室。



一人でゆっくり眠っている俺の横で、厳しいお父さんのような声が響く。



「うーん・・・」



「全く、英雄のお前がそんな体たらくでどうする?今日も皆がお前を見るのを待っているんだぞ!」



「んなこと言ったってさぁ・・・まだ早いよぉ。外見てみなよーまだ薄明るいくらいじゃん・・・」



世界で唯一のSランク冒険者、人類最強の男ユーバーが寝起きの悪い俺を窘めるが、まだまだ瞼はのりでくっついるかのように開かない。


空中に浮いている国土のせいか、この竜人達が住まうドラゴニアという国は少し肌寒い。朝方など尚更だ。

そんな朝には暖かい布団から出たくないのは人として当然というものだろう。


「シュンさん。そうはいってももう皆支度できてるんですから・・・行きましょうよっ!」


魔人族と人間族のハーフ、垂れ目の色男シュトロームが無理やり俺の布団をへっぺがす。

コイツ・・・立場上は一応俺の従者のハズなのに・・・。



竜人族間の戦争に首を突っ込み、決着がついてからもう5日も経つ。

国を挙げた賑々しいパレードは初日だけだったが、この騒がしいお祭り自体はまだ後一週間程続くそうだ。



「だって早起きしたってさぁ、また同じことやるだけでしょー?おめでたいのは分かるけど、長いんだよぉ。もう流石に飽きたよ・・・。早くレベル上げでもしたいなぁ」


「まぁそう言わないの。大体シュンはこっちにきてから碌にゆっくりできてないんでしょう?今がそのきちょーな時間かもよ?」


露出度の高い踊り子の普段着を着たローザが俺を揺すり起こそうとする。

このローザには、異世界から来た俺の出生の秘密を、出会ってから割とすぐに打ち明けている。

今思うと何か感じる所があったのだろう。ビビッときた。ってやつだ。多分。



「そうだね!ゆっくりする貴重な時間を後5分で良いから俺にちょうだい!」


そう言って俺はシーツを掛け布団代わりにして再びベットに顔をうずめた。


「シュンよ。毎度言っているが、ここで出る飯はタダなのだぞ。早く食べに行った方が良い」


「俺はあなたの作ってくれた身体のおかげでそんなに食べなくても平気なの!てかユーバーは無料に敏感すぎなの!分身さんがアスリアで将軍として稼いでるんでしょー!いいから早く行きなよ!」


ユーバーは、魔物から人々を護るために、その身体を実兄にしてこの世界では神として崇められているエト神から不老不死にされている。そしてその特殊な身体はなんと分身が出来てしまうのだ。


そしてその分身体であるアモンド・アイは、将軍として国の要職に就いている。


「むむ。良質な宿なら朝食だけでも2000ゼニルは取られるというのに・・・。仕方ない。こんな寝坊助は放っておいて、私達だけで朝飯でも食べに行くとするか」


「しょうがないですねぇ」


「シュン。起きたら早く来てよ!」


俺はベットに突っ伏したまま適当に手だけ振って答える。



三人がしぶしぶ俺の部屋から出て行こうとしたその時。


バターン!


勢いよく開かれる扉。


「ハッハッハーー!やっぱり皆ここにいたかの!おはようー!だのぅ!!」



一層うるさいのが来た・・・。



「レイル!おはよう!」


レイルに負けずに元気に挨拶するローザ。


「ハッハー!ローザ、今日もまた一段と美しいのぅ。シュンが羨ましいぞい!」


シュトロームの目が鋭く光る。


「レイルさん!セクハラですよ!」


「セク?なんぞいそれは?」


「まぁまぁ、何しに来たんだ?レイル」


「兄者!何しにとはご挨拶だのう!共に死地を渡り歩いた仲とは思えんぞぃ!」


竜人族であるレイルの姉は四天大将の一人、烈火のサリオス。ユーバーの妻だ。つまりユーバーはレイルにとって義理の兄にあたるわけだ。


「あーーー!もーーーー!うるさいよ!寝れない!二度寝できないッ!俺も起きるーーッッ!」


「お、やっと我が主が起きましたね」


シュトロームも主従関係を忘れていたわけじゃなかったのね・・・。


「シュン。二度寝できずとも心配するな。お前の身体はそんなヤワに造っていない」


ついでに言うと、俺のこの身体も不老不死らしい。ユーバーの言葉通り、エト神の指示のもと、ユーバーに造られた物だ。


・・・改めて考えるととんでもない境遇だな・・・。


「はぁ・・・もういいよ。なんか朝から疲れた。早く朝ごはん食べにいこ・・・」


俺は部屋に用意されていた、薄手ながら暖かいガウンを羽織り皆と一緒に食堂へ向かった。



***



「あっ!シュン様!おはようございます!!」


「おぉ!シュン様だ!おはようございます!」


「シュン様ー!是非握手を!握手ををぉ!」


「キャー!シュン様よー!凛々しいー!」


・・・もう凱旋してからずっとこんな感じだ。


俺は苦笑いしながら手を挙げて応えるものの、そろそろ普通にしたい。


「シュン様ー。早くこちらにお座りになられたら?」


そして黄色い声が俺にかかるたびにこうなってしまうローザをうまくコントロールするのももう億劫になってきた。


「はいはい。ありがとありがと。さて今日のメニューは何かなー?」


皆が席に着くと、ウェイトレスの格好をした竜人達が次々に朝食を運んでくる。


日本で食べなれたそれに比べると、若干固めの食パンと、何かの肉が入ったスープ。何だかよく分からないカラフルなフルーツ類がこれでもかというくらいにテーブルに並ぶ。

さっきまでは眠気が勝っていたが、目の前に広がる光景に、今度は食欲が勝ってきた。


「おー!今日も凄いね!いただきまーす!」


「む?シュン。何かの?その合図は?」


「え?あぁ、これはね。僕らは皆生き物にしても植物にしても何かの命をいただいて生きているだろ?他の命をありがたく、大切に頂きますよ。とそういう意味が込められている言葉なんだ」


「はーーーッ。なるほどのぅーー。さすがに救世主は言う事が違うのぅ・・・」


レイルや周りで聞き耳を立てている竜人族達はえらく感心しているようだが、日本では割と子供のころに教わる事だろう。


「では。我も。ゴホン!いただきます!」


やや大げさにレイルが言うと、周りの竜人達もそれに続く。


『いただきます!』


『いただきます!』


やめてぇ。もっと自然にやってぇ。なんだか気恥ずかしいから。


心の中で呟きながら俺は美味しい朝食を取るのだった。



***



ドラゴニア首都バルガーザ 旧竜王城跡



真っ暗な空間の中、一つの生物、いや、一人の男がもぞもぞと動いている。


「ふ、ふふ、まだだ、まだッ・・・!くっ!」


カランカラン!


バランスを崩しながら立ち上がろうとするその身体が、横に転がる数本の空き瓶に当たる。


豪華に装飾されたその瓶は、とても高価な回復薬が入っていた証だろう。


やっと立ち上がったその男の、肩口から腰にかけて一筋の黒い光がもよもよと異様に蠢いている。


ゴクゴクゴクッ!


カランッカランッ!


「くそっ。最後のエリクサーなのに。飲んでもさすがにくっつかないか・・・」


空間を操るその力で、切断された身体を一つに繋ぎ止めてはいるが、少しでも気を抜くと、またすぐに一つの身体が離れ離れになってしまいそうだ。


「ふふ。大きなハンデだな・・・。けど、・・・僕は!まだまだ!国を!夢を!自分を!諦めない!」


うっかり触れると火傷をしてしまいそうな、静かな闘志を燃やし、その男は異次元空間からゆっくり出て行くのだった。




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