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夏のホラー参加作品

退化


残業を終えてから駅まで走り、ギリギリ終電に間に合った。


利用している駅からは部屋まで徒歩で帰る。


長い通路を歩く。


長い通路なのに今この通路を利用しているのは私1人、なので私のコツコツという足音だけが通路の中に響いていた。


会社も線路も駅も通路もこれから帰宅する部屋も全て地下深くにある。


地表は人の住むことが出来ない世界。


地球温暖化のせいで地表の気温は平均で80度を越すらしい、冬でもだよ。


年々高くなる気温から逃げる為に、人は生活の場を地下深くに移した。


お陰で個人所有の部屋や各企業のオフィスなどを除いて殆どの場所が繋がっている為、天井に備えられたエアコンから吹きでる涼しい風が1年中、地下の気温を25度に保っている。


ただ最近、地下に造られたこの通路を含め建造物が老朽化により劣化し、崩壊する事故が多発していた。


地表側と地下側の両方で修復工事が進められているが、多発する崩壊事故に追いついていないっていうのが現状。


あ、勿論地表側で工事に従事しているのは工事用アンドロイドだ。


生身の人間は地表で生きていける筈が無く、防護服を着用していては工事のような力仕事は出来ないからね。


地表にいるのは工事用アンドロイドを監督する、防護服を着用した監視員くらいなものだろう。


そんな取り留めのない事を思いながら歩いていたら、私が暮らすマンションまであと少しのところまで来ていた。


当然だけどマンションは出入り口から下に伸びている。


通路に面してる出入り口やロビーなどがある階が1番上階だ。


昔、人間が地表で暮らしていた頃のマンションは空に向かって林立していて、上層階には展望の良いバルコニーがついていたらしいが、今のマンションにはそんなものはついて無い。


あっても見えないし、見えたとしても見えるのは土の壁だけだからね。


と、突然、何の前触れも無く通路の天井が崩れた。


天井が崩れると共に私を熱い熱風が包み込む。


通路に設置されているサイレンが鳴り響き、補助アンドロイドを伴った消防官や警察官、それに工事用アンドロイドが駆けつけて来た。


私は直ぐに救助され病院に担ぎ込まれる。


熱風に包み込まれながら私が助かった訳を医師が説明してくれた。


偶々地表側も夜だったお陰で、気温が平均気温より可也低い60度程だったから助かったとの事。


補助アンドロイドや工事用アンドロイドが言うには、崩れ落ちた天井を見上げると、宝石箱をひっくり返したような沢山の星々で埋まる夜空が見えたらしい。


だが残念な事に、真っ暗な地下深くに住む我々人間は目が退化していて、夜空を見上げてもそれを見ることが出来ないのだった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 目が見えない。 ずっと地下で暮らしていたためにモグラのようになってしまったのですね。 いつかそんな日が来るかも……。 温暖化。 風刺が効いています。
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